(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】組成物、組成物の製造方法および不飽和化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07C 265/04 20060101AFI20231205BHJP
C07C 263/10 20060101ALI20231205BHJP
C07C 263/20 20060101ALI20231205BHJP
C07C 269/02 20060101ALI20231205BHJP
C07C 231/10 20060101ALI20231205BHJP
C07C 333/04 20060101ALI20231205BHJP
C07D 231/12 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C07C265/04
C07C263/10
C07C263/20
C07C269/02
C07C231/10
C07C333/04
C07D231/12 Z
(21)【出願番号】P 2020538353
(86)(22)【出願日】2019-08-16
(86)【国際出願番号】 JP2019032135
(87)【国際公開番号】W WO2020040049
(87)【国際公開日】2020-02-27
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018154146
(32)【優先日】2018-08-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】西村 憲人
(72)【発明者】
【氏名】大野 勝俊
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150922(JP,A)
【文献】特開2006-232797(JP,A)
【文献】特開昭64-042462(JP,A)
【文献】特開昭55-017357(JP,A)
【文献】特表2002-507642(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 265/04
C07C 263/10
C07C 263/20
C07C 269/02
C07C 231/10
C07C 333/04
C07D 231/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で示される化合物(A)と、一般式(2)で示される化合物(B)とを含む組成物であり、 前記化合物(A)100質量部に対して、前記化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有することを特徴とする組成物。
(R
1-COO)
n-R
2-(NCO)
m …(1)
(R
1-COO)
n-R
2-NHC(=O)NH-R
2-(OCO-R
1)
m …(2)
(一般式(1)および一般式(2)において、R
1は炭素数2~7のエチレン性不飽和基である。R
2は炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、エーテル基を含んでいてもよい。一般式(1)と一般式(2)のR
1およびR
2は同じである。nおよびmは1または2の整数である。)
【請求項2】
前記化合物(A)が、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、及び1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記組成物中の前記化合物(A)の含有量が95.0質量%以上である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記組成物中の前記化合物(A)の含有量が97.0質量%~99.9質量%である、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項5】
添加物として、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、クレゾール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール(BHT)、フェノチアジンからなる群より選ばれるいずれか一種をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか一項に記載の組成物の製造方法であって、
前記化合物(A)と、
前記化合物(B)とを含み、前記化合物(A)100質量部に対して、前記化合物(B)を2.0質量部超の量で含有する混合物を、製造する工程と、
前記混合物を2.0~4.0の還流比、1.0~10.0kPaの圧力、90~140℃の蒸留温度で蒸留法により精製する精製工程とを含み、
前記精製工程において、蒸留後の蒸留装置内に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを供給し、前記蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の前記蒸留装置内の前記精製物を容器に収容し、前記容器内の気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを充填する充填工程とを行うことを特徴とする組成物の製造方法。
【請求項7】
一般式(1)および一般式(2)において、R
1はCH
2=C(CH
3)-またはビニル基である、請求項
6に記載の組成物の製造方法。
【請求項8】
前記減圧ブレーク工程において供給する前記乾燥窒素ガスおよび前記充填工程において充填する前記乾燥窒素ガスは、露点が-70℃以上である、請求項6
または7に記載の組成物の製造方法。
【請求項9】
前記精製工程において蒸留法を行う際、前記混合物の加熱を開始する前に、前記混合物に添加物として、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、クレゾール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール(BHT)、フェノチアジンからなる群より選ばれるいずれか一種を添加する工程を有する、請求項6~
8のいずれか一項に記載の組成物の製造方法。
【請求項10】
請求項1または請求項2に記載の組成物と、活性水素を有する化合物とを混合し、前記組成物に含まれる化合物(A)と前記活性水素を有する化合物とを反応させて反応生成物を得る工程を含む不飽和化合物の製造方法。
【請求項11】
前記活性水素を有する化合物が、アルコール、チオール、アミンまたはカルボン酸である請求項
10に記載の不飽和化合物の製造方法。
【請求項12】
前記反応生成物が、不飽和ウレタン化合物、不飽和チオウレタン化合物、不飽和ウレア化合物、または不飽和アミド化合物である請求項
10または請求項
11に記載の不飽和化合物の製造方法。
【請求項13】
前記反応生成物が、2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-メタクリレート)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-アクリレート)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルアクリレートからなる群より選ばれるいずれか1種である請求項
10または請求項
11に記載の不飽和化合物の製造方法。
【請求項14】
前記組成物に含まれる化合物(A)と前記活性水素を有する化合物とを反応させる際の反応温度は、-10~100℃である、請求項
10~
13のいずれか一項に記載の不飽和化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和イソシアネート化合物を含有する組成物、組成物の製造方法および不飽和化合物の製造方法に関する。
本願は、2018年8月20日に、日本に出願された特願2018-154146号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
従来、不飽和イソシアネート化合物と、活性水素を有する化合物(活性水素を有する官能基を有する化合物)とを反応させて、不飽和ウレタン化合物、不飽和チオウレタン化合物、不飽和ウレア化合物、及び、不飽和アミド化合物などの不飽和化合物を製造している。このようにして製造された不飽和化合物は、様々な用途に用いられている。
【0003】
例えば、不飽和イソシアネート化合物である2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、「MOI」ということがある。具体的な商品の例としては「カレンズMOI(登録商標)」があるともいう。)と、水酸基を有する化合物であるポリアルキレングリコールと、を反応させて製造した、不飽和ウレタン化合物がある。不飽和イソシアネート化合物の製法としては、エチレン性二重結合を有するアミンにホスゲンを作用させて加熱分解する方法など、いくつかの方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。前記不飽和ウレタン化合物は、コンタクトレンズの材料(例えば、特許文献2参照。)、高分子固体電解質の固体溶媒の材料(例えば、特許文献3参照。)、生物学的材料を固定化する材料(例えば、特許文献4および特許文献5参照。)などとして用いることが、提案されている。
【0004】
また、特許文献6には、MOIと、分子両末端にアミノ基を有するオルガノポリシロキサンとを反応させて得られる、不飽和ウレア化合物が記載されている。特許文献6には、この不飽和ウレア化合物を、放射線硬化性接着性オルガノポリシロキサン組成物の材料として用いることが、記載されている。
特許文献7には、ダイマージオールとポリイソシアネートとを反応させて得た生成物に、MOIなどの不飽和イソシアネート化合物を反応させて合成した、ウレタンアクリレートが記載されている。また、特許文献7には、このウレタンアクリレートを含む硬化性組成物が記載されている。
【0005】
不飽和化合物の材料として用いられる不飽和イソシアネート化合物としては、MOIの他に、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート(以下、「AOI」ということがある。具体的な商品の例として「カレンズAOI(登録商標)」がある。)、メタクリロイルイソシアネート(以下、「MAI」ということがある。)などがある。MOI、AOI、MAIは、工業的に製造され、市販されており、入手が容易である。
MOIは、イソプロペニルオキサゾリンまたは2-アミノエチルメタクリレート塩酸塩と、ホスゲンとの反応により、合成されている。AOIは、2-ビニルオキサゾリンまたは2-アミノエチルアクリレート塩酸塩と、ホスゲンとの反応により合成されている。MAIは、メタクリル酸アミドとオキザリルクロリドとの反応により合成されている。
【0006】
上記のように合成された不飽和イソシアネート化合物には、副生物、触媒残渣等の不純物が含まれる。そのため、不飽和イソシアネート化合物を合成した後に、不純物を除いて純度を上げる操作が一般的に行われている(例えば、特許文献8および特許文献9参照。
)。
【0007】
また、合成された不飽和イソシアネート化合物について、従来、様々な方法を用いて判定されている。具体的には、濁りの有無や色相など、不飽和イソシアネート化合物の外観を確認する方法、ガスクロマトグラフィーを用いて不飽和イソシアネート化合物の純度を確認する方法、電位差滴定により不飽和イソシアネート化合物中の加水分解性塩素含有量を確認する方法、及び、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて不飽和イソシアネート化合物中の溶解性不純物を確認する方法(例えば、特許文献10参照。)等がある。
【0008】
一般に、不飽和イソシアネート化合物には、これを安定して輸送・保管するために、重合防止剤が添加されている。重合防止剤としては、ハイドロキノン等が用いられ、数十~数百ppmの濃度で添加されている。例えば、特許文献7には、不飽和イソシアネート化合物を用いて、不飽和ウレタン化合物を合成する際に、重合防止剤を全重量成分100質量部に対して0.01~10質量部添加することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】米国特許第2821544号明細書
【文献】特開平6-322051号公報
【文献】特開平6-187822号公報
【文献】特開昭60-234582号公報
【文献】特開昭60-234583号公報
【文献】特開平6-184256号公報
【文献】国際公開第2011/074503号
【文献】特許第4273531号公報
【文献】特許第4823546号公報
【文献】特開2007-8828号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】CMCテクニカルライブラリー「高分子の劣化機構と安定化技術」 シーエムシー出版(2005/04発行)168頁
図5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来の不飽和イソシアネート化合物では、従来の判定方法では品質に大きな差が見られなくても、保管中および/または輸送中に予期せぬ粘度上昇やゲル化が生じる場合があった。このため、保管時の安定性を向上させることが要求されていた。
また、従来の不飽和イソシアネート化合物は、従来の判定方法では品質に大きな差が見られなくても、これを用いて不飽和化合物を製造した場合、製造中に急激に反応生成物の粘度が上昇したり、ゲル化したりする場合があった。このため、利用時の安定性を向上させることが要求されていた。
【0012】
不飽和イソシアネート化合物の保管時の安定性および利用時の安定性を向上させるためには、不飽和イソシアネート化合物に、十分な量の重合防止剤を添加しておけばよい。
しかし、不飽和イソシアネート化合物に多くの重合防止剤を添加すると、これを原料として不飽和化合物を製造した場合に、不飽和化合物とともに、重合防止剤に起因する着色成分が生成されやすくなる(例えば、非特許文献1参照)。このため、製造した不飽和化合物が、着色されてしまう場合があった。
【0013】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、保管時の安定性および利用時の安定性に優れる組成物、およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討した。その結果、精製後の不飽和イソシアネート化合物中に、不純物として含まれている特定の構造を有する化合物(以下、「特定化合物」という場合がある)が、不飽和イソシアネート化合物の保管時の安定性および利用時の安定性を劣化させる一因であることを見出した。さらに、本発明者らは検討を重ね、不飽和イソシアネート化合物中における上記特定化合物の濃度と、保管時の不飽和イソシアネート化合物の粘度上昇およびゲル化の発生とが、相関関係にあることを見出した。
【0015】
しかし、従来、上記特定化合物を、不飽和イソシアネート化合物から除去する精製方法は、知られていなかった。そこで、本発明者らは、不飽和イソシアネート化合物から上記特定化合物を除去する精製方法について検討した。その結果、2.0~4.0の還流比、1.0~10.0kPaの圧力、90~140℃の蒸留温度で蒸留法により精製することで、不飽和イソシアネート化合物中から上記特定化合物を除去できることが分かった。
【0016】
さらに、本発明者らは、上記還流比、圧力および蒸留温度での蒸留法により精製した不飽和イソシアネート化合物について、保管時の粘度上昇およびゲル化を調べた。その結果、不飽和イソシアネート化合物中の上記特定化合物の濃度を、不飽和イソシアネート化合物100質量部に対して2.0質量部以下とすることで、上記の粘度上昇およびゲル化を抑制できることを見出し、本発明を想到した。
【0017】
また、本発明者らは、蒸留法により不飽和イソシアネート化合物中の上記特定化合物を十分に除去しても、蒸留して得た精製物が水分に接すると、不飽和イソシアネート化合物中の上記特定化合物が増加するという知見を得た。また、本発明者らは、蒸留後の蒸留装置内に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを供給し、蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の蒸留装置内の精製物を容器に収容し、容器内の気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを充填する充填工程とを行うことで、製造後の組成物中での上記特定化合物の増加を効果的に抑制できることを見出した。
すなわち、本発明は以下の事項に関する。
【0018】
本発明の第一の態様に係る組成物は以下の組成物である。
[1]一般式(1)で示される化合物(A)と、一般式(2)で示される化合物(B)とを含む組成物であり、
前記化合物(A)100質量部に対して、前記化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する。
【0019】
(R1-COO)n-R2-(NCO)m …(1)
(R1-COO)n-R2-NHC(=O)NH-R2-(OCO-R1)m …(2)
(一般式(1)および一般式(2)において、R1は炭素数2~7のエチレン性不飽和基である。R2は炭素数1~7のm+n価の炭化水素基である。R2はエーテル基を含んでいてもよい。一般式(1)のR1およびR2と一般式(2)のR1およびR2とは同じである。nおよびmは1または2の整数である。)
【0020】
本願の第一の態様の組成物は、以下の[2]~[5]の特徴を有することも好ましい。これら特徴は組み合わせることも好ましい。
[2]前記化合物(A)は、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネートからなる群より選ばれる少なくとも1種の化合物であってもよい。
[3]前記化合物(A)の含有量が95.0質量%以上であってもよい。
[4]前記化合物(A)の含有量が97.0質量%~99.9質量%であってもよい。
[5]添加物として、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、クレゾール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール(BHT)、フェノチアジンからなる群より選ばれるいずれか一種をさらに含んでいてもよい。
【0021】
本発明の第二の態様は以下の組成物の製造方法である。
[6]一般式(1)で示される化合物(A)と、一般式(2)で示される化合物(B)とを含み、前記化合物(A)100質量部に対して前記化合物(B)を2.0質量部超の量で含有する混合物を製造する工程と、
前記混合物を2.0~4.0の還流比、1.0~10.0kPaの圧力、90~140℃の蒸留温度で蒸留法により精製して、精製物を得る精製工程と、を含み、
前記精製工程において、蒸留後の蒸留装置内に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを供給し、前記蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の前記蒸留装置内の前記精製物を容器に収容し、前記容器内の気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを充填する充填工程とを行う。
【0022】
(R1-COO)n-R2-(NCO)m …(1)(R1-COO)n-R2-NHC(=O)NH-R2-(OCO-R1)m …(2)
(一般式(1)および一般式(2)において、R1は炭素数2~7のエチレン性不飽和基である。R2は炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、エーテル基を含んでいてもよい。一般式(1)と一般式(2)のR1およびR2は同じである。nおよびmは1または2の整数である。)
本発明の第2の態様の組成物の製造方法は、以下の[7]~[10]の特徴を有することも好ましい。これらは組み合わせることも好ましい。
[7]前記精製工程によって得られた組成物が、前記化合物(A)100質量部に対して、前記化合物(B)を0.00002~0.2質量部含有してもよい。
[8]一般式(1)および一般式(2)におけるR1はCH2=C(CH3)-またはビニル基であってもよい。
[9]前記減圧ブレーク工程において供給する前記乾燥窒素ガスおよび前記充填工程において充填する前記乾燥窒素ガスの露点が-70℃以上であってもよい。
[10]前記精製工程において蒸留法を行う際、前記混合物の加熱を開始する前に、前記混合物に添加物として、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、クレゾール、2,6-ジターシャリーブチル-4-メチルフェノール(BHT)、フェノチアジンからなる群より選ばれるいずれか一種を添加する工程を有してもよい。
【0023】
本発明の第三の態様は、以下の不飽和化合物の製造方法である。
[11][1]または[2]に記載の組成物と、活性水素を有する化合物とを混合し、前記組成物に含まれる化合物(A)と前記活性水素を有する化合物とを反応させて反応生成物を得る工程を含む不飽和化合物の製造方法。
【0024】
本願の第三の態様の製造方法は、以下の[12]~[15]の特徴を有することも好ましい。これら特徴は組み合わせることも好ましい。
[12]前記活性水素を有する化合物が、アルコール、チオール、アミンまたはカルボン酸であってもよい。
[13]前記反応生成物が、不飽和ウレタン化合物、不飽和チオウレタン化合物、不飽和ウレア化合物、または不飽和アミド化合物であってもよい。
【0025】
[14]前記反応生成物が、2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-メタクリレート)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-アクリレート)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルアクリレートからなる群より選ばれるいずれか1種であってもよい。
[15]前記組成物に含まれる化合物(A)と前記活性水素を有する化合物とを反応させる際の反応温度は、-10~100℃であってもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明の組成物は、一般式(1)で示される化合物(A)と、一般式(2)で示される化合物(B)とを含む組成物であり、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する。このため、保管中および輸送中に、組成物の予期せぬ粘度上昇やゲル化が生じにくく、保管時の安定性に優れている。また、本発明の組成物は、これを用いて不飽和化合物を製造した場合に製造中に生じる反応生成物の急激な粘度上昇やゲル化が生じにくく、利用時の安定性に優れる。
【0027】
本発明の組成物は、保管時の安定性および利用時の安定性に優れる。このため、着色成分を生成する重合防止剤を大量に含む必要はない。よって、本発明の組成物を用いて製造した不飽和化合物が、重合防止剤に起因する着色成分によって着色されることを防止できる。
【0028】
本発明の組成物の製造方法では、一般式(1)で示される化合物(A)100質量部に対して一般式(2)で示される化合物(B)を2.0質量部超含有する混合物を、2.0~4.0の還流比、1.0~10.0kPaの圧力、90~140℃の蒸留温度で蒸留法により精製し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が0.00002~2.0質量部である精製物を得る。したがって、保管時の安定性および利用時の安定性に影響を及ぼす化合物(B)が、混合物中から十分に除去された本発明の組成物を高い収率で製造できる。
また、本発明の組成物の製造方法では、精製工程において、蒸留後の蒸留装置内に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを供給し、蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の蒸留装置内の精製物を容器に収容し、容器内の気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを充填する充填工程とを行う。このため、蒸留後の精製物中の化合物(A)が水分と接触しにくく、製造後の組成物中で化合物(B)が増加しにくい。よって、本発明の組成物の製造方法によれば、保管時の安定性および利用時の安定性の良好な組成物が得られる。
【0029】
本発明の不飽和化合物の製造方法は、本発明の組成物と、活性水素を有する化合物とを混合し、組成物に含まれる化合物(A)と活性水素を有する化合物とを反応させて反応生成物を得る工程を含む。本発明の不飽和化合物の製造方法では、材料として用いる組成物が、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有するため、製造中に反応生成物の急激な粘度上昇やゲル化が生じにくく、優れた生産性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下に、本発明の好ましい例について説明する。
なお、以下の例は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明をこれらのみに限定するものではない。本発明の範囲内において、必要に応じて、量や種類や比率や数や位置などについて、省略、変更、交換、及び/又は追加することも可能である。
また本明細書に記載の圧力は、絶対圧力である。
【0031】
「組成物」
本実施形態の組成物は、不飽和イソシアネート化合物を含有する。本実施形態の組成物は、一般式(1)で示される化合物(A)と、一般式(2)で示される化合物(B)とを含む。本実施形態の組成物は、組成物中の化合物(A)の含有量が95.0質量%以上であることが好ましいが、この例のみに限定されない。また、本実施形態の組成物は、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する。
【0032】
(R1-COO)n-R2-(NCO)m …(1)
(R1-COO)n-R2-NHC(=O)NH-R2-(OCO-R1)m …(2)
(一般式(1)および一般式(2)において、R1は炭素数2~7のエチレン性不飽和基である。R2は炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、エーテル基を含んでいてもよい。一般式(1)と一般式(2)のR1およびR2は同じである。nおよびmは1または2の整数である。)
【0033】
一般式(1)および一般式(2)において、R1は、炭素数2~7のエチレン性不飽和基である。R1の有するエチレン性不飽和結合は、1つであってもよいし2つ以上であってもよい。R1は、炭素数6以上であると、エチレン性不飽和基の反応性が低下するため、炭素数2~5のエチレン性不飽和基であることが好ましい。炭素数は、2~3、または4~5であることが好ましい。炭素数2~5のエチレン性不飽和基の中でも特に、原料の入手のしやすさからR1は、CH2=C(CH3)-またはビニル基であることが好ましい。
【0034】
一般式(1)および一般式(2)において、R2は、炭素数1~7のm+n価の炭化水素基であり、鎖状であってもよいし、分岐状であってもよい。R2で示されるm+n価の炭化水素基の炭素数は、2~4の何れかの数であることが好ましく、2であることがより好ましい。R2は、エーテル基を含んでいてもよい。R2は、原料の入手のしやすさから、エチレン基、メチレン基、または-CH2CH2OCH2CH2-であることが好ましい。
【0035】
一般式(1)のR1と一般式(2)のR1および一般式(1)のR2と一般式(2)のR2は同じである。
一般式(1)および一般式(2)において、nおよびmは1または2の整数であり、合成のしやすさから、いずれも1であることが好ましい。
【0036】
一般式(1)で示される化合物(A)としては、具体的には、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-メタクリロイルオキシ-n-プロピルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシイソプロピルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシ-tert-ブチルイソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-4-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-3-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-2-イソシアネート、2-メタクリロイルオキシブチル-1-イソシアネート、5-メタクリロイルオキシ-n-ペンチルイソシアネート、6-メタクリロイルオキシ-n-ヘキシルイソシアネート、7-メタクリロイルオキシ-n-ヘプチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレート、3-メタクリロイルオキシフェニルイソシアネート、4-メタクリロイルオキシフェニルイソシアネート、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート、3-アクリロイルオキシ-n-プロピルイソシアネート、2-アクリロイルオキシイソプロピルイソシアネート、4-アクリロイルオキシ-n-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシ-tert-ブチルイソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-4-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-3-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-2-イソシアネート、2-アクリロイルオキシブチル-1-イソシアネート、5-アクリロイルオキシ-n-ペンチルイソシアネート、6-アクリロイルオキシ-n-ヘキシルイソシアネート、7-クリロイルオキシ-n-ヘプチルイソシアネート、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート、3-アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、4-アクリロイルオキシフェニルイソシアネート、1,1-ビス(メタクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネート、1,1-ビス(メタクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)メチルイソシアネート、1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、2’-ペンテノイル-4-オキシフェニルイソシアネートからなる群より選ばれる化合物が挙げられる。これらの化合物の中でも特に、合成のしやすさ、原料の入手のしやすさから、化合物(A)が、2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(具体的な商品の例:カレンズMOI(登録商標))、2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート(具体的な商品の例:カレンズAOI(登録商標))、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルメタクリレート(具体的な商品の例:カレンズMOI-EG(登録商標))、2-(イソシアナトエチルオキシ)エチルアクリレート(AOI-EG)または1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート(具体的な商品の例:カレンズBEI(登録商標))であることが好ましい。なお、本明細書中に記載された、カレンズを登録商標中に含む商品は、昭和電工株式会社より入手可能である。
【0037】
本実施形態の組成物中の化合物(A)の含有量は95.0質量%以上であることが好ましく、97.0質量%以上であることがより好ましく、98.0質量%~99.9質量%であることがより好ましい。なお、前記含有量は必要に応じて、96.00質量%~99.99質量%や、97.00質量%~99.50質量%であってもよい。
組成物中の化合物(A)の含有量が95.0質量%以上である場合、不飽和化合物を製造するための原料として好適に用いることができる。また、化合物(A)の含有量が99.9質量%以下である場合、蒸留法により精製する方法を用いて効率よく組成物を製造でき、好ましい。本実施形態の組成物中の化合物(A)の含有量は上記のみに限定されず、必要に応じて、任意に選択できる。例えば、化合物(A)の含有量の下限値の量は、1.0質量%以上であってもよく、10質量%以上であってもよく、30質量%以上であってもよく、50質量%以上であってもよく、70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよい。
【0038】
一般式(2)で示される化合物(B)は、一般式(1)と一般式(2)のR1およびR2が同じものである。一般式(2)で示される化合物(B)は、後述する製造方法により一般式(1)で示される化合物(A)を製造する際に副生する不純物であると推定される。化合物(B)は、組成物の保管時の安定性および利用時の安定性を劣化させる。
【0039】
本実施形態では、組成物中に化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)が0.00002~2.0質量部含まれている。組成物中の化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部以下であるので、優れた保管時の安定性および利用時の安定性が得られる。組成物中の化合物(A)100質量部に対する化合物(B)含有量は、1.0質量部以下であることが好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましい。組成物中の化合物(A)100質量部に対する化合物(B)含有量を上述の範囲にすることで、保管時の安定性および利用時の安定性を一層向上することができる。また、組成物中の化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が0.00002質量部以上であるので、化合物(A)を製造する際の収率を確保でき、高い収率で組成物を製造できる。組成物中の化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量は、化合物(A)の収率をより一層向上させるために、0.0002質量部以上であることが好ましい。
【0040】
本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、化合物(A)と化合物(B)の他に、添加物を含有していてもよい。
添加物としては、例えば、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、フェノチアジン等が挙げられる等の重合防止剤が挙げられる。
本実施形態の組成物は、気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスが充填された容器内に収容されていることが好ましい。このことにより、蒸留後の組成物中の化合物(A)と水分との接触が防止され、組成物中での化合物(B)の増加が抑制される。その結果、保管時の安定性および利用時の安定性の良好となる。
【0041】
以上より、本実施形態の組成物は、保管時の安定性および利用時の安定性に優れるため、着色成分を生成する重合防止剤を大量に含む必要はない。
よって、本発明の組成物を用いて製造した不飽和化合物が、重合防止剤に起因する着色成分によって着色されることを防止できる。
また、本発明の組成物は、高い収率で製造できる。
【0042】
「組成物の製造方法」
本実施形態の組成物の製造方法は、容器内に収容された組成物を製造する方法である。
本実施形態の組成物の製造方法は、一般式(1)で示される化合物(A)と、一般式(2)で示される化合物(B)とを含み、化合物(A)100質量部に対して前記化合物(B)を2.0質量部超含有する混合物を製造する工程と、前記混合物を2.0~4.0の還流比、1.0~10.0kPaの圧力、90~140℃の蒸留温度で蒸留法により精製する。精製によって得られた精製物(組成物)の化合物(A)の含有量は、上述したように、好ましくは95.0質量%以上であるが、これのみに限定されない。化合物(A)100質量部に対して化合物(B)を2.0質量部超含有するとは、化合物(A)100質量部に対して化合物(B)を2.0質量部以上含有することを意味する。
【0043】
(混合物を製造する工程)
化合物(A)と化合物(B)とを含み、化合物(A)100質量部に対して化合物(B)を2.0質量部超含有する混合物を製造する方法としては、任意に選択できるが、例えば、従来公知の化合物(A)の製造方法を用いて、化合物(A)を生成させると同時に化合物(B)を副生させる方法が挙げられる。
具体的には、例えば、以下の方法等が挙げられる。はじめに、不飽和カルボン酸クロリドとアミノアルコール塩酸塩との反応によって、不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル塩酸塩を合成する。次いで、不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル塩酸塩と塩化カルボニルとを反応させる。このことにより、化合物(A)である不飽和カルボン酸イソシアナトアルキルエステルを生成させる。それと同時に、化合物(A)と不飽和カルボン酸アミノアルキルエステル塩酸塩とを反応させて、不純物である化合物(B)を副生させる方法等が挙げられる。ただし、この方法のみに限定されない。
このようにして得られた化合物(A)と化合物(B)との混合物中には、一般的に、化合物(A)100質量部に対して前記化合物(B)が2.0質量部超含まれている。
なお前記混合物に含まれる化合物(B)の量の上限は、任意に選択できる。例えば、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)の量が10質量部以下であることが一般的であり、好ましくは8質量部以下であり、より好ましくは6質量部以下である。ただし、これらの例のみに限定されない。
また混合物中に含まれる化合物(A)の量は、任意に選択できるが、例えば、前記混合物中の化合物(A)の含有量は、例として55~85質量%であることが挙げられ、60~80質量%であってもよく、65~75質量%であることが好ましい。ただしこれらのみに限定されない。
【0044】
(精製工程)
<蒸留工程>
本実施形態においては、このようにして得られた化合物(A)と化合物(B)との混合物を還流比(還流量/留出量)2.0~4.0、圧力1.0~10.0kPa、蒸留温度90~140℃で、蒸留法により精製し、化合物(A)を低沸成分として回収する。このことにより、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が0.00002~2.0質量部である精製物を得る。化合物(A)は、通常は液体であるので溶媒は不要である。
【0045】
本実施形態では、還流比2.0~4.0で蒸留法により精製するため、化合物(B)を効率よく除去できる。還流比が2.0未満であると、化合物(A)と化合物(B)との物性が似ているため、化合物(B)を十分に除去できず、化合物(A)100質量部に対する前記化合物(B)の含有量が2.0質量部以下にならない。還流比は、化合物(B)の含有量をより一層低減するため、2.5以上であることが好ましく、3.0以上であることがより好ましい。また、還流比が4.0以下であると、短時間で効率よく精製工程を行うことができるとともに、組成物中の化合物(A)の収率を十分に確保でき、高い収率で組成物を製造できる。還流比は、精製工程をより効率よく行うとともに、化合物(A)の収率をより一層向上させるため、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましい。
【0046】
本実施形態では、精製工程における蒸留温度を90℃~140℃とする。蒸留温度が90℃未満であると、化合物(A)と化合物(B)とを十分に分離できず、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部以下にならない。また、蒸留温度が140℃以下であると、必要以上に化合物(A)をロスすることがなく、化合物(A)の収率を確保でき、効率よく精製工程を行うことができる。化合物(B)を充分に除去し、かつ化合物(A)の収率を向上させるため、蒸留温度は100℃~130℃が好ましく、110℃~120℃がより好ましい。
【0047】
本実施形態では、精製工程において蒸留を行う際の圧力は1.0~10.0kPaであり、1.0~6.0kPaであることが好ましい。圧力が1.0kPa以上であると、蒸留温度90~140℃でフラッティング現象が発生しにくく、安定した蒸留状態を維持しやすいため好ましい。圧力が10.0kPa以下であると、140℃以下の蒸留温度で化合物(A)と化合物(B)とを分離しやすくなり、蒸留温度を高くすることによる化合物(A)のロスを抑制できるため好ましい。
【0048】
精製工程において蒸留法を行う際、混合物の加熱を開始する前に、混合物に重合防止剤を添加してもよい。混合物の加熱を開始する前に、混合物に重合防止剤を添加することで、蒸留に伴う温度上昇によって、混合物が重合してゲル化することを防止できる。
混合物に添加した重合防止剤は、蒸留を行うことにより一部除去される。蒸留後に組成物中に残留する重合防止剤は、組成物の保管中および輸送中に組成物がゲル化することを防止し、組成物の保管時の安定性の向上に寄与する。重合防止剤は、必要に応じて、蒸留後に得られた組成物に添加してもよい。
【0049】
重合防止剤の具体例としては、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)、フェノチアジン等が挙げられる。
【0050】
精製工程においては、蒸留後の蒸留装置内に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを供給し、蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の蒸留装置内の精製物を容器に収容し、容器内の気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを充填する充填工程とを行う。
減圧ブレーク工程時の蒸留装置内は、精製物中で化合物(B)が生成されやすい条件となっている。本実施形態では、減圧ブレーク工程において、蒸留後の蒸留装置内に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを供給し、蒸留装置内の圧力を大気圧に戻すため、蒸留後の精製物中の化合物(A)と水分との接触を防止できる。しかも、本実施形態では、充填工程において、容器内の気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを充填するので、容器に収容した組成物中での化合物(A)と水分との接触も防止できる。したがって、減圧ブレーク工程および充填工程を行うことで、組成物中で化合物(B)が生成したり、増加したりすることを防止できる。よって、保管時の安定性および利用時の安定性が良好となる。
【0051】
また、減圧ブレーク工程において蒸留装置内に供給する乾燥窒素ガスおよび充填工程において容器内の気相部に充填する乾燥窒素ガスの露点は、精製物中での化合物(B)の生成および増加を抑制するために、-30℃以下とし、-40℃以下とすることが好ましい。減圧ブレーク工程および充填工程において用いる乾燥窒素ガスの露点は、工業的に入手容易であるため-70℃以上であることが好ましい。乾燥窒素ガスの露点が-70℃以上-60℃未満であっても、露点が-60℃以上-30℃以下の乾燥窒素ガスと同様の効果を得られることが確認されている。
本実施形態では、より効果的に精製物中での化合物(B)の増加を防ぐために、蒸留後の蒸留装置内の精製物を容器に送り込む工程において、精製物が露点-30℃以下の乾燥窒素ガス以外の気体と接触しないことが好ましい。
【0052】
[不飽和化合物の製造方法]
本実施形態の不飽和化合物の製造方法は、上記の組成物と、活性水素を有する化合物とを混合し、組成物に含まれる化合物(A)と活性水素を有する化合物とを反応させて反応生成物(不飽和化合物)を得る工程を含む。
【0053】
本実施形態において、不飽和化合物(反応生成物)の材料として使用する組成物中に含まれる化合物(A)は、目的とする不飽和化合物の構造に応じて、適宜選択できる。
また、活性水素を有する化合物における活性水素は、窒素原子、酸素原子、硫黄原子等に結合した水素原子であり、炭素原子に結合した水素原子と比較して高い反応性を示す。
活性水素を有する化合物は、特に限定されるものではなく、不飽和化合物の構造に応じて適宜選択できる。
例えば、活性水素を有する化合物として、水酸基、メルカプト基、アミノ基(環状アミン、アミド、イミドを含む)、カルボキシ基等の、活性水素含有基を有する化合物を用いた場合、以下に示す反応により、以下に示す反応生成物(不飽和化合物)が得られる。
【0054】
組成物に含まれる化合物(A)と水酸基を有する化合物とを反応させると、化合物(A)のイソシアナト基と水酸基と、が反応して、不飽和ウレタン化合物が生成する。本実施形態において、不飽和ウレタン化合物とは、分子内にエチレン性不飽和結合およびウレタン結合を含む化合物を意味する。
組成物に含まれる化合物(A)とメルカプト基を有する化合物とを反応させると、化合物(A)のイソシアナト基と、メルカプト基とが反応して、不飽和チオウレタン化合物が生成する。本実施形態において、不飽和チオウレタン化合物は、分子内にエチレン性不飽和結合およびチオウレタン結合を含む化合物を意味する。
【0055】
組成物に含まれる化合物(A)とアミノ基を有する化合物とを反応させると、化合物(A)のイソシアナト基と、アミノ基とが反応して、不飽和ウレア化合物が生成する。本実施形態において、不飽和ウレア化合物は、分子内にエチレン性不飽和結合およびウレア結合を含む化合物を意味する。
組成物に含まれる化合物(A)とカルボキシ基を有する化合物とを反応させると、化合物(A)のイソシアナト基とカルボキシ基とが反応して、不飽和アミド化合物が生成する。本実施形態において、不飽和アミド化合物は、分子内にエチレン性不飽和結合およびアミド結合を含む化合物を意味する。
【0056】
水酸基を有する化合物としては、任意に選択できるが、例えばエタノール、n-もしくはiso-プロパノール、ブタノール、もしくはその異性体、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、デカノール等の脂肪族アルコール化合物;フェノール、クレゾール、p-ノニルフェノール、サリチル酸メチル等のフェノール化合物;エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ブタントリオール、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ソルビトール、ヘキサントリオール、トリグリセロール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドの共重合体、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、シクロヘキサンジオール、シクロオクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、ヒドロキシプロピルヘキサノール、トリシクロ[5,2,3,02,6]デカンジメタノール、ジシクロヘキサンジオール等の脂肪族ポリオール;ジヒドロキシナフタレン、ジヒドロキシベンゼン、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F、ピロガロール、キシレングリコール、ビスフェノール-A(2-ヒドロキシエチルエーテル)等の芳香族ポリオール;ジブロモネオペンチルグリコール等のハロゲン化ポリオール;水酸基含有エポキシ樹脂;フェノキシ樹脂;ポリビニルアルコール、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートの(共)重合体等の高分子ポリオール;フタル酸、ピロメリット酸、トリメリット酸、アジピン酸、ダイマー酸等の有機酸と前記ポリオールとの末端水酸基含有反応生成物;前記ポリオールとアルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等)との付加反応生成物;ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース等のグルコース誘導体;ペンタエリスリトールのカルボン酸(ギ酸、酢酸、安息香酸等)オルトエステルのような複素環を含むアルコール類;2-メルカプトエタノールのように水素基とメルカプト基を同時にもつもの;ジメチルケトンオキシム、ジエチルケトンオキシム、メチルエチルケトンオキシム(MEKオキシム)等のオキシム系化合物;等が挙げられる。
水酸基を有する化合物としては、上記の中でも、ポリオールが好ましく、脂肪族ポリオールがより好ましい。
【0057】
メルカプト基を有する化合物としては、任意に選択できるが、例えば、1-ブタンチオール、1-ペンタンチオール、1-オクタンチオール、1-ドデカンチオール、n-オクタンデカンチオール、α-トルエンチオール、2-ベンズイミダゾールチオール、2-チアゾリン-2-チオール、2-メチル-2-プロパンチオール、O-アミノチオフェノール等のモノチオール;ヘキサンジチオール、デカンジチオール、1,4-ブタンジオールビスチオプロピオネート、1,4-ブタンジオールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオグリコレート、エチレングリコールビスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリスチオグリコレート、トリメチロールプロパントリスチオプロピオネート、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトブチレート)、ペンタエリスリトールテトラキスチオグリコレート、ペンタエリスリトールテトラキス(2-メルカプトプロピオネート)、トリメルカプトプロピオン酸トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート、1,4-ジメチルメルカプトベンゼン、2,4,6-トリメルカプト-s-トリアジン、2-(N,N-ジブチルアミノ)-4,6-ジメルカプト-s-トリアジン、テトラエチレングリコールビス(3-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(3-メルカプトプロピオネート)、トリス(3-メルカプトプロピオニルオキシエチル)イソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、ジペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトプロピオネート)、1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン(具体的な商品の例:「カレンズMT(登録商標)BD1」)、1,3,5-トリス(3-メルカブトブチルオキシエチル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン(具体的な商品の例:「カレンズMT(登録商標)NR1」)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-メルカプトブチレート)(具体的な商品の例:「カレンズMT(登録商標)PE1」)等の脂肪族ポリチオール;等が挙げられる。
メルカプト基を有する化合物としては、上記の中でも、ポリチオールが好ましく、脂肪族ポリチオールがより好ましい。
【0058】
アミノ基を有する化合物としては、任意に選択できるが、ブチルアミン、ヘキシルアミン、アニリン等のモノアミン;ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、1,3-または1,4-ビスアミノメチルシクロヘキサン、イソホロンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン等の脂肪族ポリアミン;m-またはp-キシリレンジアミン、ビス(4-アミノフェニル)メタン、2,4-または2,6-トリレンジアミン等芳香族ポリアミン;キトサンのようなグリコサミン類;ビス(3-アミノプロピル)ポリジメチルシクロキサン、ビス(3-アミノプロピル)ポリジフェニルシロキサン等のシリコーン化合物;イミダゾール、ε-カプロラクタム、フタル酸イミド等の複素環化合物;アミド類;イミド類;2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート(具体的な商品の例:「カレンズMOI-BP(登録商標)」)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルアクリレート、3,5-ジメチルピラゾール等が挙げられる。
アミノ基を有する化合物としては、上記の中でも、ポリアミンが好ましく、脂肪族ポリアミンがより好ましい。
【0059】
カルボキシ基を有する化合物としては、任意に選択できるが、酢酸、プロピオン酸、デカン酸等のモノカルボン酸;こはく酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の脂肪族・芳香族ポリカルボン酸;ポリアミック酸、アクリル酸の(共)重合物等の高分子ポリカルボン酸等が挙げられる。
カルボキシ基を有する化合物としては、上記の中でも、ポリカルボン酸が好ましく、脂肪族・芳香族ポリカルボン酸がより好ましい。
【0060】
さらに、活性水素を有する化合物としては、上記の活性水素を有する化合物のフッ素置換体、塩素置換体等のハロゲン置換体を使用してもよい。これらはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
活性水素を有する化合物としては、上記の中でも、汎用性の点で、ポリオール、ポリチオール、ポリアミンまたはポリカルボン酸であることが好ましく、ポリオールが特に好ましい。
【0061】
本実施形態の組成物に含まれる化合物(A)と活性水素を有する化合物との反応において、化合物(A)と活性水素を有する化合物との使用割合は、イソシアナト基/活性水素の比を考慮して設定される。
イソシアナト基/活性水素の比は、従来、化合物(A)と活性水素を有する化合物との反応において適用されている比と同じであってよい。イソシアナト基/活性水素の比は、活性水素を有する化合物の種類によって異なる。
【0062】
本実施形態の組成物に含まれる化合物(A)と活性水素を有する化合物は、反応触媒の存在下で反応させてもよい。反応触媒の添加量によって反応速度を調節することができる。
反応触媒としては、公知の反応触媒を用いることができる。反応触媒の具体例としては、ジブチル錫ジラウレート、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、トリエチルアミン、1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、ジルコニウムアセチルアセトナート、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)、ビスマストリス(2-エチルヘキサノエート)と2-エチルヘキサン酸の混合物、等が挙げられる。これらの反応触媒は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本実施形態の組成物に含まれる化合物(A)と活性水素を有する化合物とを反応させる際の反応温度は、-10~100℃であることが好ましく、0~80℃がより好ましい。
【0064】
本実施形態の組成物に含まれる化合物(A)と活性水素を有する化合物とを反応させる際には、必要に応じて、重合防止剤を添加してもよい。重合防止剤としては、一般に用いられているものを用いることができ、例えば、フェノール系化合物、ヒドロキノン系化合物などを使用することができる。重合防止剤の具体例としては、ハイドロキノン、メトキシハイドロキノン、カテコール、p-tert-ブチルカテコール、クレゾール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(BHT)等が挙げられる。
その他、前記反応に際し、目的に応じて、公知の光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、染料充填剤、反応性希釈剤等の種々の物質を添加してもよい。
【0065】
不飽和化合物(反応生成物)は、不飽和ウレタン化合物、不飽和チオウレタン化合物、不飽和ウレア化合物、または不飽和アミド化合物から選ばれる少なくとも一つであることが好ましく、2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-メタクリレート)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-アクリレート)、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルアクリレートから選ばれる少なくとも1つであることがより好ましい。
【0066】
このようにして得られた不飽和化合物は、塗料・コーティング、粘・接着剤、フォトレジスト、コンタクトレンズ、固体電解質、生理活性物質の固体化等、各種の分野の材料として好ましく用いられる。
【0067】
本実施形態の組成物は、一般式(1)で示される化合物(A)と、一般式(2)で示される化合物(B)とを含む組成物であり、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する。このため、保管時の安定性および利用時の安定性に優れる。また、着色成分を生成する重合防止剤を大量に含む必要はない。よって、本実施形態の組成物を用いて製造した不飽和化合物が、重合防止剤に起因する着色成分によって着色されることを防止できる。
また、本実施形態の組成物は、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002質量部以上含有するため、高い収率で製造できる。
【0068】
本実施形態の組成物の製造方法では、一般式(1)で示される化合物(A)100質量部に対して、一般式(2)で示される化合物(B)を2.0質量部超含有する混合物を、2.0~4.0の還流比、1.0~10.0kPaの圧力、90~140℃の蒸留温度で蒸留法により精製して、前記化合物(A)100質量部に対する前記化合物(B)の含有量が0.00002~2.0質量部である精製物を得る。したがって、本実施形態の組成物の製造方法によれば、保管時の安定性および利用時の安定性に影響を及ぼす化合物(B)が、混合物中から十分に除去された本実施形態の組成物を高い収率で製造できる。
また、本実施形態の組成物の製造方法では、精製工程において、蒸留後の蒸留装置内に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを供給し、蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の蒸留装置内の精製物を容器に収容し、容器内の気相部に露点-30℃以下の乾燥窒素ガスを充填する充填工程とを行う。このため、蒸留後の精製物中の化合物(A)が水分と接触しにくく、精製物中で化合物(B)が増加しにくい。よって、本実施形態の組成物の製造方法によれば、保管時の安定性および利用時の安定性の良好な組成物が得られる。
【0069】
本実施形態の不飽和化合物の製造方法は、本実施形態の組成物と、活性水素を有する化合物とを混合し、組成物に含まれる化合物(A)と活性水素を有する化合物とを反応させて反応生成物を得る工程を含む。本実施形態の不飽和化合物の製造方法では、材料として、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する。このため、製造中に反応生成物の急激な粘度上昇やゲル化が生じにくく、優れた生産性が得られる。
【実施例】
【0070】
以下、本実施形態を実施例と比較例により具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本実施形態の内容の理解をより容易にするためのものであり、本実施形態は、これらの実施例のみに制限されるものではない。
【0071】
以下に示す方法により、混合物1と混合物2とをそれぞれ製造した。
<混合物1>(MOIの合成)
攪拌機、コンデンサー、温度計および内装管を備えた500mL四つ口フラスコに、トルエン250mL、2-アミノエタノール25g(0.41mol)を入れ、90℃に加熱し、塩化水素ガスを約20g供給した。次いで、メタクリル酸クロリド44g(0.42mol)を滴下し、90℃で1時間加熱した。その後、ホスゲン80g(0.81mol)を供給した。次いで、フェノチアジン0.4g、2,6-ビス-t-ブチルヒドロキシトルエン0.4gを添加し、溶存ホスゲンおよびトルエンを除去した。
【0072】
以上の工程により、主生成物(化合物(A))である2-メタクリロイルオキシエチルイソシアネート(MOI)45g(0.29mol)(収率71%)と、副生物(化合物(B))であるN,N’-ビス(2-メタクリロイルオキシエチル)ウレア(56375質量ppm)とを含む混合物1を得た。
【0073】
<混合物2>(AOIの合成)
攪拌機、コンデンサー、温度計および内装管を備えた500mL四つ口フラスコに、トルエン250mL、2-アミノエタノール25g(0.41mol)を入れ、90℃に加熱し、塩化水素ガスを約20g供給した。次いで、3-クロロプロピオン酸クロリド56g(0.44mol)を90分かけて滴下し、90℃で1時間加熱した。その後、ホスゲン80g(0.81mol)を供給した。次いで、溶存ホスゲンを窒素ガスバブリングにより除去した。続いて、フェノチアジン0.4g、2,6-ビス-t-ブチルヒドロキシトルエン0.4gを添加し、トリエチルアミン50g(0.49mol)を供給し、50℃で6時間加熱撹拌した。その後、室温まで冷却し、生成した塩酸塩をろ過し、トルエンを留去した。
【0074】
以上の工程により、主生成物(化合物(A))である2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート(AOI)55g(0.35mol)(収率87%)と、副生物(化合物(B))であるN,N’-ビス(2-アクリロイルオキシエチル)ウレア(48657質量ppm)とを含む混合物2を得た。
【0075】
<実施例1~6、比較例1~8>(MOI)
50gの混合物1を、表1および表2に示す条件(還流比(還流量/留出量)、蒸留温度、蒸留圧力)で蒸留した。蒸留後の蒸留装置内に表1および表2に示す気体を供給し、蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の蒸留装置内の精製物を透明なガラス容器に収容し、容器内の気相部に表1および表2に示す気体を充填する充填工程とを行い、容器内に収容された実施例1~6、比較例1~8の液状の組成物を得た。
【0076】
<実施例7~12、比較例9~16>(AOI)
50gの混合物2を、表3および表4に示す条件(還流比(還流量/留出量)、蒸留温度、蒸留圧力)で蒸留した。その後、上記と同様に、蒸留後の蒸留装置内に表3および表4に示す気体を供給し、蒸留装置内の圧力を大気圧に戻す減圧ブレーク工程と、蒸留後の蒸留装置内の精製物を透明なガラス容器に収容し、容器内の気相部に表3および表4に示す気体を充填する充填工程とを行い、容器内に収容された実施例7~12、比較例9~16の液状の組成物を得た。
【0077】
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
次に、実施例1~12、比較例1~16の組成物について、以下に示す方法により、それぞれ組成物中の化合物(A)と化合物(B)とを定量し、組成物中の化合物(A)の含有量(質量%)と、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量(×10-4質量部)とを求めた。その結果を表1~表4に示す。
【0082】
<化合物(A)および化合物(B)の定量>
組成物を下記の条件で内部標準法にてガスクロマトグラフィー(GC)分析することにより行った。
カラム:DB-1、注入口温度:300℃、検出温度:300℃
カラム温度:50℃→(10℃/min)→300℃
カラム流量:1.4ml/min
スプリット比:1/50
検出器:FID
【0083】
また、実施例1~12、比較例1~16の組成物(クルード体)の収率(蒸留収率)を以下に示す式により求めた。その結果を表1~表4に示す。
収率=(組成物質量/理論収量)×100(%)
【0084】
「外観評価」
実施例1~12、比較例1~16の蒸留直後の液状の組成物100gを、透明なガラス容器に入れてから、窒素ガス雰囲気下、密封状態で、25℃で30日間保管し、保管後の外観を以下に示す方法により評価した。
組成物を入れた透明なガラス容器を、約45度の角度に数回傾け、目視により以下に示す規準で評価した。その結果を表1~表4に示す。
「基準」
変化なし:ガラス容器を傾けてから30秒未満で流れ落ちる。
水飴状:ガラス容器を傾けてから30秒以上180秒未満で流れ落ちる。
固化:ガラス容器を傾けてから180秒以上経過しても流動しない。
【0085】
「粘度の測定方法」
密封状態で、25℃で30日間保管した実施例1~12、比較例1~16の組成物の粘度を、JIS―Z 8803:2011に則り以下に示す方法により求めた。その結果を表1~表4に示す。
各組成物について、ウベローデ式粘度計を用いて25℃での動粘度(cm3/sec)を測定した。実施例1~6、比較例1~8については、動粘度の測定値に以下に示すカレンズMOI(登録商標)(昭和電工製)の密度を乗じて粘度(mPa・sec)を算出した。また、実施例7~12、比較例9~16については、動粘度の測定値に以下に示すカレンズAOI(登録商標)(昭和電工製)の密度を乗じて粘度(mPa・sec)を算出した。
(カレンズMOI(登録商標)の密度)1.096g/cm3(25℃)
(カレンズAOI(登録商標)の密度)1.133g/cm3(25℃)
【0086】
表1~表4に示すとおり、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する実施例1~12の組成物は、25℃で30日間保管した後の粘度が十分に低く、外観評価は「変化なし」であった。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超含まれている比較例1~16の組成物では、25℃で30日間の保管することにより粘度が高くなりすぎて、粘度の測定ができなかった。また、比較例1~16の組成物では、外観評価が「水飴状」または「固化」となった。
【0087】
(不飽和化合物)
<実施例13>((ポリ)オールとMOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、ポリエチレングリコール(数平均分子量660)165g、実施例1の組成物(化合物(A)がMOIである)77.5gを仕込み、温度を80℃に保って5時間反応させて不飽和ウレタン化合物1を合成した。
【0088】
<比較例17>((ポリ)オールとMOIとの反応生成物)
実施例1の組成物に換えて、比較例1の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例13と同様にして、不飽和ウレタン化合物2を合成した。
<比較例18>((ポリ)オールとMOIとの反応生成物)
実施例1の組成物に換えて、比較例7の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例13と同様にして、不飽和ウレタン化合物3を合成した。
【0089】
<実施例14>((ポリ)オールとAOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、ポリエチレングリコール(数平均分子量660)165g、実施例9の組成物(化合物(A)がAOIである)70.5gを仕込み、温度を80℃に保って5時間反応させて不飽和ウレタン化合物4を合成した。
<比較例19>((ポリ)オールとAOIとの反応生成物)
実施例9の組成物に換えて、比較例12の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例14と同様にして、不飽和ウレタン化合物5を合成した。
<比較例20>((ポリ)オールとAOIとの反応生成物)
実施例9の組成物に換えて、比較例16の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例14と同様にして、不飽和ウレタン化合物6を合成した。
【0090】
実施例13、14、比較例17~20で得られた不飽和ウレタン化合物1~6を含む反応液の粘度を、JIS―Z 8803:2011に則り25℃で音叉型振動式粘度計(株式会社エーアンドデイ製SV型粘度計(SV-10型))を用いて、測定した。その結果を表5および表6に示す。
【0091】
【0092】
【0093】
表5に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例13では、適正な粘度の不飽和ウレタン化合物1が得られ、問題なく不飽和ウレタン化合物を製造できた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例17および18では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和ウレタン化合物2および3の製造中にゲル化した。
【0094】
表6に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例14では、適正な粘度の不飽和ウレタン化合物4が得られ、問題なく不飽和ウレタン化合物を製造できた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例19および20では、不飽和ウレタン化合物5および6の粘度が高く、製造中に一部がゲル化した。
【0095】
<実施例15>((ポリ)アミンとMOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、MOI-BP(2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート)66.4gと3,5-ジメチルピラゾール77.4gとを仕込み、温度を35℃に保って実施例2の組成物(化合物(A)がMOIである)を122.6g供給し、2時間反応させて不飽和ウレア化合物1を合成した。
【0096】
<比較例21>((ポリ)アミンとMOIとの反応生成物)
実施例2の組成物に換えて、比較例2の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例15と同様にして、不飽和ウレア化合物2を合成した。
<比較例22>((ポリ)アミンとMOIとの反応生成物)
実施例2の組成物に換えて、比較例5の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例15と同様にして、不飽和ウレア化合物3を合成した。
【0097】
<実施例16>((ポリ)アミンとAOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量1000mlの四つ口フラスコに、3,5-ジメチルピラゾール115.9gと2-アセトキシ-1-メトキシプロパン155.0gとを仕込み、温度を15℃に保って実施例8の組成物(化合物(A)がAOIである)を174.0g供給し、30分反応させた。続いて、n-ヘキサンを320.0g添加し、0℃に冷却することで不飽和ウレア化合物4を晶析させた。得られた結晶をろ過にて回収し、n-ヘキサンで洗浄した後、減圧乾燥して不飽和ウレア化合物4を単離した。
【0098】
<比較例23>((ポリ)アミンとAOIとの反応生成物)
実施例8の組成物に換えて、比較例10の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、不飽和ウレア化合物5を合成した。
<比較例24>((ポリ)アミンとAOIとの反応生成物)
実施例8の組成物に換えて、比較例15の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例16と同様にして、不飽和ウレア化合物6を合成した。
【0099】
実施例15、16、比較例21~24で得られた不飽和ウレア化合物1~6を含む反応液の粘度を、JIS―Z 8803:2011に則り25℃で音叉型振動式粘度計(株式会社エーアンドデイ製SV型粘度計(SV-10型))を用いて、測定した。その結果を表7および8に示す。
【0100】
【0101】
【0102】
表7に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例15では、適正な粘度の不飽和ウレア化合物1が得られ、問題なく不飽和ウレア化合物を製造することができた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例21および22では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和ウレア化合物2および3の製造中にゲル化した。
【0103】
表8に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例16では、適正な粘度の不飽和ウレア化合物4が得られ、問題なく不飽和ウレア化合物を製造することができた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例23および24では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和ウレア化合物5および6の製造中にゲル化した。
【0104】
<実施例17>((ポリ)カルボン酸とMOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、デカン酸177.3gと実施例3の組成物(化合物(A)がMOIである)156.5gとジブチル錫ジラウレートとを0.8g仕込み、温度を80℃に保って12時間反応させて不飽和アミド化合物1を合成した。
【0105】
<比較例25>((ポリ)カルボン酸とMOIとの反応生成物)
実施例3の組成物に換えて、比較例3の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例17と同様にして、不飽和アミド化合物2を合成した。
<比較例26>((ポリ)カルボン酸とMOIとの反応生成物)
実施例3の組成物に換えて、比較例8の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例17と同様にして、不飽和アミド化合物3を合成した。
【0106】
<実施例18>((ポリ)カルボン酸とAOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、デカン酸177.3gと実施例7の組成物(化合物(A)がAOIである)142.4gとジブチル錫ジラウレートとを0.8g仕込み、温度を80℃に保って12時間反応させて不飽和アミド化合物4を合成した。
【0107】
<比較例27>((ポリ)カルボン酸とAOIとの反応生成物)
実施例7の組成物に換えて、比較例11の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例18と同様にして、不飽和アミド化合物5を合成した。
<比較例28>((ポリ)カルボン酸とAOIとの反応生成物)
実施例7の組成物に換えて、比較例14の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例18と同様にして、不飽和アミド化合物6を合成した。
【0108】
実施例17、18、比較例25~28で得られた不飽和アミド化合物1~6を含む反応液の粘度を、JIS―Z 8803:2011に則り25℃で音叉型振動式粘度計(株式会社エーアンドデイ製SV型粘度計(SV-10型))を用いて、測定した。
【0109】
【0110】
【0111】
表9に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例17では、適正な粘度の不飽和アミド化合物1が得られ、問題なく不飽和アミド化合物を製造できた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例25および26では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和アミド化合物2および3の製造中にゲル化した。
【0112】
表10に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例18では、適正な粘度の不飽和アミド化合物4が得られ、問題なく不飽和アミド化合物を製造できた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例27および28では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和アミド化合物5および6の製造中にゲル化した。
【0113】
<実施例19>((ポリ)チオールとMOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、1-オクタンチオール177.3gと実施例4の組成物(化合物(A)がMOIである)を184.3g仕込み、温度を80℃に保って24時間反応させて不飽和チオウレタン化合物1を合成した。
【0114】
<比較例29>((ポリ)チオールとMOIとの反応生成物)
実施例4の組成物に換えて、比較例4の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例19と同様にして、不飽和チオウレタン化合物2を合成した。
<比較例30>((ポリ)チオールとMOIとの反応)
実施例4の組成物に換えて、比較例6の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例19と同様にして、不飽和チオウレタン化合物3を合成した。
【0115】
<実施例20>((ポリ)チオールとAOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、1-オクタンチオール177.3gと実施例12の組成物(化合物(A)がAOIである)を167.7g仕込み、温度を80℃に保って24時間反応させて不飽和チオウレタン化合物4を合成した。
【0116】
<比較例31>((ポリ)チオールとAOIとの反応生成物)
実施例12の組成物に換えて、比較例9の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例20と同様にして、不飽和チオウレタン化合物5を合成した。
<比較例32>((ポリ)チオールとAOIとの反応生成物)
実施例12の組成物に換えて、比較例13の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例20と同様にして、不飽和チオウレタン化合物6を合成した。
【0117】
実施例19、20、比較例29~32で得られた不飽和チオウレタン化合物1~6を含む反応液の粘度を、JIS―Z 8803:2011に則り25℃で音叉型振動式粘度計(株式会社エーアンドデイ製SV型粘度計(SV-10型))を用いて、測定した。その結果を表11および12に示す。
【0118】
【0119】
【0120】
表11に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例19では、適正な粘度の不飽和チオウレタン化合物1が得られ、問題なく不飽和チオウレタン化合物を製造することができた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例29および30では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和チオウレタン化合物2および3の製造中にゲル化した。
【0121】
表12に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例20では、適正な粘度の不飽和チオウレタン化合物4が得られ、問題なく不飽和チオウレタン化合物を製造することができた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例31および32では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和チオウレタン化合物5および6の製造中にゲル化した。
【0122】
<実施例21>(オキシム化合物とMOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、2-ブタノンオキシム(以下、「MEKオキシム」ともいう)167.0gを仕込み、温度を35℃に保って実施例6の組成物(化合物(A)がMOIである)を293.1g供給し、2時間反応させて不飽和ブタノンオキシム化合物1として、MOI-BM(2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-メタクリレート)を合成した。MOI-BMは、(2-ブタノンオキシム-O-(E)-(カルバモイルエチル-2-メタクリレート)と2-ブタノンオキシム-O-(Z)-(カルバモイルエチル-2-メタクリレート)との混合物である。
なおこのようなMOI-BMの具体的な商品の例としては、カレンズMOI-BM(登録商標)などがある。
【0123】
<比較例33>(オキシム化合物とMOIとの反応生成物)
実施例6の組成物に換えて、比較例3の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例21と同様にして、不飽和ブタノンオキシム化合物2を合成した。
<比較例34>(オキシム化合物とMOIとの反応生成物)
実施例6の組成物に換えて、比較例7の組成物(化合物(A)がMOIである)を用いたこと以外は、実施例21と同様にして、不飽和ブタノンオキシム化合物3を合成した。
【0124】
<実施例22>(オキシム化合物とAOIとの反応生成物)
撹拌機、還流冷却管、温度計を備えた容量500mlの四つ口フラスコに、温度を15℃に保ってMEKオキシム167.0gと、実施例10の組成物(化合物(A)がAOIである)とを266.7g同時供給し、1時間反応させて不飽和ブタノンオキシム化合物4として、AOI-BM(2-ブタノンオキシム-O-(カルバモイルエチル-2-アクリレート)を合成した。AOI-BMは、2-ブタノンオキシム-O-(E)-(カルバモイルエチル-2-アクリレート)と2-ブタノンオキシム-O-(Z)-(カルバモイルエチル-2-アクリレート)の混合物である。
【0125】
<比較例35>(オキシム化合物とAOIとの反応生成物)
実施例10の組成物に換えて、比較例11の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例22と同様にして、不飽和ブタノンオキシム化合物5を合成した。
<比較例36>(オキシム化合物とAOIとの反応生成物)
実施例10の組成物に換えて、比較例15の組成物(化合物(A)がAOIである)を用いたこと以外は、実施例22と同様にして、不飽和ブタノンオキシム化合物6を合成した。
【0126】
実施例21、22、比較例33~36で得られた不飽和ブタノンオキシム化合物1~6を含む反応液の粘度を、JIS―Z 8803:2011に則り25℃で音叉型振動式粘度計(株式会社エーアンドデイ製SV型粘度計(SV-10型))を用いて、測定した。その結果を表13および14に示す。
【0127】
【0128】
【0129】
表13に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例21では、適正な粘度の不飽和ブタノンオキシム化合物1が得られ、問題なく不飽和ブタノンオキシム化合物を製造することができた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例33および34では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和ブタノンオキシム化合物2および3の製造中にゲル化した。
【0130】
表14に示すように、化合物(A)100質量部に対して、化合物(B)を0.00002~2.0質量部含有する組成物を用いて製造した実施例22では、適正な粘度の不飽和ブタノンオキシム化合物4が得られ、問題なく不飽和ブタノンオキシム化合物を製造することができた。
これに対し、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が2.0質量部超の組成物を用いて製造した比較例35および36では、原料の段階では取扱いに問題はなかったものの、不飽和ブタノンオキシム化合物5および6の製造中にゲル化した。
【0131】
以上の結果に示すとおり、化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が0.00002~2.0質量部であるか否かによって、組成物の保管中の挙動に大きな差異が見られた。また、組成物と、(ポリ)オール、(ポリ)アミン、(ポリ)カルボン酸、(ポリ)チオール、オキシム化合物のいずれの化合物と、を反応させて得た不飽和化合物の粘度においても、組成物中の化合物(A)100質量部に対する化合物(B)の含有量が0.00002~2.0質量部であるか否かによって、大きな差異が見られた。
これらの結果から、組成物の保管中の安定性を判別する指標、および組成物を原料として不飽和化合物を製造した場合に製造中に急激な粘度上昇および/またはゲル化が発生するか否かを判別する指標として、組成物中の化合物Bの濃度が有用であることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0132】
本発明によれば、不飽和イソシアネート化合物を含有する組成物の保管時の安定性および輸送時の安定性を向上することができる。