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特許7396301パウダー分散液、積層体の製造方法、ポリマー膜の製造方法及び被覆織布の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】パウダー分散液、積層体の製造方法、ポリマー膜の製造方法及び被覆織布の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/30 20060101AFI20231205BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231205BHJP
   C08J 3/03 20060101ALI20231205BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20231205BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231205BHJP
   C08L 27/18 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
B32B27/30 D
C08J5/18 CEW
C08J3/03 CEW
B05D7/24 302L
B05D7/24 301G
B05D7/24 303E
B05D7/24 301A
B32B27/18 Z
C08L27/18
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2020563179
(86)(22)【出願日】2019-12-19
(86)【国際出願番号】 JP2019049910
(87)【国際公開番号】W WO2020137828
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2018240872
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018240873
(32)【優先日】2018-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【弁理士】
【氏名又は名称】駒井 慎二
(74)【代理人】
【識別番号】100173532
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 彰文
(72)【発明者】
【氏名】山邊 敦美
(72)【発明者】
【氏名】細田 朋也
(72)【発明者】
【氏名】笠井 渉
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/016644(WO,A1)
【文献】特表2007-509223(JP,A)
【文献】特表2009-538968(JP,A)
【文献】特開平04-106170(JP,A)
【文献】特開2008-050455(JP,A)
【文献】特開2017-222761(JP,A)
【文献】国際公開第2013/157647(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 3/00-3/28
C08J 99/00
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
B32B 1/00-43/00
B05D 7/24
C08L 27/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記パウダー分散液を、基材の表面に塗布し、加熱により前記水性媒体を除去してポリマー層を形成し、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とが、この順に積層された積層体を得て、該積層体から前記基材層を除去して、前記ポリマー層で構成されるポリマー膜を得る、ポリマー膜の製造方法。
パウダー分散液:テトラフルオロエチレンに基づく単位及び酸素含有極性基を有するフルオロポリマーのパウダー(1)と、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(21)又は熱溶融性フルオロポリマーのパウダー(22)と、水性媒体とを含み、前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンの含有量又は前記熱溶融性フルオロポリマーの含有量に対する前記フルオロポリマーの含有量の質量での比が、0.4以下である、パウダー分散液。
【請求項2】
前記パウダー分散液における、前記パウダー(1)の体積基準累積50%径が、0.01~75μmであり、前記パウダー(21)又は前記パウダー(22)の体積基準累積50%径が、0.01~100μmである、請求項1に記載の製造方法
【請求項3】
前記フルオロポリマーの溶融温度が、140~320℃である、請求項1又は2に記載の製造方法
【請求項4】
前記酸素含有極性基が、水酸基含有基又はカルボニル基含有基である、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法
【請求項5】
前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンが、フィブリル性を有する、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法
【請求項6】
前記熱溶融性フルオロポリマーが、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー又はテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーである、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法
【請求項7】
前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(21)及び前記熱溶融性フルオロポリマーのパウダー(22)の両方を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の製造方法
【請求項8】
下記パウダー分散液を、織布に含浸させ、さらに前記織布を乾燥させる、ポリマー層で被覆された織布を得る、被覆織布の製造方法。
パウダー分散液:テトラフルオロエチレンに基づく単位及び酸素含有極性基を有するフルオロポリマーのパウダー(1)と、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(21)又は熱溶融性フルオロポリマーのパウダー(22)と、水性媒体とを含み、前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンの含有量又は前記熱溶融性フルオロポリマーの含有量に対する前記フルオロポリマーの含有量の質量での比が、0.4以下である、パウダー分散液。
【請求項9】
前記パウダー分散液における、前記パウダー(1)の体積基準累積50%径が、0.01~75μmであり、前記パウダー(21)又は前記パウダー(22)の体積基準累積50%径が、0.01~100μmである、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記フルオロポリマーの溶融温度が、140~320℃である、請求項8又は9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記酸素含有極性基が、水酸基含有基又はカルボニル基含有基である、請求項8~10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンが、フィブリル性を有する、請求項8~11のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
前記熱溶融性フルオロポリマーが、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー又はテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーである、請求項8~12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(21)及び前記熱溶融性フルオロポリマーのパウダー(22)の両方を含む、請求項8~13のいずれか1項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パウダー分散液、積層体の製造方法、ポリマー膜の製造方法及び被覆織布の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー(PFA)、テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマー(FEP)等のフルオロオレフィン系ポリマーは、離型性、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性等の物性に優れており、その物性を活用して、種々の産業用途に利用されている。
なかでも、フルオロオレフィン系ポリマーのパウダーが溶媒中に分散したパウダー分散液は、各種基材の表面に塗布すれば、その表面にフルオロオレフィン系ポリマーの物性を付与できるため、コーティング剤として有用である(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2018/016644号
【文献】国際公開第2008/018400号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フルオロオレフィン系ポリマーは、それぞれ固有の性質を有している。
非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンは、フィブリル性に代表される特異な物性を有することが知られている。非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダーと、PFA、FEP等の熱溶融性フルオロオレフィン系ポリマーのパウダーとを混合した分散液を用いれば、両者のポリマーの物性を具備する成形品を形成できると考えられる。
しかし、かかる分散液は、分散性が低く、均一な分散液に調整したり、経時後に分散液を再分散させたり、他の成分を更に配合するために、せん断応力等をかける分散処理に供すると、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンが、フィリブル化する等して変質し、分散性や成形性が低下する課題がある。
【0005】
また、かかる分散液から形成される成形品には、耐クラック性等の機械的強度と接着性とが未だ充分ではないという課題がある。特に、成形品の厚さを増したり、成形品を延伸加工したりする際の、耐クラック性と接着性とが未だ充分ではない。
【0006】
一方、変性PTFE、PFA、FEP等の熱溶融性フルオロポリマーは、PTFE同様に耐熱性、耐薬品性等に優れ、成形性にも優れている。しかし、その成形品は、他の素材に対する接着性と加工性(延伸性、曲げ加工性等の柔軟性等)が、未だ充分ではなく、熱溶融性フルオロポリマーのパウダーを含む水分散液から形成される成形品においては、その傾向が顕著である。また、かかる水分散液に、接着性や加工性を向上させるための成分を配合すると、分散液の分散状態が低下したり、成形品におけるフルオロポリマー物性が低下する課題がある。
【0007】
本発明は、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダー又は熱溶融性フルオロポリマーのパウダーと、所定のテトラフルオロポリマーのパウダーとを含み、両者のポリマーの物性を損なわずに、加工性に優れるとともに、強固な接着性を示す成形品を形成できるパウダー分散液、かかるパウダー分散液を使用した積層体の製造方法、ポリマー膜の製造方法及び被覆織布の製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、下記の態様を有する。
<1> テトラフルオロエチレンに基づく単位及び酸素含有極性基を有するフルオロポリマーのパウダー(1)と、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(21)又は熱溶融性フルオロポリマーのパウダー(22)と、水性媒体とを含むパウダー分散液。
<2> 前記パウダー(1)の体積基準累積50%径が、0.01~75μmであり、前記パウダー(21)又は前記パウダー(22)の体積基準累積50%径が、0.01~100μmである、上記<1>のパウダー分散液。
<3> 前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンの含有量又は前記熱溶融性フルオロポリマーの含有量に対する前記フルオロポリマーの含有量の質量での比が、0.4以下である、上記<1>又は<2>のパウダー分散液。
<4> 前記フルオロポリマーの溶融温度が、140~320℃である、上記<1>~<3>のいずれかのパウダー分散液。
<5> 前記フルオロポリマーが、前記酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位を含む、上記<1>~<4>のいずれかのパウダー分散液。
<6> 前記酸素含有極性基が、水酸基含有基又はカルボニル基含有基である、上記<1>~<5>のいずれかのパウダー分散液。
<7> 前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンが、フィブリル性を有する、上記<1>~<6>のいずれかのパウダー分散液。
<8> 前記熱溶融性フルオロポリマーが、変性ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレンとペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)とのコポリマー又はテトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとのコポリマーである、上記<1>~<7>のいずれかのパウダー分散液。
<9> 前記非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンのパウダー(21)及び前記熱溶融性フルオロポリマーのパウダー(22)の両方を含む、上記<1>~<8>のいずれかのパウダー分散液。
<10> さらに、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤を含む、上記<1>~<9>のいずれかのパウダー分散液。
<11> さらに、フッ素系界面活性剤を含み、前記フッ素系界面活性剤が、フルオロモノオール又はフルオロポリオールである、上記<1>~<10>のいずれかのパウダー分散液。
<12> 上記<1>~<11>のいずれかのパウダー分散液を、基材の表面に塗布し、加熱により前記水性媒体を除去してポリマー層を形成し、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とが、この順に積層された積層体を得る、積層体の製造方法。
<13> 上記<1>~<11>のいずれかのパウダー分散液を、基材の表面に塗布し、加熱により前記水性媒体を除去してポリマー層を形成し、前記基材で構成される基材層と前記ポリマー層とが、この順に積層された積層体を得て、該積層体から前記基材層を除去して、前記ポリマー層で構成されるポリマー膜を得る、ポリマー膜の製造方法。
<14> 上記<1>~<11>のいずれかのパウダー分散液を、織布に含浸させ、さらに前記織布を乾燥させる、ポリマー層で被覆された織布を得る、被覆織布の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、分散性、貯蔵安定性等の状態安定性に優れており、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレンの物性を損なわずに、クラックが生じにくく、強固な接着性を示す成形品を形成できる、パウダー分散液と、状態安定性に優れており、熱溶融性フルオロポリマーの物性を損なわずに、強固な接着性と良好な加工性とを示す成形品を形成できる、パウダー分散液とが提供される。また、かかるパウダー分散液を使用した積層体の製造方法、ポリマー膜の製造方法及び被覆織布の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
「パウダーのD50」は、体積基準累積50%径であり、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が50%となる点の粒子径である。
「パウダーのD90」は、体積基準累積90%径であり、レーザー回折・散乱法によって粒度分布を測定し、粒子の集団の全体積を100%として累積カーブを求め、その累積カーブ上で累積体積が90%となる点の粒子径である。
ポリマーにおける「単位」は、重合反応によってモノマーから直接形成された原子団であってもよく、重合反応によって得られたポリマーを所定の方法で処理して、構造の一部が変換された原子団であってもよい。また、モノマーAに基づく単位をモノマーA単位とも記す。
「パウダー分散液の粘度」とは、B型粘度計を用いて、室温下(25℃)で回転数が30rpmの条件下で測定される値である。測定を3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「パウダー分散液のチキソ比」とは、回転数が30rpmの条件で測定される粘度ηを回転数が60rpmの条件で測定される粘度ηで除して算出される値である。それぞれの粘度の測定は、3回繰り返し、3回分の測定値の平均値とする。
「ポリマーの溶融温度(融点)」は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定したポリマーの融解ピークの最大値に対応する温度である。
「積層体の剥離強度」とは、矩形状(長さ100mm、幅10mm)に切り出した積層体の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分、長さ方向の片端から積層体に対して90°で、金属箔と樹脂層とを剥離させた際にかかる最大荷重(N/cm)である。
「ポリマーの標準比重」は、ASTM D 4895に準拠して測定される、ポリマーの標準比重である。
「溶融流れ速度」は、JIS K 7210-1:2014(対応国際規格ISO 1133-1:2011)に規定されるメルトマスフローレイト(MFR)である。
【0011】
本発明のパウダー分散液(本分散液)は、テトラフルオロエチレン(TFE)に基づく単位(TFE単位)及び酸素含有極性基を有するポリマー(以下、「Fポリマー」とも記す。)のパウダー(1)と、非熱溶融性ポリテトラフルオロエチレン(以下、「非熱溶融性PTFE」とも記す。)のパウダー(21)又は熱溶融性フルオロポリマー(以下、「Mポリマー」とも記す。)のパウダー(22)と、水性媒体とを含む。
本分散液は、パウダー(1)とパウダー(21)又はパウダー(22)とが、水を主成分とする水性媒体中にそれぞれ粒子状に分散している分散液であるとも言える。
なお、Fポリマー、非熱溶融性PTFE及びMポリマーは、それぞれ異なるポリマーである。
本分散液から形成される成形品(ポリマー層等の成形部位を含む。以下、同様である。)は、非熱溶融性PTFEのフィブリル性、熱溶融性フルオロポリマーの加工性等の個々のフルオロポリマーの特異な物性を有しつつ、強固な接着性と耐クラック性とを発現する。
【0012】
その理由は必ずしも明確ではないが、以下の様に考えられる。
パウダー(21)を含む本分散液では、非熱溶融性PTFEとFポリマーとは共にTFE単位を含むポリマーであり、相互作用して、融着して接合しやすい。また、Fポリマーは、酸素含有極性基を有しているため、水性媒体中での安定性が高く、非熱溶融性PTFEとも相互作用して、そのパウダーの分散安定性を向上させていると考えられる。その結果、両者のパウダーが水性媒体中で安定化して均一に分散するため、本分散液は状態安定性に優れていると考えられる。
さらに、成形品の形成に際して、酸素含有極性基を有するFポリマーは、接着性を発現するだけでなく、ポリマー同士の間での相互作用、例えば、マトリックスの形成を促すと考えられる。この相互作用により、それぞれのポリマー鎖が均一に絡みやすい状態が形成されると考えられる。その結果、非熱溶融性PTFEの性質を損なうことなく、接着性と耐クラック性とに優れた成形品が、本分散液から形成できたと考えられる。
【0013】
一方、パウダー(22)を含む本分散液でも、MポリマーとFポリマーとが共にフッ素原子を有するポリマーであり、相互作用して、融着して接合しやすい。また、Fポリマーは、酸素含有極性基を有しているため、水性媒体中での安定性が高く、Mポリマーとも相互作用して、そのパウダーの分散安定性を向上させていると考えられる。その結果、両者のパウダーが水性媒体中で安定化して均一に分散するため、本分散液は状態安定性に優れていると考えられる。
さらに、成形品の形成に際して、酸素含有極性基を有するFポリマーは、接着性を発現するだけでなく、ポリマー同士の間での相互作用、例えば、マトリックスの形成を促すと考えられる。この相互作用により、それぞれのポリマー鎖が均一に絡みやすい状態が形成されると考えられる。その結果、Mポリマーの性質を損なうことなく、接着性と加工性とに優れた成形品が、本分散液から形成できたと考えられる。
【0014】
本発明におけるパウダー(1)は、Fポリマーを含むパウダーであり、Fポリマーからなるパウダーであるのが好ましい。パウダー(1)におけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%が特に好ましい。
パウダー(1)のD50は、0.01~75μmが好ましく、0.05~6μmがより好ましく、0.1~4μmがさらに好ましい。パウダー(1)のD50の好適態様としては、0.1μm以上1μm未満である態様と、1μm以上4μm以下である態様とが挙げられる。
パウダー(1)のD90は、8μm以下が好ましく、6μm以下がより好ましい。パウダー(1)のD90は、0.1μm以上が好ましく、0.3μm以上がより好ましい。パウダー(1)のD90の好適態様としては、0.3μm以上2μm未満である態様と、2μm以上6μm以下である態様とが挙げられる。
この場合、本分散液の分散安定性と、成形品の物性を更に向上させやすい。例えば、パウダー(1)のD50が0.1μm以上1μm未満であれば、その分散性がより優れ、延伸特性等の機械的強度に優れた成形品が得られやすい。パウダー(1)のD50が1μm以上4μm以下であれば、耐クラック性に優れた成形品が得られやすい。
【0015】
本発明におけるFポリマーが有する酸素含有極性基は、酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位に含まれていてもよく、ポリマー末端基に含まれていてもよく、表面処理(放射線処理、電子線処理、コロナ処理、プラズマ処理等)によりポリマー中に含まれていてもよく、最前者が好ましい。また、Fポリマーが有する酸素含有極性基は、酸素含有極性基を形成し得る基を有するポリマーを変性して調製された基であってもよい。ポリマー末端基に含まれる酸素含有極性基は、そのポリマーの重合に際して使用する成分(重合開始剤、連鎖移動剤等)を調整することにより得られる。
酸素含有極性基は、酸素原子を含有する極性の原子団である。ただし、酸素含有極性基には、エステル結合自体とエーテル結合自体とは含まれず、これらの結合を特性基として含む原子団は含まれる。
【0016】
酸素含有極性基は、水酸基含有基、カルボニル基含有基、アセタール基及びオキシシクロアルカン基からなる群から選ばれる少なくとも1種の基が好ましく、水酸基含有基又はカルボニル基含有基がより好ましく、-CFCHOH、-C(CFOH、1,2-グリコール基(-CH(OH)CHOH)、-CFC(O)OH、>CFC(O)OH、カルボキシアミド基(-C(O)NH等)、酸無水物残基(-C(O)OC(O)-)、イミド残基(-C(O)NHC(O)-等)、ジカルボン酸残基(-CH(C(O)OH)CHC(O)OH等)又はカーボネート基(-OC(O)O-)がさらに好ましい。
オキシシクロアルカン基は、エポキシ基又はオキセタニル基が好ましい。
また、成形品の接着性、耐クラック性及びポリマーの物性を損ないにくい観点から、酸素含有極性基は、極性基であり環状基であるかその開環基である、環状酸無水物残基、環状イミド残基、環状カーボネート基、環状アセタール基、1,2-ジカルボン酸残基又は1,2-グリコール基が特に好ましく、環状酸無水物残基が最も好ましい。
【0017】
Fポリマーは、TFE単位と、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ペルフルオロ(アルキルビニルエーテル)(以下、「PAVE」とも記す。)又はフルオロアルキルエチレン(以下、「FAE」とも記す。)に基づく単位(以下、「PAE単位」とも記す。)と、酸素含有極性基を有するモノマーに基づく単位(以下、「極性単位」とも記す。)とを含むポリマーが好ましい。
TFE単位の割合は、Fポリマーを構成する全単位のうち、50~99モル%が好ましく、90~99モル%がより好ましい。
PAE単位は、PAVEに基づく単位又はHFPに基づく単位が好ましく、PAVEに基づく単位がより好ましい。PAE単位は、2種類以上であってもよい。
PAE単位の割合は、Fポリマーを構成する全単位のうち、0.5~9.97モル%が好ましい。
【0018】
PAVEとしては、CF=CFOCF(PMVE)、CF=CFOCFCF、CF=CFOCFCFCF(PPVE)、CF=CFOCFCFCFCF、CF=CFO(CFFが挙げられ、PMVE又はPPVEが好ましい。
FAEとしては、CH=CH(CFF(PFEE)、CH=CH(CFF、CH=CH(CFF(PFBE)、CH=CF(CFH、CH=CF(CFHが挙げられ、PFEE又はPFBEが好ましい。
【0019】
極性単位は、酸無水物残基、カーボネート基、環状アセタール基、1,2-ジカルボン酸残基、1,2-ジオール残基、又は1,3-ジオール残基を有するモノマーに基づく単位が好ましく、環状酸無水物残基又は環状カーボネート基を有するモノマーに基づく単位がより好ましく、環状酸無水物残基を有するモノマーに基づく単位がさらに好ましい。極性単位は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
環状酸無水物残基を有するモノマーは、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物(別称:無水ハイミック酸;以下、「NAH」とも記す。)又は無水マレイン酸が好ましく、NAHがより好ましい。
極性単位の割合は、Fポリマーを構成する全単位のうち、0.01~3モル%が好ましい。
【0020】
また、この場合のFポリマーは、TFE単位、PAE単位及び極性単位以外の単位(以下、「他の単位」とも記す。)を、さらに含んでいてもよい。他の単位は、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。
他の単位を形成するモノマーとしては、エチレン、プロピレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン(VDF)、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)が挙げられる。他の単位は、エチレン、VDF又はCTFEが好ましく、エチレンがより好ましい。
Fポリマーにおける他の単位の割合は、Fポリマーを構成する全単位のうち、0~50モル%が好ましく、0~40モル%がより好ましい。
【0021】
Fポリマーの溶融温度は、140~320℃が好ましく、200~320℃がより好ましく、260~320℃がさらに好ましい。この場合、Fポリマーと非熱溶融性PTFEとの融着性がバランスし、成形品の接着性と耐クラック性とを更に向上させつつ、非熱溶融性PTFEの物性を損ないにくい。
【0022】
本分散液は、パウダー(21)又はパウダー(22)を含み、パウダー(21)のみを含んでいてもよく、パウダー(22)のみを含んでいてもよく、パウダー(21)及びパウダー(22)の両方を含んでいてもよい。
パウダー(21)は、非熱溶融性PTFEを含むパウダーであり、非熱溶融性PTFEからなるパウダーであるのが好ましい。パウダー(21)における非熱溶融性PTFEの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。なお、本明細書においては、非熱溶融性PTFEの製造において使用された成分(界面活性剤等)は、非熱溶融性PTFE以外の成分には含めない。
本発明におけるパウダー(22)は、Mポリマーを含むパウダーであり、Mポリマーからなるパウダーであるのが好ましい。パウダー(22)におけるFポリマーの含有量は、80質量%以上が好ましく、100質量%がより好ましい。
【0023】
パウダー(21)のD50は、0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましい。パウダー(21)のD50の好適態様としては、0.1~1μmである態様が挙げられる。
パウダー(21)のD90は、200μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。パウダー(21)のD90は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。パウダー(21)のD90の具体的な好適態様としては、0.1~2μmである態様が挙げられる。
この場合、パウダー(1)の分散性とパウダー同士の間での相互作用とが良好となり、本分散液と成形品との物性を更に向上させやすい。
【0024】
パウダー(1)のD50と、パウダー(21)のD50との関係の好適な態様としては、パウダー(1)のD50が0.1μm以上1μm未満又は1μm以上4μm以下であり、パウダー(21)のD50が0.1μm以上1μm以下である態様が挙げられる。前者の態様においては、本分散液の分散性が優れ、延伸特性等の機械的強度に優れた成形品が得られやすい。後者の態様においては、耐クラック性に優れた成形品が得られやすい。
【0025】
パウダー(22)のD50は、0.01~100μmが好ましく、0.1~10μmがより好ましい。パウダー(22)のD50の好適態様としては、0.1~1μmである態様が挙げられる。
パウダー(22)のD90は、200μm以下が好ましく、20μm以下がより好ましい。パウダー(22)のD90は、0.1μm以上が好ましく、0.2μm以上がより好ましい。パウダー(22)のD90の好適態様としては、0.1~2μmである態様が挙げられる。この場合、パウダー(22)の分散性とパウダー(1)との相互作用とが良好となり、成形品の接着性、耐クラック性及びMポリマーの物性が向上しやすい。
【0026】
パウダー(1)のD50とパウダー(22)のD50との関係の好適な態様としては、パウダー(1)のD50が0.1μm以上1μm未満又はD50が1μm以上4μm以下であり、パウダー(22)のD50が0.1μm以上1μm以下である態様が挙げられる。前者の態様においては、本分散液の分散性が優れ、延伸特性等の機械的強度に優れた成形品が得られやすい。後者の態様においては、耐クラック性に優れた成形品が得られやすい。
【0027】
非熱溶融性PTFEは、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)であり、TFEのホモポリマーに加えて、極微量のコモノマー(PAVE、HFP、FAE等)とTFEとのコポリマーである、所謂、変性PTFEも包含される。
上述した通り、本分散液から得られる成形品は、強固な接着性と耐クラック性とを示すだけでなく、非熱溶融性PTFEの成形品が本来有する繊維状の表面物性やその多孔性が損なわれにくい。
非熱溶融性PTFEにおけるTFE単位の割合は、全単位のうち、99.5モル%以上が好ましく、99.9モル%以上がより好ましい。
【0028】
非熱溶融性PTFEは、水中でTFEを乳化重合して得られるポリマーであるのが好ましい。かかる非熱溶融性PTFEのパウダーは、水中でTFEを乳化重合して得られるポリマーが粒子として水に分散したパウダーである。かかるパウダーの使用に際しては、水に分散したパウダーをそのまま使用してもよく、水からパウダーを回収して使用してもよい。
非熱溶融性PTFEは、パウダー、その分散液として、市販品を広く入手できる。
非熱溶融性PTFEは、フィブリル性を有するのが好ましい。フィブリル性を有すれば、延伸処理により容易に多孔質膜を製造しやすい。なお、フィブリル性を有する非熱溶融性PTFEとは、未焼成のポリマー粉末がペースト押出できるPTFEを意味する。すなわち、ペースト押出で得られる成形物に強度又は伸びがあるPTFEを意味する。
【0029】
非熱溶融性PTFEの数平均分子量は、30万~30000万が好ましく、50万~2500万がより好ましい。
非熱溶融性PTFEの平均分子量の指標である標準比重は、2.14~2.22が好ましく、2.15~2.21がより好ましい。
非熱溶融性PTFEの380℃における溶融粘度は、1×10Pa・s以上が好ましい。前記溶融粘度の上限は、通常、1×1010Pa・sである。
非熱溶融性PTFEの数平均分子量、標準比重及び溶融粘度のうちの少なくとも一つが、上記範囲にあれば、非熱溶融性PTFEのフィブリル性がより良好であり、機械的物性等により優れた成形品が形成できる。また、この場合、本分散液の状態安定性がより向上しやすい。
【0030】
Mポリマーは、Fポリマーとは異なるフルオロオレフィンに基づく単位(以下、「F単位」とも記す。)を含むポリマーであり、F単位を含み酸素含有極性基を有さないポリマーが好ましい。
MポリマーにおけるF単位の割合は、全単位のうち、50.0モル%以上が好ましく、99.5モル%以上がより好ましく、99.9モル%以上がさらに好ましい。
Mポリマーにおけるフルオロオレフィンは、TFE又はVDFが好ましく、TFEがより好ましい。フルオロオレフィンは、2種類以上であってもよい。
【0031】
Mポリマーは、TFEとPAVEとのコポリマー(PFA)、TFEとHFPとのコポリマー(FEP)、TFEとエチレンとのコポリマー(ETFE)、VDFのホモポリマー(PVDF)又は低分子量のPTFEが好ましく、低分子量のPTFEがより好ましい。
なお、低分子量のPTFEには、TFEのホモポリマーに加えて、極微量のコモノマー(PAVE、HFP、FAE等)とTFEとのコポリマーである、所謂、変性PTFEも包含される。また、PFAは、TFE及びPAVE以外のモノマーに基づく単位を含んでいてもよい。上述した他のコポリマー(FEP、ETFE、PVDF)においても同様である。
Mポリマーの好適な態様の一つとしては、低分子量PTFE又は変性PTFEが挙げられる。
【0032】
この場合のMポリマーの380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sがより好ましい。
この場合のポリマーの溶融温度は、321~340℃が好ましく、325~335℃がより好ましい。
この場合のポリマーの溶融流れ速度は、1~10g/10分が好ましく、1~5g/10分がより好ましい。
低分子量PTFE又は変性PTFEの溶融粘度、溶融流れ速度、溶融温度の少なくとも一つが、上記範囲にあれば、これらのPTFEの物性(加工性、機械的強度等)により優れた成形品が形成できる。また、この場合、本分散液中でパウダー(22)とパウダー(1)との相互作用が向上して、本分散液の状態安定性がより向上しやすい。
【0033】
低分子量のPTFEは、高分子量のPTFE(溶融粘度が1×10~1×1010Pa・s程度)に放射線を照射して得られるPTFE(国際公開第2018/026012号、国際公開第2018/026017号等に記載のポリマー)であってもよく、TFEを重合してPTFEを製造する際に連鎖移動剤を調整して得られるPTFE(特開2009-1745号公報、国際公開第2010/114033号、特開2015-232082号公報等に記載のポリマー)であってもよい。
【0034】
低分子量PTFEの好適な具体例としては、下式(1)に基づいて算出される数平均分子量(Mn)が20万以下であるPTFEが挙げられる。
Mn = 2.1×1010×ΔHc-5.16 ・・・ (1)
式(1)中、ΔHcは、示差走査熱量分析法により測定される前記PTFEの結晶化熱量(cal/g)を示す。
この低分子量PTFEのMnは、10以下が好ましく、5万以下がより好ましい。この低分子量PTFEのMnは、1万以上が好ましい。
【0035】
また、Mポリマーの好適な態様の一つとしては、PFA又はFEPが挙げられる。
この場合のMポリマーの380℃における溶融粘度は、1×10~1×10Pa・sが好ましく、1×10~1×10Pa・sがより好ましい。
この場合のMポリマーの溶融流れ速度は、5~30g/10分が好ましく、5~20g/10分がより好ましい。
この場合のMポリマーの溶融温度は、260~320℃が好ましく、280~310℃がより好ましい。
PFA又はFEPの溶融粘度、溶融流れ速度及び溶融温度のうちの少なくとも一つが、上記範囲にあれば、これらのPFA又はFEPの物性(加工性、機械的強度等)により優れた成形品が形成できるだけでなく、本分散液の状態安定性がより向上しやすい。
【0036】
Mポリマーは、水中でフルオロオレフィンを乳化重合して得られるポリマーであるのが好ましい。かかるMポリマーのパウダーは、水中でフルオロオレフィンを乳化重合して得られるポリマーが粒子として水に分散したパウダーである。かかるパウダーの使用に際しては、水に分散したパウダーをそのまま使用してもよく、水からパウダーを回収して使用してもよい。
Mポリマーは、表面処理(放射線処理、電子線処理、コロナ処理、プラズマ処理等)により改質されていてもよい。かかる表面処理の方法としては、国際公開第2018/026012号、国際公開第2018/026017号等に記載される方法が挙げられる。
Mポリマーは、パウダー、又は、その分散液として、市販品を広く入手できる。
【0037】
本分散液は、非熱溶融性PTFEのみを含んでいてもよく、Mポリマーのみを含んでいてもよく、非熱溶融性PTFE及びMポリマーの両方を含んでいてもよい。なお、それぞれのポリマーは、パウダーとして含まれるのが好ましい。
本分散液が非熱溶融性PTFE及びMポリマーの両方を含む場合、非熱溶融性PTFEのパウダー(パウダー(21))のD50は0.1~1μmが好ましく、そのD90は0.1~2μmが好ましい。また、この場合、Mポリマーのパウダー(パウダー(22))のD50は0.1~1μmが好ましく、そのD90は0.1~2μmが好ましい。
【0038】
この場合、本分散液における非熱溶融性PTFEの含有量又はMポリマーの含有量に対するFポリマーの含有量の質量での比は、0.4以下が好ましく、0.15以下がより好ましい。この場合、パウダー同士の間での相互作用が良好となり、本分散液の状態安定性がさらに向上し、成形品の接着性、耐クラック性及びポリマー同士の間の物性をバランスさせやすい。
また、この場合、非熱溶融性PTFEとMポリマーとの合計での含有量は、20~70質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。
【0039】
本分散液は、それぞれのパウダーの分散性を向上させ、その成形性を向上させる観点から、分散剤を含むのが好ましい。なお、ポリマーを製造する際に使用される成分(例えば、フルオロオレフィンを乳化重合する際に用いられる界面活性剤)は、本発明における分散剤には該当しない。
【0040】
分散剤は、疎水部位と親水部位とを有する化合物が好ましく、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が挙げられる。これらの分散剤は、ノニオン性が好ましい。
分散剤は、フルオロアルコールが好ましく、フルオロモノオール又はフルオロポリオールがより好ましい。
フルオロモノオールのフッ素含有量は、10~50質量%が好ましく、10~45質量%がより好ましく、15~40質量%がさらに好ましい。
フルオロモノオールは、ノニオン性であるのが好ましい。
フルオロモノオールの水酸基価は、40~100mgKOH/gが好ましく、50~100mgKOH/gがより好ましく、60~100mgKOH/gがさらに好ましい。
【0041】
フルオロモノオールは、下式(a)で表される化合物が好ましい。
式(a):R-(OQma-OH
式中の記号は、下記の意味を示す。
は、ポリフルオロアルキル基又はエーテル性酸素原子を含むポリフルオロアルキル基を示し、-CH(CFF、-CH(CFF、-CHCH(CFF、-CHCH(CFF、-CHCFOCFCFOCFCF、-CHCF(CF)CFOCFCFCF、-CHCF(CF)OCFCF(CF)OCF、又は-CHCFCHFO(CFOCFが好ましい。
は、炭素数1~4のアルキレン基を示し、エチレン基(-CHCH-)又はプロピレン基(-CHCH(CH)-)が好ましい。Qは、2種以上の基からなっていてもてよい。2種以上の基からなっている場合、基の並び方は、ランダム状であってもよく、ブロック状であってもよい。
maは、0~20の整数を示し、4~10の整数が好ましい。
フルオロモノオールの水酸基は、2級水酸基又は3級水酸基が好ましく、2級水酸基が特に好ましい。
【0042】
フルオロモノオールの具体例としては、F(CFCH(OCHCHOCHCH(CH)OH、F(CFCH(OCHCH12OCHCH(CH)OH、F(CFCHCH(OCHCHOCHCH(CH)OH、F(CFCHCH(OCHCH12OCHCH(CH)OH、F(CFCHCH(OCHCHOCHCH(CH)OHが挙げられる。
かかるフルオロモノオールは、市販品(アークロマ社製、「Fluowet N083」、「Fluowet N050」等)として入手できる。
【0043】
フルオロポリオールのフッ素含有量は、10~50質量%が好ましく、10~45質量%がより好ましく、15~40質量%がさらに好ましい。
フルオロポリオールは、ノニオン性であるのが好ましい。
フルオロポリオールの水酸基価は、10~35mgKOH/gが好ましく、10~30mgKOH/gがより好ましく、10~25mgKOH/gがさらに好ましい。
フルオロポリオールの重量平均分子量は、2000~80000が好ましく、6000~20000がより好ましい。
フルオロポリオールは、フルオロ(メタ)アクリレートに基づく単位を含むフルオロポリオールが好ましい。なお、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートとメタクリレートとの総称である。
【0044】
フルオロ(メタ)アクリレートは、下式(f)で表されるモノマーが好ましい。
式(f):CH=CXC(O)O-Q-R
式中の記号は、下記の意味を示す。
は、水素原子、塩素原子又はメチル基を示す。
は、炭素数1~4のアルキレン基又は炭素数2~4のオキシアルキレン基を示す。
は、炭素数1~6のポリフルオロアルキル基、エーテル性酸素原子を含む炭素数3~6のポリフルオロアルキル基又は炭素数4~12のポリフルオロアルケニル基を示し、-CF(CF)(C(CF(CF)(=C(CF))、-C(CF)=C(CF(CF、-(CFF又は-(CFFが好ましい。
【0045】
フルオロ(メタ)アクリレートの具体例としては、CH=CHC(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCH(CFF、CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFF、CH=CHC(O)OCHCHOCF(CF)(C(CF(CF)(=C(CF))、CH=C(CH)C(O)OCHCHOC(CF)=C(CF(CF、CH=CHC(O)OCHCHCHCHOCF(CF)(C(CF(CF)(=C(CF))、CH=C(CH)C(O)OCHCHCHCHOC(CF)=C(CF(CFが挙げられる。
【0046】
フルオロポリオールの好適な具体例としては、上式(f)で表されるモノマー及び下式(o)で表されるモノマーのコポリマーが挙げられる。
式(o):CH=CXC(O)-(OZmo-OH
式中の記号は、下記の意味を示す。
は、水素原子又はメチル基を示す。
は、炭素数1~4のアルキレン基を示し、エチレン基(-CHCH-)が好ましい。
moは、1~200の整数であり、4~30の整数が好ましい。
なお、Zは、2種以上の基からなっていてもよい。この場合、異種のアルキレン基の並び方は、ランダム状であってもよく、ブロック状であってもよい。
式(o)表される化合物を使用すると、本分散液の分散性に優れるだけでなく、成形品の濡れ性、接着性等の物性が特に向上しやすい。
【0047】
式(o)で表されるモノマーの具体例としては、CH=CHCOO(CHCHO)OH、CH=CHCOO(CHCHO)10OH、CH=CHCOO(CHCHO)12OH、CH=CHCOOCHCHCHCHO(CHCHO)OH、CH=CHCOOCHCHCHCHO(CHCHO)10OH、CH=CHCOOCHCHCHCHO(CHCHO)12OH、CH=C(CH)COO(CHCH(CH)O)OH、CH=C(CH)COO(CHCH(CH)O)12OH、CH=C(CH)COO(CHCH(CH)O)16OH、CH=C(CH)COOCHCHCHCHO(CHCH(CH)O)OH、CH=C(CH)COOCHCHCHCHO(CHCH(CH)O)12OH、CH=C(CH)COOCHCHCHCHO(CHCH(CH)O)16OHが挙げられる。
【0048】
上記フルオロポリオールは、式(f)で表されるモノマーに基づく単位と式(o)で表されるモノマーに基づく単位とのみからなっていてもよく、さらに他の単位をさらに含んでいてもよい。
上記フルオロポリオールに含まれる全単位に対する式(f)で表されるモノマーに基づく単位の含有量は、60~90モル%が好ましく、70~90モル%がより好ましい。
上記フルオロポリオールに含まれる全単位に対する式(o)で表されるモノマーに基づく単位の含有量は、10~40モル%が好ましく、10~30モル%がより好ましい。
上記フルオロポリオールに含まれる全単位に対する、式(f)で表されるモノマーに基づく単位と式(o)で表されるモノマーとの合計での含有量は、90~100モル%が好ましく、100モル%がより好ましい。
本分散液におけるフルオロアルコールの割合は、10質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましく、0.01質量%以下がさらに好ましい。上記割合の下限は、通常、0%超である。
【0049】
本発明における水性媒体は、本分散液の分散媒であり、水を主成分とする。
水性媒体は、水のみからなってもよく、水と水溶性化合物とからなっていてもよい。
ただし、水溶性化合物としては、25℃で液状であり、それぞれのポリマーと反応しないか或いは反応性が極めて乏しく、加熱等によって容易に除去できる化合物が好ましい。また、水性媒体は、水を95質量%以上含むのが好ましく、水を99質量%以上含むのがより好ましく、水を100質量%含むのがさらに好ましい。
本分散液における水性媒体の割合は、15~65質量%が好ましく、25~50質量%がより好ましい。この範囲において、本分散液の塗布性が優れ、かつ得られる成形品において外観不良が起こりにくい。
【0050】
本分散液は、Fポリマー、非熱溶融性PTFE又はMポリマー、並びに水性媒体以外の他の材料を含んでいてもよい。他の材料としては、チキソ性付与剤、充填剤、消泡剤、脱水剤、可塑剤、耐候剤、酸化防止剤、熱安定剤、滑剤、帯電防止剤、増白剤、着色剤、導電剤、離型剤、表面処理剤、粘度調節剤、難燃剤が挙げられる。他の材料は、本分散液に溶解してもよく、溶解しなくてもよい。
【0051】
他の材料としては、Fポリマー、非熱溶融性PTFE又はMポリマー以外の樹脂である、熱硬化性樹脂(エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、ポリイミド前駆体(ポリアミック酸)、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ビスマレイミド樹脂、多官能シアン酸エステル樹脂、多官能マレイミド-シアン酸エステル樹脂、多官能性マレイミド樹脂、ビニルエステル樹脂、尿素樹脂、ジアリルフタレート樹脂、メラニン樹脂、グアナミン樹脂、メラミン-尿素共縮合樹脂等)、熱溶融性樹脂(ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート、熱可塑性ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルファイド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、ポリフェニレンエーテル等。)や、反応性アルコキシシラン、カーボンブラック、無機フィラー(ガラス微小球、セラミック微小球等の中空無機微小球)が挙げられる。
【0052】
本分散液の粘度は、1~1000mPa・sが好ましく、5~500mPa・sがより好ましく、10~200mPa・sがさらに好ましい。
本分散液のチキソ比は、0.8~2.2が好ましい。
この場合、本分散液の分散性と塗工性とをバランスさせやすい。
【0053】
本分散液は、パウダー(1)とパウダー(21)又はパウダー(22)とを混合して製造できる。具体的には、パウダー(1)及び水性媒体を含む分散液(p1)と、パウダー(21)又はパウダー(22)と水性媒体を含む分散液(p2)とを混合して製造するのが好ましい。
分散液(p1)と分散液(p2)とは、それぞれの分散液が良好に分散した状態で混合するのが好ましい。例えば、分散液(p1)に固形分の沈降が認められる場合には、混合直前に、分散液(p1)をホモディスパーを用いて分散処理し、更にホモジナイザーを用いて分散処理して、分散状態を向上させるのが好ましい。特に、0~40℃で貯蔵した分散液(p1)を使用する際は、これらの分散処理をするのが好ましい。
分散液(p1)及び分散液(p2)における水性媒体(分散媒)は、それぞれ水であるのが好ましい。
【0054】
本分散液は、分散安定性及び貯蔵安定性に優れ、ハンドリング性にも優れている。本分散液が、非熱溶融性PTFE又はMポリマーの物性を損なわずに、耐クラック性に優れた、強固な接着性を示す成形品を形成できる。
本分散液を、基材の表面に塗布し、加熱してFポリマーと非熱溶融性PTFE又はMポリマーとを含むポリマー層を形成すれば、上記基材で構成される基材層とポリマー層とが、この順に積層された積層体を製造できる。
この積層体における、Fポリマー、パウダー(1)、非熱溶融性PTFE、Mポリマー、パウダー(21)、パウダー(22)及び水性媒体の範囲は、その好適な態様も含めて、本分散液における定義と同様である。また、基材層の表面の少なくとも片面にポリマー層が形成されればよく、基材層の片面のみにポリマー層が形成されてもよく、基材層の両面にポリマー層が形成されてもよい。
【0055】
基材の表面への塗布方法としては、スプレー法、ロールコート法、スピンコート法、グラビアコート法、マイクログラビアコート法、グラビアオフセット法、ナイフコート法、キスコート法、バーコート法、ダイコート法、ファウンテンメイヤーバー法、スロットダイコート法が挙げられる。
ポリマー層の形成は、加熱により行われればよく、基材を水性媒体が揮発する温度(100~300℃の温度領域)に加熱するのが好ましく、基材を水性媒体が揮発する温度領域(100~300℃)に加熱し、更に、基材を非熱溶融性PTFEが焼成する温度領域(300~400℃)に加熱するのがより好ましい。
つまり、非熱溶融性PTFEを含む本分散液を使用した場合のポリマー層は、Fポリマーを含み、非熱溶融性PTFEが焼成処理されたポリマー層であるのが好ましい。この場合、非熱溶融性PTFEは、部分的に焼成処理されていてもよく、完全に焼成処理されていてもよい。
また、Mポリマーを含む本分散液を使用した場合のポリマー層は、Fポリマーを含み、Mポリマーが溶融処理されたポリマー層であるのが好ましい。この場合、Mポリマーは、部分的に溶融処理されていてもよく、完全に溶融処理されていてもよい。
【0056】
基材の加熱の方法としては、オーブンを用いる方法、通風乾燥炉を用いる方法、熱線(赤外線)を照射する方法等が挙げられる。
基材の加熱における雰囲気は、常圧下、減圧下のいずれの状態であってよい。また、前記保持における雰囲気は、酸化性ガス(酸素ガス等。)、還元性ガス(水素ガス等。)、不活性ガス(ヘリウムガス、ネオンガス、アルゴンガス、窒素ガス等。)のいずれの雰囲気であってもよい。
基材の加熱時間は、通常は、0.5~30分である。
ポリマー層の厚さは、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。ポリマー層の厚さは、0.1μm以上が好ましく、4μm以上が特に好ましい。この範囲において、非熱溶融性PTFE又はMポリマーの物性を損なわずに、耐クラック性に優れたポリマー層を容易に形成できる。
【0057】
積層体においては、基材層とポリマー層とが強固に接着されている。基材層とポリマー層との剥離強度は、10N/cm以上が好ましく、15N/cm以上が特に好ましい。上記剥離強度の上限は、通常、100N/cmである。
基材の材質は、銅、アルミ、鉄、ニッケル、亜鉛、これらの合金等の金属、ガラス、樹脂、シリコン、セラミックスのいずれであってもよい。
基材の形状は、平面状、曲面状、凹凸状のいずれであってもよく、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
積層体の具体例としては、基材が金属箔であり、金属箔で構成される金属箔層とポリマー層とを、この順に有するポリマー層付金属箔が挙げられる。金属箔層とポリマー層との間には、接着層が別に設けられていてもよいが、ポリマー層は接着性に優れるため、接着層は設けられていなくてもよい。
【0058】
金属箔の好適な態様としては、圧延銅箔、電解銅箔等の銅箔が挙げられる。積層体における、金属箔の厚さは3~18μmが好ましく、ポリマー層の厚さは1~50μmが好ましい。
積層体は、銅箔層にパターン回路を形成すれば、ポリマー層を電気絶縁層とするプリント配線板として使用できる。
【0059】
積層体の具体例としては、基材がポリイミドフィルムであり、ポリイミドフィルムで構成されるポリイミド層の少なくとも一方の表面に、本分散液から形成されたポリマー層を有する積層フィルムも挙げられ、より具体的には、ポリイミド層の両面に、本分散液から形成されたポリマー層を有する積層フィルムが挙げられる。
ポリイミド層とポリマー層との間には、接着層が別に設けられていてもよいが、本分散液から形成されるポリマー層は接着性に優れるため、接着層は設けられていなくてもよい。
【0060】
ポリイミドフィルムの好適な態様としては、2,2’,3,3’-又は3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物等。)を主成分とする成分と、パラフェニレンジアミンを主成分とする成分との重合体のフィルムが挙げられる。ポリイミドフィルムの具体例としては、Apical TypeAF(カネカノースアメリカ製)が挙げられる。
かかるポリイミドフィルムは、絶縁被覆体として有用である。その秤量は23.5g/m以下が好ましく、かつ、そのループスティフネス値は0.45g/cm以上が好ましい。
かかる積層フィルムにおける、ポリマー層の厚さは、1~200μmが好ましく、5~20μmがより好ましい。また、ポリイミド層(ポリイミドフィルム)の厚さは、5~150μmが好ましい。
【0061】
かかる積層フィルムは、電気絶縁性、耐摩耗性、耐加水分解性等に優れており、電気絶縁性テープや電気ケーブル又は電気ワイヤーの包装材として使用でき、航空宇宙用又は電気自動車用の、電線材料又はケーブル材料として、特に好適に使用できる。
【0062】
本発明の積層体は、Fポリマーを含み接着性に優れたポリマー層を有するため、積層体のポリマー層に、更に他の材料を積層して、複合積層体を製造することもできる。
積層体のポリマー層の表面と第2の基材とを圧着させれば、第1の基材層(積層体の元の基材層)と、ポリマー層と、第2の基材で構成される第2の基材層とが、この順に積層された複合積層体が得られる。
【0063】
第2の基材の材質は、銅、アルミ、鉄、ニッケル、亜鉛、これらの合金等の金属、ガラス、樹脂、シリコン、セラミックスのいずれであってもよい。
第2の基材の形状も、特に限定されず、平面状、曲面状、凹凸状のいずれであってもよく、箔状、板状、膜状、繊維状のいずれであってもよい。
第2の基材の具体例としては、耐熱性樹脂基材、繊維強化樹脂板の前駆体であるプリプレグ等が挙げられる。
プリプレグとは、強化繊維(ガラス繊維、炭素繊維等)の基材(トウ、織布等)に樹脂(上述した熱硬化性樹脂や熱可塑性樹脂等)を含浸させたシート状の基材である。
耐熱性樹脂基材は、耐熱性樹脂を含むフィルムが好ましく、単層であってもよく多層であってもよい。
耐熱性樹脂としては、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリアリルスルホン、芳香族ポリアミド、芳香族ポリエーテルアミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリアリルエーテルケトン、ポリアミドイミド、液晶性ポリエステル、PTFE等が挙げられる。
【0064】
積層体のポリマー層の表面と第2の基材とを圧着させる方法としては、熱圧着法が挙げられる。
第2の基材がプリプレグである場合の圧着温度は、160~220℃が好ましい。
第2の基材が耐熱性樹脂基材である場合の圧着温度は、300~400℃が好ましい。
熱圧着は、減圧雰囲気下で行うことが好ましく、20kPa以下の真空度で行うのが特に好ましい。この範囲において、複合積層体における、それぞれの界面への気泡混入が抑制でき、酸化による劣化を抑制できる。また、熱圧着は上記真空度に到達した後に昇温することが好ましい。
熱圧着における圧力は、0.2~10MPaが好ましい。
【0065】
積層体のポリマー層の表面に第2のポリマー層を形成する液状の層形成材料を塗布し、第2のポリマー層を形成させれば、第1の基材層と、ポリマー層と、第2のポリマー層とが、この順に積層された複合積層体が得られる。
液状の層形成材料は、特に限定されず、本分散液を使用してもよい。
第2のポリマー層の形成方法も、特に限定されず、使用する液状の層形成材料の性質によって適宜決定できる。例えば、前記層形成材料が、本分散液である場合には、積層体におけるポリマー層の形成方法と同様の条件にしたがって、第2のポリマー層を形成できる。つまり、上記層形成材料が本分散液であれば、ポリマー層を多層化して、より厚膜のポリマー層を容易に形成できる。
【0066】
かかる製造方法で得られる複合積層体の具体例としては、本分散液や、Fポリマーを含む分散液を液状の層形成材料として得られる複合積層体が挙げられる。第2のポリマー層は強固な接着性を示すポリマー層上に形成されるため、後者の本分散液を用いても剥離強度の高い複合積層体が得られる。
本発明の積層体によれば、それぞれのポリマーの物性を損なわずに耐クラック性にも優れた、ポリマー層が形成されるとも言える。積層体から基材層を除去すれば、それぞれのポリマーを均質に含むポリマー膜が得られる。
非熱溶融性PTFEを含むポリマー膜において、Fポリマーを含む非熱溶融性PTFEが焼成処理されたポリマー膜であるのが好ましい。この場合、非熱溶融性PTFEは、部分的に焼成処理されていてもよく、完全に焼成処理されていてもよい。
Mポリマーを含むポリマー膜において、Fポリマーを含むMポリマーが焼成処理されたポリマー膜であるのが好ましい。この場合、Mポリマーは、部分的に焼成処理されていてもよく、完全に焼成処理されていてもよい。
【0067】
積層体から基材層を除去する方法としては、積層体から基材層を剥離させて除去する方法、積層体から基材層を溶解させて除去する方法が挙げられる。例えば、基材層が銅箔で構成される場合には、積層体の基材層側の面を塩酸等のエッチング液に接触させれば、基材層が溶解して除去されて、ポリマー層単独で構成されるポリマー膜が容易に得られる。
ポリマー膜におけるポリマーの範囲は、その好適な態様も含めて、本分散液における定義と同様である。
ポリマー膜の厚さは、50μm以下が好ましく、30μm以下がより好ましく、10μm以下がさらに好ましい。ポリマー膜の厚さは、1μm以上が好ましく、4μm以上がより好ましい。この範囲において、ポリマー膜は、それぞれのポリマーの物性を損なわずに、接着性と耐クラック性とにより優れる。
【0068】
本分散液は、織布に含浸させ、さらに織布を乾燥させれば、ポリマー層で被覆された織布である、被覆織布が得られる。
織布は、乾燥に耐える耐熱性織布であり、ガラス繊維織布、カーボン繊維織布、アラミド繊維織布又は金属繊維織布が好ましく、ガラス繊維織布又はカーボン繊維織布がより好ましく、電気絶縁性の観点からは、JIS R 3410:2006で定められる電気絶縁用Eガラスヤーンより構成される平織のガラス繊維織布がさらに好ましい。織布は、ポリマー層との密着接着性を高める観点から、シランカップリング剤で処理されていてもよい。
被覆織布における、Fポリマーと、非熱溶融性PTFE又はMポリマーとの合計での含有量は、30~80質量%が好ましい。
【0069】
本分散液を織布に含浸させる方法はとしては、本分散液中に織布を浸漬する方法や、本分散液を織布に塗布する方法が挙げられる。前者の方法における浸漬回数、及び、後者の方法における塗布回数は、それぞれ、1回であってもよく、2回以上であってもよい。他の材料との接着性に優れるFポリマーを含む本分散液を使用するため、浸漬回数又は塗布回数が少なくとも、織布とポリマーとが強固に接着した、ポリマー含有量が高い被覆織布が得られる。
織布を乾燥させる方法は、本分散液に含まれる水性媒体の種類によって、適宜決定でき、例えば、水性媒体が水のみからなる場合には、織布を80~120℃の雰囲気にある通風乾燥炉に通す方法が挙げられる。
織布を乾燥させるに際しては、ポリマーを焼成させてもよい。ポリマーを焼成させる方法は、それぞれのポリマーの種類によって適宜決定でき、例えば、織布を300~400℃の雰囲気にある通風乾燥炉に通す方法が挙げられる。なお、織布の乾燥とポリマーの焼成とは、一段階で実施してもよい。
【0070】
得られる被覆織布は、ポリマー層がFポリマーを含むため、ポリマー層と織布との密着接着性が高い、表面の平滑性が高い、歪が少ない等の特性に優れている。かかる被覆織布と金属箔とを熱圧着させることにより得られる積層体は、剥離強度が高く、反りにくいため、プリント基板材料として好適に使用できる。
また、織布を含む本分散液を、基材の表面に塗布し、加熱により乾燥させ、Fポリマーと非熱溶融性PTFE又はMポリマーと織布とを含む被覆織布層を形成させてもよい。これにより、上記基材で構成される基材層と被覆織布層とが、この順に積層された積層体を製造できる。その態様も、特に限定されず、槽、配管、容器等の成形品の内壁面の一部に織布を含む本分散液を塗布し、成形品を回転させながら加熱すれば、成形品の内壁全面に被覆織布層を形成できる。本発明の被覆織布の製造方法は、槽、配管、容器等の成形品の内壁面のライニング方法としても有用である。
【実施例
【0071】
以下、実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
各種測定方法を以下に示す。
<パウダーのD50及びD90>
レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、「LA-920測定器」)を用い、パウダーを水中に分散させて測定した。
<パウダー分散液の貯蔵安定性>
パウダー分散液を25℃にて1週間放置した後の、状態を目視確認し、以下の評価基準で評価した。
〇:沈降物が確認されない。
△:沈降物が確認されるが、手で振ると再分散する。
×:沈降物が確認され、手で振るだけでは再分散しない。
【0072】
<ポリマー層のクラック耐性>
一端辺にビニールテープが貼られたステンレス板(厚さ:0.5mm)の表面にパウダー分散液を塗布し、その端辺に沿って棒をスライドさせならした後、100℃にて3分間、3回乾燥し、更に340℃にて10分間加熱した。これにより、ステンレス板の表面に、端辺に貼られたビニールテープの厚さに起因して、厚さが傾斜したポリマー層を形成した。このステンレス板を目視で確認し、クラック線の発生部分の先端(最もポリマー層が薄い部分)のポリマー層の厚さを、MINITEST3000(Electro Physik社製)を用いて測定し、以下の評価基準で評価した。
〇:クラックが発生する先端のポリマー層の厚さが10μm以上である。
△:クラックが発生する先端のポリマー層の厚さが5μm以上10μm未満である。
×:クラックが発生する先端のポリマー層の厚さが5μm未満である。
【0073】
<積層体の剥離強度>
矩形状(長さ:100mm、幅:10mm)に切り出した積層体の長さ方向の一端から50mmの位置を固定し、引張り速度50mm/分、長さ方向の片端から積層体に対して90°で、金属箔層とポリマー層とを剥離させた際にかかる最大荷重を剥離強度(N/cm)として測定し、以下の評価基準で評価した。
〇:剥離強度が10N/cm以上である。
×:剥離強度が10N/cm未満である。
【0074】
使用した材料を以下に示す。
[ポリマー及びそのパウダー]
Fポリマー1:TFEに基づく単位、NAHに基づく単位及びPPVEに基づく単位を、この順に97.9モル%、0.1モル%、2.0モル%含むコポリマー(融点:300℃)
ポリマーA1:TFEに基づく単位及びPPVEに基づく単位を、この順に98.0モル%、2.0モル%含む、酸素含有極性基を有さないコポリマー(融点:305℃)。
Pポリマー1:TFEに基づく単位を99.9モル%以上含む、フィブリル性を有する非熱溶融性PTFE(標準比重:2.18、380℃における溶融粘度:3.0×10Pa・s)
Mポリマー1:TFEに基づく単位を99.5モル%以上含み、極微量のPFBEに基づく単位を含む、熱溶融性の変性PTFE(380℃における溶融粘度:1×10Pa・s)
【0075】
Fパウダー11:Fポリマー1のパウダー(D50:1.7μm、D90:3.8μm)
Fパウダー12:Fポリマー1のパウダー(D50:0.3μm、D90:1.8μm)[このFパウダー12は、Fパウダー11を湿式ジェットミルに供して得た。]
パウダーA1:ポリマーA1のパウダー(D50:0.3μm、D90:1.5μm)
Pパウダー1:Pポリマー1のパウダー(D50:0.3μm)[このPパウダー1は、Pパウダー1の水分散液として入手できる。]
Mパウダー1:Mポリマー1のパウダー(D50:0.3μm)[このMパウダー1は、Mパウダー1の水分散液として入手できる。]
【0076】
[分散剤]
FM1:F(CFCH(OCHCHOCHCH(CH)OH(フッ素含有量:34質量%、水酸基価:78mgKOH/g)
FP1:CH=C(CH)C(O)OCHCH(CFFに基づく単位とCH=C(CH)C(O)(OCHCH23OHに基づく単位とを含むコポリマー(フッ素含有量:35質量%、水酸基価:19mgKOH/g)
【0077】
[例1]パウダー分散液の製造例
[例1-1]分散液1の製造例
30質量部のFパウダー12、5質量部のFM1及び65質量部の水を含む分散液と、Pパウダー1を50質量%含む水分散液とを混合した。これにより、それぞれのパウダーが水中に分散し、Pポリマー1とFポリマー1との合計に対して、Pポリマー1を90質量%、Fポリマー1を10質量%含むパウダー分散液1(Fポリマー1の含有量/Pポリマー1の含有量:0.11)を得た。
[例1-2~例1-9]パウダー分散液2~9の製造例
パウダーの種類と分散剤の種類とを変更した以外は、例1-1と同様にして、パウダー分散液2~9を得た。それぞれのパウダー分散液の種類と、その貯蔵安定性の評価結果を、下表1にまとめて示す。
【0078】
【表1】
【0079】
[例2]積層体の製造例
[例2-1]積層体1の製造例
パウダー分散液1を銅箔の表面に塗布し、100℃で10分間乾燥し、不活性ガス雰囲気下、340℃で10分間焼成した後に徐冷した。これにより、銅箔で構成された銅箔層と、銅箔層の表面に形成されたPポリマー1とFポリマー1とを含むポリマー層(厚さ:5μm)とを有する積層体(ポリマー層付銅箔)1を得た。
[例2-2~例2~9]積層体2~9の製造例
パウダー分散液の種類を変更した以外は、例2-1と同様にして、積層体2~9を製造した。
パウダー分散液1~4及び9のクラック耐性の評価結果と、積層体1~9の剥離強度の評価結果とを、下表2にまとめて示す。
【表2】
【0080】
[例3]ポリマー膜の製造例
[例3-1]ポリマー膜3の製造例
パウダー分散液3を銅箔の表面に塗布し、100℃で10分間乾燥し、不活性ガス雰囲気下、340℃で10分間焼成した後に徐冷した。これにより、銅箔で構成される銅箔層と、銅箔層の表面に形成されたPポリマー1とFポリマー1とを含むポリマー層とを有する積層体を得た。この積層体のポリマー層の表面へのパウダー分散液3の塗布、乾燥、焼成の操作を同じ条件にて繰り返した。これにより、ポリマー層の厚さを30μmまで増大させた。その後、積層体の銅箔層を塩酸で除去して、Pポリマー1とFポリマー1とを含むポリマー膜3を得た。
[例3-2]ポリマー膜4及びポリマー膜7~9の製造例
パウダー分散液の種類を変更した以外は、例3-1と同様にして、パウダー分散液4からポリマー膜4を、パウダー分散液7からポリマー膜7を、パウダー分散液8からポリマー膜8を、パウダー分散液9からポリマー膜9をそれぞれ得た。
【0081】
ポリマー膜3、ポリマー膜4及びポリマー膜9は、いずれも多孔質膜であり、延伸処理に供した場合の破断強度は、大きい順から、ポリマー膜3、ポリマー膜4、ポリマー膜9であった。
また、ポリマー膜を延伸処理(延伸率:200%)に供して、ポリマー膜3から延伸膜3を、ポリマー膜4から延伸膜4を、ポリマー膜9から延伸膜9を、それぞれ得た。それぞれの延伸膜は、多孔質の膜であり、開孔状態を比較すると、孔径分布は、小さい順から延伸膜3、延伸膜4、延伸膜9の順であり、この順に緻密な多孔質膜を形成していた。
ポリマー膜7、ポリマー膜8及びポリマー膜9を延伸処理に供した場合の破断強度は、大きい順から、ポリマー膜7、ポリマー膜8、ポリマー膜9であった。また、それぞれの薄膜を繰返折曲試験に供した結果、薄膜が切断するまでの回数は、大きい順から、ポリマー膜7、ポリマー膜8、ポリマー膜9であった。
【0082】
[例4]ポリマー膜の製造例(その2)
30質量部のFパウダー12、5質量部のFM1、及び65質量部の水を含む分散液と、Mパウダー1を50質量%含む水分散液と、Pパウダー1を50質量%含む水分散液とを混合した。これにより、それぞれのパウダーが水中に分散し、Mポリマー1とFポリマー1とPポリマー1との合計に対して、Mポリマー1を10質量%、Fポリマー1を10質量%、Pポリマー1を80質量%含むパウダー分散液(Fポリマー1の含有量/Mポリマー1の含有量:1.0)を得た。
このパウダー分散液を銅箔の表面に塗布し、100℃で10分間乾燥し、不活性ガス雰囲気下、340℃で10分間焼成した後に徐冷した。これにより、銅箔で構成される銅箔層と、銅箔層の表面に形成されたポリマー層とを有する積層体を得た。この積層体のポリマー層の表面へのパウダー分散液の塗布、乾燥、焼成の操作を同じ条件にて繰り返した。これにより、ポリマー層の厚さを30μmまで増大させた。その後、積層体の銅箔層を塩酸で除去して、Mポリマー1とFポリマー1とPポリマー1とを含むポリマー膜を得た。このポリマー膜を延伸処理(延伸率:200%)に供すると、孔径分布の小さい緻密な多孔質膜が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本分散液は、フィルム、含浸物(プリプレグ等)、積層板(樹脂付銅箔等の金属積層板)等の成形品の製造に使用でき、離型性、電気特性、撥水撥油性、耐薬品性、耐候性、耐熱性、滑り性、耐摩耗性等が要求される用途の成形品の製造に使用できる。本分散液から得られる成形品は、アンテナ部品、プリント基板、航空機用部品、自動車用部品、スポーツ用具、食品工業用品、塗料、化粧品等として有用であり、具体的には、電線被覆材(航空機用電線等)、電気絶縁性テープ、石油掘削用絶縁テープ、プリント基板用材料、分離膜(精密濾過膜、限外濾過膜、逆浸透膜、イオン交換膜、透析膜、気体分離膜等)、電極バインダー(リチウム二次電池用、燃料電池用等)、コピーロール、家具、自動車ダッシュボート、家電製品等のカバー、摺動部材(荷重軸受、すべり軸、バルブ、ベアリング、歯車、カム、ベルトコンベア、食品搬送用ベルト等)、工具(シャベル、やすり、きり、のこぎり等)、ボイラー、ホッパー、パイプ、オーブン、焼き型、シュート、ダイス、便器、コンテナ被覆材として有用である。