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特許7396346光学フィルタ、光学フィルタの搬送支持体、光学フィルタの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】光学フィルタ、光学フィルタの搬送支持体、光学フィルタの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/18 20150101AFI20231205BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20231205BHJP
   G02B 5/28 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
G02B1/18
G02B5/22
G02B5/28
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021502142
(86)(22)【出願日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 JP2020006836
(87)【国際公開番号】W WO2020175320
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2019032249
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】土屋 千佳
【審査官】堀井 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-158909(JP,A)
【文献】特開2014-052482(JP,A)
【文献】特開2015-225154(JP,A)
【文献】特開2017-028259(JP,A)
【文献】特開2008-270516(JP,A)
【文献】特開2013-253895(JP,A)
【文献】特開昭57-114470(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/10-1/18
G02B 5/20-5/28
G02B 5/22
G02B 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
該基板の一方の主面上に設けられた屈折率の異なる誘電体薄膜を積層した第1の光学多層膜と、
該第1の光学多層膜の表面に設けられたフッ化マグネシウム膜と、を備え、
前記フッ化マグネシウム膜は、マグネシウム成分を含む酸化物層を空気側の最表面の少なくとも一部に有し、
前記フッ化マグネシウム膜を備える側の光学フィルタの主面は、表面粗さ(Ra)が0.3nm~2.4nmであることを特徴とする光学フィルタ。
【請求項2】
前記フッ化マグネシウム膜を備える側の光学フィルタの主面は、純水に対する接触角が5°~80°であることを特徴とする請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項3】
前記基板は、他方の主面上に透明樹脂及び赤外線吸収色素を含有する近赤外線吸収層を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光学フィルタ。
【請求項4】
前記近赤外線吸収層の表面に第2の光学多層膜を備えることを特徴とする請求項に記載の光学フィルタ。
【請求項5】
前記基板は、ガラス又は樹脂であることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項6】
前記光学フィルタは、近赤外領域の波長の光をカットする近赤外線カットフィルタであることを特徴とする請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の光学フィルタ。
【請求項7】
請求項1ないし請求項のいずれか1項に記載の前記光学フィルタを複数個備え、前記光学フィルタの両主面は保護用シートにて挟持されていることを特徴とする光学フィルタの搬送支持体。
【請求項8】
基板を準備する工程と、該基板の一方の主面上に第1の光学多層膜を形成する工程と、形成された第1の光学多層膜の表面にフッ化マグネシウム膜を形成する工程と、フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程と、を備える光学フィルタの製造方法であって、
前記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程の前もしくは後に、該フッ化マグネシウム膜の空気側の最表面の少なくとも一部にマグネシウム成分を含む酸化物層を形成する工程をさらに備え、
前記フッ化マグネシウム膜を備える側の光学フィルタの主面は、表面粗さ(Ra)が0.3nm~2.4nmである、光学フィルタの製造方法。
【請求項9】
前記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程は、基板の切断予定線に沿って、レーザを用いて基板内部に改質層を形成する工程と、基板に応力を作用することにより該改質層からクラックを伸展し、基板を切断する工程とを含む請求項の光学フィルタの製造方法。
【請求項10】
前記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程は、基板の切断予定線に沿って、回転刃を用いて基板を切断する工程とを含む請求項の光学フィルタの製造方法。
【請求項11】
前記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程の前に、基板の他方の主面上に透明樹脂及び赤外線吸収色素を含有する近赤外線吸収層を形成する工程と、近赤外線吸収層の表面に第2の光学多層膜を形成する工程とを備える請求項ないし10のいずれか1項の光学フィルタの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学フィルタ、及び光学フィルタの製造方法に関する。また、光学フィルタの搬送支持体に関する。
【背景技術】
【0002】
CCD(Charge Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ等の固体撮像素子は、人間の視感度特性に比べて赤外光に強い感度を有する。
【0003】
このため、例えばデジタルカメラやデジタルビデオ等では、近赤外線カットフィルタ等の光学フィルタを用いることにより分光補正を行っている。
【0004】
近年、携帯電話やスマートフォンに搭載される撮像装置の薄型化に伴い、撮像装置に用いられる光学フィルタと撮像素子との距離が短くなる傾向にある。また、カメラの高精細化の進展により、撮像素子の1画素(ピクセル)のサイズが小さくなる傾向にある。
【0005】
これらにより、光学フィルタ表面に存在する異物への要求が非常に厳しくなっている。具体的には、従来不問とされてきた微小サイズの異物が問題となる。
【0006】
従来、光学フィルタ表面のゴミの吸着を抑制する技術として、光学多層膜の最終層に酸化インジウムスズ(ITO:Indium Tin Oxide)を蒸着させ、光学多層膜フィルタの表面に導電膜を形成する方法で帯電を除去する方法が知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2007-298951号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
光学フィルタの帯電を除去するため、表面にITOを形成することは有効な手段である。しかしながら、ゴミの付着が懸念される製造工程の際、もしくはその製造工程の直前にITOにアースをしてフィルタの帯電を除去する必要があり、非常に手間がかかる。更に、帯電の状態に関わらず、ITOの表面に一旦付着したゴミは、ITOとの付着力が強く、容易に除去できないことを本発明者らは確認した。
【0009】
例えば、光学フィルタの製造工程においては、フィルタ表面のゴミを除去するため洗浄工程を行うが、ITOに付着したゴミは十分に除去できないおそれがある。特に、微小な異物は、質量が小さいため、超音波洗浄のような振動が作用しにくく、フィルタ表面に付着してしまうと除去が難しいと考えられる。
【0010】
本発明は、このような背景に鑑みてなされたものであり、光学フィルタ表面に微小な異物等の付着が少ないクリーンな光学フィルタを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態の光学フィルタは、基板と、基板の一方の主面上に設けられた屈折率の異なる誘電体薄膜を積層した第1の光学多層膜と、第1の光学多層膜の表面に設けられたフッ化マグネシウム膜と、を備え、フッ化マグネシウム膜は、マグネシウム成分を含む酸化物層を空気側の最表面の少なくとも一部に有する。
【0012】
本発明の他の実施形態の光学フィルタにおいては、上記フッ化マグネシウム膜を備える側の光学フィルタの主面は、表面粗さ(Ra)が0.3nm~2.4nmである。
【0013】
本発明の他の実施形態の光学フィルタにおいては、上記フッ化マグネシウム膜を備える側の光学フィルタの主面は、純水に対する接触角が5°~80°である。
【0014】
本発明の他の実施形態の光学フィルタにおいては、上記基板は、他方の主面上に透明樹脂及び赤外線吸収色素を含有する近赤外線吸収層を備える。
【0015】
本発明の他の実施形態の光学フィルタにおいては、上記近赤外線吸収層の表面に第2の光学多層膜を備える。
【0016】
本発明の他の実施形態の光学フィルタにおいては、上記基板は、ガラス又は樹脂である。
【0017】
本発明の他の実施形態の光学フィルタにおいては、近赤外領域の波長の光をカットする近赤外線カットフィルタである。
【0018】
また、本発明の実施形態の光学フィルタの搬送支持体は、上記光学フィルタを複数個備え、上記光学フィルタの両主面は保護用シートにて挟持されている。
【0019】
また、本発明の実施形態の光学フィルタの製造方法は、基板を準備する工程と、該基板の一方の主面上に第1の光学多層膜を形成する工程と、形成された第1の光学多層膜の表面にフッ化マグネシウム膜を形成する工程と、フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程と、を少なくとも備える。
【0020】
本発明の他の実施形態の光学フィルタの製造方法においては、上記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程は、基板の切断予定線に沿って、レーザを用いて基板内部に改質層を形成する工程と、基板に応力を作用することにより該改質層からクラックを伸展し、基板を切断する工程とを含む。
【0021】
本発明の他の実施形態の光学フィルタの製造方法においては、上記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程は、基板の切断予定線に沿って、回転刃を用いて基板を切断する工程とを含む。
【0022】
本発明の他の実施形態の光学フィルタの製造方法においては、上記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程の前に、基板の他方の主面上に透明樹脂及び赤外線吸収色素を含有する近赤外線吸収層を形成する工程と、近赤外線吸収層の表面に第2の光学多層膜を形成する工程とを備える。
【0023】
本発明の他の実施形態の光学フィルタの製造方法においては、上記フッ化マグネシウム膜が形成された基板を個片に切断する工程の前もしくは後に、該フッ化マグネシウム膜の空気側の最表面の少なくとも一部にマグネシウム成分を含む酸化物層を形成する工程を備える。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、光学フィルタ表面に微小な異物等の付着が少ないクリーンな光学フィルタが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタの構成を模式的に示した断面図である。
図2】本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタの構成を模式的に示した断面図である。
図3】本発明の第3の実施形態に係る光学フィルタの構成を模式的に示した断面図である。
図4】本発明の実施形態の光学フィルタの搬送支持体の構成を模式的に示した平面図である。
図5】本発明の実施形態の光学フィルタの搬送支持体の構成を模式的に示した部分断面図である。
図6】本発明の実施形態の光学フィルタの搬送支持体において、保護用シートの剥離により異物を除去することを示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態の光学フィルタについて、実施形態を参照しながら詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0027】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタ10について、図1を用いて説明する。図1は、光学フィルタ10の構成を模式的に示した断面図である。光学フィルタ10は、平板であって、平面視で矩形、丸型、および多角形等の任意の形状で用いられる。
【0028】
光学フィルタ10は、基板1と、基板1の一方の主面上に設けられた屈折率の異なる誘電体薄膜を積層した第1の光学多層膜2と、第1の光学多層膜2の表面に設けられたフッ化マグネシウム膜3と、を備え、フッ化マグネシウム膜3は、マグネシウム成分を含む酸化物層4を空気側の最表面の少なくとも一部に有する。
【0029】
基板1は、第1の光学多層膜2及びフッ化マグネシウム膜3を支持する基体となるものである。そのため、これら膜の内部応力による光学フィルタの反りや破損を抑制するため、一定以上の剛性を備えることが好ましい。基板1の材料としては、ガラス又は樹脂を好適に用いることができる。
【0030】
光学フィルタ10の薄型化の観点から、基板1の厚さは、3mm以下が好ましく、2mm以下がより好ましく、1mm以下がいっそう好ましく、0.5mm以下が最も好ましい。また、基板の厚さは、加工コストの抑制と強度低下の抑制の観点から、0.05mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましく、0.12mm以上がいっそう好ましい。
【0031】
基板1としてガラスを用いる場合、光学フィルタの用途に応じて公知のガラスを選択できる。
【0032】
例えば、可視光を多く透過することが求められる用途においては、可視光を吸収する鉄等の不純物の含有が少ない白板ガラスが好適に用いられる。また、撮像装置の視感度補正フィルタとして、近赤外線の光を遮蔽することが求められる用途では、近赤外光を吸収する銅や鉄を含有する近赤外線吸収ガラスが好適に用いられる。
【0033】
ガラス組成としては、ホウケイ酸ガラス、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、アルミノシリケートガラス、リン酸ガラス、およびフツリン酸ガラス等、公知のガラスを挙げることができる。
【0034】
基板1として樹脂を用いる場合、光学フィルタの用途に応じて公知の樹脂を選択できる。
【0035】
例えば、可視光を透過することが求められる用途においては、透明樹脂として、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、エン・チオール樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリパラフェニレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、および環状オレフィン樹脂等が挙げられる。
【0036】
特に、ガラス転移温度(Tg)が高い樹脂として、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド樹脂、およびエポキシ樹脂から選ばれる1種以上が好ましい。
【0037】
さらに、透明基体となる樹脂は、ポリエステル樹脂、およびポリイミド樹脂から選ばれる1種以上がより好ましく、ポリイミド樹脂が特に好ましい。ポリエステル樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂、およびポリエチレンナフタレート樹脂などが好ましい。
【0038】
撮像装置の視感度補正フィルタとして、近赤外線の光を遮蔽することが求められる用途では、上記透明樹脂に赤外光吸収色素を含有してもよい。赤外線吸収色素としては、シアニン系、ピリリウム系、スクワリリウム系、クロコニウム系、アズレニウム系、フタロシアニン系、ジチオール金属錯体、ナヒトキノン系、アントアキノン系、インドフェノール系、およびアジ系などの公知の化合物や、銅イオンやネオジムイオン、プラセオジムイオン、エルビウムイオン、およびホルミウムイオンなどの金属イオンを挙げることができる。
【0039】
また、透明樹脂に、赤外線吸収色素と共に公知の紫外線吸収色素を含有してもよい。
【0040】
第1の光学多層膜2は、基板1の一方の主面上に設けられた屈折率の異なる誘電体薄膜が積層されたものであり、光学フィルタの用途により所定の光学特性を有する層である。
【0041】
第1の光学多層膜2は、屈折率の異なる誘電体薄膜として、例えば、高屈折率膜と、高屈折率膜よりも屈折率が低い低屈折率膜とを、複数交互に積層して構成される。
【0042】
高屈折率膜としては、例えば、ZrO、Nb、Al、TiO、およびTaから選ばれる少なくとも1種の金属酸化物膜等が用いられる。
【0043】
低屈折率膜としては、例えば、SiO等が用いられる。高屈折率膜と低屈折率膜との膜厚や積層数は、第1の光学多層膜2に要求される光学特性に応じて適宜設定される。
【0044】
なお、第1の光学多層膜2は、屈折率の異なる3種以上の誘電体薄膜を用いてもよい。
【0045】
第1の光学多層膜2は、光の干渉作用により、特定の波長の光を反射、透過することができる。例えば、可視光の反射を抑制する反射防止膜、近赤外光を反射する赤外線遮蔽膜、紫外光を反射する紫外線遮蔽膜、紫外光及び近赤外光を反射する紫外線及び赤外線遮蔽膜などである。
【0046】
第1の光学多層膜2は、例えば、スパッタリング法やイオンアシスト蒸着法を用いて、基板1の主面上に形成される。
【0047】
スパッタリング法やイオンアシスト蒸着法により成膜された膜は、イオンアシストを用いない蒸着法により形成された膜と比較して、高温高湿下における分光特性の変化が非常に小さく、実質的に分光変化がないノンシフト膜の実現が可能であるという利点がある。また、これらの方法で成膜された膜は、緻密で硬度が高いため、傷が付きにくく、部品組込み工程等における取扱性にも優れている。
【0048】
また、第1の光学多層膜2は、イオンアシストを用いない真空蒸着法により形成してもよい。この蒸着方法を用いる場合、装置コストが低く、製造コストを抑制できる。また、第1の光学多層膜2を形成する際に異物等の付着が少ない膜を得ることができる。すなわち、第1の光学多層膜2の形成方法は、スパッタリング法やイオンアシスト蒸着法などに限られず、任意であってよい。
【0049】
フッ化マグネシウム膜3は、第1の光学多層膜2の表面に設けられたものである。フッ化マグネシウム膜3は、無機系フッ素化合物であり、後述するマグネシウム成分を含む酸化物層のベースとなる構成である。また、フッ化マグネシウム膜3は、高い防汚性、および防塵性を有し、光学フィルタ表面にゴミ等の異物を付着しにくくする作用がある。
【0050】
フッ化マグネシウム膜3は、例えば、イオンアシストを用いない真空加熱蒸着法により形成される。この蒸着方法を用いる場合、装置コストが低く、光学フィルタの製造コストを抑制できる。また、フッ化マグネシウム膜3の形成方法は、真空加熱蒸着法に限らず、スパッタリング法やイオンアシスト蒸着法など、任意であってよい。
【0051】
光学フィルタの防塵性の観点から、フッ化マグネシウム膜3の膜厚は、1.0μm以下が好ましく、0.5μm以下がより好ましい。また、加工コストの抑制の観点から、フッ化マグネシウム膜3の膜厚は、10nm以上が好ましく、30nm以上がより好ましい。
【0052】
マグネシウム成分を含む酸化物層4(以下、酸化物層ということもある。)は、上述したフッ化マグネシウム膜3の空気側の最表面の少なくとも一部に存在する。酸化物層4は、フッ化マグネシウム膜3のマグネシウム成分と大気中の酸素とが反応して生成されたものである。
【0053】
物質としては、例えば、酸化マグネシウム(MgO)、水酸化マグネシウム(Mg(OH))、炭酸マグネシウム(MgCO)、炭酸水素マグネシウム(Mg(HCO)、および光学多層膜2の膜材料Mとフッ化マグネシウム膜3との複合酸化物膜(M-O―Mg)等を包含する概念である。
【0054】
これら酸化物層4は、潮解性が高い。また、酸化物層4は、フッ化マグネシウム膜3とは物質として異なるものとして表面に存在する。そのため、光学フィルタ表面の酸化物層4に異物が付着した場合、洗浄時の振動や粘着シートの剥離等の外力によって、酸化物層4は異物と共にフッ化マグネシウム膜3から容易に脱離すると考えられる。そのため、光学フィルタ表面の異物を洗浄等により確実に除去することが可能である。
【0055】
酸化物層4は、フッ化マグネシウム膜3の空気側の最表面の少なくとも一部に存在すればよく、最表面の全面に存在してもよい。なお、酸化物層4は、フッ化マグネシウム膜3と第1の光学多層膜2との界面には存在すべきではない。前述のとおり、酸化物層4は、潮解性が高いため、フッ化マグネシウム膜3と第1の光学多層膜2との密着性を低下させるおそれがある。
【0056】
酸化物層4の形成方法は、例えば、フッ化マグネシウム膜3を形成した後に基板を高温状態に保持することにより、フッ化マグネシウム膜3のマグネシウム成分と大気中の酸素との反応を促進し生成する。酸化物層4が生成すれば、この形成方法に限らず、他の製造工程と同時処理とする方法や洗浄工程等、適宜の方法を用いることが可能である。
【0057】
フッ化マグネシウム膜3を備える側の光学フィルタ10の主面は、表面粗さ(Ra)が0.3nm~2.4nmであることが好ましい。本発明における表面粗さとは、JIS B0601:2001にて規定される中心線平均粗さRaをいうものである。また、フッ化マグネシウム膜3を備える側の光学フィルタ10の主面とは、酸化物層4を含む光学フィルタ表面をいうものである。
【0058】
フッ化マグネシウム膜3を備える側の光学フィルタ10の主面は、表面粗さが上記範囲内であると、光学フィルタ10に付着した異物が除去しやすいため好ましい。上記表面粗さの範囲は、光学フィルタの一般的な表面粗さより大きいため、異物と光学フィルタ10との接触面積が小さく、上述した酸化物層4との相乗効果により、異物が光学フィルタ表面から脱離しやすいものと考えられる。
【0059】
上記表面粗さの範囲は、0.3nm以上であると、異物と光学フィルタ10との接触面積が大きくならず、異物の除去がしにくくなることを防ぐことができる。また、上記表面粗さの範囲は、2.4nm以下であると、光学フィルタ10のヘイズ値が大きくならず、光学特性が悪化することを防ぐことができる。
【0060】
上記表面粗さの範囲は、0.3nm以上であることが好ましく、0.7nm以上であることがより好ましい。また、上記表面粗さの範囲は、2.4nm以下であることが好ましく、1.1nm以下であることがより好ましい。
【0061】
フッ化マグネシウム膜3を備える側の光学フィルタ10の主面は、純水に対する接触角が5°~80°であることが好ましい。本発明における接触角とは、JIS R3257:1999にて規定される測定方法を用いて得られる接触角をいうものである。また、フッ化マグネシウム膜3を備える側の光学フィルタ10の主面とは、酸化物層4を含む光学フィルタ表面をいうものである。
【0062】
フッ化マグネシウム膜3を備える側の光学フィルタ10の主面は、純水に対する接触角が上記範囲内であると、光学フィルタ10に付着した異物を除去しやすいため好ましい。
【0063】
従来、フッ化マグネシウム膜3は、無機系フッ素化合物ゆえに、撥水性を備え、異物の付着抑制に寄与するものと考えられてきた。しかしながら、本発明者が測定を行ったところ、フッ化マグネシウム膜3に酸化物層4を有する光学フィルタ10の主面は、必ずしも撥水性を示すものではなく、むしろ親水性であることを見出した。さらに、光学フィルタ10の主面が親水性であることが、光学フィルタ10に付着した異物が除去しやすさに寄与することを見出した。
【0064】
この理由としては、以下が仮説として考えられる。
【0065】
フッ化マグネシウム膜3は、物質としては撥水性であるものの、表面の凹凸形状ゆえに表面自由エネルギーが大きくなり、空気中の水分を取り込むことで薄い水膜を形成する。これにより、フッ化マグネシウム膜3は、見かけ上、親水性を備えるものと推測される。そして、この水膜上に異物が付着すると、水膜と異物との分子間力により一体化することで、振動などの外力によってフッ化マグネシウム膜3から容易に除去が可能になる。
【0066】
フッ化マグネシウム膜3を備える側の光学フィルタ10の主面は、純水に対する接触角が5°以上であると、製造の難易度が非常に高くなることがない。また、純水に対する接触角が80°以下であると、光学フィルタ表面が撥水性となることを防ぎ、光学フィルタ10に付着した異物が除去し難くなることを防止できる。
【0067】
上記純水に対する接触角は、5°~80°であることが好ましく、5°~50°であることがより好ましく、5°~20°であることがさらに好ましい。
【0068】
本発明の第1の実施形態に係る光学フィルタ10は、上述した各構成を備えており、特にマグネシウム成分を含む酸化物層4をフッ化マグネシウム膜3の空気側の最表面の少なくとも一部に有することで、光学フィルタ表面に付着した異物を除去しやすい。
【0069】
光学フィルタ表面に異物が付着する状況は、光学フィルタ10の製造工程に限らず、搬送工程、撮像装置への組み付け工程、および撮像装置の使用時等、様々であり、これら状況において、本発明の第1の実施形態の光学フィルタは異物の除去がし易いという特徴を備える。
【0070】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態に係る光学フィルタ20について、図2を用いて説明する。図2は、光学フィルタ20の構成を模式的に示した断面図である。
【0071】
光学フィルタ20は、基板1と、基板1の一方の主面上に設けられた屈折率の異なる誘電体薄膜を積層した第1の光学多層膜2と、第1の光学多層膜2の表面に設けられたフッ化マグネシウム膜3と、を備え、マグネシウム成分を含む酸化物層4をフッ化マグネシウム膜3の空気側の最表面の少なくとも一部に有する。
【0072】
さらに、基板1の他方の主面上にも一方の主面上と同様に第1の光学多層膜2と、第1の光学多層膜2の表面に設けられたフッ化マグネシウム膜3と、を備え、マグネシウム成分を含む酸化物層4をフッ化マグネシウム膜3の空気側の最表面の少なくとも一部に有する。
【0073】
すなわち、第2の実施形態に係る光学フィルタ20は、両主面にそれぞれ略同一の構成が積層される。
【0074】
なお、第2の実施形態は、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0075】
光学フィルタ20は、両主面の空気側の最表面にマグネシウム成分を含有する酸化物層4を備えるため、両主面の異物の除去がし易く、クリーンな光学フィルタを提供できる。例えば、撮像装置に光学フィルタ20を用いる場合、超音波振動で光学フィルタの異物を除去するシステムに好適に用いることができる。
【0076】
光学フィルタ20は、一方の主面上の第1の光学多層膜2と他方の主面上の第1の光学多層膜2とは、同一の光学特性であっても、異なる光学特性であってもよい。異なる光学特性である場合は、例えば、一方の主面上の第1の光学多層膜2が、近赤外領域の波長をカットする近赤外線カットフィルタであり、他方の主面上の第1の光学多層膜2が可視光の反射防止膜が挙げられる。
【0077】
その他、近赤外波長域の阻止帯が相違する近赤外線カットフィルタを両主面の第1の光学多層膜としてそれぞれ設けてもよい。
【0078】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態に係る光学フィルタ30について、図3を用いて説明する。図3は、光学フィルタ30の構成を模式的に示した断面図である。
【0079】
光学フィルタ30は、基板1と、基板1の一方の主面上に設けられた屈折率の異なる誘電体薄膜を積層した第1の光学多層膜2と、第1の光学多層膜2の表面に設けられたフッ化マグネシウム膜3と、を備え、フッ化マグネシウム膜3は、マグネシウム成分を含む酸化物層4を空気側の最表面の少なくとも一部に有する。
【0080】
さらに、基板1の他方の主面上に透明樹脂及び赤外線吸収色素を含有する近赤外線吸収層5を備え、近赤外線吸収層5の表面に第2の光学多層膜6を備えるものである。
【0081】
なお、第3の実施形態は、第1の実施形態と同一部分または類似部分には、同一符号を付して、重複説明を省略する。
【0082】
光学フィルタ30は、一方の主面の空気側の最表面にマグネシウム成分を含有する酸化物層4を備えるため、光学フィルタ表面の異物の除去がし易く、クリーンな光学フィルタを提供できる。
【0083】
さらに、光学フィルタ30の他方の主面に近赤外線吸収層5を備えるため、近赤外光を遮蔽する能力が高く、また光の入射角度が変化しても光学特性の変化が小さい。
【0084】
光学フィルタ30の透明樹脂は、公知の樹脂を用いることができる。具体的には、基板として樹脂を用いる際に説明した各種樹脂が挙げられる。
【0085】
また光学フィルタ30の赤外線吸収色素は、公知の赤外線吸収色素を用いることができる。具体的には、基板として樹脂を用いる際に説明した各種赤外線吸収色素が挙げられる。なお、赤外線吸収色素と共に公知の紫外線吸収色素を含有してもよい。
【0086】
近赤外線吸収層5は、透明樹脂及び赤外線吸収色素を混合し、基板の他方の主面に公知の方法(例えば、コーティング、ディッピング等)を用いて形成する。
【0087】
近赤外線吸収層5の表面に第2の光学多層膜6を設けてもよい。第2の光学多層膜6は、第1の光学多層膜2と同様に屈折率の異なる誘電体薄膜が積層されたものである。また、第2の光学多層膜6は、第1の光学多層膜2にて説明した膜材料を用い、同様の形成方法を用いることができる。
【0088】
第2の光学多層膜6は、光の干渉作用により、特定の波長の光を反射、透過することができる。例えば、可視光の反射を抑制する反射防止膜、近赤外光を反射する赤外線遮蔽膜、紫外光を反射する紫外線遮蔽膜、紫外光及び近赤外光を反射する紫外線及び赤外線遮蔽膜などである。
【0089】
第2の光学多層膜6を備えることで、光学フィルタ30の光学特性をより高めることができる。具体的には、第2の光学多層膜6として、近赤外領域の波長をカットする近赤外線カットフィルタを用いることで、光学フィルタ30としての近赤外光の透過率を低減できる。また、第2の光学多層膜6として、可視光の反射防止膜を用いることで、光学フィルタ30の可視光の透過率を高くすることができる。
【0090】
本発明の第3の実施形態の光学フィルタは、光を選択的に透過、反射するフィルタとして撮像装置、赤外線センサ、および照明装置等に好適に用いることができる。具体的には、可視光の反射防止フィルタ、赤外線カットフィルタ、赤外線透過フィルタ、紫外線カットフィルタ、紫外線透過フィルタ、およびデュアルバンドパスフィルタ(可視光及び近赤外光の一部を透過するフィルタ)等であるが、これらに限らない。
【0091】
[光学フィルタの搬送支持体]
本発明の実施形態の光学フィルタの搬送支持体100について、図4、および図5を用いて説明する。図4は、光学フィルタの搬送支持体100の構成を模式的に示した平面図である。図5は、光学フィルタの搬送支持体100の構成を模式的に示した部分断面図である。
【0092】
図4、および図5は、光学フィルタとして、第2の実施形態に係る光学フィルタ20を用いているが、適用可能な光学フィルタはこれに限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲の光学フィルタを用いることが可能である。
【0093】
本発明の実施形態の光学フィルタの搬送支持体100は、光学フィルタを複数個備え、光学フィルタの両主面が保護用シート8にて挟持されている。
なお、光学フィルタは、本発明の実施形態として説明したものであり、重複説明を省略する。
【0094】
光学フィルタの搬送支持体100は、2枚の保護用シート8の間に複数個の光学フィルタ20が挟持されている。
【0095】
保護用シート8は、光学フィルタ20を撮像装置等に組み付ける工程に搬送する際、光学フィルタ20の両主面にキズが付いたり、異物が付着するのを抑制するためのものである。保護用シート8は、光学フィルタ20と接触する面が粘着性であるため、搬送時に光学フィルタ20は保護用シート8に固定される。
【0096】
光学フィルタ表面に付着する異物は、図6に示すように、光学フィルタ20から保護用シート8を剥離する際、保護用シート8の粘着面にくっつくことで除去される。光学フィルタ20は、前述のとおり主面の空気側の最表面にマグネシウム成分を含有する酸化物層4を備えるため、主面上の異物が脱離し易い。そのため、異物を、保護用シート8を用いて確実に除去できる。
【0097】
これにより、光学フィルタの搬送支持体100を用いることで、異物の付着の少ない光学フィルタ20を次工程に搬送できる。
【0098】
保護用シート8は、周囲を枠7に固定されてもよく、枠7に固定されていなくてもよい。枠7は、例えば、円盤状の金属板や樹脂板を用いることができるが、これに限らない。
【0099】
また、光学フィルタの搬送支持体100は、搬送支持体100を複数個収納可能な箱を用いて輸送されてもよい。
【0100】
次いで、光学フィルタの製造方法について説明する。
【0101】
本発明の実施形態の光学フィルタは、例えば、以下の工程により製造することができる。すなわち、基板1を準備する工程と、基板1の一方の主面上に第1の光学多層膜2を形成する工程と、形成された第1の光学多層膜2の表面にフッ化マグネシウム膜3を形成する工程と、フッ化マグネシウム膜3が形成された基板1を個片に切断する工程と、を少なくとも備える。
【0102】
このような工程で光学フィルタを製造することで、基板1の切断時に硝片等が発生したとしても、基板1の表面にフッ化マグネシウム膜3があるため、洗浄等により硝片を容易に除去でき、クリーンな光学フィルタを提供できる。
【0103】
基板1を準備する工程において、被加工用の基板1が準備される。基板1は相互に対向する一方の主面および他方の主面を有する。
【0104】
基板1の一方の主面上に第1の光学多層膜2を形成する工程は、前述した方法により形成する。
【0105】
第1の光学多層膜2の表面にフッ化マグネシウム膜3を形成する工程は、前述した方法により形成する。
【0106】
フッ化マグネシウム膜3が形成された基板1を個片に切断する工程は、公知の方法を用いることができる。例えば、下記の切断方法を用いることが好ましい。
【0107】
すなわち、基板1を個片に切断する工程は、基板の切断予定線に沿って、レーザを用いて基板内部に改質層を形成する工程と、基板に応力を作用することにより該改質層からクラックを伸展し、基板を切断する工程とを含む方法が挙げられる。
【0108】
この切断方法を用いることで、基板1の切断部の稜線にクラックを形成することなく切断できる。そのため、基板1に曲げ応力が作用した際の機械的強度が高く、かつ主面の清浄性が高い光学フィルタを得ることができる。
【0109】
また、基板1を個片に切断する工程は、基板の切断予定線に沿って、回転刃を用いて基板を切断する工程を用いてもよい。
【0110】
この切断方法を用いることで、基板1を効率的に切断することができる。また、回転刃として断面V字型ダイシングブレードと切断用ダイシングブレードとを組み合わせて用いることで、基板1の稜線に傾斜面を効率的に形成することができる。
【0111】
また、基板1を個片に切断する工程の前もしくは後に、フッ化マグネシウム膜3の空気側の最表面の少なくとも一部にマグネシウム成分を含む酸化物層4を形成する工程を備えてもよい。
【0112】
フッ化マグネシウム膜3の空気側の最表面の少なくとも一部にマグネシウム成分を含む酸化物層4を形成する工程としては、例えば、フッ化マグネシウム膜3を形成した基板1を高温状態に保持する。
【0113】
これにより、フッ化マグネシウム膜3のマグネシウム成分と大気中の酸素との反応を促進し酸化物層4を生成する。酸化物層4が生成すれば、この形成方法に限らず、他の製造工程と同時処理とする方法や洗浄工程等、適宜の方法を用いることが可能である。
【0114】
マグネシウム成分を含む酸化物層4を形成する工程は、基板1を個片に切断する工程の前もしくは後のどちらであってもよい。
【0115】
基板1を個片に切断する工程の前に酸化物層4を形成する工程を備えると、基板1の切断時に発生する切断屑が基板に付着したとしても、容易に除去することが可能である。
【0116】
また、基板1を個片に切断する工程の後に酸化物層4を形成する工程を備えると、光学フィルタの搬送や使用時に光学フィルタ表面から異物を容易に除去することが可能である。
【0117】
また、光学フィルタは、基板1の他方の主面上に透明樹脂及び赤外線吸収色素を含有する近赤外線吸収層5を形成する工程と、近赤外線吸収層5の表面に第2の光学多層膜6を形成する工程を備えてもよい。これら工程は、基板1を個片に切断する工程の前に行うことが好ましい。
【0118】
この工程を備えることにより、特定の波長範囲の光を吸収する近赤外線吸収層5を効率的に光学フィルタに形成することができる。
【0119】
光学フィルタの搬送支持体の製造方法について説明する。
【0120】
本発明の光学フィルタの搬送支持体100は、特には限定されないが、例えば、以下の工程により製造することができる。
【0121】
光学フィルタを、前述した製造方法により準備する。そして、保護用シート8に、複数個の光学フィルタを載置する。次いで、別の保護用シート8を用いて、光学フィルタの主面を覆うことで、2枚の保護用シート8で光学フィルタの両主面を挟持する。
【0122】
光学フィルタの一方の主面上に酸化物層4が存在するため、光学フィルタから保護用シート8を剥離する際、光学フィルタ表面の異物を保護用シート8と共に脱離することができる。
【実施例
【0123】
以下、本発明の実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0124】
例1、例2、および例3は本発明の実施例に係る光学フィルタであり、例4は比較例に係る光学フィルタである。例1、例2および例3の光学フィルタは各構成の材料、製造条件は全て同一である。各例に用いるサンプルは、次のようにして作製した。
【0125】
実施例に係る光学フィルタは、基板として、銅を含有するフツリン酸ガラス(NF-50、AGCテクノグラス社製、板厚:0.2mm)を用意した。次いで、基板の一方の主面上に光学多層膜(TiOとSiOとが交互に合計50層積層された近赤外線カットフィルタ、物理膜厚:約5μm)を、イオンアシスト蒸着法を用いて形成した。次いで、前記光学多層膜の表面に、フッ化マグネシウム膜(物理膜厚:90nm)を加熱蒸着法にて形成した。次いで、基板上のフッ化マグネシウム膜の空気側の最表面にマグネシウム成分を含む酸化物層を生成した。
【0126】
実施例の光学フィルタにおいて、基板上のフッ化マグネシウム膜の空気側の最表面にマグネシウム成分を含む酸化物層を生成したことは、以下の方法を用いて確認できる。
XPS(X線光電子分光法)ワイドスペクトルを用いて、光学フィルタ表面の組成を分析する方法が挙げられる。以下具体的に説明する。
【0127】
[マグネシウム成分を含む酸化物層の確認]
実施例の光学フィルタについて、基板上のフッ化マグネシウム膜の空気側の最表面にマグネシウム成分を含む酸化物層が生成したことを以下の方法で確認した。
【0128】
測定サンプルは、光学フィルタの製造工程の一部から、サンプルA~サンプルCをそれぞれ抜き取りした。
サンプルA:銅を含有するフツリン酸ガラスの一方の主面上に光学多層膜(前述と同様)を、イオンアシスト蒸着法を用いて形成した。次いで、光学多層膜の表面に、フッ化マグネシウム膜(物理膜厚:90nm)を加熱蒸着法にて形成したもの。
サンプルB:サンプルAの製造工程に引き続き、基板の他方の主面上に透明樹脂及び赤外線吸収色素を含有する層を設け、これらを焼成することで、近赤外線吸収層を形成したもの。
サンプルC:サンプルBの製造工程に引き続き、光学フィルタを洗浄したもの。
【0129】
各サンプルについて、X線光電子分光分析装置(QuanteraSXM、アルバック・ファイ社製)を用いて光学フィルタの表面組成を分析した。結果を、表1に示す。なお、各サンプルは、それぞれ2個ずつ分析を行った。
【0130】
【表1】
【0131】
表1に示すとおり、基板にフッ化マグネシウム膜を形成した直後(サンプルA)と比較し、サンプルB、およびサンプルCの光学フィルタ表面の酸素量が多い結果となった。これにより、フッ化マグネシウム膜が形成された基板を焼成、もしくは焼成後に洗浄することで、基板上のフッ化マグネシウム膜の空気側の最表面にマグネシウム成分を含む酸化物層が生成されたと推察される。
【0132】
比較例に係る光学フィルタは、実施例と同一の基板に、同一の光学多層膜を形成したものであり、フッ化マグネシウム膜及び酸化物層を備えない。なお、光学多層膜の空気側の最表層は、SiOである。
【0133】
実施例および比較例の光学フィルタの評価として、金属粉および樹脂粉に対する異物の付着しにくさ(防塵性)、および異物の除去しやすさ(除塵性)を以下の評価方法を用いて検証した。
【0134】
[金属粉に対する評価方法]
まず、光学フィルタを、イオナイザーを用いて5分間除電する。次いで、光学フィルタを、フッ化マグネシウム膜を形成した面の上にして、水平に載置する。次いで、光学フィルタ上に金属粉をまぶす。なお、金属粉は、ステンレス製部材から削り出した粉末であり、粒径分布としては、φ20μm未満が98%、φ20μm以上が2%である。次いで、ピンセットで光学フィルタの側面を掴み、主面が垂直となるように取り上げる。次いで、光学フィルタを顕微鏡にセットし、主面の任意の5点を撮像する。得られた画像を、画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事社製)にて分析し、金属粉の付着量を算出する。この金属粉の付着量をもって、異物の付着しにくさ(防塵性)を評価した。
【0135】
次いで、防塵性の評価後、光学フィルタを樹脂製ケースに収納し、主面が垂直となる姿勢に保持して、ケースを叩いて振動させた。次いで、前述と同様に光学フィルタを顕微鏡にセットし、主面の任意の5点を撮像する。得られた画像を、画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事社製)にて分析し、金属粉の付着量を算出する。この金属粉の付着量と、防塵性の評価時に得られた付着量を用いて、異物の除去率を算出した。この異物の残留率により、異物の除去しやすさ(除塵性)を評価した。
【0136】
[樹脂粉に対する評価方法]
まず、光学フィルタを、イオナイザーを用いて5分間除電する。次いで、光学フィルタを樹脂製のデシケータ内にフッ化マグネシウム膜を形成した面の上にして、水平に載置する。デシケータ内に樹脂粉を入れた容器を載置し、その樹脂粉を、ブロアーを用いて舞い上げ、光学フィルタ上に降り積もらせる。なお、樹脂粉は、真球状プラスチック粒子(ミクロパール、積水化学工業社製、平均粒子径:約20μm)を用いた。次いで、ピンセットで光学フィルタの側面を掴み、主面が垂直となるように取り上げる。次いで、光学フィルタを顕微鏡にセットし、主面の任意の5点を撮像する。得られた画像を、画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事社製)にて分析し、樹脂粉の付着量を算出する。この樹脂粉の付着量をもって、異物の付着しにくさ(防塵性)を評価した。
【0137】
次いで、防塵性の評価後、光学フィルタを樹脂製ケースに収納し、主面が垂直となる姿勢に保持して、ケースを叩いて振動させた。次いで、前述と同様に光学フィルタを顕微鏡にセットし、主面の任意の5点を撮像する。得られた画像を、画像解析ソフト(WinROOF、三谷商事社製)にて分析し、樹脂粉の付着量を算出する。この樹脂粉の付着量と、防塵性の評価時に得られた付着量を用いて、異物の除去率を算出した。この異物の残留率により、異物の除去しやすさ(除塵性)を評価した。
【0138】
[表面粗さ]
製品の幾何特性仕様(GPS)-表面性状:輪郭曲線方式-表面性状評価の方式及び手順(JIS B0633:2001)に準拠した測定方法、装置(Dimension3000 Atomic Force Microscope、Veeco社製)を用いて表面粗さ(Ra)を測定した。
【0139】
結果を表2に示す。金属粉、樹脂粉ともに付着量は、画像で得られた付着面積を画素数(pixel)で示したものである。防塵性、除塵性は、1枚の測定データ(5点)の平均値であり、かつこれらを3枚ずつ(N=3)測定した結果である。また、表面粗さは、3枚の平均値である。
【0140】
【表2】
【0141】
評価結果より、実施例の光学フィルタ(例1)は、比較例の光学フィルタ(例4)に対して、金属粉、および樹脂粉の付着量が少なく、防塵性が高いことがわかる。また、実施例の光学フィルタは、比較例の光学フィルタに対して、金属粉、および樹脂粉の残留率が低く、除塵性が高いことがわかる。
【0142】
次いで、光学フィルタの純水に対する接触角と防塵性、除塵性との関係を調べた。
【0143】
[純水に対する接触角]
基板ガラス表面のぬれ性試験方法(JIS R3257:1999)に準拠した測定方法、装置(自動接触角計 DMe―200、協和界面科学社製)を用いて純水に対する接触角を測定した。具体的な測定方法は、液滴法(θ/2法)を用い、着滴量:1.5μL、測定時間:10sec、室温:25℃±5℃、湿度:50%±10%の条件で行った。
【0144】
結果を表3に示す。防塵性、除塵性は、1枚の測定データ(5点)の平均値である。また、純水に対する接触角、1枚当たり3点の測定データの平均値である。
【0145】
【表3】
【0146】
評価結果より、実施例の光学フィルタ(例1~例3)は、純水に対する接触角が50°以下であり、金属粉の付着量が少なく、防塵性が高いことがわかる。また、金属粉の残留率が低く、除塵性も高いことがわかる。
【0147】
以上、図面を参照しながら各種の実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。また、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記実施の形態における各構成要素を任意に組み合わせてもよい。
【0148】
なお、本出願は、2019年2月26日出願の日本特許出願(特願2019-032249)に基づくものであり、その内容は本出願の中に参照として援用される。
【符号の説明】
【0149】
1 基板
2 第1の光学多層膜
3 フッ化マグネシウム膜
4 マグネシウム成分を含む酸化物層
5 近赤外線吸収層
6 第2の光学多層膜
7 枠
8 保護用シート
9 異物
10,20,30 光学フィルタ
100 光学フィルタの搬送支持体
図1
図2
図3
図4
図5
図6