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特許7396355金属除去方法、ドライエッチング方法、及び半導体素子の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】金属除去方法、ドライエッチング方法、及び半導体素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3065 20060101AFI20231205BHJP
   H01L 21/302 20060101ALI20231205BHJP
   C23F 1/12 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
H01L21/302 104C
H01L21/302 201A
C23F1/12
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021519319
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(86)【国際出願番号】 JP2020016929
(87)【国際公開番号】W WO2020230522
(87)【国際公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019092401
(32)【優先日】2019-05-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100115679
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 勇毅
(74)【代理人】
【識別番号】100114177
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(74)【代理人】
【識別番号】100168701
【弁理士】
【氏名又は名称】豆塚 浩二
(74)【代理人】
【識別番号】100109715
【弁理士】
【氏名又は名称】塩谷 英明
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(72)【発明者】
【氏名】松井 一真
【審査官】佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-040932(JP,A)
【文献】特開2017-053024(JP,A)
【文献】特開2017-063186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
H01L 21/302
C23F 1/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非励起状態の含フッ素ハロゲン間化合物を含有する処理ガスと金属元素を含有する含金属材料とを接触させて、前記含フッ素ハロゲン間化合物と前記金属元素との反応生成物である金属フッ化物を生成させる反応工程と、
不活性ガス雰囲気下又は真空環境下で前記金属フッ化物を加熱して揮発させる揮発工程と、
を備え、
前記金属元素が、鉄、コバルト、ニッケル、セレン、モリブデン、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、イリジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種である金属除去方法。
【請求項2】
前記含フッ素ハロゲン間化合物が、一フッ化塩素、一フッ化臭素、三フッ化塩素、五フッ化塩素、五フッ化臭素、及び七フッ化ヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の金属除去方法。
【請求項3】
前記処理ガスが、窒素ガス、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンからなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスを含有する請求項1又は請求項2に記載の金属除去方法。
【請求項4】
前記反応工程における前記含フッ素ハロゲン間化合物と前記金属元素との反応温度が0℃以上100℃以下である請求項1~3のいずれか一項に記載の金属除去方法。
【請求項5】
前記揮発工程における前記金属フッ化物の加熱温度が、前記反応工程における前記含フッ素ハロゲン間化合物と前記金属元素との反応温度よりも高温である請求項1~4のいずれか一項に記載の金属除去方法。
【請求項6】
前記揮発工程における前記金属フッ化物の加熱温度が50℃以上400℃以下である請求項5に記載の金属除去方法。
【請求項7】
前記反応工程において、シリコン酸化物及びシリコン窒化物の少なくとも一方を含有する含シリコン材料と、前記含金属材料とに、前記処理ガスを接触させる請求項1~6のいずれか一項に記載の金属除去方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の金属除去方法を用いるドライエッチング方法。
【請求項9】
鉄、コバルト、ニッケル、セレン、モリブデン、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、イリジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する含金属層を有する半導体基板から、請求項8に記載のドライエッチング方法によって前記含金属層の少なくとも一部分を除去するドライエッチング工程を備える半導体素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属除去方法、ドライエッチング方法、及び半導体素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不揮発性メモリ素子等の半導体素子を構成する磁性材料や配線材料として、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、セレン(Se)、モリブデン(Mo)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、タングステン(W)、レニウム(Re)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)等の遷移金属元素が用いられる場合がある。半導体素子の製造工程において、基板上の金属薄膜をエッチングして配線を形成する際には、スパッタ法やウエットエッチング法が用いられる場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本国特許公開公報 2004年第228487号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、スパッタ法やウエットエッチング法では、半導体素子の本来エッチングされるべきではない部分までもがエッチングされて、半導体素子の特性が失われてしまうおそれがあった。
また、特許文献1には、プラズマで励起させたエッチングガスを用いて基板上の金属薄膜をドライエッチングする方法が開示されているが、プラズマを用いるエッチング法は高コストであるという問題があった。
本発明は、低コストで実施可能な金属除去方法、ドライエッチング方法、及び半導体素子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明の一態様は以下の[1]~[9]の通りである。
[1] 含フッ素ハロゲン間化合物を含有する処理ガスと金属元素を含有する含金属材料とを接触させて、前記含フッ素ハロゲン間化合物と前記金属元素との反応生成物である金属フッ化物を生成させる反応工程と、
不活性ガス雰囲気下又は真空環境下で前記金属フッ化物を加熱して揮発させる揮発工程と、
を備え、
前記金属元素が、鉄、コバルト、ニッケル、セレン、モリブデン、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、イリジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種である金属除去方法。
【0006】
[2] 前記含フッ素ハロゲン間化合物が、一フッ化塩素、一フッ化臭素、三フッ化塩素、五フッ化塩素、五フッ化臭素、及び七フッ化ヨウ素からなる群より選ばれる少なくとも1種である[1]に記載の金属除去方法。
[3] 前記処理ガスが、窒素ガス、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンからなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスを含有する[1]又は[2]に記載の金属除去方法。
【0007】
[4] 前記反応工程における前記含フッ素ハロゲン間化合物と前記金属元素との反応温度が0℃以上100℃以下である[1]~[3]のいずれか一項に記載の金属除去方法。
[5] 前記揮発工程における前記金属フッ化物の加熱温度が、前記反応工程における前記含フッ素ハロゲン間化合物と前記金属元素との反応温度よりも高温である[1]~[4]のいずれか一項に記載の金属除去方法。
【0008】
[6] 前記揮発工程における前記金属フッ化物の加熱温度が50℃以上400℃以下である[5]に記載の金属除去方法。
[7] 前記反応工程において、シリコン酸化物及びシリコン窒化物の少なくとも一方を含有する含シリコン材料と、前記含金属材料とに、前記処理ガスを接触させる[1]~[6]のいずれか一項に記載の金属除去方法。
【0009】
[8] [1]~[7]のいずれか一項に記載の金属除去方法を用いるドライエッチング方法。
[9] 鉄、コバルト、ニッケル、セレン、モリブデン、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、イリジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する含金属層を有する半導体基板から、請求項8に記載のドライエッチング方法によって前記含金属層の少なくとも一部分を除去するドライエッチング工程を備える半導体素子の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属の除去やドライエッチングを低コストで実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施例、比較例、及び参考例において使用した反応装置の構造を示す概略図である。
図2】実施例等で用いた試料を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の一実施形態について以下に説明する。なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。また、本実施形態には種々の変更又は改良を加えることが可能であり、その様な変更又は改良を加えた形態も本発明に含まれ得る。
【0013】
本発明者は、上記課題を解決すべく種々検討した結果、WやIrなどの金属元素に含フッ素ハロゲン間化合物を接触させて、該金属元素と含フッ素ハロゲン間化合物との反応生成物である金属フッ化物を生成させた後に、減圧等の環境下で加熱して金属フッ化物を揮発させることにより、金属元素を含有する含金属材料を除去できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0014】
すなわち、本発明の一実施形態に係る金属除去方法は、含フッ素ハロゲン間化合物を含有する処理ガスと金属元素を含有する含金属材料とを接触させて、含フッ素ハロゲン間化合物と金属元素との反応生成物である金属フッ化物を生成させる反応工程と、不活性ガス雰囲気下又は真空環境下で金属フッ化物を加熱して揮発させる揮発工程と、を備えている。そして、含金属材料が含有する金属元素は、鉄、コバルト、ニッケル、セレン、モリブデン、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、イリジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種である。本実施形態の金属除去方法においては、反応工程と揮発工程とを交互に繰り返し行うことにより、金属の除去を行ってもよい。あるいは、反応工程と揮発工程とを同時に行ってもよい。
【0015】
反応工程において、処理ガス中の含フッ素ハロゲン間化合物(例えばBrF5)は、含金属材料が含有する金属元素と反応し、含フッ素含ハロゲン金属錯体(例えば[BrF4][MF6]。ただし、Mは金属元素である。)と推測される金属フッ化物が生成するため、含金属材料には顕著な質量増加が生じる。このような金属フッ化物は、金属元素の単体、酸化物、窒化物等と比べて蒸気圧が高いため、揮発工程における加熱により揮発し、除去される。
【0016】
本実施形態の金属除去方法によれば、含フッ素ハロゲン間化合物をプラズマ等の励起状態にする必要はないので、金属の除去を低コストで実施することができるとともに、本実施形態の金属除去方法や後述する本実施形態のドライエッチング方法で使用される反応容器、配管等に腐食が生じにくい。
また、本実施形態の金属除去方法によれば、鉄、コバルト、ニッケル、セレン、モリブデン、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、イリジウム、及び白金のような安定な金属であっても、容易に除去することが可能である。
【0017】
さらに、本実施形態の金属除去方法を利用すれば、部材や装置から金属付着物を除去して洗浄を行うことができる。例えば、Ir、W等の上記の金属元素が関与する反応を行うチャンバー(例えば半導体製造装置を構成するチャンバー)の内面に、上記の金属元素を含有する金属付着物が付着している場合に、チャンバー内にて本実施形態の金属除去方法を実施すれば、チャンバーの内面に付着した金属付着物を低コストで除去(クリーニング)することができる。例えば、半導体製造装置を構成するチャンバーであれば、上記の金属元素を含有する含金属材料を半導体基板上に成膜して含金属層を形成する工程の後工程、あるいは、含金属層をエッチングする工程の後工程として、上記のクリーニングを行うとよい。
【0018】
さらに、本実施形態の金属除去方法を利用して、ドライエッチングを行うことができる。すなわち、本発明の別の実施形態に係るドライエッチング方法は、上記の金属除去方法を用いて金属のエッチングを行うドライエッチング方法である。本実施形態のドライエッチング方法は、プラズマを用いる必要がないため、エッチングを低コストで実施することができる。
【0019】
さらに、本実施形態のドライエッチング方法を利用して、半導体素子を製造することができる。すなわち、本発明のさらに別の実施形態に係る半導体素子の製造方法は、鉄、コバルト、ニッケル、セレン、モリブデン、ロジウム、パラジウム、タングステン、レニウム、イリジウム、及び白金からなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含有する含金属層を有する半導体基板から、上記のドライエッチング方法によって含金属層の少なくとも一部分を除去するドライエッチング工程を備える。
【0020】
半導体基板上に上記の含金属層を形成し、その含金属層上に所定のパターンを有するマスクを形成した後に、上記のドライエッチング方法によってエッチングを行えば、含金属層の一部を半導体基板から除去し、上記パターンを含金属層に転写して、半導体基板上に配線等を形成することができる。
【0021】
本実施形態の半導体素子の製造方法によれば、プラズマを用いる必要がないため、半導体素子を低コストで製造することができる。また、ウエットエッチング法を採用した場合は、半導体素子の本来エッチングされるべきではない部分までもがエッチングされて、半導体素子の特性が失われてしまうおそれがあるという問題があるが、本実施形態の半導体素子の製造方法においてはドライエッチング方法により含金属層を除去するので、上記問題が生じにくい。
【0022】
以下に、本実施形態の金属除去方法について、さらに詳細に説明する。
金属元素を含有する含金属材料は、上記各金属元素の単体金属であってもよいし、上記各金属元素の化合物(例えば、金属酸化物、金属窒化物、金属ハロゲン化物、金属塩)であってもよいし、上記各金属元素のうち2種以上の金属元素の合金であってもよい。
【0023】
また、金属元素を含有する含金属材料は、上記の単体金属、化合物、合金のみからなっていてもよいし、他の成分を含有していてもよい。すなわち、上記の単体金属、化合物、合金のうち少なくとも1つと他の成分とからなる混合物であってもよい。この混合物の例としては、上記各金属元素と別種の金属元素との合金や、上記の単体金属、化合物、合金のうち少なくとも1つと他の成分とからなる組成物が挙げられる。この混合物において、上記の単体金属、化合物、合金の組成比は30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましい。
金属元素を含有する含金属材料の形状は特に限定されるものではないが、薄膜状、箔状、粉末状、塊状であってもよい。
【0024】
含フッ素ハロゲン間化合物の種類は特に限定されるものではないが、一フッ化塩素(ClF)、一フッ化臭素(BrF)、三フッ化塩素(ClF3)、三フッ化ヨウ素(IF3)、五フッ化塩素(ClF5)、五フッ化臭素(BrF5)、及び七フッ化ヨウ素(IF7)からなる群より選ばれる少なくとも1種を使用することができる。上記の含フッ素ハロゲン間化合物の中では、五フッ化臭素、七フッ化ヨウ素がより好ましい。
【0025】
反応工程における含フッ素ハロゲン間化合物と金属元素との反応温度は、処理ガスに含有される含フッ素ハロゲン間化合物が気体状で存在しうる温度(含フッ素ハロゲン間化合物の沸点以上の温度)である必要がある。そして、反応工程における含フッ素ハロゲン間化合物と金属元素との反応温度は、0℃以上100℃以下であることが好ましく、10℃以上80℃以下であることがより好ましく、15℃以上50℃以下であることがさらに好ましい。
反応温度が上記範囲内であれば、含フッ素ハロゲン間化合物と上記の金属元素との反応の反応速度が十分大きくなりやすいことに加えて、含フッ素ハロゲン間化合物と上記の金属元素以外のもの(例えば、本来反応すべきでないもの)との反応が生じにくい。
【0026】
フッ素ガスを用いれば、フッ素ガスと金属元素との反応により揮発性の高い金属フッ化物を生成させて除去することも可能であるが、プラズマを用いない場合は、フッ素ガスと上記の金属元素とを反応させるために150℃以上の高温が必要となる。このような高温条件下では、フッ素ガスがシリコン、シリコン酸化物等(上記の「本来反応すべきでないもの」に相当する)と反応するおそれがあるため、本実施形態の金属除去方法やドライエッチング方法を半導体素子の製造プロセスに適用することが困難となる。
【0027】
反応工程において使用する処理ガスは、含フッ素ハロゲン間化合物のみで形成されていてもよいが、他種のガスを含有する混合ガスであってもよい。処理ガスが混合ガスである場合、処理ガス中の含フッ素ハロゲン間化合物の濃度は、十分な反応速度を得るためには、1体積%以上であることが好ましく、5体積%以上であることがより好ましく、10体積%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
処理ガスが混合ガスである場合に使用する他種のガスとしては、窒素ガス(N2)、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、アルゴン(Ar)、クリプトン(Kr)、及びキセノン(Xe)からなる群より選ばれる少なくとも1種の不活性ガスを用いることができる。処理ガス中の不活性ガスの濃度は、例えば、0体積%以上90体積%以下の範囲とすることができる。
【0029】
反応工程における雰囲気圧力は特に限定されるものではないが、例えば、0.1kPa以上101.3kPa以下とすることができる。処理ガスの流量は、反応容器の大きさや反応容器内を減圧する真空排気装置の能力に応じて、雰囲気圧力が一定に保てる範囲で適宜決定すればよい。
【0030】
揮発工程は、不活性ガス雰囲気下又は真空環境下で前記金属フッ化物を加熱することによって実施される。
揮発工程における金属フッ化物の加熱温度は、金属フッ化物を速やかに揮発させるため、反応工程における含フッ素ハロゲン間化合物と金属元素との反応温度よりも高温とすることが好ましい。例えば、揮発工程における金属フッ化物の加熱温度を、反応工程における含フッ素ハロゲン間化合物と金属元素との反応温度よりも5℃以上高くすることが好ましく、10℃以上高くすることがより好ましく、20℃以上高くすることがさらに好ましい。
【0031】
揮発工程における金属フッ化物の加熱温度は、金属フッ化物を揮発させることができるならば特に限定されるものではないが、40℃以上500℃以下であることが好ましく、45℃以上400℃以下であることがより好ましく、50℃以上400℃以下であることがさらに好ましく、50℃以上350℃以下であることがより一層好ましい。
【0032】
揮発工程における金属フッ化物の加熱温度が上記範囲内であれば、金属フッ化物の揮発速度が十分大きくなりやすいことに加えて、金属フッ化物の揮発に要する時間及びエネルギーが過大となりにくい。
不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、及びキセノンからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。不活性ガス雰囲気は、0.1kPa以上101.3kPa以下の圧力で、不活性ガスを流通させた雰囲気であることが好ましい。また、揮発工程における真空環境は、0.1Pa以上100Pa以下に減圧された環境であることが好ましい。
【0033】
なお、BrF5をはじめとする含フッ素ハロゲン間化合物は、100℃以下の温度下や非励起状態では、シリコン酸化物、シリコン窒化物とほとんど反応しない。そのため、シリコン酸化物及びシリコン窒化物の少なくとも一方を含有する含シリコン材料と、上記の金属元素を含有する含金属材料との両方に対して、反応工程において処理ガスを接触させた場合には、シリコン酸化物及びシリコン窒化物の少なくとも一方を含有する含シリコン材料はほとんど除去されることなく、上記の金属元素を含有する含金属材料が選択的に除去される。
【0034】
よって、上記の金属元素を含有する含金属層と、シリコン酸化物及びシリコン窒化物の少なくとも一方を含有する含シリコン層とを有する半導体基板に対して、本実施形態の金属除去方法を用いるドライエッチングを施せば、含シリコン層はほとんどエッチングされることなく、含金属層の少なくとも一部をエッチングして、半導体素子を製造することができる。
【実施例
【0035】
以下に実施例、比較例、及び参考例を示して、本発明をより詳細に説明する。まず、実施例、比較例、及び参考例において使用する反応装置1の構造を、図1を参照しながら説明する。
図1の反応装置1は、反応が実施されるチャンバー3を備えており、このチャンバー3内には、試料7を載置するステージ5が設置されている。また、チャンバー3は、チャンバー3内に処理ガス(以下、処理ガスの中で金属と反応するガスを「エッチングガス」と記す場合もある)を導入するガス導入口11と、チャンバー3内から処理ガスや金属フッ化物を排出するガス排出口13と、チャンバー3内を減圧する減圧装置(図示せず)と、チャンバー3内の圧力を測定する圧力計15と、を備えている。
【0036】
さらに、ステージ5は加熱装置としての機能を有しており、ステージ5上の試料7を所望の温度に加熱できるようになっている。さらに、反応装置1は、チャンバー3の外壁を加熱する加熱装置(図示せず)も備えており、チャンバー3内を所望の温度に制御できるようになっている。
【0037】
ステージ5上に試料7を載置して、ステージ5及び上記加熱装置の少なくとも一方による加熱と、ガス導入口11からのチャンバー3内への処理ガスの導入とを行えば、試料7に処理ガスが所定の温度条件下で接触し、試料7の金属と処理ガスとが反応する。その後、上記反応で生成した金属フッ化物を揮発させるために、チャンバー3内を所定の温度に設定し直し、金属フッ化物を含むガスをガス排出口13からチャンバー3外に排出して除去する。金属フッ化物の除去中は常時処理ガスをガス導入口11からチャンバー3内へ導入し、ガス排出口13を開放して、処理ガスや金属フッ化物を含むガスをチャンバー3外に排出してもよい。
【0038】
この反応装置1を用い、前記処理ガスをエッチングガスとして用いて、金属のドライエッチングを行うことができる。反応装置1を用いた金属のドライエッチングにより、含シリコン材料を有する半導体基板上の金属薄膜(含金属層)をエッチングして配線を形成することができるので、反応装置1を半導体素子の製造に用いることができる。
【0039】
次に、反応装置1を用いて行った実施例、比較例、及び参考例の金属除去処理について説明する。
〔実施例1-1〕
試料7であるIr粉末(株式会社フルヤ金属製、平均粒径0.3μm、純度99.9%)をステージ5上に載置して、ステージ5により試料7を30℃に加熱した。処理ガスであるBrF5をガス導入口11から内容積2500cm3のチャンバー3内に導入しつつガス排出口13からチャンバー3外に排出することによって、チャンバー3内に処理ガスを流通させた(反応工程)。処理ガスは、流量100sccmで10分間流通させた。チャンバー3内の圧力は101kPaとした。ここで、sccmは、0℃、1気圧の条件で規格化した1分間あたりの体積流量(cm3)である。
【0040】
処理ガスの流通が終了したら、チャンバー3内を減圧して圧力を100Pa以下とし、ステージ5により試料7を100℃に加熱した(揮発工程)。試料7の加熱を30分間行った後に、チャンバー3内を窒素ガスで置換して試料7を取り出し、試料7の質量を測定した。そして、以下の式によって試料7の質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
【0041】
質量減少率(%)=(〔金属除去処理前の試料7の質量〕-〔金属除去処理後の試料7の質量〕)/〔金属除去処理前の試料7の質量〕
なお、Ir粉末等の粉末の平均粒径は、株式会社堀場製作所製のレーザ回折/散乱式粒子径分布測定装置Partica LA-960によって、体積基準で求めた。
【0042】
【表1】
【0043】
〔実施例1-2〕
エッチングガスをIF7とした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
〔実施例1-3〕
反応工程の反応温度を0℃とし、チャンバー3の圧力を10-2MPaとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
【0044】
〔実施例1-4〕
反応工程の反応温度を0℃とした点以外は実施例1-2と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
〔実施例1-5〕
エッチングガス及び流量をBrF5/Ar=50sccm/50sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
【0045】
〔実施例1-6〕
エッチングガス及び流量をBrF5/He=50sccm/50sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
〔実施例1-7〕
エッチングガス及び流量をBrF5/N2=50sccm/50sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
【0046】
〔実施例1-8〕
エッチングガス及び流量をBrF5/N2=30sccm/70sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
〔実施例1-9〕
エッチングガス及び流量をIF7/Ar=50sccm/50sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
【0047】
〔実施例1-10〕
エッチングガス及び流量をIF7/He=50sccm/50sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
〔実施例1-11〕
エッチングガス及び流量をIF7/N2=50sccm/50sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
【0048】
〔実施例1-12〕
エッチングガス及び流量をIF7/N2=30sccm/70sccmとした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
〔比較例1-1〕
エッチングガスをF2とした点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
【0049】
〔比較例1-2〕
揮発工程を実施せず、反応工程の終了後にチャンバー3内を窒素ガスで置換して試料7を取り出し、試料7の質量を測定した点以外は実施例1-1と同様にして金属除去処理を行い、質量減少率を算出した。結果を表1に示す。
〔実施例2-1〕、〔実施例2-2〕、及び〔比較例2-1〕
試料7としてW粉末(株式会社ニラコ製、平均粒径3μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
【0050】
〔実施例3-1〕、〔実施例3-2〕、及び〔比較例3-1〕
試料7としてSe粉末(ナカライテスク株式会社製、平均粒径10μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
〔実施例4-1〕、〔実施例4-2〕、及び〔比較例4-1〕
試料7としてMo粉末(株式会社アライドマテリアル製、平均粒径6μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
【0051】
〔実施例5-1〕、〔実施例5-2〕、及び〔比較例5-1〕
試料7としてRh粉末(株式会社高純度化学製、平均粒径30μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
〔実施例6-1〕、〔実施例6-2〕、及び〔比較例6-1〕
試料7としてPd粉末(相田化学工業株式会社製、平均粒径8μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
【0052】
〔実施例7-1〕、〔実施例7-2〕、及び〔比較例7-1〕
試料7としてRe粉末(株式会社ニューメタルス エンド ケミカルスコーポレーション製、平均粒径20μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
〔実施例8-1〕、〔実施例8-2〕、及び〔比較例8-1〕
試料7としてPt粉末(株式会社ニラコ製、平均粒径5μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
【0053】
〔実施例9-1〕、〔実施例9-2〕、及び〔比較例9-1〕
試料7としてFe粉末(株式会社ニラコ製、平均粒径70μm、純度99%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
〔実施例10-1〕、〔実施例10-2〕、及び〔比較例10-1〕
試料7としてCo粉末(Merck社製、平均粒径2μm、純度99.8%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
〔実施例11-1〕、〔実施例11-2〕、及び〔比較例11-1〕
試料7としてNi粉末(株式会社ニラコ製、平均粒径50μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
【0054】
〔比較例12〕
エッチングガスとしてSF6、NF3、SiF4、CF4、CHF3、又はこれらにそれぞれNH3を混合したものを用いた点以外は、実施例1-1と同様にして金属除去処理を行った。いずれのエッチングガスを用いた場合も、質量の減少は見られなかった。また、反応工程の温度条件を30℃から100℃又は0℃に変更して処理を行った場合や、揮発工程の温度条件を100℃から50℃又は350℃に変更した場合も、Ir粉末の質量の減少は見られなかった。これらの結果は、試料7としてIr粉末を用いた場合のみならず、W、Se、Mo、Rh、Pd、Re、Pt、Fe、Co、Niの粉末を用いた場合でも、全て同様であった。
【0055】
〔参考例1-1〕、〔参考例1-2〕、〔参考例1-3〕、及び〔参考例1-4〕
試料7としてSiO2粉末(株式会社丸東製、平均粒径50μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
〔参考例2-1〕、〔参考例2-2〕、〔参考例2-3〕、及び〔参考例2-4〕
試料7としてSi34粉末(宇部興産株式会社製、平均粒径50μm、純度99.9%)を用い、表1に示す条件で処理を行った。結果を表1に示す。
【0056】
実施例1-1、1-2、1-3、及び1-4から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてBrF5又はIF7を使用して、0℃又は30℃で反応を行い、揮発工程において真空環境下で100℃に加熱することにより、Irのエッチングが可能であった。
【0057】
一方、比較例1-1から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてF2を使用した場合には、Irのエッチングは進行しなかった。また、比較例1-2から分かるように、エッチングガスとしてBrF5を使用しても、揮発工程を実施せず反応工程のみ実施した場合は、Irをエッチングすることができず、試料7の質量が増加した。
また、実施例1-5から実施例1-12までの結果から分かるように、反応工程においてBrF5又はIF7に不活性ガスを混合した処理ガスを用いた場合でも、Irのエッチングが可能であった。
【0058】
実施例2-1、2-2、4-1、4-2、5-1、5-2、7-1、7-2、8-1、8-2から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてBrF5又はIF7を使用して30℃で反応を行い、揮発工程において真空環境下で100℃に加熱することにより、W、Mo、Rh、Re、Ptのエッチングが可能であった。
一方、比較例2-1、4-1、5-1、7-1、8-1から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてF2を使用した場合には、W、Mo、Rh、Re、Ptのエッチングは進行しなかった。
【0059】
実施例3-1、3-2から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてBrF5又はIF7を使用して30℃で反応を行い、揮発工程において真空環境下で50℃に加熱することにより、Seのエッチングが可能であった。
一方、比較例3-1から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてF2を使用した場合には、Seのエッチングは進行しなかった。
【0060】
実施例6-1、6-2から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてBrF5又はIF7を使用して30℃で反応を行い、揮発工程において真空環境下で350℃に加熱することにより、Pdのエッチングが可能であった。
一方、比較例6-1から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてF2を使用した場合には、Pdのエッチングは進行しなかった。
【0061】
実施例9-1、9-2、10-1、10-2、11-1、11-2から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてBrF5又はIF7を使用して100℃で反応を行い、揮発工程において真空環境下で350℃に加熱することにより、Fe、Co、Niのエッチングが可能であった。
一方、比較例9-1、10-1、11-1から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてF2を使用した場合には、Fe、Co、Niのエッチングは進行しなかった。
【0062】
また、参考例1-1、1-2、2-1、2-2から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてBrF5又はIF7を使用して30℃で反応を行った場合には、SiO2及びSi34のエッチングは進行しなかった。
さらに、参考例1-3、1-4、2-3、2-4から分かるように、反応工程においてエッチングガスとしてBrF5又はIF7を使用して100℃で反応を行った場合でも、SiO2及びSi34のエッチングは僅かしか進行しなかった。
これのことから、上記各実施例の金属除去処理を実施すれば、SiO2やSi34をエッチングすることなく、Fe、Co、Ni、Se、Mo、Rh、Pd、W、Re、Ir、Ptを選択的にエッチングすることが可能であることが分かる。
【0063】
〔実施例12-1〕、〔実施例12-2〕、及び〔比較例13〕
図1の反応装置1を用いて、実施例12-1、実施例12-2、及び比較例13の試料7に対して金属除去処理、すなわちエッチングを行った。実施例12-1、実施例12-2、及び比較例13において用いた試料7について、図2を参照しながら説明する。
【0064】
一辺2インチの正方形状のシリコン基板21上に膜厚1μmのタングステン膜22を成膜したもの(ケイ・エス・ティ・ワールド株式会社製)を用意し、そのタングステン22上に、寸法1インチ×2インチの長方形状の二酸化ケイ素基板23を、グリース(ダイキン工業株式会社製のデムナムグリースL-200)を用いて接着し、これを試料7とした。二酸化ケイ素基板23は、図2に示すように、タングステン膜22の略半分の部分を覆うように接着した。なお、タングステン膜22が除去対象、すなわちエッチング対象であり、二酸化ケイ素基板23はレジストとして使用している。
【0065】
この試料7を用い、表2に示した条件でエッチングを行った。なお、表2で示した条件以外は、実施例1-5と同様である。エッチングが終了したらチャンバーを開放して試料7を取り出し、取り出した試料7から二酸化ケイ素基板23を取り外して、接着面をエタノールで洗浄してグリースを除去した。そして、株式会社キーエンス製の原子間力顕微鏡VN-8010を用いて、二酸化ケイ素基板23に覆われていてエッチングされていないタングステン膜22のカバー面22aと、二酸化ケイ素基板23に覆われておらずエッチングされたタングステン膜22のエッチング面22bとの段差の大きさを測定した。測定された段差の大きさ(nm)をエッチング時間(min)で除することにより、タングステンのエッチング速度(nm/min)を算出した。結果を表2に示す。
【0066】
なお、原子間力顕微鏡による段差の大きさの測定条件は、以下のとおりである。
測定圧力:大気圧(101.3kPa)
測定温度:28℃
測定雰囲気:大気中
走査範囲:幅80.0μm、高さ20.0μm、角度0°
【0067】
【表2】
【0068】
実施例12-1及び実施例12-2から、除去対象、すなわちエッチング対象が膜である場合でも、エッチングは問題なく進行することが分かる。一方、比較例13から、エッチングガスとしてフッ素ガスを用いた場合には、エッチングが殆ど進行しないことが分かる。
【符号の説明】
【0069】
1 反応装置
3 チャンバー
5 ステージ
7 試料
11 ガス導入口
13 ガス排出口
15 圧力計
21 シリコン基板
22 タングステン膜
23 二酸化ケイ素基板
図1
図2