(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】透明導電膜付きガラス基板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C03C 17/34 20060101AFI20231205BHJP
B32B 9/00 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C03C17/34 Z
B32B9/00 A
(21)【出願番号】P 2022143852
(22)【出願日】2022-09-09
(62)【分割の表示】P 2021079334の分割
【原出願日】2021-05-07
【審査請求日】2022-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】松井 雄志
(72)【発明者】
【氏名】立川 卓
(72)【発明者】
【氏名】高橋 亮
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/118897(WO,A1)
【文献】特表2011-504293(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0120496(US,A1)
【文献】国際公開第03/065386(WO,A1)
【文献】特開2016-146443(JP,A)
【文献】特開平02-168507(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0053511(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 17/
B32B 9/
H01L 31/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板、アンダーコート層及び透明導電膜をこの順に含む透明導電膜付きガラス基板であって、
前記アンダーコート層は酸化ケイ素を主成分とする層を含み、
前記透明導電膜の主成分がSnO
2であり、
前記透明導電膜はドーパントとしてフッ素原子を含有し、
前記透明導電膜における自由電子の移動度が32cm
2/Vs以上であり、
前記透明導電膜のキャリア濃度と、透明導電膜1cm
3あたりのフッ素イオン量との関係が下記式2を満たし、
前記キャリア濃度が2.0×10
20cm
-3以上である、透明導電膜付きガラス基板。
(式2) キャリア濃度(cm
-3)>0.45×フッ素イオン量(cm
-3)+1.5×10
20
【請求項2】
前記透明導電膜における自由電子の移動度が38cm
2/Vs以上である、請求項1に記載の透明導電膜付きガラス基板。
【請求項3】
前記アンダーコート層が以下の(a)又は(b)の構成を有する、請求項1又は2に記載の透明導電膜付きガラス基板。
(a)SiO
2を主成分とする層と、TiO
2又はSnO
2を主成分とする層とを積層した構成。
(b)SiOC又はSiONを主成分とする層からなる構成。
【請求項4】
前記ガラス基板上にCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)法により前記アンダーコート層及び前記透明導電膜を順に形成することを含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の透明導電膜付きガラス基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明導電膜付きガラス基板及びその製造方法に関する。本発明は特に、低放射率ガラスや太陽電池用の透明電極基板等に好適に用いられる透明導電膜付きガラス基板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス基板上に金属酸化物等を含む透明導電膜が形成された透明導電膜付きガラス基板は、様々な特性を有することから、建築部材、光学部品、電気部品、電子部品等の幅広い分野で利用されている。
【0003】
透明導電膜付きガラス基板は、例えば、遮熱性を有する低放射率ガラスとして建築物、車両等のガラス窓や、冷凍ショーケース、調理器具等に用いられる。低放射率ガラスにおいては一般に、透明導電膜の抵抗が比較的小さいと遮熱性に優れることが知られている。
【0004】
また透明導電膜付きガラス基板は、太陽電池用の透明電極基板にも用いられる。太陽電池は、太陽からの光エネルギーを直接電気エネルギーに変換する素子であり、シリコン系、化合物系、III-V族系、有機系に大別される。太陽電池用の透明電極基板においても、電池効率を向上する観点から、透明導電膜の電気抵抗値は比較的小さいことが求められる。電気抵抗値には透明導電膜のキャリア濃度と移動度の2つの要素が関連する。この分野では、入射光透過率の損失を極力減らすために高移動度であることが求められる。
【0005】
このように各種用途に用いられる透明導電膜付きガラス基板に対し、高温プロセスを含む処理がなされる場合がある。例えば低放射率ガラスに強度を付与するために、低放射率ガラスを600~700℃程度の高温で加熱する工程を含む風冷強化がなされることがある。
【0006】
また太陽電池用の透明電極基板においては、太陽電池の製造時に高温プロセスを含む処理がなされる場合がある。上述した太陽電池における化合物系太陽電池のひとつに、Cd・Teが原料として用いられるCdTe太陽電池が挙げられる。一般的にCdTe太陽電池は、透明電極基板を陰極として、透明電極基板上にn型層、p型層及び陽極が順に積層された構成を有する。ここで、p型層はCdTeからなるものが一般的であるが、CdTeからなる膜は一般に高温環境下で形成されるため、CdTe太陽電池の製造においては透明電極基板も高温環境下に置かれることとなる。
【0007】
例えば、特許文献1には、耐熱性基板面とCdTeおよび/あるいはCdとTeを主成分とする材料面を近接させて設置し、材料面を加熱して気体を発生させ、材料面より低温である前記耐熱性基板面にCdTeを析出させるCdTe膜の形成方法において、材料面の温度を630℃以上に加熱することが開示されている。
また、製膜速度、膜質、電池効率等の観点からはCdTe成膜時の加熱温度は高いことが好ましく、700℃程度の環境下でCdTeを製膜することも検討されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、かかる透明導電膜付きガラス基板に対し、特に650℃~700℃の高温条件で処理を行うと、透明導電膜の抵抗が増大し、各用途における特性が低下してしまう場合があった。したがって、透明導電膜付きガラス基板においては高温における耐熱性が求められていた。
【0010】
かかる事情に鑑み、本発明は、高温における耐熱性に優れる透明電極基板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、以下の1~7に関する。
1.ガラス基板、アンダーコート層及び透明導電膜をこの順に含む透明導電膜付きガラス基板であって、
前記アンダーコート層は酸化ケイ素を主成分とする層を含み、
前記透明導電膜の主成分がSnO2であり、
前記透明導電膜はドーパントとしてフッ素原子を含有し、
窒素雰囲気中で最高温度700℃で116分間保持する耐熱試験により下記式1で求められる抵抗変化比が2以下である、透明導電膜付きガラス基板。
(式1) 抵抗変化比=(耐熱試験後の透明導電膜のシート抵抗値)/(耐熱試験前の透明導電膜のシート抵抗値)
2.前記透明導電膜のキャリア濃度と、透明導電膜1cm3あたりのフッ素イオン量との関係が下記式2を満たす、前記1に記載の透明導電膜付きガラス基板。
(式2) キャリア濃度(cm-3)>0.45×フッ素イオン量(cm-3)+1.5×1020
3.前記キャリア濃度が2.0×1020cm-3以上である前記2に記載の透明導電膜付きガラス基板。
4.前記透明導電膜における自由電子の移動度が32cm2/Vs以上である、前記1~3のいずれか1に記載の透明導電膜付きガラス基板。
5.前記透明導電膜における自由電子の移動度が38cm2/Vs以上である、前記1~4のいずれか1に記載の透明導電膜付きガラス基板。
6.前記アンダーコート層が以下の(a)又は(b)の構成を有する、前記1~5のいずれか1に記載の透明導電膜付きガラス基板。
(a)SiO2を主成分とする層と、TiO2又はSnO2を主成分とする層とを積層した構成。
(b)SiOC又はSiONを主成分とする層からなる構成。
7.前記ガラス基板上にCVD(Chemical Vapor Deposition:化学気相蒸着)法により前記アンダーコート層及び前記透明導電膜を順に形成することを含む、前記1~6のいずれか1に記載の透明導電膜付きガラス基板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の透明導電膜付きガラス基板によれば、耐熱試験における抵抗変化比が小さいことで、例えば650℃~700℃の高温における耐熱性に優れる。したがって、本発明の透明導電膜付きガラス基板は、高温プロセスを含む処理がなされ得る用途、例えば低放射率ガラス、太陽電池用の透明電極基板等に好適に用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、透明導電膜付きガラス基板の構成例を表す模式断面図である。
【
図2】
図2は、横軸をキャリア濃度、縦軸を移動度とした抵抗変化比の分布を示す図である。
【
図3】
図3は、横軸をフッ素イオン量、縦軸をキャリア濃度とした抵抗変化比の分布を示す図である。
【
図4】
図4は、横軸を透明導電膜の膜厚、縦軸をフッ素取り込み割合とした抵抗変化比の分布を示す図である。
【
図5】
図5は、CdTe太陽電池の構成例を表す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施できる。また、数値範囲を示す「~」とは、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0015】
<透明導電膜付きガラス基板>
図1に示すように、本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板1は、ガラス基板10、アンダーコート層30及び透明導電膜20をこの順に含む。
本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板1において、アンダーコート層30は酸化ケイ素を主成分とする層を含み、透明導電膜20の主成分がSnO
2であり、透明導電膜20はドーパントとしてフッ素原子を含有する。
【0016】
本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板は、窒素雰囲気中で最高温度700℃で116分間保持する耐熱試験により下記式1で求められる抵抗変化比が2以下である。
(式1) 抵抗変化比=(耐熱試験後の透明導電膜のシート抵抗値)/(耐熱試験前の透明導電膜のシート抵抗値)
本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板は、かかる抵抗変化比が2以下であることで、例えば650℃~700℃の高温プロセスを含む処理がなされた場合にもシート抵抗値の上昇を抑制でき、耐熱性に優れる。抵抗変化比は1.5以下が好ましく、1.25以下がより好ましい。また、抵抗変化比は小さいほど好ましいが、典型的には1以上である。
以下、本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板についてさらに具体的に説明する。
【0017】
(透明導電膜)
本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板において、透明導電膜の主成分はSnO2であり、透明導電膜はドーパントとしてフッ素原子を含有する。透明導電膜を構成する成分について、より詳しくは後述する。
【0018】
透明導電膜において、キャリア濃度と、透明導電膜1cm3あたりのフッ素イオン量との関係は下記式2を満たすことが好ましい。
(式2) キャリア濃度(cm-3)>0.45×フッ素イオン量(cm-3)+1.5×1020
本発明者らは、以下のように検討した結果、透明導電膜におけるキャリア濃度と、透明導電膜1cm3あたりのフッ素イオン量(以下、単に「フッ素イオン量」ともいう。)が上記式2の関係を満たすことで、透明導電膜付きガラス基板の耐熱性が向上しやすいことを見出した。ここで、透明導電膜1cm3あたりのフッ素イオン量とは、透明導電膜1cm3あたりのフッ素イオンの個数のことをいい、例えば透明導電膜におけるフッ素濃度(重量%)を測定して以下の式で算出できる。
フッ素イオン量=(フッ素濃度(重量%)/100)×(透明導電膜の密度(g/cm3))÷18.988×6.022×1023
ここで、透明導電膜の密度は、透明導電膜がフッ素ドープされたSnO2膜である場合は6.95g/cm3とする。また、Fの原子量:18.998、アボガドロ数:6.022×1023とする。
【0019】
まず、本発明者らは、透明導電膜の抵抗値を決定する要素であるキャリア濃度と自由電子の移動度(以下、単に「移動度」ともいう。)とがそれぞれ様々な値となるように条件を調整して、CVD法で透明導電膜を成膜して透明導電膜付きガラス基板を作製し、各透明導電膜付きガラス基板について抵抗変化比を調べた。横軸をキャリア濃度、縦軸を移動度とした抵抗変化比の分布を
図2に示す。
図2では、抵抗変化比の値によって色分けされた4種のマーカーが示されており、抵抗変化比(Rs ratio)の小さい方から順にマーカーA(1.03≦Rs ratio≦1.50)、マーカーB(1.50<Rs ratio≦2)、マーカーC(2<Rs ratio≦3)、マーカーD(3<Rs ratio≦6.11)と称する。ここで、マーカーA及びBでは抵抗変化比が2以下であり、マーカーC及びDでは抵抗変化比が2より大きい。なお、後述する
図3及び
図4においても同様のマーカーが用いられる。
【0020】
図2によれば、移動度が38cm
2/Vsよりも低い領域では抵抗変化比が概ね2以下であるが、移動度が38cm
2/Vs以上の領域においては、抵抗変化比の大きさはキャリア濃度や移動度の値で分類できないことがわかった。
そこで本発明者らは、移動度が38cm
2/Vs以上の透明導電膜付きガラス基板について、
図3に示すように、横軸をフッ素イオン量、縦軸をキャリア濃度として抵抗変化比の分布を検討した。すると、上記式2を満たす領域(
図3において、点線よりもキャリア濃度の大きい領域)にはマーカーA及びBのみが分布し、上記式2を満たさない領域にはほとんどマーカーC及びDのみが分布する結果となった。
【0021】
したがって、(式2) キャリア濃度(cm-3)>0.45×フッ素イオン量(cm-3)+1.5×1020を満たす場合、透明導電膜付きガラス基板において抵抗変化比が小さくなりやすく、耐熱性が向上しやすいことがわかった。なおこの結果は、透明導電膜が含有するフッ素原子のうち、キャリア発生に寄与するフッ素原子の割合が比較的多いほど耐熱性に優れることを意味すると考えられる。
【0022】
図4は、
図3と同様の各透明導電膜付きガラス基板について、横軸を透明導電膜の膜厚、縦軸を以下に説明するフッ素取り込み割合とした場合の抵抗変化比の分布を示す図である。
ここでフッ素取り込み割合とは、以下の式3で表される値をいう。
(式3) フッ素取り込み割合=(XRF F/Sn)/(HF/MBTC)
(XRF F/Sn):蛍光X線分析(XRF)による透明導電膜のSnの信号強度に対するFの信号強度の比
(HF/MBTC):CVD装置に供給された、モノブチル錫トリクロライド(MBTC)に対するフッ化水素(HF)のモル比
すなわちフッ素取り込み割合とは、Snの供給量又は含有量を基準としたときの、透明導電膜成膜時のフッ素の供給量に対する、成膜後の透明導電膜に取り込まれたフッ素量の割合を相対的に表す値である。
【0023】
図4によれば、マーカーA及びBはフッ素取り込み割合が比較的小さい領域にまとまって分布することがわかる。この結果は、フッ素取り込み割合が比較的大きい場合等、透明導電膜に過剰なフッ素原子が取り込まれた時には耐熱性が低下しやすいことを意味する。
なお、
図4において抵抗変化比と膜厚の関係を検討すると、マーカーA及びBは膜厚420nm余りから550nm付近まで幅広く分布しているので、膜厚は耐熱性を制限する要因ではないと考えられる。
【0024】
過剰なフッ素原子と耐熱性との関連については、次のように考えられる。すなわち、SnO2を主成分とする透明導電膜にドープされたフッ素原子は、SnO2の酸素サイトを置換して透明導電膜中に組み込まれると、自由電子を放出してキャリア発生に寄与する。しかしながら、透明導電膜にフッ素原子が過剰に取り込まれると、過剰なフッ素原子は、酸素サイトを置換せず、格子間やSnO2の結晶粒界に存在しやすくなる。このようなフッ素原子はキャリア発生には寄与しないと考えられ、比較的化学結合が不安定な状態にある。高温環境下ではこのようなフッ素原子が活性化し、SnO2格子に欠陥や歪みを生じさせてしまう。これにより高温加熱によりキャリア濃度や移動度が低下しやすく、結果として抵抗値が増大する、すなわち抵抗変化比が大きくなると考えられる。
【0025】
以上のような理由から、上記式2を満たし、透明導電膜が含有するフッ素原子のうち、キャリア発生に寄与するフッ素原子の割合が比較的多い場合は、寄与しないフッ素原子が少ないために抵抗変化比を小さくでき、耐熱性を向上できると考えられる。なお、
図3及び
図4は移動度が38cm
2/Vs以上の透明導電膜付きガラス基板について検討されたものであるが、上述の通り耐熱性に関係するのはフッ素取り込み割合であると考えられることから、透明導電膜付きガラス基板は移動度にかかわらず式2を満たすことで耐熱性に優れやすいと考えられる。
【0026】
透明導電膜において、キャリア濃度及びフッ素イオン量の関係が式2を満たすように調整する方法としては、特に限定されないが、例えば透明導電膜の原料の供給比率等を調整する方法が挙げられる。具体的な好ましい条件は後述する。
【0027】
透明導電膜の電気特性としてはシート抵抗が重要となる。シート抵抗は、比抵抗/膜厚で定義される実質的な透明導電膜としての電気抵抗である。比抵抗と膜厚を調整することにより、シート抵抗を好ましい値にできる。シート抵抗は、透明電極基板として、配線での電圧ロスを下げる観点や、低放射率ガラスとしての遮熱性を向上する観点から20Ω/□以下が好ましく、12Ω/□以下が更に好ましい。シート抵抗は低い程好ましいが、5Ω/□以上が実際的である。シート抵抗は、例えば4端針測定装置により測定でき、ホール効果測定装置でも測定できる。
【0028】
透明導電膜の比抵抗は、透明導電膜付きガラス基板としての導電性を大きくする観点から、0.001Ωcm以下が好ましく、0.0008Ωcm以下がより好ましく、0.0006Ωcm以下がさらに好ましい。また、透明導電膜の比抵抗は低いほど好ましいが、0.0001Ωcm以上が実際的である。なお、透明導電膜の比抵抗は、透明導電膜付きガラス基板に対して4端針測定装置を用いたシート抵抗値と膜厚から決定できる。
【0029】
なお透明導電膜の膜厚は、例えば透明導電膜付きガラス基板が低放射率ガラスに用いられる場合、ヘーズの増大を抑制する観点から450nm以下が好ましく、400nm以下がより好ましい。また、膜厚は抵抗を高くしすぎない観点から200nm以上が好ましく、300nm以上がより好ましい。
【0030】
また例えば透明導電膜付きガラス基板が太陽電池用の透明電極基板に用いられる場合、高い光透過率を確保する観点から800nm以下が好ましく、600nm以下がより好ましい。また、膜厚は抵抗を高くしすぎない観点から300nm以上が好ましく、400nm以上がより好ましい。透明導電膜の膜厚は、触針式段差計や蛍光X線分析装置を用いて測定できる。
【0031】
透明導電膜における自由電子の移動度は、透明導電膜のシート抵抗を小さくする観点から32cm2/Vs以上が好ましく、38cm2/Vs以上がより好ましく、45cm2/Vs以上がさらに好ましい。移動度は、透明導電膜付きガラス基板を低放射率ガラスに用いる場合及び太陽電池用透明電極基板に用いる場合のいずれにおいても重要であり、比較的値が大きいことが求められる。
【0032】
低放射率ガラスにおいては、そのヘーズが小さいことが求められるため、透明導電膜の膜厚は限定される傾向にある。一方で上述のとおり、遮熱性を向上するためには透明導電膜のシート抵抗が小さいことが求められる。したがって、膜厚を大きくせずにシート抵抗を小さくする観点から、比抵抗は比較的小さいことが好ましい。
【0033】
また、太陽電池用透明電極基板においては、比較的キャリア濃度が小さく、かつ移動度が大きい構成とすることで、近赤外域の透過率に優れた透明電極基板が得られる。近赤外域の透過率に優れた透明電極基板は太陽電池の電流を大きくしやすいため好ましい。したがって、移動度は比較的大きいことが好ましい。
移動度は大きいほど好ましいが、上限は52cm2/Vs程度が実際的である。
【0034】
透明導電膜のキャリア濃度は、透明導電膜付きガラス基板としての導電性を確保する観点から2.0×1020cm-3以上が好ましく、2.5×1020cm-3以上がより好ましく、3.0×1020cm-3以上がさらに好ましい。導電性を上昇させる観点から、キャリア濃度は大きい程好ましいが、上限は4.0×1020cm-3程度が実際的である。キャリア濃度を上記上限値以下とすることで、長波長領域での吸収率の増加を抑制でき、透明導電膜付きガラス基板の透過率の低下を抑制できる。透明導電膜のキャリア濃度及び移動度は、ホール効果測定装置により測定できる。
【0035】
透明導電膜の主成分はSnO2である。透明導電膜の主成分とは、透明導電膜を構成する成分のうち、50重量%以上であることを意味し、透明導電膜全体に対して70重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。また、透明導電膜における主成分の割合の上限は特に限定されないが、99.9重量%以下が実際的である。
【0036】
透明導電膜は、透明導電膜付きガラス基板としての透光性と導電性を有し、本発明の効果を奏する範囲であれば、主成分であるSnO2以外に他の成分を含んでもよい。他の成分としては、例えばZnO、In2O3、TiO2、Ga2O3等が挙げられる。
【0037】
透明導電膜はドーパントとしてフッ素原子を含有する。
透明導電膜におけるフッ素濃度は、透明導電膜付きガラス基板としての導電性を確保する観点から、0.01重量%以上が好ましく、0.015重量%以上がより好ましく、0.02重量%以上がさらに好ましい。一方で、透明導電膜への過剰なフッ素取り込みを抑制する観点から、フッ素濃度は0.2重量%以下が好ましく、0.15重量%以下がより好ましく、0.1重量%以下がさらに好ましい。
【0038】
透明導電膜の組成やフッ素濃度は、蛍光X線分析(XRF)、X線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により同定及び測定できる。本明細書において、フッ素濃度としては、蛍光X線分析(XRF)により実施例に記載の方法で測定される値を用いる。
【0039】
(アンダーコート層)
本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板1は、ガラス基板10と透明導電膜20との間にアンダーコート層30を含む。アンダーコート層30を備えることで、ガラス基板10から透明導電膜20へのアルカリ金属成分等の拡散を防止し、透明導電膜20の変質を抑制できる。また、アンダーコート層30の屈折率を調整することで、ガラス基板10と透明導電膜20との屈折率差による透明導電膜とガラス基板との界面での光の反射を抑制できる。
【0040】
アンダーコート層は酸化ケイ素を主成分とする層を含む。酸化ケイ素を主成分とする層としては例えばSiO2、SiOC又はSiONを主成分とする層等が挙げられる。アンダーコート層はこれらの混合膜及び積層膜等であってもよく、酸化ケイ素層を主成分とする層以外の層との積層膜であってもよい。酸化ケイ素層を主成分とする層以外の層としてはTiO2、SnO2等を主成分とする層が挙げられる。アンダーコート層の具体的な好ましい構成例としては、(a)SiO2を主成分とする層と、TiO2又はSnO2を主成分とする層とを積層した構成や、(b)SiOC又はSiONを主成分とする層を単独で有する構成等が挙げられる。
ここで、ある成分を主成分とする層とは、かかる層を構成する成分のうち、ある成分が50重量%以上であることを意味し、70重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。また、ある成分の主成分としての含有量の上限は特に限定されず、100重量%であってもよい。
【0041】
アンダーコート層の厚さは、上述の効果が好適に得られる点から10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。また、アンダーコート層自体による光の吸収を抑制する観点から、厚さは100nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましい。
【0042】
(ガラス基板)
ガラス基板は、従来から太陽電池用透明電極基板のガラス基板や低放射率ガラスに用いられるものと同様のものを使用できる。例えば、SiO2、Al2O3、B2O3、MgO、CaO、SrO、BaO、ZrO2、Na2OおよびK2Oを母組成として含むガラス基板が挙げられる。より具体的には、酸化物基準のモル百分率表示で、SiO2を60~75%、Al2O3を1~7.5%、B2O3を0~1%、MgOを8.5~12.5%、CaOを1~6.5%、SrOを0~3%、BaOを0~3%、ZrO2を0~3%、Na2Oを1~8%、K2Oを2~12%含有するガラス基板が挙げられる。ただし、これらの組成に限定されるものではない。
【0043】
ガラス基板は、太陽電池の発電効率や低放射率ガラスの透光性を考慮すると、波長500~800nmの光に対する平均透過率が、2mm厚み換算で90.3%以上が好ましく、90.4%以上がより好ましく、90.5%以上がさらに好ましい。
【0044】
また、ガラス基板は良好な耐熱性を有することが好ましい。
具体的には、ガラス軟化温度は680℃以上が好ましく、700℃以上がより好ましく、710℃以上がさらに好ましい。一方、溶解時の粘性を上げすぎないようにするため、ガラス軟化温度は850℃以下が好ましく、800℃以下がより好ましく、780℃以下がさらに好ましい。
【0045】
また、ガラス基板の50~350℃における平均熱膨張係数は、モジュール化する際にモジュールが反るのを抑制する点から70×10-7/℃以上が好ましく、80×10-7/℃以上がより好ましい。一方、剥がれ等を抑制する点から、95×10-7/℃以下が好ましく、90×10-7/℃以下がより好ましい。
【0046】
ガラス基板の厚さは、特に限定されないが、強度と透過率の観点から、0.7mm以上が好ましく、1.1mm以上がより好ましく、また、6.0mm以下が好ましく、4.0mm以下がより好ましい。
【0047】
<透明導電膜付きガラス基板の製造方法>
透明導電膜付きガラス基板1は、ガラス基板10上に、アンダーコート層30及び透明導電膜20を順に形成して得られる。
具体的には、ガラス基板は、ガラス原料を加熱して溶融ガラスを得る溶解工程、溶融ガラスから泡を除く清澄工程、溶融ガラスを板状にしてガラスリボンを得る成形工程、およびガラスリボンを室温状態まで徐冷する徐冷工程により得られる。また、溶融ガラスをブロック状に成形し、徐冷した後に、切断、研磨を経てガラス基板を製造してもよい。
【0048】
上記各工程は、従来公知の各方法を使用できる。製造方法は、実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で適宜変形や改良等が可能である。
【0049】
ガラス基板上にアンダーコート層を形成し、次いで透明導電膜を形成する。
アンダーコート層及び透明導電膜はいずれも、CVD(Chemical Vapor
Deposition:化学気相蒸着)法やスパッタリング法、化学メッキ法、湿式塗布法等により形成できる。スパッタリング法は製板されたガラス基板上に製膜する方法であり、化学メッキ法は鏡を作る際等にも用いられる方法である。アンダーコート層及び透明導電膜の成膜方法として、中でもCVD法が好ましく、後述する大気圧CVD法がより好ましい。
【0050】
大気圧CVD法には、オンラインCVD法とオフラインCVD法がある。
オンラインCVD法とはフロートライン上でガラス基板の製造過程中に、ガラスの表面に直接、膜を製膜する方法である。すなわち、ガラス基板を得た後に透明導電膜等を製膜するのではなく、ガラス基板を得る工程の途中で透明導電膜等を製膜する。
具体的には、ガラス基板の製造の際、ガラスリボンが溶融錫浴の上を移動した後、徐冷されることで、連続的にガラス基板が製造されるが、このガラスリボンの移動中に、ガラスリボンの上面に、所望する層の製膜工程を連続的に実施するものである。
【0051】
より具体的には、上記ガラス基板の製造方法における徐冷工程の前、すなわち、成形工程でフロートライン上にあるガラスがまだ熱い状態のうちに、気体原料をガラス表面に吹き付けて、反応させながら、所望の層を製膜することで透明導電膜付きガラス基板が得られる。
オンラインCVD法はガラス基板を製造する一連の工程の中で、アンダーコート層及び透明導電膜を連続的に形成できることから、製造コストを低く抑えられるため好ましい。
【0052】
一方で、オフラインCVD法とは、一旦、ガラス製造工程により製造され、適当なサイズに切断されたガラスを、改めて電気炉に投入して搬送しながら、前記オンラインCVD法と同様に気体原料の反応を利用して、所望の層を製膜する方法である。搬送速度や基板温度を製膜に合わせて設定できる利点がある反面、製造コストは、オンラインCVD法に比べて高くなる。
【0053】
アンダーコート層や透明導電膜の厚さは、CVD法の場合、原料の種類、原料ガス濃度、原料ガスのガラスリボンへの吹き付け流速、基板温度、コーティングビーム構造由来の反応ガス滞留時間等により制御できる。
【0054】
アンダーコート層をCVD法で成膜する方法として、例えば温度500~800℃に加熱されたガラス基板と気体原料とを反応させ、前記ガラス基板上に酸化ケイ素を主成分とする層を形成することを含む方法が好ましい。
アンダーコート層成膜時のガラス基板の温度は、CVD法の反応速度を向上させる観点から500℃以上が好ましく、600℃以上がより好ましく、700℃以上がさらに好ましい。また、ガラス基板の温度は、ガラス軟化の観点から800℃以下がより好ましく、760℃以下がさらに好ましい。
【0055】
気体原料としてはアンダーコート層の組成に応じて公知の原料を使用できる。SiO2を主成分とする層においては例えば、シラン類等のケイ素含有物質及び酸素等の酸化剤を含む混合ガスを気体原料とできる。また、SiOCを主成分とする層においては例えば、シラン類等のケイ素含有物質、二酸化炭素等の酸化剤及びエチレン等の不飽和炭化水素を含む混合ガスを気体原料とできる。SnO2を主成分とする層やTiO2を主成分とする層についても、例えばモノブチル錫トリクロライド等のSn含有物質やテトライソプロポキシチタン等のTi含有物質を含有し、さらに酸化剤等を適宜含有する混合ガスを気体原料とできる。
【0056】
また、透明導電膜をCVD法で成膜する方法として、例えば温度500~700℃に加熱されたガラス基板と気体原料とを反応させ、前記ガラス基板上に上述の透明導電膜を形成することを含む方法が好ましい。
透明導電膜成膜時のガラス基板の温度は、CVD法の反応速度を向上させる観点から500℃以上が好ましく、550℃以上がより好ましい。また、ガラス基板の温度は、ガラス軟化の観点から760℃以下がより好ましく、730℃以下がさらに好ましい。
【0057】
ここで、透明導電膜において、キャリア濃度及びフッ素イオン量が式2を満たすように調整する方法としては、透明導電膜を形成する際の原材料の種類や混合比を調整することが挙げられる。CVD法で透明導電膜を製膜する場合、気体原料は、例えばSn含有物質、F含有物質、水(水蒸気)及び酸素を含む混合ガスが好ましい。混合ガスは、さらに窒素ガス等の不活性ガスを含むことも好ましい。
混合ガスを得る方法としては、例えば、各物質を液相又は気相状態でミキサーに供給し、そこで加熱気化しながら混合する方法が挙げられる。
【0058】
Sn含有物質としては、モノブチル錫トリクロライド、錫テトラクロライド、トリメチル錫クロライド、ジメチル錫クロライド、モノメチル錫クロライド、モノブチル錫クロライド、テトラブチル錫等が挙げられ、安定性・安全性・気化装置の容易性の観点から、モノブチル錫トリクロライド、テトラブチル錫が好ましい。
F含有物質としては、フッ化水素、トリフロロ酢酸等が挙げられ、気化装置の容易性の観点からフッ化水素が好ましい。
【0059】
このとき、混合ガスにおけるSnに対するFのモル比は、フッ素取り込み量を抑制し、透明導電膜中の過剰なフッ素原子量を抑制する観点から0.5以下が好ましく、0.45以下がより好ましく、0.4以下がさらに好ましい。また、Fのモル比は導電性を確保する観点から0.2以上が好ましく、0.25以上がより好ましく、0.3以上がさらに好ましい。
【0060】
また、混合ガスにおけるSnに対するO2のモル比は、原料の酸化反応を十分に進行させる観点から4以上が好ましく、6以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。O2のモル比は原料濃度の希釈による製膜速度の低下を防ぐ観点から30以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下がさらに好ましい。
【0061】
混合ガスにおけるSnに対するH2Oのモル比は、原料の加水分解反応を十分に進行させる観点から10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましい。H2Oのモル比は原料濃度の希釈による製膜速度の低下を防ぐ観点から100以下が好ましく、50以下がより好ましく、40以下がさらに好ましい。
【0062】
さらに、透明導電膜の膜厚が同等である場合、混合ガスにおけるSnに対するH2Oのモル比を比較的小さくすることで、透明導電膜が式2を満たしやすい傾向がある。このような傾向がある理由について、定かではないが、混合ガス中のH2O量は成膜速度や粒構造の形成にかかわるため、混合ガス中のH2Oの量に対して成膜条件を変化させると、その条件によりフッ素取り込み量が大きく変化しやすいものと考えられる。
【0063】
また、混合ガスの組成が同等である場合、透明導電膜の膜厚を比較的大きくすることで、透明導電膜が式2を満たしやすい傾向がある。
そして、Snに対するH2Oのモル比が同等である場合、Snに対するFのモル比を比較的小さくし、透明導電膜の膜厚を大きくすることで、透明導電膜が式2を満たしやすい傾向がある。
【0064】
したがって、混合ガスの組成を上記の好ましい範囲に調整しつつ、さらに上記の傾向に応じて混合ガスの組成や透明導電膜の膜厚を調整することで、キャリア濃度とフッ素イオン量との関係が式2を満たす透明導電膜が得られる。また、かかる条件で透明導電膜を製造することで、抵抗変化比が2以下の透明導電膜が得られる。
【0065】
<太陽電池用透明電極基板>
本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板は太陽電池用透明電極基板に好適に用いられる。透明電極基板に含まれる透明導電膜付きガラス基板の好ましい態様は上述したものと同様であるが、透明電極基板は透明導電膜上にさらに表面層を有する構成となることもある。なお、透明導電膜上にさらに表面層を有する場合であっても、透明電極基板の耐熱性における支配的な要因は透明導電膜の耐熱性であると考えられるので、このような本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板を含む透明電極基板は、本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板と同様の効果によって耐熱性に優れると考えられる。
【0066】
(表面層)
表面層は、透明電極基板を太陽電池とした際に、電気的な短絡点を周囲から隔離する働きがある。この効果を得る観点から、表面層は高抵抗であることが好ましい。そのため表面層は、ドーパントを含有しない層であることが好ましい。また、表面層は透明導電膜を十分に被覆することが好ましい。
【0067】
表面層は、透明電極基板としての透光性を有し、ある程度以上の導電性を有すれば特に限定されないが、例えばSn、Zn、Ti、Cd、Mg及びInからなる群から選ばれる1以上の元素の酸化物を主成分とすることが好ましい。ここで表面層の主成分とは、表面層を構成する成分のうち、50重量%以上であることを意味し、表面層全体に対して70重量%以上であることが好ましく、85重量%以上であることがより好ましい。また、主成分としての含有量の上限は特に限定されず、100重量%であってもよい。表面層の主成分は、SnO2又はZnOがより好ましく、SnO2がさらに好ましい。表面層の組成はX線光電子分光法(XPS)や二次イオン質量分析法(SIMS)により同定できる。
【0068】
表面層の厚さは、厚過ぎると抵抗が大きくなり電極の機能である電子移動を妨げるおそれがあることから、80nm以下が好ましく、60nm以下がより好ましい。一方、透明導電膜の表面を十分に被覆する観点から、表面層の厚さは10nm以上が好ましく、20nm以上がより好ましい。なお表面層の厚さは、触針式段差計や蛍光X線分析装置、X線光電子分光法(XPS)もしくは、二次イオン質量分析法(SIMS)により測定できる。
また表面層は、例えば上述したアンダーコート層や透明導電膜と同様の方法で形成できる。
【0069】
<太陽電池>
上述の太陽電池用透明電極基板を有する太陽電池の好ましい態様の一例を説明する。太陽電池用透明電極基板の構成や好ましい態様は、上記<太陽電池用透明電極基板>で記載したものと同様である。
太陽電池としては、透明基板上に透明導電膜、発電層(電池層)、裏面電極が順に形成され、太陽光が透明基板側から入射するタイプの太陽電池(スーパーストレート型太陽電池)が好ましい。また、その製造工程において透明導電膜付きガラス基板が高温で加熱されうる太陽電池、例えばCdTe太陽電池に本実施形態に係る透明導電膜付きガラス基板を含む透明電極基板を適用することが好ましい。ただし、他の太陽電池に適用することを何ら排除するものではない。
CdTe太陽電池は、例えば
図5に示すように、透明導電膜付きガラス基板上に表面層21を積層した透明電極基板を有し、その表面上に、n型層40、p型層50、及び裏面電極(陽極)60が順に積層された構成を有する。
【0070】
CdTe太陽電池の場合、n型層としては、従来公知のものを使用でき、例えばCdS、CdSe等が挙げらる。
n型層の厚みは30nm以上が好ましく、また、100nm以下が好ましい。
n型層は例えば近接昇華法により形成でき、昇華速度を変更したり、基板温度を変更することにより、その厚みや膜質を調整できる。
【0071】
p型層としてはCdTeが一般的である。p型層の厚みは3μm以上が好ましく、また、15μm以下が好ましい。
p型層は例えば近接昇華法により形成でき、昇華速度を変更したり、基板温度を変更することにより、その厚みや膜質を調整できる。
【0072】
裏面電極は陽極として作用する。裏面電極としては従来公知のものを使用でき、例えば、銀(Ag)やモリブデン(Mo)等の金属材料膜が積層された構造の電極や、Cuをドープしたカーボン電極、等が挙げられる。また、裏面電極上にさらに裏板ガラスを有していてもよい。裏板ガラスは耐水性や耐酸素透過性を有していればよく、裏板ガラスに代えて樹脂からなるバックフィルムを用いてもよい。
裏面電極と裏板ガラス又はバックフィルムとの間は、樹脂封入や接着用の樹脂により接着される。
裏面電極の厚みは100nm以上が好ましく、また、1000nm以下が好ましい。裏板ガラス又はバックフィルムの厚みは1mm以上が好ましく、また、3mm以下が好ましい。
【0073】
CdTeからなるp型層の端部又はCdTe太陽電池の端部は封止されていてもよい。封止するための材料としては、例えば、前記透明導電膜付きガラス基板におけるガラス基板と同じ組成を有するガラスや、その他の組成のガラス、樹脂等が挙げられる。
【0074】
<低放射率ガラス>
本実施形態の透明導電膜付きガラス基板は低放射率ガラスに好適に用いられる。透明導電膜付きガラス基板の構成や好ましい態様は、上記<透明導電膜付きガラス基板>で記載したものと同様である。
【0075】
低放射率ガラスにおいて、透明導電膜の放射率の値は、0.25以下が好ましく、0.20以下がより好ましい。また、透明導電膜の放射率は低いほど好ましいが、0.05以上が実際的である。
【実施例】
【0076】
以下に実施例を挙げ、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。例1~4は実施例であり、例5~8は比較例である。
【0077】
[実施例、比較例]
以下に示すように、板ガラスに整形されたガラス基板に製膜するオフライン大気圧CVD(化学気相蒸着)法によりアンダーコート層及び透明導電膜を順に形成することで、透明導電膜付きガラス基板を得た。本発明の透明導電膜付きガラス基板はオフライン大気圧CVD法により製膜されるものに限定されず、フロート法によりガラス基板を製造すると同時に製膜するオンライン大気圧CVD法により製膜されるものについても同様の効果が得られる。
【0078】
メッシュベルトによって基体(ガラス基板)を搬送するトンネル式加熱炉に複数のガス供給装置を取り付けたタイプのオフライン式CVD装置を用いて透明導電膜付きガラス基板を製造した。具体的には、以下に示すように、ガラス基板上に、アンダーコート層として酸化チタン(TiO2)層及び酸化ケイ素(SiO2)層、並びに透明導電膜としてフッ素がドープされている酸化スズ層(SnO2:F)を順に形成して透明導電膜付きガラス基板を得た。
【0079】
まず、ガラス基板を搬送しながら、加熱ゾーンにおいて、550℃以上に加熱した。なお、ガラス基板は、厚さ3.2mm、サイズ1400mm×1100mmのソーダライムシリケートガラス基板を使用した。
ついで、加熱されたガラス基板に、ガス供給装置により、酸化チタン層の原料となる気化したテトライソプロポキシチタンとキャリアーガスとしての窒素ガスとを吹き付け、搬送されている状態のガラス基板の表面に酸化チタン層を形成させた。なお、テトラチタンイソプロポキシドは、100℃程度に保温したバブラータンクに入れ、窒素ガスによりバブリングして気化させ、ステンレス配管によりガス供給装置に輸送した。
【0080】
次に、表面に酸化チタン層が形成されたガラス基板を再度550℃以上に加熱した後、ガス供給装置により、酸化ケイ素層の原料となるシランガスと酸素ガスとキャリアーガスとしての窒素ガスとを吹き付け、搬送されている状態のガラス基板の酸化チタン層の表面に酸化ケイ素層を形成させた。
【0081】
次に、表面に酸化ケイ素層が形成されたガラス基板を再度550℃以上に加熱した後、ガス供給装置により、混合ガスを供給し、SiO2膜上にSnO2:Fからなる透明導電膜を製膜した。
【0082】
[例1]
ここで、混合ガスにおける各原料の供給量を以下に示す。なお、透明導電膜を製膜する際の混合ガスはいずれも、液体原料は気化した状態で気体原料とミキサーに供給し、そこで保温しながら混合して混合ガスとし、ガラス基板表面に整流した状態でガスを給気するコーティングビームに輸送される。混合ガスはガラス基板表面で反応しSnO
2:F膜を形成し、残余ガスと副生成物が排気される。以下の例1、2、3、4は
図3における式2を満たす領域から選んだ実験点に相当する製膜条件である。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド90g/分(液相)、酸素93L/分(気相)、水86g/分(液相)、フッ化水素1.4L/分(気相)、希釈窒素246L/分
【0083】
[例2]
混合ガスにおける原料の供給量を以下のように変更した以外は例1と同様にして透明導電膜付きガラス基板を得た。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド90g/分(液相)、酸素86L/分(気相)、水113g/分(液相)、フッ化水素3.6L/分(気相)、希釈窒素266L/分
【0084】
[例3]
混合ガスにおける原料の供給量を以下のように変更した以外は例1と同様にして透明導電膜付きガラス基板を得た。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド70g/分(液相)、酸素67L/分(気相)、水134g/分(液相)、フッ化水素2.2L/分(気相)、希釈窒素297L/分
【0085】
[例4]
混合ガスにおける原料の供給量を以下のように変更した以外は例1と同様にして透明導電膜付きガラス基板を得た。例4における透明導電膜付きガラス基板の製造条件は例3と実質同じである。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド70g/分(液相)、酸素67L/分(気相)、水134g/分(液相)、フッ化水素2.2L/分(気相)、希釈窒素297L/分
【0086】
[例5]
混合ガスにおける原料の供給量を以下のように変更した以外は例1と同様にして透明導電膜付きガラス基板を得た。以下の例5、6、7、8は
図3における式2を満たさない領域から選んだ実験点に相当する製膜条件である。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド70g/分(液相)、酸素67L/分(気相)、水89g/分(液相)、フッ化水素2.8L/分(気相)、希釈窒素266L/分
【0087】
[例6]
混合ガスにおける原料の供給量を以下のように変更した以外は例1と同様にして透明導電膜付きガラス基板を得た。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド90g/分(液相)、酸素86L/分(気相)、水115g/分(液相)、フッ化水素3.6L/分(気相)、希釈窒素266L/分
【0088】
[例7]
混合ガスにおける原料の供給量を以下のように変更した以外は例1と同様にして透明導電膜付きガラス基板を得た。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド55g/分(液相)、酸素53L/分(気相)、水105g/分(液相)、フッ化水素2.6L/分(気相)、希釈窒素324L/分
【0089】
[例8]
混合ガスにおける原料の供給量を以下のように変更した以外は例1と同様にして透明導電膜付きガラス基板を得た。
混合ガス:モノブチル錫トリクロライド60g/分(液相)、酸素57L/分(気相)、水115g/分(液相)、フッ化水素2.9L/分(気相)、希釈窒素292L/分
【0090】
各例で用いた混合ガスにおける、モノブチル錫トリクロライドに対するH2Oのモル比(H2O/MBTC)、モノブチル錫トリクロライドに対するフッ化水素のモル比(HF/MBTC)及びモノブチル錫トリクロライドに対するO2のモル比(O2/MBTC)をそれぞれ表1に示す。また、得られた各透明導電膜付きガラス基板について、以下の測定および評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
(膜厚)
触針式膜厚計(Sloan technology社製、型番Dektak3030)を用いて透明導電膜の膜厚を測定した。なお、例3及び4は透明導電膜の製膜条件が実質的に同等であるが、透明導電膜の膜厚が異なる。この違いは同じ製膜装置及び成膜条件であっても膜厚が同じにならない場合があることを反映したものである。
【0092】
(抵抗変化比)
透明導電膜付きガラス基板を1cm角の大きさに切断して、ホール効果測定装置(アクセントオプティカルテクノロジーズ社製、HL5500PC)を用い、まず、耐熱試験前の透明導電膜のシート抵抗値(Rs初期)、比抵抗、キャリア濃度、移動度を測定した。次に、搬送式ベルトコンベア炉(DENKO社製)を700℃に設定し、11.2mm/分の速度で搬送しながら116分間加熱した。なお、炉内は、窒素を連続的に供給し、酸素濃度10ppm以下の雰囲気に保った。加熱後に、再び、前記と同様の方法で耐熱試験後の透明導電膜のシート抵抗値(Rsテスト後)を測定し、それらの結果から、下記式1により抵抗変化比を求めた。
(式1) 抵抗変化比=(耐熱試験後の透明導電膜のシート抵抗値)/(耐熱試験前の透明導電膜のシート抵抗値)
【0093】
(キャリア濃度、移動度)
透明導電膜付きガラス基板を1cm角に切断し、ホール効果測定装置(アクセントオプティカルテクノロジーズ社製、HL5500PC)により測定した透明導電膜のキャリア濃度、移動度は上述の通り、耐熱試験前、すなわち初期の状態の測定値である。
【0094】
(XRF F/Sn、フッ素濃度)
透明導電膜のフッ素濃度は、蛍光X線分析装置RIX3000(株式会社リガク製)を用いて測定した。条件としては、X線管球にRhターゲットを用い、出力を40kV-70mAとし、測定径は、30mmφとした。蛍光X線のエネルギー位置はSn-Lα線:3.444keV、F-Kα線:0.677keVであり、それぞれの信号強度は、膜厚深さ方向の信号強度を積分した値である。信号強度は表面が最も大きく、膜厚深さ方向にむけて減衰する。膜厚深さxから検出できる信号強度は次式のように指数関数に従って減衰する。
膜厚深さxからの元素aの信号強度=I0×exp(-x/λa)×C0
(I0;入射X線強度、C0;元素aの膜中濃度、λa;元素aの膜中の減衰係数)
【0095】
蛍光X線信号強度は、この式の値を膜厚深さxについて積分した値に相当する。測定値からF、Snそれぞれの膜中濃度C0を求めるにあたって、SIMS(2次イオン質量分析法)により定量分析した試料を標準サンプルとして用いた。また、F、Snそれぞれの減衰係数については別途検討から求めた値を用いた。
上記測定により得られた透明導電膜のSnの信号強度に対するFの信号強度の比(XRF F/Sn)及びフッ素濃度の値を表1に示す。
【0096】
(フッ素イオン量)
上記で得られたフッ素濃度を用いて下記式により透明導電膜1cm-3あたりのフッ素イオン量を算出した。
フッ素イオン量(cm-3)=(フッ素濃度(重量%)/100)×(透明導電膜の密度(g/cm3))÷18.988×6.022×1023
ここで、各例における透明導電膜はいずれもフッ素ドープされたSnO2膜であるので、透明導電膜の密度は6.95g/cm3とした。また、Fの原子量:18.998、アボガドロ数:6.022×1023とした。
表1に、得られた各透明導電膜付きガラス基板におけるフッ素イオン量(表中の「(1)」)、及びフッ素イオン量を下記の式2の右辺に代入した値(表中の「(2)」)を示す。
(式2) キャリア濃度(cm-3)>0.45×フッ素イオン量(cm-3)+1.5×1020
【0097】
【0098】
表1中に示すように実施例である例1~4の透明導電膜付きガラス基板は、抵抗値変化が2よりも小さく耐熱性に優れる結果となった。また例1~4では(2)の値がキャリア濃度よりも小さく、キャリア濃度とフッ素イオン量の関係はいずれの例も式2を満たすものであった。これに対して比較例である例5~8は抵抗変化比が3を上回っていた。また、例5~8では(2)の値が初期キャリア濃度を上回っており、キャリア濃度とフッ素イオン量の関係はいずれの例も式2を満たさなかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
本発明に係る透明導電膜付きガラス基板は、例えば650℃~700℃の高温における耐熱性に優れるので、建築物、車両等のガラス窓や、冷凍ショーケース、調理器具等に用いられる低放射率ガラス、並びに太陽電池に用いられる透明電極基板に好適に用いられる。太陽電池としては、例えばスーパーストレート型太陽電池が好ましく、特にその製造工程において透明導電膜付きガラス基板が高温で加熱されうる太陽電池、例えばCdTe太陽電池が好ましい。
【符号の説明】
【0100】
1 透明導電膜付きガラス基板
2 CdTe太陽電池
10 ガラス基板
20 透明導電膜
21 表面層
30 アンダーコート層
40 n型層
50 p型層
60 裏面電極