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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】イノシトール誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 19/18 20060101AFI20231205BHJP
   C12P 19/04 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C12P19/18
C12P19/04 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022147922
(22)【出願日】2022-09-16
(62)【分割の表示】P 2019539714の分割
【原出願日】2018-09-04
(65)【公開番号】P2022180483
(43)【公開日】2022-12-06
【審査請求日】2022-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017169774
(32)【優先日】2017-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 一郎
(72)【発明者】
【氏名】山木 進二
(72)【発明者】
【氏名】中上 夕子
【審査官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-306867(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076310(WO,A1)
【文献】特開昭63-196596(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067688(WO,A1)
【文献】Tetrahedron Asymmetry,2010年,Vol.21,pp.43-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 7/00-7/66
C12P 19/00-19/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
糖転移酵素の存在下で、イノシトールとオリゴ糖とを、質量比1:3.5~1:4.5で反応させることを含
前記イノシトールが、myo-イノシトールであり、
前記オリゴ糖がβ-シクロデキストリンであり、
前記糖転移酵素が、シクロデキストリングルカノトランスフェラーゼである、
イノシトール誘導体の製造方法。
【請求項2】
前記イノシトールとオリゴ糖との反応を、30~70時間行う、請求項1に記載のイノシトール誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記イノシトールとオリゴ糖との反応を、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、及びHEPES緩衝液からなる群より選択される緩衝液中で行う、請求項2に記載のイノシトール誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記緩衝液が、クエン酸緩衝液である、請求項3に記載のイノシトール誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イノシトール誘導体の混合物に関する。また、前記イノシトール誘導体の混合物を含有する細胞賦活剤、細胞賦活用組成物、皮膚外用剤、及び化粧料に関する。
本願は、2017年9月4日に、日本に出願された特願2017-169774号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
イノシトールに糖が結合したイノシトール誘導体は、皮膚外用剤の有効成分として配合され、皮膚に対して種々の効果をもたらすことが知られている。
たとえば、特許文献1に記載されたイノシトール誘導体を含有する皮膚外用剤は、皮膚に滑らかさを伴って十分な潤い感を与え、皮膚を健やかに保つ効果があることが示されている。特許文献2に記載されたイノシトール誘導体を含有する皮膚外用剤は、皮膚の水分保持機能を向上させ、皮膚バリア機能を高めることが示されている。特許文献3に記載されたイノシトール誘導体を含有する皮膚外用剤は、角層の物理的なバリアの向上、表皮の生理的な保湿機能の向上、皮膚の水分保持機能の向上などの効果を有することが示されている。特許文献4に記載されたイノシトール誘導体を含有する皮膚外用剤は、細胞賦活作用、及び紫外線暴露による細胞傷害の緩和作用を有することが記載されている。
【0003】
イノシトールにグルコース又はグルコースを構成単位とするオリゴ糖が結合したイノシトール誘導体を製造する方法としては、イノシトールとデキストリンをシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ存在下で反応させる方法が知られている(特許文献5)。
この反応では、イノシトールに結合する糖の単糖単位数が異なるイノシトール誘導体の混合物が得られる。たとえば特許文献5の実施例では、1分子のイノシトールに結合した糖の単糖単位数が1~6のイノシトール誘導体の混合物が得られることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許4624831号公報
【文献】国際公開第2016/067688号
【文献】国際公開第2016/076310号
【文献】特開2007-84484号公報
【文献】特開昭63-196596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~5のいずれにおいても、細胞賦活効果の高いイノシトール誘導体の混合物の組成は示されていない。そこで、本発明は、細胞賦活効果が向上した、イノシトール誘導体の混合物及びその用途を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の態様を含む。
(1)イノシトールに糖が結合したイノシトール誘導体の混合物であって、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体(A10)を含有する、イノシトール誘導体の混合物。
(2)前記イノシトール誘導体(A10)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、1質量%以上含有する、(1)に記載のイノシトール誘導体の混合物。
(3)前記イノシトール誘導体(A10)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有する、(2)に記載のイノシトール誘導体の混合物。
(4)イノシトール1分子に結合した前記糖の合計が単糖単位換算で11以上であるイノシトール誘導体を含有する、(1)~(3)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物。
(5)イノシトール1分子に結合した前記糖の合計が単糖単位換算で12以上であるイノシトール誘導体を含有する、(4)に記載のイノシトール誘導体の混合物。
(6)前記イノシトール誘導体(A10)が、下記(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体である、(1)~(5)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物:
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体;及び
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体。
(7)前記イノシトール誘導体の混合物が、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10未満であるイノシトール誘導体(B10)をさらに含有し、前記イノシトール誘導体(B10)が、下記(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体である、(1)~(6)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物:
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体;
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体;及び
(c)イノシトールにグルコースが1以上結合したイノシトール誘導体。
(8)イノシトールに糖が結合したイノシトール誘導体の混合物であって、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7以上であるイノシトール誘導体(A7)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有する、イノシトール誘導体の混合物。
(9)前記イノシトール誘導体(A7)が、下記(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体である、(8)に記載のイノシトール誘導体の混合物:
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体;及び
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体。
(10)前記イノシトール誘導体の混合物が、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7未満であるイノシトール誘導体(B7)をさらに含有し、前記イノシトール誘導体(B7)が、下記(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体である、(8)又は(9)に記載のイノシトール誘導体の混合物:
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体;
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体;及び
(c)イノシトールにグルコースが1以上結合したイノシトール誘導体。
(11)前記イノシトールがmyo-イノシトールである、(1)~(10)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物。
(12)細胞賦活を促進する、(1)~(11)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物。
(13)(1)~(12)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物を含有する、細胞賦活剤。
(14)(1)~(12)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物を含有する、細胞賦活用組成物。
(15)(1)~(12)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物を含有する、皮膚外用剤。
(16)(1)~(12)のいずれか一項に記載のイノシトール誘導体の混合物を含有する、化粧料。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、細胞賦活効果が向上したイノシトール誘導体の混合物及びその用途が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
[イノシトール誘導体の混合物]
一実施形態において、本発明は、イノシトールに糖が結合したイノシトール誘導体の混合物を提供する。本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、後述する第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物である。
【0009】
(イノシトール誘導体)
イノシトールとは、C(OH)で表される環状六価アルコールである。イノシトールには、cis-イノシトール、epi-イノシトール、allo-イノシトール、myo-イノシトール、muco-イノシトール、neo-イノシトール、chiro-イノシトール(D体及びL体が存在する。)、scyllo-イノシトールの、9つの立体異性体が存在する。
【0010】
イノシトール誘導体を構成するイノシトールは、上記の異性体のうち、生理活性を有するmyo-イノシトールであることが好ましい。イノシトールは、米糠から抽出する方法、化学合成法、及び発酵法等により合成することができる。myo-イノシトールの構造式を以下に示す。
【0011】
【化1】
(myo-イノシトール)
【0012】
イノシトール誘導体は、イノシトールの水酸基に糖が結合した化合物である。糖は、イノシトール分子内に6つ存在する水酸基のいずれか1つに結合していてもよく、いずれか2つ以上に結合していてもよい。
【0013】
イノシトールに結合する糖は、単糖であってもよく、オリゴ糖であってもよい。例えば、1分子のイノシトールに1又は複数の単糖が結合していてもよく、1分子のイノシトールに1又は複数のオリゴ糖が結合していてもよく、1分子のイノシトールに1又は複数の単糖及び1又は複数のオリゴ糖が結合していてもよい。イノシトール誘導体において、1分子のイノシトールに結合した糖(単糖及び/又はオリゴ糖)の合計は、単糖単位に換算して1以上であり、例えば2以上であってもよく、例えば3以上であってもよく、例えば4以上であってもよい。
【0014】
本明細書において、単糖とは、それ以上加水分解されない糖類を意味し、多糖を形成する際の構成要素となる化合物を意味する。単糖は、糖類の最小構成単位であるということもできる。また、本明細書において、「単糖単位」とは、単糖に相当する化学構造を意味する。「単糖単位」は、単糖に由来する化学構造であるということもできる。例えば二糖を単糖単位に換算すると2であり、三糖を単糖単位に換算すると3である。より具体的には、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、グルコース、果糖、キシロース等を単糖単位に換算すると1である。
また、マルチトール、ショ糖、乳糖、マルトース、トレハロース等を単糖単位に換算すると2である。また、例えば、α-シクロデキストリンを単糖単位に換算すると6であり、β-シクロデキストリンを単糖単位に換算すると7であり、γ-シクロデキストリンを単糖単位に換算すると8である。
【0015】
イノシトール誘導体を構成する糖としては、特に制限はなく、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、グルコース、ショ糖、果糖、乳糖、マルトース、キシロース、トレハロース、デキストリン、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等が挙げられる。
【0016】
イノシトール誘導体を構成する糖は、グルコースであってもよく、グルコースを構成単位として含むオリゴ糖であってもよい。上記のオリゴ糖は、グルコースのみを構成単位として含んでいてもよい。あるいは、上記のオリゴ糖は、少なくとも1分子のグルコースと、グルコース以外の糖を構成単位として含んでいてもよい。上記のオリゴ糖の分子量は、例えば、300~3000程度であってもよい。より具体的なオリゴ糖としては、スクロース、ラクトース、マルトース、トレハロース、セロビオース等の二糖類、ラフィノース、メレジトース、マルトトリオース等の三糖類、スタキオース等の四糖類等が挙げられる。
【0017】
高い精製度のイノシトール誘導体を得やすくなる観点から、イノシトール誘導体の原料として、工業的に安価で安定供給可能なβ-シクロデキストリンを用いることが好ましい。この場合、イノシトール誘導体を構成する糖はグルコースを構成単位として含むことになる。一方、イノシトール誘導体の原料として、より安価なデンプン等を使うと、イノシトール誘導体の合成時に様々な糖が様々な場所に転移されるため、得られるイノシトール誘導体の精製度が安定しない傾向がある。
【0018】
また、イノシトール誘導体は、薬学的に許容可能な塩の形態であってもよい。本明細書において、「薬学的に許容可能な塩」とは、イノシトール誘導体の細胞賦活効果を阻害しない塩の形態を意味する。イノシトール誘導体の薬学的に許容可能な塩としては、特に制限されず、例えば、アルカリ金属(ナトリウム、カリウムなど)との塩;アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウムなど)との塩;有機塩基(ピリジン、トリエチルアミンなど)との塩、アミンとの塩、有機酸(酢酸、ギ酸、プロピオン酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、シュウ酸、安息香酸、メタンスルホン酸など)との塩、及び無機酸(塩酸、リン酸、臭化水素酸、硫酸、硝酸など)との塩等が挙げられる。
【0019】
また、イノシトール誘導体は、溶媒和物の形態であってもよい。さらに、イノシトール誘導体は、イノシトール誘導体の塩の溶媒和物の形態であってもよい。溶媒和物としては、特に制限されず、例えば、水和物、エタノール溶媒和物等を挙げることができる。
【0020】
(イノシトール誘導体の混合物)
イノシトール誘導体の混合物は、2種類以上のイノシトール誘導体を含む。当該2種類以上のイノシトール誘導体は、イノシトール1分子に結合する糖の組成が互いに異なっている。例えば、イノシトール1分子に結合する糖の合計が単糖単位換算で互いに異なっていてもよく、イノシトール1分子に結合する糖の種類が互いに異なっていてもよい。イノシトール誘導体の混合物が含むイノシトール誘導体の種類数は、特に限定されず、2~100種類程度であり得る。例えば、イノシトール誘導体の混合物としては、イノシトール1分子に結合する糖の単糖単位数について2~30種類程度であるイノシトール誘導体の混合物を挙げることができる。イノシトール誘導体の混合物は、イノシトール1分子に結合する糖の単糖単位数について5種類以上であることが好ましく、10種類以上であることがより好ましく、11種類以上であることがさらに好ましく、12種類以上であることが特に好ましい。
【0021】
イノシトール誘導体の混合物は、イノシトール誘導体以外の成分(以下、「不純物」という。)を含んでいてもよい。不純物としては、例えば、イノシトール誘導体の混合物を製造する際に用いた原材料、酵素、触媒、溶媒等;及びイノシトール誘導体の混合物の製造過程で生じた中間生成物、副産物等が挙げられる。イノシトール誘導体の混合物における不純物の割合としては、例えば、10質量%以下が挙げられる。イノシトール誘導体の混合物における不純物の割合としては、7質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、3質量%以下がさらに好ましく、1質量%以下が特に好ましい。
【0022】
<第1実施形態>
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体(A10)を含有することを特徴とする。
なお、本明細書においては、「イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体」を、「単糖単位10以上のイノシトール誘導体」と表記することがある。他のイノシトール誘導体についても同様に表記することがある。あるいは、「イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体」を、「イノシトール誘導体(A10)」と表記することがある。他のイノシトール誘導体についても同様に表記することがある。例えば、「イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7以上であるイノシトール誘導体」を、「イノシトール誘導体(A7)」と表記することがある。一方、「イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10未満であるイノシトール誘導体」を、「イノシトール誘導体(B10)」と表記することがある。他のイノシトール誘導体についても同様に、例えば、「イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7未満であるイノシトール誘導体」を、「イノシトール誘導体(B7)」と表記することがある。
【0023】
(単糖単位10以上のイノシトール誘導体:イノシトール誘導体(A10))
実施例において後述するように、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位10以上のイノシトール誘導体を含有することにより、細胞賦活効果が向上する。なお、本明細書において、「細胞賦活」とは、細胞の増殖活性が向上することを意味する。すなわち、「細胞賦活効果」とは、細胞の増殖活性を向上させる作用を意味する。
【0024】
単糖単位10以上のイノシトール誘導体は、単糖単位換算で10以上の糖を有していれば、他の構成(糖が結合する水酸基の位置及び数、糖の種類等)は特に限定されない。単糖単位10以上のイノシトール誘導体は、例えば、イノシトール分子内の6つの水酸基のいずれか1つに、10以上の単糖単位のオリゴ糖1分子が結合したものであってもよい。また、例えば、イノシトール分子内の6つの水酸基のいずれか2つ以上に、合計して10以上の単糖単位の単糖及びオリゴ糖が結合したものであってもよい。また、例えば、イノシトール分子内の6つの水酸基のいずれか2つ以上に、合計して10以上の単糖単位のオリゴ糖が結合したものであってもよい。イノシトール分子内の2以上の水酸基に糖が結合する場合、各水酸基に結合する糖は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0025】
一態様において、単糖単位10以上のイノシトール誘導体が有する糖は、グルコース又はグルコースを構成単位とするオリゴ糖である。そのようなイノシトール誘導体としては、下記(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体が挙げられる。
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体。
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体。
上記(a)及び(b)において、グルコースを構成単位として含むオリゴ糖は、グルコースのみを構成単位として含むオリゴ糖であることが好ましい。
【0026】
単糖単位10以上のイノシトール誘導体が有する糖の単糖単位数は、10以上であれば特に限定されない。単糖単位10以上のイノシトール誘導体が有する糖の単糖単位数としては、例えば、10~50が例示され、好ましくは10~30であり、より好ましくは10~20であり、さらに好ましくは10~15である。また、単糖単位10以上のイノシトール誘導体が有する糖の単糖単位数は、11以上であってもよい。この場合、糖の単糖単位数としては、例えば、11~50が例示され、好ましくは11~30であり、より好ましくは11~20であり、さらに好ましくは11~15である。また、単糖単位10以上のイノシトール誘導体が有する糖の単糖単位数は、12以上であってもよい。この場合、糖の単糖単位数としては、例えば、12~50が例示され、好ましくは12~30であり、より好ましくは12~20であり、さらに好ましくは12~15である。
【0027】
また、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位10以上のイノシトール誘導体を2種以上含有してもよい。例えば、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位10のイノシトール誘導体と、単糖単位11以上のイノシトール誘導体と、を含有してもよい。また、例えば、単糖単位10のイノシトール誘導体と、単糖単位12以上のイノシトール誘導体と、を含有してもよい。また、例えば、単糖単位11のイノシトール誘導体と、単糖単位12以上のイノシトール誘導体と、を含有してもよい。また、例えば、単糖単位10のイノシトール誘導体と、単糖単位11のイノシトール誘導体と、単糖単位12以上のイノシトール誘導体と、を含有してもよい。好ましい態様において、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位10のイノシトール誘導体と、単糖単位11のイノシトール誘導体と、単糖単位12以上のイノシトール誘導体と、を含有する。
【0028】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物において、単糖単位10以上のイノシトール誘導体の割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上が例示される。単糖単位10以上のイノシトール誘導体の割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、1~50質量%が好ましく、3~50質量%が好ましく、5~50質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。単糖単位10以上のイノシトール誘導体の割合が前記範囲内であると、より高い細胞賦活効果を得ることができる。イノシトール誘導体の混合物が、単糖単位10以上のイノシトール誘導体を2種以上含有する場合は、それらの合計の割合が前記範囲内であることが好ましい。単糖単位10以上のイノシトール誘導体の合計の割合は、100質量%となってもよい。
【0029】
また、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が単糖単位11以上のイノシトール誘導体を含有する場合、その割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上が例示される。単糖単位11以上のイノシトール誘導体の割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、1~50質量%が好ましく、3~50質量%が好ましく、5~50質量%が好ましく、10~30質量%がより好ましく、10~20質量%がさらに好ましい。また、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が単糖単位12以上のイノシトール誘導体を含有する場合、その割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、3質量%以上が例示される。単糖単位12以上のイノシトール誘導体の割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、1~40質量%が好ましく、3~40質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、6~15質量%がさらに好ましい。
【0030】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が、単糖単位10以上のイノシトール誘導体を2種以上含有する場合、それらの比率は特に限定されない。例えば、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が、単糖単位10のイノシトール誘導体と単糖単位11以上のイノシトール誘導体とを含有する場合、単糖単位10のイノシトール誘導体と単糖単位11以上のイノシトール誘導体との質量比は、1:0.5~1:10であってもよく、1:1~1:10であってもよく、1:1.5~1:5であってもよく、1:2~1:4であってもよい。また、例えば、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が、単糖単位10のイノシトール誘導体と単糖単位12以上のイノシトール誘導体とを含有する場合、単糖単位10のイノシトール誘導体と単糖単位12以上のイノシトール誘導体との質量比は、1:0.5~1:10であってもよく、1:1~1:10であってもよく、1:1~1:5であってもよく、1:1~1:3であってもよい。また、例えば、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が、単糖単位11のイノシトール誘導体と単糖単位12以上のイノシトール誘導体とを含有する場合、単糖単位11のイノシトール誘導体と単糖単位12以上のイノシトール誘導体との質量比は、1:0.5~1:10であってもよく、1:1~1:10であってもよく、1:1~1:5であってもよく、1:1~1:3であってもよい。また、例えば、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が、単糖単位10のイノシトール誘導体と単糖単位11のイノシトール誘導体と単糖単位12以上のイノシトール誘導体とを含有する場合、単糖単位10のイノシトール誘導体と単糖単位11のイノシトール誘導体との質量比は、1:0.1~1:10、1:0.5~1:5、又は1:0.7~1:2であり、単糖単位10のイノシトール誘導体と単糖単位12以上のイノシトール誘導体との質量比は、1:0.5~1:10であってもよく、1:1~1:10、1:1~1:5、又は1:1~1:3であってもよい。
【0031】
(単糖単位10未満のイノシトール誘導体:イノシトール誘導体(B10))
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位10以上のイノシトール誘導体に加えて、単糖単位10未満のイノシトール誘導体を含有してもよい。本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が単糖単位10以上のイノシトール誘導体を1種しか含有しない場合には、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位10未満のイノシトール誘導体を少なくとも1種含有する。
【0032】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が含有し得る単糖単位10未満のイノシトール誘導体は、単糖単位10以上のイノシトール誘導体と同様に、イノシトール1分子に結合する糖の単糖単位数以外の構成(糖が結合する水酸基の位置及び数、糖の種類等)は特に限定されない。
【0033】
一態様において、単糖単位10未満のイノシトール誘導体が有する糖は、グルコース又はグルコースを構成単位とするオリゴ糖である。そのようなイノシトール誘導体としては、下記(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体が挙げられる。
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体。
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体。
(c)イノシトールにグルコースが1以上結合したイノシトール誘導体。
上記(a)及び(b)において、グルコースを構成単位として含むオリゴ糖は、グルコースのみを構成単位として含むオリゴ糖であることが好ましい。
【0034】
単糖単位10未満のイノシトール誘導体としては、例えば、単糖単位1~9のイノシトール誘導体が挙げられる。本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位1~9の各イノシトール誘導体を全て含有してもよく、単糖単位1~9の各イノシトール誘導体のいずれか1種又は2種以上を含有してもよい。好ましい態様において、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位1~9の各イノシトール誘導体を全て含有する。
【0035】
一態様において、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を5質量%以上含有してもよい。
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物の具体例としては、例えば表1の組成を有するものが挙げられる。表1中、「質量%」は、イノシトール誘導体の混合物に含まれるイノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対するものである。
【0036】
【表1】
【0037】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物の好ましい具体例としては、例えば表2の組成を有するものが挙げられる。表2中の「質量%」は、表1におけるものと同様である。
【0038】
【表2】
【0039】
<第2実施形態>
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7以上であるイノシトール誘導体(A7)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有することを特徴とする。
【0040】
(単糖単位7以上のイノシトール誘導体:イノシトール誘導体(A7))
実施例において後述するように、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有することにより、細胞賦活効果が向上する。
【0041】
単糖単位7以上のイノシトール誘導体は、単糖単位換算で7以上の糖を有していれば、他の構成(糖が結合する水酸基の位置及び数、糖の種類等)は特に限定されない。単糖単位7以上のイノシトール誘導体は、例えば、イノシトール分子内の6つの水酸基のいずれか1つに、7以上の単糖単位のオリゴ糖1分子が結合したものであってもよい。また、例えば、イノシトール分子内の6つの水酸基のいずれか2つ以上に、合計して7以上の単糖単位の単糖及びオリゴ糖が結合したものであってもよい。また、例えば、イノシトール分子内の6つの水酸基のいずれか2つ以上に、合計して7以上の単糖単位のオリゴ糖が結合したものであってもよい。イノシトール分子内の2以上の水酸基に糖が結合する場合、各水酸基に結合する糖は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0042】
一態様において、単糖単位7以上のイノシトール誘導体が有する糖は、グルコース又はグルコースを構成単位とするオリゴ糖である。そのようなイノシトール誘導体としては、下記(a)及び(b)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体が挙げられる。
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体。
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体。
上記(a)及び(b)において、グルコースを構成単位として含むオリゴ糖は、グルコースのみを構成単位として含むオリゴ糖であることが好ましい。
【0043】
単糖単位7以上のイノシトール誘導体が有する糖の単糖単位数は、7以上であれば特に限定されない。単糖単位7以上のイノシトール誘導体が有する糖の単糖単位数としては、例えば、7~50が例示され、好ましくは7~30であり、より好ましくは7~20であり、さらに好ましくは7~15である。
【0044】
一態様において、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有し、かつ単糖単位10以上のイノシトール誘導体を含有するものであってもよい。
また、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有し、かつ単糖単位11以上のイノシトール誘導体を含有するものであってもよい。本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有し、かつ単糖単位12以上のイノシトール誘導体を含有するものであってもよい。
【0045】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を2種以上含有してもよい。例えば、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7、8、9、10、及び11のイノシトール誘導体、並びに単糖単位12以上のイノシトール誘導体を含有していてもよく、これらのイノシトール誘導体のいずれか1種又は2種以上を含有していてもよい。好ましい態様において、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7、8、9、10、及び11のイノシトール誘導体、並びに単糖単位12以上のイノシトール誘導体を含有する。
【0046】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物において、単糖単位7以上のイノシトール誘導体の割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上であれば特に限定されない。単糖単位7以上のイノシトール誘導体の割合としては、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5~99質量%が例示される。
単糖単位7以上のイノシトール誘導体の割合は、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、10~80質量%が好ましく、15~60質量%がより好ましく、20~50質量%がさらに好ましく、25~45質量%がさらに好ましく、30~40質量%が特に好ましい。単糖単位7以上のイノシトール誘導体の割合が前記範囲内であると、より高い細胞賦活効果を得ることができる。イノシトール誘導体の混合物が、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を2種以上含有する場合は、それらの合計の割合が前記範囲内であることが好ましい。単糖単位7以上のイノシトール誘導体の合計の割合は、100質量%となってもよい。
【0047】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を2種以上含有する場合、それらの比率は特に限定されない。例えば、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が、単糖単位7のイノシトール誘導体と単糖単位8以上のイノシトール誘導体とを含有する場合、単糖単位7のイノシトール誘導体と単糖単位8以上のイノシトール誘導体との質量比は、1:1~1:10であってもよく、1:1~1:5であってもよく、1:2~1:4であってもよい。
【0048】
(単糖単位7未満のイノシトール誘導体:イノシトール誘導体(B7))
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体に加えて、単糖単位7未満のイノシトール誘導体を含有してもよい。なお、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が単糖単位7以上のイノシトール誘導体を1種しか含有しない場合には、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位7未満のイノシトール誘導体を少なくとも1種含有する。
【0049】
本実施形態のイノシトール誘導体の混合物が含有し得る単糖単位7未満のイノシトール誘導体は、単糖単位7以上のイノシトール誘導体と同様に、イノシトール1分子に結合する糖の単糖単位数以外の構成(糖が結合する水酸基の位置及び数、糖の種類等)は特に限定されない。
【0050】
一態様において、単糖単位7未満のイノシトール誘導体が有する糖は、グルコース又はグルコースを構成単位とするオリゴ糖である。そのようなイノシトール誘導体としては、下記(a)~(c)からなる群より選択される少なくとも1種のイノシトール誘導体が挙げられる。
(a)イノシトールにグルコース及びグルコースを構成単位として含むオリゴ糖がそれぞれ1以上結合したイノシトール誘導体。
(b)イノシトールにグルコースを構成単位として含むオリゴ糖が1以上結合したイノシトール誘導体。
(c)イノシトールにグルコースが1以上結合したイノシトール誘導体。
上記(a)及び(b)において、グルコースを構成単位として含むオリゴ糖は、グルコースのみを構成単位として含むオリゴ糖であることが好ましい。
【0051】
単糖単位7未満のイノシトール誘導体としては、例えば、単糖単位1~6のイノシトール誘導体が挙げられる。本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位1~6の各イノシトール誘導体を全て含有してもよく、単糖単位1~6の各イノシトール誘導体のいずれか1種又は2種以上を含有してもよい。好ましい態様において、本実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、単糖単位1~6の各イノシトール誘導体を全て含有する。
【0052】
上記第1実施形態及び第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、優れた細胞賦活効果を有する。そのため、一態様において、本発明は、細胞賦活を促進する、上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物もまた提供する。
上記第1実施形態及び第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、優れた細胞賦活効果を有するため、後述する細胞賦活剤、細胞賦活用組成物、皮膚外用剤、化粧料等に用いることができる。
なお、本明細書においては、上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物を、「本イノシトール誘導体混合物」と表記する場合がある。
【0053】
[細胞賦活剤]
一実施形態において、本発明は、細胞賦活剤を提供する。本実施形態の細胞賦活剤は、上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物を含有することを特徴とする。
【0054】
本イノシトール誘導体混合物は、優れた細胞賦活効果を有するため、それ自体を細胞賦活剤として用いることができる。また、上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物に、適宜他の成分を添加して、細胞賦活剤として用いてもよい。他の成分としては、例えば、後述する薬学的に許容される担体を挙げることができる。
【0055】
本実施形態の細胞賦活剤は、細胞賦活効果を得る目的で、それ自体を対象に投与して使用することができる。また、本実施形態の細胞賦活剤は、細胞賦活機能を付与する目的で、医薬品や化粧料に配合して使用することもできる。また、後述する細胞賦活用組成物に配合して使用してもよい。
【0056】
本実施形態の細胞賦活剤は、後述する細胞賦活用組成物と同様の方法で対象に投与することができ、経皮的に投与することが好ましい。
【0057】
[細胞賦活用組成物]
一実施形態において、本発明は、細胞賦活用組成物を提供する。本実施形態の細胞賦活用組成物は、上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物を含有することを特徴とする。
【0058】
本実施形態の細胞賦活用組成物は、常法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、本イノシトール誘導体混合物、並びに場合により薬学的に許容される担体及び他の成分を混合して製剤化することにより製造することができる。
【0059】
本明細書において、「薬学的に許容される担体」とは、有効成分の生理活性を阻害せず、且つ、その投与対象に対して実質的な毒性を示さない担体を意味する。なお、「実質的な毒性を示さない」とは、その成分が通常使用される投与量において、投与対象に対して毒性を示さないことを意味する。薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、乳化剤、安定剤、希釈剤、注射剤用溶剤、油性基剤、保湿剤、感触向上剤、界面活性剤、高分子、増粘・ゲル化剤、溶剤、噴射剤、酸化防止剤、還元剤、酸化剤、キレート剤、酸、アルカリ、粉体、無機塩、水、金属含有化合物、不飽和単量体、多価アルコール、高分子添加剤、補助剤、湿潤剤、増粘剤、粘着付与物質、油性原料、液状マトリックス、脂溶性物質、高分子カルボン酸塩等を挙げることができる。これらの成分の具体例としては、例えば、国際公開公報第2016/076310号に記載のもの等が挙げられる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0060】
また、他の成分としては、特に制限されず、防腐剤、抗菌剤、紫外線吸収剤、美白剤、ビタミン類及びその誘導体類、消炎剤、抗炎症剤、育毛用薬剤、血行促進剤、刺激剤、ホルモン類、抗しわ剤、抗老化剤、ひきしめ剤、冷感剤、温感剤、創傷治癒促進剤、刺激緩和剤、鎮痛剤、細胞賦活剤、植物・動物・微生物エキス、鎮痒剤、角質剥離・溶解剤、制汗剤、清涼剤、収れん剤、酵素、核酸、香料、色素、着色剤、染料、顔料、消炎鎮痛剤、抗真菌剤、抗ヒスタミン剤、催眠鎮静剤、精神安定剤、抗高血圧剤、降圧利尿剤、抗生物質、麻酔剤、抗菌性物質、抗てんかん剤、冠血管拡張剤、生薬、止痒剤、角質軟化剥離剤、紫外線遮断剤、防腐殺菌剤、抗酸化物質、pH調整剤、添加剤、金属セッケン等を挙げることができる。これらの成分の具体例としては、例えば、国際公開公報第2016/076310号に記載のもの等が挙げられる。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0061】
本実施形態の細胞賦活用組成物は、医薬組成物であってもよく、皮膚外用剤であってもよく、化粧料であってもよい。
【0062】
(医薬組成物)
一実施形態において、本発明は、医薬組成物を提供する。本実施形態の医薬組成物は、上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物を含有することを特徴とする。
【0063】
本実施形態の医薬組成物は、本イノシトール誘導体混合物に加えて、薬学的に許容される担体を含有してもよい。本実施形態の医薬組成物において、薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、上記に挙げたもののほか医薬品に一般的に使用される担体を使用することができる。例えば、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格2013(薬事日報社、2013年)、医薬品添加物辞典2016(日本医薬品添加剤協会編、薬事日報社、2016年)、Handbook of Pharmaceutical Excipients,7th edition(Pharmaceutical Press、2012年)等に記載されている一般的な原料を使用することができる。
薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
また、本実施形態の医薬組成物は、本イノシトール誘導体混合物及び薬学的に許容される担体に加えて、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、特に制限されず、一般的な医薬品添加物を使用することができる。また、他の成分として、本イノシトール誘導体混合物以外の活性成分を使用することもできる。他の成分としての医薬品添加物及び活性成分としては、上記に挙げたもののほか、例えば、日本薬局方、日本薬局方外医薬品規格、医薬品添加物規格2013(薬事日報社、2013年)、医薬品添加物辞典2016(日本医薬品添加剤協会編、薬事日報社、2016年)、Handbook of Pharmaceutical Excipients,7th edition(Pharmaceutical Press、2012年)等に記載されている一般的な原料を使用することができる。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0065】
本実施形態の医薬組成物の剤型としては、特に制限されず、医薬品製剤として一般的に用いられる剤型とすることができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等の経口的に投与する剤型;及び注射剤、坐剤、皮膚外用剤等の非経口的に投与する剤型等が挙げられる。これらの剤型の医薬組成物は、定法(例えば、日本薬局方記載の方法)に従って、製剤化することができる。
【0066】
本実施形態の医薬組成物としては、皮膚外用剤が好ましい。皮膚外用剤としては、より具体的には、クリーム剤、ローション剤、パック剤、フォーム剤、皮膚洗浄剤、エキス剤、硬膏剤、軟膏剤、酒精剤、懸濁剤、チンキ剤、テープ剤、パップ剤、リニメント剤、外用エアゾール剤、スプレー剤、ゲル剤等の剤型が挙げられる。
【0067】
本実施形態の医薬組成物は、本イノシトール誘導体混合物を治療的有効量含有することができる。「治療的有効量」とは、患者の疾患の治療又は予防のために有効な薬剤の量を意味する。治療的有効量は、投与対象の疾患の状態、年齢、性別、及び体重等によって変動し得る。本実施形態の医薬組成物において、本イノシトール誘導体混合物の治療的有効量は、本イノシトール誘導体混合物が細胞賦活効果を発揮し得る量であり得る。例えば、本実施形態の医薬組成物における本イノシトール誘導体混合物の治療的有効量は、イノシトール誘導体の医薬組成物中の含有量として、0.01~50質量%を挙げることができ、例えば0.01~30質量%であってもよく、例えば0.01~20質量%であってもよく、例えば0.1~10質量%であってもよく、例えば0.1~5質量%であってもよく、例えば0.1~3質量%であってもよく、例えば0.3~2質量%であってもよく、例えば0.6~1.5質量%であってもよい。
【0068】
なお、上記のイノシトール誘導体の医薬組成物中の含有量は、本イノシトール誘導体混合物中に含まれる全イノシトール誘導体の合計の含有量を意味する。後述の投与量についても同様である。
【0069】
本実施形態の医薬組成物の投与方法は、特に制限されず、医薬品の投与方法として一般的に用いられる方法で投与することができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、丸剤、散剤、顆粒剤、カプセル剤、液剤、懸濁剤、乳剤等として経口投与してもよく、注射剤、輸液製剤等として、単独で、又はブドウ糖液、リンゲル液等の一般的な輸液と混合して、静脈内、動脈内、筋肉内、皮内、皮下、腹腔内等に投与してもよく、坐剤として直腸内投与してもよく、皮膚外用剤として皮膚に投与してもよい。好ましい態様において、本実施形態の医薬組成物は、皮膚外用剤として、患部に塗布、貼付又はスプレーされる。
【0070】
本実施形態の医薬組成物の投与量は、治療的有効量とすることができる。治療的有効量は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。例えば、本実施形態の医薬組成物の投与量は、経口投与の場合には、本イノシトール誘導体混合物として投与単位形態あたり0.01~500mg、注射剤の場合には、イノシトール誘導体として投与単位形態あたり0.02~250mg、坐剤の場合には、イノシトール誘導体として投与単位形態あたり0.01~500mg等を例示することができる。また、皮膚外用剤の場合には、例えば、イノシトール誘導体として投与単位形態あたり0.15~500mgを例示することができ、例えば0.15~300mgであってもよく、例えば0.15~200mgであってもよく、例えば0.2~100mgであってもよい。
【0071】
本実施形態の医薬組成物の投与間隔は、患者の症状、体重、年齢、及び性別等、並びに医薬組成物の剤型、及び投与方法等によって適宜決定すればよい。例えば、1日1回又は2~3回程度等とすることができる。
【0072】
本実施形態の医薬組成物は、例えば、細胞増殖活性が低下した皮膚細胞の細胞賦活を促進するために用いることができる。また、例えば、創傷、火傷、凍傷、炎症等により細胞が損傷した部位の細胞賦活を促進するために用いることもできる。本実施形態の医薬組成物は、特に、ヒト線維芽細胞又はヒト表皮角化細胞の細胞賦活に効果を有する。好ましい態様において、本実施形態の医薬組成物は、皮膚外用剤として、当該細胞増殖活性が低下した患部又は細胞損傷が生じた患部に塗布される。
【0073】
(化粧料)
一実施形態において、本発明は、化粧料を提供する。本実施形態の化粧料は、上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物を含有することを特徴とする。
【0074】
本実施形態の化粧料は、本イノシトール誘導体混合物に加えて、薬学的に許容される担体を含有してもよい。本実施形態の化粧料において、薬学的に許容される担体としては、特に制限されず、上記に挙げたもののほか化粧料に一般的に使用される担体を使用することができる。例えば、化粧品原料基準第二版注解(日本公定書協会編、薬事日報社、1984年)、化粧品原料基準外成分規格(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料基準外成分規格追補(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品種別許可基準(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料辞典(日光ケミカルズ社、平成3年)、International Cosmetic Ingredient Dictionary and Handbook 2002 Ninth Edition Vol.1~4,by CTFA等に記載されている一般的な原料を使用することができる。薬学的に許容される担体は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
本実施形態の化粧料は、本イノシトール誘導体混合物及び薬学的に許容される担体に加えて、他の成分を含有していてもよい。他の成分としては、特に制限されず、一般的な化粧品添加物を使用することができる。また、他の成分として、本イノシトール誘導体混合物以外の活性成分を使用することもできる。他の成分としての化粧品添加物及び活性成分としては、上記に挙げたもののほか、例えば、化粧品原料基準第二版注解(日本公定書協会編、薬事日報社、1984年)、化粧品原料基準外成分規格(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料基準外成分規格追補(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品種別許可基準(厚生省薬務局審査課監修、薬事日報社、1993年)、化粧品原料辞典(日光ケミカルズ社、平成3年)、International Cosmetic Ingredient Dictionary and
Handbook 2002 Ninth Edition Vol.1~4,by CTFA等に記載されている一般的な原料を使用することができる。他の成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0076】
本実施形態の化粧料の形態としては、特に制限されず、化粧料として一般的に用いられる形態とすることができる。例えば、シャンプー、リンス、整髪剤などの毛髪用化粧料;洗顔料、クレンジング剤、化粧水、乳液、ローション、クリーム、ジェル、サンスクリーン剤、パック、マスク、美容液などの基礎化粧料;ファンデーション類、化粧下地、口紅類、リップグロス、頬紅類などのメーキャップ化粧料;ボディ洗浄料、ボディーパウダー、防臭化粧料などのボディ化粧料等が挙げられる。これらの化粧料は、定法に従って製造することができる。これらの中でも、本実施形態の化粧料は、皮膚外用剤として、皮膚に塗布又は貼付等する形態の化粧料であることが好ましい。例えば、化粧水、乳液、ローション、クリーム、ジェル、サンスクリーン剤、パック、マスク、美容液、ファンデーション類、化粧下地等が好適な例として挙げられる。
【0077】
本実施形態の化粧料の剤型としては、特に制限されず、例えば、水中油(O/W)型、油中水(W/O)型、W/O/W型、O/W/O型等の乳化型、乳化高分子型、油性、固形、液状、練状、スティック状、揮発性油型、粉状、ゼリー状、ジェル状、ペースト状、クリーム状、シート状、フィルム状、ミスト状、スプレー型、多層状、泡状、フレーク状等が挙げられる。
【0078】
本実施形態の化粧料において、本イノシトール誘導体混合物の含有量は特に制限されないが、本イノシトール誘導体混合物が細胞賦活効果を発揮するために有効な量とすることができる。例えば、本実施形態の化粧料における本イノシトール誘導体混合物の含有量は、イノシトール誘導体の化粧料中の含有量として、0.01~50質量%を挙げることができ、例えば0.01~30質量%であってもよく、例えば0.01~20質量%であってもよく、例えば0.1~10質量%であってもよく、例えば0.1~5質量%であってもよく、例えば0.1~3質量%であってもよく、例えば0.3~2質量%であってもよく、例えば0.6~1.5質量%であってもよい。
【0079】
なお、上記のイノシトール誘導体の化粧料中の含有量は、本イノシトール誘導体混合物中に含まれる全イノシトール誘導体の合計の含有量を意味する。後述の使用量についても同様である。
【0080】
本実施形態の化粧料の使用量は、特に制限されないが、本イノシトール誘導体混合物が細胞賦活効果を発揮するために有効な量とすることができる。例えば、本実施形態の化粧料の使用量は、イノシトール誘導体として1回の使用あたり0.15~500mgを例示することができ、例えば0.15~300mgであってもよく、例えば0.15~200mgであってもよく、例えば0.2~100mgであってもよい。
【0081】
本実施形態の化粧料の使用間隔は、特に制限されないが、例えば、1日1回又は2~3回程度等とすることができる。
【0082】
本実施形態の化粧料は、細胞賦活効果を有するため、皮膚のシワ、シミ、たるみ、弾力低下等の予防や改善のために使用することができる。日常的なスキンケアやメーキャップに、本実施形態の化粧料を使用することにより、皮膚が健康に維持されることが期待される。
【0083】
[本イノシトール誘導体混合物の製造方法]
上記第1実施形態又は第2実施形態のイノシトール誘導体の混合物は、以下のように製造することができる(以下、「本製造方法」という。)。本製造方法は、イノシトールとオリゴ糖とを糖転移酵素の存在下で反応させる工程(以下、「反応工程」という。)を含む。前記反応工程においては、前記イノシトールと前記オリゴ糖とを、質量比1:2~1:6で反応させることが好ましい。
【0084】
<反応工程>
(イノシトール)
反応工程において用いるイノシトールは、上記「[イノシトール誘導体の混合物]」において挙げた異性体のいずれであってもよいが、生理活性を有するmyo-イノシトールであることが好ましい。イノシトールは、米糠から抽出する方法、化学合成法、及び発酵法等により合成することができる。また、市販のものを用いてもよい。
【0085】
(オリゴ糖)
反応工程において用いるオリゴ糖は、特に限定されないが、例えば、マンニトール、ソルビトール、キシリトール、エリスリトール、ペンタエリスリトール、グルコース、果糖、キシロース等を構成単位として含むオリゴ糖を挙げることができる。オリゴ糖としては、分子量500~3000程度のものを挙げることができる。オリゴ糖の重合度は、特に限定されないが、イノシトール誘導体の生成効率の観点から、例えば、重合度7以上のオリゴ糖の含有率が85質量%以上、好ましくは90質量%以上、より好ましくは98質量%以上であるものを挙げることができる。
【0086】
上記の中でも、反応工程において用いるオリゴ糖は、グルコースを構成単位として含むオリゴ糖が好ましい。グルコースを構成単位として含むオリゴ糖としては、デキストリンを挙げることができる。デキストリンは、デンプンを化学的又は酵素的方法で低分子化したものの総称である。デキストリンとしては、特に限定されないが、イノシトール誘導体の生成効率の観点から、シクロデキストリンであることが好ましい。シクロデキストリンは、D-グルコースがα-1,4-グリコシド結合により結合して環状構造をとった環状オリゴ糖である。シクロデキストリンとしては、特に限定されないが、α-シクロデキストリン、β-シクロデキストリン、γ-シクロデキストリン等を挙げることができる。これらの中でも、工業的に安価で安定供給可能なことから、β-シクロデキストリンを用いることが好ましい。
【0087】
デキストリンは、デンプンを化学的又は酵素的方法で低分子化することにより得ることができる。また、シクロデキストリンは、デンプンにシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼを作用させることで得ることができる。デキストリン又はシクロデキストリンは、市販のものを用いてもよい。
【0088】
(糖転移酵素)
反応工程において用いる糖転移酵素は、特に限定されず、オリゴ糖の種類に応じて適宜選択すればよい。例えば、オリゴ糖としてデキストリンを用いる場合には、糖転移酵素としてシクロデキストリングルカノトランスフェラーゼ(以下、「CGTase」という。)を用いることができる。
【0089】
CGTaseは、α-1,4-グルコシド結合の形成により、α-1,4-グルカン鎖を環状化する反応を触媒する酵素である。CGTaseは、デンプン等のα-1,4-グルカン鎖を有する基質に作用して、シクロデキストリンを生成する。CGTaseとしては、これまでに、バチルス(Bacillus)属、ブレビバクテリウム(Brevibacterium)属、クロストリジウム(Clostridium)属、コリネバクテリウム(Corynebacterium)属、クレブシエラ(Klebsiella)属、ミクロコッカス(Micrococcus)属、サーモアナエロバクター(Thermoanaerobacter)属、サーモアナエロバクテリウム(Thermoanaerobacterium)属等の細菌に由来するものが知られている。
【0090】
イノシトールとデキストリンとを、CGTaseの存在下で反応させると、CGTaseがデキストリンに作用し、イノシトールを受容体としてグルコース残基の転移が起こる。その結果、イノシトールに、グルコース及び/又はグルコースを構成単位とするオリゴ糖が結合した、イノシトール誘導体が生成される。
【0091】
CGTaseは、イノシトール及びデキストリンから上述のイノシトール誘導体を生成できるものであれば、特に限定されない。上記のような細菌に由来するCGTaseを用いてもよく、それらの天然CGTaseを改変したものを用いてもよい。CGTaseとしては、例えば、特開昭63-196596号公報、及び国際公開公報第96/33267号に記載のもの等を例示することができるが、これらに限定されない。CGTaseは、市販のものを用いてもよい。
【0092】
(イノシトール誘導体生成反応)
反応工程においては、糖転移酵素の存在下で、イノシトールとオリゴ糖とを、質量比1:2~1:6で反応させる。イノシトールとオリゴ糖との質量比は、1:3~1:5であることが好ましく、1:3.5~1:4.5であることがより好ましい。前記のような質量比でイノシトールとオリゴ糖とを反応させることにより、本イノシトール誘導体混合物を得ることができる。
【0093】
反応工程は、一般的な酵素反応において用いられる方法を特に制限なく用いて行うことができる。具体的には、イノシトール、オリゴ糖及び糖転移酵素を、適切な溶媒下で混合し、一定時間経過させることにより、イノシトール誘導体の生成反応を行うことができる。
【0094】
反応工程において、基質及び糖転移酵素を混合するための溶媒は、一般的な酵素反応に用いられる緩衝液等を特に制限なく用いることができる。そのような緩衝液としては、例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、トリス塩酸緩衝液、HEPES緩衝液等を挙げることができるが、これらに限定されない。
【0095】
イノシトールの反応溶液中での濃度は、特に限定されないが、バッチ生産量の向上及び反応の長時間化の回避の観点から、1~400g/L、好ましくは10~300g/L、より好ましくは50~200g/Lを例示できる。
オリゴ糖の反応溶液中での濃度は、イノシトールの反応溶液中での濃度に応じて、イノシトールの濃度(w/v)の2~6倍、好ましくは3~5倍となるような濃度(w/v)とすればよい。
オリゴ糖の投入方法は、一括投入でもよく、初発投入後に追添してもよい。オリゴ糖を追添する場合、初発投入及び追添のオリゴ糖の合計投入質量が、イノシトールの投入質量の2~6倍、好ましくは3~5倍であればよい。オリゴ糖を追添する場合、追添のタイミングは、特に限定されないが、例えば反応開始から4時間後、8時間後、11時間後等を例示できる。好ましくは、オリゴ糖を一括投入するのがよい。
【0096】
糖転移酵素の反応溶液中での濃度は、特に限定されないが、0.01~100g-SS/L、好ましくは0.05~50g-SS/L、より好ましくは0.1~10g-SS/Lを例示できる。
【0097】
反応工程における反応条件は、糖転移酵素の種類に応じて、適宜設定すればよい。市販の糖転移酵素を用いる場合には、製造者の推奨条件に従って、反応条件を設定することができる。例えば、糖転移酵素としてCGTaseを用いる場合には、反応温度として、20~80℃、好ましくは30~70℃、より好ましくは40~60℃を例示できる。また、反応pHとして、pH3~9、好ましくはpH4~8、より好ましくはpH5~7を例示できる。反応温度及びpHがこの範囲内であると、CGTaseの酵素活性が高い状態で維持され得る。
【0098】
反応工程における反応時間は、特に限定されず、糖転移酵素の種類、反応液の量等に応じて、適宜設定すればよい。イノシトール誘導体の生成効率及び未反応物の残存抑制の観点から、反応時間としては、5~300時間、好ましくは30~70時間、より好ましくは40~60時間を例示できる。また、例えば、LC-MS等で反応液中のオリゴ糖濃度を測定し、オリゴ糖の消失を確認できるようになるまで反応を行うようにしてもよい。
【0099】
上記のように反応工程を行うことにより、反応液中にイノシトール誘導体が生成し、本イノシトール誘導体混合物を含む溶液を得ることができる。
【0100】
<他の工程>
本製造方法は、上記反応工程に加えて、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、糖転移酵素を除去する工程(糖転移酵素除去工程)、化学物質の精製手段として一般的に用いられる各種工程(精製工程)等が挙げられる。
【0101】
(糖転移酵素除去工程)
本製造方法は、上記反応工程の後に、糖転移酵素除去工程を行うことが好ましい。糖転移酵素を除去する工程を行うことにより、イノシトール誘導体を変質させることなく、糖転移酵素及びそれに由来する不純物を含まない、精製度の高い本イノシトール誘導体混合物を得ることができる。
【0102】
糖転移酵素を除去する方法は、特に限定されないが、例えば、限外ろ過膜を用いる方法が挙げられる。限外ろ過膜としては、特に限定されないが、クロスフロー型の限外ろ過に使用可能なものが好ましい。クロスフロー型の限外ろ過では、ろ過対象の供給液を限外ろ過膜の膜表面に対して平行に流す。これにより、限外ろ過膜の孔径よりも小さい溶質分子や供給液の一部がろ液となり、膜の孔径よりも大きな分子が濃縮される。クロスフロー型の限外ろ過に使用可能な限外ろ過膜は、各種市販されているため、それらを適宜選択して用いればよい。本明細書において、「供給液」とは限外ろ過に供する液体を意味し、「ろ液」とは限外ろ過膜を通過した液体を意味し、「濃縮液」とは限外ろ過膜を通過しなかった液体を意味する。
【0103】
限外ろ過膜の分画分子量は、1000~100000の範囲内とすることができる。分画分子量が1000未満であると、ろ過速度が遅くなりイノシトール誘導体の精製効率及び生産性が低下する。また、分画分子量が100000を超えると、ろ液中に糖転移酵素由来の不純物が混入する可能性が高くなる。限外ろ過膜の分画分子量は、好ましくは1000~100000であり、より好ましくは3000~20000であり、さらに好ましくは4000~15000である。
【0104】
限外ろ過の方法は、特に限定されないが、クロスフロー型の限外ろ過とすること好ましい。クロスフロー型で限外ろ過を行うことにより、限外ろ過膜表面への不純物の付着を低減し、目詰まりの発生を抑制することができる。
【0105】
限外ろ過時の温度条件は、例えば、0~60℃とすることができ、上記反応工程における反応温度よりも低い温度であることが好ましい。前記温度条件の下限以上であると、供給液の流動性が保たれ、ろ過を効率よく行うことができる。また、前記温度条件の上限以下であると、供給液中の糖転移酵素による過反応を抑制できる。限外ろ過時の温度条件は、好ましくは0~50℃、より好ましくは0~40℃である。
【0106】
上記のように限外ろ過膜を用いて、上記反応工程で得られた本イノシトール誘導体混合物を含む溶液の限外ろ過を行うことにより、糖転移酵素及びこれに由来する不純物は濃縮液中に留まる一方、イノシトール誘導体はろ液中に移動する。そのため、ろ液を回収することにより、糖転移酵素及びこれに由来する不純物を含まない精製度の高い本イノシトール誘導体混合物を得ることができる。
【0107】
本工程で得られる限外ろ過のろ液は、糖転移酵素活性が検出されないことが好ましい。前記ろ液における糖転移酵素活性の検出は、例えば、前記ろ液の一部を採取してイノシトール(例、myo-イノシトール)を最終濃度10g/Lとなるように添加し、50℃で1時間以上反応させ、その後、反応液中のイノシトール含量を測定することにより、行うことができる。
イノシトール含量の測定には、例えば、高速液体クロマトグラフィーを用いることができる。前記反応の前後で、イノシトール含量に実質的な差がない場合には、糖転移酵素活性が検出されない、と判定することができる。なお、「実質的な差がない」とは、例えば、前記反応前後に検出されたイノシトール含量の差が、前記反応前に検出されたイノシトール含量(100%)に対して5%以下程度であることを意味する。好ましくは3%以下であり、より好ましくは2%以下であり、さらに好ましくは1%以下である。
【0108】
(精製工程)
本製造方法は、上記反応工程の後に、精製工程を行ってもよい。上記糖転移酵素除去工程を行う場合、精製工程は、糖転移酵素除去工程の後に行うことが好ましい。精製工程においては、化学物質の精製手段として一般的に用いられる方法を特に制限なく用いることができる。精製手段としては、例えば、イオン交換樹脂や活性炭による処理、凍結乾燥、噴霧乾燥等が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、上記反応工程により得られた反応液、又は上記糖転移酵素除去工程により得られたろ液を、凍結乾燥又は噴霧乾燥することにより、本イノシトール誘導体混合物の白色粉末を得ることができる。
【0109】
(その他の工程)
本製造方法が含み得る他の工程としては、上記の他に、糖転移酵素を失活させる工程、イノシトール誘導体の種類を分析する工程、特定の単糖単位数のイノシトール誘導体を分離する工程等が挙げられる。これらの工程は、公知の方法を用いて行うことができる。
【0110】
例えば、糖転移酵素を失活させる工程(糖転移酵素失活工程)は、上記反応工程後の反応液を熱処理(80~120℃程度)、又は酸若しくはアルカリ処理することにより行うことができる。ただし、糖転移酵素失活工程を行うことにより、イノシトール誘導体が変性する恐れがあるため、本製造方法では、糖転移酵素失活工程を行わない方が好ましい。
【0111】
[その他の実施形態]
一実施形態において、本発明は、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体(A10)を含有するイノシトール誘導体の混合物を、哺乳動物に投与する工程を含む、細胞賦活を促進する方法を提供する。
【0112】
一実施形態において、本発明は、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7以上であるイノシトール誘導体(A7)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有するイノシトール誘導体の混合物を、哺乳動物に投与する工程を含む、細胞賦活を促進する方法を提供する。
【0113】
一実施形態において、本発明は、細胞賦活を促進するための、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体(A10)を含有するイノシトール誘導体の混合物を提供する。
【0114】
一実施形態において、本発明は、細胞賦活を促進するための、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7以上であるイノシトール誘導体(A7)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有するイノシトール誘導体の混合物を提供する。
【0115】
一実施形態において、本発明は、細胞賦活剤を製造するための、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体(A10)を含有するイノシトール誘導体の混合物の使用を提供する。
【0116】
一実施形態において、本発明は、細胞賦活剤を製造するための、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7以上であるイノシトール誘導体(A7)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有するイノシトール誘導体の混合物の使用を提供する。
【0117】
一実施形態において、本発明は、細胞賦活用組成物を製造するための、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で10以上であるイノシトール誘導体(A10)を含有するイノシトール誘導体の混合物の使用を提供する。
【0118】
一実施形態において、本発明は、細胞賦活用組成物を製造するための、イノシトール1分子に結合した糖の合計が単糖単位換算で7以上であるイノシトール誘導体(A7)を、イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対して、5質量%以上含有するイノシトール誘導体の混合物の使用を提供する。
【実施例
【0119】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0120】
[実験例1]イノシトール誘導体の混合物の作製
(実施例1)
表3に示す条件で、5L培養槽(型番MD-300、株式会社丸菱バイオエンジ製)を用い、myo-イノシトール(築野ライスファインケミカルズ社製)とβ-シクロデキストリン(塩水港精糖社製)とをCGTase(ノボザイム社製)の存在下で反応させ、イノシトール誘導体を生成させた。表3中の「反応液組成」は、終濃度を示す。
【0121】
【表3】
【0122】
反応後の反応液2.2Lに水を3.0L加えた希釈液を、クロスフロー型限外ろ過膜(SIP-1013、旭化成)をセットした膜装置の原液タンクに加えた。循環ポンプを稼働して原液が1.1Lになるまで濃縮し、ろ液を回収した。その後、原液タンクに1Lの水を添加してさらにろ液を回収する工程を5回繰り返した。全ろ液を混合し、9.1Lの回収ろ液を得た。表4に、本処理における反応液量、加水量、回収ろ液量をまとめた。「処理時間」は、全ろ液を混合した回収ろ液を得るまでの時間を示す。
【0123】
【表4】
【0124】
上記回収ろ液からイノシトール誘導体を精製し、イノシトール誘導体の混合物を得た。得られたイノシトール誘導体の混合物を以下の条件でHPLC分析し、イノシトール誘導体の混合物の組成を調べた。
<分析条件>
カラム:Shodex HILICPak VN-50 4D ×1
溶離液:CHCN:水=60:40(V:V)
流速:0.3mL/分
オーブン温度:40℃
検出:RI(示差屈折率)
【0125】
その結果を表8に示す。表8中、各イノシトール誘導体の割合は、混合物中に含まれる全イノシトール誘導体の合計量(100質量%)に対するものである。
【0126】
(実施例2)
表5に示す条件で、myo-イノシトールと、β-シクロデキストリンとをCGTaseの存在下で反応させ、イノシトール誘導体を生成させた。表5中の「反応液組成」は、終濃度を示す。
【0127】
【表5】
【0128】
反応後の反応液を、クロスフロー型限外ろ過膜(SIP-0013、旭化成)を用いて限外ろ過し、ろ液を回収した。前記回収ろ液からイノシトール誘導体を精製し、さらに、活性炭を用いて分画を行った。ろ液をイオン交換水で10倍希釈したもの600mLを活性炭カラム(40mm径×1000mmガラス製クロマトグラフ管に活性炭(ナカライテスク製、カラムクロマト用)を充填したもの)に通液し、その後イオン交換水400mL、5%エタノール700mL、10%エタノール1000mL、15%エタノール1000mL、20%エタノール1400mL、30%エタノール500mLを順に通液した。この後50%エタノールを通液し、溶出された画分を回収し、イノシトール誘導体の混合物を得た。
得られたイノシトール誘導体を実施例1と同様にHPLC分析し、イノシトール誘導体の混合物の組成を調べた。その結果を表8に示す。
【0129】
(実施例3)
表6に示す条件で、myo-イノシトールと、β-シクロデキストリンとをCGTaseの存在下で反応させ、イノシトール誘導体を生成させた。表6中の「反応液組成」は、終濃度を示す。
【0130】
【表6】
【0131】
反応後の反応液を、クロスフロー型限外ろ過膜(SIP-0013、旭化成)を用いて限外ろ過し、ろ液を回収した。前記回収ろ液からイノシトール誘導体を精製し、さらに、活性炭を用いて分画を行った。ろ液1460mLを活性炭カラム(40mm径×1000mmガラス製クロマトグラフ管に活性炭(ナカライテスク製、カラムクロマト用)を充填したもの)に通液し、その後イオン交換水2070mL、10%エタノール4140mLを順に通液し、溶出された画分を回収し、イノシトール誘導体の混合物を得た。
得られたイノシトール誘導体を実施例1と同様にHPLC分析し、イノシトール誘導体の混合物の組成を調べた。その結果を表8に示す。
【0132】
(実施例4)
実施例3と同様に、表6に示す条件で、myo-イノシトールと、β-シクロデキストリンとをCGTaseの存在下で反応させ、イノシトール誘導体を生成させた。
反応後の反応液を、クロスフロー型限外ろ過膜(SIP-0013、旭化成)を用いて限外ろ過し、ろ液を回収した。前記回収ろ液からイノシトール誘導体を精製し、さらに、活性炭を用いて分画を行った。ろ液1460mLを活性炭カラム(40mm径×1000mmガラス製クロマトグラフ管に活性炭(ナカライテスク製、カラムクロマト用)を充填したもの)に通液し、その後イオン交換水2070mLを通液し、溶出された画分を回収し、イノシトール誘導体の混合物を得た。
得られたイノシトール誘導体を実施例1と同様にHPLC分析し、イノシトール誘導体の混合物の組成を調べた。その結果を表8に示す。
【0133】
(比較例1)
表7に示す条件で、myo-イノシトールと、β-シクロデキストリンとをCGTaseの存在下で反応させ、イノシトール誘導体を生成させた。表7中の「反応液組成」は、終濃度を示す。
【0134】
【表7】
【0135】
反応後の反応液を、クロスフロー型限外ろ過膜(SIP-0013、旭化成)を用いて限外ろ過し、ろ液を回収した。前記回収ろ液からイノシトール誘導体を精製し、さらに、活性炭を用いて分画を行った。ろ液をイオン交換水で10倍希釈したもの611mLを活性炭カラム(40mm径×1000mmガラス製クロマトグラフ管に活性炭(ナカライテスク製、カラムクロマト用)を充填したもの)に通液し、その後イオン交換水400mL、10%エタノール780mL、20%エタノール780mLを順に通液した。この後30%エタノール780mLを通液し、溶出された画分を回収し、イノシトール誘導体の混合物を得た。
得られたイノシトール誘導体を実施例1と同様にHPLC分析し、イノシトール誘導体の混合物の組成を調べた。その結果を表8に示す。
【0136】
【表8】
【0137】
表8に示すように、実施例1~4のイノシトール誘導体混合物は、比較例1のイノシトール誘導体混合物と比較して、単糖単位数の多いイノシトール誘導体を多く含有していた。単糖単位7以上のイノシトール誘導体に関して、実施例1では35質量%含有しており、実施例2では33質量%含有しており、実施例3では13質量%含有しており、実施例4では28質量%含有していたが、比較例1では、単糖単位7以上のイノシトール誘導体を4質量%しか含有していなかった。また、実施例1では、単糖単位9以上のイノシトール誘導体の割合は21質量%、単糖単位10以上のイノシトール誘導体の割合は16質量%であったが、比較例1では、単糖単位9以上のイノシトール誘導体は0質量%であった。実施例1では、単糖単位11以上のイノシトール誘導体も12質量%、単糖単位12以上のイノシトール誘導体も8質量%含有していた。実施例2~4も、単糖単位10以上のイノシトール誘導体を含有していた。実施例2では、単糖単位10以上のイノシトール誘導体、単糖単位11以上のイノシトール誘導体、及び単糖単位12以上のイノシトール誘導体をそれぞれ含有していた。実施例1~4の中では、実施例1が、単糖単位10以上のイノシトール誘導体の含有量が最も多かった。
【0138】
以上の結果より、実施例1~4に示す方法でイノシトールとデキストリンとの反応を行うことにより、単糖単位10以上のイノシトール誘導体を含有するイノシトール誘導体の混合物を得られることが確認された。また、単糖単位数の多いイノシトール誘導体(単糖単位数7以上)の含有量が高い、イノシトール誘導体の混合物を得られることが確認された。
【0139】
[実験例2]正常ヒト線維芽細胞を用いた細胞賦活試験
細胞としては、正常ヒト線維芽細胞(理化学研究所バイオリソースセンター)を過酸化水素で処理したものを使用した。また、培地には、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地を用いた。
実施例1~4又は比較例1のイノシトール誘導体混合物を精製水に溶解し、終濃度10mg/Lとなるように培地に添加して、培地を調製した(実施例1~4、比較例1)。また、コントロールとして、イノシトール誘導体に替えて、精製水を添加した培地を調製した(コントロール)。これらの培地で、細胞を37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した。
【0140】
培養開始から24時間後、細胞を回収してリン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、細胞増殖活性を測定した。細胞増殖活性の測定は、水溶性ホルマザンを生成するテトラゾリウム塩であるWST-8(生細胞数測定試薬SF、ナカライテスク)を用いた方法で行った。その後、ニュートラルレッド法で細胞数を測定し、細胞増殖活性を示す値を細胞数を示す値で割り返して、細胞賦活活性を算出した。
【0141】
結果を表9に示す。表9中、細胞賦活活性は、精製水添加のコントロールの細胞賦活活性を1.00としたときの相対値で示した。実施例1~4では、比較例1と比較して、細胞賦活活性が向上することが確認された。実施例1~4の中では、実施例1における細胞賦活活性が最も高く、実施例3における細胞賦活活性が最も低かった。このことから、単糖単位7以上のイノシトール誘導体又は単糖単位10以上のイノシトール誘導体の含有量が多いほど、細胞賦活活性が向上することが確認された。
【0142】
【表9】
【0143】
[実験例3]正常ヒト表皮角化細胞を用いた細胞賦活試験
細胞としては、正常ヒト表皮角化細胞(NHEK細胞、クラボウ)を紫外線照射処理したものを使用した。紫外線照射処理は、培地で培養した細胞を回収し、リン酸緩衝生理食塩水で洗浄した後、リン酸緩衝生理食塩水存在下で、紫外線B波60mJ/cmを照射することにより行った。培地には、10%ウシ胎児血清を含むダルベッコ改変イーグル(DMEM)培地を用いた。
実施例1~4又は比較例1のイノシトール誘導体混合物を精製水に溶解し、終濃度10mg/Lとなるように培地に添加して、培地を調製した(実施例1~4、比較例1)。また、コントロールとして、イノシトール誘導体に替えて、精製水を添加した培地を調製した(コントロール)。これらの培地で、細胞を37℃、5%CO雰囲気下で24時間培養した。
培養開始から24時間後、実験例2と同様に細胞増殖活性を測定し、細胞賦活活性を算出した。
【0144】
結果を表10に示す。表10中、細胞賦活活性は、精製水添加のコントロールの細胞賦活活性を1.00としたときの相対値で示した。実施例1~4では、比較例1と比較して、細胞賦活活性が向上することが確認された。実施例1~4の中では、実施例1における細胞賦活活性が最も高く、実施例3における細胞賦活活性が最も低かった。このことから、正常ヒト表皮角化細胞においても、単糖単位7以上のイノシトール誘導体又は単糖単位10以上のイノシトール誘導体の含有量が多いほど、細胞賦活活性が向上する傾向が認められた。
【0145】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0146】
本発明により、細胞賦活効果が向上したイノシトール誘導体の混合物及びその用途が提供される。