(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】心理的圧迫感算出装置、心理的圧迫感算出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/62 20170101AFI20231205BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20231205BHJP
G06T 7/00 20170101ALI20231205BHJP
G06T 7/20 20170101ALI20231205BHJP
G06T 7/60 20170101ALI20231205BHJP
【FI】
G06T7/62
G05D1/02 P
G06T7/00 130
G06T7/20 300Z
G06T7/60 110
(21)【出願番号】P 2022532996
(86)(22)【出願日】2020-07-03
(86)【国際出願番号】 JP2020026197
(87)【国際公開番号】W WO2022003952
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】笹川 真奈
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大貴
(72)【発明者】
【氏名】伊勢崎 隆司
(72)【発明者】
【氏名】渡部 智樹
【審査官】松本 泰典
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0183402(US,A1)
【文献】PODEVIJN, G. et al.,"Investigating the effect of increasing robot group sizes on the human psychophysiological state in the context of human-swarm interaction",SWARM INTELLIGENCE,10,2016年,pp. 193-210,DOI 10.1007/s11721-016-0124-3
【文献】SARDAR, A. et al.,"Don't stand so close to me: users' attitudinal and behavioral responses to personal space invasion by robots",In Proceedings of the seventh annual ACM/IEEE international conference on Human-Robot Interaction (HRI'12),米国,Association for Computing Machinery,2012年03月05日,pp. 229-230,DOI 10.1145/2157689.2157769
【文献】青木美優, 渡邊朗子,"成年男子における立位と椅子座位の小型移動ロボットに対する個体距離に関する研究",日本建築学会計画系論文集,第76巻 第664号,日本,一般 社団法人日本建築学会,2011年06月,pp. 1093-1100,DOI 10.3130/aija.76.1093
【文献】田中千晶,他3名,"パーソナルスペースに基づいた人とロボットのインタラクションに関する研究",第26回日本ロボット学会学術講演会予稿集CD-ROM,日本,一般社団法人日本ロボット学会,2008年09月09日,AC3F3-09
【文献】劉昭禹,他3名,人間共存空間にて人に不快感を与えない移動ロボットシステムの開発,電気学会研究会資料,日本,一般社団法人電気学会,2013年03月10日,次世代産業システム研究会 IIS-13-,pp. 7-9
【文献】神田崇行,他4名,"人間と相互作用する自律型ロボットRobovieの評価",日本ロボット学会誌,日本,一般社団法人日本ロボット学会,2002年04月15日,第20巻 第3号,pp.315-323
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 1/02
G06T 7/62
G06T 7/00
G06T 7/20
G06T 7/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトに対する複数のロボットの数、前記ロボットの移動速度および前記ヒトと前記ロボットとの間の距離を含む、前記ヒトと前記ロボットの相対的位置関係を取得する第1の取得部と、
前記ヒト
の視野内における密集度であって、前記ヒトに対する前記ロボットの密集度を取得する第2の取得部と、
前記第1および第2の取得部で取得した結果から前記ロボットが前記ヒトに与える心理的圧迫感を、前記ロボットの数、前記移動速度、および前記密集度に比例し、かつ前記距離に反比例した値として算出する算出部と、
を備える心理的圧迫感算出装置。
【請求項2】
前記第2の取得部が取得する、前記ヒトに対する前記ロボットの密集度は、前記ヒトから見える視界中に占める前記ロボットの面積比を含む、
請求項1に記載の心理的圧迫感算出装置。
【請求項3】
前記第2の取得部が取得する、前記ヒトに対する前記ロボットの密集度は、前記ヒトの正面方向中心からの前記ロボットの離散度
に応じた係数に基づいて算出された密集度を含む、
請求項1記載の心理的圧迫感算出装置。
【請求項4】
前記第2の取得部が取得する、前記ヒトに対する前記ロボットの密集度は、前記ヒトに対する前記ロボットの位置をグループ化したグループごとの分散度
の逆数の総和に基づいて算出された密集度を含む、
請求項1記載の心理的圧迫感算出装置。
【請求項5】
ヒトに対する複数のロボットの数、前記ロボットの移動速度および前記ヒトと前記ロボットとの間の距離を含む、前記ヒトと前記ロボットの相対的位置関係を取得する第1の取得工程と、
前記ヒト
の視野内における密集度であって、前記ヒトに対する前記ロボットの密集度を取得する第2の取得工程と、
前記第1および第2の取得工程で取得した結果から前記ロボットが前記ヒトに与える心理的圧迫感を、前記ロボットの数、前記移動速度、および前記密集度に比例し、かつ前記距離に反比例した値として算出する算出工程と、
を有する心理的圧迫感算出方法。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の心理的圧迫感算出装置が備える各部の処理を、前記心理的圧迫感算出装置のプロセッサに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心理的圧迫感算出装置、心理的圧迫感算出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトと共存するためのロボットの研究として、ヒトがロボットに対して感じる心理的な圧迫感(邪魔さ加減)を調べる試みがなされている。心理的な圧迫感を数値化するために必要なパラメータとして、ロボットの数を用いる技術(非特許文献1)、ロボットの速度を用いる技術(非特許文献2)、ロボットとヒトの距離を用いる技術(非特許文献3)が考えられている。
【0003】
例えば、非特許文献1に記載された技術では、小型で自走するロボットの数に応じた生理的かつ心理的な反応を測定している。また、非特許文献2に記載された技術では、ヒトに接近するロボットの速度に応じた代償行動を観測している。さらに、非特許文献3に記載された技術では、小型で自走するロボット1体にこれ以上近づかれたくない距離を、角度および速度ごとに測定している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Podevijn, G., O'grady, R., Mathews, N., Gilles, A., Fantini-Hauwel, C., & Dorigo, M. (2016). Investigating the effect of increasing robot group sizes on the human psychophysiological state in the context of human-swarm interaction. Swarm Intelligence, 10(3), 193-210.
【文献】Aziez Sardar, Michiel Joosse, Astrid Weiss, and Vanessa Evers. 2012. Don't stand so close to me: users'attitudinal and behavioral responses to personal space invasion by robots. In Proceedings of the seventh annual ACM/IEEE international conference on Human-Robot Interaction (HRI '12). Association for Computing Machinery, New York, NY, USA, 229-230.
【文献】青木美優, & 渡邊朗子. (2011). 成年男子における立位と椅子座位の小型移動ロボットに対する個体距離に関する研究. 日本建築学会計画系論文集, 76(664), 1093-1100.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
複数のロボットがヒトに与える心理的な圧迫感を数値として算出する場合、現状考えられている前述したような各種パラメータ、すなわち、ロボットの数、ロボットの速度、ヒトとロボットとの距離だけでは不十分であると思われる。
【0006】
本発明は前記のような実情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ヒトがロボットに対して感じる心理的圧迫感を正確に算出することが可能な心理的圧迫感算出装置、心理的圧迫感算出方法およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、ヒトに対する複数のロボットの数、前記ロボットの移動速度および前記ヒトと前記ロボットとの間の距離を含む、前記ヒトと前記ロボットの相対的位置関係を取得する第1の取得部と、前記ヒトの視野内における密集度であって、前記ヒトに対する前記ロボットの密集度を取得する第2の取得部と、前記第1および第2の取得部で取得した結果から前記ロボットが前記ヒトに与える心理的圧迫感を、前記ロボットの数、前記移動速度、および前記密集度に比例し、かつ前記距離に反比例した値として算出する算出部と、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、ヒトがロボットに対して感じる心理的圧迫感を正確に算出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る心理的圧迫感を計測する実験システム全体の構成を示す図である。
【
図2】
図2は、同実施形態に係るパソコンが実行する一連の処理内容を示すフローチャートである。
【
図3】
図3は、同実施形態に係る全体監視カメラとユーザカメラにより得られるデスク上のロボットの画像を模式化して示す図である。
【
図4】
図4は、同実施形態に係る全体監視カメラとユーザカメラにより得られるデスク上のロボットの画像を模式化して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明をロボットによる心理的圧迫感の計測システムに適用した場合の一実施形態について説明する。
【0011】
[構成]
図1は、本実施形態に係る計測システムの実験環境全体の構成を示す図である。
図1において、デスクDS上に複数機、例えば3機のロボットRB1~RB3がそれぞれランダムに移動している状態を、ヒトであるユーザUSが観察しているものとする。ユーザUSとデスクDS上のロボットRB1~RB3を含めた周辺全体を、例えば天井に設置された全体監視カメラSCにより撮像している。
【0012】
一方で、ユーザUSも身体の一部、例えば頭部にユーザカメラUCを装着し、ユーザUSが見ているデスクDS上のロボットRB1~RB3を含む情景をカメラUCで撮像している。
【0013】
ユーザカメラUCの装着位置は、視差を少なくする必要性から、ユーザUSの目の位置により近い方が望ましく、例えばヘッドバンドの併用により図示するように一方の側頭部などに装着することが考えられる。
【0014】
全体監視カメラSCでの撮像により得られる画像信号と、カメラUCでの撮像により得られる画像信号は、ともにデスクDSとユーザUSの近傍にあるパーソナルコンピュータ(パソコン)PCに無線送信される。
【0015】
パソコンPCは、本実施形態で実施する計測システムの一連の処理を実行するためのアプリケーションプログラムを予めインストールしており、例えばIEEE802.11a/11b/11g/11n規格の無線LAN技術あるいはBluetooth(登録商標)規格の無線通信技術により、全体監視カメラSC、カメラUCからの画像信号を取得する他、ロボットRB1~RB3に対してそれぞれの機体の移動を制御する。
【0016】
ロボットRB1~RB3は、それぞれが自律走行により相互に干渉しないようにデスクDS上を移動するとともに、パソコンPCからの制御指示に応じてユーザUSの存在する位置に対応した移動を実行する。
【0017】
[動作]
以下、パソコンPCにインストールしたアプリケーションプログラムにしたがって、ユーザUSのロボットRB1~RB3に対する心理的圧迫感を計測する場合の動作について説明する。
図2は、パソコンPCで当該アプリケーションプログラムが実行する一連の処理内容を示すフローチャートである。
【0018】
処理当初に、パソコンPCではユーザカメラUCからヒトの視点でのロボットRB1~RB3を含んだ画像を取得する(ステップS01)。
【0019】
次にパソコンPCでは、ヒトであるユーザUSとロボットRB1~RB3との相対的な位置関係を取得するための画像として、全体監視カメラSCからの画像を取得する(ステップS02)。
【0020】
パソコンPCでは、全体監視カメラSCで得た画像に対して、輪郭強調処理等を施した上で画像中の各被写体(ユーザUSとロボットRB1~RB3)を認識して分離した上で、全体監視カメラSCの撮影画角と焦点距離、デスクDSまでの距離と、画像中の各被写体の位置とサイズにより、ユーザUSとロボットRB1~RB3の相対的な位置関係を示す各種パラメータを算出する(ステップS03)。
【0021】
算出するパラメータとしては、ロボットの数N、ロボット(RB1~RB3)の移動速度Si(=S1~S3)、ロボットとヒトの距離Ki(=K1~K3)が挙げられる。ロボットの移動速度に関しては、全体監視カメラSCが撮像を行うフレーム周波数を例えば1000[フレーム/秒]程度として、ミリ秒オーダーで取得される過去の複数の画像との間のロボットRB1~RB3の位置の変位から算出する。
【0022】
加えて、ユーザUSが装着したユーザカメラUCからの画像を主体としたパラメータとして、密集度Dを算出する。この密集度Dとしては、ユーザカメラUCで得た画像中に占めるロボットRB1~RB3の面積の割合(%)を示す。
【0023】
図3は、1機のロボットRB1が乗っているデスクDSを上から全体監視カメラSCにより撮像した画像(
図3(A))と、同じ状態でユーザカメラUCにより得られる、デスクDS上のロボットRB1の画像UI(
図3(B))とを模式化して示す図である。
【0024】
図3(A)に示すように、1機のロボットRB1とユーザUSの距離(K
1)は10[cm]となっている。その時点で
図3(B)に示すように、ユーザカメラUCで得た画像UI中に占めるロボットRB1の面積の割合は、例えば5[%]となる。
【0025】
図4は、3機のロボットRB1~RB3が乗っているデスクDSを上から全体監視カメラSCにより撮像した画像(
図4(A))と、同じ状態でユーザカメラUCにより得られる、デスクDS上のロボットRB1~RB3の画像UI(
図4(B))とを模式化して示す図である。
【0026】
図4(A)に示すように、3機のロボットRB1~RB3とユーザUSの距離(K
1~K
3)はそれぞれ10[cm]、20[cm]、30[cm]となっている。その時点で
図4(B)に示すように、ユーザカメラUCで得た画像UI中に占めるロボットRB1~RB3の面積の割合は、例えば20[%]となる。
【0027】
なお、ロボットの数N、ロボット(RB1~RB3)の移動速度Si(=S1~S3)、ロボットとヒトの距離Ki(=K1~K3)、および密集度Dの各パラメータに関しては、適宜係数やオフセット等を調整する必要がある。
【0028】
パソコンPCでは、各種パラメータを用いて、デスクDS上を移動するロボットRB1~RB3の存在がユーザUSに与える心理的圧迫感Pを算出する(ステップS04)。
【0029】
以下、心理的圧迫感Pの算出について説明する。
まず、ロボットごとに算出する部分の立式について述べる。複数N機のロボットのそれぞれにおいて、移動速度Si(i=1、2、…、N)が大きいほど、そしてロボットとヒトの距離Ki(i=1、2、…、N)が小さいほどに、心理的圧迫感Pが増すものと考えられる。そのため、移動速度Siに比例し、距離Kiに反比例して、心理的圧迫感Pが大きくなるように立式する。例えば、i番目のロボットRBiが与える心理的圧迫感Pを
「Si/Ki」
で表すものとする。
【0030】
次に、N機のロボットすべてを考慮して算出する部位の立式を考える。ロボットの数Nが大きいほどに心理的圧迫感Pが増すものと考えられるので、前述した心理的圧迫感Pごとに算出した部分を足し合わせることで、ロボットの数Nに比例して心理的圧迫感Pが大きくなるように立式できる。また、ロボットの密集度Dが大きいほどに心理的圧迫感Pが増すものと考えられるため、密集度Dに比例して心理的圧迫感Pが大きくなるように立式する。以上の点から、心理的圧迫感Pを全パラメータ(N、S、K、D)を用いて以下のように立式する。すなわち、
【0031】
【0032】
前記算出式を実際に使用する際には、状況に応じて、各パラメータの係数やオフセット、取り得る数値範囲を調整する必要がある。具体的には、ロボットの数Nが0~5機、移動速度Sが0~20[cm/秒]、ロボットとヒトの距離Kが0~75[cm]、密集度Dが0~100[%]とし、心理的圧迫感Pを0~1の間の数値として算出する場合の式の調整方法を述べる。
【0033】
N=0の場合、ユーザUSの前にロボットが存在しない状態であるので、D=0となり、結果として心理的圧迫感P=0となる。
【0034】
図3で示したようにN=1の場合、心理的圧迫感Pを0~1の間の数値として算出するために、Dの数値を1/100とする必要がある他、移動速度Sと、距離Kの逆数1/Kをともに1以下とし、さらにこれらS、1/Kをロボットの数Nで除算する必要がある。そこで、実際に取得した値をd、s
i、k
iとしたとき、例えば
D=d/100、
S
i=(1+s
i)/(1+S
MAX)、
K
i=1+k
i
と算出するものとする。以上のことから、心理的圧迫感Pを0~1の間の数値として算出したい場合の式を下記のように調整する。すなわち、
【0035】
【0036】
前記の算出式を利用した、心理的圧迫感Pの具体的な算出方法を述べる。
前記
図3で示した、N=1、d=5[%]、s
1=5[cm/秒]、k
1=10[cm]である場合、心理的圧迫感Pは
【0037】
【0038】
となる。
また、前記
図4で示した、N=3、d=20[%]、s
1=5[cm/秒]、s
2=10[cm/秒]、s
3=15[cm/秒]、k
1=10[cm]、k
2=20[cm]、k
3=30[cm]、である場合、心理的圧迫感Pは
【0039】
【0040】
となる。
次に各パラメータの具体的な値を取得する方法について述べる。
ロボットの数N、ロボットの移動速度S、ロボットと人との距離Kに関しては、前述した通り、全体監視カメラSCが撮像を行うフレーム周波数を例えば300[フレーム/秒]程度として、ミリ秒オーダーで連続して取得される複数の画像のユーザUSとロボットRB1~RB3の各位置と、複数画像間で移動するロボットRB1~RB3の変位情報から算出する。
【0041】
また、密集度Dに関しては、ユーザUSが頭部等に装着したユーザカメラUCで撮像したデスクDS上の画像中、ロボットRB1~RB3がどの程度の面積を占めているかを算出することで得られる。
【0042】
こうしてステップS04で心理的圧迫感Pを算出した後、パソコンPCでは、予め設定された心理的圧迫感Pに対応した制御内容に基づき、各ロボットRB1~RB3に対してそれぞれの機体を移動させるべく制御信号を発信し(ステップS05)、以上で一連の処理動作を終了するとともに、動作を継続するべくステップS01からの処理に戻る。
【0043】
パソコンPCによる具体的な制御内容としては、心理的圧迫感Pが一定の閾値より低い場合に、ユーザUSとの距離Kiが最も遠いロボットRBiから順に、ユーザUSに近付くように移動方向および移動速度とを指示して、心理的圧迫感Pが増すようにする制御、あるいは反対に、心理的圧迫感Pが一定の閾値より高い場合に、ユーザUSとの距離Kiが最も近いロボットRBiから順に、ユーザUSから遠ざかるように移動方向および移動速度とを指示して、心理的圧迫感Pが減るようにする制御、などが考え得る。
【0044】
以上、パソコンPCにおいて、ステップS01~S05の処理を繰り返し実行することにより、デスクDS上を移動するロボットRB1~RB3を観察するユーザUSが、ロボットRB1~RB3から受ける心理的圧迫感Pを、適正な範囲でコントロールすることができる。
【0045】
なお、前述したパラメータの種類以外にも、例えばロボットの大きさ、高さ、色、形状、ロボットが発する音の種類や音量、ロボットがヒトの視野中のどの位置に存在するか、等を合わせて勘案することも考えられる。
【0046】
このうち、ロボットがヒトの視野中のどの位置に存在するかに関して、具体的にはロボットがヒトの中心視野に存在するか、周辺視野に存在するか、視野外に存在するのかを判定するものとする。具体的には、例えばヒトの正面方向から0°~±30°にロボットが位置していれば中心視野、±30°~±100°に位置していれば周辺視野、それ以外でであれば視野外にあると判定するものとする。
【0047】
ロボットがヒトの正面に存在するほど、心理的圧迫感Pが増すものと考えられる。そのため、ヒトの正面方向0°に近いほど心理的圧迫感Pが大きくなるように、正面方向からの個々のロボットの位置の離散度に応じた係数を設定して密集度Dに算入させることで、心理的圧迫感Pをより正確に算出できる。
【0048】
また、前述した実施形態では、ユーザUSが頭部に装着したユーザカメラUCで撮像した画像中に占めるロボットRB1~RB3の占める面積比を密集度Dとして用いているが、同密集度Dを擬似的に算出する方法として、例えば各ロボットRB1~RB3の位置のみを考慮して密集度Dを算出するものとしても良い。
【0049】
具体的には、例えば、非階層型クラスタリング手法の1つであるk平均法(k-means clustering)などによって、全体監視カメラSCで得たロボットの各位置に応じてロボットを複数グループに分ける。次に、グループ毎のロボットの分散度を算出する。そうして得た分散度の逆数の総和を密集度Dとして用いることが考えられる。
【0050】
さらに、各グループ毎のロボットの分散度に関しては、ヒトであるユーザとの距離とを勘案し、ヒトのより近くにある、より分散度の低いグループほど高くなるような設定の係数を乗じるものとしても良い。
【0051】
このように、特にロボットの総数が多い場合において、各ロボットの位置と、必要によりヒトとの相対距離とを用いてクラスタリングする手法で密集度Dを算出できるものとした場合、ヒトが頭部等にカメラを装着する必要がなく、より簡便なシステム構成としながら、心理的圧迫感Pを算出できる。
【0052】
なお、本実施形態では、総括的な制御をパソコンPCにインストールしたアプリケーションプログラムにより行う場合の処理について説明したが、本発明はこれに限らない。例えば、複数のロボットそれぞれが他のロボットやヒトとの距離、位置関係を認識でき、一部または全部のロボットにより、ヒトに与える心理的圧迫感Pを算出するものとして、その算出結果に応じた制御動作を実行しても良い。
【0053】
[実施形態の効果]
以上に詳述した如く本実施形態によれば、ヒトがロボットに対して感じる心理的圧迫感を正確に算出することが可能となる。
【0054】
また本実施形態では、ヒトであるユーザUSが頭部等に装着したユーザカメラUCにより撮像した、ユーザUSの視野となる画像中、ロボットRB1~RB3が占める面積の比によって密集度Dを算出するものとしたので、ヒトの主観的な密集度Dを比較的簡易な演算手法により直接取得することができる。
【0055】
なお本発明の装置は、
図1で示したパソコンPCにインストールしたアプリケーションプログラムにより実現する場合について説明したが、当該プログラムを記録媒体に記録することも、ネットワークを通して提供することも可能となる。
【0056】
その他、本願発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で種々に変形することが可能である。また、前記実施形態には種々の段階の発明が含まれており、開示される複数の構成要件における適当な組み合わせにより種々の発明が抽出され得る。例えば、実施形態に示される全構成要件からいくつかの構成要件が削除されても、発明が解決しようとする課題の欄で述べた課題が解決でき、発明の効果の欄で述べられている効果が得られる場合には、この構成要件が削除された構成が発明として抽出され得る。
【符号の説明】
【0057】
DS…デスク、
PC…パーソナルコンピュータ(パソコン)、
RB1~RB3…ロボット、
SC…全体監視カメラ、
UC…ユーザカメラ、
US…ユーザ(ヒト)。