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特許7396498無線端末装置の位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法および位置推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】無線端末装置の位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法および位置推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04W 64/00 20090101AFI20231205BHJP
【FI】
H04W64/00 140
H04W64/00 110
H04W64/00 173
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022539882
(86)(22)【出願日】2020-07-29
(86)【国際出願番号】 JP2020029127
(87)【国際公開番号】W WO2022024275
(87)【国際公開日】2022-02-03
【審査請求日】2022-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】細田 真道
(72)【発明者】
【氏名】村上 友規
(72)【発明者】
【氏名】小川 智明
【審査官】岡本 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-136561(JP,A)
【文献】特開2002-107443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の無線基地局装置と通信を行う少なくとも1台の無線端末装置を有する無線通信システムと、前記無線基地局装置に接続され、前記無線通信システムの通信を用いて前記無線端末装置の位置を推定する位置推定装置と、を有する位置推定システムにおいて、
前記位置推定装置は、
複数の前記無線基地局装置の中から前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置を検出する検出部と、
帰属先の前記無線基地局装置を頂点に含む多角形の複数のエリアに分割し、前記エリアごとの前記無線基地局装置を判定する実施局判定部と、
前記実施局判定部により判定された前記エリアごとの前記無線基地局装置から測定信号を送信して、前記無線端末装置から返信される応答信号に基づいて、前記無線端末装置との間の信号の往復時間を測定する往復時間測定部と、
前記往復時間を少なくとも含む測定値の品質を計算する測定品質計算部と、
前記エリアごとの前記測定値の品質に基づいて、複数の前記エリアのうち前記無線端末装置が存在する前記エリアを判定するエリア判定部と、
前記無線端末装置が存在する前記エリアにおいて、前記無線端末装置の位置を推定する端末位置推定部と
を有することを特徴とする位置推定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置推定システムにおいて、
前記位置推定装置は、
前記無線端末装置の位置が前記エリアの境界近傍であるか否かを判定する境界近傍判定部と、
前記無線端末装置が存在する前記エリアの判定から予め決められた一定時間の経過を判定する判定タイマと
をさらに有し、
前記境界近傍判定部が前記無線端末装置の前記エリアの境界近傍への移動を判定したとき、前記判定タイマが前記無線端末装置の存在する前記エリアの判定から予め決められた一定時間の経過を判定したとき、前記検出部が前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置の変更を検出したとき、の少なくとも1つの条件に合致する場合、前記実施局判定部、前記往復時間測定部、前記測定品質計算部および前記エリア判定部により、前記無線端末装置が存在する前記エリアの判定を再度、実行する
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の位置推定システムにおいて、
前記無線基地局装置は、自装置または他の前記無線基地局装置が送信する測定信号に対して前記無線端末装置が返信する応答信号の受信信号強度を測定する受信部を有し、
前記測定品質計算部は、前記往復時間および前記受信信号強度の前記測定値の品質を計算する
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の位置推定システムにおいて、
前記エリアは、三次元空間に配置された複数の前記無線基地局装置により設定され、
前記無線基地局装置および前記無線端末装置の位置は、前記三次元空間の三次元座標で示される
ことを特徴とする位置推定システム。
【請求項5】
複数の無線基地局装置と通信を行う少なくとも1台の無線端末装置を有する無線通信システムの前記無線基地局装置に接続され、前記無線通信システムの通信を用いて前記無線端末装置の位置を推定する位置推定装置において、
複数の前記無線基地局装置の中から前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置を検出する検出部と、
帰属先の前記無線基地局装置を頂点に含む多角形の複数のエリアに分割し、前記エリアごとの前記無線基地局装置を判定する実施局判定部と、
前記実施局判定部により判定された前記エリアごとの前記無線基地局装置から測定信号を送信して、前記無線端末装置から返信される応答信号に基づいて、前記無線端末装置との間の信号の往復時間を測定する往復時間測定部と、
前記往復時間を少なくとも含む測定値の品質を計算する測定品質計算部と、
前記エリアごとの前記測定値の品質に基づいて、複数の前記エリアのうち前記無線端末装置が存在する前記エリアを判定するエリア判定部と、
前記無線端末装置が存在する前記エリアにおいて、前記無線端末装置の位置を推定する端末位置推定部と
を有することを特徴とする位置推定装置。
【請求項6】
請求項5に記載の位置推定装置において、
前記無線端末装置の位置が前記エリアの境界近傍であるか否かを判定する境界近傍判定部と、
前記無線端末装置が存在する前記エリアの判定から予め決められた一定時間の経過を判定する判定タイマと
をさらに有し、
前記境界近傍判定部が前記無線端末装置の前記エリアの境界近傍への移動を判定したとき、前記判定タイマが前記無線端末装置の存在する前記エリアの判定から予め決められた一定時間の経過を判定したとき、前記検出部が前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置の変更を検出したとき、の少なくとも1つの条件に合致する場合、前記実施局判定部、前記往復時間測定部、前記測定品質計算部および前記エリア判定部により、前記無線端末装置が存在する前記エリアの判定を再度、実行する
ことを特徴とする位置推定装置。
【請求項7】
複数の無線基地局装置と通信を行う少なくとも1台の無線端末装置を有する無線通信システムと、前記無線基地局装置に接続され、前記無線通信システムの通信を用いて前記無線端末装置の位置を推定する位置推定装置と、を有する位置推定システムにおいて行われる位置推定方法であって、
前記位置推定装置は、
複数の前記無線基地局装置の中から前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置を検出する検出処理と、
帰属先の前記無線基地局装置を頂点に含む多角形の複数のエリアに分割し、前記エリアごとの前記無線基地局装置を判定する実施局判定処理と、
前記実施局判定処理により判定された前記エリアごとの前記無線基地局装置から測定信号を送信して、前記無線端末装置から返信される応答信号に基づいて、前記無線端末装置との間の信号の往復時間を測定する往復時間測定処理と、
前記往復時間を少なくとも含む測定値の品質を計算する測定品質計算処理と、
前記エリアごとの前記測定値の品質に基づいて、複数の前記エリアのうち前記無線端末装置が存在する前記エリアを判定するエリア判定処理と、
前記無線端末装置が存在する前記エリアにおいて、前記無線端末装置の位置を推定する端末位置推定処理と
を行うことを特徴とする位置推定方法。
【請求項8】
請求項5または請求項6に記載の前記位置推定装置が行う処理をコンピュータに実行させることを特徴とする位置推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の無線基地局装置が配置された無線通信システムにおける無線端末装置の位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、無線LAN(Local Area Network)システムにおける無線端末装置の位置推定方法として、無線基地局装置と無線端末装置との間の電波到達時間(ToA:Time of Arrival)を測定する方法が実用化されている(例えば、非特許文献1および非特許文献2参照)。
【0003】
例えば、複数の無線基地局装置(もしくは分散アンテナ装置)から無線端末装置に予め決められた測定信号を送信し、測定信号を受信した無線端末装置からそれぞれの無線基地局装置に応答信号を返信する。各無線基地局装置は、測定信号の送信から応答信号の受信までの往復時間をそれぞれ測定する。そして、複数の無線基地局装置ごとに測定された往復時間により、各無線基地局装置と無線端末装置との間のそれぞれの距離が推定される。さらに、複数の無線基地局装置と無線端末装置との間のそれぞれの距離から無線端末装置の位置が推定される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】"分散アンテナ型アクセスポイントによる無線LAN端末2次元位置推定",細田真道・坂本 寛・村上友規・毛利 忠・小川智明・宮本 勝,FIT2019(第18回情報科学技術フォーラム)
【文献】IEEE Std 802.11-2016
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、大規模な無線通信システムでは、多数の無線基地局装置が広範囲に存在し、無線基地局装置と無線端末装置との間の距離が長くなる場合がある。この場合、無線通信が不安定または困難となり、ToA測定の品質が低下し、あるいはToA測定自体ができなくなる。このような無線基地局装置がToA測定のための無線信号の送受信を行うことにより通信帯域が圧迫され、無線端末装置の位置推定に要する時間が増加する、という問題がある。また、ToA測定の品質が低い無線基地局装置の測定結果を使用する場合、無線端末装置の位置推定の精度が低下する、という問題がある。さらに、無線LANシステムにおける無線基地局装置の数および位置推定対象の無線端末装置の数の少なくとも一方が増加した場合、上述の問題がより深刻となる。
【0006】
本発明は、大規模な無線通信システムにおいて無線端末装置の位置推定を行う場合に、無線基地局装置と無線端末装置との間の通信帯域の圧迫を抑えつつ、位置推定時間の短縮および位置推定精度の向上を図ることができる無線端末装置の位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法および位置推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数の無線基地局装置と通信を行う少なくとも1台の無線端末装置を有する無線通信システムと、前記無線基地局装置に接続され、前記無線通信システムの通信を用いて前記無線端末装置の位置を推定する位置推定装置と、を有する位置推定システムにおいて、前記位置推定装置は、複数の前記無線基地局装置の中から前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置を検出する検出部と、帰属先の前記無線基地局装置を頂点に含む多角形の複数のエリアに分割し、前記エリアごとの前記無線基地局装置を判定する実施局判定部と、前記実施局判定部により判定された前記エリアごとの前記無線基地局装置から測定信号を送信して、前記無線端末装置から返信される応答信号に基づいて、前記無線端末装置との間の信号の往復時間を測定する往復時間測定部と、前記往復時間を少なくとも含む測定値の品質を計算する測定品質計算部と、前記エリアごとの前記測定値の品質に基づいて、複数の前記エリアのうち前記無線端末装置が存在する前記エリアを判定するエリア判定部と、前記無線端末装置が存在する前記エリアにおいて、前記無線端末装置の位置を推定する端末位置推定部とを有することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、複数の無線基地局装置と通信を行う少なくとも1台の無線端末装置を有する無線通信システムの前記無線基地局装置に接続され、前記無線通信システムの通信を用いて前記無線端末装置の位置を推定する位置推定装置において、複数の前記無線基地局装置の中から前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置を検出する検出部と、帰属先の前記無線基地局装置を頂点に含む多角形の複数のエリアに分割し、前記エリアごとの前記無線基地局装置を判定する実施局判定部と、前記実施局判定部により判定された前記エリアごとの前記無線基地局装置から測定信号を送信して、前記無線端末装置から返信される応答信号に基づいて、前記無線端末装置との間の信号の往復時間を測定する往復時間測定部と、前記往復時間を少なくとも含む測定値の品質を計算する測定品質計算部と、前記エリアごとの前記測定値の品質に基づいて、複数の前記エリアのうち前記無線端末装置が存在する前記エリアを判定するエリア判定部と、前記無線端末装置が存在する前記エリアにおいて、前記無線端末装置の位置を推定する端末位置推定部とを有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、複数の無線基地局装置と通信を行う少なくとも1台の無線端末装置を有する無線通信システムと、前記無線基地局装置に接続され、前記無線通信システムの通信を用いて前記無線端末装置の位置を推定する位置推定装置と、を有する位置推定システムにおいて行われる位置推定方法であって、前記位置推定装置は、複数の前記無線基地局装置の中から前記無線端末装置の帰属先の前記無線基地局装置を検出する検出処理と、帰属先の前記無線基地局装置を頂点に含む多角形の複数のエリアに分割し、前記エリアごとの前記無線基地局装置を判定する実施局判定処理と、前記実施局判定処理により判定された前記エリアごとの前記無線基地局装置から測定信号を送信して、前記無線端末装置から返信される応答信号に基づいて、前記無線端末装置との間の信号の往復時間を測定する往復時間測定処理と、前記往復時間を少なくとも含む測定値の品質を計算する測定品質計算処理と、前記エリアごとの前記測定値の品質に基づいて、複数の前記エリアのうち前記無線端末装置が存在する前記エリアを判定するエリア判定処理と、前記無線端末装置が存在する前記エリアにおいて、前記無線端末装置の位置を推定する端末位置推定処理とを行うことを特徴とする。
【0010】
また、本発明の位置推定プログラムは、前記位置推定装置が行う処理をコンピュータに実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る無線端末装置の位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法および位置推定プログラムは、大規模な無線通信システムにおいて無線端末装置の位置推定を行う場合に、無線基地局装置と無線端末装置との間の通信帯域の圧迫を抑えつつ、位置推定時間の短縮および位置推定精度の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施形態に係る位置推定システムの一例を示す図である。
図2】実施形態に係る位置推定装置の構成例を示す図である。
図3】品質評価指標の一例を示す図である。
図4】三次元空間上での多角形分割の一例を示す図である。
図5】複数の無線基地局装置がそれぞれ測定信号を送信する例を示す図である。
図6】1台の無線基地局装置が測定信号を送信する例を示す図である。
図7】比較例の位置推定システムの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明に係る無線端末装置の位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法および位置推定プログラムの実施形態について説明する。
【0014】
[位置推定システム100の構成例]
図1は、実施形態に係る位置推定システム100の一例を示す。位置推定システム100は、複数の無線基地局装置(BS)101と、少なくとも1台の無線端末装置(TM)102とが通信を行う無線通信システムにおいて、無線端末装置102の位置を推定するシステムである。例えば、無線通信システムとして、無線LANシステムの利用が可能である。
【0015】
図1の例では、BS101(1)からBS101(7)までの7つの無線基地局装置が配置されている。ここで、実施形態の説明において、BS101(1)からBS101(7)に共通する場合は符号末尾の(番号)を省略してBS101と記載する。また、特定のBS101を指す場合は、符号末尾に(番号)を付加して、BS101(1)のように記載する。後述のエリア151(1)からエリア151(5)についても同様に記載する。
【0016】
ここで、図1では、複数のBS101が通信エリアに配置されているが、複数のアンテナ装置(基地局機能の一部を含むアンテナ装置でもよい)が分散して配置されていてもよい。この場合、例えば位置推定装置103側に基地局機能の一部が搭載され、基地局機能をアンテナ装置と分担する。
【0017】
図1に示す位置推定システム100では、複数のBS101に接続される位置推定装置103がBS101から得られる情報およびデータベース104の情報に基づいて、TM102の位置を推定する。なお、位置推定装置103は、TM102の位置を推定するためのサーバであり、BS101に接続するためのインターフェースを有し、内部のメモリに予め記憶された位置推定プログラムを実行するコンピュータで構成される。位置推定プログラムは、記憶媒体に記憶して提供されてもよいし、ネットワークを通して提供されてもよい。
【0018】
先ず、実施形態の特徴の一つであるエリア分割について説明する。位置推定システム100は、複数のBS101が配置される領域を複数のエリア151に分割し、TM102が存在するエリア151を判定する。そして、TM102が存在するエリア151において、TM102の位置を推定する。ここで、分割されるエリア151は、3以上のBS101を頂点とする多角形の領域である。
【0019】
図1の例では、7つのBS101の配置された領域がエリア151(1)からエリア151(5)までの5つの三角形のエリア151に分割されている。図1において、エリア151(1)は、BS101(1)、101(2)および101(3)の3つのBS101を頂点とする三角形である。エリア151(2)は、BS101(2)、101(3)および101(4)の3つのBS101を頂点とする三角形である。同様に、エリア151(3)は、BS101(2)、101(4)および101(5)、エリア151(4)は、BS101(1)、101(2)および101(7)により構成される。最後のエリア151(5)は、BS101(1)、101(6)および101(7)により構成される三角形である。
【0020】
なお、1つの頂点に対して複数の三角形が考えられるが、例えば3つの頂点が鋭角になる三角形などの条件を決めてもよい。これにより、BS101(2)、101(3)および101(7)、BS101(1)、101(2)および101(5)、BS101(1)、101(2)および101(4)、などの三角形のエリアは除外される。あるいは、三角形の三辺の長さのばらつきが小さいことを条件としてもよいし、さらに三辺の和が最小となることを条件に加えてもよい。
【0021】
ここで、複数のBS101が配置された領域を複数の多角形のエリアに分割する方法として、例えば三角形の場合、周知のドロネー三角形分割などの分割アルゴリズムの利用が可能である。この場合、位置推定装置103は、データベース104に予め記憶された複数のBS101の座標を参照して、分割アルゴリズムを実行し、自動的にデータベース104に設定することができる。あるいは、BS101の置局設計に基づいて、システム運用者が手作業で分割処理を行ってデータベース104に設定してもよい。なお、BS101の座標はデータベース104に予め記憶されているものとして説明したが、各BS101に自装置の座標を記憶しておき、位置推定装置103が各BS101からそれぞれの座標の情報を取得するようにしてもよい。
【0022】
ここで、図1の例では、3つのBS101を頂点とする三角形に分割したが、四角形および五角形などの多角形に分割してもよい。例えば、BS101(1)、BS101(2)、BS101(3)およびBS101(4)の4つのBS101を頂点とする四角形であってもよい。
【0023】
図1において、位置推定装置103は、TM102の位置を推定する処理を行う。先ず、位置推定装置103は、複数のBS101の中からTM102が帰属するBS101(帰属先のBS101と称する)を検出し、データベース104に記憶する。そして、位置推定装置103は、データベース104に予め設定されたエリア151の中から帰属先のBS101を頂点とする複数のエリア151を判定する。図1の例では、TM102の帰属先のBS101はBS101(2)である。
【0024】
そして、位置推定装置103は、帰属先のBS101(2)を頂点とする複数のエリア151において、各エリア151を構成するBS101とTM102との間の信号の往復時間などを測定する。ここで、往復時間は、往路と復路の電波到達時間が同じと見なすことで、従来技術で説明したToAに対応する。なお、BS101は、TM102との間の信号の往復時間を測定するとともに、TM102から受信する信号の受信信号強度を示す値(RSSI:Received Signal Strength Indicator)を測定してもよい。ここで、BS101ごとに測定される往復時間およびRSSIの測定値は、BS101に対応付けてデータベース104に記憶される。
【0025】
往復時間およびRSSIの測定は、BS101から予め決められた測定信号を送信し、測定信号を受信したTM102から予め決められた応答信号をBS101に返信することにより行われる。図1の例では、太線および細線の点線矢印が測定信号171、太線および細線の実線矢印が応答信号172をそれぞれ示す。なお、応答信号は、測定信号と同じものをTM102側でそのまま折り返すようにしてもよい。また、測定信号の受信から応答信号の送信までに要する処理時間は設計値または実測値として予め取得できるので、往復時間は、測定信号の送信から応答信号の受信までの時間から上記処理時間を引いた時間となる。
【0026】
ここで、図1の例では、帰属先のBS101(2)を頂点とするエリア151は、エリア151(1)、エリア151(2)、エリア151(3)およびエリア151(4)である。これにより、実施形態に係る位置推定システム100では、帰属先のBS101(2)を頂点としないエリア151(5)での測定を行う必要がなくなり、余計な通信帯域の圧迫が抑えられるとともに、位置推定に要する無駄な処理時間が無くなる。
【0027】
次に、位置推定装置103は、帰属先のBS101(2)を頂点とするエリア151ごとに測定値の測定品質を計算し、TM102が存在するエリア151を判定する。図1の例では、エリア151(1)、エリア151(2)、エリア151(3)およびエリア151(4)のそれぞれのエリア151における測定値の測定品質を計算し、各エリア151の測定品質を評価する。そして、位置推定装置103は、測定品質の評価が高いエリア151をTM102が存在するエリア151として判定する。図1の例では、エリア151(2)がTM102の存在するエリア151として判定される。以降、後述の所定の条件を満たす場合、エリア151(2)のみにおいて、TM102の位置を推定する処理が行われるので、BS101(1)、101(2)および101(3)とTM102との間で測定信号および応答信号の通信を行えばよい。これにより、帰属先のBS101(2)を頂点とする三角形のBS101(4)、101(5)および101(7)とTM102との間で測定信号および応答信号の通信を行う必要が無いので、余計な通信帯域の圧迫が抑えられる。
【0028】
ここで、図1に示すデータベース104について説明する。データベース104には、予め設定された情報および位置推定装置103の処理で得られる情報が記憶される。
【0029】
予め設定された情報は、例えば、複数のBS101の識別子および座標(設置されている場所の地理的な位置)、多角形の各エリア151を構成するBS101、各エリア151の番号(識別子)などである。
【0030】
また、位置推定装置103の処理で得られる情報は、例えば、帰属先のBS101の識別子、TM102の識別子、TM102の位置推定を行うための測定値の測定品質、推定されたTM102の位置(座標)、TM102が存在するエリア151の番号などである。
【0031】
ここで、帰属先のBS101とは、TM102が通常のデータ信号の通信を行うためのBS101であり、当該BS101を介して、TM102はインターネットなどにアクセスすることができる。なお、測定信号や応答信号などの制御信号は、帰属先のBS101を含む他のBS101との間で適宜、通信される。ここで、データベース104は、位置推定装置103に含まれていてもよい。
【0032】
このようにして、実施形態に係る位置推定システム100は、複数のBS101が配置される領域を複数のエリア151に分割し、TM102が存在するエリア151を判定してTM102の位置を推定する。これにより、TM102から遠く離れた位置にあるため通信が不安定または通信できないBS101による信号の往復時間などの測定を行う必要がなくなる。この結果、実施形態に係る位置推定システム100は、BS101とTM102との間の通信帯域の圧迫を抑えることができ、位置推定時間の短縮および位置推定精度の向上を図ることができる。
【0033】
[位置推定装置103の構成例]
図2は、図1に示す位置推定装置103の構成例を示す。図2において、位置推定装置103は、BS101(1)からBS101(7)に接続されている。位置推定装置103は、接続されているBS101の情報(識別子、信号の送信時刻、受信時刻、RSSIなどの情報)、BS101に接続されているTM102の情報(識別子、送信電力などの情報)を取得することができる。
【0034】
図2において、位置推定装置103は、切替部201、帰属先検出部202、実施局判定部203、測定信号生成部204、応答信号受信部205、往復時間測定部206、測定品質計算部207、エリア判定部208、端末位置推定部209、判定タイマ210および境界近傍判定部211を有する。ここで、図2の位置推定装置103のブロック内に点線で示された3つのブロック104は、位置推定装置103に接続されるデータベース104に相当し、データベース104に予め記憶された情報または新たに記憶される情報を示す。
【0035】
切替部201は、複数のBS101から、1台または複数のBS101を選択するための切り替えスイッチである。
【0036】
帰属先検出部202は、TM102の帰属先のBS101を検出する処理を行う(検出処理)。例えば、帰属先検出部202は、切替部201で全てのBS101に順番に接続して、TM102を収容しているか否かを確認することにより帰属先のBS101を検出できる。そして、帰属先検出部202は、検出したBS101の識別子(座標を含めてもよい)をデータベース104に記憶する。なお、データベース104には、全てのBS101の識別子および座標が予め記憶されているので、帰属先検出部202は、検出した帰属先のBS101の識別子から座標を取得することができる。
【0037】
実施局判定部203は、往復時間などの測定を実施するBS101を判定する処理を行う(実施局判定処理)。例えば、実施局判定部203は、データベース104に記憶されているTM102の帰属先情報に基づいて、往復時間などの測定を実施するBS101を判定する。測定を実施するBS101の判定は、帰属先のBS101を頂点に含む多角形を構成する無線基地局装置を判定する。図1の例では、帰属先のBS101(2)を頂点とするエリア151(1)、エリア151(2)、エリア151(3)およびエリア151(4)を構成するBS101が測定を実施するBS101である。この場合、測定を実施するBS101は、BS101(1)、BS101(2)、BS101(3)、BS101(4)、BS101(5)およびBS101(7)と判定される。また、実施局判定部203は、推定されたTM102の位置が隣接するエリア151との境界の近傍にあることを境界近傍判定部211に通知された場合、測定を実施するBS101を判定する処理を再度、実行する。あるいは、実施局判定部203は、TM102の位置を推定する対象のエリア151を判定後、予め決められた時間が経過したことを判定タイマ210が検出した場合、測定を実施するBS101を判定する処理を再度、実行する。このように、実施局判定部203は、「TM102の帰属先が変更されたとき」、「TM102が移動してエリア151の境界近傍に位置したとき」および「前回のエリア151の判定から一定時間が経過したとき」のいずれかの場合に、測定を実施するBS101を判定する処理を再度、実行する。
【0038】
測定信号生成部204は、往復時間を測定するための予め決められた測定信号を生成し、切替部201を介して各BS101から測定信号を送信する。なお、測定信号生成部204は、測定信号の送信時刻を取得する機能を有する。
【0039】
応答信号受信部205は、TM102から送信される応答信号を受信する。なお、応答信号受信部205は、応答信号の受信時刻を取得する機能を有する。
【0040】
往復時間測定部206は、測定信号の送信時刻と応答信号の受信時刻との差の時間を計算し、TM102との間の信号の往復時間を測定する処理を行う(往復時間測定処理)。なお、測定信号および応答信号を生成してから送信されるまでの処理時間およびTM102での折り返しに要する処理時間などは実際の測定値または設計値として予め取得できるので、上述の差の時間から処理時間を除外した時間が往復時間である。
【0041】
測定品質計算部207は、実施局判定部203で判定された測定対象のエリア151ごとに往復時間などの測定値の測定品質を計算する処理を行う(測定品質計算処理)。例えば、エリア151を構成する複数のBS101における往復時間の測定の成功率、往復時間の測定値の偏差、RSSIの測定値、などの品質評価指標に基づいて、エリア151ごとの測定値の測定品質が計算される。なお、品質評価指標については後述する。ここで、成功率および偏差など統計処理を行う場合は、同じエリア151で複数回の測定が行われるものとする。
【0042】
エリア判定部208は、実施局判定部203で判定された測定対象の複数のエリア151から、各エリア151での測定品質に基づいて、TM102が存在するエリア151を判定する処理を行う(エリア判定処理)。例えば、エリア判定部208は、測定品質が最も高いエリア151をTM102が存在するエリア151として判定する。
【0043】
端末位置推定部209は、エリア判定部208により判定されたエリア151を構成するBS101が測定した往復時間などの測定値からTM102の位置を推定する処理を行う(端末位置推定処理)。図1の例では、エリア151(2)を構成するBS101(1)、BS101(2)およびBS101(3)が測定したTM102との間の無線信号の往復時間およびRSSIの測定値に基づいて、TM102の位置を推定する。
【0044】
判定タイマ210は、エリア判定部208が判定したエリア151でTM102の位置を推定する処理を繰り返し実行するが、予め決められた一定時間が経過した場合、TM102の位置の推定を行うエリア151の判定をやり直すためのタイマである。これは、一定時間が経過すると、TM102が他のエリア151に移動している可能性があるためである。判定タイマ210が一定時間の経過を判定した場合、再度、実施局判定部203以降の処理が実行される。
【0045】
境界近傍判定部211は、推定されるTM102の位置が隣接するエリア151との境界に近づいたことを判定する。そして、TM102がエリア151の境界に近づいた場合、再度、実施局判定部203以降の処理を実行する。あるいは、往復時間などの測定を実施するBS101を隣接するエリア151に拡張して、再度、実施局判定部203以降の処理を実行するようにしてもよい。この場合、隣接するエリア151の両方において、往復時間などの測定を実施し、両方のエリア151の測定結果に基づいて、TM102の位置を推定することができる。なお、TM102の位置が隣接するエリア151との境界に近づいたか否かは、境界位置とTM102との間の最短距離が予め決められた値以下であるか否かにより判定できる。
【0046】
このようにして、実施形態に係る位置推定装置103は、複数のエリア151のうち、測定品質が最も高いエリア151をTM102が存在するエリア151として判定する。そして、位置推定装置103は、測定品質が最も高いエリア151を構成する各BS101が測定した往復時間などの測定値からTM102の位置を推定する。これにより、TM102の位置推定精度が高くなる。
【0047】
なお、上述の実施形態では、複数のBS101が配置された無線LANシステムの通信領域を複数の多角形のエリア151に予め分割する処理を行い、各エリア151を構成するBS101の情報が予めデータベース104に記憶されているものとして説明した。しかし、実施局判定部203がデータベース104に予め記憶された複数のBS101の座標を参照して分割アルゴリズムを実行し、自動的にデータベース104に設定するようにしてもよい。例えば、帰属先検出部202は新たなBS101の設置を検出できるので、実施局判定部203に分割アルゴリズムを再実行させて、エリア151の分割をやり直し、データベース104を更新することができる。この場合、帰属先のBS101を頂点とするエリア151が得られればよいので、帰属先のBS101を頂点としない遠方の領域はエリア151に分割しなくてもよい。
【0048】
[品質評価指標]
図3は、品質評価指標の一例を示す。図3に示す品質評価指標は、往復時間およびRSSIなどの測定値の品質を評価する指標の例であり、図2で説明した測定品質計算部207により計算され、エリア151ごとの測定品質が評価される。
【0049】
図3の例では、品質評価指標は、往復時間の測定の成功率、往復時間の測定値の偏差およびRSSIである。ここで、成功率は、例えば、往復時間の測定を行った回数に対する正常に測定できた回数により求めることができる。なお、図3に示す品質評価指標は一例であり、例えばRSSIの変動率など他の指標を用いてもよい。
【0050】
また、図3の例では、往復時間の測定の成功率が高い場合、往復時間の測定値の偏差が小さい場合、およびRSSIが強い場合、高品質であると評価される。逆に、往復時間の測定の成功率が低い場合、往復時間の測定値の偏差が大きい場合、およびRSSIが弱い場合、低品質であると評価される。ここで、往復時間の測定の成功率は、測定信号や応答信号が正常に受信できた場合は成功、測定信号や応答信号が正常に受信できなかった場合は不成功となり、複数回の測定結果により成功率の算出が可能である。往復時間の測定値の偏差は、複数回の測定結果を統計処理することにより算出が可能である。
【0051】
そして、エリア判定部208は、実施局判定部203で判定された測定対象の複数のエリア151のうち、測定品質が最も高品質のエリア151をTM102が存在するエリア151として判定する。
【0052】
なお、図3に示した測定品質の評価指標は、例えば測定結果に基づいて点数化してもよい。この場合、例えば往復時間の測定の成功率が高いほど多く加点する。同様に、往復時間の測定値の偏差が小さいほど多く加点する。RSSIは強いほど多く加点する。そして、エリア151ごとの総合点数を算出する。往復時間の測定の成功率、往復時間の測定値の偏差およびRSSIの各評価指標の点数は、それぞれの項目ごとの最大値および最小値に基づいて正規化され、いずれかの項目に偏らないようにする。あるいは、総合点数を算出するときに、意図的に評価指標ごとの重みづけが行われてもよい。例えば、往復時間の測定の成功率を0.5、往復時間の測定値の偏差を0.2、RSSIを0.3のように各評価指標の点数を重みづけすることができる。
【0053】
このように、品質評価指標を用いて、エリア151ごとの測定品質を点数化し、最高得点のエリアをTM102が存在するエリア151として判定することができる。なお、図3では、往復時間およびRSSIを併用する例を示したが、往復時間またはRSSIの一方を品質評価指標として位置推定を行ってもよい。
【0054】
[TM102が存在するエリア151の判定例]
ここで、TM102が存在するエリア151の判定例を具体的に説明する。図1の例では、実施局判定部203で判定された測定対象の複数のエリア151は、エリア151(1)、エリア151(2)、エリア151(3)およびエリア151(4)の4つである。そして、測定品質計算部207は、各エリア151を構成する複数のBS101における往復時間などの測定値の測定品質を計算する。
【0055】
図1の例では、TM102に最も近い位置にあるBS101(2)の測定品質が最も良い可能性が高い。次にTM102との距離が短いのはBS101(1)またはBS101(3)であり、両者のTM102との距離はほぼ同じなので、同程度の測定品質になると思われる。BS101(4)、BS101(7)およびBS101(5)は、BS101(1)またはBS101(3)よりもTM102との距離が長いので、測定品質は、BS101(1)またはBS101(3)よりも低くなる。なお、BS101(6)は、帰属先のBS101(2)を頂点とするエリア151ではないので測定対象外であり、測定信号および応答信号の通信は行われない。このように、図1の例では、BS101(2)、BS101(1)またはBS101(3)、BS101(4)またはBS101(7)、BS101(5)の順番に測定品質が悪くなっていくと考えられる。つまり、BS101(1)、BS101(2)およびBS101(3)で構成されるエリア151(1)における測定品質が最も高くなる。
【0056】
このようにして、エリア判定部208は、実施局判定部203で判定された測定対象の複数のエリア151から、各エリア151を構成するBS101の測定品質を計算して、エリア151ごとの測定品質を比較する。そして、エリア判定部208は、測定品質が最も高いエリア151をTM102が存在するエリア151として判定する。
【0057】
このようにして判定されたTM102が存在するエリア151において、当該エリア151を構成する各BS101が測定した往復時間などの測定値からTM102の位置を推定する処理が繰り返し行われる。これにより、TM102が存在しないエリア151のBS101とTM102との間で測定信号や応答信号の送受信を行う必要がなくなり、通信帯域を圧迫することが無くなる。また、測定品質が最も高いエリア151をTM102が存在するエリア151として判定するので、TM102の位置の推定精度を高くなる。
【0058】
上述のように、TM102が存在するエリア151において、TM102の位置を推定する処理が繰り返し行われるが、次の条件に合致する場合、測定を行うエリア151およびBS101の見直しが行われる。例えば、一定時間が経過した場合、エリア151の境界近傍に近づいた場合、帰属先が変更になった場合、などにおいて、測定を行うエリア151およびBS101の判定が再び実行される。これにより、TM102が他のエリア151に移動した場合や移動しそうな場合を判別して、測定対象のエリア151の見直しが行われるので、TM102の位置の推定精度が低下するのを防止することができる。
【0059】
[三次元空間上での多角形分割の応用例]
図4は、三次元空間上での多角形分割の応用例を示す。上述の実施形態では、複数のBS101が二次元平面上に配置されているものとして説明したが、三次元空間上で考えてもよい。この場合、各BS101の座標は、二次元座標ではなく三次元座標でデータベース104に記憶されている。
【0060】
図4の例では、三次元座標(x,y,z)において、BS101(1)は座標(x1,y1,z1)、BS101(2)は座標(x2,y2,z2)、BS101(3)は座標(x3,y3,z3)、BS101(4)は座標(x4,y4,z4)、BS101(5)は座標(x5,y5,z5)にそれぞれ配置されている。
【0061】
図4において、例えば、BS101(2)からBS101(5)が同一の平面上に配置され、BS101(1)だけが当該平面上に無い場合、BS101(1)を頂点とする四角錐が形成される。この場合、(a)から(f)までの影で示した6つの三角形のエリアに分割することができる。例えば(a)は、BS101(1)、BS101(2)およびBS101(3)を頂点とする三角形のエリアを示す。同様に、(b)は、BS101(1)、BS101(3)およびBS101(4)を頂点とする三角形のエリアを示す。(c)から(f)についても同様である。
【0062】
図4に示すように、複数のBS101が三次元空間上に配置されている場合であっても、図1で説明したように、位置推定装置103は、TM102が存在する三角形のエリアを判定して、TM102の位置を推定する処理を行う。なお、図4の場合、三次元空間なので、TM102は、必ずしも三角形のエリアの面内に位置するとは限らないが、測定品質の最も高いエリアを判定して、当該エリアを構成するBS101によりTM102の位置の推定を行うことができる。
【0063】
図4において、例えばTM102の帰属先がBS101(1)である場合、BS101(1)を頂点とするエリアは、(a)のエリア、(b)のエリア、(c)のエリア、(d)のエリアである。そして、実施局判定部203は、BS101(1)を頂点とするエリア((a),(b),(c),(d))を構成するBS101(1)からBS101(5)を往復時間などの測定を実施するBS101として判定する。そして、測定品質計算部207は、往復時間などの測定値の測定品質を計算し、エリア判定部208は、BS101(1)を頂点とするエリア((a),(b),(c),(d))のうち、測定品質が最も高いエリアをTM102が存在するエリアとして判定する。例えば、図4の(c)のエリアの測定品質が最も高いと判定された場合、端末位置推定部209は、(c)のエリアを構成するBS101(1)、BS101(4)およびBS101(5)により、往復時間などの測定を行って、TM102の位置の推定を行う。
【0064】
ここで、図4の例では、帰属先のBS101(1)を頂点としない(e)および(f)のエリアを除外したが、三次元空間の場合は、帰属先のBS101(1)を頂点とする三角形を構成する他のBS101の組み合わせで構成される三角形のエリアを含めてもよい。これにより、図4に示すように、帰属先のBS101(1)を頂点とする四角錐の空間内にTM102が存在する場合に有効である。なお、図4の例では四角錐であるが、BS101の配置により、三角錐など様々な立体形状の空間が形成される。
【0065】
次に、応答信号のRSSIを測定する方法について説明する。往復時間の測定の品質評価指標に応答信号のRSSIを使用する場合、BS101がTM102から応答信号を受信してRSSIを測定する。この場合、BS101自身が送信した測定信号に対する自装置宛の応答信号のRSSIを測定する方法と、他のBS101が送信した測定信号に対する他のBS101宛の応答信号のRSSIを測定する方法とがある。
【0066】
[応答信号のRSSIの測定方法(1)]
図5は、複数のBS101がそれぞれ測定信号を送信する例を示す。図5において、BS101(1)は、測定信号171(1)を送信し、TM102から返信される応答信号172(1)のRSSIを測定する。BS101(2)は、測定信号171(2)を送信し、TM102から返信される応答信号172(2)のRSSIを測定する。同様に、BS101(3)は、測定信号171(3)を送信し、TM102から返信される応答信号172(3)のRSSIを測定する。
【0067】
このように、BS101(1)からBS101(3)は、それぞれ測定信号171(1)から測定信号171(3)を送信する。そして、TM102は、測定信号171(1)から測定信号171(3)のそれぞれに対応する応答信号172(1)から応答信号172(3)を返信する。このため、TM102は、それぞれのBS101に対して応答信号172を送信する必要があり、TM102の処理負荷が重くなる。さらにBS101ごとに測定信号171を送信するため、通信帯域が占有される。
【0068】
[応答信号のRSSIの測定方法(2)]
図6は、1台のBS101が測定信号を送信する例を示す。ここで、図6の例では、TM102から送信される応答信号172を受信するための受信機(RX)110を有する。RX110は、TM102が他のBS101に返信する応答信号172を受信してRSSIを測定することができる。そして、RX110が測定したRSSIの測定値は、当該RX110が接続されるBS101に出力される。なお、図6では、説明が分かり易いように、BS101とRX110を別のブロックにしたが、BS101にRX110の機能を含めてもよい。
【0069】
ここで、TM102は、一般的に無指向アンテナにより全方位に向けて無線信号を送信するため、各BS101において無線信号をキャプチャするRX110を備えれば、他のBS101に対する応答信号をキャプチャしてRSSIを測定することができる。特に、応答信号の受信は全BS101が同時に行えるため、RSSIの測定が短期間で済む。
【0070】
図6の例では、BS101(2)のみが測定信号171(2)を送信し、BS101(1)およびBS101(3)は測定信号を送信しない。BS101(2)は、測定信号171(2)を送信し、RX110(2)がTM102から返信される応答信号172(2)を受信してRSSIを測定し、BS101(2)にRSSIの測定値を出力する。BS101(1)は測定信号を送信せずに、RX110(1)がTM102から返信される応答信号172(2)を受信してRSSIを測定し、BS101(1)にRSSIの測定値を出力する。同様に、BS101(3)は測定信号を送信せずに、RX110(3)がTM102から返信される応答信号172(2)を受信してRSSIを測定し、BS101(3)にRSSIの測定値を出力する。
【0071】
このように、BS101(1)からBS101(3)のうち1台のBS101(2)のみが測定信号を送信する。そして、TM102からBS101(2)に返信される応答信号172(2)は、測定信号171(2)を送信したBS101(2)のRX110(2)で受信され、RSSIが測定される。同時に、応答信号172(2)は、他のBS101(1)のRX110(1)およびBS101(3)のRX110(3)でも受信され、RSSIが測定される。
【0072】
これにより、TM102は、それぞれのBS101に対して応答信号172を送信する必要がなくなり、図5の場合に比べてTM102の処理負荷が軽くなる。さらに全てのBS101が測定信号171を送信する必要がなくなり、通信帯域が解放される。なお、図6において往復時間を測定する場合は、図5と同様に、各BS101がそれぞれ測定信号171を送信する必要があるので、RSSIのみを品質評価指標として位置推定を行う場合に有効である。
【0073】
[比較例の位置推定システム]
図7は、比較例の位置推定システム800の一例を示す。位置推定システム800は、図1に示す実施形態の位置推定システム100に対応するが、エリア151の分割は行われない。
【0074】
図7において、比較例の位置推定システム800は、BS801(1)からBS801(6)までの6台のBS801と、TM802と、位置推定装置803とを有する。位置推定装置803は、図1の実施形態と同様に、各BS801から送信される測定信号と、測定信号を受信したTM802から返信される応答信号とに基づいて往復時間やRSSIを測定し、TM802の位置を推定する。
【0075】
比較例の位置推定システム800と図1の実施形態の位置推定システム100との違いは、TM802との距離が離れているため、信号の送受信が不可(または低品質)の場合でも、全てのBS801が測定信号を送信して往復時間などの測定を試みることである。
【0076】
図7の例では、BS801(1)、BS801(2)およびBS801(3)は、TM802に近い位置にあるので測定信号と応答信号の送受信が可能である。しかし、BS801(4)、BS801(5)およびBS801(6)は、TM802との距離が長いので測定信号がTM802で正常に受信できないか、あるいは受信品質が低くなる。このため、BS801(4)、BS801(5)およびBS801(6)は、TM802から応答信号を受信することができず、往復時間などの測定を行うことができない。
【0077】
このように、比較例の位置推定システム800は、TM802との距離が長く、無線信号の送受信が不可(または低品質)の場合でも、全てのBS801が測定信号を送信して往復時間などの測定を試みるため、通信帯域が圧迫されるという問題がある。また、位置推定装置803は、多数のBS801から得られる情報を処理するため、位置推定時間が長くなるという問題がある。さらに、低品質の信号を用いた測定値でTM802の位置の推定を行った場合、位置推定精度が悪くなるという問題がある。
【0078】
これに対して、図1に示した実施形態に係る位置推定システム100では、帰属先のBS101を頂点とする複数の多角形のエリア151に対して、エリア151ごとの測定品質を評価してTM102が存在するエリア151を判定する。そして、位置推定装置103は、TM102が存在するエリア151のみでTM102の位置を推定する処理を行う。図1の例では、エリア151(1)のみで測定信号および応答信号の送受信が行われる。なお、BS101(4)、BS101(5)およびBS101(7)は、帰属先のBS101を頂点とする複数のエリア151ごとの測定品質を評価するときだけ、測定信号および応答信号の送受信を行うので、通信帯域への影響は少ない。また、帰属先のBS101を頂点としないエリア151のBS101(図1の例ではBS101(6))は、最初から測定信号および応答信号の送受信を行わないので、通信帯域は圧迫されない。
【0079】
このように、実施形態に係る位置推定装置103は、広範囲に多数のBS101が配置された大規模な無線通信システムにおいて、測定品質が低いBS101を排除するので、通信帯域の圧迫を抑えることができ、位置推定時間が短くなる。そして、実施形態に係る位置推定装置103は、測定品質が良好なBS101のみで測定を実施するので、位置推定精度を向上することができる。
【0080】
以上説明したように、本発明に係る無線端末装置の位置推定システム、位置推定装置、位置推定方法および位置推定プログラムは、大規模な無線通信システムにおいて無線端末装置の位置推定を行う場合に、無線基地局装置と無線端末装置との間の通信帯域の圧迫を抑えつつ、位置推定時間の短縮および位置推定精度の向上を図ることができる。
【0081】
ここで、位置推定装置103が行う処理に対応するプログラムを汎用のコンピュータもしくはFPGA(Field Programmable Gate Array)などの集積回路で実行するようにしてもよい。また、プログラムは、記憶媒体に記憶して提供されてもよいし、ネットワークを通して提供されてもよい。
【符号の説明】
【0082】
100,800・・・位置推定システム;101,801・・・BS(無線基地局装置);102,802・・・TM(無線端末装置);103,803・・・位置推定装置;104・・・データベース;151・・・エリア;171・・・測定信号;172・・・応答信号;201・・・切替部;202・・・帰属先検出部;203・・・実施局判定部;204・・・測定信号生成部;205・・・応答信号受信部;206・・・往復時間測定部;207・・・測定品質計算部;208・・・エリア判定部;209・・・端末位置推定部;210・・・判定タイマ;211・・・境界近傍判定部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7