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特許7396510無線通信システム、送信電力制御方法、ソフトウェア無線機、および送信電力制御用プログラム
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  • 特許-無線通信システム、送信電力制御方法、ソフトウェア無線機、および送信電力制御用プログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】無線通信システム、送信電力制御方法、ソフトウェア無線機、および送信電力制御用プログラム
(51)【国際特許分類】
   H04B 1/00 20060101AFI20231205BHJP
   H04W 52/24 20090101ALI20231205BHJP
   H04W 88/02 20090101ALI20231205BHJP
【FI】
H04B1/00 103
H04W52/24
H04W88/02 160
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022551116
(86)(22)【出願日】2020-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2020036725
(87)【国際公開番号】W WO2022064717
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-03-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮城 利文
【審査官】大野 友輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-022140(JP,A)
【文献】国際公開第2005/122414(WO,A1)
【文献】特開2003-338799(JP,A)
【文献】特開2006-173664(JP,A)
【文献】酒匂 一成,無線法規の概要(その4)無線局と電波免許,NTT Docomo テクニカル・ジャーナル,1995年,Vol.2, No.4,pp.43-46,<URL:https://www.nttdocomo.co.jp/binary/pdf/corporate/technology/rd/technical_journal/bn/vol2_4/vol2_4_043jp.pdf>
【文献】川口 貴正 et al.,IMESを用いたスマートフォン向け屋内測位システムの開発,電気学会論文誌C,2018年03月01日,Vol.138, No.3,pp.193-203
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/00
H04W 52/24
H04W 88/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ソフトウェアの変更により再構成が可能な無線通信用のハードウェアリソースと、前記ハードウェアリソースを無線通信に対応させるためのソフトウェアを格納したメモリと、前記メモリに格納されているソフトウェアを用いて前記ハードウェアリソースを再構成する制御部と、無線信号を授受するアンテナとを備えるソフトウェア無線機を活用した無線通信システムであって、
同一のアンテナを備え、アンテナ間に距離dが生ずるように離間して配置される二台のソフトウェア無線機を備え、
前記制御部は、
通信に用いる通信方式および周波数帯を選択する選択処理と、
前記通信方式および前記周波数帯を他方のソフトウェア無線機と共有する処理と、
前記通信方式および前記周波数帯を用いる通信回線を構成する処理と、
他方のソフトウェア無線機から前記周波数帯で送信されてきた信号の受信レベルRtを検知する処理と、
前記他方のソフトウェア無線機が前記信号の送信に用いた送信出力Ptを検知する出力検知処理と、
前記距離dを検知する処理と、
前記アンテナから距離dの位置で、前記周波数帯において生ずる伝搬損失Ldを算出する処理と、
無線局が満たすべき許容値Rと比較する電界強度を測定すべき位置として規定されている距離だけ前記アンテナから離れた位置で、前記周波数帯において生ずる規定距離伝搬損失Lを算出する処理と、
前記メモリから、前記周波数帯における前記許容値Rを読み出す処理と、
P = R - (Rt + Ld- Pt)/ 2 + L に従って送信電力Pの上限値を算出する処理と、
を実行する無線通信システム。
【請求項2】
前記ソフトウェア無線機は、ユーザによる入力を受け付ける入力インターフェースを備え、
前記選択処理は、
前記入力インターフェースを介して、通信方式および周波数帯の指定を受け付ける処理と、
指定された通信方式および周波数帯を、通信に用いるものとして選択する処理と、
を含む請求項1に記載の無線通信システム。
【請求項3】
前記ソフトウェア無線機は、ユーザによる入力を受け付ける入力インターフェースを備え、
前記選択処理は、
前記入力インターフェースを介して、伝送容量の指定を受け付ける処理と、
指定された伝送容量を満たす通信方式および周波数帯を探索する処理と、
前記探索の結果得られた通信方式および周波数帯を、通信に用いるものとして選択する処理と、
を含む請求項1または2に記載の無線通信システム。
【請求項4】
前記ソフトウェア無線機は、ユーザによる入力を受け付ける入力インターフェースを備え、
前記選択処理は、
前記入力インターフェースを介して、伝送品質の指定を受け付ける処理と、
指定された伝送品質を満たす通信方式および周波数帯を探索する処理と、
前記探索の結果得られた通信方式および周波数帯を、通信に用いるものとして選択する処理と、
を含む請求項1乃至3の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項5】
前記他方のソフトウェア無線機は、前記送信出力Ptの情報を含むパケット信号を前記信号として送信し、
前記出力検知処理は、前記パケット信号から前記情報を抽出して前記送信出力Ptを検知する処理を含む請求項1乃至4の何れか1項に記載の無線通信システム。
【請求項6】
ソフトウェアの変更により再構成が可能な無線通信用のハードウェアリソースと、前記ハードウェアリソースを無線通信に対応させるためのソフトウェアを格納したメモリと、前記メモリに格納されているソフトウェアを用いて前記ハードウェアリソースを再構成する制御部と、無線信号を授受するアンテナとを備えるソフトウェア無線機を活用した送信電力制御方法であって、
同一のアンテナを備え、アンテナ間に距離dが生ずるように離間して二台のソフトウェア無線機を配置するステップと、
一方のソフトウェア無線機に、通信に用いる通信方式および周波数帯を選択させるステップと、
前記通信方式および前記周波数帯を前記二台のソフトウェア無線機で共有させるステップと、
前記二台のソフトウェア無線機に、前記通信方式および前記周波数帯を用いる通信回線を構成させるステップと、
他方のソフトウェア無線機に、前記周波数帯で信号を送信させるステップと、
前記一方のソフトウェア無線機に、送信されてきた前記信号の受信レベルRtを検知させるステップと、
前記一方のソフトウェア無線機に、前記他方のソフトウェア無線機が前記信号の送信に用いた送信出力Ptを検知させるステップと、
前記一方のソフトウェア無線機に、前記距離dを検知させるステップと、
前記一方のソフトウェア無線機に、前記アンテナから距離dの位置で、前記周波数帯において生ずる伝搬損失Ldを算出させるステップと、
前記一方のソフトウェア無線機に、無線局が満たすべき許容値Rと比較する電界強度を測定すべき位置として規定されている距離だけ前記アンテナから離れた位置で、前記周波数帯において生ずる規定距離伝搬損失Lを算出させるステップと、
前記一方のソフトウェア無線機に、前記メモリから、前記周波数帯における前記許容値Rを読み出させるステップと、
前記一方のソフトウェア無線機に、P = R - (Rt + Ld- Pt)/ 2 + L に従って送信電力Pの上限値を算出させるステップと、
を含む送信電力制御方法。
【請求項7】
ソフトウェアの変更により再構成が可能な無線通信用のハードウェアリソースと、前記ハードウェアリソースを無線通信に対応させるためのソフトウェアを格納したメモリと、前記メモリに格納されているソフトウェアを用いて前記ハードウェアリソースを再構成する制御部と、無線信号を授受するアンテナとを備えるソフトウェア無線機であって、
前記制御部は、
通信に用いる通信方式および周波数帯を選択する選択処理と、
前記通信方式および前記周波数帯を他の無線機と共有する処理と、
前記通信方式および前記周波数帯を用いる通信回線を構成する処理と、
前記他の無線機から前記周波数帯で送信されてきた信号の受信レベルRtを検知する処理と、
前記他の無線機が前記信号の送信に用いた送信出力Ptを検知する出力検知処理と、
前記他の無線機とのアンテナ間の距離dを検知する処理と、
前記アンテナから距離dの位置で、前記周波数帯において生ずる伝搬損失Ldを算出する処理と、
無線局が満たすべき許容値Rと比較する電界強度を測定すべき位置として規定されている距離だけ前記アンテナから離れた位置で、前記周波数帯において生ずる規定距離伝搬損失Lを算出する処理と、
前記メモリから、前記周波数帯における前記許容値Rを読み出す処理と、
P = R - (Rt + Ld- Pt)/ 2 + L に従って送信電力Pの上限値を算出する処理と、
を実行するソフトウェア無線機。
【請求項8】
コンピュータに、請求項7に記載のソフトウェア無線機の機能を実現させるためのプログラムを含む送信電力制御用プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この開示は、無線通信システム、送信電力制御方法、ソフトウェア無線機、および送信電力制御用プログラムに係り、特に、微弱無線局の規定を満足するように電界強度を制御する上で好適な無線通信システム、送信電力制御方法、ソフトウェア無線機、および送信電力制御用プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、通信相手の電力消費の無駄を抑制できる無線通信装置が開示されている。この装置は、通信相手から受信した電波の電界強度を検出し、その値が予め設定されている基準範囲内にあるかを判定する。また、この装置は、相手方から受信する電波の電界強度が基準範囲内に収まるように、通信相手に対して送信出力の変更を指示する。その結果、特許文献1に記載の装置は、通信に用いられる電波の電界強度を制御可能なシステムを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】日本特開2007-259055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
日本国においては、無線装置を、無線局としての届出が不要な微弱無線局として用いる場合、無線装置から3mの距離における電界強度を、総務省の規定により定められている許容値以下に抑える必要がある。
【0005】
特許文献1に記載の装置は、通信相手からの電波の受信電界強度に応じて、送信出力の変更を指示する。つまり、この装置は、通信相手の送信電力値、アンテナ利得、および通信相手との離隔距離が不明な状態で、通信相手の送信出力の増減を指示する。
【0006】
この場合、通信相手の送信電力値そのものは、制御の対象とならず、必然的に、その通信相手から3m離れた位置での電界強度も制御の対象とはならない。このため、特許文献1に記載の技術を微弱無線局に適用した場合、通信相手から送出される電波の電界強度を、微弱無線局に許容される電界強度の許容値以下に確実に収めることはできない。
【0007】
本開示は、ソフトウェア無線技術を活用して、通信相手から送出される電波の電界強度が無線局に許容される規定以下となるように送信電力を制御することで、無線局に課された規定を満足させ得る無線通信システムを提供することを第1の目的とする。
【0008】
また、本開示は、ソフトウェア無線技術を活用して、通信相手から送出される電波の電界強度が無線局に許容される規定以下となるように送信電力を制御することで、無線局に課された規定を満足させ得る送信電力制御方法を提供することを第2の目的とする。
【0009】
また、本開示は、ソフトウェア無線技術を活用して、通信相手から送出される電波の電界強度が無線局に許容される規定以下となるように送信電力を制御することで、無線局に課された規定を満足させ得るソフトウェア無線機を提供することを第3の目的とする。
【0010】
また、本開示は、ソフトウェア無線技術を活用して、通信相手から送出される電波の電界強度が無線局に許容される規定以下となるように送信電力を制御することで、無線局に課された規定を満足させ得る送信電力制御用プログラムを提供することを第4の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
第1の態様は、上記の目的を達成するため、ソフトウェアの変更により再構成が可能な無線通信用のハードウェアリソースと、前記ハードウェアリソースを無線通信に対応させるためのソフトウェアを格納したメモリと、前記メモリに格納されているソフトウェアを用いて前記ハードウェアリソースを再構成する制御部と、無線信号を授受するアンテナとを備えるソフトウェア無線機を活用した無線通信システムであって、同一のアンテナを備え、アンテナ間に距離dが生ずるように離間して配置される二台のソフトウェア無線機を備え、前記制御部は、通信に用いる通信方式および周波数帯を選択する選択処理と、前記通信方式および前記周波数帯を他方のソフトウェア無線機と共有する処理と、前記通信方式および前記周波数帯を用いる通信回線を構成する処理と、他方のソフトウェア無線機から前記周波数帯で送信されてきた信号の受信レベルRtを検知する処理と、前記他方のソフトウェア無線機が前記信号の送信に用いた送信出力Ptを検知する出力検知処理と、前記距離dを検知する処理と、前記アンテナから距離dの位置で、前記周波数帯において生ずる伝搬損失Ldを算出する処理と、無線局が満たすべき許容値Rと比較する電界強度を測定すべき位置として規定されている距離だけ前記アンテナから離れた位置で、前記周波数帯において生ずる規定距離伝搬損失Lを算出する処理と、前記メモリから、前記周波数帯における前記許容値Rを読み出す処理と、P = R - (Rt + Ld- Pt)/ 2 + L に従って送信電力Pの上限値を算出する処理と、を実行することが望ましい。
【0012】
また、第2の態様は、ソフトウェアの変更により再構成が可能な無線通信用のハードウェアリソースと、前記ハードウェアリソースを無線通信に対応させるためのソフトウェアを格納したメモリと、前記メモリに格納されているソフトウェアを用いて前記ハードウェアリソースを再構成する制御部と、無線信号を授受するアンテナとを備えるソフトウェア無線機を活用した送信電力制御方法であって、同一のアンテナを備え、アンテナ間に距離dが生ずるように離間して二台のソフトウェア無線機を配置するステップと、一方のソフトウェア無線機に、通信に用いる通信方式および周波数帯を選択させるステップと、前記通信方式および前記周波数帯を前記二台のソフトウェア無線機で共有させるステップと、前記二台のソフトウェア無線機に、前記通信方式および前記周波数帯を用いる通信回線を構成させるステップと、他方のソフトウェア無線機に、前記周波数帯で信号を送信させるステップと、前記一方のソフトウェア無線機に、送信されてきた前記信号の受信レベルRtを検知させるステップと、前記一方のソフトウェア無線機に、前記他方のソフトウェア無線機が前記信号の送信に用いた送信出力Ptを検知させるステップと、前記一方のソフトウェア無線機に、前記距離dを検知させるステップと、前記一方のソフトウェア無線機に、前記アンテナから距離dの位置で、前記周波数帯において生ずる伝搬損失Ldを算出させるステップと、前記一方のソフトウェア無線機に、無線局が満たすべき許容値Rと比較する電界強度を測定すべき位置として規定されている距離だけ前記アンテナから離れた位置で、前記周波数帯において生ずる規定距離伝搬損失Lを算出させるステップと、前記一方のソフトウェア無線機に、前記メモリから、前記周波数帯における前記許容値Rを読み出させるステップと、前記一方のソフトウェア無線機に、P = R - (Rt + Ld- Pt)/ 2 + L に従って送信電力Pの上限値を算出させるステップと、を含むことが望ましい。
【0013】
また、第3の態様は、ソフトウェアの変更により再構成が可能な無線通信用のハードウェアリソースと、前記ハードウェアリソースを無線通信に対応させるためのソフトウェアを格納したメモリと、前記メモリに格納されているソフトウェアを用いて前記ハードウェアリソースを再構成する制御部と、無線信号を授受するアンテナとを備えるソフトウェア無線機であって、前記制御部は、通信に用いる通信方式および周波数帯を選択する選択処理と、前記通信方式および前記周波数帯を他の無線機と共有する処理と、前記通信方式および前記周波数帯を用いる通信回線を構成する処理と、前記他の無線機から前記周波数帯で送信されてきた信号の受信レベルRtを検知する処理と、前記他の無線機が前記信号の送信に用いた送信出力Ptを検知する出力検知処理と、前記他の無線機とのアンテナ間の距離dを検知する処理と、前記アンテナから距離dの位置で、前記周波数帯において生ずる伝搬損失Ldを算出する処理と、無線局が満たすべき許容値Rと比較する電界強度を測定すべき位置として規定されている距離だけ前記アンテナから離れた位置で、前記周波数帯において生ずる規定距離伝搬損失Lを算出する処理と、前記メモリから、前記周波数帯における前記許容値Rを読み出す処理と、P = R - (Rt + Ld- Pt)/ 2 + L に従って送信電力Pの上限値を算出する処理と、を実行することが望ましい。
【0014】
また、第4の態様は、送信電力制御用プログラムであって、コンピュータに、第3の態様に係るソフトウェア無線機の機能を実現させるためのプログラムを含むことが望ましい。
【発明の効果】
【0015】
第1乃至第4の態様によれば、ソフトウェア無線技術を活用して、様々な通信方式および周波数帯を活用して良好な通信をユーザに提供することができる。そして、使用する周波数帯毎に、電界強度が無線局について定められている許容値R以下となるように送信電力Pを設定することができる。このため、これらの態様によれば、無線局に課された規定を満足させながら、質の高い通信をユーザに提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本開示の実施の形態1の無線通信システムの構成を示す図である。
図2図1に示す無線通信システムに含まれるソフトウェア無線機の内部に構成される要素を説明するためのブロック図である。
図3図2に示すソフトウェア無線機で実行される処理の内容を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
実施の形態1.
[実施の形態1の構成]
図1は、本開示の実施の形態1の無線通信システムの一例を示す。図1に示す無線通信システムは、二台のソフトウェア無線機10-1、10-2を含んでいる。これら二台のソフトウェア無線機10-1、10-2は、同じ構成を有している。以下、それらを区別する必要が無い場合は、「ソフトウェア無線機10」の呼称を用いて説明を進める。
【0018】
ソフトウェア無線機10-1はアンテナ12-1に接続されている。一方、ソフトウェア無線機10-2は、アンテナ12-2に接続されている。二台のアンテナ12-1、12-2は同一の構成を有しており、同じアンテナ利得Gを有している。ソフトウェア無線機10-1,10-2は、アンテナ12-1,12-2を介して無線で通信することができる。以下、二つのアンテナを区別する必要が無い場合は、それらを「アンテナ12」と称して説明を進める。
【0019】
ソフトウェア無線機10は、ソフトウェアによって再構成が可能なハードウェアを備えており、必要に応じて、無線通信に利用する周波数帯および通信方式を変更することができる。ソフトウェア無線機10は、例えば、移動体通信の基地局として用いることができる。
【0020】
図1に示すように、ソフトウェア無線機10は、FPGA(Field Programmable Gate Array)14を備えている。FPGA14は、ソフトウェアの書き換えにより、様々な論理回路の構成をプログラムできるデバイスである。ソフトウェア無線機10において、FPGA14は、通信により伝送されるベースバンド信号を処理するベースバンド処理部として機能する。FPGA14は、一般的なコンピュータやDSP(Digital Signal Processor)に置き換えてもよい。
【0021】
ソフトウェア無線機10は、AD/DAコンバータ16、並びにRFフロントエンド部18を備えている。AD/DAコンバータ16およびRFフロントエンド部18は、アンテナ12とFPGA14との間で高周波信号を処理する。
【0022】
ソフトウェア無線機10は、更に、制御部20を備えている。制御部20は、各種のインターフェースを備えると共にCPU、メモリ等を内蔵している。制御部20は、メモリ内に格納されているプログラムに沿って処理を進めることにより、FPGA14、AD/DAコンバータ16、およびRFフロントエンド部18を制御する。制御部20は、具体的には、ソフトウェア無線機10に要求される通信の状態を検知し、その状態に対応するハードウェアの再構成等を行う。
【0023】
ソフトウェア無線機10は、ソフトウェアを変更してハードウェアリソースを再構成することにより、通信方式を変更することができる。図1に示す例では、ソフトウェア無線機10に、三つの通信方式A~C(WiFi(登録商標)方式、LTE方式等)に対応するハードウェアが構成されている。
【0024】
ソフトウェア無線機10は、また、通信に使用する周波数帯や、周波数帯の幅を変更することができる。図1に示す例では、ソフトウェア無線機10の枠内に、「通信方式A」~「通信方式C」と記された三つの矩形枠22、24、26が示されている。これらの矩形枠22、24、26は、ソフトウェア無線機10内に構成された通信回線の周波数帯を表している。
【0025】
具体的には、矩形枠22、24、26の図中上下方向の位置は、「周波数帯」の高低を表している。また、矩形枠22、24、26の上下幅は、夫々の周波数帯の「幅」を表してる。つまり、図1に示す三つの矩形枠22、24、26は、以下の三つの事象を図示している。
【0026】
1.ソフトウェア無線機10内に、ハードウェアリソースの再構成により、矩形枠22、24、26の夫々に対応する三つの通信回線が準備されていること。以下、便宜上それらを「通信回線22、24、26」と称する。
2.通信回線22、24、26は、夫々異なる周波数帯を用いており、その周波数帯は、通信回線22→24→26の順で低くなること。
3.通信回線22、24、26の周波数帯幅は、全て同じであること。
【0027】
ソフトウェア無線機10は、外部機器等から有線で供給されるデータや音声信号を、通信回線22,24,26を介して送信し、またアンテナ12が受信した信号を通信回線22,24,26を介してデータや音声信号に変換することができる。
【0028】
本実施形態では、ソフトウェア無線機10は、データや音声信号の通信を開始する前に、通信相手のソフトウェア無線機10に対して、パケット28-1、28-2を送信する。以下、二つのパケット28-1,28-2を区別する必要が無い場合は、それらを「パケット28」と称して説明を進める。パケット28は、既定の送信出力Ptで送信される。また、パケット28には、送信出力Ptの情報が埋め込まれる。
【0029】
ソフトウェア無線機10は、メモリ30を内蔵している。本実施形態では、ソフトウェア無線機10を、無線局としての届出が不要な微弱無線局として用いることを想定している。日本国では、無線装置から3m離れた位置における電波強度が総務省の定める許容値以下である場合は、その装置が微弱無線局として認められる。メモリ30には、周波数をパラメータとして定められている、その許容値についての情報が格納されている。
【0030】
[実施の形態1の特徴]
ソフトウェア無線機10を微弱無線局として使用するためには、アンテナ12から3m離れた位置での電界強度を、上記の許容値以下に抑える必要がある。また、本実施形態で使用されるアンテナ12は、広帯域の周波数に対応したものであるが、このアンテナ12の利得は、通信に用いる電波の周波数によって変化する。3m離れた位置での電界強度は、アンテナ12の利得によって変化する。このため、様々な周波数帯で、微弱無線局として許容される最大出力を得るためには、通信に用いる周波数に応じて送信出力を適宜変化させる必要がある。
【0031】
上記の要求を満たすために、本実施形態のソフトウェア無線機10は、以下に記す1~12の条件を満たす。
1.ソフトウェア無線機10は、ユーザによる情報入力を可能とするための入力インターフェースを備える。
2.ユーザは、入力インターフェースを介して、通信方式および周波数帯の組合せを指定することができる。この指定がなされた場合、ソフトウェア無線機10は、指定された通信方式および周波数帯に対応する通信回線を構成する。
3.ユーザは、入力インターフェースを介して、伝送容量および伝送品質を指定することができる。この指定がなされた場合、ソフトウェア無線機10は、指定された伝送容量および伝送品質を具現化する通信方式および周波数帯を探索し、探索の結果に対応する通信回線を構成する。
【0032】
4.通信の開始前に、ユーザに、アンテナ12-1、12-2間の距離dの入力を求める。
5.ユーザは、入力インターフェースを介して、距離dを入力することができる。距離dが入力されると、使用する周波数帯毎に、公知の自由空間伝搬損失の式に従って、アンテナ12から距離dの位置における伝搬損失 Ldが算出される。
6.同様の算出手法で、使用する周波数帯毎に、アンテナ12から3m離れた位置における伝搬損失Lが算出される。
【0033】
7.通信相手のソフトウェア無線機10に、既定の送信出力Ptでパケット28を送信する。パケット28には、送信出力Ptの情報が含められる。
8.パケット28を受信すると、その受信レベルRtを測定すると共に、受信したパケット28から送信出力Ptを抽出する。
9.微弱無線局について規定されている、距離3mの位置での電界強度の許容値Rの情報をメモリ30内に保有する。
【0034】
10.以下の関係式に基づいてアンテナ12の利得Gを計算する。尚、本開示の説明に用いる式はdB表記による計算式である。
Rt = Pt + 2 × G - Ld ・・・(1)
ここで、Rtは、上記の通り受信レベルである。また、Ptは送信出力であり、2×Gは送信側および受信側のアンテナ12の利得である。更に、Ldは距離dにおける伝搬損失、つまり受信位置における伝搬損失である。上記(1)式を利得Gについて整理すると次式となる。
G = (Rt + Ld- Pt)/ 2 ・・・(2)
ソフトウェア無線機10は、具体的には、上記(2)式に従ってアンテナ12の利得Gを算出する。
【0035】
11.以下の関係式に基づいて、微弱無線局の条件を満たすための送信電力Pを算出する。
P = R - (Rt + Ld- Pt)/ 2 + L ・・・(3)
アンテナ12から3m離れた位置での電界強度R3は、送信電力Pに利得Gを加えた値から、3mの位置での伝搬損失Lを減じた値であるから、次式で表すことができる。
R3 = P + G - L
= P + (Rt + Ld- Pt)/ 2 - L ・・・(4)
微弱無線局としての条件を満たすためには、R3をR以下に抑える必要がある。そして、R3をRに入れ替えて上記(4)式をPについて整理すると、上記(3)式が得られる。従って、上記(3)式によれば、微弱無線局の条件を満たす最大の送信電力Pを算出することができる。
【0036】
12.微弱無線局の条件を満たす送信電力Pが算出されたら、その計算の前提である通信方式および周波数帯を用いて通信を実施する。
【0037】
[実施の形態1の具体的構成]
図2は、上記の機能を実現するために図1に示すソフトウェア無線機10の内部に構成される要素を説明するためのブロック図である。
図2に示すように、ソフトウェア無線機10は、電波送信部32を備えている。電波送信部32は、外部機器等から有線で提供されるデータ等を送信信号に変調し、アンテナ12-1を介して送信する。ソフトウェア無線機10は、また、電波受信部34を備えている。電波受信部34は、アンテナ12-1が受信した無線信号を、受信信号に復調して外部機器に提供する。
【0038】
ソフトウェア無線機10は、パケット生成部36を備えている。パケット生成部36は、通信の開始に先立って、予め決めておいた送信出力Ptを記載したパケット28を、その送信出力Ptにて送信するように、電波送信部32に指示する。
【0039】
ソフトウェア無線機10は、回線情報選択部38を備えている。回線情報選択部38は、無線通信に用いる通信回線の条件、具体的には、その通信回線で用いる通信方式および周波数帯の組み合わせを選択する。回線情報選択部38には、ユーザにより回線情報40が入力される。ユーザは、回線情報40として、通信方式と周波数帯との組み合わせを直接入力することができる。この場合、回線情報選択部38は、入力された通信方法および周波数帯に対応する通信回線を設定する。
【0040】
ユーザは、また、通信方式や周波数帯に代えて、伝送容量や伝送品質を回線情報40として入力することもできる。この場合、回線情報選択部38は、入力された伝送容量や伝送品質を満たす通信方式と周波数帯との組み合わせを探索し、探索の結果得られた通信方式および周波数帯を用いる通信回線を設定する。これにより、通信に対するユーザの要求に応える通信回線が設定される。
【0041】
メモリ30には、上記の通り、微弱無線局が満たすべき電界強度の許容値に関する情報が格納されている。本実施形態では、日本国の総務省が定める微弱無線局の規定が格納されている。具体的には、無線設備から3mの距離での電界強度の許容値Rの情報が周波数毎に保有されている。
【0042】
メモリ30に格納されている許容値Rの情報は、送信電力算出部42に提供される。送信電力算出部42は、その許容値Rと、アンテナ12の利得Gと、3mの距離での伝搬損失Lとに基づいて、上記(3)式に従って所要の送信電力Pを算出する。
【0043】
3mの距離での伝搬損失Lは、3m伝搬損失算出部44で計算される。3m伝搬損失算出部44は、具体的には、回線情報選択部38で選択された周波数帯でアンテナ12から3m離れた位置で生ずる伝搬損失Lを、自由空間伝搬損失の式に従って算出する。
【0044】
ソフトウェア無線機10は、受信レベル測定部46を備えている。受信レベル測定部46は、通信相手のソフトウェア無線機10からパケット28が送信されてくると、そのパケット28の受信レベルRtを測定すると共に、そのパケット28に含まれている送信出力Ptの情報を抽出する。
【0045】
受信レベル測定部46が取得した受信レベルRtおよび送信出力Ptの情報は、アンテナ利得算出部48に提供される。アンテナ利得算出部48は、それらRtおよびPtと、距離dにおける伝搬損失Ldとに基づいて、上記(2)式によりアンテナ利得Gを算出する。算出されたアンテナ利得Gの情報は、上述した送信電力算出部42に提供される。
【0046】
距離dにおける伝搬損失Ldは、伝搬損失算出部50により算出される。伝搬損失算出部50には、無線装置間の距離dに関するユーザ入力、が提供される。伝搬損失算出部50は、回線情報選択部38で選択された周波数帯で、アンテナ12から距離dだけ離れた位置で生ずる伝搬損失Ldを、自由空間伝搬損失の式に従って算出する。
【0047】
図3は、図2に示す各機能を実現させるためにソフトウェア無線機10の制御部20において実行される処理のフローチャートである。この処理は、同じアンテナ12を有するソフトウェア無線機10を所定の距離dだけ離間した位置に配置して、それらが通信を開始する前に実行されるものとする。
【0048】
図3に示すルーチンでは、先ず、ユーザにより入力された回線情報40に従って、通信方式と、通信に用いる周波数帯とが選択される(ステップ100)。選択された通信方式および周波数帯は、予め決めておいた方法で通信相手のソフトウェア無線機10-2との間で共有される。
【0049】
次に、アンテナ間の距離dに関するユーザ入力52が受け付けられる(ステップ102)。ユーザは、この処理に先立ってアンテナ間の距離dを測定しており、ここでは、その測定の結果を入力する。
【0050】
次に、上記ステップ100で選択された周波数帯について、アンテナ12から距離dの位置で生ずる伝搬損失Ldが算出される(ステップ104)。
【0051】
次いで、予め定めておいた送信出力Ptで、送信相手のソフトウェア無線機10に向けてパケット28が送信される(ステップ106)。パケット28には、上記の通り送信出力Ptの情報が含まれている。
【0052】
上記の処理に続いて通信相手のソフトウェア無線機10からパケット28が送られてくると、そのパケット28の受信処理がなされる(ステップ108)。具体的には、パケット28に含まれている送信出力Ptの情報が抽出されると共に、そのパケット28の受信レベルRtが測定される。
【0053】
次に、アンテナ利得Gが算出される(ステップ110)。具体的には、ステップ108で測定した受信レベルRt、ステップ104で算出した伝搬損失Ld、ステップ108で抽出した送信出力Ptを上記(2)式に代入することで、利得Gが算出される。
【0054】
利得Gの算出が終わると、アンテナ12から3m離れた位置での伝搬損失Lが算出される(ステップ112)。
【0055】
更に、微弱無線局に許容される電界強度の許容値Rが読み出される(ステップ114)。より詳細には、上記ステップ100で選択された周波数において、微弱無線局として認められる3m位置での許容値Rが、メモリ30から読み出される。
【0056】
以上の処理が終わると、3m位置での電界強度を許容値Rに収める最大の送信電力Pが算出される(ステップ116)。具体的には、ステップ110で算出したアンテナ利得G、ステップ112で算出した3m伝搬損失L、およびステップ114で読み出した許容値Rを、上記(2)式および(3)式に代入することで送信電力Pが算出される。
【0057】
送信電力Pが算出されると、以後、ステップ100で選択した通信方式および周波数帯を用いて、送信電力Pでの通信が開始される(ステップ118)。
【0058】
以上説明した通り、本実施形態の通信システムでは、ソフトウェア無線機10が、ソフトウェアを書き換えることにより、ユーザの要求に応える通信回線を適宜構成することができる。そして、ソフトウェア無線機10は、その通信回線の周波数帯で微弱無線局の条件を満たす最大の送信電力Pを算出し、その送信電力Pで通信を開始する。このため、本実施形態のシステムによれば、ソフトウェア無線機10を微弱無線局として効率的に稼働させつつ、ユーザが求める良好な品質の通信を適切に提供することができる。
【0059】
[実施の形態1の変形]
ところで、上述した実施の形態1では、日本国における微弱無線局の規定を前提に、無線装置から3m離れた位置での電界強度を許容値R以下に抑えることとしている。しかしながら、微弱無線局の規定が異なる場合は、その3mを、その規定に応じた他の距離として実施の形態1の場合と同様の処理を行うこととしてもよい。
【0060】
また、上述した実施の形態1では、送信電力Pの算出を適用する対象を微弱無線局に限定しているが、本開示はこれに限定されるものではない。本開示に係る技術は、微弱無線局に限らず、無線局に対して電界強度に許容値が設けられている場合に、広く適用することが可能である。
【0061】
また、上述した実施の形態1では、対抗して配置した二台のソフトウェア無線機10において、夫々送信電力Pを算出させることとし、双方の無線機に、夫々パケット28を送信させることとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、ソフトウェア無線機10―1だけに送信電力Pを算出させればよい状況下では、ソフトウェア無線機10-1からソフトウェア無線機10-2にパケット28を送信する必要はない。この場合、ソフトウェア無線機10-1が実行する処理からは、上記図3に示すフローチャート中、ステップ106の処理を省いてもよい。
【0062】
また、上述した実施の形態1では、既定の送信出力Ptの情報をパケット28に含めて通信相手のソフトウェア無線機10に知らせることとしている。しかしながら、本開示はこれに限定されるものではない。送信電力Pを算出するために用いる送信出力Ptを予め決めておけば、その情報をパケット28に含める処理は省略してもよい。
【0063】
また、上述した実施の形態1では、ユーザには、通信方式と周波数帯の組み合わせを入力する選択肢と、伝送容量および伝送品質を入力する選択肢とが与えられているが、ユーザに提供できる選択肢はこれらに限定されるものではない。例えば、通信方式と周波数帯の一方だけの入力を求めて、他方は、基準の伝送容量および伝送品質が満たされるように決定することとしてもよい。また、伝送容量と伝送品質の一方だけの入力を求めて、他方については基準値を当てはめて通信方式および周波数帯を探索することとしてもよい。
【0064】
また、上述した実施の形態1では、ソフトウェア無線機10が、送信電力Pの算出後に通信を開始することとしている。この機能は、より明確には、ソフトウェア無線機10を微弱無線局として用いる場合、送信電力Pが定まるまでは通信の開始を禁止することと解釈してもよい。
【0065】
また、上述した実施の形態1では、二つのアンテナ12の距離dをユーザが測定して入力することとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。距離dは、他の公知の手法で無線通信システムの側で測定することとしてもよい。
【0066】
また、上述した実施の形態1では、ソフトウェア無線機10は、ステップ116で算出した送信電力Pで通信を開始することとしているが、本開示はこれに限定されるものではない。例えば、送信電力Pを通信に用いる送信電力の上限値と位置付けて、ソフトウェア無線機10は、所望の伝送品質が得られる限りにおいて、より小さな送信電力を用いることとしてもよい。
【符号の説明】
【0067】
10、10-1、10-2 ソフトウェア無線機
12、12-1、12-2 アンテナ
22、24、26 通信回線
28、28-1、28-2 パケット
30 メモリ
d 装置間距離(アンテナ間距離)
Ld 距離dの位置での伝搬損失
L 距離3mの位置での伝搬損失
Rt 受信レベル
Pt 送信出力
P 送信電力
G アンテナの利得
図1
図2
図3