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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】酢酸エチル製造用触媒の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/30 20060101AFI20231205BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20231205BHJP
   C07C 67/04 20060101ALI20231205BHJP
   C07C 69/14 20060101ALI20231205BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
B01J23/30 Z
B01J37/02 101E
C07C67/04
C07C69/14
C07B61/00 300
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022553545
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030845
(87)【国際公開番号】W WO2022070674
(87)【国際公開日】2022-04-07
【審査請求日】2022-10-06
(31)【優先権主張番号】P 2020163340
(32)【優先日】2020-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(74)【代理人】
【識別番号】100202418
【弁理士】
【氏名又は名称】河原 肇
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 拓朗
(72)【発明者】
【氏名】板垣 真太朗
(72)【発明者】
【氏名】細木 康弘
(72)【発明者】
【氏名】岩間 康拓
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-269126(JP,A)
【文献】特開2000-342980(JP,A)
【文献】特開2019-162604(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152964(WO,A1)
【文献】特開2001-300328(JP,A)
【文献】特表2002-526241(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
C07B 61/00
C07C 67/04
C07C 69/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)担体の飽和吸水容量の80~105体積%のヘテロポリ酸又はその塩の水溶液をシリカ担体に含浸させて含浸体を形成する含浸工程、及び
(2)前記含浸体を、10270H2O/kgsupcat・minの定率乾燥速度で乾燥させる乾燥工程
をこの順番で含む、酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
【請求項2】
前記乾燥工程における定率乾燥速度が10~150gH2O/kgsupcat・minである、請求項1に記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥工程における定率乾燥速度が15~50gH2O/kgsupcat・minである、請求項1又は2のいずれかに記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程において使用する乾燥媒体の温度が80~130℃である、請求項1~3のいずれか一項に記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
【請求項5】
前記乾燥工程における乾燥媒体が、相対湿度が0~60%RHの空気であり、前記空気を通気流として前記含浸体に接触させて乾燥させる、請求項1~4のいずれか一項に記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
【請求項6】
前記乾燥工程における圧力が常圧である、請求項1~5のいずれか一項に記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の方法により製造された酢酸エチル製造用触媒の存在下で反応を行う、エチレン及び酢酸を原料とする酢酸エチルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酢酸エチル製造用触媒の製造方法及び該触媒を用いた酢酸エチルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低級脂肪族カルボン酸と低級オレフィンとから気相接触反応により相当するエステルを製造できることはよく知られている。また、ヘテロポリ酸及び/又はその塩を担体に担持させた担持型触媒が有用であることもよく知られている(特許文献1~3)。
【0003】
担持型触媒を用いた気相接触反応において、触媒性能を向上させる方法として、担体の表面近傍へ活性成分を担持させて活性成分と反応物との接触効率を上げる方法が知られている(特許文献4及び5)。
【0004】
例えば特許文献4においては、担体吸水量の10~40容量%の酢酸溶媒に活性成分を溶解した溶液を担体に含浸させることにより、活性成分が担体の表面近傍に担持された触媒が得られることが記載されている。特許文献5においては、担体吸水量の10~70容量%の水に活性成分を溶解した溶液を担体に含浸させ、得られた含浸体を所定の速度で減圧乾燥させることにより、活性成分が担体の表面近傍に担持された触媒が得られることが記載されている。
【0005】
しかし、特許文献4においては、溶媒に用いる酢酸が有害であり、特許文献5においては、含浸体の乾燥方式が減圧乾燥方式であることから、いずれの製造方法も触媒の工業的製造には適していない。更に、これらの製造方法では、担体に含浸させる溶液量が担体吸水量の10~40容量%又は10~70容量%と比較的少量である必要があるため、活性成分が多く担持された触媒粒と活性成分が少ない又はほとんど担持されていない触媒粒が発生するおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平09-118647号公報
【文献】特開2000-342980号公報
【文献】特表2008-513534号公報
【文献】特開2004-209469号公報
【文献】特開2019-162604号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
低級脂肪族カルボン酸と低級オレフィンとから気相接触反応によりエステルを効率よく製造するためには、ヘテロポリ酸及び/又はその塩を担体の表面近傍へ担持させた触媒を製造する必要がある。しかし、含浸させる溶液の使用量を低く抑えた製造方法では、触媒粒間の活性成分の担持量のばらつきを制御することが困難であることから、活性及び選択性に優れた触媒を簡便かつ工業的に製造する方法が望まれている。
【0008】
本発明は、このような状況下において、生産性が高く、優れた触媒性能を有する、ヘテロポリ酸及び/又はその塩が担体の表面近傍に担持された酢酸エチル製造用触媒の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、ヘテロポリ酸及び/又はその塩を活性成分とする酢酸エチル製造用触媒の製造方法について鋭意研究を重ねた結果、担体の飽和吸水容量に対し100%に近い体積のヘテロポリ酸及び/又はその塩の水溶液(本開示において単に「ヘテロポリ酸水溶液」ともいう。)を含浸溶液とし、含浸溶液を担体内部にまでムラなく浸み込ませた場合であっても、含浸体の乾燥工程において、定率乾燥速度を格段に大きい特定の範囲とすることにより、活性成分を担体表面に多く担持させることができ、高い触媒活性及び優れた選択性を有する酢酸エチル製造用触媒を効率よく製造できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち本発明は以下の[1]~[7]に関する。
[1]
(1)担体の飽和吸水容量の80~105体積%のヘテロポリ酸又はその塩の水溶液をシリカ担体に含浸させて含浸体を形成する含浸工程、及び
(2)前記含浸体を、5~300gH2O/kgsupcat・minの定率乾燥速度で乾燥させる乾燥工程
をこの順番で含む、酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
[2]
前記乾燥工程における定率乾燥速度が10~150gH2O/kgsupcat・minである、[1]に記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
[3]
前記乾燥工程における定率乾燥速度が15~50gH2O/kgsupcat・minである、[1]又は[2]のいずれかに記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
[4]
前記乾燥工程において使用する乾燥媒体の温度が80~130℃である、[1]~[3]のいずれかに記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
[5]
前記乾燥工程における乾燥媒体が、相対湿度が0~60%RHの空気であり、前記空気を通気流として前記含浸体に接触させて乾燥させる、[1]~[4]のいずれかに記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
[6]
前記乾燥工程における圧力が常圧である、[1]~[5]のいずれかに記載の酢酸エチル製造用触媒の製造方法。
[7]
[1]~[6]のいずれかに記載の方法により製造された酢酸エチル製造用触媒の存在下で反応を行う、エチレン及び酢酸を原料とする酢酸エチルの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、活性成分が担体の表面近傍に存在し、高い触媒性能を示す酢酸エチル製造用触媒を生産性よく提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】定率乾燥期間の説明図である。
図2】実施例1のヘテロポリ酸をシリカ担体に担持させた触媒のEPMA像である。
図3】比較例1のヘテロポリ酸をシリカ担体に担持させた触媒のEPMA像である。
図4】実施例1~5及び比較例1~3において副生物であるブテンの選択率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の好ましい実施の形態について説明するが、本発明はこれらの形態のみに限定されるものではなく、その精神と実施の範囲内において様々な応用が可能であることを理解されたい。
【0014】
[酢酸エチル製造用触媒の製造]
一実施形態において、酢酸エチルは、固体酸触媒を用い、エチレンと酢酸とを気相中で反応させることにより製造される。酢酸エチル製造用の固体酸触媒はヘテロポリ酸又はその塩(本開示において「ヘテロポリ酸塩」ともいう。)であり、シリカ担体に担持されて用いられる。
【0015】
[ヘテロポリ酸及びその塩]
ヘテロポリ酸とは、中心元素及び酸素が結合した周辺元素からなるものである。中心元素は、通常ケイ素又はリンであるが、元素の周期表の第1族~第17族の多種の元素から選ばれる任意の1つからなることができる。具体的には、例えば、第二銅イオン;二価のベリリウム、亜鉛、コバルト又はニッケルのイオン;三価のホウ素、アルミニウム、ガリウム、鉄、セリウム、ヒ素、アンチモン、リン、ビスマス、クロム又はロジウムのイオン;四価のケイ素、ゲルマニウム、スズ、チタン、ジルコニウム、バナジウム、硫黄、テルル、マンガン、ニッケル、白金、トリウム、ハフニウム、セリウムのイオン及び他の希土類イオン;五価のリン、ヒ素、バナジウム、アンチモンイオン;六価のテルルイオン;及び七価のヨウ素イオン等を挙げることができるが、これに限定されるものではない。また、周辺元素の具体例としては、タングステン、モリブデン、バナジウム、ニオブ、タンタル等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0016】
このようなヘテロポリ酸は、また、「ポリオキソアニオン」、「ポリオキソ金属塩」又は「酸化金属クラスター」として知られている。よく知られているアニオン類のいくつかの構造には、この分野の研究者本人にちなんだ名前が付けられており、例えば、ケギン(Keggin)型構造、ウエルス-ドーソン(Wells-Dawson)型構造及びアンダーソン-エバンス-ペアロフ(Anderson-Evans-Perloff)型構造が知られている。詳しくは、「ポリ酸の化学」(社団法人日本化学会編、季刊化学総説No.20、1993年)に記載がある。ヘテロポリ酸は、通常高分子量、例えば、700~8500の範囲の分子量を有し、その単量体だけでなく、二量体錯体をも含む。
【0017】
ヘテロポリ酸塩は、上記ヘテロポリ酸の水素原子の一部又は全てを置換した金属塩又はオニウム塩であれば特に制限はない。具体的には、例えばリチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、マグネシウム、バリウム、銅、金及びガリウムの金属塩、並びにアンモニアなどのオニウム塩を挙げることができるが、これに限定されるものではない。
【0018】
触媒として用いることができるヘテロポリ酸の特に好ましい例としては
ケイタングステン酸 H[SiW1240]・xH
リンタングステン酸 H[PW1240]・xH
リンモリブデン酸 H[PMo1240]・xH
ケイモリブデン酸 H[SiMo1240]・xH
ケイバナドタングステン酸 H4+n[SiV12-n40]・xH
リンバナドタングステン酸 H3+n[PV12-n40]・xH
リンバナドモリブデン酸 H3+n[PVMo12-n40]・xH
ケイバナドモリブデン酸 H4+n[SiVMo12-nO40]・xH
ケイモリブドタングステン酸 H[SiMo12-nO40]・xH
リンモリブドタングステン酸 H[PMo12-nO40]・xH
(式中、nは1~11の整数であり、xは1以上の整数である。)
などを挙げることができるが、これらに限定されない。
【0019】
ヘテロポリ酸は、ケイタングステン酸、リンタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ケイバナドタングステン酸、又はリンバナドタングステン酸であることが好ましく、ケイタングステン酸、又はリンタングステン酸であることがより好ましい。
【0020】
このようなヘテロポリ酸の合成方法としては、特に制限はなく、どのような方法を用いてもよい。例えば、モリブデン酸又はタングステン酸の塩とヘテロ原子の単純酸素酸又はその塩を含む酸性水溶液(pH1~pH2程度)を熱することによってヘテロポリ酸を得ることができる。ヘテロポリ酸化合物は、例えば生成したヘテロポリ酸水溶液から金属塩として晶析分離して単離することができる。ヘテロポリ酸の製造の具体例は、「新実験化学講座8 無機化合物の合成(III)」(社団法人日本化学会編、丸善株式会社発行、昭和59年8月20日、第3版)の1413頁に記載されているが、これに限定されるものではない。合成したヘテロポリ酸の構造確認は、化学分析のほか、X線回折、UV、又はIRの測定により行うことができる。
【0021】
ヘテロポリ酸塩の好ましい例としては、上記の好ましいヘテロポリ酸のリチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、マグネシウム塩、バリウム塩、銅塩、金塩、ガリウム塩、及びアンモニウム塩等が挙げられる。
【0022】
ヘテロポリ酸塩の具体例としては、ケイタングステン酸のリチウム塩、ケイタングステン酸のナトリウム塩、ケイタングステン酸のセシウム塩、ケイタングステン酸の銅塩、ケイタングステン酸の金塩、ケイタングステン酸のガリウム塩;リンタングステン酸のリチウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩、リンタングステン酸のセシウム塩、リンタングステン酸の銅塩、リンタングステン酸の金塩、リンタングステン酸のガリウム塩;リンモリブデン酸のリチウム塩、リンモリブデン酸のナトリウム塩、リンモリブデン酸のセシウム塩、リンモリブデン酸の銅塩、リンモリブデン酸の金塩、リンモリブデン酸のガリウム塩;ケイモリブデン酸のリチウム塩、ケイモリブデン酸のナトリウム塩、ケイモリブデン酸のセシウム塩、ケイモリブデン酸の銅塩、ケイモリブデン酸の金塩、ケイモリブデン酸のガリウム塩;ケイバナドタングステン酸のリチウム塩、ケイバナドタングステン酸のナトリウム塩、ケイバナドタングステン酸のセシウム塩、ケイバナドタングステン酸の銅塩、ケイバナドタングステン酸の金塩、ケイバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドタングステン酸のリチウム塩、リンバナドタングステン酸のナトリウム塩、リンバナドタングステン酸のセシウム塩、リンバナドタングステン酸の銅塩、リンバナドタングステン酸の金塩、リンバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドモリブデン酸のリチウム塩、リンバナドモリブデン酸のナトリウム塩、リンバナドモリブデン酸のセシウム塩、リンバナドモリブデン酸の銅塩、リンバナドモリブデン酸の金塩、リンバナドモリブデン酸のガリウム塩;ケイバナドモリブデン酸のリチウム塩、ケイバナドモリブデン酸のナトリウム塩、ケイバナドモリブデン酸のセシウム塩、ケイバナドモリブデン酸の銅塩、ケイバナドモリブデン酸の金塩、ケイバナドモリブデン酸のガリウム塩等を挙げることができる。
【0023】
ヘテロポリ酸塩は、ケイタングステン酸のリチウム塩、ケイタングステン酸のナトリウム塩、ケイタングステン酸のセシウム塩、ケイタングステン酸の銅塩、ケイタングステン酸の金塩、ケイタングステン酸のガリウム塩;リンタングステン酸のリチウム塩、リンタングステン酸のナトリウム塩、リンタングステン酸のセシウム塩、リンタングステン酸の銅塩、リンタングステン酸の金塩、リンタングステン酸のガリウム塩;リンモリブデン酸のリチウム塩、リンモリブデン酸のナトリウム塩、リンモリブデン酸のセシウム塩、リンモリブデン酸の銅塩、リンモリブデン酸の金塩、リンモリブデン酸のガリウム塩;ケイモリブデン酸のリチウム塩、ケイモリブデン酸のナトリウム塩、ケイモリブデン酸のセシウム塩、ケイモリブデン酸の銅塩、ケイモリブデン酸の金塩、ケイモリブデン酸のガリウム塩;ケイバナドタングステン酸のリチウム塩、ケイバナドタングステン酸のナトリウム塩、ケイバナドタングステン酸のセシウム塩、ケイバナドタングステン酸の銅塩、ケイバナドタングステン酸の金塩、ケイバナドタングステン酸のガリウム塩;リンバナドタングステン酸のリチウム塩、リンバナドタングステン酸のナトリウム塩、リンバナドタングステン酸のセシウム塩、リンバナドタングステン酸の銅塩、リンバナドタングステン酸の金塩、又はリンバナドタングステン酸のガリウム塩であることが好ましい。
【0024】
ヘテロポリ酸塩として、ケイタングステン酸のリチウム塩又はリンタングステン酸のセシウム塩を用いることが特に好適である。
【0025】
[シリカ担体]
シリカ担体はいかなる形状であってもよく、その形状に特に制限はないが、球状又はペレット状であることが好ましい。シリカ担体の粒径は、反応の形態により異なるが、固定床方式で用いる場合には、2mm~10mmであることが好ましく、3mm~7mmであることがより好ましい。
【0026】
一実施形態ではヘテロポリ酸又はその塩のシリカ担体への担持は、ヘテロポリ酸又はその塩の水溶液(ヘテロポリ酸水溶液)をシリカ担体に特定の含浸率で吸収(含浸)させる工程(含浸工程)と、ヘテロポリ酸水溶液を含浸させた担体の乾燥を特定乾燥条件で行う工程(乾燥工程)とをこの順番で含む。含浸工程と乾燥工程との間には他の工程(例えば、風乾工程、含浸装置から乾燥装置への移送工程など)が含まれてもよいが、この2工程は連続して行うことが好ましい。
【0027】
[含浸工程]
含浸工程では、例えば球状又はペレット状のシリカ担体に、ヘテロポリ酸水溶液を含浸液として吸収させて含浸体を形成する。含浸操作時に担体をかき混ぜることが好ましい。ヘテロポリ酸水溶液中のヘテロポリ酸又はその塩の濃度は、含浸率から算出されるヘテロポリ酸水溶液の体積と担体に担持すべき触媒量とから決定される。ヘテロポリ酸水溶液中のヘテロポリ酸又はその塩の濃度は、一般的には0.8~1.2kg/Lとすることができる。
【0028】
担体に含浸させるヘテロポリ酸水溶液の体積は、担体の飽和吸水容量の80~105体積%の範囲であり、好ましくは90~100体積%の範囲であり、更に好ましくは95~100体積%の範囲である。ヘテロポリ酸水溶液の体積が80体積%より少ない場合は、ヘテロポリ酸又はその塩が担持されていない触媒粒が混入するおそれがある。ヘテロポリ酸水溶液の体積が105体積%より多い場合は、担体に吸収されないヘテロポリ酸又はその塩が遊離した状態で存在し、必要量の触媒が均一に担体に担持されなくなるおそれがある。
【0029】
「担体の飽和吸水容量」とは、見かけ体積1Lの担体が吸収可能な水の体積(L)である。測定方法の詳細は後述する。「含浸率」とは、以下の式で示されるように、担体の飽和吸水容量に対する、担体に吸収させるヘテロポリ酸水溶液の体積の割合(体積%)である。飽和吸水容量(L)及びヘテロポリ酸水溶液の体積(L)は常温(23℃)での値である。
含浸率(%)
=100×見かけ体積1Lの担体が吸収したヘテロポリ酸水溶液の体積/担体の飽和吸水容量
【0030】
[乾燥工程]
乾燥工程では、含浸体の乾燥を特定の乾燥条件で行う。具体的には、含浸体の乾燥初期にあらわれる定率乾燥期間における乾燥速度(定率乾燥速度)を特定の範囲内に制御する。定率乾燥期間後の乾燥速度は様々であってよい。
【0031】
湿り材料を乾燥させるとき、含水率の単位時間あたりの減少量(減少速度)は、乾燥初期においては一定(乾燥時間対含水率のグラフにおいて直線的に示される。)であり、乾燥後期においては次第に小さくなっていく。この時、乾燥時間対含水率のグラフにおいて含水率が直線的に変化する区間を「定率乾燥期間」といい、この期間における乾燥速度を「定率乾燥速度」という。定率乾燥期間は、乾燥装置の構造、乾燥対象物の量、乾燥媒体の風量、温度、湿度などに依存する。定率乾燥期間を、乾燥開始後20分間と定義することが好ましく、乾燥開始後15分間と定義することがより好ましい。あらかじめ実際の装置及び条件による乾燥の予備実験を行い、図1に示すようなグラフを作成し、定率乾燥期間を定めることが最も好ましい。図1は、シリカ担体に水を含浸(含浸率95%)させ、温度100℃、風速13m/minでシリカ担体を通気乾燥したときの、各乾燥時間での含水率を示すグラフである。図1では乾燥開始から20分前後までが定率乾燥期間といえる。定率乾燥速度は、乾燥前の含浸体に含まれる水分量と、定率乾燥期間内の所定時間(実施例1では乾燥開始から15分)まで乾燥させた含浸体に含まれる水分量との差(変化量)を、乾燥時間と担持触媒質量で除した値と定義される。担持触媒質量とは、担体及びヘテロポリ酸又はその塩の無水物(ヘテロポリ酸又はその塩から水和水を除外したもの)の質量を合計した値である。
【0032】
定率乾燥速度の具体的な計算方法は、例えばヘテロポリ酸又はその塩がケイタングステン酸である場合、以下のとおりである。
含浸体の含水率:y
担持触媒質量(シリカ担体の質量+ケイタングステン酸無水物の質量):C
水分量(ケイタングステン酸の水和水+ヘテロポリ酸水溶液の調製に使用した水):x
とし、加熱乾燥後のケイタングステン酸が無水物であると仮定すると、
y=(加熱乾燥前質量-加熱乾燥後質量)/加熱乾燥前質量
=[(C+x)-C]/(C+x)=x/(C+x)
と表せる。乾燥速度(gH2O/kgsupcat・min)は、熱風乾燥前の水分量xと所定時間tだけ乾燥させた後の水分量xとの差(g)を担持触媒質量C(kg)及び乾燥時間t(min)で除したものと定義する。
乾燥速度(gH2O/kgsupcat・min)
=(x-x)/(C×t)
このとき、y=x/(C+x)より、x=(C×y)/(1-y)と変形できる。したがって、
乾燥速度(gH2O/kgsupcat・min)
=(x-x)/(C×t)
=[(C×y)/(1-y)-(C×y)/(1-y)]/(C×t)
=[y/(1-y)-y/(1-y)]/t
となる。なお、式の導出過程で、担体触媒質量Cの項は分母と分子で相殺されるため、乾燥速度の式には含まれない。
【0033】
乾燥工程における定率乾燥速度は、5~300gH2O/kgsupcat・minであり、好ましくは10~150gH2O/kgsupcat・minの範囲であり、更に好ましくは15~50gH2O/kgsupcat・minの範囲である。別の実施態様では、乾燥工程における定率乾燥速度は、好ましくは10~270gH2O/kgsupcat・minの範囲であり、更に好ましくは15~240gH2O/kgsupcat・minの範囲である。5gH2O/kgsupcat・minより定率乾燥速度が小さい場合は、ヘテロポリ酸又はその塩の担持位置を担体表面に偏在させることができない場合がある。一方、定率乾燥速度が300gH2O/kgsupcat・minを超える場合、ヘテロポリ酸又はその塩が凝集して、十分な触媒性能が得られないおそれがある。
【0034】
乾燥方法としては、熱風を使用する常圧乾燥、減圧乾燥など一般的な方法を採用することができる。コスト及び作業工程数の観点から、乾燥工程における圧力を常圧(大気圧)とすることが好ましい。乾燥工程において使用する乾燥媒体は空気であることが好ましいが、窒素ガスなどの不活性ガスであってもよい。
【0035】
乾燥工程において使用する乾燥装置の種類については特に制限はない。通気流として乾燥媒体(熱風など)を含浸体に接触させて乾燥させる方式が好ましい。乾燥装置として、例えば、バンド式乾燥機及び箱型乾燥機が挙げられる。通気流は循環使用ではなく、乾燥器内を1パス(1回通過)とすることが好ましい。1パスとすることで、常に湿度の低い乾燥媒体を含浸体(触媒が担持された担体)と接触させることができ、これにより定率乾燥速度を大きくすることができる。
【0036】
乾燥媒体の温度は80~130℃の範囲が好ましく、より好ましくは100~120℃の範囲である。乾燥媒体の温度が80℃以上の場合、乾燥速度を一定以上の値に保持することができ、ヘテロポリ酸又はその塩の担持位置を担体表面に偏在させることができる。一方、乾燥媒体の温度が130℃以下の場合、ヘテロポリ酸又はその塩の分解を抑制することができる。
【0037】
乾燥媒体として空気、窒素ガスなどの熱風を用いる場合、その風速に特に制限はないが、線速度として5~100m/minの範囲であることが好ましく、より好ましくは10~70m/minの範囲である。線速度が5m/min以上であれば、乾燥速度を高めて、ヘテロポリ酸又はその塩の担持位置を担体表面に効果的に偏在させることができる。一方、線速度が100m/min以下であれば、乾燥工程中に触媒(担体)が舞い上がることを抑制することができる。
【0038】
乾燥媒体として空気を使用する場合、その相対湿度は、乾燥装置への流入時の乾燥媒体温度を基準として、0~60%RHの範囲であることが好ましく、より好ましくは0~40%RHの範囲であり、更に好ましくは0~20%RHの範囲である。乾燥媒体の湿度が60%RH以下であれば、乾燥速度を高めて、ヘテロポリ酸又はその塩の担持位置を担体表面に効果的に偏在させることができる。
【0039】
[酢酸エチルの製造]
一実施形態において、酢酸エチルは、シリカ担体に担持されたヘテロポリ酸又はその塩を固体酸触媒として用い、酢酸とエチレンを気相中で反応させることで得ることができる。酢酸及びエチレンは窒素ガスなどの不活性ガスで希釈することが反応熱除去の面で好ましい。具体的には、固体酸触媒が充填された容器に、原料として酢酸及びエチレンを含む気体を流通させ、固体酸触媒と接触させることにより、これらを反応させることができる。原料を含む気体に少量の水を添加することが、触媒活性の維持の観点から好ましく、ある実施態様では反応は水蒸気の存在下で行なわれる。ただし、あまりに多量の水を添加すると、アルコール、エーテルなどの副生成物の生成量も増えてくるおそれがある。水の添加量は、酢酸、エチレン、及び水の合計に対する水のモル比として、0.5~15mol%であることが好ましく、2~8mol%であることがより好ましい。
【0040】
原料であるエチレンと酢酸との使用割合には特に制限はないが、エチレンと酢酸とのモル比で、エチレン:酢酸=1:1~40:1の範囲であることが好ましく、3:1~20:1の範囲であることがより好ましく、5:1~15:1の範囲であることが更に好ましい。
【0041】
反応温度は、50℃~300℃の範囲にあることが好ましく、140℃~250℃の範囲にあることがより好ましい。反応圧力は、0PaG~3MPaG(ゲージ圧)の範囲にあることが好ましく、0.1MPaG~2MPaG(ゲージ圧)の範囲にあることがより好ましい。ある実施態様では、反応温度は150~170℃であり、反応圧力は0.1~2.0MPaGである。
【0042】
原料を含む気体のSV(気体時空速度)は、特に制限はないが、あまりに大きいと反応が十分に進行しないまま原料が通過してしまうことになり、一方であまりに小さいと生産性が低くなるなどの問題が生じるおそれがある。SV(触媒1Lあたりを1時間で通過する原料の体積(L/L・h=h-1))は500~20000h-1であることが好ましく、1000~10000h-1であることがより好ましい。
【実施例
【0043】
本発明を更に以下の実施例及び比較例を参照して説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0044】
[シリカ担体の嵩密度測定]
シリカ担体の嵩密度は以下の方法で測定した。
1.1Lのメスシリンダーに約200mLの担体を入れる。
2.キムタオル(登録商標)などを緩衝材とし、机上で20回タップして担体を密に充填する。
3.前記1及び2を複数回繰り返す。
4.担体の体積が1L付近となったら少量ずつ担体を加え、操作2を繰り返す。
5.担体を1L量り取った後質量を測定する。
6.操作1~5を合計3回行い、質量の平均値を嵩密度(g/L)とする。
【0045】
[シリカ担体の飽和吸水容量測定]
シリカ担体の飽和吸水容量は以下の測定方法を用いて常温(23℃)にて測定した。
1.担体約5gを秤量し(W1g)、100mLのビーカーに入れる。
2.担体を完全に覆うように純水約15mLをビーカーに加える。
3.30分間放置する。
4.目開きが担体より小さい金網上にビーカーの中身を投入し、純水を切る。
5.担体の表面に付着した水を、表面の光沢がなくなるまで紙タオルで軽く押して除去する。
6.吸水した担体の質量を測定する(W2g)。
7.以下の式から担体の飽和吸水容量を算出する。
飽和吸水容量(吸収した水の体積(L)/担体の見かけ体積(L))
=[(W2-W1)(g)/23℃での水の密度(g/L)]×担体の嵩密度(g/L)/W1(g)
【0046】
[含浸率]
含浸率(%)
=100×見かけ体積1Lの担体が吸収したヘテロポリ酸水溶液の体積/担体の飽和吸水容量
【0047】
[定率乾燥速度の算出方法]
1.含浸体を約5gサンプリングし、その含水率を加熱天秤により測定する。
2.所定条件にて別途含浸体の乾燥を行い、定率乾燥期間内に担持触媒(触媒成分+担体)サンプル約5gを取り出し、その含水率を加熱天秤により測定する。
3.手順1及び2の含水率から求められる、乾燥により除去された水分量(g)を乾燥時間(min)及び担持触媒質量(kg)で除することで、定率乾燥速度(gH2O/kgsupcat・min)が計算される。
【0048】
加熱天秤(加熱乾燥式水分計、型式:MF-50、株式会社エー・アンド・デイ製)による乾燥条件は、温度:200℃、終了条件:含水率変化が0.05%/minとなるまでである。
【0049】
含浸体の含水率は、前記の計算式により算出した。加熱乾燥前(含水率測定前)の含浸体はヘテロポリ酸又はその塩の水和水を含む。加熱天秤での乾燥温度は200℃であり、加熱乾燥後(含水率測定後)には水和水は除去されて、ヘテロポリ酸又はその塩は無水物であると仮定している。すなわち、加熱乾燥前の含浸体質量=ヘテロポリ酸又はその塩の水和物+シリカ担体+ヘテロポリ酸水溶液の調製に使用した水、加熱乾燥後の担持触媒質量=ヘテロポリ酸又はその塩の無水物+シリカ担体である。
【0050】
[実施例1]
(触媒Aの調製)
市販のKeggin型ケイタングステン酸・26水和物(HSiW1240・26HO;日本無機化学工業株式会社製)120gを純水75.8g(75.8mL)に溶かし、108mL(担体の飽和吸水容量の95体積%、含浸率95%)のケイタングステン酸水溶液を調製した。その後、得られた水溶液を市販のシリカ担体A(球状、直径約5mm、嵩密度451g/L、飽和吸水容量379g/L、BET比表面積280m/g)0.3L(134g)に加え、よくかき混ぜて担体に含浸させた。1時間風乾したのち、熱風の温度を100℃、風速を13m/minに設定した通気式箱型熱風乾燥機(実験用通気棚式乾燥機、型名:LABO-4CS、株式会社長門電機工作所製)で含浸体を乾燥させて触媒Aを得た。定率乾燥速度は、乾燥開始から15分後にサンプリングを行い計算した。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0051】
[実施例2]
(触媒Bの調製)
ケイタングステン酸、純水、及びシリカ担体の使用量をそれぞれ36.6kg、22.7kg、90Lに変更した以外は実施例1と同様にして含浸体を得た。熱風の温度を100℃、風速を30m/minに変更した以外は触媒Aと同様にして含浸体を乾燥させて、触媒Bを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0052】
[実施例3]
(触媒Cの調製)
熱風の風速を60m/minに変更した以外は実施例2の操作を繰り返し、触媒Cを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0053】
[実施例4]
(触媒Dの調製)
熱風の温度を120℃に変更した以外は実施例3の操作を繰り返し、触媒Dを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0054】
[実施例5]
(触媒Eの調製)
熱風の温度を130℃、風速を98m/minに変更した以外は実施例1の操作を繰り返し、触媒Eを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0055】
[実施例6]
(触媒Fの調製)
市販のKeggin型ケイタングステン酸・26水和物(HSiW1240・26HO;日本無機化学工業株式会社製)120gを純水73.3g(73.3mL)に溶かし、105.5mL(担体の飽和吸水容量の95体積%、含浸率95%)のケイタングステン酸水溶液を調製した。その後、得られた水溶液を市販のシリカ担体B(球状、直径約5mm、嵩密度480g/L、飽和吸水容量370g/L、BET比表面積147m/g)0.3L(144g)に加え、よくかき混ぜて担体に含浸させた。その後は、実施例1と同様の操作を繰り返し、触媒Fを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0056】
[比較例1]
(触媒Gの調製)
乾燥機を温度100℃に設定した自然対流式箱型乾燥機(定温乾燥器、型式:DSR420DA、株式会社東洋製作所製)に変更した以外は実施例1の操作を繰り返し、触媒Gを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0057】
[比較例2]
(触媒Hの調製)
熱風の温度を50℃、風速を9m/minに変更した以外は実施例1の操作を繰り返し、触媒Hを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0058】
[比較例3]
(触媒Iの調製)
含浸率を70%に変更した以外は実施例1の操作を繰り返し、触媒Iを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0059】
[比較例4]
(触媒Jの調製)
実施例6と同様にして、ケイタングステン酸水溶液を担体B 0.3L(144g)に含浸させた。1時間風乾したのち、比較例1と同様の操作で乾燥を行い、触媒Jを得た。定率乾燥速度の値を表1に示す。
【0060】
[EPMA分析]
活性成分の担持位置を確認するため、実施例1及び比較例1の触媒についてEPMA分析によりタングステン濃度分布を測定した。測定試料の前処理として、試料をナイフで割り、断面に対して研磨紙#400、#1000、#1500の順で粗削りを行い、#2000で仕上げて測定面を形成した。得られた結果を図1及び図2に示す。EPMA分析は以下の装置及び条件を用いて実施した。
装置:JXA-8530F(日本電子株式会社製)
加速電圧:15kV
WDSマッピング(ライン分析):W-M線3ch(PET)
照射電流:1×10-7
測定時間:50ms
ビーム径:10μm
ピクセルサイズ:15μm
ライン分析幅:約0.2mm
【0061】
[酢酸エチルの製造]
上記実施例及び比較例で得られた各触媒40mLを内径25mmのステンレス製反応管に充填し、0.75MPaGまで昇圧したのち、155℃まで昇温した。窒素ガス85.5mol%、酢酸10.0mol%、及び水4.5mol%の混合ガスを、SV(触媒1Lあたりを1時間で通過する原料の体積(L/L・h=h-1))=1500h-1の条件で30分間処理したのちに、エチレン78.5mol%、酢酸10mol%、水4.5mol%、及び窒素ガス7.0mol%の混合ガスをSV=1500h-1の条件で導入し、5時間反応を行った。反応は触媒層を10分割した部分のうち、最も温度が高い部分が165.0℃となるよう反応温度を調整して行った。反応開始から3時間から5時間の間に通過したガスを冷却水にて凝縮させ回収し(以下、これを「凝縮液」と呼ぶ。)、分析を行った。また、凝縮せずに残った未凝集ガス(以下、これを「未凝縮ガス」と呼ぶ。)について、凝縮液と同じ時間ガス流量を量り、その100mLを取り出し、分析を行った。得られた反応結果を表1に示す。
【0062】
[凝縮液の分析方法]
内部標準法を用い、反応液10mLに対し、内部標準として1,4-ジオキサンを1mL添加したものを分析液として、そのうちの0.2μLを注入して以下の条件で分析を行った。
ガスクロマトグラフィー装置:Agilent Technologies製 7890B
カラム:キャピラリーカラムDB-WAX(長さ30m、内径0.32mm、膜厚0.5μm)
キャリアガス:窒素ガス(スプリット比200:1、カラム流量0.8mL/min)
温度条件:検出器温度を250℃、気化室温度を200℃とし、カラム温度を、分析開始から5分間は60℃に保持し、その後10℃/minの昇温速度で80℃まで昇温、80℃に到達後30℃/minの昇温速度で200℃まで昇温し、200℃で20分間保持した。
検出器:FID(H流量40mL/min、空気流量450mL/min)
【0063】
[未凝縮ガスの分析方法]
絶対検量線法を用い、未凝縮ガスを100mL採取し、これをガスクロマトグラフィー装置に付属した1mLのガスサンプラーに全量流し、以下の条件で分析を行った。
【0064】
1.酢酸エチル
ガスクロマトグラフィー装置:Agilent Technologies製 7890A
カラム:Agilent J&W GCカラム DB-624
キャリアガス:He(流量1.7mL/min)
温度条件:検出器温度を230℃、気化室温度を200℃とし、カラム温度を、分析開始から3分間は40℃に保持し、その後20℃/minの速度で200℃まで昇温した。
検出器:FID(H流量40mL/min、空気流量400mL/min)
【0065】
2.ブテン
ガスクロマトグラフィー装置:Agilent Technologies製 7890A
カラム:SHIMADZU GC GasPro(30m)、Agilent J&W GCカラム HP-1
キャリアガス:He(流量2.7mL/min)
温度条件:検出器温度を230℃、気化室温度を200℃とし、カラム温度を、分析開始から3分間は40℃に保持し、その後20℃/minの速度で200℃まで昇温した。
検出器:FID(H流量40mL/min、空気流量400mL/min)
【0066】
図2(実施例1)及び図3(比較例1)に、各触媒のEPMA分析によるタングステン濃度分布を示す。図2及び図3から、含浸体の定率乾燥速度を大きくすることでヘテロポリ酸又はその塩の担持位置を担体の外側へ偏在させることができることがわかる。
【0067】
表1に酢酸エチルを製造したときの触媒性能結果を示す。担体が同じ、実施例1~5と比較例1、2とを比較すると、定率乾燥速度を大きくすることで、酢酸エチル空時収率が上昇し、副生物であるブテンの選択率が減少していることがわかる。特に、図4に示すように定率乾燥速度とブテン選択率との間に相関があることがわかる。本反応における主な副生物の一つであるブテンは触媒コーキングの原因となるため、触媒寿命の観点からブテン選択率は小さいほど望ましい。本実施例での短期評価における各触媒のブテン選択率差は0.00数%程度であるが、実際の製造における長期運転では年間数万トン以上の酢酸エチルが生産されることに照らせば、優位な差であるといえる。また、含浸率が80%を下回っている比較例3では、担体が同一で、定率乾燥速度の近い実施例1、2と比較して、酢酸エチル空時収率が低下しブテン選択率が上昇(悪化)していることがわかる。
【0068】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明の製造方法は、活性成分が担体の表面近傍に存在し、高い触媒性能を示す酢酸エチル製造用触媒を生産性よく提供することができ、産業上有用である。
図1
図2
図3
図4