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  • 特許-炎症性消化器官疾患用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】炎症性消化器官疾患用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 33/00 20060101AFI20231205BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231205BHJP
   A61K 47/14 20170101ALI20231205BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K9/08
A61K47/14
A61P1/04
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020523591
(86)(22)【出願日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 JP2019019578
(87)【国際公開番号】W WO2019235165
(87)【国際公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018110688
(32)【優先日】2018-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000195661
【氏名又は名称】住友精化株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】509349141
【氏名又は名称】京都府公立大学法人
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼木 智久
(72)【発明者】
【氏名】内藤 裕二
(72)【発明者】
【氏名】三浦 かつら
(72)【発明者】
【氏名】坂上 茂樹
【審査官】山村 祥子
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-508135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 33/00
A61K 9/00
A61K 47/10
A61P 1/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一酸化炭素及び溶媒を含有し、一酸化炭素を800μM以上含有し、
前記溶媒が、炭素数12~18の脂肪酸と炭素数1~6のアルキルアルコールとのエステルを含み、
前記炭素数1~6のアルキルアルコールが、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソペンタノール、n-ヘキサノール、又はイソヘキサノールである、
炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療組成物。
【請求項2】
消化器官が胃、十二指腸、小腸、又は大腸である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口組成物、又は経肛門組成物である、請求項1又は2に記載の組成物。
【請求項4】
溶媒がミリスチン酸イソプロピルである、請求項1~3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
さらに増粘剤を含有する、請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
炎症性消化器官疾患が炎症性腸疾患である、請求項1~5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
炎症性腸疾患が潰瘍性大腸疾患である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
一酸化炭素濃度が1000μM以上である、請求項1~7のいずれかに記載の組成物。
【請求項9】
注腸組成物である、請求項1~8のいずれかに記載の組成物。
【請求項10】
単回投与で用いられる、請求項1~9のいずれかに記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療組成物等に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素(CO)が体内でケミカルメディエーターとしてはたらくことが徐々に明らかになってきている。例えば、直接的にCO(ガス)をラットに吸入させることにより大腸炎が抑制された、あるいは、CO溶液を経肛門投与することにより腸炎モデルラットの潰瘍形成が抑制された、といった報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2008-179569号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Takagi,et.al., Med Gas Res. 2012 Sep 3;2(1):23
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のようなCOを用いてこれまでに得られた炎症性の消化器官疾患の治療効果は、まだ十分なものとはいえない。
【0006】
本発明は、COを用いて炎症性消化器官疾患を治療できるより効率的な手法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、用いるCO濃度が特定濃度を超えると、COに基づく炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療効果が格段に向上することを見出し、さらに改良を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は例えば以下の項に記載の主題を包含する。
項1 一酸化炭素及び溶媒を含有し、COを800μM以上含有する、炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療組成物。
項2 消化器官が胃、十二指腸、小腸、又は大腸である、項1に記載の組成物。
項3 経口組成物、又は経肛門組成物である、項1又は2に記載の組成物。
項4 溶媒が水である、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項5 溶媒がミリスチン酸イソプロピルである、項1~3のいずれかに記載の組成物。
項6 さらに増粘剤を含有する、項1~5のいずれかに記載の組成物。
項7 炎症性消化器官疾患が炎症性腸疾患である、項1~6のいずれかに記載の組成物。
項8 炎症性腸疾患が潰瘍性大腸疾患である、項7に記載の組成物。
項9 一酸化炭素濃度が1000μM以上である、項1~8のいずれかに記載の組成物。
項10 注腸組成物(例えば注腸液剤又は注腸フォーム製剤)である、項1~9のいずれかに記載の組成物。
項11 単回投与で用いられる、項1~10のいずれかに記載の組成物。
項A-1 一酸化炭素及び溶媒を含有し、COを800μM以上含有する組成物を対象に投与することを含む、炎症性消化器官疾患の予防及び/又は治療方法。
項A-2 消化器官が胃、十二指腸、小腸、又は大腸である、項A-1に記載の方法。
項A-3 投与が、経口投与、又は経肛門投与(好ましくは注腸投与)である、項A-1又はA-2に記載の方法。
項A-4 溶媒が水である、項A-1~A-3のいずれかに記載の方法。
項A-5 溶媒がミリスチン酸イソプロピルである、項A-1~A-3のいずれかに記載の方法。
項A-6 前記組成物が、さらに増粘剤を含有する、項A-1~A-5のいずれかに記載の方法。
項A-7 炎症性消化器官疾患が炎症性腸疾患である、項A-1~A-6のいずれかに記載の方法。
項A-8 炎症性腸疾患が潰瘍性大腸疾患である、項A-7に記載の方法。
項A-9 前記組成物に含まれる一酸化炭素の濃度が1000μM以上である、項A-1~A-8のいずれかに記載の方法。
項A-10 前記組成物が、注腸液剤又は注腸フォーム製剤である、項A-1~A-9のいずれかに記載の方法。
項A-11 投与が単回である、項A-1~A-10のいずれかに記載の方法。
項B-1 炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療における使用のための、一酸化炭素及び溶媒を含有し、COを800μM以上含有する、組成物。
項B-2 消化器官が胃、十二指腸、小腸、又は大腸である、項B-1に記載の組成物。
項B-3 経口組成物、又は経肛門組成物である、項B-1又はB-2に記載の組成物。
項B-4 溶媒が水である、項B-1~B-3のいずれかに記載の組成物。
項B-5 溶媒がミリスチン酸イソプロピルである、項B-1~B-3のいずれかに記載の組成物。
項B-6 さらに増粘剤を含有する、項B-1~B-5のいずれかに記載の組成物。
項B-7 炎症性消化器官疾患が炎症性腸疾患である、項B-1~B-6のいずれかに記載の組成物。
項B-8 炎症性腸疾患が潰瘍性大腸疾患である、項B-7に記載の組成物。
項B-9 含有される一酸化炭素濃度が1000μM以上である、項B-1~B-8のいずれかに記載の組成物。
項B-10 炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療における使用が、炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療における注腸使用である、項B-1~B-9のいずれかに記載の組成物。
項B-11 炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療が、単回投与による炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療である、項B-1~B-10のいずれかに記載の組成物。
項C-1 炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療のための医薬の製造における、一酸化炭素及び溶媒を含有し、COを800μM以上含有する、組成物の使用。
項C-2 消化器官が胃、十二指腸、小腸、又は大腸である、項C-1に記載の使用。
項C-3 経口組成物、又は経肛門組成物である、項C-1又はC-2に記載の使用。
項C-4 溶媒が水である、項C-1~C-3のいずれかに記載の使用。
項C-5 溶媒がミリスチン酸イソプロピルである、項C-1~C-3のいずれかに記載の使用。
項C-6 前記組成物がさらに増粘剤を含有する、項C-1~C-5のいずれかに記載の使用。
項C-7 炎症性消化器官疾患が炎症性腸疾患である、項C-1~C-6のいずれかに記載の使用。
項C-8 炎症性腸疾患が潰瘍性大腸疾患である、項C-7に記載の使用。
項C-9 前記組成物に含まれる一酸化炭素の濃度が1000μM以上である、項C-1~C-8のいずれかに記載の使用。
項C-10 前記医薬が注腸医薬(例えば注腸液剤又は注腸フォーム製剤)である、項C-1~C-9のいずれかに記載の使用。
項C-11 炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療が、単回投与による炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療である、項C-1~C-10のいずれかに記載の使用。
【発明の効果】
【0009】
本発明に包含される炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療組成物によれば、従来に比べ格段に高い予防及び/又は治療効果が得られる。これにより、投与回数を低減可能といった効果も得られる。特に、例えば大腸炎など、注腸により予防及び/又は治療組成物の投与が行われる疾患の場合、注腸投与が患者に大きな負担をかける投与方法であるため、投与回数を低減できることは大きな利益である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】CO含有組成物(溶媒:水)を潰瘍性大腸炎モデルラットに注腸投与(2回)したときの、潰瘍面積を示す。横軸がCO濃度を、縦軸が潰瘍面積(mm)を示す。
図2】CO含有組成物(溶媒:水)を潰瘍性大腸炎モデルラットに注腸投与(1回)したときの、潰瘍面積を示す。横軸がCO濃度を、縦軸が潰瘍面積(mm)を示す。
図3】CO含有組成物(溶媒:ミリスチン酸イソプロピル)を潰瘍性大腸炎モデルラットに注腸投与(1回)したときの、潰瘍面積を示す。横軸がCO濃度を、縦軸が潰瘍面積(mm)を示す。
図4】CO含有組成物(溶媒:水、又はカルボマーを含む水)を潰瘍性大腸炎モデルラットに注腸投与(1回)したときの、潰瘍面積を示す。横軸に組成物組成を、縦軸に潰瘍面積(mm)を示す。なお、CO含有組成物のCO濃度は1500μMである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の各実施形態について、さらに詳細に説明する。
【0012】
本発明に包含される炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療組成物は、一酸化炭素(CO)及び溶媒を含有する。なお、当該組成物を本発明の組成物ということがある。
【0013】
溶媒は、COを保持(好ましくは溶解)できるものであれば、特に制限はされず、水又は有機溶媒、あるいはこれらの混合液が挙げられる。前記混合液は、均一でも不均一でも使用可能で、選択される溶媒の組み合わせは特に制限されない。有機溶媒としては、脂肪族飽和炭化水素類、脂肪酸類、植物油類、カルボン酸エステル類、アルコール類、エーテル類、ケトン類、グリコール類、脂肪酸エステル類等が例示される。脂肪酸エステル類は、炭素数12~18の脂肪酸と炭素数1~20のアルキルアルコールとのエステルが挙げられる。好ましくは経済性や安全性等の観点からアルキルアルコールの炭素数は、1~6である。当該脂肪酸としては、飽和脂肪酸又は不飽和脂肪酸(好ましくは不飽和結合数が1、2、又は3)が挙げられ、より具体的には例えばラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸等が挙げられる。また当該アルキルアルコールとしては、直鎖又は分岐鎖状アルキルアルコールが挙げられ、より具体的には例えばメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ペンタノール、イソペンタノール、n-ヘキサノール、イソヘキサノール等が挙げられる。特に好ましい脂肪酸エステル類としては、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル等が挙げられる。脂肪酸エステル類以外の有機溶媒としては、具体的に、例えばアジピン酸ジイソプロピル、アセトン、安息香酸ベンジル、イソプロパノール、ウイキョウ油、アルモンド油、エタノール、エチレングリコール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジエチルエーテル、オクチルドデカノール、オリーブ油、オレイン酸、グリセリン脂肪酸エステル、クロタミトン、ゲラニオール変性アルコール、合成スクワラン、ゴマ油、小麦胚芽油、酢酸エチル、酢酸ノルマルブチル、サフラワー油、サフラワー油脂肪酸、サリチル酸エチレングリコール、ジイソプロパノールアミン、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、シクロヘキサノン、シソ油、ジプロピレングリコール、ジメチルポリシロキサン、スクワレン、セバシン酸ジエチル、ソルビタン酸脂肪酸エステル、大豆油、大豆レシチン、炭酸プロピレン、中鎖脂肪酸トリグリセリド、ツバキ油、トウモロコシ油、ドデシルベンゼン、トリアセチン、トリオレイン酸ソルビタン、トリカプリル酸グリセリル、トリクロロエタン、濃グリセリン、ハッカ油、オクタアセチルショ糖変性アルコール、ヒマシ油、1,3-ブチレングリコール、プロピオン酸、プロピレングリコール、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ベンジルアルコール、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、エタノール、メタノール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、綿実油、α-モノイソステアリルグリセリルエーテル、モノオレイン酸ポリエチレングリコール、モノラウリン酸ソルビダン、ヤシ油、ポリオキシエチレンラウリルアルコールエーテル、落花生油、流動パラフィン等が挙げられる。
【0014】
本発明の組成物は、好ましくは液体組成物である。
【0015】
本発明の組成物は、COを800μM以上含有する。また、CO濃度は、例えば850μM以上、900μM以上、950μM以上、1000μM以上、1050μM以上、1100μM以上、1150μM以上、1200μM以上、1250μM以上、1300μM以上、1350μM以上、1400μM以上、1450μM以上、又は1500μM以上、であってもよい。CO濃度は、効果の観点から特に1000μM以上であることが好ましい。またCO濃度の上限は特に制限されず、溶媒に飽和するまで含有させて用いることができ、例えば、10000μM以下、9500μM以下、又は9000μM以下である。
【0016】
なお、上記のような高濃度COを含有する組成物を得るためには、常圧下で溶媒にCOを接触させる若しくは吹き込む等のみでは通常不十分であり、このような高濃度CO含有組成物を調製するためには、COを捕集した密閉容器において、ガスタイトシリンジ等を用いて例えば2気圧(又はそれ以上の気圧)になるようにCOを置換するなどすることが好ましい。
【0017】
本発明の組成物は炎症性消化器官疾患の予防及び/又は治療のために好ましく用いられる。当該消化器官としては、例えば胃又は腸が好ましく挙げられる。当該腸は、小腸、大腸、十二指腸等を包含する。炎症性消化器官疾患の中でも、本発明の組成物は特に炎症性大腸疾患に適用するのに好ましい。炎症性大腸疾患は通常、狭義には持続性炎症性腸疾患である潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis、UC)とクローン病(Crohn disease、CD)を意味するが、広義には病原微生物、薬物、血行障害、放射線、あるいは、化学的及び/又は物理的要因などによる疾患を含める概念として理解されている。本明細書における炎症性大腸疾患は特に断らない限り当該広義概念をいう。なお、炎症性大腸疾患の中でも、潰瘍性大腸炎に対して、本発明の組成物を特に好ましく用いることができる。
【0018】
また、本発明の組成物は、ヒトはもちろんのこと、非ヒト哺乳動物にも適用できる。当該非ヒト哺乳動物としては、例えばマウス、ラット、ネコ、イヌ、サル、ウシ、ウマ等が挙げられる。
【0019】
本発明の組成物の投与方法としては、例えば経口投与又は経肛門投与が挙げられる。言い換えれば、本発明の組成物は、例えば経口組成物又は経肛門組成物であってもよい。予防及び/又は治療を目的とする炎症性疾患部位が、経口投与の場合には、胃、十二指腸、小腸、又は大腸であることが好ましく、経肛門投与の場合は、十二指腸、小腸、又は大腸であることが好ましい。
【0020】
なお、本発明の組成物を経口投与により適用する場合(特に小腸又は大腸に適用する場合)には、本発明の組成物は腸溶経口組成物であることが好ましい。このような組成物は、公知の腸溶経口組成物製造方法又は当該方法から容易に想到する方法により調製することができる。例えば、CO及び溶媒を含有する組成物を腸溶カプセルに充填することにより調製することができる。
【0021】
また、本発明の組成物を経肛門投与により適用する場合(特に大腸に適用する場合)には、本発明の組成物は注腸組成物であることが好ましい。なお、注腸組成物は液剤であってもよく、また泡状製剤(注腸フォーム製剤)であってもよい。注腸フォーム状製剤では、液体組成物と噴射ガスとが混合され、これがスプレーノズルから噴出されて腸へ適用され得る。特に、噴射直前に液体組成物と噴射ガスとがスプレー内で混合されて噴射されることが多い。液体組成物と噴射ガスとが混合された段階でCO濃度が800μM以上となる組成物が得られるものは、本発明に包含される。また、前記液体組成物と前記噴射ガスとが混合された際にCO濃度が800μM以上の組成物となるのであれば、前記液体組成物と前記噴射ガスの、いずれにCOが含まれていてもよく、両方にCOが含まれていてもよい。
【0022】
本発明の組成物は、好ましくは医薬組成物として用いることができる。また、本発明の組成物が特に経口組成物である場合には、食品組成物として用いることも可能である。
【0023】
本発明の組成物は、例えば、一日あたり1回又は複数回(例えば2又は3回)の投与を行うことができる。投与量は、適宜設定することができるが、例えば組成物量が10~500cc/日程度であることが好ましい。
【0024】
また、本発明の組成物は、投与炎症性消化器官疾患予防及び/又は治療効果が格段に向上しているため、症状の重傷度によっては(つまり、それほど重傷ではない場合には)、単回投与(1回のみの投与)により、予防及び/又は治療効果を十分に得られる場合もあり、好ましい。
【0025】
本発明の組成物は、さらに増粘剤を含有してもよい。増粘剤としては、単糖類及びその誘導体、多糖類及びその誘導体、脂肪酸類、アミノ酸及びその誘導体、糖アルコール類、脂肪酸エステル類、脂肪族飽和炭化水素類、脂肪族アルコール類、無機化合物類等が例示される。具体的には、例えばキサンタンガム、アラビアガム、グアーガム、カラギーナン、ジェランガム、寒天、ローカストビーンガム、カルボマー(カルボキシビニルポリマー)、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースナトリウム、セラック、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、アクリル酸・メタクリル酸アルキル共重合体、ポリアクリル酸塩、アルギン酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ケイ酸マグネシウムアルミニウム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、α-シクロデキストリン、濃グリセリン、ポリエチレングリコール、流動パラフィン、カロブービンガム、グルコノ-δ-ラクトン、形質無水ケイ酸、スクワラン、ステアリルアルコール、ステアリン酸アルミニウム、ラノリン、セチルアルコール、ゼラチン、デキストリン、尿素、ワセリン、パルミチン酸、バレイショデンプン、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒマシ油、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、メタリン酸ナトリウム、水飴、ミツロウ、メチルビニルエーテル・無水マレイン酸共重合体、ロジン、パルミチン酸デキストリン、ミリスチン酸デキストリン、ステアリン酸イヌリン、12-ヒドロキシステアリン酸、1,3:2,4-ジベンジリデン-D-ソルビトール、L-ロイシン誘導体、L-イソロイシン誘導体、L-バリン誘導体、N-ラウロイル-L-グルタミン酸-α等が挙げられる。特に、経済性や安全性等の観点からカルボマーが好ましい。
【0026】
また、本発明の組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに他の成分を含有してもよい。このような他成分としては、公知の成分を用いることができ、特に経口投与組成物又は経肛門投与組成物に用いることが公知の成分を用いることができる。例えば、崩壊剤、滑沢剤(凝集防止剤)、流動化剤、pH調整剤、等張化剤、吸収促進剤、着色剤、着香剤、酸化防止剤、抗菌剤、防腐剤等などが挙げられる。
【0027】
崩壊剤としては、例えばカルメロースカルシウム、低置換度ヒドロキシプロピルセルロース、カルメロース、クロスカルメロースナトリウム、部分α化でんぷん、乾燥でんぷん、カルボキシメチルスターチナトリウム、クロスポビドン、ポリソルベート80(オレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン)等が挙げられる。
【0028】
滑沢剤(凝集防止剤)としては、例えばタルク、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、コロイダルシリカ、ステアリン酸、含水二酸化珪素、合成ケイ酸マグネシウム、微粒子性酸化珪素、でんぷん、ラウリル硫酸ナトリウム、ホウ酸、酸化マグネシウム、ワックス類、硬化油、ポリエチレングリコール、安息香酸ナトリウム等が挙げられる。
【0029】
流動化剤としては、例えば無水ケイ酸等が挙げられる。
【0030】
pH調整剤としては、例えば塩酸、水酸化ナトリウム、クエン酸、無水クエン酸、クエン酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム二水和物、無水リン酸一水素ナトリウム、無水リン酸二水素ナトリウム等が挙げられる。
【0031】
等張化剤としては、例えば食塩、ブドウ糖、D-マンニトール、グリセリンなどが挙げられる。
【0032】
吸収促進剤としては、例えば、第4級アンモニウム塩基、ラウリル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。これらその他成分の組成物における含有量は、その種類に応じて適宜決定することができる。
【0033】
なお、本明細書において「含む」とは、「本質的にからなる」と、「からなる」をも包含する(The term "comprising" includes "consisting essentially of” and "consisting of.")。
【実施例
【0034】
以下、本発明をより具体的に説明する。
【0035】
CO含有組成物の調製
[HO+COサンプル作製法]
バイアル瓶(マルエム(株)製3mL)に純水を2.5mL入れ、ゴム栓、アルミシールを行い密閉した。次いで、テドラーバッグ(アズワン(株)製1L)に任意のCO濃度のガス(Nバランス)を捕集した。ガスタイトシリンジ(伊藤製作所(株)製MS-GAN500)によりバイアル瓶内の気相部をテドラーバッグ内のガスで約2気圧になるよう置換した。その後、気相部のCOが液相に溶解し、平衡状態に達するまで静置した。
【0036】
得られたCO含有組成物(水が溶媒)中のCO濃度を、表1に示す。なお、組成物中のCO濃度は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製GC-2014、FID)により分析した。
【0037】
【表1】
【0038】
[IPM+COサンプル作製法]
バイアル瓶(マルエム(株)製3mL)にミリスチン酸イソプロピル(和光純薬工業(株)製和光一級)を2.5mL入れ、ゴム栓、アルミシールを行い密閉した。次いで、テドラーバッグ(アズワン(株)製1L)に任意のCO濃度のガス(Nバランス)を捕集した。ガスタイトシリンジ(伊藤製作所(株)製MS-GAN500)によりバイアル瓶内の気相部をテドラーバッグ内のガスで約2気圧になるよう置換した。その後、気相部のCOが液相に溶解し、平衡状態に達するまで静置した。
【0039】
得られた組成物中のCO濃度は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製GC-2014、FID)により分析した。テドラーバッグ内気相のCO(%)を18%とした場合には、IPM中のCO濃度は1500μMであり、テドラーバッグ内気相のCO(%)を100%とした場合には、IPM中のCO濃度は9000μMであった。
【0040】
潰瘍性大腸炎モデルラットへの投与(試験1)
公知(Takagi,et.al., Med Gas Res. 2012 Sep 3;2(1):23)の方法に従い、潰瘍性大腸炎モデルラット(Wisterラット、雄、6週齢)を作製した。具体的には、6週齢の雄のWisterラットに対し正中線で開腹し、遠位大腸を露出させ、trinitrobenzene sulfonic acid (TNBS)、0.1M-100μl(35% ETOH)を既報に従い、大腸管腔内に注入し、TNBS腸炎を作製した。
【0041】
当該モデルラットに、上記の水を溶媒として調製したCO含有組成物を注腸投与した。より詳細には、当該組成物に含有されるCO濃度別に当該モデルラットを群分けし(n=5~7)、当該モデルラット作製完了日を試験開始日とし、3日目及び5日目に、CO含有組成物を1mL注腸投与した。
【0042】
試験開始日から7日目に、モデルラットにペントバルビタール過剰投与により安楽死させた。その後、大腸を取り出し、潰瘍の面積を測定した。なお、対照実験として、CO含有組成物の代わりに水を用いた以外は同様に操作する実験も行った。結果を図1に示す。
【0043】
水のみを投与したモデルラットに比べ、100μM又は500μMのCOを含有する組成物を投与したモデルラットでは、潰瘍面積が減少する傾向は確認できたものの、その効果は十分ではなかった。一方で、1000μM又は1500μMのCOを含有する組成物を投与したモデルラットでは、潰瘍面積が著しく減少した。図中、*は水のみを投与した群に対する有意差(P<0.05)を示す。
【0044】
潰瘍性大腸炎モデルラットへの投与(試験2)
そこで、試験開始日から3日目のみにCO含有組成物(溶媒が水であり、1500μMのCOを含有)を投与した以外は、上記(試験1)と同様にして検討を行い、モデルラットの潰瘍面積を測定した。結果を図2に示す。*は水のみを投与した群に対する有意差(P<0.05)を示す。当該結果から、1500μMのCOを含有する組成物を用いた場合、単回投与でも治療効果が奏されることが分かった。
【0045】
潰瘍性大腸炎モデルラットへの投与(試験3)
さらに、CO含有組成物を、溶媒がミリスチン酸イソプロピルであり、含有CO濃度が1500μM又は9000μMである点以外は、上記の単回投与試験(試験2)と同様にして検討を行い、モデルラットの潰瘍面積を測定した。結果を図3に示す。*はミリスチン酸イソプロピルのみを投与した群に対する有意差(P<0.05)を示す。当該結果から、高濃度のCOを含有する組成物を用いた場合、溶媒が有機溶媒であっても、また単回投与であっても、治療効果が奏されることが分かった。
【0046】
CO含有組成物の調製2
[カルボマー+COサンプル作製法]
500mLポリビーカーに純水300gを入れた。スリーワンモーター(新東科学(株)製BL-1200)により400rpmで攪拌させている所に、カルボマー(アクペック:住友精化(株)製501E)を2.79g添加し、240rpmで5時間攪拌し溶解させた。その後、6%水酸化ナトリウム水溶液を15.8g添加し30分攪拌させ、カルボマー水溶液を作製した。200mLビーカーに当該カルボマー水溶液を150mL入れ、25℃の恒温水槽で30分静置した。
【0047】
バイアル瓶(マルエム(株)製3mL)にカルボマー水溶液を2.5mL入れ、ゴム栓、アルミシールを行い密閉した。次いで、テドラーバッグ(アズワン(株)製1L)に任意のCO濃度のガス(N2バランス)を捕集した。ガスタイトシリンジ(伊藤製作所(株)製MS-GAN500)によりバイアル瓶内の気相部をテドラーバッグ内のガスで約2気圧になるよう置換した。その後、気相部のCOが液相に溶解し、平衡状態に達するまで静置した。
【0048】
得られたCO含有組成物中のCO濃度は、ガスクロマトグラフィー(島津製作所(株)製GC-2014、FID)により分析した。テドラーバッグ内気相のCO(%)を100%とした場合には、カルボマー水溶液中のCO濃度は1500μMであった。
【0049】
潰瘍性大腸炎モデルラットへの投与(試験4)
SDラットを用いた以外は、上記(試験1)と同様にして、潰瘍性大腸炎モデルラットを作製した。
【0050】
当該モデルラットに、上記のようにして調製したカルボマーを含むCO含有組成物(CO濃度1500μM)を注腸投与した。より詳細には、当該モデルラット作製完了日を試験開始日とし、1日目のみにCO含有組成物を1mL注腸投与した。
【0051】
試験開始日から3日目に、モデルラットにペントバルビタール過剰投与により安楽死させた。その後、大腸を取り出し、潰瘍の面積を測定した。なお、対照実験として、CO含有組成物の代わりに水、若しくはカルボマーのみ含有する組成物を用いた以外は同様に操作する実験も行った。カルボマーのみ含有する組成物は、上記[カルボマー+COサンプル作製法]において得たカルボマー水溶液である。結果を図4に示す。なお、図4においてカルボマーはAQと表記される。*はカルボマーのみ含有する組成物に対する有意差(P<0.05)を示す。当該結果から、増粘剤を含有しても、また単回投与であっても、治療効果が奏されることが分かった。
図1
図2
図3
図4