(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】多軸触覚センサ
(51)【国際特許分類】
G01L 5/162 20200101AFI20231205BHJP
【FI】
G01L5/162
(21)【出願番号】P 2022170730
(22)【出願日】2022-10-25
(62)【分割の表示】P 2021141549の分割
【原出願日】2018-11-26
【審査請求日】2022-11-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【氏名又は名称】加藤 竜太
(74)【代理人】
【識別番号】100165157
【氏名又は名称】芝 哲央
(72)【発明者】
【氏名】下山 勲
(72)【発明者】
【氏名】中井 亮仁
【審査官】大森 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-187399(JP,A)
【文献】特開2008-281403(JP,A)
【文献】特開2013-68503(JP,A)
【文献】国際公開第2018/179911(WO,A1)
【文献】特開2011-112459(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0175486(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L 5/16,5/161-5/1627,1/18-1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3つの軸方向の力と、前記3つの軸のうち、2つ以上の軸の軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサであって、
基板と、
前記基板の表面と略同一の面内に設けられた複数のセンサ素子と、
前記複数のセンサ素子の周囲を覆い、前記複数のセンサ素子に外力を伝達する伝達材と、
を備え、
前記複数のセンサ素子は、
前記基板の表面に対して平行方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも3つのせん断力検出素子と、
前記基板の表面に対して垂直方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも1つの押圧力検出素子と、を含む、少なくとも4つのセンサ素子を含み、
前記4つのセンサ素子の前記梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるように前記基板に配置されており、
前記少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントは、前記複数のセンサ素子のうち、前記放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出される、多軸触覚センサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多軸触覚センサに関する。より詳細には、3つの軸方向の力と、少なくとも1つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多軸触覚センサが知られている。
特許文献1には、MEMSプロセスを用いて、基板の表面と略同一の面内に複数のセンサ素子を形成した触覚センサが開示されている。この特許文献1に記載されている触覚センサは、薄型の構造でせん断力を検出することが可能な、非常に優れた触覚センサである。この特許文献1には、x軸方向の力とy軸方向の力を検出する触覚センサが具体的に開示されている。
一方、例えばロボットや医療分野などにおいて、詳細な接触情報を得るために、3軸方向の力と、各軸まわりのモーメントを測定するための6軸の触覚センサ等、多くの検出軸を有する触覚センサが求められている。また、このような触覚センサについては、小型化が求められることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、前述のとおり、x軸方向とy軸方向の力を検出する構成については具体的に開示されている。また、3つ以上のセンサ素子を設け、梁を放射状に配置することによりさらにモーメントを測定するように構成してもよいことについても示唆されている。しかしながら、特許文献1には、基板の一面上にセンサ素子を形成する態様のセンサにおいて、x軸方向およびy軸方向の力に加えて、z軸方向の力および、軸まわりのモーメントを検出する場合の具体的な構成については記載されていない。よって、x軸方向およびy軸方向の力に加えて、z軸方向の力および、軸まわりモーメントも検出する場合において、基板の一面上に、どのような種類のセンサ素子を形成すればよいのか、また、高い感度で検出可能とするためには、種類の異なるセンサを、具体的にどのようなレイアウトで配置すればよいのかという応用用途については、別途検討しなければならない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、少なくとも1つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、3つの軸方向の力と、前記3つの軸のうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサであって、基板と、前記基板の表面と略同一の面内に設けられた複数のセンサ素子と、前記複数のセンサ素子の周囲を覆い、前記複数のセンサ素子に外力を伝達する伝達材と、を備え、前記複数のセンサ素子は、前記基板の表面に対して平行方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも3つのせん断力検出素子と、前記基板の表面に対して垂直方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも1つの押圧力検出素子と、を含む、少なくとも4つのセンサ素子を含み、前記4つのセンサ素子の前記梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるように前記基板に配置されており、前記少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントは、前記複数のセンサ素子のうち、前記放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出される。
【0007】
(2)(1)の多軸触覚センサは、3つの軸方向の力と、前記3つの軸の軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサであって、前記複数のセンサ素子は、前記基板の表面に対して平行方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも3つのせん断力検出素子と、前記基板の表面に対して垂直方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも3つの押圧力検出素子と、を含む、少なくとも6つのセンサ素子を含み、前記6つのセンサ素子の前記梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるように前記基板に配置されており、前記3つの軸の軸まわりのモーメントのうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントは、前記複数のセンサ素子のうち、前記放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上の前記センサ素子の出力に基づいて検出されてもよい。
【0008】
(3)(2)の多軸触覚センサにおいて、前記3つの押圧力検出素子は、前記放射状の配置における中心を基準として3回対称の位置に配置されており、前記3つの軸の軸まわりのモーメントのうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントは、前記3回対称の位置に配置されている前記3つの押圧力検出素子の出力に基づいて検出されてもよい。
【0009】
(4)(2)の多軸触覚センサは、3つの軸方向の力と、前記3つの軸の軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサであって、前記複数のセンサ素子は、前記基板の表面に対して平行方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも4つのせん断力検出素子と、前記基板の表面に対して垂直方向の力を検出するように、所定部位に抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも4つの押圧力検出素子と、を含む、少なくとも8つのセンサ素子を含み、前記8つのセンサ素子の前記梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるように前記基板に配置されており、前記3つの軸の軸まわりのモーメントのうち、少なくとも2つの軸の軸まわりのモーメントは、前記複数のセンサ素子のうち、前記放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、4つ以上の前記押圧力検出素子の出力に基づいて検出され、前記3つの軸方向の力はそれぞれ、前記複数のセンサ素子のうち、前記放射状の配置における中心点を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上の前記センサ素子の出力に基づいて検出されてもよい。
【0010】
(5)(4)の多軸触覚センサにおいて、前記3つの軸の軸まわりのモーメントはそれぞれ、前記複数のセンサ素子のうち、前記放射状の配置における中心を基準として4回対称の位置に配置されている、4つの前記センサ素子の出力に基づいて検出され、前記3つの軸方向の力のうち、少なくとも1つの軸方向の力は、前記複数のセンサ素子のうち、前記放射状の配置における中心点を基準として4回対称の位置に配置されている、4つの前記押圧力検出素子の出力に基づいて検出されてもよい。
【0011】
(6)(1)~(5)の多軸触覚センサにおいて、前記複数のセンサ素子の前記梁構造はそれぞれ、両端が前記基板に支持された、互いに平行で、かつ前記基板に対して平行に配置された、2本の梁から構成されており、前記2本の梁は、前記外力によって伸張または圧縮変形する表面に第1の抵抗層が形成された第1の検出部を有する第1の梁と、前記外力によって前記第1の検出部とは逆に圧縮または伸張変形する表面に第2の抵抗層が形成された第2の検出部を有する第2の梁と、により構成されていてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、少なくとも1つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る多軸触覚センサの外観図である。
【
図2】
図1に示される多軸触覚センサの概略的な断面を示す図である。
【
図4】せん断力検出素子の概略的な構成を示す斜視図である。
【
図5A】
図4のせん断力検出素子を上面から見たときの概略的な図である。
【
図6A】せん断力検出素子にx方向の外力が加わったときの、2本の梁の変形状態を示す図である。
【
図7】2本の梁の変形に基づいて、せん断力を検出する計測回路を示す回路図である。
【
図8】押圧力検出素子の概略的な構成を示す斜視図である。
【
図9A】
図8の押圧力検出素子を上面から見たときの概略的な図である。
【
図10】押圧力検出素子に押圧力が加わったときの、2本の梁の変形状態を示す図である。
【
図11】センサ基板の一面上に多数のセンサ素子を形成する態様の多軸触覚センサにおいて、検討すべき点を説明するための図である。
【
図12】センサ素子の好適な配置例を示す図である。
【
図13】センサ素子の別の配置例を示す第1の変形例を示す図である。
【
図14】複数のセンサ素子の配置に関する第2の変形例を示す図である。
【
図15】複数のセンサ素子の配置に関する第3の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る多軸触覚センサ1の外観図である。
【0015】
多軸触覚センサ1は、後述のセンサ基板2(
図1においては不図示)が固定的に載置されたベース基板3を備えている。そして、弾性体4によってセンサ基板2が覆われている。ベース基板3には、外部配線5が接続されている。
【0016】
図2は、
図1に示される多軸触覚センサ1の概略的な断面を示す図である。
図2に示されるように、本実施形態の多軸触覚センサ1は、第1の基板としてのベース基板3と、ベース基板3の上に載置された第2の基板としてのセンサ基板2とを備えている。
ベース基板3と、センサ基板2は、ワイヤボンディングにより電気的に接続されている。具体的には、ボンディングワイヤ16が、ベース基板3のパッド14と、センサ基板2の電極部15とを接続している。
【0017】
センサ基板2は、SOI基板からなる。センサ基板2の表面と略同一の面内には、後述するMEMSプロセスにより、複数のセンサ素子が形成されている。複数のセンサ素子が形成されているセンサ基板2は、多軸触覚センサ1のセンサチップを構成する。
【0018】
センサ基板2の複数のセンサ素子の周囲を覆うように、伝達材としての弾性体4が設けられている。弾性体4は、各センサ素子に外力を伝達する機能を有する。この弾性体4は、外力が加わることにより弾性変形し、外力が除去されると弾性回復するものであればよく、例えば、ゴム(熱硬化性エラストマー)、熱可塑性エラストマー、ゲル等の、各種の材料を適用することが可能である。なお、少なくともセンサ基板2およびワイヤボンディング部を直接覆う部分については、絶縁性を有する材料を用いることが好ましい。
本実施形態においては、弾性体4としてシリコーンゴムを用いる。シリコーンゴムは、本実施形態の多軸触覚センサ1に適用する上で、低圧縮永久歪、幅広い温度特性、絶縁性といった好ましい材料特性を有している。
なお、弾性体4のさらに外側に、別の材料からなる外装体、例えば、硬質の材料からなる硬質外装体を設けてもよい。
【0019】
図3に、
図2に示されるセンサ基板2の上面図を示す。
センサ基板2の表面には、複数のセンサ素子として、せん断力検出素子20と、押圧力検出素子30が形成されている。本実施形態においては、せん断力検出素子20として、4つのせん断力検出素子21~24が形成されている。また、押圧力検出素子30として、4つの押圧力検出素子31~34が形成されている。
【0020】
せん断力検出素子21~24は、センサ基板2の表面に対して平行方向の力を検出する。より具体的には、せん断力検出素子21、23は、
図3に示されるx軸方向の力を検出する。せん断力検出素子22、24は、
図3に示されるy軸方向の力を検出する。ここでは、
図3における紙面右側の方向を、x軸における正の方向、
図3における紙面上側の方向を、y軸における正の方向として定義している。
【0021】
押圧力検出素子31~34は、センサ基板2の表面に対して直交する方向の力を検出する。すなわち、押圧力検出素子31~34は、
図3に示されるz軸方向の力を検出する。ここでは、
図3における紙面奥行き方向、すなわちセンサ基板2の表面を押圧する方向を負の方向として定義している。
各センサ素子は、ピエゾ抵抗型センサにより構成されている。各センサ素子は、所定部位にピエゾ抵抗層を備える梁構造(ビーム構造)を有する。
【0022】
ここで、本実施形態における多軸触覚センサ1は、複数のセンサ素子の各梁構造の長手方向が、放射状となるように配置されている。この点については追って詳細に説明する。
【0023】
図4は、せん断力検出素子21の概略的な構成を示す斜視図である。
図5Aは、
図4のせん断力検出素子21を上面から見たときの概略的な図である。
図5Bは、
図5AにおけるL-L断面を示す断面図である。
図4、
図5Aにおいては、梁構造の周辺およびセンサ素子の周囲を覆う、弾性体4の図示は省略している。
【0024】
ここで、せん断力検出素子21~24は全て同じ構造である。よって、その代表として、せん断力検出素子21の構造を説明する。
せん断力検出素子21は、梁構造として、2本の梁41、51を備える。2本の梁41、51は、両端が支持された両持ち梁となっており、互いに略平行に、かつセンサ基板2の表面に対して略平行に配置されている。
第1の梁41には、x方向の外力によって伸張または圧縮変形する部分としての第1の検出部42に、第1の抵抗層43が形成されている。第2の梁51には、x方向の外力によって第1の抵抗層43とは逆に圧縮または伸張変形する部分としての第2の検出部52に、第2の抵抗層53が形成されている。
本実施形態においては、
図4~5に示されるように、第1の抵抗層43、第2の抵抗層53はそれぞれ、第1の梁41、第2の梁51の互いに対向する表面、すなわち対向面に設けられている。
なお、2本の梁41、51の端部付近には、導電層としての電極部15が被覆されているため、この部分は、ピエゾ抵抗型センサとしては不感部となる。よって、
図5Aにおいて、導電層としての電極部15が被覆されていない部分、換言すると、
図5Aにおいて、第1の抵抗層43、第2の抵抗層53が視認できる部分が、第1の検出部42、第2の検出部52となっている。
【0025】
ここで、せん断力検出素子21の動作原理を説明する。
図6Aは、
図5Aに対応する図であり、せん断力検出素子21にx方向の外力が加わったときの、2本の梁の変形状態を示す図である。
図6Bは、
図6AにおけるL-L断面を示す断面図である。
図7は、2本の梁の変形に基づいて、せん断力を検出する計測回路を示す回路図である。
【0026】
図5A、
図5Bに示されるように、多軸触覚センサ1の弾性体4に外力が加わっていない状態のときには、梁構造としての第1の梁41、第2の梁51は直線形状を維持している。これに対して、弾性体4にx軸方向の力が加わった場合には、
図6A、
図6Bに示されるように、弾性体に覆われた第1の梁41、第2の梁51は、梁の中心部がx方向に移動するような形で撓む。すなわち、第1の梁41の第1の検出部42は、第1の抵抗層43が設けられた表面側が伸張する方向に変形する。他方、第2の梁51の第2の検出部52は、第2の抵抗層53が設けられた表面側が圧縮する方向に変形する。このように、第1の検出部42、第2の検出部52は、伸張と圧縮の対となる。
【0027】
ここで、第1の検出部42が設けられた第1の梁41と、第2の検出部52が設けられた第2の梁51は、機械特性が略等しいため、所定の外力に対する梁の変形量も略等しい。よって、所定の外力が加わったときの、第1の検出部42の第1の抵抗層43の抵抗値の変化量と、第2の検出部52の第2の抵抗層53の抵抗値の変化量は、絶対値が同じで、正負が逆の値となる。
【0028】
そして、このような外力に応じた抵抗値の変化を、
図7に示されるブリッジ回路により測定する。
まず、
図5A、
図5Bに示されるように、多軸触覚センサ1の弾性体4に外力が加わっていない状態のときにおいては、第1の梁41の第1の検出部42の抵抗値R1と、第2の梁51の第2の検出部52の抵抗値R2は等しい。すなわち、R1=R2=Rの状態となっている。この状態のときに、入力電圧Vin=Vの電圧を印加すると、出力電圧Vout=V/2となる。
【0029】
これに対して、
図6A、
図6Bに示されるように、弾性体4にx軸方向の力が加わった場合には、第1の梁41の第1の検出部42の抵抗値R1、第2の梁51の第2の検出部52の抵抗値R2が、正負が逆の方向に、同じ値だけ変化する。すなわち、R1=R+ΔRとなり、R2=R-ΔRとなる。その結果、入力電圧Vin=Vの電圧を印加したときの出力電圧Voutは、外力が加わっていない状態のときに比べて、ΔR・V/2Rだけ変化する。すなわち、電圧変化量として、ΔV=ΔR・V/2Rが得られる。
この電圧変化量ΔVに基づいて、梁構造の変形具合に応じた、x軸方向のせん断力を検出することができる。
【0030】
このように、2本の梁41、51を用いた、正負逆方向に変化する抵抗値変化を計測する手法を採用することにより、温度変化による抵抗値の変動や他軸との干渉を、効果的にキャンセルすることが可能となる。
【0031】
なお、せん断力検出素子23も、同様の動作原理により、電圧変化量ΔVを得ることができる。また、y軸方向の力を検出するせん断力検出素子22、24についても、梁構造の長手方向がy軸に対して垂直となるように配置されているが、その動作原理は、x軸方向の力を検出するせん断力検出素子21、23と同様である。
【0032】
ここで、せん断力検出素子21は、x軸の正の方向に向かう力が加わった時に、電圧変化量ΔVが正の値を出力するように設定されている。せん断力検出素子22は、y軸の負の方向に向かう力が加わった時に、電圧変化量ΔVが正の値を出力するように設定されている。せん断力検出素子23は、x軸の負の方向に向かう力が加わった時に、電圧変化量ΔVが正の値を出力するように設定されている。せん断力検出素子24は、y軸の正の方向に向かう力が加わった時に、電圧変化量ΔVが正の値を出力するように設定されている。
【0033】
次に、押圧力検出素子30(31~34)について説明する。
図8は、押圧力検出素子31の概略的な構成を示す斜視図である。
図9Aは、
図8の押圧力検出素子31を上面から見たときの概略的な図である。
図9Bは、
図9AにおけるL-L断面を示す断面図である。
図8、
図9Aにおいては、梁構造の周辺およびセンサ素子の周囲を覆う、弾性体4の図示は省略している。
【0034】
ここで、押圧力検出素子31~34は全て同じ構造である。よって、その代表として、押圧力検出素子31の構造を説明する。
押圧力検出素子31は、梁構造として、2本の梁61、71を備える。2本の梁61、71は、両端が支持された両持ち梁となっており、互いに略平行に、かつセンサ基板2の表面に対して略平行に配置されている。
第3の梁61には、z方向の外力によって伸張または圧縮変形する部分としての第3の検出部62に、第3の抵抗層63が形成されている。第4の梁71には、z方向の外力によって第3の抵抗層63とは逆に圧縮または伸張変形する部分としての第4の検出部72に、第4の抵抗層73が形成されている。
本実施形態においては、
図8、
図9Bに示されるように、第3および第4の抵抗層63、73は、第3および第4の梁61、71上に、全体に亘って設けられている。
しかしながら、第3の梁61の中間領域には、導電層としての不感部形成導電層88が被覆されている。また、第4の梁71の端部付近には、導電層としての電極部15が被覆されている。したがって、これらの導電層が被覆されている部分は、ピエゾ抵抗型センサとしては不感部となる。
よって、第3の梁61の第3の検出部62は、第3の梁61の端部付近領域となり、第4の梁71の第4の検出部72は、第4の梁71の中間領域となっている。すなわち、
図9Aにおいて、導電層としての不感部形成導電層88および電極部15が被覆されていない梁の部分、換言すると、
図9Aにおいて、第3の抵抗層63、第4の抵抗層73が視認できる梁の部分が、第3の検出部62、第4の検出部72となっている。
【0035】
ここで、押圧力検出素子31の動作原理を説明する。
図10は、
図9Bに対応する図であり、押圧力検出素子31に押圧力が加わったときの、2本の梁の変形状態を示す図である。
【0036】
押圧力検出素子31については、押圧力が加わった時に、第3の梁61、第4の梁71の中心部が押圧方向に移動するような形で撓む。これにより、第3の梁61の端部付近領域に設けられた第3の検出部62は、第3の抵抗層63が設けられた表面側が伸張する方向に変形し、第4の梁71の中間領域に設けられた第4の検出部72は、第4の抵抗層73が設けられた表面側が圧縮する方向に変形する。すなわち、第3の検出部62、第4の検出部72は、伸張と圧縮の対となる。
【0037】
この第3の検出部62の第3の抵抗層63の抵抗値の変化量と、第4の検出部72の第4の抵抗層73の抵抗値の変化量は、所定の外力が加わったときにおいて、絶対値が同じで、正負が逆の値となるように設計されている。
よって、押圧力検出素子31においても、せん断力検出素子21と同様に、
図7に示されるようなブリッジ回路を用いることにより、z方向の押圧力を検出するための電圧変化量ΔVを得ることができる。
【0038】
ここで、押圧力検出素子31~34は、z軸の正の方向に向かう力が加わった時に、電圧変化量ΔVが正の値を出力するように設定されている。換言すると、押圧方向、すなわちz軸の負の方向に力が加わった場合に、電圧変化量ΔVが負の値を出力するように設定されている。
【0039】
ここで、
図3に戻って、上述のブリッジ回路を構成するための、センサ基板2における電極パターンについて説明する。
図3に示すように、センサ基板2の電極部15は、複数の領域に分割されている。具体的には、Vbrdg、Vx1、Vx2、Vy1、Vy2、Vz1、Vz2、Vz3、Vz4、Gx1、Gx2、Gy1、Gy2、Gz1、Gz2、Gz3、Gz4として示される、17箇所の電極領域が形成されている。
ここで、例えばせん断力検出素子21に加わるx軸方向のせん断力を検出するための電圧変化量ΔVx1を検出するために、Vbrdg、Vx1、Gx1が、入力電圧Vin用の電極部、出力電圧Vout用の電極部、GND用の電極部として用いられて、ブリッジ回路が構成される。同様に、全8つのセンサ素子について、以下の電極部が、入力電圧Vin用の電極部、出力電圧Vout用の電極部、GND用の電極部として用いられて、ブリッジ回路が構成される。なお、Vbrdgは、入力電圧Vin用の共通電極部となっている。
【0040】
(1)せん断力検出素子21用(ΔVx1検出用)電極部:Vbrdg、Vx1、Gx1
(2)せん断力検出素子22用(ΔVy1検出用)電極部:Vbrdg、Vy1、Gy1
(3)せん断力検出素子23用(ΔVx2検出用)電極部:Vbrdg、Vx2、Gx2
(4)せん断力検出素子24用(ΔVy2検出用)電極部:Vbrdg、Vy2、Gy2
(5)押圧力検出素子31用(ΔVz1検出用)電極部:Vbrdg、Vz1、Gz1
(6)押圧力検出素子32用(ΔVz2検出用)電極部:Vbrdg、Vz2、Gz2
(7)押圧力検出素子33用(ΔVz3検出用)電極部:Vbrdg、Vz3、Gz3
(8)押圧力検出素子34用(ΔVz4検出用)電極部:Vbrdg、Vz4、Gz4
【0041】
本実施形態の多軸触覚センサ1のセンサ基板2は、例えば特許文献1に記載されているような公知のMEMSプロセスにより製造される。例えば、SOI基板に対して、エッチング、不純物のドーピング、成膜等のプロセスを行うことにより、ピエゾ抵抗層、導電層(電極部)の形成、梁構造の形成を行う。これにより、センサ基板2の表面と略同一の面内には、複数のセンサ素子が形成される。
【0042】
MEMSプロセスによりセンサ基板2上に複数のセンサ素子を形成した後、センサ基板2をベース基板3上に載置する。そして、センサ基板2とベース基板3をボンディングワイヤ16によって接続した上で、弾性体4でセンサ基板2を覆う。このとき、MEMSプロセスにより形成されたセンサ基板2の開口部や梁の周囲にも、弾性体4を充填する。なお、センサ基板2の開口部や梁の周囲への弾性体4の充填作業は、センサ基板2をベース基板3に載置する前に実施してもよい。
【0043】
上述のMEMSプロセスを用いることにより、比較的簡易なプロセスで、センサ基板2の表面に対して平行な方向の力と、直交する方向の力とを検出することが可能で、さらに後述する軸まわりのモーメントを検出することが可能な、多軸触覚センサ1を形成することができる。
【0044】
次に、
図11を用いて、センサ基板の一面上に多数のセンサ素子を形成する態様の多軸触覚センサにおいて、検討すべき点について説明する。
【0045】
上述のようなMEMSプロセスを用いて多軸触覚センサを構成する場合、一つの基板上に多数のセンサ素子を配置しなければならない。このとき、例えばx軸方向、y軸方向のせん断力を検出する各センサ素子を任意のレイアウトで配置すると、弾性体に力が加わった時に、他軸干渉が発生する。
【0046】
例えば、
図11に示されるように、多軸触覚センサ101に対して、矢印Aで示されるようなz軸方向の力を加えると、弾性体4は、厚さ方向に圧縮される。ここで、弾性体4として用いられる、ゴムやエラストマーは、通常、非圧縮性材料である。例えばシリコーンゴムの場合、ポアソン比が0.5程度の非圧縮性材料である。よって、弾性体4が厚さ方向に圧縮された場合、弾性体4は、矢印Bで示されるような方向、すなわち、センサ基板102の表面と水平な方向に膨らむ。
この膨らみによって生じる放射状の方向に向かうせん断力は、センサ素子を構成する梁を歪ませ、他軸干渉の原因となる。そして、このような他軸干渉の発生している、任意のレイアウトで配置された複数のせん断力検出素子の出力を、何の考慮も無く組み合わせて、例えばz軸まわりのモーメントを算出した場合、その算出されたモーメントの値は、精度の高いものとはならない。
【0047】
なお、上述のような、他軸干渉の影響が大きいハードウェアの場合、出荷段階で他軸干渉の校正を行うことにより、ある程度の精度を有するセンサとして出荷することも可能ではある。しかしながら、初期状態で他軸干渉の影響が大きく、出荷段階で大きな校正をかけている場合は、センサを構成する部材の経時変化によってズレ量が徐々に大きくなり、精度が低下していく可能性がある。
よって、ハードウェアとして、他軸干渉を極力生じさせない構成とすることが好ましい。
【0048】
本発明は、3つの軸方向の力と、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントを検出することができる、小型で検出感度の高い多軸触覚センサの構成を、具体的に鋭意検討した結果、実現したものである。
【0049】
具体的には、本実施形態における多軸触覚センサ1は、せん断力検出素子20および押圧力検出素子30の各梁構造の長手方向が放射状となるように、せん断力検出素子20および押圧力検出素子30を配置し、さらに、特定の配置関係にある、せん断力検出素子20および押圧力検出素子30の出力を用いて、軸方向の力や軸まわりのモーメントを検出する。よって、各梁構造の長手方向が放射状となっているため、上述のような他軸干渉の問題が発生し難く、さらに、特定の配置関係にあるせん断力検出素子20および押圧力検出素子30の出力を用いて、軸方向の力や軸まわりのモーメントを検出するため、検出感度が高い。
【0050】
すなわち、本実施形態の多軸触覚センサ1は、後述の好適な例および、第1~3の変形例に示すように、少なくともx軸、y軸、z軸といった3つの軸方向の力と、3つの軸のうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントを検出するためのセンサであり、センサ基板2の表面には、複数のセンサ素子が形成されている。そして、複数のセンサ素子は、センサ基板2の表面に対して平行方向の力、すなわちx方向、y方向の力を検出するための抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも3つのせん断力検出素子20と、センサ基板2の表面に対して垂直方向の力、すなわちz方向の力を検出するための抵抗層を備えた梁構造を有する、少なくとも1つの押圧力検出素子30と、を含む、少なくとも4つのセンサ素子を備え、この少なくとも4つのセンサ素子の梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるようにセンサ基板2上に配置されている。さらに、3つの軸のうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントは、複数のセンサ素子のうち、前述の放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出される。
このような構成により、3つの軸方向の力と、3つの軸のうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントを検出することができる、小型の多軸触覚センサを実現することができる。
【0051】
図12は、本実施形態の多軸触覚センサ1における、センサ素子の好適な配置例を示す図である。なお、電極のパターンについては図示を省略している。
この例では、センサ基板2に、複数のセンサ素子として、4つのせん断力検出素子20(21、22、23、24)と、4つの押圧力検出素子30(31、32、33、34)とが形成されている。
そして、これらの8つのセンサ素子は、それぞれのセンサ素子の梁構造の長手方向が、放射状となるようにセンサ基板2に配置されている。ここで、本実施形態のせん断力検出素子20、押圧力検出素子30のように、各センサ素子の梁構造が2本の梁によって形成されている場合は、1つのセンサ素子を構成する2本の梁からなる梁構造の中心線が放射状となるように、各センサ素子がセンサ基板2に配置される。
【0052】
そして、
図12に示されるように、4つのせん断力検出素子21、22、23、24は、回転対称の関係で配置されている。この例では、センサ基板2の略中心位置を基準軸として4回対称、すなわち、基準軸の周りを90°回転させると自らと重なるような態様で、せん断力検出素子21、22、23、24が配置されている。
また、4つの押圧力検出素子31、32、33、34についても、回転対称の関係で配置されている。この例では、センサ基板2の略中心位置を基準軸として4回対称、すなわち、基準軸の周りを90°回転させると自らと重なるような態様で、押圧力検出素子31、32、33、34が配置されている。
さらに詳細には、4つのせん断力検出素子21、22、23、24と、4つの押圧力検出素子31、32、33、34は、交互に45°間隔で配置されている。
【0053】
このような構成を採用することにより、x軸、y軸、z軸の軸方向の力Fx、Fy、Fzと、x軸、y軸、z軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzを検出することができる。
具体的には、せん断力検出素子21、23の出力に基づきx軸方向の力Fxを、せん断力検出素子22と24の出力に基づきy軸方向の力Fyを、押圧力検出素子31、32、33、34の出力に基づきz軸方向の力Fzを、押圧力検出素子31、32、33、34の出力に基づきx軸まわりのモーメントMxを、押圧力検出素子31、32、33、34の出力に基づきy軸まわりのモーメントMyを、せん断力検出素子21、22、23、24の出力に基づきz軸まわりのモーメントMzを、検出することができる。
【0054】
さらに具体的には、x軸、y軸、z軸の軸方向の力Fx、Fy、Fzと、x軸、y軸、z軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzは、以下の式(1)~(6)によって求められる電圧出力VFx、VFy、VFz、VMx、VMy、VMzに基づき算出される。ここで、ΔVは、各センサ素子に外力が加わった時に前述のブリッジ回路により検出される電圧変化量である。すなわち、電圧変化量ΔVx1、ΔVy1、ΔVx2、ΔVy2はそれぞれ、せん断力検出素子21、22、23、24の出力としての、前述のブリッジ回路により検出される電圧変化量であり、電圧変化量ΔVz1、ΔVz2、ΔVz3、ΔVz4はそれぞれ、押圧力検出素子31、32、33、34の出力としての、前述のブリッジ回路により検出される電圧変化量である。
【0055】
VFx=(ΔVx1-ΔVx2)/2 …(1)
VFy=(ΔVy1-ΔVy2)/2 …(2)
VFz=(ΔVz1+ΔVz2+ΔVz3+ΔVz4)/4 …(3)
VMx=(ΔVz1+ΔVz4-ΔVz2-ΔVz3)/4 …(4)
VMy=(ΔVz3+ΔVz4-ΔVz1-ΔVz2)/4 …(5)
VMz=-(ΔVx1+ΔVx2+ΔVy1+ΔVy2)/4 …(6)
【0056】
このように、3つのモーメントMx、My、Mzのうち、少なくとも2つのモーメントMx、Myは、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称(4回対称)の位置に配置されている、4つのセンサ素子の出力に基づいて検出されることにより、非常に高い感度でモーメントを検出している。
また、モーメントMzも、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称(4回対称)の位置に配置されている、4つのセンサ素子(せん断力検出素子21、22、23、24)の出力(ΔVx1、ΔVy1、ΔVx2、ΔVy2)に基づいて検出されることにより、非常に高い感度でモーメントを検出している。なお、Mzは、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称(2回対称)の位置に配置されている、2つのセンサ素子(せん断力検出素子21、23のペア、またはせん断力検出素子22、24のペア)の出力(ΔVx1とΔVx2、またはΔVy1とΔVy2)に基づき、モーメントを検出してもよい。この場合、4つのセンサ素子の出力に基づいて検出する場合と比較するとやや感度が劣るものの、回転対称の位置に配置されたセンサ素子を用いているため、高い感度でモーメントを検出することが可能である。
【0057】
また、3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzはそれぞれ、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心点を基準として回転対称(2回対称)の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出されることにより、非常に高い感度で軸方向の力を検出している。なお、押圧力Fzについては、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称(4回対称)の位置に配置されている、4つのセンサ素子(押圧力検出素子31、32、33、34)の出力に基づいて検出されることにより、さらに高い感度で軸方向の力を検出することが可能である。
なお、上述のFx、Fy、Fz、Mx、My、Mzはそれぞれ、電圧出力VFx、VFy、VFz、VMx、VMy、VMzを主成分として求められる。なお、校正においては、主成分以外の電圧出力も加味されて、Fx、Fy、Fz、Mx、My、Mzの値が補正されてもよい。
【0058】
このように、各センサ素子の各梁構造の長手方向が放射状となるように、各センサ素子を所定のレイアウトにより配置し、さらに、回転対称の関係にある、複数のセンサ素子の出力を組み合わせることにより、他軸干渉の影響を最小化した上で、x軸、y軸、z軸の軸方向の力と、x軸、y軸、z軸の軸まわりのモーメントを、高い感度で検出することができる、多軸触覚センサを提供することができる。
【0059】
すなわち、
図12に示される本実施形態の多軸触覚センサ1は、x軸、y軸、z軸といった3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzと、3つの軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzを検出することが可能である。そして、センサ基板2の表面には、少なくとも4つのせん断力検出素子21、22、23、24と、少なくとも4つの押圧力検出素子31、32、33、34と、を含む、少なくとも8つのセンサ素子が設けられ、8つのセンサ素子の梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるようにセンサ基板2上に配置されている。さらに、3つの軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzのうち、少なくとも2つの軸の軸まわりのモーメントMx、Myは、複数のセンサ素子のうち、前述の放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、4つの押圧力検出素子31、32、33、34の出力に基づいて検出される。また、3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzはそれぞれ、複数のセンサ素子のうち、前述の放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出される。
なお、上述のように、モーメントMzも、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、4つのせん断力検出素子21、22、23、24の出力に基づいて検出される態様とし、非常に高い感度でモーメントを検出してもよい。
なお、上述のように、押圧力Fzについては、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、4つの押圧力検出素子31、32、33、34の出力に基づいて検出される態様とし、非常に高い感度で軸方向の力を検出してもよい。
これにより、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、3つの軸まわりのモーメントを検出することが可能な多軸触覚センサを提供することができる。
【0060】
<第1の変形例>
図13は、センサ素子の別の配置例を示す第1の変形例である。なお、電極のパターンについては図示を省略している。
この例では、センサ基板2に、複数のセンサ素子として、3つのせん断力検出素子21、22、24と、3つの押圧力検出素子31、35、34とが形成されている。
そして、これらの6つのセンサ素子は、それぞれのセンサ素子の梁構造の長手方向が、放射状となるようにセンサ基板2に配置されている。
【0061】
そして、
図13に示されるように、せん断力検出素子21、22、24は、
図12のせん断力検出素子21、22、24と同じ位置に配置されている。付言すると、少なくとも2つのせん断力検出素子22、24は、回転対称の関係で配置されている。つまり、センサ基板2の略中心位置を基準軸として2回対称、すなわち、基準軸の周りを180°回転させると自らと重なるような態様で、せん断力検出素子20が配置されている。
そして、3つの押圧力検出素子のうち、2つの押圧力検出素子31、34は、
図12の押圧力検出素子31、34と同じ位置に配置されている。そして、押圧力検出素子35は、
図12の例において、せん断力検出素子23が配置されていた位置に設けられている。
【0062】
このような構成を採用することにより、x軸、y軸、z軸の軸方向の力Fx、Fy、Fzと、x軸、y軸、z軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzを検出することができる。
具体的には、せん断力検出素子21の出力に基づきx軸方向の力Fxを、せん断力検出素子22と24の出力に基づきy軸方向の力Fyを、押圧力検出素子31、35、34の出力に基づきz軸方向の力Fzを、押圧力検出素子31、35、34の出力に基づきx軸まわりのモーメントMxを、押圧力検出素子31、34の出力に基づきy軸まわりのモーメントMyを、せん断力検出素子22、24の出力に基づきz軸まわりのモーメントMzを、検出することができる。
【0063】
なお、各センサ素子に対応するブリッジ回路からの電圧変化量ΔVを検出する点、電圧変化量ΔVの組み合わせにより電圧出力VF、VMを求める点、電圧出力VF、VMに基づき、軸方向の力Fおよび軸まわりのモーメントMを求める点については、前述の方法と同様であるため、省略する。なお、x軸まわりのモーメントを求めるための電圧出力VMxについては、押圧力検出素子31、35、34の抵抗値をそれぞれ検出し、押圧力検出素子31および34の出力の平均値と、押圧力検出素子35の出力との組み合わせに基づいて検出してもよい。すなわち、x軸まわりのモーメントMxは、3つの押圧力検出素子31、35、34の配置位置と出力に基づいて検出されてもよい。
【0064】
以上のように、第1の変形例によれば、多軸触覚センサ1は、x軸、y軸、z軸といった3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzと、3つの軸まわりのモーメントMx、My、Mzを検出することが可能である。そして、センサ基板2の表面には、少なくとも3つのせん断力検出素子21、22、24と、少なくとも3つの押圧力検出素子31、35、34と、を含む、少なくとも6つのセンサ素子が設けられ、6つのセンサ素子の梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるようにセンサ基板2上に配置されている。さらに、3つの軸のうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントMzは、複数のセンサ素子のうち、前述の放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つのセンサ素子22、24の出力に基づいて検出される。
これにより、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、3つの軸まわりのモーメントを検出することが可能な多軸触覚センサを提供することができる。このとき、回転対称の位置に配置されているセンサ素子の出力により検出される、y軸方向の力Fyと、z軸まわりのモーメントMzに対する検出感度は特に高い。
【0065】
なお、本変形例における3つの押圧力検出素子31、35、34は、放射状の配置の中心位置と、押圧力検出素子35の位置とを基準にして、回転対称の関係で配置してもよい。例えば、センサ基板2の略中心位置を基準軸として3回対称、すなわち、基準軸の周りを120°回転させると自らと重なるような態様で、押圧力検出素子31、35、34を配置してもよい。具体的には、放射状の配置の中心位置と、押圧力検出素子35の位置とを基準として(押圧力検出素子35の位置は
図13に示される位置のままとして)、押圧力検出素子35が配置されている位置から反時計回り120°の位置に押圧力検出素子31を配置し、押圧力検出素子35が配置されている位置から時計回り120°の位置に押圧力検出素子34を配置する。
この場合は、z軸方向の力Fzが、前述の放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、3つの押圧力検出素子31、35、34の出力に基づいて検出される。また、x軸まわりのモーメントMxが、前述の放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、3つの押圧力検出素子31、35、34の配置位置と出力に基づいて検出される。このように、3つの押圧力検出素子31、35、34が3回対称の位置に配置され、放射状の配置の中心位置に対してバランスが良く配置されることにより、高い感度で、z軸方向の力Fzや、x軸まわりのモーメントMxを得ることができる。
【0066】
<第2の変形例>
図14は、複数のセンサ素子の配置に関する第2の変形例である。
この変形例においては、
図13に示される第1の変形例と比較すると、押圧力検出素子31、34が配置されていない。
このような構成であっても、x軸、y軸、z軸の軸方向の力Fx、Fy、Fzと、z軸まわりのモーメントMzを検出することができる。
具体的には、せん断力検出素子21の出力に基づきx軸方向の力Fxを、せん断力検出素子22、24の出力に基づきy軸方向の力Fyを、押圧力検出素子35の出力に基づきz軸方向の力Fzを、せん断力検出素子22、24の出力に基づきz軸まわりのモーメントMzを検出することができる。
【0067】
以上のように、第2の変形例によれば、多軸触覚センサ1は、x軸、y軸、z軸といった3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzと、3つの軸のうち1つの軸まわりのモーメントMzを検出することが可能である。そして、センサ基板2の表面には、3つのせん断力検出素子21、22、24と、1つの押圧力検出素子35と、を含む、4つのセンサ素子が設けられ、4つのセンサ素子の梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるようにセンサ基板2上に配置されている。さらに、3つの軸のうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントMzは、複数のセンサ素子のうち、前述の放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つのセンサ素子22、24の出力に基づいて検出される。
これにより、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、1つの軸まわりのモーメントを検出することが可能な多軸触覚センサを提供することができる。このとき、回転対称の位置に配置されているセンサ素子の出力により検出される、y軸方向の力Fyと、z軸まわりのモーメントMzに対する検出感度は特に高い。
【0068】
<第3の変形例>
図15は、複数のセンサ素子の配置に関する第3の変形例である。
この変形例においては、
図12に示される実施形態と比較すると、せん断力検出素子21、22、23、24、押圧力検出素子31、32、33、34が、全て反時計回りに45°回転した位置に配置されている。
この場合においても、センサ基板2の方向と、x軸、y軸方向の関係は変化するものの、基本的には
図12に示される実施形態と同様の手法により、3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzと、3つの軸まわりのモーメントMx、My、Mz求めることができる。
【0069】
なお、弾性体4は、前述の放射状の配置の中心位置に対応する表面の部分が凸となるように膨らんでいてもよい。すなわち、伝達材としての弾性体4の表面は膨らみを有し、この膨らみの最も高い位置と、前述の放射状の配置の中心位置とは、多軸触覚センサ1の上面視において、略一致していてもよい。
これにより、弾性体4が対象と接触する初期の段階において、まずは弾性体4の凸の部分が接触しやすくなり、せん断方向の力については、放射状に配置された梁構造の延びる方向と平行な方向の力のみが生じる状況となる。これにより、例えば押圧力のみがかかっているときにおいて、せん断力検出素子から出力される電圧変化量は極めて小さくなる。よって、ハードウェアとして、他軸干渉を極力生じさせない構成とすることができる。
なお、本実施形態の梁構造においては、第1の梁41と第2の梁51の互いに対向する表面、すなわち内側面に、第1および第2の抵抗層43、53が形成されているが、第1の梁41と第2の梁51の外側面(互いの梁から遠い表面)に、第1および第2の抵抗層を形成してもよい。
また、梁構造として、
図16に示されるような、第1の梁141の端部領域に第1の抵抗層143を有する第1の検出部142を設け、第2の梁151の端部領域に第2の抵抗層153を有する第2の検出部152を設けた、一対の梁構造を採用してもよい。この場合においても、
図16に示されるように、第1の梁141と第2の梁151の互いに対向する表面、すなわち内側面に、第1および第2の抵抗層143、153を形成してもよいし、第1の梁141と第2の梁151の外側面(互いの梁から遠い表面)に、第1および第2の抵抗層を形成してもよい。
また、梁構造として、
図17に示されるような、1つの梁241を備え、その検出部242の両側面に抵抗層243、244を備える梁構造を採用しても良い。
さらに、梁構造として、片持ち梁による梁構造や、3本の梁による梁構造を採用してもよい。
【0070】
また、軸方向の力および軸まわりのモーメントを検出する上で、各センサ素子の出力として、ブリッジ回路を用いた出力ではなく、第1の抵抗層および第2の抵抗層の各抵抗値に基づく値を用いてもよい。
なお、本実施形態に示されるセンサ素子に加えて、追加のセンサ素子を配置することも可能である。
【0071】
本実施形態の多軸触覚センサ1によれば、以下の効果を奏する。
(1)本実施形態に係る多軸触覚センサ1は、3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzと、3つの軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサ1であって、センサ基板2と、センサ基板2の表面と略同一の面内に設けられた複数のセンサ素子と、複数のセンサ素子の周囲を覆い、複数のセンサ素子に外力を伝達する伝達材としての弾性体4と、を備え、複数のセンサ素子は、センサ基板2の表面に対して平行方向の力を検出するように、所定部位に第1の抵抗層43、第2の抵抗層53を備えた梁構造を有する、少なくとも3つのせん断力検出素子20と、センサ基板2の表面に対して垂直方向の力を検出するように、所定部位に第3の抵抗層63、第4の抵抗層73を備えた梁構造を有する、少なくとも1つの押圧力検出素子30と、を含む、少なくとも4つのセンサ素子を含み、4つのセンサ素子の梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるようにセンサ基板2に配置されており、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントは、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出される。
これにより、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、少なくとも1つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサを提供することができる。
【0072】
(2)本実施計形態の多軸触覚センサ1は、3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzと、3つの軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzを検出するための多軸触覚センサであって、複数のセンサ素子は、少なくとも3つのせん断力検出素子20と、少なくとも3つの押圧力検出素子30と、を含む、少なくとも6つのセンサ素子を含み、6つのセンサ素子の梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるようにセンサ基板2に配置されており、3つの軸の軸まわりのモーメントのうち、少なくとも1つの軸の軸まわりのモーメントは、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出される。
これにより、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、少なくとも3つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサを提供することができる。
【0073】
(3)本実施形態の多軸触覚センサ1において、3つの押圧力検出素子31、35、34が、放射状の配置における中心を基準として3回対称の位置に配置されており、x軸の軸まわりのモーメントは、3回対称の位置に配置されている3つの押圧力検出素子31、35、34の出力に基づいて検出される。
これにより、小型で、かつ検出感度が高い、3つの軸方向の力と、少なくとも3つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサを提供することができる。
【0074】
(4)本実施形態の多軸触覚センサ1は、3つの軸方向の力Fx、Fy、Fzと、3つの軸の軸まわりのモーメントMx、My、Mzを検出するための多軸触覚センサであって、複数のセンサ素子は、少なくとも4つのせん断力検出素子21、22、23、24と、少なくとも4つの押圧力検出素子31、32、33、34と、を含む、少なくとも8つのセンサ素子を含み、8つのセンサ素子の梁構造はそれぞれ、その長手方向が放射状となるようにセンサ基板2に配置されており、3つの軸の軸まわりのモーメントのうち、少なくとも2つの軸の軸まわりのモーメントは、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として回転対称の位置に配置されている、4つ以上の押圧力検出素子31、32、33、34の出力に基づいて検出され、3つの軸方向の力はそれぞれ、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心点を基準として回転対称の位置に配置されている、2つ以上のセンサ素子の出力に基づいて検出される。
これにより、小型で、かつ極めて検出感度が高い、3つの軸方向の力と、少なくとも3つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサを提供することができる。
【0075】
(5)本実施形態の多軸触覚センサ1は、3つの軸の軸まわりのモーメントはそれぞれ、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心を基準として4回対称の位置に配置されている、4つのセンサ素子の出力に基づいて検出され、3つの軸方向の力のうち、少なくとも1つの軸方向の力は、複数のセンサ素子のうち、放射状の配置における中心点を基準として4回対称の位置に配置されている、4つの押圧力検出素子の出力に基づいて検出される。
これにより、(4)よりもさらに検出感度が高い、3つの軸方向の力と、少なくとも3つの軸まわりのモーメントを検出するための多軸触覚センサを提供することができる。
【0076】
(6)本実施形態の多軸触覚センサ1における、複数のセンサ素子の梁構造はそれぞれ、両端がセンサ基板2に支持された、互いに平行で、かつセンサ基板2に対して平行に配置された、2本の梁から構成されており、2本の梁は、外力によって伸張または圧縮変形する表面に第1の抵抗層が形成された第1の検出部を有する第1の梁と、外力によって第1の検出部とは逆に圧縮または伸張変形する表面に第2の抵抗層が形成された第2の検出部を有する第2の梁と、により構成されている。
これにより、温度変化による抵抗値の変動や多軸との干渉を、効果的にキャンセルすることが可能となる。
【0077】
なお、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の目的を達成できる範囲で変形、改良などを行っても、本発明の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0078】
1…多軸触覚センサ
2…センサ基板
4…弾性体
15…電極部
20(21、22、23、24)…せん断力検出素子
30(31、32、33、34、35)…押圧力検出素子
41…第1の梁
42…第1の検出部
43…第1の抵抗層
51…第2の梁
52…第2の検出部
53…第2の抵抗層
61…第3の梁
62…第3の検出部
63…第3の抵抗層
71…第4の梁
72…第4の検出部
73…第4の抵抗層