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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】ゲル膜の製造方法およびゲル膜
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20231205BHJP
   C08L 5/08 20060101ALI20231205BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08J5/18 CEP
C08L5/08
C08L1/26
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019037886
(22)【出願日】2019-03-01
(65)【公開番号】P2020139118
(43)【公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001421
【氏名又は名称】キユーピー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】原田 怜
(72)【発明者】
【氏名】野澤 麻衣
(72)【発明者】
【氏名】日枝 亮
(72)【発明者】
【氏名】馬塲 琢磨
(72)【発明者】
【氏名】森田 麻
(72)【発明者】
【氏名】中前 諒太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 英人
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-110952(JP,A)
【文献】特開2016-047896(JP,A)
【文献】特許第3399526(JP,B2)
【文献】特開2003-147222(JP,A)
【文献】特開平09-000547(JP,A)
【文献】特表2001-520291(JP,A)
【文献】特開2007-277579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
A61K 9/00-9/72
A61K 47/00-47/69
A61K 8/00-8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K 31/33-33/44
C08B 1/00-37/18
B29C 41/00-41/36
B29C 41/46-41/52
C08G 81/00-85/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子ゲルを含むゲル膜を製膜する製膜工程と、
熱板を用いて前記ゲル膜を熱プレスする加熱工程と、
を有し、
前記加熱工程では、複数の前記ゲル膜と複数の離型シートとが交互に積層された積層体を一括して熱プレスする、ゲル膜の製造方法であって、
前記高分子ゲルが、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとを含むゲル、または、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとの共重合体であるゲルであり、
前記加熱工程での加熱温度が、100℃以上、200℃未満の範囲内である、ゲル膜の製造方法
【請求項2】
前記ゲル膜が単層である、請求項1に記載のゲル膜の製造方法。
【請求項3】
前記熱板が平板である、請求項1または請求項2に記載のゲル膜の製造方法。
【請求項4】
前記製膜工程は、
前記高分子ゲルおよび分散媒を含む高分子ゲル分散液を用いて、基材の一方の面に、高分子ゲル分散液膜を形成する高分子ゲル分散液膜形成工程と、
前記高分子ゲル分散液膜を乾燥させることにより、前記分散媒を除去し、ゲル膜を得る乾燥工程と、を有し、
前記製膜工程および前記加熱工程の間に、前記ゲル膜を前記基材から剥離する剥離工程を有する、請求項1から請求項3までのいずれかに記載のゲル膜の製造方法。
【請求項5】
前記ゲル膜が、生体適合性を有するゲル膜である、請求項1から請求項4までのいずれかに記載のゲル膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ゲル膜の製造方法、およびそれにより製造されるゲル膜に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、各種の高分子ゲルを用いた材料が開発されており、例えば、医療品、化粧品、食品等に応用されている。高分子ゲルは、例えばフィルム状またはシート状等の膜状の形態で使用されている。
【0003】
高分子ゲルに用いられる高分子材料としては、例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸、キトサン、セルロース、化学修飾セルロース、及びこれらの塩等の天然多糖類、コラーゲン、フィブロイン等のタンパク質、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニル化合物、ポリビニリデン化合物、ポリスチレン化合物、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン等が知られている。
【0004】
膜状の高分子ゲルの形成方法としては、例えば、高分子ゲルを平らな容器に注ぎ、常温で乾燥する方法や、少なくとも一方が多孔質である2つの部材の間に高分子ゲルを配置して、圧縮および脱水する方法や、高分子ゲルを凍結乾燥する方法や、高分子ゲルを凍結乾燥した後、圧縮する方法等が提案されている(例えば、特許文献1、2参照)。一般的には、高分子ゲルを平らな容器に注ぎ、常温で乾燥する方法が知られている。
【0005】
また、膜状の高分子ゲルを加熱処理することにより、強度が増すことが報告されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第3399526号公報
【文献】特開平8-208706号公報
【文献】特開2017-113938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、強度を増すために、膜状の高分子ゲルを加熱処理すると、シワ、うねり、カール等の変形が生じるため、ゲル膜の取り扱い性に劣ったり、ゲル膜の適用対象との密着性に劣ったりする場合がある。
【0008】
また、膜状の高分子ゲルの強度を増す他の方法としては、例えば、膜状に形成する前に高分子ゲルの分子間または分子内の架橋反応を予め促進する方法が考えられる。しかしながら、膜状に形成する前の段階で上記架橋反応が過度に促進されると、高分子ゲル内に存在する架橋可能な部位が減少するため、膜状に形成した段階で膜内に存在する高分子ゲル同士の架橋が起こりにくくなる。その結果、得られるゲル膜の強度は十分であっても、ゲル膜の柔軟性が損なわれ、使用時の取り扱い性に劣るものとなる。
【0009】
したがって、高分子ゲルを膜状に形成する段階でゲル膜の強度を調整できる状態であることが重要である。
【0010】
本開示は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、ゲル膜の製膜後に強度を向上させることができ、かつ、平滑性に優れるゲル膜を製造することができる、ゲル膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために、本開示は、高分子ゲルを含むゲル膜を製膜する製膜工程と、熱板を用いて上記ゲル膜を熱プレスする加熱工程と、を有する、ゲル膜の製造方法を提供する。
【0012】
また、本開示は、高分子ゲルを含むゲル膜であって、上記高分子ゲルが、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとを含むゲル、または、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとの共重合体であるゲルであり、上記ゲル膜は、第1の面と第2の面とを有し、上記第1の面の算術平均粗さ(Ra1)は上記第2の面の算術平均粗さ(Ra2)よりも小さく、上記第1の面の算術平均粗さ(Ra1)が10nm以上、1000nm以下の範囲内であり、上記第1の面の算術平均粗さ(Ra1)を上記第2の面の算術平均粗さ(Ra2)で除した値Ra1/Ra2が、0.05以上、1.0以下の範囲内である、ゲル膜を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、製膜後に強度を向上させることができ、かつ、平滑性に優れるゲル膜を製造することができる、ゲル膜の製造方法を提供することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本開示のゲル膜の製造方法の一例を示す工程図である。
図2】本開示のゲル膜の製造方法の他の例を示す工程図である。
図3】本開示のゲル膜の製造方法における製膜工程の一例を示す工程図である。
図4】本開示のゲル膜の製造方法における加熱工程の一例を示す模式図である。
図5】実施例2-10~2-11のゲル膜の写真である。
図6】比較例3~6のゲル膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示のゲル膜の製造方法、およびそれにより製造されるゲル膜について詳細に説明する。
【0016】
本明細書において、「ゲル膜」とは、高分子ゲルを薄膜状に成形したものをいう。ゲル膜は、乾燥したものでもよく、含水したものでもよい。なお、ゲル膜は、一般に「シート」、「フィルム」等と呼ばれるものも包含する。
【0017】
A.ゲル膜の製造方法
本開示のゲル膜の製造方法は、高分子ゲルを含むゲル膜を製膜する製膜工程と、熱板を用いて上記ゲル膜を熱プレスする加熱工程と、を有する製造方法である。
【0018】
以下、本開示のゲル膜の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0019】
図1(a)~(e)は、本開示のゲル膜の製造方法の一例を示す工程図である。まず、図1(a)に示すように、基材1の一方の面に、高分子ゲルおよび分散媒を含む高分子ゲル分散液膜2aを形成する。次いで、図1(b)に示すように、高分子ゲル分散液膜2aを乾燥させることにより高分子ゲル分散液に含まれる分散媒を除去し、乾燥後のゲル膜2bを得る。続いて、図1(c)に示すように、乾燥後のゲル膜2bを基材1から剥離する。次に、図1(d)に示すように、一対の熱板11の間に乾燥後のゲル膜2bを挟んで熱プレスする。このようにして、図1(e)に示すように、熱プレス後のゲル膜2cを得ることができる。
【0020】
本開示においては、ゲル膜を製膜した後、熱板を用いてゲル膜を熱プレスする加熱工程を行うことにより、ゲル膜の強度を向上させることができる。ゲル膜の強度は、熱プレス時の加熱温度や加熱時間によって調整可能である。したがって、本開示のゲル膜の製造方法により製造されるゲル膜は、用途に合わせてゲル膜の強度を調整可能であることから、種々の用途に応用することが可能である。ゲル膜が生体適合性を有するゲル膜である場合には、例えば、医療材料、化粧料、美容材料等に用いられる場合があり、求められる用途に適した強度を有することが望ましい。例えば、生体適合性を有するゲル膜を医療材料として癒着防止材に用いる場合、充分な強度を有さないゲル膜では、医師による手技の際に破損してしまう可能性や、臓器への貼付後に破損してしまう場合がある。
【0021】
また、本開示においては、加熱工程において、熱板による熱プレスを行うことにより、ゲル膜にシワ、うねり、カール等の変形が残存することを抑制することができる。すなわち、ゲル膜に巨視的な凹凸が残存するのを抑制することができる。そのため、平滑性に優れるゲル膜を得ることができる。したがって、取り扱い性が良く、例えば生体適合性を有するゲル膜を得る場合は、生体等の適用対象との密着性が良好なゲル膜を得ることができる。これにより、ゲル膜を使用する際には、ゲル膜の性能を十分に発揮させることが可能となる。
【0022】
なお、ゲル膜を製膜する製膜工程において、高分子ゲル分散液膜の形成時にプレスを行うことも考えられる。しかし、高分子ゲル分散液膜の形成後は、高分子ゲル分散液膜に含まれる分散媒を除去するために乾燥を行うのが通常であり、高分子ゲル分散液膜を乾燥すると、乾燥の進行に伴う高分子ゲル分散液膜の収縮によってシワが発生する、あるいはゲル膜の端部が折れ曲がってしまう等の変形がゲル膜に残存してしまう。そのため、高分子ゲル分散液膜の形成時にプレスを行う場合であっても、平滑性に優れるゲル膜を得ることは困難である。
また、ゲル膜を熱プレスする方法としては、熱板による熱プレスの他に、例えば、熱ロールによる方法が考えられる。しかし、熱ロールによる方法では、円筒形の熱ロールの円周面でゲル膜が加熱されるため、ゲル膜にカール等の変形が残存しやすく、また、熱ロールによる加熱中にゲル膜にシワが生じてしまい、加熱後も残存してしまう場合がある。そのため、熱ロールによる方法では、平滑性に優れるゲル膜を得ることは困難である。また、熱ロールでゲル膜を加熱する場合、充分なゲル膜の強度を得るためには、処理速度を下げる、あるいは熱ロールの本数を増やす等の必要が生じる可能性があり、製造上のデメリットとなる場合がある。
【0023】
なお、図1に示す例は、枚葉方式の製造方法の例であるが、本開示のゲル膜の製造方法は、ロールツーシート方式の製造方法とすることができる。
【0024】
図2(a)~(c)は、本開示のゲル膜の製造方法の他の例を示す工程図であり、ロールツーシート方式の製造方法の例である。図2(a)においては、巻出ロール21から基材1を巻出し、バックアップロール23で支持された基材1の面に、ダイ22から高分子ゲル分散液を流延し、高分子ゲル分散液膜2aを得る。次いで、高分子ゲル分散液膜2aが形成された基材1は、ガイドロール31により搬送され、乾燥手段24にて高分子ゲル分散液膜2aを乾燥させることにより高分子ゲル分散液に含まれる分散媒を除去し、乾燥後のゲル膜2bを得る。次いで、乾燥後のゲル膜2bが形成された基材1は、セパレータ32にて基材1およびゲル膜2bに分離されたのち、基材1および乾燥後のゲル膜2bの搬送方向が変えられ、基材1は基材用巻取ロール25に巻取られ、乾燥後のゲル膜2bはガイドロール33により搬送されることで、基材1から乾燥後のゲル膜2bが剥離される。次いで、乾燥後のゲル膜2bは断裁手段26にて断裁される。その後、図2(b)に示すように、断裁された乾燥後のゲル膜2bを熱プレスする。この際、乾燥後のゲル膜2bを一枚ずつ熱プレスしてもよく、複数重ねて一括して熱プレスしてもよい。乾燥後のゲル膜2bを複数枚重ねる場合は、複数の乾燥後のゲル膜2bと複数の離型シート12とを交互に積層し、この積層体を一対の熱板11の間に挟んで一括して熱プレスする。このようにして、図2(c)に示すように、熱プレス後のゲル膜2cを得ることができる。
【0025】
本開示においては、枚葉方式およびロールツーシート方式のいずれであっても、平滑性に優れるゲル膜を製造することが可能である。
【0026】
以下、本開示のゲル膜の製造方法の各工程について説明する。
【0027】
1.製膜工程
本開示においては、まず、高分子ゲルを含むゲル膜を製膜する製膜工程を行う。
【0028】
(1)高分子ゲル
高分子ゲルとしては、特に限定されるものではなく、公知の高分子ゲルを用いることができる。高分子ゲルは、生体適合性を有する高分子ゲルであってもよい。
ここで、「生体適合性」とは、生物学的機能に関して、医学上許容されない毒性または有害効果を有しない性質をいう。
【0029】
また、生体適合性を有する高分子ゲルは、生体吸収性を有することが好ましい。生体吸収性が望まれる用途にも、本開示の製造方法により製造されたゲル膜を応用することができる。
ここで、「生体吸収性」とは、生体内で分解され、排泄または代謝される性質をいう。
【0030】
また、高分子ゲルは、化学ゲルおよび物理ゲルのいずれであってもよい。中でも、高分子ゲルは、化学ゲルであることが好ましい。得られるゲル膜の強度および安定性を向上させることができるからである。
【0031】
化学ゲルの場合、架橋方法としては、公知の架橋方法を適用することができる。例えば、加熱、電子線照射、ガンマ線照射、紫外線照射等が挙げられる。また、反応を進めやすくするために、架橋剤(縮合剤とも称される)を用いたり、重合性官能基を導入したりしてもよい。高分子ゲルは、いずれの方法で架橋されたものであってもよい。
【0032】
高分子ゲルは、中でも、ポリアニオン性多糖類およびその塩、ならびにそれらの誘導体からなる群から選択される少なくとも1つを含むことが好ましい。ポリアニオン性多糖類は、高い生体適合性、ゲル膨潤性、粘弾性等を示すことが知られており、例えば医療品、食品、化粧品等の原料として広く用いられている。
【0033】
なお、以下、「ポリアニオン性多糖類およびその塩、ならびにそれらの誘導体」を「ポリアニオン性多糖類等」と略称する場合がある。
【0034】
ポリアニオン性多糖類としては、例えば、ヒアルロン酸、アルギン酸、ペクチン、ポリガラクチュロン酸等の天然多糖類、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、カルボキシメチルプルラン、カルボキシメチルキチン、カルボキシメチルキトサン、カルボキシメチルマンナン等のカルボキシアルキル多糖類、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパリン硫酸、ヘパラン硫酸等の硫酸基を有する多糖類等が挙げられる。
【0035】
ポリアニオン性多糖類の塩としては、上述したポリアニオン性多糖類の塩を挙げることができ、例えば、ナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩、あるいはカルシウム塩やマグネシウム塩等のアルカリ土類金属塩等が挙げられる。
【0036】
ポリアニオン性多糖類の誘導体は、化学的に修飾されたポリアニオン性多糖類およびその塩である。ポリアニオン性多糖類の誘導体としては、上述したポリアニオン性多糖類およびその塩の誘導体を挙げることができ、例えば、官能基が導入されたポリアニオン性多糖類およびその塩が挙げられる。
【0037】
ポリアニオン性多糖類等は、1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0038】
中でも、ポリアニオン性多糖類等は、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルアミロース、ヒアルロン酸、およびそれらの塩、ならびにそれらの誘導体からなる群から選択される1種以上であることが好ましい。また、ポリアニオン性多糖類等は、ヒアルロン酸またはその塩あるいはそれらの誘導体と、カルボキシメチルセルロースまたはその塩あるいはそれらの誘導体とである、あるいは、ヒアルロン酸またはその塩あるいはそれらの誘導体と、ヘパリンまたはその塩あるいはそれらの誘導体とであることが好ましい。
【0039】
特に、ポリアニオン性多糖類等は、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとであることが好ましい。すなわち、高分子ゲルは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとを含むゲル、または、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとの共重合体であるゲルであることが好ましい。これらのポリアニオン性多糖類等は、安全性および生体適合性が高いことから、医療品、食品、化粧品等の様々な用途に利用されており、例えば医療分野では癒着防止材等の原料に利用されている。
【0040】
また、高分子ゲルは、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとを含むゲル、または、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとの共重合体であるゲルである場合、化学ゲルであることが好ましく、架橋剤(縮合剤)を用いて架橋されたものであることがより好ましい。
【0041】
(2)ゲル膜の製膜方法
ゲル膜を製膜する方法としては、高分子ゲルを製膜することができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な高分子ゲルの製膜方法を適用することができる。例えば、流延法、型に高分子ゲルを注入して乾燥する方法、高分子ゲルを膜状に圧縮する方法、高分子ゲルを凍結乾燥する方法、高分子ゲルを凍結乾燥した後、圧縮する方法、少なくとも一方が多孔質である2つの部材の間に高分子ゲルを配置して、圧縮および脱水する方法等が挙げられる。また、基材の一方の面に、高分子ゲルおよび分散媒を含有する高分子ゲル分散液を塗布して乾燥する方法も用いることができる。
【0042】
また、製膜工程は、高分子ゲルおよび分散媒を含む高分子ゲル分散液を用いて、基材の一方の面に、高分子ゲル分散液膜を形成する高分子ゲル分散液膜形成工程と、高分子ゲル分散液膜を乾燥させることにより、高分子ゲル分散液に含まれる分散媒を除去し、ゲル膜を得る乾燥工程と、を有することができる。
以下、各工程について説明する。
【0043】
(i)高分子ゲル分散液膜形成工程
製膜工程では、まず、高分子ゲルおよび分散媒を含む高分子ゲル分散液を用いて、基材の一方の面に、高分子ゲル分散液膜を形成する高分子ゲル分散液膜形成工程を行うことができる。
【0044】
基材としては、基材の一方の面に高分子ゲル分散液膜を形成することができるとともに、乾燥工程後は基材からゲル膜を剥離することができるものであれば特に限定されるものではなく、ゲル膜の用途や、本開示のゲル膜の製造方法の工程順や方式等に応じて適宜選択することができる。
【0045】
基材の形態は、枚葉状であってもよく、長尺状であってもよい。長尺状の基材である場合、基材はロール状に巻かれたものであってもよい。例えば、本開示のゲル膜の製造方法を枚葉方式で行う場合には、枚葉状の基材が用いられる。また、本開示のゲル膜の製造方法をロールツーシート方式で行う場合には、長尺状の基材が用いられる。
【0046】
枚葉状の基材である場合、基材は、例えば、平らな型、すなわち平らな容器とすることができる。例えば図3(a)に示す基材1は、平らな容器10である。この場合、図3(b)に示すように、容器10内の端部に、高分子ゲル分散液2a′を供給し、図3(c)~(d)に示すように、展開手段15によって、容器10内の底部10aの面に高分子ゲル分散液2a′を塗り広げることにより、高分子ゲル分散液膜2aを得ることができる。この際、容器10の壁部10bによって、容器10内の底部10aの面と展開手段15との間の距離Gを一定に保つことができ、均一な厚みを有する高分子ゲル分散液膜2aを得ることができる。
【0047】
容器の深さは、目的とする高分子ゲル分散液膜の厚み等に応じて適宜調整される。
【0048】
また、基材は、可撓性を有していてもよく、有さなくてもよい。例えば、本開示のゲル膜の製造方法をロールツーシート方式で行う場合には、基材は可撓性を有することが好ましい。
【0049】
基材の材料としては、例えば、プラスチック、金属、ガラス等が挙げられる。中でも、生体適合性を有するゲル膜の製造に用いる場合は、プラスチックが好ましく、医療用プラスチックがさらに好ましい。具体的には、アクリル系樹脂、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂)、アクリロニトリルスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリサルホン、ポリエーテルエーテルケトン、環状ポリオレフィン等が挙げられる。また、医療用プラスチックとしては、市販の医療用グレードのプラスチックを用いることができる。
【0050】
また、基材は、親水性を有することが好ましい。基材が親水性を有する場合には、基材の一方の面に高分子ゲル分散液膜を良好に形成することができるからである。
【0051】
一方で、基材の親水性が高すぎると、基材からゲル膜を剥離する際に剥離しにくくなってしまうため、基材の親水性としては、例えば、基材表面の水に対する接触角が、30°以上、95°以下の範囲内であることが好ましく、中でも、30°以上、85°以下の範囲内、特に、30°以上、60°以下の範囲内であることが好ましい。上記接触角が上記範囲内であることにより、基材の一方の面に高分子ゲル分散液膜を均一に形成することができる。また、乾燥工程では、基材と高分子ゲル分散液膜との密着性を良好にすることができ、膜の剥がれ等を抑制することができる。さらに、基材からゲル膜を剥離する際には、基材からゲル膜を容易に剥離することができる。
【0052】
ここで、水に対する接触角は、協和界面科学(株)製の接触角測定器Drop Master-700を用い、22Gのステンレスニードルを用いて1.5mLの純水の液滴を作製し、基材表面に液滴を接触させてから1000ミリ秒後の水に対する接触角を測定する。
【0053】
また、基材は、表面の水に対する接触角を調整するために、表面処理が施されていてもよい。すなわち、基材は、表面に親水性処理面を有していてもよい。表面処理としては、プラスチックの表面の親水性を高めることができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、UVオゾン処理、エキシマUV処理、電子線照射処理、レーザー処理等が挙げられる。
【0054】
また、後述するように、ゲル膜を基材から剥離する剥離工程前に加熱工程を行う場合、基材は、耐熱性を有することが好ましい。基材の耐熱性としては、基材が、加熱工程での加熱温度に対して耐熱性を有していることが好ましい。中でも、基材の材料の荷重たわみ温度は、加熱工程での加熱温度よりも高いことが好ましく、例えば、100℃以上とすることができ、好ましくは130℃以上であり、さらに好ましくは150℃以上である。
なお、上記荷重たわみ温度の上限は、特に限定されない。
【0055】
ここで、荷重たわみ温度は、JIS-K7191に準拠することで測定が可能である。
【0056】
耐熱性を有する基材の材料としては、例えば、ポリプロピレンやポリカーボネート等が挙げられる。
【0057】
基材の厚みは、基材の形態、本開示のゲル膜の製造方法の工程順や方式等に応じて適宜選択することができる。
【0058】
高分子ゲル分散液は、高分子ゲルおよび分散媒を含む。高分子ゲル分散液は、高分子ゲルが分散媒に分散された分散液である。
【0059】
分散媒としては、高分子ゲルを分散可能な分散媒であれば特に限定されるものではなく、高分子ゲルの種類等に応じて適宜選択される。分散媒としては、例えば、水や、水と混和する分散媒が好ましく用いられる。水と混和する分散媒としては、具体的には、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール等の低級アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。これらの分散媒は、1種単独でまたは2種以上を組合せて用いることができる。
【0060】
また、高分子ゲル分散液の23℃における粘度は、例えば、3Pa・s以上、10Pa・s以下の範囲内とすることができ、中でも、4Pa・s以上、8Pa・s以下の範囲内であることが好ましい。上記粘度が上記範囲内であることにより、例えば基材の一方の面に高分子ゲル分散液を塗布する場合には、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を均一に塗布しやすくすることができ、高分子ゲル分散液膜の厚みを容易に均一にすることができる。また、後述するように高分子ゲル分散液を脱泡する場合には、気泡を抜けやすくすることができる。
【0061】
ここで、高分子ゲル分散液の粘度は、B型粘度計にて測定する。具体的には、東機産業株式会社製のTVB10Mおよびスピンドル型ローターM3を用い、回転速度6rpmにて測定する。
【0062】
高分子ゲル分散液は、架橋剤(縮合剤)、薬学上活性な物質、着色料、静菌剤、pH調整剤等を含有していてもよい。pH調整剤としては、例えば塩酸が挙げられる。
【0063】
基材の一方の面に高分子ゲル分散液膜を形成する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給し、展開する方法、基材として型を用い、型に高分子ゲル分散液を注入する方法、基材として型を用い、型に高分子ゲル分散液を注入した後、振とうする方法が挙げられる。基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給し、展開する方法や、型に高分子ゲルを注入した後、振とうする方法では、均一な厚みを有する高分子ゲル分散液膜を得ることができる。その結果、均一な厚みを有するゲル膜を得ることが可能である。
【0064】
基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給し、展開する方法の場合、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給する方法としては、所定量の高分子ゲル分散液を供給することができる方法であれば、特に限定されるものではない。基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給する方法は、枚葉方式であってもよく、連続方式であってもよい。
【0065】
また、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給する供給手段は、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開する展開手段とは別のものであってもよく、展開手段を兼ねていてもよい。
【0066】
供給手段が展開手段とは別である場合、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給する方法としては、例えば、ディスペンサを用いる方法が挙げられる。
また、供給手段が展開手段とは別である場合、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給し、展開する方法としては、例えば、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給した後、余剰の高分子ゲル分散液を掻き取る方法が挙げられる。具体的には、バーコート法、リバースコート法、コンマダイレクトコート法、ブレードコート法、ナイフコート法、アプリケータを用いる方法等を用いることができる。
【0067】
供給手段が展開手段を兼ねている場合、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給し、展開する方法としては、例えば、ダイコート法、マイクログラビア法等を用いることができる。
【0068】
基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開する際には、基材の一方の面に対して、展開手段を移動させてもよく、基材を移動させてもよく、展開手段および基材の両方を移動させてもよい。
【0069】
基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開する方法としては、展開手段または基材を、基材の一方の面に対して移動させることにより、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開することができる方法であれば、特に限定されるものではない。基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開する方法は、枚葉方式であってもよく、連続方式であってもよい。
【0070】
基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開する方法が枚葉方式である場合、通常、展開手段または基材を、基材の一方の面に対して平行な方向に移動させることにより、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開する。
【0071】
なお、基材の一方の面に対して平行な方向とは、基材の一方の面に対して、±1°以内の方向をいう。
【0072】
また、上述したように、展開手段は、供給手段とは別のものであってもよく、供給手段を兼ねていてもよい。
【0073】
展開手段が供給手段とは別である場合、展開手段としては、例えば、棒状または板状の部材を挙げることができ、具体的には、ドクターブレード等のブレード、スキージ、ワイヤーバーやワイヤレスバー等の塗工バー、アプリケータ等が挙げられる。
【0074】
また、展開手段が供給手段とは別である場合、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給し、展開する方法としては、例えば、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給した後、余剰の高分子ゲル分散液を掻き取る方法が挙げられる。この場合、展開手段は、基材の一方の面から余剰の高分子ゲル分散液を掻き取る手段とすることができる。また、この場合において、展開手段は、例えば、それ自身が回転してもよく、回転しなくてもよい。具体的な方法としては、上述した通りである。
【0075】
展開手段が供給手段を兼ねている場合、基材の一方の面に高分子ゲル分散液を供給し、展開する方法としては、上述した通りである。
【0076】
基材の一方の面に高分子ゲル分散液を展開する際には、展開手段が、基材の一方の面から一定の高さに配置されていることが好ましい。展開手段と基材との間の距離によって、高分子ゲル分散液の膜の厚みを容易に決定することができ、均一な厚みを有する高分子ゲル分散液の膜を得ることができるからである。その結果、均一な厚みを有するゲル膜を得ることができる。
【0077】
型に高分子ゲル分散液を注入した後、振とうする方法の場合、振とう方法としては、特に限定されるものではなく、公知の振とう方法を適用することができる。例えば、振とう機を用いる方法が挙げられ、水平往復式、旋回式、シーソー式、8の字運動式等の振とう方式を適用することができる。
【0078】
(ii)乾燥工程
製膜工程においては、上記高分子ゲル分散液膜形成工程後に、高分子ゲル分散液膜を乾燥させることにより高分子ゲル分散液に含まれる分散媒を除去し、ゲル膜を得る乾燥工程を行うことができる。
【0079】
高分子ゲル分散液膜の乾燥方法としては、高分子ゲル分散液に含まれる分散媒を除去することができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な高分子ゲルの乾燥方法を適用することができる。例えば、常温乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥等が挙げられる。加熱乾燥や減圧乾燥の場合、乾燥時間を短縮することができ、製造効率を向上させることができる。また、乾燥方法は、枚葉方式であってもよく、連続方式であってもよい。
【0080】
中でも、乾燥条件は、ゲル膜にシワ等の変形や割れが生じないような条件とすることが好ましい。歩留りを良くすることができるからである。
【0081】
例えば、乾燥温度は、基材が耐熱性を有する温度であることが好ましい。具体的には、乾燥温度は、基材の材料の荷重たわみ温度よりも低いことが好ましい。
【0082】
中でも、乾燥温度は、常温であることが好ましい。乾燥温度が高いと、乾燥が急激に進行した結果、高分子ゲル分散液膜の収縮応力によってゲル膜にシワ等の変形や割れが生じてしまうおそれがあるからである。なお、常温とは、23℃±5℃をいう。特に、乾燥温度は、20℃以上、26℃以下の範囲内であることが好ましい。
【0083】
また、例えば湿度、風速等を調整することにより、乾燥進行中の高分子ゲル分散液膜にシワ等の変形や割れが生じるのを抑制することができる。
具体的には、湿度が低いと、乾燥進行中の高分子ゲル分散液膜の収縮によって、ゲル膜にシワ等の変形や割れが生じてしまうおそれがある。また、湿度が高いと、乾燥に長時間を要する場合がある。
また、風速が大きいと、ゲル膜にシワ等の変形や割れが生じてしまうおそれがある。また、風速が小さいと、乾燥に長時間を要する場合がある。
【0084】
2.剥離工程
本開示においては、上述したように、上記製膜工程が、高分子ゲル分散液膜形成工程と、乾燥工程と、を有する場合、上記製膜工程後に、上記ゲル膜を上記基材から剥離する剥離工程を行うことができる。
【0085】
ゲル膜を基材から剥離する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、物理的手法により基材を剥離する方法が挙げられる。
【0086】
3.加熱工程
本開示においては、上記製膜工程後、熱板を用いて上記ゲル膜を熱プレスする加熱工程を行う。加熱工程を行うことにより、ゲル膜の強度を高めることができる。
なお、ここで言う熱プレスとは、加熱雰囲気下でゲル膜全体に圧力を付与することを指し、加熱源と圧力源が同一であっても良く、別であっても良い。加熱源と圧力源が同一である例としては、熱板が挙げられる。
【0087】
熱板は、平板である。熱板が平板であることにより、巨視的な凹凸の少ない、平滑性に優れるゲル膜を得ることができる。
【0088】
熱板による熱プレスでは、ゲル膜は熱板に直に接しないように配置されていることが好ましい。すなわち、ゲル膜と熱板との間に離型シートや緩衝シート等が配置されていることが好ましい。
一般に、熱板による熱プレスでは、例えば図4に示すように、対象物に均一に熱および圧力を加えるため、さらには対象物を保護し、熱板から対象物を容易に剥離することができるように、対象物(ここでは、乾燥後のゲル膜2b)と熱板11との間に緩衝シート13、ステンレス板14および離型シート12が配置される。図4に示す例においては、乾燥後のゲル膜2b同士の密着を防ぐために、乾燥後のゲル膜2bの間にも離型シート12が配置されている。
離型シートおよび緩衝シート等としては、熱プレスに一般的に用いられるものを使用することができる。離型シートおよび緩衝シート等の材料としては、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等のゴム、紙等が挙げられる。
【0089】
ゲル膜を熱プレスする際には、ゲル膜を一枚ずつ熱プレスしてもよく、複数のゲル膜を積層して一括して熱プレスしてもよい。複数のゲル膜を積層して一括して熱プレスする場合には、製造効率や作業効率を向上させることができる。
【0090】
複数のゲル膜を積層して一括して熱プレスする場合には、ゲル膜同士の密着を防ぐために、各ゲル膜の間に離型シートを配置することが好ましい。すなわち、複数のゲル膜と複数の離型シートとが交互に積層された積層体を一括して熱プレスすることが好ましい。
離型シートの材料としては、上述したように、例えば、シリコーンゴムやフッ素ゴム等のゴム、紙等が挙げられる。紙としては、具体的には、無塵紙等を用いることができる。
【0091】
加熱温度としては、ゲル膜の強度を高めることができる温度であれば特に限定されるものではなく、高分子ゲルの種類、本開示のゲル膜の製造方法の工程順や方式等に応じて適宜設定することができる。
【0092】
例えば、加熱工程および剥離工程の順に行う場合、加熱温度は、基材が耐熱性を有する温度であることが好ましい。具体的には、加熱温度は、基材の材料の荷重たわみ温度よりも低いことが好ましい。
【0093】
また例えば、高分子ゲルが、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとを含むゲル、または、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとの共重合体であるゲルである場合、加熱温度は、100℃以上、200℃未満の範囲内とすることができ、中でも、120℃以上、160℃以下の範囲内であることが好ましい。加熱温度が低すぎると、ゲル膜の強度を十分に高めることができない場合がある。また、加熱温度が高すぎると、高分子ゲルが劣化するおそれがある。
【0094】
ゲル膜の熱プレス後は、冷却を行うことが好ましい。
冷却環境の温度としては、加熱後のゲル膜の温度を加熱温度以下に冷却することができればよく、特に限定されない。
また、冷却環境の相対湿度としては、40%RH以上、60%RH以下とすることが好ましい。中でも、相対湿度40%RH以上、60%RH以下の環境下に1時間以上静置することが好ましい。加熱後のゲル膜は含水率が低下しており、ゲル膜に力がかかると破損し易いからである。冷却環境の相対湿度が低すぎると、ゲル膜が充分に含水することができず、ゲル膜に力がかかると破損し易い状態のままとなってしまう場合がある。また、相対湿度が高すぎると、ゲル膜が含水し過ぎてしまうことで、ゲル膜にシワが生じたり、うねりが生じたりする場合がある。上記範囲内の相対湿度の環境下で上記時間以上静置することによって、ゲル膜の含水率が適切な範囲におさまるため、ゲル膜が容易に破損したり、ゲル膜にシワが生じたりするのを抑制することができる。
【0095】
剥離工程および加熱工程は順不同に行うことができる。剥離工程および加熱工程の順序は、本開示のゲル膜の製造方法の方式や、基材の種類および耐熱性等に応じて適宜決定することができる。
【0096】
剥離工程および加熱工程の順に行う場合には、例えば、加熱工程にて、複数のゲル膜を積層して一括して熱プレスすることができ、製造効率を高めることができる。
また、例えば基材の耐熱性が比較的低い場合には、剥離工程および加熱工程の順に行うことが好ましい。基材の耐熱性が比較的低い場合であっても、加熱工程では、既に基材が剥離されていることから、基材の耐熱性に関係なく、加熱温度を設定することができる。
また、例えば製膜工程が枚葉方式であり、基材として平らな容器を用いる場合には、剥離工程および加熱工程の順に行うことが好ましい。容器内にゲル膜が製膜されている場合、ゲル膜の熱プレスが困難になるからである。
【0097】
一方、加熱工程および剥離工程の順に行う場合には、加熱工程にて、ゲル膜が基材に支持された状態、すなわちゲル膜が基材に密着した状態で、ゲル膜を熱プレスすることができる。基材に密着した状態のゲル膜を複数枚一括して熱プレスする場合には、基材が離型シートとして機能するため、必ずしも離型シートを必要とはせず、加熱によるゲル膜の変形を抑制することができる。
また、例えば製膜工程が連続方式である場合において、加熱工程および剥離工程の順に行う場合には、加熱工程にて、基材にテンションをかけたまま熱プレスを行うことができ、ゲル膜に直接テンションをかける必要が無い。そのため、ゲル膜に直接テンションをかけたことに起因するシワ等の変形がゲル膜に残存してしまったり、割れが発生してしまったりするのを抑制することができる。
【0098】
4.脱泡工程
本開示においては、上記製膜工程前に、高分子ゲル分散液を脱泡する脱泡工程を行ってもよい。巨視的に気泡の少ないゲル膜を得ることができるからである。その結果、気泡による凹凸の少ない、平滑性に優れるゲル膜を得ることができる。
【0099】
高分子ゲル分散液を脱泡する方法としては、高分子ゲル分散液中の気泡を除去することができる方法であれば特に限定されるものではなく、例えば、真空脱泡等を用いることができる。また、予め高分子ゲル分散液に消泡剤を添加する方法等を用いることもできる。
【0100】
5.他の工程
本開示のゲル膜の製造方法は、上記の工程の他に、他の工程を有していてもよい。他の工程としては、例えば、上記剥離工程後に、上記ゲル膜を断裁する断裁工程や、上記剥離工程および加熱工程後、または断裁工程を行う場合には断裁工程後に、上記ゲル膜を梱包する梱包工程や、梱包工程後に、上記ゲル膜を滅菌する滅菌工程等が挙げられる。特に、ゲル膜が生体適合性を有するゲル膜である場合は、滅菌工程を行うことが好ましい。
【0101】
断裁工程において、ゲル膜を断裁する方法としては、ゲル膜を所定の寸法に切り出すことができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な断裁方法を適用することができる。
ゲル膜を断裁する際には、ゲル膜に割れが生じないように、湿度を比較的高くすることが好ましい。
断裁工程は、乾燥工程後であれば、加熱工程前に行ってもよく、加熱工程後に行ってもよい。
【0102】
梱包工程において、ゲル膜を梱包する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な梱包方法を適用することができる。
【0103】
また、滅菌工程において、ゲル膜を滅菌する方法としては、特に限定されるものではなく、一般的な滅菌方法を適用することができる。例えば、ガンマ線滅菌等を用いることができる。
【0104】
6.ゲル膜
本開示のゲル膜の製造方法により製造されるゲル膜は、単層であることが好ましい。本開示においては、平滑性に優れる、単層のゲル膜を得ることができる。
【0105】
本開示のゲル膜の製造方法により製造されるゲル膜の厚みは、高分子ゲルの種類、ゲル膜の用途等に応じて、適宜設定することができる。例えば、ゲル膜の厚みは、40μm以上、80μm以下程度とすることができる。
【0106】
本開示においては、製膜工程後に加熱工程を行うことにより、ゲル膜の強度を高めることができる。ゲル膜の強度としては、例えば、ゲル膜の膨潤率や、ゲル膜の加熱分解時間を指標とすることができる。
【0107】
ゲル膜の膨潤率は、ゲル膜にガンマ線滅菌を施した段階において、例えば100%以上、130%以下の範囲内であることが好ましく、100%以上、125%以下の範囲内であることがより好ましい。膨潤率が上記範囲内であることにより、膨潤によってゲル膜が脆化するのを抑制し、取り扱い性を良くすることができる。一方、膨潤率が高すぎると、膨潤によってゲル膜が脆化し、ゲル膜が壊れやすくなるおそれがある。また、ゲル膜の膨潤率は、ゲル膜の架橋構造と相関があり、例えば架橋密度が高い場合にはゲル膜の膨潤率が低く、また架橋密度が低い場合にはゲル膜の膨潤率が高くなる。そのため、ゲル膜の膨潤率が高いと、架橋密度が低く、所望の強度が得られない場合がある。
【0108】
ここで、ゲル膜の膨潤率は、次の方法により求めることができる。まず、所定の寸法を有するゲル膜を準備する。ゲル膜の寸法は、短辺方向の長さが1cm、長辺方向の長さが5cmである短冊形状が好ましい。次に、ゲル膜を生理食塩水またはリン酸緩衝溶液(PBS)に室温にて30分間浸漬する。PBSを用いる場合は、pH7.2~7.6のPBSであればよい。その後、浸漬前および浸漬後のゲル膜の寸法の変化により、すなわち下記式により、膨潤率を求める。
膨潤率[%]=(短辺方向の寸法変動率+長辺方向の寸法変動率)/2
短辺方向の寸法変動率[%]=L2/L1×100
長辺方向の寸法変動率[%]=L4/L3×100
(L1は浸漬前のゲル膜の短辺方向の長さ、L2は浸漬後のゲル膜の短辺方向の長さ、L3は浸漬前のゲル膜の長辺方向の長さ、L4は浸漬後のゲル膜の長辺方向の長さを表す。)
なお、膨潤率が100%であるとは、浸漬前後でゲル膜の寸法の変化がないことを示す。
【0109】
また、ゲル膜の加熱分解時間は、例えば150分以上、240分以下の範囲内であることが好ましく、170分以上、220分以下の範囲内であることがより好ましい。ここで、ゲル膜の加熱分解時間は、生体内でのゲル膜の分解時間の指標となる。ゲル膜は生体内に一定期間存在し、その後は生体内で分解され、排泄または代謝される。ゲル膜の加熱分解時間が上記範囲内であることにより、生体内でのゲル膜の分解時間を所望の時間に設定することができる。また、ゲル膜の加熱分解時間は、ゲル膜の架橋構造と相関があり、例えば架橋密度が高くなると、加熱分解時間が長くなり、また架橋密度が低くなると、加熱分解時間が短くなる。そのため、ゲル膜の加熱分解時間が短いと、架橋密度が低くなり、所望の強度が得られない場合がある。
【0110】
ここで、ゲル膜の加熱分解時間は、次の方法により求めることができる。まず、ゲル膜を1cm×2cmのサイズに切り出し、試験片を準備する。次に、試験片をリン酸緩衝溶液(PBS)に浸漬し、90℃に加熱する。リン酸緩衝溶液中の試験片が、目視できなくなるまでに要した時間を加熱分解時間とする。
【0111】
また、ゲル膜の片面または両面に、保護シートを配置してもよい。ゲル膜の取扱いが容易になるからである。
【0112】
7.用途
本開示のゲル膜の製造方法により製造されるゲル膜は、所望の用途に用いることができる。ゲル膜が生体適合性を有するゲル膜である場合には、例えば、医療材料、化粧料、美容材料等に用いることができる。中でも、ゲル膜が生体適合性を有する場合、医療材料に好適である。医療材料としては、具体的には、癒着防止材、創傷被覆材、医療器具の表面被覆材、再生医療用足場材、薬物徐放剤の担体、止血材、人工皮膚等が挙げられる。
【0113】
B.ゲル膜
本開示のゲル膜は、高分子ゲルを含み、上記高分子ゲルが、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとを含むゲル、または、ヒアルロン酸、ヒアルロン酸塩およびヒアルロン酸誘導体からなる群から選択される少なくとも1つと、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース塩およびカルボキシメチルセルロース誘導体からなる群から選択される少なくとも1つとの共重合体であるゲルであり、上記ゲル膜は、第1の面と第2の面とを有し、上記第1の面の算術平均粗さ(Ra1)は上記第2の面の算術平均粗さ(Ra2)よりも小さく、上記第1の面の算術平均粗さ(Ra1)が10nm以上、1000nm以下の範囲内であり、上記第1の面の算術平均粗さ(Ra1)を上記第2の面の算術平均粗さ(Ra2)で除した値Ra1/Ra2が、0.05以上、1.0以下の範囲内である、ゲル膜である。
【0114】
本開示においては、ゲル膜のRa1/Ra2が上記範囲内であることから、ゲル膜の第1の面とゲル膜の第2の面との表面積の差が小さいため、ゲル膜の第1の面とゲル膜の第2の面との吸湿および放湿の速度の差が小さくすることができる。したがって、ゲル膜の製造過程にて一時的にゲル膜にカールが発生した場合においても、速やかにゲル膜が平滑化し、次工程へ供することが可能となる。これにより、ゲル膜を製造する際に、ゲル膜のカールを取り除くために長時間を要することなく、速やかにゲル膜を製造することが可能となる。
【0115】
また、本開示におけるゲル膜は、Ra1が上記範囲内であり、かつ、Ra1/Ra2が上記範囲内であるため、凹凸が少なく、すなわち、シワ、うねり等の変形が少ないものであるといえる。つまり、本開示におけるゲル膜は、上述の「A.ゲル膜の製造方法」の項に記載したように、熱板を用いてゲル膜を熱プレスすることにより得られるものであるといえる。
【0116】
例えば、高分子ゲル分散液膜を乾燥してゲル膜を得る方法や、高分子ゲル分散液膜の形成時にプレスを行うことによってゲル膜を得る方法では、上記のRa1/Ra2を有するゲル膜を得ることは困難である。乾燥進行に伴う高分子ゲル分散液膜の収縮によって、ゲル膜にシワやうねりが発生してしまうためである。
【0117】
また、ゲル膜を加熱する方法としては、例えば、熱板による熱プレスの他に、熱ロールによる加熱、赤外線加熱、オーブン加熱、ホットプレート加熱等が考えられる。しかし、熱ロールによる加熱では、ゲル膜にロール痕が残るおそれや、ゲル膜が熱ロールを通過する際にゲル膜にシワが入る場合がある。また、赤外線加熱、オーブン加熱、ホットプレート加熱では、ゲル膜にうねり、シワ等の変形が生じやすい。そのため、熱板による熱プレス以外の加熱方法では、平滑なゲル膜を得ることが難しく、上記のRa1およびRa1/Ra2を満たすゲル膜を得ることは困難である。
【0118】
以下、本開示のゲル膜について説明する。
【0119】
ゲル膜の第1の面の算術平均粗さ(Ra1)は、10nm以上、1000nm以下の範囲内であり、好ましくは100nm以上、1000nm以下の範囲内であり、より好ましくは500nm以上、1000nm以下の範囲内である。
【0120】
また、ゲル膜の第1の面の算術平均粗さ(Ra1)を第2の面の算術平均粗さ(Ra2)で除した値Ra1/Ra2は、0.05以上、1.0以下の範囲内である。
【0121】
また、ゲル膜の第2の面の算術平均粗さ(Ra2)は、第1の面の算術平均粗さ(Ra1)よりも大きく、上記Ra1/Ra2を満たしていればよく、例えば、500nm以上、1500nm以下の範囲内とすることができ、好ましくは500nm以上、1200nm以下の範囲内であり、より好ましくは500nm以上、1000nm以下の範囲内である。
【0122】
ここで、ゲル膜の第1の面の算術平均粗さ(Ra1)および第2の面の算術平均粗さ(Ra2)は、白色干渉計(Zygo、キヤノンマーケティングジャパン(株)製)にて、50倍の対物レンズを使用し、216.2μm×216.2μmの範囲を測定する。また、ゲル膜の第1の面の算術平均粗さ(Ra1)および第2の面の算術平均粗さ(Ra2)は、ゲル膜の各表面を9箇所測定し、その測定値の平均値とする。また、各箇所の測定領域は、互いに少なくとも30mm以上離れた領域とする。
【0123】
本開示のゲル膜は、上述のゲル膜の製造方法により製造することができる。
【0124】
なお、高分子ゲル、ならびにゲル膜の厚みや特性等のその他の点については、上述の「A.ゲル膜の製造方法」の項に記載したので、ここで説明は省略する。
【0125】
本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示の技術的範囲に包含される。
【実施例
【0126】
以下に実施例および比較例を示し、本開示をさらに詳細に説明する。
【0127】
[実施例1-1~1-9]
縮合剤としてEDC(1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)を用いてカルボキシメチルセルロースとヒアルロン酸とを共重合させた高分子ゲルを、分散媒(水)に2質量%の割合で分散させ、高分子ゲル分散液を調製した。
【0128】
得られた高分子ゲル分散液を、内寸150mm×180mm、深さ3mmのアクリル樹脂製容器に注ぎ、アプリケータ(SA-204マイクロメーター付フィルムアプリケータ、テスター産業(株)製)を用いて、均一な厚みの高分子ゲル分散液膜を得た。得られた高分子ゲル分散液膜を、20℃、55%RHに設定した恒温恒湿槽内に20時間静置して、高分子ゲル分散液に含まれる分散媒を除去することで、ゲル膜を製膜した。その後、アクリル樹脂製容器からゲル膜を剥離した。アクリル樹脂製容器からのゲル膜の剥離は、小型打抜機III型(テスター産業(株)製)を用いてアクリル樹脂製容器に密着したゲル膜に146mm×176mmのサイズに切込をいれ、ゲル膜の切込端を支持しながらアクリル樹脂製容器からゲル膜を剥離することで行った。
【0129】
次に、無塵紙(クリーンルーム用紙CP-01HA4、(株)オストリッチダイヤ製)にて挟持したゲル膜を、下記表1に示す熱プレス条件で、加熱した平行平板の熱板にて加圧を施すことで熱プレスを実施した。熱プレス後のゲル膜を20℃、55%RHの恒温恒湿槽内にて2時間静置して冷却し、ゲル膜を得た。
【0130】
[比較例1]
下記表1に示す熱プレス条件としたこと以外は、実施例1-1~1-9と同様にして、ゲル膜を得た。
【0131】
[比較例2]
熱プレスを行わなかったこと以外は、実施例1-1~1-9と同様にして、ゲル膜を得た。
【0132】
[評価1]
(平滑性)
得られたゲル膜について、平滑性を評価した。
〇:ゲル膜に、シワ、うねり、カール等の変形が無い
×:ゲル膜に、シワ、うねり、カール等の変形が有る
【0133】
(膨潤率)
得られたゲル膜、および、得られたゲル膜に25kGyのガンマ線を照射した後について、膨潤率を求めた。まず、ゲル膜から、短辺方向の長さが1cm、長辺方向の長さが5cmである短冊形状の試験片を切り出した。次に、試験片を生理食塩水に室温にて30分間浸漬した。その後、浸漬前および浸漬後の試験片の寸法の変化により、すなわち下記式により、膨潤率を求めた。
膨潤率[%]=(短辺方向の寸法変動率+長辺方向の寸法変動率)/2
短辺方向の寸法変動率[%]=L2/L1×100
長辺方向の寸法変動率[%]=L4/L3×100
(L1は浸漬前の試験片の短辺方向の長さ、L2は浸漬後の試験片の短辺方向の長さ、L3は浸漬前の試験片の長辺方向の長さ、L4は浸漬後の試験片の長辺方向の長さを表す。)
【0134】
(膨潤時脆性)
得られたゲル膜に25kGyのガンマ線を照射した後、上記膨潤率の測定と同様に生理食塩水に30分間浸漬したときのゲル膜の脆性を評価した。
◎:浸漬中のゲル膜をピンセットで摘み、生理食塩水中で軽く揺らした場合でも、ゲル膜が崩れない
〇:浸漬中のゲル膜をピンセットで摘んだ際に、ゲル膜が崩れない
×:浸漬中のゲル膜をピンセットで摘んだ際に、ゲル膜が崩れる
【0135】
【表1】
【0136】
[実施例2-1~2-21]
実施例1-1と同様にして、25枚のゲル膜を製膜し、アクリル樹脂製容器から各ゲル膜を剥離した。
次に、無塵紙(クリーンルーム用紙CP-01HA4、(株)オストリッチダイヤ製)とゲル膜とを交互に重ねて作製した積層体を、さらに無塵紙で挟持し、下記表2に示す熱プレス条件で、加熱した平行平板の熱板にて加圧を施すことで熱プレスを実施した。その後、実施例1-1と同様に冷却し、ゲル膜を得た。
【0137】
[評価2]
実施例1-1と同様にして、得られたゲル膜について、膨潤率を測定し、平滑性、膨潤時脆性を評価した。なお、表2中、積層順1/25は積層体の一番下のゲル膜、積層順13/25は積層体の下から13枚目のゲル膜、積層順25/25は積層体の一番上のゲル膜を示す。
【0138】
【表2】
【0139】
[比較例3]
実施例1-1と同様にして、ゲル膜を製膜し、アクリル樹脂製容器からゲル膜を剥離した。
次に、100℃の恒温器で1時間加熱することで加熱処理を行った。その後、実施例1-1と同様に冷却し、ゲル膜を得た。
【0140】
[比較例4]
実施例1-1と同様にして、ゲル膜を製膜し、アクリル樹脂製容器からゲル膜を剥離した。
次に、150℃の恒温器で2分間加熱することで加熱処理を行った。その後、実施例1-1と同様に冷却し、ゲル膜を得た。
【0141】
[比較例5]
実施例1-1と同様にして、ゲル膜を製膜し、アクリル樹脂製容器からゲル膜を剥離した。
次に、遠赤外ヒーター(PU-2060A、(株)ノリタケカンパニーリミテド製)を、ゲル膜の表面温度が120℃となる距離に赤外線源がくるように設置し、5分間加熱をすることで加熱処理を行った。その後、実施例1-1と同様に冷却し、ゲル膜を得た。
【0142】
[比較例6]
実施例1-1と同様にして、ゲル膜を製膜し、アクリル樹脂製容器からゲル膜を剥離した。
次に、140℃に加熱した熱ロール(ラミモンキーLK-29、(株)ラミーコーポレーション製)に、ゲル膜を20回通すことで加熱処理を行った。その後、実施例1-1と同様に冷却し、ゲル膜を得た。
【0143】
[評価3]
実施例2-10、2-11および比較例3~6のゲル膜について、実施例1-1と同様にして、平滑性の評価を行った。また、実施例2-10、2-11および比較例3~6のゲル膜の外観写真をそれぞれ図5(a)~(b)および図6(a)~(d)に示す。
【0144】
【表3】
【0145】
[実施例3-1~3-3]
熱プレス時間を7分間とした以外は実施例1-5と同様にして、ゲル膜を得た。
【0146】
得られたゲル膜の第1の面の算術平均粗さ(Ra1)および第2の面の算術平均粗さ(Ra2)を、白色干渉計(Zygo、キヤノンマーケティングジャパン(株)製)にて、50倍の対物レンズを使用し、216.2μm×216.2μmの範囲を測定することで求めた。また、ゲル膜の第1の面の算術平均粗さ(Ra1)および第2の面の算術平均粗さ(Ra2)は、9箇所測定し、その測定値の平均値とした。また、各箇所の測定領域は、互いに少なくとも30mm以上離れた領域とした。
【0147】
また、得られたゲル膜について、カール抑制を評価した。
○:20℃、55%RHの雰囲気下で、ゲル膜にカールが発生しても速やかに平滑化する
【0148】
【表4】
【符号の説明】
【0149】
1 … 基材
2a … 高分子ゲル分散液膜
2b … 乾燥後のゲル膜
2c … 熱プレス後のゲル膜
11 … 熱板
図1
図2
図3
図4
図5
図6