(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】逐次比較AD変換器
(51)【国際特許分類】
H03M 1/38 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
H03M1/38
(21)【出願番号】P 2019174791
(22)【出願日】2019-09-25
【審査請求日】2022-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】303046277
【氏名又は名称】旭化成エレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100181272
【氏名又は名称】神 紘一郎
(72)【発明者】
【氏名】金野 翔太
【審査官】工藤 一光
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-151561(JP,A)
【文献】特表2009-516433(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0079325(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03M1/12-1/88
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力アナログ信号と参照信号の大小を判定する比較回路と、
前記比較回路の判定した結果を保持し、第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される出力デジタル信号を出力する逐次比較レジスタと、
前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とが入力され、第3ビット信号と第4ビット信号とを出力する演算部と、
前記第3ビット信号を第1アナログ信号に変換する第1ビットDA変換器と、
前記第4ビット信号を第2アナログ信号に変換する第2ビットDA変換器と、
前記第1アナログ信号と前記第2アナログ信号とに基づいて、前記参照信号を生成する参照信号生成部と、
を備え、
前記演算部は、
前記第2ビット信号のうち、前記出力デジタル信号に対して演算を行うか否かを制御する制御信号が第1論理値に遷移するまでに前記判定された、第5ビット信号に基づいて、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号が、前記第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とを出力する逐次比較AD変換器。
【請求項2】
前記制御信号を前記演算部に出力する制御信号生成部を更に備え、
前記演算部は、
前記制御信号が第1論理値の場合に、前記第5ビット信号に基づいて、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号が、前記第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とを出力し、
前記制御信号が第2論理値の場合、前記第1ビット信号を前記第3ビット信号として出力し、前記第2ビット信号を前記第4ビット信号として出力する
請求項1に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項3】
前記演算部は、
前記第5ビット信号の各ビット値が同じ値である場合に、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号が、前記第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とを出力し、
前記第5ビット信号の各ビット値が同じ値でない場合に、前記第1ビット信号を前記第3ビット信号として出力し、前記第2ビット信号を前記第4ビット信号として出力する
請求項
1に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項4】
前記演算部は、
前記第5ビット信号のビット値が全て1である場合に、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とで構成される信号をインクリメントした信号を前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号とし、
前記第1ビット信号のビット値が全て0である場合に、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とで構成される信号をディクリメントした信号を前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号とする
請求項
1又は3に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項5】
前記演算部は、
前記第5ビット信号の各ビット値が同じ値である場合に、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号が、前記第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とを出力し、
前記第5ビット信号の各ビット値が同じ値でない場合に、前記第1ビット信号を前記第3ビット信号として出力し、前記第2ビット信号を前記第4ビット信号として出力する
請求項2に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項6】
前記演算部は、
前記第5ビット信号のビット値が全て1である場合に、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とで構成される信号をインクリメントした信号を前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号とし、
前記第1ビット信号のビット値が全て0である場合に、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とで構成される信号をディクリメントした信号を前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号とする
請求項2又は5に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項7】
第2冗長ビット信号を第3アナログ信号に変換する冗長ビットDA変換器を更に備え、
前記制御信号生成部は、冗長制御信号を生成し、
前記逐次比較レジスタは、
前記第1ビット信号と前記第2ビット信号と第1冗長ビット信号とで構成される出力デジタル信号を出力し、
前記演算部は、
前記冗長制御信号に基づいて、前記第1冗長ビット信号を前記第2冗長ビット信号として出力し、
前記参照信号生成部は、
前記第1アナログ信号と前記第2アナログ信号と前記第3アナログ信号とに基づいて、前記参照信号を生成する
請求項
2、5、又は6に記載の逐次比較AD変換器。
【請求項8】
前記演算部は、
前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が前記第1論理値であり、前記第5ビット信号のビット値が全て1である場合に、前記第1冗長ビット信号を前記第2冗長ビット信号として出力し、
前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が前記第1論理値であり、前記第5ビット信号のビット値が全て0である場合に、前記第1冗長ビット信号をインクリメントした信号を前記第2冗長ビット信号として出力し、
前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が前記第1論理値であり、前記第5ビット信号のビット値が全て同じ値でない場合に、前記第1冗長ビット信号に前記第5ビット信号の最下位ビットを加算した信号を、前記第2冗長ビット信号として出力し、
前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が第2論理値である場合に、前記第1冗長ビット信号に前記第5ビット信号の最下位ビットを加算した信号を、前記第2冗長ビット信号として出力し
前記冗長制御信号が前記第2論理値である場合に、前記第1冗長ビット信号を前記第2冗長ビット信号として出力する
請求項
7に記載の逐次比較AD変換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逐次比較AD変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
高精度の逐次比較アナログ・デジタル変換器(以下、「逐次比較AD変換器」という)を実現するにあたり、微分非直線性誤差を生じさせる要因は大きく二つある。1つは逐次比較AD変換器を構成するデジタル・アナログ変換器(以下、「DA変換器」という)の素子ばらつきによって生じる静的な微分非直線性誤差であり、もう1つは逐次比較近似に応じてDA変換器を増減させた際、次の判定ポイントまでに、DA変換器が本来期待するアナログ値まで収束できないことによる動的な微分非直線性誤差である。
【0003】
前者の静的な微分非直線性誤差は、逐次比較AD変換器を構成するDA変換器の素子ばらつきによって生じる。例えば、
図12に示す5ビット(bit)のバイナリDA変換器において、最上位ビットは理想的には16の重みを持つことが期待されるが、素子の製造ばらつきによってこの重みは変動する。
【0004】
後者については十分な時間を待つことで特性を改善できるが、更なる高速化を実現する上では課題となる。この解決方法として従来技術にて逐次比較AD変換器に冗長性を導入し変換回数を増やすことが提示されている。冗長性を持つと、あるアナログ入力値を表現するデジタルコードのパターンを重複できる。そのため、セトリング不足等により、上位側の判定においてミスが生じた場合でも、そのビットよりも下位側のDA変換素子を異なる組み合わせで表現できる。したがって、上位ビット側の誤判定を補正することが可能になり、これによりセトリング不足が生じたとしても最終的なAD変換結果に影響を与えないことが実現できる。
【0005】
ここで、一般的な冗長性を有するDA変換器においても、この静的な微分非直線性誤差は改善されない理由を説明する。静的な微分非直線性誤差は、各DA変換素子の担っている実際の重みと、デジタル出力にて想定されている重みとに不一致があることで生じる。一般的な冗長性の判定シーケンスでは、不一致が生じしている素子を切り替えることはせず、冗長ビットの素子を切り替えることで、上位変換にて生じた変換エラーを補正しようとする。そのため、不一致は解消されず、静的な微分非直線性誤差は改善されないことがあった。
【0006】
上述の課題を解決するため、例えば、特許文献1に記載されたような従来技術は、
図13に示すように、逐次比較AD変換に用いるDA変換器と、さらに、擬似乱数発生器及びその値を反映させるDA変換器と有している。また、従来技術は、擬似ランダム信号の値と、逐次比較変換結果の値をデジタル回路で足し合わせる回路をさらに備えている。これにより、従来技術は、擬似ランダム信号の値によって消失するコードを意図的にずらし、擬似ランダム信号毎に得られたAD変換値を時間的に平均することによって、微分非直線性を改善している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来技術は、微分非直線性誤差を改善するために擬似ランダム信号を生成する回路と擬似ランダム信号を印加するキャパシタ(DA変換器)とを備える必要があり、回路面積が増加してしまう。
【0009】
かかる事情に鑑みてなされた本発明は、DA変換器を構成する素子にばらつきがある場合にも、小面積で、微分非直線性誤差を改善する逐次比較AD変換器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明に係る逐次比較AD変換器は、入力アナログ信号と参照信号の大小を判定する比較回路と、前記比較回路の判定した結果を保持し、第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される出力デジタル信号を出力する逐次比較レジスタと、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とが入力され、第3ビット信号と第4ビット信号とを出力する演算部と、前記第3ビット信号を第1アナログ信号に変換する第1ビットDA変換器と、前記第4ビット信号を第2アナログ信号に変換する第2ビットDA変換器と、前記第1アナログ信号と前記第2アナログ信号とに基づいて、前記参照信号を生成する参照信号生成部と、を備え、前記演算部は、前記第2ビット信号のうち、前記出力デジタル信号に対して演算を行うか否かを制御する制御信号が第1論理値に遷移するまでに前記判定された、第5ビット信号に基づいて、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号が、前記第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とを出力する。
【0011】
さらに、本発明に係る逐次比較AD変換器において、前記制御信号を前記演算部に出力する制御信号生成部を更に備え、前記演算部は、前記制御信号が第1論理値の場合に、前記第5ビット信号に基づいて、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号が、前記第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とを出力し、前記制御信号が第2論理値の場合、前記第1ビット信号を前記第3ビット信号として出力し、前記第2ビット信号を前記第4ビット信号として出力する。
【0012】
さらに、本発明に係る逐次比較AD変換器において、前記演算部は、前記第5ビット信号の各ビット値が同じ値である場合に、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号が、前記第1ビット信号と第2ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とを出力し、前記第5ビット信号の各ビット値が同じ値でない場合に、前記第1ビット信号を前記第3ビット信号として出力し、前記第2ビット信号を前記第4ビット信号として出力する。
【0013】
さらに、本発明に係る逐次比較AD変換器において、前記演算部は、前記第5ビット信号のビット値が全て1である場合に、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とで構成される信号をインクリメントした信号を前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号とし、前記第1ビット信号のビット値が全て0である場合に、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号とで構成される信号をディクリメントした信号を前記第3ビット信号と前記第4ビット信号とで構成される信号とする。
【0014】
さらに、本発明に係る逐次比較AD変換器において、第2冗長ビット信号を第3アナログ信号に変換する冗長ビットDA変換器を更に備え、前記制御信号生成部は、冗長制御信号を生成し、前記逐次比較レジスタは、前記第1ビット信号と前記第2ビット信号と第1冗長ビット信号とで構成される出力デジタル信号を出力し、前記演算部は、前記冗長制御信号に基づいて、前記第1冗長ビット信号を前記第2冗長ビット信号として出力し、前記参照信号生成部は、前記第1アナログ信号と前記第2アナログ信号と前記第3アナログ信号とに基づいて、前記参照信号を生成する。
【0015】
前記演算部は、前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が前記第1論理値であり、前記第5ビット信号のビット値が全て1である場合に、前記第1冗長ビット信号をインクリメントした信号を前記第2冗長ビット信号として出力し、前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が前記第1論理値であり、前記第5ビット信号のビット値が全て0である場合に、前記第1冗長ビット信号をディクリメントした信号を前記第2冗長ビット信号として出力し、前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が前記第1論理値であり、前記第5ビット信号のビット値が全て同じ値でない場合に、前記第1冗長ビット信号に前記第5ビット信号の最下位ビットを加算した信号を、前記第2冗長ビット信号として出力し、前記冗長制御信号が前記第1論理値で前記制御信号が前記第2論理値である場合に、前記第1冗長ビット信号に前記第5ビット信号の最下位ビットを加算した信号を、前記第2冗長ビット信号として出力し、前記冗長制御信号が前記第2論理値である場合に、前記第1冗長ビット信号を前記第2冗長ビット信号として出力する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、DA変換器を構成する素子にばらつきがある場合にも、小面積で、微分非直線性誤差を改善する逐次比較AD変換器を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態に係る逐次比較AD変換器の構成例を示すブロック図である。
【
図2】
図1に示す逐次比較AD変換器におけるDAC制御コードシフト回路の構成例を示すブロック図である。
【
図3】本実施形態に係る逐次比較AD変換器の他の構成例を示すブロック図である。
【
図4】
図3に示す逐次比較AD変換器におけるDAC制御コードシフト回路の構成例を示すブロック図である。
【
図5】
図3に示す逐次比較AD変換器において、素子ばらつきが生じていない場合の逐次比較変換のタイミングチャートである。
【
図6A】
図3に示す逐次比較AD変換器における、シフトイネーブル信号E_SFTがHであるときのコードシフト条件判定によるDAC制御コードの変化を示す図である。
【
図6B】
図3に示す逐次比較AD変換器における、シフトイネーブル信号E_SFTがLであるときのコードシフト条件判定によるDAC制御コードの変化を示す図である。
【
図7】
図3に示す逐次比較AD変換器において、素子ばらつきが生じている場合に、アナログ入力値「13.9」及び「14.1」がそれぞれ入力された場合の逐次比較変換のタイミングチャートである。
【
図8】
図3に示す逐次比較AD変換器において、素子ばらつきが生じている場合に、アナログ入力値「15.9」及び「16.1」がそれぞれ入力された場合の逐次比較変換のタイミングチャートである。
【
図9】アナログ入力値とAD変換結果出力値との関係を表すAD変換曲線を示す図である。
【
図10】
図1に示す逐次比較AD変換器における逐次比較変換のタイミングチャートである。
【
図11A】
図1に示す逐次比較AD変換器における、シフトイネーブル信号E_SFTがHであるときのコードシフト条件判定によるDAC制御コードの変化を示す図である。
【
図11B】
図1に示す逐次比較AD変換器における、シフトイネーブル信号E_SFTがLであるときのコードシフト条件判定によるDAC制御コードの変化を示す図である。
【
図12】従来の、冗長性を有する5ビットバイナリDACを用いる逐次比較AD変換器の回路図である。
【
図13】従来の、擬似ランダム信号発生器による値を反映させる逐次比較AD変換器の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。なお、図面においては、AD変換及びDA変換をそれぞれADC及びDACとしていることがある。
【0019】
図1は、本実施形態における逐次比較AD変換器100の全体概略構成図である。
図1に示す逐次比較AD変換器100は、入力サンプル/ホールド回路1と、比較回路2と、制御回路3と、第1ビットDA変換器(上位ビット(補正対象)デジタル・アナログ変換器(以下、「上位ビットDAC」という))4と、第2ビットDA変換器(下位ビットデジタル・アナログ変換器(以下、「下位ビットDAC」という))5と、参照信号生成部6とを備える。
【0020】
入力サンプル/ホールド回路1は、入力アナログ信号をサンプリングして、保持する。
【0021】
比較回路2は、入力サンプル/ホールド回路1に保持されている入力アナログ信号と参照信号との大小を判定する。また、比較回路2は、判定に基づいて判定信号を出力する。参照信号は、追って詳細に説明する参照信号生成部6によって、第1アナログ信号と第2アナログ信号とに基づいて生成される信号である。
【0022】
制御回路3は、シフトイネーブル信号生成回路31と、変換タイミング生成回路32と、逐次比較レジスタ33と、演算部(デジタル・アナログ変換制御コードシフト回路(以下、「DAC制御コードシフト回路」という))34と、を備える。
【0023】
シフトイネーブル信号生成回路31は、所定のタイミングでコードシフトイネーブル信号E_SFTを変換タイミング生成回路32に出力する。
【0024】
制御信号生成部(以下、「変換タイミング生成回路」という)32は、シフトイネーブル信号生成回路31によって出力されたコードシフトイネーブル信号E_SFTの極性に応じて、制御信号(以下、「コードシフトタイミング信号」という)SFT_TIMをDAC制御コードシフト回路34に出力する。コードシフトタイミング信号SFT_TIMは、第1論理値(以下、「H」という)と第2論理値(以下、「L」という)とのいずれかの値であり、変換タイミング生成回路32は、逐次比較中のあるタイミングまでコードシフトタイミング信号SFT_TIMを「L」にし、該判定シーケンスが終了するとコードシフトタイミング信号SFT_TIMを「H」にする。また、変換タイミング生成回路32は、SAR(逐次比較レジスタ)タイミング信号を逐次比較レジスタ33に出力する。
【0025】
逐次比較レジスタ33は、比較回路2によって出力された判定信号が示す、比較回路2の判定した結果を保持し、上位ビットの信号である第1ビット信号(以下、「上位ビット信号」という)と、下位ビットの信号である第2ビット信号(以下、「下位ビット信号」という)とで構成されるデジタル信号を出力する。上位ビット信号は、1以上の桁数(例えば2桁)のビットから構成される。下位ビット信号は、中位ビットの信号である第5ビット信号(以下、「中位ビット信号」という)を含み、1以上の桁数(例えば3桁)のビットから構成される。
【0026】
DAC制御コードシフト回路34は、逐次比較レジスタ33で保持される上位ビット信号と下位ビット信号とに基づいて、第3ビット信号(以下、「上位ビットDAC制御コード」という)と、第4ビット信号(以下、「下位ビットDAC制御コード」という)とを出力する。具体的には、DAC制御コードシフト回路34は、下位ビット信号のうち、コードシフトタイミング信号SFT_TIMがHに遷移するまでに判定された、中位ビット信号に基づいて、上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとで構成される信号が、上位ビット信号と下位ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとを出力する。
【0027】
さらに具体的には、DAC制御コードシフト回路34は、コードシフトタイミング信号SFT_TIMがHの場合に、中位ビット信号に基づいて、上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとで構成される信号が、上位ビット信号と下位ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとを出力する。また、DAC制御コードシフト回路34は、コードシフトタイミング信号SFT_TIMがLの場合、上位ビット信号を上位ビットDAC制御コードとして出力し、下位ビット信号を下位ビットDAC制御コードとして出力する。
【0028】
DAC制御コードシフト回路34は、中位ビット信号の各ビット値が同じ値である場合に、上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとで構成される信号が、上位ビット信号と下位ビット信号とで構成される信号値よりも大きい値又は小さい値となるように、上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとを出力する。また、DAC制御コードシフト回路34は、中位ビット信号の各ビット値が同じ値でない場合に、上位ビット信号を上位ビットDAC制御コードとして出力し、下位ビット信号を下位ビットDAC制御コードとして出力する
【0029】
DAC制御コードシフト回路34は、中位ビット信号のビット値が全て1である場合に、上位ビット信号と下位ビット信号とで構成される信号をインクリメントした信号を上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとで構成される信号とする。また、DAC制御コードシフト回路34は、上位ビット信号のビット値が全て0である場合に、上位ビット信号と下位ビット信号とで構成される信号をディクリメントした信号を上位ビットDAC制御コードと下位ビットDAC制御コードとで構成される信号とする。
【0030】
図2を参照して、DAC制御コードシフト回路34の構成について詳細に説明する。
図2は、DAC制御コードシフト回路34のブロック図である。
図2に示すように、DAC制御コードシフト回路34は、コードシフト条件判定回路341と、上位ビットデジタル・アナログ変換制御切替回路(以下、「上位ビットDAC制御切替回路」という)342と、下位ビットデジタル・アナログ変換制御切替回路(以下、「下位ビットDAC制御切替回路」という)343と、第1のセレクタ344と、第2のセレクタ345と、を備える。
【0031】
コードシフト条件判定回路341は、中位ビット信号に応じて、第1のセレクタ344及び第2のセレクタ345が切り替わるように、コードシフト制御信号SFTを出力する。
【0032】
上位ビットDAC制御切替回路342は、後述するように上位ビット信号を変化させた上位DAC制御コードを出力する。
【0033】
下位ビットDAC制御切替回路343は、後述するように下位ビット信号を変化させた下位DAC制御コードを出力する。
【0034】
第1のセレクタ344は、コードシフト制御信号SFTに基づいて、上位ビットDAC制御切替回路342によって変化された上位ビット信号、又は逐次近似レジスタ33から出力された上位ビット信号を、上位DAC制御コードとして出力する。
【0035】
第2のセレクタ345は、コードシフト制御信号SFTに基づいて、下位ビットDAC制御切替回路343によって変化された下位ビット信号、又は逐次近似レジスタ33から出力された下位ビット信号を、下位DAC制御コードとして出力する。
【0036】
上位ビットDAC4は、上位DAC制御コードを第1アナログ信号に変換する。
【0037】
下位ビットDAC5は、下位DAC制御コードを第2アナログ信号に変換する。
【0038】
参照信号生成部6は、上位ビットDAC4によって変換された第1アナログ信号と、上位ビットDAC5によって変換された第2アナログ信号とを加算した値を示す判定信号を比較回路2に出力する。
【0039】
本実施形態の逐次比較AD変換器100は、
図3に示すように、冗長ビットDA変換器(中位ビットデジタル・アナログ変換器(以下、「冗長性をもつ中位ビットDAC」という))7をさらに含んでもよい。この構成において、
図4に示すように、DAC制御コードシフト回路34は、下位ビットDAC制御切替回路344の代わりに、中位ビット反転回路346と、冗長デジタル・アナログ変換器制御信号生成回路(以下、「冗長DAC制御信号生成回路」という)347とを備える。
【0040】
この場合、変換タイミング生成回路32は、コードシフトタイミング信号SFT_TIMに加えて、さらに冗長制御信号をDAC制御コードシフト回路34に出力する。逐次比較レジスタ33は、判定信号に基づいて、上位ビット信号、中位ビット信号、及び第1冗長ビット信号(以下、「冗長ビット信号」という)を保持し、DAC制御コードシフト回路34に出力する。また、逐次比較レジスタ33は、判定信号に基づいて、下位DAC制御コードを下位ビットDAC52に出力する。
【0041】
DAC制御コードシフト回路34は、冗長制御信号に基づいて、冗長ビットを第2冗長ビット信号(以下、「冗長DAC制御コード」という)として出力する。
【0042】
中位ビット反転回路346は、逐次比較レジスタ33から出力された中位ビット信号の極性を反転させた中位DAC制御コードを出力する。
【0043】
冗長DAC制御信号生成回路347は、変換タイミング生成回路32から出力された冗長制御信号に応じて、逐次比較レジスタ33から出力された冗長ビットに基づいて冗長ビット制御コードを出力する。
【0044】
このような構成において、DAC制御コードシフト回路34は、冗長制御信号に応じて、冗長ビット信号に基づいて冗長DAC制御コードを出力する。
【0045】
具体的には、DAC制御コードシフト回路34は、冗長制御信号がHでコードシフトタイミング信号SFT_TIMがHであり、中位ビット信号のビット値が全て1である場合に、冗長ビット信号を冗長DAC制御コードとして出力する。また、DAC制御コードシフト回路34は、冗長制御信号がHでコードシフトタイミング信号SFT_TIMがHであり、中位ビット信号のビット値が全て0である場合に、第1冗長ビット信号をインクリメントした信号を冗長DAC制御コードとして出力する。また、DAC制御コードシフト回路34は、冗長制御信号がHでコードシフトタイミング信号SFT_TIMがHであり、中位ビット信号のビット値が全て同じ値でない場合に、冗長ビット信号に中位ビット信号の最下位ビットを加算した信号を、冗長DAC制御コードとして出力する。また、DAC制御コードシフト回路34は、冗長制御信号がHでコードシフトタイミング信号SFT_TIMがLである場合に、冗長ビット信号に中位ビット信号の最下位ビットを加算した信号を、冗長DAC制御コードとして出力する。冗長制御信号がLである場合に、冗長ビット信号を冗長DAC制御コードとして出力する。
【0046】
以降において、このように構成された逐次比較AD変換器100が冗長性を有するビットを用いて行う逐次比較AD変換について詳細に説明する。ここでは、
図3に示すように、逐次比較AD変換器100は、冗長性をもつ中位ビットDAC7をさらに含み、
図4に示すように、DAC制御コードシフト回路34が、中位ビット反転回路346と、冗長DAC制御信号生成回路347とを備える逐次比較AD変換器100の処理を説明するが、逐次比較AD変換器100は、冗長性をもつ中位ビットDAC7、中位ビット反転回路346、及び冗長DAC制御信号生成回路347を有さなくてもよい。
【0047】
図5は、
図3及び
図4に示す逐次比較AD変換器100による逐次比較変換のタイミングチャートである。変換タイミング生成回路32は、
図5に示すように、シフトイネーブル信号生成回路31によって出力されたコードシフトイネーブル信号E_SFTの極性に応じて、コードシフトタイミング信号SFT_TIMを変化させる。具体的には、変換タイミング生成回路32は、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHである場合、逐次比較変換中のあるタイミングにてコードシフトタイミング信号SFT_TIMを「L」から「H」に変化させる。変換タイミング生成回路32は、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLである場合、コードシフトタイミング信号SFT_TIMを「L」とする。
【0048】
なお、
図5を参照して説明する例においては、逐次比較AD変換器100が変換するデジタル値は、冗長ビットを有する5ビットのデジタル値である。冗長ビットは、上位から4ビット目と同じ重みとし、2の重みを有する。まず、DA変換器に素子ばらつきが生じていない理想的な場合の動作について説明する。
【0049】
<<コードシフトイネーブル信号がLの場合>>
シフトイネーブル信号生成回路31によって生成されたコードシフトイネーブル信号E_SFTがLの場合、一般的な冗長性を有した逐次比較変換と同一の変換を行う。
【0050】
<サンプリング>
まず、入力サンプル/ホールド回路1は、アナログ入力信号の値であるアナログ入力値をサンプリングする
【0051】
<1回目の判定シーケンス>
各回の判定シーケンスは、[DAC設定]と[判定(、判定結果のDAC値への反映)]とに分けられる。
【0052】
[DAC設定]
次に、1回目の逐次比較判定を行うためのDAC値が設定される。具体的には、16の重みを有する、上位ビットのうちの1桁目である最上位ビットが「1」と設定され、他のビットが「0」と設定される。すなわち、DAC値は「10000」に設定される。
【0053】
[判定(、判定結果のDAC値への反映)]
比較器2による1回目の逐次比較判定により、最上位ビットが決定される。具体的には、比較器2は、入力サンプル/ホールド回路1によってサンプリングされたアナログ入力値が、DAC出力値以上である場合、判定信号「1」を出力し、アナログ入力値が、DAC出力値未満である場合、判定信号「0」を出力する。これにより、最上位ビットが、1回目の判定により出力された判定信号の値であると決定される。
図5の例では、アナログ入力値が「17.5」で、DAC出力値が「16」であるため、1回目の判定において、比較回路2は、判定信号「1」を出力する。これにより、最上位ビットは、「1」であると決定される。
【0054】
<2回目の判定シーケンス>
[DAC設定]
2回目の逐次比較判定を行うためのDAC値が設定される。具体的には、制御回路3は、最上位ビットに1回目の判定により出力された判定信号の値が設定され、最上位ビットの次に大きな重みを有する上位2ビット目に1が設定され、他のビットに0が設定される。すなわち、本例では、DAC値は「11000」に設定される。
【0055】
[判定(、判定結果のDAC値への反映)]
比較器2による2回目の逐次比較判定により、上位2ビット目が決定される。具体的には、比較器2は、入力サンプル/ホールド回路1によってサンプリングされたアナログ入力値が、DAC出力値以上である場合、判定信号「1」を出力し、アナログ入力値が、DAC出力値未満である場合、判定信号「0」を出力する。これにより、上位2ビット目が、2回目の判定により出力された判定信号の値であると決定される。本例では、アナログ入力値が「17.5」で、DAC出力値が「24」であるため、2回目の判定において、比較回路2は、判定信号「0」を出力する。これにより、上位2ビット目は、「0」であると決定される。
【0056】
同様にして、冗長ビットの重みと同一の重みを有するビットまでのDAC設定及び判定を繰り返して行う。本例では、冗長ビットの重みと同一の重みを有する上位4ビット目までのDAC設定及び判定を繰り返して行う。
【0057】
<5回目の冗長ビット判定シーケンス>
ここでは、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLであるため、
図6Bに示すように、一般的な冗長ビットの判定が行われる。
【0058】
[DAC設定]
変換タイミング生成回路32から出力される冗長制御信号がLからHに切り替わると、冗長DAC制御コードのみが変化される。具体的には、比較器2による直前の判定(本例では4回目の判定)によって判定信号「1」が出力された場合、DAC制御コードシフト回路34は、冗長ビットをインクリメントした信号を冗長DAC制御コードとして出力する。比較器2による直前の判定(本例では4回目の判定)によって判定信号「0」が出力された場合に、DAC制御コードシフト回路34は、冗長ビットを冗長DAC制御コードとして出力する。
【0059】
[判定(、判定結果のDACへの反映)]
比較器2による5回目の逐次比較判定により、冗長ビットが決定される。具体的には、比較器2は、入力サンプル/ホールド回路1によってサンプリングされたアナログ入力値が、DAC出力値以上である場合、判定信号「1」を出力し、アナログ入力値が、DAC出力値未満である場合、判定信号「0」を出力する。DAC制御コードシフト回路34は、判定信号「1」が出力された場合、冗長DAC制御コードを変化させない。冗長DAC制御信号生成回路347は、判定信号「0」が出力された場合、DAC制御コードシフト回路34は、冗長DAC制御コードをディクリメントさせる。
【0060】
<6回目の判定シーケンス>
上述した1~4回目の判定シーケンスと同様に、DAC設定、判定を行って、上位5ビット目が決定される。
【0061】
このようにして決定された、上位DAC制御コードと、中位DAC制御コード及び冗長DAC制御コードと、下位DAC制御コードとが出力され、それぞれ上位ビットDAC、中位ビットDAC、及び下位ビットDACによって変換された値に基づいてAD変換結果出力値(
図5に示すように、本例では「17」)が出力される。
【0062】
<<コードシフトイネーブル信号がHの場合>>
次に、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHの場合の逐次比較変換について説明する。
【0063】
コードシフトイネーブル信号E_SFTがHの場合、サンプリング、及び1~4回目の判定シーケンスは、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLの場合の、サンプリング、及び1~4回目の判定シーケンスと同様である。4回目の判定シーケンスが終了されると、コードシフト条件の判定を伴う5回目の冗長ビット判定シーケンスが行われる。
【0064】
<5回目の冗長ビット判定シーケンス>
ここでは、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHであるため、コードシフト条件判定の結果に応じて、DAC制御コードシフト回路34は、上位DAC制御コード、中位DAC制御コード、及び冗長DAC制御コードを出力する。
【0065】
[コードシフト条件判定及びDAC設定]
具体的には、
図6Aに示すように、コードシフト判定回路341が、コードシフトタイミング信号SFT_TIMがLからHに切り替わったと判定すると、上位ビット正負シフト回路344、中位ビット反転回路346、及び冗長DAC制御信号生成回路347は、中位ビット信号に応じて、それぞれ上位DAC制御コード、中位DAC制御コード、及び冗長DAC制御コードを出力する。
【0066】
さらに具体的には、中位ビット信号が「11」の場合、上位ビット正負シフト回路344は、上位ビット信号を正にシフトさせた上位DAC制御コードを出力し、中位ビット反転回路346は、中位ビット信号の極性を反転させた中位DAC制御コードを出力する。
【0067】
また、中位ビット信号が「00」の場合、上位ビット正負シフト回路344は、上位ビット信号を負にシフトさせた上位DAC制御コードを出力し、中位ビット反転回路346は、中位ビットの極性を反転させた中位DAC制御コードを出力する。また、冗長DAC制御信号生成回路347は、冗長ビットに+1を加算した冗長DAC制御コードを出力する。
【0068】
また、中位ビットが「11」でも「00」でもない場合(「01」又は「10」である場合)、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLである場合と同様に、冗長DAC制御コードのみが操作される。具体的には、冗長DAC制御信号生成回路347は、冗長ビットの判定の直前に行われた判定シーケンス(本例では4回目の判定シーケンス)によって決定された値(本例では、中位ビットの最下位ビットの値)が「1」の場合に、冗長ビットに+1を加算した冗長DAC制御コードを出力し、判定信号の値が「0」の場合に、冗長ビットを変化させずに冗長DAC制御コードとして出力する。
【0069】
[判定(、判定結果のDACへの反映)]
比較器2による5回目の逐次比較判定により、冗長ビット信号が決定する。比較器2によって判定信号「1」が出力された場合、冗長DAC制御信号生成回路347は、判定信号「1」が出力された場合、冗長DAC制御コードを変化させない。冗長DAC制御信号生成回路347は、判定信号「0」が出力された場合、DAC制御コードシフト回路34は、冗長DAC制御コードをディクリメントさせる。
【0070】
<6回目の判定シーケンス>
上述した1~4回目の判定シーケンスと同様に、DAC設定及び判定を行って、上位5ビット目が決定される。
【0071】
これにより、制御回路3によって、上位DAC制御コードと、中位DAC制御コード及び冗長DAC制御コードと、下位DAC制御コードとが出力され、それぞれ上位ビットDAC、中位ビットDAC、及び下位ビットDACによって変換された値に基づいてAD変換結果出力値「17」が出力される。
【0072】
図5の例に示すように、DA変換器に素子ばらつきが生じていない理想的な場合において、6回目の判定が終了した時点におけるAD変換結果出力値は、コードシフトイネーブル信号E_SFTの極性によらず「17」であり、同一である。つまり、DA変換器に素子ばらつきが生じていない理想的な場合、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLの場合もHの場合も、一般的な冗長判定と同様の結果が得られる。
【0073】
続いて、最上位ビットが理想的な状態から変化するように、素子ばらつきが生じている場合の動作について説明する。
【0074】
5ビットのバイナリDACでは、最上位ビットの重みは16であることが理想的であるが、ここでは、
図7及び
図8を参照して、最上位ビットの重みが16ではなく14になるような、素子ばらつきが生じている逐次比較AD変換器100について説明する。
図7は、素子ばらつきが生じている場合に、アナログ入力値「13.9」及び「14.1」がそれぞれ入力された場合の逐次比較変換のタイミングチャートである。
図8は、素子ばらつきが生じている場合に、アナログ入力値「15.9」及び「16.1」がそれぞれ入力された場合の逐次比較変換のタイミングチャートである。
【0075】
図7に示すように、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLであるとき、上述したように構成された逐次比較AD変換器100は、アナログ入力値が「13.9」である場合にAD変換結果出力値「13」を出力し、アナログ入力値が「14.1」である場合にAD変換結果出力値「16」を出力する。このように、AD変換結果出力値は、一般的な冗長性を有した逐次比較変換によるAD変換結果出力値と同一であり、AD変換結果出力値が「14」又は「15」となることはなく、すなわち、「14」及び「15」がミッシングコードとなっている。
【0076】
一方、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHであるとき、上述したように構成された逐次比較AD変換器100は、アナログ入力値が「13.9」である場合にAD変換結果出力値「13」を出力し、アナログ入力値が「14.1」である場合にAD変換結果出力値「14」を出力する。これはミッシングコードを生じさせるほど大きな誤差を持った素子を用いず、冗長DACを用いて同じDA変換器出力を再現できるためである。
【0077】
図8に示すように、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLであるとき、上述したように構成された逐次比較AD変換器100は、アナログ入力値が「15.9」である場合にAD変換結果出力値「17」を出力し、アナログ入力値が「16.1」である場合にAD変換結果出力値「18」を出力する。これらのAD変換結果出力値は、一般的な冗長性を有した逐次比較変換によるAD変換結果出力値と同一である。
【0078】
一方、同じく
図8に示すように、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHであるとき、上述したように構成された逐次比較AD変換器100は、アナログ入力値が「15.9」である場合にAD変換結果出力値「15」を出力し、アナログ入力値が「16.1」である場合にAD変換結果出力値「18」を出力する。このように、AD変換結果出力値が「16」又は「17」となることはなく、すなわち、「16」及び「17」がミッシングコードとなっている。
【0079】
図9は、
図7及び
図8で示したDA変換器の素子ばらつきが存在する場合のAD変換曲線を示している。変換曲線LineAは、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLの場合における、アナログ入力値と、AD変換結果出力値との関係を示す曲線である。変換曲線LineA(第1の変換曲線)においては、
図7の例であるアナログ入力値が「14」の近傍である場合に、大きいコード段差が生じている。変換曲線LineB(第2の変換曲線)は、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHの場合における、アナログ入力値と、AD変換結果出力値との関係を示す曲線である。変換曲線LineBにおいては、
図8の例であるアナログ入力値が「14」の近傍である場合にコード段差が生じておらず、アナログ入力値が「16」の近傍である場合に大きいコード段差が生じている。
【0080】
このように、上述のように構成した本実施形態の逐次比較AD変換器100は、素子ばらつきによりミッシングコードをずらすことができる。したがって、上述したようにコードシフトイネーブル信号E_SFTに応じて、ミッシングコードをずらす変換と、ずらさない変換とを切り替えることができる。この結果、アナログ入力信号値とAD変換結果出力値との関係は、AD変換曲線LineAとAD変換曲線LineBとが平均化された理想的なAD変換曲線に近づくことになる。
【0081】
本実施形態において、
図3及び
図4に示した逐次比較AD変換器100は、冗長DAC制御コードを用いているが、
図1及び
図2に示した逐次比較AD変換器100のように、冗長DAC制御コードを用いなくてもよい。
図1及び
図2に示した逐次比較AD変換器100も、DA変換器の素子ばらつきによるミッシングコードをずらすことが可能であり、この場合も、コードシフトイネーブル信号E_SFTに応じて、ミッシングコードをずらす変換と、ずらさない変換とを切り替えることによって、アナログ入力信号値とAD変換結果出力値との関係は、ミッシングコードの発生が低減された、理想的なAD変換曲線に近づけることができる。
【0082】
このように、本実施形態では、冗長ビット判定シーケンスにおいて、冗長ビットを判定する前にコードシフト条件判定を行い、特定の条件において上位DAC制御コード、中位DAC制御コード、及び冗長DAC制御コードの少なくとも1つを変化させる。これによって、従来技術のような擬似ランダム信号を生成する回路を有することなく、微分非直線性誤差が改善される。すなわち、回路面積の増加を抑制しつつ、微分非直線性誤差が改善される。
【0083】
なお、シフトイネーブル信号生成部31は、
図5、
図7、及び
図8のタイミングチャートで示すように、1つのアナログ入力値に対する逐次比較変換中、コードシフトイネーブル信号E_SFTを同一に保ち、次のアナログ入力値のサンプリングが開始されるタイミングでコードシフトイネーブル信号E_SFTの極性を変化させる。コードシフトイネーブル信号E_SFTが擬似ランダム信号である必要はなく、サンプリングが開始されるタイミングのうちの任意のタイミングで、極性が変化される。また、コードシフトイネーブル信号E_SFTにおけるLとHそれぞれが所定期間内に出力される頻度は任意である。ただし、AD変換曲線を平均的に理想曲線に近づけることを鑑みると、Lが出力される頻度F
LとHが出力される頻度F
Hは同等であることが望ましい。
【0084】
仮に、Lが出力される頻度FLとHが出力される頻度FHとに極端な差異があり、例えば頻度FLと頻度FHとの比であるデューティー(Duty)比がFL:FH=1:9である場合、AD変換曲線LineAに従う逐次比較AD変換器100と、AD変換曲線LineBに従う逐次比較ADとの割合は1:9になる。逐次比較AD変換器100に各アナログ入力値が入力された場合のAD変換結果出力値の時間的な平均値は、デューティー比に依存するが、頻度FLと頻度FHとのいずれかが0でない限りミッシングコードの発生は低減されうる。
【0085】
例えば、逐次比較AD変換器100は、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLであるときにアナログ入力値「14」が入力された場合、AD変換曲線LineAに従い、AD変換結果出力値「16」を出力する。また、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHであるときにアナログ入力値「14」が入力された場合、AD変換曲線LineBに従い、AD変換結果出力値「14」を出力する。したがって、アナログ入力値「14」に対するAD変換結果出力値の平均値はデューティー比が1:1である場合、15(=16×0.5+14×0.5)となる。デューティー比が1:1である場合、14.2(=16×0.1+14×0.9)となる。
【0086】
本実施形態では、コードシフトイネーブル信号E_SFTは、サンプリングを行うタイミングを示すサンプリング信号を2分周した信号とすることができる。サンプリング信号を2分周するための構成は、1つのフリップフロップ回路により簡単に実現されうる。仮に、コードシフトイネーブル信号E_SFTが、サンプリング信号を4分周した信号であり、L、L、H、Hの順に出力された場合も、上述したような本実施形態の効果を奏することができる。しかし、段差エラーが周波数変調される周波数と関係するため、コードシフトイネーブル信号E_SFTがサンプリング信号を2分周した信号である場合に比べて、変調される周波数が低域に落ちる。したがって、コードシフトイネーブル信号E_SFTは、サンプリングを行うタイミングを示すサンプリング信号を2分周した信号である方が、AD変換を受ける後段のデジタルフィルタ処理(例えば移動平均フィルタ)によってエラー成分を落としやすい。
【0087】
なお、上述したように、逐次比較AD変換器100は、
図1及び
図2に示すように、冗長性をもつ中位ビットDAC7、中位ビット反転回路346、及び冗長DAC制御信号生成回路347を有さなくてもよい。この場合、逐次比較AD変換器100が変換するデジタル値は、冗長ビットを有さないデジタル値である。冗長ビットを有さないデジタル値を変換する逐次比較AD変換器100による逐次比較AD変換について、
図10及び
図11を参照して説明する。
【0088】
図10に示すように、アナログ入力値が「17.5」である場合、逐次比較AD変換器100は、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLであるとき、AD変換結果出力値「17」を出力し、コードシフトイネーブル信号E_SFTがHであるとき、AD変換結果出力値「15」を出力する。このように、逐次比較AD変換器100が変換するデジタル値は、冗長ビットを有さないデジタル値である場合、コードシフト条件判定を実施すると、補正対象である上位ビットにおいて重みが理想的でないことによる誤差とは別に2コード分の誤差が生じる。
【0089】
この場合、
図11Aに示すように、コードシフト条件判定においては、中位ビット信号が「11」の場合、上位ビットDAC制御切替回路342は、上位ビット信号を正にシフトさせた上位DAC制御コードを出力し、下位ビットDAC制御切替回路343は、下位ビット信号に含まれる中位ビット信号の極性を反転させた中位ビットと、下位ビット信号に含まれる、中位ビット信号以外の信号に相当する下位ビットとを含む下位DAC制御コードを出力する。
【0090】
また、中位ビット信号が「00」の場合、上位ビットDAC制御切替回路342は、上位ビット信号を負にシフトさせた上位DAC制御コードを出力し、下位ビットDAC制御切替回路343は、下位ビット信号に含まれる中位ビット信号の極性を反転させた中位ビットと、下位ビット信号に含まれる、中位ビット信号以外の信号に相当する下位ビットとを含む下位DAC制御コードを出力する。
【0091】
また、中位ビットが「11」でも「00」でもない場合(「01」又は「10」である場合)、コードシフトイネーブル信号E_SFTがLであるの場合と同様に、上位ビットDAC制御切替回路342は上位ビット信号を変化させずに上位DAC制御コードとして出力し、下位ビットDAC制御切替回路343は下位ビット信号を変化させずに下位DAC制御コードとして出力する。
【0092】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形及び変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組合せたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。例えば上位ビットDA変換器としてサーモメータDA変換器を用いることや、下位ビットDA変換器としてカップリング容量を用いた2ステージ構成とすることは可能である。
【符号の説明】
【0093】
1 入力サンプル/ホールド回路
2 比較回路
3 制御回路
4 第1ビットDA変換器(上位ビットDAC)
5 第2ビットDA変換器(下位ビットDAC)
6 参照信号生成部
7 冗長ビットDA変換器(中位ビットDAC)
31 シフトイネーブル信号生成回路
32 変換タイミング生成回路
33 逐次比較レジスタ
34 演算部(DAC制御コードシフト回路)
341 コードシフト条件判定回路
342 下位ビットDAC制御切替回路
343 第1のセレクタ
344 上位ビットDAC制御切替回路
345 第2のセレクタ
346 中位ビット反転回路
347 冗長DAC制御信号生成回路