(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】保護部材の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/683 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
H01L21/68 N
(21)【出願番号】P 2019201389
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】110001014
【氏名又は名称】弁理士法人東京アルパ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 良信
【審査官】杢 哲次
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-142630(JP,A)
【文献】特開2012-146871(JP,A)
【文献】特開2010-186776(JP,A)
【文献】特開2007-311727(JP,A)
【文献】特開2019-87620(JP,A)
【文献】特開2013-175647(JP,A)
【文献】特開2006-156683(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0121552(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/683
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を溶かして、ウェーハの一方の面の全面に押し広げた該熱可塑性樹脂を硬化させ、保護部材を形成する保護部材の形成方法であって、
ステージの樹脂載置面に、複数の粒状の該熱可塑性樹脂を配置する樹脂供給工程と、
ウェーハ保持手段のウェーハ保持面によってウェーハの他方の面を保持するウェーハ保持工程と、
上下移動手段を用いて、該ウェーハ保持手段と該ステージとを相対的に接近する方向に移動させることにより、粒状の該熱可塑性樹脂に、該ウェーハ保持手段に保持されたウェーハの一方の面を接触させる接触工程と、
該ウェーハの一方の面に接触している粒状の該熱可塑性樹脂を加熱するとともに、該樹脂載置面と該ウェーハ保持面との間で超音波振動を伝播させ、該ウェーハ保持面に保持されたウェーハの一方の面と該樹脂載置面との間に挟まれている該熱可塑性樹脂が一体化されているか否かを認識する樹脂状態認識工程と、
該樹脂状態認識工程で一体化されていると認識された該熱可塑性樹脂を、該ウェーハによって、該ウェーハの一方の面の全面に押し広げる押し広げ工程と、
該押し広げられた
該熱可塑性樹脂を冷却して硬化させる硬化工程と、
を備え、ウェーハの一方の面の全面を保護する保護部材を形成する、
保護部材の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護部材の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示の技術では、アズスライスウェーハの一方の面に、樹脂を用いて保護部材を形成している。この保護部材を介して、ウェーハをチャックテーブルによって保持し、ウェーハの他方の面を研削する。これにより、ウェーハのうねりを除去するとともに、ウェーハの厚みを均一に整形している。
【0003】
保護部材の形成は、たとえば、以下のように実施される。まず、ステージの上に、シートを配置する。シートの上に、液状樹脂を供給する。液状樹脂をウェーハの一方の面によって押し広げる。これにより、ウェーハの一方の面の全面に、液状樹脂が押し広げられる。その後、この液状樹脂を硬化させる。
【0004】
この液状樹脂は、液状樹脂が充填されているタンクから、ポンプで吸い上げられ、ステージの上のシートの上に供給される。液状樹脂のタンクは重いため、その交換作業は、作業者の負担となっている。その対策として、固体の粒状の樹脂を用いる技術がある。
【0005】
この技術では、粒状の樹脂をステージ上で液状に溶かし、ウェーハの一方の面によって、板状に押し広げる。この樹脂を、冷却することによって硬化する。これによって、ウェーハの一方の面に、板状の保護部材を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記した固体の粒状の樹脂を用いた保護部材の形成方法では、溶かされる樹脂が、ステージとウェーハとに挟まれている。このため、固体の樹脂が溶かされているか否かを判断する事が困難である。これにより、溶けきっていない樹脂を含む不十分な液状の樹脂に、ウェーハによって押し広げてしまうことがある。この場合、を均一な厚みの保護部材を形成することが困難であり、粒状の樹脂およびその液状化にかかる時間が無駄になる可能性がある。
【0008】
したがって、本発明の目的は、固体の樹脂を液状にして保護部材を形成する際、樹脂が液状になったことを良好に認識(確認)することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の保護部材の形成方法(本形成方法)は、熱可塑性樹脂を溶かして、ウェーハの一方の面の全面に押し広げた該熱可塑性樹脂を硬化させ、保護部材を形成する保護部材の形成方法であって、ステージの樹脂載置面に、複数の粒状の該熱可塑性樹脂を配置する樹脂供給工程と、ウェーハ保持手段のウェーハ保持面によってウェーハの他方の面を保持するウェーハ保持工程と、上下移動手段を用いて、該ウェーハ保持手段と該ステージとを相対的に接近する方向に移動させることにより、粒状の該熱可塑性樹脂に、該ウェーハ保持手段に保持されたウェーハの一方の面を接触させる接触工程と、該ウェーハの一方の面に接触している粒状の該熱可塑性樹脂を加熱するとともに、該樹脂載置面と該ウェーハ保持面との間で超音波振動を伝播させ、該ウェーハ保持面に保持されたウェーハの一方の面と該樹脂載置面との間に挟まれている該熱可塑性樹脂が一体化されているか否かを認識する樹脂状態認識工程と、該樹脂状態認識工程で一体化されていると認識された該熱可塑性樹脂を、該ウェーハによって、該ウェーハの一方の面の全面に押し広げる押し広げ工程と、該押し広げられた該熱可塑性樹脂を冷却して硬化させる硬化工程と、を備え、ウェーハの一方の面の全面を保護する保護部材を形成する。
【発明の効果】
【0010】
本形成方法では、樹脂状態認識工程において、ウェーハの一方の面と樹脂載置面との間に挟まれている熱可塑性樹脂が、十分に溶けて一体化されているか否かを認識している。そして、一体化されていると認識されたときに、押し広げ工程を実施し、熱可塑性樹脂を、ウェーハによって、ウェーハの一方の面の全面に押し広げている。したがって、本形成方法では、十分に溶けていない熱可塑性樹脂をウェーハによって押圧して押し広げてしまうことを、抑制することができる。また、十分に溶けていない熱可塑性樹脂をウェーハによって押圧してウェーハを破損させることを、抑制することができる。これにより、ウェーハの一方の面に形成される熱可塑性樹脂からなる保護部材の厚みを、略均等にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】樹脂保護部材形成装置の構成を示す説明図である。
【
図2】樹脂保護部材形成装置における樹脂供給工程を示す説明図である。
【
図3】樹脂保護部材形成装置におけるウェーハ保持工程を示す説明図である。
【
図4】樹脂保護部材形成装置におけるウェーハ接触工程を示す説明図である。
【
図5】樹脂保護部材形成装置における加熱工程および樹脂状態認識工程を示す説明図である。
【
図6】超音波受信器によって受信される超音波振動の例を示すグラフである。
【
図7】樹脂保護部材形成装置における押し広げ工程を示す説明図である。
【
図8】樹脂保護部材形成装置における冷却(硬化)を示す説明図である。
【
図9】樹脂保護部材形成装置における離間工程を示す説明図である。
【
図10】樹脂保護部材形成装置におけるウェーハ搬出工程を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に示す本実施形態にかかる樹脂保護部材形成装置1は、ステージ20の樹脂載置面23に載置された固体の粒状の熱可塑性樹脂Pを溶かして、ウェーハWの一方の面の全面に押し広げた該熱可塑性樹脂を硬化させて、保護部材を形成するものである。熱可塑性樹脂Pの材料は、たとえばポリオレフィンである。樹脂載置面23には、載置された熱可塑性樹脂が剥がれやすいように、たとえば、フッ素コーティングが施されている。
【0013】
樹脂保護部材形成装置1は、真空形成チャンバー2内に、ウェーハ保持面13によってウェーハWを保持するウェーハ保持手段10と、粒状の熱可塑性樹脂Pを載置するための樹脂載置面23を有するステージ20と、上下移動手段(上下動作手段)30とを備えている。
【0014】
真空形成チャンバー2は、内部を真空にすることの可能な樹脂保護部材形成装置1の筐体であり、開口4、開口4を覆うことの可能なカバー3、カバー3を開閉するためのカバー開閉手段5、および、真空形成チャンバー2内を真空にするための真空ポンプ7を備えている。
【0015】
ウェーハ保持手段10は、真空形成チャンバー2の上面を貫通して延びる支持柱11、および、支持柱11の下端に設けられ、真空形成チャンバー2内に配置されているウェーハ保持テーブル12を備えている。また、ウェーハ保持テーブル12の下面は、ウェーハWを吸引保持するためのウェーハ保持面13となっている。
なお、真空形成チャンバー2の上面における支持柱11の貫通部分には、真空形成チャンバー2内の真空を維持するための真空シール2aが設けられている。
【0016】
支持柱11およびウェーハ保持テーブル12には、エア供給源14および吸引源16に連結された通気路15が設けられている。ウェーハ保持テーブル12におけるウェーハ保持面13は、通気路15を介して、エア供給源14および吸引源16に対して選択的に連通するように構成されている。ウェーハ保持手段10は、ウェーハWを、吸引源16に連通されたウェーハ保持面13によって吸引保持することが可能である。
【0017】
また、ウェーハ保持手段10におけるウェーハ保持テーブル12には、ウェーハ保持面13の近傍に、超音波発振器18が備えられている。超音波発振器18は、たとえば高周波電源を備える超音波発信部17に接続されている。超音波発振器18は、超音波発信部17からの高周波電力を用いて、超音波を発振する。
【0018】
ステージ20は、真空形成チャンバー2の底面を貫通して延びる支持柱21、および、支持柱21の上端に設けられ、真空形成チャンバー2内に配置されている樹脂載置テーブル22を備えている。また、樹脂載置テーブル22の上面は、熱可塑性樹脂Pを載置するための樹脂載置面23となっている。
【0019】
樹脂載置面23は、ウェーハ保持手段10のウェーハ保持面13に対面するように配置されている。また、真空形成チャンバー2の底面における支持柱21の貫通部分には、真空形成チャンバー2内の真空を維持するための真空シール2bが設けられている。
【0020】
また、ステージ20における樹脂載置テーブル22には、樹脂載置面23の近傍に、超音波受信器33が備えられている。超音波受信器33は、自身に伝搬された超音波振動を受信し、これを電圧に変換して、超音波受信部34に伝達する。
【0021】
また、樹脂保護部材形成装置1は、ウェーハ搬送手段40および樹脂搬送手段50を備えている。ウェーハ搬送手段40および樹脂搬送手段50は、ロボットハンド等の搬送用部材である。これらウェーハ搬送手段40および樹脂搬送手段50は、別々の部材であってもよいし、共通する1つの部材であってもよい。
【0022】
ウェーハ搬送手段40は、真空形成チャンバー2に対して、外部からウェーハWを搬送する。ウェーハ搬送手段40は、開口4を介して、真空形成チャンバー2内のウェーハ保持手段10のウェーハ保持面13に対向する位置に、ウェーハWを配置することが可能である。ウェーハ保持手段10では、このように配置されたウェーハWを、吸引源16に連通されたウェーハ保持面13によって吸引保持することができる。
【0023】
樹脂搬送手段50は、樹脂保護部材形成装置1に対して、外部から複数の粒状の熱可塑性樹脂Pを搬送する。樹脂搬送手段50は、真空形成チャンバー2の開口4を介して、真空形成チャンバー2内のステージ20の樹脂載置面23上に、粒状の熱可塑性樹脂Pを載置する。
なお、粒状の熱可塑性樹脂Pが樹脂載置面23から落ちないように、樹脂載置面23の外周には環状の凸部を形成してもよい。
【0024】
上下移動手段30は、真空形成チャンバー2の上面に配置されており、ウェーハ保持手段10の支持柱11に連結されている。上下移動手段30は、ウェーハ保持手段10とステージ20とを、相対的に、樹脂載置面23に垂直な上下方向であるZ軸方向に沿って移動させる。本実施形態では、上下移動手段30は、ウェーハ保持手段10の支持柱11を、Z軸方向に移動させる。すなわち、上下移動手段30は、固定されているステージ20に対して、ウェーハ保持手段10をZ軸方向に沿って移動させるように構成されている。
【0025】
詳細には、上下移動手段30は、支持柱11に連結されて水平方向に延びるアーム31、アーム31に連結されてZ軸方向に沿って延びる駆動ロッド32、および、移動距離を検知するセンサー35を備えている。図示しない駆動源によって駆動ロッド32が上下動されることにより、アーム31、および、アーム31に連結されているウェーハ保持手段10(支持柱11)が、Z軸方向に沿って上下に移動する。ウェーハ保持手段10の移動距離は、センサー35によって検知される。
【0026】
また、樹脂保護部材形成装置1は、荷重検知手段60を備えている。荷重検知手段60は、上下移動手段30を介して、ウェーハ保持手段10の支持柱11に連結されている。荷重検知手段60は、ウェーハ保持手段10とステージ20とが、ウェーハWおよび熱可塑性樹脂Pを介して互いに当接したときに、ウェーハ保持手段10にかかる荷重(すなわち、ウェーハWが熱可塑性樹脂Pを押圧する力)を検知する。
【0027】
また、本実施形態にかかるステージ20は、その内部に、ペルチェ素子24を有している。ペルチェ素子24は、ステージ20に配置された温度調節装置の一例である。ペルチェ素子24は、たとえば平板形状を有しており、ステージ20の樹脂載置テーブル22における樹脂載置面23の近傍に、樹脂載置面23に平行に配置されている。ペルチェ素子24は、樹脂載置面23に平行で樹脂載置面23に近い上面24aと、樹脂載置面23から遠い下面24bとを有している。
【0028】
さらに、ペルチェ素子24の両端には、支持柱21および樹脂載置テーブル22内に引き回された第1電力線25および第2電力線26の一端が取り付けられている。第1電力線25および第2電力線26の他端は、切換手段27を介して、直流電源28に接続されている。
【0029】
直流電源28は、ペルチェ素子24に直流電流を供給する電源である。切換手段27は、直流電源28を第1電力線25および第2電力線26を介してペルチェ素子24に接続する機能、および、直流電源28から第1電力線25および第2電力線26を介してペルチェ素子24に流れる直流電流の向きを切り換える機能を有している。
【0030】
すなわち、切換手段27は、ペルチェ素子24に供給される直流電流の方向を、ペルチェ素子24の上面24aを加熱する第1方向と、ペルチェ素子24の上面24aを冷却する、第1方向とは逆方向の第2方向とを切り換えるように構成されている。なお、ペルチェ素子24の下面24bは、第1方向に直流電流が流れるときには冷却される一方、第2方向に直流電流が流れるときには加熱される。
【0031】
また、樹脂保護部材形成装置1は、樹脂保護部材形成装置1の各部材を制御する制御手段70を備えている。制御手段70は、上述した樹脂保護部材形成装置1の各部材を制御して、ウェーハWの一方の面の全面に保護部材を形成する。
【0032】
次に、樹脂保護部材形成装置1におけるウェーハWに対する保護部材の形成動作について説明する。
【0033】
まず、制御手段70は、カバー開閉手段5を制御して、真空形成チャンバー2のカバー3を開放し、開口4を露出させる。そして、制御手段70は、複数の粒状の熱可塑性樹脂Pを保持している樹脂搬送手段50を-X方向に移動させることにより、熱可塑性樹脂Pを、露出された開口4から真空形成チャンバー2内に搬入する。さらに、制御手段70は、樹脂搬送手段50を制御して、
図2に示すように、ステージ20の樹脂載置面23上に、複数の熱可塑性樹脂Pを、たとえば略均等間隔で面状に配置(載置)する(樹脂供給工程)。
【0034】
次に、制御手段70は、
図1に示した吸引源16を、ウェーハ保持手段10のウェーハ保持面13に連通する。これにより、ウェーハ保持面13が負圧となる。さらに、制御手段70は、ウェーハWを保持しているウェーハ搬送手段40を-X方向に移動させることにより、ウェーハWを、露出された開口4から真空形成チャンバー2内に搬入し、ウェーハ保持面13に対向する位置に配置する。さらに、制御手段70は、
図3に示すように、ウェーハ保持面13によって、ウェーハWの第1面(他方の面)Waを吸引保持する。これにより、ウェーハWが、第2面(一方の面)Wbを熱可塑性樹脂Pに向けた状態で、樹脂載置面23に載置された熱可塑性樹脂Pの上方に配置される(ウェーハ保持工程)。
【0035】
次に、制御手段70は、
図1に示したカバー開閉手段5を制御して、真空形成チャンバー2のカバー3を閉じて、開口4を塞ぐ。
【0036】
制御手段70は、上下移動手段30を制御して、ウェーハ保持手段10を、Z軸方向に沿って下方に移動させる。これにより、
図4に示すように、ウェーハ保持手段10のウェーハ保持面13に保持されているウェーハWの第2面Wbが、ステージ20の樹脂載置面23に保持されている複数の熱可塑性樹脂Pに接触される(ウェーハ接触工程)。
【0037】
このようにして、制御手段70は、上下移動手段30を用いて、ウェーハ保持手段10とステージ20とを相対的に接近する方向に移動させることにより、ウェーハ保持手段10に保持されたウェーハWの第2面Wbを、樹脂載置面23に保持された粒状の熱可塑性樹脂Pに接触させる(比較的に弱い力で押さえる)。
この状態で、制御手段70は、真空ポンプ7を制御して、真空形成チャンバー2内を真空引きする。
【0038】
さらに、この状態で、真空形成チャンバー2内の気圧が所定値以下となったとき、制御手段70は、
図1に示した切換手段27を制御して、直流電源28を、第1電力線25および第2電力線26を介して、ペルチェ素子24に接続する。そして、制御手段70は、切換手段27を制御して、直流電源28からの直流電流の方向を、
図5に矢印D1によって示すように、ペルチェ素子24の上面24aを加熱(h)する第1方向に設定する。
【0039】
このようにして、制御手段70は、ウェーハWの第2面Wbによって熱可塑性樹脂Pを押さえながら、直流電流を第1方向に流すことにより、ペルチェ素子24の上面24aを加熱(h)して、樹脂載置面23、および、樹脂載置面23上の熱可塑性樹脂Pを加熱し、熱可塑性樹脂Pを溶かす(加熱工程)。なお、この際、ペルチェ素子24の下面24bは、冷却(c)される。
【0040】
さらに、制御手段70は、超音波発信部17を制御して、超音波発振器18から超音波を発振する。超音波発振器18から発振された超音波は、ウェーハ保持面13と樹脂載置面23との間(すなわち熱可塑性樹脂P)で伝播される。そして、制御手段70は、超音波受信器33によって受信された超音波振動の振幅に応じた電圧を、超音波受信部34を介して取得する。制御手段70は、取得した電圧から、超音波受信器33によって受信された超音波振動の振幅量を求める。制御手段70は、求めた超音波振動の振幅量に基づいて、ウェーハ保持面13と樹脂載置面23との間に挟まれている熱可塑性樹脂Pが液状になって一体化されているか否か(十分に溶けているか否か)を判断する(樹脂状態認識工程)。
【0041】
図6に、超音波受信器33によって受信される超音波振動のグラフを示す。このグラフでは、縦軸が振幅量(A)を示し、横軸が時間(T)を示す。超音波受信器33によって受信される超音波振動は、熱可塑性樹脂Pが十分に液状になっておらず一体化されていない場合、
図6に破線R0によって示すように、比較的に小さい振幅を有する。一方、熱可塑性樹脂Pが十分に液状になって一体化されている場合には、超音波受信器33によって受信される超音波振動は、
図6に実線R1によって示すように、比較的に大きい振幅を有する。
したがって、制御手段70は、たとえば、超音波受信器33によって受信される超音波振動の振幅が所定値以上となった場合に、ウェーハ保持面13と樹脂載置面23との間に挟まれている熱可塑性樹脂Pが溶けて一体化されている(液状化されている)、と判断する。
【0042】
制御手段70は、ウェーハ保持面13と樹脂載置面23との間に挟まれている熱可塑性樹脂Pが溶けて一体化されている、と判断した場合、上下移動手段30を制御して、ウェーハWの第2面Wbによって、一体化された熱可塑性樹脂Pを、より強く押圧する。このようにして、制御手段70は、樹脂載置面23とウェーハWの第2面Wbとの間で、一体化された熱可塑性樹脂Pを、ウェーハWによって、第2面Wbの全面に押し広げる。これにより、
図7に示すように、溶けて押し広げられた熱可塑性樹脂Pからなる溶融樹脂層Sが、ウェーハWの第2面Wbの全面を覆うように形成される(押し広げ工程)。
【0043】
その後、制御手段70は、切換手段27(
図1参照)を制御して、直流電源28からの直流電流を、
図8に矢印D2によって示すように、ペルチェ素子24の上面24aを冷却(c)する、第1方向とは逆方向の第2方向に流す。これにより、制御手段70は、ウェーハWの第2面Wbによって溶融樹脂層Sを押圧しながら、ペルチェ素子24の上面24aを冷却(c)する。このように上面24aを冷却(c)することによって、制御手段70は、樹脂載置面23、および、樹脂載置面23上の溶融樹脂層Sを冷却して、溶融樹脂層Sを硬化する。これにより、硬化された溶融樹脂層Sからなる保護部材Sa(
図9参照)が、ウェーハWの第2面Wbの全面に形成される(冷却(硬化)工程)。なお、この際、ペルチェ素子24の下面24bは、加熱(h)される。
【0044】
次に、制御手段70は、切換手段27を制御して、直流電源28をペルチェ素子24から切断する。そして、制御手段70は、
図1に示した上下移動手段30を制御して、ウェーハ保持手段10を、Z軸方向に沿って上方に移動させて、
図9に示すように、ステージ20(樹脂載置面23)から離間させる。すなわち、制御手段70は、ウェーハWの第2面Wbに形成された保護部材Saを、樹脂載置面23から離間させる。これにより、制御手段70は、第2面Wbに保護部材Saが形成されたウェーハWを、ウェーハ保持手段10のウェーハ保持面13によって保持することができる(離間工程)。
【0045】
次に、制御手段70は、
図1に示した真空ポンプ7を停止するとともに、カバー開閉手段5を制御して、真空形成チャンバー2のカバー3を開放し、開口4を露出させる。これにより、真空形成チャンバー2内の真空が破られる。
【0046】
さらに、制御手段70は、
図10に示すように、ウェーハ搬送手段40を、ウェーハ保持手段10のウェーハ保持面13に対向配置して、ウェーハWの第2面Wbを覆う保護部材Saに接触させる。さらに、制御手段70は、ウェーハ保持手段10のウェーハ保持面13を、エア供給源14に連通する。これにより、ウェーハ保持面13によるウェーハWの吸着が外れて、ウェーハWが、ウェーハ搬送手段40によって保持される。
【0047】
そして、制御手段70は、ウェーハ搬送手段40によって、ウェーハWを、矢印Eによって示すように+X方向に移動させて、開口4を介して真空形成チャンバー2の外部に搬出する(ウェーハ搬出工程)。
なお、ウェーハ搬送手段40は、ウェーハWの第1面Waを保持してもよい。
【0048】
以上のように、本実施形態では、樹脂状態認識工程において、樹脂載置面23とウェーハ保持面13との間で超音波振動を伝播させ、ウェーハ保持面13に保持されたウェーハWの第2面Wbと樹脂載置面23との間に挟まれている熱可塑性樹脂Pが、十分に溶けて一体化されているか否かを認識している。そして、一体化されていると認識されたときに、押し広げ工程を実施し、熱可塑性樹脂Pを、ウェーハWによって、ウェーハWの第2面Wbの全面に押し広げている。したがって、本実施形態では、十分に溶けていない熱可塑性樹脂PをウェーハWによって押圧して押し広げてしまうことを、抑制することができる。また、十分に溶けていない熱可塑性樹脂PをウェーハWによって押圧してウェーハWを破損させることを、抑制することができる。これにより、ウェーハWの第2面Wbに形成される、熱可塑性樹脂Pからなる保護部材Saの厚みを、略均等にすることができる。
【0049】
さらに、本実施形態では、加熱工程において、ペルチェ素子24の上面24aを加熱することにより、樹脂載置面23、および、その上に載置されている熱可塑性樹脂Pを加熱して溶融樹脂層Sを得ている。このとき、ペルチェ素子24の下面24bが冷却されていることによって、次工程である冷却(硬化)工程において、樹脂載置面23を冷却する冷却効果を高めることができる。したがって、溶融樹脂層Sを冷却および硬化してウェーハWの第2面Wbに保護部材Saを形成するための時間(冷却(硬化)工程の時間)を、短縮することが可能である。
【0050】
なお、本実施形態では、加熱工程および冷却工程において、ペルチェ素子24に直流電流を流して、ペルチェ素子24の上面24aを加熱あるいは冷却することにより、粒状の熱可塑性樹脂Pを加熱する、あるいは、溶融樹脂層Sを冷却している。しかしながら、このような加熱および冷却を実施するための構成は、ペルチェ素子24に限られない。ペルチェ素子24に代えて、ステージ20あるいはウェーハ保持手段10に配置された他の温度調節装置が用いられてもよい。
【0051】
また、本実施形態では、真空形成チャンバー2の上面に設けられた荷重検知手段60により、ウェーハ保持手段10とステージ20とがウェーハWおよび溶融樹脂層Sを介して互いに当接したときに、ウェーハ保持手段10にかかる荷重を検知している。このような荷重検知手段は、ウェーハ保持手段10のウェーハ保持テーブル12内、あるいは、ステージ20の樹脂載置テーブル22内に設けられてもよい。
【符号の説明】
【0052】
1:樹脂保護部材形成装置、
2:真空形成チャンバー、3:カバー、5:カバー開閉手段、7:真空ポンプ、
10:ウェーハ保持手段、12:ウェーハ保持テーブル、13:ウェーハ保持面、
14:エア供給源、15:通気路、16:吸引源、
17:超音波発信部、18:超音波発振器、
20:ステージ、22:樹脂載置テーブル、23:樹脂載置面、
24:ペルチェ素子、24a:上面、24b:下面、
25:第1電力線、26:第2電力線、
27:切換手段、28:直流電源、33:超音波受信器、34:超音波受信部
30:上下移動手段、60:荷重検知手段、
40:ウェーハ搬送手段、50:樹脂搬送手段、
70:制御手段、
S:溶融樹脂層、
W:ウェーハ、Wb:第2面