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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】真空蒸着装置
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/24 20060101AFI20231205BHJP
   H05B 33/10 20060101ALI20231205BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231205BHJP
【FI】
C23C14/24 G
C23C14/24 L
H05B33/10
H05B33/14 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020032593
(22)【出願日】2020-02-28
(65)【公開番号】P2021134405
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2022-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】梅原 政司
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】柳堀 文嗣
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-039584(JP,A)
【文献】特開2006-090851(JP,A)
【文献】特開2019-183248(JP,A)
【文献】特開2005-038646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
H05B 33/10
H10K 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内に蒸着源とこの蒸着源に対向配置されて被処理基板を保持する保持ステージとを備える真空蒸着装置において、
保持ステージが、これに保持される被処理基板をその基板中心回りに回転駆動する第1の駆動手段を備え、
蒸着源が、蒸着物質を収容する一方向に長手の収容箱と保持ステージに対向する収容箱の上面に設けられて蒸着物質の加熱により気化または昇華した蒸着物質の放出を可能とする複数の放出開口とを備え、真空チャンバの内底面に周方向に間隔を置いて複数枚の隔絶板が放射状に設けられると共に、互いに隣接した各隔絶板で囲繞される空間に蒸着源の複数個が基板中心を中心とする仮想円周上に配置され、
保持ステージと各蒸着源との間に位置する真空チャンバ内の空間に遮蔽ユニットを更に備え、遮蔽ユニットが、上下方向に重ねて配置される上下一対の板状の遮蔽部と、各遮蔽部を基板中心回りに夫々回転させる第2の駆動手段とを有し、上方に位置する上遮蔽部の外周縁部に、その全周に亘ってその下方に向けて所定高さで突出する突条が設けられ、突条の内側に位置させて下方に位置する下遮蔽部が上下に微小な隙間を存して重ねて配置され、第2の駆動手段が、真空チャンバの内底面に立設した支柱の支持板上に設置されると共に、筒状の防着板で囲繞され、
上遮蔽部に第1通路が、下遮蔽部に第2通路が夫々形成されて、各遮蔽部を基板中心回りに所定の回転角だけ夫々回転させたときの第1通路と第2通路とが上下方向で合致する位相で、少なくとも1個の蒸着源の各放出開口から放出される蒸着物質の通過を許容するように構成され、
前記上遮蔽部を冷却する冷却手段を更に備え、冷却手段が真空チャンバ内で径方向に進退自在に配置される冷却ヘッドを有して、上遮蔽部の静止状態で冷却ヘッドが上遮蔽部に当接して伝熱により上遮蔽部を冷却するように構成したことを特徴とする真空蒸着装置。
【請求項2】
前記第1通路と前記第2通路とは、各遮蔽部を基板中心回りに所定の回転角だけ夫々回転させたときに上下方向で合致しない位相が存在するように構成したことを特徴とする請求項1記載の真空蒸着装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空チャンバ内に蒸着源とこの蒸着源に対向配置されて被処理基板を保持する保持ステージとを備える真空蒸着装置に関し、より詳しくは、蒸着源を複数配置し、被処理基板に蒸着できる蒸着源を選択できるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
有機ELディスプレイやイメージセンサなどの素子の製造工程においては、シリコンウエハなどの被処理基板(以下「基板」という)表面に異なる低分子の有機膜を順次積層し、または、2種以上の有機材料(所謂ホスト材とゲスト材)を同時成膜する場合があり、このような成膜には、真空蒸着装置が広く利用されている(例えば、特許文献1参照)。従来例のものは、真空チャンバを備え、真空チャンバ内には、基板を回転自在に保持するステージと、このステージに対向する同一平面上に設置される2個以上の蒸着源とが設けられる。蒸着源は、蒸着物質としての固体の有機材料を収容する坩堝と坩堝内の有機材料を加熱する加熱手段とを備え、真空チャンバ内の真空雰囲気中にて坩堝内の有機材料を加熱すると、有機材料が気化または昇華し、この気化または昇華したものが坩堝の上面開口(放出開口)から所定の余弦則に従い放出され、基板に付着、堆積されて所定の有機膜やその多層膜が成膜される。
【0003】
また、2種の有機材料を同時成膜する際に、一方の有機材料に対する他方の有機材料のドープ量を調整できるように、ステージと一方の蒸着源との間に位置する真空チャンバ内の空間には、遮蔽ユニットが設けられている。遮蔽ユニットは、1つ以上の開口部を有する板状の遮蔽部と、遮蔽部を回転駆動するモータとで構成されている。また、ステージと遮蔽ユニットとの間に位置する真空チャンバ内の空間には、各蒸着源から所定の余弦則に従い放出された有機材料の飛散経路を遮るシャッタ-が開閉自在に設けられ、シャッタ-を開位置にしたとき、基板に対する蒸着が可能となっている。
【0004】
ここで、上記のような有機膜の成膜時、各蒸着源から基板への入熱により素子性能を決める有機膜がダメージを受ける場合がある。このような場合、基板と蒸着源との間の所謂ES間距離を長く設計すれば、基板への入熱の影響を可及的に抑制することができるが、これでは、装置の大型化を招来すると共に、放出開口から所定の余弦則に従い放出された有機材料の基板への付着効率が低下し、有機材料が無駄になるという問題がある。なお、近年では、新規の有機材料が次々と開発されることから、有機膜を利用した素子開発のために、同一の真空チャンバ内にて、基板表面に異なる有機膜を順次積層できる構成を持つ真空蒸着装置が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-193217号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、被処理基板表面に異なる有機膜の積層または2種以上の有機材料の同時成膜が実施でき、その際、基板への入熱の影響を可及的に抑制することができる真空蒸着装置を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内に蒸着源とこの蒸着源に対向配置されて被処理基板を保持する保持ステージとを備える本発明の真空蒸着装置は、保持ステージが、これに保持される被処理基板をその基板中心回りに回転駆動する第1の駆動手段を備え、蒸着源が、蒸着物質を収容する一方向に長手の収容箱と保持ステージに対向する収容箱の上面に設けられて蒸着物質の加熱により気化または昇華した蒸着物質の放出を可能とする複数の放出開口とを備え、真空チャンバの内底面に周方向に間隔を置いて複数枚の隔絶板が放射状に設けられると共に、互いに隣接した各隔絶板で囲繞される空間に蒸着源の複数個が基板中心を中心とする仮想円周上に配置され、保持ステージと各蒸着源との間に位置する真空チャンバ内の空間に遮蔽ユニットを更に備え、遮蔽ユニットが、上下方向に重ねて配置される上下一対の板状の遮蔽部と、各遮蔽部を基板中心回りに夫々回転させる第2の駆動手段とを有し、上方に位置する上遮蔽部の外周縁部に、その全周に亘ってその下方に向けて所定高さで突出する突条が設けられ、突条の内側に位置させて下方に位置する下遮蔽部が上下に微小な隙間を存して重ねて配置され、第2の駆動手段が、真空チャンバの内底面に立設した支柱の支持板上に設置されると共に、筒状の防着板で囲繞され、上遮蔽部に第1通路が、下遮蔽部に第2通路が夫々形成されて、各遮蔽部を基板中心回りに所定の回転角だけ夫々回転させたときの第1通路と第2通路とが上下方向で合致する位相で、少なくとも1個の蒸着源の各放出開口から放出される蒸着物質の通過を許容するように構成され、前記上遮蔽部を冷却する冷却手段を更に備え、冷却手段が真空チャンバ内で径方向に進退自在に配置される冷却ヘッドを有して、上遮蔽部の静止状態で冷却ヘッドが上遮蔽部に当接して伝熱により上遮蔽部を冷却するように構成したことを特徴とする。


【0008】
本発明において、前記第1通路と前記第2通路とは、各遮蔽部を基板中心回りに所定の回転角だけ夫々回転させたときに上下方向で合致しない位相が存在する構成を採用することができ、また、前記上方一対の板状の遮蔽部のうち少なくとも一方を冷却する冷却手段を更に備える構成を採用することができる。
【0009】
本発明によれば、例えば、同一の構成を持つ蒸着源の複数個が仮想円周上に周方向に間隔を置いて且つ収容箱の長手方向が径方向に合致する姿勢で配置し、蒸着源の各収容箱に夫々異なる蒸着物質を収容すると共に、保持ステージに基板をセットする。そして、真空チャンバ内の真空排気を開始すると共に各収容箱内の蒸着物質の加熱を開始する。このとき、第2の駆動手段により各遮蔽部を基板中心回りに所定の回転角だけ夫々回転させて第1通路と第2通路とが上下方向で合致しない位相とすることができ、また、各蒸着源は、収容箱内の蒸着物質が気化または昇華する温度に達する手前の温度に保持することができる。
【0010】
次に、基板表面に第1の薄膜を成膜する場合、第2の駆動手段により各遮蔽部を基板中心回りに所定の回転角だけ夫々回転させ、この第1の薄膜の成膜に利用される少なくとも1個の蒸着源の上方にて第1通路と第2通路とが上下方向で合致する位相とする。そして、第1の駆動手段により基板を保持するステージを回転させると共に、その収容箱内の蒸着物質を更に加熱して蒸着物質を気化または昇華させる。これにより、気化または昇華したものが各放出開口から所定の余弦則に従い放出され、第1通路及び第2通路を経て基板に付着、堆積して第1の薄膜が成膜される。このとき、第1通路と第2通路との重なり合う面積や、第1通路と第2通路との重なり合う領域の収容箱内に対する位置を調整すれば、気化または昇華した蒸着物質が基板に付着するときの入射角を調整することができる。
【0011】
ここで、成膜に利用されない各蒸着源もまた加熱されている。然し、各遮蔽部の(通路が形成されていない)部分で覆われていることと、第1通路と第2通路との重なり合う領域を通過する基板の部分しか加熱されないこととが相俟って、基板と蒸着源との間の所謂ES間距離を比較的短く設計しても、基板への入熱の影響を可及的に抑制することができる。このとき、冷却手段により少なくとも上方に位置する遮蔽部が冷却されていれば、より一層基板への入熱の影響を抑制することができる。次に、第1の薄膜表面に第2の薄膜を成膜する場合、各遮蔽部を基板中心回りに所定の回転角だけ夫々回転させ、この第2の薄膜の成膜に利用される少なくとも1個の蒸着源の上方にて第1通路と第2通路とが上下方向で合致する位相とし、上記と同様に成膜される。
【0012】
他方、2種の蒸着物質を同時成膜するような場合には、この薄膜の成膜に利用される少なくとも2個の蒸着源の上方にて第1通路と第2通路とが上下方向で合致する位相とすればよい。このとき、第1通路と第2通路との重なり合う面積や、第1通路と第2通路との重なり合う領域の収容箱内に対する位置を調整すれば、一方の蒸着物質に対する他方の蒸着物質のドープ量を調整することが可能になる。このように本発明においては、同一の真空チャンバ内にて、基板表面に異なる有機膜を順次積層できるだけでなく、2種以上の蒸着物質の同時成膜も可能になり、しかも、基板への入熱の影響を可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施形態の真空蒸着装置の断面図。
図2図1のII-II線に沿う断面図。
図3】遮蔽ユニットの変形例を説明する平面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して、被処理基板をシリコンウエハ(以下、「基板Sw」という)、蒸着物質を固体の有機材料Omとし、基板Swの片面に対して有機膜の積層または2種以上の有機材料Omの同時成膜を実施可能とした場合を例に本発明の真空蒸着装置DMの実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を指す用語は、図1に示す真空蒸着装置DMの設置姿勢を基準とする。
【0015】
図1及び図2を参照して、真空蒸着装置DMは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、所定圧力(真空度)に真空排気して保持できるようになっている。また、真空チャンバ1の上部には、基板Swをその成膜面を下方に向けた姿勢で保持する保持ステージ2が設けられている。この場合、特に図示して説明しないが、保持ステージ2には、静電チャックやメカチャックなどの保持手段が設けられている。また、保持ステージ2には、真空シール(図示せず)を介して真空チャンバ1の天板を貫設した第1の駆動手段としてのモータ3の回転軸31が連結され、基板Sw中心を上下方向で通る回転軸線Ra回り(即ち、基板Sw中心回りに)回転駆動できるようにしている。
【0016】
保持ステージ2に対峙する真空チャンバ1の内底面には、6個の蒸着源4~4が回転中心Rcを中心とする仮想円周Vc上に周方向に等間隔で且つ後述の外容器の長手方向が径方向に合致する姿勢で配置されている。なお、蒸着源4~4を設置する数や、設置するときの姿勢はこれに限定されるものではなく、後述する遮蔽ユニットの第1通路、第2通路の形態(形状)に応じて適宜変更することができる。蒸着源4~4は、同一の構成を有している。各蒸着源4~4は、収容箱としての一方向(径方向)に長手で略直方体状の外容器41とこの外容器41と同等の輪郭を有してその内部に設置される、上面を開口した内容器42とを備え、内容器42に蒸着物質としての固体の有機材料Omが収容される。外容器41内には、内容器42の壁面を囲うようにしてシースヒータ等の加熱手段43が設けられ、加熱により有機材料Omを気化または昇華できるようにしている。なお、蒸着源4~4の形態はこれに限定されるものではなく、蒸着源としては公知のものを利用することができる。
【0017】
外容器41の上面(基板Swとの対向面)41aにはまた、所定高さの筒体で構成される放出開口44が径方向に所定間隔且つ2列で列設され、気化または昇華した有機材料Omを所定の余弦則に従い放出できるようになっている。外容器41の径方向の長さや、放出開口44の配置や本数は、これに限定されるものではなく、基板Swに成膜したときの膜厚分布などを考慮して適正設定される。また、真空チャンバ1の内底面には、回転軸線Raに位置させて支柱5が立設され、支柱5の上面には、円板状の支持板51が設けられている。また、真空チャンバ1の内底面には、周方向に等間隔で六枚の隔絶板6が放射状に立設され、互いに隣接した各隔絶板6で囲繞される扇状の空間に蒸着源4~4が位置するようになっている。支柱5や各隔絶板6の内底面からの高さは、所謂クロスコンタミネーションが発生しないように適宜設定される。
【0018】
保持ステージ2と各蒸着源4~4との間に位置する真空チャンバ1内の空間には、遮蔽ユニット7が設けられている。遮蔽ユニット7は上下一対の円板状の遮蔽部71,72と、各遮蔽部71,72を回転軸線Ra回りに回転駆動する第2の駆動手段73とを備える。第2の駆動手段73は、上方に位置する遮蔽部(以下、上遮蔽部71という)に連結される第1回転軸73aと、これに同心に配置されて下方に位置する遮蔽部(以下、下遮蔽部72)に連結される中空の第2回転軸73bと、両回転軸73a,73bを夫々回転駆動するステッピングモータ73cとで構成されている。この場合、ステッピングモータ73cは支柱5の支持板51に設置され、支持板51にはまた、両回転軸73a,73bやステッピングモータ73cへの気化または昇華した有機材料Omの付着を防止する筒状の防着板52が設置されている。
【0019】
上遮蔽部71の外周縁部には、その全周に亘ってその下方に向けて所定高さで突出する突条71aが設けられ、突条71aの内側に位置するように、下遮蔽部72が上下に微小な隙間を存して重ねて配置される。上遮蔽部71には、互いに隣接する2個の蒸着源4~4が開放できるように、略120度の中心角を持つ扇形の輪郭で開口が設けられ、この開口が第1通路74を構成するようになっている(図2参照)。一方、下遮蔽部72には、第1通路74の輪郭に一致する扇形の切欠きが設けられ、この切欠きで第2通路75が構成されるようになっている。以下に、上記真空蒸着装置DMを用いて所定の有機膜を積層する場合を例にその動作を説明する。
【0020】
例えば、互いに隣接する2個の蒸着源4~4を対とし、夫々対をなす蒸着源4~4の内容器42内に異種の有機材料Omを収容すると共に、保持ステージ2に基板Swをその処理面を下方に向けた姿勢でセットする。そして、真空チャンバ1内の真空排気を開始すると共に各内容器42内の有機材料Omの加熱を開始する。このとき、基板Sw表面に成膜しようとする第1有機膜に応じて、ステッピングモータ73cにより各遮蔽部71,72を回転軸線Ra回りに所定の回転角だけ夫々回転させて第1通路74と第2通路75とが上下方向で合致しない位相とする。一方、各蒸着源4~4は、有機材料Omが気化または昇華する温度に達する手前の温度に昇温され、保持される(なお、気化または昇華する温度に達した否かは、例えば、有機材料Omを収容した内容器42の重量変化から判断すればよい)。
【0021】
次に、基板Sw表面に第1有機膜を成膜する場合、ステッピングモータ73cにより各遮蔽部71,72を回転軸線Ra回りに所定の回転角だけ夫々回転させて、この成膜に利用する2個の蒸着源(例えば、4と4)の直上にて第1通路74と第2通路75とが上下方向で合致する位相とする。そして、モータ3により保持ステージ2を所定の回転数で回転させると共に、シースヒータ43により有機材料Omを更に加熱する。すると、気化または昇華したものが各放出開口44から所定の余弦則に従い放出され、第1通路74と第2通路75とを経て基板Swに付着、堆積し、第1有機膜が成膜される。このとき、第1通路74と第2通路75との重なり合う面積や、蒸着源4,4の放出開口44が形成された領域に対する第1通路74と第2通路75との重なり合う領域の相対位置を調整すれば、気化または昇華した有機材料Omが基板Swに付着するときの入射角を調整することができる。
【0022】
ここで、成膜に利用されない各蒸着源4~4もまた加熱されているが、それらの上面が各遮蔽部71,72の(通路74,75が形成されていない)部分で覆われていることと、保持ステージ2に保持されて回転する基板Swは、第1通路74と第2通路75との重なり合う領域を通過する部分しか加熱されないこととが相俟って、基板Swと蒸着源4~4との間の所謂ES間距離を比較的短く設計しても、基板Swへの入熱の影響を可及的に抑制することができる。
【0023】
次に、第2有機膜を成膜する場合、2個の蒸着源(例えば、4と4)にてシースヒータ43の加熱量を低下させた後、ステッピングモータ73cにより各遮蔽部71,72を回転軸線Ra回りに所定の回転角だけ夫々回転させて、この成膜に利用する2個の蒸着源(例えば、4と4)の直上にて第1通路74と第2通路75とが上下方向で合致する位相とする。そして、モータ3により保持ステージ2の回転を維持したまま、2個の蒸着源4,4にてシースヒータ43により有機材料Omを更に加熱する。すると、上記同様、気化または昇華したものが各放出開口44から所定の余弦則に従い放出され、第1通路74と第2通路75とを経て基板Swに付着、堆積し、第2有機膜が成膜される。そして、上記のようにして2個の蒸着源4,4にて第3有機膜が成膜される。
【0024】
他方、2種の有機材料Omを同時成膜するような場合には、この薄膜の成膜に利用される少なくとも2個の蒸着源4~4の上方にて第1通路74と第2通路75とが上下方向で合致する位相とすればよい。このとき、第1通路74と第2通路75との重なり合う面積や、第1通路74と前記第2通路75との重なり合う領域の収容箱41,42内に対する位置を調整すれば、一方の有機材料Omに対する他方の有機材料Omのドープ量を調整することが可能になる。以上の実施形態によれば、同一の真空チャンバ1内にて、基板Sw表面に異なる有機膜を順次積層できるだけでなく、2種以上の有機材料Omの同時成膜も可能になり、しかも、基板Swへの入熱の影響を可及的に抑制することができる。
【0025】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、蒸着物質として有機材料Omを成膜する場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、金属材料などの蒸着にも本発明は適用することができる。また、蒸着物質としては、固体のものに限定されず、液体のものを用いることもできる。また、上記実施形態では、遮蔽ユニット7が2枚の遮蔽部71,72を備えるものを例に説明したが、3枚以上の板状の遮蔽部を設けることもできる。また、各遮蔽部71,72の第1通路74、第2通路75として、単一の開口または切欠きを設けたものを例に説明したが、これに限定されるものでではなく、開口や切欠きを各遮蔽部71,72に複数箇所設けることができ、また、板厚方向に関する複数の孔で第1通路74、第2通路75を構成することができる。
【0026】
また、上記実施形態において、基板Swへの入熱の影響をより一層抑制するために、上遮蔽部71を冷却する冷却手段8を備える構成を採用することができる。冷却手段8としては、図3に示すように、例えば、真空チャンバ1内に設置される冷却ヘッド81と、真空チャンバ1外に設置される圧縮器、凝縮器及び膨張弁を備える冷凍機本体82とで構成することができる。この場合、冷却ヘッド81は、真空チャンバ1内に径方向に進退自在に設けられ、上遮蔽部71を回転させる場合には、上遮蔽部71から離間させ、上遮蔽部71が静止したときに、冷却ヘッド81が上遮蔽部71に当接することで、伝熱により上遮蔽部71を冷却できるようになっている。なお、冷却手段8はこれに限定されるものではなく、上遮蔽部71に冷媒を循環させて冷却することもできる。また、冷却ヘッド81が上遮蔽部71に当接することで上遮蔽部71を冷却するものを例に説明したが、これに限定されるものではなく、これに代えてまたは加えて下遮蔽部72を冷却できるように構成してもよい。
【符号の説明】
【0027】
DM…真空蒸着装置用、1…真空チャンバ、2…保持ステージ、3…モータ(第1の駆動手段)、4~4…蒸着源、41…外容器(収容箱)、42…内容器(収容箱)、43…シースヒータ(加熱手段)、44…放出開口、7…遮蔽ユニット、71…上遮蔽部(上方に位置する遮蔽部)、72…下遮蔽部(下方に位置する遮蔽部)、73c…ステッピングモータ(第2の駆動手段)、74…第1通路、75…第2通路、8…冷却手段、Om…有機材料(蒸着物質)、Ra…回転軸線(基板中心を通る線)、Vc…仮想円周。
図1
図2
図3