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特許7396948スルファニルスルホン酸化合物、粘弾性改質剤、ゴム組成物、及び、加硫ゴムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】スルファニルスルホン酸化合物、粘弾性改質剤、ゴム組成物、及び、加硫ゴムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 323/66 20060101AFI20231205BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20231205BHJP
   C08K 5/42 20060101ALI20231205BHJP
   C08K 3/06 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C07C323/66 CSP
C08L7/00
C08K5/42
C08K3/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020060407
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021155391
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-12-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100140578
【弁理士】
【氏名又は名称】沖田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】神本 奈津代
(72)【発明者】
【氏名】原 武史
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-221863(JP,A)
【文献】特開2011-202137(JP,A)
【文献】特開2017-048351(JP,A)
【文献】特開2011-046857(JP,A)
【文献】特開2013-049838(JP,A)
【文献】特開2012-107232(JP,A)
【文献】山下 晋三,加硫,日本ゴム協会誌,1972年,45 巻 2 号,pp. 157-183,<DOI: 10.2324/gomu.45.157>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C08L
C08K
CAplus/REGISTRY/MARPAT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で表され、mが2であり、nが3~10の整数を示し、R及びRがそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を示す、スルファニルスルホン酸化合物又はその金属塩。
【請求項2】
請求項1に記載のスルファニルスルホン酸化合物及び/又はその金属塩を含む、加硫ゴムの粘弾性改質剤。
【請求項3】
ゴム成分と、硫黄成分と、請求項1に記載のスルファニルスルホン酸化合物及び/又はその金属塩とを含む、ゴム組成物。
【請求項4】
請求項3に記載のゴム組成物を熱処理することを含む、加硫ゴムを製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルファニルスルホン酸化合物、粘弾性改質剤、ゴム組成物、及び、加硫ゴムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
加硫ゴムは、自動車用タイヤとして広く用いられている。自動車の燃費向上等の目的で、自動車タイヤ用の加硫ゴムの粘弾性特性を改善する方法が検討されている(例えば特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2011-202137号公報
【文献】特開2011-202138号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の一側面は、加硫ゴムの高温での粘弾性を改質できる新規な化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一側面は、下記式(1):
【化1】

で表され、mが2~7の整数を示し、nが3~10の整数を示し、R及びRがそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を示す、スルファニルスルホン酸化合物又はその金属塩を提供する。
【0006】
本発明の別の一側面は、上記スルファニルスルホン酸化合物及び/又はその金属塩を含む、加硫ゴムの粘弾性改質剤を提供する。
【0007】
本発明の更に別の一側面は、ゴム成分と、硫黄成分と、上記スルファニルスルホン酸化合物及び/又はその金属塩とを含む、ゴム組成物を提供する。
【0008】
本発明の更に別の一側面は、上記ゴム組成物を熱処理することを含む、加硫ゴムを製造する方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一側面によれば、加硫ゴムの60℃程度の高温での粘弾性を改質できる新規な化合物が提供される。本発明の別の一側面によれば、60℃程度の高温でのtanδが低減された加硫ゴムが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のいくつかの実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0011】
一実施形態に係るスルファニルスルホン酸化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【化2】
【0012】
式(1)中、mが2~7の整数を示し、nが3~10の整数を示し、R及びRがそれぞれ独立に水素原子、又はアルキル基を示す。mは2~6、2~5、2~4、2~3又は2であってもよい。nは2~6、2~5、2~4又は3であってもよい。R又はRとしてのアルキル基は、炭素数1~6のアルキル基であってもよい。
【0013】
スルファニルスルホン酸化合物は、式(1)で表される化合物の金属塩であってもよい。金属塩は、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、セシウム塩、コバルト塩、銅塩又は亜鉛塩であってもよく、リチウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩であってもよい。
【0014】
式(1)のスルファニルスルホン酸化合物は、例えば、S-アルキルチオ硫酸(例えば、S-(3-アミノプロピル)チオ硫酸)と硫黄とを反応させることを含む方法によって合成することができる。反応条件は、窒素雰囲気、遮光条件又はこれらの組み合わせであってもよい。S-アルキルチオ硫酸の量に対して、硫黄の量が0.5~2当量、又は1.2当量であってもよい。反応は溶媒(例えばジメチルホルムアミド)中で行うことができる。反応時間は、特に制限されないが1~12時間であってもよい。反応温度は、特に制限されないが例えば60~110℃であってもよい。S-アルキルチオ硫酸は、市販品として入手してもよいし、当業者に知られる方法によって合成してもよい。
【0015】
式(1)のスルファニルスルホン酸酸化合物、その金属塩又はこれらの組み合わせを、加硫ゴムの粘弾性を改質するための粘弾性改質剤として用いることができる。この粘弾性改質剤は、例えば、60℃程度の高温における加硫ゴムのtanδを低減させることができる。
【0016】
一実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分と、硫黄成分と、式(1)のスルファニルスルホン酸化合物及び/又はその金属塩とを含む。
【0017】
ゴム成分は、例えば、天然ゴム、変性天然ゴム(例えばエポキシ化天然ゴム、脱蛋白天然ゴム)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレン・ブタジエン共重合ゴム(SBR)、ポリブタジエンゴム(BR)、アクリロニトリル・ブタジエン共重合ゴム(NBR)、イソプレン・イソブチレン共重合ゴム(IIR)、エチレン・プロピレン-ジエン共重合ゴム(EPDM)、及びハロゲン化ブチルゴム(HR)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。ゴム成分が、天然ゴム、スチレン・ブタジエン共重合ゴム、又はポリブタジエンゴム等の高不飽和性ゴムを含んでもよく、天然ゴムを含んでもよい。ゴム成分が、天然ゴムとスチレン・ブタジエン共重合ゴム又はポリブタジエンゴムとの組み合わせを含んでもよい。
【0018】
硫黄成分は、ゴム組成物を加硫できるものであればよく、例えば、粉末硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、及び高分散性硫黄から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。なお、ここでの硫黄成分は、式(1)のスルファニルスルホン酸化合物及びその塩、並びに加硫促進剤は除く硫黄含有成分である。硫黄成分の量は、ゴム成分100質量部に対して0.3~5質量部、又は0.5~3質量部であってもよい。
【0019】
式(1)のスルファニルスルホン酸化合物及び/又はその金属塩の量は、ゴム成分100質量部に対して5質量部以下、又は3質量部以下であってもよく、0.03質量部以上、0.04質量部以上、0.05質量部以上、0.06質量部以上、0.07質量部以上、0.08質量部以上、0.09質量部以上、又は0.1質量部以上であってもよい。
【0020】
ゴム組成物は、必要によりその他の成分を含んでもよい。その他の成分としては、充填剤(例えば、カーボンブラック、シリカ)、加硫促進剤、酸化亜鉛、老化防止剤、オイル、脂肪酸類等が挙げられる。充填剤の量は、ゴム成分100質量部に対して35~150質量部であってもよい。
【0021】
ゴム組成物は、例えば、ゴム成分と、式(1)のスルファニルスルホン酸化合物及び/又はその金属塩と、必要により加えられる充填剤とを含む混合物を混練して混錬物を得る工程と、混錬物を硫黄成分を含む追加の成分とともに混練してゴム組成物を得る工程とを含む方法によって得ることができる。
【0022】
ゴム組成物を熱処理することを含む方法によって、加硫されたゴム成分を含む加硫ゴムを製造することができる。ゴム組成物を熱処理する前に、ゴム組成物を所定の形状に成形してもよく、ゴム組成物を他の部材と一体化してもよい。加硫のための熱処理の温度は、例えば120~180℃であってもよい。熱処理は、常圧又は加圧下で行うことでできる。
【0023】
加硫ゴムは、例えば、自動車タイヤを構成するゴム部材(ベルト、カーカス、インナーライナー、サイドウォール、トレッド等)として用いることができる。
【実施例
【0024】
以下、実施例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0025】
1.スルファニルスルホン酸化合物の合成
[(3-アミノプロピル)ジスルファニル]スルホン酸
【化3】
【0026】
窒素雰囲気且つ遮光条件下、S-(3-アミノプロピル)チオ硫酸(50g,292mmol)及び硫黄(富士フィルム和光製)(11.2g,349mmol,1.2当量)を、ジメチルホルムアミド500mL中で5時間、90℃に加熱しながら攪拌することにより、反応を進行させた。次いで減圧濃縮によりジメチルホルムアミドを留去した。残渣の粗生成物を逆相クロマトグラフィー(Wakogel 50C18(商品名),展開溶媒:トリフルオロ酢酸/水/アセトニトリル=0.05/99/1)によって精製し、目的とする[(3-アミノプロピル)ジスルファニル]スルホン酸を13.6g得た。生成物の構造をH-NMR及び13C-NMRにより同定した。生成物の融点は192℃であった。
H-NMR(400MHz,DMSO-D)δppm:7.62(2H,br),2.91(4H,m),1.95(2H,m),13C-NMR(100MHz,D2O)δppm:49.5,38.6,35.5,26.4.
【0027】
2.ゴム組成物の作製及び評価
実施例1
<第1混練:ラボプラストミルによる混練>
ラボプラストミル(東洋精機社製、容量:600mL)を用いて、天然ゴム(RSS#1)100質量部、HAFカーボンブラック(旭カーボン社製、商品名「旭#70」)45質量部、ステアリン酸3質量部、酸化亜鉛5質量部、老化防止剤(N-フェニル-N’-1,3-ジメチルブチル-p-フェニレンジアミン(6PPD)、商品名「アンチゲン(登録商標)6C」、住友化学株式会社製)1質量部、及び[(3-アミノプロピル)ジスルファニル]スルホン酸0.5質量部を混練して、混練物を得た。混練時間は各成分を投入後5分間で、ミキサーの回転数は50rpmであった。ラボプラストミル内の混練物の温度は150~180℃であった。
【0028】
<第2混練:オープンロール機による混練>
工程1で得られた、天然ゴム100質量部を含む混練物、加硫促進剤(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド(CBS)1質量部、及び粉末硫黄(細井化学社製「微粉硫黄」)2質量部を、ロール温度が60℃に設定されたオープンロール機で混練して、シート状のゴム組成物を得た。
【0029】
<加硫>
工程2で得られたゴム組成物を145℃で30分熱処理することによって、加硫ゴムを得た。
【0030】
実施例2、3及び比較例1
スルファニルスルホン酸化合物([(3-アミノプロピル)ジスルファニル]スルホン酸)の量を表1に示す量(質量部)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、3および比較例1のゴム組成物及び加硫ゴムを得た。
【0031】
加硫ゴムの粘弾性
加硫ゴムの60℃におけるtanδを、株式会社上島製作所製の粘弾性アナライザを用いて、以下の条件で測定した。
温度60℃、初期歪10%、動的歪2.5%、周波数10Hz
【0032】
表1に、比較例1のtanδの値に対する、各実施例のtanδの値の減少率を示す。例えば実施例1の「30%」は、60℃におけるtanδの値が、比較例1の加硫ゴムの値と比較して30%低下したことを意味する。実施例1~3で得られた加硫ゴムにおいて、いずれも粘弾性特性の改善が確認された。
【0033】
【表1】