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特許7396997組換えタンパク質を精製するための完全フロースルー方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】組換えタンパク質を精製するための完全フロースルー方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 1/16 20060101AFI20231205BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20231205BHJP
   C07K 16/00 20060101ALN20231205BHJP
   C07K 1/18 20060101ALN20231205BHJP
   C07K 1/22 20060101ALN20231205BHJP
   B01J 45/00 20060101ALN20231205BHJP
   B01D 15/00 20060101ALN20231205BHJP
   B01D 63/02 20060101ALN20231205BHJP
   B01D 63/10 20060101ALN20231205BHJP
   B01D 61/58 20060101ALN20231205BHJP
【FI】
C07K1/16
C12P21/08
C07K16/00
C07K1/18
C07K1/22
B01J45/00
B01D15/00 K
B01D63/02
B01D63/10
B01D61/58
【請求項の数】 20
(21)【出願番号】P 2020551845
(86)(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019057687
(87)【国際公開番号】W WO2019185691
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】18305338.8
(32)【優先日】2018-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ディディエ・デュテュ
(72)【発明者】
【氏名】セリーヌ・エメ
(72)【発明者】
【氏名】ブノワ・モーテュ
(72)【発明者】
【氏名】ジェローム・ペジーニ
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-522019(JP,A)
【文献】特開2013-044748(JP,A)
【文献】特開2017-025025(JP,A)
【文献】YAMADA, T., et al.,"Purification of monoclonal antibodies entirely in flow-through mode.",JOURNAL OF CHROMATOGRAPHY B,2017年07月03日,Vol.1061-1062,pp.110-116,DOI: 10.1016/j.jchromb.2017.07.002
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶液からタンパク質を精製するための方法であって、
(a)ろ過工程であって、
- フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して、溶液を通過させるステップ、
- 少なくとも1つの前記キレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
- 工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液を、交換のための1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップ、
- 部分的に精製したタンパク質を含む、少なくとも1つの前記透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、
(c)ポリッシング工程であって、
- 工程(b)の終わりに得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性であり、前記膜吸着体の組合せは、工程(b)において交換に使用する1つのバッファーと同一の平衡化バッファーにより予め平衡化されている、ステップ、
- 精製したタンパク質を、前記膜吸着体の組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含み、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まず、ポリッシング工程の膜吸着体は、陽イオン交換膜吸着体および陰イオン交換膜吸着体を含み、タンパク質は抗体である、前記方法。
【請求項2】
工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液は、pHの調整、バッファーの交換または希釈のようないかなる処理をも受けることなく、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して直接通過する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(b)の終わりに得られた残留液は、pHの調整、バッファーの交換または希釈のようないかなる処理をも受けることなく、前記膜吸着体の組合せを通して直接通過する、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
3つの工程(a)、(b)および(c)の間にいかなる中間的保存をも含まない、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
機能的に閉鎖された流路を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
1つのみのバッファーは、精製方法全体にわたり使用される、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
1つのバッファーは、トリス、トリス-HCl、ビストリス、リン酸および/またはクエン酸を含み、特に、(i)ビストリス、トリスまたはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)水、および(iv)場合により塩を含むか、またはこれらからなる、請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
ろ過工程の少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、活性炭素、珪藻土、遊離の陽イオン交換樹脂、遊離の陰イオン交換樹脂、および遊離の混合方式樹脂からなる群から選択される、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、2つの異なるキレート剤マトリックスの組合せである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
2つの異なるキレート剤マトリックスの組合せは、活性炭素および遊離の陰イオン交換樹脂の組合せである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、単一経路タンジェンシャルフローろ過(SPTFF)モジュールまたはタンジェンシャルフローろ過(TFF)モジュールである、請求項1~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、カセット、中空糸または渦巻き状の形態である、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
ろ過されたタンパク質溶液は、交換工程中に濃縮される、請求項1~12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
ポリッシング工程の膜吸着体の組合せは、陽イオン交換膜吸着体および陰イオン交換膜吸着体の組合せである、請求項1~13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
工程(c)の後にナノろ過工程をさらに含む、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
ナノろ過工程の後に最終的な限外ろ過および/または透析ろ過工程をさらに含む、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
タンパク質は、モノクローナル抗体である、請求項1~16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
1つのバッファーは、
- 酢酸により6~9のpHに調整した、5~40mMのビストリス、15~150mMのNaCl、
- 酢酸により6~9のpHに調整した、5~40mMのトリスまたはトリス-HCl、15~150mMのNaCl、
- クエン酸により6~9のpHに調整した、5~40mMのトリスまたはトリス-HCl、15~150mMのNaCl、あるいは
- NaHPO/NaHPOにより6~9のpHに調整した、15~150mMのNaCl
を含む、請求項1~17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
回収した精製タンパク質を医薬組成物に製剤化する工程をさらに含む、請求項1~18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
(a)少なくとも1つのキレート剤マトリックス、少なくとも1つの透析ろ過膜、および膜吸着体の組合せであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性であり、陽イオン交換膜吸着体および陰イオン交換膜吸着体を含む、膜吸着体の組合せ、ならびに
(b)トリス、トリス-HCl、ビストリス、リン酸および/またはクエン酸を含む、1つのバッファー
を含むか、またはこれらからなる、請求項1~19のいずれか1項に記載の方法にしたがい溶液からタンパク質を精製するのに適したキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タンパク質、詳細には、モノクローナル抗体の小および大規模精製のための完全フロースルー精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体精製は、生物学的生成のうちの最もコストのかかる態様の1つであり得る。モノクローナル抗体(mAb)は、一般に、3つの工程である、3つの樹脂クロマトグラフィー方法を使用して、少なくとも1つの特異的バッファー系を各工程において使用して精製する。この従来の精製方法は、捕捉工程の後、中間精製工程を包含して、ポリッシング工程で完了し、通常、3~5稼働日をかける(保存および開放相を含む)。このような従来の方法では、これら3つの工程は、一連の別個の単位操作により行い、これは、pH、モル濃度およびタンパク質濃度の調整が各工程間に必要であるため、連続的方式により操作することができない。したがって、従来の精製方法は、一般に、各工程の中止中およびいくつかの系の間に、多種多様なバッファーならびに多数の保存装置を必要とする。したがって、これらの従来の精製方法では、夾雑、技術的失敗およびヒューマンエラーを起こす傾向がある。加えて、溶出物の濃縮、pHおよび伝導率の調整、ならびに次の工程の前の溶出物の保存のために各工程の間に中断を必要とするため、また、前の工程の完了前に工程を開始できないため、このような従来の精製方法は、特に長く、コストがかかる。
【0003】
また、従来の方法が高価であるのは、第1の精製工程としてプロテインAマトリックスを一般的に使用するためである。実際、歴史的に、最も選択的な樹脂は、一般に、プロテインAの場合、方法の初期に投入して、できる限り多くの不純物を除去する。しかし、プロテインAが、モノクローナル抗体精製に最も選択的な培地であっても、方法において残存する夾雑物が、なお存在する。また、この工程は、大量の夾雑物に接触する第1の工程としても使用するため、全方法のうちで最も高価である。加えて、残存する夾雑物は、医薬品の規格に準拠させるように除去することが非常に困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
生成に使用する細胞培養力価が上昇し細胞培養容量が大きくなるにつれて、下流の処理は、産業上のボトルネックであると考えられるようになる。これは、モノクローナル抗体生成にとって特に重要であり、ここで、焦点が、バッチ容量から下流の処理容量へ移った。さらに、初期の前臨床および臨床相研究では、より迅速に生成することが可能な大量の抗体を必要とする。したがって、タンパク質精製のため、特には、抗体精製のための、また、夾雑、技術的失敗およびヒューマンエラーのリスクにおいてバッチを得るのにかかる時間、ならびに方法の規模拡大の要件の両方の削減のための、連続的方式により行うことができる、より安価な方法の必要性が産業において存在する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
発明者らは、タンパク質、特には、抗体を精製するための新しい方法であって、連続的完全フロースルー方式による3つの工程のみを含み、これらの工程のいずれもプロテインAを含まず、1つのみのバッファーを有利に使用し、その上、高収量の精製抗体を優れた純度で得ることをなお可能とする、方法を見出した。したがって、精製したタンパク質は、医学的適用に適する。その結果、この方法は、臨床試験のため、および/またはタンパク質を含む医薬組成物の製造のためのタンパク質を精製するのに使用し得る。加えて、この方法は、いかなる中間工程の調整をも必要とせず、このため、精製するタンパク質の回収物から最終生成物まで閉鎖系において行うことができる。
【0006】
簡潔には、この方法は、3つのみの連続的工程、第1の工程として使用する、大量の夾雑物の除去を目的とする安価な技術、残存する小量の夾雑物を除去し、このため、従来の方法におけるこれらの使用と比較して小規模において使用するために、ますます選択的となる、第2および第3の工程に使用する技術を含む。
【0007】
したがって、本発明の方法は、少なくとも1つのキレート剤の使用を含む1つのろ過工程、少なくとも1つの透析ろ過膜の使用を含む交換工程、および膜吸着体の組合せの使用を含むポリッシング工程を連続的方式により含み、この場合、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性である。本発明の方法は、図1に図式化する。これら3つの精製工程は、この特定の順序で有利に実行する。加えて、1つのみのバッファーである、交換工程に使用するバッファーを、全方法を通して使用する必要があることが見出された。言い換えれば、ポリッシング工程おいて場合により使用する平衡化バッファーは、交換工程に使用するバッファーと有利に同一である。このバッファーは、ビストリス、トリス、トリス-HCl、リン酸および/またはクエン酸を、例えば、NaCl、酢酸および水と組み合わせて有利に含む。より詳細には、1つのみのバッファーを全方法に使用し、すべての工程間の適合性を確保し、サプライチェーン、製造および品質管理の省力、ならびに保存の必要性の削減を可能とすることができる。
【0008】
本発明の方法は、開放相(すなわち、精製系が、新しいバッファーのためのクロマトグラフィーカラムの準備、試料の希釈、またはこのpHの調整のような手動操作を行うために開いている工程)の廃止をさらに可能とし、これにより、夾雑のリスクを削減し、より区分しない環境において作業する可能性を付与する。加えて、本発明の方法が、いかなるカラムの使用も有利に含まず、使い捨てのすぐに使える膜吸着体を主に使用するため、保存の必要性も再利用の確認も、カラムの準備または充填も関連する制御も、洗浄の確認および機器の制限も存在しない。したがって、方法のサイクルタイムは短縮され、方法の規模拡大の要件は最小化され、操作および保存の経費を削減することが可能である。このため、本発明の方法により、迅速でコスト効率の良いバッチ生成および精製系の占有時間の削減の両方が可能となる。したがって、本発明の方法は、規模拡大、および実験台から産業規模までの組換えタンパク質の精製に適する。
【0009】
特定のプロトコールを設定し、2つの異なる抗体に実行した。このプロトコールでは、第1のろ過工程の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液は、pHの調整、バッファーの交換または希釈のようないかなる処理をも受けることなく、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して直接通過し、また、交換工程の終わりに得られた残留液は、pHの調整、バッファーの交換または希釈のようないかなる処理をも受けることなく、少なくとも2つの膜吸着体の組合せを通して直接通過する。このプロトコールは、非常に迅速である(数時間)利点を有し、高収率(70%超)、医薬品産業標準と同等の純度を生じ、使用するバッファーと保存設備の両方の削減を可能とする。その上、この方法は、一般に、従来の方法の最も高価な要素である、プロテインAマトリックスの使用を含まないため、非常に柔軟であり、コスト削減の利点を有する。加えて、この方法は、完全に自動化し、連続的方式により実行することができ、いかなる開放相も含まない。その上、2つの異なる抗体について、この方法を行うことに成功した。
【0010】
したがって、本発明は、溶液からタンパク質を精製するための方法であって、
(a)ろ過工程であって、
- フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して、前記溶液を通過させるステップ、
- 前記少なくとも1つのキレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
- 工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液を、交換のための1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップ、
- 部分的に精製したタンパク質を含む、前記少なくとも1つの透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、
(c)ポリッシング工程であって、
- 工程(b)の終わりに得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性であり、前記膜吸着体の組合せは、工程(b)において交換に使用する1つのバッファーと同一の平衡化バッファーにより予め平衡化されている、ステップ、
- 精製したタンパク質を、前記膜吸着体の組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含み、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まない、前記方法を提供する。
【0011】
また、本発明は、溶液からタンパク質を精製するための方法であって、
(a)ろ過工程であって、
- フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して、溶液を通過させるステップ、
- 前記少なくとも1つのキレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
- 工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液を、交換のための1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップであって、前記1つのみのバッファーは、ポリッシング工程(c)において使用する平衡化バッファーと同一である、ステップ、
- 部分的に精製したタンパク質を含む、前記少なくとも1つの透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、
(c)ポリッシング工程であって、
- 工程(b)の終わりに得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性であり、前記膜吸着体の組合せは、平衡化バッファーにより予め平衡化されている、ステップ、
- 精製したタンパク質を、前記膜吸着体の組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含み、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まない、前記方法を提供する。
【0012】
本発明は、特に、溶液からタンパク質を精製するための方法であって、
(a)ろ過工程であって、
(i)フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して、溶液を通過させるステップ、
(ii)前記少なくとも1つのキレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
(i)工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液を、交換のための1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップ、
(ii)部分的に精製したタンパク質を含む、前記少なくとも1つの透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、および
(c)ポリッシング工程であって、
(i)平衡化バッファーを、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記平衡化バッファーは、工程(b)において交換に使用する1つのバッファーと同一である、ステップ、
(ii)工程(b)から得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップ、
(iii)精製したタンパク質を、前記膜吸着体の組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含み、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まない、前記方法を提供する。
【0013】
本発明の一実施形態では、1つのみのバッファーは、精製方法全体にわたり使用される。特定の実施形態では、1つのバッファーは、トリス、トリス-HCl、ビストリス、リン酸および/またはクエン酸を含む。別の実施形態では、1つのバッファーは、(i)ビストリス、トリスまたはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)水、および(iv)場合により塩を含むか、またはこれらからなる。
【0014】
一実施形態では、ろ過工程の少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、活性炭素、珪藻土、遊離の陽イオン交換樹脂、遊離の陰イオン交換樹脂、および遊離の混合方式樹脂から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、2つの異なるキレート剤マトリックスの組合せである。より特定の実施形態では、2つの異なるキレート剤マトリックスの組合せは、活性炭素および遊離の陰イオン交換樹脂の組合せである。別の特定の実施形態では、少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、3つ以上、すなわち、3つ、4つ、5つまたは6つ以上の異なるキレート剤マトリックスの組合せである。
【0015】
一実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、単一経路タンジェンシャルフローろ過(SPTFF)モジュールまたはタンジェンシャルフローろ過(TFF)モジュールである。特定の実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、カセット、中空糸または渦巻き状の形態である。特定の実施形態では、ろ過されたタンパク質溶液は、交換工程中に濃縮される。
【0016】
一実施形態では、ポリッシング工程の膜吸着体の組合せは、2つの膜吸着体の組合せ、または少なくとも2つの膜吸着体、例えば、3つ、4つもしくは少なくとも4つの膜吸着体の組合せである。
【0017】
一実施形態では、膜吸着体の組合せの膜吸着体は、陽イオン交換膜吸着体、陰イオン交換膜吸着体、多様式膜吸着体、疎水性相互作用膜吸着体、およびこれらの組合せからなる群から選択される。特定の実施形態では、ポリッシング工程の膜吸着体の組合せは、陽イオン交換膜吸着体および陰イオン交換膜吸着体の組合せである。
【0018】
一実施形態では、ポリッシング工程の膜吸着体の組合せは、陽イオン交換膜吸着体、陰イオン交換膜吸着体、多様式膜吸着体および疎水性相互作用膜吸着体からなる群から選択される少なくとも2つの膜吸着体の組合せである。
【0019】
本発明の一実施形態では、方法は、工程(c)の後にナノろ過工程、ならびに場合により、ナノろ過工程の後に最終的な限外ろ過および/または透析ろ過工程をさらに含む。本発明の別の実施形態では、方法は、工程(c)の後、ナノろ過工程の後、ならびに/または最終的な限外ろ過および/もしくは透析ろ過工程の後に低pH不活化工程をさらに含む。本発明の一実施形態では、方法は、工程(a)の前に、液体培養培地中、好ましくは、バイオリアクターにおいて、タンパク質を含む液体培養培地を用意する、細胞培養の工程を含む。培養した細胞は、哺乳動物、細菌または酵母細胞であり得る。好ましい実施形態では、培養した細胞は、哺乳動物細胞株(例えば、これらの細胞株の種々のサブタイプを含む、ベロ細胞、CHO細胞、3T3細胞、COS細胞、HEK293細胞等)ならびに初代または確立された哺乳動物細胞培養物(例えば、リンパ芽球、線維芽細胞、胚細胞、上皮細胞、神経細胞、脂肪細胞等から生成される)であり得る。
【0020】
本発明の一実施形態では、精製するタンパク質は、抗体である。別の実施形態では、抗体は、モノクローナル抗体である。
【0021】
したがって、本発明はまた、液体培養培地からの精製タンパク質の生成のための統合方法を提供する。
【0022】
本発明のある特定の実施形態では、1つのバッファーは、酢酸により6~9(特には7.5)のpHに調整した、5~40mM(特には20mM)のビストリス、15~150mM(特には75mM)のNaClを含む。
【0023】
本発明のある特定の実施形態では、1つのバッファーは、酢酸により6~9(特には7.5)のpHに調整した、5~40mM(特には20mM)のトリスまたはトリス-HCl、15~150mM(特には75mM)のNaClを含む。
【0024】
本発明のある特定の実施形態では、1つのバッファーは、クエン酸により6~9(特には7.5)のpHに調製した、5~40mM(特には20mM)のトリスまたはトリス-HCl、15~150mM(特には75mM)のNaClを含む。
【0025】
本発明のある特定の実施形態では、1つのバッファーは、NaHPO/NaHPO(好ましくは、10mM/90mMのNaHPO/NaHPOから90mM/10mMのNaHPO/NaHPOまで)により6~9(特には7.5)のpHに調製した15~150mM(特には75mM)のNaClを含む。
【0026】
本発明は、少なくとも1つのキレート剤マトリックス、少なくとも1つの透析ろ過膜、および膜吸着体の組合せであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性である、膜吸着体の組合せ、ならびにトリス、トリス-HCl、ビストリス、リン酸および/またはクエン酸を含み、特に、(i)ビストリス、トリスまたはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)水、および(iv)場合によりNaClを含むか、またはこれらからなる、1つのバッファーを含む、キットを提供する。一部の実施形態では、キットは、本発明の方法を使用して、溶液からタンパク質を精製するために使用される。
【0027】
また、本発明は、少なくとも1つのキレート剤マトリックス、少なくとも1つの透析ろ過膜、および膜吸着体の組合せであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性である、膜吸着体の組合せ、ならびに、トリス、トリス-HCl、ビストリス、リン酸および/またはクエン酸を含み、特に、(i)ビストリス、トリスまたはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)水、および(iv)場合によりNaClを含むか、またはこれらからなる、1つのバッファーを調製するための説明書を含む、キットを提供する。一部の実施形態では、キットは、本発明の方法を使用して、溶液からタンパク質を精製するために使用される。
【0028】
また、本明細書に記載する方法のいずれかにより得た、単離したタンパク質、医薬品および医薬組成物を本明細書において提供する。
【0029】
本開示の精製方法のこれらおよび他の特徴および利点は、添付の特許請求の範囲によりまとめる以下の詳細な説明により、さらに十分に理解される。特許請求の範囲は、本明細書に記載する特徴および利点の特定の考察ではなく、その詳述により、定義されることに留意されたい。
【0030】
本発明の文脈では、用語「含む(comprising)」、「有する」、「含む(including)」および「含む(containing)」は、他に述べない限り、非限定的用語(すなわち、「~を含むが、限定されない」を意味する)として解釈されるべきである。加えて、用語「含む」は、「~からなる」を包含する(例えば、X「を含む」組成物は、専らXからなり得るか、またはX+Yのように、追加の何かを含み得る)。
【発明を実施するための形態】
【0031】
タンパク質精製方法を単純化し、これを安価とするために、発明者らは、連続的で完全フロースルーであり、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まない、新しい精製方法を開発した。
【0032】
本発明は、溶液からタンパク質を精製するための方法であって、
(a)ろ過工程であって、
- フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して、溶液を通過させるステップ、
- 前記少なくとも1つのキレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
- 工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液を、交換のための1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップ、
- 部分的に精製したタンパク質を含む、前記少なくとも1つの透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、
(c)ポリッシング工程であって、
- 工程(b)の終わりに得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性であり、前記膜吸着体の組合せは、工程(b)において交換に使用する1つのバッファーと同一の平衡化バッファーにより予め平衡化されている、ステップ、
- 精製したタンパク質を、前記膜吸着体の組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含み、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まない、前記方法に関する。
【0033】
交換工程(b)では、表現「工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液を、交換のための1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させる」は、前記ろ過されたタンパク質溶液および1つのバッファーを、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させることを意味する。
【0034】
特定の実施形態では、本発明の方法は、
(a)ろ過工程であって、
(i)フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して、溶液を通過させるステップ、
(ii)前記少なくとも1つのキレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
(i)工程(a)から得られたろ過されたタンパク質溶液を、1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップ、
(ii)部分的に精製したタンパク質を含む、前記少なくとも1つの透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、および
(c)ポリッシング工程であって、
(i)平衡化バッファーを、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記平衡化バッファーは、工程(b)において交換に使用する1つのバッファーと同一である、ステップ、
(ii)工程(b)から得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップ、
(iii)精製したタンパク質を、前記膜吸着体の組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含み、前記精製方法は、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まない。
【0035】
上に示すように、本発明の上記方法は、それらのいずれもプロテインAによるクロマトグラフィー工程ではない、3つの工程のみを含む。本発明による方法が、3つの工程のみを含み、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まなくても、医薬品としての目的、および特には、ヒトへの投与に適する精製タンパク質を得ることが可能となる。
【0036】
精製方法において処理するヒトの非存在(および精製方法の完了に必要とする全時間の結果的削減)に加えて、本開示の方法は、精製に使用するバッファーの量を削減し、プロテインAによるクロマトグラフィー工程の非存在により、コストが削減される。また、開示する精製方法は、mAb精製を単純化し、全収率を向上させ、原料、保存設備、製品原価および処理時間を削減するのに加えて、多様なmAbの精製を可能とする。
【0037】
従来のタンパク質精製方法とは対照的に、上述のように、本明細書において開示する方法は、ユニークな1つのバッファーを使用し、このユニークなバッファーは、交換工程、およびポリッシング工程における膜吸着体の平衡化に使用される。
【0038】
本明細書において使用する場合、「本発明によるバッファー」は、ビストリス、トリス、トリス-HCl、リン酸および/またはクエン酸を含むバッファーを指す。ビストリス、トリスまたはトリス-HClは、当業者に周知の化合物であり、
- ビストリスのIUPAC名は、2-[ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ]-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、CAS番号は、6976-37-0であり、
- トリスは、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール、CAS番号77-86-1であり、
- トリス-HClは、2-アミノ-2-(ヒドロキシメチル)プロパン-1,3-ジオール塩酸塩、CAS番号1185-53-1である。
【0039】
本発明による、このようなバッファーは、交換バッファー、および平衡化バッファーに対応し得る。
【0040】
より詳細には、本発明による、このようなバッファーは、変化濃度の同一の化学物質(このうちの1つは、ビストリス、トリス、トリス-HCl、リン酸および/またはクエン酸である)を含むか、これからなり得る。特定の実施形態では、バッファーは、ビストリス、トリス、トリス-HCl、リン酸および/またはクエン酸を含む。特定の実施形態では、バッファーは、(i)ビストリス、トリス、またはトリス-HCl、(ii)酢酸、および(iii)水を含むか、またはこれらからなる。より特定の実施形態では、バッファーは、(i)ビストリス、トリスまたはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)NaClおよび(iv)水を含むか、またはこれらからなる。他の場合では、このようなバッファーは、変化濃度の(i)ビストリス、トリスまたはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)NaClおよび(iv)水を含むか、またはこれらからなる。
【0041】
交換バッファーは、例えば、酢酸により6~9(例えば7.5)のpHに調整した、5~40mM(例えば20mM)のビストリスおよび15~150mM(例えば75mM)のNaClを含むか、またはこれらからなり得る。
【0042】
交換バッファーは、あるいは、酢酸により6~9(特には7.5)のpHに調整した、5~40mM(特には20mM)のトリスまたはトリス-HCl、15~150mM(特には75mM)のNaClを含むか、またはこれらからなり得る。
【0043】
交換バッファーは、あるいは、クエン酸により6~9(特には7.5)のpHに調整した、5~40mM(特には20mM)のトリスまたはトリス-HCl、15~150mM(特には75mM)のNaClを含むか、またはこれらからなり得る。
【0044】
交換バッファーは、あるいは、NaHPO/NaHPO(好ましくは、10mM/90mMのNaHPO/NaHPOから90mM/10mMのNaHPO/NaHPOまで)により6~9(特には7.5)のpHに調整した15~150mM(特には75mM)のNaClを含むか、またはこれからなり得る。
【0045】
このような交換バッファーは、交換工程での、特には、TFFカセットとの使用にとりわけ適するが、膜吸着体の平衡化、特には、陽イオン交換膜吸着体および陰イオン交換膜吸着体の組合せの平衡化にも適する。
【0046】
上記バッファーの配合の利点は、この方法の3つの工程、特には、交換工程およびポリッシング工程を、さらに高い適合性で通過し、その上、望ましくない相互作用を最小化し、pHおよび伝導率の低下を制限し、従来の精製方法に対して収率の増加を促進するmAb生成物の能力を含む。このようなバッファーの配合の使用により、3つの工程(a)、(b)および(c)の間にいかなる中間的保存の必要もなく、方法の実行が可能となる。
【0047】
その結果、特定の実施形態では、方法は、3つの工程(a)、(b)および(c)の間にいかなる中間的保存をも含まない。
【0048】
衛生化バッファーは、ポリッシング工程の膜吸着体を再利用する場合、場合により使用し得る。このような衛生化バッファーは、少なくともNaOH、より好ましくは、0.05N~1N(例えば0.5N)のNaOHを含むか、またはこれからなり得る。
【0049】
用語「ポリペプチド」または「タンパク質」は、本明細書において使用する場合、
1)a)天然に存在し、詳細には、非組換えの細胞、またはb)遺伝子改変もしくは組換えの細胞により産生されるタンパク質である、ネイティブタンパク質の配列を有する分子、あるいは
2)1つもしくはそれ以上のアミノ酸の欠失、付加、および/もしくは置換により、ならびに/または少なくとも1つの翻訳後修飾(例えば、グリコシル化)により、ネイティブタンパク質の配列と異なる分子
を指す。
【0050】
上記の項1)において言及される分子は、ネイティブタンパク質と称される場合がある。
【0051】
上記の項2)において言及される分子は、非天然タンパク質である。
【0052】
ある特定の態様では、精製するタンパク質は、抗体である。
【0053】
用語「抗体」は、本明細書において使用する場合、インタクトな抗体、または特異的結合についてインタクトな抗体と同等である、この結合断片を指す。結合断片は、F(ab)、F(ab’)、F(ab’)、Fv、VHH抗体(ナノボディ)のような単一ドメイン抗体および一本鎖抗体を含むが、これらに限定されない。用語「重鎖」は、抗原への特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有する任意の免疫グロブリンポリペプチドを含む。
【0054】
用語「重鎖」は、本明細書において使用する場合、完全長の重鎖およびこの断片を包含する。完全長の重鎖は、可変領域ドメイン、VHならびに3つの定常領域ドメイン、CH1、CH2およびCH3を含む。VHドメインは、ポリペプチドのアミノ末端に存在し、CH3ドメインは、カルボキシル末端に存在する。
【0055】
用語「軽鎖」は、本明細書において使用する場合、完全長の軽鎖およびこの断片を包含する。完全長の軽鎖は、可変領域ドメイン、VLおよび定常領域ドメイン、CLを含む。重鎖と同様に、軽鎖の可変領域ドメインは、ポリペプチドのアミノ末端に存在する。用語「軽鎖」は、本明細書において使用する場合、抗原への特異性を付与するのに十分な可変領域配列を有する任意の免疫グロブリンポリペプチドを含む。
【0056】
天然に存在する抗体構造単位は、典型的に、四量体を含む。このような四量体のそれぞれは、典型的に、ポリペプチド鎖の2つの相同対からなり、各対は、1つの完全長軽鎖(典型的に、約25kDaの分子量を有する)および1つの完全長重鎖(典型的に、約50~70kDaの分子量を有する)を有する。軽および重鎖それぞれのアミノ末端部分は、典型的に、約100~110またはそれ以上のアミノ酸の可変領域を含み、これは、典型的に、抗原認識に関与する。各鎖のカルボキシ末端部分は、典型的に、エフェクター機能に関与する定常領域を定義する。ヒト軽鎖は、典型的に、カッパおよびラムダ軽鎖に分類される。重鎖は、典型的に、ミュー、デルタ、ガンマ、アルファ、またはイプシロンに分類され、抗体のアイソタイプをIgM、IgD、IgG、IgAおよびIgEとそれぞれ定義する。IgGは、いくつかのサブクラスを有し、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4を含むが、これらに限定されない。IgMは、サブクラスを有し、IgM1およびIgM2を含むが、これらに限定されない。IgAは、同様に、サブクラスに細分され、IgA1およびIgA2を含むが、これらに限定されない。完全長軽鎖および重鎖では、典型的に、可変および定常領域は、約12またはそれ以上のアミノ酸の「J」領域により結合し、また、重鎖は、約10またはそれ以上のアミノ酸の「D」領域を含む。
【0057】
軽/重鎖の各対の可変領域は、典型的に、抗原結合部位を形成する。可変領域は、典型的に、相補性決定領域またはCDRとも呼ばれる3つの高頻度可変領域により結合した、相対的に保存されたフレームワーク領域(FR)と同一の一般構造を示す。各対の2つの鎖のCDRは、典型的に、フレームワーク領域により整列され、これにより、特異性エピトープへの結合が可能となる。N末端からC末端では、軽および重鎖の両可変領域は、典型的に、ドメインFR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3およびFR4を含む。各ドメインへのアミノ酸の割当は、典型的に、Kabatら、1991年、Sequences of Proteins of Immunological Interest、第5版、米国保健福祉省、NIH公開番号91-3242の定義に従う。2重特異性または2機能性抗体は、典型的に、2つの異なる重鎖/軽鎖対および2つの異なる結合部位を有する人工ハイブリッド抗体である。
【0058】
F(ab)断片は、1つの軽鎖およびCH1ならびに1つの重鎖の可変領域からなる。F(ab)分子の重鎖は、別の重鎖分子とジスルフィド結合を形成することができない。F(ab’)断片は、1つの軽鎖および1つの重鎖を含み、これは、CH1およびCH2のドメインの間にいくつかの定常領域を含み、これにより、2つの重鎖間に鎖間ジスルフィド結合を形成してF(ab’)分子を形成し得る。Fv領域は、重および軽の両鎖の可変領域を含むが、定常領域を欠く。一本鎖抗体は、重および軽鎖可変領域が可動性リンカーにより結合しており、抗原結合領域を形成する単一のポリペプチド鎖を形成する、Fv分子である。「多特異性」または「多機能性」抗体以外の二価抗体は、ある特定の実施形態では、同一の抗原特異性を有する結合部位を含むことが理解される。
【0059】
本開示の方法により精製することが可能なモノクローナル抗体(mAb)は、多様な技術により生成することができ、従来のモノクローナル抗体方法、例えば、当技術分野において周知の標準的体細胞ハイブリダイゼーション技術を含む。体細胞ハイブリダイゼーションの手法は、好ましいが、原理的に、モノクローナル抗体を生成するための他の技術、例えば、Bリンパ球のウイルスまたは発癌性形質転換を利用することができる。モノクローナル抗体は、例えば、マウス、キメラ、ヒト化または完全ヒト抗体に対応し得る。
【0060】
また、本発明の方法により精製し得る抗体の非限定的な例としては、パニツムマブ、オマリズマブ、アバゴボマブ(abagovomab)、アブシキシマブ、アクトクスマブ(actoxumab)、アダリムマブ、アデカツムマブ(adecatumumab)、アフェリモマブ、アフツズマブ、アラシズマブ(alacizumab)、アレムツズマブ、アリロクマブ、アルツモマブ(altumomab)、アマツキシマブ、アナツモマブ(anatumomab)、アポリズマブ、アチヌマブ(atinumab)、トシリズマブ、バシリジマブ(basilizimab)、ベクツモマブ(bectumomab)、ベリムマブ、ベバシズマブ、ビシロマブ(biciromab)、カナキヌマブ、セツキシマブ、ダクリズマブ、デノスマブ、エクリズマブ、エドレコロマブ、エファリズマブ、エファングマブ(efungumab)、エルツマクソマブ(ertumaxomab)、エタラシズマブ(etaracizumab)、エタネルセプト、ゴリムマブ、インフリキシマブ、ナタリズマブ、パリビズマブ、パニツムマブ、ペルツズマブ、ラニビズマブ、リツキシマブ、トシリズマブ、トラスツズマブ、デュピルマブ、サリルマブまたはフレゾリムマブ(fresolimumab)を含む。
【0061】
ある特定の態様では、精製するタンパク質は、酵素である。
【0062】
本発明の方法により精製し得る酵素の非限定的な例としては、酸性α-グルコシダーゼ、α-L-イズロニダーゼ、イズロン酸スルファターゼ、ヘパランN-スルファターゼ、ガラクトース-6-スルファターゼ、酸性β-ガラクトシダーゼ、β-グルクロニダーゼ、N-アセチルグルコサミン-1-ホスホトランスフェラーゼ、α-N-アセチルガラクトサミニダーゼ(α-ガラクトシダーゼB)、酸性リパーゼ、リソソーム酸性セラミダーゼ、酸性スフィンゴミエリナーゼ、β-グルコシダーゼ、ガラクトシルセラミダーゼ、α-ガラクトシダーゼA、酸性β-ガラクトシダーゼ、β-ガラクトシダーゼ、ノイラミニダーゼ、ヘキソサミニダーゼAまたはヘキソサミニダーゼBを含む。
【0063】
本発明の方法により精製し得るタンパク質の他の非限定的な例としては、ヒトエリスロポエチン、腫瘍壊死因子(例えば、TNF-α、TNF-βまたはTNF-K)、インターフェロンアルファまたはインターフェロンベータを含む。
【0064】
精製するタンパク質を含む溶液は、培養培地、好ましくは、清澄化培養培地であり得る。精製するタンパク質を含む溶液は、例えば、灌流バイオリアクターまたは流加バイオリアクターにおいて得た培養培地である。
【0065】
灌流バイオリアクターまたは流加バイオリアクターの例は、米国特許出願公開第2014/255994号、米国特許出願公開第2015/232505号、米国特許出願公開第2015/183821号および米国特許出願公開第2017/218012号ならびに国際公開第2014/137903号に開示されている(この全体を参照によって本明細書に組み入れる)。
【0066】
用語「清澄化培養培地」は、哺乳動物、細菌または酵母細胞を実質的に含まない(例えば、少なくとも80%、85%、90%、92%、94%、96%、98%または99%含まない)、哺乳動物、細菌または酵母細胞培養物から得られた液体培養培地を意味する。
【0067】
特定の実施形態では、本発明の方法の第1のろ過工程は、細胞培養物の回収において清澄化培養培地を得るのに使用する清澄化工程に統合し、これにより、前記ろ過工程は、清澄化工程の一部となり得る。
【0068】
句「タンパク質の回収」は、本明細書において使用する場合、開示の精製方法の使用後にタンパク質を採取することを指す。
【0069】
本発明の文脈では、表現「キレート剤」は、任意の種類の粒子状吸着培地または固定化リガンド、例えば、活性炭素、珪藻土、ビーズ樹脂を指し、これは、精製方法において、吸収剤として作用して、混合物に存在する夾雑分子を、精製する標的分子から分離する。表現「キレート剤マトリックス」は、プロテインAマトリックスを含まない。
【0070】
本発明の方法のある特定の実施形態では、少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、粒子状吸着培地である。
【0071】
少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、カラム、フィルターの形態であるか、または精製する生成物に粉末として加えることができる。特定の実施形態では、本発明の文脈において使用する少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、精製する生成物に粉末として加える。
【0072】
本開示の方法の特定の実施形態では、少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、活性炭素フィルターである。本開示の方法の特定の他の実施形態では、少なくとも1つのキレート剤は、樹脂である。
【0073】
少なくとも1つのキレート剤マトリックス、特には、活性炭素フィルターまたは樹脂培地は、夾雑物と相互作用し、不純物の効率の高い除去が生じる。キレート剤マトリックスを使用する、特には、活性炭素または樹脂を使用する別の利点は、モノクローナル抗体に対する低い親和性である。
【0074】
本発明の特定の実施形態では、ろ過工程の少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、活性炭素、珪藻土、遊離の陽イオン交換樹脂、遊離の陰イオン交換樹脂、および遊離の混合方式樹脂からなる群から選択される。特定の実施形態では、少なくとも1つのキレート剤マトリックスは、2つの異なるキレート剤マトリックスの組合せである。より特定の実施形態では、2つの異なるキレート剤マトリックスの組合せは、活性炭素、特には、活性炭素フィルター、および遊離の陰イオン交換樹脂の組合せである。
【0075】
本開示の方法の特定の実施形態では、活性炭素フィルターは、Zeta Plus 35SP(3M社により商品化)、Zeta Plus 53SP(3M社により商品化)、Millistak CR40(Millipore社により商品化)またはZeta Plus 55SPグレード(3M社により商品化)である。
【0076】
本開示の方法の別の特定の実施形態では、遊離の陰イオン交換樹脂は、NH2-750F(Tosoh社により商品化)またはEmphaze AEX(3M社により商品化)である。樹脂NH2-750Fの特性は、以下にまとめる。
【0077】
【表1】
【0078】
本発明の文脈では、表現「透析ろ過」は、限外ろ過膜を使用して、溶液から塩または溶媒を完全に除去、置換またはこの濃度を低下させる技術を指す。
【0079】
本明細書において使用する場合、「限外ろ過」または「UF」は、半透膜を使用して、UF膜の粒子サイズおよび孔径に基づいて、溶液から粒子および/またはイオンを物理的かつ選択的に除去する、ろ過技術を指す。
【0080】
一実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、単一経路タンジェンシャルフローろ過(SPTFF)モジュールまたはタンジェンシャルフローろ過(TFF)モジュールである。特定の実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、カセット、中空糸または渦巻き状の形態である。
【0081】
本開示の方法の特定の実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、Ready To Process中空糸カートリッジ30kDa(GE社により商品化)である。
【0082】
本開示の方法の特定の実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、Cadence Inline Diafiltration(Pall社により商品化)である。
【0083】
一実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、Cadence Inline Concentrator(Pall社により商品化)に先行または後続する。
【0084】
本開示の方法の別の特定の実施形態では、交換工程の少なくとも1つの透析ろ過膜は、Pelliconカセット(Millipore社により商品化)またはSartoconカセット(Sartorius社により商品化)である。
【0085】
交換工程は、ろ過されたタンパク質溶液の精製および濃縮の両方が有利に可能となる。表現「ろ過されたタンパク質溶液の濃縮」により、部分的に精製した残留液中のタンパク質の濃度が、ろ過されたタンパク質溶液中のこの濃度と比較して上昇することを、本明細書において意味する。
【0086】
本発明の文脈では、「膜吸着体」は、親和性基およびイオン交換基のような官能基を有する、ポリマー、特には、アクリルポリマーの平らなシート、または繊維もしくは不織の媒体を指す。樹脂と膜との違いのうちの1つは、樹脂による拡散と膜による対流とによる、流量分布である。
【0087】
ポリッシング工程において使用する膜吸着体の組合せは、作用機序に関して直交性である、少なくとも2種類の膜吸着体の使用を含む。
【0088】
本発明の文脈では、表現「作用機序に関して直交性である膜吸着体」は、使用する膜吸着体が、反対または異なる作用機序、例えば、陽イオン交換および陰イオン交換相互作用、多様式および陰イオン交換相互作用、陽イオン交換および疎水性相互作用、または陰イオン交換および疎水性相互作用を有し、単一のろ過工程であるかのようにこれらをともに処理する、1つに統合した工程として作用することを意味する。
【0089】
実際、発明者らは、膜吸着体のこのような組合せの使用により、不純物を捕らえ、その上、目的の生成物の吸着を最小化することが可能となることを示した。
【0090】
ポリッシング工程の膜吸着体の組合せにおいて3つ以上の膜吸着体、すなわち、合計3、4または5以上の膜吸着体について、少なくとも1つの追加の膜吸着体を使用する、好ましい実施形態では、前記少なくとも1つの追加の膜吸着体は、作用機序に関して直交性である2つの膜吸着体と比較して、異なる作用機序を有する膜であり、この合計3つ以上の膜吸着体は、1つに統合した単一工程であるとなお考えられる。
【0091】
非限定的な例としては、前記少なくとも1つの追加の膜吸着体は、作用機序に関して直交性である2つの膜吸着体が、陽イオン交換および陰イオン交換相互作用をそれぞれ有する場合、疎水性相互作用または多様式相互作用を有する。
【0092】
本発明の文脈では、膜吸着体は、特に、1つに統合した工程として組み合わせる。したがって、工程およびバッファーの数は、大幅に削減される。また、調整および操作は排除され、したがって、全般的方法が単純化される。特には、膜吸着体の組合せの一方の膜吸着体と、膜吸着体のこのような組合せの他方の膜吸着体(複数可)との間に溶出、調整または保存工程が存在しない。
【0093】
特定の実施形態では、ポリッシング工程の膜吸着体の特定の組合せおよび操作の条件(特にはpH、伝導率および/またはバッファー)は、精製するタンパク質の物理化学的特性(例えばpI、分子量等)に従って決定される。
【0094】
当業者に理解されるように、ポリッシング工程の最適条件により、目的のタンパク質の最大収率を得ることが可能となる、すなわち、目的のタンパク質の、膜吸着体の組合せとの最も低い相互作用が可能となり、その上、最大限の夾雑物の除去が可能となるはずである、すなわち、膜吸着体の組合せの膜吸着体間にいかなる調整または溶出工程も必要なく、膜吸着体の組合せと夾雑物の最も高い相互作用が可能となるはずである。
【0095】
ポリッシング工程のための2つの膜吸着体の最適な組合せを決定する例を、図3に例示する。この例では、最良の精製能力は、Sartobind SおよびSartobind STIC膜吸着の組合せを使用して、抗体収率を最大化しながら高い夾雑物除去率(低いHCPおよびHMW)により得られる。収率および夾雑物除去に対する負荷容量の影響についても、この図に示す。
【0096】
本発明の文脈では、これらの最適条件を決定するために、膜吸着体の組合せの膜吸着体は、単一のろ過工程であるかのようにこれらをともに処理する、単一体または1つに統合した工程であると考えられるべきである。例えば、2つの膜吸着体の場合では、2つの膜吸着体を使用するとき、最適条件を決定する従来の方法は、第1の膜吸着体に対する最良条件の決定、次いで、第2の膜吸着体に対する最適条件の決定、次いで、両方の最適条件間における生成物の調整(例えば、pHの調整、伝導率の調整またはバッファーの調整)を含むが、本発明の文脈では、2つの膜吸着体は唯一であると考えられ、妥協案は、2つの膜吸着体の分離挙動がある場合に決定して、なお良好な精製を達成することを可能とするべきである。
【0097】
典型的には、所与のタンパク質の精製に使用する最適化バッファーを決定する場合、交換工程は、中性バッファーを用いて行うことができ、残留液を含む溶液のpHおよび伝導率は、手動で調整して、ポリッシング工程における精製の最適条件を決定することができる。最適条件を決定する場合、方法は、交換工程のために適切なバッファーを使用して再び行うことができ、これは、ポリッシング工程に使用する平衡化バッファーに対応する。
【0098】
ポリッシング工程に使用する2つの膜吸着体の組合せによる最適なバッファー(例えば、バッファーの伝導率またはpH)および目的のタンパク質のpIを決定する例は、図4に例示される。この例では、有利な精製を達成することが可能となるpHおよび伝導率の条件(50~500ng/mlのHCPレベルに対応する)は、各プロットの黒色の領域に対応する。
【0099】
本発明の文脈では、少なくとも2つの膜吸着体の平衡化に使用する1つのバッファーは、交換工程に使用するバッファーと同一である。これにより、精製するタンパク質の直接的フロースルーが可能となり、収率が最大化されるが、夾雑物の大部分が保持される。
【0100】
特定の実施形態では、ポリッシング工程は、交換工程中にタンパク質の調整に使用するバッファーの多様なpHおよび伝導率により最適化される。
【0101】
特定の実施形態では、ポリッシング工程は、陽イオン交換膜吸着マトリックスの、陰イオン交換膜吸着マトリックスと組み合わせた使用を含む。他の実施形態では、ポリッシング工程は、多様式(混合方式)膜吸着マトリックスの、陰イオン交換膜吸着マトリックスと組み合わせた使用を含む。
【0102】
膜吸着マトリックスの組合せ、特には、陽イオン交換膜吸着体および陰イオン交換膜吸着体の組合せは、膜吸着体および夾雑物の間の相互作用により機能して、不純物を高い効率で除去する。夾雑物との相互作用は、いくつかの機序:イオン性、疎水性、ファンデルワールス力および水素結合による相互作用を原因とする。
【0103】
特定の実施形態では、陽イオン交換膜吸着体は、Sartobind S膜吸着体(Sartorius社)、HD-C膜吸着体(Natrix社)である。特定の実施形態では、陽イオン交換膜吸着体は、Sartobind S膜吸着体(Sartorius社)である。特定の実施形態では、陰イオン交換膜吸着体は、Sartobind STIC膜吸着体(Sartorius社)、Sartobind Q膜吸着体(Sartorius社)またはHD-Q膜吸着体(Natrix社)である。特定の実施形態では、陰イオン交換膜吸着体は、Sartobind STIC膜吸着体(Sartorius社)またはSartobind Q膜吸着体(Sartorius社)である。他の実施形態では、多様式膜吸着体は、HD-Sb膜吸着体(Natrix社)である。他の実施形態では、疎水性相互作用膜吸着体は、Sartobind Phenyl膜吸着体(Sartorius社)である。
【0104】
特定の実施形態では、膜吸着体の組合せは、Sartobind S膜吸着体(Sartorius社)およびSartobind STIC膜吸着体(Sartorius社)の組合せである。
【0105】
本発明の方法のポリッシング工程においてカラムではなく膜吸着体を使用する主な利点を、次にまとめる。
- 同等の規模において、膜吸着体は、カラムよりも10倍高い流量で使用することができ、これにより、処理時間が大幅に削減される。例えば、樹脂を充填した5mLのカラムは、1ml/分の流量で使用されるが、対応する5mLの膜吸着体は、10ml/分の最小流量で使用される。その結果、ポリッシングに2つのクロマトグラフィー工程を使用する従来の方法を、樹脂を充填した2つのカラムを使用して2時間30分行う場合、膜吸着体を使用して15分未満で完了することができる。
- カラムは再利用可能ではあるが、膜吸着体は、使い捨て可能なデバイスであり、このため、バッチ後に廃棄することができ、長期にわたって保存する必要がない。したがって、これらを試験して長期安定性を確保する必要がない。
- 膜吸着体を使用すると、カラムのコスト、カラムの充填およびカラムの保存を回避することにより安価となる。
【0106】
特定の実施形態では、膜吸着体の組合せが、Sartobind S膜吸着体(Sartorius社)およびStartobind STIC膜吸着体(Sartorius社)の組合せである場合、1つのバッファーは、図4の上パネルの黒色領域に開示する範囲のpHおよび伝導率を有する。
【0107】
別の特定の実施形態では、膜吸着体の組合せが、Sartobind S膜吸着体(Sartorius社)およびStartbind Q膜吸着体(Sartorius社)の組合せである場合、1つのバッファーは、図4の下パネルの黒色領域に開示する範囲のpHおよび伝導率を有する。
【0108】
本発明による精製方法は、完全フロースルー精製方法である。
【0109】
「完全フロースルー精製方法」は、この方法の種々の精製工程がすべて、目的のタンパク質に精製工程を通過させている間にのみ、不純物が結合する意味を含むことを本明細書において意味する。
【0110】
一実施形態では、本発明による方法は、ろ過工程の終わりのろ過されたタンパク質溶液および/または交換工程の終わりの残留液のpHの調整を含まない。
【0111】
特定の実施形態では、ろ過工程の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液は、透析ろ過膜を通して直接通過させる。より詳細には、次いで、2つの工程間に、いかなる処理(例えば、pHの調整、バッファーの交換または希釈)も行わない。このような方法では、透析ろ過膜は、例えば、Cadence Inline Concentratorに先行または後続する、例えば、Ready To Process 30kD中空糸モジュールまたはCadence Inline Diafiltrationモジュールに対応し得る。加えて、特定の実施形態では、交換工程の終わりに得られた残留液は、ポリッシング工程の膜吸着体の組合せを通して直接通過させる。より詳細には、次いで、2つの工程間に、いかなる処理(例えば、pHの調整、バッファーの交換または希釈)も行わない。このような方法では、透析ろ過膜は、例えば、Ready To Process 30kD中空糸モジュール、ならびに/または例えば、Sartobind S膜吸着体およびSartobind STIC膜吸着体の組合せに対応し得る、膜吸着体の組合せに対応し得る。
【0112】
このような方法では、手動による介入および精製系の開放(例えば、希釈、伝導率の調整およびpHの調整)を必要とする中間工程の処理は、まったく存在しない。
【0113】
したがって、本発明の方法は、配線および切替え弁を有する複数のポンプおよびセンサーを含む、一連のまたは連続的な3回の精製工程における操作のための柔軟で自動化されたクロマトグラフィー系において行い得る。
【0114】
多重操作系の非限定的な例は、適切に適応させた多重カラムクロマトグラフィー系MCCSである。
【0115】
本発明の方法は、連続的方式により実行することができる。言い換えれば、本発明の方法は、溶液からタンパク質を精製するための連続的方法であり得る。
【0116】
用語「連続的方法」または「連続的方式による方法」は、少なくとも一部の系を通して液体を連続的に供給する方法を意味する。
【0117】
用語「液体」により、任意の液体、例えば、精製するタンパク質を含む溶液、バッファーまたはウイルス不活化のための低pHもしくは酸性pHの溶液を本明細書において意味する。
【0118】
特定の実施形態では、第1、第2および第3の精製工程は、液体を連続的に送り込む。
【0119】
用語「統合方法」は、協同的に機能して特定の結果(例えば、液体培養培地からの精製タンパク質の生成)を達成する構造要素を使用して行われる方法を意味する。
【0120】
さらに、本発明の方法は、方法の第1の工程から最後の工程まで閉鎖系において実行することができる。言い換えれば、本発明の方法は、好ましくは、機能的に閉鎖された流路を有する。特には、3つの精製工程、および場合により、ろ過工程(複数可)(例えば、ナノろ過工程ならびに/または最終的な限外ろ過および/もしくは透析ろ過工程)は、閉鎖系において実行することができる。本発明の方法の特定の実施形態では、タンパク質を含む溶液は、3つの精製工程を通して部分毎に通過させ、溶液の一部の各通過は、実行に対応する。次いで、各実行の終わりに回収したタンパク質を採取し、貯蔵する。このような方法では、精製工程の膜吸着体は、数回使用され、場合により、例えば、上に定義する衛生化バッファーを使用して衛生化し、これにより、膜吸着デバイスおよび必要とするバッファーの量の削減が可能となる。例えば、3~50回の一連の実行(例えば、3~30回、5~25回、10~20回、または15回の実行)は、連続的に行うことができる。より詳細には、3、4、5、6、7または8回の実行を連続的方式により行った後、膜吸着体を(例えば、衛生化バッファーを使用して)衛生化することができる。これは、図2に例示するように、例えば、2、3、4、5、6、7、8、9、10またはそれ以上の回数、繰り返し得る。
【0121】
本明細書において開示する方法を使用して、精製したタンパク質を回収することができる。本明細書において使用する場合、「精製した」は、in vitro、ex vivoまたはin vivoでのタンパク質の有効な使用が可能となる純度を指す。in vitro、ex vivoまたはin vivoでの適用において有用となるタンパク質では、夾雑物、他のタンパク質、および/またはこのような適用においてこのタンパク質の使用に干渉し得るか、もしくは目的のタンパク質への含有が少なくとも望ましくない化学物質を実質的に不含であるべきである。このような適用は、治療組成物の調製、治療組成物中のタンパク質の投与、および本明細書に開示する他の方法を含む。好ましくは、「精製した」タンパク質は、本明細書において参照する場合、任意の方法により(すなわち、天然源から、組換え、または合成による直接的精製により)生成することが可能であり、タンパク質が、所与の組成物において、少なくとも約70%の重量/総タンパク質の重量、より好ましくは、少なくとも約80%、または少なくとも約85%、より好ましくは、少なくとも約90%、より好ましくは、少なくとも約91%、より好ましくは、少なくとも約92%、より好ましくは、少なくとも約93%、より好ましくは、少なくとも約94%、より好ましくは、少なくとも約95%、より好ましくは、少なくとも約96%、より好ましくは、少なくとも約97%、より好ましくは、少なくとも約98%、より好ましくは、所与の組成物において、少なくとも約99%の重量/総タンパク質の重量を含むように、他のタンパク質成分から精製されている、タンパク質である。
【0122】
特定の実施形態では、本発明の方法は、
(a)ろ過工程であって、
(i)フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して、溶液を通過させるステップ、
(ii)前記少なくとも1つのキレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
(i)工程(a)から得られたろ過されたタンパク質溶液、および1つのバッファーを、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップ、
(ii)部分的に精製したタンパク質を含む、前記少なくとも1つの透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、ならびに
(c)ポリッシング工程であって、(i)平衡化バッファーを、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記平衡化バッファーは、工程(b)において交換に使用する1つのバッファーと同一である、ステップ、
(ii)工程(b)から得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップ、
(iii)精製したタンパク質を、前記膜吸着体の組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含み、前記精製方法は、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まず、
1つのバッファーは、
- 酢酸により6~9(例えば7.5)のpHに調整した、5~40mM(例えば20mM)のビストリスおよび15~150mM(例えば75mM)のNaCl、
- 酢酸により6~9(例えば7.5)のpHに調整した、5~40mM(例えば20mM)のトリスまたはトリス-HCl、15~150mM(例えば75mM)のNaCl、
- クエン酸により6~9(例えば7.5)のpHに調整した、5~40mM(例えば20mM)のトリスまたはトリス-HCl、15~150mM(例えば75mM)のNaCl、あるいは
- NaHPO/NaHPO(好ましくは、10mM/90mMのNaHPO/NaHPOから90mM/10mMのNaHPO/NaHPOまで)により6~9(例えば7.5)のpHに調整した、15~150mM(例えば75mM)のNaCl
を含むか、またはこれらからなる。
【0123】
溶液からタンパク質を精製するための方法は、少なくとも1つの追加の最終的ろ過工程、例えば、ナノろ過工程、限外ろ過工程および/または透析ろ過工程を、ポリッシング工程の後に含み得る。医薬品としての目的のために組換えタンパク質を精製する場合、ポリッシング工程は、典型的に、追加の最終的ろ過工程に後続する。したがって、本発明の方法は、工程(c)の後にナノろ過工程をさらに含み得る。限外ろ過および透析ろ過工程は、ナノろ過工程の後にさらに行い得る。本明細書において使用する場合、「限外ろ過」または「UF」は、半透膜を使用して、UF膜の粒子サイズおよび孔径に基づいて、溶液から粒子および/またはイオンを物理的かつ選択的に除去する、ろ過技術を指す。本明細書において使用する場合、「ナノろ過」は、例えば、ウイルス粒子の除去に使用するナノフィルターを通した溶液のろ過を指す。本明細書において使用する場合、「透析ろ過」は、限外ろ過膜を使用して、溶液から塩または溶媒を完全に除去、置換またはこの濃度を低下させる技術を指す。
【0124】
また、本発明の方法は、少なくとも1つのウイルス不活化工程をさらに含み得る。前記少なくとも1つのウイルス不活化工程は、本発明の方法の任意の段階、例えば、工程(a)の前、工程(a)の後、工程(b)の後、工程(c)の後、ナノろ過工程の後ならびに/または限外ろ過および/もしくは透析ろ過工程の後に行い得る。このようなウイルス不活化工程は、典型的に、低pHまたは酸性pH不活化工程であり得る。本明細書において使用する場合、「低pHまたは酸性pH不活化」は、酸性pHを使用して、ウイルス、特には、エンベロープウイルスを変性させる、ウイルス不活化技術を指す。典型的には、低pHまたは酸性pH不活化工程は、約3.0~5.0(例えば、約3.5~約4.5、約3.5~約4.25、約3.5~約4.0、例えば4.0)のpHで、少なくとも15分の期間(例えば、15分~1時間の期間、約30分~2時間の期間、または約45分~2時間の期間)、回収したタンパク質をインキュベートすることにより行われる。例えば、低pHまたは酸性pH不活化工程は、pH4で、例えば、30分~2時間、回収したタンパク質をインキュベートすることにより行われる。
【0125】
また、本発明の方法は、清澄化して細胞が除去されており、細胞を実質的に含まない、精製するタンパク質を含む液体培養培地を用意する工程を、工程(a)の前に含むことがあり、この場合、前記液体培養培地は、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して供給される。
【0126】
例えば、溶液からタンパク質を精製するための本発明の方法は、
(a前)清澄化して細胞が除去されており、細胞を実質的に含まない、精製するタンパク質を含む液体培養培地を用意する工程、
(a)ろ過工程であって、
- 工程(a前)の前記液体培養培地を、フロースルー方式により、少なくとも1つのキレート剤マトリックスを通して通過させるステップ、
- 前記少なくとも1つのキレート剤マトリックスのフロースルーから、ろ過されたタンパク質溶液を回収するステップ
を含む、工程、
(b)交換工程であって、
- 工程(a)の終わりに得られたろ過されたタンパク質溶液を、交換のための1つのみのバッファーを使用して、少なくとも1つの透析ろ過膜を通して通過させるステップ、
- 部分的に精製したタンパク質を含む、前記少なくとも1つの透析ろ過膜の残留液を回収するステップ
を含む、工程、および
(c)ポリッシング工程であって、
- 工程(b)の終わりに得られた残留液を、フロースルー方式により、膜吸着体の組合せを通して通過させるステップであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性であり、前記膜吸着体の組合せは、工程(b)において交換に使用する1つのバッファーと同一の平衡化バッファーにより予め平衡化されている、ステップ、
- 精製したタンパク質を、膜吸着体の上記組合せのフロースルーから回収するステップ
を含む、工程
を含むことがあり、精製方法は、プロテインAによるクロマトグラフィー工程を含まない。
【0127】
最終的には、精製したタンパク質は、保存に適する組成物、ならびに/または特に、動物および/もしくはヒトへの投与に適する医薬組成物に製剤化し得る。
【0128】
本開示の方法の多数の利点のうちの1つは、高度に純粋なタンパク質の良好な収率を得ることが可能となることである。本発明の方法により回収する、精製したタンパク質は、例えば、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%、99%、99.2%、99.5%または99.9%の純度を示し得る。より詳細には、本開示の方法の多数の利点のうちの1つは、減少量の、夾雑DNA、高分子量(HMW)種(タンパク質凝集物に対応する)および/または宿主細胞タンパク質(HCP)を含む、高度に純粋なタンパク質の溶液を得ることが可能となることである。本発明の方法により回収した、精製したタンパク質を含む溶液は、例えば、0.4ppb未満、0.3ppb未満、0.2ppb未満または0.1ppb未満の夾雑DNAの量を示し得る。また、本発明の方法により回収した、精製したタンパク質を含む溶液は、例えば、0.6%未満、0.5%未満、0.4%未満、0.3%未満、0.2%未満または0.1%未満のHMW種の濃度を示し得る。また、本発明の方法により回収した、精製したタンパク質を含む溶液は、例えば、500ng/ml未満、100ng/ml未満、90ng/ml未満、85ng/ml未満、80ng/ml未満、75ng/ml未満または70ng/ml未満のHCPの濃度を示し得る。加えて、本発明の方法は、少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、96%、97%、98%または99%の収率の精製したタンパク質の回収を可能とする。
【0129】
本発明は、さらに、
(a)少なくとも1つのキレート剤マトリックス、少なくとも1つの透析ろ過膜、および膜吸着体の組合せであって、前記膜吸着体の組合せの2つの膜吸着体は、作用機序に関して直交性である、膜吸着体の組合せ、ならびに
(b)トリス、トリス-HCl、ビストリス、リン酸および/もしくはクエン酸を含み、特に、(i)ビストリス、トリス、もしくはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)水、および(iv)場合によりNaClを含むか、もしくはこれらからなる、1つのバッファー、ならびに/またはトリス、トリス-HCl、ビストリス、リン酸および/もしくはクエン酸を含み、特に、(i)ビストリス、トリスもしくはトリス-HCl、(ii)酢酸、(iii)水、および(iv)場合によりNaClを含むか、もしくはこれらからなる、1つのバッファーを調製するための説明書
を含むか、またはこれらからなる、キットに関する。
【0130】
本発明は、以下の図および実施例により、さらに例示する。
【図面の簡単な説明】
【0131】
図1】本発明の3工程完全フロースルー方法を表す模式図である。
図2】実施例4において使用する本発明の3工程完全フロースルー方法の連続的バージョンを表す模式図である。
図3】膜吸着体の4つの組合せ(HD-C+HD-Q、HD-Sb+HD-Q、Sartobind S+Q、Sartobind S+STIC)により得た、収率(%)、HMW(%)およびHCP(ng/ml)の、膜容量(mg/ml)による比較を表すヒストグラムである。
図4】平衡化バッファーのpHおよび伝導率(mS/cm)による、膜吸着体の2つの組合せ(上パネル:Sartobind S+STIC、下パネル:Sartobind S+Q)および3つのpI(6;7.5および9)の精製するタンパク質についてのスイートスポットのプロットである。有利な精製を達成することが可能となるpHおよび伝導率の条件(50~500ng/mlのHCPレベルに対応する)は、各プロットの黒色の領域に対応する。
図5】実験室規模の連続的方法実験における、膜を通した精製(U.V.280nm)の部分的クロマトグラムである。
【実施例1】
【0132】
本発明による実験室規模の方法
本発明の方法は、ヒト化モノクローナル抗体mAb1の実験室規模のバッチ精製に利用した。
【0133】
この実験は、3つの工程の後に実験室規模で達成した不純物除去の結果を示す。目標は、凝集物(HMW)および宿主細胞タンパク質(HCP)を、HMWでは1%未満およびHCPでは500ng/ml未満に除去することであった。
【0134】
発明者らは、2つの異なるキレート剤、1つの交換工程および1対の膜(Sartobind SおよびSTICまたはSartobind SおよびQ)を使用して功を奏した。
【0135】
【表2】
【実施例2】
【0136】
本発明による実験室規模の方法
本発明の方法は、ヒト化モノクローナル抗体mAb2の実験室規模のバッチ精製に利用した。
【0137】
この実験は、3つの工程の後に実験室規模で達成した不純物除去の結果を示す。目標は、凝集物(HMW)および宿主細胞タンパク質(HCP)を、HMWでは1%未満およびHCPでは500ng/ml未満に除去することであった。発明者らは、2種類のキレート剤、1つの交換工程および1対の膜(Sartobind SおよびSTICまたはSartobind SおよびQ)を使用して功を奏した。最良の結果は、1対のSartobind S+STICを用いて、pH8.5および3ms/cmに設定した負荷条件により得た。
【0138】
【表3】
【実施例3】
【0139】
本発明によるパイロット規模の方法
本発明の方法は、mAb1のパイロット規模のバッチ精製に利用した。
【0140】
実施例2に開示するものと同一の方法をパイロット規模に規模拡大した。目標は、3つの工程の後、ナノろ過工程を通して10gを精製することであった。
【0141】
清澄化した細胞培養上清8Lを、本発明の方法の3つの工程およびナノろ過を通して精製した。8Lは、Tosoh NH-750F樹脂を250ml、次いで13分撹拌し、活性炭素(Norit SA2グレード)を160g、次いで14分撹拌し、活性炭素(Norit SA2グレード)を30g、次いで10分撹拌して20Lの撹拌機に連続的に導入した。
【0142】
生成物をろ過した(Filtroxフィルター)後、交換工程を開始した。生成物約9Lは、ろ過(生成物を滅菌水1Lによりフィルターの外部に押し出した)後に回収した。UF/DFは、中空糸(790cm-50KD-Spectrumlab社)を使用してGE Uniflux上で行った。生成物の中空糸を通した透析ろ過に使用したバッファーは、酢酸によりpH7.2に調整するためにQ.S.の20mMビストリスバッファーであった。
【0143】
2.64kgは、6.9g/L(モノクローナル抗体18.2g)で回収した。次いで、回収した生成物2L(14g)は、2つの膜吸着体:75ml用Sartobind Sおよび200ml用Sartobind Qを通して押し出した。2つの膜を連続的に結合させ、GE AktaProcessを使用して、フロースルー方式において使用した。
【0144】
最終的には、生成物は、前置フィルター(XOHC-Millipore社)およびViresolve Proフィルター(Millipore社)を通してナノろ過して、最終品質を得た。
【0145】
以下の表は、従来の方法および本発明の方法の間の比較を示す。
【0146】
【表4】
【実施例4】
【0147】
本発明による実験室規模の完全連続的方法
本発明の方法は、連続的方式による、ヒト化モノクローナル抗体mAb1の実験室規模のバッチ精製に利用した。
【0148】
実験の目標は、中断、保存または各工程間の調整がないことを意味する連続的方式を使用して、清澄化したバルク回収物からmAb1を精製することであった。発明者らは、キレート剤(固定化AEX、活性炭素CA)上でのろ過、1つの交換工程(単一経路透析ろ過)および1対の膜(Sartobind SおよびSTIC)を使用して功を奏した。
【0149】
清澄化した細胞培養上清3Lを、本発明の方法の3つの工程を通して精製した。生成物は、固定化陰イオン交換体(Emphaze AEX BV120)、次いで、活性炭素フィルター(Millipore社CR40 270cm2)を通してろ過した。次いで、生成物を単一経路透析ろ過膜(0.2m2)に直接流して、濃縮および透析ろ過(交換工程)した。生成物を通した透析ろ過に使用したバッファーは、酢酸によりpH7.5に調整するためにQ.S.の20mMビストリス、20mMのNaClバッファーであった。
【0150】
透析ろ過生成物は、中間サージバッグを通過させた残留液側から直接回収して、後の工程による流速差に適応させた。次いで、生成物は、2つのポリッシング膜吸着体:1ml用Sartobind Sおよび1ml用Sartobind STICを通して、さらに押し出した。2つの膜を連続的に結合させ、GE Akta Pureを使用したフロースルー方式に使用した。各単位工程は、他方に直接連結させるか、またはサージバッグを通して連続的に処理した。
【0151】
複数サイクルの精製を膜吸着体上で行って、図5に示すように(膜による精製50サイクルの抜粋)、全容量の生成物を処理した。生成物プール全体を、方法の終わりに無菌フィルターを通して回収した。mAbを40mg、5分毎に精製すると、1時間に膜1リットルあたり240g(240g/L/h)のmAb1の生産性が生じた。
図1
図2
図3
図4
図5