(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-04
(45)【発行日】2023-12-12
(54)【発明の名称】半導体製造装置のクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/3065 20060101AFI20231205BHJP
【FI】
H01L21/302 101H
(21)【出願番号】P 2022541841
(86)(22)【出願日】2021-07-19
(86)【国際出願番号】 JP2021026923
(87)【国際公開番号】W WO2023002521
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山田 将貴
(72)【発明者】
【氏名】武居 亜紀
(72)【発明者】
【氏名】黒崎 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】服部 孝司
【審査官】宇多川 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-016698(JP,A)
【文献】特開2008-192667(JP,A)
【文献】特開平10-275776(JP,A)
【文献】特開2002-173776(JP,A)
【文献】国際公開第2016/140166(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3065
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体製造装置のクリーニング方法であって、
処理容器内部の処理室内にフッ化水素およびアルコールの蒸気を含む処理用のガスを導入する導入口と、前記処理室内に配置され処理対象のウエハがその上面に載せられる試料台と、前記導入口にアルキル基を持つアルコール類、または、水である極性分子ガスを導入する導入機構と、前記導入口に赤外線照射により前記極性分子ガスを室温より高い温度に加熱する加熱機構と、を備えた半導体製造装置の前記処理室内の前記試料台に前記ウエハを載置し、
前記処理室内において、
前記フッ化水素および
前記極性分子ガスの蒸気を含む混合気体により、前記ウエハの酸化シリコンをエッチング処理し、
その後、前記処理室内に、前記酸化シリコンのエッチング処理中のアルコールの流量以上のアルコールを導入し、かつ、前記加熱機構により前記赤外線照射した前記極性分子ガスを導入することにより、前記処理室内をクリーニングする、半導体製造装置のクリーニング方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウエハ等の基板状の試料上に配置された処理対象の膜を処理して半導体デバイスを製造する半導体製造装置および半導体製造装置のクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
上記のように、半導体ウエハのような試料上に予め形成された処理対象の膜を処理して回路用の構造を形成する工程を有する半導体デバイスの製造においては、半導体デバイスの微細化に伴ってより高精度な加工技術のニーズが高まっている。特に、酸化シリコン(SiO2)から構成された或いはこれを含んだSiO2膜は、様々な半導体デバイスの回路に適用されており、これをエッチングする技術も従来から継続して検討され進歩してきた。近年では、SiO2膜を加工する処理に、プラズマを用いずに処理用のガスとして特定の物質の蒸気をSiO2膜表面に供給して当該物質の原子又は分子とSiO2とを反応させる、所謂ベーパーエッチングの開発が進んでいる。従来のSiO2膜の除去方法として、フッ酸を用いたウエットエッチが主であったが、近年の半導体素子の微細化に伴い、表面張力による素子パターン倒壊などの課題が顕現化している。そこで、例えば、非特許文献1、非特許文献2、または、特許文献1で記載されている様な、フッ化水素(HF)とアルコールとの混合ガスを用いたベーパーエッチングが提案されている。また、近年では、HFとアルコールとのベーパーエッチングにおいて、窒化シリコン(SiN)に対するSiO2のエッチングの選択比を向上させる為、-10℃以下での低温プロセスが有望視されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Chun Su Lee et al., “Modeling and Characterization of Gas-Phase Etching of Thermal Oxide and TEOS Oxide Using Anhydrous HF and CH3OH”, J. Electrochem. Soc., vol. 143, No.3 pp.1099-1103 (1996)
【文献】Keiichi Shimaoka et al., “Characteristic of Silicon Nitride Reaction to Vapor-Phase HF Gas Treatment”, IEEJ Trans. SM, vol. 126, No.9 pp.516-521 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ベーパーエッチングを実現する半導体製造装置(便宜的に、ノンプラズマドライ加工装置と称する)における課題の1つは、真空容器のチャンバー(反応室とも言う)内部のクリーニング方法である。従来のドライエッチング装置は、(酸化/物理エネルギーアシスト等の)プラズマによるチャンバー内部のクリーニングが可能であったが、プラズマ源が無いノンプラズマドライ加工装置においては、これまでのプラズマによるチャンバー内部のクリーニングが困難である。また、前述したHFを用いた低温プロセスにおいては、エッチング中に発生する反応生成物によるフッ素の影響で、半導体ウエハに形成した半導体素子の素子特性を劣化させる課題が顕現化している。
【0006】
図1に、SiN膜31とSiO
2膜32との積層構造33におけるベーパーエッチングの模式図を示す。ここでは、ベーパーエッチングのエッチングガスとして、フッ化水素HFとメタノールCH
3OH(
図1には、ALCとして示す)との混合ガス34を使用している。SiO
2膜32は以下の反応式1に従い、エッチングが進行する(非特許文献1)。
【0007】
(反応式1) SiO
2 + 4HF + 2CH
3OH → SiF
4(↑) + 2H
2O + 2CH
3OH
本プロセスにおいては、余剰HFが残留ガスとしてSiN/SiO
2の積層膜33に付着する。付着量としては、温度低下により増大する傾向にあり、特許文献2に記載されたHFとCH
3OHとの混合ガス34を用いた低温プロセスでは、残留フッ化水素35(
図1では、残留フッ化水素35は白丸〇で示される)の量としては増大する。また、HF/CH
3OHのベーパーガスによるエッチングにおいて、SiN膜31上には変質物であるケイフッ化アンモニウム(NH
4)
2SiF
6が形成される事が知られている(非特許文献2)。ケイフッ化アンモニウムは、通常、加熱により昇華する物質であるが、チャンバー内部に昇華温度以下の所謂コールドスポットが存在する場合は、反応生成物36であるケイフッ化アンモニウムがチャンバー内に堆積する事例が生じる。
図1では、反応生成物36は白三角△で示される。
【0008】
半導体ウエハ上やチャンバー内に堆積したケイフッ化アンモニウムは、赤外線(IR)ランプやホットガスによる加熱によって昇華させる方法が考えられるが、チャンバー内でもIRランプの発光する赤外光が直接当らない部位も多く存在する。例えば、半導体ウエハを載置して処理するステージ(試料台)の下部では、IRランプの発光する赤外光が直接当らず、反応生成物や残留HFが堆積する事が課題となっており、IRランプのみで残留フッ素を低減する事が困難である。
【0009】
また、半導体製造装置のメンテナンス面でも、チャンバー内にHFが残存していると大気開放時にフッ酸となり、人体への影響が大きい。その為、大気開放前のサイクルパージを入念に実施する必要があり、サイクルパージの時間が半導体製造装置のダウンタイム(停止時間)に占める割合も高く、メンテナンス性を低下させる要因になっている。
【0010】
本発明の目的は、チャンバー内の反応生成物や残留HFを低減することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。
【0012】
一実施の形態による半導体製造装置は、処理容器内部の処理室内にフッ化水素およびアルコールの蒸気を含む処理用のガスを導入する導入口と、処理室内に配置され処理対象のウエハがその上面に載せられる試料台と、導入口に極性分子ガスを導入する導入機構を備える。
【発明の効果】
【0013】
上記一実施の形態による半導体製造装置によれば、チャンバー(反応室)内の反応生成物や残留HFを低減させる効果がある。また、チャンバー内にフッ化水素が残留した場合、SiO2のエッチングレートの変動や半導体素子の素子特性への影響が懸念される為、これら反応生成物や残留HFの低減を実現する事で、半導体ウエハ間のエッチングレート変動や半導体素子の素子特性の劣化を未然に防ぐことが可能となる。これにより、SiO2を含んで構成された膜のエッチングにおいてエッチング処理の歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】HFとメタノールを用いたSiN/SiO
2の積層膜への残留物付着の模式図。
【
図2】エッチングチャンバ内での残留物付着の模式図。
【
図3】実施の形態によるクリーニング機構を備えた第1の酸化膜除去エッチングチャンバを有する半導体製造装置の断面図。
【
図4】実施の形態によるクリーニング機構を備えた第2の酸化膜除去エッチングチャンバを有する半導体製造装置の断面図。
【
図5】実施の形態によるクリーニング機構を備えた第3の酸化膜除去エッチングチャンバを有する半導体製造装置の断面図。
【
図6】
図3の第1の酸化膜除去エッチングチャンバを備えた半導体製造装置の全体的な構成図。
【
図7】
図4の第2の酸化膜除去エッチングチャンバを備えた半導体製造装置の全体的な構成図。
【
図8A】クリーニング工程で一定のCH
3OHガス、および、第2の赤外線ランプの出力を一定値にした場合のプロセスフロー図。
【
図8B】クリーニング工程において、CH
3OHをパルス的に導入した場合のプロセスフロー図。
【
図8C】クリーニング工程において、第2の赤外線ランプの出力をパルス的に印加した場合のプロセスフロー図。
【
図9A】エッチング後にクリーニングプロセスを実施しない場合のガス流量を示すフローチャート図。
【
図9B】エッチング後にクリーニングプロセスを実施しない場合の残留フッ化水素の時間推移。
【
図10A】エッチング後にCH
3OHガスをフローした場合のガス流量を示すフローチャート図。
【
図10B】エッチング後にCH
3OHガスをフローした場合の残留フッ化水素の時間推移。
【
図11A】エッチング後に加熱したCH
3OHガスをフローした場合のガス流量を示すフローチャート図。
【
図11B】エッチング後に加熱したCH
3OHガスをフローした場合の残留フッ化水素の時間推移。
【
図12A】エッチング後に加熱したN
2ガスをフローした場合のガス流量を示すフローチャート図。
【
図12B】エッチング後に加熱したN
2ガスをフローした場合の残留フッ化水素の時間推移。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施の形態を、以下図面を用いて説明する。ただし、以下の説明において、同一構成要素には同一符号を付し繰り返しの説明を省略することがある。なお、図面は説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0016】
図1は、HFとメタノールを用いたSiN/SiO2の積層膜への残留物付着の模式図を示す。フッ化水素HFとメタノールCH
3OHの混合ガス34をエッチングガスとして用いたSiO
2膜32のエッチング工程では、図中に示すような余剰フッ化水素が半導体製造装置のチャンバー(反応室とも言う)内に残留フッ化水素35として残留する。また、SiN膜31上ではケイフッ化アンモニウムに代表される反応生成物36が形成され、例えば反応生成物36を加熱により除去した場合は、チャンバー内に残留する。前述の低温でのエッチングを実施した場合、これら残留するフッ化水素35や反応生成物36が、処理対象の半導体ウエハ(半導体基板とも言う)30の上に形成された、SiN膜31とSiO
2膜32の積層膜33に付着しやすい状況となる。
【0017】
図2は、HFとアルコールを用いた酸化膜エッチングを実現する為のエッチングチャンバにおける反応生成物の発生と付着の模式図を示す。半導体製造装置300は、真空容器1、ガス導入部2、第1の赤外線ランプ3、エッチング対象の半導体ウエハ4、チラーなどで温度制御された低温ステージ5、などを含む。
図2において、36がケイフッ化アンモニウムに代表される反応生成物、35が残留フッ化水素をそれぞれ表す。低温ステージ5は、エッチングの処理対象の半導体ウエハ4がその上面に載せられる試料台である。真空容器1は、処理対象の半導体ウエハ4が配置される試料台5を有した処理室20を内部に備えたエッチングチャンバ(チャンバーとも称する)21を構成している。
【0018】
SiNに対するSiO2エッチングの選択比を得る為、低温ステージ5の温度は、例えば、-20℃以下の温度に維持することを特徴とする。第1の赤外線ランプ3は、出力調整によりウエハ4や低温ステージ5の一部を加熱する事を特徴とする。前述した残留フッ化水素35や反応生成物36は、低温プロセスにおいてはウエハ4のみならず、チャンバー21内のパーツに付着しやすくなる。真空容器1は、ヒータ加熱などにより、壁材への付着を抑制する工夫がなされているが、例えば低温ステージ5の側面や下部など、赤外線ランプ3によって加熱されない場所に、残留フッ化水素35や反応生成物36が付着しやすい。また、これら付着した残留フッ化水素35や反応生成物36によって、半導体ウエハ4に形成された半導体素子の素子特性の劣化や真空容器1を含む半導体製造装置300のメンテナンス性を低下させる要因となっている。
【0019】
そこで、本発明では、残留フッ化水素35や反応生成物36を低減させる方法として、エッチング後に加温された極性分子ガスをクリーニングガスとして用いる方法を提案する。フッ化水素分子はフッ素の強い電気陰性度により、電気的に偏極した、所謂、極性分子として知られる。その為、チャンバー21内に付着した残留フッ化水素35を効率的に除去するためには、例えばアルキル基を持つアルコール類、または、水といった極性分子を用いた電気化学的な脱離が望ましい。また、本発明にて対象とする低温でのエッチングは、前述の通り付着係数が高くなるため、残留フッ化水素35の脱離には高温のガス照射が望ましい。以上の理由により、加温された極性分子ガスによる残留フッ化水素35の除去が実現できると考えられる。
【0020】
また、本発明では、赤外線(IR)ランプの発光する赤外光で直接加熱が出来ないチャンバー(反応室)内の部位に付着した残留フッ化水素HFやケイフッ化アンモニウムなどのフッ化化合物を除去する方法として、加熱された極性分子ガスを用いたチャンバーのクリーニング法を提案する。極性分子ガスの加熱方法は、ヒータ加熱、IRランプ加熱、または、ホットガスへの極性分子ガスの添加の方式を採用することができる。HFは水素結合により極性を備えたガスであるが、アルコールなどの極性分子ガスと混合しやすい特徴を持つ。また、特にアルコールは、赤外線波長領域での赤外吸収が大きい為、IRランプによるIR加熱により分子レベルで効率的に気体を温めることができる。その為、IR加熱によって温められたアルコールにより、IRランプから発光する赤外光が直接当らない部位においても、残留フッ素を効率的に除去する事が可能となる。
【0021】
これにより、チャンバー(反応室)内の反応生成物や残留HFを低減させる効果がある。また、チャンバー内にフッ化水素が残留した場合、SiO2のエッチングレートの変動や半導体素子の素子特性への影響が懸念される為、これら反応生成物や残留HFの低減を実現する事で、半導体ウエハ間のエッチングレート変動や半導体素子の素子特性の劣化を未然に防ぐことが可能となる。
【0022】
図3は、本発明を実現する第1の酸化膜除去用のエッチングチャンバを有する半導体製造装置の断面図を示す。半導体製造装置100は、
図2で説明したと同様に、真空容器(処理容器)1、ガス導入部(導入口とも言う)2、第1の赤外線ランプ3、エッチング対象の半導体ウエハ4、チラーなどで温度制御された低温ステージ5、を含む。低温ステージ5は、エッチングの処理対象の半導体ウエハ4がその上面に載せられる試料台である。真空容器1は、処理対象の半導体ウエハ4が配置される試料台5を有した処理室20を内部に備えたエッチングチャンバ(チャンバーとも称する)21を構成している。ガス導入部2は、処理室20内にフッ化水素HFおよびアルコール(HFと極性分子ガス)の蒸気を含む処理用のガスを導入する。
【0023】
半導体製造装置100は、さらに、HF用の流量制御器6、ヒドロキシ基(OH基)を含む極性ガス用の流量調整器7、あらかじめ加温されたガス用の流量調整器8、を含む。極性ガス用の流量調整器7は、ガス導入部2に極性分子ガスを導入する導入機構である。
【0024】
尚、OH基を含む極性ガスは、メタノールCH3OH、エチルアルコールC2H5OH、プロパノールC3H7OHなどのアルコール(ALCと訳す)や水H2Oなどを指すが、本発明では分子構造にOH基を備え、電気極性が偏った極性分子ガスであればその形態を限定しない。
【0025】
また、加温ガスの流量調整器8においては、加温ガスとしてはアルゴンAr、ヘリウムHe、窒素N
2などのSiO
2のエッチングに直接寄与しないガスが望ましい。
図3では、一例として、加熱された窒素N
2が示されている。また、本発明ではその加温方法は限定しない。
【0026】
第1の酸化膜除去用のエッチングチャンバ21を用いたSiO2膜の除去方法は、HF用流量制御器6と極性分子ガス用流量調整器7を用い、HFと極性分子ガスとをエッチングに適切な流量比にてSiO2膜のエッチングを実施する。
【0027】
一方で、第1の酸化膜除去用のエッチングチャンバ21の内部のクリーニングプロセスに関しては、極性ガス用流量調整器7と加温ガス用流量調整器8を用い、加温ガスに極性分子ガスを混合させることで、実質的に極性分子ガスを加温する。尚、クリーニングプロセスの間に、第1の赤外線ランプ3を機能させても問題ない。この様な機構(7、8)を備えることにより、加温された極性分子ガスによる残留フッ化水素35の除去が可能となる。
【0028】
図4は、本発明を実現する第2の酸化膜除去用のエッチングチャンバを有する半導体製造装置の断面図を示す。半導体製造装置100aは、
図3で示した様に、真空容器1、ガス導入部2、第1の赤外線ランプ3、半導体ウエハ4、低温ステージ5、HF用の流量制御器6、ヒドロキシ基(OH基)を含む極性ガス用の流量調整器7、処理室20、エッチングチャンバ(チャンバー)21、を含む。半導体製造装置100aは、さらに、ガスの加温機構9を含む。ガスの加温機構9は、例えば、配管をヒータで加熱する機構を指す。尚、加温させる機構の設置場所は、ここでは限定しない。
【0029】
第2の酸化膜除去エッチングチャンバ21を用いたSiO2膜のエッチングの過程では、HF用流量制御器6と極性分子ガス用流量調整器7を用い、HFと極性分子ガス(ここでは、メタノールCH3OHのガス)とをエッチングに適切な流量比にしてSiO2膜のエッチングを実施する。この際にはガス加温機構9は機能させず、エッチングに最適な温度でのプロセスガスを供給する。
【0030】
一方で第2の酸化膜除去エッチングチャンバ21の内部のクリーニングの過程においては、HF用流量制御器6でHFの供給を停止させ、極性分子ガス用流量調整器7で極性分子ガスの供給のみとする。この際には、ガス加温機構9を機能させ、極性分子ガスを室温より高い温度に加温させる。尚、
図3と同様に、クリーニングプロセスの間、第1の赤外線ランプ3を機能させても問題ない。
【0031】
この様なガス加温機構9(および、第1の赤外線ランプ3)を備えることにより、室温より高い温度に加温された極性分子ガスによる残留フッ化水素35の除去が可能となる。
【0032】
図5は、本発明を実現する第3の酸化膜除去エッチングチャンバを有する半導体製造装置の断面図を示す。半導体製造装置100bは、
図3で説明したように、真空容器1、ガス導入部2、第1の赤外線ランプ3、半導体ウエハ4、低温ステージ5、HF用の流量制御器6、ヒドロキシ基(OH基)を含む極性ガス用の流量調整器7、処理室20、エッチングチャンバ(チャンバー)21、を含む。半導体製造装置100bは、さらに、第2の赤外線ランプ10を含む。第2の赤外線ランプ10は、極性ガス用流量調整器7で流量調整された極性分子ガスを赤外線照射により加熱する目的として設けられ、例えば、真空容器1内のガス導入部2に設置する事が望ましい。
【0033】
第3の酸化膜除去エッチングチャンバ21を用いたSiO
2膜のエッチングの過程では、
図4と同様に、HF用流量制御器6と極性分子ガス用流量調整器7を用い、HFと極性分子ガス(ここでは、メタノールCH
3OHのガス)とをエッチングに適切な流量比にしてSiO
2膜のエッチングを実施する。この際には、第2の赤外線ランプ10による加熱は実施しない。尚、プロセスによっては、第1の赤外線ランプ3にてウエハ4を加熱する場合も発生する。その為、加熱速度を向上させるために、第1の赤外線ランプ3としては、3μm以下の近赤外線の波長領域を用いることが望ましい。
【0034】
次に、第3の酸化膜除去エッチングチャンバ21の内部のクリーニングプロセスにおいては、
図4と同様に、HF用流量制御器6でHFの供給を停止させ、極性分子ガス用流量調整器7で極性分子ガスの供給のみとする。このクリーニング過程において、第2の赤外線ランプ10により極性分子ガスを室温より高い温度に加熱する。第2の赤外線ランプ10の波長領域としては、極性分子ガスの種別に依存するが、例えばCH
3OHをクリーニングガスとして用いた場合は、波長が1~3μcm程度の近中赤外線領域を用いるのが望ましい。この波長の帯域での中赤外線はCH
3OH分子での赤外線吸収が大きく、CH
3OH分子内でのC-OやC-Hの結合における分子伸縮振動が起きる。その結果として、赤外線によるCH
3OH分子を効率的に加熱する事が可能となる。尚、前述の通りに、クリーニングプロセスの間、第1の赤外線ランプ3を機能させても問題ない。
【0035】
この様な第2の赤外線ランプ10(および、第1の赤外線ランプ3)を備えることにより、加温された極性分子ガスによる残留フッ化水素35の低減が可能となる。
【0036】
図6は、
図3の第1の酸化膜除去エッチングチャンバを備えた半導体製造装置の全体的な構成図を示す。半導体製造装置100は、
図3にて記載した第1の酸化膜除去用のエッチングチャンバ21と、HF用の流量制御器6、ヒドロキシ基(OH基)を含む極性ガス用の流量調整器7、あらかじめ加温されたガス用の流量調整器8、HF供給器11、アルコール供給器12、HFとアルコール以外のキャリアガスの供給器13、真空排気装置15、チラー16、等を含む。
【0037】
HF供給器11は、例えば高圧ボンベによるHFガスの供給を可能とし、HF流量調節器6を通じてエッチングチャンバ21へ供給される。
【0038】
アルコール供給器12は、例えばキャニスタに貯蔵された液体のアルコールを加温する事によりアルコール蒸気として、アルコール流量調整器7を通じてエッチングチャンバ21へ供給する。
【0039】
HFとアルコール以外のキャリアガスの供給器13は、例えば、Ar、He、N2などの反応性の低いキャリアガスの高圧ボンベを表す。尚、これらのキャリアガスは、予め、ヒータ等により加温された状態で、ホットガス流量調整器8を通じてチャンバー21内に供給される。
【0040】
真空排気装置15は、例えば、ドライポンプやターボ分子ポンプなどにより構成され、エッチングチャンバ21内のガスや反応生成物を排気する。
【0041】
チラー16は、エッチングチャンバ21内の低温ステージ5の温度を制御する事が可能である。
【0042】
図7は、
図4の第2の酸化膜除去エッチングチャンバを備えた半導体製造装置の構成図を示す。、半導体製造装置100aは、
図4にて記載した酸化膜除去用のエッチングチャンバ21と、HF用の流量制御器6、ヒドロキシ基(OH基)を含む極性ガス用の流量調整器7、HF供給器11、アルコール供給器12、真空排気装置15、チラー16、配管加熱機構17、等を含む。HF供給器11、アルコール供給器12、真空排気装置15、チラー16は
図6にて説明した構成である。
【0043】
配管加熱機構17は、ガス流量制御部7から酸化膜除去用エッチングチャンバ21へのガス導入部2までの配管を加熱できる構成とされている。配管加熱機構17により、極性分子ガスは室温より高い温度に加熱することができる。加熱方法は、ヒータによる加温が一般的であるが、本発明では、その加熱形態は不問とする。
【0044】
図8A~
図8Cは、残留物クリーニングプロセス(クリーニング工程とも言う)CLでのプロセスフロー図を表す。ここでは、エッチングガスとしてHFとCH
3OHの混合ガス(気体)を用い、クリーニングガスとしてCH
3OHを用いた一例を説明する。また、
図5にて記載した第3の酸化膜除去エッチングチャンバを有する半導体製造装置100bを用いた場合を例として説明する。
【0045】
図8Aは、クリーニング工程CLで一定のCH
3OHガス、および、第2の赤外線ランプ10の出力を一定値にした場合のプロセスフローを示す。エッチング工程ET中は、HFとCH
3OHの流量比を2:1に調整し混合させる。尚、その流量は、本発明で限定はしない。クリーニング工程CLでは、HFの供給量をゼロにし、CH
3OHの流量をエッチング工程ETで使用した流量よりも多く流す。尚、CH3OHの流量を増大させるとクリーニング効果が増大するが、爆発下限以下にて運用するのが望ましい。第2の赤外線ランプ10の出力は、クリーニング工程CLにおいて、一定値で出力する。出力の大きさに関しては第2の赤外線ランプ10の性能に大きく依存するため、CH
3OHが効率的に加温されるような出力値を用いることが望ましい。その為、クリーニングガスの最大流量や赤外線ランプ10の出力値は本発明では不問とする。
【0046】
図8Bは、クリーニング工程CLにおいて、CH
3OHをパルス的に導入した場合のプロセスフローを示す。
図8Bの例では、クリーニング工程CLにおいて、CH
3OHが複数回(ここでは、3回)パルス的に、エッチングチャンバ21内に供給した例が示される。
【0047】
図8Cは、クリーニング工程CLにおいて、第2の赤外線ランプ10の出力をパルス的に印加した場合のプロセスフローを示す。
図8Cの例では、クリーニング工程CLにおいて、第2の赤外線ランプ10が複数回(ここでは、3回)パルス的にON状態とされて、エッチングチャンバ21内を加熱する例が示される。
【0048】
半導体製造装置のクリーニング方法についてまとめると、以下である。
【0049】
半導体製造装置のクリーニング方法は、例えば、
図5に示した半導体製造装置100bにおいて、
1)処理室20内の試料台5にウエハ4を載置し、
2)(エッチング工程)処理室20内において、フッ化水素および極性分子ガスの蒸気を含む混合ガス(気体)により、ウエハ4に形成されている酸化シリコン膜32をエッチング処理し、
3)(クリーニング工程)その後、処理室20内に、酸化シリコン膜32のエッチング処理中のアルコール(CH
3OH)の流量以上のアルコール(CH
3OH)を導入し(
図8A~
図8C参照)、かつ、加熱機構(第2の赤外線ランプ10)により赤外線照射した極性分子ガス(CH
3OH)を導入することにより、処理室20内をクリーニングする。これにより、処理室20内の残留フッ化水素HFを除去する。
【0050】
本発明においては、
図8A~
図8CのクリーニングプロセスCLを複数組み合わせたプロセスフローも発明の範囲とする。
【0051】
【0052】
図9A~
図12Bは、
図5で示した第3の酸化膜除去エッチングチャンバを有する半導体製造装置を用いた場合において、エッチング工程ETのエッチング条件は共通とし、クリーニング工程CLのクリーニング条件は異ならせた複数の例における残留フッ化水素HFの時間推移の結果を示している。
【0053】
図9A、
図9BはクリーニングプロセスCLを実施しない場合(CH
3OHガスのフロー無し、赤外線の加熱無しのクリーニング条件)を示し、
図9Aはガス流量を示すフローチャート図であり、
図9Bは残留フッ化水素HFの時間推移を示す図である。
【0054】
図10A、
図10BはクリーニングプロセスCLにおいてCH
3OHガスのみをフローし、赤外線による加熱を行わないクリーニング条件であり、
図10Aはガス流量を示すフローチャート図であり、
図10Bは残留フッ化水素HFの時間推移を示す図である。
【0055】
図11A、
図11BはクリーニングプロセスCLにおいてCH
3OHガスを赤外線ランプ10により加熱するクリーニング条件であり、
図11Aはガス流量を示すフローチャート図であり、
図11Bは残留フッ化水素HFの時間推移を示す図である。
【0056】
図12A、
図12BはクリーニングプロセスCLにおいてCH
3OHガス代わりに窒素N
2ガスを用い、窒素N
2ガスを赤外線ランプ10による加熱するクリーニング条件であり、
図12Aはガス流量を示すフローチャート図であり、
図12Bは残留フッ化水素HFの時間推移を示す図である。
【0057】
本例では、第3の酸化膜除去エッチングチャンバ21において、エッチング工程ETの後の残留フッ化水素HFの残留量を計測する為、エッチング工程ETにおいてHF / CH
3OHの混合ガスをエッチングガスとして用いたSiO
2膜32(
図1参照)のエッチングを実施し、エッチング工程ETの後の残留フッ化水素HFの残留量をQ-massを用いて計測した。SiO
2膜32のエッチングに用いた混合ガスの流量として、HF = 0.9 (L/min)、 CH
3OH = 0.45 (L/min)とした。尚、エッチング工程ETでは、エッチングの温度は-20℃、エッチング時間は1分間とした。
【0058】
残留フッ化水素HFの除去のための後処理プロセスとして、クリーニングガス(CH
3OHガス)の供給をしない、および、赤外線ランプ10を照射しないクリーニング条件(
図9A参照)での残留フッ化水素の残留量の時間推移の結果を
図9Bに示す。SiO
2膜32のエッチングが完了した2分後から、チャンバー21内の真空排気が真空排気装置15により開始される。この真空排気により、残留フッ化水素HFの残留量は減少していく。便宜的に残留フッ素の残留量の閾値として、Q-massの強度が3.0 x 10
-11 (counts)とした場合、真空排気のみでは少なくとも5時間経過しても3.0 x 10
-11 (counts)以下になる事は無かった。
【0059】
続いて、クリーニングガスとしてメタノールCH
3OHのガスを流し、赤外線ランプ10による加熱を実施しないクリーニング条件(
図10A参照)での残留フッ化水素の残留量の結果を
図10Bに示す。尚、クリーニングガスとして導入したメタノールは、CH
3OH = 0.15 (L/min)の流量とし、100分間クリーニングガスを流した。本結果によると、赤外線ランプ10で加熱しない場合においても、CH
3OHを流す事で、Q-massによる残留フッ化水素の強度が3.0 x 10
-11 (counts)に減少するのに約150分の時間を要した。本結果より、メタノールCH
3OHをクリーニングガスとして使用する事で、残留フッ化水素の排気時間を短縮できる事が分かった。
【0060】
続いて、クリーニングガスとしてメタノールCH
3OHのガスを流し、赤外線ランプ10による加熱を実施したクリーニング条件(
図11A参照)での残留フッ化水素の残留量の結果を
図11Bに示す。クリーニングガスの流量として、
図10Aで用いたメタノールCH
3OHのガスのフローと同条件(CH
3OH = 0.15 (L/min)の流量)とし、メタノールCH
3OHのガスを流している間、赤外線ランプ10による加温を実施した。赤外線ランプ10によるメタノールCH
3OHのガスの加温により、閾値である3.0 x 10
-11 (counts)に達するのに要した時間は約20分となった。本結果(
図11B)は、チャンバー21内のクリーニングを実施しない場合(
図9A、
図9B)と比較し94%以下にクリーニング時間を短縮する効果がある事が分かった。加温をしないメタノールCH
3OHのガスのフローによるクリーニング条件(
図10A、
図10B)と比較し、87%程度、クリーニング時間を短縮する効果がある事が分かった。
【0061】
尚、比較の為、無極性分子ガスである窒素N
2ガスを用いたクリーニング効果に関しても検討を行った。
図12Bにその結果を示す。窒素N
2ガスの流量は 0.15 (L/min)とし、赤外線ランプ10による加温は100分間とする。加温された窒素N
2ガスのフローにより、残留フッ化水素HFのクリーニング時間(閾値である3.0 x 10
-11 (counts)に達するのに要した時間)は60分となった。加温されたメタノールCH
3OHのガスによるクリーニング時間(20分)と比較すると、加温された窒素N
2ガスのクリーニング時間は、約3倍の時間を要することが分かった。
【0062】
以上の結果から、赤外線ランプ10による加温は無極性分子ガスよりも極性分子ガスの方が加熱効率が高く、本発明による極性分子ガスのIR加熱により効果的な残留フッ化水素のクリーニングを実施できるといえる。
【0063】
以上、本発明者によってなされた発明を実施例に基づき具体的に説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではなく、種々変更可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0064】
1・・・真空容器(処理容器)
2・・・ガス導入部
3・・・第1の赤外線ランプ
4・・・ウエハ
5・・・低温ステージ(試料台)
6・・・HFガス流量調整器
7・・・極性分子ガス流量調整器
8・・・ホットガス流量調整器
9・・・加熱機構
10・・・第2の赤外線ランプ
11・・・HF供給器
12・・・極性分子ガス供給器
13・・・ホットガス供給器
15・・・真空排気装置
16・・・チラー
17・・・配管加熱機構
20・・・処理室
21・・・エッチングチャンバ(チャンバー)
100、100a、100b・・・半導体製造装置