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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】光送信器
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/026 20060101AFI20231206BHJP
   H01S 5/50 20060101ALI20231206BHJP
   H04B 10/54 20130101ALI20231206BHJP
【FI】
H01S5/026 610
H01S5/026 618
H01S5/50 610
H04B10/54
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022532973
(86)(22)【出願日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 JP2020026103
(87)【国際公開番号】W WO2022003925
(87)【国際公開日】2022-01-06
【審査請求日】2022-10-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】陳 明晨
(72)【発明者】
【氏名】進藤 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】金澤 慈
【審査官】大西 孝宣
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/235235(WO,A1)
【文献】特開2018-206901(JP,A)
【文献】特開2016-072608(JP,A)
【文献】特表2003-513297(JP,A)
【文献】特開平06-265958(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0006654(US,A1)
【文献】米国特許第10277008(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0308178(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0125159(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0090576(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01S 5/00 - 5/50
G02B 6/12 - 6/14
H04B 10/00 - 10/90
H04J 14/00 - 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
分布帰還型レーザ、電界吸収型光変調器、及び一つ以上の半導体光増幅器が一体的に集積されており、当該分布帰還型レーザで発生した光が当該電界吸収型光変調器、及び当該一つ以上の半導体光増幅器を順番に通過するときに、当該電界吸収型光変調器に加える電界の強さにより当該光の強度が変調されるように、当該電界吸収型光変調器の光の伝搬モードと重なる領域に回折格子が形成されている光送信器であって、
前記一つ以上の半導体光増幅器の出射端面に結合された分布ブラッグ反射器を備える
ことを特徴とする光送信器。
【請求項2】
前記分布帰還型レーザ、前記電界吸収型光変調器、前記一つ以上の半導体光増幅器、及び分布ブラッグ反射器は、基板の一方の主面の上面に設けられた光回路部の内部に一体的に集積され、
前記回折格子と異なる回折格子が、前記分布帰還型レーザの活性層の側と、前記分布ブラッグ反射器の反射層の上面の側と、にそれぞれ形成されており、
前記分布帰還型レーザの前記活性層、前記電界吸収型光変調器の吸収層、前記半導体光増幅器の活性層、及び前記分布ブラッグ反射器の前記反射層が組み合わされて形成された光導波路コア部を有する
ことを特徴とする請求項1記載の光送信器。
【請求項3】
前記光回路部は、前記分布帰還型レーザの前記活性層、前記電界吸収型光変調器の前記吸収層、及び前記一つ以上の半導体光増幅器の前記活性層を一体的に集積したパッシブ層を有し、
前記光導波路コア部は、前記パッシブ層と前記反射層との突き合わせ結合により形成された
ことを特徴とする請求項2記載の光送信器。
【請求項4】
前記電界吸収型光変調器に形成された前記回折格子における反射波長は、当該電界吸収型光変調器へのバイアス印加がない場合、前記分布ブラッグ反射器の反射波長よりも0.1~10nm長い波長側にあり、当該電界吸収型光変調器へのバイアス印加がある場合、当該分布ブラッグ反射器の当該反射波長と同一となるように波長がシフトする
ことを特徴とする請求項1~3の何れか1項に記載の光送信器。
【請求項5】
前記分布ブラッグ反射器に対して電流注入が可能な電極構造を有し、当該電極構造への当該電流注入により当該分布ブラッグ反射器の反射波長が調節可能である
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光送信器。
【請求項6】
前記一つ以上の半導体光増幅器を利得として発振される光の波長は、前記分布帰還型レーザで発振する光の波長とは、異なる
ことを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の光送信器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光回路部の内部に分布帰還型(Distributed Feedback:以下、DFBとする)レーザ、電界吸収型(Electro Absorption:以下、EAとする)光変調器、及び半導体光増幅器(Semiconductor OPTICAL Amplifier:以下、SOAとする)を集積した光送信器に関する。
【背景技術】
【0002】
光送信器の一例であるEADFBレーザは、直接変調型レーザと比較し、高い消光特性と優れたすぐれたチャープ特性とを有する。尚、チャープ特性は、光搬送波の変調時に発生する微小で動的な波長の変動を示すものである。このため、EADFBレーザは、これまでにアクセス系ネットワーク用光源を含め、幅広い用途で用いられている。
【0003】
図1は、従来のEADFBレーザ100Aの概略構成を示す側面断面図である。図1を参照すれば、EADFBレーザ100Aは、略図するInP等の化合物半導体による基板の一方の主面の上面に光導波路コア部を含む光回路部が形成されている。そして、この光回路部の内部において、DFBレーザ1及びEA光変調器2が集積された構造を有する。
【0004】
EADFBレーザ100Aの各部について、DFBレーザ1は、アンダークラッド層及びオーバークラッド層の間に多重量子井戸(MQW)構造の活性層11aを有する。そして、DFBレーザ1は、活性層11と対向する上面側に形成された回折格子21によって単一波長で発振する。EA光変調器2は、アンダークラッド層及びオーバークラッド層の間にDFBレーザ1とは異なる組成材料の多重量子井戸構造の吸収層11bを有し、電圧制御により光吸収量を変化させることができる。その他、DFBレーザ1、及びEA光変調器2のオーバークラッド層の上面に形成された電極12a、12bとは、隔てられて配置され、それぞれ個別の電源に接続される。EA光変調器2の吸収層11bへの電界吸収に加える電界の強さによって、EA光変調器2では光の強度が変調される。
【0005】
このEADFBレーザ100Aでは、活性層11a及び吸収層11bが合わせて光導波路コア部を形成する。そして、EADFBレーザ100Aでは、DFBレーザ1の活性層11aからの出力光をEA光変調器2の吸収層11bで透過・吸収させる条件で駆動する。これにより、光を明滅させ、EA光変調器2で電気信号を光変調された光信号に変換できる。しかし、このEADFBレーザ100Aの場合には、EA光変調器2が大きな光損失を伴うため、高出力化が困難であるという課題がある。
【0006】
図1に示すEADFBレーザ100Aでは、EA光変調器2が大きな光損失を伴い、出力する光の高出力化が困難となる場合がある。これに対し、非特許文献1には、EADFBレーザ100Aの光出射端に更にSOAを集積したAXEL(SOA Assisted Extended Reach EADFB Laserを示すもので、以下はAXELとする)が提案されている。
【0007】
図2は、このEADFBレーザであるAXEL100Bの概略構成を示す側面断面図である。図2を参照すれば、AXEL100Bにおいても、化合物半導体による基板の上面に光導波路コア部を含む光回路部が形成されている。そして、この光回路部の内部において、DFBレーザ1、EA光変調器2、及びSOA3が集積された構造を有する。
【0008】
AXEL100Bの各部について、DFBレーザ1は、アンダークラッド層及びオーバークラッド層の間に多重量子井戸構造の活性層11a-1を有する。そして、DFBレーザ1は、活性層11a-1と対向する上面側に形成された回折格子21によって単一波長で発振する。また、EA光変調器2は、アンダークラッド層及びオーバークラッド層の間にDFBレーザ1とは異なる組成の多重量子井戸構造の吸収層11bを有し、電圧制御により光吸収量を変化させることができる。SOA3は、アンダークラッド層及びオーバークラッド層の間にDFBレーザ1と同じ組成材料による多重量子井戸構造の活性層11a-2を有し、EA光変調器2からの光信号を増幅する。その他、DFBレーザ1、EA光変調器2、及びSOA3のオーバークラッド層の上面に形成された電極12a、12b、12cとは、互いに隔てられて配置され、それぞれ個別の電源に接続される。ここでも、EA光変調器2の吸収層11bへの電界吸収に加える電界の強さによって、EA光変調器2では光の強度が変調される。
【0009】
このAXEL100Bでは、活性層11a-1、吸収層11b、及び活性層11a-2が合わせて光導波路コア部を形成する。そして、AXEL100Bでは、上記EADFBレーザ100Aの場合と同様にEA光変調器2によって変調された光信号が、更にSOA3の活性層11a-2で増幅されるため、光出力を向上させることが可能となる。これにより、図1に示したEADFBレーザ100Aと比較し、AXEL100Bは、約2倍の高出力特性が得られる。また、AXEL100Bは、SOA3の集積効果による高効率動作が可能であるため、EADFBレーザ100Aと同一の光出力が得られる動作条件で駆動した場合、約4割程度の消費電力削減が可能となる。更に、AXEL100Bでは、SOA3の活性層11a-2にDFBレーザと同一の多重量子井戸構造を用いている。このため、AXEL100Bは、SOA3の集積のための再成長プロセスを追加することなく、EADFBレーザ100Aと同一の製造工程でデバイスを作製することが可能である。
【0010】
ところが、一般的なSOAと同様に上述したAXEL100Bの場合、SOA3に強い光が入射すると、光の誘導放出によりSOA3内のキャリア密度が低下する。これにより、SOA3の増幅利得が低下し、増幅した光信号の出力レベルが低下することがある。このような現象は、光通信応用分野では、伝送する信号の一定時間内の同一符号の割合によって、その度合いが変化するため、パターン効果と呼ばれる。
【0011】
図3は、AXEL100BのSOA3でパターン効果を生じた場合のNRZ(Non-Rerun to Zero)光信号波形を示したアイパターンの模式図である。尚、図3中には、特性C0で示すゼロレベルの波形と特性C1で示す1レベルの波形とを合成したアイパターンを示している。
【0012】
図3を参照すれば、アイパターンでは、パターン効果の発生により、光信号のアイ開口が閉じる傾向になるため、伝送時のビットエラーレートの増大を来す。また、SOA3内でのキャリア密度が変動するため、これが屈折率の変化を引き起こす。これにより、キャリア密度が変動した状態で光信号が変調を受けるためチャープ(波長変動)が発生する。チャープが発生すると、光伝搬に用いる光ファイバ内の分散の影響を受け、光信号の波形に歪を生じ、アイ開口が閉じる要因となる。この結果、アイパターンにおいてアイ開口が閉じると、伝送時のビットエラーレートを増大させることになる。即ち、AXEL100Bの場合には、SOA3に強い光が入射してSOA3の内部のキャリア密度が低下すると、光信号波形の品質が劣化し、信号処理に誤動作を来すという問題がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0013】
【文献】Wataru Kobayashi,Masakazu Arrai,Takeshi Fujisawa,Tomonari Sato,Toshio Ito,Koichi hasebe,Shigeru Kanazawa,Yuta Ueda,Takayuki Yamanaka,and Hiroaki Sanjoh“Novel approach for chirp and output power compensation applied to a 40-Gbit/S EADFB laser integrated with a short SOA,”Opt.Express,Vol.23,No.7,pp.9533-9542,Apr.2015
【発明の概要】
【0014】
本発明は、上述した問題を解決するためになされたものである。本発明に係る実施形態の目的は、SOAに光が入射してもSOAの内部のキャリア密度が低下されず、光信号波形の品質が保持される光送信器を提供することにある。
【0015】
上記目的を達成するため、本発明の一態様は、DFBレーザ、EA光変調器、及び一つ以上のSOAが一体的に集積されており、当該DFBレーザで発生した光が当該EA光変調器、及び当該一つ以上のSOAを順番に通過するときに、当該EA光変調器に加える電界の強さにより当該光の強度が変調されるように、当該EA光変調器の光の伝搬モードと重なる領域に回折格子が形成されている光送信器であって、一つ以上のSOAの出射端面に結合された分布ブラッグ反射器を備えることを特徴とする。
【0016】
上記一態様の光送信器では、一つ以上のSOAの出射端面に結合されるように分布ブラッグ反射器を備えている。EA光変調器の電界印加状態とEA光変調器及び分布ブラッグ反射器の反射波長とを適宜設定すれば、SOAで増幅される光信号のキャリア密度の急激な変化を抑制するように調節できる。そして、キャリア密度の急激な変化を抑制した光信号を分布ブラッグ反射器から光出力できる。この結果、SOAに光が入射しても、SOAの内部のキャリア密度が低下されず、光信号波形の品質が保持され、信号処理の誤動作を低減し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】従来の光送信器(EADFBレーザ)の概略構成を示す側面断面図である。
図2】従来の別な光送信器(EADFBレーザ)であるAXELの概略構成を示す側面断面図である。
図3図2に示すAXELのSOAでパターン効果を生じた場合のNRZ光信号波形を示したアイパターンの模式図である。
図4】本発明の実施形態に係る光送信器(AXEL)の概略構成を示す側面断面図である。
図5図4に示すAXELのEA光変調器にバイアス電圧が印加されていない場合の波長に対する反射,吸収損失の特性を示した図である。
図6図4に示すAXELのEA光変調器にバイアス電圧が印加された場合の波長に対する反射,吸収損失の特性を示した図である。
図7図4に示すAXELにおけるDFBレーザのDFB電流に対する出力パワーの特性を示した図である。
図8図4に示すAXELにおけるパターン効果の影響を説明するために光信号波形を示したアイパターンの模式図である。(a)は、図2に示すAXELのパターン効果の発生の様子を示すアイパターンの模式図である。(b)は、図4に示すAXELのパターン効果の発生抑制の様子を示すアイパターンの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態に係る光送信器について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
(実施形態)
図4は、本発明の実施形態に係る光送信器(AXEL100C)の概略構成を示す側面図である。図4を参照すれば、AXEL100Cは、InP等の化合物半導体による基板の一方の主面の上面に光導波路コア部を含む光回路部50が形成されている。後の工程で光回路50と対向する基板の面は研磨され、残された基板の一部はアンダークラッド115として機能し、その面上に電極113が形成される。また、この光回路部50の内部において、DFBレーザ1、EA光変調器2、少なくとも一つ以上のSOA3、及び分布ブラッグ反射器4が一体的(モノシリック)に集積された構造を有する。尚、分布ブラッグ反射器4は、一般にDistributed Bragg Reflector:DBRとして知られる。
【0020】
このAXEL100Cでは、DFBレーザ1の活性層109、EA光変調器2の吸収層110、及びSOAの出射端面に結合されるように分布ブラッグ反射器を備えている。パッシブ層108において、DFBレーザ1の活性層109に対向するオーバークラッド層114の側、及びEA光変調器2の吸収層110に対向するオーバークラッド層114の側には、回折格子21、22が形成されている。また、分布ブラッグ反射器4の反射層112の上面の側にも、回折格子23が形成されている。これらの回折格子21、22、23の周期構造によって、各周期に対応する波長の光が反射される仕組みとなっている。
【0021】
AXEL100Cの各部について、DFBレーザ1は、アンダークラッド層115及びオーバークラッド層114の間に活性層109を有する。そして、DFBレーザ1は、対向する上面側に形成された回折格子21の波長選択性によって決められた波長λ1で発振する。また、EA光変調器2は、アンダークラッド層115及びオーバークラッド層114の間に形成された吸収層110により光吸収を司り、電圧制御により光吸収量を変化させることができる。そして、EA光変調器2は、吸収層110に対向する上面側に形成された回折格子22の波長選択性によって、SOA3で増幅される光信号のキャリア密度を調節することができる。SOA3は、アンダークラッド層115及びオーバークラッド層114の間に活性層111を有し、EA光変調器2からの光信号を増幅する。
【0022】
尚、DFBレーザ1の活性層109と、EA光変調器2の吸収層110、及びSOA3の活性層111は、パッシブ層108の内部で隔てられて配置される。活性層109の端面の一方側は、光回路部50の端面と一致するが、活性層111の端面の他方側は、パッシブ層108と反射層112との結合面からは隔てられて配置されている。分布ブラッグ反射器4は、アンダークラッド層115及びオーバークラッド層114の間に反射層112を有する。そして、分布ブラッグ反射器4は、反射層112の上面側に形成された回折格子23の波長選択性によってSOA3からの増幅された光信号の反射波長を調節して光出力する。
【0023】
DFBレーザ1、EA光変調器2、SOA3のオーバークラッド層114の上面には、活性層109、吸収層110、及び活性層111と対向する位置に上部電極101、102、103が互いに隔てられて形成されている。また、分布ブラッグ反射器4のオーバークラッド層114の上面には、反射層112と対向する位置に上部電極104が形成されている。これに対し、アンダークラッド層115の下面全体には下部電極113が形成されている。これらの上部電極101、102、103、104及び下部電極113も同一の電源に接続される。ここでも、EA光変調器2の吸収層110への電界吸収に加える電界の強さによって、EA光変調器2では光の強度が変調される。
【0024】
このため、DFBレーザ1の活性層109と対向する上面側に形成された回折格子21は、EA光変調器2の光の伝搬モードと重なる領域に形成されている。また、EA光変調器2の吸収層110と対向する上面側に形成された回折格子22と、分布ブラッグ反射器4の反射層112の上面の側に形成された回折格子23と、についても光の伝搬モードと重なる領域に形成されている。
【0025】
細部機能を説明すれば、EA光変調器2の吸収層110の吸収波長は、電界無印加時には波長λ1よりも数nmから数10nm短波長側にあり、DFBレーザ1からの光の吸収が殆ど行われない。これに対し、数Vの負電圧を電極102より印加すれば吸収波長が長波長にシフトし、光吸収が行われる。これにより、電圧を正弦波、又は、或る矩形波パターンで変調すれば、光の強度変調が可能である。このとき、光のエネルギーは電子を伝導帯に励起し、正孔電子ペアが生じる。この結果、EA光変調器2のコア部の吸収層110では、キャリア密度が上昇する。
【0026】
キャリア密度の上昇は、プラズマ効果により屈折率の変化を伴うため、EA光変調器2の吸収層110では屈折率が低下する。従って、回折格子22の周期は実行的に短くなるため、後段の分布ブラッグ反射器4の反射帯域は短波長にシフトする。回折格子22のキャリアがない状態の反射波長をλ2とし、EA光変調器2の吸収層110で光吸収があるときの回折格子22の反射波長をλ3とするとき、後段のSOA3の活性層111は十分に広い利得帯域を有する。このため、SOA3では、波長λ1、λ2、λ3のそれぞれの波長で光を増幅する。分布ブラッグ反射器4の反射112層には活性層がなく、パッシブ層108に繋がるパッシブ領域に回折格子23が形成されている。
【0027】
分布ブラッグ反射器4の回折格子23の反射波長λ4は、光吸収があるときのEA光変調器2の吸収層110の回折格子22の反射波長λ3と同じである。即ち、λ3=λ4の関係が成り立つ。これにより、光吸収が起こると、回折格子22、23によりSOA3の活性層111を挟んで共振器が形成される。この結果、SOA3はレーザ発振し、SOA3の活性層111の内部ではキャリアが消費された状態となる。逆に、EA光変調器2の吸収層110は、負のバイアス電圧が印加されずに光吸収がない場合、回折格子22、23の反射波長はλ2及びλ4とは異なるため、共振器が形成されない。この結果、SOA3の活性層111の内部ではキャリアが消費されていない状態となる。一方でこのとき、DFBレーザ1から入力される光があるため、SOA3の活性層111の利得は、SOA3での光増幅に消費される。
【0028】
このため、EA光変調器2の吸収層110における駆動状態、即ち、DFBレーザ1から入力される光の有無に拘らず、SOA3の活性層111の内部ではキャリアが消費された状態を実現することができる。この結果、急激なキャリア密度変化を抑制することができる。
【0029】
このような効果を実証するため、波長1.55μm用の光送信器(AXEL100C)を作製した。この光送信器は、InPによる基板の上面に結晶成長させたInGaAsPによる活性層109、111と吸収層110とを有している。第1の結晶成長ではDFBレーザ1、及びSOA3における活性層109、111を形成し、次にバットジョイント再成長によりEA光変調器2の吸収層110を形成した。各光デバイス間を接続する光導波路と分布ブラッグ反射器4の反射層112とはパッシブバットジョイントにより形成した。更に、活性層109、111と吸収層110との上側にパッシブ層108を形成し、光導波路コア部の大部分を形成した。このパッシブ層108と反射層112とにおいて、エッチング加工により回折格子21、22、23を形成し、光導波路コア部を仕上げ形成した。
【0030】
DFBレーザ1の活性層109、EA光変調器2の吸収層110、SOA3の活性層111、及び分布ブラッグ反射器4の反射層112の長さは、それぞれ300μm、200μm、250μm、80μmとした。また、光回路部50における各光デバイス間を接続するパッシブ光導波路の長さは、全て20μmとした、その他、光回路部50の出力側はAR(反射膜)コーティング、反対側の端面はHR(増反射膜)コーティングが施されている。
【0031】
図5は、AXEL100CのEA光変調器2にバイアス電圧が印加されていない場合の波長に対する反射,吸収損失の特性を示した図である。尚、反射スペクトルは、ピークで規格化されている。
【0032】
図5を参照すれば、DFBレーザ1の発振波長λ1は、回折格子21の反射波長で決定されるため、発振波長λ1が1550nmである場合を例示できる。また、EA光変調器2の回折格子22の反射波長λ2は1530nmとした。EA光変調器2でバイアス電圧を印加しないときの吸収層110の吸収波長は、1500nmであり、逆バイアス電圧を印加することで1550nmでの光吸収が増加する。例えば、-2Vのバイアス電圧をEA光変調器2の吸収層110に印加したときの光吸収は約-12dBであり、電流は約20mA程度流れる。このときのEA光変調器2の回折格子22の反射波長λ3は1527nmとなった。これに対し、分布ブラッグ反射器4の反射層112の反射波長λ4は、例えば1527nmに設計されている場合を例示できる。こうした場合には共振器が形成される。いずれにしても、SOA3において、利得として発振される光の波長は、DFBレーザ1から光の発振波長λ1とは、異なっている。
【0033】
図6は、AXEL100CのEA光変調器2にバイアス電圧が印加されている場合の波長に対する反射,吸収損失の特性を示した図である。尚、ここでも反射スペクトルは、ピークで規格化されている。
【0034】
図6を参照すれば、EA光変調器2に-2Vのバイアス電圧を印加した場合を表わしており、吸収層110の吸収損失は長波長側にシフトし、強い光を吸収するため、吸収層110の内部には光吸収によるキャリアが生成される。これにより屈折率が低下するため、回折格子22の反射波長λ3は短波長側にシフトし、反射帯域が分布ブラッグ反射器4の反射層112と重なるためSOA3の活性層111が発振する。回折格子22、23の反射は、いずれも90%以上となるように設計されている。また、回折格子22の反射は、回折格子23より低い反射とすることができる。更に、回折格子22、23の反射を非常に高くすることで、これらの回折格子22、23で構成される共振器から出力される光パワーを低くすることが可能である。
【0035】
尚、本実施形態では、回折格子22、23の反射波長λ3、λ4は、DFBレーザ1の発振波長λ1よりも短波長としたが、これらは長波長側となるように代替しても構わない。いずれにしても、SOA3において、利得として発振される光の波長は、DFBレーザ1から光の発振波長λ1とは、異なっている。
【0036】
図7は、AXEL100CにおけるDFBレーザ1のDFB電流[mA]に対する出力パワー[mW]の特性を示した図である。ここでは、DFBレーザ1への駆動電流が0-150mA、EA光変調器2についてはオープン、SOA3の駆動電流が100mAである場合の条件を想定している。
【0037】
図7を参照すれば、AXEL100Cにおける出力パワーは、DFB電流を増大させるとそれに伴って段々と上昇し、約80mAを超える付近で徐々に上昇する傾向を示すことが判る。
【0038】
図8は、AXEL100Cにおけるパターン効果の影響を説明するために光信号波形を示したアイパターンの模式図である。図8(a)は、図2に示すAXEL100Bのパターン効果の発生の様子を示すアイパターンの模式図である。図8(b)は、図4に示すAXEL100Cのパターン効果の発生抑制の様子を示すアイパターンの模式図である。尚、図8(a)及び図8(b)では、DFBレーザ1の駆動電流を150mA、EA光変調器2へのバイアス電圧を-1Vとしている。そして、図8(a)及び図8(b)では、EA光変調器2での変調振幅を1.5Vpp、変調速度を10Gbit/sとし、SOA3を駆動電流100mAで増幅させた条件下でのアイパターンを示している。また、これらのアイパターンは、図3で説明したようにゼロレベルの波形と1レベルの波形とを合成した様子を示している。
【0039】
図8(a)のアイパターンを参照すれば、信号にオーバーシュートが見られ、パターン効果の影響を受けている様子が判る。これに対し、図8(b)のアイパターンを参照すれば、信号のオーバーシュートが抑制されており、パターン効果が抑制されている様子が判る。
【0040】
上述したAXEL100Cの構成上の特色は、光回路部50の内部に、DFBレーザ1、EA光変調器3、及びSOA3以外に、SOA3の出射端面に結合される分布ブラッグ反射器4を備えた点である。また、光回路部50の内部では、EA光変調器2の吸収層110に対向する上面側に形成された回折格子22と分布ブラッグ反射器4の反射層112の上面側に形成された回折格子23とが波長選択性を有している。そこで、EA光変調器2の電界印加状態とEA光変調器2及び分布ブラッグ反射器4の回折格子22、23の反射波長の波長選択性とを適宜設定すれば良い。これにより、SOA3で増幅される光信号のキャリア密度の急激な変化を抑制するように調節し、キャリア密度の急激な変化が抑制された光信号を分布ブラッグ反射器4から光出力できる。
【0041】
要するに、EA光変調器3がオフで消光しないときには、DFBレーザ1の発振波長λ1のみがSOA3で増幅され、EA光変調器3がオンで消光するときには、SOA3が発振して反射波長λ3=λ4の光がSOA3で増幅される。即ち、常にSOA3は、光増幅するため、キャリアが消費された状態を継続でき、これによってキャリア変動が抑制される。この結果、SOA3に光が入射しても、SOA3内のキャリア密度が低下されず、光信号波形の品質が保持され、信号処理の誤動作を低減し得るようになる。
【0042】
尚、上述したEA光変調器2の回折格子22における反射波長λ3は、EA光変調器2へのバイアス印加がない場合、分布ブラッグ反射器4の反射波長λ4よりも0.1~10nm長い波長側にある。また、EA光変調器2の回折格子22における反射波長λ3は、EA光変調器2へのバイアス印加がある場合、分布ブラッグ反射器4の反射波長λ4と同一となるように波長がシフトする。更に、分布ブラッグ反射器4は、電流注入が可能な電極構造を有し、電極構造への電流注入により分布ブラッグ反射器4の反射波長λ4が調節可能となっている。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8