(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
C08F 290/06 20060101AFI20231206BHJP
C08G 65/48 20060101ALI20231206BHJP
C09D 4/02 20060101ALI20231206BHJP
C09D 171/02 20060101ALI20231206BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20231206BHJP
C08J 7/046 20200101ALI20231206BHJP
【FI】
C08F290/06
C08G65/48
C09D4/02
C09D171/02
B32B27/30 D
C08J7/046 A CER
(21)【出願番号】P 2022119788
(22)【出願日】2022-07-27
(62)【分割の表示】P 2020528805の分割
【原出願日】2019-06-24
【審査請求日】2022-07-27
(31)【優先権主張番号】P 2018128244
(32)【優先日】2018-07-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】原口 将幸
(72)【発明者】
【氏名】辻本 晴希
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-072296(JP,A)
【文献】特開2013-076029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F290
C08G65
C09D
B32B27
C08J7
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し0molより大きく3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル0.1質量部乃至10質量部、及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部を含み、
前記(a)オキシエチレン変性多官能モノマーが、オキシエチレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びオキシエチレン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記(b)パーフルオロポリエーテルが、下記式[2]で表される化合物である、硬化性組成物。
【化1】
(式[2]中、Aは下記式[A1]乃至式[A5]からなる群から選ばれる構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表し、PFPEは前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を表し(ただし、L
1と結合する側がオキシ末端であり、L
2と結合する側がパーフルオロアルキレン末端である。)、L
1及びL
2は、フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3の、アルキレン基又はアルキレンカルボニル基を表し、部分構造(A-NHC(=O)O)
nL
3-は、下記式[B3]で表される。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記式[2]中、Aは下記式[A3]で表される構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表す、請求項1に記載の硬化性組成物。
【化4】
【請求項3】
前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF
2]-及び-[OCF
2CF
2]-を繰り返し単位として有する基である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記(a)オキシエチレン変性多官能モノマーの平均オキシエチレン変性量が、前記重合性基1molに対し2mol以下である、請求項1乃至3のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
さらに(d)溶媒を含む、請求項1乃至4のうち何れか一項に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
請求項1乃至5のうち何れか一項に記載の硬化性組成物より得られる硬化膜。
【請求項7】
フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が請求項6に記載の硬化膜からなる、ハードコートフィルム。
【請求項8】
前記フィルム基材が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、又は熱可塑性ポリウレタンである、請求項7に記載のハードコートフィルム。
【請求項9】
前記ハードコート層が1μm乃至20μmの膜厚を有する、請求項7又は8に記載のハードコートフィルム。
【請求項10】
ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテルであって、下記式[2]で表される化合物であるパーフルオロポリエーテル。
【化5】
(式[2]中、Aは下記式[A3]で表される構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表し、PFPEは前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を表し(ただし、L
1と結合する側がオキシ末端であり、L
2と結合する側がパーフルオロアルキレン末端である。)、L
1及びL
2は、フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3の、アルキレン基又はアルキレンカルボニル基を表し、部分構造(A-NHC(=O)O)
nL
3-は、下記式[B3]で表される。)
【化6】
【化7】
【請求項11】
前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF
2]-及び-[OCF
2CF
2]-を繰り返し単位として有する基である、請求項10に記載のパーフルオロポリエーテル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物、特に、フレキシブルディスプレイ等の表面に適用されるハードコート層の形成材料として有用な硬化性組成物に関する。詳細には、極めて高い耐擦傷性と耐屈曲性と延伸性とを具え、さらに耐摩耗性をも具え得るハードコート層が形成可能な硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンは、我々の日常生活に欠かせない製品として、広く普及している。近年、スマートフォン等のディスプレイとして、屈曲可能なディスプレイ、いわゆるフレキシブルディスプレイの開発が行われている。フレキシブルディスプレイは、例えば、屈曲及び巻取等の変形が可能であり、持ち運べるモバイルディスプレイとして、幅広い用途が期待されている。
【0003】
通常、スマートフォンの表面には、ディスプレイへの傷付き防止のため、カバーガラスが使用されている。ところが、一般的に、ガラスは硬く曲げて戻すことが出来ないため、フレキシブルディスプレイには応用出来ない。そこで、耐擦傷性を有するハードコート層を備えたプラスチックフィルムの適用が試みられている。これらのハードコート層を備えたプラスチックフィルムは、そのハードコート層を外側にして屈曲させた場合、該ハードコート層に引張方向の応力が生じる。そのため、当該ハードコート層は一定の延伸性を有することが求められている。
【0004】
一般に、ハードコート層に耐擦傷性を付与するには、例えば、高度の架橋構造を形成する、すなわち分子運動性の低い架橋構造を形成することで表面硬度を高め、外力への抵抗性を与える手法が採られる。これらのハードコート層形成材料として、現在、ラジカルにより3次元架橋する多官能アクリレート系材料が最も用いられている。しかし、多官能アクリレート系材料は、その高い架橋密度のため、通常、延伸性を有さない。このように、ハードコート層の延伸性と耐擦傷性とはトレードオフの関係にあり、両者の特性を両立させることが課題となっていた。
【0005】
ハードコート層の延伸性と耐擦傷性を両立する手法として、多官能ウレタンアクリレートオリゴマーと、分子運動性の高いエチレンオキシドで変性された多官能アクリレートとを併用した技術が開示されている(特許文献1)。
【0006】
ところで、上記フレキシブルディスプレイにおいても、タッチパネルが搭載されており、該タッチパネルを指で触れることにより操作を行う。このため、指で触れる度にタッチパネルに指紋が付着し、その外観が損なわれるという問題が発生している。指紋には汗由来の水分及び皮脂由来の油分が含まれており、該水分及び油分の何れも付着しにくくするために、ハードコート層には撥水性及び撥油性を付与することが強く望まれている。このような観点から、ハードコート層の表面には、指紋などに対する防汚性を有していることが望まれている。しかし、ハードコート層は、使用初期の防汚性は高いレベルに達しているとしても、人が毎日手で触れるため、使用中に防汚性の機能が低下する場合が多い。そのため、使用過程での防汚性の耐久性が課題であった。
【0007】
通常、ハードコート層の表面に防汚性を付与する手法としては、ハードコート層を形成する塗布液に、フッ素系表面改質剤を少量添加する手法が用いられる。添加されたフッ素系表面改質剤は、その低表面エネルギーによりハードコート層の表面に偏析し、撥水性及び撥油性を付与する。該フッ素系表面改質剤としては、撥水性、撥油性の観点から、ポリ(
オキシパーフルオロアルキレン)鎖を有した、パーフルオロポリエーテルと呼ばれる1,000乃至5,000程度の数平均分子量を有するオリゴマーが用いられる。しかし、該パーフルオロポリエーテルは、高いフッ素濃度を有しているため、通常、ハードコート層を形成する塗布液に使用される有機溶媒には溶解し難い。また、形成されたハードコート層において凝集を起こす。
【0008】
このようなパーフルオロポリエーテルに、有機溶媒に対する溶解性及びハードコート層における分散性を付与するために、該パーフルオロポリエーテルに有機部位を導入する手法が用いられている。更に、耐擦傷性を付与するために、(メタ)アクリレート基に代表される活性エネルギー線硬化性部位を結合させる手法が用いられている。
これまで、耐擦傷性を有した防汚性ハードコート層として、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基及び1つのウレタン結合を介して(メタ)アクリロイル基を有する化合物を、表面改質剤として用いた技術が開示されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2013/191254号
【文献】国際公開第2016/163479号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献1に記載の手法では、耐擦傷性を付与するために多官能ウレタンアクリレートを配合しているため、その延伸性に課題があった。また、特許文献2に記載の表面改質剤では、その防汚性に課題があった。
すなわち、本発明は、極めて高い耐擦傷性と耐屈曲性と延伸性とを具え、さらに耐摩耗性をも具え得るハードコート層を形成できる、硬化性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基を介さずにウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテルと、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマーとを含む硬化性組成物が、極めて高い耐擦傷性と耐屈曲性と延伸性とを具え、さらに耐摩耗性をも具え得るハードコート層を形成可能なことを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち本発明は、第1観点として、
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)0.1質量部乃至10質量部、及び(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部
を含む、硬化性組成物に関する。
第2観点として、前記(b)パーフルオロポリエーテルが、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有する、第1観点に記載の硬化性組成物に関する。
第3観点として、前記(b)パーフルオロポリエーテルが、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、第2観点に記載の硬化性組成物に関する。
第4観点として、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF
2]-及び-[OCF
2CF
2]-を繰り返し単位として有する基である、第1観点乃至第3観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物に関する。
第5観点として、前記(b)パーフルオロポリエーテルが下記式[1]で表される部分構造を有する、第4観点に記載の硬化性組成物に関する。
【化1】
(式[1]中、nは繰り返し単位-[OCF
2CF
2]-の数と、繰り返し単位-[OCF
2]-の数との総数を表す。)
第6観点として、前記(a)オキシエチレン変性多官能モノマーが、オキシエチレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びオキシエチレン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1つを含む、第1観点乃至第5観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物に関する。
第7観点として、前記(a)オキシエチレン変性多官能モノマーの平均オキシエチレン変性量が、前記重合性基1molに対し2mol以下である、第1観点乃至第6観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物に関する。
第8観点として、さらに(d)溶媒を含む、第1観点乃至第7観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物に関する。
第9観点として、第1観点乃至第8観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物より得られる硬化膜に関する。
第10観点として、フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が第9観点に記載の硬化膜からなる、ハードコートフィルムに関する。
第11観点として、フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が、第1観点乃至第8観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程を含む方法により形成されてなる、ハードコートフィルムに関する。
第12観点として、前記ハードコート層が1μm乃至10μmの膜厚を有する、第10観点又は第11観点に記載のハードコートフィルムに関する。
第13観点として、第1観点乃至第8観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程を含む、積層体の製造方法に関する。
第14観点として、(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し0molより大きく3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル0.1質量部乃至10質量部、及び
(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部を含み、
前記(a)オキシエチレン変性多官能モノマーが、オキシエチレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びオキシエチレン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物か
らなる群から選ばれる少なくとも1つを含み、
前記(b)パーフルオロポリエーテルが、下記式[2]で表される化合物である、硬化性組成物。
【化1】
(式[2]中、Aは下記式[A1]乃至式[A5]からなる群から選ばれる構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表し、PFPEは前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を表し(ただし、L
1と結合する側がオキシ末端であり、L
2と結合する側がパーフルオロアルキレン末端である。)、L
1及びL
2は、フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3の、アルキレン基又はアルキレンカルボニル基を表し、部分構造(A-NHC(=O)O)
nL
3-は、下記式[B3]で表される。)
【化2】
【化3】
第15観点として、前記式[2]中、Aは下記式[A3]で表される構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表す、第14観点に記載の硬化性組成物。
【化4】
第16観点として、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF
2]-及び-[OCF
2CF
2]-を繰り返し単位として有する基である、第14観点又は第15観点に記載の硬化性組成物。
第17観点として、前記(a)オキシエチレン変性多官能モノマーの平均オキシエチレン変性量が、前記重合性基1molに対し2mol以下である、第14観点乃至第16観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物。
第18観点として、さらに(d)溶媒を含む、第14観点乃至第17観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物。
第19観点として、第14観点乃至第18観点のうち何れか一つに記載の硬化性組成物より得られる硬化膜。
第20観点として、フィルム基材の少なくとも一方の面にハードコート層を備えるハードコートフィルムであって、該ハードコート層が第19観点に記載の硬化膜からなる、ハードコートフィルム。
第21観点として、前記フィルム基材が、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、又は熱可塑性ポリウレタンである、第20観点に記載のハードコートフィルム。
第22観点として、前記ハードコート層が1μm乃至20μmの膜厚を有する、第20観点又は第21観点に記載のハードコートフィルム。
第23観点として、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテルであって、下記式[2]で表される化合物であるパーフルオロポリエーテル。
【化5】
(式[2]中、Aは下記式[A3]で表される構造又は該構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造を表し、PFPEは前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を表し(ただし、L
1と結合する側がオキシ末端であり、L
2と結合する側がパーフルオロアルキレン末端である。)、L
1及びL
2は、フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3の、アルキレン基又はアルキレンカルボニル基を表し、部分構造(A-NHC(=O)O)
nL
3-は、下記式[B3]で表される。)
【化6】
【化7】
第24観点として、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基が、-[OCF
2]-及び-[OCF
2CF
2]-を繰り返し単位として有する基である、第23観点に記載のパーフルオロポリエーテル。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、極めて高い耐擦傷性と耐屈曲性と延伸性とを具え、さらには耐摩耗性をも具え得る、透明な外観を呈するハードコート層を形成できる、硬化性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<硬化性組成物>
本発明の硬化性組成物は、詳細には、
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマー100質量部、
(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレ
ン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)0.1質量部乃至10質量部、及び(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤1質量部乃至20質量部
を含む、硬化性組成物に関する。
以下、まず上記(a)乃至(c)の各成分について説明する。
【0015】
[(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマー(単に、(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーとも記載する。)]
活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーは、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、オキシエチレンで変性された多官能モノマーであって、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満であるオキシエチレン変性多官能モノマーを指す。
本発明の硬化性組成物において好ましい(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーとしては、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有し、平均オキシエチレン変性量が該重合性基1molに対し3mol未満である、オキシエチレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物及びオキシエチレン変性多官能ウレタン(メタ)アクリレート化合物からなる群から選択されるモノマーである。
なお、本発明において(メタ)アクリレート化合物とは、アクリレート化合物とメタクリレート化合物の両方をいう。例えば(メタ)アクリル酸は、アクリル酸とメタクリル酸をいう。
【0016】
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーにおける平均オキシエチレン変性量は、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対し3mol未満であり、好ましくは、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対し2mol以下である。
また、(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーにおける平均オキシエチレン変性量は、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対して0molより大きく、好ましくは、該モノマーが有する活性エネルギー線重合性基1molに対して0.1mol以上、より好ましくは0.5mol以上である。
【0017】
上記オキシエチレン変性多官能(メタ)アクリレート化合物としては、例えば、オキシエチレンで変性されたポリオールの(メタ)アクリレート化合物が挙げられる。
該ポリオールとしては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン、ペンタグリセリン、ヘキサグリセリン、デカグリセリン、ポリグリセリン、
トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールが挙げられる。
【0018】
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーにおける活性エネルギー線重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基、エポキシ基が挙げられる。
【0019】
(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマー1分子に対する、オキシエチレンの付加数は、1乃至30、好ましくは1乃至12である。
【0020】
本発明では、上記(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマーを単独で、或いは二種以上を組合せて使用することができる。
【0021】
[(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)]
本発明では、(b)成分として、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ポリ(オキシアルキレン)基を介さずにウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(以降、単に「(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテル」とも称する)を使用する。(b)成分は、本発明の硬化性組成物を適用するハードコート層における表面改質剤としての役割を果たす。
また、(b)成分は、(a)成分との相溶性に優れ、それにより、ハードコート層が白濁するのを抑制して、透明な外観を呈するハードコート層の形成を可能とする。
尚、上記のポリ(オキシアルキレン)基とは、オキシアルキレン基の繰り返し単位数が2以上であり且つオキシアルキレン基におけるアルキレン基は無置換のアルキレン基である基を意図する。
【0022】
上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基におけるアルキレン基の炭素原子数は特に限定されないが、好ましくは炭素原子数1乃至4である。すなわち、上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基は、炭素原子数1乃至4の2価のフッ化炭素基と酸素原子が交互に連結した構造を有する基を指し、オキシパーフルオロアルキレン基は炭素原子数1乃至4の2価のフッ化炭素基と酸素原子が連結した構造を有する基を指す。具体的には、-[OCF2]-(オキシパーフルオロメチレン基)、-[OCF2CF2]-(オキシパーフルオロエチレン基)、-[OCF2CF2CF2]-(オキシパーフルオロプロパン-1,3-ジイル基)、-[OCF2C(CF3)F]-(オキシパーフルオロプロパン-1,2-ジイル基)等の基が挙げられる。
上記オキシパーフルオロアルキレン基は、一種を単独で使用してもよく、或いは二種以上を組み合わせて使用してもよく、その場合、複数種のオキシパーフルオロアルキレン基の結合はブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
【0023】
これらの中でも、耐擦傷性が良好となる硬化膜が得られる観点から、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基として、-[OCF2]-(オキシパーフルオロメチレン基)と-[OCF2CF2]-(オキシパーフルオロエチレン基)の双方を繰り返し単位として有する基を用いることが好ましい。
中でも上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基として、繰り返し単位:-[OCF2]-と-[OCF2CF2]-とが、モル比率で[繰り返し単位:-[OCF2]-]:[繰り返し単位:-[OCF2CF2]-]=2:1乃至1:2となる割合で含む基であることが好ましく、およそ1:1となる割合で含む基であることがより好ましい。これら繰り返し単位の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
上記オキシパーフルオロアルキレン基の繰り返し単位数は、その繰り返し単位数の総計として5乃至30の範囲であることが好ましく、7乃至21の範囲であることがより好ましい。
また、上記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量(Mw)は、1,000乃至5,000、好ましくは1,500乃至3,000、又は1,500乃至2,000である。
【0024】
上記ウレタン結合を介して結合する活性エネルギー線重合性基としては、例えば、(メタ)アクリロイル基、ビニル基が挙げられる。
【0025】
(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルは、(メタ)アクリロイル基等の活性エネルギー線重合性基を1つずつ両末端に有するものに限られず、2つ以上の活
性エネルギー線重合性基を両末端に有するものであってもよく、例えば、活性エネルギー線重合性基を含む末端構造としては、以下に示す[A1]乃至[A5]の構造、及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造が挙げられる。
【0026】
【0027】
(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルとしては、例えば、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも2つ有するパーフルオロポリエーテル、両末端それぞれに活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するパーフルオロポリエーテルが好ましい。
このような(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルとしては、例えば、以下の式[2]で表される化合物を挙げることができる。
【化3】
(式中、Aは前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造のうちの1つを表し、PFPEは前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を表し(ただし、L
1と結合する側がオキシ末端であり、L
2と結合する側がパーフルオロアルキレン末端である。)、L
1及びL
2は、フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3の、アルキレン基又はアルキレンカルボニル基を表し、nはそれぞれ独立して1乃至5の整数を表し、L
3は、n+1価のアルコールからOHを除いたn+1価の残基を表す。)
【0028】
上記フッ素原子1個乃至3個で置換された炭素原子数2又は3の、アルキレン基又はアル
キレンカルボニル基としては、例えば、-CH2CHF-、-CH2CF2-、-CHFCF2-、-CH2CH2CHF-、-CH2CH2CF2-、-CH2CHFCF2-、-C(=O)CF2-が挙げられ、CH2CF2が好ましい。
【0029】
上記式[2]で表される化合物における部分構造(A-NHC(=O)O)
nL
3-としては、例えば、以下に示す式[B1]乃至式[B12]で表される構造が挙げられる。
【化4】
【化5】
(式中、Aは前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造のうちの1つを表す。)
上記式[B1]乃至式[B12]で表される構造の中で、式[B1]及び式[B2]がn=1の場合に相当し、式[B3]乃至式[B6]がn=2の場合に相当し、式[B7]乃至式[B9]がn=3の場合に相当し、式[B10]乃至式[B12]がn=5の場合に相当する。
これらの中でも、式[B3]で表される構造が好ましく、特に式[B3]と式[A3]の組合せが好ましい。
【0030】
好ましい、(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルとしては、以下の式[1]で表される部分構造を有する化合物が挙げられる。
【化6】
上記式[1]で表される部分構造は、前記式[2]で表される化合物から、A-NHC(=O)-を除いた部分に相当する。
前記式[1]中のnは、繰り返し単位-[OCF
2CF
2]-の数と、繰り返し単位-[OCF
2]-の数との総数を表し、5乃至30の範囲が好ましく、7乃至21の範囲がより好ましい。また、繰り返し単位-[OCF
2CF
2]-の数と、繰り返し単位-[OCF
2]-の数との比率は、2:1乃至1:2の範囲であることが好ましく、およそ1:1の範囲とすることがより好ましい。これら繰り返し単位の結合は、ブロック結合及びランダム結合の何れであってもよい。
【0031】
本発明において(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルは、前述の(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマー100質量部に対して、0.1質量部乃至10質量部、好ましくは0.2質量部乃至5質量部の割合で使用することが望ましい。
【0032】
上記(b)両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテルは、例えば、以下の式[3]
【化7】
(式中、PFPE、L
1、L
2、L
3及びnは、前記と同じ意味を表す。)で表される化合物の両末端に存在するヒドロキシ基に対して、重合性基を有するイソシアネート化合物、即ち、前記式[A1]乃至式[A5]で表される構造及びこれらの構造中のアクリロイル基をメタクリロイル基に置換した構造における結合手にイソシアナト基が結合した化合物(例えば、2-(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート、1,1-ビス((メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート)を反応させてウレタン結合を形成することにより得ることができる。
【0033】
なお本発明の硬化性組成物には、(b)ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端に、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有さない。)に加えて、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の一端にウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を有し、且つ該分子鎖の他端にヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間並びに前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ヒドロキシ基の間にポリ(オキシアルキレン)基を有さない。)や、上記式[3]で表されるような、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端にヒドロキシ基を有するパーフルオロポリエーテル(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ヒドロキシ基の間にポリ(オキシアルキレン)基を有さない。)[活性エネルギー線重合性基を有していない化合物]が含まれていてもよい。
【0034】
本発明はまた、ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基を含む分子鎖の両末端それぞれに、ウレタン結合を介して、活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有する、パーフルオロポリエーテル化合物(但し、前記ポリ(オキシパーフルオロアルキレン)基と前記ウレタン結合の間にポリ(オキシアルキレン)基を有するパーフルオロポリエーテルを除く。)にも関する。
上記の、両末端に重合性基を有するパーフルオロポリエーテル化合物としては、上記式[1]で表される部分構造を有する化合物が好ましい。
本発明のパーフルオロポリエーテル化合物は、上述のように、(a)成分との相溶性に優れ、それにより、ハードコート層が白濁するのを抑制して、透明な外観を呈するハードコート層の形成を可能にするという優れた効果を奏する。
本発明はまた、上記パーフルオロポリエーテル化合物からなる、表面改質剤、並びに該パーフルオロポリエーテル化合物の、表面改質のための使用にも関する。
【0035】
[(c)活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤]
本発明の硬化性組成物において好ましい活性エネルギー線によりラジカルを発生する重合開始剤(以下、単に「(c)重合開始剤」とも称する)は、例えば、電子線、紫外線、X線等の活性エネルギー線により、特に紫外線照射によりラジカルを発生する重合開始剤で
ある。
上記(c)重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン類、アルキルフェノン類、チオキサントン類、アゾ類、アジド類、ジアゾ類、o-キノンジアジド類、アシルホスフィンオキシド類、オキシムエステル類、有機過酸化物、ベンゾフェノン類、ビスクマリン類、ビスイミダゾール類、チタノセン類、チオール類、ハロゲン化炭化水素類、トリクロロメチルトリアジン類、及びヨードニウム塩、スルホニウム塩などのオニウム塩類が挙げられる。これらは一種を単独で或いは二種以上を混合して用いてもよい。
前記(c)重合開始剤の中でも本発明では、透明性、表面硬化性、薄膜硬化性の観点から(c)重合開始剤として、アルキルフェノン類を使用することが好ましい。アルキルフェノン類を使用することにより、耐擦傷性がより向上した硬化膜を得ることができる。
【0036】
上記アルキルフェノン類としては、例えば、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-1-(4-(4-(2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオニル)ベンジル)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン等のα-ヒドロキシアルキルフェノン類;2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタン-1-オン等のα-アミノアルキルフェノン類;2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン;フェニルグリオキシル酸メチルが挙げられる。
【0037】
本発明において(c)重合開始剤は、前述の(a)活性エネルギー線重合性基を少なくとも3つ有するオキシエチレン変性多官能モノマー100質量部に対して、1質量部乃至20質量部、好ましくは2質量部乃至10質量部の割合で使用することが望ましい。
【0038】
[(d)溶媒]
本発明の硬化性組成物は、更に(d)溶媒を含んでいてもよく、すなわちワニス(膜形成材料)の形態としてもよい。
上記溶媒としては、前記(a)乃至(c)成分を溶解し、また後述する硬化膜(ハードコート層)形成にかかる塗工時の作業性や硬化前後の乾燥性等を考慮して適宜選択すればよい。該溶媒として、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、テトラリン等の芳香族炭化水素類;n-ヘキサン、n-ヘプタン、ミネラルスピリット、シクロヘキサン等の脂肪族又は脂環式炭化水素類;塩化メチル、臭化メチル、ヨウ化メチル、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、トリクロロエチレン、パークロロエチレン、o-ジクロロベンゼン等のハロゲン化物類;酢酸エチル、酢酸ブチル、メトキシブチルアセテート、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等のエステル類又はエステルエーテル類;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-プロピルエーテル、プロピレングリコールモノイソプロピルエーテル、プロピレングリコールモノ-n-ブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジ-n-ブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコール、ベンジルアルコール、エチレングリコール等のアルコール類;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド類、並びにこれらの溶媒のうち2種以上を混合した溶媒が挙げられる。
(d)溶媒の使用量は特に限定されないが、例えば本発明の硬化性組成物における固形分濃度が1質量%乃至70質量%、好ましくは5質量%乃至50質量%となる濃度で使用す
る。ここで固形分濃度(不揮発分濃度とも称する)とは、本発明の硬化性組成物の前記(a)乃至(d)成分(及び所望によりその他添加剤)の総質量(合計質量)に対する固形分(全成分から溶媒成分を除いたもの)の含有量を表す。
【0039】
[その他添加物]
また、本発明の硬化性組成物には、本発明の効果を損なわない限り、必要に応じて一般的に添加される添加剤、例えば、重合禁止剤、光増感剤、レベリング剤、界面活性剤、密着性付与剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、貯蔵安定剤、帯電防止剤、無機充填剤、顔料、染料を適宜配合してよい。
【0040】
<硬化膜>
本発明の硬化性組成物は、基材上に塗布(コーティング)して塗膜を形成し、該塗膜に活性エネルギー線を照射して重合(硬化)させることにより、硬化膜を形成できる。該硬化膜も本発明の対象である。また後述するハードコートフィルムにおけるハードコート層を該硬化膜からなるものとすることができる。
この場合の前記基材としては、例えば、各種樹脂(ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、ノルボルネン系樹脂、熱可塑性ポリウレタン(TPU)等)、金属、木材、紙、ガラス、スレートを挙げることができる。これら基材の形状は板状、フィルム状又は3次元成形体でもよい。
【0041】
前記基材上への塗布方法は、例えば、キャストコート法、スピンコート法、ブレードコート法、ディップコート法、ロールコート法、スプレーコート法、バーコート法、ダイコート法、インクジェット法、印刷法(例えば、凸版印刷法、凹版印刷法、平版印刷法、スクリーン印刷法)を適宜選択し得、これらの方法の中でも、ロール・ツー・ロール(roll-to-roll)法に利用でき、また薄膜塗布性の観点から、凸版印刷法、特にグラビアコート法を用いることが望ましい。なお事前に孔径が0.2μm程度のフィルタなどを用いて硬化性組成物を濾過した後、塗布に供することが好ましい。なお塗布する際、必要に応じて該硬化性組成物に溶剤を添加してワニスの形態としてもよい。この場合の溶剤としては前述の[(d)溶媒]で挙げた種々の溶媒を挙げることができる。
基材上に硬化性組成物を塗布し塗膜を形成した後、必要に応じてホットプレート、オーブン等の加熱手段で塗膜を予備乾燥して溶媒を除去する(溶媒除去工程)。この際の加熱乾燥の条件としては、例えば、40℃乃至120℃で、30秒乃至10分程度とすることが好ましい。
乾燥後、紫外線等の活性エネルギー線を照射して、塗膜を硬化させる。活性エネルギー線としては、例えば、紫外線、電子線、X線が挙げられ、特に紫外線が好ましい。紫外線照射に用いる光源としては、例えば、太陽光線、ケミカルランプ、低圧水銀灯、高圧水銀灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ、UV-LEDが使用できる。
さらにその後、ポストベークを行うことにより、具体的にはホットプレート、オーブン等の加熱手段を用いて加熱することにより重合を完結させてもよい。
なお、形成される硬化膜の厚さは、乾燥、硬化後において、通常0.01μm乃至50μm、好ましくは0.05μm乃至20μmである。
【0042】
<ハードコートフィルム>
本発明の硬化性組成物を用いて、フィルム基材の少なくとも一方の面(表面)にハードコート層を備えるハードコートフィルムを製造することができる。該ハードコートフィルムも本発明の対象であり、該ハードコートフィルムは、例えばフレキシブルディスプレイ等の各種表示素子の表面を保護するために好適に用いられる。
【0043】
本発明のハードコートフィルムにおけるハードコート層は、前述の本発明の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に紫外線等の活性エネルギー線を照射し該塗膜を硬化させる工程とを含む方法により形成することができる。
【0044】
前記フィルム基材としては、前述の<硬化膜>で挙げた基材のうち、光学用途に使用可能な各種の透明な樹脂製フィルムが用いられる。好ましい樹脂製フィルムとして、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)などのポリエステル、ポリカーボネート、ポリメタクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、トリアセチルセルロース、熱可塑性ポリウレタン(TPU)が挙げられる。
また前記フィルム基材上への硬化性組成物の塗布方法(塗膜形成工程)及び塗膜への活性エネルギー線照射方法(硬化工程)は、前述の<硬化膜>に挙げた方法を用いることができる。また本発明の硬化性組成物に溶媒が含まれる(ワニス形態)場合、塗膜形成工程の後、必要に応じて、該塗膜を乾燥し溶媒除去する工程を含むことができる。その場合、前述の<硬化膜>に挙げた塗膜の乾燥方法(溶媒除去工程)を用いることができる。
こうして得られたハードコート層の膜厚は、好ましくは1μm乃至20μm、より好ましくは1μm乃至10μmである。
【0045】
本発明はまた、前述の硬化性組成物をフィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程と、該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程を含む、積層体の製造方法にも関する。
フィルム基材上に塗布し塗膜を形成する工程及び該塗膜に活性エネルギー線を照射し硬化する工程は、前述と同様の操作及び条件で行うことができる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。
なお、実施例において、試料の調製及び物性の分析に用いた装置及び条件は、以下の通りである。
【0047】
(1)バーコーターによる塗布
装置:(株)エスエムテー製 PM-9050MC
バー:オーエスジーシステムプロダクツ(株)製 A-Bar OSP-22、最大ウエット膜厚22μm(ワイヤーバー#9相当)
塗布速度:4m/分
(2)オーブン
装置:アドバンテック東洋(株)製 無塵乾燥器 DRC433FA
(3)UV硬化
装置:ヘレウス(株)製 CV-110QC-G
ランプ:ヘレウス(株)製 高圧水銀ランプH-bulb
(4)ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)
装置:東ソー(株)製 HLC-8220GPC
カラム:昭和電工(株)製 Shodex(登録商標)GPCK-804L、GPCK-805L
カラム温度:40℃
溶離液:テトラヒドロフラン
検出器:RI
(5)耐擦傷性試験
装置:新東科学(株)製往復摩耗試験機 TRIBOGEAR TYPE:30S
走査速度:3,000mm/分
走査距離:50mm
(6)接触角
装置:協和界面科学(株)製 DropMaster DM-501
測定温度:20℃
(7)屈曲試験
装置:オールグッド(株)製 円筒形マンドレル屈曲試験器
(8)引張試験
装置:(株)島津製作所製 卓上形精密万能試験機オートグラフAGS-10kNX
つかみ具:1kN手動ねじ式平面形つかみ具
つかみ歯:高強度ラバーコートつかみ歯
引張速度:50mm/分
測定温度:23℃
(9)耐摩耗性試験
装置:新東科学(株)製往復摩耗試験機 TRIBOGEAR TYPE:30S
走査速度:4,500mm/分
走査距離:50mm
【0048】
また、略記号は以下の意味を表す。
a-1:エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート[東亞合成(株)製 アロニックス(登録商標)M-350、オキシエチレン基3mol]
a-2:エチレンオキシド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート[日本化薬(株)製 KAYALAD RP-1040、オキシエチレン基4mol]
a-3:エチレンオキシド変性ジグリセリンテトラアクリレート[東亞合成(株)製 アロニックス(登録商標)M-460、オキシエチレン基4mol]
a-4:エチレンオキシド変性テトラグリセリンポリアクリレート[阪本薬品工業(株)製 SA-TE6、官能基数6、オキシエチレン基6mol]
a-5:エチレンオキシド変性デカグリセリンポリアクリレート[阪本薬品工業(株)製
SA-ZE12、官能基数12、オキシエチレン基12mol]
a-6:エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート[日本化薬(株)製 KAYALADDPEA-12、オキシエチレン基12mol]
a-51:トリメチロールプロパントリアクリレート[新中村化学工業(株)製 NKエステルA-TMPT]
a-52:グリセリントリアクリレート[東亞合成(株)製 アロニックス(登録商標)MT-3547]
a-53:ペンタエリスリトールトリアクリレート/ペンタエリスリトールテトラアクリレート混合物[日本化薬(株)製 KAYALAD PET-30]
a-54:ジペンタエリスリトールペンタアクリレート/ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート混合物[日本化薬(株)製 KAYALAD DPHA]
a-55:プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリアクリレート[東亞合成(株)製 アロニックス(登録商標)M-310、オキシ(メチルエチレン)基3mol]
a-56:プロピレンオキシド変性グリセリントリアクリレート[ダイセル・オルネクス(株)製 OTA480、オキシ(メチルエチレン)基3mol]
a-57:エチレンオキシド変性グリセリントリアクリレート[新中村化学工業(株)製
NKエステルA-GLY-9E、オキシエチレン基9mol]
PFPE1:両末端それぞれにポリ(オキシアルキレン)基を介さずヒドロキシ基を2つ有するパーフルオロポリエーテル[ソルベイスペシャルティポリマーズ社製 Fomblin(登録商標)T4]
BEI:1,1-ビス(アクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート[昭和電工(株)製 カレンズ(登録商標)BEI]
AOI:2-アクリロイルオキシエチルイソシアネート[昭和電工(株)製 カレンズ(登録商標)AOI]
DOTDD:ジネオデカン酸ジオクチル錫[日東化成(株)製 ネオスタン(登録商標)U-830]
I2959:2-ヒドロキシ-1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)-2-メチルプロパン-1-オン[BASFジャパン(株)製 IRGACURE(登録商標)2959]
MEK:メチルエチルケトン
PGME:プロピレングリコールモノメチルエーテル
MeOH:メタノール
【0049】
[製造例1]両末端それぞれにウレタン結合を介してアクリロイル基を4つ有するパーフルオロポリエーテル(SM1)の製造
スクリュー管に、PFPE1 1.19g(0.5mmol)、BEI0.52g(2.0mmol)、DOTDD0.017g(PFPE1及びBEIの合計質量の0.01倍量)、及びMEK1.67gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で24時間撹拌して、目的化合物であるSM1の50質量%MEK溶液を得た。
得られたSM1のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量:Mwは3,000、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.2であった。
【0050】
[製造例2]ウレタン結合を介して、両末端のうち一端にアクリロイル基を2つ有し、該両末端の他端にアクリロイル基を4つ有するパーフルオロポリエーテル(SM2)の製造スクリュー管に、PFPE1 1.19g(0.5mmol)、BEI0.36g(1.5mmol)、DOTDD0.015g(PFPE1及びBEIの合計質量の0.01倍量)、及びMEK1.56gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で72時間撹拌して、目的化合物であるSM2の50質量%MEK溶液を得た。
得られたSM2のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量:Mwは2,750、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.2であった。
【0051】
[製造例3]ウレタン結合を介して、両末端のうち一端にアクリロイル基を3つ有し、該両末端の他端にアクリロイル基を4つ有するパーフルオロポリエーテル(SM3)の製造スクリュー管に、PFPE1 1.19g(0.5mmol)、BEI0.36g(1.5mmol)、AOI0.07g(0.5mmol)、DOTDD0.016g(PFPE1、BEI、AOIの合計質量の0.01倍量)、及びMEK1.64gを仕込んだ。この混合物を、スターラーチップを用いて室温(およそ23℃)で72時間撹拌して、目的化合物であるSM3の50質量%MEK溶液を得た。
得られたSM3のGPCによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量:Mwは2,900、分散度:Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.2であった。
【0052】
[実施例1乃至実施例9、比較例1乃至比較例8]
以下の(1)乃至(4)の各成分を混合し、表1に記載の固形分濃度の硬化性組成物を調製した。なお、ここで固形分とは溶媒以外の成分を指す。また、表1中、[部]とは[質量部]を、EOはオキシエチレン基を、POはオキシ(メチルエチレン)基を、それぞれ表す。
(1)多官能モノマー:表1に記載の多官能モノマー 100質量部
(2)表面改質剤:表1に記載の表面改質剤 表1による記載の量(固形分換算)
(3)重合開始剤:I2959 3質量部
(4)溶媒:PGME 表1に記載の量
この硬化性組成物を、A4サイズの両面易接着処理PETフィルム[東レ(株)製 ルミラー(商標登録)U403、厚み100μm]上にバーコーターにより塗布し、塗膜を得た。この塗膜を120℃のオーブンで3分間乾燥させ溶媒を除去した。得られた膜を、窒素雰囲気下、露光量300mJ/cm2のUV光を照射し露光することで、およそ5μmの膜厚を有するハードコート層(硬化膜)を有するハードコートフィルムを作製した。
【0053】
得られたハードコートフィルムの、耐擦傷性(外観、防汚性)、耐屈曲性、及び延伸性を評価した。各評価の手順を以下に示す。結果を表2に併せて示す。
【0054】
[耐擦傷性:外観]
ハードコート層表面を、往復摩耗試験機に取り付けたスチールウール[ボンスター販売(株)製 ボンスター(登録商標)#0000(超極細)]で250g/cm2の荷重を掛けて2,000往復擦り、傷の程度を目視で確認し以下の基準A、B及びCに従い評価した。なお、ハードコート層として実際の使用を想定した場合、少なくともBであることが求められ、Aであることが望ましい。
A:傷がつかない
B:一部分に傷がつく
C:全面に傷がつく
【0055】
[耐擦傷性:防汚性]
上述の耐擦傷試験前後において、ハードコート層表面の水接触角を測定し、試験前の接触角値、及び試験前後の接触角値の差(試験前の接触角-試験後の接触角)を以下の基準A及びCに従い評価した。なお、接触角は、水1μLをハードコート層表面に付着させ、その5秒後の接触角θを5点で測定し、その平均値を接触角値とした。なお、ハードコート層として実際の使用を想定した場合、Aであることが望ましい。
A:試験前の接触角値が90度以上且つ試験前後の接触角値の差が10度未満
C:試験前の接触角値が90度以上且つ試験前後の接触角値の差が10度以上、又は試験前の接触角値が90度未満
【0056】
[耐屈曲性]
ハードコートフィルムを長さ80mm、幅20mmの矩形に切り取り、試験片を作製した。マンドレルをセットした試験器に、試験片の短辺を固定し、1秒乃至2秒間かけてハードコート層が外側になるように180度屈曲させた。屈曲後のハードコート層を目視で観察し、クラックの有無を確認した。曲率半径が1mmR、2mmR、3mmR、5mmR、10mmRのマンドレルで試験し、クラックが発生しなかった最小の曲率半径を耐屈曲性として、以下の基準A、B及びCに従い評価した。なお、ハードコート層として実際の使用を想定した場合、少なくともBであることが求められ、Aであることが望ましい。
A:3mmR未満
B:3mmR以上10mmR未満
C:10mmR以上
【0057】
[延伸性]
ハードコートフィルムを長さ60mm、幅10mmの矩形に切り取り、試験片を作製した。試験片の長手方向の両端から20mmずつを掴むように万能試験機のつかみ具に取り付け、延伸率(=(つかみ具間距離の増加量)÷(つかみ具間距離)×100)が2.5%、7.5%、10%となるように引張試験を行った。試験片のハードコート層を目視で観察し、クラックが発生しなかった最大の延伸率を延伸性として、以下の基準A、B及びCに従い評価した。なお、ハードコート層として実際の使用を想定した場合、少なくともBであることが求められ、Aであることが望ましい。
A:10%以上
B:2.5%以上10%未満
C:2.5%未満
【0058】
【0059】
【0060】
表1及び表2に示すように、多官能モノマーとして官能基数が3以上かつ官能基1molに対するオキシエチレン基が1mol乃至2molであるオキシエチレン変性アクリレートを、表面改質剤として両末端それぞれにウレタン結合を介してアクリロイル基を4つ有するパーフルオロポリエーテルSM1を、それぞれ配合した硬化性組成物を用いて作製したハードコートフィルム(実施例1乃至実施例7)は、耐擦傷性に優れるとともに耐屈曲性及び適度な延伸性を有することが明らかとなった。また、表面改質剤として上記SM1に替えてパーフルオロポリエーテルSM2又はSM3を配合した硬化性組成物を用いて作製したハードコートフィルム(実施例8及び実施例9)は、耐擦傷性に優れるとともに耐屈曲性及び適度な延伸性を有することが明らかとなった。
【0061】
一方、多官能モノマーとして、オキシエチレン変性されていない3官能乃至6官能アクリレートを用いたハードコートフィルム(比較例1乃至比較例4)は、耐屈曲性及び延伸性が極めて劣る結果となった。また、オキシ(メチルエチレン)変性3官能アクリレートを用いたハードコートフィルム(比較例5及び比較例6)は、官能基1molに対するオキ
シアルキレン基が1molであっても耐擦傷性が劣る結果となった。さらに、オキシエチレン変性アクリレートであっても、官能基1molに対するオキシエチレン基が3molであるアクリレートを用いたハードコートフィルム(比較例7)は、防汚性が劣る結果となった。また、表面改質剤であるパーフルオロポリエーテルを含まないハードコートフィルム(比較例8)は、耐擦傷性及び防汚性が劣る結果となった。
【0062】
[実施例10乃至実施例12、比較例9]
以下の(1)乃至(4)の各成分を混合し、表3に記載の固形分濃度の硬化性組成物を調製した。なお、ここで固形分とは溶媒以外の成分を指す。また、表3中、[部]とは[質量部]を、EOはオキシエチレン基を、それぞれ表す。
(1)多官能モノマー:表3に記載の多官能モノマー 100質量部
(2)表面改質剤:表3に記載の表面改質剤 0.2質量部(固形分換算)
(3)重合開始剤:I2959 3質量部
(4)溶媒:MeOH 表3に記載の量
この硬化性組成物を、A4サイズの両面易接着処理PETフィルム[東レ(株)製ルミラー(商標登録)U403、厚み100μm]上にバーコーターにより塗布し、塗膜を得た。この塗膜を65℃のオーブンで3分間乾燥させ溶媒を除去した。得られた膜を、窒素雰囲気下、露光量300mJ/cm2のUV光を照射し露光することで、およそ5μmの膜厚を有するハードコート層(硬化膜)を有するハードコートフィルムを作製した。
【0063】
得られたハードコートフィルムについて、前述の[耐擦傷性]、[屈曲性]及び[延伸性]の評価に加え、耐摩耗性を評価した。耐摩耗性評価の手順を以下に示す。結果を表4に示す。
【0064】
[耐摩耗性]
ハードコート層表面を、往復摩耗試験機に取り付けた円筒形消しゴム[Minoan社製
RUBBER STICK、φ6.0mm]で1kgの荷重を掛けて3,000往復擦った。その擦った部分に水1μLを付着させ、その5秒後の接触角θを5点測定し、その平均値を接触角値とし、以下の基準A、B及びCに従い評価した。なお、ハードコート層として実際の使用を想定した場合、少なくともBであることが求められ、Aであることが望ましい。
A:θ≧80°
B:70°≦θ<80°
C:θ<70°
【0065】
【0066】
【0067】
表3及び表4に示すように、多官能モノマーとして官能基数が3以上かつ官能基1molに対するオキシエチレン基が1molであるオキシエチレン変性アクリレートを、表面改質剤としてパーフルオロポリエーテルSM1、SM2又はSM3を、それぞれ配合した硬化性組成物を用いて作製したハードコートフィルム(実施例10乃至実施例12)は、優れた耐擦傷性、耐屈曲性及び延伸性に加え、良好な耐摩耗性を有することが明らかとなった。
【0068】
一方、表面改質剤であるパーフルオロポリエーテルを含まないハードコートフィルム(比較例9)は、耐摩耗性が劣る結果となった。