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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】塗布装置
(51)【国際特許分類】
   B05C 1/02 20060101AFI20231206BHJP
   B05C 15/00 20060101ALI20231206BHJP
   B05C 11/00 20060101ALI20231206BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B05C1/02 101
B05C15/00
B05C11/00
C12M1/00 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019166450
(22)【出願日】2019-09-12
(65)【公開番号】P2021041357
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-08-29
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「三次元生体組織(LbL3D組織)の全自動製造システムの開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000102692
【氏名又は名称】NTN株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】明石 満
(72)【発明者】
【氏名】赤木 隆美
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽香
(72)【発明者】
【氏名】小田 淳志
【審査官】清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/088224(WO,A1)
【文献】実開昭48-112896(JP,U)
【文献】特開2011-243188(JP,A)
【文献】特開2011-229409(JP,A)
【文献】国際公開第2009/001759(WO,A1)
【文献】特開2006-025789(JP,A)
【文献】特開2008-191091(JP,A)
【文献】特開平07-308616(JP,A)
【文献】特開2010-273655(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
C12Q 1/02
B05C 1/00-21/00
B05D 1/00-7/26
JSTPlus/JMEDPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
テーブル上に載置された加工対象材に液体材料を供給する塗布ユニットと、
前記塗布ユニットをZ軸方向から覆うカバーと、
前記カバーと前記テーブルとにより形成される空間内の湿度を制御可能な湿度制御装置と、
湿度が制御された気体を、前記湿度制御装置から、前記カバーに形成された流入口を介して前記空間内に供給可能な気体流通路とを備え、
前記カバーは壁部を含み、前記壁部は前記Z軸方向に直交するY軸方向、ならびに前記Z軸方向および前記Y軸方向に直交するX軸方向において前記塗布ユニットを取り囲み、
前記空間の湿度を80%以上にすることが可能であり、
前記塗布ユニットと前記流入口との間の位置に衝立部をさらに備える、塗布装置。
【請求項2】
前記空間の湿度を測定し前記湿度制御装置に測定結果を送る湿度センサをさらに備える、請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記塗布ユニットは前記加工対象材に前記液体材料を塗布により供給可能な塗布針を含む、請求項1または2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記流入口は、前記Z軸方向について、前記塗布ユニットから見て前記テーブルと反対側に配置される、請求項1~3のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項5】
前記カバーには前記空間内の気体を前記空間の外側に排気可能な排気口が形成され、
前記Y軸方向について、前記塗布ユニットは、前記流入口および前記排気口を結ぶ直線から離れた位置に配置される、請求項1~4のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項6】
前記カバーは、前記壁部として前記X軸方向の端部に配置される1対の壁面を有し、
前記流入口は前記1対の壁面のうち一方の壁面に形成されており、
前記排気口は前記1対の壁面のうち他方の壁面に形成されている、請求項5に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記流入口と前記排気口とは、前記X軸方向の平面視において、前記Y軸方向のY座標が少なくとも部分的に重複するように形成される、請求項5または6に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記流入口と前記排気口とは前記Z軸方向について、前記テーブルと反対側の前記塗布ユニットの端部から見て互いに反対側に形成される、請求項5~7のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項9】
前記Y軸方向および前記X軸方向の少なくともいずれかについて互いに対向するように前記カバーに配置される1対のファンをさらに備える、請求項1~8のいずれか1項に記載の塗布装置。
【請求項10】
前記1対のファンは、前記Z軸方向について、前記流入口よりも前記テーブル側に配置される、請求項9に記載の塗布装置。
【請求項11】
前記1対のファンは、包囲部と、前記包囲部を前記カバーに取り付ける4本の脚部とを含み、
前記4本の脚部は前記包囲部の主表面から、前記主表面に交差する方向に延びる、請求項9または10に記載の塗布装置。
【請求項12】
前記液体材料はゲル化剤を含む細胞含有液である、請求項1~11のいずれか1項に記載の塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布装置に関し、特に塗布ユニットの周囲の湿度を調整可能な塗布装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、タンパク質およびDNAなどの生理活性物質を微細に配列したマイクロアレイは、少量の試料で種々の検査および試験を迅速に行なえることが知られている。また、細胞培養において、細胞は周囲の細胞との局所的な接触および細胞の集合体の形状などにより、タンパク質の発現が異なることが知られている。そこで細胞の集合体の形状によるタンパク質の発現の違いが盛んに研究されている。具体的には、培養容器の底面に、細胞接着性のタンパク質が様々な形状にパターニングされる。また細胞の組織の造形技術の研究が進められている。具体的には、細胞を分散させたゲル剤がパターニングされる。
【0003】
タンパク質およびゲル剤をパターニングする方式としては、いわゆるインクジェット方式およびいわゆるディスペンサ方式などが一般的である。しかし塗布針を用いた方式も注目されている。塗布針を用いた方式によれば、広い粘度の範囲の材料を用いて微細な塗布が可能なためである。塗布針を用いて塗布液を微細に塗布する技術は、たとえば特開2007-268353号公報(特許文献1)および特開2017-94286号公報(特許文献2)に開示されている。なおこれらの文献の開示技術の主な目的は、微細パターンの欠陥の修正である。
【0004】
一方、特にタンパク質のスポットを並べるマイクロアレイヤーでは、アレイの形成される環境の湿度が、当該タンパク質を溶解しているソリューションの性状に合わせて調節される必要がある。たとえば特開2007-132912号公報(特許文献3)には、アレイの形成される環境の湿度が30%以上65%以下で調節されるプロテインマイクロアレイヤーが開示されている。また特開2007-132912号公報および特開2004-317189号公報(特許文献4)には、複数の塗布針を有するアレイヤーが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-268353号公報
【文献】特開2017-94286号公報
【文献】特開2007-132912号公報
【文献】特開2004-317189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
マイクロアレイヤーにおいて、単一の塗布針による塗布装置が用いられる場合がある。これは特開2007-132912号公報および特開2004-317189号公報のように複数の塗布針を用いた塗布装置よりも塗布量のばらつきを低減する観点に基づく。ただしその場合、たとえば複数の塗布針を用いた特開2004-317189号公報の塗布装置に比べて、1回の塗布動作で塗布される液の量が少ない。塗布される液の量が少なければ、塗布された液中の水分の蒸発が速くなる。このため、いっそう精密で加湿能力が高く応答性の良い湿度制御が必要となる。しかし特開2007-132912号公報のような湿度調整範囲が30%以上65%以下程度の装置によれば、塗布された液はすぐに乾燥してしまう。
【0007】
特に水溶性の2液混合性ゲル剤は、塗布時の濃度によって生成されるゲルの硬さ等の状態が大きく変化する。このような状態のばらつきを抑制する観点から、1回目に塗布された液中の水分の蒸発を極力防ぐ必要がある。この観点から、なるべく塗布ユニットの周囲を高湿度に保つ必要がある。また2液混合性ゲル剤に限らず1回のみ塗布する場合においても、塗布されるゲル剤などの液体材料の塗布径のばらつきを極力小さくする必要がある。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みなされたものである。その目的は、塗布ユニットの周囲を高湿度に保つことが可能な塗布装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示に従った塗布装置は、塗布ユニットと、カバーと、湿度制御装置と、気体流通路とを備える。塗布ユニットは、テーブル上に載置された加工対象材に液体材料を供給する。カバーは、塗布ユニットを第1方向から覆う。湿度制御装置は、カバーとテーブルとにより形成される空間内の湿度を制御可能である。気体流通路は、湿度が制御された気体を、湿度制御装置から、カバーに形成された流入口を介して空間内に供給可能である。カバーは壁部を含み、壁部は第1方向に直交する第2方向、ならびに第1方向および第2方向に直交する第3方向において塗布ユニットを取り囲む。空間の湿度を80%以上にすることが可能である。
【発明の効果】
【0010】
本開示に従えば、塗布ユニットの周囲を高湿度に保つことが可能な塗布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施の形態に従った塗布装置の模式図である。
図2図1に示した塗布装置の塗布ユニットを示す模式図である。
図3図2に示した塗布ユニットのカム部材を説明するための模式図である。
図4】本実施の形態の塗布ユニットの周囲の、湿度制御装置を含む領域の構成を示す模式図である。
図5】本実施の形態の第1例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Aから見た構成を示す概略図である。
図6】本実施の形態の第1例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Bから見た構成を示す概略図である。
図7図4図6のファンの構成を示す模式図である。
図8】本実施の形態の第2例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Aから見た構成を示す概略図である。
図9】本実施の形態の第2例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Bから見た構成を示す概略図である。
図10】本実施の形態の第3例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Bから見た構成を示す概略図である。
図11】実施例1におけるカバー内の湿度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。
図12】実施例2における各湿度の環境下での塗布径の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施の形態について図に基づいて説明する。なお説明の便宜上、X方向、Y方向およびZ方向が導入されている。
【0013】
(はじめに)
後に繰り返すが、まず本実施の形態の特徴について概略的に説明する。図4を参照して、本開示に従った塗布装置100は、塗布ユニット4と、カバー101と、湿度制御装置103と、気体流通路105とを備える。塗布ユニット4は、Y軸テーブル2上に載置された加工対象材としての基板5に液体材料を供給する。カバー101は、塗布ユニット4を第1方向であるZ方向から覆う。湿度制御装置103は、カバー101とY軸テーブル2とにより形成される空間102内の湿度を制御可能である。気体流通路105は、湿度が制御された空気などの気体を、湿度制御装置103から、カバー101に形成された流入口107を介して空間102内に供給可能である。カバー101は壁部を含む。当該壁部は第1方向であるZ方向に直交する第2方向としてのY方向、ならびにZ方向およびY方向に直交する第3方向としてのX方向において塗布ユニット4を取り囲む。塗布装置100は、空間102の湿度を80%以上にすることが可能である。
【0014】
(塗布装置の全体構成)
図1は、本実施の形態に従った塗布装置の模式図である。図1を参照して、本発明の実施形態である塗布装置は、処理室と、当該処理室の内部に配置されたY軸テーブル2と、X軸テーブル1と、Z軸テーブル3と、塗布ユニット4と、観察光学系6と、当該観察光学系6に接続されたCCDカメラ7と、制御部とを主に備えている。制御部は、モニタ9と、制御用コンピュータ10と、操作パネル8とを含む。
【0015】
処理室の内部においては、当該処理室の底部上にY軸テーブル2が設置されている。このY軸テーブル2は、Y軸方向に移動可能になっている。具体的には、Y軸テーブル2の下面にガイド部が設置されている。当該ガイド部は、処理室の底面に設置されたガイドレールに摺動可能に接続されている。また、Y軸テーブル2の下面にはボールねじが接続されている。当該ボールねじをモータなどの駆動部材により動作させることにより、Y軸テーブル2はガイドレールに沿って(Y軸方向に)移動可能になっている。また、Y軸テーブル2の上部表面上は、加工対象材である基板5を搭載する搭載面となっている。
【0016】
Y軸テーブル2上には、X軸テーブル1が設置されている。X軸テーブル1は、Y軸テーブル2をX軸方向に跨ぐように設置された構造体上に配置されている。X軸テーブル1には、Z軸テーブル3が接続された移動体がX軸方向に移動可能に設置されている。移動体は、たとえばボールねじを用いてX軸方向に移動可能となっている。なお、X軸テーブル1は上記構造体を介して処理室の底面に固定されている。そのため、上述したY軸テーブル2は、X軸テーブル1に対してY軸方向に移動可能になっている。
【0017】
X軸テーブル1に接続された移動体には、上述のようにZ軸テーブル3が設置されている。Z軸テーブル3には、観察光学系6および塗布ユニット4が接続されている。観察光学系6は塗布対象の基板5の塗布位置を観察するためのものである。CCDカメラは、観察した画像を電気信号に変換する。Z軸テーブル3は、これらの観察光学系6および塗布ユニット4をZ軸方向に移動可能に保持している。
【0018】
これらのY軸テーブル2、X軸テーブル1、Z軸テーブル3、観察光学系6および塗布ユニット4を制御するための制御用コンピュータ10および操作パネル8、さらに制御用コンピュータに付随するモニタ9は、処理室の外部に設置されている。モニタ9は、上述したCCDカメラ7で変換された画像データや、制御用コンピュータ10からの出力データを表示する。操作パネル8は、制御用コンピュータ10への指令を入力するために用いられる。
【0019】
(塗布ユニットの構成)
上述した塗布ユニット4は、Y軸テーブル2上に載置された基板5に液体材料を供給する。以下に塗布ユニット4に関して、図2および図3を参照してより詳しく説明する。図2は、図1に示した塗布装置の塗布ユニットを示す模式図である。図3は、図2に示した塗布ユニットのカム部材を説明するための模式図である。図2および図3を参照して、図1に示したZ軸テーブル3に固定された塗布ユニット4は、サーボモータ41と、カム43と、軸受44と、カム連結板45と、可動部46と、塗布針ホルダ20と、当該塗布針ホルダ20に保持された塗布針24と、塗布材料容器21とを主に含んでいる。サーボモータ41は、図1に示したZ軸方向に沿った方向に回転軸が延びるように設置されている。サーボモータ41の回転軸にはカム43が接続されている。カム43は、サーボモータ41の回転軸を中心として回転可能になっている。
【0020】
カム43は、サーボモータ41の回転軸に接続された中心部と、当該中心部の一方端部に接続されたフランジ部とを含む。図3(A)に示すように、フランジ部の上部表面(サーボモータ41側の表面)はカム面61となっている。このカム面61は、中心部の外周に沿って円環状に形成されているとともに、フランジ部の底面からの距離が変動するようにスロープ状に形成されている。具体的には、図3(B)に示すように、カム面61はフランジ部の底面からの距離が最も大きくなっている上端フラット領域62と、この上端フラット領域62から間隔を隔てて配置され、フランジ部の底面からの距離が最も小さい下端フラット領域63と、上端フラット領域62と下端フラット領域63との間を接続するスロープ部とを含む。ここで、図3(B)は、中心部を囲むように環状に配置されたカム面61を含むフランジ部を側面から見た展開図である。
【0021】
このカム43のカム面61に接するように軸受44が配置されている。軸受44は、図2(A)に示すようにカム43から見て特定の方向(サーボモータ41の右側)に配置されており、サーボモータ41の回転軸が回転することでカム43が回転したとき、カム面61に接触した状態を保つ。この軸受44にカム連結板45が接続されている。カム連結板45において、軸受44と接続された一方端部と反対側の他方端部は可動部46に固定されている。可動部46には、塗布針ホルダ固定部47および塗布針ホルダ収納部48が接続されている。この塗布針ホルダ収納部48に塗布針ホルダ20が収納されている。
【0022】
塗布針ホルダ20は塗布針24を含む。塗布針24は、塗布針ホルダ20の下面(サーボモータ41が位置する側と反対側である下側)において塗布針ホルダ20から突出するように配置されている。塗布針ホルダ20下には塗布材料容器21が配置されている。塗布材料容器21に塗布針24は挿入された状態で保持されている。
【0023】
可動部46には固定ピン52が設置されている。また、サーボモータ41を保持している架台には他方の固定ピン51が設置されている。この固定ピン51、52の間を繋ぐようにバネ50が設置されている。このバネ50により、可動部46は塗布材料容器21側に向けた引張り力を受けた状態になっている。また、このバネ50による引張り力は、可動部46およびカム連結板45を介して軸受44に作用する。このバネ50の引張り力によって、軸受44はカム43のカム面61に押圧された状態を維持している。
【0024】
また、可動部46、塗布針ホルダ固定部47、塗布針ホルダ収納部48は、上記架台に設置されたリニアガイド49に接続されている。リニアガイド49は、Z軸方向に延びるように配置されている。そのため、可動部46、塗布針ホルダ固定部47、塗布針ホルダ収納部48はZ軸方向に沿って移動可能になっている。
【0025】
(塗布ユニットの動作)
次に、上述した塗布ユニット4の動作について説明する。上述した塗布ユニット4においては、サーボモータ41を駆動することにより当該サーボモータ41の回転軸を回転させてカム43を回転させる。この結果、カム43のカム面61は、Z軸方向における高さが変化するため、図2(A)におけるカム43の右側においてカム面61に接触している軸受44のZ軸方向における位置もサーボモータ41の駆動軸の回転に応じて変動する。そして、この軸受44のZ軸方向での位置変動に応じて、可動部46、塗布針ホルダ固定部47、塗布針ホルダ収納部48がZ軸方向に移動する。この結果、塗布針ホルダ収納部48に保持されている塗布針ホルダ20もZ軸方向に移動するので、当該塗布針ホルダ20に設置されている塗布針24のZ軸方向における位置を変化させることができる。
【0026】
(塗布装置の動作)
次に、図1に示した塗布装置の動作を説明する。
【0027】
図1に示した塗布装置において、回路パターンを描画する場合は、まず、塗布対象である基板5を準備する(工程(S10))。そして、基板5を塗布装置のY軸テーブル2上に搭載した後、基板5における描画する領域を観察光学系6の直下までX軸テーブル1およびY軸テーブル2を動作させて移動させる。そして、観察光学系6で描画開始位置を観察・確認し、描画開始位置を決定する。決定した描画開始位置を基準にして、Z軸テーブル3を動作させることにより、塗布ユニット4を、塗布針24が突出した時に塗布針24先端が基板5に接触する基板5上方まで下降させ、この状態で、サーボモータ41を動作させて塗布針24を突出させることで、表面に液体材料が付着した塗布針24を基板5の表面に接触させる。具体的には、描画開始位置から、描画するべき位置が塗布ユニット4の直下に位置するようにX軸テーブル1およびY軸テーブル2を用いて基板5を移動させる。そして、移動が完了した時点で、Z軸テーブル3により塗布ユニット4を下降させて(基板5側へ塗布ユニット4を移動させて)、塗布ユニット4のサーボモータ41を駆動して塗布針24を突出させることで、塗布針24により基板5へ液体材料の塗布を行う。その後、Z軸テーブル3を用いて塗布ユニット4を上昇させる。連続して塗布する場合は、Z軸テーブル3で塗布ユニット4を下降させた後、基板5の描画位置が順次、塗布ユニット4の直下にくるようにX軸テーブル1およびY軸テーブル2を用いて移動させ、移動完了後、塗布ユニット4のサーボモータ41を駆動して塗布針24を突出させて塗布を行う。このような動作を連続して繰り返すことで、基板5表面に回路パターンを描画する(工程(S20))。このとき、基板5へ塗布針24を接触させる前に前もって塗布針24の移動速度を下げておく制御を行なうことが好ましい。
【0028】
(塗布ユニットの周囲の領域の構成)
次に、上記塗布装置100における塗布ユニット4の周囲の領域の構成について、図4図10を用いて説明する。図4は、本実施の形態の塗布ユニットの周囲の、湿度制御装置を含む領域の構成を示す模式図である。図5は、本実施の形態の第1例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Aから見た構成を示す概略図である。図6は、本実施の形態の第1例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Bから見た構成を示す概略図である。図7は、図4図6のファンの構成を示す模式図である。まず図4図7を用いて、本実施の形態の第1例について説明する。
【0029】
図4を参照して、塗布装置100は塗布ユニット4の周囲の領域に、以下に示す各部材を備えている。塗布装置100は、カバー101と、湿度制御装置103と、気体流通路105とを主に備えている。
【0030】
カバー101は、塗布ユニット4を第1方向であるZ方向から覆う。図4の塗布装置100のカバー101は、Z方向についての図4の上側から塗布ユニット4を覆う。カバー101は塗布ユニット4を覆い被せるための壁部を含んでいる。カバー101の壁部は、Z方向に直交する第2方向としてのY方向、ならびにZ方向およびY方向に直交する第3方向としてのX方向において、塗布ユニット4を取り囲む。つまりカバー101の壁部は、これを塗布ユニット4に被せたときに、X方向およびY方向から、平面視において塗布ユニット4を挟むように配置される。なおカバー101は必ずしも透明部材とは限らないが、図4においては説明の便宜上、カバー101の内部に配置される各部材を実線で示している。
【0031】
カバー101はたとえばY軸テーブル2の上側の表面上に覆い被せられる。このときカバー101の壁部とY軸テーブル2とにより囲まれるように、カバー101の内側には空間102が形成される。
【0032】
湿度制御装置103は、空間102内の湿度を制御可能な装置である。具体的には、たとえば空間102内の湿度を上昇させる場合には湿度制御装置103から空間102内に湿度の高い気体が供給される。これにより塗布装置100においては、空間102の湿度を80%以上にすることができる。
【0033】
空間102を80%以上の湿度にするために、湿度制御装置103は湿度が90%以上の加湿空気を供給することができる。90%以上の加湿空気を用いれば、空間102内の湿度を短時間で80%以上に上昇させ、それを維持できる。なお供給する空気などの気体の湿度を90%以上にする方法として、湿度制御装置103は、たとえば粒子径が5μm以下の水滴を超音波により発生させ、その水滴を含む気体を外部に送風する方法が用いられてもよい。湿度制御装置103には、超音波振動発生装置と、超音波振動による微小水滴の発生部と、当該微小水滴を含む気体をカバー101内に送風するためのファンとが備えられることが好ましい。
【0034】
気体流通路105は、湿度制御装置103にて湿度が制御された気体を、湿度制御装置103から、カバー101に形成された流入口107を介して、空間102内に供給する。空間102内には湿度センサ113が備えられている。湿度センサ113はたとえばカバー101内の塗布ユニット4の、Z方向の上側の部分に設置されている。湿度センサ113は、空間102の湿度を測定し、湿度制御装置103に測定結果を送る。その測定結果と、湿度制御装置103に設定された湿度との誤差を元に、湿度制御装置103は、空間102に向けて供給する空気などの気体の湿度および流量を調節する。これにより、塗布ユニット4の周囲の、カバー101に囲まれた空間102内の湿度を設定湿度に保つことができる。
【0035】
ただし湿度センサ113は上記以外の個所に設置されてもよい。たとえば湿度センサ113の設置される位置および数は任意に変更されてもよい。これにより、湿度センサ113の湿度の測定値に対する湿度制御装置103の応答性、および空間102内の湿度の均一性を向上できる。
【0036】
図5および図6においても説明の便宜上、カバー101の材質にかかわらずその内部の部材が外側から見えるものとして図示されている。図4および図5図6を参照して、流入口107は、カバー101の壁部のうち、Z方向について、塗布ユニット4から見てYテーブル2と反対側すなわち塗布ユニット4の上側に配置される。流入口107は、たとえば図6に示すように円形であってもよいし、矩形などの多角形状であってもよい。
【0037】
その他、カバー101の壁部には、排気口109が形成されている。排気口109は、空間102内の気体を空間102の外側に排気可能である。図6に示すように、Y方向について塗布ユニット4は、流入口107および排気口109を結ぶ直線LIから離れた位置に配置されている。すなわち図6において流入口107および排気口109は、いずれもY方向についてカバー101の中央よりも右側の領域に配置される。これに対し塗布ユニット4はY方向についてカバー101の中央よりも左側の領域に配置される。このため図6中に点線で示す直線LIは、塗布ユニット4を通らない。
【0038】
図4図6に示すように、カバー101は、これを構成する壁部がたとえば、平面視において矩形状を有する箱型の形状を有している。具体的には、カバー101の箱型の壁部は、Z方向の最上面101Iと、互いに対向する1対の壁面101A,101Bと、互いに対向する1対の壁面101E,101Fとの合計5面を有している。1対の壁面101A,101Bは最上面101Iにたとえば直交するように交差している。1対の壁面101A,101Bはカバー101のX方向の端部に配置されている。壁面101Aは図4図6でのカバー101のX方向の正側の端部に配置されており、壁面101Bはカバー101のX方向の負側の端部に配置されている。1対の壁面101E,101Fは最上面101Iにたとえば直交するように交差している。1対の壁面101E,101Fはカバー101のY方向の端部に配置されている。壁面101Eは図4図6でのカバー101のY方向の負側の端部に配置されており、壁面101Fはカバー101のY方向の正側の端部に配置されている。
【0039】
図4図6のカバー101は以上のような直方体状であり、Z方向の最下部のみ壁面を有さず開口部となっている。このようなカバー101がZ方向の最下部をY軸テーブル2に対向または接触させることで、塗布ユニット4を覆い被せることができる。ただしカバー101はこのような直方体状に限られない。たとえばカバー101は、上記のような5つの面を独立に有さなくてもよい。カバー101は、X方向およびY方向において塗布ユニット4を取り囲む限り、たとえばドーム状のような、X方向に交差する面およびY方向に交差する壁面が曲面であり上部にて一体に繋がった形状であってもよい。その他カバー101は、任意の部分に曲面を有していてもよい。また、Y軸テーブル2がカバー101に覆われ、空間102内にY軸テーブル2が配置されてもよい。
【0040】
流入口107は1対の壁面101A,101Bのうち一方のたとえば壁面101Bに形成されている。排気口109は1対の壁面101A,101Bのうち他方のたとえば壁面101Aに形成されている。なお上記と逆に、流入口107が壁面101Aに、排気口109が壁面101Bに形成されてもよい。また上記の流入口107および排気口109はたとえばいずれもX方向に交差する(YZ平面に沿う)壁面101A,101Bに形成されている。
【0041】
流入口107は互いに対向する1対の壁面の一方に形成され、排気口109は互いに対向する1対の壁面の、流入口107が形成される一方とは異なる他方に形成される。なおここで互いに対向する1対の壁面とは、図4図6のような箱状のカバー101の1対の対向する壁面に限らず、たとえばドーム状の曲面など一体である面の互いに対向する1対の部分も含む。
【0042】
また図4図6のカバー101は、X方向がY方向よりも寸法が大きい。すなわち壁面101Aと壁面101Bとの距離が、壁面101Eと壁面101Fとの距離よりも大きい。このように流入口107および排気口109は、互いに対向する1対の壁面(または壁面の互いに対向する1対の部分)のうち、他の1対の壁面よりも間隔の大きい1対の壁面のそれぞれに形成されることが好ましい。
【0043】
図6のように、流入口107と排気口109とはY方向について同一の位置を含むように形成されている。すなわち流入口107と排気口109とは、X方向の平面視において、Y方向の位置(Y座標)が少なくとも部分的に重複するように形成されている。流入口107と排気口109との平面視でのサイズおよび形状が等しい場合、流入口107と排気口109とはY方向における位置がそのほぼ全体において重なるように形成されてもよい。
【0044】
図4図6のように、流入口107と排気口109とはZ方向について、Y軸テーブル2と反対側すなわち上側の塗布ユニット4の端部(塗布ユニット4の上端部4a)から見て互いに反対側に形成されている。つまりたとえば流入口107は塗布ユニット4の上端部4aの上側に形成され、排気口109は塗布ユニット4の上端部4aの下側に形成されている。
【0045】
カバー101のX方向について互いに対向する壁面101A,101Bのそれぞれには、1対のファン111が備えられる。壁面101Aの内壁面101Cにはファン111Aが、壁面101Bの内壁面101Dにはファン111Bが、それぞれ備えられている。このようにファン111Aおよびファン111Bは、互いに対向する1対の壁面(または壁面の互いに対向する1対の部分)のうち、他の1対の壁面よりも間隔の大きい1対の壁面のそれぞれに形成されることが好ましい。このため図4図6においては、壁面101Eおよび壁面101Fよりも間隔の大きい壁面101Aおよび壁面101Bのそれぞれにファン111Aおよびファン111Bが取り付けられている。1対のファン111A,111Bは、Z方向について、流入口107よりもY軸テーブル2側すなわち下側に配置される。なお1対のファン111A,111BはZ方向について、排気口109よりもY軸テーブル2と反対側すなわち上側に配置されることが好ましい。
【0046】
ファン111すなわち1対のファン111A,111Bのそれぞれは、以下の構成を有している。図7を参照して、ファン111は、回転翼111Cと、包囲部111Dと、4本の脚部111Eとを含んでいる。回転翼111Cは、ファン111の駆動により実際に回転する羽根を有する部分である。したがって回転翼111Cの外縁は、少なくとも部分的に円弧形を有していることが好ましい。包囲部111Dは、回転翼111Cを平面視における外側から取り囲む部分である。包囲部111Dの外縁はたとえば正方形状を有しているがこれに限られない。包囲部111Dには、回転翼111Cを中央部に収納可能とするための空洞が形成されている。脚部111Eは包囲部111Dをカバー101の内壁面101C,101Dなどに取り付ける部分である。脚部111Eは4本であることが好ましいがこれに限らず本数は任意である。4本の脚部111Eは包囲部111Dの矩形の主表面から、当該主表面にたとえば直交するように交差する方向(図7の下側)に延びている。
【0047】
脚部111Eの延びる長さをLとし、回転翼111Cの外縁の円弧形の直径をDとする。ここで脚部111Eの長さLは、これが取り付けられるたとえば内壁面101Cと回転翼111Cまたは包囲部111Dとの距離となる。このときLはDの40%以上の長さであることが好ましく、50%以上であることがより好ましい。このようにすれば、ファン111による後述する作用効果を十分に引き出すことができる。これとともに、ファン111の包囲部111Dとファン111が取り付けられる壁面101A,101B,101E,101Fとの間の領域に加湿空気が滞留することによる当該領域の結露を抑制できる。
【0048】
図4図6を再度参照して、塗布装置100においては塗布ユニット4と流入口107との間の位置に衝立部117をさらに備えることが好ましい。ここで衝立部117は、たとえば矩形の平板部材である。衝立部117は、その平板部材の主表面(表面積の大きい面)が、Y方向について塗布ユニット4と流入口107とに対向するように、Y方向について塗布ユニット4と流入口107との間に配置されることが好ましい。
【0049】
衝立部117は土台部115と併せた衝立部材119の一部であってもよい。すなわち土台部115を構成する平板部材が土台部115からたとえば約90°屈曲されることにより衝立部117が形成されてもよい。この場合、衝立部材119においては土台部115と衝立部117とが一体となっている。しかし衝立部材119においては土台部115と衝立部117とが別個のたとえば平板部材でありこれらが接合された構成であってもよい。なお土台部115は衝立部材119をY軸テーブル2上などに載置するためのベースとなる部分である。
【0050】
衝立部117(を含む衝立部材119)はカバー101とは別の部材であり、たとえば土台部115がY軸テーブル2の上に載置される構成であってもよい。加工対象材である基板5はY軸テーブル2の上に直接載置されてもよい。土台部115が基板5の載置部に差し掛からない程度に小さい場合はそのようになる。しかし基板5は土台部115の上に載置されてもよい。土台部115が基板5の載置部に重なる程度に大きい場合はそのようになり、図4図6はそのような例を示している。あるいは衝立部117(を含む衝立部材119)はカバー101と一体であってもよい。
【0051】
図8は、本実施の形態の第2例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Aから見た構成を示す概略図である。図9は、本実施の形態の第2例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Bから見た構成を示す概略図である。図8および図9を参照して、本実施の形態の第2例においては、塗布ユニット4の周囲の領域のカバー101などの構成について、基本的に図4図6の本実施の形態の第1例と同様である。このため同一の構成要素には同一の符号を付し、構造、機能等が同一である限りその説明を繰り返さない。また本実施の形態の第2例の塗布装置100について図8および図9に示されない部分は、すべて本実施の形態の第1例の塗布装置100と同様であるため説明を繰り返さない。このことは本実施の形態の以降の例の説明においても同様である。
【0052】
図8および図9の第2例に示すように、流入口107および排気口109は、互いに対向する1対の壁面(または壁面の互いに対向する1対の部分)のうち、他の1対の壁面よりも間隔の小さい1対の壁面のそれぞれに形成されてもよい。つまり流入口107および排気口109はたとえばいずれもY方向に交差する(ZX平面に沿う)壁面101E,101Fに形成されてもよい。図9のように流入口107が壁面101Fに、排気口109は壁面101Eに形成されてもよいし、逆であってもよい。第2例においては、図8に示すように、X方向について塗布ユニット4は、流入口107および排気口109を結ぶ直線LIから離れた位置に配置されている。また第2例では図8のように、流入口107と排気口109とはX方向について同一の位置を含むように形成される。
【0053】
また図8および図9の第2例に示すように、ファン111Aおよびファン111Bは、壁面101Aおよび壁面101Bよりも間隔の小さい壁面101Eおよび壁面101Fのそれぞれに取り付けられてもよい。このように1対のファン111A,111Bは、カバー101のY方向について互いに対向する壁面101E,101Fのそれぞれのたとえば内壁面101G,101Hに備えられてもよい。
【0054】
図10は、本実施の形態の第3例におけるカバーおよびその内部を図4中の矢印で示す方向Bから見た構成を示す概略図である。図10を参照して、本実施の形態の第3例に示すように、流入口107および排気口109は、いずれもY方向についてカバー101の中央よりも左側の領域に配置される。これに対し塗布ユニット4はY方向についてカバー101の中央よりも右側の領域に配置される。このため図10中に点線で示す直線LIは、塗布ユニット4を通らない。このように図10においては図6に対し、Y方向について左右反転されている。このような構成であってもよい。また図示されないが、図8の第2例に対し、X方向について流入口107、排気口109と塗布ユニット4とが左右反転された構成であってもよい。
【0055】
(作用効果)
次に、本実施の形態の作用効果について説明する。
【0056】
本開示に従った塗布装置100は、塗布ユニット4と、カバー101と、湿度制御装置103と、気体流通路105とを備える。塗布ユニット4は、Y軸テーブル2上に載置された加工対象材としての基板5に液体材料を供給する。カバー101は、塗布ユニット4を第1方向であるZ方向から覆う。湿度制御装置103は、カバー101とY軸テーブル2とにより形成される空間102内の湿度を制御可能である。気体流通路105は、湿度が制御された空気などの気体を、湿度制御装置103から、カバー101に形成された流入口107を介して空間102内に供給可能である。カバー101は壁部を含む。当該壁部は第1方向であるZ方向に直交する第2方向としてのY方向、ならびにZ方向およびY方向に直交する第3方向としてのX方向において塗布ユニット4を取り囲む。空間102の湿度を80%以上にすることが可能である。
【0057】
このようにすれば、たとえば空間102の湿度の調整可能範囲が30%以上65%以下と低い場合における、1本の塗布針24にて微細なパターンが塗布された場合に起こり得る、塗布後のパターン中の水分の速やかな蒸発を抑制できる。このため、1本の塗布針24を用いて2液混合性ゲル剤などの含水率の高い塗布液を塗布する場合においても、いっそう微細なパターンを高精度に形成できる。また湿度を80%以上にすることが可能な湿度制御装置103を用いるため、たとえば90%以上の極めて湿度の高い空気などの気体を発生させることができ、短時間で空間102を高湿度にできる。つまりカバー101内部の湿度を高湿度領域まで、応答性よく制御可能である。
【0058】
塗布ユニット4の周囲の空間102の湿度が変化すれば、たとえ他の条件がすべて同一であっても、塗布される液体材料のマイクロアレイヤーなどの径が変化する。湿度が低ければ塗布される液体材料中の水分がより多く蒸発するため、塗布された液体材料の径が意図せず小さくなる恐れがある。このため本実施の形態の塗布装置100を用いて空間102の湿度を高精度に制御することは重要である。
【0059】
また本実施の形態の塗布ユニット4を含む塗布装置100は、工業用途の液体材料に限らず、たとえば細胞を含有するゲル化剤を含む細胞含有液としての液体材料を塗布することもできる。すなわちこの場合、塗布材料容器21内の液体材料は細胞含有液であるため、液体材料中には生存する細胞が多数含まれる。この場合、カバー101の内部の空間102の湿度が低く、塗布された液体材料が容易に乾燥および蒸発すれば、その中に含まれる細胞が生存できなくなる。しかし本実施の形態によれば、カバー101とY軸テーブル2とにより形成される空間102内の湿度を80%以上にすることにより、空間102の乾燥による細胞含有液内での細胞死を防ぐことができる。
【0060】
本実施の形態において、液体材料がゲル化剤を含む細胞含有液である場合に当該液体材料中に使用できる細胞は特に限定されない。ただし当該細胞としてはたとえば、繊維芽細胞、血管内皮細胞、表皮細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、消化管細胞、神経細胞、肝細胞、腎細胞、膵細胞等の各種初代細胞、iPS細胞由来の分化細胞、および各種がん細胞のいずれかを使用できる。しかし当該細胞としては、未修飾の細胞を用いることができる。あるいは当該細胞としては、タンパク質、糖鎖、および核酸のうちのいずれかなどで修飾された細胞を用いることもできる。具体的には、当該修飾された細胞としては、フィブロネクチン、ゼラチン、ラミニン、エラスチン等の一般公知のコーティング剤を用いてコーティングされた細胞を用いることができる。また当該修飾された細胞としては、フィブロネクチン、ゼラチン、ラミニン、エラスチン等を用いた一般公知のコーティング方法を用いてコーティングされた細胞を用いることができる。
【0061】
なお、細胞含有液には、フィブロネクチン、ゼラチン、コラーゲン、ラミニン、エラスチン、マトリゲル等の細胞外マトリックス成分を含ませてもよい。細胞含有液には,線維芽細胞増殖因子または血小板由来成長因子等の細胞増殖因子を含ませてもよい。細胞含有液には、血管内皮細胞、リンパ管内皮細胞、各種幹細胞等の添加剤を含ませてもよい。これらは内包した細胞が安定して接着および増殖できる環境を与えるために細胞含有液に含められる。また細胞含有液には、ゲル化剤としてフィブリノゲン、アルギン酸、感熱応答性高分子等が含まれてもよい。
【0062】
上記の塗布装置100において、塗布ユニット4は加工対象材としての基板5に液体材料を塗布により供給可能な塗布針24を含む。塗布針24を用いた塗布方式は、インクジェット方式またはディスペンサ方式に比べて塗布される液体材料の径が微小になる。微小な塗布量であれば塗布液がより乾燥しやすくなる。このため本実施の形態の湿度制御装置103を備えた塗布装置100は、塗布針24を用いた塗布方式の装置に対して特に有効となる。
【0063】
上記の塗布装置100において、流入口107は、Z方向について、塗布ユニット4から見てY軸テーブル2と反対側である上方に配置される。これにより、流入口107から加湿された気体が空間102内にて下方に降りることで、当該気体を適度に塗布ユニット4の塗布位置などの所望の位置に供給できる。
【0064】
上記の塗布装置100において、カバー101には空間102内の気体を空間102の外側に排気可能な排気口109が形成される。第2方向であるたとえばY方向について、塗布ユニット4は、流入口107および排気口109を結ぶ直線LIから離れた位置に配置される。
【0065】
空間102内の加湿が重要ではあるが、塗布ユニット4に直接大量の加湿気体を当てることは好ましくない場合がある。当該気体中の水分が液体材料中に含まれ、塗布された液体材料中の溶媒濃度が変化する恐れがあるためである。また当該気体中の水分が塗布針24の表面に付着することにより塗布針24が結露したり錆びたりする恐れがあるためである。そこで上記の構成とすれば、流入口107と排気口109とに挟まれる領域には塗布ユニット4が配置されない構成となる。このため流入口107からの加湿気体が大量に流れる流路に塗布ユニット4が配置されることによる、塗布ユニット4の加湿気体の大量暴露を回避できる。これにより上記の液体材料の溶媒濃度変化、塗布針24の結露および錆びなどの問題を回避できる。
【0066】
上記の塗布装置100において、カバー101は、壁部として第3方向であるX方向の端部に配置される1対の壁面101A,101Bを有する。流入口107は1対の壁面101A,101Bのうち一方の壁面101Bに形成されている。排気口109は1対の壁面101A,101Bのうち他方の壁面101Aに形成されている。このようにすれば、たとえば塗布ユニット4がX方向について空間102の中央に配置される場合に、塗布ユニット4と流入口107および排気口109との(X方向の)距離をより大きくすることができる。このため流入口107からからの加湿気体が大量に流れる流路に塗布ユニット4が配置されることによる、塗布ユニット4の加湿気体の大量暴露を回避できる。これにより上記の液体材料の溶媒濃度変化、塗布針24の結露および錆びなどの問題を回避できる。
【0067】
上記の塗布装置100において、流入口107と排気口109とは第2方向であるY方向について同一の位置を含むように形成される。これにより、第2方向において塗布ユニット4が、流入口107と排気口109とを結ぶ直線から離れた距離の位置に配置される可能性が高くなる。このため流入口107からからの加湿気体が大量に流れる流路に塗布ユニット4が配置されることによる、塗布ユニット4の加湿気体の大量暴露を回避できる。これにより上記の液体材料の溶媒濃度変化、塗布針24の結露および錆びなどの問題を回避できる。
【0068】
上記の塗布装置100において、流入口107と排気口109とは第1方向であるZ方向について、Y軸テーブル2と反対側すなわち上側の塗布ユニット4の端部すなわち上端部4aから見て互いに反対側に形成される。このように流入口107は塗布ユニット4の上端部4aの上側に、排気口109は塗布ユニット4の上端部4aの下側に形成されることで、空間102内に気体をくまなく供給することができる。これにより、カバー101内部の各領域間の湿度の偏りを抑制することができ、カバー101内の空間102の湿度をその全体においてほぼ均一とすることができる。これにより、塗布ユニット4の周辺における湿度の制御精度をより向上できる。またその結果、液体材料の塗布精度をより向上できる。
【0069】
上記の塗布装置100において、第2方向であるY方向および第3方向であるX方向の少なくともいずれかについて互いに対向するようにカバー101に配置される1対のファン111をさらに備える。このため、空間102に供給された加湿気体はファン111A,111Bにより撹拌されながらカバー101の中央に向けて送風される。これにより流入口107からからの加湿気体が大量に流れる流路に塗布ユニット4が配置されることによる、塗布ユニット4の加湿気体の大量暴露を回避できる。これにより上記の液体材料の溶媒濃度変化、塗布針24の結露および錆びなどの問題を回避できる。またこれにより、カバー101内部の各領域間の湿度の偏りを抑制することができ、カバー101内の空間102の湿度をその全体においてほぼ均一とすることができる。
【0070】
その他、上記の塗布装置100の湿度制御装置103においてたとえば超音波振動発生装置と、超音波振動による粒子径が5μm以下の微小水滴の発生部とを有することが考えられる。この場合に、微小水滴が蒸発する前に塗布ユニット4に付着すれば発錆などの原因となる。しかし上記のファン111を有する構成を用いれば、カバー101内部の湿度を高湿度領域まで、応答性よく制御可能である。ファン111による気体の撹拌により、湿潤気体が迅速に拡散するためである。その結果、作業性を向上させることができる。
【0071】
上記の塗布装置100において、1対のファン111は、第1方向であるZ方向について、流入口107よりもY軸テーブル2側すなわち下側に配置される。流入口107から空間102に入った加湿気体は下降し、下降したところでファン111によりその流れが制御され、たとえば図4のY方向後方から前方へ流れる。これにより、下降した気体が過剰にならない程度に適量だけ塗布ユニット4側に流れるよう制御できる。したがって、塗布ユニット4に適度な湿度を供給しつつ、その過剰な供給による不具合を抑制できる。
【0072】
上記の塗布装置100においては、1対のファン111は、包囲部111Dと、包囲部111Dをカバー101に取り付ける4本の脚部111Eとを含む。4本の脚部111Eは包囲部111Dの主表面から、主表面に交差する方向に延びる。このような構造を有するため、ファン111の包囲部111Dの主表面と、これが取り付けられるカバー101の内壁面との隙間部分に、供給された加湿気体が流れやすくなる。これにより、加湿気体が一部の領域に滞留することによる当該一部の領域での結露などの不具合を抑制できる。
【0073】
上記の塗布装置100においては、塗布ユニット4と流入口107との間の位置に衝立部117をさらに備える。衝立部117により、流入口107から塗布ユニット4へ向かう加湿気体の一部が遮られる。このため流入口107からの加湿気体が大量に流れる流路に塗布ユニット4が配置されることによる、塗布ユニット4の加湿気体の大量暴露を回避できる。これにより上記の液体材料の溶媒濃度変化、塗布針24の結露および錆びなどの問題を回避できる。
【0074】
以上に述べた本実施の形態の各例の塗布装置100は除湿機構をさらに備えてもよい。これにより空間102内の湿度の過剰な上昇、およびこれに起因する塗布ユニット4の結露などの不具合を抑制できる。
【0075】
また上記各例の塗布装置100は、カバー101の内壁面101C,101D,101G,101Hに設けられたファン111の送風量が、湿度センサ113により測定された湿度の出力値に基づいて制御される構成であってもよい。
【0076】
さらに、上記各例の塗布装置100においてカバー101内に供給される気体は、湿度のみならず温度も調節された気体であってもよい。その場合には空間102には湿度センサ113に加えて温度センサが設けられることが好ましい。
【実施例1】
【0077】
上記の塗布装置100のカバー101内の空間102の湿度を、湿度制御装置103により45%から60%まで上昇させ、その後80%まで上昇させたときの空間102の湿度変化を調べた。図11は、実施例1におけるカバー内の湿度の時間変化を測定した結果を示すグラフである。図11の横軸はカバー101内の加湿工程の開始からの経過時間を示す。図11の縦軸はカバー101内の湿度の測定結果を示す。図11を参照して、空間102の湿度を45%から60%まで上昇させるのに約4分を要した。また空間102の湿度を60%から80%まで上昇させるのに約4分を要した。以上より、塗布装置100によれば非常に短時間で空間102の湿度を上昇させることができた。つまり塗布装置100を用いれば作業効率が高められるといえる。
【実施例2】
【0078】
塗布装置100における空間102の湿度を変化させたときの、塗布針24から塗布される液体材料のパターンの平面視における塗布径を測定した。使用した塗布針24の先端部の断面の円形の直径は0.8mmであり、塗布回数は1回とした。塗布針24の塗布材料容器21内での待機時間は1020msであり、塗布針24の下降後の待機時間はなしとした。また塗布された液体材料は2.5mg/mLのヒアルロン酸溶液とした。各回での液体材料が塗布される高さ(厚み)は同一となるようにした。なお同一の湿度条件にて同一の試験を5回ずつ行ない、各回での測定結果を以下のグラフに示した。
【0079】
図12は、実施例2における各湿度の環境下での塗布径の測定結果を示すグラフである。図12の横軸は空間102の湿度を示す。図12の縦軸は各湿度の条件下で塗布された液体材料の塗布径の測定結果を示す。なお湿度が20%、40%、60%、80%の4種類の湿度環境下で試験を行なった。図12を参照して、湿度の上昇に伴い塗布径が大きくなる傾向がみられた。湿度が20%から80%に変化することで塗布径は40μm程度増加した。一方で、同一の湿度下で塗布されたもの同士の間では塗布径の差は小さい。いずれの湿度においても塗布径の差は10μm以下であった。またグラフには示されないが、塗布液が乾燥するまでの所要時間は、湿度の上昇に伴い延長する傾向がみられた。
【0080】
以上より、湿度制御装置103を有する塗布装置100により湿度を制御しながら塗布すれば、ゲル剤などの含水率の高い液体材料を、途中で塗布条件を変更することなく、一定の塗布径でばらつきなく塗布できるといえる。また湿度が変われば他の条件が同じであっても塗布径が大きく変わるため、湿度制御装置103を用いた湿度の制御は重要であるといえる。
【0081】
図12において湿度の上昇に伴い塗布径が大きくなった。これは塗布針24の先端に付着する液体材料の量の変化による。つまり低湿度下では液体材料に含まれる水分が多く蒸発したため塗布径が小さくなった。高湿度下では液体材料に含まれる水分の蒸発が押さえられたため塗布径が大きくなった。また塗布液に含まれる水分が多く蒸発すれば塗布液の濃度および粘度が高くなるため、塗布条件により大きな変化をもたらす。このような変化によりパターンのばらつきなどの大きな影響が及ぶ。そこで湿度制御装置103を用いた湿度の制御により所望の塗布径のパターンを安定に塗布することができるといえる。
【0082】
また液体材料がゲル化剤を含む細胞含有液である場合、図12において空間102の湿度が80%である例においては、塗布径を大きくできるばかりでなく、液体材料中に含まれる細胞が生存している状態を維持させることができる。
【0083】
以上に述べた実施の形態に含まれる各例に記載した特徴を、技術的に矛盾のない範囲で適宜組み合わせるように適用してもよい。
【0084】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0085】
1 X軸テーブル、2 Y軸テーブル、3 Z軸テーブル、4 塗布ユニット、4a 上端部、5 基板、6 観察光学系、7 CCDカメラ、8 操作パネル、9 モニタ、10 制御用コンピュータ、20 塗布針ホルダ、21 塗布材料容器、24 塗布針、41 サーボモータ、43 カム、44 軸受、45 カム連結板、46 可動部、47 塗布針ホルダ固定部、48 塗布針ホルダ収納部、49 リニアガイド、50 バネ、51,52 固定ピン、61 カム面、62 上端フラット領域、63 下端フラット領域、100 塗布装置、101 カバー、101A,101B,101E,101F 壁面、101C,101D,101G,101H 内壁面、102 空間、103 湿度制御装置、105 気体流通路、107 流入口、109 排気口、111,111A,111B ファン、111C 回転、111D 包囲部、111E 脚部、113 湿度センサ、115 土台部、117 衝立部、119 衝立部材。
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図12