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  • 特許-粉体の成形体、及び、フィラー粉体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】粉体の成形体、及び、フィラー粉体
(51)【国際特許分類】
   C01G 23/04 20060101AFI20231206BHJP
   C04B 35/46 20060101ALI20231206BHJP
   C01B 33/12 20060101ALI20231206BHJP
   H01L 33/56 20100101ALN20231206BHJP
【FI】
C01G23/04 Z
C04B35/46
C01B33/12 A
H01L33/56
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019130447
(22)【出願日】2019-07-12
(65)【公開番号】P2021014386
(43)【公開日】2021-02-12
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【弁理士】
【氏名又は名称】三上 敬史
(72)【発明者】
【氏名】土居 篤典
(72)【発明者】
【氏名】島野 哲
【審査官】大西 美和
(56)【参考文献】
【文献】特公昭47-047961(JP,B1)
【文献】米国特許第06066585(US,A)
【文献】特開2012-056835(JP,A)
【文献】特開2000-095541(JP,A)
【文献】ISOBE, Toshihiro et al.,Preparation and properties of negative thermal expansion Zr2WP2O12 ceramics,Materials Research Bulletin,2009年11月
【文献】SHANG, Rui et al.,Effect of MgO and PVA on the Synthesis and Properties of Negative Thermal Expansion Ceramics of Zr2(WO4)(PO4)2,International Journal of Applied Ceramic Technology,2013年09月,Vol.10, No.5,p.849-856
【文献】CHEN, J. et al.,Applied Physics Letters,2006年,89,101914,10.1063/1.2347279
【文献】VIOLINI, M. A. et al.,Ceramics International,44(17),2018年,pp.21470-21477
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G1/00-23/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の要件1~要件3を満たす、粉体の成形体。
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で前記粉体の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
要件2:前記粉体が少なくとも一つの金属元素又は半金属元素を含み、前記少なくとも一つの金属元素又は半金属元素は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc、Ti,V,Cr,Mn、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Tc、Ag,Cd,In,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Au,Hg,Tl,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho、Er,Tm,Yb,及び、Luからなる群から選択される元素のみからなり、前記粉体はチタンを含む金属酸化物粉である。ただし、前記チタンを含む金属酸化物粉が、B、C、P、As、Se、Bi、Po、又は、Atを含む場合を除く。
要件3:前記成形体の-200℃~1200℃における熱線膨張係数が少なくとも一つの温度で負となる。
【請求項2】
前記チタンを含有する金属酸化物粉が、TiO(x=1.30~1.66)粉である請求項1に記載の成形体。
【請求項3】
放熱部材、機械部材、容器、光学部材、電子デバイス用部材、又は、接着剤である、請求項1又は2に記載の成形体。
【請求項4】
以下の要件1、要件2、及び、要件4を満たす、フィラー粉体。
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で前記フィラー粉体の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記フィラー粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記フィラー粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記フィラー粉体のX線回折測定から得られる。
要件2:前記フィラー粉体が少なくとも一つの金属元素又は半金属元素を含み、前記少なくとも一つの金属元素又は半金属元素は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc、Ti,V,Cr,Mn、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Tc、Ag,Cd,In,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Au,Hg,Tl,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho、Er,Tm,Yb,及び、Luからなる群から選択される元素のみからなり、前記フィラー粉体はチタンを含む金属酸化物粉である。ただし、前記チタンを含む金属酸化物粉が、B、C、P、As、Se、Bi、Po、又は、Atを含む場合を除く。
要件4:88重量部の前記フィラー粉体及び12重量部の珪酸ナトリウムを含む固体組成物における25~320℃における熱線膨張係数が少なくとも一つの温度で負となる。
【請求項5】
前記チタンを含有する金属酸化物粉が、TiO(x=1.30~1.66)粉である請求項4に記載のフィラー粉体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粉体の成形体、及び、フィラー粉体に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1において、負の熱線膨張係数を示す材料であるリン酸タングステンジルコニウムを添加剤として用いることにより、樹脂を含む組成物の熱線膨張係数を低減し、所望の熱線膨張係数に制御する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018―2577
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1で開示されている材料自体の負の熱線膨張係数は-3ppm/℃程度であり、他の固体と混合した部材を作成しても、必ずしも十分に熱線膨張係数を低減できるわけではない。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、熱線膨張係数の十分に低い成形体、及び、固体組成物の熱線膨張係数を低くできるフィラー粉体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、種々検討した結果、本発明に至った。すなわち本発明は、下記の発明を提供するものである。
【0007】
本発明にかかる粉体の成形体は、以下の要件1~要件3を満たす。
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で前記粉体の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
【0008】
要件2:前記粉体が少なくとも一つの金属元素又は半金属元素を含み、前記少なくとも一つの金属元素又は半金属元素は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc、Ti,V,Cr,Mn、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Tc、Ag,Cd,In,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Au,Hg,Tl,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho、Er,Tm,Yb,及び、Luからなる群から選択される元素のみからなる。
【0009】
要件3:前記成形体の-200℃~1200℃における熱線膨張係数が少なくとも一つの温度で負となる。
【0010】
ここで、前記粉体が、金属酸化物粉であることができる。
【0011】
また、前記金属酸化物粉が、d電子を有する金属を含むことができる。
【0012】
また、前記金属酸化物粉が、チタンを含有する金属酸化物粉であることができる。
【0013】
前記チタンを含有する金属酸化物粉が、TiO(x=1.30~1.66)粉であることができる。
【0014】
また、上記の粉末の成形体は、放熱部材、機械部材、容器、光学部材、電子デバイス用部材、又は、接着剤であることができる。
【0015】
本発明にかかるフィラー粉体は、以下の要件1、要件2、及び、要件4を満たす。
【0016】
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で前記フィラー粉体の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
【0017】
要件2:前記フィラー粉体が少なくとも一つの金属元素又は半金属元素を含み、前記少なくとも一つの金属元素又は半金属元素は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc、Ti,V,Cr,Mn、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Tc、Ag,Cd,In,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Au,Hg,Tl,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho、Er,Tm,Yb,及び、Luからなる群から選択される元素のみからなる。
【0018】
要件4:88重量部の前記フィラー粉体及び12重量部の珪酸ナトリウムを含む固体組成物における25~320℃における熱線膨張係数が少なくとも一つの温度で負となる。
【0019】
上記のフィラー粉体は、金属酸化物粉であることができる。
【0020】
上記の金属酸化物粉は、d電子を有する金属酸化物粉であることができる。
【0021】
上記の金属酸化物粉は、チタンを含有する金属酸化物粉であることができる。
【0022】
上記のチタンを含有する金属酸化物粉は、TiO(x=1.30~1.66)粉であることができる。
【0023】
本明細書は、さらに、上記の要件1,要件2,及び要件4を満たす粉体の、固体材料中のフィラーとしての使用を開示する。
【0024】
本明細書は、さらに、上記の要件1,要件2,及び要件4を満たす粉体を、固体材料中に含有させる工程を備える、固体材料の熱線膨張係数の制御方法を開示する。
【0025】
本明細書は、固体組成物を製造する方法であって、上記要件1,要件2,及び要件4を満たす粉体と、固体材料の原料(前駆体)と、を混合して混合物を得る工程と、前記混合物中の前駆体を固体材料に転化する工程と、を備える、方法を開示する。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、熱線膨張係数の十分に低い成形体、及び、固体組成物の熱線膨張係数を低くできるフィラー粉体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施例1のフィラー粉体のa軸長/c軸長の温度変化すなわちA(T)を示すグラフである。
図2図2は、実施例3の寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)の温度依存性のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
<第1実施形態:粉体の成形体>
本実施形態にかかる粉体の成形体は、以下の要件1~要件3を満たす。
【0029】
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で前記粉体の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
【0030】
要件2:前記粉体が少なくとも一つの金属元素又は半金属元素を含み、前記少なくとも一つの金属元素又は半金属元素は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc、Ti,V,Cr,Mn、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Tc、Ag,Cd,In,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Au,Hg,Tl,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho、Er,Tm,Yb,及び、Luからなる群から選択される元素のみからなる。
【0031】
要件3:前記成形体の-200℃~1200℃における熱線膨張係数が少なくとも一つの温度で負となる。
【0032】
まず、要件1について詳しく説明する。
Aの定義における格子定数は、粉末X線回折測定により特定される。解析法としてはRietveld法や、最小二乗法によるフィッティングによる解析がある。
【0033】
本明細書においては、粉末X線回折測定により特定された結晶構造において、最も小さい格子定数に対応する軸をa軸、最も大きい格子定数に対応する軸をc軸とする。結晶格子のa軸の長さとc軸の長さを、それぞれ、a軸長、c軸長とする。
【0034】
A(T)は、結晶軸の長さの異方性の大きさを示すパラメータであり、温度T(単位は℃)の関数である。A(T)の値が大きいほど、a軸長がc軸長に対して大きく、Aの値が小さいほど、a軸長はc軸長に対して小さい。
【0035】
ここで、|dA(T)/dT|は、dA(T)/dTの絶対値を表し、dA(T)/dTは、A(T)のT(温度)による微分を表す。
ここで、本明細書においては、|dA(T)/dT|は、以下の式により定義される。
|dA(T)/dT|=|A(T+50)-A(T)|/50 …(D)
【0036】
上述のように、本実施形態にかかる粉体は、-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たすことが必要である。ただし、|dA(T)/dT|は、粉体が固体状態で存在する範囲内で定義される。したがって、(D)式におけるTの最高温度は、粉体の融点よりも50℃低い温度までである。すなわち、「-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1」の限定が付された場合、(D)式におけるTの温度範囲は-200~1150℃となる。
【0037】
-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|が20ppm/℃以上であることが好ましく、30ppm/℃以上であることがより好ましい。|dA(T)/dT|の上限は、1000ppm/℃以下であることが好ましく、500ppm/℃以下であることがより好ましい。
【0038】
少なくとも一つの温度T1で|dA(T)/dT|の値が10ppm/℃以上であることは、温度変化に伴う結晶構造の異方性の変化が大きいことを意味する。
【0039】
少なくとも一つの温度T1において、dA(T)/dTは正でも負でもよいが、負であることが好適である。
【0040】
粉体中の結晶の種類によっては、或る温度範囲で構造相転移により結晶構造が変化する物が有る。本明細書においては、或る温度における結晶構造において、結晶格子定数が最も大きい軸をc軸、結晶格子定数が最も小さい軸をa軸とする。三斜晶系、単斜晶系、直方晶系、正方晶系、六方晶系、菱面体晶系いずれの晶系においても、a軸、c軸については上記の定義とする。
【0041】
次に、要件2について説明する。
粉体は、少なくとも一つの金属元素又は半金属元素を含み、当該少なくとも一つの金属元素又は半金属元素は、上述の群から選択される元素のみからなる。すなわち、粉体は、当該群から選択される元素以外の金属元素又は半金属元素を含まない。
【0042】
粉体は、酸化物粉であることが好ましい。酸化物粉は、上記群から選択される一つの種類の金属元素又は半金属元素の酸化物粉であってもよいが、上記群から選択される複数の元素の組み合わせを含有する、いわゆる、複合酸化物粉であってもよい。
【0043】
粉体は、上記群中の少なくとも一つの金属元素を含む金属酸化物であることが好ましい。上記群中の金属元素とは、上記群から、半金属元素であるSi,Ge,Sb,Teを除いた、Li,Na,Mg,Al,K,Ca,Sc、Ti,V,Cr,Mn、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Tc、Ag,Cd,In,Sn,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Au,Hg,Tl,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho、Er,Tm,Yb,及び、Luである。
【0044】
粉体は、上記群中の金属元素の中でもd電子を有する金属元素を含む金属酸化物であることが好ましい。d電子を有する金属元素としては、特に限定はされないが、例えば、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuからなる群から選択される第4周期の金属元素;Y、Zr、Nb、Moからなる群から選択される第5周期の金属元素;及び、Hf、Ta、及び、Wからなる群から選択される第6周期の金属元素が挙げられる。
【0045】
上記の中でも、粉体は、上記の第4周期又は上記の第5周期の金属元素を含有する金属酸化物粉であることが好ましく、上記の第4周期の金属元素を含む金属酸化物粉であることがより好ましい。第4周期の金属元素は、d電子のうち3d電子のみを有する金属元素である。特に、3d電子の占有状態の観点から、第4周期の金属元素の中でも、Ti、V、Cr、Mn及びCoからなる群から選択される少なくとも一つの金属元素を含む金属酸化物粉であることが好ましい。中でも、資源性の観点から、チタンを含む金属酸化物粉であることが好ましい。
【0046】
チタンを含有する金属酸化物粉は、組成式としてTiO(x=1.30~1.66)で表される粉体であることが好ましく、TiO(x=1.40~1.60)という組成式で表される粉体であることがさらに好ましい。TiOにおいて、Ti原子の一部が他の元素で置換されていてもよい。
【0047】
なお、チタンを含有する金属酸化物粉は、TiO粉以外に、LaTiOのようなチタン及びチタン以外の金属原子を含む酸化物粉であってもよい。
【0048】
粉体を構成する粒子の結晶構造としては、ペロブスカイト構造またはコランダム構造を有することが好ましく、コランダム構造を有することがより好ましい。
【0049】
結晶系としては特に限定はされないが、菱面体晶系であることが好ましい。空間群としては、R-3cに帰属されることが好ましい。
【0050】
粉体がd電子を有する金属を含有する金属酸化物粉である場合、-100℃~1000℃における|dA(T)/dT|が、少なくとも一つの温度で10ppm/℃以上であることが好適である。
【0051】
粉体がd電子のうち3d電子のみを有する金属を含有する金属酸化物粉である場合、-100℃~800℃における|dA(T)/dT|が、少なくとも一つの温度で10ppm/℃以上であることが好適である。
【0052】
粉体がTiO(x=1.30~1.66)である場合、0℃~500℃における|dA(T)/dT|が、少なくとも一つの温度で10ppm/℃以上であることが好適である。
【0053】
粉体の粒径は特に限定されないが、レーザー回折式の粒度分布測定における体積基準の粒度分布におけるD50が0.5~100μm程度であることができる。
【0054】
次に、要件3について説明する。本実施形態にかかる成形体は、上記の粉体の成形体である。本実施形態における成形体は、粉体の焼結により得られる焼結体であってよい。
【0055】
通常、要件1を満たす粉体を焼結することにより成形体を得る。この場合、粉体の結晶構造が維持される温度範囲で焼結を行うことが好適である。
【0056】
焼結体を得るためには公知の種々の焼結方法を適用できる。焼結体を得る方法としては、通常の加熱、ホットプレス、放電プラズマ焼結などの方法が採用できる。
【0057】
放電プラズマ焼結は、粉体を加圧および加熱しながら、粉体にパルス状の電流を通電させることにより焼結体を得る方法である。
【0058】
プラズマ焼結は、得られる化合物が空気と触れて変質することを防止するために、アルゴン、窒素、真空などの不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0059】
プラズマ焼結における加圧圧力は、0MPaを超え100MPa以下の範囲が好ましい。プラズマ焼結における加圧圧力は10MPa以上であることが好ましく、30MPa以上であることがより好ましい。
【0060】
プラズマ焼結の加熱温度は、粉体の融点よりも十分に低いことが好ましい。
【0061】
なお、本実施形態にかかる成形体は、焼結体に限られず、例えば、粉体の加圧成形により得られた圧粉体であってもよい。
【0062】
上述のように、粉体の成形体の-200℃~1200℃における熱線膨張係数は少なくとも一つの温度T2で負となる。温度T2での負の値は0未満であればよいが、-5ppm/℃以下であることが好ましく、-10ppm/℃以下であることがより好ましい。負の値に、特段の下限はないが、例えば、-4000ppm/℃以上であってもよい。成形体の熱線膨張係数は、30~200℃で負となることが好適である。
【0063】
本実施形態に係る粉体の成形体によれば、熱膨張の少ない部材を提供することができ、温度変化した際の部材の寸法変化を極めて小さくできる。したがって、温度による寸法変化に特に敏感な装置に用いられる種々の部材に好適に利用できる。
【0064】
また、この粉体の成形体を正の熱線膨張係数を有する他の材料と組み合わせることにより、部材全体としての熱線膨張係数を低く制御することができる。例えば、棒材の長さ方向の一部に本実施形態の粉体の成形体を用い、他の部分に正の熱線膨張係数を有する材料の部材を用いると、棒材の長さ方向の熱線膨張係数を、2つの材料の存在割合に応じて自在に制御することができる。例えば、実質的に棒材の長さ方向の熱膨張をゼロとすることも可能である。
【0065】
(第2実施形態:フィラー粉体)
次に、本発明の第2実施形態に係るフィラー粉体について説明する。
【0066】
本実施形態に係るフィラー粉体は、以下の要件1、要件2、及び、要件4を満たす。
【0067】
要件1:-200℃~1200℃における少なくとも一つの温度T1で前記フィラー粉体の|dA(T)/dT|が10ppm/℃以上を満たす。
Aは(前記粉体中の結晶のa軸(短軸)の格子定数)/(前記粉体中の結晶のc軸(長軸)の格子定数)であり、各前記格子定数は前記粉体のX線回折測定から得られる。
【0068】
要件2:前記フィラー粉体が少なくとも一つの金属元素又は半金属元素を含み、前記少なくとも一つの金属元素又は半金属元素は、Li,Na,Mg,Al,Si,K,Ca,Sc、Ti,V,Cr,Mn、Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Ga,Ge,Rb,Sr,Y,Zr,Nb,Mo,Tc、Ag,Cd,In,Sn,Sb,Te,Cs,Ba,Hf,Ta,W,Re,Au,Hg,Tl,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho、Er,Tm,Yb,及び、Luからなる群から選択される元素のみからなる。
【0069】
要件4:88重量部の前記フィラー粉体及び12重量部の珪酸ナトリウムを含む固体組成物における25~320℃における熱線膨張係数が少なくとも一つの温度で負となる。
【0070】
要件1、及び、要件2は、第1実施形態と同じであるので詳しい説明は省略する。
【0071】
要件4は、フィラー粉体及び珪酸ナトリウムを所定の濃度で含有する基準固体組成物を作成したときに、その基準固体組成物の熱線膨張係数が少なくとも一つの温度で負となることを意味する。負の値は0未満であればよいが、-3ppm/℃以下であることが好ましく、-10ppm/℃以下であることがより好ましい。負の値に、特段の下限はないが、例えば、-300ppm/℃以上であってもよい。基準固体組成物の熱線膨張係数は、30~200℃で負となることが好適である。
【0072】
基準固体組成物は、具体的には、以下の方法で製造することが好ましい。
フィラー粉体、及び、珪酸ナトリウム水溶液の混合物を調製する。混合物において、フィラー粉体88重量部に対する珪酸ナトリウム(固体分)の量が12重量部となるように重量比を調製する。混合物における水の量は特に限定されないが、混合物における固形分濃度(珪酸ナトリウム+フィラー粉体)が83重量%程度となるように調製することが好適である。
得られた混合物をポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に入れ、以下の硬化プロファイルで硬化させる。
80℃まで15分で昇温、80℃で20分保持、その後、150℃まで20分で昇温、150℃で60分保持する。さらに、その後320℃まで昇温させ10分保持し、降温する処理を行い、基準固体組成物を得る。
【0073】
フィラー粉体の粒径は特に限定されないが、レーザー回折式の粒度分布測定における体積基準の粒度分布におけるD50が0.5~100μm程度であることができる。
【0074】
上述の要件を満たすフィラー粉体を、他の固体材料中に添加すると、他の固体材料(第一の材料)と、上述のフィラー粉体と、を含む固体組成物が得られる。上述のフィラー粉体を用いると固体組成物の熱線膨張係数を、フィラー添加前の固体材料に比べて大きく低下させることができる。
【0075】
[他の固体材料(第一の材料)]
第一の材料としては、特に限定はされないが、樹脂、アルカリ金属珪酸塩、セラミックス、金属などを挙げることができる。第一の材料は、上記のフィラー粉体同士を結合させるバインダ材料、又は、上記の粉体を分散状態で保持するマトリクス材料であることができる。
【0076】
樹脂の例は、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂である。
【0077】
熱硬化性樹脂の例は、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂(ノボラック樹脂、レゾール樹脂など)、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、及びメラミン樹脂等である。
【0078】
熱可塑性樹脂の例は、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ABS樹脂、ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6,6など)、ポリアミドイミド、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート)、液晶性樹脂、ポリフェニレンエーテル、ポリアセタール、ポリカーボネート、ポリフェニレンサルファイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルフォン、ポリケトン、ポリスチレン、及びポリエーテルエーテルケトンである。
【0079】
第一の材料は、上記樹脂を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
【0080】
耐熱性を高くできる観点から、第一の材料は、エポキシ樹脂、ポリエーテルサルフォン、液晶ポリマー、ポリイミド、ポリアミドイミド、シリコーンであることが好ましい。
【0081】
アルカリ金属珪酸塩としては、ケイ酸リチウム、ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウムが挙げられる。第一の材料は、アルカリ金属珪酸塩を1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。これらの材料は耐熱性が高いので好ましい。
【0082】
セラミックスとしては、特に限定はされないが、アルミナ、シリカ(珪素酸化物、シリカガラスを含む)、チタニア、ジルコニア、マグネシア、セリア、イットリア、酸化亜鉛、酸化鉄等の酸化物系セラミックス;窒化ケイ素、窒化チタン、窒化ホウ素等の窒化物系セラミックス;シリコンカーバイド、炭酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、チタン酸カリウム、タルク、カオリンクレー、カオリナイト、ハロイサイト、パイロフィライト、モンモリロナイト、セリサイト、マイカ、アメサイト、ベントナイト、アスベスト、ゼオライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ藻土、ケイ砂等のセラミックスが挙げられる。第一の材料は、セラミックスを1種含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
セラミックスは、耐熱性を高くできるので好ましい。放電プラズマ焼結などによって焼結体を作ることができる。
【0083】
金属としては特に限定はされないが、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、モリブデン、鉄、ニッケル、コバルト、クロム、銅、銀、金、プラチナ、鉛、錫、タングステン、等の金属単体、ステンレス鋼(SUS)等の合金、及びこれらの混合物を挙げることができる。第一の材料は、金属を1種含んでいてもよく2種以上含んでいてもよい。このような金属は、耐熱性を高くできるので好ましい。
【0084】
[その他の成分]
固体組成物は、第一の材料及び粉体以外のその他の成分を含んでいてもよい。例えば、触媒が挙げられる。触媒としては、特に限定はされないが、酸性化合物、アルカリ性化合物、有機金属化合物などが挙げられる。酸性化合物としては、塩酸、硫酸、硝酸、燐酸、燐酸、蟻酸、酢酸、蓚酸等の酸を用いることができる。アルカリ性化合物としては、水酸化アンモニウム、水酸化テトラメチルアンモニウム、水酸化テトラエチルアンモニウム等を用いることができる。有機金属化合物触媒としては、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、チタン、亜鉛を含むもの等が挙げられる。
【0085】
[各成分の重量比]
固体組成物中のフィラー粉体の含有量は、通常、3重量%以上、95重量%以下であり、5重量%以上、95重量%以下含有されていることが好ましい。この含有量であることで、熱線膨張係数の低減効果が現れる。より好ましくは10重量%以上、さらに好ましくは40重量%以上、であり70重量%以上がさらに好ましい。
【0086】
固体組成物中の第一の材料の含有量は、通常、1重量%以上、99重量%以下であり、5重量%以上、95重量%以下含有されていることが好ましい。より好ましくは10重量%以上、80重量%以下である。
【0087】
<固体組成物の製造方法>
【0088】
固体組成物の製造方法は特に制限されない。
【0089】
例えば、フィラー粉体と、第一の材料の原料とを混合して混合物を得た後、混合物中の第一の材料の原料を第一の材料に転化することにより、フィラー粉体と第一材料とを複合化した固体組成物を製造することができる。
【0090】
例えば、第一の材料が樹脂又はアルカリ金属珪酸塩の場合には、溶媒と、樹脂またはアルカリ金属珪酸塩と、フィラー粉体と、を含む混合物を調製し、混合物から溶媒を除去することにより、フィラー粉体と第一の材料とを含む固体組成物を得ることができる。溶媒の除去方法は、自然乾燥、真空乾燥、加熱などにより溶媒を蒸発させる方法を適用できる。粗大な気泡の発生を抑制する観点から、溶媒を除去する際には、混合物の温度を溶媒の沸点以下に維持しつつ溶媒を除去することが好適である。
【0091】
第一の材料が樹脂の場合の溶媒は例えば、アルコール溶媒、エーテル溶媒、ケトン溶媒、グリコール溶媒、炭化水素溶媒、非プロトン性極性溶媒などの有機溶媒、水である。また、アルカリ金属珪酸塩の場合の溶媒は例えば水である。
【0092】
また、樹脂が、硬化性樹脂である場合には、溶媒の除去後に、混合物中の樹脂の架橋処理を行うことが好ましい。具体的には、溶媒が除去された混合物を、溶媒の沸点以上に加熱すること、又は、溶媒が除去された混合物に紫外線等のエネルギー線の照射等を行えばよい。また、アルカリ金属珪酸塩の場合には、溶媒の除去後に、更に加熱することにより硬化処理を行ってもよい。
【0093】
また、第一の材料がセラミックス又は金属の場合には、第一の材料の原料粉と、粉体との混合物を調製し、混合物を熱処理して第一の材料の原料粉を焼結することにより、焼結体としての第一の材料と、粉体と、を含む固体組成物が得られる。必要に応じて、アニーリング等の熱処理により、固体組成物の細孔の調整を行うことができる。焼結方法としては、通常の加熱、ホットプレス、放電プラズマ焼結などの方法が採用できる。
【0094】
なお、基板上に混合物を塗布し、その後、溶媒の除去又は焼結を行うと、シート状の固体組成物を得ることができる。また、型内に混合物を供給し、その後溶媒の除去/焼結を行うと、型の形状に対応した任意の形状の固体組成物を得ることができる。
【0095】
さらに、得られた固体組成物の熱処理によって、細孔の大きさや分布などの調整を行うことができる。
【0096】
続いて、上記の粉体の成形体及び粉体フィラーを含む固体組成物の具体的な使用形態について説明する。
上記実施形態にかかる粉体の成形体及び粉体フィラーを含む固体組成物は、機械部材、容器、光学部材、電子デバイス用部材、接着剤であることができる。
【0097】
[機械部材]
機械部材とは、種々の機械装置を構成する部材である。機械装置の例は、切削装置などの工作機械、プロセス機器、半導体製造装置である。機械部材の例は、固定機構、移動機構、工具などである。上記粉体の成形体、及び、固体組成物を用いた放熱部材によれば、熱膨張による寸法ずれを抑制することができ、工作精度、加工精度などの精度の向上が可能となる。また、異なる材料の部材間の接合部分に用いることも好適である。
【0098】
また、機械部材は回転部材であってもよい。回転部材とは、例えば歯車のように、回転しながら他の部材と力学的な作用を及ぼしあう部材を指す。回転部材においては、熱膨張によって寸法が変化すると、かみ合わせが悪く、摩耗するなどの問題が生じることから、本実施形態の粉体の成形体及び固体組成物を適用するのに好適である。
【0099】
また、機械部材は基板であってもよい。基板においては、熱膨張によって寸法が変化すると、位置ずれを起こすなどの問題が生じることから、本実施形態の粉体の成形体及び固体組成物を適用するのに好適である。
【0100】
[容器]
容器とは、気体、液体、固体などを収容するための部材である。例えば、容器の例は、成形体を作製するための金型である。例えば金型においては、熱膨張によって寸法が変化すると、成形体の寸法精度が保てないなどの問題が生じることから、本実施形態の粉体の成形体及び固体組成物を適用するのに好適である。
【0101】
[光学部材]
光学部材の例は、光ファイバ、光導波路、レンズ、反射鏡、プリズム、光学フィルタ、回折格子、ファイバーグレーティング、波長変換部材である。レンズの例は、光ピックアップレンズ、カメラ用レンズである。光導波路の例は、アレイドウエーブガイドや平面光回路である。
【0102】
光学部材は、温度の変化にともない格子間隔、屈折率、光路長等が変化すると、特性が変動するという問題を有している。上記粉体の成形体、及び、固体組成物を用いた光学部材又は光学部材の固定部材又は支持基材によれば、このような温度に基づく光学部材の特性の変動を小さくすることができる。
【0103】
[電子デバイス用部材]
電子デバイス用部材の例は、封止部材、回路基板、プリプレグ、フィルム状接着剤、導電ペースト、異方性導電フィルム、絶縁シートである。
【0104】
封止部材の例は、半導体素子の封止部材、アンダーフィル部材、3D-LSI用インターチップフィルである。半導体素子の例は、パワートランジスタ、パワーICなどのパワー半導体;LED素子などの発光素子である。上記粉体の成形体、及び、固体組成物を用いた半導体封止部材によれば、熱線膨張係数差による割れを抑制することが可能になる。
【0105】
回路基板は、金属層と、金属層上に設けられた電気絶縁層と、を備えている。電気絶縁層に、上記粉体の成形体、及び、固体組成物を用いることにより、熱線膨張係数を下げ、金属層の熱線膨張係数との差を小さくすることができ、反りや割れといった問題を無くすことが可能である。回路基板の具体例としては、プリント回路基板、多層プリント配線基板、ビルドアップ基板、キャパシタ内蔵基板等が挙げられる。
【0106】
プリプレグは、補強基材と、当該補強基材に含浸させたマトリックス材と、を含有する含浸基材の半硬化物である。プリプレグに本実施形態のフィラー粉体を含有させることにより、硬化後のプリプレグが熱負荷下においても寸法安定性を発揮することが可能である。
【0107】
フィルム状接着剤の例はダイボンディングフィルムである、導電ペーストの例は、回路接続用樹脂ペースト、異方導電性ペーストである。フィルム状接着剤、導電ペースト、及び、異方性導電フィルムに本実施形態のフィラー粉体を含有させることで、接着部材の熱線膨張を下げることができ、異種材料接触部分における、割れや反りの問題を無くすことができる。
【0108】
絶縁シートの例は、ポリ塩化ビニルなどの樹脂シートである。絶縁シートに上記フィラー粉体を添加すると、寸法精度の向上などが図れる。
【0109】
[接着剤]
接着剤の例は、マトリックス材としてのエポキシ、シリコーン樹脂などの熱硬化性樹脂と、上記のフィラー粉体とを含む。接着剤は硬化前は液状であることができる。この接着剤の硬化物は、低い熱線膨張係数を有することができるので、割れを抑制することが可能になる。特に、熱負荷のかかる耐熱接着部材への適用などに好適である。
【実施例
【0110】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明する。
1.粉体の結晶構造解析
結晶構造の解析として、粉末X線回折測定装置SmartLab(リガク社製)を用いて、下記の条件で温度を変えて粉体を粉末X線回折測定し、粉末X線回折図形を得た。得られた図形に基づいて、PDXL2(リガク社製)ソフトウェアを用い、最小二乗法による格子定数の精密化を行い、2つの格子定数、すなわち、a軸長、及び、c軸長を求めた。
測定装置: 粉末X線回折測定装置SmartLab(Rigaku製) X線発生器: CuKα線源 電圧45kV、電流200mA
スリット: スリット幅2mm
スキャンステップ:0.02deg
スキャン範囲:5-80deg
スキャンスピード:10deg/min
X線検出器: 一次元半導体検出器
測定雰囲気: Ar 100mL/min
試料台: 専用のガラス基板SiO
【0111】
2.基準固体組成物及び成形体の熱線膨張係数の測定
測定装置:Thermo plus EVO2 TMAシリーズ Thermo plus 8310
リファレンス:アルミナ
温度領域:25℃-320℃とし、代表値として190-210℃における熱線膨張係数の値を算出した。
固体組成物の典型的な大きさとしては、15mm×4mm×4mmとした。
15mm×4mm×4mmの固体組成物について、最長辺を試料長Lとして温度Tにおける試料長L(T)を測定した。30℃の試料長(L(30℃)に対する寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)を下記式により算出した。
ΔL(T)/L(30℃)=(L(T)-L(30℃))/L(30℃)
本明細書では、温度Tでの熱線膨張係数αを以下のように定義する。
α(1/℃)=
(ΔL(T+20℃)-ΔL(T))/(L(30℃)×20℃)
本実施例では、T=190℃とし、190℃及び210℃の各温度で寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)を求め、T=190℃での熱線膨張係数α(1/℃)、言い換えると、190℃~210℃における熱線膨張係数α(1/℃)を下記式により算出した。
α(1/℃)=(ΔL(210℃)-ΔL(190℃))/(L(30℃)×20℃)
【0112】
<実施例>
【0113】
以下の方法により実施例1,2及び比較例1のフィラー粉体及び基準固体組成物、並びに、実施例3の粉体の成形体を得た。
【0114】
実施例1
フィラー粉体として、Ti粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を準備した。
80重量部の各フィラー粉体、20重量部の富士化学社製の一号珪酸ソーダ(珪酸ナトリウム水溶液)、10重量部の純水を混合して混合物を得た。富士化学社製の一号珪酸ソーダ中の固形分は約55重量%であった。
得られた混合物をポリテトラフルオロエチレン製の鋳型に入れ、以下の硬化プロファイルで硬化させた。
80℃まで15分で昇温、80℃で20分保持、その後、150℃まで20分で昇温、150℃で60分保持する。さらに、その後320℃まで昇温させ10分保持し、降温する処理を行い、以上の工程から基準固体組成物を得た。
【0115】
実施例2
実施例1のTi粉(高純度化学社製、150μmPass、純度99.9%)を以下の条件でビーズミルにより粉砕して、実施例2で用いるフィラー粉体を得た。
粉砕条件:ビーズミルとして、アイメックス株式会社製のバッチ式レディーミル(RM B-08)を用いた。800cmのベッセルを用い、1348rpm、周速5m/sの条件で粉砕をした。1mmの粒子径のZrOビーズを用い、水217g、ZrOを613g、Ti(高純度化学社製、150μmPass、24.9g)の割合で混合し、10分間粉砕した。
上記フィラー粉体を用いる以外は実施例1と同様にして基準固体組成物を得た。
【0116】
実施例3
粉体としてTi粉(フルウチ化学社製、300mesh、純度99.9%)を用意し、放電プラズマ焼結して実施例3の成形体(焼結体)を得た。
放電プラズマ焼結には、放電プラズマ焼結装置 ドクターシンターラボ SPS-511S(富士電波工機社製)を用いた。Ti粉を専用のカーボン製ダイに詰めて、下記の条件にて放電プラズマ焼結を行った。
装置: ドクターシンターラボSPS-511S(富士電波工機社製)
試料: Ti粉(フルウチ化学社製、300mesh、純度99.9%) 5.6g
ダイ: 専用のカーボン製ダイ 内径20mmφ
雰囲気: アルゴン0.05MPa
圧力: 40MPa(3.1kN)
加熱: 1250℃ 10分間
【0117】
比較例1
フィラー粉体としてAl粉(住友化学社製、AKP-15)を用意した。このフィラー粉体を用いる以外は実施例1と同様にして基準固体組成物を得た。
【0118】
実施例1のフィラー粉体について、25℃、100℃、150℃、200℃、250℃、300℃、350℃、及び、400℃で、それぞれX線回折測定を行った。その結果、実施例1および実施例2のフィラー粉体、並びに、実施例3の粉体は、コランダム構造のTiに帰属され、空間群はR-3cであった。実施例1のフィラー粉体の上記各温度におけるa軸長、c軸長、及び、a軸長/c軸長を表1にまとめた。また、実施例1のフィラー粉体のa軸長/c軸長の温度Tとの関係、すなわち、A(T)を図1に示す。また、実施例1のフィラー粉体のT1=150℃でのdA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50は、-49ppm/℃であり、|dA(T)/dT|は49ppm/℃であった。
【0119】
実施例2のフィラー粉体について、150℃と200でX線回折測定を行った。その結果、実施例2のフィラー粉体は、コランダム構造のTiに帰属され、空間群はR-3cであった。T=150℃において、dA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50=-44ppm/℃であった。また、T=150℃において、|dA(T)/dT|=44ppm/℃であった。
【0120】
実施例3の粉体について、150℃と200でX線回折測定を行った。その結果、実施例3の粉体は、コランダム構造のTiに帰属され、空間群はR-3cであった。T=150℃において、dA(T)/dT=(A(T+50)-A(T))/50=-49ppm/℃であった。また、T=150℃において、|dA(T)/dT|=49ppm/℃であった。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例1、2及び比較例1の基準固体組成物、及び、実施例3の成形体の、T=190℃すなわち190~210℃における熱線膨張係数は、実施例1,実施例2,実施例3、及び、比較例1の順に、-38.0ppm/℃、-3.6ppm/℃、-55.5ppm/℃、及び、7.9ppm/℃であった。結果を表2に示す。
なお、比較例1では、25~320℃の温度範囲内で、熱線膨張係数αはいずれも正であった。
【0123】
【表2】
【0124】
実施例3の成形体の寸法変化率ΔL(T)/L(30℃)の温度依存性を図2に示す。寸法変化率の傾きが熱線膨張係数に対応する。
【0125】
実施形態にかかるフィラー粉体及び成形体によれば、熱線膨張係数の低い固体組成物を提供できる。

図1
図2