(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】イメージセンサ
(51)【国際特許分類】
H04N 25/585 20230101AFI20231206BHJP
H04N 25/77 20230101ALI20231206BHJP
H04N 25/78 20230101ALI20231206BHJP
【FI】
H04N25/585
H04N25/77
H04N25/78
(21)【出願番号】P 2020046920
(22)【出願日】2020-03-17
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】冨岡 宏平
(72)【発明者】
【氏名】安江 俊夫
【審査官】三沢 岳志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-103603(JP,A)
【文献】特開2010-283573(JP,A)
【文献】国際公開第2017/051722(WO,A1)
【文献】特開2015-220716(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04N 25/585
H04N 25/77
H04N 25/78
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1画素の光電変換素子を、相対感度が公比1/2の等比数列となるn個(nは2以上の整数)の区分光電変換素子(ただし、最小感度の2つは、1/2
n-1及び1/2
n-1)に分割した受光部と、前記受光部の選択された区分光電変換素子の電荷量に対応する電圧を出力する電圧発生回路と、を備える画素と、
受光強度に対応して、相対感度の高い側からk番目(kはn以下の整数)以下の前記区分光電変換素子を受光量検出に有効な区分光電変換素子とする制御信号を、前記画素に出力し、前記有効な区分光電変換素子の電荷量に対応する電圧をA/D(アナログ/デジタル)変換したデジタル電圧信号を出力すると共に、前記k番目の前記区分光電変換素子を示す指標を出力する、読み出し回路と、
を備えることを特徴とする、イメージセンサ。
【請求項2】
請求項1に記載のイメージセンサにおいて、
前記電圧発生回路は、前記区分光電変換素子の電荷が転送される共通の電荷蓄積領域と、前記電荷蓄積領域の電荷をリセットするリセット手段と、前記電荷蓄積領域に転送された電荷に対応する電圧を発生する手段とを備え、前記電荷蓄積領域には、相対感度の高い前記区分光電変換素子から順に選択されて、電荷が転送されるように制御され、
前記読み出し回路は、前記電圧発生回路が発生する電圧と、所定の基準電圧とを比較するコンパレータを備え、前記電圧発生回路の発生する電圧が基準電圧以上のとき、前記リセット手段を有効化し、前記電圧発生回路の発生する電圧が基準電圧を下回るとき、前記リセット手段を無効化にする信号を、前記制御信号とすることを特徴とする、イメージセンサ。
【請求項3】
請求項2に記載のイメージセンサにおいて、
前記電圧発生回路が発生する電圧が、前記A/D変換の可能な電圧範囲になるよう、前記基準電圧を調整することを特徴とする、イメージセンサ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のイメージセンサにおいて、
前記k番目の前記区分光電変換素子を示す指標は、前記コンパレータのクロックパルスのカウント値であることを特徴とする、イメージセンサ。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれか一項に記載のイメージセンサにおいて、
前記電圧発生回路は、前記電荷蓄積領域の電圧を入力とするソースフォロア回路を備えることを特徴とする、イメージセンサ。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか一項に記載のイメージセンサにおいて、
前記読み出し回路は、前記電圧発生回路の電圧出力を相関2重サンプリングし、次いでA/D変換することを特徴とする、イメージセンサ。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか一項に記載のイメージセンサにおいて、
さらに、前記デジタル電圧信号を(前記k番目の前記区分光電変換素子を示す指標-1)ビットだけ上位ビットにシフトする処理を行うデコード装置を備えることを特徴とする、イメージセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はイメージセンサに関し、特に、広ダイナミックレンジを実現できるイメージセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、イメージセンサのさらなる低ノイズ化が求められている。一般に、イメージセンサの低ノイズ化には電荷電圧変換ゲインを大きく設計することが非常に有効である。しかし、電荷電圧変換ゲインはダイナミックレンジとのトレードオフの関係がある。すなわち電荷電圧変換ゲインを大きくとると、信号の出力振幅が増大するため、画素の拡散容量やA/D(アナログ/デジタル)変換回路のレンジが飽和してしまいダイナミックレンジが減少する。このトレードオフの関係から、低ノイズと広ダイナミックレンジを両立することは困難であった。
【0003】
広ダイナミックレンジを実現する技術として、複数回の蓄積時間の異なるシャッター動作で得た画像を合成することで、ダイナミックレンジを伸張する手法が提案されている(例えば特許文献1)。また、単一露光で広ダイナミックレンジを実現する方法としては、非線形感度を有する画素を用いる手法がある(例えば特許文献2)。
【0004】
一方、単一露光かつ線形応答する画素を用いるダイナミックレンジ拡大手法として、LOFIC(Lateral Over Flow Integration Capacitor) CMOSイメージセンサが提案されている(例えば特許文献3)。この手法ではフォトダイオードの飽和電子数を超えた電荷を画素内に配置した容量に導くことで、ダイナミックレンジを向上させている。また、信号値のゲインを切り替えられるスイッチを読み出し回路内に設け、信号値にあわせて最適な変換ゲインに切り替わる回路構成とすることで、広ダイナミックレンジを図る技術(例えば特許文献4)がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-39170号公報
【文献】特開2006-311515号公報
【文献】国際公開第2016/080337号
【文献】特開2017-79464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の各特許文献に記載された手法は、ダイナミックレンジを向上させる効果があるが、それぞれ次のような課題がある。画像合成を行う手法(特許文献1)では、動きの早い被写体を撮影すると、露光タイミングの違いによって合成画像同士にずれが生じ、画質が劣化する懸念がある。また露光時間が短い信号値はS/Nが低下するため、画質劣化を引き起こす懸念がある。また、非線形感度を利用する手法(特許文献2)は、画素特性の温度安定性や応答速度に課題がある。
【0007】
LOFIC・CMOSイメージセンサを用いる手法(特許文献3)では、画素内の電荷を2つの異なる容量を用いて電圧変換するため、複数回のA/D変換を行う必要がある。また、ゲインを切り替える手法(特許文献4)では、読み出し回路に複数のゲインを用いることに起因する非線形性を補正する必要があり、回路構成や後段の信号処理が複雑化する懸念がある。
【0008】
従って、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、低ノイズと広ダイナミックレンジを両立することができるイメージセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明に係るイメージセンサは、1画素の光電変換素子を、相対感度が公比1/2の等比数列となるn個(nは2以上の整数)の区分光電変換素子(ただし、最小感度の2つは、1/2n-1及び1/2n-1)に分割した受光部と、前記受光部の選択された区分光電変換素子の電荷量に対応する電圧を出力する電圧発生回路と、を備える画素と、受光強度に対応して、相対感度の高い側からk番目(kはn以下の整数)以下の前記区分光電変換素子を受光量検出に有効な区分光電変換素子とする制御信号を、前記画素に出力し、前記有効な区分光電変換素子の電荷量に対応する電圧をA/D(アナログ/デジタル)変換したデジタル電圧信号を出力すると共に、前記k番目の前記区分光電変換素子を示す指標を出力する、読み出し回路と、を備えることを特徴とする。
【0010】
また、前記イメージセンサは、前記電圧発生回路が、前記区分光電変換素子の電荷が転送される共通の電荷蓄積領域と、前記電荷蓄積領域の電荷をリセットするリセット手段と、前記電荷蓄積領域に転送された電荷に対応する電圧を発生する手段とを備え、前記電荷蓄積領域には、相対感度の高い前記区分光電変換素子から順に選択されて、電荷が転送されるように制御され、前記読み出し回路は、前記電圧発生回路が発生する電圧と、所定の基準電圧とを比較するコンパレータを備え、前記電圧発生回路の発生する電圧が基準電圧以上のとき、前記リセット手段を有効化し、前記電圧発生回路の発生する電圧が基準電圧を下回るとき、前記リセット手段を無効化にする信号を、前記制御信号とすることが望ましい。
【0011】
また、前記イメージセンサは、前記電圧発生回路が発生する電圧が、前記A/D変換の可能な電圧範囲になるよう、前記基準電圧を調整することが望ましい。
【0012】
また、前記イメージセンサは、前記k番目の前記区分光電変換素子を示す指標が、前記コンパレータのクロックパルスのカウント値であることが望ましい。
【0013】
また、前記イメージセンサは、前記電圧発生回路が、前記電荷蓄積領域の電圧を入力とするソースフォロア回路を備えることが望ましい。
【0014】
また、前記イメージセンサは、前記読み出し回路が、前記電圧発生回路の電圧出力を相関2重サンプリングし、次いでA/D変換することが望ましい。
【0015】
また、前記イメージセンサは、さらに、前記デジタル電圧信号を(前記k番目の前記区分光電変換素子を示す指標-1)ビットだけ上位ビットにシフトする処理を行うデコード装置を備えることが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明におけるイメージセンサによれば、低ノイズと広ダイナミックレンジを両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態のイメージセンサの全体図である。
【
図2】光電変換素子の分割パターンの例を示す図である。
【
図3】イメージセンサの信号読み出し回路の一実施形態の回路図である。
【
図4】各制御信号の動作タイミングの例を示す図である。
【
図5】a回目のコンパレートで初めて閾値を下回った場合の各動作タイミングを示す図である。
【
図6】n=5の場合のQに対するD
COの変化を示す図である。
【
図7】n=5の場合のQに対するG
eff/G
CG
CDSの変化を示す図である。
【
図8】n=5の場合のQに対する(V
ADC_
IN-V
CDS_
CG)の変化を示す図である。
【
図9】n=5、8bitのADCを用いる場合の回路構成の例を示す図である。
【
図10】
図9の回路構成において、Q
max/8≦Q<Q
max/4のときのタイミング図である。
【
図11】n=5、8bitのADCを用いた場合の出力コードのデコード方法を示す図である。
【
図12】複数の区分光電変換素子に共通の拡散容量を設けた例を示す図である。
【
図13】複数の区分光電変換素子に共通の拡散容量を設けた別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0019】
図1に、本発明の一実施形態のイメージセンサの全体図を示す。イメージセンサ1は、アレイ状に配置された各画素に設けられた受光部(光電変換素子)10と、各画素の電圧発生回路20と、イメージセンサ1の各列の電圧出力線に接続された読み出し回路30と、を備えている。各列の電圧出力線には、定電流源40を備えていてもよい。また、
図1には、読み出し回路30から各画素の電圧発生回路20へ出力される信号線(破線:後述するCMP_OUT)が示されている。なお、
図1では、垂直走査回路及び行選択配線、電源配線等は、図示されていないが、通常のイメージセンサの動作に必要な回路構成は備えているものとする。
図1では、読み出し回路30を列ごとに設けて、列並列読み出しを行う回路構成としているが、読み出し回路30を画素ごとに設けて画素並列読み出しを行う回路構成や、或いは、画素ブロックごとに読み出しを行う回路構成としてもよい。以下、各構成について説明する。
【0020】
受光部(光電変換素子)10は、例えば、フォトダイオード(PD)で構成されるが、光電変換を行う任意の素子であってよい。以下の説明では、フォトダイオード(PD)を例として説明する。それぞれの光電変換素子10は、複数の区分光電変換素子に分割される。具体的には、1画素の光電変換素子10を、表1に示す相対感度比(同じ受光強度に対して発生する電荷量の比に対応)を有するn個(nは、2以上の整数)の区分光電変換素子(例えば、区分フォトダイオード)PD1~PDnに分割する。表1では、PD1~PDnの感度の合計(光電変換素子10全体の感度)を1としたときの各区分光電変換素子の相対的な感度を示している。
【0021】
表1から明らかなように、n=2のとき、光電変換素子10を感度が1/2の2つ区分光電変換素子に分割し、nが1増加すると前回分割した一方の区分光電変換素子を更にその感度が1/2となるように2つに分割し、これを繰り返す。したがって、1画素の光電変換素子を、相対感度が公比1/2の等比数列となるn個(nは2以上の整数)の区分光電変換素子(ただし、最小感度の2つは、1/2n-1及び1/2n-1)に分割する。なお、表1ではnが大きいことを想定してPD2の相対感度比が1/4となっているが、本発明は、n=2でPD1=PD2=1/2から成り立つ。
【0022】
【0023】
図2に、光電変換素子10の分割パターンの例を示す。各区分フォトダイオードPD1~PDnの配置は、例えばn=5とした場合、
図2の配置A~Cに示したものが例として挙げられる。なお、フォトダイオードの層構造が共通であれば、フォトダイオードの感度は一般に受光面積に比例する。区分フォトダイオードの配置は、表1に示した相対感度を満たしていれば、任意の配置としてよい。
【0024】
本発明では、後述のとおり、受光量に応じて、出力(受光量検出のための電圧出力)に寄与する有効な区分光電変換素子が自立的に選択される。
【0025】
電圧発生回路20は、各画素に設けられ、各画素で選択された区分光電変換素子で生じた電荷量に対応する電圧を発生する。発生した電圧は、各列の電圧出力線に出力され、読み出し回路30で読み出される。
【0026】
読み出し回路30は、電圧出力線に出力された各画素の出力電圧をA/D(アナログ/デジタル)変換して、変換結果をデジタル電圧信号DSとして出力する。また、読み出し回路30は、受光強度に対応して、相対感度の高い側からk番目(kはn以下の整数)以下の区分光電変換素子を受光量検出に有効な区分光電変換素子とする制御信号(後述するCMP_OUT)を、前記画素に出力する。さらに、どの区分光電変換素子が受光量検出(光電変換出力)に有効に使用されているかを示す指標(すなわち、感度が高い側からk番目の区分光電変換素子示す指標)を、デジタル信号(デジタルカウンタ出力)DCOとして出力する。
【0027】
定電流源40は、電圧出力線に定電流を流すものであり、電圧出力線に印加される電源と共に電圧発生回路20の出力に寄与する。
【0028】
本発明では、画素の受光量(したがって、光電変換素子10に蓄積された電荷量)に応じて実効的な電荷電圧変換ゲインが自動的・自律的に変化する回路構成を用いて、前述したトレードオフの関係を改善する。上記機能を実現するイメージセンサの構成及び動作原理を、以下に説明する。
【0029】
図3に、イメージセンサ1の信号読み出し回路の一実施形態の回路図を示す。各画素は、分割された区分フォトダイオード(PD1~PDn)11~14と、転送トランジスタ21~24と、拡散容量(FD:Floating Diffusion)25と、出力トランジスタ26、選択トランジスタ27、リセットトランジスタ28、リセット制御トランジスタ29とを備えている。拡散容量及び各トランジスタは全体として、受光部の選択された区分光電変換素子の電荷量に対応する電圧を出力する電圧発生回路を構成する。
【0030】
また、(列並列の)読み出し回路30は、コンパレータ31と、AND回路32と、カウンタ33と、CDS(Correlated Double Sampling:相関2重サンプリング)回路34、ADC(Analog to Digital Converter)35を備えている。
【0031】
画素が選択されるとき、行選択信号SELがHighとなって、選択トランジスタ27が導通し、画素が列並列の読み出し回路30と接続される。
【0032】
区分フォトダイオード(PD1~PDn)11~14は、転送トランジスタ21~24を介して、拡散容量FD25を共有している。フォトダイオード11~14で発生・蓄積された電荷は、それぞれ信号TX1~TXnによって転送トランジスタ21~24が導通し、拡散容量FD25に電荷転送される。拡散容量FD25は、共通の電荷蓄積領域となっている。
【0033】
転送された電荷により拡散容量FD25に発生した電圧は、出力トランジスタ26のゲート電極に印加される。ここで、出力トランジスタ26はソースフォロア回路を構成し、ソースフォロアの出力電圧を画素出力として、電圧出力線に出力する。なお、電圧発生回路はソースフォロア回路に限られず、拡散容量FD25に転送された電荷量に対応(例えば、比例)した出力電圧を電圧出力線に出力する回路手段を備えていればよい。電圧出力線は、電源SFVDDに接続されると共に、定電流源40に接続している。
【0034】
リセット信号RSTにより制御されるリセットトランジスタ28と、読み出し回路30からの信号CMP_OUTにより制御されるリセット制御トランジスタ29は、リセット電源RTVDDに直列に接続され、拡散容量FD25のリセットを制御する。リセットトランジスタ28とリセット制御トランジスタ29は、リセット手段を構成する。
【0035】
読み出し回路30について説明する。コンパレータ31は、ソースフォロアの出力電圧と基準電圧VRCとを比較し、比較結果をデジタル信号CMP_OUTとして出力する。コンパレータの基準電圧VRC(V)は、次式(1)で示される値に調整する。
【0036】
【0037】
ここで、VADC_ppはADC35の入力振幅(入力可能な最小電圧から最大電圧の幅)(V)、GCDSはCDS回路34のゲイン、VSF_RSTは電圧発生回路(ソースフォロア回路)がリセットされたときの出力であるリセット電圧(V)である。すなわち、電圧発生回路20が発生する電圧が、読み出し回路30において、A/D変換の可能な電圧範囲になるよう、基準電圧を調整する。
【0038】
CMP_OUTは、リセットトランジスタ28と直列に接続されたリセット制御トランジスタ29のゲートに入力される。CMP_OUTがHighのきはリセット制御トランジスタ29が導通し、リセットトランジスタ28によるFD25の電荷リセットが有効化されるが、CMP_OUTがLowのときはリセット制御トランジスタ29が遮断され、リセットトランジスタによるFD25の電荷リセットを無効化できる。また、CMP_OUTはCMP_CONTとAND回路32を介して、コンパレータ31のクロックパルスCMP_CLKに変換されるため、CMP_OUTがLowになると、CMP_CONTが無効化され、CMP_CLKが止まる。
【0039】
カウンタ33はCMP_CLKの動作回数をカウントし、そのカウント値をデジタル信号(デジタルカウンタ出力)Dcoとして出力する。なお、後述のとおり、このデジタル信号Dcoは、感度の高い方から何番目以降の区分フォトダイオードを使用するかの指標となる。
【0040】
CDS回路34はソースフォロアの出力電圧をサンプリングし、リセット電圧との相関2重サンプリングを行ったうえでGCDSのゲインをかける。ADC35はCDS回路34の出力電圧をA/D変換し、変換結果をデジタル電圧信号DSとして出力する。このデジタル電圧信号DSは、画素からの出力電圧(受光量検出に有効な区分フォトダイオードの光電変換結果の電圧)のデジタル信号である。
【0041】
図4は、各制御信号の動作タイミングの例を示す図である。行選択信号SELには、読み出し期間中Highが入力される。行選択信号SELがHighの期間のみ、画素を動作させる信号パルスが発生する構成としてよい。転送トランジスタ21~24のゲートTX1~TXnには、1からnの順で1つずつパルス信号が順番に入力される。リセットトランジスタ28のゲートにはTX1~TXnの各パルス信号の直前にパルス信号RSTが入力される。他方、CMP_CONTにはTX1~TXnの直後にパルス信号を入力する。コンパレータ31のリセットCMP_RSTには、最初のリセット信号RSTの立ち上がりと同時にのみパルス信号を入力する。CMP_RSTの入力によってコンパレータ31がリセットされ、CMP_OUTが強制的にHighとなる。
【0042】
上記の回路構成及び制御信号とすることで、信号読み出し回路は以下の動作をする。
【0043】
(1)フォトダイオードPDiに蓄積された電荷を拡散容量FD25に転送する。(初期値i=1とする。)[TXiに入力されたパルス信号により、転送ゲートが導通する。]
【0044】
(2)ソースフォロアの出力電圧VSF_C(i)をコンパレータ31の基準電圧VRCと比較する。[転送された電荷に基づく拡散容量FD25の電圧が出力トランジスタ26のゲートに入力し、電圧出力線を介して、ソースフォロアの出力電圧がコンパレータ31に入力する。]
【0045】
(3)比較結果に対応して下記A,Bのうちどちらかの動作をする。
A.(ソースフォロアの出力電圧が基準電圧以上である場合)
拡散容量FD25をリセットし、iにi+1を代入して(1)に戻る。[コンパレータ31の出力CMP_OUTがHighになるため、リセット制御トランジスタ29が導通し、リセットトランジスタ28によるFD25の電荷リセットが有効化される。その後、次の転送トランジスタがTXi+1により動作する。]
【0046】
B.(ソースフォロアの出力電圧が基準電圧を下回った場合)
拡散容量FD25をリセットせず、残りの区分フォトダイオードPDi+1~PDnの電荷をすべて拡散容量FD25に転送し、動作を終える。(なお、i=nの場合はそのまま終了する。)[コンパレータ31の出力CMP_OUTがLowになるため、リセット制御トランジスタ29が遮断され、リセットトランジスタ28によるFD25の電荷リセットが無効化される。その後、信号TXi+1~TXnにより残りの転送トランジスタが順次導通し、残りの区分フォトダイオードPDi+1~PDnの電荷が全て拡散容量FD25に転送される。]
【0047】
CDS回路34は、(1)~(3)の動作を終えた最終的なソースフォロアの出力電圧をサンプリングし、リセット電圧とのCDS(相関2重サンプリング)動作を行ったうえでGCDSのゲインをかける。ADC35はCDS回路34から出力された電圧をA/D変換し、変換結果であるデジタル電圧信号DSを出力する。
【0048】
以上の動作をするとき、フォトダイオードに蓄積された電荷量に対するソースフォロアの最終的な出力信号及びカウンタ出力DCOの値の変化を以下に示す。
【0049】
まず、k回目のコンパレート動作時のコンパレータ入力電圧(電圧発生回路出力:ソースフォロアの出力電圧)V
SF_
C(k)は、次式(2)で表される。
【数2】
ここでG
Cは拡散容量FD25及びソースフォロアの電荷電圧変換ゲイン(V/e-)[電圧/電子数]、QはフォトダイオードPD全体の合計蓄積電荷量(e-)である。
【0050】
次に、コンパレータが下記(i)~(iii)の動作をする場合の回路動作を示す。なお、コンパレートの動作は、最大(n-1)回行われる。
【0051】
(i)1回目のコンパレートで入力電圧V
SF_
C(1)が基準電圧V
RCを下回った場合
【数3】
が成り立つ。ここで、
【数4】
とおくと、
【数5】
と表せる。このとき、フォトダイオードPD全体に貯まった電荷を全て転送すると、ソースフォロアの最終出力電圧V
SF_
Fは、次式(6)である。
【数6】
また、ADC35の入力電圧V
ADC_
INは、次式(7)となる。
【数7】
ここで、V
CDS_
CGはCDS回路34のコモン電圧(基準となる一定電圧:ADCの最低電圧となるように調整するのが望ましい。)(V)である。また、このときのカウンタ出力D
COは、次式(8)となる。
【数8】
【0052】
(ii)a回目(2≦a≦n-1)のコンパレートで初めて閾値(基準電圧V
RC)を下回った場合
【数9】
かつ
【数10】
が成り立つ。すなわち、このときの電荷量Qは、次式となる。
【数11】
このときソースフォロアの最終出力電圧V
SF_
Fは、
【数12】
であり、またADC35の入力電圧V
ADC_
INは、
【数13】
である。また、カウンタ出力D
COは、次式(14)となる。
【数14】
【0053】
(iii)n-1回目のコンパレートでも閾値を下回らなかった場合
【数15】
が成り立つ。すなわち、
【数16】
となる。このときPDn-1までの電荷はリセットされ、PDnの電荷のみが拡散容量FD25に転送される。したがって、ソースフォロアの最終出力電圧V
SF_
Fは、
【数17】
であり、ADC35の入力電圧V
ADC_
INは、
【数18】
である。カウンタ出力D
COは、次式(19)となる。
【数19】
【0054】
(i)~(iii)より、すべての場合において、電荷Qの値に関わらずV
ADC_
INは、
【数20】
と表される。また、カウンタ出力D
COは、次式(21)となる。
【数21】
したがって実効的な電荷電圧変換ゲインG
eff=G
CG
CDS/2
(DCO-1) がQに応じて変化することがわかる。また、Qがこの回路で処理可能な最大値であるとき
【数22】
が成り立つ。このとき
【数23】
となり、Q
maxはこの回路で処理可能な最大の電荷量を示していることがわかる。
【0055】
図5に(ii)a回目(2≦a≦n-1)のコンパレートで初めて閾値を下回った場合の各動作タイミングを示す。信号TXaによる電荷転送前までは、コンパレータ入力電圧が基準電圧V
RCを上まわっており、コンパレータ31の出力CMP_OUTがHighであり、CMP_CLKが発生してカウンタ33はCMP_CLKの動作回数をカウントする。信号TXaによる電荷転送後のCMP_CLK(a個目)によりCMP_OUTがLowになり、それ以降のCMP_CONTが無効化され、CMP_CLKが止まる。したがって、カウンタ33のカウント値はaとなり、これをデジタル信号D
coとして出力する。なお、CMP_OUTがLowになることにより、信号TXa以降のリセット信号RSTは無効化される。したがって、PDa以降の区分フォトダイオード(PDa~PDn)の電荷は拡散容量FD25に転送される。
【0056】
図6にn=5の場合のQに対するD
COの変化を、また、
図7にn=5の場合のQに対するG
eff/G
CG
CDSの変化を示す。さらに、
図8にn=5の場合のQに対する(V
ADC_
IN-V
CDS_
CG)の変化を示す。電荷量Qが小さいときは画素信号に対する実効的なゲインが大きいため低ノイズ読み出しが実現でき、電荷量Qが大きくなるにつれて実効的なゲインが低下するためダイナミックレンジが伸長する。
【0057】
図9は、n=5、8bitのADC35を用いる場合の回路構成の例である。信号読み出し回路の基本構成は、
図3と同じである。受光により光電変換が行われフォトダイオードPD全体で電荷Qが発生したとき、各区分フォトダイオードには、PD1にQ/2、PD2にQ/4、PD3にQ/8、PD4及びPD5にQ/16の電荷が蓄積される。
【0058】
図10は、
図9の回路構成において、Q
max/8≦Q<Q
max/4のときのタイミング図である。n=5であり、電荷量Qが上記の条件のとき、3回目のコンパレートで入力電圧が基準電圧を下回る。このとき、3番目以降の区分フォトダイオードの電荷が拡散容量FD25に転送され、その電荷量に対応する出力電圧のデジタル電圧信号がD
Sとして得られる。また、デジタル信号(デジタルカウンタ出力)D
COが3となる。
【0059】
次に、本発明のイメージセンサのデジタル信号出力のデコードについて説明する。
【0060】
本発明では、読み出し回路からデジタルカウンタ出力DCOとデジタル電圧信号DSの二種類の信号が出力される。このデジタル信号をデコードする際は、デジタル電圧信号DSを(DCO-1)ビットだけ上位ビットにシフトし、上位ビットは0で埋めればよい。このときビットシフトした下位ビットは無効ビットになる。したがって、信号値が小さいとき実効的なADCのbit深度(ビットの分解能)が(n-1)ビット増加し、信号値が増加するにしたがって応じて実効的なbit深度が低下する。
【0061】
図11に、n=5、8bitのADCを用いた場合の出力コードのデコード方法を示す。
【0062】
まず、DCO=1(Q<Qmax/16)のとき、デジタル信号DSは、第0ビットから第7ビットまでの数値として、デコードされる。そして、第8ビットから第11ビットまでは0で埋める。
【0063】
DCO=2(Qmax/16≦Q<Qmax/8)のとき、デジタル電圧信号DSを1(=DCO-1)ビットだけ上位ビットにシフトする。したがって、DSは第1ビットから第8ビットまでの数値として、デコードされる。第0ビットは無効ビットとなる。そして、第9ビットから第11ビットまでは0で埋める。
【0064】
DCO=3、DCO=4、DCO=5についても、同様に、デジタル電圧信号DSを(DCO-1)ビットだけ上位にシフトして、デコードする。これにより、8bitのADCを用いて、12bitの広いダイナミックレンジで出力をデコードできる。
【0065】
また、本発明のイメージセンサに、上記のデコード方法(デジタル電圧信号DSを(DCO-1)ビットだけ上位ビットにシフトする処理)を行うデコード装置を、付加することができる。
【0066】
画素の構造について補足説明する。
図12に、複数の区分光電変換素子に共通の拡散容量FD25を設けた例を示す。
図12は平面図であり、
図2の配置Bに対して、拡散容量FD25を設けた例を示している。各区分光電変換素子は、表面照射型である。PD1~PD5の各区分光電変換素子に対して、それぞれ転送ゲート(転送トランジスタ)21,22等を設けて、各区分光電変換素子の電荷を共通の拡散容量FD25に転送することができる。
【0067】
図13に、複数の区分光電変換素子に共通の拡散容量FD25を設けた別の例を示す。
図13は断面図であり、上層が半導体Si層、下層がメタル層である。Si層側から光が入射する裏面照射型のイメージセンサである。各区分光電変換素子PD1~PDnのそれぞれに隣接して、拡散容量FD25が設けられており、それぞれの拡散容量FD25をFD接続線で接続して、共通の拡散容量FD25としている。PD1~PD5の各区分光電変換素子に対して、それぞれ転送ゲート(転送トランジスタ)21,22等を設けて、各区分光電変換素子の電荷を隣接する拡散容量FD25に転送し、これらの電荷はFD接続線で一体化されて、出力トランジスタに導かれる。
【0068】
【0069】
また、本手法では信号値が小さいとき実効的なADCのbit深度が(n-1)ビット増加し、信号値が増加するにしたがって応じて実効的なbit深度が低下する性質を持っている。一般に、映像信号においてはOETF(Optical Electro Transfer Function)によって低輝度信号は信号値が増幅され、高輝度信号は信号値が圧縮されるため、低輝度信号における実効的なビット深度は低下し、高輝度信号における実効的なビット深度は増加する性質がある。そのため、ADCのビット深度を落としても、OETFの影響を加味すれば、映像信号のすべての輝度範囲において良好なビット深度を達成しうる。
【0070】
上記の実施の形態では、イメージセンサ構成と動作について説明したが、本発明はこれに限らず、イメージセンサの制御方法として構成されてもよい。すなわち、イメージセンサの各部の動作を制御する、各制御ステップを備えた制御方法として構成されてもよい。
【0071】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形や変更が可能である。例えば、実施形態に記載の複数の構成ブロックを1つに組み合わせたり、あるいは1つの構成ブロックを分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0072】
1 イメージセンサ
10 受光部(光電変換素子)
11~14 区分光電変換素子
20 電圧発生回路
21~24 転送トランジスタ
25 拡散容量
26 出力トランジスタ
27 選択トランジスタ
28 リセットトランジスタ
29 リセット制御トランジスタ
30 読み出し回路
31 コンパレータ
32 AND回路
33 カウンタ
34 CDS回路
35 ADC
40 定電流源