(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-05
(45)【発行日】2023-12-13
(54)【発明の名称】学習装置及び予測装置
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20231206BHJP
G16C 20/70 20190101ALI20231206BHJP
C08F 210/02 20060101ALI20231206BHJP
C08F 210/06 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G16C60/00
G16C20/70
C08F210/02
C08F210/06
(21)【出願番号】P 2022181254
(22)【出願日】2022-11-11
【審査請求日】2022-11-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】丸山 剛志
【審査官】松野 広一
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-088015(JP,A)
【文献】特開2020-200213(JP,A)
【文献】国際公開第2004/039883(WO,A1)
【文献】特開平11-080290(JP,A)
【文献】特表2002-527581(JP,A)
【文献】国際公開第2004/101679(WO,A1)
【文献】特開2003-058582(JP,A)
【文献】国際公開第2021/045058(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2020-0052393(KR,A)
【文献】特開2021-026608(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G16C 10/00-99/00
G06F 30/00-30/398
C08F 210/02
C08F 210/06
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する学習装置であって、
前記高分子複合材料の記述子を含むパラメータと前記高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習することで、前記学習済みモデルを生成する学習部を有し、
前記高分子複合材料の記述子が、前記高分子複合材料に含まれる
、前記高分子を含む構成成分の質量比率と、前記構成成分の特性値及び構造値とを含み、
前記特性値及び前記構造値が、前記構成成分の種類毎の平均値を含み、
前記構造値が、前記構成成分の含有量、前記構成成分に含まれる共重合体の組成の比率、前記共重合体の単量体単位比率である学習装置。
【請求項2】
前記質量比率が、前記構成成分の種類毎の平均値を含む請求項1に記載の学習装置。
【請求項3】
前記特性値が、少なくとも一種の前記高分子の極限粘度を含む請求項1又は2に記載の学習装置。
【請求項4】
前記高分子が二種類以上の単量体単位を含む共重合体を含み、
前記構造値が前記共重合体の単量体単位比率を含む請求項1又は2に記載の学習装置。
【請求項5】
前記高分子複合材料が、プロピレン系重合体と、ポリオレフィンエラストマーとを含む請求項1又は2に記載の学習装置。
【請求項6】
前記プロピレン系重合体が、プロピレンに由来する単量体単位とエチレンに由来する単量体単位とを含む共重合体を含み、
前記構造値が、前記共重合体中のエチレンに由来する単量体単位比率を含む請求項5に記載の学習装置。
【請求項7】
前記高分子複合材料が、プロピレン系重合体と、ポリオレフィンエラストマーとを含み、
前記プロピレン系重合体が、プロピレンに由来する単量体単位とエチレンに由来する単量体単位とを含む共重合体を含み、
前記構造値が、前記共重合体中のエチレンに由来する単量体単位比率を含み、
前記高分子複合材料の物性が、成形性、剛性、耐衝撃性及び光沢性である請求項1又は2に記載の学習装置。
【請求項8】
高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する予測装置であって、
予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを取得する取得部と、
高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習された学習済みモデルに、前記取得部により取得された前記予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを入力することで、前記学習済みモデルにより予測された、前記予測対象の高分子複合材料の物性を出力する予測部と、
を有し、
前記高分子複合材料の記述子が、前記高分子複合材料に含まれる
、前記高分子を含む構成成分の質量比率と、前記構成成分の特性値及び構造値とを含み、
前記特性値及び前記構造値が、前記構成成分の種類毎の平均値を含み、
前記構造値が、前記構成成分の含有量、前記構成成分に含まれる共重合体の組成の比率、前記共重合体の単量体単位比率である予測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、学習装置及び予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の高分子材料を含む組成物から形成される高分子複合材料は、自動車部品、家電製品、食品・医療容器、建材・土木産業材等の材料として広く使用されている。高分子複合材料として、例えば、プロピレン系重合体を含むプロピレン系樹脂組成物が用いられる。
【0003】
プロピレン系樹脂組成物として、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体、又はヘテロファジックプロピレン重合材料を含むプロピレン系重合体と、エチレン-α-オレフィン共重合体とを含むプロピレン樹脂組成物が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、高分子複合材料を製造する際、高分子複合材料の用途等に応じて、高分子複合材料等の任意の特性を満たすように、高分子複合材料の製造に用いる高分子の種類及び高分子複合材料の組成等を決める必要がある。高分子の種類及び高分子複合材料の組成等の決定には、実際に、実験で、種々の高分子を含む組成物を用いて高分子複合材料を製造してその物性を測定したり、最適な物性を有する高分子複合材料の組成を探したりする必要があるため、非常に多くの労力を要すると共に、原料や装置の準備が必要であった。そのため、高分子複合材料の選定の際に生じるエネルギー効率の向上を図る観点から、高分子複合材料の組成や構造等のパラメータから効率的に高分子複合材料の物性を予測できる方法が求められている。
【0006】
本発明の一態様は、高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する学習装置を提供することを目的とする。
【0007】
また、本発明の他の態様は、高分子複合材料の物性を予測する予測装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、
高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する学習装置であって、
前記高分子複合材料の記述子を含むパラメータと前記高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習することで、前記学習済みモデルを生成する学習部を有し、
前記高分子複合材料の記述子が、前記高分子複合材料に含まれる構成成分の質量比率と、前記構成成分の特性値及び構造値の少なくとも一方とを含む学習装置である。
【0009】
本発明の他の態様は、
高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する予測装置であって、
予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを取得する取得部と、
高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習された学習済みモデルに、前記取得部により取得された前記予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを入力することで、前記学習済みモデルにより予測された、前記予測対象の高分子複合材料の物性を出力する予測部と、
を有し、
前記高分子複合材料の記述子が、前記高分子複合材料に含まれる構成成分の質量比率と、前記構成成分の特性値及び構造値の少なくとも一方とを含む予測装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様は、高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する学習装置を提供できる。
【0011】
本発明の他の態様は、高分子複合材料の物性を予測する予測装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】学習済みモデルを用いて、高分子複合材料の組成及び構成成分の構造等から高分子複合材料の物性を予測することを示す説明図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る学習装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の実施形態に係る予測装置の構成を示すブロック図である。
【
図4】学習装置及び予測装置のハードウェア構成を示すブロック図である。
【
図5】本発明の実施形態に係る学習方法を説明するフローチャートである。
【
図6】本発明の実施形態に係る予測方法を説明するフローチャートである。
【
図7】曲げ弾性率の実測値と、曲げ弾性率の予測値との関係を表す図である。
【
図8】常温IZODの実測値と、常温IZODの予測値との関係を表す図である。
【
図9】低温IZODの実測値と、低温IZODの予測値との関係を表す図である。
【
図10】MFRの実測値と、MFRの予測値との関係を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、説明の理解を容易にするため、各図面において同一の構成要素に対しては同一の符号を付して、重複する説明は省略する。また、本実施形態において数値範囲を示す「~」は、別段の断わりがない限り、その前後に記載された数値を下限値及び上限値として含むことを意味する。
【0014】
本実施形態に係る学習装置及び予測装置について説明する。
図1は、学習済みモデルを用いて、高分子複合材料の組成及び高分子複合材料に含まれる高分子材料(以下、単に、高分子ともいう。)等の構成成分の構造等から高分子複合材料の物性を予測することを示す説明図である。
【0015】
図1に示すように、本実施形態に係る学習装置は、少なくとも高分子複合材料の組成、高分子の構造等の記述子を含むパラメータに関する情報を説明変数とし、高分子複合材料の物性に関する情報を目的変数として用いて機械学習を行い、組成物の記述子を含むパラメータから高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する。
【0016】
本実施形態に係る予測装置は、組成物の組成、構造等の記述子を含むパラメータに関する情報を説明変数として学習済みモデルに入力することで、高分子複合材料の物性に関する情報を目的変数として予測する。
【0017】
本実施形態において、高分子複合材料は、高分子を構成成分として含む組成物である。また、高分子複合材料は、その用途等に応じて所定の形状に成形された成形物でもよい。本実施形態では、高分子複合材料が、プロピレン系重合体を含むプロピレン系樹脂組成物である場合について説明する。
【0018】
本実施形態に係る学習装置及び予測装置を説明するに当たり、高分子複合材料について説明する。なお、高分子複合材料は、プロピレン系樹脂組成物に限定されず、高分子を構成成分として含む組成物であればよい。
【0019】
<プロピレン系樹脂組成物>
プロピレン系樹脂組成物は、少なくとも1つのプロピレン系重合体(A)を含む。
【0020】
[プロピレン系重合体(A)]
プロピレン系重合体(A)は、プロピレンに由来する単量体単位を有する重合体である。プロピレン系重合体(A)としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体、及びヘテロファジックプロピレン重合材料等が挙げられる。プロピレン系樹脂組成物は、プロピレン系重合体(A)を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。プロピレン系重合体(A)は、プロピレン系樹脂組成物の成形体の剛性と耐衝撃性との観点から、プロピレン単独重合体及びヘテロファジックプロピレン重合材料からなる群より選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0021】
(プロピレン単独重合体)
プロピレン系重合体(A)がプロピレン単独重合体を含む場合、当該プロピレン単独重合体の極限粘度数(η)は、プロピレン系樹脂組成物の溶融時の流動性と、プロピレン系組成物の成形体の靭性との観点から、0.10dL/g~2.00dL/gであることが好ましい。
【0022】
なお、本実施形態において、極限粘度数(単位:dL/g)は、以下の方法によって、テトラリンを溶媒として用いて、温度135℃で測定される値である。
【0023】
ウベローデ型粘度計を用いて濃度0.1g/dL、0.2g/dL及び0.5g/dLの3点について還元粘度を測定する。還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法により、極限粘度数を求める。外挿法による極限粘度数の計算方法は、例えば、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載されている。
【0024】
上記プロピレン単独重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、3.0以上であることが好ましい。プロピレン系重合体(A)の分子量分布は、3.0~30.0であることが好ましい。
【0025】
本実施形態において、分子量分布は、下記条件のゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)で測定される重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を用いて算出される、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)をいう。
((条件))
装置:東ソー株式会社製 HLC-8121 GPC/HT
分離カラム:東ソー株式会社製 GMHHR-H(S)HT 3本
測定温度:140℃
キャリア:オルトジクロロベンゼン
流量:1.0mL/分
試料濃度:約1mg/mL
試料注入量:400μL
検出器:示差屈折
検量線作成方法:標準ポリスチレンを使用
【0026】
プロピレン単独重合体は、例えば、重合触媒を用いて、プロピレンを重合することにより製造できる。
【0027】
重合触媒としては、例えば、チーグラー型触媒;チーグラー・ナッタ型触媒;シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物とアルキルアルミノキサンとからなる触媒;シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、当該遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び有機アルミニウム化合物からなる触媒;並びに無機粒子(シリカ、粘土鉱物等)に、触媒成分(シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、イオン性の錯体を形成する化合物、有機アルミニウム化合物等)を担持して、変性させた触媒が挙げられる。
【0028】
重合方法としては、例えば、バルク重合、溶液重合及び気相重合が挙げられる。
【0029】
重合方式としては、例えば、バッチ式、連続式及びこれらの組み合わせが挙げられる。重合方式は、複数の重合反応槽を直列に連結させた多段式であってもよい。
【0030】
重合工程における各種条件(重合温度、重合圧力、単量体濃度、触媒投入量、重合時間等)は、目的とする重合体の分子構造に応じて、適宜決定すればよい。
【0031】
重合工程の後、重合体中に含まれる残留溶媒、製造時に副生する超低分子量のオリゴマー等を除去するために、必要に応じて重合体を、重合体が融解する温度以下の温度で乾燥してもよい。
【0032】
(プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体)
プロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体は、プロピレンに由来する単量体単位とプロピレン以外の単量体に由来する単量体単位とを含有するものである。ランダム共重合体は、ランダム共重合体の質量を基準として、プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を0.01質量%~20質量%含有することが好ましい。
【0033】
プロピレン以外の単量体としては、例えば、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンが挙げられる。中でも、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンから選択される少なくとも一種が好ましく、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン及び1-オクテンからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましい。
【0034】
なお、「α-オレフィン」とは、α位に炭素-炭素不飽和二重結合を有する脂肪族不飽和炭化水素を意味する。
【0035】
ランダム共重合体としては、例えば、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-1-ヘキセンランダム共重合体、プロピレン-1-オクテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテンランダム共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセンランダム共重合体及びプロピレン-エチレン-1-オクテンランダム共重合体が挙げられる。
【0036】
プロピレン系重合体(A)がプロピレンとプロピレン以外の単量体とのランダム共重合体を含む場合、前記ランダム共重合体の極限粘度数(η)は、プロピレン系樹脂組成物の溶融時の流動性の観点から、例えば、1.00dL/g~10.00dL/gであることが好ましい。
【0037】
ランダム共重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、3.0~30.0であることが好ましい。
【0038】
ランダム共重合体は、例えば、プロピレン単独重合体の製造において使用できる重合触媒、重合方法、重合方式に従って、プロピレン及びプロピレン以外の単量体を重合することにより製造できる。
【0039】
(ヘテロファジックプロピレン重合材料)
ヘテロファジックプロピレン重合材料は、プロピレンに由来する単量体単位を80質量%以上含有する重合体(I)(但し、重合体(I)の全質量を100質量%とする。)と、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位とプロピレンに由来する単量体単位とを含有する重合体(II)を含む。ヘテロファジックプロピレン重合材料は、重合体(I)のマトリックスの中で、重合体(II)が分散した構造を有する混合物を意味する。
【0040】
ヘテロファジックプロピレン重合材料は、例えば、重合体(I)を形成する第1の重合工程と、重合体(II)を形成する第2の重合工程を行うことにより製造できる。これらの重合工程において採用される、重合触媒、重合方法及び重合方式の例示は、上記と同様である。
【0041】
重合体(I)は、例えば、プロピレン単独重合体であってもよく、プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を含んでいてもよい。重合体(I)が、プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を含む場合、この含有量は、重合体(I)の全質量を基準として、例えば、0.01質量%以上20質量%未満であってもよい。
【0042】
プロピレン以外の単量体としては、例えば、エチレン及び炭素数4以上のα-オレフィンが挙げられる。中でも、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン及び1-オクテンからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましい。
【0043】
プロピレン以外の単量体に由来する単量体単位を含む重合体としては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体及びプロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体が挙げられる。
【0044】
重合体(I)は、プロピレン系樹脂組成物の成形体の寸法安定性の観点から、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体が好ましく、プロピレン単独重合体がより好ましい。
【0045】
重合体(I)の含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量に対して、50質量%~99質量%であることが好ましい。
【0046】
重合体(II)は、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位を40質量%以上含有し、かつ、プロピレンに由来する単量体単位を含有することが好ましい。
【0047】
重合体(II)において、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンに由来する単量体単位の含有量は、40~70質量%であってよく、45質量%~60質量%であってもよい。
【0048】
重合体(II)において、エチレン及び炭素数4~12のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種のα-オレフィンとしては、エチレン及び炭素数4~10のα-オレフィンからなる群より選択される少なくとも一種が好ましく、エチレン、1-ブテン、1-ヘキセン、1-オクテン及び1-デセンからなる群より選択される少なくとも一種がより好ましく、エチレン及び1-ブテンからなる群より選択される少なくとも一種が更に好ましい。
【0049】
重合体(II)としては、例えば、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-エチレン-1-オクテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-デセン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-1-ヘキセン共重合体、プロピレン-1-オクテン共重合体及びプロピレン-1-デセン共重合体が挙げられる。中でも、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-1-ブテン共重合体及びプロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体が好ましく、プロピレン-エチレン共重合体がより好ましい。
【0050】
重合体(II)の含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量を基準として、1質量%~50質量%であることが好ましい。
【0051】
ヘテロファジックプロピレン重合材料は、キシレン不溶(CXIS)成分及びキシレン可溶(CXS)成分を含んでよい。
【0052】
ヘテロファジックプロピレン重合材料中のCXIS成分の含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量に対して、50質量%~99質量%であることが好ましい。
【0053】
ヘテロファジックプロピレン重合材料中のCXS成分の含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量に対して、1質量%~50質量%であることが好ましい。
【0054】
本実施形態においては、ヘテロファジックプロピレン重合材料中のCXIS成分は、主として重合体(I)から構成され、ヘテロファジックプロピレン重合材料中のCXS成分は、主として重合体(II)から構成されると考えられる。
【0055】
ヘテロファジックプロピレン重合材料としては、例えば、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-エチレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-エチレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-エチレン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-エチレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ブテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-1-ブテン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-ヘキセン)-(プロピレン-1-ヘキセン)重合材料、(プロピレン-1-ヘキセン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、(プロピレン-1-ヘキセン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料、(プロピレン-1-オクテン)-(プロピレン-1-オクテン)重合材料、及び(プロピレン-1-オクテン)-(プロピレン-1-デセン)重合材料が挙げられる。
【0056】
なお、「(プロピレン)-(プロピレン-エチレン)重合材料」とは、「重合体(I)がプロピレン単独重合体であり、重合体(II)がプロピレン-エチレン共重合体であるヘテロファジックプロピレン重合材料」を意味する。他の類似の表現においても同様である。
【0057】
重合体(I)の極限粘度数(ηI)は、例えば、0.10dL/g~2.00dL/gであることが好ましい。
【0058】
重合体(II)の極限粘度数(ηII)は、1.00dL/g~10.00dL/gであることが好ましい。
【0059】
重合体(I)の極限粘度数(ηI)に対する重合体(II)の極限粘度数(ηII)の比([η]II/[η]I)は、1~20であることが好ましい。
【0060】
重合体(I)の極限粘度数(ηI)の測定方法としては、例えば、重合体(I)を形成した後に、重合体の極限粘度数を測定する方法が挙げられる。
【0061】
重合体(II)の極限粘度数(ηII)は、例えば、ヘテロファジックプロピレン重合材料の極限粘度数(ηTotal)、重合体(I)の極限粘度数(ηI)並びに重合体(II)及び重合体(I)の含有量を用いて、下記式(I)により算出できる。
ηII=(ηTotal-ηI×XI)/XII ・・・(I)
【0062】
なお、式(I)中、ηTotal、ηI、XI及びXIIは、それぞれ、以下の意味である。
ηTotal:ヘテロファジックプロピレン重合材料の極限粘度数(dL/g)
ηI:重合体(I)の極限粘度数(dL/g)
XI:ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量に対する重合体(I)の質量の比(重合体(I)の質量/ヘテロファジックプロピレン重合材料の質量)
XII:ヘテロファジックプロピレン重合材料の全質量に対する重合体(II)の質量の比(重合体(II)の質量/ヘテロファジックプロピレン重合材料の質量)
【0063】
ここで、XI、XIIは、重合時の物質収支から求めることができる。
【0064】
なお、XIIは、重合体(I)の融解熱量及びヘテロファジックプロピレン重合材料の融解熱量を測定し、下記式(II)を用いて算出してもよい。
XII=1-(ΔHf)T/(ΔHf)P ・・・(II)
【0065】
式(II)中、ΔHfT、ΔHfPは、以下の意味である。
ΔHfT:ヘテロファジックプロピレン重合材料の融解熱量(J/g)
ΔHfP:重合体(I)の融解熱量(J/g)
【0066】
CXIS成分の極限粘度数(ηCXIS)は、0.10dL/g~2.00dL/gであることが好ましい。
【0067】
CXS成分の極限粘度数(ηCXS)は、1.00dL/g~10.00dL/gであることが好ましい。
【0068】
CXIS成分の極限粘度数(ηCXIS)に対するCXS成分の極限粘度数(ηCXS)の比(ηCXS/ηCXIS)は、1~20であることが好ましい。
【0069】
重合体(I)の分子量分布(Mw(I)/Mn(I))は、3.0以上であることが好ましい。
【0070】
CXIS成分の分子量分布(Mw(CXIS)/Mn(CXIS))は、3.0以上であることが好ましい。
【0071】
プロピレン系重合体(A)の温度230℃、荷重2.16kgfでのメルトフローレート(MFR)は、プロピレン系樹脂組成物の成形加工性の観点から、5g/10分~300g/10分であることが好ましい。
【0072】
なお、本実施形態において、MFRは、JIS K7210に準拠して測定される値をいう。
【0073】
[ポリオレフィンエラストマー(B)]
プロピレン系樹脂組成物はポリオレフィンエラストマー(B)を含んでもよい。ポリオレフィンエラストマー(B)は、ポリオレフィンエラストマー(B)の全質量を100質量%として、ポリオレフィンエラストマー(B)に含まれるエチレンに由来する単量体単位の含有量と炭素数4以上のα-オレフィンに由来する単量体単位の含有量との合計が100質量%であってよい。
【0074】
炭素数が4以上のα-オレフィンとしては、例えば、炭素数4~12のα-オレフィンが挙げられる。炭素数が4~12のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテン及び1-デセンが挙げられる。中でも、1-ブテン、1-ヘキセン、及び1-オクテンが好ましい。上記α-オレフィンは、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロブタン等の環状構造を有するα-オレフィンであってよい。
【0075】
ポリオレフィンエラストマー(B)としては、例えば、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体、エチレン-1-デセン共重合体、エチレン-(3-メチル-1-ブテン)共重合体、及びエチレンと環状構造を有するα-オレフィンとの共重合体(エチレン-α-オレフィン共重合体)が挙げられる。
【0076】
なお、エチレン-α-オレフィン共重合体は、エチレンに由来する単量体単位と、炭素数4以上のα-オレフィンに由来する単量体単位とを含有する共重合体であり、プロピレンに由来する単量体単位を含まないものを意味する。
【0077】
ポリオレフィンエラストマー(B)において、炭素数が4以上のα-オレフィンに由来する単量体単位の含有量は、ポリオレフィンエラストマー(B)の全質量を基準として、1質量%~49質量%であることが好ましい。
【0078】
ポリオレフィンエラストマー(B)の温度190℃、荷重2.16kgfでのMFRは、0.1g/10分~80g/10分であることが好ましい。
【0079】
ポリオレフィンエラストマー(B)の密度は、プロピレン系樹脂組成物の成形体の耐衝撃性の観点から、0.850g/cm3~0.890g/cm3であることが好ましい。
【0080】
ポリオレフィンエラストマー(B)は、重合触媒を用いて、エチレン及び炭素数4以上のα-オレフィンを重合することにより製造できる。
【0081】
重合触媒としては、例えば、メタロセン触媒に代表される均一系触媒、及びチーグラー・ナッタ型触媒が挙げられる。
【0082】
均一系触媒としては、例えば、シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物とアルキルアルミノキサンとからなる触媒;シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、当該遷移金属化合物と反応してイオン性の錯体を形成する化合物及び有機アルミニウム化合物からなる触媒;並びに無機粒子(シリカ、粘土鉱物等)に、触媒成分(シクロペンタジエニル環を有する周期表第4族の遷移金属の化合物、イオン性の錯体を形成する化合物、有機アルミニウム化合物等)を担持して変性させた触媒が挙げられる。
【0083】
チーグラー・ナッタ型触媒としては、例えば、チタン含有固体状遷移金属成分と有機金属成分とを組み合わせた触媒が挙げられる。
【0084】
ポリオレフィンエラストマー(B)としては、市販品を用いてもよい。市販品としては、例えば、ダウ・ケミカル日本株式会社製エンゲージ(登録商標)、三井化学株式会社製タフマー(登録商標)、株式会社プライムポリマー製ネオゼックス(登録商標)、ウルトゼックス(登録商標)、住友化学株式会社製エクセレンFX(登録商標)、スミカセン(登録商標)、及びエスプレンSPO(登録商標)が挙げられる。
【0085】
[充填材(C)]
プロピレン系樹脂組成物は、充填材(C)を含んでもよい。プロピレン系樹脂組成物に含まれる充填材(C)は、例えば、プロピレン系樹脂組成物の成形体の寸法安定性を高める機能を有する。充填材(C)としては、無機充填材及び有機充填材が挙げられる。プロピレン系樹脂組成物は、充填材(C)を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。
【0086】
無機充填材としては、ガラス、ケイ酸塩鉱物、アルミナ、シリカ、二酸化ケイ素、酸化チタン、酸化鉄、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化アンチモン、バリウム・フェライト、ストロンチウム・フェライト、酸化ベリリウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸塩鉱物、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、塩基性硫酸マグネシウム、亜硫酸カルシウム、カーボンブラック及び硫化カドミウムが挙げられる。
【0087】
有機充填材としては、ポリエステル、芳香族ポリアミド、セルロース及びビニロンが挙げられる。
【0088】
充填材(C)は、成形体の剛性、耐衝撃性及び寸法安定性の観点から、無機充填材が好ましく、板状ケイ酸塩鉱物であるタルクがより好ましい。
【0089】
充填材の形状は、板状であってよく、針状であってよく、繊維状であってよい。
【0090】
充填材(C)の平均粒子径D50は、成形体の剛性、耐衝撃性及び寸法安定性の観点から、例えば、0.5μm~20.0μmとしてよい。
【0091】
なお、平均粒子径D50は、JIS R1629に規定された方法に従い、レーザー回析法又は遠心沈降法により測定された体積基準の粒子径分布測定データに基づいて決定されるものであり、該粒子径分布測定データにおいて、粒子径が小さい側からの粒子数の累積が50%に達したときの粒子径(50%相当粒子径)を意味する。このように定義される粒子径は、一般に「50%相当粒子径」と称され、「D50」で表記される。
【0092】
充填材(C)の含有量は、プロピレン系樹脂組成物の成形体の寸法安定性の観点から、プロピレン系重合体(A)及びポリオレフィンエラストマー(B)の合計100質量部に対して、10質量部~60質量部であってよい。
【0093】
プロピレン系樹脂組成物は、上記以外の成分を含んでもよい。このような成分としては、例えば、中和剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、造核剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、加工助剤、有機系過酸化物、着色剤(無機顔料、有機顔料、顔料分散剤等)、発泡剤、発泡核剤、可塑剤、難燃剤、架橋剤、架橋助剤、高輝度化剤、抗菌剤及び光拡散剤が挙げられる。プロピレン系樹脂組成物は、これらの成分を1種のみ含有してもよく、2種以上含有してもよい。
【0094】
<学習装置>
本実施形態に係る学習装置について説明する。なお、ここでは、高分子複合材料に含まれるプロピレン系重合体(A)が、ヘテロファジックプロピレン重合材料であるとする。
【0095】
図2は、本実施形態に係る学習装置の概略構成を示すブロック図である。
図2に示すように、学習装置1は、取得部11、前処理部12、学習用データセット作成部13、学習部14及び表示部15を備える。学習装置1は、高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルM1を生成する。
【0096】
取得部11は、高分子複合材料の記述子を含むパラメータを説明変数として取得すると共に、高分子複合材料の物性を目的変数として取得する。
【0097】
高分子複合材料の記述子としては、高分子複合材料に含まれる構成成分の質量比率、構成成分の種類毎の特性値及び構造値等が挙げられる。
【0098】
高分子複合材料の記述子は、高分子複合材料に含まれる構成成分の質量比率と、構成成分の種類毎の特性値及び構造値の少なくとも一方を含む。
【0099】
構成成分は、一種の高分子を必須成分として含み、一種の高分子以外の成分を任意成分として含んでもよい。一種の高分子と、一種の高分子以外の成分は、いずれも複数含んでもよい。構成成分は、一種の高分子を含むため、構成成分の種類毎の特性値及び構造値は、一種の高分子の特性値及び構造値であってよい。
【0100】
構成成分の質量比率は、構成成分の組成とその比率である。例えば、高分子複合材料に含まれる、ヘテロファジックプロピレン重合材料、ポリオレフィンエラストマー(B)及び充填材(C)のそれぞれの比率である。
【0101】
構成成分の種類毎の特性値は、構成成分の極限粘度、MFR等が挙げられる。
【0102】
構成成分の極限粘度は、高分子複合材料に含まれる、少なくとも一種の高分子の極限粘度を含む。構成成分の極限粘度は、例えば、高分子複合材料に含まれる、ヘテロファジックプロピレン重合材料及びポリオレフィンエラストマー(B)の極限粘度である。
【0103】
ヘテロファジックプロピレン重合材料の極限粘度は、ヘテロファジックプロピレン重合材料を構成する重合体(I)及び重合体(II)の少なくとも一方の極限粘度であり、重合体(I)及び重合体(II)の両方の極限粘度でもよい。
【0104】
構成成分の種類毎の構造値は、構成成分の分子量、構成成分の含有量、構成成分に含まれる共重合体の組成の比率、共重合体の単量体単位比率等である。
【0105】
構造値は、構成成分の含有量及び構成成分に含まれる共重合体の単量体単位比率の少なくとも一方を含むことが好ましい。共重合体の単量体単位比率は、エチレンに由来する単量体単位を含む共重合体(例えば、ヘテロファジックプロピレン重合材料及びポリオレフィンエラストマー(B)等)における共重合体の単量体単位比率でもよい。
【0106】
構成成分の分子量は、高分子の分子量を含む。構成成分の分子量は、例えば、高分子複合材料に含まれる、ヘテロファジックプロピレン重合材料及びポリオレフィンエラストマー(B)等の分子量である。
【0107】
ヘテロファジックプロピレン重合材料の分子量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれる重合体(I)及び重合体(II)の少なくとも一方の分子量であり、重合体(I)及び重合体(II)の両方の分子量でもよいし、重合体(I)又は重合体(II)の分子量としてよい。
【0108】
構成成分の含有量は、高分子の含有量を含む。構成成分の含有量は、例えば、高分子複合材料に含まれる、ヘテロファジックプロピレン重合材料、ポリオレフィンエラストマー(B)及び充填材(C)の含有量である。
【0109】
ヘテロファジックプロピレン重合材料の含有量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料を構成する重合体(I)及び重合体(II)の少なくとも一方の含有量であり、重合体(II)の含有量のみでもよい。
【0110】
構成成分に含まれる共重合体の単量体単位比率は、例えば、高分子複合材料に含まれるヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれるエチレン量、ポリオレフィンエラストマー(B)に含まれるエチレン量である。なお、エチレン量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料及びポリオレフィンエラストマー(B)等のエチレンに由来する単量体単位を含む共重合体における、共重合体の単量体単位比率である。
【0111】
ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれるエチレン量は、ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれる重合体(I)及び重合体(II)の少なくとも一方に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量であり、重合体(II)に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量のみでもよい。
【0112】
構成成分に含まれる共重合体の組成の比率は、高分子複合材料に含まれる、ヘテロファジックプロピレン重合材料及びポリオレフィンエラストマー(B)等に含まれる共重合体の組成の比率である。ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれる共重合体の組成の比率は、重合体(I)と重合体(II)との比率としてもよい。
【0113】
構成成分の種類毎の特性値及び構造値は、構成成分が高分子である場合、高分子の特性又は構造を示すパラメータを含むことが好ましい。そのため、特性値及び構造値は、高分子であるテロファジックプロピレン重合材料及びポリオレフィンエラストマー(B)等の特性又は構造を示すパラメータとして、例えば、これらの分子量及び共重合体の単量体単位比率と相関するパラメータ等を含んでよい。
【0114】
分子量と相関するパラメータとして、例えば、極限粘度及びメルトフローレート(MFR)等が挙げられる。
【0115】
共重合体の単量体単位比率と相関するパラメータとして、例えば、密度及びガラス転移温度等が挙げられる。
【0116】
構成成分の特性値及び構造値の少なくとも一方は、構成成分の種類毎の平均値を含むことが好ましく、構成成分の種類毎の特性値は、平均特性値を含み、構成成分の種類毎の構造値は、平均構造値を含むことが好ましい。
【0117】
即ち、構成成分の分子量、構成成分の含有量、構成成分の極限粘度、構成成分に含まれる共重合体の単量体単位比率、共重合体の組成の比率は、それぞれ、構成成分の平均分子量、構成成分の平均含有量、構成成分の平均極限粘度、構成成分に含まれる共重合体の平均単量体単位比率、共重合体の組成の平均比率としてよい。
【0118】
特性値及び構造値の平均値を用いると、高分子複合材料の構成成分として1つの高分子を含む場合と、2つ以上の高分子を含む場合とで、学習に用いる高分子複合材料の記述子を含むパラメータの数を揃えることができるため、学習済みモデルM1の予測精度が向上する場合がある。例えば、学習用データセットに2つのプロピレン材料を含む高分子複合材料が存在し、第1の成分の特性値及び構造値と、第2の成分の特性値及び構造値を高分子複合材料の記述子を含むパラメータとして用いる。この場合、他の学習用データセットに1つのプロピレン材料を含む高分子複合材料が存在する場合には、該材料の第2の成分は存在しないので、第2の成分の特性値及び構造値は欠損データとなる。学習に用いる高分子複合材料の記述子を含むパラメータに欠損データがある場合、得られる学習済みモデルの予測精度は低下する。このような場合、高分子複合材料の記述子を含むパラメータとして各成分毎の特性値及び構造値の平均値を用いる。これにより、2つのプロピレン材料を含む高分子複合材料と、1つのプロピレン材料を含む高分子複合材料とで、対応する記述子を含むパラメータの数を揃えることができ、学習データに欠損を生じないため、学習済みモデルの予測精度が向上する。
【0119】
高分子複合材料の記述子は、追加の記述子として、算出した上記の各成分の特性値又は構造値(平均特性値又は平均構造値)と質量比率との交差項を含んでよい。なお、各成分の特性値又は構造値は、これらの平均特性値又は平均構造値でもよい。即ち、高分子複合材料の記述子は、追加の記述子として、算出した上記の各成分の特性値又は構造値と質量比率との積を合算した値を含んでよい。
【0120】
なお、交差項は、説明変数である、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ同士の間の交互作用(いわゆる相乗効果)を表現するのに有効である。非線形モデルを用いる場合は必ずしも含める必要はないが、学習データセット内のデータ数が少ない場合には、精度向上に寄与する場合があるため、交差項を用いることが好ましい。交差項を作る高分子複合材料の記述子は、目的変数である高分子複合材料の物性に対して効くと思われる記述子の組み合わせを適宜選択してもよいし、全てのパターンを試して予測精度が高い組み合わせを選択してもよい。
【0121】
高分子複合材料の物性としては、成形性(流動性)、剛性、耐衝撃性、光沢性等が挙げられる。なお、成形性は、高分子複合材料のMFR等で評価できる。耐衝撃性は、常温又は低温におけるIZOD衝撃強度で評価できる。
【0122】
前処理部12は、取得した高分子複合材料の記述子を含むパラメータ(説明変数)及び高分子複合材料の物性(目的変数)の前処理を行う。なお、学習装置1は、取得部11で、予め前処理された、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ及び高分子複合材料の物性が取得される場合、前処理部12を備えなくてもよい。
【0123】
前処理部12は、取得部11で取得した高分子複合材料が重複する場合、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ及び高分子複合材料の物性の重複する値は、平均値(中央値)を算出してよい。
【0124】
前処理部12は、高分子複合材料の記述子を含むパラメータとして、高分子複合材料の種類毎の特性値及び構造値の平均値を算出してよい。
【0125】
学習用データセット作成部13は、前処理された、高分子複合材料の記述子を含むパラメータを説明変数として、高分子複合材料の物性を目的変数として、それぞれ抽出して、学習用データセットに加える。学習用データセット作成部13は、入力された、高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性を紐付けて、学習用データセットを作成する。
【0126】
なお、前処理部12で、高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性の前処理が行われない場合には、学習用データセット作成部13は、取得部11で取得した、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ(説明変数)と高分子複合材料の物性(目的変数)をそれぞれ抽出して、学習用データセットに加えてよい。
【0127】
学習部14は、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ(説明変数)と、高分子複合材料の物性(目的変数)とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習することで、学習済みモデルM1を生成する。
【0128】
学習済みモデルM1は、不図示の記憶部に記憶されている学習用データセット(学習用データテーブル)を利用して予め機械学習が行われた学習済みモデルであり、記憶部に記憶されている学習用データセットを利用して機械学習が行われることで得られる、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ(説明変数)と高分子複合材料の物性(目的変数)との対応関係の学習結果が適用される。学習済みモデルM1は、高分子複合材料の記述子を含むパラメータを説明変数として入力データとし、高分子複合材料の物性を目的変数として出力データとし、高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性との入出力関係をモデル化するためのプログラムである。なお、学習済みモデルM1は、関数等の数式で表してもよい。
【0129】
学習済みモデルM1は、機械学習の中でも、教師あり学習のアルゴリズムを適用することが好ましい。教師あり学習として、例えば、線形回帰(Linear regression)、正則化回帰(Regularized Regression)、部分的最小二乗回帰、多項式回帰、カーネル回帰(Kernel Regression)、ロジスティック回帰(Logistic regression)、ランダムフォレスト(Random Forest)、勾配ブースティング回帰木(Gradient Boosting Regression Tree)、サポートベクターマシン(Support Vector Machine、SVM)、ニューラルネットワーク(Neural Network)等が挙げられる。ニューラルネットワークは、ニューラルネットワークを3層よりも多層にした深層学習(ディープラーニング)を用いることができる。ニューラルネットワークの種類としては、例えば、畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network、CNN)、回帰型(再帰型)ニューラルネットワーク(Recurrent Neural Network、RNN)及び一般回帰ニューラルネットワーク(General Regression Neural Network)等を用いることができる。
【0130】
表示部15は、学習済みモデルM1の学習において用いられる学習用データセットの情報と、学習済みモデルM1に関する情報等を表示する。
【0131】
学習装置1は、1つの学習済みモデルM1で高分子複合材料の1つの特性を出力する。このため、学習装置1は、出力する高分子複合材料の物性毎に、それぞれの高分子複合材料の物性に応じた学習済みモデルM1を有することが好ましい。
【0132】
このように、学習装置1は、学習部14を備えるため、高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルM1を生成できる。学習装置1により生成される学習済みモデルM1は、入力される、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから、高分子複合材料の物性を予測する。
【0133】
また、学習装置1は、学習済みモデルM1を生成できるため、学習装置1を用いることで、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから高分子複合材料の物性の予測に要する負担の軽減及び時間の削減を図ることができる。即ち、高分子複合材料を製造する際、高分子複合材料の用途等に応じて、成形性等の任意の特性を満たす高分子複合材料を製造するために、実際に、実験で、様々な高分子を含む高分子複合材料を製造してその物性の測定等が行われる。こうした工程が行われることで、高分子複合材料の製造に有効な高分子の種類及び組成物の組成等が決定されるため、非常に多くの労力を要すると共に、様々な材料の準備のため、費用の負担が大きかった。本実施形態に係る学習装置1は、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから高分子複合材料の物性を予測するために用いることで、高分子複合材料の物性の予測を、負担を減らしつつ効率的に行うことができる。よって、学習装置1は、高分子複合材料の物性を予測する際のエネルギー消費の低減を図ることができる。
【0134】
<予測装置>
本実施形態に係る予測装置について説明する。
図3は、本実施形態に係る予測装置の構成を示すシステム構成図である。
図3に示すように、予測装置2は、取得部21、前処理部22、学習済みモデルM2、予測部23及び表示部24を備える。予測装置2は、高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する。
【0135】
取得部21は、予測対象の、高分子複合材料の記述子を含むパラメータを説明変数として取得する。高分子複合材料の記述子を含むパラメータは、上述の学習装置1で取得する高分子複合材料の記述子を含むパラメータと同様であるため、説明は省略する。
【0136】
前処理部22は、学習装置1の前処理部12と同様であるため、説明は省略する。
【0137】
学習済みモデルM2は、予め準備した、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ(説明変数)と、高分子複合材料の物性(目的変数)とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習されたものである。学習済みモデルM2は、上記の学習装置1で生成した学習済みモデルM1を用いることができる。
【0138】
予測部23は、学習済みモデルM2に、取得部21により取得された予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを入力することで、学習済みモデルM2により予測された、予測対象の高分子複合材料の物性を出力する。即ち、予測部23は、1つの学習済みモデルM2から、予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータに対応した、予測対象の高分子複合材料の1種類の物性を予測する。
【0139】
また、予測部23は、複数の学習済みモデルM2を用いることにより、予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータに対応した、予測対象の高分子複合材料の物性を含む群を予測してよい。例えば、予測部23は、予測対象の高分子複合材料の質量比率、特性値及び構造値等に対応した、予測対象の高分子複合材料の複数の物性の予測値を予測してよい。ここでは、同一の記述子を含むパラメータを入力として、それぞれの学習済みモデルからそれぞれの物性の予測値を得ても良く、同一の予測対象の高分子複合材料から、各学習済みモデルに対応した個別の前処理部を経由してもよい。
【0140】
また、予測部23は、複数の、予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータに対応した、予測対象の高分子複合材料の物性を含む群を予測してよい。
【0141】
表示部24は、学習済みモデルM2により予測された、高分子複合材料の物性を目的変数として表示する。
【0142】
このように、予測装置2は、予測部23を備え、予測部23において、学習済みモデルM2により、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから、高分子複合材料の物性を予測できる。よって、予測装置2は、入力される、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから、高分子複合材料の物性を予測できる。
【0143】
また、予測装置2は、予測部23を備えることで、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから高分子複合材料の物性の予測に要する負担の軽減及び時間の削減を図りつつ、高分子複合材料の物性を予測できる。よって、予測装置2は、高分子複合材料の物性を効率的に予測できるため、高分子複合材料の物性を予測する際のエネルギー消費の低減を図ることができる。
【0144】
なお、上記の学習装置1及び予測装置2は、学習システム及び予測システムとして構成されてもよい。即ち、学習装置1は、各構成を装置内に備えた、PC(Personal Computer)等の単独の装置としているが、各構成の1つ以上は装置の外側に配置してネットワークを介して接続されてもよい。
【0145】
例えば、学習用データセットはクラウド上に設けられてもよい。この場合、学習装置1は、ネットワークを介して接続される学習用データセットにより学習システムとして構成される。
【0146】
同様に、予測装置2も、各構成の1つ以上は装置の外側に配置してネットワークを介して接続されてもよい。
【0147】
<学習装置及び予測装置のハードウェア構成>
次に、学習装置1及び予測装置2のハードウェア構成の一例について説明する。
図4は、学習装置1及び予測装置2のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4に示すように、学習装置1及び予測装置2は、情報処理装置(コンピュータ)で構成され、物理的には、演算処理部であるCPU(Central Processing Unit:プロセッサ)101、主記憶装置であるRAM(Random Access Memory)102及びROM(Read Only Memory)103、入力デバイスである入力装置104、出力装置105、通信モジュール106並びにハードディスク等の補助記憶装置107等を含むコンピュータシステムとして構成することができる。これらは、バス108で相互に接続されている。なお、出力装置105及び補助記憶装置107は、外部に設けられていてもよい。
【0148】
CPU101は、学習装置1及び予測装置2の全体の動作を制御し、各種の情報処理を行う。CPU101は、ROM103又は補助記憶装置107に格納された、例えば後述する学習方法及び予測方法、又は学習プログラム及び予測プログラムを実行して、学習及び予測を行うことができる。
【0149】
RAM102は、CPU101のワークエリアとして用いられ、主要な制御パラメータや情報を記憶する不揮発RAMを含んでもよい。
【0150】
ROM103は、基本入出力プログラム等を記憶する。触媒の選択プログラムはROM103に保存されてもよい。
【0151】
入力装置104は、キーボード、マウス、操作ボタン、タッチパネル、表示画面等の入力デバイスであり、使用者に入力された情報を指示信号として受け付け、その指示信号をCPU101に出力する。
【0152】
出力装置105は、モニタディスプレイ等の表示装置、スピーカー、プリンタ等の印刷装置等である。出力装置105では、例えば、モニタディスプレイ等の表示装置に触媒の選択結果等の情報が表示され、入力装置104や通信モジュール106を介した入力操作に応じて表示する画面が更新される。
【0153】
通信モジュール106は、ネットワークカード等のデータ送受信デバイスであり、外部のデータ収録サーバ等からの情報を取り込み、他の電子機器に解析情報を出力する通信インタフェースとして機能する。
【0154】
補助記憶装置107は、SSD(Solid State Drive)、及びHDD(Hard Disk Drive)等の記憶装置であり、例えば、学習装置1及び予測装置2の動作に必要な各種のデータ、ファイル等を格納する。
【0155】
学習装置1及び予測装置2の各機能は、RAM102等の主記憶装置又は補助記憶装置107から所定のコンピュータソフトウェア(触媒の選択プログラムを含む)を読み込ませ、CPU101により実行することで、RAM102等の主記憶装置又は及び補助記憶装置107等におけるデータの読み出し及び書き込みを行うと共に、入力装置104、出力装置105及び通信モジュール106を動作させることで実現される。
【0156】
よって、
図2及び
図3に示す、学習装置1及び予測装置2の各部は、学習装置1及び予測装置2を備えたコンピュータにおいて、プロセッサが予め記憶されている所定のコンピュータソフトウェア(学習プログラム及び予測プログラムを含む)を実行することで、ソフトウェア及びハードウェアが協働して実現される。
【0157】
学習プログラム及び予測プログラムは、例えばコンピュータが備える主記憶装置又は補助記憶装置107内に格納させておくことができる。また、学習プログラム及び予測プログラムは、インターネット等の通信回線に接続されたコンピュータ上に格納し、触媒の選択プログラムの一部又は全部を通信回線を介してダウンロードさせることで提供してもよい。さらに、学習プログラム及び予測プログラムは、通信回線を介して提供又は配布するように構成してもよい。
【0158】
学習プログラム及び予測プログラムは、その一部又は全部が、CD-ROM及びDVD-ROM等の光ディスク、フラッシュメモリ等の半導体メモリ等、持ち運び可能な記憶媒体に格納された状態から、コンピュータ内に記録(インストールを含む)してもよい。
【0159】
<学習方法>
次に、本実施形態に係る学習方法について説明する。本実施形態に係る学習方法は、
図2に示すような構成を有する学習装置1において、高分子複合材料の記述子を含むパラメータ(説明変数)と高分子複合材料の物性(目的変数)とが対応付けられた学習用データセットを用いて、高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する方法である。
【0160】
図5は、本実施形態に係る学習方法を説明するフローチャートである。
図5に示すように、取得部11により、高分子複合材料の記述子を含むパラメータを説明変数として取得すると共に、高分子複合材料の物性を目的変数として取得する(取得工程:ステップS11)。
【0161】
次に、前処理部12により、取得した高分子複合材料の記述子を含むパラメータ及び高分子複合材料の物性の前処理を行う(前処理工程:ステップS12)。
【0162】
次に、学習用データセット作成部13により、前処理された、高分子複合材料の記述子を含むパラメータを説明変数とし、高分子複合材料の物性を目的変数としてとして、それぞれ抽出して、学習用データセットに加える(学習用データセットの作成工程:ステップS13)。
【0163】
学習用データセット作成部13は、入力された、高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性を紐付けて、学習用データセットを作成する。
【0164】
次に、学習部14により、高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて、学習済みモデルM1を生成する(学習工程:ステップS14)。
【0165】
学習部14は、学習用データセットに含まれる、高分子複合材料の記述子を含むパラメータの入力に応じて、高分子複合材料の記述子を含むパラメータに紐付けられた高分子複合材料の物性と合致した出力となるように、学習済みモデルM1を生成する。
【0166】
次に、表示部15により、学習済みモデルM1の学習において用いられる学習用データの情報と、学習済みモデルM1に関する情報とが表示される(表示工程:ステップS15)。
【0167】
本実施形態に係る学習方法は、学習工程(ステップS13)を含むことで、高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルM1を生成できる。よって、本実施形態に係る学習方法は、学習工程(ステップS13)において生成した学習済みモデルM1を用いることで、入力される、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから、高分子複合材料の物性を予測するように学習させることができる。
【0168】
また、本実施形態に係る学習方法は、学習工程(ステップS13)を含み、学習工程(ステップS13)において、学習済みモデルM1を生成できる。このため、本実施形態に係る学習方法を用いれば、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから高分子複合材料の物性を予測するために用いることで、高分子複合材料の物性の予測に要する負担の軽減及び時間の削減を図ることができる。よって、本実施形態に係る学習方法を用いれば、高分子複合材料の物性を予測する際のエネルギー消費の低減を図ることができる。
【0169】
<予測方法>
次に、本実施形態に係る予測方法について説明する。本実施形態に係る予測方法は、
図3に示すような構成を有する予測装置2において、学習済みモデルM2により、予測対象の高分子複合材料の物性を予測する方法である。
【0170】
図6は、本実施形態に係る予測方法を説明するフローチャートである。
図6に示すように、取得部21により、予測対象の、高分子複合材料の記述子を含むパラメータを説明変数として取得する(取得工程:ステップS21)。
【0171】
次に、前処理部12により、取得した高分子複合材料の記述子を含むパラメータの前処理を行う(前処理工程:ステップS22)。
【0172】
次に、予測部23により、学習済みモデルM2に、前処理された、予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを入力することで、学習済みモデルM2により予測された、予測対象の高分子複合材料の物性を出力する(予測工程:ステップS24)。
【0173】
次に、表示部24により、予測工程S23において、学習済みモデルM2により予測された、高分子複合材料の物性に関する情報が表示される(表示工程:ステップS24)。
【0174】
本実施形態に係る予測方法は、予測工程(ステップS24)を含むことで、学習済みモデルM2により、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから、高分子複合材料の物性を目的変数として予測できる。よって、本実施形態に係る予測方法は、入力される、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから、高分子複合材料の物性を予測できる。
【0175】
また、本実施形態に係る予測方法は、予測工程(ステップS24)を含むことで、高分子複合材料の記述子を含むパラメータから高分子複合材料の物性の予測に要する負担の軽減及び時間の削減を図りつつ、高分子複合材料の物性を予測できる。よって、本実施形態に係る学習方法は、高分子複合材料の物性を効率的に予測できるため、高分子複合材料の物性を予測する際のエネルギー消費の低減を図ることができる。
【実施例】
【0176】
以下、実施例を示して実施形態を更に具体的に説明するが、実施形態はこれらの実施例及び比較例により限定されるものではない。
【0177】
<実施例1>
(1)学習用データセットの生成
後述する学習装置で用いる学習用データセットを以下の手順により生成した。なお、本実施例では、高分子複合材料に含まれるプロピレン系重合体(A)として、ヘテロファジックプロピレン重合材料を用いた。
【0178】
(ポリプロピレン原料の特性の取得)
学習用データセットに用いるポリプロピレン原料の特性である、ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれる重合体(I)の極限粘度(以下、「P部極限粘度」という)と、ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれる重合体(II)の極限粘度(以下、「EP部極限粘度」という)と、ヘテロファジックプロピレン重合材料100質量%におけるヘテロファジックプロピレン重合材料中の重合体(II)の含有量(以下、「EP含量」という)(単位:質量%)と、重合体(II)100質量%における重合体(II)に含まれるエチレンに由来する構造単位の含有量(以下、「EP中のエチレン量」という。)(単位:質量%)について、それぞれ、下記のように、測定した。また、ポリオレフィンエラストマーの特性である、極限粘度について、下記のように測定した。
【0179】
(極限粘度η(単位:dL/g))
試料(ヘテロファジックプロピレン重合材料、及び、ヘテロファジックプロピレン重合材料に含まれる重合体(I))であるプロピレン重合パウダーのテトラリン溶液(濃度:0.1g/dL、0.2g/dL、0.5g/dLの3種類)を調製した後、ウベローデ型粘度計を用いて、135℃で、テトラリン溶液の還元粘度を測定した。オレフィン重合体の極限粘度は、「高分子溶液、高分子実験学11」(1982年共立出版株式会社刊)第491頁に記載の計算方法にしたがい、還元粘度を濃度に対しプロットし、濃度をゼロに外挿する外挿法によって求めた。
【0180】
EP部極限粘度は、以下の方法により求めた。
上述の方法で実測したP部極限粘度を[η]Iとした。ヘテロファジックプロピレン重合材料の極限粘度を[η]Totalとした。後述の方法で算出したEP含量をXIIとした。EP部極限粘度[η]IIは、下記式から計算して求めた。
[η]II=100{[η]Total-[η]I(100-XII)/100}/XII
【0181】
(EP含量)
EP含量XIIは下記式により求めた。
XII=100{(1-(ΔHf)Total)/(ΔHf)I}
ただし、重合体(I)の融解熱量(J/g)を(ΔHf)Iとし、ヘテロファジックプロピレン重合材料の融解熱量(J/g)を(ΔHf)Totalとする。
【0182】
(EP中のエチレン量)
赤外線吸収スペクトル法によりヘテロファジックプロピレン重合材料中のエチレン量(C2)Total(単位:質量%)を求めた。EP中のエチレン量は下記式から計算して求めた。
EP中のエチレン量=100(C2)Total/XII
【0183】
(高分子複合材料の記述子の算出)
高分子複合材料の記述子として、高分子複合材料の原料の種類毎の平均構造値、質量比率、平均構造値と質量比率との積をそれぞれ下記に従って算出した。
【0184】
((ヘテロファジックプロピレン重合材料に関する記述子))
ヘテロファジックプロピレン重合材料A-i(i=1、2・・・n)のそれぞれの特性値に、P部含量Pcont、P部極限粘度ηp,i、EP部極限粘度ηep,i、EP含量EPcont,i、EP部のエチレン量C2EP,iの5つの記述子を用いた。
【0185】
((ポリオレフィンエラストマーに関する記述子))
ポリオレフィンエラストマーB-i(i=1、2・・・n)のそれぞれの特性値に、極限粘度ηpoe,i、対数化MFRlogMFRpoe,iの3つの記述子を用いた。
【0186】
((その他の成分の質量比率の合計値に関する記述子))
無機充填材、造核剤、過酸化物のそれぞれについて、質量比率の合計値を算出した。
【0187】
(平均構造値の算出)
((ヘテロファジックプロピレン重合材料に関する記述子の平均構造値))
ヘテロファジックプロピレン重合材料A-i(i=1、2・・・n)の特性値として用いた5つの記述子の平均構造値は、下記に示す通り算出した。
・av.Pcont=Σ_i(100-EPcont,i)×XAi/100
・av.EPcont=Σ_iEPcont,i×XAi/100
・av.ηp={Σ_iηp,i×(100-EPcont,i)×XAi/100}/av.Pcont
・av.ηep={Σ_i ηep,i×EPcont,i×XAi/100}/av.EPcont
・av.C2EP={Σ_i C2EP,i×EPcont,i×XAi/100}/av.EPcont
【0188】
((ポリオレフィンエラストマーに関する記述子の平均構造値))
ポリオレフィンエラストマーB-i(i=1、2・・・n)のそれぞれの特性値として用いた3つの記述子の平均構造値を算出した。
・av.POEcont=Σ_iXBi
・av.ηpoe={Σ_iηpoe,i×POEcont,i×XBi/100}/av.POEcont
・av.logMFRpoe={Σ_i logMFRpoe,i×POEcont,i×XBi/100}/av.POEcont
【0189】
((組成物中のゴム成分の量))
組成物中のゴム成分の量(av.RubberCont)を、下記式より、算出した。
av.RubberCont=av.EPcont+av.POEcont
【0190】
(交差項)
追加の記述子として、算出した上記の各成分の平均構造値と質量比率との積を、下記式の通り算出した。
av.ηp×Pcont、av.ηep×EPcont、av.C2EP×EPcont、av.ηpoe×POEcont、av.logMFRpoe×POEcont
【0191】
(高分子複合材料の記述子の計算)
用いた高分子複合材料の記述子の計算結果を示す。高分子複合材料として、ヘテロファジックプロピレン重合材料A-1、ヘテロファジックプロピレン重合材料A-2、ポリオレフィンエラストマーB-1、ポリオレフィンエラストマーB-2、無機充填材であるタルクC、造核剤D及び過酸化物Eからなり、それぞれの重量比がA-1:A-2:B-1:B-2:C:D:E=25:25:15:15:20:0.1:0.15である組成物の記述子を算出した。但し、A~Cの合計を100質量部とした。それぞれの原料の特性は、それぞれ下記の通りとした。
A-1:ηp=1.0、ηep=2.0、EP含量=30%、C2'/EP=50%
A-2:ηp=1.2、ηep=6.0、EP含量=10%、C2'/EP=30%
B-1:ηpoe=1.0、logMFR=1.00
B-2:ηpoe=1.2、logMFR=0.58
【0192】
まず、下記に示す12種類の記述子を算出した。
(A).ヘテロファジックプロピレン重合材料について(A~Cの合計を100質量部とした。)
(A-1).組成物中のP部の含量av.Pcont=(100-30)×25/100+(100-10)×25/100=40.0
(A-2).組成物中のEP部の含量av.EPcont=30×25/100+10×25/100=10.0
(A-3).P部の平均極限粘度av.ηp={1.0×(100-30)×25/100+1.2×(100-10)×25/100}/40.0=1.1125
(A-4).EP部の平均極限粘度av.ηep={2.0×30×25/100+6.0×10×25/100}/10.0=3.0
(A-5).EP部の平均C2'/EP av.C2EP={50×30×25/100+30×10×25/100}/10.0=45.0
(B).ポリオレフィンエラストマーについて(A~Cの合計を100質量部とした。)
(B-1).組成物中のポリオレフィンエラストマーの含量av.POEcont=15+15=30.0
(B-2).ポリオレフィンエラストマーの平均極限粘度av.ηpoe=(1.0×15+1.2×15)/30=1.1
(B-3).ポリオレフィンエラストマーの平均対数MFR av.logMFRpoe=((B-1のlogMFR)×15+(B-2のlogMFR)×15)/30=0.79
(C).無機充填材について
組成物中の無機充填材の含量fillerCont=20
(D).造核剤について
組成物中の造核剤の含量NuCont=0.1
(E).過酸化物について
組成物中の過酸化物の含量NuCont=0.15
(F).組成物中のゴム成分について
組成物中のゴム成分の含量RubberCont=10.0+30.0=40.0
【0193】
続いて、追加の記述子として、組成物中の含量と平均構造値の積からなる5種類の交差項を下記の通り算出した。
(A).av.ηp×Pcont=1.1125×40=44.5
(B).av.ηep×EPcont=3.0×10=30
(C).av.C2EP×EPcont=45.0×10=450
(D).av.ηpoe×POEcont=1.1×30=33
(E).av.logMFRpoe×POEcont=0.79×30=23.7
【0194】
(高分子複合材料の物性の取得)
WO2020/149284に記載の方法に従って、高分子複合材料を2軸押出することによって高分子複合材料を得た。高分子複合材料の物性値として、射出成型品の曲げ弾性率、常温におけるIZOD衝撃強度(常温IZOD衝撃強度)及び低温におけるIZOD衝撃強度(低温IZOD衝撃強度)と、複合材料のMFRを測定した。
【0195】
(学習用データセットの作成)
算出した高分子複合材料の記述子を含むパラメータと、高分子複合材料の物性である、曲げ弾性率、常温IZOD衝撃強度、低温IZOD衝撃強度及びMFRとを対応付けて、学習用データセットを作成した。
【0196】
(学習済みモデルの生成)
そして、
図2に示した学習装置1を用いて、学習済みモデルM1を生成した。
【0197】
(2)学習装置
(2-1)前処理部
生成した学習用データセットにおいて、複合材料の記述子を含むパラメータが重複するデータについて、複合材料の物性値の中央値を代表値として用い、複合材料の記述子を含むパラメータがそれぞれ相異なるデータを有するデータセットへと変換した。続いて、下記に示す標準化処理を行った。
【0198】
(2-2)学習部
前処理部で前処理を行った学習用データセットを用いて、学習部において学習し、学習済みモデルを生成した(学習工程)。
【0199】
学習済みモデルとして、高分子複合材料の、曲げ弾性率予測用の学習済みモデルと、常温IZOD衝撃強度予測用の学習済みモデルと、低温IZOD衝撃強度予測用の学習済みモデルと、MFR予測用の学習済みモデルとを生成した。
【0200】
(曲げ弾性率予測用の学習済みモデルの生成)
表1に示す個数の学習用データセットについて、前処理部で標準化処理を行い、5×5二重交差検証法によってデータセットを学習用データセット・検証用データセットに分割し、ハイパーパラメータの最適化と学習済みモデルの予測精度の検証を行った。
【0201】
【0202】
そして、回帰式構築用データを用い、サポートベクトル回帰(Support Vector Regression;SVR)により学習済みモデルを構築した。カーネル関数は動径基底関数を用いた。生成した学習済みモデルには、学習プログラムが含まれており、学習プログラムにはPython(登録商標)をプログラム言語として用いた。また、機械学習ライブラリであるScikit-learnを用いた。
【0203】
図7に、実際の曲げ弾性率の実測値(単位:MPa)と、検証用データを用いて、回帰式構築用データで構築された学習済みモデルにより予測された曲げ弾性率の予測値(単位:MPa)との関係を表す。なお、実際の曲げ弾性率と予測された曲げ弾性率との間の決定係数R
2=0.96であった。決定係数R
2は、5×5二重交差検証法によって得た。実際の極限粘度(η)と予測された極限粘度(η)との間の平均絶対誤差RMSE(Root Mean Square Error)は、90MPaであり、最適ハイパーパラメータは、Cが73であり、εが0.07であり、γが0.009であった。ここで、Cは正則化パラメータであり、εはサポートベクトル回帰の不感帯の幅を示すパラメータであり、γは動径基底関数カーネルにおける広がりを示すパラメータである。
【0204】
(常温IZOD衝撃強度用、低温IZOD衝撃強度用及びMFR用の学習済みモデルの生成と、常温IZOD衝撃強度、低温IZOD衝撃強度及びMFRの予測)
常温IZOD衝撃強度、低温IZOD衝撃強度及びMFRについても、曲げ弾性率と同様に計算した。それぞれの予測結果を
図8~
図10に示す。
【0205】
図8に、実際の常温IZOD衝撃強度の実測値(単位:kJ/m
2)と、検証用データを用いて、回帰式構築用データで構築された学習済みモデルにより予測された常温IZOD衝撃強度の予測値(単位:kJ/m
2)との関係を表す。決定係数R
2は、0.72であり、RMSEは、8.9kJ/m
2であり、最適ハイパーパラメータは、Cが16であり、εが0.06であり、γが0.01であった。
【0206】
図9に、実際の低温IZOD衝撃強度の実測値(単位:kJ/m
2)と、検証用データを用いて、回帰式構築用データで構築された学習済みモデルにより予測された低温IZOD衝撃強度の予測値(単位:kJ/m
2)との関係を表す。決定係数R
2は、0.77であり、RMSEは、0.6kJ/m
2であり、最適ハイパーパラメータは、Cが7であり、εが0.04であり、γが0.08であった。
【0207】
図10に、実際のMFRの実測値と、検証用データを用いて、回帰式構築用データで構築された学習済みモデルにより予測されたMFRの予測値との関係を表す。なお、MFRは、対数化して、logMFRとして出力した。決定係数R
2は、0.95であり、RMSEは、0.05であり、最適ハイパーパラメータは、Cが17であり、εが0.002であり、γが0.05であった。
【0208】
図7~
図10より、曲げ弾性率、常温IZOD衝撃強度、低温IZOD衝撃強度及びMFRについて、精度の良い学習済みモデルが得られていることが確認できた。
【0209】
(3)予測装置
図2に示す学習装置1で生成した学習済みモデルを用いて、
図3に示す予測装置2を作製した。作製した予測装置により高分子複合材料の物性を予測した。予測結果と比較するため、対応する高分子複合材料を用いて成形体を作製し、評価した。実験的に高分子複合材料の合成及び評価を行った例を合成例として、既述の学習済みモデルを用いて高分子複合材料の物性の予測を行った例を利用例とした。
【0210】
(3-1)合成例1及び利用例1
(合成例1)高分子複合材料の合成
次に示す原料からなる高分子複合材料を実際に合成し、その物性を測定した。高分子複合材料の合成及び物性測定はWO2020/149284に記載の方法に従った。
A-3(58質量部):ηp=0.79、ηep=7.0、EP含量=11%、C2'/EP=32%
B-3(19質量部):ηpoe=2.1、logMFR=-0.70
B-4(8質量部):ηpoe=1.5、logMFR=0.04
C-1(15質量部):タルク MW-UPN-TT-H(林化成)
造核剤(0.1質量部):アデカスタブNA-25(アデカ)
物性は、下記のとおりであった。
曲げ弾性率:1440MPa
常温IZOD衝撃強度:39kJ/m2
低温IZOD衝撃強度:5.8kJ/m2
対数化MFR:1.35(対数化前の実測値:22.4g/10分)
【0211】
(利用例1)高分子複合材料の特性の予測
既述の予測装置を用いて、高分子複合材料の物性値として、曲げ弾性率、常温IZOD衝撃強度、低温IZOD衝撃強度及びMFRを予測した。曲げ弾性率の予測値は、1480MPaであり、常温IZOD衝撃強度の予測値は、44kJ/m2であり、低温IZOD衝撃強度の予測値は、5.5kJ/m2であり、対数化MFRの予測値は、1.40(実測値換算:25.1g/10分)であった。
【0212】
なお、学習済みモデルには、予測対象となる高分子複合材料の記述子を含むパラメータを入力しており、高分子複合材料の記述子を含むパラメータは、学習済みモデルを生成する際の高分子複合材料の記述子を含むパラメータと同様にして算出した。
【0213】
以上の通り、実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、上記実施形態により本発明が限定されるものではない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の組み合わせ、省略、置き換え、変更等を行うことが可能である。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0214】
なお、本発明の実施形態の態様は、例えば、以下の通りである。
<1> 高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する学習装置であって、
前記高分子複合材料の記述子を含むパラメータと前記高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習することで、前記学習済みモデルを生成する学習部を有し、
前記高分子複合材料の記述子が、前記高分子複合材料に含まれる構成成分の質量比率と、前記構成成分の特性値及び構造値の少なくとも一方とを含む学習装置。
<2> 前記特性値及び前記構造値の少なくとも一方が、前記構成成分の種類毎の平均値を含む<1>に記載の学習装置。
<3> 前記質量比率が、前記構成成分の種類毎の平均値を含む<1>又は<2>に記載の学習装置。
<4> 前記特性値が、少なくとも一種の前記高分子の極限粘度を含む<1>~<3>の何れか一つに記載の学習装置。
<5> 前記構造値が、前記高分子の分子量を含む<1>~<4>の何れか一つに記載の学習装置。
<6> 前記高分子が二種類以上の単量体単位を含む共重合体を含み、
前記構造値が前記共重合体の単量体単位比率を含む<1>~<5>の何れか一つに記載の学習装置。
<7> 前記高分子複合材料が、プロピレン系重合体と、ポリオレフィンエラストマーとを含む<1>~<6>の何れか一つに記載の学習装置。
<8> 前記プロピレン系重合体が、プロピレンに由来する単量体単位とエチレンに由来する単量体単位とを含む共重合体を含み、
前記構造値が、前記共重合体中のエチレンに由来する単量体単位比率を含む<7>に記載の学習装置。
<9> 高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する予測装置であって、
予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを取得する取得部と、
高分子複合材料の記述子を含むパラメータと高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習された学習済みモデルに、前記取得部により取得された前記予測対象の高分子複合材料の記述子を含むパラメータを入力することで、前記学習済みモデルにより予測された、前記予測対象の高分子複合材料の物性を出力する予測部と、
を有し、
前記高分子複合材料の記述子が、前記高分子複合材料に含まれる前記構成成分の質量比率と、前記構成成分の特性値及び構造値の少なくとも一方とを含む予測装置。
<10> 前記特性値及び前記構造値の少なくとも一方が、構成成分の種類毎の平均値を含む<9>に記載の予測装置。
<11> 前記質量比率が、前記構成成分の種類毎の平均値を含む<9>又は<10>に記載の予測装置。
<12> 前記構造値が、前記高分子の分子量を含む<9>~<11>の何れか一つに記載の予測装置。
<13> 前記高分子が二種類以上の単量体単位を含む共重合体を含み、
前記構造値が前記共重合体の単量体単位比率を含む<9>~<12>の何れか一つに記載の予測装置。
<14> 前記高分子複合材料が、プロピレン系重合体と、ポリオレフィンエラストマーとを含む<9>~<13>の何れか一つに記載の予測装置。
<15> 前記プロピレン系重合体が、プロピレンに由来する単量体単位とエチレンに由来する単量体単位とを含む共重合体を含み、
前記構造値が、前記共重合体中のエチレンに由来する単量体単位比率を含む<14>に記載の予測装置。
【符号の説明】
【0215】
1 学習装置
2 予測装置
11、21 取得部
12、22 前処理部
13 学習用データセット作成部
14 学習部
15、24 表示部
23 予測部
34 設定部
35 比較部
36 判定部
37 最適化部
M1、M2 学習済みモデル
【要約】
【課題】高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する学習装置を提供する。
【解決手段】本発明に係る学習装置は、高分子を含む高分子複合材料の物性を予測する学習済みモデルを生成する学習装置であって、前記高分子複合材料の記述子を含むパラメータと前記高分子複合材料の物性とが対応付けられた学習用データセットを用いて学習することで、前記学習済みモデルを生成する学習部を有し、前記高分子複合材料の記述子が、前記高分子複合材料に含まれる構成成分の質量比率と、前記構成成分の特性値及び構造値の少なくとも一方とを含む。
【選択図】
図2