(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ビームエキスパンダの良否判定方法
(51)【国際特許分類】
B23K 26/035 20140101AFI20231207BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20231207BHJP
G02B 7/00 20210101ALI20231207BHJP
【FI】
B23K26/035
B23K26/00 Q
G02B7/00 A
G02B7/00 D
(21)【出願番号】P 2023032097
(22)【出願日】2023-03-02
(62)【分割の表示】P 2022191843の分割
【原出願日】2022-11-30
【審査請求日】2023-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2022052255
(32)【優先日】2022-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000151494
【氏名又は名称】株式会社東京精密
(74)【代理人】
【識別番号】100083116
【氏名又は名称】松浦 憲三
(74)【代理人】
【識別番号】100170069
【氏名又は名称】大原 一樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128635
【氏名又は名称】松村 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100140992
【氏名又は名称】松浦 憲政
(72)【発明者】
【氏名】相川 力
(72)【発明者】
【氏名】森本 喬
(72)【発明者】
【氏名】林 博和
【審査官】松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-128162(JP,A)
【文献】特開2012-28569(JP,A)
【文献】特開2020-3779(JP,A)
【文献】特開2014-219199(JP,A)
【文献】特開2013-202658(JP,A)
【文献】特開2011-31284(JP,A)
【文献】特開2011-110560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00-26/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビームエキスパンダの上流側と下流側にそれぞれ配置された位置検出センサにより、レーザ光源から被加工物に向けて出力されたレーザ光の位置を検出するステップと、
前記レーザ光の光路上に前記ビームエキスパンダを配置した状態において、前記ビームエキスパンダの倍率を変化させた場合に、前記位置検出センサにより検出した前記レーザ光の位置の変化に基づいて、前記ビームエキスパンダの良否判定を行うステップと、
を含むビームエキスパンダの良否判定方法。
【請求項2】
前記良否判定を行うステップでは、前記ビームエキスパンダの倍率の変化に応じて、前記位置検出センサにより検出した前記レーザ光の位置の移動量が基準値以下か、又は前記レーザ光の位置が線形に変化した場合に、前記ビームエキスパンダの品質が良であると判定する、請求項1に記載のビームエキスパンダの良否判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレーザ光の光軸調整方法及び装置に係り、特にレーザ加工装置においてレーザ光の光軸を調整する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェーハ等の被加工物に対してレーザ光を照射して加工溝を形成し、又は被加工物の内部に切断の起点となるレーザ加工領域を形成するレーザ加工装置(レーザダイシング装置ともいう。)が知られている。レーザ加工が施された半導体ウェーハは、エキスパンド又はブレーキングといった割断プロセスによって分割予定ラインで割断されて個々のチップに分断される。
【0003】
レーザ加工装置においてレーザ光が調整完了時の状態から変化した場合、加工点におけるビームプロファイルが変化し、ビームプロファイルの変化の影響により被加工物の加工結果が変化する場合がある。特許文献1及び2には、このようなレーザ光の状態の変化を検出するための技術が開示されている。
【0004】
特許文献1には、集光レンズを通した後の加工点でレーザビームの位置を検出してレーザビームの光軸を調整する方法が開示されている。
【0005】
特許文献2には、励起光の一部を吸収することで蛍光を発するレーザ利得媒質において、レーザ光の反射スポットの位置を検出し、光学要素の角度又は位置を制御することによりレーザ光の光軸を調整するシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2020-189323号公報
【文献】特開2017-022351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に開示されている技術では、レーザ光が照射される加工点におけるビーム位置の検出を行うようになっているので、下記の通り、レーザ光の状態の変化を正確に把握することは困難であった。
【0008】
図17に示すように、光学素子OE(例えば、集光レンズ等)を透過したレーザ光を1点の検出箇所OPで検出する場合、検出箇所OPを通る光軸は無数に存在する。これら無数の1点の検出箇所OPを通る光軸は、光学素子OEにおける入射位置及び入射角度が相互に異なっている。また、これらの光軸は、光学素子OEの光軸に平行な線(
図17の実線。光学素子OEが矩形の場合には垂線)に対して傾いている。
【0009】
したがって、特許文献1及び2のように加工点におけるビーム位置の検出を行うだけでは、光学素子に対するレーザ光の入射位置及び入射角度を正確に検出することはできない。また、特許文献1及び2に開示されている技術では、光学素子としてのミラーの反射角度が設計値からずれていることの検出を正確に行うことができない。
【0010】
また、特許文献1に開示されている技術は、レーザビームの光軸調整にかかる工数を抑制することを目的としたものである。また、特許文献2に開示されている技術は、レーザ光軸を調整するための参照用レーザの光源を省略することを目的としたものである。すなわち、特許文献1及び2に開示されている技術のいずれも、レーザ光の光軸ズレを監視してビームプロファイルを維持することについては何ら考慮されておらず、レーザ加工の品質を維持することは困難である。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、レーザ光の状態の変化を正確に把握してレーザ加工の品質を維持することが可能なレーザ光の光軸調整方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、レーザ光源から被加工物に向けて出力されたレーザ光の光路上の少なくとも2か所の検出箇所に配置された位置検出センサにより、レーザ光の位置を検出するステップと、レーザ光の位置に基づいて、レーザ光の光路上の少なくとも2か所の光学素子の位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整してレーザ光の光軸調整を行うステップとを含む。
【0013】
本発明の第2の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第1の態様において、検出箇所は、被加工物においてレーザ光が照射される加工点以外に設けられる。
【0014】
本発明の第3の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第1又は第2の態様において、少なくとも2か所の検出箇所に配置された位置検出センサにより検出されたレーザ光の位置と予め設定された基準値との差が閾値以上の場合に、レーザ光の光軸調整を行う。
【0015】
本発明の第4の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第1から第3の態様のいずれかにおいて、レーザ光の光路上に出没可能に配置されたビームエキスパンダにより光軸調整を行うステップを含む。
【0016】
本発明の第5の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第4の態様において、ビームエキスパンダの倍率を1倍に設定した状態におけるレーザ光の位置を、ビームエキスパンダをレーザ光の光路上から退避させた状態におけるレーザ光の位置に合わせて調整する。
【0017】
本発明の第6の態様に係るレーザ光の光軸調整装置は、レーザ光源から被加工物に向けて出力されたレーザ光の光路上の少なくとも2か所の検出箇所に配置された位置検出センサと、位置検出センサにより検出したレーザ光の位置に基づいて、レーザ光の光路上の少なくとも2か所の光学素子の位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整してレーザ光の光軸調整を行う調整機構とを備える。
【0018】
本発明の第7の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、ビームエキスパンダの上流側と下流側にそれぞれ固定された一対のハーフミラーを透過した位置にそれぞれ配置された一対の位置検出センサにより、レーザ光源から被加工物に向けて出力されたレーザ光の位置を検出するステップと、レーザ光の位置に基づいて、レーザ光の光路上のハーフミラーよりもレーザ光源側に配置された一対の可動ミラーの位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整してレーザ光の光軸調整を行うステップとを含む。
【0019】
本発明の第8の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第7の態様において、一対の位置検出センサは、被加工物においてレーザ光が照射される加工点以外に設けられる。
【0020】
本発明の第9の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第7又は第8の態様において、一対の位置検出センサにより検出されたレーザ光の位置と予め設定された基準値との差が閾値以上の場合に、レーザ光の光軸調整を行う。
【0021】
本発明の第10の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第9の態様において、一対の可動ミラーのうちの1枚の可動ミラーの位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整して、一対の位置検出センサのうちの1つの位置検出センサにより検出したレーザ光の位置を基準値とすることを可動ミラーごとに繰り返して、各位置検出センサにより検出したレーザ光の位置をそれぞれ基準位置に収束させる。
【0022】
本発明の第11の態様に係るレーザ光の光軸調整装置は、ビームエキスパンダの上流側と下流側にそれぞれ固定された一対のハーフミラーを透過した位置にそれぞれ配置された一対の位置検出センサと、位置検出センサにより検出したレーザ光の位置に基づいて、レーザ光の光路上のハーフミラーよりもレーザ光源側に配置された一対の可動ミラーの位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整してレーザ光の光軸調整を行う調整機構とを備える。
【0023】
本発明の第12の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、レーザ光源から被加工物に向けて出力されたレーザ光の光路上の少なくとも2か所の検出箇所に配置された位置検出センサにより、レーザ光の位置を検出するステップと、レーザ光の光路上にビームエキスパンダを配置した状態において位置検出センサにより検出したレーザ光の位置と、レーザ光の光路からビームエキスパンダを退避させた状態において位置検出センサにより検出したレーザ光の位置に基づいて、レーザ光の光路上の少なくとも2か所の光学素子の位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整してレーザ光の光軸調整を行うステップとを含む。
【0024】
本発明の第13の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第12の態様において、光軸調整を行うステップでは、ビームエキスパンダの倍率を1倍に設定した状態におけるレーザ光の位置を、ビームエキスパンダをレーザ光の光路上から退避させた状態におけるレーザ光の位置に合わせて調整する。
【0025】
本発明の第14の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第12又は第13の態様において、光軸調整を行うステップでは、ビームエキスパンダの倍率を1倍以外に設定した状態におけるレーザ光の位置を、ビームエキスパンダをレーザ光の光路上から退避させた状態におけるレーザ光の位置に合わせて調整する。
【0026】
本発明の第15の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第12から第13の態様のいずれかにおいて、ビームエキスパンダの倍率を変化させた場合に、位置検出センサにより検出したレーザ光の位置の変化に基づいて、ビームエキスパンダの良否判定を行うステップを備える。
【0027】
本発明の第16の態様に係るレーザ光の光軸調整方法は、第15の態様において、良否判定を行うステップでは、ビームエキスパンダの倍率の変化に応じて、位置検出センサにより検出したレーザ光の位置の移動量が基準値以下か、又はレーザ光の位置が線形に変化した場合に、ビームエキスパンダの品質が良であると判定する。
【0028】
本発明の第17の態様に係るレーザ光の光軸調整装置は、レーザ光源から被加工物に向けて出力されたレーザ光の光路上の少なくとも2か所の検出箇所に配置された位置検出センサと、レーザ光の光路上に出没可能に配置されたビームエキスパンダと、レーザ光の光路上にビームエキスパンダを配置した状態において位置検出センサにより検出したレーザ光の位置と、レーザ光の光路からビームエキスパンダを退避させた状態において位置検出センサにより検出したレーザ光の位置に基づいて、レーザ光の光路上の少なくとも2か所の光学素子の位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整してレーザ光の光軸調整を行う調整機構とを備える。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、2か所以上の検出箇所でレーザ光L1の光軸位置を検出することで、レーザ光L1の光軸を1つに限定することができる。これにより、レーザ光の状態の変化を正確に把握してレーザ加工の品質を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレーザ光の光軸調整方法及び装置を説明するための図である。
【
図2】
図2は、本発明の第1の実施形態に係るレーザ加工装置を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、照明光学系の例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、レーザ光の光軸の補正動作を実施するか否かの判断条件を説明するための図である。
【
図5】
図5は、レーザ光の光軸の補正方向を説明するための図である。
【
図7】
図7は、ローリング方向の光軸調整の結果を示すグラフである。
【
図8】
図8は、光学素子への入射位置がずれたときの加工点におけるビームプロファイルへの影響を示すグラフである。
【
図9】
図9は、本発明の第1の実施形態に係る光軸補正方法を示すフローチャート(例1)である。
【
図10】
図10は、本発明の第1の実施形態に係る光軸補正方法を示すフローチャート(例2)である。
【
図11】
図11は、第2の実施形態に係る光軸調整方法を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、第2の実施形態に係る光軸調整方法を示すフローチャートである。
【
図13】
図13は、ビームエキスパンダの位置の調整前後におけるレーザ光の検出結果を示す図である。
【
図14】
図14は、ビームエキスパンダの良否判定方法の第1の例を示すフローチャートである。
【
図15】
図15は、ビームエキスパンダの良否判定方法の第2の例を示すフローチャートである。
【
図16】
図16は、本発明の第4の実施形態に係る照明光学系の例を示すブロック図である。
【
図17】
図17は、レーザ光の位置を1点の検出箇所で検出する例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、添付図面に従って本発明に係るレーザ光の光軸調整方法及び装置の実施の形態について説明する。
【0032】
[第1の実施形態]
(レーザ光の光軸調整方法及び装置の概要)
図1は、本発明の第1の実施形態に係るレーザ光の光軸調整方法及び装置を説明するための図である。
【0033】
図1に示すように、本実施形態に係るシステムは、レーザ加工装置のレーザ光源から出力されたレーザ光(レーザビーム)を、加工点以外の少なくとも2か所の検出箇所で検出し、レーザ光の光軸の位置が正常であるか否かを判断するユニットを備える。
図1に示す例では、光学素子OEの下流側と上流側にそれぞれ設けられた2か所の検出箇所OP1及びOP2においてレーザ光の光軸の位置を検出可能となっている。
【0034】
さらに、本実施形態に係るシステムは、レーザ光の光軸の位置に関する判断結果に応じて、光学素子OEを保持する光学素子ホルダーの位置又は角度を調整する調整機構を備える。このような調整機構により調整可能な光学素子ホルダーは、例えば、レーザ光の光路上に少なくとも2か所に設けることができる。
【0035】
本実施形態に係るシステムによれば、2か所以上の検出箇所でレーザ光の検出を行うことにより、レーザ光の光軸を1本に限定することができる。これにより、レーザ光の光学素子OEに対する入射位置及び入射角度を適切に調整することができ、例えば、ミラーの反射角度を適切に調整することができる。
【0036】
なお、
図1に示す例では、検出箇所(OP1及びOP2)は、加工点以外の2か所以上としたが、本発明はこれに限定されない。例えば、2か所以上の検出箇所(OP1及びOP2)の中に、被加工物上のレーザ光の照射位置である加工点が含まれていてもよい。
【0037】
(レーザ加工装置)
以下、本実施形態に係るレーザ光の光軸調整方法及び装置について具体的に説明する。
【0038】
まず、レーザ加工装置の例について
図2を参照して説明する。
図2は、本発明の第1の実施形態に係るレーザ加工装置を示すブロック図である。
【0039】
図2に示すように、レーザ加工装置10は、被加工物W(例えば、半導体ウェーハ)を移動させるステージ12と、被加工物Wにレーザ光を照射するレーザ照射装置20と、レーザ加工装置10の各部を制御する制御部50とを備える。
【0040】
以下では、ステージ12がXY方向に平行でZ方向に垂直な3次元直交座標系を用いて説明する。
【0041】
ステージ12は、XYZθ方向に移動可能に構成され、被加工物Wを吸着保持する。被加工物Wは、デバイスが形成された表面に粘着材を有するバックグラインドテープ(以下、BGテープ)が貼付され、裏面が図中上向きになるようにステージ12に載置される。以下、被加工物Wの集光レンズ24側の面をレーザ光照射面という。
【0042】
なお、レーザ光照射面は、被加工物Wの集光レンズ24側の面とは反対側の面(裏面)でもよい。被加工物Wは、一方の面に粘着材を有するダイシングシートを貼付し、このダイシングシートを介してフレームと一体化された状態でステージ12に載置されるようにしてもよい。
【0043】
レーザ照射装置20は、被加工物Wに対向する位置に配置されており、被加工物W(例えば、被加工物Wの内部等)にレーザ加工領域を形成するための加工用レーザ光L1を被加工物Wに対して照射する。
【0044】
制御部50は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、ストレージデバイス、入出力回路部等からなり、レーザ加工装置10の各部の動作や加工に必要なデータの記憶等を行う。
【0045】
レーザ加工装置10はこの他に、図示しないウェーハ搬送手段、操作盤、モニタ及び表示灯等から構成されている。
【0046】
操作盤には、レーザ加工装置10の各部の動作を操作するスイッチ類や表示装置が取り付けられている。テレビモニタは、図示しないCCD(Charge Coupled Device)カメラで撮像したウェーハ画像の表示、又はプログラム内容や各種メッセージ等を表示する。表示灯は、レーザ加工装置10の加工中、加工終了又は非常停止等の稼働状況を表示する。
【0047】
次に、レーザ照射装置20の詳細構成について説明する。
図2に示すように、レーザ照射装置20は、レーザ光源21と、照明光学系22と、ダイクロイックミラー23と、集光レンズ24と、アクチュエータ25と、AF装置30とを備える。
【0048】
レーザ光源21は、被加工物Wの内部にレーザ加工領域を形成するための加工用レーザ光(以下、レーザ光ともいう。)L1を出射する。例えば、レーザ光源21は、パルス幅が1μs以下であって、集光点におけるピークパワー密度が1×108(W/cm2)以上となるレーザ光を出射する。
【0049】
加工用レーザ光L1の第1光路上には、レーザ光源21側から順に、照明光学系22、ダイクロイックミラー23及び集光レンズ24が配置される。ダイクロイックミラー23は、加工用レーザ光L1を透過し、かつAF装置30から出射されるAF用レーザ光L2を反射する。なお、AF用レーザ光L2の第2光路は、ダイクロイックミラー23により加工用レーザ光L1の第1光路と一部光路を共有するように屈曲され、その共有光路上に集光レンズ24が配置される。
【0050】
レーザ光源21から出射された加工用レーザ光L1は、照明光学系22及びダイクロイックミラー23を通過した後、集光レンズ24により被加工物Wに集光される。加工用レーザ光L1の集光点のZ方向位置(ウェーハ厚み方向位置)は、アクチュエータ25によって集光レンズ24をZ方向に微小移動させることにより調節される。
【0051】
AF装置30は、被加工物Wに照射されたAF用レーザ光L2の反射光を受光することで、集光レンズ24と被加工物Wのレーザ光照射面との距離に関する情報(距離情報)を制御部50に出力する。
【0052】
アクチュエータ25は、集光レンズ24と被加工物Wのレーザ光照射面との距離を所定の関係に保つ(距離が一定となる)ように、制御部50によって駆動が制御される。
【0053】
(照明光学系)
次に、照明光学系22の例について
図3を参照して説明する。
図3は、照明光学系の例を示すブロック図である。
【0054】
図3は、レーザ光源21のレーザヘッドLHから被加工物Wまでのレーザ光L1の光路を示したものである。なお、
図3では、ダイクロイックミラー23は省略している。
【0055】
レーザヘッドLHは、レーザ光源21のレーザ発振器から出力されたレーザ光L1を集光する集光レンズを含んでおり、集光したレーザ光L1を被加工物Wに対して出力する。レーザ光L1は、ミラーM1からM3及びハーフミラーM4で順次反射されて、アッテネータATNに向けて出射される。
【0056】
ビームシャッタBSは、制御部50の制御に応じて、レーザ光L1の下流側(ミラーM4側)への出射を制御する。
【0057】
ミラーM1及びM3(一対の可動ミラーの一例)は、それぞれホルダーH1及びH3に保持されており、ホルダーH1及びH3は、例えば、ジンバル式のマウントに取り付けられている。ミラーM1及びM3は、制御部50の制御に応じて、ホルダーH1及びH3をそれぞれの回転軸周りに回転させることにより、レーザ光L1の入射位置及び入射角度を調整するための調整機構52(例えば、アクチュエータ等)を含むステアリングミラーである。
【0058】
レーザ光L1は、アッテネータATNにより適切なレベル(振幅)に減衰された後、ビームエキスパンダBEによりビーム径が拡大され、かつ、コリメート光(平行光)に成形される。その後、レーザ光L1は、順次ハーフミラーM5及びミラーM6、リレーレンズLZ1、ミラーM7、リレーレンズLZ2、ミラーM8及びハーフミラーM9等の光学素子を介して、集光レンズ24により被加工物Wに集光される。
【0059】
図3に示すように、ハーフミラーM4及びM5(一対のハーフミラー(固定ミラー)の一例)の下流側には、それぞれ位置検出センサ(Position Sensitive Detector)PSD1及びPSD2(一対の位置検出センサの一例)が配置されている。
【0060】
位置検出センサPSD1及びPSD2は、例えば、フォトダイオードを含んでおり、このフォトダイオードの表面抵抗を利用してレーザ光L1の入射位置を検出するセンサである。位置検出センサPSD1及びPSD2は、それぞれハーフミラーM4及びM5を透過したレーザ光L1の入射位置を検出する。
図3に示す例では、レーザ光L1の場所ごとの入射位置を符号A1及びA2により示している。
【0061】
本発明に係るレーザ光の光軸調整装置は、位置検出センサPSD1及びPSD2と、ミラーM1及びM3の調整機構52とを含んでいる。
【0062】
なお、位置検出センサPSD1及びPSD2としては、例えば、撮像素子を用いてレーザ光L1の入射位置を検出するセンサを用いることも可能である。
【0063】
レーザ顕微鏡(Laser Scanning Microscope)LSMは、被加工物Wのレーザ光照射面におけるレーザ光L1の照射位置を検出する。レーザ顕微鏡LSMは、例えば、ハーフミラーM9を介して、レーザ加工時に常時レーザ光L1の照射位置を検出することにより、レーザ加工の状態を監視することが可能となっている。
【0064】
なお、位置検出センサPSD1及びPSD2の個数及び配置は、
図3に限定されるものではない。また、ステアリングミラーの個数及び配置についても、
図3に限定されるものではなく、ミラーM1及びM3以外のミラーをステアリングミラーとすることも可能である。
【0065】
また、本実施形態では、少なくとも2か所のミラーM1及びM3を調整することにより光軸調整を行うようにしているが、ミラー以外の光学素子(例えば、レンズ、プリズム等)の位置及び角度のうちの少なくとも一方を調整することにより光軸調整を行ってもよい。
【0066】
(光軸補正の例)
以下、2個の位置検出センサPSD1及びPSD2を用いてレーザ光L1の光軸補正を行う手順について説明する。
【0067】
本実施形態では、2個の位置検出センサPSD1及びPSD2を用いて、レーザ光L1の照射位置A1及びA2を検出し、照射位置A1及びA2が許容範囲を逸脱したか否かによってミラーM1及びM3をそれぞれ保持するホルダーH1及びH3を駆動して光軸の補正を行う。
【0068】
図4は、レーザ光の光軸の補正動作を実施するか否かの判断条件を説明するための図であり、
図5は、レーザ光の光軸の補正方向を説明するための図である。
【0069】
本実施形態では、まず、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いて、レーザ照射装置20のレーザ光の調整完了時点におけるレーザ光L1の照射位置を検出し、検出したレーザ光L1の照射位置を基準位置(基準値)とする。さらに、光軸ずれの判断のための閾値を設定する。
図4に示す例では、基準値が(x0,y0)、閾値がrthである。
【0070】
レーザ照射装置20の使用中(例えば、レーザ加工の前後、レーザ加工中)には、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いて、レーザ光L1の照射位置を検出する。そして、レーザ光L1の照射位置(現在値)と基準値との差rが閾値rthを超えた場合に、ステアリングミラーM1及びM3を駆動して、レーザ光L1の光軸調整を行う。レーザ光L1の現在値と基準値との差rは、下記の数1により表される。
【0071】
【0072】
図4に示す例では、基準値(x0,y0)を中心とする半径rthの円Cthが示されている。位置検出センサPSD1及びPSD2を用いて検出したレーザ光L1の現在値がいずれも円Cthの中にある場合(現在値1(x1,y1)、r1<rthの場合)、光軸調整は実行されない。
【0073】
一方、位置検出センサPSD1又はPSD2を用いて検出したレーザ光L1の現在値がレーザ光L1の現在値が円Cthの外にある場合(現在値2(x2,y2)、r2>rthの場合)、光軸調整が実行される。
【0074】
ここで、光軸調整量(xoff,yoff)は、現在値と基準値の差分により求めることができる。具体的には、(xoff,yoff)={(x-x0),(y-y0)}である。
【0075】
また、光軸の調整方向(移動方向)は、下記の通りである(
図5参照)。
・xoff<0の場合、光軸の移動方向はxの正(+)方向
・xoff>0の場合、光軸の移動方向はxの負(-)方向
・yoff<0の場合、光軸の移動方向はyの正(+)方向
・yoff>0の場合、光軸の移動方向はyの負(-)方向
【0076】
光軸調整が終了すると、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いて、レーザ光L1の照射位置を再検出し、光軸調整の結果を確認するようにしてもよい。また、不図示のパワーメータにより、集光レンズ24の上流側、又は被加工物Wの加工点におけるレーザ出力(例えば、減衰量)を確認し、その結果に基づいて光軸調整の結果を確認するようにしてもよい。
【0077】
図6は、光軸調整の結果を示す図である。
図6には、基準位置(中央の画像、(ローリング方向,ピッチング方向)=(0,0))を基準として、ミラーM1をローリング方向及びピッチング方向に100パルスずつ移動させた場合の、位置検出センサPSD1によるレーザ光L1の検出結果が十字状に並べて示されている。ここで、ローリング方向とは、レーザ光L1の進行方向(光軸方向)の軸回り方向であり、ピッチング方向は、進行方向に対して垂直に交わる軸回り方向である。
図6では、ミラーM1及びM3(ステアリングミラー)の移動量の単位をパルスで表している。なお、1パルスの移動量は略1μmとする。
【0078】
図6の中央の画像((ローリング方向,ピッチング方向)=(0,0))は、ミラーM1及びM3がともに基準位置にある場合の、位置検出センサPSD1によるレーザ光L1の検出結果である。
図6の中央の画像では、レーザ光L1から十字状に伸びる光芒が上下左右方向に略均等となっている。なお、レーザ光L1から伸びる光芒の形状及び本数は、照明光学系22に含まれる光学素子の構成によって異なり得る。
【0079】
基準位置に対してローリング方向にミラーM1を移動させた場合、
図6に一部拡大して示すように、正(+)側に移動するほど、十字状の光芒が図中右側に偏り、負(-)側に移動するほど、十字状の光芒が図中左側に偏っている。
【0080】
本実施形態では、制御部50は、基準位置からのずれを検出した場合、まず、ミラーM1を駆動して、位置検出センサPSD1によるレーザ光L1の検出結果が基準位置になるように駆動する。次に、ミラーM3を駆動して、位置検出センサPSD2によるレーザ光L1の検出結果が基準位置になるように駆動する。以降、ミラーM1及びM3の駆動を順次繰り返すことにより、レーザ光L1の位置を基準位置に収束させる。
【0081】
図7は、ローリング方向の光軸調整の結果を示すグラフである。
図7の(a)は、ローリング方向にミラーM1を+500パルス移動させた場合の光軸調整結果を示しており、
図7の(b)は、ローリング方向にミラーM1を+300パルス移動させた場合の光軸調整結果を示している。各グラフは、ミラーM1及びM3の駆動を繰り返した場合のミラーM1及びM3の基準位置からのずれ量(μm)の経時変化を示している。
【0082】
図7に示すように、ミラーM1の移動量が+500パルス及び+300パルスのいずれの場合も、ミラーM1及びM3の駆動の繰り返しに伴い、基準位置からのずれ量が収束していることがわかる。したがって、基準位置からの移動量(すなわち、想定されるミラー(M1又はM3)の位置変動量(ずれ量)とマージンの和)が500μm程度の場合に、光軸調整による補正動作が可能であることがわかる。なお、ピッチング方向及びヨーイング方向についても同様に補正することができる。
【0083】
図8は、光学素子への入射位置がずれたときの加工点におけるビームプロファイルへの影響を示すグラフである。
図8では、基準位置からのずれ量が0~500μmの場合の加工点におけるビームプロファイルを示している。
図8の横軸はレーザ顕微鏡LSMの撮像素子の画素(ピクセル)を示しており、縦軸はレーザ光L1の強度を示している。
【0084】
図8に示す例では、基準位置からのずれ量の変化に伴い、加工点におけるビームプロファイルのグラフの形状が変動していることがわかる。
【0085】
本実施形態によれば、レーザ光L1の光路上の少なくとも2か所においてレーザ光L1の位置を検出し、ミラーM1及びM3を駆動して基準位置からのずれ量を小さくする(なくす)ことにより、
図8に示すようなビームプロファイルの変動を抑制することができる。
【0086】
(光軸補正方法(例1))
次に、本実施形態に係る光軸補正方法について説明する。
【0087】
図9は、本発明の第1の実施形態に係る光軸補正方法を示すフローチャート(例1)である。
図9は、例えば、レーザ加工装置10のシステムの立ち上げ時又は手動で光軸調整を行う例を示している。
【0088】
まず、レーザ加工装置10が起動されて(ステップS10)、初期化されると(ステップS12)、レーザアイドリング状態となる(ステップS14)。ここで、レーザアイドリング状態とは、被加工物Wの加工点に向けてレーザ光L1を出力している状態である。
【0089】
次に、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いてレーザ光L1の照射位置を検出し(ステップS16)、ミラーM1及びM3(ステアリングミラー)の向きを補正する(ステップS18)。そして、
図4に示すように、レーザ光L1の照射位置(現在値)が基準値と一致するか、又は基準値との差rが閾値rth以下になるまで、ミラーM1及びM3の向きの補正を繰り返す。
【0090】
なお、システムの立ち上げ時の光軸調整時(ステップS16)における閾値は、
図4の光軸調整の要否判断時の閾値rthよりも小さい値としてもよい。
【0091】
次に、ミラーM1及びM3の向きの補正が終了すると(ステップS14からS18)、パワーメータにより、集光レンズ24の上流側、又は被加工物Wの加工点におけるレーザ出力の確認(ステップS20)と、レーザ顕微鏡LSMによるレーザ光L1の照射位置(加工点)の位置の確認(ステップS22)が行われた後に、レーザ加工が行われる(ステップS24)。
【0092】
(光軸補正方法(例2))
図10は、本発明の第1の実施形態に係る光軸補正方法を示すフローチャート(例2)である。
図10は、レーザ加工装置10によりレーザ加工の実行中に光軸調整を行う例を示している。
【0093】
まず、レーザ加工を行う場合、加工動作に先立って、加工位置確認動作を行う。加工位置確認を行う場合(ステップS30)、
図4に示すように、レーザ光L1の照射位置(現在値)と基準値との差rが閾値rth以下の場合にOK、閾値rthを超える場合にNGとなる。そして、ステップS30でOKの場合、光軸調整を実行せずに加工動作に移行する。一方、ステップS30でNGの場合、光軸調整を実行する(ステップS52からS56)。
【0094】
光軸調整では、まず、レーザアイドリング状態として(ステップS52)、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いてレーザ光L1の照射位置を検出し(ステップS54)、ミラーM1及びM3(ステアリングミラー)の向きを補正する(ステップS56)。そして、レーザ光L1の照射位置(現在値)が基準値になるか、又は基準値との差rが閾値rth以下になるまで、ミラーM1及びM3の向きの補正を繰り返す。なお、ステップS54における光軸調整時の閾値は、ステップS30及び後述のステップS50における光軸調整の要否判断時の閾値rthよりも小さい値としてもよい。
【0095】
次に、ミラーM1及びM3の向きの補正が終了すると(ステップS52からS56)、加工動作に移行する。なお、加工動作の前に、パワーチェック及びレーザ光L1の照射位置(加工点)の位置のチェックを行ってもよい。
【0096】
次に、加工動作の開始前における光軸調整について説明する。この場合、直前の加工動作実行中における、位置検出センサPSD1及びPSD2によるレーザ光L1の照射位置を取得し(ステップS50)、ステップS30と同様に、光軸調整の要否判断を行う。そして、ステップS50でOKの場合には、光軸調整を実行せずに加工動作に移行する。一方、ステップS50でNGの場合、光軸調整を実行する(ステップS52からS56)。
【0097】
次に、加工動作の終了後、例えば、所定本数の分割予定ラインの加工動作が終わって、次の分割予定ラインの加工動作が開始する前の動作について説明する。加工動作の終了後には、まず、レーザ加工により形成されたカーフのチェック(ステップS70)と、レーザ顕微鏡LSMによるレーザ光L1の照射位置のチェック(ステップS72)が行われる。
【0098】
ステップS70及びステップS72がいずれもOKの場合には、次の加工動作に移行し、いずれもNGの場合には、直前の加工動作実行中における、位置検出センサPSD1及びPSD2によるレーザ光L1の照射位置を取得し(ステップS74)、ステップS50と同様に、光軸調整の要否判断を行う。なお、ステップS70及びステップS72は、いずれか一方のみ行うようにしてもよい。
【0099】
次に、ステップS74でNGの場合、光軸調整を実行する(ステップS52からS56)。一方、ステップS74でOKの場合には、カーフチェックエラー及びレーザ顕微鏡LSMの検出位置のエラーについて、光軸調整以外の対応を要するため、光軸調整を実行せずに、エラーメッセージを出力して加工動作を停止させる(ステップS76)。
【0100】
本実施形態によれば、2か所以上の検出箇所でレーザ光L1の光軸位置を検出することで、レーザ光L1の光軸を1つに限定することができる。これにより、例えば、レーザ光L1が光学素子に垂直に入射するようにしたり、又はミラーにおける反射角度を45°に限定したりすることができる。また、本実施形態によれば、例えば、光学素子とレーザビームの位置関係の変動を50μm以下に抑制することができ、レーザ加工の品質の維持をエンジニアが介在することなく自動で行うことが可能となる。
【0101】
また、外部環境の温度等の変化によりレーザヘッドLHのポインティングスタビリティが悪化して、レーザ光L1の照射位置がずれることも考えられる。ビームエキスパンダBEに入射するレーザ光L1の照射位置が変化した場合であっても、本実施形態に係る光軸調整を行うことにより、レーザ光L1の照射位置のずれをなくすことができる。
【0102】
[第2の実施形態]
上記の実施形態では、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いて検出したレーザ光L1の位置に応じて光軸調整を行ったが、ビームエキスパンダBEのずれも加工点におけるビームプロファイルに影響を与え、レーザ加工の品質に影響を与え得る。このため、上記の実施形態に加えて又は上記の実施形態に代えて、ビームエキスパンダBEについても光軸調整を行うことも考えられる。
【0103】
本実施形態では、ビームエキスパンダBEが、レーザ光L1の光路上に出没可能となっている。ビームエキスパンダBEの出没動作は、手動で行うようにしてもよいし、制御部50により制御可能なアクチュエータにより自動で行うようにしてもよい。
【0104】
図11及び
図12は、第2の実施形態に係る光軸調整方法を示すフローチャートである。なお、以下の説明において、上記の実施形態と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
【0105】
まず、レーザ加工の開始前における光軸調整(事前調整)について、
図11を参照して説明する。
【0106】
事前調整を行う場合、まず、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態で、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いてレーザ光L1の位置を検出する(ステップS100)。
【0107】
次に、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させ、ビームエキスパンダBEの倍率を1倍に設定する。そして、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置を、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置と一致させることにより光軸調整を行う(ステップS102)。
【0108】
なお、ステップS102では、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置を、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置と完全に一致させなくてもよい。例えば、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置と、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置との差が所定の閾値以下となるようにしてもよい。
【0109】
次に、レーザ加工の開始後(実行中)における光軸調整について、
図12を参照して説明する。
【0110】
まず、ビームエキスパンダBEの倍率をレーザ加工に必要な倍率に設定し(ステップS110)、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いてレーザ光L1の位置を検出して記録しておく(ステップS112)。
【0111】
次に、レーザ加工中には、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いてレーザ光L1の位置の検出を実行する(ステップS114)。ステップS114では、
図4と同様に、レーザ光L1の照射位置(現在値)と基準値との差rが閾値rth以下の場合にOK、閾値rthを超える場合にNGとする。そして、ステップS114でOKの場合、光軸調整を実行せずに加工動作を続行する。一方、ステップS114でNGの場合、光軸調整を実行する(ステップS116)。
【0112】
ステップS116では、ステップS102と同様に、ビームエキスパンダBEの倍率を1倍に設定して、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置を、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置と一致させることにより光軸調整を行う。
【0113】
次に、光軸調整(ステップS116)が終了すると、ビームエキスパンダBEの倍率をレーザ加工に必要な倍率に設定し(ステップS110)、位置検出センサPSD1及びPSD2を用いてレーザ光L1の位置を検出して記録した後、レーザ加工を続行する。そして、レーザ加工が終了すると(ステップS118)、装置を停止させる。
【0114】
なお、本実施形態においても、
図10の例と同様に、ステップS118の後に、カーフチェックエラー及びレーザ顕微鏡LSMの検出位置のチェックを行うようにしてもよい。
【0115】
図13は、ビームエキスパンダの位置の調整前後におけるレーザ光L1の検出結果を示す図である。
図13では、色が薄いほど、レーザ光L1の強度が高いものとする。
【0116】
ビームエキスパンダBEが200μmずれた場合、
図13(b)に示すように、レーザ光L1のビームプロファイルが偏っている。これに対して、ビームエキスパンダBEの位置を調整方向に移動させてレーザ光L1が基準位置に調整されると、
図13(a)に示すように、ビームプロファイルがローリング方向及びピッチング方向に均等に分布する略円形状となる。
【0117】
本実施形態によれば、レーザ光L1のビームプロファイルの品質維持をすることができるので、レーザ加工の品質の維持をエンジニアが介在することなく自動で行うことが可能となる。
【0118】
[変形例]
本実施形態では、光軸調整の際にビームエキスパンダBEの倍率を1倍に設定したが(ステップS102及びS116)、本発明はこれに限定されない。光軸調整の際にビームエキスパンダBEの倍率を1倍以外の倍率に設定してもよい。また、ビームエキスパンダBEの倍率を1倍に設定して行う光軸調整と、ビームエキスパンダBEの倍率を1倍以外の倍率に設定して行う光軸調整とを両方行ってもよい。
【0119】
ビームエキスパンダBEの倍率を1倍に設定した場合、ビームエキスパンダBEは、透明な平板と光学的に等価なものと考えることができる。この場合、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置と、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置との差(ずれ量)は、レーザ光L1の光軸に対するビームエキスパンダBEの傾き(チルト)に起因するものとして評価することができる。
【0120】
第2の実施形態では、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置を、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置と一致させて、このずれ量を略ゼロにする(ステップS102及びS116参照)。これにより、レーザ光L1の光軸に対するビームエキスパンダBEのチルトを調整することができ、レーザ光L1の光軸に対してビームエキスパンダBEの光軸を平行にすることができる。
【0121】
ビームエキスパンダBEの倍率を1倍以外の倍率に設定した場合、レーザ光L1のビーム径は設定倍率に応じて拡大される。この場合、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置と、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置との差(ずれ量)は、平行ずれに起因するものとして評価することができる。ここで、平行ずれは、レーザ光L1の光軸に対するビームエキスパンダBEの光軸のずれであり、レーザ光L1の光軸に垂直な平面上における入射位置のずれとしてあらわれる。
【0122】
この場合も、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路上に移動させた状態におけるレーザ光L1の位置を、ビームエキスパンダBEをレーザ光L1の光路から退避させた状態におけるレーザ光L1の位置と一致させて、このずれ量を略ゼロにする(ステップS102及びS116参照)。これにより、レーザ光L1の光軸に対するビームエキスパンダBEの平行ずれを調整することができる。
【0123】
上記のように、ビームエキスパンダBEの挿入時の倍率を変更することにより、ビームエキスパンダBEのチルト及び平行ずれの調整を行うことができる。
【0124】
なお、ビームエキスパンダBEの倍率を1倍に設定した場合には、レーザ光L1の光軸に対してビームエキスパンダBEを回転させることで、光軸調整を行うことができる。一方、ビームエキスパンダBEの倍率を1倍以外の倍率に設定した場合には、ビームエキスパンダBEの調整軸は平行方向に限定される。すなわち、レーザ光L1の光軸に対してビームエキスパンダBEの傾きを保ったまま移動させることで、光軸調整を行うことができる。すなわち、ビームエキスパンダBEの倍率が1倍であるか、1倍以外であるかに応じて、光軸調整のための調整軸を限定することができる。
【0125】
[第3の実施形態]
上記の各実施形態では、ビームエキスパンダBEが正常である場合について説明したが、ビームエキスパンダBEに異常がある場合も考えられる。ここで、ビームエキスパンダBEの異常は、例えば、ビームエキスパンダBEに含まれるレンズが互いに同軸になっていない場合、各レンズの傾きが異なっている場合等を含む。
【0126】
ビームエキスパンダBEの倍率を1倍、1.2倍、1.4倍、1.6倍、…、4倍、…と順次変更して、倍率ごとにレーザ光L1の照射位置の座標をプロットした場合について考える。ビームエキスパンダBEが正常であり、かつ、光軸調整が適切に行われている場合、レーザ光L1の照射位置の座標は動かない。一方、ビームエキスパンダBEは正常であるが、チルト又は平行ずれ(入射位置ズレ)もしくはチルト及び平行ずれの両方がある場合は(光軸調整がされていない場合等)、レーザ光L1の照射位置の座標は線形に座標が移動する。
【0127】
これに対して、ビームエキスパンダBEが異常である場合には、レーザ光L1の照射位置の座標は、ビームエキスパンダBEが正常である場合とは異なる動き(例えば、非線形の動き等)をする。
【0128】
本実施形態では、上記の性質を利用してビームエキスパンダBEの品質の良否判定を行う。なお、ビームエキスパンダBEの品質の良否判定は、上記の光軸調整の実施又は未実施に関わらず行うことが可能である。
【0129】
図14は、ビームエキスパンダの良否判定方法の第1の例を示すフローチャートである。
図14は、ビームエキスパンダBEの光軸調整が実施済みの場合の良否判定方法を示している。
【0130】
まず、レーザ加工装置10が起動されて、初期化されると、レーザアイドリング状態となる(ステップS200)。そして、ビームエキスパンダBEの倍率を変更して、各倍率におけるレーザ光L1の照射位置を検出して記録する(ステップS202)。
【0131】
次に、ビームエキスパンダBEの倍率の変更に伴うレーザ光L1の照射位置の移動量が基準値以下であるか否かを判定する(ステップS204)。ここで、ステップS204における基準値は、例えば、ゼロに近い正の値である。
【0132】
ビームエキスパンダBEの倍率の変更に伴うレーザ光L1の照射位置の移動量が基準値以下の場合(ステップS204のYes)、ビームエキスパンダBEの品質が良と判定する(ステップS206)。
【0133】
ビームエキスパンダBEの倍率の変更に伴うレーザ光L1の照射位置の移動量が基準値を越える場合(ステップS204のNo)、ビームエキスパンダBEの品質が不良と判定する(ステップS206)。
【0134】
図15は、ビームエキスパンダの良否判定方法の第2の例を示すフローチャートである。
図15は、ビームエキスパンダBEの光軸調整が未実施の場合の良否判定方法を示している。
【0135】
まず、レーザ加工装置10が起動されて、初期化されると、レーザアイドリング状態となる(ステップS220)。そして、ビームエキスパンダBEの倍率を変更して、各倍率におけるレーザ光L1の照射位置を検出して記録する(ステップS222)。
【0136】
次に、ビームエキスパンダBEの倍率の変更に伴うレーザ光L1の照射位置が線形に移動するか否かを判定する(ステップS224)。ステップS224では、例えば、倍率ごとのレーザ光L1の照射位置をプロットしたときの相関係数が1に近いか否か等に応じて、レーザ光L1の照射位置が線形に移動するかどうかを評価することができる。
【0137】
ビームエキスパンダBEの倍率の変更に伴うレーザ光L1の照射位置が線形に移動すると判定した場合(ステップS224のYes)、ビームエキスパンダBEの品質が良と判定する(ステップS226)。
【0138】
ビームエキスパンダBEの倍率の変更に伴うレーザ光L1の照射位置が線形に移動していないと判定した場合(ステップS224のNo)、ビームエキスパンダBEの品質が不良と判定する(ステップS226)。
【0139】
本実施形態では、ビームエキスパンダBEの品質の良否判定を、例えば、光軸調整の前後に行うことができる。例えば、ビームエキスパンダBEの品質の良否判定を光軸調整の前に行い、ビームエキスパンダBEの調整又は交換を行うことができる。これにより、ビームエキスパンダBEを用いた光軸調整の精度を上げることができる。
【0140】
なお、ビームエキスパンダBEの良否判定の実施タイミングは、特に限定されない。ビームエキスパンダBEの良否判定は、例えば、システムの立ち上げ時、レーザ加工の実行中等に行うことも可能である。
【0141】
[第4の実施形態]
図16は、本発明の第4の実施形態に係る照明光学系の例を示すブロック図である。
図16は、ビームエキスパンダBEとハーフミラーM5との間にレーザ光整形用光学素子SEを配置した例を示している。
【0142】
レーザ光整形用光学素子SEは、ビームエキスパンダBEからのレーザ光L1の状態を調整するための光学素子である。具体的には、レーザ光整形用光学素子SEは、レーザ加工装置10におけるレーザ加工の内容に応じて、ビームエキスパンダBEからのレーザ光L1の整形を行う。ここで、レーザ加工の内容は、例えば、レーザアブレーションによるグルービング、スクライビング、切断又は穴あけ加工、又は被加工物Wの切断(亀裂)の起点となるレーザ加工領域の形成等を含んでいる。
【0143】
レーザ光整形用光学素子SEは、例えば、屈折型光学素子(Refractive Optical Element:ROE)、シリンドリカルレンズ又はマスクを含んでいる。ROEは、レーザ光L1のビーム形状を所望の形状(例えば、円形、リング形状、ライン形状、矩形、多角形等)に整形するための屈折型の光学素子である。シリンドリカルレンズは、円筒形状の部分を含むレンズであり、レーザ光L1をライン上のビーム形状に整形したり、レーザ光L1をその光軸に垂直な平面上の一方向のみに拡大又は縮小したりするための光学素子である。マスクは、レーザ光L1の一部を遮光することにより、レーザ光L1のビーム形状を整形するための光学素子である。
【0144】
本実施形態では、上記の各実施形態に係る光軸調整方法を適用することにより、ビームエキスパンダBEからのレーザ光L1がレーザ光整形用光学素子SEに照射されるときの照射位置の精度を高めることができる。これにより、レーザ光整形用光学素子SEに照射されたレーザ光L1の整形結果を安定させることができる。
【0145】
なお、
図16に示す例では、ビームエキスパンダBEとハーフミラーM5との間にレーザ光整形用光学素子SEを配置したが、本発明はこれに限定されない。例えば、ハーフミラーM5とミラーM6の間にレーザ光整形用光学素子SEを配置してもよいし、それ以外の箇所(ビームエキスパンダBEよりも下流の位置)に配置してもよい。
【符号の説明】
【0146】
10…レーザ加工装置、12…ステージ、20…レーザ照射装置、21…レーザ光源、22…照明光学系、23…ダイクロイックミラー、24…集光レンズ、25…アクチュエータ、30…AF装置、50…制御部、52…調整機構、H1、H3…ホルダー、M1~M3、M6~M8…ミラー、M4~M5、M9…ハーフミラー、PSD1~PSD2…位置検出センサ、LH…レーザヘッド、ATN…アッテネータ、BE…ビームエキスパンダ、LZ1、LZ2…リレーレンズ、LSM…レーザ顕微鏡、SE…レーザ光整形用光学素子