(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】ストロンチウム含有廃液の処理方法
(51)【国際特許分類】
B01J 20/04 20060101AFI20231207BHJP
C02F 1/28 20230101ALI20231207BHJP
B01J 20/28 20060101ALI20231207BHJP
G21F 9/12 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B01J20/04 A
C02F1/28 E
B01J20/28 Z
G21F9/12 501B
G21F9/12 501J
(21)【出願番号】P 2019220845
(22)【出願日】2019-12-06
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【氏名又は名称】松山 美奈子
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(72)【発明者】
【氏名】佐久間 貴志
(72)【発明者】
【氏名】出水 丈志
(72)【発明者】
【氏名】小松 誠
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康浩
(72)【発明者】
【氏名】井手 望水
(72)【発明者】
【氏名】深田 由布子
【審査官】瀧 恭子
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-527783(JP,A)
【文献】国際公開第2018/110615(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/109823(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/112163(WO,A1)
【文献】特開2006-021132(JP,A)
【文献】国際公開第2017/086056(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28;20/30-20/34
B01J 20/281-20/292
G01N 30/00-30/96
G21F 9/00-9/36
C02F 1/28
C02F 1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機結合剤および有機成分を含まず、少なくともアルカリ金属を含む層状マンガン酸化物の成形体粒子から構成されており、全粒子の90wt%以上が粒径0.2mm以上1.7mm以下に分布しており、0.9g/cm
3以上のかさ密度および1000mN以上5000mN以下の下記方法で測定した圧壊強度を有
し、A
x
MnO
2
(Aはナトリウムおよびカリウムから選ばれる1種以上のアルカリ金属であり、xは0.2以上0.6以下の任意の数である)で表される組成を有し、粉末X線回折測定による(001)面の面間隔が7.0Å以上7.3Å以下であり、(001)面のピークの半値全幅(FWHM)が0.4゜以上3.0゜以下であるストロンチウム吸着剤と、ストロンチウム含有廃液と、を接触させることを特徴とするストロンチウム含有廃液の処理方法。
・圧壊強度の測定方法:
ランダムに取り出した測定対象粒子を、微小圧縮試験機の試料台に置き、ダイヤモンド圧盤を自動的に下げて負荷をかけ、負荷時のダイヤモンド圧盤の変位が最も大きい時点を粒子が崩壊した際の試験力として測定する。25回の測定結果の平均値を圧壊強度とする。
【請求項2】
前記ストロンチウム吸着剤は、下記方法で測定した撹拌摩耗度が15wt%以下であることを特徴とする、請求項1に記載の処理方法。
・撹拌摩耗度の測定方法:
水7.5g、および測定対象粒子を乾燥重量で2.5g秤量し、30mL広口ポリエチレン瓶に入れ、25℃、24時間静置した後、ポリエチレン瓶をペイントシェイカー(東洋精機製作所製)を用いて5分間振とう撹拌し、摩耗により粒子から脱落した脱落物を、100mesh(目開き150μm)篩にかけて分離回収し、200℃、12時間乾燥した際の乾燥後の脱落物重量を以下の式で算出する。
撹拌摩耗度(重量%)=(脱落物の重量/撹拌前の測定対象粒子の乾燥重量)×100
【請求項3】
前記ストロンチウム含有廃液は、Naイオン、Kイオン、CaイオンおよびMgイオンから選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする、請求項1
又は2に記載の処理方法。
【請求項4】
前記ストロンチウム吸着剤は、充填密度0.95g/cm
3以上で吸着塔に充填されており、
前記ストロンチウム含有廃液を当該吸着塔に通水することにより、前記ストロンチウム含有廃液と前記ストロンチウム吸着剤とを接触させることを特徴とする、請求項1~
3のいずれか1に記載の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストロンチウム含有廃液の処理方法に関し、特に、Naイオン、Kイオン、CaイオンおよびMgイオンから選択される1種以上をさらに含むストロンチウム含有廃液の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶液から有害または有用なイオンを固相吸着剤を用いて吸着分離する操作は、高コストの水溶液の濃縮を伴わないため、分離技術として重要である。特に、ウラン核分裂型原子力発電における核分裂生成物中のストロンチウム生成量が多く、かつストロンチウム濃度の排水基準値が低いことから、ストロンチウムイオンの吸着はとりわけ重要である。ストロンチウムの選択吸着分離が可能な材料として、マンガン酸化物が従来広く知られている。
【0003】
海水中のストロンチウムイオンの吸着剤として、マンガン原料とナトリウム原料を混合して焼成する固相反応法で合成した、層間内にナトリウムイオンを有する層状マンガン酸化物が特許文献1に開示されている。
【0004】
また、同じく海水中のストロンチウムイオンの吸着剤として、マンガン原料とカリウム原料を混合して焼成する固相反応法で合成した、層間内にカリウムイオンを有する層状マンガン酸化物が特許文献2および3に開示されている。
【0005】
さらに、ストロンチウムを含む放射性核種の吸着剤として、バーネサイト型の層状マンガン酸化物が非特許文献1に開示されている。本物質は水酸化マンガンのゾルと過マンガン酸マグネシウムとを反応させて高アルカリ条件下(pH13.7)で7日間熟成することで得られる。
【0006】
しかし、何れの文献も粉末での吸着性能に関する記載に留まり、成形体としての性能への言及は一切ない。実際の原子力発電所汚染水処理設備での吸着剤の使用形態を考えた場合、圧力損失が高くかつ廃棄処理が煩雑である粉末形態である必然性はなく、むしろ不都合である。この目的には、吸着塔に充填可能でありかつ圧力損失が低く、廃棄処理が簡便な成形体として使用されることが想定される。このような成形体についてはストロンチウム吸着性能のみならず、乾燥状態もしくは海水通水時の機械的強度、保形性など副次的機能も要求されることは言うまでもない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2017/086056A1
【文献】WO2018/110615A1
【文献】WO2018/109823A1
【非特許文献】
【0008】
【文献】DYER Alan et al., Sorption characteristics of radionuclides on synthetic birnessite-type layered manganese oxides, J. Mater. Chem.,2010年,10巻,1867-1874頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の固相反応法で合成した層状マンガン酸化物は、それ自体の凝集による成形体の作製は困難である。したがって、成形体として使用用途に好適な強度を実現するには無機結合剤の添加使用が不可欠であった。しかし、無機結合剤はストロンチウム吸着には寄与しないため、その使用は吸着性能低下につながる。また、吸着表面を無機結合剤で被覆、閉塞することで層状マンガン酸化物の吸着利用率が低下する。加えて、無機結合剤と層状マンガン酸化物との混錬物につき、押し出し成型などを利用する場合、有機化合物で増粘させる追加工程が必要な場合がある。このような有機化合物で処理した成形体を原子力発電所汚染水処理に使用した場合、放射線による変質で成形体の機械的強度低下は免れない。また、熱処理して有機化合物を酸化または燃焼させた場合も、層状マンガン酸化物が還元または分解して変質する懸念がある。
【0010】
また、固相反応法で合成した層状マンガン酸化物粉末に無機結合剤を添加して調製した成形体は、かさ密度が低い場合が多い。一定体積の吸着塔への層状マンガン酸化物成形体の充填については、かさ密度が高い方がより多くの重量が充填可能となるため、結果的にストロンチウム吸着容量が増大する。この点でも、結合剤などの成分を含まず、かさ密度が高いことは有利に働く。
【0011】
さらには、固相反応法で合成した層状マンガン酸化物成形体については、通水時の保形性が乏しい。保形性に乏しい場合、微粉化して吸着塔流路を閉塞する、あるいは吸着塔から層状マンガン酸化物成形体を取り出す際に泥状になり取扱いが困難になる不都合がある。このため、原子力発電所汚染水処理に固相反応法で合成した層状マンガン酸化物成形体を用いることは、放射性の成形体の廃棄に際し、大きな問題となることが想定される。
【0012】
したがって、無機結合剤および有機物を含有せず、層状マンガン酸化物の含有率が極めて高く、ストロンチウム吸着性能、機械的強度および保形性を満足する成形体のストロンチウム吸着剤が望まれている。
【0013】
本発明は、これらの課題を解決することを目的とし、十分なストロンチウム吸着性能、機械的強度および保形性を同時に支障なく成立させる層状マンガン酸化物成形体からなるストロンチウム吸着剤を用いるストロンチウム含有廃液の処理方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは機械的強度、保形性およびストロンチウム吸着性能に優れる層状マンガン酸化物成形体について鋭意検討した結果、特定の層状マンガン酸化物の成形体が機械的強度、保形性およびストロンチウム吸着性能をいずれも高いレベルで満足することを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下の構成よりなる。
【0015】
[1]無機結合剤および有機成分を含まず、少なくともアルカリ金属を含む層状マンガン酸化物の成形体粒子から構成されており、全粒子の90wt%以上が粒径0.2mm以上1.7mm以下に分布しており、0.9g/cm3以上のかさ密度および1000mN以上5000mN以下の下記方法で測定した圧壊強度を有するストロンチウム吸着剤と、ストロンチウム含有廃液と、を接触させることを特徴とするストロンチウム含有廃液の処理方法。
・圧壊強度の測定方法:
ランダムに取り出した測定対象粒子を、微小圧縮試験機の試料台に置き、ダイヤモンド圧盤を自動的に下げて負荷をかけ、負荷時のダイヤモンド圧盤の変位が最も大きい時点を粒子が崩壊した際の試験力として測定する。25回の測定結果の平均値を圧壊強度とする
。
【0016】
[2]前記ストロンチウム吸着剤は、AxMnO2(Aはナトリウムおよびカリウムから選ばれる1種以上のアルカリ金属であり、xは0.2以上0.6以下の任意の数である)で表される組成を有し、粉末X線回折測定による(001)面の面間隔が7.0Å以上7.3Å以下であり、(001)面のピークの半値全幅(FWHM)が0.4゜以上3.0゜以下であることを特徴とする、上記[1]に記載の処理方法。
【0017】
[3]前記ストロンチウム吸着剤は、下記方法で測定した撹拌摩耗度が15wt%以下であることを特徴とする、上記[1]又は[2]に記載の処理方法。
・撹拌摩耗度の測定方法:
水7.5g、および測定対象粒子を乾燥重量で2.5g秤量し、30mL広口ポリエチレン瓶に入れ、25℃、24時間静置した後、ポリエチレン瓶をペイントシェイカー(東洋精機製作所製)を用いて5分間振とう撹拌し、摩耗により粒子から脱落した脱落物を、100mesh(目開き150μm)篩にかけて分離回収し、200℃、12時間乾燥した際の乾燥後の脱落物重量を以下の式で算出する。
撹拌摩耗度(重量%)=(脱落物の重量/撹拌前の測定対象粒子の乾燥重量)×100
【0018】
[4]前記ストロンチウム含有廃液は、Naイオン、Kイオン、CaイオンおよびMgイオンから選択される1種以上をさらに含むことを特徴とする、上記[1]~[3]のいずれか1に記載の処理方法。
【0019】
[5]前記ストロンチウム吸着剤は、充填密度0.95g/cm3以上で吸着塔に充填されており、
前記ストロンチウム含有廃液を当該吸着塔に通水することにより、前記ストロンチウム含有廃液と前記ストロンチウム吸着剤とを接触させることを特徴とする、上記[1]~[4]のいずれか1に記載の処理方法。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、実際の原子力発電汚染水処理設備での使用形態を鑑みて、ストロンチウム吸着性能と機械的強度、保形性とを同時に支障なく成立させ、吸着に不活性な結合剤を含まず、アルカリ金属を含む層状マンガン酸化物成形体粒子から構成されるストロンチウム吸着剤を用いることで、従来の粉末よりも高い充填密度で吸着塔に充填することが可能であり、従来よりも多い通水量または早い通水速度で廃液の処理が可能となり、結果的により短時間での廃液処理が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】実施例1で調製した層状マンガン酸化物の粉末X線回折パターンである。
【
図2】実施例1で調製した層状マンガン酸化物成形体の走査電子顕微鏡像である。
【
図3】実施例2で調製した層状マンガン酸化物(試料Aおよび試料B)の粉末X線回折パターンである。
【
図4】実施例2で調製した層状マンガン酸化物成形体の走査電子顕微鏡像である。
【
図5】比較例で調製した層状マンガン酸化物成形体の粉末X線回折パターンである。
【
図6】比較例で調製した層状マンガン酸化物成形体の走査電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明によれば、無機結合剤および有機成分を含まず、少なくともアルカリ金属を含む層状マンガン酸化物の成形体粒子から構成されており、全粒子の90wt%以上が粒径0.2mm以上1.7mm以下に分布しており、0.9g/cm3以上のかさ密度および1
000mN以上5000mN以下の下記方法で測定した圧壊強度を有するストロンチウム吸着剤と、ストロンチウム含有廃液と、を接触させることを特徴とするストロンチウム含有廃液の処理方法が提供される。
・圧壊強度の測定方法:
ランダムに取り出した測定対象粒子を、微小圧縮試験機の試料台に置き、ダイヤモンド圧盤を自動的に下げて負荷をかけ、負荷時のダイヤモンド圧盤の変位が最も大きい時点を粒子が崩壊した際の試験力として測定する。25回の測定結果の平均値を圧壊強度とする。
【0023】
本発明の処理方法で用いるストロンチウム吸着剤は、無機結合剤および有機成分を含まず、少なくともアルカリ金属を含む層状マンガン酸化物の成形体粒子から構成される。特に、組成式AxMnO2(Aはナトリウムおよびカリウムから選ばれる少なくとも1種以上のアルカリ金属であり、xは0.2以上0.6以下の任意の数である)で表される層状マンガン酸化物は、乾燥状態および湿潤状態の結晶格子の大きさに差がなく、通水時の成形体崩壊を抑制可能であることから、ストロンチウム吸着剤として好ましい。中でも、層状マンガン酸化物成形体の乾燥時および湿潤時の格子体積変化を抑制することができ、通水時の成形体保形性を維持可能である点から、アルカリ金属としてはカリウムが好ましい。xは、0.2以上0.6以下の任意の数であり、ストロンチウム吸着性能の観点から0.3以上0.5以下であることがより好ましい。なお、酸素の比率は空格子生成などにより若干の変動はあるが、整数値で2とみなせる。また、層状マンガン酸化物成形体を構成する層状マンガン酸化物の層間、または粒子間に水を含んでいてもよい。
【0024】
また、層状マンガン酸化物成形体の乾燥状態から湿潤状態への格子体積変化を抑制するためには、構成する層状マンガン酸化物の層間距離、すなわち粉末X線回折測定による(001)面の面間隔が7.0Å以上7.3Å以下であることが好ましい。この範囲を超えると、乾燥状態から湿潤状態への体積変化で成形体内部に歪を生じ、層状マンガン酸化物成形体が崩壊する可能性がある。層状マンガン酸化物成形体の層間距離は、粉末X線回折パターンの最低角回折ピークである、六方晶で帰属した場合の(001)面のピーク位置(角度)を面間隔(Å)に換算することで得られる。
【0025】
また、層状マンガン酸化物成形体の結晶性が低いほど、ストロンチウム吸着容量は増大する。このため、粉末X線回折測定において、六方晶で帰属した場合の(001)面のピークの半値全幅(FWHM)は大きいことが好ましい。具体的には、FWHMが0.4°以上3.0°以下が好ましく、さらに好ましくは0.7°以上2.2°以下である。
【0026】
ストロンチウム吸着剤を構成する層状マンガン酸化物成形体は、上記微小圧縮試験機による測定で1000mN以上5000mN以下の高い圧壊強度を示すことが特徴である。保形性およびストロンチウム吸着性能の点から、好ましくは2000mN以上4000mN以下の圧壊強度である。上記微小圧縮試験機による測定で1000mN未満の場合は、機械的強度が不十分であり、5000mNを超える場合は、多孔性を損なうため、ストロンチウム吸着性能が低下する。
【0027】
ストロンチウム吸着剤は、通水時の成形体粒子の保形性を評価する指標となる撹拌摩耗度が15wt%以下であることが好ましい。撹拌摩耗度は、JIS-K-1464(工業用乾燥剤の摩耗試験)に準拠して測定することができる。具体的には、以下の方法で測定する。
・撹拌摩耗度の測定方法:
水7.5g、および測定対象粒子を乾燥重量で2.5g秤量し、30mL広口ポリエチレン瓶に入れ、25℃、24時間静置した後、ポリエチレン瓶をペイントシェイカー(東洋精機製作所製)を用いて5分間振とう撹拌し、摩耗により粒子から脱落した脱落物を、
100mesh(目開き150μm)篩にかけて分離回収し、200℃、12時間乾燥した際の乾燥後の脱落物重量を以下の式で算出する。
撹拌摩耗度(重量%)=(脱落物の重量/撹拌前の測定対象粒子の乾燥重量)×100
【0028】
ストロンチウム吸着剤は、無機結合剤および有機成分を含まないことを特徴とする。「無機結合剤および有機成分を含まない」とは、各々の測定手段において検出限界以下であることを意味する。吸着に機能しない無機結合剤や有機成分を含まないことで吸着性能を向上させ、成形体の強度、保形性を維持することができる。無機結合剤として一般的なものとして、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム成分などのコロイダル粒子、層状または繊維状ケイ酸塩、具体的にはベントナイトやセピオライトなどを列挙することができるが、これらを含まない。さらに、成形体粒子は有機成分を含まないものであり、成形体粒子中の炭素濃度が3000ppm以下であり、各々の測定手段において検出限界以下であることが好ましい。一般的な炭素量測定手段としては、試料の高温燃焼で生成したCOまたはCO2量から逆算することで求めることができる。
【0029】
本発明のストロンチウム吸着剤は、無機結合剤や有機物増粘剤を含まないため、成形体粒子全てが吸着に機能し、かさ密度も増大させるため、一定体積の吸着塔に対してより多くの重量の吸着剤を充填可能である。さらには、結合剤を使用しないにもかかわらず、層状マンガン酸化物成形体粒子の静電的な凝集のみで強固な機械的強度と通水時の保形性を実現可能である。
【0030】
本発明のストロンチウム吸着剤を構成する層状マンガン酸化物の成形体粒子は、全粒子の90wt%以上が粒径0.2mm以上1.7mm以下に存在る粒度分布を有する。粒径が0.2mm未満の粒子が全粒子の10wt%以上である場合、成形体を吸着塔に充填した際に圧力損失が高くなる弊害がある。一方、1.7mmを超える粒子が全粒子の10%以上である場合、液接触表面積が減少するため、吸着性能が著しく低下する。全粒子の95wt%以上が粒径0.2mm以上1.5mm以下に分布していることが好ましい。また、全粒子の90wt%以上の粒径が0.3mm以上1.0mm以下に分布していることが好ましい。これらは実際の原子力発電所汚染水処理設備の吸着塔に充填することを前提にした粒径である。
【0031】
本発明のストロンチウム吸着剤を構成する層状マンガン酸化物成形体は、かさ密度0.9g/cm3以上であることを特徴とする。更に好ましくは1.0g/cm3以上である。かさ密度が0.9g/cm3未満であると、一定体積に充填できる成形体重量が少なくなるため、吸着容量が低下する。
【0032】
次に、ストロンチウム吸着剤の製造方法について説明する。少なくともマンガンを含む金属塩水溶液、アルカリ金属水溶液および酸化剤をアルカリ金属/マンガンモル比が2以上10以下、反応液の酸化還元電位が飽和カロメル電極基準で-0.2V以上0.6V以下、温度0℃以上100℃以下で混合して混合水溶液を得て、該混合水溶液中で層状マンガン酸化物を析出させた上で、析出した層状マンガン酸化物をろ過した後に40℃以上200℃以下で熱硬化させることで層状マンガン酸化物成形体が得られる。
【0033】
マンガンを含む金属塩水溶液は、マンガンを含む金属塩を水に溶解させることで調製することができる。マンガンを含む金属塩は、例えば、水溶性の硫酸マンガン(II)、塩化マンガン(II)、硝酸マンガン(II)、酢酸マンガン(II)などが挙げられ、無水物であっても水和物であってもよい。これらのうち、硫酸マンガン(II)が廃液処理、腐食性、原料コストを考慮した場合、最も好適である。また、マンガンと他の金属イオンとを混合して用いることも可能である。金属塩水溶液中のマンガンなどの全金属の合計濃度(金属濃度)は任意であるが、金属濃度は生産性に影響を及ぼすため、1.0mol
/L以上が好ましく、2.0mol/L以上がさらに好ましい。
【0034】
アルカリ金属水溶液は、アルカリ金属化合物を水に溶解させることで調製することができる。アルカリ金属化合物は、例えば、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムなどの水酸化アルカリ金属、炭酸ナトリウム又は炭酸カリウムなどの炭酸アルカリ金属などが水溶性とコストおよびpH調整の点から好適である。また、アルカリ金属水溶液のアルカリ金属濃度は、生産性の観点から1mol/L以上を例示することができる。アルカリ金属/マンガンモル比は2以上10以下である。アルカリ金属/マンガンモル比が2未満または10超過の場合にはストロンチウム吸着能が低い四三酸化マンガン(Mn3O4)が副生する。ストロンチウム吸着性能の点から、アルカリ金属/マンガンモル比は3以上8以下であることが好ましい。
【0035】
酸化剤は、例えば、過酸化水素、酸素、空気、ペルオキソ二硫酸塩などが挙げられる。ペルオキソ二硫酸塩としては、ペルオキソ二硫酸ナトリウム、ペルオキソ二硫酸カリウム、ペルオキソ二硫酸アンモニウムなどが例示できる。このうち原料調達の容易さおよびコストの点で過酸化水素水、酸素又は空気が好ましい。さらに経済上、酸素又は空気が好ましく、空気がより好ましい。空気や酸素などのガスはバブラーなどを用いて混合水溶液中にバブリングさせることで添加する。
【0036】
酸化剤として酸素または空気を用いた場合、反応液の酸化還元電位を-0.2V以上0.6V以下に調整することにより混合水溶液が得られ、該混合水溶液から本発明の層状マンガン酸化物が析出する。当該酸化還元電位範囲を外れると、副生成物として四三酸化マンガン(Mn3O4)や過マンガン酸塩等が生成する。四三酸化マンガン(Mn3O4)は、ストロンチウム吸着には不活性であることから、その生成はストロンチウム吸着性能低下につながる。また、同じく当該酸化還元電位範囲を外れると、層状マンガン酸化物成形体の強度が低下する。より好ましい酸化還元電位範囲は飽和カロメル電極基準で-0.1V以上0.5V以下である。なお、反応液の酸化還元電位は一般的な標準水素電極を基準とした値であり、市販の酸化還元電位計により求めることができる。酸化還元電位は酸化剤の供給量や反応温度により制御可能である。
【0037】
マンガンを含む金属塩水溶液、アルカリ金属水溶液および酸化剤を混合する温度は0℃以上100℃以下である。混合する温度が0℃未満であると酸化反応が進まないとともに反応液が凝固する可能性があり、100℃を超えると粒子成長が進むことで目的とする緻密な凝集体が得られない。酸化反応が進みやすくなり、層状マンガン酸化物がより析出しやすくなるため、40℃以上80℃以下が好ましい。
【0038】
マンガンを含む金属塩水溶液、アルカリ金属水溶液および酸化剤を混合する際は、バッチ式、連続式反応のどちらでも構わない。混合終了時のpHは7以上14以下であることが好ましく、pH、反応液の酸化還元電位(ORP)はマンガンを含む金属塩又はアルカリ金属水溶液いずれかの投入速度を制御することで適宜調整可能である。
【0039】
析出した層状マンガン酸化物のろ過方法については、固液分離可能であれば、特に制限はない。工業的にはベルトフィルター、フィルタープレス、加圧ろ過装置、限外ろ過装置などを使用することができる。ろ過時に層状マンガン酸化物の洗浄を行ってもよい。
【0040】
層状マンガン酸化物成形体を製造する際の熱硬化は、析出物のろ過により得られたろ過ケーキを40℃以上200℃以下で乾燥(熱処理)することにより同時に行われる。この熱硬化処理により、溶液中で析出した層間距離9Å以上10Å以下のブセライト型層状マンガン酸化物は、層間距離7.0Å以上7.3Å以下のバーネサイト型層状マンガン酸化物に変化し、ろ過ケーキの体積収縮(高密度化)と熱硬化が起こる。これは、ろ過ケーキ
をそのままの形状で、あるいは適当に解砕、または成形した後に所定温度および所定時間で乾燥することにより行われる。熱硬化温度は、層状マンガン酸化物成形体の保形性の点から、40℃以上200℃以下で行うことができ、成形体の保形性の点から40℃以上160℃以下で行うことが好ましい。熱硬化時間は硬化の進行に従って適宜決定される。また、急速に乾燥した場合、粒子間に空隙を生じやすいため、機械的強度低下につながる。以上のように、温和な乾燥条件にすることで高硬度で高密度な凝集体である粒状成形体が得られるため、適宜、熱硬化条件(ろ過ケーキの乾燥時形状、温度、時間)を制御することにより達成される。ロータリー式乾燥やフラッシュ式乾燥は粒径が0.2mm未満の粒子を形成しやすく、不適である。
【0041】
ろ過ケーキを熱硬化させた後に、さらに、必要に応じ、破砕・分級することにより、全粒体の90wt%以上が粒径0.2mm以上1.7mm以下に分布させることができる。破砕法は特に制限はなく、一般的な破砕機、例えばコーンクラッシャー、ロールクラッシャーなどのクラッシャー式破砕機、カッターミル、スタンプミル、リングミル、ローラーミル、ジェットミル、ハンマーミル、回転ミル(ボールミル)、振動ミルなどのミル式破砕機等により行うことができる。分級法は、乾式分級又は湿式分級のいずれの方法も使用でき、水力分級機、沈降分級機、機械式分級機、気流分級機、重力分級機、サイクロン式分級機、ふるい式分級機等を適宜用いて分級することができる。
【0042】
本発明の処理方法は、上記ストロンチウム吸着剤と、ストロンチウム含有廃液とを接触させることにより、上記ストロンチウム吸着剤にストロンチウムを選択的に吸着させることができる。上記ストロンチウム吸着剤を用いることにより、従来の層状マンガン酸化物では選択的吸着が困難であったNaイオン、Kイオン、CaイオンおよびMgイオンから選択される1種以上を含むストロンチウム含有廃液から、ストロンチウムを選択的に吸着することができる。また、上記ストロンチウム吸着剤は、従来の層状マンガン酸化物粉体では困難であった吸着塔への高密度充填および交換も容易に行うことができる。上記ストロンチウム吸着剤を吸着塔に高密度充填することにより、ストロンチウム含有廃液の流通量、ストロンチウム吸着剤との接触面積および接触時間を増大させることができ、結果的に処理時間あたりのストロンチウム吸着量を増大させることができる。具体的には、吸着塔へのストロンチウム吸着剤の充填密度を0.95g/cm3以上、好ましくは1.0g/cm3以上とすることが望ましい。従来の吸着剤の充填密度は0.7g/cm3程度であることと比較すると、本発明のストロンチウム吸着剤は非常に高い充填密度を実現することができる。充填密度が0.9g/cm3未満であると、吸着塔に充填できる成形体重量が少なく、吸着容量が低い。ストロンチウム含有廃液の処理量は、通常ストロンチウム吸着剤の充填密度に比例するが、本発明の処理方法では、上述の通り、ストロンチウム吸着剤との接触面積および接触時間を増大させることができるため、充填密度の比例倍以上の処理量を達成することができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例および比較例により、本発明を具体的に説明する。実施例および比較例において用いた測定方法は以下のとおりである。
【0044】
<元素組成の測定>
元素組成分析は、誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA3000DV、PERKIN ELMER製)を用い、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)により行う。測定溶液は、測定対象粒子を過酸化水素水とフッ化水素酸とで加圧酸溶解により完全に溶解させることで調製する。
【0045】
<炭素濃度の測定>
炭素濃度分析は、全自動元素分析装置(PE2400シリーズ2 CHNS/O An
alyzer、パーキンエルマー製)を用いて行う。
測定条件:燃焼温度950℃、還元温度640℃
【0046】
<粉末X線回折測定>
粉末X線回折測定は、粉末X線回折装置(商品名:Ultima4、リガク製)を使用して行う。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定モードはステップスキャン、スキャン条件は毎秒0.04°、計測時間は0.25秒、測定範囲は2θとして5°~90°の範囲で測定する。
【0047】
<圧壊強度測定>
圧壊強度は、微小圧縮試験機(商品名:MCT-510、島津製作所製)を使用して行った。ランダムに取り出した測定対象粒子を試料台に置き、ダイヤモンド圧盤を自動的に下げて負荷をかけ、負荷時のダイヤモンド圧盤の変位が最も大きい時点を粒子が崩壊した際の試験力として測定する。なお、マイクロスコープによる観察から、崩壊以前の、粒子の微細な動きとみられる変位は除外する。この測定を25個繰り返し、その平均値を成形体の圧壊強度とする。
【0048】
<撹拌摩耗度の測定>
撹拌摩耗度の測定は、米国特許5925284号公報のEXAMPLE 9に準拠して行う。具体的には、水7.5g、および測定対象粒子を乾燥重量で2.5g秤量し、30mL広口ポリエチレン瓶に入れ、25℃、24時間静置した後、ポリエチレン瓶を、ペイントシェイカー(東洋精機製作所製)を用いて5分間振とう撹拌し、摩耗により粒子から脱落した脱落物を、100mesh(目開き150μm)篩にかけることで分離回収し、200℃、12時間乾燥した際の乾燥後の脱落物重量を以下の式で算出する。
撹拌摩耗度(重量%)=(脱落物の重量/撹拌前の測定対象粒子の乾燥重量)×100
【0049】
<かさ密度の測定>
粒度を0.3mm~0.6mmに分級した測定対象粒子を乾燥重量で5g秤量し、自然落下によりメスシリンダー内に収め、メスシリンダー目盛で体積を読みとり、以下の式によりかさ密度を算出する。
かさ密度=W/V(g/cm3)
W:測定対象粒子の乾燥重量(g)
V:メスシリンダーの読み取り値(cm3)
【0050】
<粒径0.2mm以上1.7mm以下に相当する粒体重量分率の測定方法>
測定対象粒子を目開き1.7mm(10メッシュ)および目開き0.21mm(70メッシュ)の金属製ふるいに通して分級する。0.2mmから1.7mmの粒径に相当する粒体重量分率は、目開き1.7mmのふるい上および目開き0.21mmのふるい下の粒体の重量Aを全粒体の重量Bを用いて以下の式で求める。
粒径0.2mm以上1.7mm以下に相当する粒体重量分率(%)=100×(B-A)/B
【0051】
<ストロンチウム吸着試験>
汚染海水を模擬し、塩化ナトリウム、塩化ストロンチウム6水和物、塩化カルシウム、塩化マグネシウム6水和物、塩化セシウムの試薬を所定量秤量し純水で希釈することにより、NaCl:0.3%、Ca2+:5ppm、Mg2+:2ppm、Sr2+:5ppm、Cs:1ppmである模擬海水を調製した。
測定対象粒子を30分水に浸漬させ空気抜きを行った後、高さ12cm×内径8mmの吸着塔(カラム)に5mL充填して充填層の高さを10cmとし、1時間純水を100mL/hrの速度で通液させた後、カラム温度を30℃に保持しながら、模擬海水をカラム
に100mL/hrの速度で通液させ続け、以後24時間毎に100mLずつカラムに通液させて、カラム底部から流出する処理液のサンプリングを行った。
処理液中のストロンチウム濃度測定は、誘導結合プラズマ発光分析装置(商品名:OPTIMA3000DV、PERKIN ELMER社製)を用いて、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP法)により行った。
吸着試験を行う前の模擬海水のストロンチウム濃度をC0(mg/L)、処理液のストロンチウム濃度をC(mg/L)とし、C/C0を模擬海水通液開始からサンプリング時刻までの単位吸着剤体積あたりの総模擬海水通液量(以下、「B.V.」とする)に対してプロットし、C/C0=0.1となるまでのB.V.(以下、「破過B.V.」とする)を求めた。
【0052】
[実施例1]
内容積1Lの反応容器に純水300gを収め、これを40℃まで昇温、維持した。別に、硫酸マンガンを純水に溶解し、0.82mol/Lの硫酸マンガンを含む金属塩水溶液を調製した。当該金属塩水溶液を供給速度10g/minで反応容器に添加した。同時に、酸化剤として35%過酸化水素水を供給速度5.4g/minで反応容器中に添加した。金属塩水溶液および35%過酸化水素水を供給した際のK/Mnモル比は4.7であった。また、酸化還元電位が飽和カロメル電極基準で-0.055Vとなるように、5mol/Lの水酸化カリウム水溶液(アルカリ金属水溶液)を連続的に30分添加した。上記操作により層状マンガン酸化物が析出したスラリーを得た。得られたスラリーをろ過し、純水で洗浄した後、洗浄後のウェットケーキを60℃で5時間乾燥して熱硬化させることで、層状マンガン酸化物(K0.34MnO2)の塊状凝集物を得た。塊状凝集物をアルミナ製乳鉢と乳棒でタッピングすることで解砕した。その後、目開き0.6mmのメッシュを通し、目開き0.3mmのメッシュの上に残ったものを採取することで、0.3mm~0.6mmに分級し、ストロンチウム吸着剤を得た。
【0053】
得られたストロンチウム吸着剤は、粉末X線回折の測定により層状結晶構造を有することがわかり、層間にカリウムイオンが存在するバーネサイト型の結晶構造に由来する回折パターンと一致した。層間距離は7.18Å、(001)面(六方晶に帰属したときの001ピーク)のFWHMは1.50°であった。元素組成の測定によるK/Mnモル比は0.34であった。
【0054】
得られたストロンチウム吸着剤のかさ密度は1.392g/cm3であり、圧壊強度は2339mN、撹拌摩耗度は2.15wt%であった。なお、撹拌摩耗度の測定前後におけるストロンチウム吸着剤を構成する成形体粒子の形状変化はなかった。また、ストロンチウム吸着剤のSi、Al、Ti、Zr濃度はICP測定の結果、検出限界以下、炭素濃度は検出限界以下(3000ppm以下)であった。また、ストロンチウム吸着試験における吸着剤の充填密度は1.35g/cm3であり、C/C0=0.1となるまでの破過B.V.値は4600であった。
【0055】
上記測定結果を表1に示し、粉末X線回折パターンを
図1に示し、走査電子顕微鏡(SEM)像を
図2に示す。
【0056】
[実施例2]
600mlメスフラスコに、硝酸マンガン六水和物(関東化学特級、98%)52.83gを少量の純水に溶解させ、次いで0.3mol/l濃度となるように純水を注いで、600mlにメスアップすることで硝酸マンガン水溶液を調製した。別の600mlメスフラスコに、水酸化カリウム(KOH)47.61gを少量の水に溶解させ、次いで過酸化水素水(H2O2、35%)51.60mlを加え、純水を注いで600mlにメスアップすることで(H2O2+KOH)水溶液を調製した。この際のKOH濃度は1.2m
ol/l、H2O2濃度は1.0mol/lであった。
【0057】
600mlの硝酸マンガン水溶液を2000mLのビーカーに移し、マグネティックスターラーを用いて撹拌しながら、(H2O2+KOH)水溶液600mlをゆっくりと加えた。10分間撹拌した後、撹拌を止めて1時間静置した後、得られた固体をろ紙を用いて減圧ろ過し、3000mlの水で洗浄を行った。その後、当該ろ紙を乾燥機に入れ、60℃で1日間乾燥させることにより、熱硬化させた。乾燥物は光沢を帯びた塊状凝集物であり、収量は21.12gであった。
【0058】
当該塊状凝集物をアルミナ乳鉢に入れ、乳棒で解砕した。解砕後の破砕片を開き0.6mmのメッシュを通し、目開き0.3mmのメッシュの上に残ったものを採取することで、0.3mm~0.6mmに分級し、ストロンチウム吸着剤を得た。
【0059】
また、ろ過洗浄後、得られた湿潤試料Aおよび60℃で一日間熱硬化した試料Bの粉末X線回折パターンを
図3に示す。試料Aは層間距離約9.4Åのブセライト、試料Bは層間距離約7.1Åのバーネサイトに帰属できる。また、(001)面のピークのFWHMは0.828°であった。したがって、硝酸マンガン、過酸化水素水、KOH混合水溶液中で析出させる工程においては、析出物質は層間距離9Å以上10Å未満のブセライトであって、熱硬化過程で層間距離約7Åのバーネサイトに変化することが確認された。
【0060】
得られたストロンチウム吸着剤のかさ密度は1.19g/cm3であり、圧壊強度は3426mN、撹拌摩耗度は2.87wt%であった。なお、撹拌摩耗度の測定前後におけるストロンチウム吸着剤を構成する成形体粒子の形状変化はなかった。また、ストロンチウム吸着剤のSi、Al、Ti、Zr濃度はICP測定の結果、検出限界以下であり、炭素濃度は検出限界以下(3000ppm以下)であった。また、ストロンチウム吸着試験における吸着剤の充填密度は1.35g/cm3であり、破過B.V.値は5105であった。
【0061】
【0062】
[比較例]
炭酸カリウム(特級試薬、キシダ化学製)と炭酸マンガン(Lianyungang Dongdu Chemical Co.,Ltd.製)をK/Mnモル比1.0となるよう秤量して、乾式ボールミル混合を行い、混合粉をマッフル炉で空気流通下300℃、12時間、次いで400℃で6時間焼成を行った。該焼成品を5倍量の水にて水洗ろ過し、60℃にて一晩乾燥し、乾式粉砕機(フォースミル、大阪ケミカル製)にて粗粒を粉砕し、カリウム型層状マンガン酸化物を得た。得られたカリウム型層状マンガン酸化物は、粉末X線回折の測定により層状結晶構造を有することがわかり、層間にカリウムイオンが存在するバーネサイト型の結晶構造に由来する回折パターンと一致した。層間距離は7.14Å、六方晶に帰属したときの(001)面ピークのFWHMは0.577°、元素組成から求めたK/Mnモル比は0.307であった。
【0063】
次に、得られたカリウム型層状マンガン酸化物、シリカゾル、及び、カルボキシメチルセルロース(CMC)を以下の重量割合となるように混合し、混合物を得た。
カリウム型層状マンガン酸化物:100重量部
シリカゾル中のシリカ:16重量部
水:36重量部
CMC:5重量部
【0064】
無機結合剤としてのシリカゾルは、ゾル濃度48wt%およびゾル中のシリカ粒子の平
均粒子径(平均ゾル粒径)0.02μmのシリカゾル(商品名:スノーテックス50-T、日産化学工業製)を使用した。また、成形助剤としてCMC(商品名:セロゲンWS-D、第一工業製薬製)を使用した。
【0065】
得られた混合物をヘンシェルミキサーで20分間混合した後、押出し成形して、直径1.5mmの円柱状の成形体を得た。得られた成形体を25l/minの空気流通下で、500℃、3時間焼成した後、解砕し、開き0.6mmのメッシュを通し、目開き0.3mmのメッシュの上に残ったものを採取することで、0.3mm~0.6mmに分級し、層状マンガン酸化物成形体を得た。
【0066】
得られた層状マンガン酸化物成形体のかさ密度は0.77g/cm3であり、圧壊強度は483mN、撹拌摩耗度は31wt%であった。なお、撹拌摩耗度の測定前後における層状マンガン酸化物成形体の形状変化はなかった。また、成形体のSi、Al、Ti、Zr濃度はICP測定の結果、Siが6.4wt%となった。炭素濃度は検出限界以下(3000ppm以下)であった。また、ストロンチウム吸着試験における吸着剤の充填密度は0.94g/cm3であり、破過B.V.値は2560であった。
【0067】
上記測定結果を表1に示し、粉末X線回折パターンを
図5に示し、SEM像を
図6に示す。
【0068】
【0069】
無機結合剤および有機成分を含まず、少なくともアルカリ金属を含む層状マンガン酸化物の成形体粒子から構成されており、全粒子の90wt%以上が粒径0.2mm以上1.7mm以下に分布しており、0.9g/cm3以上のかさ密度および1000mN以上5000mN以下の圧壊強度を有する実施例1および2のストロンチウム吸着剤は、吸着塔への充填密度が1.35g/cm3と高く、破過B.V.が4500以上と優れたストロンチウム吸着性能を示す。一方、無機結合剤を含み、0.771g/cm3のかさ密度および483mNの圧壊強度を有する比較例の層状マンガン酸化物成形体は吸着塔への充填密度が0.94g/cm3と低く、破過B.V.が2560であった。以上より、本発明のストロンチウム吸着剤の選択的ストロンチウム吸着性能の優位性が確認される。