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特許7398051粉体の処理方法、粉体の処理装置、セメント原料の製造方法、および、セメントの製造方法
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  • 特許-粉体の処理方法、粉体の処理装置、セメント原料の製造方法、および、セメントの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】粉体の処理方法、粉体の処理装置、セメント原料の製造方法、および、セメントの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 7/38 20060101AFI20231207BHJP
   C04B 7/44 20060101ALI20231207BHJP
   B09B 3/40 20220101ALI20231207BHJP
【FI】
C04B7/38
C04B7/44
B09B3/40
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020042163
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021142471
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】門野 壮
(72)【発明者】
【氏名】岡田 豊
(72)【発明者】
【氏名】新杉 匡史
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-108251(JP,A)
【文献】特開2018-118888(JP,A)
【文献】特開2020-157230(JP,A)
【文献】特開2001-342045(JP,A)
【文献】特開2001-072412(JP,A)
【文献】特開2013-134085(JP,A)
【文献】特開2018-118229(JP,A)
【文献】特開2018-158324(JP,A)
【文献】特開2004-059754(JP,A)
【文献】特開2002-059114(JP,A)
【文献】特開2021-050123(JP,A)
【文献】米国特許第05755876(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00 - 32/02
B09B 3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属成分を含有する粉体を粒径2mm以下の細粉と粒径2mmを超える粗粉とに分ける分級工程と、
細粉と塩素含有物との混合物を、200℃を超え1200℃未満の温度で加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、
加熱処理物を水で洗浄する洗浄工程とを備えており、
塩素含有物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び、塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つである塩素化合物を含み、
混合物は、細粉100質量部に対して、塩素化合物を10質量部以下の割合で含む、
粉体の処理方法。
【請求項2】
塩素含有物は、塩素化合物を含む廃棄物である、
請求項1に記載の粉体の処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の粉体の処理方法で粉体を処理して処理粉体を得る粉体処理工程を備えており、
該処理粉体を用いてセメント原料を製造する、
セメント原料の製造方法。
【請求項4】
請求項に記載のセメント原料の製造方法で製造されたセメント原料を焼成する焼成工程を備える、
セメントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルカリ金属成分を含有する粉体を処理するための粉体の処理方法、および、斯かる処理方法を実施するための処理装置に関する。
また、アルカリ金属成分を含有する粉体を用いてセメント原料を製造するためのセメント原料の製造方法、および、斯かるセメント原料を用いてセメントを製造するセメントの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルカリ金属成分を含有する粉体としては、例えば、セメントの製造設備で回収されるダスト(所謂、STABダストやEPダスト等)や、セメント原料として利用される廃棄物(焼却灰など)等が挙げられる。
このような粉体を用いて製品を製造すると、アルカリ金属成分の影響によって製品に不具合が生じる場合がある。例えば、斯かる粉体をセメントの材料として用いた場合、該セメントを用いて形成されるコンクリート硬化体でアルカリ骨材反応が生じ、コンクリート硬化体にひび割れが生じる虞がある。そこで、粉体中のアルカリ金属成分の含有量を低減する方法として、粉体を塩素含有物と共に焼成炉で焼成し、アルカリ金属成分を塩素化合物として揮発させる方法が知られている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-013843号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記のような方法では、粉体中のアルカリ金属成分の含有量によっては、粉体中のアルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができない。
【0005】
そこで、本発明は、粉体中のアルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる粉体の処理方法を提供すると共に、斯かる処理方法の実施に用いる処理装置を提供することを課題とする。また、斯かる処理方法で処理された処理粉体を用いてセメントを製造するセメントの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る粉体の処理方法は、アルカリ金属成分を含有する粉体を粒径2mm以下の細粉と粒径2mmを超える粗粉とに分ける分級工程と、細粉と塩素含有物との混合物を、200℃を超え1200℃未満の温度で加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、加熱処理物を水で洗浄する洗浄工程とを備えており、塩素含有物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び、塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つである塩素化合物を含む。
【0007】
本発明では、アルカリ金属成分と上記の塩素化合物とが上記の温度で加熱されることで、アルカリ金属の塩化物が形成される。これにより、アルカリ金属の塩化物を水に溶解して除去することができる。
また、本発明では、分級工程を備えることで、アルカリ金属成分の含有量が粗粉よりも多い細粉を収集することができる。このため、斯かる細粉に対して加熱工程および洗浄工程を行うことで、粗粉と細粉とが含まれた状態で加熱工程および洗浄工程を行う場合よりも、アルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる。
【0008】
混合物は、細粉100質量部に対して、塩素化合物を10質量部以下の割合で含むことが好ましい。
【0009】
混合物が塩素化合物を上記の割合で含むことで、アルカリ金属成分の含有量をより効率的に低減することができる。
【0010】
塩素含有物は、塩素化合物を含む廃棄物であることが好ましい。
【0011】
塩素含有物が塩素化合物を含む廃棄物であることで、廃棄物の利用を促進することができる。
【0012】
本発明に係る粉体の処理装置は、アルカリ金属成分を含有する粉体を粒径2mm以下の細粉と粒径2mmを超える粗粉とに分ける分級装置と、細粉と塩素含有物との混合物を、200℃を超え1200℃未満の温度で加熱して加熱処理物を形成する加熱装置と、加熱処理物を水で洗浄する洗浄装置とを備えており、塩素含有物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び、塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つである塩素化合物を含む。
【0013】
本発明では、分級装置を備えることで、アルカリ金属成分の含有量が粗粉よりも多い細粉を収集することができる。このため、加熱装置を用いて細粉を加熱して加熱処理物を形成し、洗浄装置を用いて加熱処理物を洗浄することで、粗粉と細粉とが含まれた状態で加熱装置による加熱および洗浄装置による洗浄を行う場合よりも、アルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる。
【0014】
本発明に係るセメント原料の製造方法は、上記何れかに記載の粉体の処理方法で粉体を処理して処理粉体を得る粉体処理工程を備えており、該処理粉体を用いてセメント原料を製造する。
【0015】
斯かる構成によれば、アルカリ金属成分を含有する粉体を用いてセメント原料を製造する際に、粗粉と細粉とが含まれた状態で加熱工程および洗浄工程を行う場合よりも、処理粉体中のアルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる。これにより、アルカリ金属成分の含有量が低減されたセメント原料を効率的に製造することができる。
【0016】
本発明に係るセメントの製造方法は、上記のセメント原料の製造方法で製造されたセメント原料を焼成する焼成工程を備える。
【0017】
上記のセメント原料の製造方法で製造されたセメント原料を焼成する焼成工程を備えることで、アルカリ金属成分の含有量が低減されたセメントを効率的に製造することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、粉体中のアルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る粉体の処理方法のフロー図。
図2】本実施形態に係る粉体の処理装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実施形態について、図1,2を参照しながら説明する。
なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照符号を付しその説明は繰り返さない。
【0021】
本実施形態に係る粉体の処理方法は、アルカリ金属成分を含有する粉体を処理対象とするものである。斯かる粉体に含まれるアルカリ金属成分を構成するアルカリ金属元素としては、特に限定されるものではなく、例えば、ナトリウム、および、カリウムからなる群から選択される少なくとも一つが挙げられる。また、粉体に含有されるアルカリ金属成分としては、本実施形態に係る粉体の処理方法で粉体が処理される前の状態で水に溶解し難いものが挙げられる。具体的には、アルカリ金属成分としては、例えば、アルカリ長石(正長石、微斜長石など)、斜長石(曹長石、灰長石など)、準長石などが挙げられる。
【0022】
粉体におけるアルカリ金属成分の含有量としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルカリ金属の酸化物換算で、0.2~30質量%であってもよく、0.3~25質量%であってもよい。
また、粉体におけるナトリウム成分の含有量としては、特に限定されるものではなく、例えば、酸化ナトリウム(NaO)換算で、0.1~5.0質量%であってもよく、0.1~3.0質量%であってもよい。
さらに、粉体におけるカリウム成分の含有量としては、特に限定されるものではなく、例えば、酸化カリウム(KO)換算で、0.1~25質量%であってもよく、0.2~22質量%であってもよい。
【0023】
本実施形態に係る粉体の処理方法で処理対象となる粉体としては、特に限定されるものではなく、例えば、廃棄物、および、セメントキルンから排出された排ガス中のダスト等から選択される少なくとも一つが挙げられる。
廃棄物としては、建設発生土、一般廃棄物の焼却灰(焼却主灰等)等が挙げられる。
ダストとしては、EPダスト(電気集塵ダスト)、PHBダスト(プレヒーターボイラダスト)、STABダスト(スタビライザー回収ダスト)等が挙げられる。
そして、粉体として好ましいものとしては、STABダストが挙げられる。
【0024】
また、粉体は、JIS Z 8801に規定するふるい分けによる粒度分布が11.2mm以上の粒子割合が0~20%、2~11.2mmの粒子割合が0~30%、2mm以下の粒子割合が50~100%となるものが挙げられる。また、粉体は、JIS Z 8801に規定する2mm目のふるいを通過する粒子の割合が60~100質量%であることが好ましく、80~100質量%であることがより好ましい。また、粉体がSTABダストである場合には、STABダストは、JIS Z 8801に規定するふるいを用いたふるい分けによる粒度分布が11.2mm以上の粒子割合が0~10%、2mm~11.2mmの粒子割合が10~20%、2mm以下の粒子割合が70~90%となるものが挙げられる。
【0025】
本実施形態に係る粉体の処理方法は、図1に示すように、アルカリ金属成分を含有する粉体を所定の粒径を境に細粉と粗粉とに分級する分級工程と、該分級工程で得られる細粉と塩素含有物とを混合して混合物を形成する混合工程と、該混合工程で得られる混合物を所定の温度で加熱して加熱処理物を得る加熱工程と、該加熱工程で得られる加熱処理物を水で洗浄して洗浄処理物を得る洗浄工程と、該洗浄工程で得られる洗浄処理物を脱水する脱水工程とを備える。
【0026】
分級工程は、粒径2mm以下の細粉と、粒径2mmを超える粗粉とに粉体を分ける。また、分級工程は、粒径1mm以下の細粉と、粒径1mmを超える粗粉とに粉体を分けるものであってもよい。ここで、粒径とは、JIS Z 8801に規定するふるいのふるい目をいう。つまり、分級工程は、粉体を、2mmのふるい目を通過する細粉と、2mmのふるい目を通過しない粗粉とに分ける。また、分級工程は、粉体を、1mmのふるい目を通過する細粉と、1mmのふるい目を通過しない粗粉とに分けるものであってもよい。
【0027】
混合工程で細粉(粒径2mm以下の粉体、好ましくは、粒径1mm以下の粉体)と混合される塩素含有物は、塩素化合物を含有するものである。つまり、塩素含有物は、塩素化合物以外に他の成分を含むものであってもよく、塩素化合物のみからなる(塩素化合物自体)であってもよい。塩素化合物としては、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び、塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つである。これらの塩素化合物のうち、加熱工程で混合物が加熱される際の温度以下の融点を有するものを用いることが好ましい。
塩化カルシウムとしては、塩化カルシウムの無水和物であってもよく、塩化カルシウムの水和物であってもよい。
塩化カルシウムの水和物としては、塩化カルシウムの一水和物(CaCl・HO)、塩化カルシウムの二水和物(CaCl・2HO)、塩化カルシウムの四水和物(CaCl・4HO)、塩化カルシウムの六水和物(CaCl・6HO)などが挙げられる。
【0028】
また、混合工程で形成される混合物は、細粉100質量部に対して、塩素化合物を、好ましくは10質量部以下、より好ましくは8質量部以下、さらに好ましくは5質量部以下の割合で含む。また、混合工程で形成される混合物は、細粉100質量部に対して、塩素化合物を、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上の割合で含む。
なお、塩素含有物中の塩素化合物が水和物である場合、上記の細粉に対する塩素化合物の割合は、塩素化合物の水和物に含まれる水(HO)を除外した量を意味する。
【0029】
また、混合工程では、塩素含有物中の塩素化合物の含有量と、細粉中のアルカリ金属成分の含有量とに基づいて細粉と塩素含有物との混合量を決定することが好ましい。これにより、混合工程で得られる混合物中に塩素化合物が過剰に混合されることを防止することができ、洗浄工程で得られる洗浄処理物や洗浄後の水に塩素成分が残存する量を低減することができる。
【0030】
塩素含有物としては、例えば、塩素化合物を含む廃棄物を用いることができる。該廃棄物としては、一般廃棄物の焼却飛灰、溶融飛灰、除湿剤の廃棄物(使用済みの除湿剤等)等が挙げられる。
また、塩素含有物として用いる廃棄物は、アルカリ金属成分を含まないもの、或いは、アルカリ金属成分を含んでいるが粉体よりもアルカリ金属成分の含有量がアルカリ金属換算で少ないものであることが好ましい。また、廃棄物は、水に溶解し難いアルカリ金属成分を含まないもの、或いは、水に溶解し難いアルカリ金属成分を含んでいるが水に溶解し難いアルカリ金属成分の含有量がアルカリ金属換算で粉体よりも少ないものであることが好ましい。
なお、粉体は、塩素化合物を含まないもの、或いは、塩素化合物を含んでいるが混合工程で使用される塩素含有物(具体的には、廃棄物)よりも塩素化合物の含有量が少ないものであることが好ましい。
【0031】
加熱工程では、混合物を加熱する温度は、200℃を超える温度であり、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上、さらに好ましくは500℃以上、特に好ましくは600℃以上である。
また、加熱工程では、混合物を加熱する温度は、1200℃未満であり、好ましくは1100℃以下、より好ましくは1000℃以下、さらに好ましくは900℃以下、特に好ましくは800℃以下である。
また、加熱工程では、混合物に含まれる塩素化合物の融点以上の温度で混合物を加熱することが好ましい。
また、加熱工程で混合物を加熱する際の時間としては、特に限定されるものではなく、例えば、10~120分間であることが好ましく、10~60分間であることがより好ましい。
上記のような温度範囲で加熱工程が行われることで、溶融した塩素化合物が細粉に含まれるアルカリ金属成分と接するため、塩素化合物とアルカリ金属成分との反応性が向上し、水溶性のアルカリ金属化合物を加熱処理物中に効率的に形成することができる。
なお、融点の異なる塩素化合物が混合物中に含まれる場合には、「混合物に含まれる塩素化合物の融点以上の温度」とは、「融点の異なる塩素化合物のうち融点が最も低い塩素化合物の融点以上の温度」を意味する。
【0032】
洗浄工程において、加熱工程で得らえる加熱処理物を洗浄する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、加熱処理物を水中で撹拌する方法であってもよく、加熱処理物に水を散水する方法であってもよい。
また、洗浄工程は、加熱処理物が所定の温度に冷却された後で行うことが好ましい。これにより、洗浄に用いる水が蒸発してしまったり、加熱処理物を構成する成分が水と反応してしまったりするのを抑制することができる。
加熱処理物と水とを混合する際の加熱処理物の温度としては、特に限定されるものではなく、例えば、50℃以下であることが好ましく、10℃~40℃であることがより好ましく、20℃~30℃であることがさらに好ましい。
また、加熱処理物と混合する水の質量としては、特に限定されるものではなく、例えば、加熱処理物の0.5~10倍の質量であることが好ましく、1~5倍の質量であることがより好ましい。
なお、洗浄工程では、加熱処理物と水とを混合して洗浄する工程を、水を脱水する工程を挟んで繰り返し行ってもよい。これにより、アルカリ金属の塩素化合物が洗浄処理物に含まれるのをより効果的に抑制することができる。
【0033】
脱水工程では、洗浄工程で得られる洗浄処理物中の水分の含有量が好ましくは50%以下、より好ましくは40%以下、さらに好ましくは30%以下となるように脱水する。
洗浄処理物の脱水方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、真空脱水機、遠心脱水機、加圧ろ過機、および/または、ベルトプレスろ過機等を用いた方法が挙げられる。
なお、脱水工程の対象となる洗浄処理物は、洗浄工程において脱水されたものであってもよく、洗浄工程において脱水されていないものであってもよい。
【0034】
次に、上記のように構成される処理方法を実施するための処理装置について説明する。
【0035】
図2に示すように、処理装置1は、アルカリ金属成分を含有する粉体を細粉と粗粉とに分ける(即ち、上記の分級工程を実施可能に構成された)分級装置2を備える。該分級装置2は、JIS Z 8801に規定するふるいであってふるい目が2mmのふるいを備える。そして、分級装置2は、粉体を粒径2mm以下の細粉と、粒径2mmを超える粗粉とに分級可能に構成される。また、分級装置2は、粉体を粒径1mm以下の細粉と、粒径1mmを超える粗粉とに分級可能なものであってもよい。
【0036】
また、処理装置1は、分級装置2で得られる細粉が供給されて該細粉と塩素含有物とを混合して混合物を形成する(即ち、上記の混合工程を実施可能に構成された)混合装置3を備える。該混合装置3への塩素含有物の供給は、塩素含有物供給手段7を用いて行う。混合装置3としては、特に限定されるものではなく、例えば、ドラム式の混合機等を用いることができる。
【0037】
また、処理装置1は、混合装置3で得られる混合物を所定の温度で加熱して加熱処理物を形成する(即ち、上記の加熱工程を実施可能に構成された)加熱装置4を備える。該加熱装置4は、混合物を内側に収容した状態で撹拌する撹拌部4aと、該撹拌部4aの外側に配置されて撹拌部4aの内側に熱を供給する加熱部4bとを備える。撹拌部4aとしては、特に限定されるものではなく、例えば、ドラム式の撹拌機等を用いることができる。また、加熱部4bとしては、特に限定されるものではなく、例えば、電気加熱式シートやオイル加熱式のシートを撹拌部4aに巻き付けたもの等を用いることができる。
【0038】
また、処理装置1は、加熱装置4で得られる加熱処理物を水で洗浄して洗浄処理物を得る(即ち、上記の洗浄工程を実施可能に構成された)洗浄装置5を備える。洗浄装置5への水の供給は、水供給手段8を用いて行う。
洗浄装置5は、加熱処理物と水とを混合する工程を実施可能に構成された洗浄混合装置5aと、該洗浄混合装置5aで得られる洗浄スラリーを脱水する洗浄脱水装置5bとを備える。これにより、洗浄装置5では、洗浄混合装置5aにおける混合を、洗浄脱水装置5bにおける脱水を挟んで、繰り返し行うことができる。
【0039】
また、処理装置1は、洗浄装置5で得られる洗浄処理物を脱水する(即ち、上記の脱水工程を実施可能に構成された)脱水装置6を備える。
脱水装置6としては、特に限定されるものではなく、例えば、真空脱水機、遠心脱水機、加圧ろ過機、および/または、ベルトプレスろ過機等を用いることができる。
【0040】
上記のように構成される粉体の処理方法で処理された粉体(以下、処理粉体とも記す)の用途としては、特に限定されるものではなく、例えば、セメント原料として用いることができる。つまり、本実施形態に係るセメント原料の製造方法は、上記のように構成される粉体の処理方法で粉体を処理して処理粉体を得る粉体処理工程を備える。斯かるセメント原料の製造方法では、処理粉体自体がセメント原料を形成するものであってもよく、処理粉体に対して乾燥等の処理が行われたものがセメント原料を形成するものであってもよい。
そして、上記のようなセメント原料の製造方法で製造されたセメント原料は、他の原料と共に、ロータリーキルン等の焼成設備へ供給することができる。つまり、本実施形態に係るセメントの製造方法は、上記のようなセメント原料の製造方法で製造されたセメント原料を焼成する焼成工程を備える。
【0041】
上記のように、処理粉体を用いて製造されたセメントは、アルカリ金属成分の含有量が比較的少ないものとなる。このため、該セメントと骨材と水とが混練されて硬化することで形成される硬化体が、アルカリ骨材反応によって膨張するのが抑制される。これにより、硬化体にひび割れが生じるのを抑制することができる。このため、アルカリ骨材反応を生じやすい骨材(例えば、オパール、クリストバライト、トリジマイト、火山ガラス、カルセドニー(玉髄)、シリケート鉱物(雲母、粘土鉱物等)等を含む骨材)を用いて硬化体を形成することができる。
【0042】
以上のように、本発明に係る粉体の処理方法、粉体の処理装置は、アルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる。また、本発明に係るセメントの製造方法は、アルカリ金属成分の含有量が低減されたセメントを製造することができる。
【0043】
即ち、アルカリ金属成分を含有する粉体を粒径2mm以下の細粉と粒径2mmを超える粗粉とに分ける分級工程と、細粉と塩素含有物との混合物を加熱して加熱処理物を得る加熱工程とを備える。そして、塩素含有物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び、塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一つである塩素化合物を含む。
ここで、アルカリ金属成分と塩素化合物とが上記の温度で加熱されると、アルカリ金属の塩化物が形成される。これにより、アルカリ金属の塩化物を水に溶解して除去することができる。
本発明では、分級工程を備えることで、アルカリ金属成分の含有量が粗粉よりも多い細粉を収集することができる。このため、斯かる細粉に対して加熱工程および洗浄工程を行うことで、粗粉と細粉とが含まれた状態で加熱工程および洗浄工程を行う場合よりも、アルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる。
【0044】
また、塩素化合物は、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、及び、塩化アンモニウムからなる群から選択される少なくとも一種であることで、アルカリ金属成分の含有量をより効率的に低減することができる。
【0045】
また、混合物は、細粉100質量部に対して、塩素化合物を10質量部以下の割合で含むことで、アルカリ金属成分の含有量をより効率的に低減することができる。
【0046】
また、塩素含有物は、塩素化合物を含む廃棄物であることで、廃棄物の利用を促進することができる。
【0047】
また、分級装置2を備えることで、アルカリ金属成分の含有量が粗粉よりも多い細粉を収集することができる。このため、加熱装置4を用いて細粉を加熱して加熱処理物を形成し、洗浄装置5を用いて加熱処理物を洗浄することで、粗粉と細粉とが含まれた状態で加熱装置4による加熱および洗浄装置5による洗浄を行う場合よりも、アルカリ金属成分の含有量を効率的に低減することができる。
【0048】
また、上記の粉体の処理方法で処理された処理粉体を用いてセメントを製造することで、アルカリ金属成分の含有量が低減されたセメントを製造することができる。
【0049】
なお、本発明に係る粉体の処理方法、粉体の処理装置、および、セメントの製造方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0050】
例えば、上記実施形態では、粉体の処理装置1は、混合装置3を備えるように構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、加熱装置4において(即ち、加熱工程において)混合工程を行うように構成した場合、混合装置3を備えないように構成してもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、洗浄装置5は、洗浄脱水装置5bを備えるように構成されているが、これに限定されるものではなく、例えば、洗浄混合装置5aのみを備えるように構成してもよい。
【0052】
また、上記実施形態では、粉体の処理方法は、脱水工程を備え、粉体の処理装置1は、脱水装置6を備えているが、これに限定されるものではなく、例えば、脱水を必要としない場合には、脱水工程および脱水装置6を備えないように構成してもよい。
【実施例
【0053】
次に、実施例および比較例を挙げて本発明についてさらに具体的に説明する。
【0054】
<使用材料>
・粉体:STABダスト
・塩素化合物:塩化カルシウム(CaCl
【0055】
<分級工程>
JIS Z 8801に規定するふるいを用い、下記表1の粒度分布となるように粉体を分級した。具体的には、11.2mmのふるい目を通過し、2mmのふるい目を通過しない粒子を粒径2~11.2mmとした。また、2mmのふるい目を通過し、1mmのふるい目を通過しない粒子を粒径1~2mmとした。また、1mmのふるい目を通過し、0.5mmのふるい目を通過しない粒子を粒径0.5~1mmとした。また、0.5mmのふるい目を通過する粒径を粒径0.5mm以下とした。
【0056】
<各粒径の粉体それぞれにおける全アルカリの含有量の測定>
分級工程で得られる各粒径の粉体それぞれについて、全アルカリの含有量を測定した。
具体的には、各粒径の粉体それぞれについて、ナトリウム(Na)の濃度及びカリウム(K)の濃度をエネルギー分散型蛍光X線分析装置(ED-XRF)で測定し、その結果を基に全アルカリ量を算出した。全アルカリ量の算出方法は、下記の(1)式の通りである。

全アルカリ量=NaO+0.658×KO・・・(1)
【0057】
<混合工程>
分級工程で得られた各粒径の粉体それぞれと塩素化合物(CaCl)とを混合し、混合物を得た。各粒径の粉体100質量部に対する塩素化合物(CaCl)の割合は、下記表1に示す。
【0058】
<加熱工程>
混合工程で得られた混合物を、下記表1に示す温度で15分間加熱して加熱処理物を得た。
【0059】
<洗浄工程>
加熱工程で得られた加熱処理物と水とを水で洗浄して洗浄処理物を得た。加熱処理物の洗浄は、加熱処理物と水とを混合して30分間撹拌することで行った。加熱処理物100質量部に対する水の割合は、400質量部とした。
【0060】
<脱水工程>
洗浄工程で得られた洗浄処理物を105℃で2時間乾燥し、処理粉体を得た。
【0061】
<各粒径の処理粉体それぞれにおける全アルカリの含有量の測定>
得られた各粒径の処理粉体それぞれについて、全アルカリの含有量を測定した。斯かる含有量の測定方法は、上記と同一である。
【0062】
<全アルカリの低減率の算出>
混合工程前の各粒径の粉体それぞれの全アルカリの含有量に対する各粒径の処理粉体それぞれの全アルカリの含有量の割合(粒径毎の全アルカリの低減率)を下記(2)式により算出した。低減率については、下記表1に示す。
なお、低減率は、粒径毎の全アルカリの低減効果を示すものであって、数値が大きいほど、アルカリ金属成分の除去量が多いことが意味する。

全アルカリの低減率=(各粒径の処理粉体それぞれの全アルカリの含有量)/(混合工程前の各粒径の粉体の全アルカリの含有量)×100・・・(2)
【0063】
【表1】
【0064】
比較例1~8,13~16を見ると、粒径2mm以下の細粉の低減率は、粒径2mmを超える粗粉の低減率よりも低いことが認められる。これに対し、比較例1~8,13~16以外の実施例および比較例を見ると、粒径2mm以下の細粉の低減率は、粒径2mmを超える粗粉の低減率よりも高いことが認められる。
また、比較例1~8,13~16以外の実施例および比較例を見ると、塩素化合物の添加量および加熱温度が同一条件であれば、実施例(粒径2mm以下の細粉)の低減率の方が比較例(粒径2mmを超える粗粉)の低減率よりも高いことが認められる。
つまり、本願発明のように、分級工程、加熱工程、および、洗浄工程を備えることで、粒径2mmを超える粗粉を含む粉体に対して、加熱工程、および、洗浄工程を行う場合よりも、アルカリ金属成分の除去を効果的に行うことができる。
【符号の説明】
【0065】
1…処理装置、2…分級装置、3…混合装置、4…加熱装置、4a…撹拌部、4b…加熱部、5…洗浄装置、5a…洗浄混合装置、5b…洗浄脱水装置、6…脱水装置、7…塩素含有物供給手段、8…水供給手段
図1
図2