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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】マイクロニードルデバイス
(51)【国際特許分類】
   G02B 3/00 20060101AFI20231207BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20231207BHJP
   A61N 5/067 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
G02B3/00 A
A61M37/00 505
A61M37/00 500
A61N5/067
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020027382
(22)【出願日】2020-02-20
(65)【公開番号】P2021129839
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-12-13
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行日:平成31年3月1日 刊行物名:2019年度精密工学会春季大会 学術講演会 講演論文集(CD-ROM) 発行元:公益社団法人 精密工学会 (2)発行日:平成31年3月13日 刊行物名:2019年度精密工学会春季大会 アブストラクト集 発行元:公益社団法人 精密工学会 (3)開催日:平成31年3月14日 集会名:2019年度精密工学会春季大会 開催場所:東京電機大学 東京千住キャンパス
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】金 範ジュン
(72)【発明者】
【氏名】高間 信行
(72)【発明者】
【氏名】河野 淳一郎
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2015/040822(JP,A1)
【文献】特開2004-351838(JP,A)
【文献】特開2007-033973(JP,A)
【文献】特開2007-105991(JP,A)
【文献】特公昭52-010139(JP,B2)
【文献】MOONSEOK KIM, et al.,Optical lens-microneedle array for percutaneous light delivery,Biomedical Optics EXPRESS,2016年09月21日,vol 7, No. 10,4220-4227
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 3/00
A61M 37/00
A61N 5/00
B29C 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
曲率半径が1mm未満、かつ焦点距離が前記曲率半径の3倍未満であるマイクロレンズが複数配列されたマイクロレンズアレイと、
生体分解性材料で形成された複数のマイクロニードルを有し、前記マイクロレンズアレイに接合されたマイクロニードル部と、
を備え、
前記マイクロレンズと前記マイクロニードルとがアライメントされた状態で接合されている、
マイクロニードルデバイス。
【請求項2】
前記マイクロニードルは、前記マイクロレンズと接合される円柱部と、前記円柱部に接続されて前記マイクロニードルの先端部を構成する刺入部とを有する、
請求項1に記載のマイクロニードルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロレンズアレイを用いたマイクロニードルデバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
様々な目的で、皮膚に光線を照射する療法がおこなわれている。例えば、パルスレーザーを照射して皮膚中の色素を選択的に破壊することにより、色素沈着やタトゥー等を除去したり、毛根を焼灼して脱毛が行われたりしている。さらに、光感受性物質を皮膚に近い悪性腫瘍に集積させ、レーザー光を照射して悪性腫瘍を選択的に焼灼する治療法なども研究されている。
【0003】
皮膚に光線を照射する療法には、いくつかの問題がある。
まず、皮膚は短波長の光の透過性が低いため、例えば600nm以下程度の波長の光を単に皮膚に照射しても、皮膚の深い領域まで十分到達せず、所望の効果が得られない。
また、波長の長い光であっても、真皮と表皮との界面にメラニン等の色素が多量に存在すると、この色素に光が吸収されてしまい、やはり目的部位まで十分に到達しない。吸収を見込んであらかじめ光を強くすることもできるが、その場合は、目的外の皮膚組織へのダメージが大きくなる可能性がある。例えば、近赤外光は皮膚への進達率が高いため深いターゲットへの選択的熱破壊治療によく用いられるが、皮膚の奥深くまで入り込み熱として吸収されてしまうため、痛みが大変大きいという問題点がある。
【0004】
この問題に関連して、特許文献1には、皮膚に刺入したマイクロニードルを経由して皮膚に光線を照射することが記載されている。マイクロニードル内を通る光は、皮膚の透過性の影響を受けないため、短波長の光であってもニードルの先に光が到達する。また、マイクロニードルに色素の層を貫通させることにより、光が色素に吸収されることも抑制できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】米国特許出願公開第2013/0338627号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の技術では、マイクロニードルの軸線と平行に入射する光のみがマイクロニードルの先まで到達するため、LED等の指向性の低い光源では利用できる光が少なく、光源の種類が限定されるという問題がある。
【0007】
対策として、光源から照射される光をマイクロレンズアレイで集光した後にマイクロニードルに入射させることが考えられるが、現存するマイクロレンズアレイの焦点距離は長いため、マイクロレンズアレイが厚くなってデバイス全体の厚みが12mm程度と大きくなり、皮膚の不規則な曲面形状に柔軟に対応できないため、実用が難しい。
【0008】
上記事情を踏まえ、本発明は、使用する光の波長に関わらず、皮下の深い部位にも効率よく光を到達できるマイクロニードルデバイスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、マイクロニードルデバイスである。
このマイクロニードルデバイスは、曲率半径が1mm未満、かつ焦点距離が前記曲率半径の3倍未満であるマイクロレンズが複数配列されたマイクロレンズアレイと、生体分解性材料で形成された複数のマイクロニードルを有し、マイクロレンズアレイに接合されたマイクロニードル部とを備える。マイクロレンズとマイクロニードルとは、アライメントされた状態で接合されている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、皮膚の曲面に柔軟に対応できる厚さを有しつつ、入射した光を集光できる。
また、使用する光の波長に関わらず、皮下の深い部位にも効率よく光を到達できるマイクロニードルデバイスを提供できる。
本発明では、光がニードル内で反射するため、光をニードルのどの位置から放出するかを制御することが可能である。そのため、光がニードルの中腹から徐々に散乱し、針の先端に光が集中しすぎないようなニードルの作製も可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態に係るマイクロレンズアレイの模式断面図である。
図2】同マイクロレンズアレイの製造に用いる基板および硬球を示す図である。
図3】同マイクロレンズアレイの製造時の一過程を示す図である。
図4】(a)および(b)は、同マイクロレンズアレイの製造に用いる型の模式断面図である。
図5】本発明の一実施形態に係るマイクロニードルデバイスの模式断面図である。
図6】シミュレーションにおける実施例および比較例のマイクロレンズ形状を示す模式図である。
図7】実施例および比較例のマイクロニードルデバイスにおけるシミュレーション結果を示すグラフである。
図8】マイクロニードルの形状と光出射の挙動との関係に関するシミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の一実施形態について、図1から図8を参照して説明する。
図1は、本実施形態に係るマイクロレンズアレイ1の模式断面図である。マイクロレンズアレイ1は、複数のマイクロレンズ10が二次元状に配列された構成を有する。
【0015】
各マイクロレンズ10は、シート状の基部2上に設けられており、基部2を介して一体に接続されている。各マイクロレンズ10は半径1mm未満の半球状であり、曲率半径は1mm未満である。マイクロレンズ10の焦点距離は、曲率半径の3倍未満に設定されている。基部2の厚さは適宜設定できるが、皮膚の不規則な表面形状に追従する観点からは、マイクロレンズ10の曲率半径の2倍未満とされるのが好ましい。
従来、光拡散板等の技術分野において、マイクロレンズアレイを備えた構成が広く知られているが、このようなマイクロレンズアレイの代表的な製造方法である熱リフロー法では、上述の曲率半径および焦点距離を有するマイクロレンズを作製することは不可能である。また、光拡散板等の技術分野において、上記のような焦点距離は好ましいものではないため、上記のようなパラメータのマイクロレンズは実用されておらず、存在もしない。
【0016】
マイクロレンズアレイ1の製造方法について説明する。
まず、マイクロレンズアレイ1を製造するための型を作製する。図2に示すような、複数の孔101aが形成された基板101と、硬球102を準備する。孔101aの直径は硬球102の直径未満とする。孔101aの配置や間隔は、製造されるマイクロレンズアレイ1におけるマイクロレンズ10のピッチや、配置密度等を規定する。したがって、孔101aの配置や間隔が異なる複数の基板101を準備することにより、様々な態様のマイクロレンズアレイを簡便に作製できる。
孔101aは、貫通してもしなくてもよいが、貫通孔とすることにより、配置した硬球102が安定するため、貫通孔とすることが好ましい。
硬球102の材質に特に制限はなく、金属やガラス等を使用できるが、ステンレス鋼や鉄等の金属製のものが入手および取り扱いが容易であり、好ましい。硬球102の直径は、製造されるマイクロレンズの曲率半径を規定するため、マイクロレンズの寸法に応じて硬球102の寸法を決定する。
【0017】
続いて、図3に示すように、所望の数の硬球102を孔101a上に配置し、型を形成する材料を塗布等により硬球102を覆うように配置し、形状を維持できる程度に硬化させる。その後、基板101および硬球102を取り外すと、図4の(a)に示すように、硬球102の形状が転写されたキャビティ111を有する型110が完成する。基板101を覆う程度に型を形成する材料を配置すると、図4の(b)に示すように、基部を形成するための周壁112を有する型110Aを形成できる。周壁112は、基部の厚さ調整を容易にし、マイクロレンズアレイの焦点距離調節に有用である。
型を形成する材料を配置する前に、硬球や基板にフッ素コーティング等を施してあらかじめ離型性を高めておいてもよい。
【0018】
最後に、型110にマイクロレンズアレイを形成する材料を流し込んで硬化させると、硬球102と同様の形状のマイクロレンズ10を多数備えるマイクロレンズアレイ1が完成する。キャビティ111からあふれた材料は、基部2となってマイクロレンズ10どうしを一体に接続するため、供給する材料の量により基部2の厚さを適宜変更できる。
マイクロレンズアレイ1の材質は、屈折率等の光学特性や、皮膚形状に追随できる柔軟性等を考慮して適宜設定できる。好適な材質として、ポリジメチルシロキサン(PDMS、屈折率1.41)を例示できる。PDMSは、適度な柔軟性を有し、厚さ数mm程度であれば、皮膚の不規則な表面形状にも好適に追従できる。
型110の材料も、材料の硬化態様等を考慮して適宜選択できる。マイクロレンズアレイ1が光硬化型の材料で形成される等の場合は、マイクロレンズアレイ1と同一の材料で型110が作製されてもよい。
【0019】
本実施形態のマイクロレンズアレイ1によれば、マイクロレンズ10の曲率半径が1mm未満であるため、パッチ等の小さい面積内にも多数のマイクロレンズを集積して配置できる。さらにマイクロレンズ10の焦点距離が2mm未満であるため、後述するマイクロニードルデバイスに使用する場合において、基部2が数mm程度と薄くても、マイクロレンズ10に入射した光を、マイクロレンズアレイ1内で十分に集光して、マイクロレンズ10の下方に接合されたマイクロニードルに十分に導くことができる。
その結果、不規則な皮膚表面形状に追従できる柔軟性を発揮できる薄さでありながら、広い角度範囲にわたる入射光を集光してマイクロニードル内に導入することができる。
【0020】
本実施形態のマイクロレンズアレイ1は、皮内へ光線を照射するためのマイクロニードルデバイスに好適に用いることができる。
図5は、本実施形態に係るマイクロニードルデバイス50の模式断面図である。マイクロニードルデバイス50は、マイクロレンズアレイ1と、マイクロニードル部60と、マイクロレンズアレイ1とマイクロニードル部60とを接合する接着層70とを備えている。
【0021】
マイクロニードル部60は、複数のマイクロニードル61を有する。各マイクロニードル61は、円柱部62と、円柱部62の先端部に設けられた刺入部63とを有する。円柱部62の基端は、接着層70を介してマイクロレンズアレイ1に配置されたマイクロレンズ10の一つと接合されている。本実施形態の刺入部63は円錐形であるが、皮膚に刺入可能な鋭利なものであれば、その形状や構造に特に制限はない。
【0022】
詳細は後述するが、マイクロニードル61は、皮膚に刺入され、刺入後の一定時間、ライトガイドとして使用されるため、生体分解性を有し、かつ皮内で一定時間形状を保持する程度の非溶解性を要する材料で形成される。このような条件を満たす生体分解性材料として、ポリ乳酸(PLA)を例示できる。PLAは、生体内において時間が経過すると溶解して吸収されるため、折れる等により皮内に残留しても問題は生じない。
円柱部62および刺入部63を有するマイクロニードル61は、円柱状に成形した材料の先端部を円錐形のキャビティを有するモールドに挿入して加熱する等の方法により作製できる。
【0023】
対応付けられたマイクロレンズ10とマイクロニードル61とは、互いの光軸が一致または略一致したアライメント状態で接合される。アライメントの方法に特に制限はないが、例えば、XYθ軸ステージ、Z軸ステージ、顕微鏡、および照明を備えた装置を使用して行うことができる。図5に示すように、各マイクロニードル61がベース部65を介して一体に接続された構成のマイクロニードル部60を用いると、あらかじめマイクロニードル61のピッチをマイクロレンズ10と同一にしておく等により、簡便にアライメントを行える。
【0024】
接着層70としては、光透過性を有するものであればよく、マイクロレンズアレイ1やマイクロニードル部60との屈折率差が小さいものが好ましい。PDMSやPLAに対して好適な接着層材料としては、シリル化ウレタン系樹脂(屈折率1.49)を例示できる。シリル化ウレタン系樹脂は、可視光領域において高い光透過性を有し、シリコーンゴムやプラスチック材料の接着が可能である。
【0025】
上記の構成を有する本実施形態のマイクロニードルデバイス50においては、マイクロレンズ10とマイクロニードル61とがアライメント状態で接合されているため、マイクロレンズ10で集光された光は、円柱部62の基端から円柱部62内に入射し、円柱部62内で全反射しながら先端に向かって進む。すなわち、円柱部62は、マイクロニードル61に入射した光を刺入部63まで導くライトガイドとして機能する。マイクロニードル61に入射した光は最終的に刺入部63に到達して、刺入部63からマイクロニードル61外に出射して皮内組織に照射される。
【0026】
本実施形態に係るマイクロニードルデバイス50においては、マイクロレンズアレイ1の上方から光源等を用いて光を照射すると、各マイクロレンズ10に入射した光が集光され、接合されたマイクロニードル61に入射する。
したがって、マイクロニードル61を皮膚に穿刺することにより、皮膚を透過しにくい短波長の光であっても効率よく皮内組織に照射することができる。また、マイクロニードル61の長さを適宜設定することにより、メラニン等の色素を貫通させて、その下の皮膚組織に光を照射することができる。
【0027】
マイクロレンズ10は2mm未満の焦点距離を有するため、広い角度範囲にわたり入射した光を集光できる。その結果、LEDのような指向性の低い光源であっても、光源から出射された光を効率よくマイクロニードルに導くことができる。したがって、光源は、一つのマイクロニードルデバイス50に対して一つでよく、例えば各マイクロレンズ10に対応付けられた複数の光源を用いる場合も、各光源がマイクロレンズ10に対して高精度にアライメントされる必要はないため、光線照射療法を簡便に行うことができる。
【0028】
さらに、マイクロニードル61は、円柱部62および刺入部63を備えるため、円柱部62および刺入部63の寸法や形状を適宜設定することにより、光が照射される深さや範囲等を高い自由度で高精度に設定することができる。
【0029】
本実施形態のマイクロニードルデバイスの効果について検討したシミュレーション結果を示す。
このシミュレーションでは、同じ材料を用いつつ異なる方法で作製した比較例のマイクロレンズを用いて比較を行った。
【0030】
(実施例)
上述した方法により、PDMSを材料として曲率半径0.5mm(直径1mm)のマイクロレンズを作製した。このマイクロレンズの焦点距離は1.2mmであったため、集光された光を接合されたマイクロニードルに十分に入射させるために基部2の厚さを0.5mmとし、マイクロレンズアレイの厚みを1mmとした。シミュレーションにおいて、ベース部65はないものとした。
【0031】
(比較例)
フォトリソグラフィにより作製した直径1mmの円盤状のレジストの上面を熱リフローで球面状にし、これを転写した型にPDMSを充填して比較例のマイクロレンズを作製した。このマイクロレンズの曲率半径は2.9mmであり、焦点距離は計算により9mm程度と見積もられたため、集光された光を接合されたマイクロニードルに十分に入射させるためにマイクロレンズアレイの厚みを8.5mmとした。
図6の左側に実施例のマイクロレンズ10を、右側に比較例のマイクロレンズ40をそれぞれ示す。
【0032】
実施例および比較例のマイクロレンズアレイに対してそれぞれPLAを材質とするマイクロニードル(基端の直径240μm)をアライメント状態で配置した、マイクロレンズアレイおよびマイクロニードルを1つずつ有する単位マイクロニードルデバイスを用いてシミュレーションを行った。このシミュレーションにおいて、マイクロニードルの基端径は240μmとし、マイクロレンズと光軸が一致するように配置した。接着層70は存在しないものとした。
【0033】
図7および図8に、実施例および比較例における、マイクロレンズに入射した光の挙動のシミュレーション結果を示す。シミュレーションには、モンテカルロ法光散乱シミュレーションを用いた。光源から光子を一つ一つ入射し、その光子の動きをFresnelの法則およびSnellの法則を用いて計算した。光子数は10万とし、計算は二次元平面で行った。
【0034】
図7は、入射光がマイクロレンズの光軸となす角度と、マイクロニードルに入射する光の割合との関係を示すグラフである。図7に示すように、比較例のマイクロレンズアレイでは、入射光が光軸に対してわずかに傾くだけでマイクロニードルへの入射率が大きく低下し、光軸に対して3°以上の角度をなす光は全くマイクロニードルに入射しないという結果であった。これに対し、実施例のマイクロレンズアレイでは、光軸に対して6°以下の角度をなす光はほとんどすべてマイクロニードルに入射し、光軸に対して10°前後の角度までは、半分以上の光がマイクロニードルに入射するという結果であった。
以上より、実施例のマイクロレンズアレイは、比較例の8分の1以下の厚さであるにもかかわらず、LEDなど指向性の低い光源の光でも、効率よくマイクロニードルに導くことができることが示された。
【0035】
次に、実施例の単位マイクロニードルデバイスを用いて、マイクロニードルの形状による光出射挙動の違いについてシミュレーションを行った。マイクロニードルの形状は、以下の2種類とした。
ニードルA:円柱部および刺入部を有する形状
基端径 120μm、円柱部長さ 0.76mm、刺入部 円錐形、長さ(高さ)0.24mm
ニードルB:円柱部を有さない形状
基端径 120μm、長さ(高さ)1mmの円錐形
【0036】
シミュレーションの結果を図8に示す。図8に示すマイクロニードルからの出射率は、マイクロニードル先端からの累積値として示されている。
ニードルAでは、先端から0.24mmまでの範囲でほぼすべての光が出射している。すなわち、ニードルAにおいて、円柱部では光はマイクロニードル外に出射せず、刺入部からのみ光が出射していることがわかる。
ニードルBでは、先端から0.6mmの位置で、出射光の累積値がプラトーになっており、ニードルAよりも広い範囲で光がマイクロニードル外に出射していることがわかる。
以上より、本実施形態のマイクロニードルデバイスにおいては、用途等に応じて、ニードルAおよびニードルBのいずれも用いることができ、マイクロニードルの形状を適宜設定することにより、光を照射する深さ方向の位置および範囲を高精度に設定できることが示された。
【0037】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明の技術的範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において構成要素の組み合わせを変えたり、各構成要素に種々の変更を加えたり、削除したりすることが可能である。
【0038】
例えば、マイクロレンズアレイを製造するための型を作製するにあたり、基板101は必須ではない。他の方法として、粘着テープ等に硬球を配置して、その上に型を形成する材料を供給することにより型を作製してもよい。
【符号の説明】
【0039】
1 マイクロレンズアレイ
2 基部
10 マイクロレンズ
50 マイクロニードルデバイス
60 マイクロニードル部
61 マイクロニードル
62 円柱部
63 刺入部
102 硬球
110 型
111 キャビティ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8