(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び樹脂フィルム
(51)【国際特許分類】
C08L 79/08 20060101AFI20231207BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20231207BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20231207BHJP
C08K 5/49 20060101ALI20231207BHJP
C08L 67/03 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L79/08 B
C08G73/10
C08J5/18 CFG
C08K5/49
C08L67/03
(21)【出願番号】P 2019238108
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柿坂 康太
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲平
(72)【発明者】
【氏名】中島 祥人
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/150336(WO,A1)
【文献】特開2018-168372(JP,A)
【文献】特開2018-090664(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062404(WO,A1)
【文献】特開2015-160852(JP,A)
【文献】特開2013-001730(JP,A)
【文献】特開2008-266378(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08K
C08L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記成分(A)及び(B)、
(A)
テトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基及びジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含み、全ジアミン
残基に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物
に由来するジアミン残基を40モル%以上含有する熱可塑性
ポリイミド、
及び
(B)液晶性高分子フィラー
を含有するとともに、前記(B)成分が前記(A)成分及び前記(B)成分の合計に対し15~50体積%の範囲内であることを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)成分の10GHzでの誘電正接をDfa、(B)成分の10GHzでの誘電正接をDfbとしたときに、Dfbが0.0019未満であり、Dfa>Dfbであることを特徴とする請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記成分(A)は、前記テトラカルボン酸無水物
残基の100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から
誘導されるテトラカルボン酸残基を合計で90モル部以上含有することを特徴とする請求項
1に記載の樹脂組成物。
【化1】
[一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。]
【化2】
[上記式において、Zは-C
6H
4-、-(CH
2)n-又は-CH
2-CH(-O-C(=O)-CH
3)-CH
2-を示すが、nは1~20の整数を示す。]
【請求項4】
前記樹脂組成物の不揮発性有機化合物成分100重量%に対し、さらにリン系難燃剤が15~30重量%添加されている請求項
1に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂層を含む樹脂フィルムであって、
前記熱可塑性樹脂層が、請求項
1~4のいずれか1項に記載の樹脂組成物をフィルム化したものである樹脂フィルム。
【請求項6】
厚みが15~100μmの範囲内である請求項
5に記載の樹脂フィルム。
【請求項7】
前記成分(B)が前記成分(A)及び前記成分(B)の合計に対し15~40体積%の範囲内である請求項
5に記載の樹脂フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリント配線板等の回路基板において接着剤として有用な樹脂組成物及び樹脂フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の小型化、軽量化、省スペース化の進展に伴い、薄く軽量で、可撓性を有し、屈曲を繰り返しても優れた耐久性を持つフレキシブルプリント配線板(FPC;Flexible Printed Circuits)の需要が増大している。FPCは、限られたスペースでも立体的かつ高密度の実装が可能であるため、例えば、HDD、DVD、携帯電話等の電子機器の可動部分の配線や、ケーブル、コネクター等の部品にその用途が拡大しつつある。
【0003】
高密度化に加えて、機器の高性能化が進んだことから、伝送信号の高周波化への対応も必要とされている。情報処理や情報通信においては、大容量情報を伝送・処理するために伝送周波数を高くする取り組みが行われており、プリント基板材料は絶縁樹脂層の薄化と絶縁樹脂層の誘電特性の改善による伝送損失の低下が求められている。例えば、5G伝送の1つであるミリ波伝送では、アンテナと基板をつなぐFPCにミリ波が直接流れるダイレクトコンバージョン方式が検討されている。ミリ波帯は、従来の通信周波数よりもさらに高周波となることから、伝送損失における誘電損失がさらに大きくなるため、絶縁樹脂層の誘電特性の改善がより重要となる。
【0004】
回路基板の絶縁樹脂層の誘電特性を改善する技術として、熱可塑性樹脂又は熱硬化性樹脂に液晶性ポリマー粒子を配合することが提案されている(特許文献1)。ただし、特許文献1はエポキシ樹脂以外の実施例がなく、熱可塑性樹脂については詳細な検討がされていない。
【0005】
ところで、ポリイミドを主成分とする接着剤層に関する技術として、ダイマー酸(二量体脂肪酸)などから誘導される脂肪族ジアミン化合物を原料とするポリイミドと、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物と、を反応させて得られる架橋ポリイミド樹脂を、カバーレイフィルムの接着剤層に適用することが提案されている(特許文献2)。また、ダイマー酸型ジアミンを用いたポリイミドに有機ホスフィン酸の金属塩を配合することによって、低誘電正接と難燃性を両立させることも提案されている(特許文献3)。ダイマー酸は、例えば大豆油脂肪酸、トール油脂肪酸、菜種油脂肪酸等の天然の脂肪酸及びこれらを精製したオレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エルカ酸等を原料に用いてディールス-アルダー反応させて得られる二量体化脂肪酸であり、ダイマー酸から誘導される多塩基酸化合物は、原料の脂肪酸や三量体化以上の脂肪酸の組成物として得られることが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6295013号公報
【文献】特開2018-012747号公報
【文献】特許第6267509号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2、3で提案されているような脂肪族ジアミン化合物を原料とするポリイミドなどの熱可塑性樹脂(以下、「脂肪族系熱可塑性樹脂」と記すことがある)は、難燃性に改善の余地があるものの、低い誘電正接と可撓性を有しており、さらに、これを架橋させた樹脂は、耐熱性と接着性とを併有する材料である。このことから、脂肪族系熱可塑性樹脂は、5G通信の普及により使用量が増加する高速伝送FPC向け材料として期待される。その一方で、FPCを流れる信号の周波数は今後さらに高くなると予想されているため、脂肪族系熱可塑性樹脂をベースにした、さらに良好な誘電特性を有する材料が求められている。
【0008】
従って、本発明の目的は、脂肪族系熱可塑性樹脂の誘電特性をさらに改善することによって、電子機器の高周波化への対応が可能な樹脂組成物及び樹脂フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の樹脂組成物は、下記成分(A)及び(B)、
(A)全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分から誘導される構造単位を含有する熱可塑性樹脂、
及び
(B)液晶性高分子フィラー
を含有するとともに、前記(B)成分が前記(A)成分及び前記(B)成分の合計に対し15~50体積%の範囲内である。
【0010】
本発明の樹脂組成物は、前記(A)成分の10GHzでの誘電正接をDfa、(B)成分の10GHzでの誘電正接をDfbとしたときに、Dfbが0.0019未満であってもよく、また、Dfa>Dfbであってもよい。
【0011】
本発明の樹脂組成物は、前記成分(A)が、テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分と、を反応させてなるポリイミドであってもよい。
【0012】
本発明の樹脂組成物は、前記成分(A)が、前記テトラカルボン酸無水物成分の100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で90モル部以上含有するものであってもよい。
【0013】
【0014】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0015】
【0016】
上記式において、Zは-C6H4-、-(CH2)n-又は-CH2-CH(-O-C(=O)-CH3)-CH2-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0017】
本発明の樹脂組成物は、該樹脂組成物の不揮発性有機化合物成分100重量%に対し、さらにリン系難燃剤が15~30重量%添加されてもよい。
【0018】
本発明の樹脂フィルムは、熱可塑性樹脂層を含む樹脂フィルムであって、前記熱可塑性樹脂層が、上記いずれかの樹脂組成物をフィルム化したものである。
【0019】
本発明の樹脂フィルムは、厚みが15~100μmの範囲内であってもよい。
【0020】
本発明の樹脂フィルムは、前記成分(B)が前記成分(A)及び前記成分(B)の合計に対し15~40体積%の範囲内であってもよい。
【発明の効果】
【0021】
本発明の樹脂組成物は、(A)成分の熱可塑性樹脂及び(B)成分の液晶性高分子フィラーを含有しているので、これを用いて形成した樹脂フィルムは、ダイマージアミンに由来する優れた誘電特性及び可撓性を有し、かつ、液晶性高分子フィラーの配合によってさらに改善された誘電特性及び難燃性を有している。従って、本発明の樹脂組成物及び樹脂フィルムは、例えば、高速信号伝送を必要とする電子機器において、FPC等の回路基板材料として特に好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0023】
[樹脂組成物]
本発明の一実施の形態に係る樹脂組成物は、下記の成分(A)及び(B)、
(A)全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分から誘導される構造単位を含有する熱可塑性樹脂、
及び
(B)液晶性高分子フィラー
を含有するとともに、前記(B)成分が前記(A)成分及び前記(B)成分の合計に対し15~50体積%の範囲内である。
【0024】
<(A)成分:熱可塑性樹脂>
(A)成分の熱可塑性樹脂とは、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分から誘導される構造単位を含有する樹脂であって、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した損失正接(tanδ)の極大値が200℃未満である樹脂を意味する。従って、熱可塑性樹脂としては、ダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分を原料とする、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ビスマレイミド樹脂、熱可塑性エポキシ樹脂、熱可塑性ポリアミド樹脂、それらの硬化物等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は2種以上を組み合わせて配合することができる。これらの熱可塑性樹脂の中でも、テトラカルボン酸無水物成分と、全ジアミン成分に対し、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級アミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマージアミンを主成分とするダイマージアミン組成物を40モル%以上含有するジアミン成分と、を反応させて得られる前駆体のポリアミド酸をイミド化した熱可塑性ポリイミド(以下、「DDA系熱可塑性ポリイミド」と記すことがある)及びその架橋硬化物がより好ましい。
【0025】
以下、熱可塑性樹脂の代表例としてDDA系熱可塑性ポリイミドを挙げ、その詳細について説明する。
【0026】
<DDA系熱可塑性ポリイミド>
DDA系熱可塑性ポリイミドは、脂肪族系の熱可塑性ポリイミドであり、可撓性に富み、液晶性高分子フィラーを大量に添加した場合でも十分な靭性を有し、樹脂フィルムを形成した場合にその形状を保持する能力が高い。そのため、(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドの含有率は、60重量%以上であることが好ましく、70重量%以上がより好ましく、80重量%以上が最も好ましい。(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドの含有率が60重量%未満であると、熱可塑性樹脂の靭性が低下し、樹脂フィルムを形成したときのフィルム保持性が低下する。
【0027】
DDA系熱可塑性ポリイミドは、原料のテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基及び原料のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含んでいる。原料であるテトラカルボン酸無水物及びジアミン化合物をほぼ等モルで反応させることによって、原料の種類と量に対して、DDA系熱可塑性ポリイミド中に含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類と量をほぼ対応させることができる。
【0028】
(テトラカルボン酸無水物成分)
DDA系熱可塑性ポリイミドは、原料として一般に熱可塑性ポリイミドに使用されるテトラカルボン酸無水物を特に制限なく使用できるが、全テトラカルボン酸無水物成分に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物を合計で90モル%以上含有することが好ましい。換言すれば、DDA系熱可塑性ポリイミドは、全テトラカルボン酸残基100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、合計で90モル部以上含有することが好ましい。下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を、テトラカルボン酸残基100モル部に対して合計で90モル部以上含有させることによって、DDA系熱可塑性ポリイミドの柔軟性と耐熱性の両立が図りやすく好ましい。下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基の合計が90モル部未満では、DDA系熱可塑性ポリイミドの溶剤溶解性が低下する傾向になる。
【0029】
【0030】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0031】
【0032】
上記式において、Zは-C6H4-、-(CH2)n-又は-CH2-CH(-O-C(=O)-CH3)-CH2-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0033】
上記一般式(1)で表されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)などを挙げることができる。これらの中でも特に3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)が好ましい。BTDAを使用する場合は、カルボニル基(ケトン基)が接着性に寄与するため(B)成分の液晶性高分子フィラーの添加による剥離強度の低下を抑制し、DDA系熱可塑性ポリイミドの接着性を向上させることができる。また、BTDAは分子骨格に存在するケトン基と、後述する架橋形成のためのアミノ化合物のアミノ基が反応してC=N結合を形成する場合があり、耐熱性を向上させる効果を発現しやすい。このような観点から、テトラカルボン酸残基100モル部に対して、BTDAから誘導されるテトラカルボン酸残基を好ましくは50モル部以上、より好ましくは60モル部以上含有することがよい。
【0034】
また、一般式(2)で表されるテトラカルボン酸無水物としては、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘプタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-シクロオクタンテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
【0035】
DDA系熱可塑性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、上記一般式(1)及び一般式(2)で表されるテトラカルボン酸無水物以外の酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有することができる。そのようなテトラカルボン酸残基としては、特に制限はないが、例えば、ピロメリット酸二無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-又は2,3,3',4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0036】
(ジアミン成分)
DDA系熱可塑性ポリイミドは、原料として、全ジアミン成分に対して、ダイマージアミン組成物を40モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有するジアミン成分を用いる。ダイマージアミン組成物を上記の量で含有することによって、ポリイミドの誘電特性を改善させるとともに、ポリイミドのガラス転移温度の低温化(低Tg化)による熱圧着特性の改善及び低弾性率化による内部応力を緩和することができる。
【0037】
(ダイマージアミン組成物)
ダイマージアミン組成物は、下記成分(a)を主成分として含有するとともに、成分(b)及び(c)の量が制御されているものである。
【0038】
(a)ダイマージアミン;
(a)成分のダイマージアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、1級のアミノメチル基(-CH2-NH2)又はアミノ基(-NH2)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11~22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸、リノレン酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20~54の他の重合脂肪酸を含有する。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。(a)成分のダイマージアミンは、炭素数18~54の範囲内、好ましくは22~44の範囲内にある二塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるジアミン化合物、と定義することができる。
【0039】
ダイマージアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性を付与することができる。すなわち、ダイマージアミンは、分子量約560~620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、DDA系熱可塑性ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸型ジアミンの特徴は、DDA系熱可塑性ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7~9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、DDA系熱可塑性ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、DDA系熱可塑性ポリイミドを非対称的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、低誘電率化を図ることができると考えられる。
【0040】
ダイマージアミン組成物は、分子蒸留等の精製方法によって(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上、好ましくは97重量%以上、より好ましくは98重量%以上にまで高めたものを使用することがよい。(a)成分のダイマージアミン含有量を96重量%以上とすることで、DDA系熱可塑性ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。なお、技術的に可能であれば、ダイマージアミン組成物のすべて(100重量%)が、(a)成分のダイマージアミンによって構成されていることが最もよい。
【0041】
(b)炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるモノアミン化合物;
炭素数10~40の範囲内にある一塩基酸化合物は、ダイマー酸の原料に由来する炭素数10~20の範囲内にある一塩基性不飽和脂肪酸、及びダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数21~40の範囲内にある一塩基酸化合物の混合物である。モノアミン化合物は、これらの一塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0042】
(b)成分のモノアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を抑制する成分である。ポリアミド酸又はポリイミドの重合時に、該モノアミン化合物の単官能のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応することで末端酸無水物基が封止され、ポリアミド酸又はポリイミドの分子量増加を抑制する。
【0043】
(c)炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるアミン化合物(但し、前記ダイマージアミンを除く);
炭素数41~80の範囲内にある炭化水素基を有する多塩基酸化合物は、ダイマー酸の製造時の副生成物である炭素数41~80の範囲内にある三塩基酸化合物を主成分とする多塩基酸化合物である。また、炭素数41~80のダイマー酸以外の重合脂肪酸を含んでいてもよい。アミン化合物は、これらの多塩基酸化合物の末端カルボン酸基を1級アミノメチル基又はアミノ基に置換して得られるものである。
【0044】
(c)成分のアミン化合物は、ポリイミドの分子量増加を助長する成分である。トリマー酸を由来とするトリアミン体を主成分とする三官能以上のアミノ基が、ポリアミド酸又はポリイミドの末端酸無水物基と反応し、ポリイミドの分子量を急激に増加させる。また、炭素数41~80のダイマー酸以外の重合脂肪酸から誘導されるアミン化合物も、ポリイミドの分子量を増加させ、ポリアミド酸又はポリイミドのゲル化の原因となる。
【0045】
上記ダイマージアミン組成物は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いた測定によって各成分の定量を行う場合、ダイマージアミン組成物の各成分のピークスタート、ピークトップ及びピークエンドの確認を容易にするために、ダイマージアミン組成物を無水酢酸及びピリジンで処理したサンプルを使用し、また内部標準物質としてシクロヘキサノンを使用する。このように調製したサンプルを用いて、GPCのクロマトグラムの面積パーセントで各成分を定量する。各成分のピークスタート及びピークエンドは、各ピーク曲線の極小値とし、これを基準にクロマトグラムの面積パーセントの算出を行うことができる。
【0046】
また、本発明で用いるダイマージアミン組成物は、GPC測定によって得られるクロマトグラムの面積パーセントで、成分(b)及び(c)の合計が4%以下、好ましくは4%未満がよい。成分(b)及び(c)の合計を4%以下とすることで、ポリイミドの分子量分布の拡がりを抑制することができる。
【0047】
また、(b)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、好ましくは3%以下、より好ましくは2%以下、更に好ましくは1%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の低下を抑制することができ、更にテトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の仕込みのモル比の範囲を広げることができる。なお、(b)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0048】
また、(c)成分のクロマトグラムの面積パーセントは、2%以下であり、好ましくは1.8%以下、より好ましくは1.5%以下がよい。このような範囲にすることで、ポリイミドの分子量の急激な増加を抑制することができ、更に樹脂フィルムの広域の周波数での誘電正接の上昇を抑えることができる。なお、(c)成分は、ダイマージアミン組成物中に含まれていなくてもよい。
【0049】
また、成分(b)及び(c)のクロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1以上である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.0未満とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0050】
また、成分(b)及び(c)の前記クロマトグラムの面積パーセントの比率(b/c)が1未満である場合、テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分のモル比(テトラカルボン酸無水物成分/ジアミン成分)は、好ましくは0.97以上1.1以下とすることがよく、このようなモル比にすることで、ポリイミドの分子量の制御がより容易となる。
【0051】
本発明で用いるダイマージアミン組成物は、(a)成分のダイマージアミン以外の成分を低減する目的で精製することが好ましい。精製方法としては、特に制限されないが、蒸留法や沈殿精製等の公知の方法が好適である。精製前のダイマージアミン組成物は、市販品での入手が可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)等が挙げられる。
【0052】
DDA系熱可塑性ポリイミドに使用されるダイマージアミン以外のジアミン化合物としては、芳香族ジアミン化合物、脂肪族ジアミン化合物を挙げることができる。それらの具体例としては、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン等のジアミン化合物が挙げられる。
【0053】
DDA系熱可塑性ポリイミドは、上記のテトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~50重量%の範囲内、好ましくは10~40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、メタノール、エタノール、ベンジルアルコール、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0054】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps~100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0055】
ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。また、温度は一定の温度条件で加熱しても良いし、工程の途中で温度を変えることもできる。
【0056】
DDA系熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸無水物成分及びジアミン成分の種類や、2種以上のテトラカルボン酸無水物成分又はジアミン成分を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、誘電特性、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、DDA系熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0057】
DDA系熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~200,000の範囲内が好ましく、このような範囲内であれば、ポリイミドの重量平均分子量の制御が容易となる。また、例えばFPC用の接着剤として適用する場合、DDA系熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、20,000~150,000の範囲内がより好ましく、40,000~150,000の範囲内が更に好ましい。FPC用の接着剤として適用する場合、DDA系熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量が20,000未満である場合、フロー耐性が悪化する傾向となる。一方、DDA系熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量が150,000を超えると、過度に粘度が増加して溶剤に不溶になり、塗工作業の際に接着剤層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0058】
DDA系熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、好ましくは22重量%以下、より好ましくは20重量%以下がよい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が22重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化し、Tg及び弾性率が上昇する。
【0059】
DDA系熱可塑性ポリイミドは、完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出することができる。
【0060】
<架橋形成>
(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(以下、「架橋形成用アミノ化合物」と記すことがある)のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、DDA系熱可塑性ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有するDDA系熱可塑性ポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0061】
架橋構造を形成させる目的において、本発明の樹脂組成物は、特に、全テトラカルボン酸残基に対して、BTDAから誘導されるBTDA残基を、好ましくは50モル%以上、より好ましくは60モル%以上含有する上記(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミド、及び架橋形成用アミノ化合物、を含むことが好ましい。なお、本発明において、「BTDA残基」とは、BTDAから誘導された4価の基のことを意味する。
【0062】
架橋形成用アミノ化合物としては、(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましい。ジヒドラジド化合物以外の脂肪族アミンは、室温でも架橋構造を形成しやすく、ワニスの保存安定性の懸念があり、一方、芳香族ジアミンは、架橋構造の形成のために高温にする必要がある。このように、ジヒドラジド化合物を使用した場合は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができる。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ二酸ジヒドラジド、4,4-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0063】
また、上記(I)ジヒドラジド化合物、(II)芳香族ジアミン、(III)脂肪族アミン等のアミノ化合物は、例えば(I)と(II)の組み合わせ、(I)と(III)との組み合わせ、(I)と(II)と(III)との組み合わせのように、カテゴリーを超えて2種以上組み合わせて使用することもできる。
【0064】
また、架橋形成用アミノ化合物による架橋で形成される網目状の構造をより密にするという観点から、本発明で使用する架橋形成用アミノ化合物は、その分子量(架橋形成用アミノ化合物がオリゴマーの場合は重量平均分子量)が5,000以下であることが好ましく、より好ましくは90~2,000、更に好ましくは100~1,500がよい。この中でも、100~1,000の分子量をもつ架橋形成用アミノ化合物が特に好ましい。架橋形成用アミノ化合物の分子量が90未満になると、架橋形成用アミノ化合物の1つのアミノ基がDDA系熱可塑性ポリイミドのケトン基とC=N結合を形成するにとどまり、残りのアミノ基の周辺が立体的に嵩高くなるために残りのアミノ基はC=N結合を形成しにくい傾向となる。
【0065】
(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物とを架橋形成させる場合は、(A)成分を含む樹脂溶液に、上記架橋形成用アミノ化合物を加えて、DDA系熱可塑性ポリイミド中のケトン基と架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、架橋形成用アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル~1.5モル、好ましくは0.005モル~1.2モル、より好ましくは0.03モル~0.9モル、最も好ましくは0.04モル~0.6モルとすることができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるような架橋形成用アミノ化合物の添加量では、架橋形成用アミノ化合物による架橋が十分ではないため、硬化後の耐熱性が発現しにくい傾向となり、架橋形成用アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応の架橋形成用アミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着剤層としての耐熱性を低下させる傾向がある。
【0066】
架橋形成のための縮合反応の条件は、(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドにおけるケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又は(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120~220℃の範囲内が好ましく、140~200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましい。反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0067】
(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドのケトン基と上記架橋形成用アミノ化合物の第1級のアミノ基との加熱縮合は、例えば、
(1)(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、架橋形成用アミノ化合物を添加して加熱する方法、
(2)ジアミン成分として予め過剰量のアミノ化合物を仕込んでおき、(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、イミド化若しくはアミド化に関与しない残りのアミノ化合物を架橋形成用アミノ化合物として利用してDDA系熱可塑性ポリイミドとともに加熱する方法、
又は、
(3)上記の架橋形成用アミノ化合物を添加した(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドの組成物を所定の形状に加工した後(例えば任意の基材に塗布した後やフィルム状に形成した後)に加熱する方法、
等によって行うことができる。
【0068】
(A)成分中のDDA系熱可塑性ポリイミドの耐熱性付与のため、架橋構造の形成でイミン結合の形成を説明したが、これに限定されるものではなく、(A)成分中のポリイミドの硬化方法として、例えばエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、マレイミドや活性化エステル樹脂やスチレン骨格を有する樹脂等の不飽和結合を有する化合物等を配合し硬化することも可能である。
【0069】
<(B)成分:液晶性高分子フィラー>
液晶性高分子フィラーは、光学的異方性の溶融相を形成する液晶ポリマーからなる粒子である。光学的異方性の溶融相を形成する液晶ポリマーは、サーモトロピック液晶高分子とも呼ばれている。光学的に異方性を形成する溶融相を形成する高分子は、加熱装置を備えた偏光顕微鏡直交ニコル下で溶融状態の試料を観察したときに偏光を透過する高分子である。液晶ポリマーは、周波数依存性がほとんどなく、非常に優れた誘電特性を有するとともに、難燃性向上にも寄与することから、これを配合することによって、樹脂フィルムの誘電特性と難燃性を改善することができる。
【0070】
液晶ポリマーとしては、特に限定されるものではないが、例えば、以下の(1)~(4)に分類される化合物及びその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステル及びポリエステルアミドを挙げることができる。
(1)芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物
(2)芳香族又は脂肪族ジカルボン酸
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミン又は芳香族アミノカルボン酸
液晶ポリマー中の芳香環が多くなるほど、誘電特性や難燃性を向上させる効果が期待できることから、上記(1)として芳香族ジヒドロキシ化合物(芳香族ジオール)を、上記(2)として芳香族ジカルボン酸を含むものが好ましい。
【0071】
これらの原料化合物から得られる液晶ポリマーの代表例として、下記式(a)~(g)に示す構造単位から選ばれる2つ以上の組み合わせを有する共重合体であって、式(a)で示す構造単位又は式(b)で示す構造単位のいずれかを含む共重合体が好ましく、式(a)で示す構造単位と式(b)で示す構造単位とを含む共重合体がより好ましい。式(a)及び式(b)は芳香族ヒドロキシカルボン酸から誘導される構造単位の代表例であり、式(c)、式(d)、式(e)は芳香族ジカルボン酸から誘導される構造単位の代表例であり、式(f)、式(g)は芳香族ジヒドロキシ化合物(芳香族ジオール)から誘導される構造単位の代表例である。なお、式(a)~(g)に示す構造単位において、芳香環は任意の置換基を有していてもよい。
【0072】
特に、誘電正接が低い液晶ポリマーとして、
・式(a)及び式(b)で示す構造単位と、式(c)、式(d)又は式(e)から選ばれる構造単位と、式(f)又は式(g)から選ばれる構造単位を特定の比率で含む液晶ポリマー;
・式(b)で示す構造単位と、式(c)、式(d)又は式(e)から選ばれる構造単位と、式(f)又は式(g)から選ばれる構造単位を特定の比率で含む液晶ポリマー;
などを挙げることができる。
【0073】
【0074】
樹脂組成物から得られる樹脂フィルムの誘電特性を改善するため、液晶性高分子フィラーは、単体として、10GHzにおける比誘電率が、好ましくは2.8~3.6の範囲内、より好ましくは3.0~3.4の範囲内であり、10GHzにおける誘電正接が、好ましくは0.0019未満、より好ましくは0.0015以下であるものを用いることがよい。
また、液晶性高分子フィラーは、(A)成分の10GHzでの誘電正接をDfa、(B)成分の10GHzでの誘電正接をDfbとしたときに、Dfbが0.0019未満であり、Dfa>Dfbであることがより好ましい。
【0075】
また、液晶ポリマーとしては、難燃性の向上を図る観点から、芳香族環を豊富に含むものが好ましい。液晶性高分子フィラー中の芳香族環の重量割合として、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上のものを用いることがよい。
【0076】
また、液晶ポリマー粒子としては、球状液晶ポリマー粒子を用いることが好ましい。球状液晶ポリマー粒子は、形状が真球状に近い液晶ポリマー粒子で、平均長径と平均短径の比が1又は1に近いものをいう。
【0077】
液晶ポリマー粒子は、平均粒子径D50が6~20μmの範囲内であることが好ましく、8~15μmの範囲内であることがより好ましい。ここで、平均粒子径D50は、レーザ回折散乱法による体積基準の粒度分布測定によって得られる頻度分布曲線における累積値が50%となる値である。平均粒子径D50がこの範囲内であれば、樹脂組成物によって樹脂フィルムを形成したときの表面平滑性を悪化させることがなく、外観良好な低誘電フィルムが得られる。平均粒子径D50が前記範囲を下回ると樹脂組成物として配合した際に液晶ポリマー粒子が凝集し、均一な樹脂組成物を得ることができない可能性がある。平均粒子径D50が前記範囲を上回ると樹脂フィルムの表面の凹凸として現れ、フィルム表面の平滑性を悪化させることがある。
【0078】
液晶ポリマーの融点は、樹脂組成物の硬化温度より高いことが好ましく、例えば250℃以上であることがよい。
【0079】
液晶ポリマー粒子は、適宜選定して用いることができる。例えば、低誘電液晶性高分子(JXTGエネルギー社製)などを好ましく使用できる。さらに、液晶ポリマー粒子として2種以上の異なる液晶ポリマー粒子を併用してもよい。
【0080】
<配合量>
本発明の樹脂組成物における(A)成分及び(B)成分の合計に対する(B)成分の比率は、15~50体積%の範囲内であり、15~40体積%の範囲内であることが好ましい(後述する樹脂フィルムにおいて同様である)。(A)成分及び(B)成分の合計に対する(B)成分の体積比率が15体積%未満では、誘電特性および難燃性の改善効果が不十分となる場合があり、50体積%を超えるとポリイミドの形成が困難になる場合があり、また得られる樹脂フィルムの脆弱化が生じる場合がある。(B)成分の配合量を上記範囲内とすることで、誘電特性と難燃性を改善することができる。なお、(A)成分及び(B)成分の合計に対する(B)成分の体積比率は、硬化したフィルムを、走査型電子顕微鏡などによる断面観察を行い、樹脂組成物中の液晶性高分子フィラーの割合を算出すること等によって求めることができる。
【0081】
<任意成分>
本実施の形態の樹脂組成物は、有機溶媒を含有することができる。例えば、溶剤可溶性のDDA系熱可塑性ポリイミドと溶媒とを含有するポリイミド溶液であってもよい。有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。有機溶媒の含有量としては特に制限されるものではないが、熱可塑性樹脂の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0082】
また、本実施の形態の樹脂組成物は、難燃剤を含有することができる。難燃剤としては、特に制限はないがリン系の難燃剤が好ましい。DDA系熱可塑性ポリイミドなどの脂肪族系熱可塑性樹脂は、芳香族環濃度が低いためにリン系難燃剤を添加しても難燃特性を十分に発揮できないが、(B)成分の液晶性高分子フィラーが存在する本実施の形態の樹脂組成物では、液晶ポリマー由来の芳香族環によりその濃度が高くなっているため、燃焼時のチャー(炭化膜)の形成が促進され、高い難燃効果が発揮される。かかる観点から、樹脂組成物の不揮発性有機化合物成分100重量%に対し、さらにリン系難燃剤を15~30重量%添加することが好ましい。ここで、「不揮発性有機化合物成分」とは、樹脂組成物から溶剤及び無機固形分を除いた残りの固形分を意味する。すなわち、不揮発性有機化合物成分は、(A)成分の熱可塑性樹脂及び(B)成分の液晶性高分子フィラーを含有し、任意成分として、熱可塑性樹脂以外の樹脂、液晶性高分子フィラー以外の有機フィラー、可塑剤、硬化促進剤、カップリング剤、有機顔料、リン系難燃剤以外の有機系難燃剤、無機系難燃剤などを含有することができる。
【0083】
リン系難燃剤としては、例えば、芳香族縮合リン酸エステル、有機ホスフィン酸の金属塩、アルキルホスフィン(ただし、赤リンを除く)などを挙げることができる。これらの難燃剤は、種類が異なる化合物の2種以上を併用してもよい。
【0084】
芳香族縮合リン酸エステルの好ましい例としては、以下の一般式(3)の構造の化合物を挙げることができる。
【0085】
【0086】
一般式(3)中、複数のRは、それぞれ独立して置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基であり、Arは芳香環を有する2価の有機基であり、nは1以上の整数を意味する。一般式(3)で表される芳香族縮合リン酸エステルは、nが1である二量体のほか、nが2以上の多量体でもよい。また、単独の化合物に限らず、混合物であってもよい。
【0087】
一般式(3)においてRで表される、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素基としては、例えば炭素数6~15のアリール基を挙げることが可能であり、より具体的には、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、ブチルフェニル基、ノニルフェニル基などを挙げることができる。
また、一般式(3)において、Arで表される2価の有機基の好ましい例としては、例えば、アルキレン基、アリーレン基などを挙げることが可能であり、これらは置換基を有していてもよい。
【0088】
芳香族縮合リン酸エステルの具体例としては、レゾルシノールビス-ジフェニルホスフェート、レゾルシノールビス-ジキシレニルホスフェート、ビスフェノールAビス-ジフェニルホスフェートなどを挙げることができる。これらの芳香族縮合リン酸エステルとしては、市販品を入手可能であり、例えば、CR-733S(商品名)、CR-741(商品名)、CR-747(商品名)、PX-200(商品名)、PX-200B(商品名)[以上、大八化学工業株式会社製]等を挙げることができる。
【0089】
また、有機ホスフィン酸の金属塩は、例えば下記の一般式(4)で表されるように、2つの有機基がリンに結合しているリン酸の金属塩である。
【0090】
【0091】
一般式(4)中、2つの有機基R11及びR12は、互いに同じか又は異なる直鎖状もしくは枝分かれした炭素数1~6のアルキル基又はフェニル基若しくはトリル基であることが好ましい。また、一般式(4)中、金属種Mは、Mg、Ca、Al、Sb、Sn、Ge、Ti、Fe、Zr、Ce、Bi、Sr、Mn、Li、Na及びKからなる群より選択されるものであることが好ましい。なお、金属種Mが2価以上のn価の金属である場合は、一般式(4)のMをM1/nと変形する。また、難燃効果を向上させるため、リン含有率を高めることが好ましく、具体的には2つの有機基R11及びR12は炭素数1~3のアルキル基が好ましく、また、難燃性及び可とう性を向上させ、並びに金属塩としての水への溶解性の抑制させるため、金属種Mはアルミニウム(Al)が好ましい。
【0092】
有機ホスフィン酸の金属塩としては、市販品が入手可能であり、例えば、クラリアントジャパン株式会社製のホスフィン酸アルミニウム塩であるエクソリットOP930(商品名)、エクソリットOP935(商品名)、エクソリットOP940(商品名)等が挙げられる。
【0093】
本発明の樹脂組成物には、さらに必要に応じて任意成分として、エポキシ樹脂、フッ素樹脂、オレフィン系樹脂などの他の樹脂成分、架橋剤、無機フィラー、可塑剤、硬化促進剤、カップリング剤、顔料などを適宜配合することができる。架橋剤としては、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物(架橋形成用アミノ化合物)、エポキシ化合物、ビスマレイミド化合物、アクリル(メタクリル)系化合物などを挙げることができる。無機フィラーとしては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0094】
<粘度>
樹脂組成物の粘度は、樹脂組成物を塗工する際のハンドリング性を高め、均一な厚みの塗膜を形成しやすい粘度範囲として、例えば3000cps~100000cpsの範囲内とすることが好ましく、5000cps~50000cpsの範囲内とすることがより好ましい。上記の粘度範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0095】
<樹脂組成物の調製>
本発明の樹脂組成物は、例えば、任意の溶剤を用いて(A)成分の溶液を作成し、そこに(B)成分を添加して均一に混合することによって調製できる。
例えば、DDA系熱可塑性ポリイミドの樹脂溶液に液晶性高分子フィラーを直接配合してもよい。なお、(A)成分の一部分を、(B)成分と同時に、あるいは、(B)成分を添加した後で配合してもよい。
いずれの方法においても、一回で液晶性高分子フィラーを全量投入してもよいし、数回分けて少しずつ添加してもよい。また、原料も一括で入れてもよいし、数回に分けて少しずつ混合してもよい。
【0096】
本発明の樹脂組成物は、これを用いて接着剤層を形成した場合に、優れた柔軟性、熱可塑性に加え、優れた誘電特性と難燃性を有するものとなる。そのため、本発明の樹脂組成物は、例えばFPC、リジッド・フレックス回路基板などの配線部を保護するカバーレイフィルム用の接着剤として好ましい特性を有している。
【0097】
[樹脂フィルム]
本実施の形態の樹脂フィルムは、ポリイミド層を含む樹脂フィルムであり、該ポリイミド層が、上記樹脂組成物の固形分(溶剤を除いた残部)を主要成分としてフィルム化してなるものである。本実施の形態の樹脂フィルムは、可撓性、接着性に加え、優れた高周波特性及び難燃性を有することから、例えばFPC、リジッド・フレックス回路基板などの配線部を保護するカバーレイフィルム用の接着剤層や、多層FPCのボンディングシートなどの用途で好ましく利用することができる。
【0098】
本実施の形態の樹脂フィルムは、上記の樹脂組成物から形成されるDDA系熱可塑性ポリイミド層を含む絶縁樹脂のフィルムであれば特に限定されるものではなく、絶縁樹脂からなるフィルム(シート)であってもよく、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの樹脂シート等の基材に積層された状態の絶縁樹脂のフィルムであってもよい。
【0099】
<比誘電率>
本実施の形態の樹脂フィルムは、例えばFPC等の回路基板に使用した際のインピーダンス整合性を確保するため、また電気信号のロス低減のために、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後の20GHzにおける比誘電率(ε1)は、好ましくは3.2以下がよく、より好ましくは3.0以下がよい。この比誘電率が3.2を超えると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0100】
<誘電正接>
また、本実施の形態の樹脂フィルムは、例えばFPC等の回路基板に使用した際の電気信号のロス低減のために、23℃、50%RHの恒温恒湿条件のもと24時間調湿後の20GHzにおける誘電正接(Tanδ1)は、好ましくは0.005未満がよく、より好ましくは0.004以下、最も好ましくは0.002以下がよい。この誘電正接が0.005以上であると、例えばFPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0101】
<ガラス転移温度>
本実施の形態の樹脂フィルムは、ガラス転移温度(Tg)が250℃以下であることが好ましく、40℃以上200℃以下の範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムのTgが250℃以下であることによって、低温での熱圧着が可能になるため、積層時に発生する内部応力を緩和し、回路加工後の寸法変化を抑制できる。樹脂フィルムのTgが250℃を超えると、接着温度が高くなり、回路加工後の寸法安定性を損なう恐れがある。
【0102】
<厚み>
本実施の形態の樹脂フィルムは、厚みが、例えば15~100μmの範囲内が好ましく、20~50μmの範囲内であることがより好ましい。樹脂フィルムの厚みが15μmに満たないと、樹脂フィルムの製造等における搬送時にシワが入るなどの不具合が生じるおそれがあり、一方、樹脂フィルムの厚みが100μmを超えると樹脂フィルムの生産性低下の虞がある。
また、樹脂フィルムの厚みが15μm~20μmの範囲内である場合は、樹脂フィルムの表面の凹凸を抑制し、フィルム表面の平滑性を維持するため、(B)成分の液晶性高分子フィラーとして、平均粒子径D50が9~12μmの範囲内のものを用いることが好ましい。
【実施例】
【0103】
以下に実施例を示し、本発明の特徴をより具体的に説明する。ただし、本発明の範囲は、実施例に限定されない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0104】
[アミン価の測定方法]
約2gのダイマージアミン組成物を200~250mLの三角フラスコに秤量し、指示薬としてフェノールフタレインを用い、溶液が薄いピンク色を呈するまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液を滴下し、中和を行ったブタノール約100mLに溶解させる。そこに3~7滴のフェノールフタレイン溶液を加え、サンプルの溶液が薄いピンク色に変わるまで、0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液で攪拌しながら滴定する。そこへブロモフェノールブルー溶液を5滴加え、サンプル溶液が黄色に変わるまで、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液で攪拌しながら滴定する。
アミン価は、次の式(1)により算出する。
アミン価={(V2×C2)-(V1×C1)}×MKOH/m ・・・(1)
ここで、アミン価はmg-KOH/gで表される値であり、MKOHは水酸化カリウムの分子量56.1である。また、V、Cはそれぞれ滴定に用いた溶液の体積と濃度であり、添え字の1、2はそれぞれ0.1mol/Lのエタノール性水酸化カリウム溶液、0.2mol/Lの塩酸/イソプロパノール溶液を表す。さらに、mはグラムで表されるサンプル重量である。
【0105】
[ポリイミドの重量平均分子量(Mw)の測定]
重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー株式会社製、HLC-8220GPCを使用)により測定した。標準物質としてポリスチレンを用い、展開溶媒にテトラヒドロフランを用いた。
【0106】
[GPC及びクロマトグラムの面積パーセントの算出]
GPCは、20mgのダイマージアミン組成物を200μLの無水酢酸、200μLのピリジン及び2mLのTHF(テトラヒドロフラン)で前処理した100mgの溶液を、10mLのTHF(1000ppmのシクロヘキサノンを含有)で希釈し、サンプルを調製した。調製したサンプルを東ソー株式会社製、商品名;HLC-8220GPCを用いて、カラム:TSK-gel G2000HXL,G1000HXL,G1000HXL、 フロー量:1mL/min、カラム(オーブン)温度:40℃、注入量:50μLの条件で測定した。なお、シクロヘキサノンは流出時間の補正のために標準物質として扱った。
【0107】
このとき、シクロヘキサノンのメインピークのピークトップがリテンションタイム27分から31分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのメインピークのピークスタートからピークエンドが2分になるように調整し、シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークトップが18分から19分になるように、且つ、前記シクロヘキサノンのピークを除くメインピークのピークスタートからピークエンドまでが2分から4分30秒となる条件で、各成分(a)~(c);
(a)メインピークで表される成分;
(b)メインピークにおけるリテンションタイムが遅い時間側の極小値を基準にし、それよりも遅い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
(c)メインピークにおけるリテンションタイムが早い時間側の極小値を基準にし、それよりも早い時間に検出されるGPCピークで表される成分;
を検出した。
【0108】
[誘電特性の評価]
<液晶性高分子フィラー>
固形分30重量%に調整した液晶性高分子フィラーのジメチルアセトアミド分散液を銅箔の平滑面に塗布し、120℃で10分間乾燥した。その後、200℃から360℃まで10分間かけて段階的に昇温し、得られた積層体の銅箔をエッチングして除去することで、液晶性高分子のフィルムを得た。
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびスプリットポスト誘電体共振器(SPDR共振器)を用いて、得られた液晶性高分子フィルムを温度;23℃、湿度;50%の条件下で、24時間放置した後、10GHzの周波数における比誘電率および誘電正接を測定した。
<樹脂フィルム>
ベクトルネットワークアナライザ(キーサイトテクノロジー社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)およびSPDR共振器を用いて温度160℃、圧力3.5MPa、時間60分間の条件でプレスした樹脂フィルムを温度;23℃、湿度;50%の条件下で、24時間放置した後、20GHzの周波数における比誘電率および誘電正接を測定した。
【0109】
[引張り弾性率及び最大伸度の測定]
引張り弾性率及び最大伸度は、以下の手順で測定した。まず、テンションテスター(オリエンテック製テンシロン)を用いて、樹脂フィルムから、試験片(幅12.7mm×長さ127mm)を作製した。この試験片を用い、50mm/minで引張り試験を行い、25℃における引張り弾性率及び最大伸度を求めた。
【0110】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
ガラス転移温度(Tg)は、温度160℃、圧力3.5MPa、時間60分間の条件でプレスした樹脂フィルムを5mm×20mmのサイズの試験片に切り出し、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から300℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。
【0111】
[フィルム保持性の評価]
フィルム保持性は、以下の手順で評価した。樹脂フィルムを幅20mm、長さ20mmの試験片に切り出し、対角線に沿って折り目がつくように折り曲げた後、開いてフィルムの状態を観察した。この時、折り目をつけて開いた後も試験片に亀裂がないものを「良」、一部でも亀裂が入っているものを「不可」とした。
【0112】
[半田耐熱試験(乾燥)]
ポリイミド銅張積層板(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名:エスパネックスMB12-25-12UEG)を回路加工して、配線幅/配線間隔(L/S)=1mm/1mmの回路が形成されたプリント基板を用意した。樹脂フィルムをプリント基板の配線の上に置き、樹脂フィルムのプリント基板と接する面の反対の面にポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製 商品名:カプトン50EN-S)を積層した後、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分間の条件でプレスした。この銅箔付きの試験片を105℃で乾燥した後、各評価温度に設定した半田浴中に10秒間浸漬し、その接着状態を観察して、発泡、ふくれ、剥離等の不具合の有無を確認した。耐熱性は不具合が生じない上限の温度で表現し、例えば「320℃」は320℃の半田浴中で評価して、不具合が認められないことを意味する。
【0113】
[半田耐熱試験(吸湿)]
ポリイミド銅張積層板(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名:エスパネックスMB12-25-12UEG)を回路加工して、配線幅/配線間隔(L/S)=1mm/1mmの回路が形成されたプリント基板を用意した。樹脂フィルムをプリント基板の配線の上に置き、樹脂フィルムのプリント基板と接する面の反対の面にポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製 商品名:カプトン50EN-S)を積層した後、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分間の条件でプレスした。この銅箔付きの試験片を40℃、相対湿度80%で72時間放置した後、各評価温度に設定した半田浴中に10秒間浸漬し、その接着状態を観察して、発泡、ふくれ、剥離等の不具合の有無を確認した。耐熱性は不具合が生じない上限の温度で表現し、例えば「260℃」は260℃の半田浴中で評価して、不具合が認められないことを意味する。
【0114】
[ピール強度の測定]
ピール強度の測定は、以下の方法で行った。幅50mm、長さ100mmに切り出した片面の銅箔をエッチングしたポリイミド銅張積層板(日鉄ケミカル&マテリアル社製、商品名:エスパネックスMB12-25-12UEG)の銅箔側に樹脂フィルムを置き、樹脂フィルムの銅張積層板と反対の面にポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名:カプトン50EN-S)を積層し、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分の条件でプレスした。積層体を試験片幅5mmに切り出し、引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフVE)を用いて、試験片の90°方向に、速度50mm/minで引っ張ったときの接着剤層と銅箔の剥離強度を測定した。
【0115】
[難燃性の評価方法]
難燃性の評価は、以下の方法で行った。100μmになるよう4枚積層した樹脂フィルムの両面に、ポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製、商品名:カプトン50EN-S)を積層し、温度;160℃、圧力;3.5MPa、時間;60分の条件でプレスした。200±5mm×50±1mmにサンプルカットし、直径約12.7mm、長さ200±5mmの筒状になるように丸め、UL94VTM規格に準拠した試験片を作製及び燃焼試験を行い、消炎までの時間が0~5秒であれば「◎」(優良)、6~10秒であれば「○」(良)、11~20秒であれば「△」(可)、21秒を超える場合を「×」(不可)とした。
【0116】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
DDA:クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1075を蒸留精製したもの(a成分;99.2重量%、b成分:0%、c成分;0.8%、アミン価:210mgKOH/g)
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
難燃剤1:クラリアントジャパン社製、商品名;Exolit OP935(アルキルリン酸アルミニウム)
難燃剤2:大八化学社製、商品名;SR-3000(縮合リン酸エステル)
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
LCPフィラー:JXTGエネルギー社製(低誘電液晶性高分子、粒径(D50);9.6μm、10GHzでの比誘電率;3.27、10GHzでの誘電正接;0.0009)
なお、上記DDAにおいて、a成分、b成分及びc成分の「%」は、GPC測定におけるクロマトグラムの面積パーセントを意味する。また、DDAの分子量は下記式(1)により算出した。
分子量=56.1×2×1000/アミン価・・・(1)
【0117】
[合成例1]
1000mlのセパラブルフラスコに、55.51gのBTDA(0.1721モル)、94.49gのDDA(0.1735モル)、210gのNMP及び140gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、10時間加熱、攪拌し、125gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;30重量%、重量平均分子量;80,900)を調製した。
【0118】
[実施例1]
合成例1で調製したポリイミド溶液1の100gに、1.09gのN-12及び7.50gのLCPフィラーを配合し、固形分が30重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス1aを調製した。
【0119】
[実施例2~4]
LCPフィラーの配合量を表1のように変えた以外は、実施例1と同様にしてポリイミドワニス2a~4aを調製した。
【0120】
[実施例5]
合成例1で調製したポリイミド溶液1の100gに、1.09gのN-12及び7.50gのLCPフィラー、7.50gの難燃剤1を配合し、固形分が30重量%になるようにキシレンを加えて希釈し、攪拌することでポリイミドワニス5aを調製した。
【0121】
[実施例6~7]
LCPフィラーの配合量を表1のように変えた以外は、実施例5と同様にしてポリイミドワニス6a~7aを調製した。
【0122】
[実施例8~10]
難燃剤1に替えて難燃剤2を表1の配合量で用いるとともに、LCPフィラーを表1のとおり配合した以外は、実施例5と同様にしてポリイミドワニス8a~10aを調製した。
【0123】
[比較例1]
LCPフィラーを配合しなかったこと以外は、実施例1と同様にしてポリイミドワニス11aを調製した。
[比較例2]
LCPフィラーを配合しなかったこと以外は、実施例5と同様にしてポリイミドワニス12aを調製した。
【0124】
【0125】
[実施例11]
実施例1で調製したポリイミドワニス1aを離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、80℃で15分間乾燥を行った後、剥離することによって、樹脂フィルム1b(厚さ;25μm)を調製した。
樹脂フィルム1bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.7、誘電正接;0.0015、引張り弾性率;0.6GPa、最大伸度;131%、Tg;54℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);260℃、ピール強度;1.6kN/m、難燃性;○
【0126】
[実施例12]
ポリイミドワニス2aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム2bを調製した。
樹脂フィルム2bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.7、誘電正接;0.0014、引張り弾性率;0.7GPa、最大伸度;80%、Tg;54℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);260℃、ピール強度;1.5kN/m、難燃性;○
【0127】
[実施例13]
ポリイミドワニス3aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム3bを調製した。
樹脂フィルム3bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0014、引張り弾性率;0.7GPa、最大伸度;38%、Tg;58℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);270℃、ピール強度;1.2kN/m、難燃性;○
【0128】
[実施例14]
ポリイミドワニス4aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム4bを調製した。
樹脂フィルム4bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.9、誘電正接;0.0013、引張り弾性率;0.8GPa、最大伸度;18%、Tg;58℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);270℃、ピール強度;1.2kN/m、難燃性;○
【0129】
[実施例15]
ポリイミドワニス5aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム5bを調製した。
樹脂フィルム5bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.7、誘電正接;0.0016、引張り弾性率;0.5GPa、最大伸度;100%、Tg;54℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);270℃、ピール強度;2.0kN/m、難燃性;◎
【0130】
[実施例16]
ポリイミドワニス6aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム6bを調製した。
樹脂フィルム6bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0015、引張り弾性率;0.7GPa、最大伸度;33%、Tg;58℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);270℃、ピール強度;1.3kN/m、難燃性;◎
【0131】
[実施例17]
ポリイミドワニス7aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム7bを調製した。
樹脂フィルム7bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0014、引張り弾性率;0.7GPa、最大伸度;11%、Tg;58℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);280℃、ピール強度;0.9kN/m、難燃性;◎
【0132】
[実施例18]
ポリイミドワニス8aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム8bを調製した。
樹脂フィルム8bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.7、誘電正接;0.0015、引張り弾性率;0.5GPa、最大伸度;114%、Tg;54℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);280℃、ピール強度;1.4kN/m、難燃性;◎
【0133】
[実施例19]
ポリイミドワニス9aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム9bを調製した。
樹脂フィルム9bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.8、誘電正接;0.0014、引張り弾性率;0.6GPa、最大伸度;52%、Tg;56℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);280℃、ピール強度;1.0kN/m、難燃性;◎
【0134】
[実施例20]
ポリイミドワニス10aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム10bを調製した。
樹脂フィルム10bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.9、誘電正接;0.0013、引張り弾性率;0.6GPa、最大伸度;22%、Tg;56℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);290℃、ピール強度;0.7kN/m、難燃性;◎
【0135】
比較例3
ポリイミドワニス11aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム11bを調製した。
樹脂フィルム11bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0017、引張り弾性率;0.4GPa、最大伸度;197%、Tg;56℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);220℃、ピール強度;1.6kN/m、難燃性;×
【0136】
比較例4
ポリイミドワニス12aを使用し、実施例11と同様にして樹脂フィルム12bを調製した。
樹脂フィルム12bの各種評価結果は以下のとおりである。
比誘電率;2.6、誘電正接;0.0018、引張り弾性率;0.8GPa、最大伸度;226%、Tg;56℃、フィルム保持性;良、ハンダ耐熱試験(乾燥);320℃、ハンダ耐熱試験(吸湿);280℃、ピール強度;1.7kN/m、難燃性;△
【0137】
以上の結果をまとめて表2に示す。
【0138】
【0139】
表2より、比較例3の樹脂フィルム11bと比較してLCPフィラーを添加した実施例11~14の樹脂フィルム1b~4bは、誘電正接、難燃性および半田耐熱温度(吸湿)が改善していることが確認された。DDA系熱可塑性ポリイミドよりも誘電正接が低いLCPフィラーの添加量の増加に伴って樹脂フィルムの誘電正接が小さくなっている。また、燃焼しやすいDDA系熱可塑性ポリイミドに芳香環濃度が高いLCPフィラーを配合することによって、優れた難燃効果が発現している。さらに、LCPフィラーの添加によって吸湿分が低下するとともに、弾性率が向上していることから半田耐熱性が向上したと考えられる。
【0140】
また、樹脂フィルム1b~4bはフィルム性を保持し、接着強度もフレキシブルプリント配線板の作成に通常求められる0.6kN/mを超えていることから、本実施の形態に係る樹脂フィルムは、例えば10GHzの高周波帯を使用するフレキシブルプリント配線板の作成に好適である。DDA系熱可塑性ポリイミドは伸び率が大きいため、LCPフィラーを添加してもフィルム性を保持することができる。さらに、プレス温度に対しTgが十分低いため、樹脂が銅箔表面の微細な凹凸に追従するとともに、酸無水物として使用したBTDAのカルボニル基によって接着性が担保されているものと考えられる。
【0141】
また、表2より、比較例4の樹脂フィルム12bと比較してLCPフィラーを添加した実施例15~20の樹脂フィルム5b~10bは、誘電正接が低下するとともに、難燃性が大きく改善されており、例えば誘電体層の厚膜化が進んでいる高周波対応フレキシブルプリント配線板材料として好適である。
DDA系熱可塑性ポリイミドとリン系難燃剤のみの組み合わせでは、DDA系熱可塑性ポリイミド中の芳香環濃度が低いためリン系難燃剤のチャー形成効果が十分に発現されない場合が多いのに対し、実施例15~20に示すように、DDA系熱可塑性ポリイミドとLCPフィラーとリン系難燃剤の組み合わせにすることで、組成物中の芳香環濃度が高くなる結果として、リン系難燃剤による難燃効果が大きくなっているものと考えられる。
【0142】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。