IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社クラレの特許一覧

特許7398288押出成形用組成物、そのフィルム、及び、フィルムの製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】押出成形用組成物、そのフィルム、及び、フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/06 20060101AFI20231207BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20231207BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20231207BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20231207BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L77/06
C08K5/20
C08K5/13
C08K5/17
C08J5/18 CFG
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020016502
(22)【出願日】2020-02-03
(65)【公開番号】P2021038370
(43)【公開日】2021-03-11
【審査請求日】2023-01-27
(31)【優先権主張番号】P 2019155635
(32)【優先日】2019-08-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南谷 篤
(72)【発明者】
【氏名】關口 健治
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/067172(WO,A1)
【文献】特開平06-240134(JP,A)
【文献】特開平05-059275(JP,A)
【文献】国際公開第2019/031428(WO,A1)
【文献】特開平08-073626(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
示差走査熱量計(DSC)で求められる融点が290℃以上である半芳香族ポリアミドと、該半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.5~4.0質量部のカルボン酸アミド系ワックスと、前記半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.1~1.0質量部の有機系熱安定剤とを含有し、前記半芳香族ポリアミドが亜リン酸を含有する押出成形用組成物。
【請求項2】
前記半芳香族ポリアミドが、ジアミン単位として、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び、1,10-デカンジアミンのうち少なくとも一つを含み、ジカルボン酸単位として、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つを含む請求項1に記載の押出成形用組成物。
【請求項3】
前記ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び、1,10-デカンジアミンのうち少なくとも一つであり、前記ジカルボン酸単位の60モル%以上100モル%以下が、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つである、請求項2に記載の押出成形用組成物。
【請求項4】
前記有機系熱安定剤が、ヒンダードフェノール系熱安定剤及びアミン系熱安定剤のうち少なくとも一つである請求項1~3のいずれか一項に記載の押出成形用組成物。
【請求項5】
前記有機系熱安定剤が、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、及び、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンのうち少なくとも一つである請求項1~4のいずれか一項に記載の押出成形用組成物。
【請求項6】
前記カルボン酸アミド系ワックスを、前記半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.5~2.0質量部含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の押出成形用組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の押出成形用組成物の押出成形品であるフィルム。
【請求項8】
請求項1~6のいずれか一項に記載の押出成形用組成物を溶融押出してフィルムを得る、フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、押出成形用組成物、そのフィルム、及び、フィルムの製造方法に関する。より詳しくは、融点が290℃以上である半芳香族ポリアミドを含む押出成形用組成物、その押出成形品であるフィルム、及び、フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ナイロン6、ナイロン66などに代表される結晶性ポリアミドは、耐熱性、機械特性及び成形性等に優れることから工業用部品に幅広く使用されている。その中でも、脂肪族ジアミンと、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸とを用いて生成された半芳香族ポリアミドは、脂肪族ポリアミドよりも耐熱性が高く、自動車のエンジンルーム部品や表面実装(SMT)用コネクタなどの耐熱性が必要な製品に広く用いられている。
【0003】
半芳香族ポリアミドは、フィルムや繊維などの押出成形品の材料としても用いられており、これらの押出成形品は、高い耐熱性を活かして電子部品の基盤フィルムや電気絶縁材料として使用されている。
【0004】
一般的に、押出成形は射出成形と比較して成形機内における溶融状態での滞留時間が長く、成形材料の分解や増粘等を引き起こしやすい。半芳香族ポリアミドは特に融点が高いため溶融温度も高く、半芳香族ポリアミドの溶融温度と分解温度との差が小さくなる。このため、半芳香族ポリアミドを押出成形する場合、上記の分解や増粘等が発生しやすく、成形加工性や成形によって得られる押出成形品の品質の低下を招きやすいという問題がある。
【0005】
特許文献1には、テレフタル酸を60~100モル%含有するジカルボン酸成分と、炭素数が9である脂肪族ジアミンを60~100モル%含有するジアミン成分とから構成される半芳香族ポリアミド樹脂とを含有するフィルムであって、0.01mm以上の大きさのフィッシュアイ欠点が少ないフィルムが開示されている。しかし、上記半芳香族ポリアミドを含む組成物には、溶融状態での滞留時間が長くなるにつれて樹脂の増粘等が生じてフィルムの欠点数が増加しやすく、熱安定性に改善の余地がある。
【0006】
特許文献2には、ポリアミド及び芳香族第二級アミンを含有し、ポリアミドにおける、ジカルボン酸に由来する含有する構成単位の60~100モル%がテレフタル酸に由来する構成単位であり、ジアミンに由来する構成単位の60~100モル%が炭素数9の脂肪族ジアミンに由来する構成単位である、ポリアミドフィルム用組成物が記載されている。特許文献2には、このポリアミドフィルム用組成物は、長期熱安定性に優れフィルム用途に好適であることが記載されているが、溶融状態での熱安定性に関する記載はなく、上述した押出成形時の分解や増粘に起因する、成形加工性や成形品の品質の低下を防止する観点で改善の余地がある。
【0007】
特許文献3には、ポリアミド樹脂のペレット表面に、ジアミンと高級脂肪族モノカルボン酸及び多塩基性カルボン酸との反応によって得られるカルボン酸アミド又は炭素数22~30の脂肪族カルボン酸金属塩を付着させたポリアミド樹脂ペレットが記載されている。しかし、特許文献3においては、上記カルボン酸アミドや脂肪族カルボン酸金属塩が、溶融混錬時における溶融樹脂と成形加工機の表面との間の滑り性の改善を目的として用いられており、上述した押出成形時のポリアミドの分解や増粘に起因する、成形加工性や成形品の品質の低下を十分抑制することができないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2012/067172号
【文献】特開2018-123237号公報
【文献】特開2001-234063号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、押出成形用の樹脂組成物の耐熱性にはいまだ改善の余地が大きく、特に滞留時間が増加した際における、分解や増粘等に起因する成形加工性や成形品の品質の低下を抑制できる樹脂組成物が望まれている。
【0010】
そこで、本発明は、溶融状態での熱安定性に優れた押出成形用組成物、そのフィルム、及び、フィルムの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討した結果、融点が290℃以上である半芳香族ポリアミドと、カルボン酸アミド系ワックスと、有機系熱安定剤とを含有する押出成形用組成物、及び、その押出成形品であるフィルムが上記課題を解決できることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
すなわち、本発明は下記のとおりである。
[1]示差走査熱量計(DSC)で求められる融点が290℃以上である半芳香族ポリアミドと、該半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.5~4.0質量部のカルボン酸アミド系ワックスと、前記半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.1~1.0質量部の有機系熱安定剤とを含有し、前記半芳香族ポリアミドが亜リン酸を含有する押出成形用組成物。
[2]前記半芳香族ポリアミドが、ジアミン単位として、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び、1,10-デカンジアミンのうち少なくとも一つを含み、ジカルボン酸単位として、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つを含む上記[1]に記載の押出成形用組成物。
[3]前記ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び、1,10-デカンジアミンのうち少なくとも一つであり、前記ジカルボン酸単位の60モル%以上100モル%以下が、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つである、上記[2]に記載の押出成形用組成物。
[4]前記有機系熱安定剤が、ヒンダードフェノール系熱安定剤及びアミン系熱安定剤のうち少なくとも一つである上記[1]~[3]のいずれか一つに記載の押出成形用組成物。
[5]前記有機系熱安定剤が、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、及び、4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンのうち少なくとも一つである上記[1]~[4]のいずれか一つに記載の押出成形用組成物。
[6]前記カルボン酸アミド系ワックスを、前記半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.5~2.0質量部含む、上記[1]~[5]のいずれか一つに記載の押出成形用組成物。
[7]上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の押出成形用組成物の押出成形品であるフィルム。
[8]上記[1]~[6]のいずれか一つに記載の押出成形用組成物を溶融押出してフィルムを得る、フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、溶融状態での滞留時間の長い押出成形においても分解や増粘が抑制され、成形加工性に優れた押出成形用組成物とすることができ、延いては、押出成形用組成物のゲル化に起因する欠点の発生を抑制し、品質に優れた押出成形品を得ることができる押出成形用組成物を提供することができる。また、本発明によれば、欠点の発生と色調の変化が抑制され、品質に優れたフィルム、及び、そのようなフィルムを得ることができるフィルムの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において、好ましいとされている規定は任意に採用することができ、好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
本明細書において、「XX~YY」との記載は、「XX以上YY以下」を意味する。
本明細書において、好ましい数値範囲(例えば、含有量等の範囲)について、段階的に記載された下限値及び上限値は、それぞれ独立して組み合わせることができる。例えば、「好ましくは10~90、より好ましくは30~60」という記載から、「好ましい下限値(10)」と「より好ましい上限値(60)」とを組み合わせて、「10~60」とすることもできる。
本明細書において、「~単位」(ここで「~」は単量体を示す)とは「~に由来する構成単位」を意味し、例えば「ジカルボン酸単位」とは「ジカルボン酸に由来する構成単位」を意味し、「ジアミン単位」とは「ジアミンに由来する構成単位」を意味する。
本明細書において、各構造単位に関して「由来する」とは、前記単量体が重合するのに必要な構造の変化を受けたことを意味する。
【0014】
[押出成形用組成物]
本発明の押出成形用組成物は、示差走査熱量計(DSC)で求められる融点が290℃以上である半芳香族ポリアミドと、該半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.5~4.0質量部のカルボン酸アミド系ワックスと、前記半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.1~1.0質量部の有機系熱安定剤と、を含有し、前記半芳香族ポリアミドが亜リン酸を含有する。
上記押出成形用組成物は、溶融状態での滞留時間の長い押出成形においても分解や増粘が抑制され、成形加工性に優れた押出成形用組成物とすることができる。そして、当該押出成形用組成物を用いて押出成形を行う場合に、押出成形用組成物のゲル化に起因する欠点の発生が抑制され、さらに押出成形中に色調の変化が生じ難いため、品質に優れた押出成形品を得ることができる。
以下、押出成形用組成物を構成する各成分について説明する。
【0015】
[半芳香族ポリアミド]
本発明の押出成形用組成物に用いられる半芳香族ポリアミドは、ジアミン単位及びジカルボン酸単位を有する。また、上記半芳香族ポリアミドは、示差走査熱量計(DSC)で求められる融点が290℃以上である。詳細な融点の測定方法に関しては実施例において記載する。
【0016】
(ジアミン単位)
ジアミン単位としては、例えばエチレンジアミン、1,3-プロパンジアミン、1,4-ブタンジアミン、1,5-ペンタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,7-ヘプタンジアミン、1,8-オクタンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、1,13-トリデカンジアミン、1,14-テトラデカンジアミン、1,15-ペンタデカンジアミン、1,16-ヘキサデカンジアミン、1,17-ヘプタデカンジアミン、1,18-オクタデカンジアミン等の直鎖状脂肪族ジアミン;1,2-プロパンジアミン、1-ブチル-1,2-エタンジアミン、1,1-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1-エチル-1,4-ブタンジアミン、1,2-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、1,4-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,4-ブタンジアミン、2,3-ジメチル-1,4-ブタンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、3-メチル-1,5-ペンタンジアミン、2,5-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、3,3-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2-ジメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4-ジエチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2,4,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジアミン、2-エチル-1,7-ヘプタンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、3-メチル-1,8-オクタンジアミン、1,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、1,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,5-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2,2-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、3,3-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、4,4-ジメチル-1,8-オクタンジアミン、2-メチル-1,9-ノナンジアミン、5-メチル-1,9-ノナンジアミン等の分岐状脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジメチルアミン、トリシクロデカンジメチルジアミン等の脂環式ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-キシリレンジアミン、m-キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンに由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0017】
上記ジアミン単位の中でも、本発明の効果をより顕著にする観点から、直鎖状脂肪族ジアミン及び分岐状脂肪族ジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位が好ましく、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種のジアミンに由来する構成単位がより好ましい。
また、本発明の効果をさらに顕著にする観点からは、より好ましくはジアミン単位の60モル%以上100モル%以下、さらに好ましくはジアミン単位の70モル%以上100モル%以下が、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び、1,10-デカンジアミンのうち少なくとも一つである。
【0018】
(ジカルボン酸単位)
ジカルボン酸単位としては、例えばシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ジメチルマロン酸、2,2-ジエチルコハク酸、2,2-ジメチルグルタル酸、2-メチルアジピン酸、トリメチルアジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸;テレフタル酸、イソフタル酸、ジフェン酸、4,4’-ビフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタン-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルスルホン-4,4’-ジカルボン酸、1,2-ナフタレンジカルボン酸、1,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、1,6-ナフタレンジカルボン酸、1,7-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸;1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘプタンジカルボン酸、シクロオクタンジカルボン酸、シクロデカンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸に由来する構成単位が挙げられる。これらの構成単位は1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0019】
上記ジカルボン酸単位の中でも、本発明の効果をより顕著にする観点から、芳香族ジカルボン酸に由来する構成単位が好ましく、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つに由来する構成単位がより好ましい。
また、本発明の効果をさらに顕著にする観点から、より好ましくはジカルボン酸単位の60モル%以上100モル%以下、さらに好ましくはジカルボン酸単位の70モル%以上100モル%以下が、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つである。
【0020】
(ジアミン単位及びジカルボン酸単位)
半芳香族ポリアミドは、ジアミン単位として、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び、1,10-デカンジアミンのうち少なくとも一つを含み、かつ、ジカルボン酸単位として、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つを含んでいることが好ましい。
【0021】
また、ジアミン単位の60モル%以上100モル%以下が、1,9-ノナンジアミン、2-メチル-1,8-オクタンジアミン、及び、1,10-デカンジアミンのうち少なくとも一つであり、かつ、ジカルボン酸単位の60モル%以上100モル%以下が、テレフタル酸及びナフタレンジカルボン酸のうち少なくとも一つであることがより好ましい。
【0022】
半芳香族ポリアミドにおけるジアミン単位とジカルボン酸単位とのモル比[ジアミン単位/ジカルボン酸単位]は、45/55~55/45であることが好ましい。ジアミン単位とジカルボン酸単位とのモル比が上記範囲であれば、重合反応が良好に進行し、所望する物性に優れた半芳香族ポリアミドが得られやすい。
なお、ジアミン単位とジカルボン酸単位とのモル比は、原料のジアミンと原料のジカルボン酸との配合比(モル比)に応じて調整することができる。
【0023】
半芳香族ポリアミドにおけるジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計割合(ポリアミドを構成する全構成単位のモル数に対するジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計モル数の占める割合)は、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましく、95モル%以上、さらには100モル%であってもよい。ジカルボン酸単位及びジアミン単位の合計割合が上記範囲にあることにより、所望する物性により優れた半芳香族ポリアミドが得られやすくなる。
【0024】
(亜リン酸)
押出成型用組成物に含まれる半芳香族ポリアミドには亜リン酸が含まれる。押出成型用組成物には、半芳香族ポリアミドを製造する際に重合触媒として使用した亜リン酸が含まれていてもよい。半芳香族ポリアミドに亜リン酸が含まれることで、押出成型用組成物の溶融状態における熱安定性をさらに向上させやすくなる。
亜リン酸は、例えば、半芳香族ポリアミドを調製する際に、半芳香族ポリアミドの原料とともに重合触媒として用いることにより、半芳香族ポリアミドに含有され、結果的に押出成型用組成物に含有させることができる。
【0025】
半芳香族ポリアミドに含まれる(つまり、押出成型用組成物に含まれる)上記亜リン酸の含有量は、半芳香族ポリアミド100質量%に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、また1.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以下であることがより好ましい。亜リン酸の含有量が上記下限以上であれば、押出成型用組成物の溶融状態における熱安定性向上の効果を得やすくなり、また、半芳香族ポリアミドを調製する際に添加する場合は、半芳香族ポリアミドの重合を良好に進行させやすくなる。亜リン酸の含有量が上記上限以下であれば、亜リン酸が過剰に用いられることを防止するとともに、半芳香族ポリアミドを調製する際に添加する場合は、亜リン酸由来の不純物が生じにくくなる。
【0026】
(アミノカルボン酸単位)
半芳香族ポリアミドは、ジカルボン酸単位及びジアミン単位の他に、アミノカルボン酸単位をさらに含んでもよい。
アミノカルボン酸単位としては、例えば、カプロラクタム、ラウリルラクタム等のラクタム;11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸などから誘導される構成単位が挙げられる。半芳香族ポリアミドにおけるアミノカルボン酸単位の含有量は、半芳香族ポリアミドを構成するジカルボン酸単位とジアミン単位の合計100モル%に対して、40モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
【0027】
(多価カルボン酸単位)
半芳香族ポリアミドは、本発明の効果を損なわない範囲で、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸に由来する構成単位を、溶融成形が可能な範囲で含むこともできる。
【0028】
(末端封止剤単位)
半芳香族ポリアミドは、末端封止剤に由来する構成単位(末端封止剤単位)を含んでもよい。
末端封止剤単位は、ジアミン単位100モル%に対して、1.0モル%以上であることが好ましく、1.5モル%以上であることがより好ましく、また10モル%以下であることが好ましく、5.0モル%以下であることがより好ましい。末端封止剤単位の含有量が上記範囲にあると、所望する物性に優れた半芳香族ポリアミドが得られやすい。末端封止剤単位の含有量は、重合原料を仕込む際に末端封止剤の量を適宜調整することにより上記所望の範囲内とすることができる。なお、重合時に単量体成分が揮発することを考慮して、得られるポリアミドに所望量の末端封止剤単位が導入されるように末端封止剤の仕込み量を微調整することが望ましい。
半芳香族ポリアミド中の末端封止剤単位の含有量を求める方法としては、例えば、特開平7-228690号公報に示されているように、溶液粘度を測定し、これと数平均分子量との関係式から全末端基量を算出し、ここから滴定によって求めたアミノ基量とカルボキシル基量を減じる方法や、H-NMRを用い、ジアミン単位と末端封止剤単位のそれぞれに対応するシグナルの積分値に基づいて求める方法などが挙げられ、後者が好ましい。
【0029】
末端封止剤としては、末端アミノ基又は末端カルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物を用いることができる。具体的には、モノカルボン酸、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類、モノアミン等が挙げられる。反応性及び封止末端の安定性などの観点から、末端アミノ基に対する末端封止剤としては、モノカルボン酸が好ましく、末端カルボキシル基に対する末端封止剤としては、モノアミンが好ましい。取り扱いの容易さなどの観点からは、末端封止剤としてはモノカルボン酸がより好ましい。
【0030】
末端封止剤として使用されるモノカルボン酸としては、アミノ基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸等の脂肪族モノカルボン酸;シクロペンタンカルボン酸、シクロヘキサンカルボン酸等の脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α-ナフタレンカルボン酸、β-ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸等の芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物等が挙げられる。これらの中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、及び安息香酸からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0031】
末端封止剤として使用されるモノアミンとしては、カルボキシル基との反応性を有するものであれば特に制限はなく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等の脂肪族モノアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等の脂環式モノアミン;アニリン、トルイジン、ジフェニルアミン、ナフチルアミン等の芳香族モノアミン;これらの任意の混合物等が挙げられる。これらの中でも、反応性、高沸点、封止末端の安定性及び価格などの点から、ブチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ステアリルアミン、シクロヘキシルアミン、及びアニリンからなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0032】
(半芳香族ポリアミドの物性)
押出成形用組成物に用いる半芳香族ポリアミドの融点(Tm)は、290℃以上であり、好ましくは300℃以上である。半芳香族ポリアミドの融点の上限に特に制限はないが、成形性等の観点から、330℃以下であることが好ましい。半芳香族ポリアミドの融点が290℃未満であると、当該半芳香族ポリアミドを用いて製造される押出成形用組成物の溶融状態の熱安定性が不十分となるおそれがある。
半芳香族ポリアミドの融点は、示差走査熱量分析(DSC)装置を用い、10℃/分の速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度として求めることができ、より具体的には後述する実施例に記載した方法により求めることができる。
半芳香族ポリアミドは、分子鎖中に芳香環が導入されていることに起因して概して融点が高いものであるが、半芳香族ポリアミドの融点を290℃以上とするためには、例えば、半芳香族ポリアミドの繰り返し構造単位当りのメチレン鎖の数を減らすことにより、融点を高くすることで実現することができる。
【0033】
(半芳香族ポリアミドの製造方法)
半芳香族ポリアミドは、結晶性ポリアミドを製造する方法として知られている任意の方法を用いて製造することができ、例えばジカルボン酸とジアミンとを原料とする、溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法等の方法により製造することができる。これらの中でも、重合中の熱劣化をより良好に抑制することができるなどの観点から、固相重合法であることが好ましい。
【0034】
半芳香族ポリアミドは、例えば、最初にジアミン、ジカルボン酸、及び必要に応じて触媒や末端封止剤を一括して添加してナイロン塩を製造した後、200~250℃の温度において加熱重合してプレポリマーとし、さらに固相重合するか、あるいは溶融押出機を用いて重合することにより製造することができる。重合の最終段階を固相重合により行う場合、減圧下又は不活性ガス流動下に行うのが好ましく、重合温度が200~280℃の範囲内であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制しやすくなる。重合の最終段階を溶融押出機により行う場合の重合温度としては、370℃以下であるのが好ましく、係る条件で重合すると、分解がほとんどなく、劣化の少ない半芳香族ポリアミドが得られやすくなる。
【0035】
半芳香族ポリアミドを製造する際には、上述したように、亜リン酸を重合触媒として用いることができる。
また、本発明の効果を損なわない範囲で、亜リン酸とともに、例えば、リン酸、次亜リン酸、又は、リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸の塩もしくはエステル等を用いてもよい。上記の塩又はエステルとしては、例えば、リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸と、カリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモン等の金属との塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸又は次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステル等が挙げられる。
【0036】
[カルボン酸アミド系ワックス]
押出成形用組成物に含まれるカルボン酸アミド系ワックスとしては、高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミンとの反応によって得られるカルボン酸アミド系ワックスが挙げられる。上記の高級脂肪族モノカルボン酸と多塩基酸の混合物とジアミンとの反応は脱水反応である。
【0037】
高級脂肪族モノカルボン酸としては、例えばパルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、モンタン酸、12-ヒドロキシステアリン酸などが挙げられ、炭素数16以上の飽和脂肪族モノカルボン酸及びヒドロキシカルボン酸が好ましい。
【0038】
多塩基酸は、二塩基酸以上のカルボン酸であり、例えばマロン酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ピメリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸;フタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸:シクロヘキサンジカルボン酸、シクロヘキシルコハク酸等の脂環式ジカルボン酸等が挙げられる。
【0039】
カルボン酸アミド系ワックスを得るために用いるジアミンとしては、例えばエチレンジアミン、1,3ージアミノプロパン、1,4ージアミノブタン、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、トリレンジアミン、パラキシリレンジアミン、フェニレンジアミン、イソホロンジアミン等が挙げられる。
上記の高級脂肪族モノカルボン酸、多塩基酸、ジアミンは任意に組み合わせることができる。
【0040】
押出成形用組成物におけるカルボン酸アミド系ワックスの含有量は、半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.5~4.0質量部であり、0.5~3.0質量部であることが好ましく、0.5~2.0質量部であることがより好ましく、1.0~2.0質量部であることがさらに好ましい。カルボン酸アミド系ワックスの含有量が上記下限未満であると分子量増加を抑制する効果を十分得ることができなくなり、樹脂のゲル化による製品の品質の低下を防止することが難しくなる。カルボン酸アミド系ワックスの含有量が上記上限を超えると、溶融滞留時のカルボン酸アミド系ワックスの分解により生じるガス量が多くなり、成形加工性が低下したり、長時間滞留時の着色が顕著になったりして、製品の品質の低下するおそれがある。
【0041】
カルボン酸アミド系ワックスが含まれることにより、押出成形用組成物の溶融状態における熱安定性が向上する理由は、これに限られるものではないが、一つには、以下の理由が考えられる。押出成形用組成物を加熱溶融することにより、半芳香族ポリアミドの一部にゲル化が生じることで重量平均分子量が大きくなる一方で、半芳香族ポリアミドのアミド部位とカルボン酸アミド系ワックスのアミド部位とがアミド交換する(つまり、前者を構成するジアミン単位と後者を構成するカルボン酸部分の少なくとも一部が結合し、前者を構成するジカルボン酸単位と後者を構成するジアミン部分の少なくとも一部が結合する)ことによって重量平均分子量が小さくなり、結果的に、溶融状態において全体の重量平均分子量が大きく変化することが抑制されるものと考えられる。こうして、組成物としての変化が抑制されることに加え、適量の特定の熱安定剤の存在により、上記の効果が得られるものと推測される。
【0042】
[有機系熱安定剤]
本発明の半芳香族ポリアミド組成物に含まれる有機系熱安定剤としては、公知の化合物を使用することができるが、ヒンダードフェノール系熱安定剤、リン系熱安定剤、硫黄系熱安定剤、及び、アミン系熱安定剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましく、ヒンダードフェノール系熱安定剤及びアミン系熱安定剤からなる群より選ばれる少なくとも1種であることがより好ましい。
【0043】
押出成形用組成物における有機系熱安定剤の含有量は、半芳香族ポリアミド100質量部に対して0.1~1.0質量部であり、好ましくは0.1~0.7質量部、より好ましくは0.2~0.7質量部である。有機系熱安定剤の含有量が上記下限未満であれば、溶融状態での熱安定性が十分を確保できなくなるおそれがある。また、押出成形用組成物及びそのフィルムの実使用環境における長期耐熱性を確保できなくなるおそれがある。有機系熱安定剤の含有量が上記上限を超えると、有機系熱安定剤の分解によるガスの発生量が多くなり、成形加工性の低下を招くおそれがある。
【0044】
(ヒンダードフェノール系熱安定剤)
ヒンダードフェノール系熱安定剤としては、例えば2,2-チオ-ジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-へキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニルプロピオンアミド)]、ペンタエリスリチル-テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサメチレンビス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオンアミド、トリエチレングリコールビス(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート、ヘキサメチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、3,9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジルホスホネート-ジエチルエステル、1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン、1,3,5-トリス(4-tert-ブチル-3-ヒドロキシ-2,6-ジメチルベンジル)イソシアヌル酸などが挙げられる。
上記ヒンダードフェノール系熱安定剤の中でも、特に3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカンが好ましい。
【0045】
(アミン系熱安定剤)
アミン系熱安定剤としては、例えば4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-1-ナフチルアミン、N-フェニル-N’-イソプロピル-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(1,3-ジメチルブチル)-p-フェニレンジアミン、N-フェニル-N’-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロピル)-p-フェニレンジアミン、4-アセトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-アクリロイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルアセトキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンゾイルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-メトキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ステアリルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-シクロヘキシルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-ベンジルオキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-フェノキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(エチルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(シクロヘキシルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、4-(フェニルカルバモイルオキシ)-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)カーボネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)オキサレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)マロネート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アジペート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)テレフタレート、1,2-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)エタン、α,α’-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルオキシ)-p-キシレン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)トリレン-2,4-ジカルバメート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ヘキサメチレン-1,6-ジカルバメート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ベンゼン-1,3,5-トリカルボキシレート、トリス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)ベンゼン-1,3,4-トリカルボキシレート、1-[2-{3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ}ブチル]-4-[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]2,2,6,6-テトラメチルピペリジン、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸と1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジノールとβ,β,β’,β’-テトラメチル-3,9-[2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン]ジエタノールとの縮合物などが挙げられる。
上記アミン系熱安定剤の中でも、特に4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミンが好ましい。
【0046】
(リン系熱安定剤)
リン系熱安定剤としては、例えばリン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン、ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、トリオクチルホスファイト、トリラウリルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、トリスイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、フェニルジ(トリデシル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ジフェニル(トリデシル)ホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)ホスファイト、トリス(ブトキシエチル)ホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル-テトラトリデシル)ジホスファイト、テトラ(C12~C15混合アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(ビフェニル)ホスファイト、テトラ(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-5-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ブタンジホスファイト、テトラ(トリデシル)-4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、テトラ(C1~C15混合アルキル)-4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、トリス(モノ、ジ混合ノニルフェニル)ホスファイト、4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル)・ジ(ノニルフェニル)ホスファイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)ホスファイト、水素化-4,4’-イソプロピリデンジフェニルポリホスファイト、ビス(オクチルフェニル)・ビス(4,4’-ブチリデンビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニル))・1,6-ヘキサノールジホスファイト、ヘキサトリデシル-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-tert-ブチルフェニル)ジホスファイト、トリス(4,4’-イソプロピリデンビス(2-tert-ブチルフェニル))ホスファイト、トリス(1,3-ステアロイルオキシイソプロピル)ホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、2,2-メチレンビス(3-メチル-4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチル-5-メチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスファイト、6-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロポキシ]-2,4,8,10-テトラ-tert-ブチルジベンゾ[d,f][1,3,2]-ジオキサホスフェピンなどが挙げられる。
上記リン系熱安定剤の中でも、特にペンタエリスリトール型ホスファイト化合物、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイトが好ましい。
【0047】
上記ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物としては、例えば2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・フェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・メチル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・2-エチルヘキシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・イソデシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・ラウリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・イソトリデシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・ステアリル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・シクロヘキシル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・ベンジル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・エチルセロソルブ・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・ブチルカルビトール・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・オクチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・ノニルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・2,6-ジ-tert-ブチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・2,4-ジ-tert-ブチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・2,4-ジ-tert-オクチルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル・2-シクロヘキシルフェニル・ペンタエリスリトールジホスファイト、2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル・フェニル・ペンタエリストリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-オクチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
上記ペンタエリスリトール型ホスファイト化合物の中でも、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-エチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-アミル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2、6-ジ-tert-オクチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトが好ましく、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイトがより好ましい。
【0048】
(硫黄系熱安定剤)
硫黄系熱安定剤としては、例えばジステアリル3,3’-チオジプロピオネート、ペンタエリスリチルテトラキス(3-ラウリルチオプロピオネート)、2-メルカプトベンズイミダゾール、ジドデシル3,3’-チオジプロピオネート、ジトリデシル3,4’-チオジプロピオネート、2,2-ビス[[3-(ドデシルチオ)-1-オキソプロポキシ]メチル]-1,3-プロパンジイルエステルなどが挙げられる。
【0049】
[その他の添加剤]
本発明の押出成形用組成物には、上述した半芳香族ポリアミド、カルボン酸アミド系ワックス、及び、有機系熱安定剤以外にその他の添加剤を必要に応じて含んでもよい。
【0050】
その他の添加剤としては、例えば、着色剤;紫外線吸収剤;光安定化剤;帯電防止剤;臭素化ポリマー、酸化アンチモン、金属水酸化物、ホスフィン酸塩等の難燃剤;難燃助剤;結晶核剤;可塑剤;潤滑剤;滑剤;分散剤;酸素吸収剤;硫化水素吸着剤;ガラス繊維、炭素繊維、全芳香族ポリアミド繊維等の無機又は有機繊維状充填剤;ウォラストナイト、シリカ、シリカアルミナ、アルミナ、二酸化チタン、チタン酸カリウム、水酸化マグネシウム、二硫化モリブデン、カーボンナノチューブ、グラフェン、ポリテトラフルオロエチレン、超高分子量ポリエチレン等の粉末状充填剤;ハイドロタルサイト、ガラスフレーク、マイカ、クレー、モンモリロナイト、カオリン等のフレーク状充填剤;α-オレフィン系共重合体、ゴム等の衝撃改質剤などが挙げられる。これらは1種のみ含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。
【0051】
上記その他の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、半芳香族ポリアミド100質量部に対して、0.02~50質量部が好ましく、0.05~30質量部がより好ましい。
【0052】
上記その他の添加剤の添加方法としては、例えば半芳香族ポリアミドの重合時に添加する方法、半芳香族ポリアミドにドライブレンドし溶融混練する方法、押出成形用組成物の調製時に添加する方法、フィルムの成形時に添加する方法等が挙げられる。
【0053】
[押出成形用組成物の物性]
(メルトフローレート)
押出成形時の押出機内での滞留を抑制させること、および押出成形品の生産安定性、生産速度向上の観点から、押出成形用組成物に含まれる半芳香族ポリアミドの融点より20℃程度高い温度に加熱したシリンダー状の容器に充填し、4分間保持した後、シリンダーから押し出すことによって測定される溶融粘度は、例えば、その下限値が、20g/10min以上であることが好ましく、また、その上限値は70g/10min以下であることが好ましく、50g/10min以下であることがより好ましい。
押出成形用組成物の溶融粘度は、具体的には後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0054】
(熱安定性)
押出成形用組成物を溶融状態にしたときに十分な熱安定性が保たれるようにする観点から、押出成形用組成物に含まれる半芳香族ポリアミドの融点より20℃程度高い温度に加熱したシリンダー状の容器に充填し、5分間及び60分間保持した後、シリンダーから押し出してストランド状のサンプルを作製し、各サンプルの重量平均分子量を求めて、前者に対する両者の差の割合で表される分子量変化率が、±10%以内であることが好ましく、±8%以内であることがより好ましく、±5%以内であることがさらに好ましい。
押出成形用組成物の溶融状態における分子量変化率は、具体的には後述する実施例に記載の方法によって測定される。
【0055】
[押出成形用組成物の製造方法]
ポリアミド組成物の製造方法に特に制限はなく、半芳香族ポリアミド及び上記他の成分を均一に混合することのできる方法を好ましく採用することができる。混合は、通常、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用して溶融混練する方法が好ましく採用される。溶融混練条件は特に限定されないが、例えば、半芳香族ポリアミドの融点よりも10~50℃程度高い温度範囲で、約1~30分間溶融混練する方法が挙げられる。
【0056】
[押出成形品]
(成形方法)
本発明の押出成形用組成物を用いて得られる押出成形品は、一般的な押出成形法によって得ることができる。押出成形は、耐圧性の型枠に入れられた溶融状態の材料に圧力を加えて押し出すことで任意の形状に加工する方法である。例えば、射出成形と比べて組成物に加わる圧力が低いため、押出成形においては概して材料が溶融状態のまま滞留しやすく、材料が変質を生じやすい状態に置かれることになる。本発明の押出成形用組成物は、溶融状態における熱安定性に優れているため、押出成形においても変質を生じにくく、欠点や色調変化が抑制された、優れた品質の押出成形品を得ることができる。
【0057】
(押出成形品の用途)
前記押出成形品としては、例えば、フィルム、シート、チューブ、モノフィラメント、マルチフィラメント、パイプ、丸棒、ワイヤ等の被覆などの形状の成形品が挙げられ、該成形品は自動車部品、工業材料、産業資材、電気電子部品、機械部品、事務機器用部品、家庭用品などの任意の部品に使用することができる。
【0058】
(フィルムの製造方法)
本発明のフィルムの製造方法に特に制限はなく、半芳香族ポリアミド又はこれを含むポリアミド組成物を従来公知の方法により成形すればよい。成形方法としては、例えば、溶融押出法が好ましく挙げられる。溶融押出法は特に制限されず、当該技術分野において知られている溶融押出法によって行うことができ、例えば、Tダイ法やインフレーション法などを用いることができる。このとき、押出温度は半芳香族ポリアミドのTm+10℃以上370℃以下であることが好ましい。押出温度がTm+10℃以上であれば粘度が上昇して押出しできなくなることを回避しやすくなり、370℃以下であれば、半芳香族ポリアミドが分解しにくくなる。フィルムの厚みは、通常1~500μmであり、好ましくは5~200μmである。
【0059】
Tダイ法によってフィルムを成形する場合、公知の単軸押出機または二軸押出機の先端部にTダイを接続し、フィルム状に押出された成形品を得ることができる。
【0060】
押出機は、1個以上の開放ベント部を有することが好ましい。このような押出機を用いることで、開放ベント部から分解物や揮発成分を吸引することができ、得られた組成物の品質を向上させやすくなる。また、押出機は、異物を除去するためにポリマーフィルターを有することが好ましい。ポリマーフィルターの構造としては、例えばリーフディスク型やキャンドル型等が挙げられる。さらに、押出機は、組成物の吐出量を安定化させるためにギアポンプを有することが好ましい。ギアポンプとしては公知のものを使用することができる。押出機が開放ベント部、ギアポンプ及びポリマーフィルターを有する場合、異物を低減し、かつ、ベントアップを抑制する観点から、押出機-ギアポンプ-ポリマーフィルター-ダイの順番で接続することが好ましい。また、押出機における樹脂組成物の劣化を防ぐため、押出機内に窒素を通じながら成形することが好ましい。
【0061】
フィルムを製造する一実施形態として、フィルムの表面平滑性及び厚さ均一性を確保する観点から、押し出されたフィルム状溶融樹脂を、鏡面ロールまたは鏡面ベルトの間に引き取り、挟圧することが好ましい。鏡面ロールまたは鏡面ベルトは、いずれも金属製であることが好ましい。鏡面ロールは金属剛体ロール及び金属弾性ロールの組合せであることがより好ましい。鏡面ロールまたは鏡面ベルト間の線圧は、表面平滑性の観点から、好ましくは10N/mm以上であり、より好ましく30N/mm以上である。得られたフィルムに延伸処理を施す場合においては、通常、ポリアミドは結晶化速度が速く、結晶が成長しやすいので、結晶成長を抑制して延伸を容易にする観点から、半芳香族ポリアミドのガラス転移温度(Tg)以下に急冷するのが良い。一方で、フィルムに皺ができてフィルムの外観が悪くなったり、延伸性が低下したりすることを防ぐ観点から、冷却速度が過度に大きくならないようにするのがよい。つまり、ある一定の範囲内に冷却温度を制御することが好ましい。そのため、鏡面ロールまたは鏡面ベルトの表面温度は、表面平滑性、ヘーズ、外観などの観点から、好ましくは半芳香族ポリアミドのTg-10℃以下かつTg-75℃以上であり、より好ましくはTg-20℃以下かつTg-75℃以上である。
【0062】
また、フィルムを製造する他の実施形態として、挟圧しない方法が挙げられる。具体的には、押し出されたフィルム状溶融樹脂を、該フィルムの表面平滑性及び厚さ均一性の観点から、密着補助装置により鏡面ロールに接触かつ密着させ、冷却、固化させることが好ましい。密着補助装置としては、例えば静電密着装置、エアナイフ、エアチャンバー、バキュームチャンバーなどが挙げられる。エッジピニングとワイヤーピニングを併用してもよい。これらのうち、製造安定性の観点から、密着補助装置として静電密着装置を用いることが好ましい。
【0063】
密着補助装置としてエッジピニングとワイヤーピニングを併用する場合、エッジピニングとワイヤーピニングを、上流側からこの順で配置することが好ましい。また、ワイヤーピニングは、鏡面ロール上の溶融樹脂の温度がガラス転移温度となる位置を含めこれより下流側であって、鏡面ロールから剥離する位置より上流側に配置することがより好ましい。
【0064】
上記方法で製造されたフィルムはさらに予熱工程、延伸工程、熱固定工程、弛緩工程を組み合わせてなる延伸処理を行っても良い。延伸処理を行うことで力学特性などがさらに向上し、産業上の利用における優位性が高まる。
【0065】
延伸処理は、延伸工程においては、例えば、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法、チューブラー法等を用いることができる。中でも、フィルム厚み精度が良く、フィルム幅方向の物性が均一であることから、同時二軸延伸法が最適である。フィルムの延伸処理は、予熱工程、延伸工程、熱固定工程をこの順番で実行することが好ましく、熱固定工程後に弛緩工程を実施しても良い。
【0066】
上記フィルムの製造工程と延伸処理とは、連続的に実施しても良いし、非連続的に実施しても良い。
【0067】
フィルムには、フィルム表面の接着性を良好にするために、コロナ処理、プラズマ処理、グロー放電処理、酸処理、火炎処理、紫外線照射処理、電子線照射処理、オゾン処理などの活性化処理を施してもよい。また、表面の硬度(鉛筆硬度、耐擦傷性)を向上させる目的でハードコート層を付与してもよい。
【0068】
(フィルムの用途)
フィルムの用途としては特に制限はなく、モーター、トランス、ケーブル等のための電気絶縁材料;コンデンサ用途等の誘電体材料;半導体パッケージ用等の電子部品包装材料;医薬品包装材料;レトルト食品等の食品包装材料;ディスプレイ用カバーウィンドウ、太陽電池基板、液晶板、導電性フィルム、表示機器等の保護板;LED実装基板、フレキシブルプリント基板、フレキシブルフラットケーブル等の電子基板材料;FPC用カバーレイフィルム、耐熱マスキング用テープ、工業用工程テープ等の耐熱粘着テープ;耐熱バーコードラベル;耐熱リフレクタ―;各種離型フィルム;耐熱粘着ベースフィルム;写真フィルム;成形用材料;農業用材料;医療用材料;土木、建築用材料;濾過膜等;家庭用、産業資材用のフィルム等として、単独で、又は、ハードコート層などの他の層を積層した積層体として使用することができる。
【実施例
【0069】
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0070】
実施例及び比較例で用いる材料の物性の測定、実施例及び比較例における組成物及びフィルムの各物性の測定及び各評価は、以下に示す方法に従って行った。
【0071】
・半芳香族ポリアミドの融点
実施例及び比較例で用いる半芳香族ポリアミドの融点は、株式会社日立ハイテクサイエンス製の示差走査熱量分析装置「DSC7020」を使用して測定した。
融点は、ISO11357-3(2011年第2版)に準拠して測定を行った。具体的には、窒素雰囲気下で、30℃から340℃へ10℃/分の速度で試料を加熱し、340℃で5分間保持して試料を完全に融解させた後、10℃/分の速度で50℃まで冷却し50℃で5分間保持した。再び10℃/分の速度で340℃まで昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とし、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点(℃)とした。
【0072】
・押出成形用組成物のメルトフローレート
実施例及び比較例で得られた押出成形用組成物の溶融粘度を320℃に加熱したメルトインデクサ(株式会社東洋精機製作所製「G-02」)のシリンダー内に充填し、4分間保持した後、2.16kgの荷重を加えてシリンダーから押し出した。押し出されているストランドを10秒間隔で3回切断し、得られたサンプルの重量を測定した。3つのサンプルの重量の平均値を算出し、以下の式(1)により溶融粘度を算出した。
(3つのサンプル重量の平均値)×60(g/10min)・・・式(1)
【0073】
・押出成形用組成物の重量平均分子量
押出成形用組成物の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により標準ポリメチルメタクリレート換算分子量として求めた。具体的には、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)1kgに対して0.85gの割合でトリフルオロ酢酸ナトリウムを溶解させたHFIP溶液を溶離液として用い、試料を樹脂換算で1.5mg計量し、3mLの上記溶離液に溶解させた。該溶液を0.4μmのメンブランフィルターを通すことによって測定サンプルを作製し、以下の条件において測定を行った。
(測定条件)
装置:HLC-8320GPC(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel SuperHM-H(東ソー株式会社製)2本を直列に連結した。
溶離液:10mmol/Lトリフルオロ酢酸ナトリウム/HFIP溶液
流速:0.5mL/分(リファレンスカラム:0.25mL/分)
サンプル注入量:30μL
カラム温度:40℃
標準ポリメチルメタクリレート:昭和電工株式会社Shodex Standard M-75,アジレント・テクノロジー株式会社Polymethlmethacrylate分子量1010 ポリメチルメタクリレート
検出器:UV(254nm)検出器
【0074】
[熱安定性の評価]
(分子量変化率)
実施例及び比較例で得られた押出成形用組成物を320℃に加熱したキャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製「CAPIROGRAPH1C」)のシリンダー内に充填し、5分間及び60分間保持した後、ピストンによってシリンダーから押し出してストランド状のサンプルを得た。得られたサンプルを用いて上記の方法を用いて重量平均分子量を算出した。
5分間保持したサンプルの重量平均分子量(A)と60分間保持したサンプルの重量平均分子量(B)から、以下の式(2)により分子量変化率を求めた。
(((B)-(A))/(A))×100(%)・・・式(2)
(ストランドの状態)
上記熱安定性評価用サンプルの作製において、5分間保持したサンプルと60分間保持したサンプルのストランドの状態を目視で確認し、発泡の有無、着色の有無、異物の有無を確認した。
【0075】
[フィルム物性の測定]
(フィルムの作製)
株式会社東洋精機製作所製のラボプラストミル(φ20mm、L/D=25、フルフライトスクリュー)を使用し、実施例及び比較例で得られた押出成形用組成物を用いて、その押出成形用組成物に含まれる半芳香族ポリアミドの融点よりも20~30℃高いシリンダー温度及びダイ温度で、Tダイ(幅150mm、リップ幅0.4mm)を用いて厚さ200μm±20μmのフィルムを作製した。
(欠点数)
上記の方法で作製したフィルムを300g切り出し、周辺のフィルム(正常部)の厚さと比較して100μm以上厚くなっている部分(異物部)の個数をカウントして欠点数とした。
(黄色度YI)
上記の方法で作製したフィルムの黄色度を、日本電色工業株式会社製の分光色彩計(SD7000)を用いてJIS K7373に従って測定した。黄色度は1.50以下であることが好ましく、1.30以下であることがさらに好ましく、0.9以下であってもよい。
【0076】
[押出成形用組成物に用いる成分の調製]
(1)半芳香族ポリアミドの製造
半芳香族ポリアミド(1)
テレフタル酸7372g、1,9-ノナンジアミンと2-メチル-1,8-オクタンジアミンの混合物[前者/後者=80/20(モル比)]7158g、安息香酸154g、亜リン酸7g(原料の総質量に対して0.05質量%)及び蒸留水5リットルを内容積40リットルのオートクレーブに入れ、窒素置換した。100℃で30分間撹拌し、2時間かけてオートクレーブ内部の温度を220℃に昇温した。なお、ジアミン単位とジカルボン酸単位とのモル比[ジアミン単位/ジカルボン酸単位]は50.5/49.5であった。この時、オートクレーブ内部の圧力は2MPaまで昇圧した。そのまま5時間、圧力を2MPaに保ちながら加熱を続け、水蒸気を徐々に抜いて反応させた。次に、30分かけて圧力を1.3MPaまで下げ、さらに1時間反応させて、プレポリマーを得た。得られたプレポリマーを、100℃、減圧下で12時間乾燥し、2mm以下の粒径まで粉砕した。これを230℃、13Pa(0.1mmHg)にて固相重合し、融点が300℃の半芳香族ポリアミド(1)を得た。
【0077】
半芳香族ポリアミド(2)
亜リン酸の代わりに次亜リン酸ナトリウム15g(原料の総質量に対して0.1質量%)を用いたこと以外は半芳香族ポリアミド(1)の製造と同様にして、融点が300℃の半芳香族ポリアミド(2)を得た。
【0078】
(2)熱安定剤、カルボン酸アミド系ワックス、及び、他の添加剤の準備
熱安定剤、カルボン酸アミド系ワックス、及び、他の添加剤として、以下に示す市販の材料を用いた。
・熱安定剤(1)
「SUMILIZER GA-80」、住友化学株式会社製
ヒンダードフェノール系熱安定剤(3,9-ビス{2-[3-(3-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン)
・熱安定剤(2)
「NAUGARD 445」、Addivant製
アミン系熱安定剤(4,4’-ビス(α,α-ジメチルベンジル)ジフェニルアミン)
・熱安定剤(3)
「KG HS01-P」、PolyAd Services製
銅系熱安定剤
・カルボン酸アミド系ワックス(1)
「ライトアマイド WH-255」、共栄社化学株式会社製
ステアリン酸、セバシン酸及びエチレンジアミンの重縮合物
・カルボン酸アミド系ワックス(2)
「ライトアマイド WH-510K」、共栄社化学株式会社製
・その他の添加剤
「LICOWAX OP」、クラリアントケミカルズ株式会社製
モンタン酸のエステル化物及び水酸化カルシウムのけん化物の混合ワックス
【0079】
[実施例1]
半芳香族ポリアミド(1)と、熱安定剤(1)と、カルボン酸アミド系ワックス(1)とを表1に示す割合で予め混合した後、二軸押出機(STEER社製「MEGA32」)の上流部供給口に一括投入した。半芳香族ポリアミドの融点よりも20~30℃高いシリンダー温度で溶融混練して押出し、冷却及び切断してペレット状の押出成形用組成物1を製造した。
また、株式会社東洋精機製作所製のラボプラストミル(φ20mm、L/D=25、フルフライトスクリュー)及びTダイ(幅150mm、リップ幅0.4mm)を使用し、上記組成物1を用いて、押出成型用組成物1の融点よりも20~30℃高いシリンダー温度及びダイ温度で溶融押出し、厚さ200μm±20μmのフィルム1を作製した。
【0080】
[実施例2]
カルボン酸アミド系ワックス(1)の添加量を表1に示す割合に変えたこと以外は実施例1と同様にしてペレット状の押出成形用組成物2を製造した。また、組成物2を用いて実施例1と同様の手順でフィルム2を作製した。
【0081】
[実施例3]
カルボン酸アミド系ワックス(1)の代わりにカルボン酸アミド系ワックス(2)を表1に示す配合割合で用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の押出成形用組成物3を製造した。また、組成物3を用いて実施例1と同様の手順でフィルム3を作製した。
【0082】
[実施例4]
熱安定剤(1)の代わりに熱安定剤(2)を表1に示す配合割合で用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の押出成形用組成物4を製造した。また、組成物4を用いて実施例1と同様の手順でフィルム4を作製した。
【0083】
[比較例1]
カルボン酸アミド系ワックス(1)を用いず、その他の添加剤を表1に示す配合割合で用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の押出成形用組成物C1を製造した。また、組成物C1を用いて実施例1と同様の手順でフィルムC1を作製した。
【0084】
[比較例2]
熱安定剤(1)の代わりに熱安定剤(3)を表1に示す配合割合で用いたこと以外は比較例1と同様にして、ペレット状の押出成形用組成物C2を製造した。また、組成物C2を用いて実施例1と同様の手順でフィルムC2を作製した。
【0085】
[比較例3]
熱安定剤(1)の代わりに熱安定剤(3)を表1に示す配合割合で用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の押出成形用組成物C3を製造した。また、組成物C3を用いて実施例1と同様の手順でフィルムC3を作製した。
【0086】
[比較例4]
カルボン酸アミド系ワックス(1)を用いず、その他の添加剤を表1に示す配合割合で用いたこと以外は実施例1と同様にして、ペレット状の押出成形用組成物C4を製造した。また、組成物C4を用いて実施例1と同様の手順でフィルムC4を作製した。
【0087】
[比較例5]
カルボン酸アミド系ワックス(1)の添加量を表1に示す割合に変えたこと以外は実施例1と同様にしてペレット状の押出成形用組成物C5を製造した。また、組成物C5を用いて実施例1と同様の手順でフィルムC5を作製した。
【0088】
[比較例6]
カルボン酸アミド系ワックス(1)の添加量を表1に示す割合に変えたこと以外は実施例1と同様にしてペレット状の押出成形用組成物C6を製造した。また、組成物C6を用いて実施例1と同様の手順でフィルムC6を作製した。
【0089】
[比較例7]
半芳香族ポリアミド(1)の代わりに半芳香族ポリアミド(2)を用いたこと以外は実施例1と同様にしてペレット状の押出成形用組成物C7を製造した。また、組成物C7を用いて実施例1と同様の手順でフィルムC7を作製した。
【0090】
実施例及び比較例の組成とそれらの測定結果を表1に示す。
【0091】
【表1】
【0092】
実施例1~4の押出成形用組成物は、比較例1、2、7に比べて、分子量変化率(5分後の重量平均分子量と60分後の重量平均分子量との間の変化率)が小さく、特に、実施例1の組成物1、実施例3の組成物3の分子量変化率が小さいことが判る。実施例2の組成物2は、カルボン酸アミド系ワックスの含有量が実施例1の半分になったことで、分子量変化率が若干大きくなるが、比較例の組成物C1、C2に比べて重量平均分子量の変化量は半分未満であることが判る。
また、実施例1~4の押出成形用組成物は、適正なメルトフローレートを示し、上述した方法により容易にフィルムを製造することが可能である。さらには、得られたフィルムには欠点が無く、黄色度も小さいことから、実施例1~4の押出成形用組成物を用いることにより、欠点の発生と色調の変化が抑えられた高品質なフィルムが得られることが分かる。それに対して比較例1、2及び7は、分子量変化率が大きく、溶融状態での熱安定性が低い。比較例3は、分子量変化率は小さいが、ストランドに発泡が生じており、熱安定性が低い。比較例4、5は、分子量変化率は小さいが、メルトフローレートが低く、フィルム製造時の装置にかかる負荷が大きくなる。比較例6はメルトフローレートが高すぎて、熱安定性を評価するための60分後のサンプルを得ることができなかった。
【0093】
また、ストランドの外観に関しては、比較例2、3ではストランドに発泡が生じており、熱安定性が不足しているのに対して、実施例1~4のストランドには変化が見られず、溶融状態でも高い熱安定性を有していることが判る。
そして、実施例1~4及び比較例1~7で得た押出成形用組成物を用いてフィルムを作製した結果、比較例1~6の組成物を用いたときにはフィルムに欠点が確認されたが、実施例1~4の組成物を用いたときには欠点が無かった。また、実施例1~4の黄色度は比較例1~4に比べて小さいことから、実施例1~4の組成物を用いることにより、欠点の発生と色調の変化が抑えられた高品質なフィルムが得られることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の押出成形用組成物は、溶融状態での滞留時間の長い押出成形においても組成物の分解や増粘を抑えることができ、成形加工性に優れ、組成物のゲル化に起因する欠点の発生が抑制され、押出成形中に色調の変化を生じ難く、品質に優れた押出成形品を得ることができる。このため、カバーウィンドウ等の保護材として、特に、カバーウィンドウ等の積層体における基板材料として好適に使用することができ、反りや微細クラックのないカバーウィンドウ等の積層体を提供することができる。さらに、より高硬度なハードコート層等の、多様な種類のハードコート層を押出成形品としてのフィルムに付与することで、表面硬度などのカバーウィンドウや積層体としての性能を大幅に向上させ得るフィルムを提供することが可能である。