IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社フジミインコーポレーテッドの特許一覧

特許7398304研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20231207BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20231207BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20231207BHJP
   C01F 7/42 20220101ALI20231207BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
C01F7/42
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020049621
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021147529
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2023-01-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
【審査官】小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/132676(WO,A1)
【文献】特開2017-101248(JP,A)
【文献】特開2001-323254(JP,A)
【文献】国際公開第2015/019888(WO,A1)
【文献】特開2016-056292(JP,A)
【文献】特表2002-523327(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
H01L 21/304
H01L 21/463
B24B 3/00 - 3/60
B24B 21/00 - 39/06
C01F 1/00 - 17/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
砥粒と、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子と、分散媒とを含み、
前記砥粒のゼータ電位が、負であり、
前記砥粒のアスペクト比が、1.1以下であり、
レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超え、
前記塩基性無機化合物が、アルカリ金属塩である、研磨用組成物。
【請求項2】
前記アニオン性水溶性高分子が、ポリアクリル酸系高分子およびポリメタクリル酸系高分子からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記アニオン性水溶性高分子の分子量が、5,000以上6,000,000以下である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
pHが、9.5以上である、請求項1~3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記砥粒が、アルミナを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記アルミナが、結晶相としてγ相を含む、請求項5に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記アルミナのα化率が、50%未満である、請求項5または6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記アルミナの破壊強度が、0.5GPa以上である、請求項5~7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項10】
請求項9に記載の研磨方法を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、具体的には、シャロートレンチ分離(STI)、層間絶縁膜(ILD膜)の平坦化、タングステンプラグ形成、銅と低誘電率膜とからなる多層配線の形成などの工程で用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、アルキレンオキシド付加された水溶性高分子と、ポリアクリル酸と、砥粒とを含む研磨用組成物が開示されている。この技術によれば、高い研磨速度で研磨しつつ、かつ研磨に伴う研磨対象物の研磨表面における傷の発生を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-185516号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、研磨速度の向上が未だ不十分であるという問題があることがわかった。
【0006】
したがって、本発明は、研磨対象物を高い研磨速度で研磨することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するために、鋭意検討を積み重ねた。その結果、砥粒と、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子と、分散媒とを含み、前記砥粒のゼータ電位が、負であり、前記砥粒のアスペクト比が、1.1以下であり、レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超え、前記塩基性無機化合物が、アルカリ金属塩である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、研磨対象物を高い研磨速度で研磨できる研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意味する。
【0010】
<研磨用組成物>
本発明は、研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子と、分散媒とを含み、前記砥粒のゼータ電位が、負であり、前記砥粒のアスペクト比が、1.1以下であり、レーザー回折散乱法により求められる前記砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超え、前記塩基性無機化合物が、アルカリ金属塩である、研磨用組成物である。
【0011】
本発明の研磨用組成物により、上記効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0012】
研磨用組成物は、一般に、基板表面を摩擦することによる物理的作用および砥粒以外の成分が基板の表面に与える化学的作用、ならびにこれらの組み合わせによって研磨対象物を研磨するものである。これにより、砥粒の形態や種類は研磨速度に大きな影響を与えることとなる。
【0013】
本発明の研磨用組成物は、所定の形状と所定の粒度分布とを有する砥粒を含有する。すなわち、研磨用組成物に用いられる砥粒は、アスペクト比が1.1以下であることから真球に近い球状の粒子からなり、さらにD90/D50が1.3を超えることにより粒度分布が広い粒子からなる。砥粒が真球に近い球状の粒子であることから、砥粒は研磨面において効率よく転がる。これにより、砥粒は転がりながら研磨面に機械的力を十分に加えることができ、好適に研磨することができる。さらに、砥粒の粒度分布が広いことから、相対的に小さなサイズの砥粒と、相対的に大きなサイズの砥粒とが存在する。相対的に小さなサイズの砥粒は、相対的に大きなサイズの砥粒と接触することで研磨面における転がりが抑制され、研磨面に留まりやすい。このような研磨面に留まった相対的に小さなサイズの粒子は、他の粒子との接触等により再度転がりだす際に、研磨面に対して粒子サイズに比較して大きな機械的力を加える。以上のように、真球に近い球状の粒子が広い粒度分布を有して存在する砥粒により、それぞれの粒子サイズにおいて効果的な研磨を実現することができ、研磨対象物の研磨速度をより向上させることができたものと推測される。すなわち、本発明は、研磨面に対して効果的に作用することができる砥粒のアスペクト比と粒度分布とのバランスを見出したものである。
【0014】
また、本発明の研磨用組成物に含まれる砥粒は、ゼータ(ζ)電位が負である。換言すれば、研磨用組成物中、ゼータ電位が負である砥粒が用いられる。ここで、本発明の研磨用組成物に含まれるアニオン性水溶性高分子は、高分子であるため研磨パッド(例えば、ポリウレタン)表面に付着しやすい。アニオン性水溶性高分子が研磨パッド表面に付着することにより、研磨パッド表面のゼータ電位は負となる。具体的には、パッド表面のゼータ電位が正である場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりパッド表面のゼータ電位は負となり、パッド表面のゼータ電位が負である場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりそのゼータ電位の絶対値が増大する。よって、研磨対象物を研磨するために研磨用組成物が用いられる際には、研磨用組成物と接した研磨パッドと、研磨用組成物中の砥粒との間に負電荷同士による斥力が働き、この反発により研磨対象物の表面に砥粒がより作用しやすくなり、研磨速度がさらに向上すると推測される。
【0015】
さらに、本発明の研磨用組成物は、アルカリ金属塩である塩基性無機化合物を含む。例えば、塩基性無機化合物は、塩基性有機化合物よりも研磨用組成物の電気伝導度を上げやすい。これにより、研磨用組成物による研磨速度はさらに向上すると考えられる。また、塩基性無機化合物がアルカリ金属塩であることにより、塩基性有機化合物に比べて立体的な嵩高さがなく、これにより塩基性無機化合物とアニオン性水溶性高分子とは凝集体を形成しにくい。よって、本発明の研磨用組成物は、アニオン性水溶性高分子が安定した分散状態であるため、アニオン性水溶性高分子が効率よく研磨パッドへ付着できる。
【0016】
以上のように、本発明の研磨用組成物は、所定の形状と所定の粒度分布とを有する研磨力の高い砥粒を、アニオン性水溶性高分子と特定の塩基性無機化合物と組み合わせて含むことにより、砥粒の研磨特性がさらに向上したものと考えられる。ただし、かかるメカニズムは推測に過ぎず、本発明の技術的範囲を制限しないことは言うまでもない。
【0017】
[研磨対象物]
本発明の研磨用組成物が研磨する研磨対象物に含まれる材料としては、特に制限されず、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素(SiN)、炭窒化ケイ素(SiCN)、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0018】
本発明に係る研磨対象物は、酸化ケイ素または窒化ケイ素を含むことが好ましく、酸化ケイ素を含むことがより好ましい。よって、本発明の研磨用組成物は、酸化ケイ素または窒化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられるのが好ましく、酸化ケイ素を含む研磨対象物を研磨する用途で用いられるのがより好ましい。
【0019】
酸化ケイ素を含む膜の例としては、例えば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS膜」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid
Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0020】
[砥粒]
本発明の研磨用組成物は、砥粒を含む。本発明の研磨用組成物に使用される砥粒の種類としては、特に制限されず、例えば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の酸化物が挙げられる。該砥粒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。該砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。砥粒の種類としては、好ましくはアルミナである。すなわち、本発明の研磨用組成物は、砥粒として、アルミナ(好ましくは、後述する爆燃法により得られるアルミナ)を含む。
【0021】
本発明の研磨用組成物において、砥粒は、負のゼータ電位を示すものであり、砥粒のアスペクト比は、1.1以下であり、レーザー回折散乱法により求められる砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超える。
【0022】
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒は、負のゼータ電位を示すものである。ここで、「ゼータ(ζ)電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。本発明の研磨用組成物においては、砥粒が負の電荷を有することによって研磨対象物に対する研磨速度を向上させることができる。砥粒のゼータ電位は、-80mV以上-5mV以下であるのが好ましく、-60mV以上-20mV以下であるのがより好ましい。砥粒(アルミナ)がこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、研磨対象物に対する研磨速度をより向上させることができる。
【0023】
研磨用組成物中の砥粒のゼータ電位は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0024】
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒のアスペクト比は、1.1以下である。アスペクト比が1.1以下の砥粒を用いることにより、研磨面において効果的に転がり、これにより研磨速度が向上する。本発明の研磨用組成物において、砥粒のアスペクト比が1.1を超えた場合、多くの砥粒が研磨面に留まってしまい、留まった多くの砥粒により過研磨が生じるおそれがある。砥粒のアスペクト比は、好ましくは1.1未満であり、より好ましくは1.09以下であり、さらに好ましくは1.08以下である。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。真球に近い球形粒子は応力印加時の粒子の変形や変形による破壊がより生じ難く、研磨対象物により大きな応力を伝えることができるからと推測される。砥粒のアスペクト比は、真球の場合、1となるため、その下限は、1以上である。なお、砥粒のアスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。具体的には、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクノロジー製 製品名:SU8000)で測定した画像からランダムで100個の砥粒を選び、これらの平均長径および平均短径を測定、算出した上で、式「平均長径/平均短径」により算出することができる。砥粒のアスペクト比の測定、算出方法の詳細は実施例に記載する。
【0025】
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒は、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50が、1.3を超える。これにより、研磨用組成物中には、相対的に小さなサイズの砥粒と、相対的に大きなサイズの砥粒とが存在する。相対的に小さなサイズの砥粒は、相対的に大きなサイズの砥粒と接触することで研磨面における転がりが抑制される。その結果、相対的に小さなサイズの砥粒は、研磨の際に、研磨対象物へと機械的力を十分に加えることができるようになり、研磨対象物の研磨速度をより向上させることができる。当該D90/D50が5.0以下である場合、研磨速度が低下する。
【0026】
D90/D50は、好ましくは1.5以上であり、より好ましくは1.8以上であり、さらに好ましくは2.0以上であり、特に好ましくは2.5以上である。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径(D50)との比D90/D50の上限は特に制限されないが、4.0以下であることが好ましく、3.5以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。
【0027】
砥粒の大きさは特に制限されないが、走査型電子顕微鏡の観察写真から画像解析により求められる砥粒の平均一次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、25nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、500nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましく、200nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、10nm以上500nm以下であることが好ましく、25nm以上250nm以下であることがより好ましく、50nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0028】
本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の下限は、30nm以上であることが好ましく、80nm以上であることがより好ましく、100nm以上であることがさらに好ましく、150nm以上であることがさらにより好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の上限は、1000nm以下が好ましく、500nm以下がより好ましく、400nm以下がさらに好ましく、350nm以下が特に好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチ等のディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、30nm以上1000nm以下であることが好ましく、80nm以上500nm以下であることがより好ましく、100nm以上400nm以下であることがさらに好ましく、150nm以上350nm以下であることが特に好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、レーザー回折散乱法により求められる砥粒の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50に相当する。
【0029】
砥粒の平均会合度は、4.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒の平均会合度は、1.5以上であることが好ましく、1.8以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0030】
砥粒の大きさ(平均粒子径、アスペクト比、D90/D50等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0031】
本発明で用いられる砥粒は、破壊強度が0.5GPa以上であることが好ましい。砥粒の破壊強度は、0.5GPa以上であれば特に制限されないが、0.6GPa以上であることが好ましく、0.65GPa以上であることがより好ましく、0.7GPa以上であることがさらに好ましく、0.75GPa以上であることがよりさらに好ましく、0.8Pa以上であることが特に好ましい。上記範囲であると研磨速度がより向上する。また、アルミナの破壊強度は、2GPa以下であることが好ましい。上記範囲であると、高い研磨速度を維持しつつ、生産適性がより向上する。
【0032】
砥粒の破壊強度は、「非整形試験片による岩石の引張り強さの迅速試験、平松 良雄、岡 行俊、木山 英郎、日本鉱業会誌、81巻、932号、1024~1030頁、1965年」を参考として算出することができる。詳細には、粒子(特に球形粒子)を圧縮すると、載荷点付近には圧縮応力が分布するが、その他はほとんど全面に引っ張り応力が分布することとなる。よって、アルミナの破壊強度は、得られた荷重-押し込み変位線図を記録し、急激に変位が増加する点を粒子に大規模破壊が発生した点として、下記式に従い算出することができる。
【0033】
【数1】
【0034】
ここで、破壊荷重Pは、株式会社島津製作所製 微小圧縮試験機 MCTW-500およびダイヤモンド製平面圧子(φ=50μm)を用いて測定することができる。また、平均粒子径dの測定方法は、後述する平均粒子径の説明に記載する。アルミナの破壊強度の測定、算出方法の詳細は実施例に記載する。
【0035】
なお、上記測定に基づいて算出される砥粒の破壊強度は、研磨用組成物の原料(例えば、粉末状のアルミナ)の状態で測定しても、調製された研磨用組成物から砥粒(例えば、アルミナ)を取り出して測定しても、値は同等となる。
【0036】
砥粒として、アルミナを用いる場合、公知の各種アルミナのなかから適宜選択して使用することができる。公知のアルミナとしては、例えば、α-アルミナ、γ-アルミナ、δ-アルミナ、θ-アルミナ、η-アルミナ、およびκ-アルミナから選択される少なくとも1種を含むアルミナ等が挙げられる。また、製法による分類に基づきヒュームドアルミナと称されるアルミナ(典型的にはアルミナ塩を高温焼成する際に生産されるアルミナ微粒子)を使用してもよい。さらに、コロイダルアルミナまたはアルミナゾルと称されるアルミナ(例えばベーマイト等のアルミナ水和物)も、上記公知のアルミナの例に含まれる。本発明の研磨用組成物の砥粒として用いられるアルミナは、このようなアルミナの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて含むものであり得る。これらのなかでも、結晶相としてγ相を含むアルミナ(γ-アルミナを含むアルミナ)であることが好ましく、主となる結晶相としてγ相を含むアルミナ(主成分としてγ-アルミナを含むアルミナ)であることがより好ましい。
【0037】
本明細書において、粉末X線回折装置を用いて得た粉末X線回折スペクトルから、2θ=46°の位置に現れるγ相のピークが確認される場合、アルミナが「結晶相としてγ相を含む」と判断する。また、本明細書において、後述するγ化率が50%超である場合、アルミナが「主となる結晶相としてγ相を含む」と判断する(上限100%)。結晶相としてγ相を含むアルミナを使用することで、研磨速度がより向上し、γ相が主となる結晶相である場合はその効果がより高まる。γ相は応力印加時における変形可能量が大きく、破壊強度の向上に寄与するからであると推測している。なお、後述する爆燃法で製造されたアルミナは、2θ=46°の位置に現れるγ相のピークが確認されるとき、γ相の含有割合が特に高くなる傾向がある。
【0038】
また、アルミナのα化率は、50%未満であることが好ましく、45%未満であることがより好ましく、40%未満であることがさらに好ましい(下限0%)。上記範囲であると、研磨速度がより向上する。α相は高い硬度を有するものの脆い傾向があるため、その含有量を一定以下とすることで応力印加時の破壊強度がより向上に寄与するからであると推測している。ここで、α化率〔%〕は、粉末X線回折装置を用いて得た粉末X線回折スペクトルから、2θ=25.6°の位置に現れるα相(012)面のピーク高さ(I25.6)と、2θ=46°の位置に現れるγ相のピーク高さ(I46)とから、下記式によって算出することができる。
【0039】
【数2】
【0040】
主となる結晶相としてγ相を含む場合、さらに結晶相としてα相を含むことが好ましい。この場合、硬度がより向上して研磨速度がより向上する。この際、α化率は0%超40%未満であることが好ましい。
【0041】
また、本明細書において、γ化率〔%〕は、粉末X線回折装置を用いて得た粉末X線回折スペクトルにおける、2θ=25.6°の位置に現れるα相(012)面のピーク高さ(I25.6)と、2θ=46°の位置に現れるγ相のピーク高さ(I46)とから、下記式より算出される値であると定義とする。
【0042】
【数3】
【0043】
アルミナ中の結晶相の種類やその含有割合は、製造方法や製造条件によって制御することができる。例えば、後述する爆燃法により製造されたアルミナは、γ化率がより高く、α化率がより低い。また、爆燃法では、爆燃反応後の加熱温度を1225℃よりも低くすることで、α化率を下げることができる。
【0044】
アルミナ中の結晶相の種類の特定、ならびにα化率およびγ化率の測定、算出方法の測定、算出方法の詳細は実施例に記載する。
【0045】
また、上記測定に基づいて算出されるα化率、γ化率は、研磨用組成物の原料である粉末状のアルミナの状態で測定しても、調製された研磨用組成物からアルミナを取り出して測定しても、値は同等となる。
【0046】
本発明で用いられるアルミナの製造方法は、特に制限されず、公知の方法を適宜使用することができる。これらの中でも、爆燃法(VMC法:Vaporized Metal Combustion Method)によるアルミナの製造方法が、アスペクト比が1.1以下のアルミナを得ることができるため好ましい。すなわち、アルミナとしては、爆燃法で製造されたアルミナであることが好ましい。爆燃法を採用することにより、アスペクト比が1.1以下のアルミナを得ることができ、当該粒子を使用することで研磨速度がより向上する。また、爆燃法により得られたアルミナは、高い破壊強度(例えば0.5GPa以上の破壊強度)を有する。本発明において、高い破壊強度を有する砥粒を用いることで、研磨速度の向上がさらに発揮されるため、破壊強度の観点からも爆燃法によりアルミナを製造するのが好ましい。
【0047】
爆燃法とは、「酸素を含む雰囲気内において化学炎を形成し、この化学炎中に目的とする酸化物超微粒子の一部を形成する金属粉末を粉塵雲が形成される程度の量投入し、爆燃を起こさせて酸化物超微粒子を合成する方法」を表す。爆燃法の詳細は、例えば、特開昭60-255602号公報をはじめとする公知の文献に記載されており、これらの記載を参考としてアルミナを製造することができる。また、爆燃法では、爆燃反応において、前原料である金属アルミナの粉流体の加熱温度を1200℃超で前処理することで破壊強度の値を大きくすることができる。また、制御の容易さから、爆燃反応における加熱温度は1250~1275℃の間であることが好ましい。爆燃法では、爆燃反応後の加熱温度を1225℃よりも低くすることでアスペクト比を1に近づけることができる。加熱処理においては、ロータリーキルン等の公知の装置・方法が採用されうる。
【0048】
本発明の一実施形態による研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の下限は、研磨用組成物に対して、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の含有量の上限は、研磨用組成物に対して、20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましく、5質量%以下であることがよりさらに好ましい。このような範囲であると、研磨速度をより向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0049】
[塩基性無機化合物]
本発明の研磨用組成物は、アルカリ金属塩である塩基性無機化合物を含む。ここで塩基性無機化合物とは、研磨用組成物に添加されることによって該組成物のpHを上昇させる機能を有する無機化合物を指す。塩基性無機化合物は、研磨対象物の面を化学的に研磨する働き、および研磨用組成物の分散安定性を向上させる働きを有する。また、本発明の研磨用組成物に含有される塩基性無機化合物は、塩基性有機化合物よりも研磨用組成物の電気伝導度を上げやすい。これにより、研磨用組成物による研磨速度はさらに向上すると考えられる。
【0050】
また、アルカリ金属塩である塩基性無機化合物は、塩基性有機化合物に比べて立体的な嵩高さがなく、これにより塩基性無機化合物とアニオン性水溶性高分子とは凝集体を形成しにくい。よって、本発明の研磨用組成物は、アニオン性水溶性高分子が安定した分散状態であるため、アニオン性水溶性高分子が効率よく研磨パッドへ付着できる。
【0051】
アルカリ金属塩である塩基性無機化合物としては、水酸化リチウム、炭酸リチウム、水酸化カリウム、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、リン酸三ナトリウム、リン酸水素二ナトリウムなどが挙げられる。これらのうち、アルカリ金属塩の塩基性無機化合物としては、pHとスラリーの安定性との観点から、水酸化カリウム、水酸化ナトリウムが好ましく、水酸化カリウムがより好ましい。
【0052】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中の塩基性無機化合物の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましく0.001質量%以上であり、より好ましくは0.01質量%以上であり、さらに好ましくは0.05質量%以上であり、特に好ましくは0.1質量%以上である。かような下限であることによって、研磨速度がより向上する。研磨用組成物中の塩基性無機化合物の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは8質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下である。かような上限であることによって、凝集のない安定なスラリーを得ることができる。
【0053】
[アニオン性水溶性高分子]
本発明の研磨用組成物は、アニオン性水溶性高分子を含む。アニオン性水溶性高分子は、分子内にアニオン基を有する、水溶性の高分子である。本明細書中、「水溶性」とは、水(25℃)に対する溶解度が1g/100mL以上であることを意味する。アニオン性水溶性高分子は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
研磨対象物を研磨するために本発明の研磨用組成物を用いた場合、研磨用組成物に含有されるアニオン性水溶性高分子は研磨パッドに付着する。このとき、パット表面のゼータ電位が正である場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりゼータ電位が負に移行し、パット表面のゼータ電位が負である場合はアニオン性水溶性高分子の付着によりそのゼータ電位の絶対値が増大する。例えば、研磨パッドがポリウレタンである場合、ポリウレタンの表面のゼータ電位は-45mV程度であるが、研磨パッドが本発明の研磨用組成物と接することにより(すなわち、アニオン性水溶性高分子が付着することにより)、研磨パッド表面のゼータ電位が-80mVまで増大しうる。よって、アニオン性水溶性高分子は、研磨パッド表面に付着することにより、研磨パッドの表面電荷を負とするか、研磨パッドの負の表面電荷の絶対値を大きくすることにより、研磨パットと砥粒とがより反発するよう導き、これにより研磨速度が向上する。
【0055】
本発明の実施形態によれば、アニオン性水溶性高分子としては、分子中に、カルボキシル基、スルホ基、リン酸基およびホスホン酸基からなる群から選択される少なくとも1種の官能基を含むものが好適である。中でも、アニオン性水溶性高分子が、カルボキシル基を含むと好ましい。かような基がアニオン性水溶性高分子に含まれることで、本発明の所期の効果を効率的に奏する。
【0056】
また、本発明の実施形態によれば、アニオン性水溶性高分子は、エチレン性不飽和結合を有する単量体由来の構成単位を有することが好適である。例えば、アニオン性水溶性高分子は、単量体由来の構成単位として、アクリル酸およびメタクリル酸からなる群から選択される1種以上を含むのが好ましい。よって、アニオン性水溶性高分子は、ポリアクリル酸系高分子およびポリメタクリル酸系高分子からなる群から選択される少なくとも1種であることがより好ましい。かかる実施形態であることによって、研磨用組成物において、カルボキシル基が塩基性無機化合物と相互作用して、砥粒が安定に分散された状態となると推測される。
【0057】
アニオン性水溶性高分子は、一分子中にエチレン性不飽和結合を有する単量体由来の構成単位と、他の単量体由来の構成単位とを含む共重合体であってもよい。このような共重合体としては、(メタ)アクリル酸とビニルアルコールとの共重合体、(メタ)アクリル酸と2-ヒドロキシ-2-ホスホノ酢酸(HPAA)との共重合体、(メタ)アクリル酸とアクリロイルモルフォリン(ACMO)との共重合体などが挙げられる。なお、(メタ)アクリル酸とは、アクリル酸およびメタアクリル酸を包括的に指す意味である。
【0058】
また、アニオン性水溶性高分子は、オキシアルキレン単位を含んでいてもよい。アニオン性水溶性高分子が含みうるオキシアルキレン単位の例としては、ポリエチレンオキサイド(PEO)、エチレンオキサイド(EO)とプロピレンオキサイド(PO)とのブロック共重合体、EOとPOとのランダム共重合体などが挙げられる。EOとPOとのブロック共重合体は、ポリエチレンオキサイド(PEO)ブロックとポリプロピレンオキサイド(PPO)ブロックとを含むジブロック体、トリブロック体などであり得る。上記トリブロック体には、PEO-PPO-PEO型トリブロック体およびPPO-PEO-PPO型トリブロック体が含まれる。
【0059】
本発明の実施形態において、アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)の下限は、1,000以上、5,000以上、10,000以上、50,000以上、100,000以上、300,000以上、500,000以上、800,000以上が順に好ましい。アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)の上限は、8,500,000以下、6,000,000以下、4,000,000以下、2,000,000以下、1,500,000以下の順に好ましい。すなわち、アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)は、例えば、1,000以上8,500,000以下、5,000以上6,000,000以下、10,000以上4,000,000以下、50,000以上4,000,000以下、100,000以上2,000,000以下の順で好ましい。このような範囲であれば、研磨速度をより向上させることができる。アニオン性水溶性高分子の分子量(質量平均分子量)は、GPC法によって測定した値を採用することができる。
【0060】
本発明の実施形態において、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、好ましくは0.001質量%以上、より好ましくは0.005質量%以上、さらに好ましくは0.01質量%以上、さらにより好ましくは0.05質量%以上、最も好ましくは0.08質量%以上である。また、研磨用組成物中のアニオン性水溶性高分子の含有量は、研磨用組成物に対して、0.8質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以下であり、特に好ましくは0.4質量%以下である。かような範囲であれば、高い研磨速度を維持できる。なお、研磨用組成物が2種以上のアニオン性水溶性高分子を含む場合には、アニオン性水溶性高分子の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0061】
[分散媒]
研磨用組成物は、研磨用組成物を構成する各成分の分散のために分散媒(溶媒)を含む。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒としては、有機溶媒、水が挙げられるが、水を含むことが好ましく、水であることがより好ましい。
【0062】
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、分散媒としては不純物をできる限り含有しない水が好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。通常は、研磨用組成物に含まれる分散媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上が水であることがより好ましく、99体積%以上が水であることがさらに好ましく、100体積%が水であることが特に好ましい。
【0063】
また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0064】
[その他の添加剤]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、pH調整剤、キレート剤、増粘剤、酸化剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の公知の添加剤をさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよい。
【0065】
(pH調整剤)
本発明の研磨用組成物は、塩基性無機化合物によってpHを所望の範囲内に調整することができるが、塩基性無機化合物以外のpH調整剤をさらに含んでいてもよい。
【0066】
pH調整剤としては、公知の酸、塩基性無機化合物以外の塩基、またはこれらの塩を使用することができる。pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、およびフェノキシ酢酸等の有機酸が挙げられる。
【0067】
pH調整剤として使用できる塩基性無機化合物以外の塩基としては、エタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の脂肪族アミン、芳香族アミン、水酸化第四アンモニウム等の塩基性有機化合物等が挙げられる。また、アンモニアもpH調整剤として用いることができる。
【0068】
上記pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。pH調整剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物のpHが所望の範囲内となるよう適宜調整すればよい。
【0069】
研磨用組成物のpHの下限は、特に制限されないが、9.5以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましく、10.5以上であることがさらに好ましく、11以上であることが特に好ましい。かような下限とすることによって、研磨対象物の研磨速度を向上させることができる。また、pHの上限としても特に制限はないが、13以下であることが好ましく、12.5以下であることがより好ましく、12以下であることがさらに好ましい。かような上限とすることによって、研磨用組成物の安定性を向上させることができる。
【0070】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。
【0071】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、砥粒、塩基性無機化合物、アニオン性水溶性高分子および必要に応じて他の添加剤を、分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、砥粒と、塩基性無機化合物、アニオン性水溶性高分子と、分散媒と、を混合することを有する、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0072】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0073】
<研磨方法および半導体基板の製造方法>
本発明は、本発明の一実施形態に係る研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法を提供する。また、本発明は、上記研磨方法を有する、半導体基板の製造方法を提供する。
【0074】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0075】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0076】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0077】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0078】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水等の希釈液を使って、例えば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【実施例
【0079】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。
【0080】
[砥粒の調整]
(爆燃法によるアルミナ:砥粒Aの製造)
特開昭60-255602号公報の実施例を参考として爆燃法によって砥粒Aを準備した。なお、以下では、爆燃法により製造された砥粒Aを「VMCアルミナ」と表記する場合がある。得られた砥粒A(VMCアルミナ)の物性を下記の測定方法に従って算出し、下記表1に示した。
【0081】
(焼結粉砕α-アルミナ:砥粒Bの製造)
砥粒Bとして、焼結粉砕α-アルミナを準備した。具体的には、特開2006-36864号公報の段落「0013」に記載のように、水酸化アルミニウムを、か焼温度を1100~1500℃の範囲内とし、か焼時間を1~5時間の範囲内とする条件でか焼した後、20000μm径の酸化アルミニウムポールを用いて粉砕した。このようなか焼し、その後必要に応じて粉砕することによるアルミナの製造方法(粉砕法)によって、砥粒Bとして、粉末状の焼結粉砕α-アルミナを製造した。この砥粒Bの製造においては、下記表1に記載の平均粒子径の値が得られるよう粉砕時間を制御した。得られた砥粒B(焼結粉砕α-アルミナ)の物性を下記の測定方法に従って算出し、下記表1に示した。
【0082】
[結晶相の種類および含有量の分析]
(アルミナに含まれる結晶相の種類)
粉末状の砥粒(アルミナ)について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製 全自動多目的X線回折装置 SmartLab)を用いて粉末X線回折スペクトルを得て、当該粉末X線回折スペクトルのピーク位置よりアルミナに含まれる結晶相の種類を判断した。ここで、当該粉末X線回折スペクトルにおいて、2θ=25.6°の位置に現れるα相(012)面のピークが確認される場合、アルミナが「結晶相としてα相を含む」と判断した。また、2θ=46°の位置に現れるγ相のピークが確認される場合、アルミナが「結晶相としてγ相を含む」と判断した。
【0083】
(α化率)
α化率〔%〕は、粉末X線回折装置を用いて得た粉末X線回折スペクトルにおける、2θ=25.6°の位置に現れるα相(012)面のピーク高さ(I25.6)と、2θ=46°の位置に現れるγ相のピーク高さ(I46)とから、下記式によって算出した。
【0084】
【数4】
【0085】
(主となる結晶相)
α化率が50%超である場合、アルミナ粒子が「主となる結晶相としてα相を含む」と判断した。また、粉末X線回折装置を用いて得た粉末X線回折スペクトルにおける、2θ=25.6°の位置に現れるα相(012)面のピーク高さ(I25.6)と、2θ=46°の位置に現れるγ相のピーク高さ(I46)とから、下記式より算出される値をγ化率〔%〕と定義とする。γ化率が50%超である場合、アルミナが「主となる結晶相としてγ相を含む」と判断した。
【0086】
【数5】
【0087】
[アスペクト比]
粉末状の砥粒(アルミナ)について、走査型電子顕微鏡(SEM)(株式会社日立ハイテクノロジー製 製品名:SU8000)で測定した画像からランダムで100個の砥粒を選び、これらの平均長径および平均短径を測定、算出した。続いて、平均長径および平均短径の値を用いて、下記式に従い、砥粒のアスペクト比を算出した。
【0088】
【数6】
【0089】
[平均二次粒子径]
粉末状の砥粒(アルミナ)について、粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3000II)を用いて測定を行い、平均二次粒子径を評価した。
【0090】
[破壊強度]
粉末状の砥粒(アルミナ)について、以下の測定装置および測定条件によって荷重-押し込み変位線図を得た。そして、急激に変位が増加する点を粒子に大規模破壊が発生した点として、砥粒の破壊強度を下記式に従い算出した。
【0091】
【数7】
【0092】
(測定装置および測定条件)
測定装置:株式会社島津製作所製 微小圧縮試験機 MCTW-500、
使用圧子:ダイヤモンド製平面圧子(φ=50μm)、
負荷速度:7.747mN/s:負荷速度一定方式、
測定雰囲気:室温大気中。
【0093】
各砥粒の特徴(材質および製造方法)と、α化率、主となる結晶相、平均粒子径、アスペクト比、平均長径および平均短径ならびに破壊強度の評価結果とを表1に示す。
【0094】
なお、下記表1において、α化率が<40〔%〕とは、結晶相としてα相を含むものの、そのα化率の値は0%超40%未満であることを表し、α化率が>70〔%〕とは、結晶相としてα相を含み、そのα化率の値は70%超であることを表す。
【0095】
【表1】
【0096】
[研磨用組成物の調製]
(実施例1)
砥粒として上記で得られた砥粒A(平均一次粒子径100nm、平均二次粒子径200nm、平均会合度2)1.0質量%、水溶性高分子として分子量(質量平均分子量)1,000,000のポリアクリル酸(PAA)0.1質量%および塩基性化合物として水酸化カリウム0.2質量%の最終濃度となるよう、前記成分およびイオン交換水を室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。pHメータ(株式会社 堀場製作所製 型番:LAQUA(登録商標))により測定した研磨用組成物のpHは12.0であった。なお、得られた研磨用組成物中の砥粒Aのゼータ電位は、下記方法により測定したところ、-30mVであった。得られた研磨用組成物における砥粒Aについて、下記方法により測定した平均一次粒子径、平均二次粒子径、D90/D50、上記方法により測定したアスペクト比の結果を表2に示した。
【0097】
なお、研磨用組成物中の砥粒Aの粒子径は、上記表1の粉末状のアルミナの粒子径と同様であった。そのため、アスペクト比については、粉末状のアルミナを測定試料として用いたが、研磨用組成物中の砥粒Aを取り出して、同様に測定してもよい。
【0098】
なお、表2中の粒度分布の欄の「ブロード」とはD90/D50が1.3超であることを表し、「シャープ」とはD90/D50が1.3以下であることを表す。さらに、表2中の粒子形状の欄の「球形」とはアスペクト比1.1以下であることを表し、「異形」とはアスペクト比1.1超であることを表す。表3中、「PAA」はポリアクリル酸を表し、「-」はその成分を含まないことを表す。
【0099】
(実施例2、比較例1~3)
表2に記載の砥粒を用いて、水溶性高分子の種類、および塩基性化合物の種類を表3のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2および比較例1~3に係る研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物における砥粒Aについて、下記方法により測定したゼータ電位、平均一次粒子径、平均二次粒子径、D90/D50、上記方法により測定したアスペクト比の結果を表2に示した。なお、研磨用組成物中の砥粒の粒子径は、上記表1の粉末状のアルミナの粒子径と同様であった。得られた研磨用組成物のpHは、下記表3に示す。
【0100】
[評価]
[ゼータ電位測定]
下記で調製した各研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、研磨用組成物中のアルミナのゼータ電位を算出した。
【0101】
[平均一次粒子径の測定]
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリテックス社製の“Flow SorbII 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。
【0102】
[平均二次粒子径の測定]
砥粒の平均二次粒子径は、レーザー光を用いた光散乱法によって測定し、測定機器としてはマイクロトラックMT3000II(マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いた。なお、砥粒の平均二次粒子径の粒度分布において、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の90%に達するときの粒子の直径D90と、微粒子側から積算粒子質量が全粒子質量の50%に達するときの粒子の直径D50との比D90/D50を算出した。
【0103】
[研磨速度]
研磨対象物として、表面に厚さ10000ÅのTEOS膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)と、表面に厚さ3500ÅのSiN膜とを形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、株式会社アドバンテック製)とを準備した。それぞれのシリコンウェーハを60mm×60mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、上記で得られた各研磨用組成物を用いて、基板を以下の研磨条件で研磨した。2種の研磨対象物について、以下の条件で研磨を行った。なお、SiN膜に対する研磨速度の測定は、実施例1および比較例1の研磨用組成物においてのみ実施した。
【0104】
(研磨条件)
・TEOS膜
研磨機としてEJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)を、研磨パッドとして硬質ポリウレタンパッドIC1000(ロームアンドハース社製)を、それぞれ用いた。研磨圧力3.05psi(21.0kPa)、定盤回転数60rpm、キャリア回転数60rpm、研磨用組成物の供給速度100ml/minの条件で、研磨時間は60秒で研磨を実施した。
・SiN膜
研磨機としてEJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)を、研磨パッドとして硬質ポリウレタンパッドIC1000(ロームアンドハース社製)を、それぞれ用いた。研磨圧力4.0psi(27.6kPa)、定盤回転数113rpm、キャリア回転数107rpm、研磨用組成物の供給速度200ml/minの条件で、研磨時間は60秒で研磨を実施した。
【0105】
(研磨速度)
研磨速度(Removal Rate;RR)は、以下の式により計算した。
【0106】
【数8】
【0107】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(大日本スクリーン製造株式会社製、型番:ラムダエースVM-2030)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した。
【0108】
TEOS膜に対する研磨速度の評価結果を下記表3に示す。
【0109】
SiN膜に対する研磨速度は、実施例1の研磨用組成物を用いた場合、376Å/minであり、比較例1の研磨用組成物を用いた場合、260Å/minであった。
【0110】
[スクラッチ数]
スクラッチ数の評価対象となる研磨対象物を準備した。まず、研磨対象物として、表面に厚さ10000ÅのTEOS膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)と、表面に厚さ3500ÅのSiN膜を形成したシリコンウェーハ(200mm、ブランケットウェーハ、アドバンテック株式会社製)とを準備した。この2種の研磨対象物に対して、上記で得られた実施例1および比較例4の研磨用組成物を用いて、以下の研磨条件で研磨した。
【0111】
(スクラッチ数評価用の研磨条件)
研磨装置:アプライド・マテリアルズ製200mm用CMP片面研磨装置 Mirra
パッド:ニッタハース株式会社製 硬質ポリウレタンパッド IC1010
研磨圧力:2.0psi
研磨定盤回転数:83rpm
キャリア回転数:77rpm
研磨用組成物の供給:掛け流し
研磨用組成物供給量:200ml/分
研磨時間:60秒間。
【0112】
研磨後の研磨対象物表面のスクラッチ数は、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置“Surfscan(登録商標)SP2”を用いて、研磨対象物両面の全面(ただし外周2mmは除く)の座標を測定し、測定した座標をReview-SEM(RS-6000、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で全数観察することで、スクラッチ数を測定した。なお、深さが10nm以上100nm未満、幅が5nm以上500nm未満、長さが100μm以上の基板表面の傷をスクラッチとしてカウントし、下記基準にしたがって、スクラッチ評価を行った。
[スクラッチ評価基準]
○…スクラッチの数が10個未満であり、良好
×…スクラッチの数が10個以上であり、不良。
【0113】
スクラッチをカウントした結果、実施例1の研磨用組成物を用いた場合、スクラッチ評価は○であり、比較例3の研磨用組成物を用いた場合、スクラッチ評価は×であった。
【0114】
【表2】
【0115】
【表3】
【0116】
表3に示すように、実施例1、2の研磨用組成物を用いた場合、TEOS膜に対する研磨速度は450Å/minを超え、比較例1、2の研磨用組成物に比べて、TEOS膜を高い研磨速度で研磨できることがわかった。
【0117】
また、比較例3の研磨用組成物は、TEOS膜に対する研磨速度が高いが、スクラッチが形成されやすいことが示された。これは、アスペクト比1.3を超えた異形粒子の砥粒による転がり抑制の結果、スクラッチがより形成されやすくなったのではないかと推測される。
【0118】
一方、実施例1の研磨用組成物では、比較例3の研磨用組成物に比べてスクラッチが抑制されている。これは、実施例1の研磨用組成物で用いた砥粒Aのアスペクト比、粒子径、粒度分布、硬度等の特性がバランスよく研磨速度に対して作用した結果であると考えられる。
【0119】
実施例1と比較例3とを比較すると、研磨用組成物に含有される塩基性無機化合物が、アルカリ金属塩でない場合には、研磨用組成物による研磨速度が著しく低下している。
【0120】
このことから、研磨用組成物が、アルカリ金属塩である塩基性無機化合物と、アニオン性水溶性高分子とを含有することにより、研磨対象物の研磨速度が向上することがわかる。