(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】薬物送達デバイスのためのラチェットシステム
(51)【国際特許分類】
A61M 5/315 20060101AFI20231207BHJP
A61M 5/31 20060101ALI20231207BHJP
A61M 5/24 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
A61M5/315 550N
A61M5/31 520
A61M5/24
(21)【出願番号】P 2020528967
(86)(22)【出願日】2018-11-27
(86)【国際出願番号】 EP2018082640
(87)【国際公開番号】W WO2019102027
(87)【国際公開日】2019-05-31
【審査請求日】2021-11-16
(32)【優先日】2017-11-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・ドナルド・クエンティン・コーリングス
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・ロバート・クープ
(72)【発明者】
【氏名】ジェームズ・アントニー・ウェスト
(72)【発明者】
【氏名】ステファン・フランシス・ギルモア
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル・デーヴィッド・ヒギンス
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ディグビー・トゥーカー
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ブランケ
【審査官】川上 佳
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-517856(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0259006(US,A1)
【文献】特表2008-528071(JP,A)
【文献】特表2000-500680(JP,A)
【文献】特表2016-509903(JP,A)
【文献】特表2017-505177(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/31
A61M 5/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって:
第1の部材(11)、第2の部材(12)、および第3の部材(10、2)を含み、
ここで、第1の部材および第2の部材は、第3の部材に対して回転可能であり、
第1の部材および第2の部材は、死角フォロワ連結によって互いに連結され、死角フォロワ連結は、第1の部材および第2の部材が互いに対して回転可能であるが、制限された角度範
囲内でのみ回転可能になるように構成され、
第2の部材および第3の部材は、切換え可能な連結機構によって互いに回転不能に連結され、切換え可能な連結機構は、2つの異なる状態間で、すなわちロック状態とロック解除状態との間で切換え可能であり、切換え可能な連結機構を介して第2の部材と第3の部材との間で伝達可能な最大トルクは、ロック解除状態よりロック状態で大きく、
切換え可能な連結機構は、第1の部材が第2の部材に対してロック位置にあるとき、切換え可能な連結機構がロック状態になるように構成され、ロック位置は、制限された角度範囲内にあり、ロック位置は、第1の部材がロック位置から開始して、第2の部材に対して、連結機構をロック解除状態に切り換えるように第1の死角だけ第1の回転方向に回転可能になり、連結機構をロック解除状態に切り換えるように第2の死角だけ第1の回転方向とは反対の第2の回転方向に回転可能になるように選択される、前記システム。
【請求項2】
システムは、ロック位置から開始して第1の死角または第2の死角による相対回転が実行された後、第1の部材および第2の部材が、それぞれ第1の回転方向または第2の回転方向において、回転不能にロックされるように構成される、
請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
第2の部材(12)および第3の部材(10)は、機械インターフェース(14)によって互いに連結され、機械インターフェース(14)は、好ましくは単位増分の整数倍のみで、好ましくは安定した相対角度位置を第2の部材と第3の部材との間に画成するように構成され、機械インターフェースは、各相対角度位置で互いに係合する第2の部材(12)の少なくとも1つの第2の部材インターフェース機能(18)および第3の部材の少なくとも1つの第3の部材インターフェース機能(19)によって形成され、それによって死角フォロワ連結は、好ましくは単位増分の2分の1以上である第1の死角および/ま
たは第2の死角を有するようにさらに構成される、
請求項1~2のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項4】
切換え可能な連結機構は、機械インターフェース(14)と、第1の部材(11)に付随するロック機能(21)とを含み、ロック機能は、ロック位置でインターフェース機能(18、19)の係合解除を防止するように配置される、
請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
第1の部材(11)がロック位置にあるとき、ロック機能(21)は、第2の部材(12)を1単位増分だけ第3の部材に対して回転させるには不十分な程度だけ、インターフェース機能間で制限された径方向運動を可能にするように配置される、
請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
第2の部材(12)は、円周方向に分散された複数の第2の部材インターフェース機能(18)を含み、少なくとも2つの隣接する第2の部材インターフェース機能間の角度距離(32)は、1単位増分に対応する角度より大きく、
第3の部材(10)は、円周方向に分散された複数の第3の部材インターフェース機能(19)を含み、少なくとも2つの隣接する第3の部材インターフェース機能間の角度距離(32)は、1単位増分に対応する角度より大きく、システムは、機械インターフェースによって画成される任意の相対角度位置で、1つのみの第3の部材インターフェース機能の角度面が、1つのみの第2の部材インターフェース機能の角度面と相互作用して、第1の回転方向および第2の回転方向の第2および第3の部材間の相対回転運動を防止するように構成される、
請求項3~5のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項7】
第2の部材インターフェース機能(18)および/または第3の部材インターフェース機能(19)は、1つまたはそれ以上のグループにグループ化され、各グループ内で、隣接するインターフェース機能は、1単位増分に対応する角度だけ分離される、
請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
2つの隣接するグループが、2以上の単位増分に対応する角度(32)だけ分離される、
請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
システムは、エネルギー貯蔵部材(7)を含み、第2の部材(12)は、エネルギー貯蔵部材に連結され、第2の部材が第1の回転方向に第3の部材(10)に対して、すなわち増分方向に回転することで、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーが増大し、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーは、第1の回転方向とは反対の第2の回転方向に、すなわち減分方向に、第2の部材を回転させる傾向がある、
請求項1~8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
第2の部材(12)と第3の部材(10)との間の機械インターフェース(14)は、ロック解除状態でエネルギー貯蔵部材から第2の部材へ伝達されるトルクに反作用することが可能である、
請求項3~9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
第1の部材がロック位置から離れる方へ第2の部材に対して回転方向に変位したとき、第1の部材(11)を第2の部材(12)に対してロック位置へ動かす傾向がある力をかけるように構成される付勢機構(13)を含む、
請求項1~10のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項12】
連結機構によって提供される第2の部材(12)と第3の部材(10)との間の回転連結は、第2の部材および第3の部材間の相対的な軸方向運動によって解放することができる、
請求項1~11のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項13】
回転連結が解放されたとき、第2の部材(12)および第3の部材(10)は、たとえばスプライン連結によって、互いに回転不能にロックされ、したがって第2の部材の回転運動が第3の部材へ伝達される、
請求項12に記載のシステム。
【請求項14】
薬物送達デバイス(1)であって、請求項1~13のいずれか1項に記載のシステムと、薬物を含むリザーバとを含む前記薬物送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、システム、たとえば薬物送達デバイスのためのシステムに関する。システムは、ラチェットシステム、特に回転ラチェットシステムとすることができる。さらに、本開示は、好ましくはシステムを含む薬物送達デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
本開示は特に、特に回転連結、たとえばその安定性および/または有効な設計に関して、薬物送達デバイスを改善するのに好適なシステムおよび概念に関する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
したがって、本開示の目的は、改善された薬物送達デバイスの提供を容易にするシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0004】
この目的は、独立請求項の主題によって実現され、有利な実施形態および改良形態は従属請求項に依拠する。しかし、特許請求の範囲だけでなく残りの開示も、本明細書に開示するシステムの有利な構成を提供することができる。特に、本開示のシステムを薬物送達デバイスの分野に制限する必要はなく、他の技術分野にも適用することができる。しかし、たとえば不適切に設計されたシステムの場合に使用者が露出される相当なリスクを考慮すると、薬物送達デバイスの機構の精密な動作、特に薬物の用量の設定および/または送達に伴う動作が最も重要であることから、本開示のシステムは、薬物送達デバイスに特に好適である。
【0005】
一態様は、システム、特に薬物送達デバイスのためのシステムに関する。システムは、ラチェットシステムとすることができる。別の態様は、システムを含む薬物送達デバイスに関する。上記および下記で開示する機能は、異なる実施形態または態様に関連して開示された場合でも、互いに組み合わせることができる。さらに、他の機能とともに開示された機能はまた、互いから独立して開示されているものと見なされる。
【0006】
一実施形態では、システムは、第1の部材、第2の部材、および/または第3の部材を含む。好ましくは、システムは、3つの部材のうちの少なくとも2つを含む。第2および第3の部材は、たとえばラチェットインターフェースによって連結することができる。したがって本明細書では、これらの部材をラチェット部材と呼ぶこともある。ラチェット部材への言及は、第2の部材および/または第3の部材を参照していると見なすこともでき、逆も同様である。第1の部材は、ロック部材または切換え部材とすることができる。この部材の機能は、以下にさらに開示する。
【0007】
一実施形態では、第1の部材および/または第2の部材は、第3の部材に対して、好ましくは1つまたは2つの反対の回転方向に回転可能である。
【0008】
一実施形態では、第2の部材および第3の部材は、連結機構、好ましくは切換え可能な連結機構によって、互いに回転不能に連結され、好ましくは回転不能にロックされる。第2の部材と第3の部材との間の連結機構は、第2の部材と第3の部材との間で、好ましくは両方の回転方向にトルクを伝達するように構成することができる。第2および第3の部材に加えられるトルクが第2の部材と第3の部材との間で伝達可能である最大トルクを超過しない限り、連結機構によって第3および第2の部材を互いに回転不能に連結することができ、特に回転不能にロックすることができる。第2および第3の部材間の回転ロックを実現するために、それぞれのインターフェースまたはラチェット機能、たとえば第2および第3の部材上の歯の角度方向に向けられた面が、当接または係合することができる。たとえば相対運動によってインターフェース機能を係合解除するために必要とされる最小の力は、伝達可能な最大トルクを画成することができる。切換え可能な連結機構は、2つの異なる状態間で、すなわちロック状態とロック解除状態との間で切換え可能とすることができる。第2の部材と第3の部材との間の連結は、第2の部材と第3の部材との間で、好ましくは両方の回転方向に、すなわちロック状態ならびにロック解除状態で、トルクを伝達するように構成することができる。
【0009】
一実施形態では、システムは、切換え可能な連結機構を介して第2の部材と第3の部材との間で伝達可能な最大トルクが、ロック解除状態よりロック状態で大きくなるように構成される。したがってロック状態では、連結はロック解除状態より安定している。ロック状態は、たとえば、連結が連結に作用する機械的振動または他の衝撃力により耐えうるシステムの安全状態とすることができる。したがって、ロック状態では、第2の部材を第3の部材に対して回転させるために、ロック解除状態より大きい、好ましくは相当に大きい力またはトルクが必要とされる。さらに相対回転を完全に防止することができる。ロック状態では、伝達可能な最大の力またはトルクは、第2の部材と第3の部材との間の相対回転を可能にするにはシステムを損傷しなければならないほど大きくすることができる。ロック解除状態では、連結は、たとえば第2の部材を第3の部材に対して回転させるために使用者が加える力によって解放可能である。
【0010】
一実施形態では、第3の部材に対する第2の部材の回転位置または角度位置は、使用者によって用量設定動作で設定されている用量のサイズを示すことができる。設定された薬物用量は、後にデバイスの送達または投薬動作で送達することができる。
【0011】
一実施形態では、第2の部材は、用量インジケーション部材、用量フォロワ、もしくは数字スリーブとすることができ、またはこれらの部材のうちの1つに連結することができる。第2の部材は、用量関連情報、たとえば薬物送達デバイスから投薬されるように設定されている用量のサイズに関する情報を提供する印を備えることができる。
【0012】
一実施形態では、第1の部材および第2の部材は、死角フォロワ連結によって互いに連結される。死角フォロワ連結は、第1の部材および第2の部材が互いに対して回転可能であるが、制限された角度範囲内でのみ、好ましくは一方または両方の回転方向に、角度:350°、180°、90°、45°、25°、20°、10°のうちの1つ以下だけ回転可能になるように便宜的に構成される。便宜的に、第1の部材は、第2の部材に対して回転可能である。第1の部材および第2の部材は、たとえば第2の部材を第3の部材に対して回転させることができる最大角度と比較すると、好ましくは制限された角度範囲内でのみ、他方に対して回転可能である。この角度は、設定可能な最大用量によって画成することができる。最大角度は、360°より大きくすることができ、たとえば720°またはそれ以上とすることができる。
【0013】
一実施形態では、切換え可能な連結機構は、第1の部材が第2の部材に対してロック位置、特に角度ロック位置にあるとき、切換え可能な連結機構がロック状態になるように構成される。ロック位置は、制限された角度範囲内とすることができる。ロック位置は、第1の部材がロック位置から開始して、第2の部材に対して、連結機構をロック解除状態に切り換えるように第1の死角だけ第1の回転方向に回転可能になり、かつ/または連結機構をロック解除状態に切り換えるように第2の死角だけ第1の回転方向とは反対の第2の回転方向に回転可能になるように選択することができる。このようにして、2つの異なる回転不能にロック解除状態を確立することができる。回転方向のうちの一方は、設定用量を増分するために提供される方向、すなわち薬物送達デバイスから送達すべき設定用量を増大させるために提供される方向とすることができ、他方の方向は、設定用量を減分するための方向、すなわち薬物送達デバイスから送達すべき用量のサイズを減少させるための方向とすることができる。第1の部材がそれぞれの死角だけ第2の部材に対して回転したとき、システムは、好ましくはロック解除状態である。ロック解除状態では伝達可能な最大トルクがより低いため、この状態で第2の部材を第3の部材に対して回転させることがより容易になる。
【0014】
一実施形態では、第1の部材は用量設定部材であり、または用量設定部材に連結される。用量設定部材は、薬物送達デバイス内にユーザインターフェースとして提供された部材とすることができる。すなわち、用量設定部材は、使用者が用量を設定するために操作することができる。用量が設定されたとき、設定用量のサイズが所望の目的に対して誤っていることを使用者が発見した場合、用量設定部材を適当な方向に回転させることによって、用量を減少または増大させることができる。
【0015】
一実施形態では、システムは、ロック位置から開始して第1の死角による相対回転が実行された後、第1の部材および第2の部材が第1の回転方向において、回転不能にロックされるように構成される。しかし、第1の部材が第2の部材に対して反対の回転不能にロック位置の方へ回転することは可能である。
【0016】
一実施形態では、システムは、ロック位置から開始して第2の死角による相対回転が実行された後、第2の部材および第1の部材が第2の回転方向において、回転不能にロックされるように構成される。しかし、第1の部材が第2の部材に対して反対の回転不能にロック位置の方へ回転することは可能である。
【0017】
すなわち、死角フォロワ連結は、特定の回転方向への死角による回転を可能にし、この回転が実行された後、第1および第2の部材がその特定の方向において、回転不能にロックされる連結を提供することができる。したがって、第1の部材がロック位置から離れる方へ回転するとき、第1の部材は、まず第2の部材に対してその方向に回転することができ、その後、第1の部材は第2の部材を伴って回転し、したがって第2の部材が第1の部材と同じ方向に第3の部材に対して回転する。
【0018】
一実施形態では、第1および第2の死角は異なり、または等しい。
【0019】
一実施形態では、第2の部材および第3の部材は、機械インターフェース、たとえばラチェットインターフェースによって互いに連結される。機械インターフェースは、好ましくは安定した相対角度位置を第2の部材および第3の部材間に画成するように構成することができる。相対角度位置は、好ましくは単位増分の整数倍だけ、第2の部材を第3の部材に対して回転させることができるように画成することができる。単位増分は、便宜的に一定である。単位増分は、機械インターフェースの設計によって設定することができる。したがって、隣接する相対角度位置を得るために、初期角度位置から開始して、少なくとも単位増分に対応する角度だけ、第2の部材を第3の部材に対して回転させなければならない。そうでない場合、回転が終了した後の相対位置が安定せず、第2の部材は便宜的に初期位置へ戻される。
【0020】
一実施形態では、第2および第3の部材間の機械インターフェースは、特にインターフェースによって画成される各相対角度位置で、第2の部材上のインターフェース機能、たとえば1つまたはそれ以上の歯が、第3の部材のインターフェース機能、たとえば1つまたはそれ以上の歯と係合および/または協働することによって形成することができる。単位増分は、同じ部材上の2つの隣接するインターフェース機能間の距離によって画成することができる。単位増分は、システムによって設定可能である最小用量を画成することができる。特に、機械インターフェースは、各相対角度位置で互いに係合する第2の部材の少なくとも1つのインターフェース機能および第3の部材の少なくとも1つのインターフェース機能によって形成することができる。
【0021】
一実施形態では、それぞれのインターフェース機能は、ラチェット機能である。したがって、インターフェース機能に関して本明細書に上記および下記で開示する機能は、ラチェット機能にも当てはまり、逆も同様である。
【0022】
一実施形態では、機械インターフェースは、径方向インターフェースである。特に、第2の部材を第3の部材に対して回転させるために、または逆も同様に、インターフェース機能のうちの一方がインターフェース機能のうちの他方に対して径方向に変位することが便宜的に必要とされる。
【0023】
一実施形態では、第1の死角および/または第2の死角は、1単位増分に対応する角度より小さい。したがって、機構をロック状態からロック解除状態へ切り換えるために、使用者は、第1の部材を1単位増分未満だけ回転させるだけでよい。したがって、使用者は、使用者が開始した第1の部材の回転に第2の部材がすぐに追従しないことにほとんど気づかない。
【0024】
一実施形態では、1単位増分に対応する角度は、30°未満である。1単位増分に対応する角度は、4°より大きく、好ましくは10°より大きくすることができる。たとえば、1単位増分に対応する角度は、20°とすることができる。
【0025】
一実施形態では、機械インターフェースは、便宜的に一方または両方の回転方向において、第2および第3の部材を互いに回転不能にロックする。機械ロックの強度、すなわち第2および第3の部材間で伝達することができるトルクは、第2の部材に対する第1の部材の位置に応じて切り換えることができる。トルクは、ロック解除状態よりロック状態で大きくすることができる。
【0026】
一実施形態では、切換え可能な連結機構は、第1の部材に付随するまたは第1の部材上に設けられた機械インターフェースおよびロック機能を含む。ロック機能は、第2および第3の部材をロック位置で回転不能にロックするインターフェース機能の係合解除を防止するように配置することができる。第1の部材が死角だけ回転しているとき、すなわちロック解除状態で、好ましくはトルクがロック解除状態で伝達可能な最大トルクを超過した場合のみ、インターフェース機能の係合解除が可能になる。
【0027】
一実施形態では、第1の部材がロック位置にあるとき、ロック機能は、便宜的にインターフェース機能の係合解除が防止される程度まで、機械インターフェースを形成するインターフェース機能間の相対運動、好ましくは径方向の相対運動を制限または防止するように配置される。したがって、ロック位置にあるとき、第2および第3の部材は、第2の部材および第3の部材を互いに回転不能にロックするために必要とされる相対位置で確実に維持することができる。
【0028】
一実施形態では、ロック位置にあるとき、ロック機能は、第2の部材を1単位増分だけ隣接する角度位置へ回転させるには不十分な程度だけ、インターフェース機能間で制限されたたとえば径方向の運動を可能にするように配置することができる。したがって、ロック機能は、システム内に存在するいかなる回転またはトルク負荷も受けない。負荷は、機械インターフェースによって完全に反作用することができる。制限された径方向運動は、ロック機能と第2の部材との間の隙間によって画成することができる。
【0029】
一実施形態では、機械インターフェースは、第2および第3の部材間に安定した相対角度位置を提供するのに十分なほど強く、システムの動作中にたとえば薬物送達デバイス内で発生する内力のすべてに反作用することができる。しかし、薬物送達デバイスが床に落下したときに発生しうる衝撃力のようなさらなる外力、または類似の不規則な力が生じた場合に備えて、インターフェース機能の係合解除を防止するようにロック機能を配置することができる。
【0030】
一実施形態では、システムは、ばね、たとえばねじりばねのようなエネルギー貯蔵部材を含む。第2の部材は、エネルギー貯蔵部材に連結することができる。第2の部材が第1の回転方向に第3の部材に対して、たとえば増分方向に回転することで、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーを増大させることができる。エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーは、第1の回転方向とは反対の第2の回転方向に、たとえば減分方向に、第2の部材を回転させる傾向がある。言い換えると、システムは、巻上げ式システムとすることができ、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーは、第2の部材を第1の方向に回転させることによって増大する。このエネルギーを使用して、たとえば機械インターフェースを解放することによって第2の部材が解放されたとき、第2の部材の第2の回転方向、たとえば減分方向の回転運動を駆動することができる。貯蔵されているエネルギーを使用して、たとえば薬物送達デバイスの投薬運動を駆動することができる。貯蔵されているエネルギーを制御された形で減少させるべきである場合、第1の部材を介して第2の部材を第3の部材に対して減分方向に回転させることができる。
【0031】
一実施形態では、第2の部材と第3の部材との間の機械インターフェースは、ロック解除状態でエネルギー貯蔵部材から第2の部材へ伝達されるトルクに反作用することが可能である。したがって、たとえば使用者によって第1の部材を介して第2の部材へ伝達されるトルクが、第2の部材を第3の部材に対して回転させることを支援しない限り、第1の部材の位置にかかわらず、第2の部材の回転を機械インターフェースによって防止することができる。
【0032】
言い換えれば、第2の部材と第3の部材との間に確立された機械インターフェースは、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーによって提供され、第2の部材を第3の部材に対して回転させる傾向があるトルクに耐えるのに十分なほど便宜的に強い。しかし、すぐに明らかになるように、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーが大きければ大きいほど、第2および第3の部材間のインターフェースの安定性が低下し、したがってインターフェースを解放して第2の部材を第3の部材に対して減分方向に回転させるために必要とされるさらなる力またはトルクが低減される。したがって、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーにかかわらず、たとえば外部の衝撃力を受けた場合の機械インターフェースの意図しない解放を防止する切換え可能な連結機構を提供することが有利である。たとえば、薬物送達デバイス内に用量が設定されており、デバイスが偶発的に床に落下した場合、そのような切換え可能な連結機構のないデバイスは、少なくとも事前に設定されている用量の一部または用量の全部を送達する可能性が高くなるはずである。切換え可能な連結機構を提供することによって、これを回避することができる。
【0033】
一実施形態では、機械インターフェースを介して第2および第3の部材間で伝達可能な最大トルクは、特にロック解除状態で、異なる回転方向に異なってもよい。したがって、機械インターフェースは、非対称とすることができる。便宜的に、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーが第2の部材を回転させる傾向があることから、最大トルクはその方向でより大きくなる。これは、非対称の機械インターフェースによって、たとえば異なる傾斜のフランクまたは角度面を有するラチェット機能、たとえば歯によって実現することができる。別法として、機械インターフェースは対称とすることができ、すなわち伝達可能な最大トルクを両方の回転方向で等しくすることができる。
【0034】
一実施形態では、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーは、第3の部材に対する第2の部材の減分運動または回転を支援する。すなわち、使用者にとって、用量の増分より用量の減分がより容易であると考えられる。これは、機械インターフェース自体が対称である場合、またはさらには非対称である場合に当てはまる。
【0035】
一実施形態では、システムは、付勢機構を含む。付勢機構は、特に第1の部材がロック部材から離れる方へ第1の回転方向および/または第2の回転方向のように変位したとき、第1の部材をロック位置へ第2の部材に対して維持しまたは動かす傾向がある力をかけるように構成することができる。したがって、ロック位置は、第1の部材が第2の部材に対して有する定位置とすることができる。したがって、第2の部材を第3の部材に対していずれかの回転方向に回転させることのためのようにシステムが使用者によって操作されない限り、システムはロック状態にある。付勢機構は、第1の部材が第2の部材に対して回転しているとき、第1の部材をロック位置へ第2の部材に対して維持しまたは動かす傾向がある1つまたは複数のばねによって実現することができる。
【0036】
一実施形態では、システムは、好ましくは第2の部材および第3の部材間のたとえば軸方向の相対運動によって、第2の部材と第3の部材と間の切換え可能な連結機構および/または機械インターフェースによって提供される回転連結を解放することができるように構成される。この動きは、たとえば薬物送達デバイス内の投薬動作を開始またはトリガするために必要とされる動きとすることができ、したがって事前にダイヤル設定または設定された薬物の設定用量は、たとえばエネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーを使用することによって投薬される。連結またはインターフェースが解放されると、第2の部材は自由に回転することができる。
【0037】
一実施形態では、回転連結が解放されたとき、第2および第3の部材は、たとえばスプライン連結によって互いに回転不能にロックされ、したがって第2の部材の回転運動が第3の部材へ伝達される。したがって、軸方向運動によって、第3の部材は、システムまたは薬物送達デバイスの第4の部材、たとえばハウジングから回転可能にデカップリングすることができ、第2の部材に回転不能にロックすることができる。したがって、第3の部材は、第1の軸方向構成および第2の軸方向構成で、たとえば第3の部材が第2の部材および/または第4の部材に対して軸方向に変位したとき、第2の部材を回転不能にロックする機能を有し、第2の部材によって、たとえばエネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーを介して駆動される部材にすることができる。
【0038】
一実施形態では、第2の部材(第1のラチェット部材)は、円周方向または角度方向に分散された複数の第2の部材インターフェース機能(第1のラチェット機能)を含み、好ましくは、少なくとも2つの隣接する第2の部材インターフェース機能間の角度距離は、1単位増分に対応する角度より大きい。追加または別法として、第3の部材(第2のラチェット部材)は、円周方向または角度方向に分散された複数の第3の部材インターフェース機能(第2のラチェット機能)を含み、好ましくは、少なくとも2つの隣接する第3の部材インターフェース機能間の角度距離は、1単位増分に対応する角度より大きい。システムは、好ましくは、機械インターフェースによって画成される任意の相対角度位置で、少なくとも1つ、好ましくは1つのみの第3の部材インターフェース機能の角度面が、少なくとも1つ、好ましくは1つのみの第2の部材インターフェース機能の角度面と相互作用して、特に第1の回転方向および/または第2の回転方向の第2および第3の部材間の相対回転運動を防止するように構成される。第1の回転方向を向いている第2の部材インターフェース機能の1つの角度面は、第1の方向とは反対の第2の回転方向を向いている第3の部材インターフェース機能の1つの角度面と相互作用することができる。第2の回転方向を向いている第2の部材インターフェース機能の別の角度面は、第1の回転方向を向いている第3の部材インターフェース機能の1つの角度面と相互作用することができる。これらの角度面は、同じ第2の部材インターフェース機能または異なる第2のインターフェース機能の一部とすることができる。
【0039】
したがって、それぞれのインターフェース機能は、少なくとも1つまたは2つ以上のセクションを有する(規則的または不規則な)パターンで、角度または円周方向に分散させることができ、同じ部材上の隣接するインターフェース機能は、1単位増分に対応する角度より大きい角度分離または角度距離を有し、機械インターフェースはそれでもなお、1単位増分の整数倍の部材間の相対角度位置を画成することができる。より大きい分離を有する2つの隣接するインターフェース機能間のセクションは、たとえば薬物送達デバイスの組立て中に追加の要素の機能を案内することができる通過領域を提供することができる。
【0040】
一実施形態では、それぞれのインターフェース機能は径方向に向けられる。言い換えれば、インターフェース機能は、径方向の自由端を有することができる。
【0041】
一実施形態では、角度面または表面によってインターフェース機能をそれぞれの角度または回転方向に区切ることができる。
【0042】
一実施形態では、第1の回転または角度方向に第2の部材インターフェース機能を区切る角度面はすべて、第2の部材の角度面の第1のセットを形成する。第1の回転または角度方向とは反対の第2の回転または角度方向に第2の部材インターフェース機能を区切る角度面はすべて、第2の部材の角度面の第2のセットを形成することができる。第1および第2のセットは重複しない。
【0043】
一実施形態では、第1の回転または角度方向に第3の部材インターフェース機能を区切る角度面はすべて、第3の部材の角度面の第1のセットを形成する。第1の回転または角度方向とは反対の第2の回転または角度方向に第3の部材インターフェース機能を区切る角度面はすべて、第3の部材の角度面の第2のセットを形成することができる。第1および第2のセットは重複しない。
【0044】
一実施形態では、機械インターフェースによって画成される各相対角度位置で、第2の部材の角度面の第1のセットのうち、角度面のサブセット、すなわち真のサブセットのみが、第3の部材の角度面の第2のセットのうち、角度面のサブセット、すなわち真のサブセットのみと協働するように配置される。それぞれのサブセットは、1つの要素のみを有することができる。したがって、各位置で、1対の角度面のみが、一方の回転方向に機械インターフェースを形成することができる。
【0045】
一実施形態では、機械インターフェースによって画成される各相対角度位置で、第2の部材の角度面の第2のセットのうち、角度面のサブセット、すなわち真のサブセットのみが、第3の部材の角度面の第1のセットのうち、角度面のサブセット、すなわち真のサブセットのみと協働するように配置される。それぞれのサブセットは、1つの要素のみを有することができる。したがって、各位置で、1対の角度面のみが、他方の回転方向に機械インターフェースを形成することができる。
【0046】
したがって要約すると、各回転方向で、1対の角度面のみが、機械インターフェースを形成することができる。
【0047】
互いに協働するように配置された異なるセットの角度面は当接することができ、当接するように配置することができ、かつ/または1単位増分未満、たとえば0.1単位増分未満に対応する角度距離をあけて配置することができる。
【0048】
一実施形態では、第2の部材インターフェース機能および/または第3の部材インターフェース機能は、1つまたはそれ以上のグループにグループ化され、各グループ内で、隣接するインターフェース機能は、1単位増分に対応する角度だけ分離される。第2の部材インターフェース機能および第3の部材インターフェース機能のうちの一方のみがグループ化されることが好ましい。他方のインターフェース機能は、1つまたはそれ以上のグループ内のインターフェース機能に係合するように適用された個々のインターフェース機能とすることができる。2つ以上のグループがある場合、グループの角度方向の延長は便宜的に一定である。グループは、角度または円周方向に均一に分散させることができる。
【0049】
一実施形態では、機械インターフェースによって画成される各相対角度位置で、異なる角度または回転方向を向き、1つまたはそれ以上のグループと相互作用するように構成されたインターフェース機能のうちの1つを区切る少なくとも2つまたは厳密に2つの角度面が、1つもしくはそれ以上のグループの角度方向外側に配置され、かつ/または1つもしくはそれ以上のグループのインターフェース機能に係合しない。2つの角度面は、同じ相互作用機能または異なる相互作用機能の一部とすることができる。1つの相対位置で、2つの角度面は、同じ相互作用機能の一部とすることができ、または同じ相互作用機能を区切ることができる。別の相対角度位置で、2つの角度面は、異なる相互作用機能の一部とすることができ、または異なる相互作用機能を区切ることができる。
【0050】
一実施形態では、機械インターフェースによって画成される各相対角度位置で、異なる角度または回転方向を向き、1つまたはそれ以上のグループと相互作用するように構成されたインターフェース機能のうちの1つを区切る少なくとも2つまたは厳密に2つの角度面が、1つまたはそれ以上のグループのインターフェース機能に係合する。2つの角度面は、同じ相互作用機能または異なる相互作用機能の一部とすることができる。1つの相対位置で、2つの角度面は、同じ相互作用機能の一部とすることができ、または同じ相互作用機能を区切ることができる。別の相対角度位置で、2つの角度面は、異なる相互作用機能の一部とすることができ、または異なる相互作用機能を区切ることができる。
【0051】
一実施形態では、2つの隣接するグループが、2つ以上の単位増分に対応する角度だけ分離される。2つの好ましくは任意の隣接するグループ間の距離は、好ましくは、1単位増分の整数倍によって画成される。これは、グループの分離にかかわらず、機械インターフェースがそれでもなお単位増分の整数倍で角度位置を画成することを確実にするのに役立つ。
【0052】
一実施形態では、2つ以上のグループがある場合、グループの角度方向の延長は等しく、かつ/または2つの隣接するグループ間の距離は等しい。グループは、同様に形成することができ、かつ/または均一に分散させることができる。
【0053】
一実施形態では、すべてのグループの角度方向の延長の和は、180°以上である。
【0054】
一実施形態では、グループ間のすべての間隙の角度方向の延長の和は、180°以下である。
【0055】
一実施形態では、1つまたはそれ以上のグループ内のインターフェース機能と協働するように適用された2つの好ましくは任意の隣接するインターフェース機能間の角度距離は、グループのうちの1つの角度方向の延長以上である。
【0056】
一実施形態では、1つまたはそれ以上のグループ内のインターフェース機能と協働するように適用された2つの好ましくは任意の隣接するインターフェース機能間の最小角度距離は、グループのうちの1つの角度方向の延長、好ましくは最も小さい角度方向の延長によって画成され、たとえばそれに等しい。
【0057】
第3の部材と第2の部材との間に切換え可能な連結およびラチェットシステムを有するシステムは、互いから独立して開示されているが、当然ながら組み合わせて適用することもできることに留意されたい。
【0058】
本明細書では、「角度方向」(または方位角)、「軸方向」、および「径方向」という用語は、システムの画成された軸、たとえば主長手方向軸、第1、第2、および/もしくは第3の部材が回転する回転軸、ならびに/または第1、第2、および/もしくは第3の部材がたとえば同心円状に配列された軸を参照すると理解することができる。
【0059】
一実施形態では、薬物送達デバイスは、本明細書に開示するシステムを含む。加えて、デバイスは、デバイスから投薬すべき液体薬物を保持するリザーバを含むことができる。デバイスは、投薬運動を駆動するように配置されたピストンロッドを含むことができる。システムの第1の部材は、用量設定または補正部材とすることができる。第2の部材は、用量インジケーション部材または用量フォロワとすることができる。第3の部材は、薬物送達デバイスのハウジング、好ましくは外部ハウジング、ハウジングに恒久的に回転不能にロックされた薬物送達デバイスの部材、または用量設定および/もしくは補正中はハウジングに対して回転不能にロックされるが用量送達中はハウジングに対して回転可能である薬物送達デバイスの部材、たとえば駆動部材とすることができる。駆動部材は、好ましくは直接、薬物送達デバイスのピストンロッドに連結することができる。駆動部材は、用量インジケーション部材または用量フォロワを介してエネルギー貯蔵部材から駆動部材へ駆動力を伝達するために、用量送達中に第2の部材に回転不能にロックすることができる。回転ロックは、機械インターフェースが解放されたときに確立することができる。
【0060】
特に有利な実施形態では、システムは、第1の部材、第2の部材、および第3の部材を含み、ここで、第1の部材および第2の部材は、第3の部材に対して回転可能であり、第1の部材および第2の部材は、死角フォロワ連結によって互いに連結され、死角フォロワ連結は、第1の部材および第2の部材が互いに対して回転可能であるが、制限された角度範囲内でのみ回転可能になるように構成され、第2の部材および第3の部材は、切換え可能な連結機構によって互いに回転不能に連結され、切換え可能な連結機構は、2つの異なる状態間で、すなわちロック状態とロック解除状態との間で切換え可能であり、切換え可能な連結機構を介して第2の部材と第3の部材との間で伝達可能な最大トルクは、ロック解除状態よりロック状態で大きく、切換え可能な連結機構は、第1の部材が第2の部材に対してロック位置にあるとき、切換え可能な連結機構がロック状態になるように構成され、ロック位置は、制限された角度範囲内にあり、ロック位置は、第1の部材がロック位置から開始して、第2の部材に対して、連結機構をロック解除状態に切り換えるように第1の死角だけ第1の回転方向に回転可能になり、連結機構をロック解除状態に切り換えるように第2の死角だけ第1の回転方向とは反対の第2の回転方向になるように選択される。
【0061】
上記で詳述したように、このシステムは、改善された使用者の安全を有する薬物送達デバイスの提供を容易にする。
【0062】
特に有利な実施形態では、ラチェットシステムは、互いに対して、特に回転軸に対して回転可能である第1のラチェット部材および第2のラチェット部材を含み、ラチェット部材は、ラチェットインターフェースによって連結され、ラチェットインターフェースは、ラチェット部材のうちの一方に設けられた第1のラチェット機能およびラチェット部材のうちの他方に設けられた第2のラチェット機能の係合によって形成され、ラチェットインターフェースは、単位増分の整数倍で2つのラチェット部材間に安定した相対角度位置を画成するように構成され、2つの隣接する第1のラチェット機能は、1単位増分に対応する角度より大きい角度だけ分離され、2つの隣接する第2のラチェット機能は、1単位増分に対応する角度より大きい角度だけ分離される。好ましくは、すべての第1のラチェット機能のうちの1つの角度面のみが、すべての第2のラチェット機能のうちの1つの角度面のみと協働して、各安定位置内に安定位置を画成するように配置される。これは、好ましくは、両方の反対の回転方向に当てはまる。角度を分離する隣接するラチェット機能は、たとえば2単位増分または3以上の単位増分に対応する単位増分だけ画成することができる。
【0063】
より大きい距離を有する領域では、たとえば薬物送達デバイスの組立て中、ラチェット機能を有する領域にわたって他の要素の機能を軸方向に案内することができ、それによってラチェット機能が設けられていない領域を通過することができる。
【0064】
本開示のさらなる機能、利点、および有利な改良形態は、図面とともに例示的な実施形態の以下の説明から明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【
図1】薬物送達デバイスの一実施形態の概略断面図である。
【
図2】システム、特に切換え可能な連結機構を含むシステムの一実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。
【
図3】システム、特に切換え可能な連結機構を含むシステムの一実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。
【
図4】システム、特に切換え可能な連結機構を含むシステムの一実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。
【
図5】システム、特に切換え可能な連結機構を含むシステムの一実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。
【
図6】システム、特に切換え可能な連結機構を含むシステムの一実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。
【
図7】システム、特に切換え可能な連結機構を含むシステムの一実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。
【
図8】システム、特に切換え可能な連結機構を含むシステムの一実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。
【
図9】
図2~
図8にまたは別個に示す実装形態でも使用することができる、システム、特にラチェットシステムの別の実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。ここで、
図10ならびに
図11および
図12は、本実装形態の異なる実施形態を示す。
【
図10】
図2~
図8にまたは別個に示す実装形態でも使用することができる、システム、特にラチェットシステムの別の実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。ここで、
図10ならびに
図11および
図12は、本実装形態の異なる実施形態を示す。
【
図11】
図2~
図8にまたは別個に示す実装形態でも使用することができる、システム、特にラチェットシステムの別の実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。ここで、
図10ならびに
図11および
図12は、本実装形態の異なる実施形態を示す。
【
図12】
図2~
図8にまたは別個に示す実装形態でも使用することができる、システム、特にラチェットシステムの別の実装形態を様々な異なる視点に基づいて概略的に示す図である。ここで、
図10ならびに
図11および
図12は、本実装形態の異なる実施形態を示す。
【発明を実施するための形態】
【0066】
図面では、同一の要素、同一に作用する要素、および同じ種類の要素は、同じ参照番号を使用して識別することができる。
【0067】
図1は、概略断面図に基づいて薬物送達デバイス1の一実施形態を示す。薬物送達デバイス1は、ペン型デバイスおよび/または注射デバイスとすることができる。薬物送達デバイスは、好ましくは針を介して、薬物を保持するリザーバから薬物を投薬するように便宜的に構成される。たとえば、薬物送達デバイスは、針を介して薬物を患者へ皮下送達するように構成することができる。
【0068】
図示の実施形態では、薬物送達デバイスは、ハウジング2を含む。ハウジング2は、万年筆の形状に類似している略円筒形の形状を有することができる。ハウジング2は、薬物、好ましくは液体薬物を保持するリザーバ3、たとえばガラスカートリッジのような剛性カートリッジなどのカートリッジを保持する。図示のハウジング2は、単一の部材からなる構造である。しかし、ハウジングは、互いに解放可能または恒久的に固定された別個の部材を含むことができることがすぐに明らかである。したがって、複数の部材からなるハウジングも同様に可能である。
【0069】
本明細書で使用する用語「薬物」は、好ましくは少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態において、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、および/または、ペプチド、タンパク質、多糖類、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモンもしくはオリゴヌクレオチド、または上述の薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病、または糖尿病性網膜症などの糖尿病関連の合併症、深部静脈血栓塞栓症または肺血栓塞栓症などの血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、狭心症、心筋梗塞、がん、黄斑変性症、炎症、枯草熱、アテローム性動脈硬化症および/または関節リウマチの処置および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病性網膜症などの糖尿病に関連する合併症の処置および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態において、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリン類似体もしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)もしくはその類似体もしくは誘導体、またはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4もしくはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4の類似体もしくは誘導体を含む。
【0070】
インスリン類似体は、たとえば、Gly(A21),Arg(B31),Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3),Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28),Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;B28位におけるプロリンがAsp、Lys、Leu、Val、またはAlaで置き換えられており、B29位において、LysがProで置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリン、およびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0071】
インスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリン、およびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0072】
エキセンジン-4は、たとえば、H-His-Gly-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Leu-Ser-Lys-Gln-Met-Glu-Glu-Glu-Ala-Val-Arg-Leu-Phe-Ile-Glu-Trp-Leu-Lys-Asn-Gly-Gly-Pro-Ser-Ser-Gly-Ala-Pro-Pro-Pro-Ser-NH2配列のペプチドであるエキセンジン-4(1-39)を意味する。
【0073】
エキセンジン-4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H-(Lys)4-desPro36,desPro37エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)5-desPro36,desPro37エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン-(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39);または
desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン-(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
(ここで、基-Lys6-NH2が、エキセンジン-4誘導体のC-末端に結合していてもよい);
【0074】
または、以下の配列のエキセンジン-4誘導体:
desPro36エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2(AVE0010)、
H-(Lys)6-desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
H-desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
desMet(O)14,Asp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2;
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Lys6-desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
H-desAsp28,Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(S1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン-4誘導体の薬学的に許容される塩もしくは溶媒和物
から選択される。
【0075】
ホルモンは、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(ソマトロピン)、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、ロイプロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンなどの、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたは調節性活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニストである。
【0076】
多糖類としては、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリン、もしくは超低分子量ヘパリン、またはそれらの誘導体、または上述の多糖類の硫酸化形態、たとえば、ポリ硫酸化形態、および/または、薬学的に許容されるそれらの塩がある。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容される塩の例としては、エノキサパリンナトリウムがある。
【0077】
抗体は、基本構造を共有する免疫グロブリンとしても知られている球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位は免疫グロブリン(Ig)単量体(1つのIg単位のみを含む)であり、分泌型抗体はまた、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0078】
Ig単量体は、4つのポリペプチド鎖、すなわち、システイン残基間のジスルフィド結合によって結合された2つの同一の重鎖および2本の同一の軽鎖から構成される「Y」字型の分子である。それぞれの重鎖は約440アミノ酸長であり、それぞれの軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化させる鎖内ジスルフィド結合を含む。それぞれの鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインから構成される。これらのドメインは約70~110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に基づいて異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的な免疫グロブリン折り畳み構造を有する。
【0079】
α、δ、ε、γおよびμで表される5種類の哺乳類Ig重鎖が存在する。存在する重鎖の種類により抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgGおよびIgM抗体中に見出される。
【0080】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(CH)と可変領域(VH)を有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、α、およびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つの免疫グロブリン・ドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0081】
哺乳類では、λおよびκで表される2種類の免疫グロブリン軽鎖がある。軽鎖は2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211~217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を有し、哺乳類の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0082】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(HV)に3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0083】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化は、Igプロトタイプを3つのフラグメントに切断する。1つの完全なL鎖および約半分のH鎖をそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズが同等であるが、鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR結合部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH-H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合は、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域は、縮合して単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することもできる。
【0084】
薬学的に許容される塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩としては、たとえば、HClまたはHBr塩がある。塩基性塩は、たとえば、アルカリまたはアルカリ土類、たとえば、Na+、またはK+、またはCa2+から選択されるカチオン、または、アンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)(式中、R1~R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1~C6アルキル基、場合により置換されたC2~C6アルケニル基、場合により置換されたC6~C10アリール基、または場合により置換されたC6~C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容される塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0085】
薬学的に許容される溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0086】
リザーバ3は、遠位端および近位端を有する。薬物は、リザーバ3の遠位端を介してデバイス1から出る。近位端側では、リザーバは、可動の栓またはストッパ5によって封止閉鎖することができる。栓5がリザーバの開端(遠位端)の方へ動かされたとき、たとえばリザーバ3の開端を閉鎖することができる封止部材またはセプタム6を針が穿孔することによって、リザーバの内部と環境との間に流体連通が確立されているという条件で、薬物4はリザーバ3から投薬される。リザーバ3は、ハウジングのリザーバ保持セクション内で保持される。ハウジング2が複数の部材からなる構造である場合、リザーバ保持セクションは、ハウジングの残り部分に恒久的または解放可能に取り付けることができる。リザーバ保持セクションまたは部材がハウジングの残り部分に解放可能に固定されている場合、薬物の最終用量がリザーバから送達された後、リザーバを新しいリザーバに交換することができる。リザーバを交換するために、保持部材をハウジングから取り外すことができ、リザーバを保持部材またはホルダから除去して新しいリザーバに交換することができ、新しいリザーバは保持部材内へ導入され、その後、保持部材がハウジングの残り部分に連結される。
【0087】
さらに、ハウジング2内で、用量設定および/または用量送達機構が保持される。この機構は、次に送達することができる用量のサイズを設定するために便宜的に設けられる。便宜的に、機構は、設定された後の用量を再び変更することができ、たとえば増大または減少させることができるように設計される。したがって、用量設定機構内で用量補正機能を実施することができる。駆動機構は、エネルギー貯蔵部材7内に貯蔵されているエネルギーを利用する駆動機構とすることができる。駆動機構を介して、デバイス内で栓5へ力を伝達することができる。力は、エネルギー貯蔵部材から解放されたエネルギーから生じることができる。
【0088】
本明細書では、「遠位」という用語は、デバイスの要素またはデバイスのうち、デバイスの投薬端の最も近くに配置される端部を指す。遠位方向は、投薬端に向かう方向である。遠位とは反対に、「近位」という用語は、デバイスの要素またはデバイスのうち、デバイスの投薬端から最も遠くに配置される端部を指す。近位方向は、投薬端から離れる方向である。
【0089】
エネルギー貯蔵部材7は、ばね、たとえばねじりばねとすることができる。リザーバ3から薬物4を投薬するために、エネルギー貯蔵部材7内に貯蔵されているエネルギーを解放することができる。用量設定中、設定用量を投薬するためのエネルギーは、たとえば使用者によって、貯蔵部材7内に貯蔵することができる。このエネルギーを使用して、ハウジング2内で遠位方向に可動に保持されている駆動機構のピストンロッド8を駆動することができる。それによって、ピストンロッド8は、リザーバ内で栓5を遠位に前進させることができる。図示の実施形態では、ピストンロッド8は、薬物送達デバイスのナットセクションまたは部材9にねじ係合される。ナットセクション9はハウジング2の一体セクションとして示されているが、この目的で別個の部材を設けることもでき、別個の部材は、少なくとも用量設定および用量投薬中、好ましくはハウジングに対して回転不能に、および軸方向にロックされる。ねじ係合のために、ピストンロッド8がハウジング2に対して回転する結果、ピストンロッドがハウジングに対して軸方向に変位する。一回転方向に回転する結果、ピストンロッド8は遠位に動くことができ、反対の方向に回転する結果、近位に動くことができる。
【0090】
薬物送達デバイス1は、駆動部材10をさらに含む。駆動部材10は、ピストンロッドに連結され、好ましくは直接連結される。例示的な実施形態では、駆動部材10は、スプライン連結または係合を介してピストンロッドに連結される。すなわち、駆動部材10およびピストンロッド8は、同速度で回転可能になるようにのみ連結される。駆動部材10とピストンロッド8との間の相対回転は可能でない。したがって、駆動部材10が回転する結果、ピストンロッドも回転し、したがってその結果、栓5が遠位方向に変位する。当然ながら、ピストンロッドを駆動するための他の構成も可能である。たとえば、ピストンロッドは、ハウジングに対してスプライン連結することができ、駆動部材にねじ係合することができる。
【0091】
用量の設定、好ましくは設定用量の補正のために、薬物送達デバイス1は、用量設定部材11を含む。用量設定部材11は、ハウジング2に対して回転可能になるように設計される。用量設定部材11は、用量設定中および/または近位方向に、ハウジングに対して軸方向に束縛することができる。遠位方向では、たとえば投薬動作をトリガまたは開始するために、制限された軸方向運動を可能にすることができる。用量設定部材11が一方向に回転することで、便宜的に単位増分の倍数でのみ用量を増大させることができる増分式で、送達予定の用量のサイズを増大させることができる。反対の方向に回転することで、事前に設定されているゼロ以外の用量から開始して、送達予定の用量のサイズを減少させることができる。駆動部材10は、用量設定中にハウジングに対して便宜的に回転不能にロックされる。このようにして、用量設定中のピストンロッド8の動きを回避することができる。用量を送達するために、好ましくはハウジング2に対する駆動部材の軸方向運動によって、回転ロックを解放することができる。
【0092】
デバイス1は、ボタン25をさらに含む。ボタン25は、好ましくは用量設定部材11に軸方向に固定されており、ボタン25と用量設定部材11との間の相対回転は可能である。ボタン25は、ボタン25をたとえば遠位に押下することによって、投薬動作を開始するためのユーザインターフェースを形成することができる。用量設定のために、使用者は、用量設定部材を側面で把持し、所望のサイズの用量が設定されるまで用量設定部材を回転させることができる。
【0093】
デバイスは、可動部材12または用量フォロワをさらに含む。可動部材12は、好ましくは、エネルギー貯蔵部材7に連結されており、ハウジングに対して回転可能である。一方向、好ましくは設定用量のサイズを増大させる方向、すなわち増分方向に回転すると、貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーを増大させる。反対の方向、好ましくは設定用量のサイズを減少させる方向、すなわち減分方向に回転すると、便宜的に、貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーを減少させる。エネルギー貯蔵部材の一端は、ハウジング2に固定することができ、他端は、可動部材12に固定することができる。したがって、貯蔵部材7内に貯蔵されているエネルギーは、可動部材12を減分方向に回転させる傾向がある。この回転を使用して、投薬運動を駆動することができる。
【0094】
用量設定部材11は、可動部材12または用量フォロワに回転不能に連結される。したがって、可動部材は、2つの反対の回転方向、すなわち増分方向および減分方向への用量設定部材の回転に追従することができる。用量設定部材11と可動部材12との間で制限された相対回転運動のみを可能にするように構成された用量設定部材と可動部材12との間の連結について、以下により詳細に説明する。ハウジング2に対する用量フォロワ12の回転または角度位置は、現在設定されている用量のサイズを示すことができる。したがって、可動部材12を使用して、設定用量のサイズを示すことができる。この目的で、可動部材の外面に用量印を設けることができ、使用者が現在の設定用量を示す関連する印を見ることを有効にするために、ハウジング2内に窓(図示せず)を設けることもできる。この場合、可動部材は、用量インジケーション部材として作用する。別法として、可動部材12は、別個の用量インジケーション部材に動作可能に連結することができ、別個の用量インジケーション部材は、ハウジングに対する可動部材の回転運動によって駆動され、現在の設定用量を示すように構成される。
【0095】
付勢部材13が設けられる。付勢部材13は、可動部材12に対する用量設定部材11の特有の角度位置を画成するように設けられる。この位置は、以下にさらに論じるように、用量設定部材11と用量フォロワまたは可動部材12との間の定位置またはロック位置である。したがって、可動部材と用量設定部材との間にいずれかの回転方向の相対回転が生じた場合、付勢部材は付勢され、2つの部材間の初期またはロック位置を回復する傾向がある。付勢部材13は、ばね、たとえばねじりばねとすることができ、可動部材12と用量設定部材11との間に着座させられ、かつ/または可動部材12および用量設定部材11に固定される。
【0096】
図示のように、ピストンロッド8は、駆動部材10、可動部材12、および/または用量設定部材11を通って延びることができる。用量設定部材11は、可動部材12内に受け入れることができる。
【0097】
さらに、機械インターフェース14が設けられる。機械インターフェースは、便宜的に、単位増分の整数倍に対応する画成された角度位置で可動部材12をハウジング2に対して回転不能にロックするように設けられる。したがって、機械インターフェース14は、好ましくは、エネルギー貯蔵部材7を介して可動部材12へ伝達された力またはトルクを打ち消す。この力またはトルクが機械インターフェースによって反作用されなかった場合、可動部材12が減分方向に回転するはずである。さらに、インターフェース14は、好ましくは増分および減分方向に単位増分の整数倍で、可動部材12の回転を可能にする。機械インターフェース14は、ラチェットインターフェースとして形成することができる。
【0098】
機械インターフェース14は、好ましくは少なくとも用量設定中もしくは恒久的に、可動部材12と、ハウジングに対して回転不能に固定されたデバイスの部材との間に、または可動部材12とハウジング2との間に設けることができる。駆動機構の投薬動作を駆動するために、機械インターフェース14によって提供される可動部材12の回転ロックを解放することができる。したがって、機械インターフェース14は、可動部材12とハウジング2との間に設けることができ、または例示的な実施形態に示すように、可動部材12と駆動部材10との間に設けることができる。駆動部材10は、ハウジングに対して解放可能に回転不能にロックされる。この目的で、駆動部材を付勢してハウジング2にクラッチ係合させるクラッチばね15が設けられ、それによりハウジングに対する駆動部材の回転を防止する。たとえば用量を投薬するために、ハウジング2に対する駆動部材10の軸方向運動により、クラッチ係合を解放し、ハウジングに対する駆動部材の回転運動を可能にすることができる。したがって、機構の用量設定動作モードで、駆動部材10は、ハウジング2に対して回転不能にロックすることができ、機構の動作の用量投薬動作モードで、ハウジング2に対する駆動部材10の回転ロックを解放することができる。ロックが解放されると、エネルギー貯蔵部材7内に貯蔵されているエネルギーによって引き起こされる可動部材の回転運動を駆動部材10へ伝達することができる。駆動部材が回転すると、ピストンロッドがハウジング2に対して遠位に動く。
【0099】
機械インターフェース14は、単位増分、すなわちハウジング2および/または駆動部材10に対して可動部材12が可能にされる最小回転量を画成するように構成することができる。したがって、単位増分は、デバイスによって設定することができる最小用量に対応することができる。機械インターフェースは、径方向ラチェットインターフェースとすることができる。すなわち、ラチェット部材のうちの一方(可動部材12)をラチェット部材のうちの他方(駆動部材10またはハウジング2)に対して回転させるために、インターフェースを確立する機能間の径方向の相対運動が必要とされる。この径方向運動により、ラチェットシステムを形成するラチェット部材のうちの一方のラチェット機能をラチェット部材のうちの他方のラチェット機能から係合解除することができる。
【0100】
動いている本明細書に記載するデバイスまたはシステムの要素、および特に本明細書に記載するデバイスまたはシステム内で回転している要素は、特に共通の回転軸に対して同心円状に配置することができる。回転軸は、
図1に線Aによって表されている。
【0101】
以下、機械インターフェースに関連する特に有利な実装形態のいくつかの実施形態について説明する。
【0102】
特に有利なシステムの一実装形態の主要部材を、
図2に分解図で示す。システムは、第1の部材として用量設定部材11を含む。第2の部材として、可動部材12が設けられる。第3の部材として、駆動部材10が設けられる。上記ですでに説明したように、ハウジング2が第3の部材として作用することもできる。さらに、付勢部材13が
図2に示されている。
図3は、組み立てられたときの
図2に示す構成要素およびエネルギー貯蔵部材7の概略断面図を示す。
図4は、
図3の線A-Aに沿って切り取った断面を示し、
図5は、
図3の線B-Bに沿って切り取った断面を示す。
【0103】
本明細書の上記および下記の用量設定部材11への参照は、概略的な第1の部材も参照すると理解することができる。可動部材12への参照は、概略的な第2の部材または第1のラチェット部材も参照すると理解することができる。駆動部材への参照は、概略的な第3の部材または第2のラチェット部材も参照すると理解することができ、この部材は、別の構成要素に対して恒久的または一時的に回転不能に固定することができる。可動部材12は、好ましくは、エネルギー貯蔵部材に連結され、したがって第1の方向の回転により、エネルギー貯蔵部材内に貯蔵されているエネルギーが増大し、反対の第2の回転方向の回転により、エネルギーが減少する。また増分方向および減分方向は、それぞれ概略的な第1の回転方向および概略的な第2の回転方向を指すことができる。
【0104】
図4は、用量設定部材11と可動部材12との間の死角フォロワ連結を示す。連結は、突起16によって形成される。突起16は、径方向に延びる。図示の実施形態では、突起は、可動部材12上に設けられ、かつ/または可動部材12から見て径方向内方へ延びる。しかし、可動部材12上に突起を設ける必要はなく、用量設定部材11上に設けることもできることがすぐに明らかである。用量設定部材11上に突起を設けることによって、連結の概略的な機能に影響が及ぶことはないはずである。連結の他の要素は、くぼみ17によって形成される。突起16は、くぼみ17内に、特に径方向に受け入れられる。
図4から明らかなように、複数の突起およびくぼみ対、たとえば2つの対が設けられる。異なる対の突起およびくぼみは、径方向に見て位置合わせすることができる。
【0105】
突起の1つの角度面、すなわち要素を角度または回転方向に区切る表面が、いずれかの回転方向でくぼみの1つの角度面に当接するように配置される。したがって、
図4に示す隙間26が用量設定部材11と可動部材12との間で閉鎖された後、用量設定部材は可動部材12を伴って、たとえば設定用量のサイズを増大もしくは減少させ、または用量のサイズを減少させる。
図4に示す位置は、付勢部材13によって画成される位置、すなわち用量設定部材11の初期位置またはロック位置とすることができる。図示のように、可動部材12に対する用量設定部材11の回転運動は、隙間26の角度方向の延長によって画成される死角によって、両方の回転方向に可能である。死角は、両方の回転方向に等しくても異なってもよい。異なる場合、増分方向の死角は、減分方向の死角より小さくても大きくてもよい。部材12がエネルギー貯蔵部材7の付勢を受けても、この付勢は連結を介して用量設定部材11へ伝達されず、後述する機械インターフェースによって補償または反作用される。用量設定部材11と可動部材12との間の角度方向の隙間26は、2単位増分、1単位増分、または1単位増分の2分の1に対応する角度より小さくすることができる。死角フォロワ連結は、用量設定部材の遠位セクション内に配置された機能(突起およびくぼみ)によって設けることができる。
【0106】
図5は、駆動部材10または当てはまる場合はハウジング2と、可動部材12との間の機械インターフェースを示す。機械インターフェース14は、少なくとも1つの第1のインターフェース機能18(第1のラチェット機能)と、少なくとも1つの第2のインターフェース機能19(第2のラチェット機能)との協調によって形成される。それぞれのインターフェース機能は、突起または歯とすることができる。それぞれの機能は、径方向に向けられている。
図5から明らかなように、断面図で見て駆動部材10と用量設定部材11との間に、可動部材が配置される。それぞれのインターフェース機能は、径方向に延びる。
【0107】
機械インターフェースは、インターフェース14が反作用するように設計された最大トルクを超過するトルクが加えられない限り、関連するインターフェース機能の角度面が当接し、可動部材12が駆動部材10に対して回転することを便宜的に防止することによって形成される径方向ラチェットインターフェースである。可動部材を介して機械インターフェースへ伝達されるトルクがこの最大トルクを超えて増大した場合、インターフェースによってトルクに反作用することができなくなる。次いで、可動部材は駆動部材10に対して回転する。この回転中、インターフェース機能18は径方向に変位し、インターフェース機能19を係合解除し、次のインターフェース機能19に係合する。便宜的に、インターフェースは、システムの正常動作中に発生するすべてのトルクに反作用するように設計される。システムが薬物送達デバイスである場合、最大トルクは、設定可能な最大用量がデバイスから送達されるように設定されたときにエネルギー貯蔵部材によってインターフェースへ伝達されるトルクとすることができる。図示の実施形態では、2つの隣接するインターフェース機能19間の距離は、単位増分、すなわち再び安定位置にくるまでに可動部材を回転させなければならない最小角度距離を画成する。インターフェース14によって反作用することができるトルクは、可動部材の回転を阻止する角度面の勾配によって設定することができる。径方向に対するこの面の傾斜が小さければ小さいほど、最大トルクは大きくなる。2つの反対側に配列されたインターフェース機能は、インターフェース機能19によって形成される連続する歯部に係合するように設けられる。図示の実施形態では、18の安定位置が画成されているため、1単位増分に対応する角度は20°であり、各安定位置は、2つの隣接するインターフェース機能19間に画成されたポケットに対応する。他の細分も可能であることが明らかである。設定可能な最大用量は、720°を超える用量設定部材の回転を必要とする。
【0108】
図2から明らかなように、第1のインターフェース機能18は、可動部材12のインターフェースセクション27内に設けられる。インターフェースセクション27は、可動部材12の本体28に連結される。インターフェースセクションは、弾性変形可能になるように設計される。これにより、インターフェース機能19に対するインターフェース機能18の径方向運動が可能になり、関連する方向における駆動部材10またはハウジング2に対する可動部材12の回転が有効になる。本体28は、剛性を有するように設計される。本体28は、ウェブ29を介してインターフェースセクション27に強固に連結することができる。第1のインターフェース機能18に対して(径方向の)弾力性を提供するために、可動部材12内に切り抜き20を設けることができる。インターフェースセクションは、本体28と比較すると低減された直径および/または壁厚さを有することができる。これにより、インターフェース機能19を有する駆動部材10の領域内にこのセクションを受け入れることが容易になる。
【0109】
可動部材12を駆動部材10に対して回転させるために、第1のインターフェース機能18は、インターフェース機能19の傾いた角度面に当接したまま、径方向に、図示の実施形態では内方方向に動かなければならず、その後、弛緩し、2つの隣接するインターフェース機能19間に画成された次のラチェットポケット内に静止することができる。
図4および
図5に示す状況で、用量設定部材11はロック位置にある。この位置で、インターフェース機能18の径方向運動が防止される。したがって、第1のインターフェース機能および第2のインターフェース機能の係合解除が防止される。したがって、インターフェース14によって提供される回転ロックを解放するために必要とされる係合解除が防止されるため、可動部材はいずれの回転方向にも回転することができない。用量設定部材11は、突起21またはロック機能、たとえば2つの反対に配列されたロック機能21を含む。ロック機能は、可動部材12の方へ、たとえば径方向および/または外方に延びる。ロック機能21は、径方向に向けられている。ロック機能21の径方向端面は可動部材に面し、好ましくは可動部材12から用量設定部材11の方向に突出する突起22に面する。機能21および突起22は、角度方向に位置合わせすることができる。ロック機能21および/または突起22は、第1のインターフェース機能18に角度方向に位置合わせすることができ、または第1のインターフェース機能18に重複することができる。しかし、角度方向のずれを伴うもののような他の実装形態も可能である。しかし、図示の配置は、インターフェース機能18がその角度位置で径方向に支持されているため、最も効率的な構成を提供することができる。
【0110】
図5に示すように、ロック機能21と可動部材12との間、特にロック機能21と突起22との間に径方向の隙間30があるため、インターフェース機能18および19を係合解除するために必要とされるはずの方向における制限された径方向運動が可能になる。しかし、隙間30によって可能になる径方向運動は、駆動部材10に対する可動部材12の回転を可能にするために必要とされる径方向運動より小さい。したがって、
図5に示すロック位置にあるインターフェース14は、たとえば用量がすでに設定されているときに薬物送達デバイスが床に落下した場合に、意図せず係合解除される可能性がない。したがって、エネルギー貯蔵部材内のエネルギーが意図せず解放されることが防止される。このようにして、使用者の安全が増大する。
【0111】
突起22および/またはロック機能21は、その自由(径方向)端に向かって減少する角度方向の寸法または延長を有することができる。ロック機能21および突起22は、同様に形成することができ、互いに面することができる。ロック機能21に角度方向に隣接する領域内で、便宜的にロック機能21の一方または両方の側に、凹部31を形成することができる。それぞれの凹部の角度方向の延長は、好ましくは、
図4に示す突起16とくぼみ17の角度面との間の角度方向の隙間以上である。したがって、この凹部は、径方向運動のための余裕を提供しており、用量設定部材11がいずれかの回転方向に死角だけ回転させられた後、可動部材が回転したときに突起22を受けることができる。
【0112】
図6は、
図3のより詳細な図を示す。
図7および
図8は、
図4および
図5に示すロック位置から開始して、用量設定部材11が可動部材12に対して、たとえば反時計回り方向に回転するときの状況を示す。典型的には、反時計回り方向は、事前に設定された用量のサイズを減少させる方向である。しかし、反対の方向の回転によって、用量の増大も同様に実行することができることが容易に明らかである。図示のように、くぼみおよび突起16の角度側面は当接し、したがって用量設定部材のさらなる回転が可動部材12へ伝達される。また、ロック機能21は、ロック位置および/または突起22から離れる方へ回転している。したがって、インターフェース機能18および19間の径方向運動が阻止されなくなるため、機械インターフェース14を係合解除することができ、可動部材12を駆動部材10に対して回転させて、可動部材12を増分または減分することができる。したがって、
図7および
図8に示す状況から開始して、用量設定部材がさらに回転した場合、インターフェース機能18は径方向に、たとえば内方へ動き、安定した回転位置を提供する次のインターフェース機能19に係合することができる。
図8から明らかなように、機械インターフェースは、正常動作中にエネルギー貯蔵部材を介して機械インターフェースへ伝達されるあらゆるトルクを打ち消すのに十分なほど強いことが好ましい。
【0113】
インターフェース機能は、特に軸に直交する平面に沿って切り取った断面において、対称(図示のとおり)であっても非対称であってもよい。対称の機能は、可動部材12を回転させるために必要とされる力またはトルクが両方向に等しいことを保証する。非対称のラチェット機能は、可動部材を一方向に回転させるために、反対の方向と比較してより大きい力またはトルクを必要とする。この例では、非対称のインターフェースが設けられた場合、インターフェース機能は、便宜的に、エネルギー貯蔵部材7が可動部材12を回転させる傾向がある方向に可動部材12を回転させるために、より大きい力またはトルクを印加することが必要になるように構成される。
【0114】
所望の用量が設定されているとき、ボタン25を遠位方向に押下することができる。これにより、ボタン25が遠位に動くことに続いて、駆動部材10がハウジング2に対して、好ましくは用量設定部材11を介して遠位に動く。この遠位の動きにより、駆動部材10がハウジング2から係合解除され、好ましくは、駆動部材10および可動部材12を回転不能にロックし、たとえば駆動部材と可動部材12との間のスプライン連結を係合する。エネルギー貯蔵部材12のトルクに反作用しなくなるため、駆動部材と同様に可動部材12も回転する。駆動部材10が回転すると、ピストンロッド8はハウジング2に対して遠位に変位する。用量送達中、用量設定部材11は、ボタン25に対して回転しても回転しなくてもよい。
【0115】
図5~
図8に示す機械インターフェース14の実装形態では、単位増分を画成するインターフェース機能19は、円周全体、すなわち360°にわたって均一に、円周方向に配列される。しかし、ラチェットシステムの他の実装形態も開示する概念に好適である。そのような実装形態について以下に説明し、上述したインターフェースとの違いに焦点を当てる。したがって、上述した構成は、以下の説明にも適用することができる。
【0116】
図9~
図12は、可動部材12とそれぞれ駆動部材10またはハウジング2との間の機械インターフェース14のさらなる実装形態を示す。
図9は、
図1のデバイスの小さいセクションを示す。
図10は、断面図に基づく実装形態の一実施形態を示し、
図11および
図12は、斜視図に基づく別の実施形態を示す。機械インターフェース14はそれでもなお、可動部材12が両方の回転方向において単位増分の整数倍でのみ駆動部材10またはハウジング2に対して回転可能になるように設計される。単位増分は、互いから単位増分に対応する距離をあけて円周方向に配列および配置されたインターフェース機能19の配置によって画成される。しかし、インターフェース機能は、
図5のように円周全体にわたって延びない。逆に、隣接するインターフェース機能を分離する角度方向の間隙32が存在する。間隙32の角度方向の延長は、1単位増分に対応する角度より大きくすることができ、たとえば単位増分の数:2、3、4、5、6、7、8、9、10に対応する角度以上とすることができる。
【0117】
図10に示すように、インターフェース機能19は、たとえば180°のより小さい角度範囲にわたってのみ延びる。したがって、別の角度範囲、すなわち間隙32には、インターフェース機能がない。この範囲は、360°からインターフェース機能の角度方向の延長を引いた値とすることができる。それにもかかわらず、機械インターフェースはそれでもなお、1単位増分の倍数でのみ回転運動を実行するように構成される。そのため、複数の第1のインターフェース機能18が設けられる。
図10に示す実施形態では、2つのインターフェース機能18が設けられている。インターフェース機能19と協働して駆動部材10に対する可動部材12の回転ロックを確立するように設けられるインターフェース機能18の最小数は、360°を、単位増分を画成するインターフェース機能19が設けられていないすべての角度距離の和で割った値である。
図10の実施形態では、インターフェース機能19の角度方向の延長が180°であるため、この最小値は2である。
【0118】
図10の実施形態では、各回転方向において、すべてのインターフェース機能18のうちの1つの角度方向の側面のみが、好ましくはインターフェース14によって画成される任意の安定位置で、第2のインターフェース機能19を画成する歯と相互作用する。インターフェース機能18aの側面が1つのインターフェース機能19の側面に当接することによって、時計回り方向の回転が妨げられる。インターフェース機能18bの側面が1つのインターフェース機能19の側面に当接することによって、反時計回り方向の回転が妨げられる。したがって、1つのインターフェース機能18のみが、インターフェース14によって画成される任意の安定位置で1つの特有の方向の回転運動を妨げる係合を提供する。
【0119】
単位増分を画成するインターフェース機能19は、
図10に示すように、1つの隣接する角度領域内で分散させることができるだけでなく、角度方向により広く分散させることもできる。これは
図11および
図12に示され、インターフェース機能19の4つのグループが示されており、これらのグループは、1単位増分より大きい、特に3単位増分または4単位増分に対応する角度以上の間隙32によって、角度方向に分離される。各グループ内で、インターフェース機能19は、1単位増分に対応する距離をあけて配置される。
図11で、1つのインターフェース機能18のみがグループのすべてに相互作用して各回転方向の回転を妨げることが同様に確実になる。
図10とは異なり、
図11では、インターフェース機能18および19の径方向の向きが逆である。
【0120】
関連する方向の回転運動を実現するために、1つの当接または係合を解放するだけでよいため、1対のインターフェース機能18および19のみによって、特有の回転方向の回転ロックが提供されることが有利である。これにより、使用者に対する信頼度が提供され、特に回転プロセス中のわずかにずれた時点で生成される2つの異なる係合解除フィードバックが、デバイスが適切に機能していないことを示しているように使用者が誤解することが回避される。
【0121】
さらに、円周全体がインターフェース機能または歯によって覆われるわけではないため、間隙32を使用して、この領域を介して追加の要素を案内することができ、たとえばインターフェース機能19から軸方向にずれて設けられたねじ山に係合することができる。そのようなねじ山24は、
図12に示されている。追加の要素は、リザーバ内で利用可能な薬物の量を超過する用量が設定されることを防止するように構成された最終用量ナット(last dose nut)とすることができる。最終用量ナットは、用量設定中に用量設定部材11に連結することができ、用量投薬中に設定部材11から連結解除することができる。したがって、ねじ山上のナットの軸方向位置は、リザーバからすでに投薬された薬物の全量に対応することができる。
【0122】
1つのインターフェース機能対18/19のみがそれぞれの回転方向に負荷を伝えるとき、インターフェース14に非対称の負荷がかかるため、可動部材12および駆動部材10を適切な軸方向の位置合わせで維持する位置合わせ機能23を設けることができる。位置合わせ機能は、たとえば
図9に示されている。この位置合わせ機能は、本体28を軸方向に案内することができる。この位置合わせ機能は、駆動部材10のセクションが本体28の外面の周りに延びることによって実現することができる。当然ながら、他の構成も同様に可能である。
【0123】
保護範囲は、本明細書に上述した例に限定されるものではない。本発明は、各々の新規な特徴および各々の特徴の組合せで実施され、特に特許請求の範囲に記載されている任意の機能のあらゆる組合せが、この機能またはこの機能の組合せが特許請求の範囲または例に明示的に記載されていない場合でも含まれる。
【符号の説明】
【0124】
1 薬物送達デバイス
2 ハウジング
3 リザーバ
4 薬物
5 栓
6 セプタム
7 エネルギー貯蔵部材
8 ナットセクション
10 駆動部材
11 用量設定部材
12 用量フォロワ
13 付勢部材
14 機械インターフェース
15 クラッチばね
16 突起
17 くぼみ
18 第1のインターフェース機能
18a インターフェース機能
18b インターフェース機能
19 第2のインターフェース機能
20 切り抜き
21 ロック機能
22 突起
23 位置合わせ機能
24 ねじ山
25 ボタン
26 隙間
27 インターフェースセクション
28 本体
29 ウェブ
30 隙間
31 凹部
32 間隙
A 軸