(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】メチル6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-[4-[(3S)-1-(3-フルオロプロピル)ピロリジン-3-イル]オキシフェニル]-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレートの塩およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07D 207/12 20060101AFI20231207BHJP
A61K 31/40 20060101ALN20231207BHJP
A61P 35/00 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C07D207/12 CSP
A61K31/40
A61P35/00
(21)【出願番号】P 2021512678
(86)(22)【出願日】2019-09-06
(86)【国際出願番号】 EP2019073823
(87)【国際公開番号】W WO2020049150
(87)【国際公開日】2020-03-12
【審査請求日】2022-08-08
(32)【優先日】2018-09-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】ジョエル・マルパール
(72)【発明者】
【氏名】ホセ・ルイス・モンテス
【審査官】三須 大樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/140669(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 207/12
A61K 31/40
CAplus(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】
の6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-{4-[1-(3-フルオロ-プロピル)-
ピロリジン-3-イルオキシ]-フェニル}-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾシクロヘ
プテン-2-カルボン酸メチルエステルのシュウ酸塩。
【請求項2】
以下の式:
【化2】
の6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-{4-[1-(3-フルオロ-プロピル)-
ピロリジン-3-イルオキシ]-フェニル}-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾシクロヘ
プテン-2-カルボン酸メチルエステルのジベンゾイル酒石酸塩。
【請求項3】
メチル-tertブチルエーテル
、トルエン
、酢酸エチル
および酢酸イソプロピルから選択される溶媒中で、式
【化3】
の化合物(2)にシュウ酸を添加する工程を含む、請求項1に記載の塩の製造方法。
【請求項4】
溶媒は、酢酸イソプロピルである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
酢酸イソプロピル中
、60℃から80℃
の加熱下で行われる、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
メチル6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-[4-[(3S)-1-(3-フルオロプロピル)ピロリジン-3-イル]オキシフェニル]-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレートの新規な塩が、本明細書において提供される。
【背景技術】
【0002】
メチル6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-[4-[(3S)-1-(3-フルオロプロピル)ピロリジン-3-イル]オキシフェニル]-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレートは、6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-[4-[(3S)-1-(3-フルオロプロピル)ピロリジン-3-イル]オキシフェニル]-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボン酸メチルエステルとも称され、本明細書において以降、「化合物(2)」と称するが、6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-[4-[(3S)-1-(3-フルオロプロピル)ピロリジン-3-イル]オキシフェニル]-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボン酸(以降、「化合物(1)」とする)の合成におけるN-1中間体である。実際、化合物(1)は、化合物(2)の鹸化によって得ることができる。
【0003】
以下に示す化合物(1)は、エストロゲン受容体アンタゴニスト特性を有する選択的エストロゲン受容体分解薬(SERD)であり、エストロゲン受容体のプロテアソーム分解を促進する。それは、特に抗癌剤として用いることができる。この化合物は、特許文献1に開示されている。
【0004】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特許出願国際公開第2017/140669号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
医薬品中の活性成分およびそれらの合成中間体に対して、工業的実行により適合した新規な合成経路を見出すことが常に求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書では、化合物(2)の新規な塩形態、すなわち、前記化合物のシュウ酸塩:
【化2】
およびジベンゾイル酒石酸塩:
【化3】
が提供される。
【0008】
本明細書において、化合物(2)の上述の塩形態の製造方法、すなわち:
- エステル型溶媒、エーテル型溶媒、およびトルエンから選択される溶媒中で、化合物(2)にシュウ酸を添加する工程を含む、前記化合物(2)のシュウ酸塩の製造方法;ならびに
- トルエンとヘプタンとの混合物中で、化合物(2)にジベンゾイル酒石酸を添加する工程を含む、前記化合物(2)のジベンゾイル酒石酸塩の製造方法、
がさらに提供される。
【0009】
本発明による前記塩は、上記で定める化合物(1)の製造のフレームワークにおいて特に有用である。前記塩の利点は、前記方法の詳細な記述から明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明による塩は、本明細書において以降で詳細に述べる製造方法に従って得ることができる。
【0011】
国際公開第2017/140669号の経路
特に、本発明による塩は、本明細書において以降でスキーム3および4に表される特許出願国際公開第2017/140669号に記載の合成経路に従って得ることができる。塩を得る前の工程は、以下のスキームによって表される。
【0012】
【0013】
前記工程に続いて、本明細書において以降で詳細に述べる塩化工程が行われる。
【0014】
本出願の実施例5は、中間体(D5)から出発し、鈴木カップリングを介して、本明細書において上記で定める化合物(2)を形成し、この化合物自体を用いて、化合物(2)の塩を形成するものである。
【0015】
別の選択肢として、本発明による塩は、以降で詳細に述べる改善された方法として、化合物(2)の製造のフレームワーク中で、鈴木カップリングに続く塩化工程によって得ることができる。
【0016】
改善された方法
本明細書では、上記で述べる塩形態:
【化5】
を実現する化合物(2)(化合物(1)のメチルエステル)の製造方法が記載され、塩形態において、化合物(2)が、LGが脱離基を表す化合物(3):
【化6】
と有機ホウ素試薬との鈴木カップリング、および続いての塩化反応によって得ることができることを特徴とする。
【0017】
上記で述べる化合物(3)は、脱離基LGによる化合物(4)の活性化によって得ることができる:
【化7】
【0018】
上記で述べる化合物(4)は、メチル5-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレート(以下の化合物(5)として表される)の、本明細書において以降で定められる1-LG’-2,4-ジクロロベンゼンによるアルファ-アリール化によって得ることができる:
【化8】
【0019】
LG’は、任意の脱離基を表す。
【0020】
LG’は、
n=1~4である式-O-SO2-CnF(2n+1)の脱離基、より特定すると、トリフレート(n=1の場合)またはノナフレート(n=4の場合)、または
臭素またはヨウ素から選択されるハロゲン原子、
を表すことができる。
【0021】
1-LG’-2,4-ジクロロベンゼンは、1-Hal-2,4-ジクロロベンゼンであってよく、ここで、Halは、臭素またはヨウ素から選択されるハロゲン原子を表す。
【0022】
脱離基LGおよびLG’は、脱離基特性を呈し、その後の化学反応においてさらなる置換を可能にする化学部分として定義される。
【0023】
より詳細には、化合物(3)の脱離基LGは、化合物(4)のカルボニル官能基の活性化によって得ることができる。当業者に公知であるように、化合物(4)のカルボニル官能基の従来の活性化反応が用いられる。
【0024】
例えば、化合物(3)の脱離基LGは、ハロゲン原子、またはアルキルもしくはアリールスルファメート、アルキルもしくはアリールホスフェート、またはアルキルもしくはアリールスルホネートであってよく、特に、ハロゲン原子、またはアルキルもしくはアリールスルホネートであってよい。
【0025】
脱離基LGは、ハロゲン原子、またはメシレート、トシレート、スルファメート、ホスフェート、トリフレート、もしくはノナフレート基であってよい。
【0026】
化合物(3)の脱離基は、ハロゲン原子、またはメシレート、トシレート、スルファメート、ホスフェート、もしくはトリフレート基であってよい。
【0027】
脱離基LGは、トリフレートまたはノナフレート基であってよい。
【0028】
有利には、脱離基LGは、トリフレート基である(トリフルオロメタンスルホニル、式-O-S(O)2-CF3に相当)。
【0029】
本明細書の文脈において、以下の用語は、特に断りのない限り、本明細書全体を通して以下の定義を有する:
- アルキル基:直鎖状または分岐鎖状の飽和炭化水素ベースの脂肪族基で、特に断りのない限り、1~6個の炭素原子を含む(「(C1~C6)-アルキル」と記載)。例えば、限定されないが、メチル、エチル、プロピル、n-プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ペンチル、イソペンチル、ヘキシル、およびイソヘキシル基などが言及される。前記基は、フッ素原子によって部分的にまたは完全に置換することができ、限定されないが、ペルフルオロメチル、ペルフルオロエチル、ペルフルオロプロピル、ペルフルオロブチルなどが挙げられる;
- アリール基:フェニル、ナフチル、または置換フェニルであり、ここで、置換フェニルは、水素の1つまたはそれ以上が:ハロゲン原子、アルキル、ニトロ、シアノ、アルコキシ、アリール、ヘテロアリール、およびトリフルオロメチル基などが挙げられるがこれらに限定されない同じまたは異なる置換基によって置き換えられたフェニル基として定義される。
【0030】
化合物(4)は、化合物(3’)に活性化することができ、ここで、化合物(3’)は、LGがトリフレート基を表す化合物(3)として定義される。化合物(4)の化合物(3’)への活性化は、トリフレート化反応である:
【化9】
【0031】
そのような反応では、N-フェニルビストリフルイミドまたは無水トリフリン酸などのトリフレート化試薬が用いられる。
【0032】
有利には、N,N-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アニリンとしても知られるN-フェニルビストリフルイミドが、トリフレート化試薬として用いられる。この試薬は、有利には、約1.3当量(eq)など、化合物(4)よりも僅かに過剰な量で用いられる。
【0033】
適切なトリフレート化媒体は、当業者に公知であるように、用いられるトリフレート化試薬に応じて異なる。
【0034】
トリフレート化反応は、適切な有機溶媒中で行われ、例えば、THF(テトラヒドロフラン)、Me-THF(メチル-テトラヒドロフラン)、アセトニトリル、ジオキサン、またはトルエンとMe-THFとの混合物などである。有利には、Me-THFが、有機溶媒として用いられる。
【0035】
トリフレート化反応は、有利には、トリフレート化試薬としてN-フェニルビストリフルイミドを用いて、有機溶媒としてのMe-THF中で行われる。トリフレート化反応のための温度は、有利には、0℃から室温の間で選択される。
【0036】
トリフレート化反応は、強塩基、例えば、水素化ナトリウム(NaH)、カリウムビス(トリメチルシリル)アミド(KHMDS)、またはBEMP(2-tert-ブチルイミノ-2-ジエチルアミノ-1,3-ジメチルペルヒドロ-1,3,2-ジアザホスホリン)もしくはBTPP(tert-ブチルイミノ-トリ(ピロリジノ)ホスホラン)などのホスファゼン塩基を用いて行われる。有利には、水素化ナトリウムが、強塩基として用いられる。
【0037】
NaHが強塩基として用いられる場合、トリフレート化反応は、例えば、DBU(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン)またはDBN(1,5-ジアザビシクロ(4.3.0)ノナ-5-エン)などの触媒を用いて行われる。有利には、DBUが、触媒として用いられる。
【0038】
有利には、トリフレート化反応は、強塩基として水素化ナトリウムを、触媒としてDBUを用いて行われる。有利には、トリフレート化反応において、触媒量のDBU(約0.2当量など)および化学量論量のNaH(約1.0~1.1当量など)、または準化学量論量のNaH(約0.7~0.8当量)および化学量論量のDBU(約1.0~1.2当量)が用いられる。
【0039】
トリフレート化反応に続いて、方法の次の工程を行う前に99%以上の純度レベルなどの高純度の化合物(3)が得られるように、有利には、当業者に公知の結晶化技術によって、得られた生成物の結晶化が行われる。そのような結晶化工程は、例えば、アセトニトリル、tert-アミルアルコール、ヘプタン、またはジイソプロピルエーテル中で行うことができる。有利には、結晶化は、アセトニトリル中で行われる。アセトニトリル中での結晶化は、有利には、0℃で行われ、続いて約45℃で乾燥することができる。
【0040】
化合物(4)を製造するための化合物(5)のアルファ-アリール化は、1-ヨード-2,4-ジクロロベンゼンを用いて、または1-ブロモ-2,4-ジクロロベンゼンを用いて行うことができ、これらはいずれも市販の反応体である。有利には、1-ブロモ-2,4-ジクロロベンゼンが、アルファ-アリール化試薬として用いられる。
【0041】
このアルファ-アリール化工程は、触媒としてのパラジウム誘導体、アルファ-アリール化反応のための適切なリガンド、および無機塩基の存在下で有機溶媒中で行うことができる。
【0042】
有利には、アルファ-アリール化工程は、有機溶媒としてのキシレン、トルエン、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、またはTHF中、触媒として酢酸パラジウム(II)(Pd(OAc)2)またはトリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(Pd2dba3)、およびリガンドとしてキサントホス(4,5-ビス(ジフェニルホスフィノ)-9,9-ジメチルキサンテンを用いて行うことができる。別の選択肢として、Pd2dba3が触媒として用いられる場合、DPEPhos(ビス[(2-ジフェニルホスフィノ)フェニル]エーテル)をリガンドとして用いることができる。アルファ-アリール化工程での使用が考えられる別のパラジウム誘導体は、[1,1’-ビス(ジ-tert-ブチルホスフィノ)フェロセン]ジクロロパラジウム(II)(PdCl2(dtbpf))である。有利には、アルファ-アリール化工程は、有機溶媒としてのトルエン中、触媒としてPd2dba3を用いて行うことができる。これらの条件下では、加熱還流が適用される。
【0043】
有利には、アルファ-アリール化工程は、K2CO3、K3PO4、Cs2CO3、およびtBuONaなどの無機塩基の存在下で行うことができる。無機塩基は、有利には、化合物(5)に対して1.5~4当量(eq)、より特定すると2.5~4当量のように過剰に存在する。
【0044】
化合物(2)を製造するために化合物(3)に適用される鈴木反応は、有機ホウ素試薬、および遷移金属系触媒、有利にはパラジウム系触媒を用いたカップリング反応として定義することができる。
【0045】
有利には、本明細書で述べる方法の鈴木カップリング工程で用いるための有機ホウ素試薬は、試薬(1)、すなわち特許出願国際公開第2017/140669号に記載されている(3S)-1-(3-フルオロプロピル)-3-[4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ]ピロリジン、または試薬(1)のエステル部分の加水分解によって得られる対応する酸(以下に示されるように、試薬(2)と称する)、または試薬(2)または(1)のボロン酸またはエステル部分を二フッ化水素カリウム(KHF
2)によって塩化することによって得られるトリフルオロホウ酸カリウム塩(以下に示されるように、試薬(3)と称する)などのその塩であってよい:
【化10】
【0046】
(3S)-1-(3-フルオロプロピル)-3-[4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ]ピロリジン(試薬(1))の製造に関する特許出願国際公開第2017/140669号の記載内容は、参照によって本明細書に組み入れる。
【0047】
本明細書で述べる方法の鈴木カップリング工程で用いるための有機ホウ素試薬は、有利には、化合物(3)に対して等モル量(すなわち、約1当量)で用いることができる。
【0048】
本明細書で述べる方法の鈴木カップリング工程で用いるためのパラジウム系触媒は、有利には、式PdCl2(PPh3)2のパラジウム錯体、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリドであってよい。
【0049】
それは、触媒量で、例えば約0.05当量の量で用いられる。
【0050】
本明細書で述べる方法の鈴木カップリング工程のための適切な反応媒体は、当業者に公知であるように、用いられる具体的な試薬に応じて異なる。
【0051】
触媒としてビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリドが用いられる場合、反応は、有利には、炭酸セシウム(Cs2CO3)などの無機塩基を用いて、水/アセトニトリル(CH3CN)混合物などの有機溶媒中で行うことができる。
【0052】
塩化工程
本明細書において以降で述べる塩化工程は、両方の合成経路(国際公開第2017/140669号経路および改善された経路)において実行することができる。
【0053】
両経路共に、そのような塩化工程の前に鈴木カップリング工程を含む。
【0054】
化合物(2)の製造のフレームワーク内のままで、化合物(2)が本発明による塩形態で、有利にはシュウ酸塩またはジベンゾイル酒石酸塩の形態で得られるように、鈴木カップリング工程の後に塩化反応を行うことができる。
【0055】
したがって、鈴木カップリングに続いて、例えば化合物(2)のシュウ酸塩または化合物(2)のジベンゾイル酒石酸塩を得るために、塩化反応を行うことができる。
【0056】
本明細書で提供される化合物(2)のシュウ酸塩は、酢酸エステル溶媒(例えば、酢酸エチルまたは酢酸イソプロピル)などのエステル型溶媒、MTBE(メチル-tertブチルエーテル)またはジイソプロピルエーテルなどのエーテル型溶媒、およびトルエンから選択される溶媒中でシュウ酸を用いて得ることができる。
【0057】
有利には、化合物(2)のシュウ酸塩は、加熱下、例えば60℃から80℃の間、好ましくは約70℃で、酢酸イソプロピル中でシュウ酸を用いて得ることができる。
【0058】
前記方法は、本発明の一部を形成する。
【0059】
したがって、本発明はさらに、エステル型溶媒、エーテル型溶媒、およびトルエンから選択される溶媒中で、化合物(2)にシュウ酸を添加する工程を含む、化合物(2)のシュウ酸塩の製造方法を提供する。
【0060】
特定の実施形態では、エステル型溶媒は、酢酸エステル溶媒であり、特に酢酸エチルまたは酢酸イソプロピル、より特定すると酢酸イソプロピルである。
【0061】
別の実施形態では、エーテル型溶媒は、メチル-tertブチルエーテルおよびジイソプロピルエーテルから選択される。
【0062】
特定の実施形態では、化合物(2)のシュウ酸塩の製造方法は、酢酸イソプロピル中、加熱下で、特に60℃から80℃の間、より特定すると70℃で行われる。
【0063】
本明細書で提供される化合物(2)のジベンゾイル酒石酸塩は、トルエンとヘプタンとの混合物中でジベンゾイル酒石酸((2R,3R)-2,3-ジベンゾイルオキシブタン二酸とも称する)を用いて得ることができる。
【0064】
前記方法は、本発明の一部を形成する。
【0065】
したがって、本発明はさらに、トルエンとヘプタンとの混合物中で、化合物(2)にジベンゾイル酒石酸を添加する工程を含む、化合物(2)のジベンゾイル酒石酸塩の製造方法を提供する。
【0066】
上記で述べる化合物(2)の「塩化」という用語は、化合物(2)を析出させる塩の形成を意味する。
【0067】
シュウ酸塩の場合は特に、そのような塩化工程は、反応混合物から高い純度で化合物(2)を回収することを可能にする。また、それによって、反応混合物から高い純度で化合物(2)を回収するためにカラムクロマトグラフィを使用することを回避することもできる。
【0068】
塩形成を含むそのような合成経路は、工業的スケールにおいて、および化合物(2)の保存において、特に都合が良い。
【0069】
本出願の実施例6は、請求される塩を得る様々な方法に適切な溶媒を示すものである。
【0070】
化合物(2)のジベンゾイル酒石酸塩は、約93%の純度で析出し、化合物(2)のシュウ酸塩は、98%以上の純度レベルで析出する。
【0071】
上記の記述を考慮して、化合物(2)を製造するための本明細書で述べる方法は、以下のスキーム1で表され、ここで、LG’およびLGは、上記で定める通りである:
【0072】
【0073】
化合物(2)を製造するための本明細書で述べる方法は、以下のスキーム2でも表され、ここで、LG’は、上記で定める通りである:
【0074】
【0075】
化合物(2)は、鹸化反応を受け、それによって、エステル官能基の加水分解から、対応する酸官能基を有する化合物(1)が得られる。そのような鹸化反応は、当業者に公知の条件下、すなわち、塩基性媒体中、有利には塩基として水酸化ナトリウムを用い、有機溶媒中、有利にはメタノールなどのアルコール系溶媒中で行うことができる。エステル部分の加水分解を促進するために、鹸化反応中に、例えば約60℃で熱が適用される。そのような鹸化反応は、特許出願国際公開第2017/140669号に記載されている。
【0076】
化合物(2)の塩形態が用いられる場合、鹸化反応を行う前に、例えば炭酸カリウムの水溶液を用いて、化合物(2)の遊離塩基が製造される。
【0077】
本明細書ではまた、化合物(1):
【化13】
の、化合物(2):
【化14】
の鹸化による製造方法も記載され、ここで、化合物(2)は、上記で述べた方法によって得られる。
【0078】
本明細書において、化合物(4)、(3)、および(3’)も開示され、ここで、LGは、上記で述べた脱離基を表す:
【化15】
【0079】
化合物(4)、(3)、および(3’)は、化合物(2)の製造における新規な中間体として有用である。
【0080】
本明細書で述べる化合物(2)の製造方法は、特許出願国際公開第2017/140669号に記載されている現時点までに知られている化合物(2)の他の合成方法よりも少ない反応工程数を含むことから、工業的実行において特に有利である。
【0081】
以下のスキーム3は、国際公開第2017/140669号に記載されている化合物(2)の最も短い合成方法を示す。スキーム3において、各中間体は、前記国際特許出願で与えられているものと同じ名称で示す。スキーム3に示し、市販の中間体2-メトキシ-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-5-オンから出発するこの方法は、以降「経路A」と称する。
【0082】
【0083】
スキーム3に示す経路Aでは、化合物(2)は、メチル5-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレート(本明細書において「化合物(5)」と称し、および国際公開第2017/140669号で「中間体(A5)」と称するものと同じ化合物)から出発する4つの工程で得られる。本明細書で述べる化合物(2)の製造方法では、したがって、経路Aと比較して、メチル5-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレートから出発して3つの工程のみでこの化合物を得ることができる。
【0084】
化合物(2)の合成の第2の方法が国際公開第2017/140669号に記載されており、上記スキーム3と同じ中間体、2-メトキシ-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-5-オンおよび中間体(A2)から出発している。化合物(2)のこの第2の合成方法を、以下のスキーム4に示し、ここで、各中間体は、特許出願国際公開第2017/140669号で与えられているものと同じ名称で示す。スキーム4によるこの方法は、以降「経路B」と称する。
【0085】
【0086】
したがって、スキーム4による化合物(2)の製造方法は、スキーム3の場合よりもより多くの反応工程を伴っていることが明らかである。
【0087】
したがって、本明細書で述べる化合物(2)の合成方法は、国際公開第2017/140669号に記載される経路AおよびBの両方と比較して、工程数という点で短い。
【0088】
以下では、本明細書で述べる合成方法に従って化合物(2)の塩を合成するためのプロトコルの例について述べる。
【実施例1】
【0089】
有機ホウ素誘導体「試薬(1)」の製造
本明細書で述べる化合物(2)の合成方法の鈴木カップリング工程で有用である試薬(1)の製造を、特許出願国際公開第2017/140669号から再現して以下のスキーム5に示す。
【0090】
【0091】
スキーム5によると、市販の化合物(a)(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノール)を、カップリング剤としてN,N,N’,N’-テトラメチルアゾジカルボキシアミドを用いて、テトラヒドロフラン(THF)中、室温で(R)-1-N-Boc-3-ヒドロキシピロリジン上に縮合させる。
【0092】
工程2によると、こうして得た化合物(c)を酸性剤、例えばジオキサン中の4N HCl溶液を用いて、メタノール(MeOH)中、室温でN-脱保護する。
【0093】
次に、化合物(d)を、対応する1,1-二置換1-ハロゲノ-3-フルオロプロパン、例えば1-ヨード-3-フルオロプロパンと、アセトニトリル中、約40℃で炭酸カリウム(K2CO3)の存在下で反応させることによって、工程3でのピロリジン窒素のアルキル化を行う。
【0094】
スキーム5の工程1~3を、以下の詳細なプロトコルによって示す。
【0095】
1H NMRスペクトルは、Bruker Avance DRX-400分光計上、溶媒ジメチルスルホキシド-d6(dDMSO-d6)中の2.50ppmを基準としたケミカルシフト(δ、単位ppm)で、303Kの温度で行った。カップリング定数(J)は、ヘルツで示した。
【0096】
液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS)データは、UPLC Acquity Waters装置、光散乱検出器Sedere、およびSQD Waters質量分析計上で、UV検出DAD 210<l<400nm、およびカラムAcquity UPLC CSH C18 1.7μm、寸法2.1×30mm、移動相H2O+0.1% HCO2H/CH3CN+0.1% HCO2H、を用いて得た。
【0097】
化合物(c).tert-ブチル(3S)-3-[4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2イル)フェノキシ]ピロリジン-1-カルボキシレート
【化19】
【0098】
THF(2L)中の4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノール(a)(82.7g、364.51mmol)の溶液に、アルゴン下、(R)-1-N-Boc-3-ヒドロキシピロリジン(b)(84.43g、437.41mmol)を、続いてN,N,N’,N’-テトラメチルアゾジカルボキシアミド(99.1g、546.77mmol)を添加した。透明の反応混合物が橙色に変化し、トリフェニルホスフィン(143.41g、546.77mmol)を添加した。反応混合物を、室温で24時間撹拌し、その間に、トリフェニルホスフィンオキシドの析出物が形成された(Ph3P=O)。反応混合物を、水(1.5L)中に注ぎ入れ、酢酸エチル(AcOEt)で抽出した(3×1.5L)。1つにまとめた有機相を、硫酸マグネシウム(MgSO4)上で乾燥し、ろ過し、減圧濃縮した。残留物を、ジイソプロピルエーテル(1.5L)中に取り出し、形成した固体(Ph3P=O)をろ過した。溶媒を減圧濃縮し、残留物を、ヘプタンとAcOEtとの混合物(90/10;体積/体積)で溶出させるカラムクロマトグラフィで精製して、tert-ブチル(3S)-3-[4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ]ピロリジン-1-カルボキシレート(c)145g(100%)を無色オイルとして得た。
1H NMR(400 MHz, DMSO-d6, δ ppm): 1.27 (s, 12H); 1.39 (s, 9H); 2.05 (m, 1H); 2.14 (m, 1H); 3.37 (3H); 3,55 (m, 1H); 5.05 (s, 1H); 6.94 (d, J = 8.4 Hz, 2H); 7.61 (d, J = 8.4 Hz, 2H).
【0099】
化合物(d).(3S)-3-[4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2イル)フェノキシ]ピロリジン,塩酸塩
【化20】
【0100】
MeOH(450ml)中の(S)-tert-ブチル3-(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ)ピロリジン-1-カルボキシレート(c)(80g、195.23mmol)の溶液に、ジオキサン中の4N HCl(250ml)をゆっくり添加した。
【0101】
1.5時間後、反応混合物を減圧濃縮し、残留物を撹拌しながらEt2O中に取り出して固体を得、次にこれをろ過し、真空乾燥して、化合物(d)61.8g(95%)を白色粉末として得た。
1H NMR(400 MHz, DMSO-d6, δ ppm): 1.28 (s : 12H); 2.10 (m : 1H); 2.21 (m : 1H); 3.31 (3H); 3.48 (m, : 1H); 5.19 (m : 1H); 6.97 (d , J = 8.4 Hz : 2H); 7.63 (d , J = 8.4 Hz : 2H); 9.48 (s : 1H); 9.71 (s : 1H).
LC/MS (m/z, MH+): 290
【0102】
試薬(1).(3S)-1-(3-フルオロプロピル)-3-[4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ]ピロリジン
【化21】
【0103】
アセトニトリル(100ml)中の(S)-3-(4-(4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン-2-イル)フェノキシ)ピロリジン塩酸塩(d)(20g、61.42mmol)の懸濁液に、アルゴン下、K2CO3(21.22g、153.54mmol)および1-ヨード-3-フルオロプロパン(12.15g、61.42mmol)を添加した。反応混合物を40℃で24時間撹拌した。室温まで冷却した後、反応混合物をろ過し、アセトニトリルで洗浄した。ろ液を減圧濃縮し、残留物をDCM中に取り出し、形成した固体をろ過し、DCMで洗浄した。ろ液を濃縮して、試薬(1)21.5g(100%)を黄色フォームとして得た。
1H NMR(400 MHz, DMSO-d6, δ ppm): 1.27 (s, 12H); 1.77 (m, 2H); 1.84 (m, 1H); 2.27 (m, 1H); 2.41 (m, 1H); 2.49 (2H); 2.62 (dd, J = 2,6 and 10,4Hz, 1H); 2.69 (m, 1H); 2.83 (dd, J = 6.2 and 1.4Hz, 1H); 4.47 (td, J = 6.2 and 47Hz, 2H); 4.99 (m, 1H); 6.77 (d, J = 8.4 Hz, 2H); 7.58 (d, J = 8.4 Hz, 2H).
LC/MS (m/z, MH+): 350
【実施例2】
【0104】
カルボキシメトキシ-ベンゾスベロン(5)からの化合物(2)の合成
中間体および最終化合物(2)、(3’)、(4)、および(5)のナンバリングは、上記で述べたスキーム2を参照する。
【0105】
第1の工程S1では、化合物(5)の5-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロベンゾ[7]アンヌレンコア(カルボキシメトキシベンゾスベロン)を、還流トルエン中、パラジウム触媒による1-ブロモ-2,4-ジクロロベンゼンのカップリングを介して6位でアリール化して、シリカゲルろ過後にMe-THF溶液として単離される2,4-ジクロロフェニル前駆体(4)を得る。
【0106】
第2の工程S2では、化合物(4)の粗Me-THF溶液を、触媒量のDBUおよび過剰量の水素化ナトリウムの存在下、N-フェニル-ビス-トリフルイミドと反応させる。水で洗浄し、アセトニトリルに溶媒交換した後、所望されるトリフレート化化合物(3’)を、結晶化によって白色固体として単離する。
【0107】
第3の工程S3では、環状エノールトリフレート(3’)を、上記で述べたキラルボロン酸エステル「試薬(1)」と、塩基として炭酸セシウムを用い、アセトニトリル/水混合物中、40±3℃で行うパラジウム触媒鈴木反応を介してカップリングする。水性ワークアップ、および酢酸イソプロピルによる溶媒交換の後、残留パラジウムを、エチレンジアミン、チャコール、およびジメルカプトトリアジンをグラフトしたシリカ、で順に処理することによって除去する。化合物(2)の粗シュウ酸塩を、酢酸イソプロピル中での結晶化によって単離する。
【0108】
これらの工程を、以下の詳細なプロトコルによって示す。
【0109】
1H NMRスペクトルは、300または400MHzのBruker Avance分光計上、溶媒ジメチルスルホキシド-d6(dDMSO-d6)中の2.50ppmを基準としたケミカルシフト(δ、単位ppm)で、303Kの温度で行った。カップリング定数(J)は、ヘルツで示した。
【0110】
液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS)データは、UPLC-SQD Waters装置、蒸発光散乱検出器Sedere、およびSQD Waters質量分析計上で、UV検出DAD 210<l<400nm、およびカラムAcquity UPLC CSH C18 1.7μm、寸法2.1×50mm、移動相H2O+0.1% HCO2H/CH3CN+0.1% HCO2H、を用いて得た。
【0111】
2.1:連結した工程S1およびS2
メチル5-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレート(5)(40g)、炭酸カリウム(K2CO3、40~101g、すなわち、1.5~4当量)、ブロモ-ジクロロベンゼン(62.1g)、キサントホス(21.2g)、およびPd2dba3(8.39g)の脱気した混合物を、窒素下、激しく撹拌しながら、反応が完了するまでトルエン(320ml)中で還流した。
【0112】
室温まで冷却した後、不溶物を、シリカのパッド(80g)上でろ過することによって除去し、続いてフィルターをトルエン(600ml)で洗浄した。ろ液からトルエンを留去し、Me-THFで交換して、MeTHF(400ml)中のα-アリール化生成物(4)(メチル6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレート)の溶液が得られ、これを次の工程でそのまま用いた。
【0113】
純粋な生成物(4)のサンプルを、アリコートのシリカゲルクロマトグラフィによって単離した(溶出液:クロロメタン-ヘプタン)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 in ppm) of the isolated compound (4): 1.77 (m, 1 H) 2.00 (m, 1 H); 2.18 (m, 2 H); 3.08 (m, 1 H); 3.20 (m, 1 H); 3.89 (s, 3 H); 4.46 (dd, J=11.3, 3.7 Hz, 1 H); 7.46 (m, 2 H); 7.59 (d, J=2.0 Hz, 1 H); 7.64 (d, J=7.9 Hz, 1 H); 7.91 (dd, J=8.0, 1.4 Hz, 1 H); 7.94 (s, 1 H).
LC/MS ([M+H]+): 363
【0114】
工程S1で得た化合物(4)のMe-THF溶液(スケール:40gの化合物(4))に、N,N-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アニリン(80g)を添加した。得られた溶液を、DBU(5ml)を含有するNaH(10g、オイル中の60%分散体)のMe-THF(200ml)懸濁液に、撹拌しながら0℃で滴下した。反応混合物を、反応完了まで室温で撹拌した。
【0115】
0℃まで冷却した後、酢酸(4ml)を、続いて水(400ml)を滴下した。水相を室温で分離し、有機相を、希塩化ナトリウム水溶液(NaCl、0.6M;3×400ml)で洗浄した。Me-THFを留去し、アセトニトリルで交換した。熱アセトニトリル中でのろ過によって不溶物を除去した後、化合物(3’)(メチル6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-(トリフルオロメチルスルホニルオキシ)-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレート)を、アセトニトリル250mlで結晶化し、ろ過によって単離し、冷アセトニトリルとヘプタンとで洗浄して、純トリフレート61.2gを白色固体として得た。
【0116】
収率:67.4%(S1およびS2の2工程で)
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 in ppm): 2.18 (m, 2 H); 2.41 (m, 2 H); 2.95 (m, 2 H); 3.90 (s, 3 H); 7.55 (m, 2 H); 7.68 (d, J=8 Hz, 1 H); 7.80 (d, J=1.8 Hz, 1 H) 8.01 (m, 2 H).
LC/MS (EI m/z): 494 +
化合物(3’)の純度:99.0%、HPLCで測定:
- 移動相:水/アセトニトリル/HCOOH;
- 固定相:XSelect CSH C18-3.5μm(Waters)または同等物;
- カラム長さ:100mm;
- カラム内径:4.6mm;
- 流量:1mL/分;
- 注入量:10μL;
- 検出:254nm(UV)。
【0117】
2.2:工程S3
トリフレート(3’)(20g)、ボロン酸エステル「試薬(1)」(14.1g)、Cs2CO3(19.7g)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(1.4g)、水(100ml)、およびアセトニトリル(260ml)の脱気した混合物を、窒素下、40℃で撹拌した。変換の完了後、反応媒体を室温まで冷却し、酢酸イソプロピル(100ml)を添加し、水相を分離した。有機相を、希NaCl水溶液(0.3M;2×200ml)で洗浄し、酢酸イソプロピルの共沸蒸留によって乾燥し、エチレンジアミン、チャコール、およびジメルカプトトリアジンをグラフトしたシリカ、で順に処理して、残留パラジウムを除去した。
【0118】
得られた化合物(2)、すなわち6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-{4-[1-(3-フルオロ-プロピル)-ピロリジン-3-イルオキシ]-フェニル}-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾシクロヘプテン-2-カルボン酸メチルエステルの酢酸イソプロピル中の溶液を、200mlに調節し、70℃に加熱し、酢酸イソプロピル(43ml)中のシュウ酸(3.6g)溶液を、撹拌しながら滴下した。シーディング(従来の結晶化法によって生成物の別のバッチで既に製造しておいたシードを用いた)および0℃への冷却後、以下に示す化合物(2)の所望されるシュウ酸塩が結晶化し、ろ過によって70%の収率(18.6g、白色粉末)で単離した:
【化22】
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 in ppm): 7.92 (d, J=2.0 Hz, 1H); 7.78 (dd, J=8.0 and 2.0 Hz, 1H); 7.59 (d, J=2.2 Hz, 1H); 7.29 (dd, J=8.3 and 2.2 Hz, 1H); 7.22 (d, J=8.3 Hz, 1H); 6.90 (d, J=8.0 Hz, 1H); 6.78 (d, J=9.0 Hz, 2H); 6.73 (d, J=9.0 Hz, 2H); 4.98 (m, 1H); 4.50 (dt, J=47.2 and 5.7 Hz, 2H); 3.86 (s, 3H); 3.49 (dd, J=12.8 and 5.8 Hz, 1H); from 3.38 to 3.08 (m, 5H); 2.94 (t, J=5.0 Hz, 2H); 2.34 (m, 1H); from 2.23 to 2.11 (m, 3H); from 2.07 to 1.93 (m, 2H).
LC/MS ([M+H]
+): 568
【0119】
化合物(2)シュウ酸塩の純度:98.2%、上記工程S2での記載と同じ条件下でHPLCによって測定。
【実施例3】
【0120】
工程S1の代替プロトコル
3.1:代替法1
ナトリウムtert-ブトキシドの2M THF溶液(19.48ml)を、化合物(5)(5g)、1-ブロモ-2,4-ジクロロベンゼン(7.76g)、酢酸パラジウム(257mg)、キサントホス(660mg)、およびTHF(20ml)を含有する脱気した混合物に60℃で滴下した。この反応物を、反応完了まで60℃で加熱し、室温まで冷却し、モルのKH2PO4水溶液でクエンチした。酢酸エチルによる抽出、水による洗浄、およびシリカゲルクロマトグラフィによる精製の後、化合物(4)を、収率70%、純度92%で単離した。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 in ppm): 1.78 (m, 1 H); 2.01 (m, 1 H); 2.19 (m, 2 H); 3.10 (m, 1 H); 3.22 (m, 1 H); 3.89 (s, 3 H); 4.47 (dd, J=11.3, 3.6 Hz, 1 H); 7.47 (m, 2 H); 7.61 (d, J=1.8 Hz, 1 H); 7.65 (d, J=7.9 Hz, 1 H); 7.92 (d, J=7.7 Hz, 1 H); 7.95 (s, 1 H).
LC/MS ([M+H]+): 363
【0121】
3.2:代替法2
化合物(5)(0.5g)、1-ヨード-2,4-ジクロロベンゼン(0.76ml)、トルエン(9ml)、水(1ml)、Cs2CO3(1.05g)、酢酸パラジウム(50mg)、およびキサントホス(250mg)を含有する脱気した混合物を、約22時間にわたって加熱還流した。室温まで冷却した後、有機相をジクロロメタンで希釈し、水で洗浄し、シリカゲル上でのクロマトグラフィで精製して、白色固体730mg(87%)を得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 in ppm): 1.78 (m, 1 H); 2.01 (m, 1 H); 2.19 (m, 2 H); 3.09 (m, 1 H); 3.21 (m, 1 H); 3.89 (s, 3 H); 4.47 (dd, J=11.3, 3.7 Hz, 1 H); 7.47 (m, 2 H); 7.60 (d, J=2.0 Hz, 1 H); 7.64 (d, J=8.1 Hz, 1 H); 7.92 (dd, J=7.9, 1.5 Hz, 1 H); 7.95 (s, 1 H).
【実施例4】
【0122】
工程S2の代替プロトコル
3.1:代替法1
カリウムビス-トリメチルシリルアミドの0.5MのTHF溶液(7.70ml)を、THF(18ml)中の化合物(4)(1g)およびN-フェニルビス-トリフルイミド(1.22g)の混合物に、-50℃で滴下した。室温まで加温後、反応媒体を0~5℃の水でクエンチし、ジクロロメタンで、続いて酢酸エチルで抽出し、シリカゲルクロマトグラフィ(溶出液:ジクロロメタン-ヘプタン)で精製して、所望される化合物(3’)を、収率80%およびLC/MSで測定した純度90%で得た。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 in ppm): 2.18 (m, 2 H); 2.41 (m, 2 H); 2.95 (m, 2 H); 3.89 (s, 3 H); 7.55 (m, 2 H); 7.68 (d, J=8.1 Hz, 1 H); 7.80 (d, J=1.7 Hz, 1 H); 8.01 (m, 2 H).
LC/MS ([M+H]+): 494
【0123】
3.2:代替法2
DBU(247μl)を、アセトニトリル(2ml)中に化合物(4)(500mg)およびN,N-ビス(トリフルオロメチルスルホニル)アニリン(639mg)を含有する懸濁液に、0~5℃で滴下した。室温で22時間撹拌後の変換率は、約80%であった。反応混合物を、0~5℃まで冷却し、水素化ナトリウム(オイル中の60%分散体27.5mg)を添加した。室温で1.5時間撹拌した後、変換率は、約100%であった。得られた懸濁液を0~5℃まで冷却し、ろ過し、予め冷却しておいたアセトニトリル(0.5ml)で、続いて水(2ml)で洗浄して、化合物(3’)460mgを、LC/MSで測定した純度98%で、白色粉末として得た(収率:67.5%)。
1H NMR (400 MHz, DMSO-d6 in ppm): 2.18 (m, 2 H); 2.42 (m, 2 H); 2.95 (m, 2 H); 3.90 (s, 3 H); 7.55 (m, 2 H); 7.68 (d, J=7.9 Hz, 1 H); 7.82 (s, 1 H); 8.02 (m, 2 H).
【0124】
上記の実施例で示したように、本明細書で述べる化合物(2)の塩のための合成方法では、化合物(5)から化合物(2)までの全体の収率を、約33~49%とすることができる。これは、スキーム3に示すこれまでに報告された合成方法で見られた収率よりも高く、その場合の化合物(2)を得る収率は、同じ化合物メチル5-オキソ-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-2-カルボキシレートから出発して、約26%である。
【0125】
本明細書で述べる合成方法ではまた、鈴木カップリング工程の後に、化合物(2)の塩基形態が関与する既知の合成経路では必要であったが、工業レベルで適用可能な合成経路を必要とする場合には適さないカラムクロマトグラフィを行う必要なしに、良好な収率で新規な塩形態の化合物(2)を得ることもできる。
【実施例5】
【0126】
ジベンゾイル酒石酸塩の形態での化合物(2)の合成
メチル8-ブロモ-9-(4-{[(3S)-1-(3-フルオロプロピル)ピロリジン-3-イル]オキシ}フェニル)-6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ[7]アンヌレン-3-カルボキシレート臭化水素酸塩(25.0g)、2,4-ジクロロフェニルボロン酸(9.9g)、K2CO3(11.9g)、ビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)ジクロリド(1.4g)、水(75ml)、および1,4-ジオキサン(206ml)の脱気した混合物を、窒素下、60℃で撹拌した。次に、2,4-ジクロロフェニルボロン酸(9.9g)を、水と1,4-ジオキサン(25ml)との混合物中に溶解し、添加した。変換の完了後、反応媒体を室温まで冷却し、水(50ml)中のピロリジンジチオカルバメート(1.4g)を添加した。混合物を20℃で撹拌し、ろ過した。フィルターをトルエンで洗浄し、水相を分離した。有機相を、希NaCl水溶液(2M、3×75ml)で洗浄した。次に、チャコール(2.5g)およびAl2O3(50.1g)を20℃で添加した。混合物をろ過し、フィルターをトルエンで洗浄した(3×50ml)。有機相を、1,4-ジオキサンの一部を除去するために1.8容量に濃縮した。
【0127】
(-)ジベンゾイル酒石酸(15.4g)を、得られた化合物(2)、すなわち6-(2,4-ジクロロフェニル)-5-{4-[1-(3-フルオロ-プロピル)-ピロリジン-3-イルオキシ]-フェニル}-8,9-ジヒドロ-7H-ベンゾシクロヘプテン-2-カルボン酸メチルエステルの溶液に添加した。20℃で撹拌しながらN-ヘプタン(300ml)を滴下した。化合物(2)のジベンゾイル酒石酸塩を、ろ過によって85%の収率(43.3g)で単離した。
RMN 1H (400 MHz, DMSO-d6in ppm): 1,82-1,98 (m, 3 H); 2,09-2,30 (m, 5 H); 2,89-3,22 (m , 7 H); 3,39 (m, 1 H); 3,86 (s, 3 H); 4,39 (td, J=5,9 and 47,4 Hz, 2 H); 4,87 (m, 1 H); 5,76 (s, 2 H); 6,67 (d, J=8,9 Hz, 2 H); 6,75 (d, J=8,9 Hz, 2 H); 6,90 (d, J=8,1 Hz, 1 H); 7,20 (d, J=8,4 Hz, 1 H); 7,29 (dd, J=2,0 and 8,4 Hz, 1 H); 7,54 (t, J=7,9 Hz, 4 H); 7,60 (d, J=2,0 Hz, 1 H); 7,68 (tt, J=1,3 and 7,9 Hz, 2 H); 7,79 (dd, J=1,8 and 8,1 Hz, 1 H); 7,96 (d, J=1,8 Hz, 1 H); 7,98 (t, J=7,9 Hz, 4 H); 10,70 (m spread, 1 H) ; 13,00 (m spread, 1 H).
【0128】
液体クロマトグラフィ/質量分析(LC/MS)データを、以下のようにして得た:
質量分析の分析データ
M+=568g.mol-1
M’(塩)=358g.mol-1
質量分析器:Waters UPLC-SQD、エレクトロスプレーイオン化(ES+/-)
クロマトグラフィ条件:
カラム:ACQUITY UPLC CSH C18-1.7μm-2.1×50mm
溶媒:A:H2O(+0.1%ギ酸)B:CH3CN(+0.1%ギ酸)
カラム温度:45℃
流量:0.85ml/分
勾配(2.5分):2.5分間で5%から100%のB;2.40分間の100%B;0.05分間で100%から5%のB
UV:190~380nm
結果:
・1.12分(UV純度31%):[M’-H]-に相当するES-におけるm/z=357
・1.17分(UV純度67%):[M]+に相当するES+におけるm/z=568
化合物(2)ジベンゾイル酒石酸塩の純度:93.2%、HPLCで測定
【実施例6】
【0129】
化合物(2)の塩化実験
化合物(2)のシュウ酸塩およびジベンゾイル酒石酸塩は、反応媒体から析出、結晶化して、反応媒体からの化合物(2)の塩の回収を可能とする点において、特に有利である。化合物(2)の塩基形態では、試験したいずれの溶媒および温度でも、生成物を反応媒体から単離することができなかった。以下の表1に示すように、化合物(2)で試験した様々な塩の中で、シュウ酸塩およびジベンゾイル酒石酸塩だけが、容易に析出可能であった。
【0130】