(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】水溶性フィルムおよび包装体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20231207BHJP
C08J 7/06 20060101ALI20231207BHJP
B29C 41/24 20060101ALI20231207BHJP
B29C 41/36 20060101ALI20231207BHJP
B65D 65/02 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
C08J7/06 Z
B29C41/24
B29C41/36
B65D65/02 E
(21)【出願番号】P 2021516149
(86)(22)【出願日】2020-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2020017286
(87)【国際公開番号】W WO2020218321
(87)【国際公開日】2020-10-29
【審査請求日】2022-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2019082218
(32)【優先日】2019-04-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100179969
【氏名又は名称】駒井 慎二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 稔
(72)【発明者】
【氏名】清水 さやか
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-78166(JP,A)
【文献】国際公開第2016/047126(WO,A1)
【文献】特開2006-307059(JP,A)
【文献】特開2006-305924(JP,A)
【文献】特開平9-11606(JP,A)
【文献】特開2013-147670(JP,A)
【文献】特開平10-34844(JP,A)
【文献】特開昭55-3455(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0117278(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00- 5/02
5/12- 5/22
B65D65/00-65/46
B29C71/04
C08J 7/00- 7/02
7/12- 7/18
B29C41/00-41/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって、前記水溶性フィルムの第1の表面を、X線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F1S)が、1mol%以上、25mol%以下、かつ、第1の表面から0.1μmの深さの面をX線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F1B)が、0.5mol%以下である水溶性フィルム。
【請求項2】
前記水溶性フィルムにおいて、前記第1の表面と対向する第2の表面を、X線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F2S)が、1mol%以上、25mol%以下、かつ、第2の表面から0.1μmの深さの面をX線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F2B)が、0.5mol%以下である、請求項1に記載の水溶性フィルム。
【請求項3】
前記F1SとF2Sの差が2.5mol%以上である、請求項2に記載の水溶性フィルム。
【請求項4】
前記フッ素元素が、分子量10000以下のフッ素含有界面活性剤に含有されていることを特徴とする、請求項1~3に記載の水溶性フィルム。
【請求項5】
フッ素含有界面活性剤が、フルオロアルキルアルコール、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキル硫酸エステル塩、フルオロアルキルスルホン酸塩、フルオロアルキルリン酸エステル塩、フルオロアルキルホスホン酸塩、フルオロアルキル亜ホスホン酸塩、フルオロアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の水溶性フィルム。
【請求項6】
フッ素含有界面活性剤が、フルオロアルキルアルコール、フルオロアルキルリン酸エステル塩、フルオロアルキルスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の水溶性フィルム。
【請求項7】
請求項1~6に記載の水溶性フィルムが薬剤を収容している包装体。
【請求項8】
前記の薬剤が農薬、洗剤または殺菌剤である、請求項7に記載の包装体。
【請求項9】
前記の薬剤が液体状である、請求項7または8に記載の包装体。
【請求項10】
支持体上にフッ素含有界面活性剤を塗布し、該塗布面上にポリビニルアルコール樹脂を含有する製膜原液を膜状に流涎する、請求項4~6に記載の水溶性フィルムの製造方法。
【請求項11】
フッ素含有界面活性剤の溶液または分散液を支持体上に連続的に塗布し、乾燥して支持体上にフッ素含有界面活性を塗布する、請求項10に記載の水溶性フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種薬剤の梱包などに好適に使用されるポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムおよびそれを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、水溶性フィルムは、洗剤や農薬といった各種薬剤、種子を内包する包装体などの用途に幅広く使用されており、その簡便性より需要は拡大している。
【0003】
かかる用途に用いる水溶性フィルムには、ポリビニルアルコール樹脂(以下、PVAと称することがある)を主成分とするPVAフィルムが広く用いられている。このPVAフィルムの各種物性を改善するため、様々な技術が提案されている。例えば可塑剤等の各種添加剤を配合したり、変性PVAを用いたりすることによって、水溶性を高めた水溶性フィルムが提案されている(例えば特許文献1)。
【0004】
特許文献1に開示されている水溶性フィルムは、可塑剤等の添加量を調整することや、変性PVAを用いたりすることにより、その結晶化度を低下させ、水溶性を高めている。しかしながら、水溶性フィルムには親水性のPVAを使用しており、PVAは金属材料との相互作用が高い。そのため、金属ロールや金属ベルト等の支持体上で水溶性フィルムを製膜する際に、支持体からのフィルムの剥離性が悪く、面荒れや厚みむら等を生じやすい。従来は、水溶性フィルム中に界面活性剤を含有させるなどの方法で、剥離性を制御している。
【0005】
しかし、近年の水溶性フィルムの需要増加に伴い、生産性の改善が望まれている。製膜速度を速めることで生産性の改善は可能であるが、製膜速度が速くなるに従い、従来の技術では剥離性が不十分となり、面荒れや厚みむら等が生じて製品としての収率が低下する原因となっている。
【0006】
一方、本発明の用途とは異なる光学用途のPVAフィルムにおいても同様に、製膜時の支持体からのPVAフィルムの剥離性不良の問題があり、それに対してフッ素を含有する界面活性剤をPVAフィルムの製膜原液中に添加するという方法が提案されている(特許文献2)。また、同じく光学用途のPVAフィルムに関して、キャスト基材をフッ素含有樹脂でコーティング処理して強固なフッ素系樹脂膜を形勢し、剥離性を改善するという方法が提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-078166号公報
【文献】特開2006-307059号公報
【文献】特開2006-305924号公報
【0008】
しかしながら、特許文献2の技術では、フッ素含有界面活性剤を多く使用する必要があり、近年問題となっている、ハロゲン物質による環境汚染への対応が困難である。また、疎水性のフッ素含有物質は、PVAとの親和性が低いことから、フィルム中での相分離が起き、フィルムの透明性が損なわれやすい。さらに、この技術を水溶性フィルムに適用する場合、フィルムがフッ素含有界面活性剤を多く含有すると、内包物を包装した後に行う水および/または熱によるフィルム同士のシール(以下、シールと称することがある)の際に、シール不良が生じることがしばしばあり、シール部より内包物が漏洩することがある。
【0009】
一方、特許文献3の技術を水溶性フィルムに適用すると、水溶性フィルムは光学用フィルムに比べ、吸湿によるフィルム同士のこう着を生じやすく、ロール巻き出し時などにロールとの摩擦による皺の発生や破断などが生じることがある。また、ロールやベルトなどの支持体上に強固なフッ素樹脂層を形成するのは材料面でも、支持体のメンテナンスの観点でもコストがかかりやすい。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、水溶性フィルムの製膜時の支持体からの剥離性、透明性およびシール性に優れる水溶性フィルムおよびそれを用いた薬剤の包装体を提供することを目的とする。さらに本発明はこれら特性に優れる水溶性フィルムの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、水溶性フィルムの第1の表面の全元素中のフッ素元素の占める割合が特定の範囲にあり、かつ第1の表面からフィルムの厚み方向の中心側にわずかに入った場所のフッ素元素の占める割合がある値以下である場合に上記課題が解決されることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]
ポリビニルアルコール樹脂を含有する水溶性フィルムであって、前記水溶性フィルムの第1の表面を、X線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F1S)が、1mol%以上、25mol%以下、かつ、第1の表面から0.1μmの深さの面をX線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F1B)が、0.5mol%以下である水溶性フィルム。
[2]
前記水溶性フィルムにおいて、前記第1の表面と対向する第2の表面を、X線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F2S)が、1mol%以上、25mol%以下、かつ、前記水溶性フィルムの第2の表面から0.1μmの深さの面をX線光電分光法により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F2B)が、0.5mol%以下である、前記[1]に記載の水溶性フィルム。
[3]
前記F1SとF2Sの差が2.5mol%以上である、前記[1]または[2]に記載の水溶性フィルム。
[4]
前記フッ素元素が、分子量10000以下のフッ素含有界面活性剤に含有されていることを特徴とする、前記[1]~[3]に記載の水溶性フィルム。
[5]
フッ素含有界面活性剤が、フルオロアルキルアルコール、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキル硫酸エステル塩、フルオロアルキルスルホン酸塩、フルオロアルキルリン酸エステル塩、フルオロアルキルホスホン酸塩、フルオロアルキル亜ホスホン酸塩、フルオロアルキルアンモニウム塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[4]に記載の水溶性フィルム。
[6]
フッ素含有界面活性剤が、フルオロアルキルアルコール、フルオロアルキルリン酸エステル塩、フルオロアルキルスルホン酸塩からなる群から選ばれる少なくとも1種である前記[5]に記載の水溶性フィルム。
[7]
前記[1]~[6]に記載の水溶性フィルムが薬剤を収容している包装体。
[8]
前記の薬剤が農薬、洗剤または殺菌剤である、前記[7]に記載の包装体。
[9]
前記の薬剤が液体状である、前記[7]または[8]に記載の包装体。
[10]
支持体上にフッ素含有界面活性剤を塗布し、該塗布面上にポリビニルアルコール樹脂を含有する製膜原液を膜状に流涎する、前記[4]~[6]に記載の水溶性フィルムの製造方法。
[11]
フッ素含有界面活性剤の溶液または分散液を支持体上に連続的に塗布し、乾燥して支持体上にフッ素含有界面活性を塗布する前記[10]に記載の水溶性フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば製膜時の支持体からの剥離性、透明性およびシール性に優れる水溶性フィルムおよびそれを用いた薬剤の包装体を提供することができる。また本発明によればこのような特性に優れる水溶性フィルムを製造することができる。
さらに本発明の水溶性フィルムは上記特性を維持しつつ、吸湿によるフィルム同士のこう着抑制にも優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0015】
本発明において、水溶性フィルムの第1の表面を、X線光電分光法(以下、XPSと称することがある)により分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F1S)が、1mol%以上、25mol%以下であることが重要である。F1Sが1mol%未満の場合、製膜時の基材からの剥離性が不十分になる。F1Sは、1.5mol%以上であることが好ましく、2mol%以上であることがより好ましく、2.5mol%以上であることが更に好ましく、3mol%以上であることが特に好ましい。一方、F1Sが25mol%を超える場合、包装体をシールする際にシール不良を生じやすい。F1Sは23mol%以下が好ましく、21mol%以下がより好ましく、20mol%以下がさらに好ましく、19mol%以下が特に好ましい。
【0016】
加えて本発明においては、前記水溶性フィルムの第1の表面から0.1μmの深さの面をXPSにより分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F1B)が、0.5mol%以下であることも重要である。F1Bが0.5mol%を超える場合も、包装体をシールする際にシール不良を生じやすい。F1Bは0.4mol%以下が好ましく、0.3mol%以下がより好ましく、0.2mol%以下がさらに好ましい。F1Bは0mol%、すなわちXPSの測定装置の検出限界以下であってもよい。一般的なXPSの測定装置の検出限界は通常、0.1mol%近辺である。
【0017】
本発明において、水溶性フィルム表面のフッ素元素およびその他の元素の量は、XPSにより測定される。XPS測定とは、試料表面にX線を照射することにより原子の内殻電子を励起し、それにより放出された光電子の運動エネルギーを検出することによって、試料表面に存在する元素の同定および定量や、化学結合状態の分析を行うものである。
本発明においては、XPSにて測定される元素は、炭素(1s軌道電子)、窒素(1s軌道電子)、酸素(1s軌道電子)、フッ素(1s軌道電子)、ナトリウム(1s軌道電子)、ケイ素(2p軌道電子)、リン(2p軌道電子)、硫黄(2p軌道電子)である。これら元素を定量し、その合計量に対するフッ素元素の割合をF1Sとした。
【0018】
また、XPS測定では、C60(バックミンスターフラーレン)やアルゴンクラスターなどによってフィルム表面をエッチング処理して、深さ方向に分析することも可能である。本発明では、C60を用いて、加速電圧10kV、試料電流20nA、走査範囲0.5×2.0mmの条件で100秒間エッチング処理することにより、フィルム表面からおおよそ0.1μmの深さの面を露出させ、F1Bを定量した。
【0019】
なお、本発明において、水溶性フィルムの両面をXPS測定し、それぞれの表面の全元素中に占めるフッ素元素の割合を求めたときに、フッ素元素の割合が大きい方を第1の表面とした。
【0020】
本発明において、水溶性フィルムの前記第1の表面と対向する第2の表面を、XPSにより分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F2S)が、1mol%以上であることが好ましい。F2Sが1mol%未満の場合、フィルム間のこう着を生じやすくなる傾向がある。F2Sは、1.5mol%以上であることがより好ましく、2mol%以上であることがさらに好ましく、2.5mol%以上であることが特に好ましい。一方、F2Sが25mol%を超える場合、包装体をシールする際にシール不良を生じやすくなる傾向がある。F2Sは23mol%以下がより好ましく、21mol%以下がさらに好ましく、19mol%以下が特に好ましい。
【0021】
加えて本発明においては、前記水溶性フィルムの第2の表面から0.1μmの深さの面をXPSにより分析した時に求められるフッ素元素の全元素に占める割合(F2B)が、0.5mol%以下であることが好ましい。F2Bが0.5mol%を超える場合も、包装体をシールする際にシール不良を生じやすくなる傾向がある。F2Bは0.4mol%以下がより好ましく、0.3mol%以下がさらに好ましく、0.2mol%以下が特に好ましい。F2Bは0mol%、すなわちXPSの測定装置の検出限界以下であってもよい。XPSの測定装置の検出限界は通常、上記したとおりである。
【0022】
また本発明において、F1SとF2Sの差が2.5mol%以上であることが好ましい。F1SとF2Sの差が2.5mol%以上であることにより、シール不良が生じにくくなる傾向がある。F1SとF2Sの差は、3mol%以上であることがより好ましく、4mol%以上であることがさらに好ましい。本発明において、F1SとF2Sの差は25mol%を超える事はない。
【0023】
<ポリビニルアルコール樹脂>
本発明の水溶性フィルムはポリビニルアルコール樹脂(PVA)を含有する。PVAとしては、ビニルエステルモノマーを重合して得られるビニルエステル重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0024】
上記のビニルエステル重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルモノマーのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルモノマーのみを用いて得られたものがより好ましいが、1種または2種以上のビニルエステルモノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0025】
このようなビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。上記のビニルエステル重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0026】
上記のビニルエステル重合体に占める上記他のモノマーに由来する構造単位の割合は、水溶性やフィルム強度の観点から、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0027】
PVAの重合度に特に制限はないが、重合度の下限としては、フィルム強度の観点から200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましい。一方、重合度の上限としては、PVAの生産性や水溶性フィルムの生産性などの点から8,000以下であることが好ましく、5,000以下であることがより好ましく、3,000以下であることがさらに好ましい。ここで、重合度とは、JIS K 6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度を意味する。すなわち、本明細書において、重合度は、PVAの残存酢酸基をけん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](単位:デシリットル/g)から、次式により求められる。
Po = ([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0028】
本発明において、PVAのけん化度は64~99.99モル%であることが好ましい。けん化度をこの範囲に調整することにより、フィルムの水溶性と力学物性を両立しやすい。けん化度の下限は、70モル%以上であることがより好ましく、75モル%以上であることが更に好ましい。一方けん化度の上限は99.96モル%以下であることがより好ましく、99.93モル%以下であることが更に好ましい。ここでPVAのけん化度は、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステルモノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVAのけん化度は、JIS K 6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0029】
本発明における水溶性フィルムは、PVAとして1種類のPVAを単独で用いてもよいし、重合度やけん化度あるいは変性度などが互いに異なる2種以上のPVAをブレンドして用いてもよい。
【0030】
本発明において、水溶性フィルムにおけるPVAの含有率は特に制限されないが、50質量%が好ましく、80質量%がより好ましく、85質量%がさらに好ましい。
【0031】
<可塑剤>
PVAフィルムは、可塑剤を含まない状態では他のプラスチックフィルムに比べ剛直であり、衝撃強度等の機械的物性や二次加工時の工程通過性などが問題になることがある。それらの問題を防止するために、本発明の水溶性フィルムには可塑剤を含有させることが好ましい。好ましい可塑剤としては多価アルコールが挙げられ、具体的には、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ソルビトール等の多価アルコールなどを挙げることができる。これらの可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの可塑剤の中でも、フィルム表面へのブリードアウトをしにくいなどの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましく、グリセリンがより好ましい。
【0032】
水溶性フィルムにおける可塑剤の含有量としては、水溶性フィルムに含まれるPVA100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましく、また、70質量部以下であることが好ましく、50質量部以下であることがより好ましく、40質量部以下であることがさらに好ましい。上記の含有量が1質量部未満であると、衝撃強度等の機械的物性の改善効果が不十分になるおそれがある。一方、上記の含有量が70質量部を超えると、フィルムが柔軟になりすぎて取り扱い性が低下したり、フィルム表面にブリードアウトして様々な問題を生じたりする場合がある。
【0033】
<澱粉/水溶性高分子>
水溶性フィルムに機械的強度を付与し、フィルムを取り扱う際の耐湿性を維持し、あるいはフィルムを溶解する際の水の吸収による柔軟化の速度を調節することなどを目的として、本発明のフィルムに澱粉および/またはPVA以外の水溶性高分子を含有させてもよい。
【0034】
澱粉としては、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、コメ澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉類;エーテル化加工、エステル化加工、酸化加工等が施された加工澱粉類などを挙げることができ、特に加工澱粉類が好ましい。
【0035】
水溶性フィルムにおける澱粉の含有量は、PVA100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。含有量が15質量部より大きいと、工程通過性が悪化するおそれがある。
【0036】
PVA以外の水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0037】
水溶性フィルムにおけるPVA以外の水溶性高分子の含有量は、PVA100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。含有量が15質量部より大きいと、フィルムの水溶性が不足するおそれがある。
【0038】
<界面活性剤>
本発明において水溶性フィルムは、その取り扱い性や、また水溶性フィルムの膜面異常(ダイライン、面荒れ等)の抑制などの観点から界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤の種類に特に制限はなく、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0039】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。
【0040】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。
【0041】
界面活性剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの界面活性剤の中でも、製膜時の膜面異常の低減効果に優れることなどから、ノニオン系界面活性剤が好ましく、特にアルカノールアミド型の界面活性剤がより好ましく、脂肪族カルボン酸(例えば、炭素数8~30の飽和または不飽和脂肪族カルボン酸など)のジアルカノールアミド(例えば、ジエタノールアミド等)が更に好ましい。
【0042】
水溶性フィルムにおける界面活性剤の含有量は、PVA100質量部に対して、0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることが更に好ましい。一方、界面活性剤の含有量の上限は、5質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることが更に好ましく、0.3質量部以下であることが特に好ましい。上記含有量が0.02質量部より少ないと、水溶性フィルムを製造する際の製膜装置からの剥離性が不良になる、あるいはフィルム間でブロッキングを生じるなどの問題を生じやすくなる。一方、上記含有量が5質量部より多いと、フィルム表面へのブリードアウトや、界面活性剤の凝集によるフィルム外観の悪化などの問題を生じやすい。
【0043】
<その他の成分>
本発明の水溶性フィルムは、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子、界面活性剤以外に、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、着色剤、充填剤、防腐剤、防黴剤、他の高分子化合物などの成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有してもよい。PVA、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子、界面活性剤の各質量の合計値が本発明の水溶性フィルムの全質量に占める割合は、60~100質量%の範囲内であることが好ましく、80~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0044】
PVAおよび上記の各成分はPVAおよび溶媒と均一に混合され、水溶性フィルムを製膜するための製膜原液として調整される。使用する溶媒は、水、アルコール、ジメチルスルホキシドなど、PVAに対して良溶媒であれば任意のもの使用することができる。それらの中で、コスト、環境負荷、溶媒回収が不要、などの観点より、水が好ましい。溶媒は1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
本発明において、製膜原液の調整方法に特に制限はなく、例えば、PVAと可塑剤、界面活性剤などの添加剤を溶解タンク等で溶解させる方法や、一軸または二軸押出機を使用して含水状態のPVAを溶融混錬する際に、可塑剤、界面活性剤などと共に溶融混錬する方法など、任意の方法を採用できる。
【0046】
上記製膜原液の揮発分率(製膜時などに揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)は50~90質量%の範囲内であることが好ましく、55~80質量%の範囲内であることがより好ましい。揮発分率が50質量%未満であると、製膜原液の粘度が高くなり、製膜が困難となる場合がある。一方、揮発分率が90質量%を超えると、粘度が低くなり得られるフィルムの厚さ均一性が損なわれやすい。
製膜原液の揮発分率は、下記の式により求められる。
製膜原液の揮発分率(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
(式中、Waは製膜原液の質量(g)を表し、WbはWa(g)の製膜原液を105℃の電熱乾燥機中で16時間乾燥した時の質量(g)を表す。)
【0047】
<水溶性フィルムの製造方法>
本発明において、水溶性フィルムの製膜方法は、上記製膜原液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(製膜原液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、PVAフィルムを得る方法)、あるいはこれらの組み合わせにより製膜する方法や、押出機などを使用して上記製膜原液を得てこれをTダイなどから押出すことにより製膜する溶融押出製膜法やインフレーション製膜法など、が例示できる。これらの中でも、流延製膜法および溶融押出製膜法が、均質なフィルムを生産性よく得ることができるため、好ましい。本発明の水溶性フィルムは金属ロールや金属ドラムからの剥離性に優れることから、金属ロールや金属ドラム等の支持体上にPVA原液が塗工され、乾燥、剥離するという製膜方法が生産性の観点から好ましい。以下、水溶性フィルムの流延製膜法または溶融押出製膜法について説明する。
【0048】
水溶性フィルムを流延製膜法または溶融押出製膜法にて製膜する場合、上記の製膜原液は金属ロールや金属ベルトなどの支持体の上へ膜状に流涎され、加熱されて溶媒が除去されることにより、固化してフィルム化する。固化したフィルムは支持体より剥離されて、必要に応じて乾燥ロール、乾燥炉などにより乾燥されて、さらに必要に応じて熱処理されて、巻き取られることにより、ロール状の長尺の水溶性フィルムを得ることができる。
【0049】
本発明において、水溶性フィルム表面に占めるフッ素元素の割合(F1SおよびF2S)を1mol%以上、25mol%以下に調整する方法としては、(1)上記支持体上にフッ素含有化合物を塗布し、該塗布面上にPVAを含有する製膜原液を膜状に流延する方法、(2)上記支持体状にPVAを含有する製膜原液を膜状に流延して製膜したPVAフィルム上に、フッ素含有化合物をコーティングする方法、(3)PVAを含有する製膜原液にフッ素含有化合物を添加し、該製膜原液を膜状に流延する方法、などが例示される。これらの中でも、製造コスト、フィルム表面のフッ素の均一性などの観点から、上記(1)の方法が特に好ましい。以下、その方法について説明する。
【0050】
本発明において、フッ素含有化合物は、水溶性フィルム表面への転写の容易性より、分子量10000以下のフッ素含有界面活性剤が好ましい。フッ素含有界面活性剤の分子量は150~9000の範囲にあることがより好ましく、300~8000の範囲にあることがさらに好ましく、400~7000の範囲にあることが特に好ましく、500~6000の範囲にあることが最も好ましい。
【0051】
固体または粘度の高い液体のフッ素含有界面活性剤は、水、アルコールなど、適当な溶媒に溶解、または分散されて使用される。粘度の低い液体のフッ素含有界面活性剤は、そのまま使用しても良い。支持体上にフッ素含有界面活性剤を塗布する方法としては粘度の低いフッ素含有界面活性剤、または粘度の高いフッ素含有界面活性剤の溶液、分散液を、(1)支持体に直接接触させた後、ドクターナイフ等で塗布量を均一化する方法、(2)該分散液等をロールコーターで均一に塗布する方法など、任意の方法を使用できる。このとき、必要に応じて、支持体を加熱したり熱風を吹き付けるなどして、塗布面を乾燥させてもよい。中でも、フッ素含有界面活性剤を支持体上に均一に塗布するという観点から、フッ素含有界面活性剤の溶液または分散液を支持体上に連続的に塗布し、乾燥させることが好ましい。具体的には、PVAフィルムを支持体から剥離した後、製膜原液が支持体に流延される間に、フッ素含有界面活性を支持体に連続的に塗布し乾燥させることが好ましい。
【0052】
<フッ素含有界面活性剤>
本発明におけるフッ素含有界面活性剤は以下のものが例示される。
一般式 RfOHで表わされるフルオロアルキルアルコール、
一般式 RfCOOMで表わされるフルオロアルキルカルボン酸塩、
一般式 RfxOSO(3-x)Mで表わされるフルオロアルキル硫酸エステル塩、
一般式 RfSO3Mで表わされるフルオロアルキルスルホン酸塩、
一般式 RfxOPO(3-x)Mで表わされるフルオロアルキルリン酸エステル塩、
一般式 RfPO3Mで表わされるフルオロアルキルホスホン酸塩、
一般式 RfPO2Mで表わされるフルオロアルキル亜ホスホン酸塩、および
一般式 RfxNH(4-x)Mで表わされるフルオロアルキルアンモニウム塩
などが挙げられる。
【0053】
これらの一般式中、Rfはフッ素原子を含む炭素数1~50のアルキル基を表わす。Rfは、アルキル基鎖内にエーテル結合を含むものであってもよい。Mは少なくとも1以上のカウンターカチオンまたはカウンターアニオンを表わす。また、xは1~3または4である。
【0054】
これらのフッ素含有界面活性剤において、フルオロアルキルアルコールは中性の界面活性剤であり、フルオロアルキルカルボン酸塩、フルオロアルキル硫酸エステル塩、フルオロアルキルスルホン酸塩、フルオロアルキルリン酸エステル塩、フルオロアルキルホスホン酸塩およびフルオロアルキル亜ホスホン酸塩はアニオン性の界面活性剤であり、フルオロアルキルアンモニウム塩はカチオン性の界面活性剤である。
【0055】
また、カウンターカチオンとしては、特に限定されないが、Na+、Ca2+、NH4
+、またはこれらの混合物が挙げられる。これらの中では、Na+が好ましい。カウンターアニオンも、特に限定されないが、Cl-などが挙げられる。
【0056】
フルオロアルキルアルコールとしては、具体的には、モノフルオロメチルエチルアルコール、トリフルオロメチルエチルアルコール、トリフルオロメチルプロピルアルコール、トリフルオロメチルブチルアルコール、部分フッ素化高級アルコールなどの部分フッ素化アルキルアルコール; トリフルオロメチルアルコール、ペンタフルオロエチルアルコール、ヘプタフルオロプロピルアルコール、ペンタデカフルオロヘプチルアルコール、ヘプタデカフルオロオクチルアルコール、ノナデカフルオロノニルアルコールなどのパーフルオロアルキルアルコール; トリフルオロメチルオキシエチルアルコール、トリフルオロメチルオキシプロピルアルコール、トリフルオロメチル( ポリオキシエチレン) アルコール、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)アルコール、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)アルコール、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)アルコールなどの一般式Rf(ORf’)nOHで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキルアルコールが挙げられる。ここで、Rf’はフッ素原子を含むアルキレン基を、nは縮合度を表わす。
【0057】
フルオロアルキルカルボン酸塩としては、具体的には、モノフルオロメチルエチルカルボン酸塩、トリフルオロメチルエチルカルボン酸塩、トリフルオロメチルプロピルカルボン酸塩、トリフルオロメチルブチルカルボン酸塩、部分フッ素化高級脂肪酸塩などの部分フッ素化アルキルカルボン酸塩; トリフルオロメチルカルボン酸塩、ペンタフルオロエチルカルボン酸塩、ヘプタフルオロプロピルカルボン酸塩、ペンタデカフルオロヘプチルカルボン酸塩、ヘプタデカフルオロオクチルカルボン酸塩、ノナデカフルオロノニルカルボン酸塩などのパーフルオロアルキルカルボン酸塩; トリフルオロメチルオキシエチルカルボン酸塩、トリフルオロメチルオキシプロピルカルボン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシエチレン)カルボン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)カルボン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)カルボン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)カルボン酸塩などの一般式Rf(ORf’)nCOOMで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキルカルボン酸塩が挙げられる。
【0058】
フルオロアルキル硫酸エステル塩としては、具体的には、モノフルオロメチルエチル硫酸エステル塩、トリフルオロメチルエチル硫酸エステル塩、トリフルオロメチルプロピル硫酸エステル塩、トリフルオロメチルブチル硫酸エステル塩、部分フッ素化高級アルキル硫酸エステル塩などの部分フッ素化アルキルカルボン酸塩; トリフルオロメチル硫酸エステル塩、ペンタフルオロエチル硫酸エステル塩、ヘプタフルオロプロピル硫酸エステル塩、ペンタデカフルオロヘプチル硫酸エステル塩、ヘプタデカフルオロオクチル硫酸エステル塩、ノナデカフルオロノニル硫酸エステル塩などのパーフルオロアルキル硫酸エステル塩; トリフルオロメチルオキシエチル硫酸エステル塩、トリフルオロメチルオキシプロピル硫酸エステル塩、トリフルオロメチル(ポリオキシエチレン)硫酸エステル塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)硫酸エステル塩、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)硫酸エステル塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)硫酸エステル塩などの一般式Rf(ORf’)nOSO3Mで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキルカルボン酸塩が挙げられる。
【0059】
フルオロアルキルスルホン酸塩としては、具体的には、モノフルオロメチルエチルスルホン酸塩、トリフルオロメチルエチルスルホン酸塩、トリフルオロメチルプロピルスルホン酸塩、トリフルオロメチルブチルスルホン酸塩、部分フッ素化高級アルキル塩などの部分フッ素化アルキルスルホン酸塩; トリフルオロメチルスルホン酸塩、ペンタフルオロエチルスルホン酸塩、ヘプタフルオロプロピルスルホン酸塩、ペンタデカフルオロヘプチルスルホン酸塩、ヘプタデカフルオロオクチルスルホン酸塩、ノナデカフルオロノニルスルホン酸塩などのパーフルオロアルキルスルホン酸塩; トリフルオロメチルオキシエチルスルホン酸塩、トリフルオロメチルオキシプロピルスルホン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシエチレン)スルホン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)スルホン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)スルホン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)スルホン酸塩などの一般式Rf(ORf’)nSO3Mで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキルスルホン酸塩が挙げられる。また、ジエステル以上のフルオロアルキルとなっても良い。
【0060】
フルオロアルキルリン酸エステル塩としては、具体的には、モノフルオロメチルエチルリン酸エステル塩、トリフルオロメチルエチルリン酸エステル塩、トリフルオロメチルプロピルリン酸エステル塩、トリフルオロメチルブチルリン酸エステル塩、部分フッ素化高級アルキルリン酸エステル塩などの部分フッ素化アルキルリン酸エステル塩; トリフルオロメチルリン酸エステル塩、ペンタフルオロエチルリン酸エステル塩、ヘプタフルオロプロピルリン酸エステル塩、ペンタデカフルオロヘプチルリン酸エステル塩、ヘプタデカフルオロオクチルリン酸エステル塩、ノナデカフルオロノニルリン酸エステル塩などのパーフルオロアルキルリン酸エステル塩; トリフルオロメチルオキシエチルリン酸エステル塩、トリフルオロメチルオキシプロピルリン酸エステル塩、トリフルオロメチル(ポリオキシエチレン)リン酸エステル塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)リン酸エステル塩、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)リン酸エステル塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)リン酸エステル塩などの一般式Rf(ORf’)nOPO3Mで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキルリン酸エステル塩が挙げられる。また、ジエステル以上のフルオロアルキルとなっても良い。
【0061】
フルオロアルキルホスホン酸塩としては、具体的には、モノフルオロメチルエチルホスホン酸塩、トリフルオロメチルエチルホスホン酸塩、トリフルオロメチルプロピルホスホン酸塩、トリフルオロメチルブチルホスホン酸塩、部分フッ素化高級アルキル塩などの部分フッ素化アルキルホスホン酸塩; トリフルオロメチルホスホン酸塩、ペンタフルオロエチルホスホン酸塩、ヘプタフルオロプロピルホスホン酸塩、ペンタデカフルオロヘプチルホスホン酸塩、ヘプタデカフルオロオクチルホスホン酸塩、ノナデカフルオロノニル塩などのパーフルオロアルキルホスホン酸塩; トリフルオロメチルオキシエチルホスホン酸塩、トリフルオロメチルオキシプロピルホスホン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシエチレン)ホスホン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)ホスホン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)ホスホン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)ホスホン酸塩などの一般式Rf(ORf’)nOPO3Mで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキルホスホン酸塩が挙げられる。
【0062】
フルオロアルキル亜ホスホン酸塩としては、具体的には、モノフルオロメチルエチル亜ホスホン酸塩、トリフルオロメチルエチル亜ホスホン酸塩、トリフルオロメチルプロピル亜ホスホン酸塩、トリフルオロメチルブチル亜ホスホン酸塩、部分フッ素化高級アルキル亜ホスホン酸塩などの部分フッ素化アルキル亜ホスホン酸塩: トリフルオロメチル亜ホスホン酸塩、ペンタフルオロエチル亜ホスホン酸塩、ヘプタフルオロプロピル亜ホスホン酸塩、ペンタデカフルオロヘプチル亜ホスホン酸塩、ヘプタデカフルオロオクチル亜ホスホン酸塩、ノナデカフルオロノニル塩などのパーフルオロアルキル亜ホスホン酸塩; トリフルオロメチルオキシエチル亜ホスホン酸塩、トリフルオロメチルオキシプロピル亜ホスホン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシエチレン)亜ホスホン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)亜ホスホン酸塩、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)亜ホスホン酸塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)亜ホスホン酸塩などの一般式Rf(ORf’)nPO2Mで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキル亜ホスホン酸塩が挙げられる。
【0063】
フルオロアルキルアンモニウム塩としては、具体的には、モノフルオロメチルエチルアンモニウム塩、トリフルオロメチルエチルアンモニウム塩、トリフルオロメチルプロピルアンモニウム塩、トリフルオロメチルブチルアンモニウム塩、部分フッ素化高級アルキルアンモニウム塩などの部分フッ素化アルキルアンモニウム塩; トリフルオロメチルアンモニウム塩、ペンタフルオロエチルアンモニウム塩、ヘプタフルオロプロピルアンモニウム塩、ペンタデカフルオロヘプチルアンモニウム塩、ヘプタデカフルオロオクチルアンモニウム塩、ノナデカフルオロノニルアンモニウム塩などのパーフルオロアルキルアンモニウム塩; トリフルオロメチルオキシエチルアンモニウム塩、トリフルオロメチルオキシプロピルアンモニウム塩、トリフルオロメチル(ポリオキシエチレン)アンモニウム塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシエチレン)アンモニウム塩、トリフルオロメチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)アンモニウム塩、ペンタフルオロエチル(ポリオキシパーフルオロエチレン)アンモニウム塩などの一般式(Rf(ORf’)n)x NH(4-x)Mで表わされるエーテル結合を含むフルオロアルキルアンモニウム塩が挙げられる。
【0064】
本発明において、F1SおよびF1Bを特定の範囲内に調整する方法の一つとして、PVAと適度な親和性を有するフッ素含有界面活性剤を選択することが挙げられる。すなわち、PVAと過度の親和性を有するフッ素含有界面活性剤を選択した場合、界面活性剤は容易に水溶性フィルムの内部に拡散し、剥離性の改善効果を得にくくなるおそれがある。一方、PVAとの親和性が不良なフッ素含有界面活性剤を選択した場合、水溶性フィルムの表面に転写される界面活性剤の量が少なくなり、吸湿によるこう着を生じやすくなる。この観点より、上記界面活性剤の中から、フルオロアルキルアルコール、フルオロアルキルリン酸エステル塩、フルオロアルキルスルホン酸塩の、いずれかを使用することが好ましい。これらの界面活性剤は、1種類を使用してもよいし、複数を組み合わせて使用してもよい。また、本発明の効果を妨げない範囲で、他の界面活性剤と組み合わせてもよい。
【0065】
支持体上に流涎されたPVA膜は支持体上およびその後の乾燥工程で加熱乾燥される間に結晶化が進む。特に水分率が多い領域で加熱されることによってPVA分子鎖の運動性が高くなるため結晶化が進み、結晶化度が高くなる。したがって、乾燥速度が速すぎると結晶が十分に成長せず、結晶化度が不足するおそれがある。一方、乾燥速度が遅すぎると結晶成長が進み結晶子サイズが大きくなる傾向がある。また、与える熱量が多すぎると結晶化度が大きくなり、水溶性が不足するおそれがある。
【0066】
製膜原液を流涎する支持体の表面温度は50~110℃であることが好ましい。表面温度が50℃未満の場合、乾燥がゆっくりと進むことにより結晶化が進行し、水溶性が悪化するだけでなく、乾燥に要する時間が長くなり生産性が低下する傾向がある。また、乾燥に時間を要すると、フッ素含有界面活性剤がフィルム内部まで浸透し、剥離性が悪化する傾向がある。110℃を超える場合は、発泡等の膜面の異常を生じやすくなる傾向、および急速に乾燥が進むことにより非晶成分が多くなって、吸湿によるブロッキングを起こしやすくなる傾向がある。フッ素含有界面活性剤の浸透状態を調節し易くする観点から、上記表面温度は60~100℃であることが好ましく、65~95℃であることがより好ましい。
【0067】
支持体上でPVA膜を加熱すると同時に、PVA膜の非接触面側の全領域に風速1~10m/秒の熱風を均一に吹き付けて、乾燥速度を調節してもよい。非接触面側に吹き付ける熱風の温度は、乾燥効率や乾燥の均一性などの点から、50~150℃であることが好ましく、70~120℃であることがより好ましい。
【0068】
水溶性フィルムは、支持体上で好ましくは揮発分率5~50質量%にまで乾燥された後、剥離される。その際、支持体上に塗布されたフッ素含有界面活性剤は、水溶性フィルムの支持体に接した面(以下、支持体面と称することがある)に転写される。
【0069】
支持体から剥離された水溶性フィルムは、必要に応じてさらに乾燥される。乾燥の方法に特に制限はなく、乾燥炉や乾燥ロールに接触させる方法が挙げられる。複数の乾燥ロールで乾燥させる場合は、フィルムの一方の面と他方の面を交互に乾燥ロールに接触させることが、フィルム両面の物性差を低減させるために、好ましい。乾燥ロールの数は3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、5~30個であることがさらに好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度は、40℃以上110℃以下であることが好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度の上限は100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることが更に好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度が高すぎると、結晶化度が高くなって、水溶性が低下するおそれがある。一方、乾燥炉、乾燥ロールの温度の下限は45℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度が低すぎると、結晶化度が低くなって、吸湿によるブロッキングを生じやすくなるおそれがある。
【0070】
水溶性フィルムに対して、必要に応じてさらに熱処理を行うことができる。熱処理を行うことにより、フィルムの強度、水溶性などの調整を行うことができる。熱処理の温度は60℃以上135℃以下であることが好ましい。熱処理温度の上限は130℃以下であることがより好ましい。熱処理温度が高すぎると、与える熱量が多すぎるため結晶化度が高くなり、水溶性が低下するおそれがある。
【0071】
このようにして製造された水溶性フィルムは、必要に応じて、さらに、調湿処理、フィルム両端部(耳部)のカットなどを行い、円筒状のコアの上にロール状に巻き取られ、防湿包装されて、製品となる。
【0072】
本発明において、前記支持体面と反対側の面(以下、開放面と称することがある)の、フッ素元素の全元素に占める割合を調整する方法は、(1)製膜後に開放面にフッ素化合物を塗布する方法や、(2)製膜工程において乾燥ロールを使用する場合に、開放面が接する乾燥ロールの表面にフッ素含有界面活性剤を塗布して、それを開放面に転写する方法、(3)支持体面に過剰量のフッ素含有界面活性剤を転写しておき、製膜したフィルムを巻き取る際の巻取張力を調整する事により、支持体面上のフッ素含有界面活性剤の一部を開放面上に転写する方法などが挙げられる。
【0073】
これらの中で、製膜設備コストや生産性の観点より、前記(3)の支持体面に過剰量のフッ素含有界面活性剤を転写しておき、製膜したフィルムを巻き取る際の巻取張力を調整する事により、支持体面上のフッ素含有界面活性剤の一部を開放面上に転写する方法が、好ましい。その際の巻取張力は、30~200N/mであることが好ましい。巻取張力が30N/m未満の場合、フィルムの開放面に転写されるフッ素含有界面活性剤の量が少なすぎるおそれがある。一方、巻取張力が200N/mを超える場合、フィルムの開放面に転写されるフッ素含有界面活性剤の量が多くなりすぎたり、フィルムの皺などの膜面異常が発生したりするおそれがある。巻取張力は、より好ましくは40N/m以上であり、さらに好ましくは50N/m以上であり、また、より好ましくは160N/m以下であり、さらに好ましくは120N/m以下である。
【0074】
上述した一連の処理によって最終的に得られる水溶性フィルムの揮発分率は1~5質量%の範囲内にあることが好ましく、2~4質量%の範囲内にあることがより好ましい。
【0075】
本発明の水溶性フィルムは、10℃の脱イオン水に浸漬した浸漬した時の完溶時間が150秒以内であることが好ましい。完溶時間が150秒以内であることにより、薬剤等の包装用フィルムとして好適に使用できる。完溶時間は90秒以内であることがより好ましく、60秒以内であることがさらに好ましく、45秒以内であることが特に好ましい。一方、完溶時間の下限に特に制限はないが、完溶時間が短すぎる水溶性フィルムでは、雰囲気中の水分の吸湿によるフィルム間のブロッキングやフィルム強度の低下などの問題が生じやすくなる傾向があることから、5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、15秒以上であることがさらに好ましく、20秒以上であることが特に好ましい。
【0076】
本発明の水溶性フィルムの厚みに特に制限はないが、厚みが厚すぎると二次加工性が悪化する傾向があることから、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。また厚みがあまりに薄い場合、水溶性フィルムの力学的強度に問題が生じるおそれがあることから、5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。なお、水溶性フィルムの厚みは、任意の10箇所(例えば、水溶性フィルムの長さ方向に引いた直線上にある任意の10箇所)の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0077】
<用途>
本発明の水溶性フィルムは、水溶性と力学強度のバランスに優れ、各種水溶性フィルムの用途に好適に使用することができる。このような水溶性フィルムとしては、例えば、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺繍用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより顕著に奏されることから、本発明の水溶性フィルムは薬剤包装用フィルムとして使用されるのが好ましい。
【0078】
本発明の水溶性フィルムを薬剤包装用フィルムとして使用する場合における薬剤の種類としては、農薬、洗剤(漂白剤を含む)、殺菌剤などが挙げられる。薬剤の物性に特に制限はなく、酸性であっても、中性であっても、アルカリ性であってもよい。また、薬剤にはホウ素含有化合物が含まれていてもよい。薬剤の形態としては、粉末状、塊状、ゲル状および液体状のいずれであってもよい。包装形態に特に制限はないが、薬剤を単位量ずつ包装(好ましくは密封包装)するユニット包装の形態が好ましい。本発明のフィルムを薬剤包装用フィルムとして使用して薬剤を包装することにより、本発明の包装体が得られる。
【実施例】
【0079】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例において採用された評価項目とその方法は、下記の通りである。
【0080】
(1)X線光電子分光分析(XPS)
(1-1)水溶性フィルム表面のフッ素元素の全元素に占める割合の分析
フィルムを5mm×5mmのサイズに裁断し、導電性両面テープを介して、測定台座にセットする。測定にあたっては、フィルム両面を測定し、フッ素元素量が多い方の面の値を採用する。下記測定条件で各サンプルを測定した。
【0081】
測定装置:Ohi Quantera SXM(ULVAX―PHI.INC.)
解析ソフト: Multi Pack ver9.0 (ULVAX―PHI.INC.)X線源:単色化Al Kα(1486.6eV)
X線ビーム径:100μmφ(25W、15kV)
測定範囲:100μm×300μm
信号の取り込み角:45°
帯電中和条件:中和電子銃、Ar+イオン銃
真空度:1×10-6Pa
測定元素(定量に用いた励起される内殻原子のピーク):C(1s)、N(1s)、O(1s)、F(1s)、Na(1s)、Si(2p)、P(2p)、S(2p)
【0082】
得られたスペクトルを解析し、フィルム表面におけるフッ素元素の全元素に占める割合を求めた。
【0083】
(1-2) 表面から0.1μmの深さのフッ素元素の全元素に占める割合の分析
XPS分析装置内において、C60でフィルムを0.1μm深さまでエッチングした後、上記と同様の条件で、フィルム深さ0.1μmにおける元素量を定量し、フッ素元素の全元素に占める割合を算出した。
(エッチング処理条件)
測定条件: 加速電圧10kV
試料電流: 20mA
走査範囲: 0.5mm×2.0mm
エッチングレート: 1.0nm/min
【0084】
(2)支持体からの剥離性評価
水溶性フィルムを製膜した際に、フィルムの支持体からの剥離状態を目視で観察し、以下の基準で評価した。
剥離性評価基準:
A…剥離位置が幅方向に水平であり、フィルム面に皺、延伸の発生が無い。
B…剥離位置が幅方向に水平であるが、フィルム面に皺、延伸が発生している。
C…剥離位置が幅方向に波打ち、フィルム面に皺、延伸が発生している。
【0085】
(3)シール性評価
フッ素元素の全元素に占める割合が低いフィルム面同士のシール性を評価した。
【0086】
(3-1)前調整
水溶性フィルムを製膜の流れ方向(MD)に約30cm、幅方向(TD)に約10cmのサイズの長方形の試験片を、サンプルごとに各2枚切り出し、10℃-35%RHの環境下に16時間以上保持した。
【0087】
(3-2)フィルムの貼り合せ
10℃-35%RHの環境下で、台上に上記の前調整後のフィルムを1枚置き、フィルムの4隅を粘着テープで固定した。さらにその上にもう1枚のフィルムを重ねて、10cmの辺の一方の両端を粘着テープで固定し、固定されてない端部を140/10アニロックスローラーを使用して、ESIPROOFプルーフィングローラーに通した。0.5mLの脱イオン水を、ESIPROOFプルーフィングローラーのドクターブレード上に注ぎ、ローラーを約7.5cm/秒の速度で引いて、2枚のフィルムを貼り合せた。なおこの時、ローラーはフィルムの端まで引かず、引張試験機のチャックにセットするために、フィルムの端に貼り合せていない部分を残した。貼り合せた水溶性フィルムから、MDに25mm幅の短冊状の試験片を3枚切り出した。
【0088】
(3-3)シール強度の測定
貼り合せ後、10分間放置した後、試験片を引張試験機にセットして、JIS K6854-3:1999に基づいたT型はく離試験に準拠してはく離し、得られた3枚の試験片のはく離力の平均値を接着力とした。当該試験において測定条件は、引張速度30mm/分とした。
評価基準:
A…シール性に優れる・・・シール強度目安:5N/25mmを超える
B…シール性にやや劣る・・・シール強度目安:1~5N/25mm
C…シールができない・・・シール強度目安:1N/25mm未満
【0089】
(4)透明性評価
各フィルム内に緑色に着色した液体(擬似洗剤)を梱包したものの、内容物視認性により透明性を評価した。
評価基準:
A…透明性に優れ、曇りなく透けて見える。・・・目安:全ヘイズ値が50%以下
B…若干濁度があるものの、曇りなく透けて見える。・・・目安:全ヘイズ値が50~70%
C…フィルムが曇って見え、不透明でありはっきりと透けて見えない。・・・目安:全ヘイズ値が70%以上
【0090】
(5)フィルムこう着性評価
水溶性PVAフィルムを3cm×20cmに切り出し、短辺を軸として内径約1cmの円筒状に丸めた後、両端部を切断した。これにより、内径1cm、幅1cmの小さな水溶性フィルムのロールを作製した。口幅15mmのダブルクリップ(コクヨ株式会社製、商品名Scel-bo)を用いて、得られたロールの中心軸付近を、クリップの挟む部分の方向がロールの軸方向に一致するようにして挟み、60℃-90%RHの条件下に16時間保管した。保管後のフィルムロールを巻出して、端部における接触面同士のこう着状態を評価した。
評価基準:
A…端部において接触面同士のこう着がなく、水溶性フィルムを抵抗なく巻き出せた。
B…巻出し時に抵抗が感じられたが、力を加えれば水溶性フィルムを巻き出せた。
C…端部において接触面同士がこう着しており、水溶性フィルムを巻き出すことができなかった。
【0091】
<実施例1>
製膜の支持体となる金属ドラム(第1乾燥ロール)上に、フッ素含有界面活性剤としてフルオロアルキルアルコール(フッ素テロマーアルコール:以下、FTOHsと称することがある)の0.1質量%水分散液を、水分散液として2.5g/m2となるようにロールコーターで連続的に塗工し、それに80℃の熱風を吹きつけて乾燥し、FTOHsを金属ドラム表面に連続的に塗工した。
その上に、ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたマレイン酸メチル(以下、MAと称することがある)変性PVA(けん化度99.9モル%、重合度1700、MA変性量5mol%)100質量部、可塑剤としてグリセリン50質量部、界面活性剤としてラウリン酸ジエタノールアミド2.0質量部、および水からなる揮発分率60質量%の製膜原液を調整し、ろ過し製膜原液を得た。得られた製膜原液をTダイからFTOHsが塗工された第1乾燥ロール(表面温度80℃)上へ連続的に膜状に吐出し、第1乾燥ロール上で、開放面の全体に85℃の熱風を5m/秒の速度で吹き付けて乾燥した。次いで第1乾燥ロールから剥離して、開放面と支持体面とが各乾燥ロールに交互に接触するように、第2乾燥ロール以降の乾燥をロール表面温度75℃で行った後、巻取張力90N/mで巻き取って、水溶性フィルム(厚み35μm、幅1200m)のロールを得た。
【0092】
得られたフィルムロールから水溶性フィルムを採取して、フッ素元素量をXPSで測定した結果、F1Sは16.7mol%、F1Bは検出下限以下(<0.1mol%)、F2Sは9.4mol%、F2Bは検出下限以下(<0.1mol%)、であった。金属ドラムからの剥離性、シール性、内容物視認性、およびフィルムこう着性の評価結果は良好であった。
【0093】
<実施例2>
けん化度が88mol%のMA変性PVAを使用したこと以外は実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。
【0094】
<実施例3>
可塑剤量を30質量部としたこと以外は実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。
【0095】
<実施例4>
変性率が2mol%、けん化度88mol%のマレイン酸モノメチル(以下、MMMと称することがある)変性PVAを用い、可塑剤量を25質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。
【0096】
<実施例5、6>
フッ素含有界面活性剤として、それぞれ、ペルフルオロアルキルスルホン酸ナトリウム塩、りん酸トリス(2,2,2-トリフルオロエチル)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。
【0097】
<実施例7、8>
第1乾燥ロール上へのフッ素含有界面活性剤の水分散液の塗工量を、それぞれ1.1g/m2、8.1g/m2としたこと以外は、実施例4と同様にして水溶性フィルムを得た。
【0098】
<実施例9>
開放面が接触する第2乾燥ロール上にも、第1乾燥ロールと同様にFTOHsの分散液を連続的に塗工、乾燥した以外は、実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。
【0099】
<比較例1>
フッ素含有界面活性剤の水分散液の塗工量を24.6g/m2としたこと以外は、実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。このフィルムのF1Sは38.5mol%、F1Bは1.2mol%であり、ドラムからの剥離性は良好であったが、シール性が悪かった。
【0100】
<比較例2>
フッ素含有界面活性剤の水分散液塗工後に、熱風乾燥を行わず、第1乾燥ロールの余熱のみで乾燥させたこと以外は、実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。このフィルムのF1Sは5.6mol%、F1Bは3.2mol%であり、ドラムからの剥離性が不良であった。
【0101】
<比較例3>
フッ素含有界面活性剤を毎周塗工する代わりに、フッ素含有樹脂(ジクロロペンタフルオロプロパン(HCFC-225)のエタノール溶液をロール上に塗工、乾燥しておき、フッ素樹脂コーティングを施した。それ以外は実施例1と同様に水溶性フィルムを得た。フィルムの剥離性には優れていたが、フィルムロールを巻き返す際に、フィルム同士が接着したり、搬送ロール内に接着したりしたため、フィルムに皺が発生していた。
【0102】
<比較例4、5>
フッ素含有界面活性剤を塗工する代わりに、PVA製膜原液内に、FTOHsを5000ppm、100ppmとなるように添加し、製膜したこと以外は、実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。これらのフィルムの剥離性は比較例4の方では良好であったが、比較例5のフィルムでは不良であり、また両者とも、フィルムの透明性は悪く、濁ったフィルムとなった。
【0103】
得られたフィルムの評価結果を表1に示す。
【0104】
【0105】
上記の結果から、本発明の水溶性フィルムは支持体からの剥離性に優れるとともに、シール性、透明に優れる。またフィルムのこう着性も抑制されている。本発明の水溶性フィルムはシール性、透明性に優れ、フィルムのこう着性が抑制されることから、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺繍用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルムなどに好適に用いられる。特に本発明の水溶性フィルムは農薬、洗剤(漂白剤を含む)、殺菌剤等の薬剤を包装する薬剤包装用フィルムに好適に使用される。