(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-06
(45)【発行日】2023-12-14
(54)【発明の名称】光学素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
G02B5/30
(21)【出願番号】P 2021549055
(86)(22)【出願日】2020-09-25
(86)【国際出願番号】 JP2020036318
(87)【国際公開番号】W WO2021060485
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-03-09
(31)【優先権主張番号】P 2019176735
(32)【優先日】2019-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】篠田 克己
(72)【発明者】
【氏名】渡野 亮子
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 之人
【審査官】中村 説志
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第109917547(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0164645(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0039141(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光配向材料を含む光配向膜の表面を干渉露光して、光配向膜に、液晶化合物由来の光学軸の向きを、面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化させる配向パターンを形成する露光工程と、
前記配向パターンが形成された光配向膜上に、液晶化合物を含む液晶組成物を塗布し、液晶層を形成する液晶層形成工程とを有し、
前記光配向材料はアゾ化合物を含み、
前記露光工程は相対湿度50%以下の環境下で行われ、
前記液晶層形成工程で形成した前記液晶層を前記光配向膜から剥離する剥離工程を有し、
前記剥離工程の後に再度、前記液晶層形成工程を実施して液晶層を形成することを繰り返し、
前記露光工程から前記液晶層形成工程までの間の雰囲気環境の相対湿度を50%以下とし、
前記剥離工程から前記液晶層形成工程までの間の雰囲気環境の相対湿度を
10%以下とする光学素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶化合物を含む液晶組成物を用いて形成された液晶層を有する光学素子が、回折素子、光学異方性層等の各種の光学素子として利用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層を、複数層、積層してなる光学素子であって、選択反射中心波長が互いに異なるコレステリック液晶層を、複数、有し、コレステリック液晶層は、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有し、さらに、コレステリック液晶層の液晶配向パターンの、液晶化合物由来の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向における、液晶化合物由来の光学軸の向きが180°回転する長さを1周期とした際に、選択反射中心波長が互いに異なる複数のコレステリック液晶層は、選択反射中心波長の長さの順列と、1周期の長さの順列とが、一致している光学素子が記載されている。
【0004】
特許文献1には、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層の製造方法として、光配向膜に干渉光を露光して、光配向膜に配向状態が周期的に変化する配向パターンを形成し、配向パターンを有する光配向膜上に液晶組成物を塗布して、コレステリック液晶層を形成する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されるコレステリック液晶層の製造方法によってコレステリック液晶層を形成した場合には、コレステリック液晶層中の液晶化合物の配向不良が生じる場合があった。
本発明者らの検討によれば、コレステリック液晶層中の液晶化合物の配向不良は、光配向膜が有する配向パターンにおいて液晶化合物を配向させる能力(以下、配向性ともいう)が十分でない領域が発生していることが原因であることがわかった。これに対して、光配向膜が有する配向パターンの配向性を高くするために、光配向膜を露光する際の露光量を大きくすることを検討したが、配向性を十分に高くできない場合があった。
【0007】
本発明の課題は、このような従来技術の問題点を解決することにあり、光配向膜が有する配向パターンの配向性を高くして、液晶層中の液晶化合物の配向不良を抑制できる光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この課題を解決するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 光配向材料を含む光配向膜の表面を干渉露光して、光配向膜に、液晶化合物由来の光学軸の向きを、面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化させる配向パターンを形成する露光工程と、
配向パターンが形成された光配向膜上に、液晶化合物を含む液晶組成物を塗布し、液晶層を形成する液晶層形成工程とを有し、
光配向材料はアゾ化合物を含み、
露光工程は相対湿度50%以下の環境下で行われる光学素子の製造方法。
[2] 液晶層形成工程で形成した液晶層を光配向膜から剥離する剥離工程を有し、
剥離工程の後に再度、液晶層形成工程を実施して液晶層を形成することを繰り返す[1]に記載の光学素子の製造方法。
[3] 露光工程から液晶層形成工程までの間の雰囲気環境の相対湿度を50%以下とする[1]または[2]に記載の光学素子の製造方法。
[4] 剥離工程から液晶層形成工程までの間の雰囲気環境の相対湿度を50%以下とする[1]~[3]のいずれかに記載の光学素子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光学素子の製造方法は、光配向膜が有する配向パターンの配向性を高くして、液晶層中の液晶化合物の配向不良を抑制できる光学素子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の光学素子の製造方法で作製される光学素子の一例を概念的に示す図である。
【
図2】
図1に示すコレステリック液晶層の平面図である。
【
図3】
図1に示すコレステリック液晶層の断面SEM画像を概念的に示す図である。
【
図4】光配向膜を露光する露光装置の一例の概念図である。
【
図5】本発明の光学素子の製造方法の工程を説明するための模式図である。
【
図6】本発明の光学素子の製造方法の工程を説明するための模式図である。
【
図7】本発明の光学素子の製造方法の工程を説明するための模式図である。
【
図8】本発明の光学素子の製造方法で作製される光学素子の他の一例を概念的に示す図である。
【
図9】
図8に示す光学素子の作用を説明するための概念図である。
【
図10】
図8に示す光学素子の作用を説明するための概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の光学素子の製造方法について、添付の図面に示される好適実施例を基に詳細に説明する。
【0012】
本発明において「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値および上限値として含む範囲を意味する。
本発明において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートおよびメタクリレートのいずれか一方または双方」の意味で使用される。
【0013】
[光学素子]
まず、本発明の光学素子の製造方法(以下、本発明の製造方法ともいう)によって作製される光学素子について図面を用いて説明する。
【0014】
図1に、本発明の製造方法によって作製される光学素子の一例を概念的に示す。
図1に示す光学素子10は、支持体12と、光配向膜14と、コレステリック液晶層16とを有する。
コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を固定してなるものである。本発明において、コレステリック液晶層16は、液晶化合物40に由来の光学軸40Aの向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する(
図2参照)。
また、コレステリック液晶層16は、走査型電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)で観察した断面において、コレステリック液晶相に由来する明部および暗部が、主面に対して傾斜している(
図3参照)。なお、主面とは、シート状物(フィルム、板状物)の最大面である。
【0015】
<支持体>
光学素子10において、支持体12は、光配向膜14およびコレステリック液晶層16を支持するものである。
【0016】
支持体12は、光配向膜14およびコレステリック液晶層16を支持できるものであれば、各種のシート状物が利用可能である。
なお、支持体12は、対応する光に対する透過率が50%以上であるのが好ましく、70%以上であるのがより好ましく、85%以上であるのがさらに好ましい。
【0017】
支持体12の厚さには、制限はなく、光学素子10の用途、光学素子10に要求される可撓性または剛性、光学素子10に要求される厚差、および、支持体12の形成材料等に応じて、光配向膜14およびコレステリック液晶層を保持できる厚さを、適宜、設定すればよい。
支持体12の厚さは、1~1000μmが好ましく、3~250μmがより好ましく、5~150μmがさらに好ましい。
【0018】
支持体12は単層であっても、多層であってもよい。
単層である場合の支持体12としては、ガラス、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、アクリル、および、ポリオレフィン等からなる支持体12が例示される。多層である場合の支持体12の例としては、前述の単層の支持体のいずれかなどを基板として含み、この基板の表面に他の層を設けたもの等が例示される。
【0019】
<光配向膜>
光学素子10において、支持体12の表面には光配向膜14が形成される。
光配向膜14は、コレステリック液晶層16を形成する際に、液晶化合物40を所定の液晶配向パターンに配向するための光配向膜14である。
後述するが、本発明のコレステリック液晶層16は、液晶化合物40に由来する光学軸40A(
図2参照)の向きが、面内の一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有する。従って、光配向膜14は、コレステリック液晶層16が、この液晶配向パターンを形成できるように、形成される。
以下の説明では、『光学軸40Aの向きが回転』を単に『光学軸40Aが回転』とも言う。
【0020】
光配向膜14は、光配向性の素材に光を照射(露光)して光配向膜14とした、いわゆる光配向膜である。すなわち、光配向膜14は、支持体12上に光配向材料を塗布および露光して形成した光配向膜である。
【0021】
本発明に利用可能な光配向膜に用いられる光配向材料としては、アゾ化合物を含む。
アゾ化合物とは、アゾ基(-N=N-)を有する化合物である。
アゾ化合物としては、例えば、特開2006-285197号公報、特開2007-76839号公報、特開2007-138138号公報、特開2007-94071号公報、特開2007-121721号公報、特開2007-140465号公報、特開2007-156439号公報、特開2007-133184号公報、特開2009-109831号公報、特許第3883848号公報および特許第4151746号公報に記載のアゾ化合物、が例示される。
【0022】
アゾ化合物としては、アゾ基(-N=N-)を有する光反応性基を有する化合物が好ましい。
アゾ基を有する光反応性基としては、例えば、アゾベンゼン基、アゾナフタレン基、芳香族複素環アゾ基、ビスアゾ基およびホルマザン基が挙げられる。
これらの基は、さらに置換基で置換されていてもよい。置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリルオキシ基、シアノ基、アルコキシカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基もしくはその塩、スルホ基またはその塩、ハロゲン化アルキレン基、または、これらを組み合わせた基が挙げられる。
アゾ化合物としては、一般式(I)で表される化合物が好ましい。
【0023】
一般式(I)
【0024】
【0025】
R21~R24はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表すが、但し、R21~R24で表される基の少なくとも一つは、カルボキシル基もしくはその塩、または、スルホ基またはその塩を表し、mは1~4の整数を表し、nは1~4の整数を表し、oは1~5の整数を表し、pは1~5の整数を表す。m、n、o、及びpが2以上の整数を表すとき、複数個ある、R21~R24は、同一でも異なっていてもよい。
【0026】
一般式(I)中、R21~R24でそれぞれ表される置換基としては、カルボキシル基またはその塩(なお、カルボキシル基の塩としては、アルカリ金属との塩が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。)、スルホ基またはその塩(なお、スルホ基の塩としては、アルカリ金属との塩が挙げられ、ナトリウム塩が好ましい。)、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、置換または無置換のアミノ基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、ヘテロ環基、および、シリル基が挙げられる。
これらの置換基はさらにこれらの置換基によって置換されていてもよい。また、置換基が二つ以上有する場合は、同じでも異なってもよい。また、可能な場合には互いに結合して環を形成していてもよい。
【0027】
一般式(I)中、R21~R24で表される基としては、水素原子、カルボキシル基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシカルボニル基、または、カルバモイル基が好ましく、水素原子、カルボキシル基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ハロゲン原子、ハロゲン化メチル基、ハロゲン化メトキシ基、シアノ基、ニトロ基、または、メトキシカルボニル基がより好ましく、水素原子、カルボキシル基もしくはその塩、スルホ基もしくはその塩、ハロゲン原子、シアノ基、または、ニトロ基がさらに好ましい。
【0028】
R21~R24で表される基の少なくとも一つは、カルボキシル基もしくはその塩、または、スルホ基もしくはその塩である。カルボキシル基もしくはその塩、または、スルホ基もしくはその塩の置換位置については特に制限はないが、光活性作用の点では、少なくとも1つのR21および/または少なくとも1つのR22がスルホ基またはその塩であるのが好ましく、少なくとも1つのR21及び少なくとも1つのR22がスルホ基もしくはその塩であるのがより好ましい。また、同観点から、少なくとも1つのR23および/または少なくとも1つのR24がカルボキシル基またはその塩であるのが好ましく、少なくとも1つのR23及び少なくとも1つのR24がカルボキシル基またはその塩であるのがより好ましい。カルボキシル基またはその塩は、アゾ基に対してメタ位に置換したR23及びR24であるのがさらに好ましい。
【0029】
一般式(I)において、mは1~4の整数を表し、nは1~4の整数を表し、oは1~5の整数を表し、pは1~5の整数を表す。好ましくは、mは1~2の整数、nは1~2の整数、oは1~2の整数、pは1~2の整数である。
【0030】
以下に、一般式(I)で表される化合物の具体例を挙げるが、以下の具体例に制限されるものではない。
【0031】
【0032】
光配向膜14の厚さには制限はなく、光配向膜14の形成材料に応じて、必要な配向機能を得られる厚さを、適宜、設定すればよい。
光配向膜14の厚さは、0.005~5μmが好ましく、0.01~2μmがより好ましい。
【0033】
光配向膜14の形成方法については後に詳述する。
【0034】
<コレステリック液晶層>
光学素子10において、光配向膜14の表面には、コレステリック液晶層16が形成される。
コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を固定してなるものである。すなわち、コレステリック液晶層16は、コレステリック構造を有する液晶化合物40(液晶材料)からなる層である。
【0035】
コレステリック液晶相は、液晶化合物40が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有し、液晶化合物40が螺旋状に1回転(360°回転)して積み重ねられた構成を螺旋1ピッチとして、螺旋状に旋回する液晶化合物40が、複数ピッチ、積層された構造を有する。すなわち、螺旋1ピッチとは、
図1に示すピッチPである。
螺旋1ピッチとは、言い換えれば、螺旋の巻き数1回分の長さであり、すなわち、コレステリック液晶相を構成する液晶化合物のダイレクター(棒状液晶であれば長軸方向)が360°回転する螺旋軸方向の長さである。
【0036】
ここで、コレステリック液晶層は、SEMで観察した断面において、コレステリック液晶相に由来して、明部(明線)と暗部(暗線)との縞模様が観察される。すなわち、コレステリック液晶層の断面では、厚さ方向に明部と暗部とを交互に積層した層状構造が観察される。
コレステリック液晶相では、明部と暗部の繰り返し2回分が、螺旋1ピッチに相当する。明部と暗部の繰り返し2回分とは、暗部(明部)3つ、および、明部(暗部)2つ分である(
図3参照)。このことから、コレステリック液晶層すなわち反射層の螺旋1ピッチ(ピッチP)は、SEM断面図から測定することができる。
【0037】
<<コレステリック液晶相>>
コレステリック液晶相は、特定の波長において選択反射性を示すことが知られている。
一般的なコレステリック液晶相において、選択反射の中心波長(選択反射中心波長)λは、コレステリック液晶相における螺旋1ピッチの長さ(ピッチP、
図1および
図3参照)に依存し、コレステリック液晶相の平均屈折率nとλ=n×Pの関係に従う。そのため、螺旋ピッチを調節することによって、選択反射中心波長を調節することができる。
コレステリック液晶相の選択反射中心波長は、ピッチPが長いほど、長波長になる。
【0038】
コレステリック液晶相の螺旋ピッチは、コレステリック液晶層を形成する際に、液晶化合物と共に用いるキラル剤の種類、および、キラル剤の添加濃度に依存する。従って、これらを調節することによって、所望の螺旋ピッチを得ることができる。
なお、ピッチの調節については富士フイルム研究報告No.50(2005年)p.60-63に詳細な記載がある。螺旋のセンスおよびピッチの測定法については「液晶化学実験入門」日本液晶学会編 シグマ出版2007年出版、46頁、および、「液晶便覧」液晶便覧編集委員会 丸善 196頁に記載される方法を用いることができる。
【0039】
コレステリック液晶相は、特定の波長において左右いずれかの円偏光に対して選択反射性を示す。反射光が右円偏光であるか左円偏光であるかは、コレステリック液晶相の螺旋の捩れ方向(センス)による。コレステリック液晶相による円偏光の選択反射は、コレステリック液晶層の螺旋の捩れ方向が右の場合は右円偏光を反射し、螺旋の捩れ方向が左の場合は左円偏光を反射する。
図1に示すコレステリック液晶層16は、螺旋の捩れ方向が右であるので、選択的な波長帯域において、右円偏光を反射する。
なお、コレステリック液晶相の旋回の方向は、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類および/または添加されるキラル剤の種類によって調節できる。
【0040】
また、選択反射を示す選択反射波長域(円偏光反射波長域)の半値幅Δλ(nm)は、コレステリック液晶相のΔnと螺旋のピッチPとに依存し、Δλ=Δn×Pの関係に従う。そのため、選択反射波長域(選択的な反射波長域)の幅の制御は、Δnを調節して行うことができる。Δnは、コレステリック液晶層を形成する液晶化合物の種類およびその混合比率、ならびに、配向固定時の温度により調節できる。
反射波長域の半値幅は、光学積層体の用途に応じて調節され、例えば10~500nmであればよく、好ましくは20~300nmであり、より好ましくは30~100nmである。
【0041】
<<コレステリック液晶層の液晶配向パターン>>
コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を形成する液晶化合物40に由来する光学軸40Aの向きが、コレステリック液晶層の面内において、一方向に連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。
なお、液晶化合物40に由来する光学軸40Aとは、液晶化合物40において屈折率が最も高くなる軸、いわゆる遅相軸である。例えば、液晶化合物40が棒状液晶化合物である場合には、光学軸40Aは、棒形状の長軸方向に沿っている。以下の説明では、液晶化合物40に由来する光学軸40Aを、『液晶化合物40の光学軸40A』または『光学軸40A』ともいう。
【0042】
図2に、コレステリック液晶層16の平面図を概念的に示す。
なお、平面図とは、
図1において、コレステリック液晶層16(光学素子10)を上方から見た図であり、すなわち、光学素子10を厚さ方向(=各層(膜)の積層方向)から見た図である。
また、
図2では、本発明のコレステリック液晶層16の構成を明確に示すために、液晶化合物40は光配向膜14の表面の液晶化合物40のみを示している。
【0043】
図2に示すように、光配向膜14の表面において、コレステリック液晶層16を構成する液晶化合物40は、下層の光配向膜14に形成された配向パターンに応じて、矢印Xで示す所定の一方向、および、この一方向(矢印X方向)と直交する方向に、二次元的に配列された状態になっている。
以下の説明では、矢印X方向と直交する方向を、便宜的にY方向とする。すなわち、
図1、
図2および後述する
図4では、Y方向は、紙面に直交する方向となる。
また、コレステリック液晶層16を形成する液晶化合物40は、コレステリック液晶層16の面内において、矢印X方向に沿って、光学軸40Aの向きが、連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有する。図示例においては、液晶化合物40の光学軸40Aが、矢印X方向に沿って、反時計回りで連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有する。
【0044】
液晶化合物40の光学軸40Aの向きが矢印X方向(所定の一方向)に連続的に回転しながら変化しているとは、具体的には、矢印X方向に沿って配列されている液晶化合物40の光学軸40Aと、矢印X方向とが成す角度が、矢印X方向の位置によって異なっており、矢印X方向に沿って、光学軸40Aと矢印X方向とが成す角度がθからθ+180°あるいはθ-180°まで、順次、変化していることを意味する。
なお、矢印X方向に互いに隣接する液晶化合物40の光学軸40Aの角度の差は、45°以下であるのが好ましく、15°以下であるのがより好ましく、より小さい角度であるのがさらに好ましい。
【0045】
一方、コレステリック液晶層16を形成する液晶化合物40は、矢印X方向と直交するY方向、すなわち、光学軸40Aが連続的に回転する一方向と直交するY方向では、光学軸40Aの向きが等しい。
言い換えれば、コレステリック液晶層16を形成する液晶化合物40は、Y方向では、液晶化合物40の光学軸40Aと矢印X方向とが成す角度が等しい。
【0046】
光学素子10においては、このような液晶化合物40の液晶配向パターンにおいて、面内で光学軸40Aが連続的に回転して変化する矢印X方向において、液晶化合物40の光学軸40Aが180°回転する長さ(距離)を、液晶配向パターンにおける1周期の長さΛとする。すなわち、矢印X方向に対する角度が等しい2つの液晶化合物40の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。
具体的には、
図1および
図2に示すように、矢印X方向と光学軸40Aの方向とが一致する2つの液晶化合物40の、矢印X方向の中心間の距離を、1周期の長さΛとする。以下の説明では、この1周期の長さΛを『1周期Λ』とも言う。
光学素子10において、コレステリック液晶層の液晶配向パターンは、この1周期Λを、矢印X方向すなわち光学軸40Aの向きが連続的に回転して変化する一方向に繰り返す。
【0047】
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層は、通常、入射した光(円偏光)を鏡面反射する。
これに対して、コレステリック液晶層16は、入射した光を、入射光に対して矢印X方向に角度を有した方向に反射する。コレステリック液晶層16は、面内において、矢印X方向(所定の一方向)に沿って光学軸40Aが連続的に回転しながら変化する、液晶配向パターンを有するものである。
【0048】
上述のように、コレステリック液晶層16は、選択的な波長帯域において、右円偏光Rを反射する。
従って、コレステリック液晶層16に光が入射すると、コレステリック液晶層16は、選択的な波長帯域における右円偏光Rのみを反射し、それ以外の光を透過する。
【0049】
面内に液晶配向パターンを有さない通常のコレステリック液晶層は、入射した円偏光を鏡面反射する。
これに対して、面内において、矢印X方向に沿って光学軸40Aが連続的に回転する液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層16は、鏡面反射に対して、矢印X方向に傾いた方向に入射した円偏光を反射する。
以下、この点について説明する。
【0050】
コレステリック液晶層16に入射した右円偏光Rは、コレステリック液晶層によって反射される際に、各液晶化合物40の光学軸40Aの向きに応じて絶対位相が変化する。
ここで、コレステリック液晶層16では、液晶化合物40の光学軸40Aが矢印X方向(一方向)に沿って回転しながら変化している。そのため、光学軸40Aの向きによって、入射した右円偏光Rの絶対位相の変化量が異なる。
さらに、コレステリック液晶層16に形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンである。そのため、コレステリック液晶層16に入射した右円偏光Rには、それぞれの光学軸40Aの向きに対応して、矢印X方向に周期的な絶対位相が与えられる。
また、液晶化合物40の光学軸40Aの矢印X方向に対する向きは、矢印X方向と直交するY方向の液晶化合物40の配列では、均一である。
これによりコレステリック液晶層16では、右円偏光Rに対して、XY面に対して矢印X方向に降下するように傾いた等位相面が形成される。等位相面は、螺旋状に旋回する液晶化合物40における光学軸40Aの向きが旋回方向で一致している液晶化合物40を接続するように形成される。
コレステリック液晶層16では、この等位相面が反射面のように作用する。
【0051】
コレステリック液晶相では、SEMで観察する断面において、コレステリック液晶相に由来して、明部と暗部との縞模様が観察される。
周知のように、コレステリック液晶相の明部および暗部は、螺旋状に旋回する液晶化合物40における、光学軸40Aの向きが旋回方向で一致している液晶化合物40を接続するように形成される。すなわち、明部および暗部は、上述した等位相面と一致する。
ここで、通常のコレステリック液晶層の明部および暗部は、主面すなわち形成面である配向面と平行になる。
これに対して、コレステリック液晶層16は、面内において、矢印X方向に沿って光学軸40Aが連続的に回転する液晶配向パターンを有する。従って、コレステリック液晶層16の明部Bおよび暗部Dは、
図3に概念的に示すように、螺旋状の旋回における光学軸40Aの向きが一致する液晶化合物40の配列に応じて、主面すなわち光配向膜14に対して矢印X方向に向かって降下するように傾斜する。
そのため、入射した右円偏光Rは、明部Bおよび暗部Dすなわち等位相面の法線方向に反射され、XY面(コレステリック液晶層の主面)に対して矢印X方向に傾いた方向に反射される。
【0052】
矢印X方向に向かう液晶化合物40の光学軸40Aの回転方向を逆にすることで、右円偏光Rの反射方向を逆にできる。すなわち、
図1および
図2においては、矢印X方向に向かう光学軸40Aの回転方向は反時計回りで、右円偏光Rは矢印X方向に傾けて反射されるが、これを時計回りとすることで、明部Bおよび暗部Dの傾斜方向が逆になるので、右円偏光Rは矢印X方向と逆方向に傾けて反射される。この態様は、言い合えれば、光学軸40Aが反時計回りする矢印X方向を、逆方向にした場合と同様である。
さらに、上述したように、右円偏光を反射するコレステリック液晶層16と左円偏光を反射するコレステリック液晶層とでは、液晶化合物40の螺旋状の旋回方向が逆になる。従って、図示例のように、矢印X方向に向かって光学軸40Aが反時計回りに回転する液晶配向パターンを有する左円偏光を反射するコレステリック液晶層では、明部Bおよび暗部Dの傾斜方向が逆になるので、左円偏光は矢印X方向と逆方向に傾けて反射される。
【0053】
コレステリック液晶層16においては、面内において、光学軸40Aが連続的に回転する液晶配向パターンの1周期Λが短いほど、上述した入射光に対する反射光の傾斜角度が大きくなる。すなわち、1周期Λが短いほど、反射光を、入射方向に対して大きく傾けて反射できる。
従って、コレステリック液晶層16では、1周期Λを調節することで、入射した光の反射光の反射角度を調節できる。
なお、液晶配向パターンの1周期Λには、制限はないが、反射光を、入射方向に対して大きく傾けて反射できる点で、液晶配向パターンの1周期Λは、1.6μm以下が好ましく、1.0μm以下がより好ましく、0.6μm以下がさらに好ましい。
【0054】
また、
図2に示したコレステリック液晶層16は、液晶化合物40が主面に対して傾斜し、かつ、傾斜方向がコレステリック液晶相の明線および暗線に略一致して、反射面に相当する明部および暗部と、液晶化合物40とが一致している。そのため、コレステリック液晶層16では、光の反射(回折)に対する液晶化合物40の作用が大きくなり、回折効率を向上できる。その結果、例えば、入射光に対する反射光の光量を、従来より向上できる。
【0055】
なお、
図2に示す例では、液晶化合物40の傾斜と、コレステリック液晶相の明線および暗線の傾斜とが略一致する構成としたが、これに限定はされない。例えば、液晶化合物40が傾斜していない、すなわち、コレステリック液晶層の主面に対して平行な構成であってもよい。
【0056】
また、
図1および
図2に示す光学素子は、コレステリックの液晶層の配向パターンにおける液晶化合物40の光学軸40Aは、矢印X方向のみに沿って、連続して回転している。
しかしながら、本発明は、これに制限はされず、液晶層において、液晶化合物40の光学軸40Aが一方向に沿って連続して回転するものであれば、各種の構成が利用可能である。
【0057】
例えば、液晶配向パターンが、液晶化合物の光学軸の向きが連続的に回転しながら変化する一方向を、内側から外側に向かう同心円状に有する、同心円状のパターンであってもよい。
このような、同心円状の液晶配向パターンを有する液晶層は、液晶化合物の光学軸の回転方向および入射する円偏光の方向に応じて、入射光を、発散光または集束光として透過または反射できる。
すなわち、液晶層の液晶配向パターンを同心円状とすることにより、光学素子は、例えば、凸レンズまたは凹レンズとして機能を発現する。
【0058】
ここで、
図1に示す例では、光学素子が有する液晶層はコレステリック液晶層としたが、これに限定はされず、
図8に示す光学素子のように、液晶層は、液晶化合物が螺旋状に旋回して積み重ねられた螺旋構造を有さない光学異方性層であってもよい。
【0059】
図8に示す光学素子10bが有する光学異方性層18は、液晶化合物を含む組成物を用いて形成された層であり、光学異方性層の面内において、液晶化合物40に由来する光学軸40Aの向きが、矢印Xで示す一方向に連続的に回転しながら変化する液晶配向パターンを有する。すなわち、
図8に示す光学異方性層18の平面図は、
図2に示す構成と同様である。
図8に示す光学異方性層18は、厚さ方向に、同じ向きの液晶化合物40が積層された構成である。
【0060】
光学異方性層18において、Y方向に配列される液晶化合物は、光学軸40Aと矢印X方向(液晶化合物40の光軸の向きが回転する1方向)とが成す角度が等しい。この光学軸40Aと矢印X方向とが成す角度が等しい液晶化合物40が、Y方向に配置された領域を、領域Rとする。
この場合に、それぞれの領域Rにおける面内レターデーション(Re)の値は、半波長すなわちλ/2であるのが好ましい。これらの面内レターデーションは、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnと光学異方性層18の厚さとの積により算出される。ここで、光学異方性層18における領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差とは、領域Rの面内における遅相軸の方向の屈折率と、遅相軸の方向に直交する方向の屈折率との差により定義される屈折率差である。すなわち、領域Rの屈折率異方性に伴う屈折率差Δnは、光学軸40Aの方向の液晶化合物40の屈折率と、領域Rの面内において光学軸40Aに垂直な方向の液晶化合物40の屈折率との差に等しい。つまり、上記屈折率差Δnは、液晶化合物の屈折率差に等しい。
【0061】
このような光学異方性層18に円偏光が入射すると、光は、屈折され、かつ、円偏光の方向が変換される。
この作用を、
図9に光学異方性層18を例示して概念的に示す。なお、光学異方性層18は、液晶化合物40の屈折率差と光学異方性層18の厚さとの積の値がλ/2であるとする。
図9に示すように、光学異方性層18の液晶化合物40の屈折率差と光学異方性層18の厚さとの積の値がλ/2の場合に、光学異方性層18に左円偏光である入射光L
1が入射すると、入射光L
1は、光学異方性層18を通過することにより180°の位相差が与えられて、透過光L
2は、右円偏光に変換される。
また、入射光L
1は、光学異方性層18を通過する際に、それぞれの液晶化合物40の光学軸40Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸40Aの向きは、矢印X方向に沿って回転しながら変化しているため、光学軸40Aの向きに応じて、入射光L
1の絶対位相の変化量が異なる。さらに、光学異方性層18に形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンであるため、光学異方性層18を通過した入射光L
1には、
図9に示すように、それぞれの光学軸40Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q1が与えられる。これにより、矢印X方向に対して逆の方向に傾いた等位相面E1が形成される。
そのため、透過光L
2は、等位相面E1に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
1の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、左円偏光の入射光L
1は、入射方向に対して矢印X方向に一定の角度だけ傾いた、右円偏光の透過光L
2に変換される。
【0062】
一方、
図10に概念的に示すように、光学異方性層18の液晶化合物40の屈折率差と光学異方性層18の厚さとの積の値がλ/2のとき、光学異方性層18に右円偏光の入射光L
4が入射すると、入射光L
4は、光学異方性層18を通過することにより、180°の位相差が与えられて、左円偏光の透過光L
5に変換される。
また、入射光L
4は、光学異方性層18を通過する際に、それぞれの液晶化合物40の光学軸40Aの向きに応じて絶対位相が変化する。このとき、光学軸40Aの向きは、矢印X方向に沿って回転しながら変化しているため、光学軸40Aの向きに応じて、入射光L
4の絶対位相の変化量が異なる。さらに、光学異方性層18に形成された液晶配向パターンは、矢印X方向に周期的なパターンであるため、光学異方性層18を通過した入射光L
4は、
図10に示すように、それぞれの光学軸40Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q2が与えられる。
ここで、入射光L
4は、右円偏光であるので、光学軸40Aの向きに対応した矢印X方向に周期的な絶対位相Q2は、左円偏光である入射光L
1とは逆になる。その結果、入射光L
4では、入射光L
1とは逆に矢印X方向に傾斜した等位相面E2が形成される。
そのため、入射光L
4は、等位相面E2に対して垂直な方向に向かって傾くように屈折され、入射光L
4の進行方向とは異なる方向に進行する。このように、入射光L
4は、入射方向に対して矢印X方向とは逆の方向に一定の角度だけ傾いた左円偏光の透過光L
5に変換される。
【0063】
ここで、光学異方性層18に形成された液晶配向パターンの1周期Λを変化させることにより、透過光L2およびL5の屈折の角度を調節できる。具体的には、液晶配向パターンの1周期Λが短いほど、互いに隣接した液晶化合物40を通過した光同士が強く干渉するため、透過光L2およびL5を大きく屈折させることができる。
また、入射光L1およびL4に対する透過光L2およびL5の屈折の角度は、入射光L1およびL4(透過光L2およびL5)の波長によって異なる。具体的には、入射光の波長が長いほど、透過光は大きく屈折する。すなわち、入射光が赤色光、緑色光および青色光である場合には、赤色光が最も大きく屈折し、青色光の屈折が最も小さい。
さらに、矢印X方向に沿って回転する、液晶化合物40の光学軸40Aの回転方向を逆方向にすることにより、透過光の屈折の方向を、逆方向にできる。
【0064】
光学異方性層18は、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を含む液晶組成物の硬化層からなり、棒状液晶化合物の光軸または円盤状液晶化合物の光軸が、上記のように配向された液晶配向パターンを有している。
支持体12上に光配向膜14を形成し、光配向膜14上に液晶組成物を塗布、硬化することにより、液晶組成物の硬化層からなる光学異方性層18を得ることができる。液晶組成物の塗布方法および硬化方法は前述のとおりである。
なお、いわゆるλ/2板として機能するのは光学異方性層18であるが、本発明は、支持体12および光配向膜14を一体的に備えた積層体がλ/2板として機能する態様を含む。
【0065】
また、光学異方性層18を形成するための液晶組成物は、棒状液晶化合物または円盤状液晶化合物を含有し、さらに、レベリング剤、配向制御剤、重合開始剤、架橋剤および配向助剤などのその他の成分を含有していてもよい。また、液晶組成物は、溶媒を含んでいてもよい。
光学異方性層18を形成するための液晶組成物が含有する、棒状液晶化合物、円盤状液晶化合物等は、前述のコレステリック液晶層16を形成するための液晶組成物が含有する棒状液晶化合物、円盤状液晶化合物等と同様のものを用いることができる。
すなわち、光学異方性層18を形成するための液晶組成物は、キラル剤を含有しない以外は、前述のコレステリック液晶層16を形成するための液晶組成物と同様である。
【0066】
また、光学異方性層18は、入射光の波長に対して広帯域であることが望ましく、複屈折率が逆分散となる液晶材料を用いて構成されていることが好ましい。また、液晶組成物に捩れ成分を付与することにより、また、異なる位相差層を積層することにより、入射光の波長に対して光学異方性層18を実質的に広帯域にすることも好ましい。例えば、光学異方性層18において、捩れ方向が異なる2層の液晶を積層することによって広帯域のパターン化されたλ/2板を実現する方法が特開2014-089476号公報等に示されており、本発明において好ましく使用することができる。
【0067】
[光学素子の製造方法]
本発明の光学素子の製造方法は、
光配向材料を含む光配向膜の表面を干渉露光して、光配向膜に、液晶化合物由来の光学軸の向きを、面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化させる配向パターンを形成する露光工程と、
配向パターンが形成された光配向膜上に、液晶化合物を含む液晶組成物を塗布し、液晶層を形成する液晶層形成工程とを有し、
光配向材料はアゾ化合物を含み、
露光工程は相対湿度50%以下の環境下で行われる光学素子の製造方法である。
【0068】
<光配向膜の形成>
光配向膜14の形成方法は、例えば、光配向膜を形成するための光配向膜形成用塗布液(以下、塗布液ともいう)を支持体12の表面に塗布する塗布工程、塗布した塗膜を乾燥させる乾燥工程、および、乾燥させた塗膜をレーザー光によって露光して、配向パターンを形成する露光工程を有する。
ここで、前述のとおり、本発明において、光配向膜はアゾ化合物を含む光配向材料を含んでいる。
【0069】
(塗布工程)
光配向膜となる塗布液を塗布する方法としては限定はなく、バーコート、グラビアコート、および、スプレー塗布等の液体の塗布に用いられている公知の各種の方法が利用可能である。また、塗布液の塗布厚(塗膜厚)は、塗布液の組成等に応じて、目的とする厚さの光配向膜が得られる塗布厚を、適宜、設定すればよい。
【0070】
(乾燥工程)
塗膜を乾燥する方法としては限定はなく、ヒータによる加熱乾燥、温風による加熱乾燥等の公知の乾燥方法が全て利用可能である。
【0071】
(露光工程)
露光工程は、光配向材料を含む光配向膜の表面を干渉露光して、光配向膜に、液晶化合物由来の光学軸の向きを、面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化させる配向パターンを形成する工程である。
ここで、本発明においては、露光工程は相対湿度50%以下の環境下で行われる。
【0072】
図4に、光配向膜14を露光して、配向パターンを形成する露光装置の一例を概念的に示す。
図4に示す露光装置60は、レーザー62を備えた光源64と、レーザー62が出射したレーザー光Mの偏光方向を変えるλ/2板65と、レーザー62が出射したレーザー光Mを光線MAおよびMBの2つに分離する偏光ビームスプリッター68と、分離された2つの光線MAおよびMBの光路上にそれぞれ配置されたミラー70Aおよび70Bと、λ/4板72Aおよび72Bと、を備える。
なお、光源64は直線偏光P
0を出射する。λ/4板72Aは、直線偏光P
0(光線MA)を右円偏光P
Rに、λ/4板72Bは直線偏光P
0(光線MB)を左円偏光P
Lに、それぞれ変換する。
【0073】
配向パターンを形成される前の光配向膜14、すなわち、乾燥後の塗膜を有する支持体12が露光部に配置され、2つの光線MAと光線MBとを光配向膜14上において交差させて干渉させ、その干渉光を光配向膜14に照射して露光する。
この際の干渉により、光配向膜14に照射される光の偏光状態が干渉縞状に周期的に変化するものとなる。これにより、光配向膜14において、配向状態が周期的に変化する配向パターンが得られる。以下、配向パターンを有する光配向膜をパターン光配向膜ともいう。
【0074】
露光装置60においては、2つの光線MAおよびMBの交差角αを変化させることにより、配向パターンの周期を調節できる。すなわち、露光装置60においては、交差角αを調節することにより、液晶化合物40に由来する光学軸40Aが一方向に向かって連続的に回転する配向パターンにおいて、光学軸40Aが回転する1方向における、光学軸40Aが180°回転する1周期の長さを調節できる。
【0075】
このような配向状態が周期的に変化した配向パターンを有する光配向膜14上に、コレステリック液晶層を形成することにより、後述するように、液晶化合物40に由来する光学軸40Aが一方向に向かって連続的に回転する液晶配向パターンを有する、コレステリック液晶層を形成できる。
【0076】
また、λ/4板72Aおよび72Bの光学軸を、それぞれ、90°回転することにより、光学軸40Aの回転方向を逆にすることができる。
【0077】
上述のとおり、パターン光配向膜は、パターン光配向膜の上に形成されるコレステリック液晶層中の液晶化合物の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンとなるように、液晶化合物を配向させる配向パターンを有する。パターン光配向膜が、液晶化合物を配向させる向きに沿った軸を配向軸とすると、パターン光配向膜は、配向軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している配向パターンを有するといえる。パターン光配向膜の配向軸は、吸収異方性を測定することで検出することができる。例えば、パターン光配向膜に直線偏光を回転させながら照射して、パターン光配向膜を透過する光の光量を測定した際に、光量が最大または最小となる向きが、面内の一方向に沿って漸次変化して観測される。
【0078】
ここで、前述のとおり、光配向膜に干渉光を露光(以下、干渉露光ともいう)して、光配向膜に配向パターンを形成し、配向パターンを光配向膜の上に液晶層を形成して、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層を形成する場合に、コレステリック液晶層中の液晶化合物の配向不良が生じる場合があった。
本発明者らの検討によれば、コレステリック液晶層中の液晶化合物の配向不良は、光配向膜が有する配向パターンにおいて液晶化合物を配向させる能力(以下、配向性ともいう)が十分でない領域が発生していることが原因であるがわかった。これに対して、光配向膜が有する配向パターンの配向性を高くするために、光配向膜を露光する際の露光量を大きくすることが考えられるが、配向性を十分に高くできない場合があった。
【0079】
光配向材料として、アゾ化合物はよく知られている。
光配向膜の上に液晶層を形成して、液晶化合物由来の光学軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している液晶配向パターンを有するコレステリック液晶層を形成する場合、非常に小さいピッチの配向させる配向能の点と、繰り返し光配向膜として液晶の配向をさせる場合、配向させる能力が高いまま維持できる耐久性の点で、アゾ化合物を用いることが好ましい。
【0080】
従来、アゾ化合物を用いた光配向膜を形成する場合には、雰囲気環境の相対湿度を60%程度に高くすることで配向性を高くできることが知られていた(Yue Shi et al. Langmuir 2017, 33, 3968-3974)。
【0081】
これに対して、本発明らは、光配向膜に、配向軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している配向パターンを形成する場合には、露光工程を相対湿度50%以下の環境下で実施することで、配向性の高い光配向膜が得られることを知見した。
【0082】
従来の知見は、液晶化合物を一方向に配列するための光配向膜を形成するもの、すなわち、配向軸の向きが一方向に揃った光配向膜を形成するものに関するものであった。一般に、光配向膜の材料として用いられるアゾ化合物は親水性が高い場合が多い。親水性が高い材料を用いた場合に、雰囲気の湿度が高いと、光配向膜が吸湿してアゾ化合物が流動しやすくなると考えられる。そのため、湿度が低い場合に比べて、配向軸の向きが一方向に揃いやすくなると考えられる。従って、光配向膜の配向性を高くすることができる。
【0083】
しかしながら、配向軸の向きが面内の少なくとも一方向に沿って連続的に回転しながら変化している配向パターンを有する光配向膜の場合には、配向軸の向きを各々異なる方向に向かせる必要がある。この場合に、雰囲気の湿度が高く、光配向膜が吸湿してアゾ化合物が流動しやすくなると、アゾ化合物同士が互いに影響して、互いに異なる配向軸の向きを維持できずに配向パターンが崩れてしまうと考えられる。特に、露光した領域の端部では露光量が少なく、また、隣接する未露光部の影響によって、配向軸が所望の向きに配向しにくい。そのため、雰囲気の湿度が高いと配向パターンが崩れてしまい、光配向膜の配向性が悪くなってしまうと考えられる。
【0084】
これに対して、本発明の製造方法では、露光工程を相対湿度50%以下の環境下で実施するため、吸湿によってアゾ化合物が流動しやすくなることを抑制し、露光によって形成される配向パターンが崩れることを抑制できる。したがって、配向性が高いパターン光配向膜を形成することができる。また、配向性が高いパターン光配向膜上に液晶層を形成することで液晶層中の液晶化合物の配向不良を抑制することができる。
【0085】
なお、光配向膜の配向性を高くできる等の観点から、露光工程の際の雰囲気の相対湿度は、50%以下が好ましく、30%以下がより好ましく、10%以下がさらに好ましい。
【0086】
また、露光工程の後、後述する液晶層の形成工程までの間の、光配向膜の雰囲気環境の相対湿度が高いと、湿度の影響によって光配向膜が吸湿し、アゾ化合物が流動しやすくなって、配向パターンが崩れてしまうおそれがある。そのため、露光工程から液晶層形成工程までの間の雰囲気環境の相対湿度を50%以下とするのが好ましく、30%以下とするのがより好ましく、10%以下とするのがさらに好ましい。
また、全ての工程が相対湿度50%以下の環境で実施されるのが最も好ましい。
【0087】
また、本発明の製造方法は、光配向材料(アゾ化合物)を用いる場合に好適に適用される。
【0088】
<液晶層形成工程>
液晶層形成工程は、配向パターンを有する光配向膜の上に液晶層を形成する工程である。
以下の説明は、コレステリック液晶層を例にして行う。なお、
図8に示すような光学異方性層の場合には、液晶組成物がキラル剤を含有しない以外は基本的に同様の方法で光学異方性層を形成することができる。
【0089】
<<コレステリック液晶層の形成方法>>
コレステリック液晶層16は、コレステリック液晶相を層状に固定して形成できる。
コレステリック液晶相を固定した構造は、コレステリック液晶相となっている液晶化合物の配向が保持されている構造であればよく、典型的には、重合性液晶化合物をコレステリック液晶相の配向状態としたうえで、紫外線照射、加熱等によって重合、硬化し、流動性が無い層を形成して、同時に、外場または外力によって配向形態に変化を生じさせることない状態に変化した構造が好ましい。
なお、コレステリック液晶相を固定した構造においては、コレステリック液晶相の光学的性質が保持されていれば十分であり、コレステリック液晶層において、液晶化合物40は液晶性を示さなくてもよい。例えば、重合性液晶化合物は、硬化反応により高分子量化して、液晶性を失っていてもよい。
【0090】
ここで、本発明の製造方法において、前述のとおり、配向性の高い光配向膜を形成することができるので、この光配向膜の上に形成される液晶層中の液晶化合物を適正に配向させることができ、配向不良が少ない液晶層を形成することができる。
【0091】
コレステリック液晶層16の形成方法には、制限はなく、公知の形成方法が、各種、利用可能である。
特に、以下に示す本発明のコレステリック液晶層の形成方法は、本発明のコレステリック液晶層16を、安定して、好適に形成できるため、好ましく例示される。
【0092】
<<<液晶組成物>>>
コレステリック液晶相を固定してなるコレステリック液晶層16の形成に用いる材料は、一例として、液晶化合物およびキラル剤を含む液晶組成物が挙げられる。液晶化合物は重合性液晶化合物であるのが好ましい。
【0093】
(重合性液晶化合物)
重合性液晶化合物は、棒状液晶化合物であっても、円盤状液晶化合物であってもよい。
重合性液晶化合物の例としては、棒状ネマチック液晶化合物が挙げられる。棒状ネマチック液晶化合物としては、アゾメチン類、アゾキシ類、シアノビフェニル類、シアノフェニルエステル類、安息香酸エステル類、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル類、シアノフェニルシクロヘキサン類、シアノ置換フェニルピリミジン類、アルコキシ置換フェニルピリミジン類、フェニルジオキサン類、トラン類、および、アルケニルシクロヘキシルベンゾニトリル類等が好ましく用いられる。低分子液晶化合物だけではなく、高分子液晶化合物も用いることができる。
【0094】
重合性液晶化合物は、重合性基を液晶化合物に導入することで得られる。重合性基としては、不飽和重合性基、エポキシ基、およびアジリジニル基が挙げられ、不飽和重合性基が好ましく、エチレン性不飽和重合性基がより好ましい。重合性基は種々の方法で、液晶化合物の分子中に導入できる。重合性液晶化合物が有する重合性基の個数は、好ましくは1~6個、より好ましくは1~3個である。
【0095】
また、液晶組成物中の重合性液晶化合物の添加量は、液晶組成物の固形分質量(溶媒を除いた質量)に対して、75~99.9質量%であるのが好ましく、80~99質量%であるのがより好ましく、85~90質量%であるのがさらに好ましい。
【0096】
(キラル剤(光学活性化合物))
キラル剤(カイラル剤)はコレステリック液晶相の螺旋構造を誘起する機能を有する。キラル剤は、化合物によって誘起する螺旋の捩れ方向または螺旋ピッチが異なるため、目的に応じて選択すればよい。
キラル剤としては、特に制限はなく、公知の化合物(例えば、液晶デバイスハンドブック、第3章4-3項、TN(twisted nematic)、STN(Super Twisted Nematic)用キラル剤、199頁、日本学術振興会第142委員会編、1989に記載)、イソソルビド(イソソルビド構造を有するキラル剤)、および、イソマンニド誘導体等を用いることができる。
また、キラル剤は、光の照射によって、戻り異性化、二量化、ならびに、異性化および二量化等を生じて、螺旋誘起力(HTP:Helical Twisting Power)が低下するキラル剤も、好適に利用可能である。
【0097】
キラル剤は、一般に不斉炭素原子を含むが、不斉炭素原子を含まない軸性不斉化合物または面性不斉化合物もキラル剤として用いることができる。軸性不斉化合物または面性不斉化合物の例には、ビナフチル、ヘリセン、パラシクロファン、および、これらの誘導体が含まれる。キラル剤は、重合性基を有していてもよい。キラル剤と液晶化合物とがいずれも重合性基を有する場合は、重合性キラル剤と重合性液晶化合物との重合反応により、重合性液晶化合物から誘導される繰り返し単位と、キラル剤から誘導される繰り返し単位とを有するポリマーを形成することができる。この態様では、重合性キラル剤が有する重合性基は、重合性液晶化合物が有する重合性基と、同種の基であるのが好ましい。従って、キラル剤の重合性基も、不飽和重合性基、エポキシ基またはアジリジニル基であるのが好ましく、不飽和重合性基であるのがより好ましく、エチレン性不飽和重合性基であるのがさらに好ましい。
また、キラル剤は、液晶化合物であってもよい。
【0098】
液晶組成物における、キラル剤の含有量は、液晶化合物の含有モル量に対して0.01~200モル%が好ましく、1~30モル%がより好ましい。
【0099】
(界面活性剤)
液晶組成物は、界面活性剤を含有してもよい。
界面活性剤は、安定的にまたは迅速にプレーナー配向のコレステリック液晶相とするために寄与する配向制御剤として機能できる化合物が好ましい。界面活性剤としては、例えば、シリコ-ン系界面活性剤およびフッ素系界面活性剤が挙げられ、フッ素系界面活性剤が好ましく例示される。
【0100】
液晶組成物中における、界面活性剤の添加量は、液晶化合物の全質量に対して0.01~10質量%が好ましく、0.01~5質量%がより好ましく、0.02~1質量%がさらに好ましい。
【0101】
(配向制御剤)
液晶組成物は、光配向膜上に塗布した際に、光配向膜側および空気界面側の少なくとも一方の界面にプレチルト角を有する領域を発現させるための添加剤(配向制御剤)を少なくとも一種含有させることが好ましい。前述の添加剤を組成物に含有させることで、光学素子にプレチルト角を有する領域を設けることができる。
【0102】
(その他の成分)
液晶組成物には、上述した成分以外の成分が含まれていてもよい。
例えば、液晶組成物には、重合開始剤が含まれていてもよい。使用される重合開始剤は、重合反応の形式に応じて、熱重合開始剤、光重合開始剤が挙げられる。
重合開始剤の使用量は、組成物の全固形分に対して、0.01~20質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることが更に好ましい。
【0103】
また、液晶組成物には、塗工膜の均一性、膜の強度の点から、重合性モノマーが含まれていてもよい。重合性モノマーとしては、ラジカル重合性またはカチオン重合性の化合物が挙げられる。好ましくは、多官能性ラジカル重合性モノマーである。
重合性モノマーの添加量は、液晶性化合物100質量部に対して、1~50質量部であることが好ましく、5~30質量部であることがより好ましい。
【0104】
また、液晶組成物には、溶媒が含まれていてもよく、有機溶媒が好ましく用いられる。
有機溶媒としては、アミド、スルホキシド、ヘテロ環化合物、炭化水素、アルキルハライド、エステル、ケトン、および、エーテルが挙げられる。
【0105】
液晶組成物中には、必要に応じて、さらに重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定化剤、色材、および、金属酸化物微粒子等を、光学的性能等を低下させない範囲で添加することができる。
【0106】
<<<コレステリック液晶層の形成>>>
コレステリック液晶層を形成する際には、コレステリック液晶層の形成面に液晶組成物を塗布して、液晶化合物をコレステリック液晶相の状態に配向した後、液晶化合物を硬化して、コレステリック液晶層とするのが好ましい。
すなわち、上述した液晶配向パターンに応じた、光学軸40Aの向きを、面内の少なくとも一方向に沿って回転させる配向パターンを有する光配向膜14に、上述した液所化合物およびキラル剤を含む液晶組成物を塗布する。
液晶組成物の塗布は、インクジェットおよびスクロール印刷等の印刷法、ならびに、スピンコート、バーコートおよびスプレー塗布等のシート状物に液体を一様に塗布できる公知の方法が全て利用可能である。
【0107】
液晶組成物の塗膜厚には、制限はなく、形成するコレステリック液晶層16の膜厚に応じて、適宜、設定すればよい。
ここで、以下に示す方法では、1回の塗布によって、膜厚の厚いコレステリック液晶層を形成できる。この点を考慮すると、液晶組成物の塗膜厚dcは、液晶配向パターンにおける1周期Λの半分を超える厚さであるのが好ましい。すなわち、液晶組成物の塗膜厚dcは『dc>Λ/2』を満たすのが好ましい。
【0108】
液晶組成物の塗膜を形成したら、次いで、液晶組成物を加熱処理する加熱工程を行う。加熱処理によって、液晶化合物40を上述した配向状態とする。
加熱処理は、液晶化合物40の、結晶相-ネマチック相転移温度(Cr-Ne相転移温度)~ネマチック相-等方相転移温度(Ne-Iso相転移温度)の温度範囲内の温度T1で行うのが好ましい。
加熱処理温度がCr-Ne相転移温度未満では、液晶化合物40を適正に配向できない等の不都合を生じるおそれがある。
加熱処理温度がNe-Iso相転移温度を超えると、配向欠陥の増加、回折効率の低下等の不都合を生じるおそれがある。
【0109】
加熱処理時間には、制限はないが、10~600秒が好ましく、15~300秒がより好ましく、30~200秒がさらに好ましい。
【0110】
なお、上部すなわち光配向膜14と離れた領域において、安定して液晶化合物40を主面に対して傾斜させるためには、加熱処理が終了した状態において、螺旋1ピッチすなわちピッチPが小さい方が好ましい。
具体的には、液晶配向パターンの1周期Λに対して、ピッチPは『P/Λ≦1.5』を満たすのが好ましく、『P/Λ≦1.2』を満たすのがより好ましい。
【0111】
加熱工程を終了したら、組成物層に対して硬化処理を実施することが好ましい。
硬化処理の方法は特に制限されず、光硬化処理および熱硬化処理が挙げられる。なかでも、光照射処理が好ましく、紫外線照射処理がより好ましい。円盤状液晶化合物が重合性基を有する場合には、硬化処理は、光照射(特に紫外線照射)による重合反応であるのが好ましく、光照射(特に紫外線照射)によるラジカル重合反応であるのがより好ましい。
紫外線照射には、紫外線ランプ等の光源が利用される。
紫外線の照射エネルギー量は特に制限されないが、一般的には、100~800mJ/cm2程度が好ましい。なお、紫外線を照射する時間は特に制限されないが、得られる層の充分な強度および生産性の双方の観点から適宜決定すればよい。
【0112】
光照射による硬化は、露光を1回のみ行っても良いが、加熱処理後に第1露光工程を行い、その後、波長の異なる光を照射する第2露光工程を行うのが好ましい。
光の照射によってHTPが低下するキラル剤を用い、このような2段階の露光を行うことで、第1露光工程において螺旋1ピッチ(ピッチP)を伸長して、第2露光工程で液晶組成物を硬化することで、上述した『P/Λ≦1.5』を超える螺旋1ピッチを有するコレステリック液晶層16を形成でき、かつ、『P/Λ≦1.5』を超える螺旋1ピッチを有するコレステリック液晶層16でも、上部すなわち光配向膜14と離れた領域において、安定して液晶化合物40を主面に対して傾斜させることが可能である。
【0113】
このような2回の露光工程を行うことにより、コレステリック液晶層16は、SEMで観察する断面において、明部と暗部との形成周期すなわちピッチPが、厚さ方向の位置によって異なる領域を有する構成となるように制御することが可能である。
また、このような2回の露光工程を行うことにより、コレステリック液晶層16は、傾斜角θ1が、厚さ方向の位置によって異なる領域を有する構成となるように制御することが可能である。なお、傾斜角θ1とは、
図3に示すように、明部および暗部がコレステリック液晶層16の主面に対して成す角度である。
好ましくは、コレステリック液晶層16は、厚さ方向の一方向に向かって、傾斜角θ1が連続的に増大する領域を有する。図示例においては、コレステリック液晶層16は、光配向膜14側から、光配向膜14と離間する側(空気側界面A)に向かって、傾斜角θ1が連続的に増大する領域を有するのが好ましい。
より好ましくは、コレステリック液晶層16は、厚さ方向の一方向に向かって傾斜角θ1が連続的に増大する領域と、同方向に向かって傾斜角が連続的に減少する領域とを有する。図示例においては、コレステリック液晶層16は、光配向膜14側から、光配向膜14と離間する側に向かって、傾斜角θ1が連続的に増大する領域と、同方向に向かって、傾斜角θ1が連続的に減少する領域とを有するのがより好ましい。特に、コレステリック液晶層16は、厚さ方向において、最も光配向膜14側の、傾斜角θ1の増大が少ない領域と、中間の傾斜角θ1の増大が大きい中間領域と、最も光配向膜14と離間する、中間領域に対して傾斜角θ1が連続的に減少する領域と、を有するのが好ましい。
このような膜厚方向に連続的にピッチPおよび/または傾斜角θが変化する構造を有するコレステリック液晶層16は、透過率の入射角依存性の広い性能を得ることができる。透過率が低下する角度範囲は、入射光が回折する角度範囲に相当する。従って、透過率の入射角依存性が広い回折素子を、例えばARグラスの導光板の入射、および/または、出射用の素子として使用することで、視野角の広いARグラスを得ることができる。
【0114】
露光に用いる光には、制限はないが、紫外線を用いるのが好ましい。照射する紫外線の波長は250~430nmが好ましい。
照射エネルギーは、合計で2mJ/cm2~50J/cm2が好ましく、5~1500mJ/cm2がより好ましい。光重合反応を促進するため、加熱条件下または窒素雰囲気下で露光を実施してもよい。
【0115】
本発明の形成方法によって形成されるコレステリック液晶層16の膜厚には、制限はなく、コレステリック液晶層16の選択反射中心波長、コレステリック液晶層16に要求される反射率(回折効率)等に応じて、適宜、設定すればよい。
本発明の形成方法によって形成されるコレステリック液晶層16の膜厚は、1.0μm以上が好ましく、2.0μm以上がより好ましい。本発明の形成方法によって形成するコレステリック液晶層16の膜厚の上限は、6μm程度である。
【0116】
なお、本発明の製造方法は、コレステリック液晶層の形成を、複数回、繰り返す、多重塗布によるコレステリック液晶層の形成にも、好適に利用可能である。
【0117】
ここで、本発明の製造方法において、液晶層を形成した後、液晶層を光配向膜との界面で剥離して、光配向膜を再利用してもよい。すなわち、
図5に示すように、光配向膜14の上に液晶層16を形成した後、
図6に示すように形成した液晶層16を剥離し(剥離工程を実施し)、液晶層16を剥離した光配向膜14の上に、再度、液晶組成物を塗布し、加熱、硬化を行って、
図7に示すように新たな液晶層16bを形成してもよい。また、このような液晶層の形成と、液晶層の剥離とを複数回繰り返し行ってもよい。
【0118】
液晶層を光配向膜との界面で剥離すると、光配向膜の配向性は若干低下する。これに対して、前述のとおり、本発明の製造方法で形成される光配向膜は高い配向性を有する。そのため、光配向膜の上に形成した液晶層を剥離して、光配向膜を再利用する場合にも高い配向性を維持できるため、光配向膜上に形成される液晶層中の液晶化合物を適正に配向させることができ、配向不良が少ない液晶層を形成することができる。
【0119】
なお、光配向膜を再利用する場合に、剥離工程から液晶層形成工程までの間の、光配向膜の雰囲気環境の相対湿度が高いと、湿度の影響によって光配向膜が吸湿し、アゾ化合物が流動しやすくなって、配向パターンが崩れてしまうおそれがある。そのため、剥離工程から液晶層形成工程までの間の雰囲気環境の相対湿度を50%以下とするのが好ましく、30%以下とするのがより好ましく、10%以下とするのがさらに好ましい。
また、全ての工程が相対湿度50%以下の環境で実施されるのが最も好ましい。
【0120】
液晶層の剥離方法としては特に制限はない。例えば、粘着剤の塗布されたポリマーフィルムを用意し、粘着剤層を液晶層に貼り付けて、支持体を固定して引っ張ることで、液晶層と光配向膜との界面で剥離させることができる。
【0121】
本発明の製造方法で作製される光学素子は、液晶層(コレステリック液晶層16、光学異方性層18)単体であってもよく、光配向膜および支持体を含むものであってもよい。
【0122】
また、上述した、本発明の製造方法で作製される光学素子は、液晶層(コレステリック液晶層16、光学異方性層18)を1層のみ有するものであるが、本発明は、これに制限はされない。すなわち、光学素子は、2層以上の液晶層を有してもよい。
例えば、本発明の製造方法で作製される光学素子は、赤色光を選択的に反射するコレステリック液晶層および緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層を有する、2層のコレステリック液晶層を有するものでもよく、赤色光を選択的に反射するコレステリック液晶層、緑色光を選択的に反射するコレステリック液晶層、および、青色光を選択的に反射するコレステリック液晶層を有する、3層のコレステリック液晶層を有するものでもよい。
光学素子が、複数層のコレステリック液晶層を有する場合には、全てのコレステリック液晶層が本発明の製造方法で作製されたコレステリック液晶層16であるのが好ましいが、従来の方法で作製されたコレステリック液晶層を含むものでもよい。
【0123】
本発明の製造方法で作製された光学素子は、光学装置における光路変更部材、光集光素子、所定方向への光拡散素子、および、回折素子等、鏡面反射ではない角度で光を反射する、各種の用途に利用可能である。
【0124】
以上、本発明の光学素子の製造方法について詳細に説明したが、本発明は上述の例に限定はされず、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、各種の改良や変更を行ってもよいのは、もちろんである。
【実施例】
【0125】
以下に実施例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、試薬、使用量、物質量、割合、処理内容、および、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0126】
[実施例1]
(光配向膜の形成)
支持体としてガラス基材を用意した。
支持体上に、下記の光配向膜形成用塗布液を、スピンコータを用いて、2500rpmにて30秒間塗布した(塗布工程)。この光配向膜形成用塗布液の塗膜が形成された支持体を60℃のホットプレート上で60秒間乾燥し(乾燥工程)、光配向膜を形成した。
【0127】
光配向膜形成用塗布液
――――――――――――――――――――――――――――――――――
下記光配向用素材 1.00質量部
水 16.00質量部
ブトキシエタノール 42.00質量部
プロピレングリコールモノメチルエーテル 42.00質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0128】
【0129】
(光配向膜の露光(露光工程))
温度25℃、相対湿度10%の環境下で、
図4に示す露光装置を用いて光配向膜を露光して、配向パターンを有する光配向膜P-1を形成した。
露光装置において、レーザーとして波長(325nm)のレーザー光を出射するものを用いた。干渉光による露光量を3000mJ/cm
2とした。2つのレーザー光の交差角(交差角α)は61.0°とした。
【0130】
(コレステリック液晶層の形成(液晶層形成工程))
コレステリック液晶層を形成する液晶組成物として、下記の液晶組成物LC-1を調製した。この液晶組成物LC-1の固形分濃度は35wt%である。
液晶組成物LC-1
――――――――――――――――――――――――――――――――――
液晶化合物L-1 100.00質量部
重合開始剤I-1 3.00質量部
キラル剤Ch-1 6.20質量部
メチルエチルケトン 202.99質量部
――――――――――――――――――――――――――――――――――
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
露光工程後から液晶層形成工程までの間の環境の温度を25℃、相対湿度を10%として、以下のようにしてコレステリック液晶層を形成した。
光配向膜P-1上に、上記の液晶組成物LC-1を、スピンコータを用いて、1000rpmで10秒間塗布した(塗布工程)。
液晶組成物LC-1の塗膜をホットプレート上で80℃にて3分間(180sec)加熱した(加熱工程)。
その後、80℃にて、窒素雰囲気下で高圧水銀灯を用いて波長365nmの紫外線を500mJ/cm2の照射量で塗膜に照射することにより(第2露光工程)、液晶組成物LC-1を硬化して液晶化合物の配向を固定化し、コレステリック液晶層を形成した。
これにより、支持体、光配向膜およびコレステリック液晶層を有する光学素子を作製した。
【0135】
コレステリック液晶層は、
図2に示すような周期的な配向表面になっていることを偏光顕微鏡で確認した。
光学素子を光学軸の回転方向に沿う方向切削し、断面をSEMで観察した。SEM画像を解析することで、液晶配向パターンにおける1周期Λを測定した。1周期Λは0.32μmであった。
【0136】
[実施例2]
露光工程後、温度25℃、相対湿度60%の環境下に24時間放置した後、液晶層形成工程を実施した以外は、実施例1と同様に光学素子を作製した。
【0137】
[実施例3]
露光工程、および、露光工程後から液晶層形成工程までの間の環境の温度を25℃、相対湿度を30%とした以外は、実施例1と同様にして光学素子を作製した。
[実施例4]
露光工程、および、露光工程後から液晶層形成工程までの間の環境の温度を25℃、相対湿度を50%とした以外は、実施例1と同様にして光学素子を作製した。
【0138】
[比較例1]
露光工程、および、露光工程後から液晶層形成工程までの間の環境の温度を25℃、相対湿度を65%とした以外は、実施例1と同様にして光学素子を作製した。
【0139】
[実施例5]
実施例1で作製した光学素子のコレステリック液晶層を光配向膜との界面で剥離した(剥離工程)。コレステリック液晶層の剥離は、テープをコレステリック液晶層に接着して表面に垂直な方向に引っ張ることで行った。
コレステリック液晶層を剥離した光配向膜に、再び液晶組成物LC-1を塗布し、加熱、露光を行って(液晶層形成工程を行って)、コレステリック液晶層を作製した。液晶層形成工程は実施例1と同様とした。
剥離工程から液晶層形成工程までの間の環境の温度は25℃、相対湿度を10%とした。
【0140】
[実施例6]
実施例3で作製した光学素子のコレステリック液晶層を光配向膜との界面で剥離した(剥離工程)。コレステリック液晶層の剥離は、テープをコレステリック液晶層に接着して表面に垂直な方向に引っ張ることで行った。
コレステリック液晶層を剥離した光配向膜に、再び液晶組成物LC-1を塗布し、加熱、露光を行って(液晶層形成工程を行って)、コレステリック液晶層を作製した。液晶層形成工程は実施例1と同様とした。
剥離工程から液晶層形成工程までの間の環境の温度は25℃、相対湿度を50%とした。
【0141】
[実施例7]
実施例1で作製した光学素子のコレステリック液晶層を光配向膜との界面で剥離した(剥離工程)。コレステリック液晶層の剥離は、テープをコレステリック液晶層に接着して表面に垂直な方向に引っ張ることで行った。
コレステリック液晶層を剥離した光配向膜に、再び液晶組成物LC-1を塗布し、加熱、露光を行って(液晶層形成工程を行って)、コレステリック液晶層を作製した。液晶層形成工程は実施例1と同様とした。
剥離工程から液晶層形成工程までの間の環境の温度は25℃、相対湿度を65%とした。
【0142】
[評価]
作製した光学素子が有するコレステリック液晶層の、配向膜露光を実施した領域の中央部、および外周部について、それぞれ断面SEM観察を行い、配向欠陥の有無を以下の基準で評価した。
・A:配向欠陥がなかった。
・B:外周部にわずかに配向欠陥が見られた。
・C:全面に配向欠陥が多数見られた。
結果を表1および表2に示す。
【0143】
【0144】
【0145】
表1から、相対湿度50%以下の環境下で露光工程を行う本発明の実施例は、比較例に比べて配向欠陥が少ない液晶層を作製できることがわかる。
また、実施例1と実施例2との対比から、露光工程から液晶層形成工程までの間の実施環境の相対湿度を50%以下とすることが好ましいことがわかる。
また、実施例3と実施例4との対比から、露光工程の際の相対湿度は30%以下であるのが好ましいことがわかる。
【0146】
表2から、本発明では、光配向膜を再利用した場合でも配向欠陥が少ない液晶層を作製できることがわかる。
また、実施例5と実施例7との対比から、光配向膜を再利用する際に、液晶層の剥離工程から液晶層の形成工程までの間の実施環境の相対湿度を50%以下とすることが好ましいことがわかる。
以上の結果より、本発明の効果は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0147】
ARグラスの導光板に光を入射および出射させる回折素子など、光学装置において光を回折する各種の用途に好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0148】
10 光学素子
12 支持体
14 光配向膜
16、16b コレステリック液晶層
40 液晶化合物
40A 光学軸
60 露光装置
62 レーザー
64 光源
65 λ/2板
68 偏光ビームスプリッター
70A,70B ミラー
72A,72B λ/4板
R 右円偏光
M レーザー光
MA,MB 光線
PO 直線偏光
PR 右円偏光
PL 左円偏光
P 螺旋ピッチ
Λ 液晶配向パターンの1周期