(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】特殊潜像模様形成体
(51)【国際特許分類】
B41M 3/14 20060101AFI20231208BHJP
B41M 1/24 20060101ALI20231208BHJP
B42D 25/324 20140101ALI20231208BHJP
【FI】
B41M3/14
B41M1/24
B42D25/324
(21)【出願番号】P 2020104951
(22)【出願日】2020-06-18
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】303017679
【氏名又は名称】独立行政法人 国立印刷局
(72)【発明者】
【氏名】田中 利典
【審査官】高松 大治
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-019255(JP,A)
【文献】特開2013-129154(JP,A)
【文献】特開2000-313161(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
B41M 1/24
B42D 25/324
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
潜像模様が形成された潜像領域と、背景領域とが配置された基材と、
前記基材の表面上で、凹断面又は凸断面を有し、前記基材と同一色を有し、所定ピッチで一方向に沿って配置された凹凸画線と、
前記基材の表面上で、前記基材と異なる色を有し、前記所定ピッチで前記一方向に沿って配置された印刷画線と、
を備え、
前記凹凸画線は、前記潜像領域において形成された第1の凹凸画線と、前記背景領域において形成された第2の凹凸画線とを有し、前記第1の凹凸画線と前記第2の凹凸画線とはそれぞれの位相が相違し前記印刷画線に対する相対的位置が相違することによって、前記基材を傾けて観察した場合に前記潜像模様が視認され、
前記凹凸画線は、前記第1の凹凸画線に対して、前記第2の凹凸画線の中心線を境に線対称となる第3の凹凸画線、又は前記第2の凹凸画線に対して、前記第1の凹凸画線の中心を境に線対称となる第4の凹凸画線をさらに備えることを特徴とする特殊潜像模様形成体。
【請求項2】
前記背景領域と前記潜像領域との間にさらに輪郭領域が設けられており、
前記凹凸画線は、前記輪郭領域において、位相が連続的に変化して前記第1の凹凸画線と前記第2の凹凸画線とに連結する第5の凹凸画線をさらに備え、
前記凹凸画線は、前記輪郭領域において、位相が連続的に変化して前記第2の凹凸画線と前記第3の凹凸画線とに連結する第6の凹凸画線、又は位相が連続的に変化して前記第4の凹凸画線と前記第1の凹凸画線とに連結する第6の凹凸画線をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の特殊潜像模様形成体。
【請求項3】
前記背景領域と前記潜像領域との間にさらに輪郭領域が設けられており、
前記凹凸画線は、前記輪郭領域において、前記第1の凹凸画線の位相と前記第2の凹凸画線の位相との間の位相を有する少なくとも1本の第7の凹凸画線をさらに備え、
前記凹凸画線は、前記輪郭領域において、前記第2の凹凸画線の位相と前記第3の凹凸画線の位相との間の位相を有する少なくとも1本の第8の凹凸画線、又は前記第1の凹凸画線の位相と前記第4の凹凸画線の位相との間の位相を有する少なくとも1本の第9の凹凸画線をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載の特殊潜像模様形成体。
【請求項4】
前記凹凸画線は、すき入れ、エンボス、印刷
のいずれか一つによって形成されたものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の特殊潜像模様形成体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特殊潜像模様形成体に関し、例えば、銀行券、パスポート、有価証券、カード、貴重印刷物等の偽造防止、改ざん防止が要求されるものに利用することが可能な特殊潜像模様形成体に関する。
【背景技術】
【0002】
銀行券、パスポート、有価証券、カード、貴重印刷物等は、その性質上、偽造防止、改ざん防止が要求される。そのようなものに偽造防止、改ざん防止策を施す技術として、紙層の厚さを部分的に変えることによるすき入れ、例えば特殊な物質を基材内に入れることによるすき入れやエンボス、印刷等によって基材上に凹凸画線を施したものを用いることが行われている。
【0003】
そして、すき入れ、エンボス、印刷等により形成された万線模様等の凹凸画線を有する基材の表面上に、凹凸画線に対して平行又は傾斜した印刷画線を印刷する。このようにして製造された特殊潜像模様形成体に対して、基材を所定角度の方向から観察すると、潜像模様となる所定の文字、図柄等が視認される。出願人は、このような特殊潜像模様形成体について、以下の特許文献1~4に示された特許を得ている。
【0004】
従来の特殊潜像模様形成体の基本的な構成について、図面を参照して説明する。
図示されない基材に、
図1(a)に示されたように、すき入れ、エンボス、印刷等により凹凸画線11が形成され、この凹凸画線11は基材と同一色を有する。
【0005】
凹凸画線11は、部分11Xを拡大して上面から見た状態を示した
図1(b)、
図1(b)においてY-Y線に沿う縦断面を示した
図1(c)に示されたように、ここでは一例として凸状の断面構造を有し、長手方向に沿って中心位置の稜線に相当する中心線11CLが位置する。
【0006】
さらに基材上に、
図2に示されたように印刷画線12が形成される。この印刷画線12は、無色以外の有色インキで例えばオフセット印刷により印刷され、基材とは異なる色を有する。
【0007】
凹凸画線11と印刷画線12とは、
図3に示されるように凹凸画線11が1層目として形成され、その上に積層されるように印刷画線12が形成される。
【0008】
図4に、特殊潜像模様形成体により形成される潜像模様の一例として数字「1」を示す。なお、潜像模様は数字には限定されず、例えば文字、図形、記号、模様等あらゆる模様が含まれる。
【0009】
図5に、特殊潜像模様形成体において、潜像模様「1」におけるX-X線に沿う位置における凹凸画線11と印刷画線12とが最も望ましい相対的位置で配置された状態を示す。ここで、凹凸画線11から印刷画線12までの距離をZ1、隣接する凹凸画線11の間のピッチをP1とする。また、潜像模様が形成された図中中央の領域をA領域、背景模様が形成された図中左右の両端の領域をB領域、さらに潜像模様の輪郭に相当する模様が形成された輪郭領域をC領域とする。
【0010】
視点E1から基材を所定角度に傾けて観察した場合、A領域、C領域では凹凸画線11の表面上に印刷画線12がある程度見えるが、その両端のB領域では印刷画線12が凹凸画線11によって隠れて視認されない。これにより、模様21のように潜像模様の「1」がポジ模様として視認される。
【0011】
さらに
図5の状態に対して観察角度の違いによる潜像模様の視認原理を
図6に示す。
図6(a)は、視点と基材4との小さい角度ウからの視点E1と、視点と基材4との大きな角度アからの視点E1'、更に視点E1から視点E1'までの間の角度イのそれぞれの観察状態を示す。また、
図6(b)は、視点E1、視点E1'及び視点E1から視点E1'までのそれぞれの基材との角度を断面図として示したものである。
【0012】
図6(a)及び
図6(b)に示すように、潜像模様を形成するA領域において、基材4の水平面方向から、凹凸画線11の死角から印刷画線12の一部が見える位置までの基材4との角度ウの視点E1と、背景を形成するB領域において、基材4に対して垂直方向の真上から、凹凸画線11の死角となって印刷画線12の一部が見えなくなった位置までの基材4との角度アの視点E1'では、いずれも潜像模様は確認できない。ただし、視点E1から視点E1'の間の角度イの範囲では、凹凸画線11により印刷画線12の一部が死角となり一部のみが見えることとなり、潜像模様がネガ模様として確認できる。。この角度イが大きい程、潜像模様の視認可能な視野角度が広くなるため、観察者には潜像が見易くなる。
【0013】
視点E1とは反対側の視点E2から基材を所定角度に傾けて観察した場合、A領域では凹凸画線11によって印刷画線12が殆ど見えず、その両端のB領域、C領域では印刷画線12は凹凸画線11によって隠れることなく明瞭に視認される。これにより、模様22のように潜像模様の「1」がネガ模様として視認される。
【0014】
図7に、特殊潜像模様形成体において、潜像模様「1」におけるX-X線に沿う位置における凹凸画線11と印刷画線12との間でやや望ましくない相対的位置、すなわち潜像模様がある程度は視認される状態で配置された状態を示す。ここで、凹凸画線11から印刷画線12までの距離をZ2とする。
【0015】
視点E1から特殊潜像模様形成体を所定角度に傾けて観察した場合、A領域では印刷画線12が凹凸画線11によって隠れて見えず、その両端のB領域、C領域では印刷画線12が凹凸画線11によって隠れることなく見える。これにより、模様22のように潜像模様の「1」がネガ模様として視認される。さらに基材を傾けて観察すると、A領域、B領域、C領域とも印刷画線12が凹凸画線11によって完全に隠れた状態となり、模様24に示されたように有色の印刷画線12が全く見えず基材と同一色の凹凸画線11のみが見えるため潜像模様の「1」は全く視認されない。
【0016】
視点E2から基材を所定角度に傾けて観察した場合、A領域、B領域、C領域とも印刷画線12が凹凸画線11によって全く隠れず明瞭に見える状態となる。これにより、基材の真上から観察した状態と同様に、模様23に示されたように有色の印刷画線12が均一に分散された状態となり潜像模様の「1」は全く視認されない。
【0017】
図8に、特殊潜像模様形成体において、潜像模様「1」におけるX-X線に沿う位置における凹凸画線11と印刷画線12との間で最も望ましくない相対的位置、すなわち潜像模様が全く視認されない状態で配置された状態を示す。ここで、凹凸画線11から印刷画線12までの距離をZ3とする。
【0018】
視点E1から基材を所定角度に傾けて観察した場合、印刷画線12と凹凸画線11とが離れているため、A領域、B領域、C領域とも同様に、印刷画線12が凹凸画線11によって隠れることなく視認される。これにより、基材の真上から観察した状態と同様に、模様23に示されたように有色の印刷画線12が均一に分散された状態となり潜像模様の「1」は全く視認されない。さらに基材を傾けて観察すると、A領域、B領域、C領域とも印刷画線12が凹凸画線11によって完全に隠れた状態となり、模様αに示されたように有色の印刷画線12が全く見えず基材と同一色の凹凸画線11のみが見えるため潜像模様の「1」は全く視認されない。
【0019】
視点E2から基材を所定角度に傾けて観察した場合、A領域、B領域、C領域とも印刷画線12が凹凸画線11によって全く隠れず明瞭に見える状態となるため、基材の真上から観察した状態と同様に、模様23に示されたように有色の印刷画線12が均一に分散された状態となり潜像模様の「1」は全く視認されない。さらに基材を傾けて観察すると、A領域、B領域、C領域とも印刷画線12が凹凸画線11によって完全に隠れた状態となり、模様βに示されたように有色の印刷画線12が全く見えず基材と同一色の凹凸画線11のみが見えるため潜像模様の「1」は全く視認されない。
【0020】
さらに
図8の状態に対して観察角度の違いによる潜像模様の視認原理を
図9に示す。
図9(a)は、視点と基材4との小さい角度ウからの視点E1'と、視点と基材4との大きな角度アからの視点E1、更に視点E1から視点E1'までの間の角度イのそれぞれの観察状態を示す。また、
図9(b)は、視点E1'、視点E1及び視点E1'から視点E1までのそれぞれの基材との角度を断面図として示したものである。
【0021】
図9(a)及び
図9(b)に示すように、潜像模様を形成するA領域において、基材4に対して垂直方向の真上から、凹凸画線11の死角となって印刷画線12の一部が見えなくなった位置までの基材4との角度アの視点E1と、背景を形成するB領域において、基材4の水平面方向から、凹凸画線11の死角から印刷画線12の一部が見える位置までの基材4との角度ウの視点E1'では、いずれも潜像模様は確認できない。ただし、視点E1'から視点E1の間の角度イの範囲では、凹凸画線11により印刷画線12の一部が死角となって一部のみが見えることとなり、潜像模様がネガ模様として確認できる。
【0022】
前述した
図6を用いて説明した望ましい相対的位置における視点E1から視点E1'までの潜像模様を確認できる角度イの範囲は大きく、
図9を用いて説明した望ましくない相対的位置における視点E1'から視点E1までの潜像模様を確認できるかくどイの範囲は狭い。したがって、本発明では、この潜像模様が確認できる角度イをいかに大きく確保できるように画線構成をとるかというところがポイントとなる。
【0023】
このように従来の特殊潜像模様形成体では、印刷画線と凹凸画線との相対的位置にずれがあると潜像模様が視認されないため、両者を高い精度で配置しなければならなかった。その結果、コストの上昇を招いていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【文献】特許第2615401号
【文献】特許第2600094号
【文献】特許第4734616号
【文献】特許第5062645号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
上述したように、従来の特殊潜像模様形成体では、印刷画線と凹凸画線との相対的位置を高い精度で配置しなければならず、コストの上昇を招くという課題があった。本発明は上記事情に鑑み、印刷画線と凹凸画線との相対的位置に高い精度を要求することなく潜像模様を視認することが可能であり、その結果コストを低減することができる特殊潜像模様形成体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の特殊潜像模様形成体は、潜像模様が形成された潜像領域と、背景領域とが配置された基材と、基材の表面上で、凹断面又は凸断面を有し、基材と同一色を有し、所定ピッチで一方向に沿って配置された凹凸画線と、基材の表面上で、基材と異なる色を有し、所定ピッチで一方向に沿って配置された印刷画線と、を備え、凹凸画線は、潜像領域において形成された第1の凹凸画線と、背景領域において形成された第2の凹凸画線とを有し、第1の凹凸画線と第2の凹凸画線とはそれぞれの位相が相違し印刷画線に対する相対的位置が相違することによって、基材を傾けて観察した場合に潜像模様が視認され、凹凸画線は、第1の凹凸画線に対して、第2の凹凸画線の中心線を境に線対称となる第3の凹凸画線、又は第2の凹凸画線に対して、第1の凹凸画線の中心を境に線対称となる第4の凹凸画線をさらに備えることを特徴とする。
【0027】
また、本発明の特殊潜像模様形成体は、背景領域と潜像領域との間にさらに輪郭領域が設けられており、凹凸画線は、郭領域において、位相が連続的に変化して第1の凹凸画線と第2の凹凸画線とに連結する第5の凹凸画線をさらに備え、凹凸画線は、輪郭領域において、位相が連続的に変化して第2の凹凸画線と第3の凹凸画線とに連結する第6の凹凸画線、又は位相が連続的に変化して第4の凹凸画線と第1の凹凸画線とに連結する第6の凹凸画線をさらに備えることを特徴とする。
【0028】
また、本発明の特殊潜像模様形成体は、背景領域と潜像領域との間にさらに輪郭領域が設けられており、凹凸画線は、輪郭領域において、第1の凹凸画線の位相と第2の凹凸画線の位相との間の位相を有する少なくとも1本の第7の凹凸画線をさらに備え、凹凸画線は、輪郭領域において、第2の凹凸画線の位相と第3の凹凸画線の位相との間の位相を有する少なくとも1本の第8の凹凸画線、又は第1の凹凸画線の位相と第4の凹凸画線の位相との間の位相を有する少なくとも1本の第9の凹凸画線をさらに備えたことを特徴とする。
【0029】
さらに、本発明の特殊潜像模様形成体は、凹凸画線は、すき入れ、エンボス、印刷等によって形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0030】
本発明の特殊潜像模様形成体によれば、印刷画線と凹凸画線との相対的位置に高い精度を要求することなく潜像模様を視認することが可能であり、コスト低減が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】従来の特殊潜像模様形成体における凹凸画線を示した平面図、部分拡大図及び縦断面図。
【
図2】同特殊潜像模様形成体における印刷画線を示した平面図。
【
図3】同特殊潜像模様形成体において凹凸画線の上に印刷画線が形成される積層順を示した平面図。
【
図4】同特殊潜像模様形成体で形成された潜像模様の一例を示した説明図。
【
図5】同特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線とが最も望ましい相対的位置で配置された状態を示した平面図。
【
図6】同特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線とが最も望ましい相対的位置で配置された状態における観察状態を示した平面図。
【
図7】同特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線とがやや望ましくない相対的位置で配置された状態を示した平面図。
【
図8】同特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線とが最も望ましくない相対的位置で配置された状態を示した平面図。
【
図9】同特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線とが最も望ましくない相対的位置で配置された状態における観察状態を示した平面図。
【
図10】比較例としての特殊潜像模様形成体における凹凸画線を示した平面図。
【
図11】本発明の第1の実施の形態による特殊潜像模様形成体における凹凸画線を示した平面図。
【
図12】上記第1の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線との相対的位置の一例と、視認状態とを示した平面図。
【
図13】上記第1の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線との相対的位置の他の例と、視認状態とを示した平面図。
【
図14】本発明の第2の実施の形態による特殊潜像模様形成体における凹凸画線を示した平面図。
【
図15】上記第2の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線との相対的位置の一例と、視認状態とを示した平面図。
【
図16】本発明の第3の実施の形態による特殊潜像模様形成体における凹凸画線を示した平面図。
【
図17】上記第3の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線と印刷画線との相対的位置の一例と、視認状態とを示した平面図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一実施の形態による特殊潜像模様形成体について、図面を参照して説明する。本発明は、以下に述べる実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に含まれる様々な形態が含まれる。
【0033】
(1)第1の実施の形態
先ず、比較例としての特殊潜像模様形成体における凹凸画線を
図10に示す。この比較例は、
図1に示された従来の特殊潜像模様形成体に相当し、潜像模様が形成され図中中央に位置するA領域に凹凸画線102を有し、背景模様が形成され図中左右の両端に位置するB領域に凹凸画線101を有する。さらにA領域とB領域の間に、潜像模様の輪郭に相当するものが形成されたC領域に凹凸画線103を有する。
【0034】
凹凸画線101の中心は中心線101CLと一致し、凹凸画線102の中心は中心線101CLに対して図中上下方向に偏移しており、その結果、凹凸画線101に対して位相がずれている。
【0035】
これに対し、本発明の第1の実施の形態による特殊潜像模様形成体は、
図11に示されたように、凹凸画線101、102、103に加えて、A領域に凹凸画線102A、C領域に凹凸画線103Aを有する。この凹凸画線102Aは、その中心が、凹凸画線102に対して中心線101CLを境に線対称となるように設けられ、凹凸画線103Aは、その中心が、凹凸画線103に対して中心線101CLを境に線対称となるように設けられている。
【0036】
この第1の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線101、102、102Aと、印刷画線201との相対的位置の一例と、視認状態とを
図12に示す。この例では、印刷画線201がA領域において凹凸画線102Aと少なくとも一部が重複し、印刷画線201がC領域において凹凸画線103Aと少なくとも一部が重複するように位置している。
【0037】
特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向から観察すると、A領域、B領域、C領域のいずれにおいても印刷画線201が凹凸画線101、102、102A、103、103Aによって隠れることなく見える。これにより、模様302のように潜像模様が視認されず印刷画線201による有色の万線模様のみが視認される。さらに特殊潜像模様形成体を傾けて観察すると、A領域では印刷画線201が凹凸画線102、102Aによって隠れて見えず、B領域及びC領域では印刷画線201が凹凸画線101、103、103Aによって隠れることなく見える。これにより、模様301のようにネガで潜像模様が視認される。
【0038】
また、特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向と反対のE2方向から観察すると、A領域では印刷画線201が凹凸画線102、102Aによって隠れて見えないが、B領域及びC領域では印刷画線201が凹凸画線101、103、103Aによって隠れることなく見えて模様301のようにネガで潜像模様が視認される。
【0039】
次に、この第1の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線101、102、102A、103、103Aと、印刷画線201との相対的位置の他の例と、視認状態とを
図13に示す。
【0040】
この例では、印刷画線201がA領域において凹凸画線102Aと、C領域において凹凸画線103Aとほぼ全てが重複するように位置している。
【0041】
特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向から観察すると、A領域では印刷画線201が凹凸画線102、102Aによって隠れて見えないが、B領域及びC領域では凹凸画線101、103、103Aによって印刷画線201が隠れることなく見えるため、模様301のようにネガで潜像模様が視認される。さらに特殊潜像模様形成体を傾けて観察すると、A領域、B領域では印刷画線201が凹凸画線102、102A、101によって隠れて見えず、C領域では印刷画線201が凹凸画線103、103Aによって隠れることなく見える。このため、模様304のように潜像模様の輪郭のみが視認される。
【0042】
また、特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向と反対のE2方向から観察すると、B領域において印刷画線201が凹凸画線101によって隠れて見えず、A領域、C領域では印刷画線が凹凸画線102、102A、103、103Aによって隠れることなく見えて、模様303のようにポジで潜像模様が視認される。さらに特殊潜像模様形成体を傾けて観察すると、A領域、B領域において印刷画線201が凹凸画線102、102A、101によって隠れて見えず、C領域において印刷画線201が凹凸画線103、103Aによって隠れることなく見える。これにより、模様304のように潜像模様の輪郭のみが視認される。
【0043】
なお、
図13に示すように、本発明において、凹凸画線101から位相がずれて配置されている凹凸画線102と、隣り合う凹凸画線101から位相がずれて配置されている凹凸画線102Aは、共有することでもよい。このように凹凸画線102と凹凸画線102Aを共有することで、凹凸画線101同士の間のピッチP1を狭く設定することも可能となり、潜像模様を狭い領域の範囲内に形成することができ、併せて、解像度の高い潜像模様を形成することができる。後述する別の実施の形態においても、同様である。
【0044】
(2)第2の実施の形態
本発明の第2の実施の形態による特殊潜像模様形成体は、
図14に示されたように、A領域に凹凸画線112、B領域に凹凸画線111を有する。凹凸画線111の中心は中心線111CLと一致し、凹凸画線112の中心は中心線111CLに対して図中上下方向に偏移しており、その結果、凹凸画線111に対して位相がずれている。
【0045】
また、上記第1の実施の形態では、B領域の凹凸画線101とA領域の凹凸画線102との間で、位相が連続的に偏位して凹凸画線101と凹凸画線102とを連結する凹凸画線103がC領域に設けられている。このC領域には、A領域が形成する潜像模様の輪郭に相当するものが形成される。これに対し第2の実施の形態では、B領域の凹凸画線111とA領域の凹凸画線112との間で位相が断続的に偏位し、輪郭を形成する領域が存在しない。
【0046】
そして凹凸画線112Aが、その中心が凹凸画線112に対して中心線111CLを境に線対称となるように設けられている。
【0047】
この第2の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線111、112、112Aと、印刷画線201との相対的位置の一例と、視認状態とを
図15に示す。
【0048】
この例では、印刷画線201がA領域において凹凸画線112Aと少なくとも一部が重複するように位置している。
【0049】
特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向から観察すると、B領域、A領域、C領域のいずれにおいても印刷画線201が凹凸画線111、112、112Aによって隠れることなく見える。これにより、模様302のように潜像模様が視認されず印刷画線201による有色の万線模様のみが視認される。さらに特殊潜像模様形成体を傾けて観察すると、A領域では印刷画線201が凹凸画線112、112Aによって隠れて見えず、B領域では印刷画線201が凹凸画線111によって隠れることなく見える。これにより、模様301のようにネガで潜像模様が視認される。
【0050】
また、特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向と反対のE2方向から観察すると、A領域では印刷画線201が凹凸画線112、112Aによって隠れて見えず、B領域では印刷画線201が凹凸画線111によって隠れることなく見える。これにより、模様301のようにネガで潜像模様が視認される。
【0051】
(3)第3の実施の形態
本発明の第3の実施の形態による特殊潜像模様形成体は、
図16に示されたように、A領域に凹凸画線122、B領域に凹凸画線121、C領域に凹凸画線123を有する。
【0052】
凹凸画線121の中心は中心線121CLと一致し、凹凸画線122の中心は中心線121CLに対して図中上下方向に偏移しており、その結果、凹凸画線121に対して位相がずれている。上記第1の実施の形態では、B領域の凹凸画線101とA領域の凹凸画線102との間に位相が連続的に偏位する凹凸画線103が設けられた輪郭領域に相当するC領域が存在する。そして、凹凸画線103は凹凸画線101と凹凸画線102とを連結する。同様に、凹凸画線103Aは凹凸画線101と凹凸画線102Aとを連結する。
【0053】
これに対し第3の実施の形態では、B領域の凹凸画線121とA領域の凹凸画線122との間に、断続的に位相が偏位する凹凸画線123が設けられた輪郭領域に相当するC領域が存在する。
【0054】
そして凹凸画線122Aが、その中心が凹凸画線122に対して中心線121CLを境に線対称となるように設けられており、さらに凹凸画線123Aが、その中心が凹凸画線123に対して中心線121CLを境に線対称となるように設けられている。C領域において、凹凸画線123は凹凸画線121と凹凸画線122との間の位相を有し、凹凸画線123Aは凹凸画線121と凹凸画線122Aとの間の位相を有する。
【0055】
この第3の実施の形態による特殊潜像模様形成体において、凹凸画線121、122、122A、123、123Aと、印刷画線201との相対的位置の一例と、視認状態とを
図17に示す。
【0056】
この例では、印刷画線201がA領域において凹凸画線122Aの一部と、C領域において凹凸画線123Aのほぼ全てと重複するように位置している。
【0057】
特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向から観察すると、A領域では印刷画線201が凹凸画線122、122Aによって隠れて見えないが、B領域及びC領域では印刷画線201が凹凸画線121、123、123Aによって隠れることなく見えて模様301のようにネガで潜像模様が視認される。さらに特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向から観察すると、A領域、B領域では印刷画線201が凹凸画線122、122A、121によって隠れて見えず、C領域では印刷画線201が凹凸画線123、123Aによって隠れることなく見える。このため、模様304のように潜像模様の輪郭のみが視認される。
【0058】
特殊潜像模様形成体を傾けてE1方向と反対のE2方向から観察すると、A領域、C領域では印刷画線201が凹凸画線122、122A、123、123Aによって隠れることなく見えて、B領域において印刷画線201が凹凸画線121によって隠れて見えず、模様303のようにポジで潜像模様が視認される。さらに特殊潜像模様形成体を傾けて観察すると、A領域、B領域において印刷画線201が凹凸画線122、122A、121によって隠れて見えず、C領域において印刷画線201が凹凸画線123、123Aによって隠れることなく見える。これにより、模様304のように潜像模様の輪郭のみが視認される。
【0059】
以上説明したように、本実施の形態によれば、印刷画線と凹凸画線との相対的位置に高い精度を要求することなく潜像模様を視認することが可能であり、それによりコストを低減することができる。
【0060】
本発明の実施の形態について説明したが、この実施の形態は一例として提示したものであり、発明の技術的範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施の形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。この実施の形態やその変形は、発明の技術的範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0061】
例えば、
図11において凹凸画線102及び102A、103及び103Aは、それぞれ凹凸画線101と同一の画線幅であってもよい。しかしながら、凹凸画線をすき入れ、エンボス、印刷等で形成した場合に、凹凸画線を形成していない箇所と比較して濃度や光の透過度が変化する場合がある。そこで、このような変化が視認性に与える影響を緩和するように、例えば、凹凸画線102と凹凸画線102Aの画線幅の合計値が凹凸画線101と一致し、同様に凹凸画線103と凹凸画線103Aの画線幅の合計値が凹凸画線101と一致するように形成してもよい。これにより、単位面積当たりの凹凸画線の面積率が、凹凸画線102A、103Aを設けた場合と設けない場合とで変化せず、視認性への影響を緩和することができる。
【0062】
また上記第1の実施の形態では、潜像模様が形成されたA領域において凹凸画線102と線対称となる凹凸画線102Aを形成し、上記第2の実施の形態では、A領域において凹凸画線112と線対称となる凹凸画線112Aを形成し、上記第3の実施の形態では、潜像模様が形成されたA領域において凹凸画線122と線対称となる凹凸画線122Aを形成している。しかしながら、A領域の替わりに背景模様が形成されたB領域において凹凸画線101、111、121とそれぞれ線対称となる凹凸画線を形成してもよい。
【符号の説明】
【0063】
11、101、102、103、111、112、121、122、123、102A、103A、112A、123A 凹凸画線
101CL、111CL、121CL 中心線
12、201 印刷画線
301~304 模様
4 基材
E1、E2 視点
A 潜像模様が形成された領域
B 背景模様が形成された領域
C 輪郭模様が形成された領域