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特許7398677ウテログロビンを構造基盤とする二重特異性ポリペプチド
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】ウテログロビンを構造基盤とする二重特異性ポリペプチド
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/12 20060101AFI20231208BHJP
   A61K 38/19 20060101ALI20231208BHJP
   A61K 47/68 20170101ALI20231208BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20231208BHJP
   C07K 14/47 20060101ALI20231208BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20231208BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20231208BHJP
   C12N 15/70 20060101ALI20231208BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C12N15/12
A61K38/19
A61K47/68
A61P35/00
C07K14/47
C07K19/00 ZNA
C12N1/21
C12N15/70 Z
C12P21/02 C
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020506514
(86)(22)【出願日】2019-03-11
(86)【国際出願番号】 JP2019009745
(87)【国際公開番号】W WO2019176866
(87)【国際公開日】2019-09-19
【審査請求日】2022-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2018044364
(32)【優先日】2018-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】505314022
【氏名又は名称】国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156144
【弁理士】
【氏名又は名称】落合 康
(74)【代理人】
【識別番号】100103230
【弁理士】
【氏名又は名称】高山 裕貢
(72)【発明者】
【氏名】新山 真由美
(72)【発明者】
【氏名】秋葉 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】阿部 康弘
(72)【発明者】
【氏名】永田 諭志
(72)【発明者】
【氏名】伊勢 知子
(72)【発明者】
【氏名】長尾 知生子
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 春彦
(72)【発明者】
【氏名】津本 浩平
(72)【発明者】
【氏名】水口 賢司
(72)【発明者】
【氏名】アリーナ・アファナシェヴァ
(72)【発明者】
【氏名】井上 豪
(72)【発明者】
【氏名】福田 庸太
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0189735(US,A1)
【文献】特表2002-521316(JP,A)
【文献】浅野竜太郎ほか,タンパク質工学を駆使した高機能性二重特異性抗体の開発,生化学,2014年,第86巻第4号,pp. 469-473
【文献】MUKHERJEE, AB et al.,Uteroglobin: a novel cytokine?,Cellular and Molecular Life Sciences,1999年,Vol. 55,pp. 771-787
【文献】VENTURA, E et al.,Use of the Uteroglobin Platform for the Expression of a Bivalent Antibody against Oncofetal Fibronectin in Escherichia coli,PLOS ONE,2013年,Vol. 8, No. 12,e82878
【文献】SPIESS, C et al.,Bispecific antibodies with natural architecture produced by co-culture of bacteria expressing two distinct half-antibodies,Nature Biotechnology,2013年,Vol. 31, No. 8,pp. 753-758
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
C07K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ二量体ウテログロビンを構造基盤とする二重特異性ポリペプチドであって、
該ヘテロ二量体ウテログロビンは、野生型ウテログロビンモノマーにおいて1個のアミノ酸残基の変異を有する互いに異なるA鎖およびB鎖を含み、そしてその変異に由来する会合によってヘテロ二量体が形成され、ここに、A鎖は配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)からリジン(K)への変異(D33K変異)、およびB鎖は51番目のリジン(K)からグルタミン酸(E)への変異(K51E変異)を各々有し、
ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、二重特異性ポリペプチド。
【請求項2】
受容体もしくはその断片、癌抗原、MHC抗原、分化抗原からなる群から選択される1つまたはそれ以上の標的分子に結合する、請求項1記載の二重特異性ポリペプチド。
【請求項3】
標的分子が癌抗原である、請求項2記載の二重特異性ポリペプチド。
【請求項4】
第1または第2のポリペプチドのいずれかが癌抗原に結合する、請求項3記載の二重特異性ポリペプチド。
【請求項5】
第1の結合領域および第2の結合領域がそれぞれ一価の特異性を有する、請求項1から4のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
【請求項6】
請求項1から5のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドおよび薬物を含む複合体。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドを含有する医薬組成物。
【請求項8】
請求項6記載の複合体を含有する医薬組成物。
【請求項9】
A鎖およびB鎖を含み、A鎖およびB鎖は、互いに異なり、野生型ウテログロビンモノマーにおいて1個のアミノ酸残基の変異を有し、そしてその変異に由来する会合によってヘテロ二量体を形成する、ヘテロ二量体ウテログロビンであって、
ここに、A鎖は配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)からリジン(K)への変異(D33K変異)、およびB鎖は51番目のリジン(K)からグルタミン酸(E)への変異(K51E変異)を各々有しているヘテロ二量体ウテログロビン。
【請求項10】
ヒトウテログロビンである、請求項9記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二重特異性を有するポリペプチド、詳細にはヘテロ二量体ウテログロビンを構造基盤とする二重特異性ポリペプチド、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天然の抗体分子は通常、1種類の抗原を認識する単一結合特性を示し、免疫グロブリン重鎖のC末端領域Fc領域を有する、分子量約150kDaの分子である。Fc領域は、単独ではCH2およびCH3領域を含む重鎖のホモ二量体と考えられる。
他方、組換え技術を用いることで異なる二つの結合特性を有する二重特異性抗体を創出することができる。二重特異性抗体は、細胞表面上の二つの受容体を同時に阻害でき、二つのリガンドと同時に結合でき、二つの異なる受容体を結合させることでシグナル伝達が可能であり、および細胞同士を相互作用させることができる、といった有用性を示す(非特許文献1)。
【0003】
二重特異性抗体の製造として、一方の重鎖のCH3領域に存在するアミノ酸残基をより大きい残基(knob;突起)に置換し、もう一方の重鎖のCH3領域に存在するアミノ酸残基をより小さい残基(hole;空隙)に置換し、当該突起が当該空隙内に配置されるようにし、それにより、ヘテロ(異種)重鎖形成の促進やホモ(同種)重鎖形成の阻害を引き起こすノブ・イントゥー・ホール(knob into hole)法が知られている(特許文献1)。また、一方の重鎖のCH3領域に存在するアミノ酸残基を、正電荷を有するアミノ酸残基に置換し、もう一方の重鎖のCH3領域に存在するアミノ酸残基を負電荷を有するアミノ酸残基に置換し、当該置換アミノ酸残基同士を静電的に相互作用させ、それにより、ヘテロ重鎖形成の促進やホモ重鎖形成の阻害を引き起こす方法も報告されている(特許文献2、3、4および5)。これらの方法の利点として、二重特異性抗体の作成効率が比較的高いこと、CH3領域の内部にあるアミノ酸を改変するため抗原性を損ないにくいこと、Fc領域が持つ抗体依存性細胞性細胞毒性(ADCC)や補体依存性細胞毒性(CDC)といった活性をそのままに体内安定性の高い抗体が作製できること等が挙げられる。その一方で、期待しない二量体が形成されることがあり、軽鎖に組換えが起こり、抗原性が変化する可能性があるという欠点を有している。また、抗体は分子量約150kDaと大きいため、血中滞留性が高く維持される反面、組織への浸透性を下げることで効果が減弱する可能性も考えられる。さらに、通常の抗体は分子量や立体構造の特徴から、大腸菌等の比較的安価で産生可能な発現系への展開が難しいために、その作製については、高価な哺乳類発現系にほぼ限定されているのが現状である。
【0004】
ウテログロビンは、比較的低分子量(15.8kDa)のホモ二量体のポリペプチドであり、殺細胞効果を持つナチュラルキラー細胞やマクロファージ等の細胞との相互作用はない。また、低分子量ポリペプチドであることからも、哺乳類細胞での発現系のみに依存せず、様々な発現系への展開が可能であると期待され、タンパク質産生の点からも大きな利点がある。それに加え、ウテログロビンはその抗炎症作用が期待され(特許文献6)、臨床試験に供されている安全性の高いポリペプチドである。ウテログロビンは二価抗体を発現するための抗体基盤として利用されているが(非特許文献2)、これは野生型のウテログロビンの特徴であるホモ二量体形成を基本に考案された二価抗体であることから、二重特異性はなく、抗原との結合領域もscFvを利用したものに限定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO1996/027011公報
【文献】WO2006/106905公報
【文献】特表2011-508604公報
【文献】特表2014-509857公報
【文献】WO2015/046467公報
【文献】特表2002-511856公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Biochem Pharmacol. 2012;84(9):1105-12
【文献】PLoS One. 2013 Dec 19;8(12):e82878
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
二重特異性抗体を含む抗体医薬の問題点として、一般に高い薬価、薬効の限界および標的抗原の制限が挙げられる。高い薬価はバイオ医薬品に共通しており、その要因は、低分子化合物に比べ製造プロセスの確立に開発期間を要することが多く、特に抗体はその分子量の大きさから高価な動物細胞発現系を用いざるをえないことが挙げられる。二重特異性抗体はこれまで、構造や狙いが極めて多岐に渡る少なくとも50以上の種々の非野生型誘導体が報告されている。一方では、機能的かつ効果的な二重特異性抗体の創出はまだまだ、試行錯誤が避けられないのが現状である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上の知見から、一般的な抗体と比較して低分子量である二重特異性分子を求め、天然抗体を基に作成される二重特性抗体におけるFc領域の代わりにウテログロビンを構造基盤とする、二重特異性を有するポリペプチドについて鋭意検討を行った。
本発明者らは、ウサギウテログロビンの構造解析からヒトウテログロビンの立体構造を推定し、その推定構造からヒトウテログロビンがホモ二量体を形成する際に会合している部位に着目した。結果、会合している部位にアミノ酸残基の変異を加えることで、効率的にヘテロ二量体を形成できることを見出した。
【0009】
驚くべきことに、本発明によれば、野生型ウテログロビンのモノマーそれぞれにおいて少なくとも1個のアミノ酸残基を置換するだけで、効率よく二重特異性ポリペプチドを形成させることが可能である。
【0010】
本発明は、ヘテロ二量体ウテログロビンを基盤とする二重特異性ポリペプチド、それを製造する方法、およびヘテロ二量体ウテログロビン自体およびその製造方法に関する。従って、本発明は以下の態様を含む。
<ヘテロ二量体ウテログロビンを規定する二重特異性ポリペプチド>
[1]
ヘテロ二量体ウテログロビンを構造基盤とする二重特異性ポリペプチド。
[2]
ヘテロ二量体ウテログロビンはA鎖およびB鎖を含み、ここに、A鎖およびB鎖は、互いに異なり、野生型ウテログロビンモノマーにおいて1個または数個のアミノ酸残基の変異を有し、そしてその変異に由来する会合によってヘテロ二量体を形成させる、[1]記載の二重特異性ポリペプチド。
[3]
A鎖およびB鎖が有する変異がアミノ酸残基の対置換であり、その対置換により会合が生じ、それによりヘテロ二量体ウテログロビンの形成が促進し、かつホモ二量体ウテログロビンの形成が阻害される、[1]または[2]記載の二重特異性ポリペプチド。
[4]
アミノ酸残基の対置換が、配列番号1で表されるアミノ酸配列における5番目のセリン(S)および68番目のロイシン(L)、27番目のロイシン(L)および68番目のロイシン、28番目のフェニルアラニン(F)および66番目のセリン(S)、33番目のアスパラギン酸(D)および51番目のリジン(K)、ならびに44番目のロイシン(L)および47番目のスレオニン(T)での一対の置換である、[3]記載の二重特異性ポリペプチド。
[5]
アミノ酸残基の対置換が、A鎖における、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)およびB鎖における51番目のリジン(K)での一対の置換である、[4]記載の二重特異性ポリペプチド。
[6]
対置換が、A鎖において、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)を、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)に置換し、かつB鎖において51番目のリジン(K)を、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)に置換する、[4]記載の二重特異性ポリペプチド。
[7]
対置換が、A鎖において、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)をリジン(K)に置換し、かつB鎖において51番目のリジン(K)をグルタミン酸(E)に置換するものである、[6]記載の二重特異性ポリペプチド。
【0011】
<ヘテロ二量体ウテログロビンにさらなる変異を有する二重特異性ポリペプチド>
[8]
ウテログロビンA鎖およびB鎖がジスルフィド結合している、[1]から[7]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
[9]
ウテログロビンA鎖およびB鎖がともに、配列番号1で表されるアミノ酸配列の44番目のロイシン(L)、34番目のメチオニン(M)および59番目のロイシン(L)の中から選ばれる少なくとも1つがシステイン(C)に置換する変異を有する、[1]から[8]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
[10]
ウテログロビンがヒトウテログロビンである、[1]から[9]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
[10-2]
アミノ酸残基の対置換が、A鎖における、配列番号1で表されるアミノ酸配列における29番目のセリン(S)がリジン(K)に置換していること、B鎖における、配列番号1で表されるアミノ酸配列における62番目のリジン(K)がアスパラギン酸(D)にかつ29番目のセリン(S)がアスパラギン酸(D)に置換していることである、[3]記載の二重特異性ポリペプチド。
[10-3]
アミノ酸残基の対置換が、A鎖における、配列番号1で表されるアミノ酸配列の28番目のフェニルアラニン(F)およびB鎖における66番目のセリン(S)での一対の置換である、[3]記載の二重特異性ポリペプチド。
【0012】
<結合領域を規定する二重特異性ポリペプチド>
[11]
ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、[1]から[10]、[10-2]および[10-3]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
[12]
受容体もしくはその断片、癌抗原、MHC抗原、分化抗原からなる群から選択される1つまたはそれ以上の標的分子に結合する、[1]~[11]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
[13]
標的分子が癌抗原の標的分子に結合する、[1]~[12]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
[14]
第1または第2のポリペプチドのいずれかが癌抗原に結合する、[1]~[13]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
[15]
第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドにおいて、A鎖と第1の結合領域との連結およびB鎖と第2の結合領域との連結が、該領域の特異性を破壊しない態様である、[11]記載の二重特異性ポリペプチド。
[16]
A鎖と第1の結合領域との連結およびB鎖と第2の結合領域との連結がリンカーを介する、[15]記載の二重特異性ポリペプチド。
[17]
リンカーが配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する、[16]記載の二重特異性ポリペプチド。
[18]
第1の結合領域および第2の結合領域がそれぞれ一価の特異性を有する、[1]から[17]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
【0013】
<多重特異性ポリペプチド>
[19]
第1の結合領域および第2の結合領域の一方または両者が、少なくとも1つのさらなる結合領域を該領域の特異性を破壊しない態様で連結している、[1]から[18]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチド。
<抗体-薬物複合体>
[20]
[1]から[19]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドおよび薬物を含む複合体。
<医薬組成物>
[21]
[1]から19]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドを含有する医薬組成物。
[22]
[20]記載の複合体を含有する医薬組成物。
【0014】
<二重特異性ポリペプチドの製造方法>
[23]
ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、[1]から[14]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドを製造する方法であって、
a)第1のポリペプチドをコードする核酸を含む第1のベクターを用意し、
b)第2のポリペプチドをコードする核酸を含む第2のベクターを用意し、
c)第1のベクターおよび第2のベクターを細胞に同時トランスフェクションし、得られたトランスフェクト体を培養し、そして
d)第1および第2のポリペプチドを含むヘテロ二量体を回収する、
該二重特異性ポリペプチドを製造する方法。
[24]
ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、[1]から[14]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドを製造する方法であって、
a)第1のポリペプチドを発現する第1の細胞を用意し、
b)第2のポリペプチドを発現する第2の細胞を用意し、
c)第1の細胞および第2の細胞を共培養し、そして
d)第1および第2のポリペプチドを含むヘテロ二量体を回収する、
該二重特異性ポリペプチドを製造する方法。
【0015】
<核酸、ベクター等>
[25]
ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、[1]から[14]のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドにおいて、第1のポリペプチドまたは第2のポリペプチドをコードする核酸。
[26]
[25]記載の核酸を含む、ベクター。
[27]
[26]記載のベクターを含む、細胞。
[28]
第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドをコードする核酸を含む[25]記載のベクターをともに含む、[26]記載の細胞。
[29]
細胞が大腸菌である、[27]または[28]記載の細胞。
[30]
第1のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターを含む細胞、および第2のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターを含む細胞を含有する共培養物。
[31]
細胞が大腸菌である、[30]記載の共培養物。
【0016】
<ヘテロ二量体ウテログロビン>
[32]
A鎖およびB鎖を含み、A鎖およびB鎖は、互いに異なり、野生型ウテログロビンモノマーにおいて1個または数個のアミノ酸残基の変異を有し、そしてその変異に由来する会合によってヘテロ二量体を形成する、ヘテロ二量体ウテログロビン。
[33]
A鎖およびB鎖が有する変異がアミノ酸残基の対置換であり、その対置換により会合が生じ、それによりヘテロ二量体ウテログロビンの形成が促進し、かつホモ二量体ウテログロビンの形成が阻害される、[32]記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
[34]
対置換に由来する親和性および反発性の静電的相互作用により会合が生じ、それによりヘテロ二量体ウテログロビンの形成が促進し、かつホモ二量体ウテログロビンの形成が阻害される、[33]記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
[35]
アミノ酸残基の対置換が、配列番号1で表されるアミノ酸配列における5番目のセリン(S)および68番目のロイシン(L)、27番目のロイシン(L)および68番目のロイシン、28番目のフェニルアラニン(F)および66番目のセリン(S)、33番目のアスパラギン酸(D)および51番目のリジン(K)、ならびに44番目のロイシン(L)および47番目のスレオニン(T)での一対の置換である、[34]記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
[36]
アミノ酸残基の対置換が、A鎖における、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)およびB鎖における51番目のリジン(K)での一対の置換である、[35]記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
[37]
対置換が、A鎖において、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)を、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)に置換し、かつB鎖において51番目のリジン(K)を、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)に置換するものである、[36]記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
[38]
対置換が、A鎖において、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)をリジン(K)に置換し、かつB鎖において51番目のリジン(K)をグルタミン酸(E)に置換するものである、[35]記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
【0017】
<さらなる変異を有するヘテロ二量体ウテログロビン>
[39]
ウテログロビンA鎖およびB鎖がジスルフィド結合している、[32]から[38]のいずれか記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
[40]
ウテログロビンA鎖およびB鎖がともに、配列番号1で表されるアミノ酸配列の44番目のロイシン(L)、34番目のメチオニン(M)および59番目のロイシン(L)の中から選ばれる少なくとも1つがシステイン(C)に置換する変異を有する、[32]から39]のいずれか記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
[41] ヒトウテログロビンである、[32から40のいずれか記載のヘテロ二量体ウテログロビン。
【発明の効果】
【0018】
二重特異性抗体の有利な点として、二つの標的を同時に認識できること、共投与と同様の相乗作用を得ることができること、2種類の抗体の開発にかかる費用を軽減できることが挙げられる。これら二重特異性抗体の利点に加え、本発明はウテログロビンを基盤とするため、一般的な抗体と比較して低分子であり、高い組織浸透性が期待でき、Fc領域が無いため、Fc領域が有ることで発生する期待しない効果を抑制でき、安全性が高い。そして、本発明のポリペプチドは、大腸菌等の様々な発現系を用いて合成できるため、低コストを実現でき、バイオ医薬に共通する高い薬価の問題を回避できると期待される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1-1】ヘテロ二量体ウテログロビンの一態様を示す。図1-1は、ヘテロ二量体ウテログロビンの形成が促進されている態様である。ヘテロ二量体ウテログロビンはA鎖およびB鎖を有し、野生型ウテログロビンに対し、A鎖が配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)からリジン(K)への変異(D33K変異)、およびB鎖が51番目のリジン(K)からグルタミン酸(E)への変異(K51E変異)を各々有している例である。ここでは、その対置換により、A鎖のD33K部位およびB鎖のK51E部位が、かつA鎖の51番目のK部位とB鎖の33番目のD部位とが静電的に相互作用し、ヘテロ二量体ウテログロビンの形成が促進される様子を示す。
図1-2】図1-2は、その対置換により、A鎖のD33K部位およびA鎖のK51部位が、かつB鎖のK51E部位およびB鎖のD33部位とが静電的に相互作用し、ホモ二量体ウテログロビンの形成が阻害される様子を示す。
図2】野生型ウテログロビンの構造と静電相互作用部位を示す模式図である。淡黒色囲みのX鎖および白抜き囲みのY鎖がともに、一方の33番目のアスパラギン酸(D)と他方の51番目のリジン(K)において静電的に相互作用し、ホモ二量体を形成している様子を示す。
図3-1】ウサギウテログロビンの構造解析から推定される野生型ヒトウテログロビンの構造模式図である。A-、B-はそれぞれA鎖、B鎖を示す。たとえばA-S5であれば、A鎖の5位におけるS(セリン)を示す。点線は可能な対を示す。対にする基準は、外側に露出したアミノ酸について、目視で近接した対を網羅的に探索した結果である。β炭素間の距離をPymolにおいて算出し(5.4などと書いてある数字がそれにあたる:単位Å)、5~10Åの範囲に入るもので、α炭素-β炭素間結合の互いになす角度から明らかにペア形成が不可能であるものを除外している。図3-1はモデル構造をA鎖のN末端側から見た図である。
図3-2】図3-2はその逆側から見た図である。
図4】各種発現産物を2-メルカプトエタノールを含む還元条件下と含まない非還元条件下で電気泳動した結果を示す。[1]は野生型ウテログロビン発現産物、[2]は変異型ウテログロビン(K51E)発現産物、[3]はROBO4 scFv発現産物、[4]はROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)(ROBO4 scFv-D33K)発現産物、[5]は変異型ウテログロビン(K51E)およびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(ROBO4 scFv-D33K)をそれぞれコードするプラスミドによってダブルトランスフェクションして得られた発現産物、および[6]は変異型ウテログロビン(K51E)をコードするプラスミドによってトランスフェクトされた細胞およびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)をコードするプラスミドによってトランスフェクトされた細胞を共培養して得られた発現産物のそれぞれの電気泳動の結果である。また、[7]は、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)[4]発現産物および変異型ウテログロビン(K51E)発現産物[2]をモル比で1:1になるように混合し、氷上で1時間静置した後における電気泳動の結果である。
図5】各種発現産物を2-メルカプトエタノールを含む還元条件下と含まない非還元条件下で電気泳動した結果を示す。[1]は野生型ウテログロビン発現産物、[8]は変異型ウテログロビン(S66F)発現産物、[3]はROBO4 scFv 発現 産物、[9]はROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)(ROBO4 scFv-F28S)発現産物、[10]は変異型ウテログロビン(S66F)およびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(ROBO4 scFv-F28S)をそれぞれコードするプラスミドによってダブルトランスフェクションして得られた発現産物、および[11]は変異型ウテログロビン(S66F)をコードするプラスミドによってトランスフェクトされた細胞およびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)をコードするプラスミドによってトランスフェクトされた細胞を共培養して得られた発現産物のそれぞれの電気泳動の結果である。また、[12]は、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)[9]発現産物および変異型ウテログロビン(S66F)発現産物[8]をモル比で1:1になるように混合し、氷上で1時間静置した後における電気泳動の結果である。
図6】各種発現産物を2-メルカプトエタノールを含む還元条件下と含まない非還元条件下で電気泳動した結果を示す。[1]は野生型ウテログロビン発現産物、[13]は変異型ウテログロビン(S29K)発現産物、[3]はROBO4 scFv 発現 産物、[14]はROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)(ROBO4 scFv-S29D, K62D)発現産物、[15]は変異型ウテログロビン(S29K)およびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(ROBO4 scFv-S29D, K62D)をそれぞれコードするプラスミドによってダブルトランスフェクションして得られた発現産物、および[16]は変異型ウテログロビン(S29K)をコードするプラスミドによってトランスフェクトされた細胞およびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)をコードするプラスミドによってトランスフェクトされた細胞を共培養して得られた発現産物のそれぞれの電気泳動の結果である。また、[17]は、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)[14]発現産物および変異型ウテログロビン(S29K)発現産物[13]をモル比で1:1になるように混合し、氷上で1時間静置した後における電気泳動の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<ヘテロ二量体ウテログロビン、およびそれを構造基盤とする二重特異性ポリペプチド>
ウテログロビンは、構造的には同一のモノマー2個が静電的に会合しているホモ二量体のポリペプチドである(Nature structural biology 1994,vol.1, No.8,538)。ヒトの野生型ウテログロビンモノマーのアミノ酸配列を配列番号1に示す。野生型ウテログロビンは比較的低分子量(15.8 kDa)の糖鎖が存在しないタンパク質であり、その性質は高い溶解性とpH安定性を兼ね備え、そしてタンパク分解酵素に対しても耐性である(JBC 2009,vol.284,No.39, 26646.)。
【0021】
ウテログロビンはCC10とも呼ばれ、ヒトウテログロビンについて結晶化に関する論文が報告されている(1.9Å(オングストローム)回折度、Nat Struct Biol vol.1(8) 1994 538-545)。ここでは、ウテログロビンは気管支に分泌されるタンパク質の一種であり、ホスホリパーゼA2(PLA2)阻害やPCBが結合する活性があると記載されている。結晶化は、条件:100 ug/mL タンパク質、70% 硫酸アンモニウム、20mM トリス (pH7.5)、16-18% グリセロールの下、野生型タンパク質を個体から入手し精製し、行われた。1.9オングストロームÅの分解能で構造解析し、ヒトウテログロビンはホスファチジルコリンやホスファチジルイノシトール等のリン脂質が結合可能な構造を持ち、ウサギウテログロビンと比較し、アミノ酸のホモロジーが62%の類似構造であることが記載されている。
【0022】
ヒトウテログロビンはタンパク質データバンク(PDB)への登録がないが、PDBへの登録があるウサギウテログロビンとの構造上の類似性が推測される。そのため、ヒトウテログロビンがホモ二量体を形成する際、アミノ酸が相互作用している領域がある程度推測される。そこで、本発明者らは、ヒトウテログロビンの構造解析の一環として、ヘテロ二量体を形成させるために変異するべきアミノ酸の同定をウサギウテログロビンの構造解析から推定した。構造解析の推定は以下に詳述する。
【0023】
その結果、配列番号1で表されるヒトウテログロビンモノマーのアミノ酸配列において、一方のモノマーにおける33番目のアスパラギン酸(D)と他方のモノマーにおける51番目のリジン(K)が相互に会合している可能性が推測された。その会合は、互いに反対の電荷を有するアミノ酸残基間における親和性の静電的相互作用と推定される。野生型ウテログロビンの模式的な立体構造を図2に示す。
なお、野生型ヒトウテログロビンにおける一方のモノマーの33Dと他方のモノマーの51Kとが相互に会合していることは、それらを一定アミノ酸残基と対置換することでヘテロ二量体が形成されることが本件明細書の実施例において実験的に証明されたので、事実であることが明らかになった。
【0024】
さらに、ヒトウテログロビンの構造解析に基づき、ウテログロビン二量体としてその外側に側鎖が伸びているアミノ酸残基を特定し、他に、ヘテロ二量体ウテログロビンを形成し得る会合が可能性あるアミノ酸残基を推測した。
これらの事実および推測に基づき、本発明は、ヘテロ二量体ウテログロビンを基本とする種々の発明を提供する。
【0025】
ここに、ヒトウテログロビンの構造解析の一環として、ヘテロ二量体を形成させるために変異するべきアミノ酸の同定をウサギウテログロビンの構造解析からの推定について、詳述する。
Swiss-model(swissmodel.expasy.org)においてヒトウテログロビンの配列を入力し、アミノ酸配列の相同性からモデルを構築する。最もスコアのよいものを選別、得られたPDBファイルをPymol(pymol.org)において表示させる。
・原子間距離はmeasurementタブによって算出される。表示させたモデルを図3-1および図3-2に示す。
【0026】
以上により推定された、ヘテロ二量体ウテログロビンを形成する会合が有り得るアミノ酸残基の対を表1に示す。
表1中、1行目は、A鎖における、配列番号1で表されるアミノ酸配列の5番目のシステイン(S)およびB鎖における68番目のロイシン(L)での一対の置換を意味する。以下の行において同様である。なお、A鎖、B鎖は相互に変換可能である。
【0027】
【表1】
なお、他の表においても、数字は配列番号1で表されるアミノ酸配列のN末からの番号である。
【0028】
一対の置換の好ましい例としては、A鎖における、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)およびB鎖における51番目のリジン(K)での一対の置換である。
【0029】
本発明において、会合としては、親和性の静電的相互作用のほか、同種の電荷を有するアミノ酸残基間における反発性の相互作用、および疎水性のアミノ酸同士の相互作用もあり得る。
本発明は一つの態様として、野生型ウテログロビンの各モノマーにおける親和性の静電的相互作用を行っているアミノ酸残基をそれぞれ変異することにより、ヘテロ二量体の形成を促進し、かつホモ二量体の形成を阻害する。本発明では、野生型ウテログロビンにおいて互いに親和性の相互作用を行う各モノマーにおけるアミノ酸残基の一方を反発性の相互作用を行うアミノ酸残基にそれぞれ変異することによって、「対置換」を成立させる。即ち、1つの対置換を有するヘテロ二量体ウテログロビンは、A鎖中の1つのアミノ酸変異およびB鎖中の別の1つのアミノ酸変異を含有する。この態様を「野生置換型」と呼ぶ。
【0030】
野生置換型における対置換の具体的な例を表2に示す。なお、A鎖、B鎖は相互に変換可能である。
【表2】
【0031】
表2は、この態様における対置換として、A鎖において、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)を、リジン(K)、アルギニン(R)またはヒスチジン(H)に置換し、かつB鎖において51番目のリジン(K)を、グルタミン酸(E)またはアスパラギン酸(D)に置換する、計6つの例を示す。例えば、野生型ウテログロビンに対し、A鎖にD33K変異およびB鎖にK51E変異を各々有しているヘテロ二量体ウテログロビンでは、その対置換により、A鎖のD33KおよびB鎖のK51Eが、かつA鎖の51番目のKとB鎖の33番目のDとが静電的に相互作用し、ヘテロ二量体ウテログロビンの形成が促進される。この態様を図1に示す。
対置換が、A鎖において、配列番号1で表されるアミノ酸配列の33番目のアスパラギン酸(D)をリジン(K)に置換し、かつB鎖において51番目のリジン(K)をグルタミン酸(E)に置換するものであるものが好ましい。
【0032】
本発明は別の態様として、野生型ウテログロビンではアミノ酸残基が互いに明確な親和性の相互作用を行っていない部分に、新たに対置換を生じさせることによってヘテロ二量体を形成させる。この態様では、1つの対置換によって親和性の静電的相互作用を生じさせ、別の1つの対置換によってホモ二量体の反発を付加することが好ましく、この場合、ヘテロ二量体ウテログロビンは2つの対置換を有する。この態様を「電荷ペア形成型」と呼ぶ。
【0033】
電荷ペア形成型における対置換の具体的な例を表3に示す。なお、A鎖、B鎖は相互に変換可能である。
【表3】
【0034】
表3は、この態様における対置換として次の例を示す。
置換部位5-68での例で説明する。1行目から、A鎖にS5DかつB鎖にL68Rを導入し(1つ目の対置換)、さらに2行目から、A鎖にL68DかつB鎖にS5K導入する(2つ目の対置換)。この場合、A鎖はS5DおよびL68Dの2つの変異を有する変異体になり、B鎖はS5KおよびL68Rの2つの変異を有する変異体になる。このことによって、対置換同士の組が成立する。
さらに詳細には、置換部位5-68での例として、A鎖およびB鎖の対置換は、
1行目:S5D-L68R, S5D-L68K, S5D-L68H, S5E-L68R, S5E-L68K, S5E-L68Hの6つ、
2行目:L68D-S5K, L68D-S5R, L68D-S5H, L68E-S5K, L68E-S5R, L68E-S5Hの6つ、
で、6+6=12通りある。なお、各1つの対置換を導入したヘテロ二量体も本発明の範囲内である。
1行目と2行目から各1つを選択した対置換の組み合わせは6×6=36通りである。よって、置換部位5-68におけるヘテロ二量体ウテログロビンの合計数は、12+36=48通りとなる。
他の一対の置換27-68、44-47、および29-62において同様である。
【0035】
本発明はさらに別の態様として、対置換として、静電的相互作用でなく、疎水性のアミノ酸同士が相互作用する会合を介し、ヘテロ二量体ウテログロビンを形成する態様も含まれる。この態様を「疎水ポケット逆転型」と呼ぶ。
【0036】
疎水ポケット逆転型における対置換の具体的な例を表4に示す。なお、A鎖、B鎖は相互に変換可能である。
【表4】
【0037】
表4は、この態様における対置換として、計9つの例を示す。好ましくは、A鎖においてF28S置換を有し、B鎖においてS66Fを有する。
【0038】
アミノ酸残基の中には、電荷を帯びた残基が知られている。一般的に正の電荷を帯びたアミノ酸(正電荷アミノ酸)としては、リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)が知られている。負の電荷を帯びたアミノ酸(負電荷アミノ酸)としては、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)等が知られている。従って、好ましくは、本発明において同種の電荷を有するアミノ酸残基とは、正の電荷同士のアミノ酸残基、あるいは負の電荷同士のアミノ酸残基を意味する。
【0039】
ここに、本発明において、アミノ酸残基の「変異」とは、具体的には、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換すること、元のアミノ酸残基を欠失させること、新たなアミノ酸残基を付加すること等を指すが、好ましくは、元のアミノ酸残基を他のアミノ酸残基へ置換することを意味する。
【0040】
本発明において、「ホモ二量体」とは、同一のアミノ酸配列を有するポリペプチド同士が会合している状態をいう。「ヘテロ二量体」とは、アミノ酸配列において少なくとも1個のアミノ酸残基が異なるポリペプチド同士が会合している状態をいう。
【0041】
本発明において、「ヘテロ二量体ウテログロビン」とは、野生型ウテログロビンがホモ二量体であるのに対し、その各モノマーにおける1個または数個のアミノ酸残基の変異によって各モノマーがヘテロ二量体を構成している、変異型ウテログロビンのヘテロ二量体を意味する。本発明では、「ヘテロ二量体ウテログロビン」は、ヘテロ二量体ウテログロビンはA鎖およびB鎖を含み、A鎖およびB鎖は互いに異なっており、それぞれ野生型ウテログロビンモノマーにおいて1個または数個のアミノ酸残基の変異を有し、そして両者はその変異によって会合している。ここに、A鎖およびB鎖はヘテロ二量体ウテログロビンにおける特定のモノマーを示すものではなく、相互に交換可能である。即ち、A鎖およびB鎖における各変異の言及は、それぞれB鎖およびA鎖における各変異の言及と理解すべきである。
【0042】
<ヘテロ二量体ウテログロビンにさらなる変異を有する二重特異性ポリペプチド>
上記のようなヘテロ二量体ウテログロビンはさらに、別の変異を有することができる。例えば、本発明のヘテロ二量体ウテログロビンは、ウテログロビンA鎖およびB鎖がジスルフィド結合を形成することができる。ジスルフィド結合形成とは、1つまたは2つのポリペプチド中に存在する2つのシステイン間で共有結合を形成する過程を意味し、この結合は「-S--S-」として図式化される。本発明のヘテロ二量体ウテログロビンは、具体的には、ウテログロビンA鎖およびB鎖がともに、配列番号1で表されるアミノ酸配列の44番目のロイシン(L)、34番目のメチオニン(M)および59番目のロイシン(L)の中から選ばれる少なくとも1つがシステイン(C)に置換する変異を有することができる。これにより、本発明のヘテロ二量体ウテログロビンおよび二重特異性ポリペプチドは安定性が向上し、タンパク質の生産量が格段に上昇する。
【0043】
<結合領域を規定する二重特異性ポリペプチド>
本発明において、「二重特異性ポリペプチド」とは、少なくとも、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドを含む分子である。即ち、本発明の「二重特異性ポリペプチド」は、ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む。好ましくは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドにおいて、A鎖と第1の結合領域との連結およびB鎖と第2の結合領域との連結は、該領域の特異性を破壊しない態様である。
【0044】
本発明の二重特異性ポリペプチドは、2つの異なるリガンドに対する結合特異性または結合部位を有する。リガンドとは特に限定されず、どのようなリガンドでもよい。リガンドの例としては、例えば、受容体もしくはその断片、癌抗原、MHC抗原、分化抗原等を挙げることができるが、特にこれらに制限されない。
【0045】
受容体の例としては、例えば、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー等の受容体ファミリーなどを挙げることができる。上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒトまたはマウスエリスロポエチン(EPO)受容体、ヒトまたはマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体、ヒトまたはマウストロンボポイエチン(TPO)受容体、ヒトまたはマウスインスリン受容体、ヒトまたはマウスFlt-3リガンド受容体、ヒトまたはマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体、ヒトまたはマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体、ヒトまたはマウスレプチン受容体、ヒトまたはマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒトまたはマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒトまたはマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒトまたはマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒトまたはマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等を例示することができる。
【0046】
癌抗原は細胞の悪性化に伴って発現する抗原、あるいはがんの特性に伴って癌細胞以外の周辺細胞に高発現する抗原である。又、細胞が癌化した際に細胞表面やタンパク質分子上に現れる異常な糖鎖も癌抗原となり、特に癌糖鎖抗原と呼ばれる。癌抗原の例としては、CA19-9、CA15-3、ラウンドアバウトホモログ4(ROBO4)などを挙げることができる。
MHC抗原には、MHCクラスI抗原とMHCクラスII抗原に大別され、MHCクラスI抗原にはHLA-A、-B、-C、-E、-F、-G、-Hが含まれ、MHCクラスII抗原にはHLA-DR、-DQ、-DPが含まれる。
分化抗原には、CD1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6などの分化抗原群が含まれる。
【0047】
上記の通り、本発明の二重特異性ポリペプチドは、2つの異なるリガンドに対する結合特異性または結合部位を有する。即ち、第1の結合領域および第2の結合領域がそれぞれ一価の特異性を有する。第1の結合領域および第2の結合領域の一方または両者は、少なくとも1つのさらなる結合領域を該領域の特異性を破壊しない態様で連結することができる。その場合、本発明のポリペプチドは、「多重特異性ポリペプチド」になり得る。ここに、本発明の二重特異性ポリペプチドは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドにおけるヘテロ二量体ウテログロビンのA鎖およびB鎖によって形成される「ヘテロ二量体ウテログロビン」を含む。
【0048】
本発明において、「第1のポリペプチド」および「第2のポリペプチド」はそれぞれ、「結合領域」、例えば抗体の可変領域、レセプター結合領域、リガンド結合領域または酵素活性領域、他の分子に結合活性を持つ親和性ポリペプチドを含むことができる。好ましい態様では、結合領域は免疫グロブリンの重鎖および軽鎖を含む。通常、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドはそれぞれ、ウテログロビンの一次配列から誘導される少なくとも1つの領域を含む。この領域が、第1および第2のポリペプチドが会合する部分である。
【0049】
結合領域は、抗体の可変領域から誘導されるか、または抗体の可変領域との配列同一性を有する。抗体の例には、全長の抗体、抗体断片、単鎖分子、二重特異性分子または二機能性分子、scFv、ダイアボディー(diabody)、シングルドメイン抗体(VHH)、キメラ抗体、および免疫付着因子が含まれる。「抗体断片」には、Fv、Fv'、Fab、Fab’およびF(ab')2の断片が含まれる。「抗体」は、それが本発明に関連する場合、目的の抗原のエピトープと結合する領域を1つまたは複数含有するポリペプチドを意味する。
【0050】
「抗体断片」は、抗体を酵素、例えばパパイン、ペプシン等のプロテアーゼにより処理して得ることができる(Morimoto et al., J. Biochem. Biophys. Methods (1992) 24: 107-17; Brennan et al., Science (1985) 229: 81参照)。また、該抗体断片のアミノ酸配列を基に、遺伝子組換えにより製造することもできる。
【0051】
「抗体断片」を改変した構造を有する低分子化抗体は、酵素処理若しくは遺伝子組換えにより得られた抗体断片を利用して構築することができる。または、低分子化抗体全体をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させることもできる(例えば、Co et al., J. Immunol. (1994) 152: 2968-76; Better and Horwitz, Methods Enzymol. (1989) 178: 476-96; Pluckthun and Skerra, Methods Enzymol.(1989) 178: 497-515; Lamoyi, Methods Enzymol. (1986) 121: 652-63; Rousseaux et al., Methods Enzymol. (1986) 121: 663-9; Bird and Walker, Trends Biotechnol. (1991) 9: 132-7参照)。
【0052】
「scFv」は、2つの可変領域を、必要に応じリンカー等を介して結合させた一本鎖ポリペプチドである。scFvに含まれる2つの可変領域は、通常、1つの重鎖可変領域(VH)と1つの軽鎖可変領域(VL)であるが、2つのVHまたは2つのVLであってもよい。一般にscFvポリペプチドは、VHおよびVL領域の間にリンカーを含み、それにより抗原結合のために必要なVHおよびVLの対部分が形成される。通常、同じ分子内でVHおよびVLの間で対部分を形成させるために、一般に、VHおよびVLを連結するリンカーを10アミノ酸以上の長さのぺプチドリンカーとする。しかしながら、本発明におけるscFvのリンカーは、scFvの形成を妨げない限り、このようなペプチドリンカーに限定されるものではない。scFvの総説として、Pluckthun, The Pharmacology of Monoclonal Antibody, Vol.113 (Rosenburg and Moore ed., Springer Verlag, NY,pp.269-315 (1994))を参照することができる。
【0053】
また、「ダイアボディ」は、遺伝子融合により構築された二価の抗体断片を指す(P.Holliger et al., Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90: 6444-6448 (1993)、EP404,097号、WO93/11161号等)。ダイアボディは、2本のポリペプチド鎖から構成されるダイマーであり、ポリペプチド鎖は各々、同じ鎖中で軽鎖可変領域(VL)および重鎖可変領域(VH)が、互いに結合できない位に短い、例えば、5残基程度のリンカーにより結合されている。同一ポリペプチド鎖上にコードされるVLとVHとは、その間のリンカーが短いため単鎖V領域フラグメントを形成することが出来ず二量体を形成するため、ダイアボディは2つの抗原結合部位を有することとなる。このとき2つの異なるエピトープ(a、b)に対するVLとVHをVLa-VHbとVLb-VHaの組合わせで5残基程度のリンカーで結んだものを同時に発現させると二重特異性Dbとして分泌される。このとき2つの異なるエピトープとは、同一の抗原上の異なる2箇所のエピトープであってもよく、また2つの異なる抗原のそれぞれにある2箇所のエピトープであってもよい。「ダイアボディ」は、2分子のscFvを含むことから、4つの可変領域を含み、その結果、2つの抗原結合部位を持つこととなる。ダイマーを形成させないscFvの場合と異なり、ダイアボディの形成を目的とする場合、通常、各scFv分子内のVHおよびVL間を結ぶリンカーは、ペプチドリンカーとする場合には、5アミノ酸前後のものとする。しかしながら、ダイアボディを形成するscFvのリンカーは、scFvの発現を妨げず、ダイアボディの形成を妨げない限り、このようなペプチドリンカーに限定されない。
【0054】
「シングルドメイン抗体」は、一般に特定の抗原へ高い親和性と特異性を有した分子であり、ラクダ科の動物に見出された重鎖のみからなる抗体可変領域もしくは、この構造を模してヒト等VHを改変して得られる、単一ドメインからなる抗体可変領域を指す。これらには、ヒト化やアミノ酸の最適化による安定化・親和性向上策を経たものを含む。
【0055】
「親和性ポリペプチド」とは、タンパク質間相互作用の接着部位に含まれる数アミノ酸からなるペプチドあるいは部分構造、ランダムペプチドライブラリからスクリーニングされた特定の分子に対する結合親和性を示すペプチドを指し、抗体の構造、あるいはその部分構造とは異なるポリペプチドを指す。好ましい態様では、Arg-Gly-Asp-Ser等の接着分子活性中心や環状ポリペプチド等が含まれる。また、ファージ表面提示法、酵母ディスプレイ、リボソーマルディスプレイ等の手法で見出された特異的結合親和性を示すペプチド、例えば、Cys-Asp-Cys-Arg-Gly-Asp-Cys-Phe-Cys (RGD-4C)も好ましい(Arap, W.; Pasqualini, R.; Ruoslahti, E. Science 1998, 279, 377.)。
【0056】
上記の通り、本発明は、第1の結合領域および第2の結合領域の一方または両者において、少なくとも1つのさらなる結合領域を該領域の特異性を破壊しない態様で連結することができ、その場合、ポリペプチドは、「多重特異性ポリペプチド」になり得る。多重特異性ポリペプチドの例としては、第1の結合領域および第2の結合領域の一方または両者において、1つまたはそれ以上のリガンドに結合するscFvが連結されているものが挙げられる。また、上記した親和性ポリペプチドをリンカー等で連結したものも多重特異性ポリペプチドとして利用できる。
【0057】
本発明において、「ポリペプチド」とは、通常、10アミノ酸程度以上の長さを有するペプチド、およびタンパク質を指す。また、通常、生物由来のポリペプチドであるが、特に限定されず、例えば、人工的に設計された配列からなるポリペプチドであってもよい。また、天然ポリペプチド、あるいは合成ポリペプチド、組換えポリペプチド等のいずれであってもよい。さらに、上記のポリペプチドの断片もまた、本発明のポリペプチドに含まれる。
【0058】
本発明の二重特異性ポリペプチドの第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドにおけるウテログロビンA鎖と第1の結合領域との連結およびウテログロビンB鎖と第1の結合領域と異なる第2の結合領域との連結は、必要に応じてリンカーを介することができる。一般に、A鎖およびB鎖と結合領域とを連結するリンカーは、10アミノ酸以上の長さのぺプチドリンカーとする。しかしながら、本発明におけるリンカーは、結合領域の特異性、結合特性を妨げない限り、特に限定されるものではない。好ましいリンカーとしては、例えば、配列番号2で示されるGS4(Gly + Ser x4、GSSSSGSSSS)(非特許文献2)リンカーが挙げられる。
【0059】
本発明において、A鎖およびB鎖の「会合」とは、A鎖およびB鎖が相互の特定領域において相互作用する状態を意味する。相互の特定領域は、通常、会合に供される1または複数のアミノ酸残基であり、好ましくは会合の際に接近し相互作用に関与するアミノ酸残基である。相互作用には、具体的には、会合の際に接近するアミノ酸残基同士が水素結合、静電的相互作用、塩橋を形成する場合等が含まれる。
【0060】
<抗体-薬物複合体>
本発明は別の態様として、本発明の二重特異性ポリペプチドおよび薬物が共有結合してなる複合体、ADC(antibody-drug conjugate)複合体を含む。
通常、薬物を全身投与すると、排除しようとする腫瘍細胞だけでなく、正常細胞にまでも許容されないレベルの毒性が生じ得る(Baldwin等, (1986) Lancet pp. (Mar. 15, 1986): 603-05)。従って、毒性を最小限にしつつ最大限の有効性を追求し、癌治療において腫瘍細胞を殺すまたは阻害するための薬物を局所的に運搬するため、抗体-薬剤複合体が使用される(Syrigos and Epenetos (1999) Anticancer Research 19:605-614;米国特許第4975278号)。同様、本発明の二重特異性ポリペプチドは、対応する抗原やリガンドに対して結合特性を有する一方で、多くの薬物分子は癌細胞を選択的に殺傷しないため、癌治療には用いにくい欠点がある。よって、本発明の二重特異性ポリペプチドと毒性の強い薬物、例えば毒素との結合により、高度に選択的かつ特異的な薬物複合体とすることができる。
【0061】
本発明の複合体に用いる薬物には、ダウノマイシン、ドキソルビシン、メトトレキセートおよびビンデシンが含まれる(Rowland等, Cancer Immunol. Immunother. 21:183-87 (1986))。また、ジフテリア毒素などの細菌性毒素、リシンなどの植物毒が挙げられる。
【0062】
<核酸、ベクター等>
本発明は別の態様として、ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、請求項10から13のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドにおいて、第1のポリペプチドまたは第2のポリペプチドをコードする核酸に関する。
【0063】
VH、VL、ヒンジ、CH1、CH2、CH3およびCH4領域を含む免疫グロブリン領域をコードする多数の核酸配列が、当分野において公知である(例えば、Kabat et al. in SEQUENCES OFIMMUNOLOGICAL INTEREST, Public Health Service N.I.H., Bethesda, MD, 1991)。本明細書における指針を用い、当業者であれば、そのような核酸配列および/または当技術分野において公知の他の核酸配列を組み合わせ、本明細書記載のヘテロ二量体ウテログロビンを構造基盤とする二重特異性ポリペプチドをコードする核酸配列を作製することができる。
【0064】
加えて、本発明の二重特異性ポリペプチドをコードする核酸配列は、本明細書において提供されたアミノ酸配列および当分野における知識に基づき、当業者が決定できる。特定のアミノ酸配列をコードするクローニングしたDNAセグメントを生産する、伝統的な方法以外に、現在、容易に化学合成され、任意の所望の配列のDNAが注文に応じて日常的に生産され、DNAの生産工程が能率化されている(GenScript社、ユーロフィンジェノミクス社等)。
【0065】
<二重特異性ポリペプチドの製造方法>
好ましい態様において、本発明は、ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、本発明の二重特異性ポリペプチドを製造する方法を提供する。本発明の製造方法の別の態様においては、本発明は、ポリペプチド間の会合が制御されるように、A鎖中の1つの変異およびB鎖中の別の変異の一対のアミノ酸残基の対置換を含む本発明のヘテロ二量体ウテログロビンを構造基盤とする二重特異性ポリペプチドの製造方法を提供する。そのような対置換の例は、表1から表4に示している。
【0066】
本発明の上記方法において対置換を含むA鎖およびB鎖は、野生型のウテログロビンをコードする核酸を改変することによって作成される。
本発明は、ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、本発明の二重特異性ポリペプチドにおいて、第1のポリペプチドまたは第2のポリペプチドをコードする核酸を提供する。
「核酸を改変する」とは、本発明における「改変」によって導入されるアミノ酸残基に対応するように核酸を改変することを言う。より具体的には、元(改変前)のアミノ酸残基をコードする核酸について、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードする核酸へ改変することを言う。通常、目的のアミノ酸残基をコードするコドンとなるように、元の核酸に対して、少なくとも1塩基を挿入、欠失または置換するような遺伝子操作もしくは変異処理を行うことを意味する。即ち、元のアミノ酸残基をコードするコドンは、改変によって導入されるアミノ酸残基をコードするコドンによって置換される。このような核酸の改変は、当業者においては公知の技術、例えば、部位特異的変異誘発法、PCR変異導入法等を用いて、適宜実施することが可能である。
【0067】
また、本発明における核酸は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。本発明は本発明の核酸を含むベクター、および本発明のベクターを含む細胞を提供する。
該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。本発明のポリペプチドを生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biologyedit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0068】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。ポリペプチドを発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al.(1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCOBRL社製)、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
さらに、本発明は、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドをコードする核酸それぞれ含むベクターをともに含む細胞、ならびに第1のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターを含む細胞、および第2のポリペプチドをコードする核酸を含むベクターを含む細胞の細胞混合物、共培養物を提供する。これら細胞および共培養物は、本発明の二重特異性ポリペプチドを好適に調製するのに適している。
【0069】
宿主細胞において発現したポリペプチドを小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的のポリペプチドに組み込むことができる。これらのシグナルは目的のポリペプチドに対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0070】
上記製造方法におけるポリペプチドの回収は、本発明のポリペプチドが培地に分泌される場合は、培地を回収する。本発明のポリペプチドが細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後にポリペプチドを回収する。
【0071】
組換え細胞培養物から本発明のポリペプチドを回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。
【0072】
本発明の好ましい実施態様として、ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、本発明の二重特異性ポリペプチドを製造する方法において、精製ポリペプチド同士を単に混合するだけでは、ヘテロ二量体にならないことが見出された。実施例3参照のこと。そこで、本発明においては、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドは、それらをコードするベクターを細胞に同時トランスフェクション(ダブルトランスフェクション)するか、または、それらをコードするベクターを含むそれぞれの細胞を共培養する必要がある。
【0073】
本発明は、一つの態様として、
ヘテロ二量体ウテログロビンA鎖が第1の結合領域と連結している第1のポリペプチド、およびヘテロ二量体ウテログロビンB鎖が第1の結合領域と異なる第2の結合領域と連結している第2のポリペプチドを含む、請求項1から13のいずれか記載の二重特異性ポリペプチドを製造する方法であって、
a)第1のポリペプチドをコードする核酸を含む第1のベクターを用意し、
b)第2のポリペプチドをコードする核酸を含む第2のベクターを用意し、
c)第1のベクターおよび第2のベクターを細胞に同時トランスフェクションし、得られたトランスフェクト体を培養し、そして
d)第1および第2のポリペプチドを含むヘテロ二量体を回収する、
該二重特異性ポリペプチドを製造する方法を提供する。
【0074】
またh、本発明は、別の態様として、本発明の二重特異性ポリペプチドを製造する方法であって、
a)第1のポリペプチドを発現する第1の細胞を用意し、
b)第2のポリペプチドを発現する第2の細胞を用意し、
c)第1の細胞および第2の細胞を共培養し、そして
d)第1および第2のポリペプチドを含むヘテロ二量体を回収する、
該二重特異性ポリペプチドを製造する方法、を提供する。
【0075】
本発明の二重特異性ポリペプチドを製造する基本となる野生型ヒトウテログロビンを製造する一例は次の通りである。野生型ヒトウテログロビンモノマーとHisタグ、FLAGタグ、GSTタグ等をコードする遺伝子を大腸菌、酵母、ブレビバチルス、昆虫細胞、哺乳類細胞等に導入する。ウテログロビンを含む培養液または細胞破砕液をHisタグを捕捉する樹脂に通し、イミダゾールを含む溶液によりウテログロビンを含む画分を溶出させる。溶出液を透析法により溶液交換をして塩濃度を下げた後、陰イオン交換クロマトグラフィーにより精製する。樹脂は陰イオン交換樹脂を使用し、塩の濃度勾配によりウテログロビンを分離精製する。溶出画分を回収した後、ゲルろ過クロマトグラフィーによりさらに精製し、純度の高いウテログロビンを回収する。溶出画分を回収し、限外濾過膜を用いて濃縮し、ウテログロビン溶液を得る。ここで得られる野生型ウテログロビンは二量体である。
変異型ウテログロビンの製造も同様である。
【0076】
<医薬組成物>
本発明は別の態様として、本発明の二重特異性ポリペプチド、および医薬的に許容される担体を含む組成物に関する。
【0077】
本発明において医薬組成物とは、通常、疾患の治療もしくは予防、あるいは検査・診断のための薬剤を意味する。
【0078】
本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、または懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0079】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0080】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0081】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジルおよび/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液および酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコールおよびフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0082】
本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
【0083】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。ポリペプチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、1回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001~100000mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量および投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量および投与方法を設定することが可能である。
【0084】
本発明においては、上記本発明のポリペプチドまたは複合体は、特に、癌、血管関連疾患、および炎症疾患に対する治療剤または予防剤の有効成分として有用である。癌は次のものを包含するが、それらに限定されない:、肺癌(小細胞肺癌、非小細胞肺癌、肺腺癌および肺扁平上皮癌を含む)、大腸癌、直腸癌、結腸癌、乳癌、肝癌、胃癌、膵癌、腎癌、前立腺癌、卵巣癌、甲状腺癌、胆管癌、腹膜癌、中皮腫、扁平上皮癌、子宮頸癌、子宮体癌、膀胱癌、食道癌、頭頚部癌、鼻咽頭癌、唾液腺腫瘍、胸腺腫、皮膚癌、基底細胞腫、悪性黒色腫、肛門癌、陰茎癌、精巣癌、ウィルムス腫瘍、急性骨髄性白血病(急性骨髄球性白血病、急性骨髄芽球性白血病、急性前骨髄球性白血病、急性骨髄単球性白血病および急性単球性白血病を含む)、慢性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫(バーキットリンパ腫、慢性リンパ球性白血病、菌状息肉腫、マントル細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、びまん性大細胞型リンパ腫、辺縁帯リンパ腫、毛様細胞白血病形質細胞腫、末梢性T細胞リンパ腫および成人T細胞白血病/リンパ腫)、ランゲルハンス細胞組織球症、多発性骨髄腫、骨髄異形成症候群、脳腫瘍(神経膠腫、星細胞腫、グリア芽細胞腫、髄膜腫および上衣腫を含む)、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、骨肉腫、カポジ肉腫、ユーイング肉腫、血管肉腫、血管外皮細胞腫。血管関連疾患には、動脈硬化、血管炎がある。炎症疾患は急性あるいは慢性炎症性疾患を包み、具体的には次のものを包含するが、それらに限定されない:アルコール性肝炎。ウイルス性肝炎。非アルコール性脂肪性肝炎。間質性肺炎。潰瘍性大腸炎。クローン病。
【0085】
また本発明は、少なくとも本発明の製造方法により製造されたポリペプチド、または本発明の医薬組成物を含む、本発明の治療方法または予防方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、薬学的に許容される担体、媒体、使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくこともできる。また本発明は、本発明のポリペプチドもしくは本発明の製造方法により製造されたポリペプチドの、免疫炎症性疾患の治療剤または予防剤の製造における使用に関する。また本発明は、本発明の治療方法または予防方法に使用するための、本発明のポリペプチドまたは本発明の製造方法により製造されたポリペプチドに関する。
【0086】
なお、本明細書で用いられているアミノ酸の3文字表記と1文字表記の対応は以下の通りである。
アラニン:Ala:A
アルギニン:Arg:R
アスパラギン:Asn:N
アスパラギン酸:Asp:D
システイン:Cys:C
グルタミン:Gln:Q
グルタミン酸:Glu:E
グリシン:Gly:G
ヒスチジン:His:H
イソロイシン:Ile:I
ロイシン:Leu:L
リジン:Lys:K
メチオニン:Met:M
フェニルアラニン:Phe:F
プロリン:Pro:P
セリン:Ser:S
スレオニン:Thr:T
トリプトファン:Trp:W
チロシン:Tyr:Y
バリン:Val:V
【0087】
以下、本発明を実施例により、詳細に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものでなく、単なる例示であることに留意すべきである。
【実施例
【0088】
実施例1: 発現プラスミドの構築
EcoRI切断配列、マウスIgGκシグナルペプチドをコードするDNA配列、野生型ヒトウテログロビンモノマー全長をコードするDNA配列(NCBI)、リンカー配列GSSSSGSSSS、Hisタグおよびストップコドン配列、XhoI切断配列を含む遺伝子を合成した。合成した遺伝子および哺乳類発現ベクターであるpcDNA6.0 mycHisB(Invitrogen)をEcoRI(NEB)とXhoI(NEB)で切断した。切断した2つの産物をDNAライゲーションキットmighty mix(TAKARA)を用いて連結させ、野生型ウテログロビン哺乳類発現用プラスミドを作製した。
【0089】
変異体は次のように作製した。ウテログロビンモノマーの51番目のアミノ酸であるリシン(K)をコードするコドンaagをグルタミン酸(E)のコドンgaaに変換した配列を含むプライマーを合成した。合成したプライマーと野生型ウテログロビン哺乳類発現用プラスミドを鋳型としてPCR反応を行い、変異型ウテログロビン(K51E)哺乳類発現用プラスミドを作製した。
【0090】
同様の方法で33番目のアミノ酸であるアスパラギン酸gacをリシンaagに変換した変異型ウテログロビン(D33K)哺乳類発現用プラスミドを作製した。続いて変異型ウテログロビン(D33K)哺乳類発現用プラスミドのマウスIgGκシグナルペプチドの3‘末端に、ROBO4に対する一本鎖抗体scFv配列、リンカー配列GSSSSGSSSSを挿入したROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)哺乳類発現用プラスミドを作製した。
【0091】
このようにして、野生型ウテログロビン哺乳類発現用プラスミド[1]、変異型ウテログロビン(K51E)哺乳類発現用プラスミド[2]、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)(ROBO4 scFv-D33K)哺乳類発現用プラスミド[4]を調製した。
【0092】
同様の方法で66番目のアミノ酸であるセリン(S)agcをフェニルアラニン(F)ttcに変換した変異型ウテログロビン(S66F)哺乳類発現用プラスミドを作製した。続いて28番目のアミノ酸であるフェニルアラニンttcをセリンagcに変換した変異型ウテログロビン(F28S)哺乳類発現用プラスミドのマウスIgGκシグナルペプチドの3‘末端にに対する一本鎖抗体scFv配列、リンカー配列GSSSSGSSSSを挿入したROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)哺乳類発現用プラスミドを作製した。
【0093】
このようにして、変異型ウテログロビン(S66F)哺乳類発現用プラスミド[8]、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)(ROBO4 scFv-F28S)哺乳類発現用プラスミド[9]を調製した。
【0094】
同様の方法で29番目のアミノ酸であるセリン(S)agcをリジン(K)aagに変換した変異型ウテログロビン(S29K)哺乳類発現用プラスミドを作製した。続いて同様の方法で29番目のアミノ酸であるセリン(S)agcをアスパラギン酸(D)gacに、62番目のアミノ酸であるリジン(K)aaaをアスパラギン酸(D)gacに変換した変異型ウテログロビン(S29D, K62D)哺乳類発現用プラスミドのマウスIgGκシグナルペプチドの3‘末端にROBO4に対する一本鎖抗体scFv配列、リンカー配列GSSSSGSSSSを挿入したROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)哺乳類発現用プラスミドを作製した。
【0095】
このようにして、変異型ウテログロビン(S29K)哺乳類発現用プラスミド[13]、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)(ROBO4 scFv-S29D, K62D)哺乳類発現用プラスミド[14]を調製した。
【0096】
実施例2: 発現産物の調製
2-1:発現
トランスフェクション(形質導入)はExpiFectamine293 Transfection kit (Thermo Fisher Scentific)を用いて行った。手順は次の通りである。
Expi293F細胞(Invitrogen)をExpi293発現培地(Thermo Fisher Scentific)100mL中、3.0×106 細胞/mLとなるように37℃、125rpm、8% CO2条件下で培養した。実施例1にて調製したプラスミド[1]、[2]、[4]、[8]、[9]、[13]および[14]を100μgとOpti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)5mLを穏やかに混合し、室温で5分間静置した。ExpiFectamine293 試薬(Thermo Fisher Scentific)270μLとOpti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)5mLを穏やかに混合し、室温で5分間静置した。5分後、各プラスミド溶液とExpiFectamine溶液を穏やかに混合し、室温で20分間静置した。Expi293F細胞液100mLに混合溶液を穏やかに加え、37℃、125rpm、8% CO2で20時間培養後、ExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー1(Transfection Enhancer 1、Thermo Fisher Scentific)500μLとExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー2(Thermo Fisher Scentific)5mLを加えて37℃、125rpm、8% CO2条件下で1週間培養した。
【0097】
ROBO4 scFv-D33KおよびK51Eダブルトランスフェクションは以下のように行った。ウテログロビン(K51E)哺乳類発現用プラスミド[2]50μgとROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)哺乳類発現用プラスミド[4]50μgを混合し、Opti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)5mLに添加して穏やかに混合した後、室温で5分間静置した。ExpiFectamine293 試薬(Thermo Fisher Scentific)270μLとOpti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)5mLを穏やかに混合し、室温で5分間静置した。5分後、プラスミド溶液とExpiFectamine溶液を穏やかに混合し、室温で20分間静置した。Expi293F細胞液3.0×106 細胞/mL 、100mLに混合溶液を穏やかに加え、37℃、125rpm、8% CO2で20時間培養後、ExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー1(Thermo Fisher Scentific)500μLとExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー 2(Thermo Fisher Scentific)5mLを加えて37℃、125rpm、8% CO2条件下で1週間培養した。
【0098】
同様の方法で、変異型ウテログロビン(S66F)哺乳類発現用プラスミドおよびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)(ROBO4 scFv-F28S)哺乳類発現用プラスミドを用いてROBO4 scFv-F28SおよびS66Fダブルトランスフェクション[10]、ならびに変異型ウテログロビン(S29K)哺乳類発現用プラスミドおよびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)(ROBO4 scFv-S29D, K62D)哺乳類発現用プラスミドを用いてROBO4 scFv-S29D, K62DおよびS29Kダブルトランスフェクション[15]を行った。
【0099】
ROBO4 scFv-D33K_K51E共培養は以下のように行った。Expi293F細胞(Invitrogen)をExpi293 発現培地(Thermo Fisher Scentific)50mL中、3.0×106 細胞/mLとなるように37℃、125rpm、8% CO2条件下で培養した。ウテログロビン(K51E)哺乳類発現用プラスミド[2]50μgとOpti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)2.5mLを穏やかに混合し、室温で5分間静置した。ExpiFectamine293 試薬(Thermo Fisher Scentific)135μLとOpti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)2.5mLを穏やかに混合し、室温で5分間静置した。5分後、プラスミド溶液とExpiFectamine溶液を穏やかに混合し、室温で20分間静置した。Expi293F細胞液50mLに混合溶液を穏やかに加えて、37℃、125rpm、8% CO2で20時間培養後、ExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー 1(Thermo Fisher Scentific)250μLとExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー 2(Thermo Fisher Scentific)2.5mLを加えて37℃、125rpm、8% CO2条件下で3時間培養した。Expi293F細胞(Invitrogen)をExpi293 Expression medium(Thermo Fisher Scentific)50mL中、3.0×106 cells/mLとなるように37℃、125rpm、8% CO2条件下で培養した。ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)哺乳類発現用プラスミド[4]50μgとOpti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)2.5mLを穏やかに混合し、室温で5分間静置した。ExpiFectamine293 試薬(Thermo Fisher Scentific)135μLとOpti-MEM I 還元血清培地(Thermo Fisher Scentific)2.5mLを穏やかに混合し、室温で5分間静置した。5分後、プラスミド溶液とExpiFectamine溶液を穏やかに混合し、室温で20分間静置した。Expi293F細胞液50mLに混合溶液を穏やかに加え、37℃、125rpm、8% CO2で20時間培養後、ExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー 1(Thermo Fisher Scentific)250μLとExpiFectamine 293 トランスフェクション・エンハンサー 2(Thermo Fisher Scentific)2.5mLを加えて37℃、125rpm、8% CO2条件下で3時間培養した。その後、K51E細胞溶液50mLとROBO4 scFv-D33K細胞溶液50mLを混合し、37℃、125rpm、8% CO2で1週間培養した。
【0100】
同様の方法で、変異型ウテログロビン(S66F)哺乳類発現用プラスミドおよびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)(ROBO4 scFv-F28S)哺乳類発現用プラスミドを用いてROBO4 scFv-F28SおよびS66F共培養[11]、ならびに変異型ウテログロビン(S29K)哺乳類発現用プラスミドおよびROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)(ROBO4 scFv-S29D, K62D)哺乳類発現用プラスミドを用いてROBO4 scFv-S29D, K62DおよびS29K共培養[16]を行った。
【0101】
2-2:精製
1-1にて発現させて得られた[1]、[2]、[4]、[5]、[6] 、[8]、[9]、[10]、[11]、[13]、[14]、[15]および[16]のそれぞれの発現産物の精製はすべて以下のように行った。
培養液を遠心分離して上清を回収後、0.45umのフィルターでろ過した。ろ過した試料をアフィニティークロマトグラフィーにより精製した。カラムはHisTrap Excel 5mL(GE healthcare)を用い、カラムの平衡化、洗浄は50mM Hepes-NaOH pH7.5, 500mM NaClで行い、50mM Hepes-NaOH pH7.5, 500mM NaCl, 500mM イミダゾールで溶出した。溶出画分を回収し、50mM Hepes-NaOH pH7.5、4℃で一晩透析した。透析内液を回収し、陰イオン交換クロマトグラフィーを行った。カラムはHiTrapQ HP 5mL(GE healthcare)を用い、50mM Hepes-NaOH pH7.5, 0-1M NaClの濃度勾配で溶出した。溶出画分を回収し、ゲルろ過クロマトグラフィーを行った。カラムはHiLoad16/600 Superdex75(GE healthcare)、移動相は50mM Hepes-NaOH pH7.5, 300mM NaClを用いた。溶出画分を回収し、Amicon Ultra15で濃縮した。
【0102】
なお、ROBO4 scFv発現産物も調製した[3]。
また、図4においてレーン[7]で示される電気泳動前の試料調製は次のように行った。ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)[4]発現産物および変異型ウテログロビン(K51E)発現産物[2]をモル比で1:1になるように混合し、氷上で1時間静置した。
同様の方法によって、scFv-F28SとS66Fをモル比で1:1に混合したもの[12]およびscFv-S29D,K62DとS29Kを混合したもの[17]を調製した。
【0103】
実施例3 電気泳動
実施例2にて得られた発現産物[1]-[6]、[8]-[11]、[13]-[16]の各溶液を0.2mg/mLとなるように50mM Hepes-NaOH pH7.5, 300mM NaClで希釈した。
[1]-[17]について、還元条件の電気泳動用試料は次のように調製した。
希釈したタンパク質溶液10μLに2-メルカプトエタノール0.5μLと2×Laemmli 試料緩衝液(BIO-RAD)9.5μLを加え、95℃で5分間加熱した。非還元条件の試料は希釈したタンパク質溶液10μLに2×Laemmli 試料緩衝液(BIO-RAD)10μLを加え、95℃で5分間加熱した。還元条件、非還元条件の各試料を10-20% グラジエントゲル(アトー)に1レーン当たり20μL適用し、25mM Tris, 192mM グリシン, 3.5mM SDS溶液中、25mAで60分間通電し、電気泳動を行った。泳動後のゲルを25%エタノール, 10%アセトニトリル, 0.1%クマシーブリリアントブルー250染色液で染色し、お湯で脱色した。
【0104】
得られた結果を図4図5図6に示す。
図4において、野生型ウテログロビンおよび変異型ウテログロビン(K51E)のモノマーの分子量は9.6kDa、ROBO4 scFvは25kDa、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(D33K)(ROBO4 scFv-D33K)は36kDaである。構造解析の結果から、野生型ウテログロビンは分子間ジスルフィド結合を有し、ホモ二量体を形成していることが分かっている。還元条件下での電気泳動の結果から、[1]、[2]、[3]、[4]はモノマーの分子量にバンドが観察された。これは還元条件下ではジスルフィド結合が切断されるためである。[5]と[6]、[7]においてもK51EモノマーとROBO4 scFv-D33Kモノマーの分子量にバンドが存在していた。一方、非還元条件下ではジスルフィド結合は保持されるため、ウテログロビンはホモ二量体を形成しており、[1]と[2]では還元条件下と比較して高分子量側にバンドが観察された。ホモ二量体の分子量は19.2kDaであるので、バンドの位置は20kDa付近に確認できるはずだが、それよりも低分子量側に観察された。これは非還元条件下ではジスルフィド結合が保持されているため、純粋に分子量だけで分離できず、本来の分子量の位置よりも低分子量側にずれたと考えられる。
【0105】
非還元条件下の[4]においては、ホモ二量体である72kDaに主バンド(メインのバンド)が存在し、モノマーである36kDaにマイナーなバンドが存在していた。電気泳動では染色の度合いにより量比が分かるため、ROBO4 scFv-D33Kはホモ二量体が主に存在し、少量のモノマーが混在していることが分かった。
【0106】
非還元条件下において、[5]および[6]は、17、36、45、72kDa付近にバンドが存在し、ROBO4 scFv-D33KとK51Eを混合したものは17、36、72kD付近にバンドが存在していた。これまでの結果から、17kDaはK51Eホモ二量体、36kDaはROBO4 scFv-D33Kモノマー、72kDaはROBO4 scFv-D33Kホモ二量体である。ROBO4 scFv-D33Kモノマー36kDaとK51Eモノマー9.6kDaがヘテロ二量体を形成した場合、45kDaとなることから、45kDa付近のバンドはROBO4 scFv-D33K_K51Eヘテロ二量体であると考えられる。
【0107】
図5において、野生型ウテログロビンおよび変異型ウテログロビン(S66F)のモノマーの分子量は9.6kDa、ROBO4 scFvは25kDa、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(F28S)(ROBO4 scFv-F28S)は36kDaである。構造解析の結果から、野生型ウテログロビンは分子間ジスルフィド結合を有し、ホモ二量体を形成していることが分かっている。還元条件下での電気泳動の結果から、[1]、[3]、[8]、[9]はモノマーの分子量にバンドが観察された。これは還元条件下ではジスルフィド結合が切断されるためである。また[10]と[11]、[12]においてもバンドは薄いがS66FモノマーとROBO4 scFv-F28Sモノマーの分子量にバンドが存在していた。一方、非還元条件下ではジスルフィド結合は保持されるため、ウテログロビンはホモ二量体を形成しており、[8]と[12]では還元条件下と比較して高分子量側にバンドが観察された。
【0108】
非還元条件下の[9]においては、モノマーである36kDaにメインバンドが存在し、ホモ二量体である72kDaにマイナーバンド、さらに夾雑物と考えられる80kDa付近にもマイナーバンドが見られた。
【0109】
非還元条件下において、同様に[10]、[11]]にヘテロ二量体と考えられるバンドが見られた。
【0110】
図6において、野生型ウテログロビンおよび変異型ウテログロビン(S29K)のモノマーの分子量は9.6kDa、ROBO4 scFvは25kDa、ROBO4 scFv-変異型ウテログロビン(S29D, K62D)(ROBO4 scFv-S29D, K62D)は36kDaである。構造解析の結果から、野生型ウテログロビンは分子間ジスルフィド結合を有し、ホモ二量体を形成していることが分かっている。還元条件下での電気泳動の結果から、[1]、[3]、[13]、[14]はモノマーの分子量にバンドが観察された。これは還元条件下ではジスルフィド結合が切断されるためである。また[15]と[16]、[17]においてもS29KモノマーとROBO4 scFv-S29D, K62Dモノマーの分子量にバンドが存在していた。
【0111】
非還元条件下の[14]においては、モノマーである36kDaにメインバンドが存在し、ホモ二量体である72kDaにマイナーバンド、さらに夾雑物と考えられる80kDa付近にもマイナーバンドが見られた。
【0112】
非還元条件下において、同様に[15]、[16]]に、ヘテロ二量体と考えられるバンドが見られた。
【0113】
考察
電気泳動の結果から、scFv-D33K_K51Eダブルトランスフェクションと共培養でscFv-D33K_K51Eのヘテロ二量体を形成していた。また、ヘテロ二量体の45kDaのバンドは結果[7]および[12]では存在していなかった。このため、scFv-D33KとK51Eを単に混ぜ合わせただけでは、ヘテロ二量体は形成しないことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明の二重特異性ポリペプチドは、ウテログロビンを構造基盤とするため、一般的な二重特異性抗体と比較して低分子量である。そのため、高い組織浸透性が期待でき、Fc領域が無いため期待しない効果を抑制でき、よって、安全性が高い医薬品を創製するツールとなると大きく期待される。
図1-1】
図1-2】
図2
図3-1】
図3-2】
図4
図5
図6
【配列表】
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