IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大学共同利用機関法人情報・システム研究機構の特許一覧 ▶ 学校法人加計学園の特許一覧

特許7398704オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用
<>
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図1
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図2
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図3A
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図3B
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図3C
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図4
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図5A
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図5B
  • 特許-オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用 図6
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 9/99 20060101AFI20231208BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20231208BHJP
   C12N 5/10 20060101ALN20231208BHJP
   C12N 1/19 20060101ALN20231208BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20231208BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20231208BHJP
   C12N 15/29 20060101ALN20231208BHJP
【FI】
C12N9/99
C12Q1/37
C12N5/10
C12N1/19
C12N15/113 Z
C12N15/62 Z
C12N15/29
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019557108
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2018041563
(87)【国際公開番号】W WO2019107109
(87)【国際公開日】2019-06-06
【審査請求日】2021-08-26
(31)【優先権主張番号】P 2017228310
(32)【優先日】2017-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504202472
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人情報・システム研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】599035627
【氏名又は名称】学校法人加計学園
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(72)【発明者】
【氏名】鐘巻 将人
(72)【発明者】
【氏名】夏目 豊彰
(72)【発明者】
【氏名】林 謙一郎
【審査官】井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/072816(WO,A1)
【文献】特開2008-187958(JP,A)
【文献】特開2018-076274(JP,A)
【文献】特開2018-127429(JP,A)
【文献】HAYASHI K. et al.,Rational Design of an Auxin Antagonist of the SCFTIR1 Auxin Receptor Complex,ACS Chemical Biology,2012年,Vol. 7,pp.590-598,Figure 1の化合物番号14, Figure 4の化合物番号 15(auxinole), 16(PEO-IAA), 17, 18, 19(4F-PEO-IAA), 20,
【文献】林謙一郎 他,オーキシン受容と信号伝達の分子機構 TIR1オーキシン受容体拮抗剤の分子設計,化学と生物,2012年,Vol. 50, No. 12,pp.876-882,図1のPEO-IAA, Auxinole, 880-881頁"新しいオーキシン受容体拮抗剤と分子機構作用", 図5
【文献】BLAY G. et al.,Synthesis of Functionalized Indoles with an α-Stereogenic Ketone Moiety Through an Enantioselective,Adv. Synth. Catal,2009年,Vol. 351,pp. 2433-2440,Scheme 4の式7及びTable 3のEntry 1-5, 7-9
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 9/99
C12Q 1/37
C12N 5/10
C12N 1/19
C12N 15/113
C12N 15/62
C12N 15/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TIR1オーキシン受容体拮抗剤を含有する、動物細胞のオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤であって、前記TIR1オーキシン受容体拮抗剤が、下記式(I-1-2)で示される化合物である、タンパク質分解阻害剤。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載のタンパク質分解阻害剤と、
TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸と、
Aux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質をコードする第二の核酸と、
を備える動物細胞のオーキシンデグロンシステムのキット。
【請求項3】
請求項1に記載のタンパク質分解阻害剤と、
TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、並びに、目的タンパク質をコードする第三の核酸及び前記第三の核酸の上流又は下流に連結されたAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質をコードする第二の核酸を含む動物細胞と、
を備える動物細胞のオーキシンデグロンシステムのキット。
【請求項4】
請求項1に記載のタンパク質分解阻害剤を用いた動物細胞における目的タンパク質分解制御方法。
【請求項5】
TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、及び前記第一の核酸の5’末端に、作動可能に連結されているテトラサイクリン誘導性プロモーターと、
目的タンパク質及びAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質を含む融合タンパク質をコードする第四の核酸と、を含む動物細胞を含む第一の培養物に、請求項1に記載のタンパク質分解阻害剤、及びテトラサイクリンを添加して、前記TIR1ファミリータンパク質、及び前記融合タンパク質を発現した動物細胞を含む第二の培養物を得る工程と、
前記第二の培養物から、前記タンパク質分解阻害剤を除去し、オーキシン類を添加し、前記目的タンパク質を分解させた第三の培養物を得る工程と、
を有し、
前記オーキシン類は、インドール-3-酢酸、インドール-3-酢酸メチルエステル、4-クロロインドール酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、4-クロロフェノキシ酢酸、又は1-ナフタレンアセトアミドである、
動物細胞における目的タンパク質分解制御方法。
【請求項6】
TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、及び前記第一の核酸の5’末端に、作動可能に連結されているプロモーターと、
目的タンパク質及びAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質を含む融合タンパク質をコードする第四の核酸と、を含み、前記TIR1ファミリータンパク質、及び前記融合タンパク質を発現している動物細胞を含む第一の培養物に、オーキシン類を添加し、前記目的タンパク質を分解させた第二の培養物を得る工程と、
前記第二の培養物から、前記オーキシン類を除去し、請求項1に記載のタンパク質分解阻害剤を添加し、前記目的タンパク質を発現させた第三の培養物を得る工程と、
を有し、
前記オーキシン類は、インドール-3-酢酸、インドール-3-酢酸メチルエステル、4-クロロインドール酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸、4-クロロフェノキシ酢酸、又は1-ナフタレンアセトアミドである、
目的タンパク質分解制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤及びその使用に関する。具体的には、本発明は、オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤、前記オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を備えるオーキシンデグロンシステムのキット、前記オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を用いた目的タンパク質分解制御方法、及び、化合物に関する。
本願は、2017年11月28日に、日本に出願された特願2017-228310号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
本発明者らはこれまでに、オーキシンデグロンシステムと呼ばれるタンパク質の分解制御技術の開発を行ってきた(例えば、特許文献1~3参照)。このシステムでは、まず、オーキシン応答性ユビキチンリガーゼを構成するTIR1を、酵母や動物細胞等の真核生物由来の細胞に導入する。次いで、オーキシンの添加の有無やタイミングを調整することで、分解誘導ペプチド(植物由来Aux/IAAファミリータンパク質又はその部分タンパク質)により標識された目的タンパク質の分解を制御する。
【0003】
また、本発明者らはこれまでに、TIR1オーキシン受容体拮抗剤としてオーキシン(主に、インドール-3-酢酸(indole-3-acetic acid;IAA))誘導体を分子設計し、植物細胞における当該IAA誘導体のTIR1及びAUX/IAAに対する分子作用機構を明らかにした(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-187958号公報
【文献】国際公開第2010/125620号
【文献】国際公開第2013/073653号
【文献】国際公開第95/019433号
【文献】米国特許第5187287号明細書
【文献】米国特許第5847102号明細書
【文献】米国特許第5206152号明細書
【文献】米国特許第5168062号明細書
【非特許文献】
【0005】
【文献】林謙一郎ら、「オーキシンの受容と信号伝達の分子機構 TIR1オーキシン受容体拮抗剤の分子設計」、化学と生物、Vol.50、No.12、p.876-882、2012.
【文献】Gats C et al., “Stringent repression and homogeneous de-repression by tetracycline of a modified CaMV 35S promoter in intact transgenic tobacco plants.”, Plant J, Vol. 2, Issue 3, p397-404, 1992.
【文献】Lu B and Federoff HJ, “Herpes Simplex Virus Type 1 Amplicon Vectors with Glucocorticoid-Inducible Gene Expression.”, Hum Gene Ther, Vol. 6, Issue 4, p419-428, 1995.
【文献】Wagner TE et al., “Microinjection of a rabbit beta-globin gene into zygotes and its subsequent expression in adult mice and their offspring.”, Proc Natl Acad Sci U S A, Vol. 78, No. 10, p6376-6380, 1981.
【文献】Edlund T at al., “Cell-specific expression of the rat insulin gene: evidence for role of two distinct 5' flanking elements.”, Science, Vol. 230, Issue 4728, p912-916, 1985.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のオーキシンデグロンシステムでは、オーキシン非存在下においても、TIR1を発現させるだけで、分解誘導ペプチドで標識された目的タンパク質が弱い分解を受けるという問題がある。このため、分解対象の目的タンパク質が、生存に必須のタンパク質である場合、細胞株を樹立できない、又は、解析に支障をきたす虞がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、オーキシン非依存的なTIR1ファミリータンパク質及び分解誘導ペプチドの結合を阻害することができるオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を提供する。
また、厳密かつ自在にタンパク質の分解制御が可能なオーキシンデグロンシステムのキット及び目的タンパク質分解制御方法を提供する。また、オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質の分解阻害に有用な新規化合物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明の第1態様に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤は、TIR1オーキシン受容体拮抗剤を含有する。
【0009】
前記TIR1オーキシン受容体拮抗剤がインドール-3-酢酸誘導体であってもよい。
【0010】
前記TIR1オーキシン受容体拮抗剤が下記一般式(I)で示される化合物であってもよい。
【0011】
【化1】
【0012】
(一般式(I)中、A11、A12、A13及びA14は、それぞれ独立に、CH又は窒素原子である。A11、A12、A13及びA14が窒素原子である場合、n11は0である。R11は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R12及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R13は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。Y11は、単結合、又は、エステル結合、エーテル結合、アミド結合及びカルボニル基からなる群から選択される1種以上を含んでもよい炭素数1~10のアルキレン基である。n11は0~4の整数であり、n11が2~4の整数である場合、n11個のR11は互いに同一でも異なっていてもよい。Arは置換基を有してもよいアリール基である。)
【0013】
前記TIR1オーキシン受容体拮抗剤が下記一般式(I-1)で示される化合物であってもよい。
【0014】
【化2】
【0015】
(一般式(I-1)中、R12及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R11及びR15は、それぞれ独立に、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。n11は、0~4の整数であり、n11が2~4の整数である場合、n11個のR11は互いに同一でも異なっていてもよい。n12は、0~5の整数であり、n12が2~5の整数である場合、n12個のR15は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0016】
前記TIR1オーキシン受容体拮抗剤が、下記一般式(I-2)で示される化合物であってもよい。
【0017】
【化3】
【0018】
(一般式(I-2)中、R14は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。R15a及びR15bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。)
【0019】
前記TIR1オーキシン受容体拮抗剤が、下記式(I-1-1)~(I-1-8)のいずれかで示される化合物であってもよい。
【0020】
【化4】
【0021】
前記TIR1オーキシン受容体拮抗剤が、前記式(I-1-2)、(I-1-4)、又は(I-1-6)で示される化合物であってもよい。
【0022】
本発明の第2態様に係るオーキシンデグロンシステムのキットは、上記第1態様に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤と、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸と、Aux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質をコードする第二の核酸と、を備える。
【0023】
本発明の第3態様に係るオーキシンデグロンシステムのキットは、上記第1態様に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤と、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、並びに、目的タンパク質をコードする第三の核酸及び前記第三の核酸の上流又は下流に連結されたAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質をコードする第二の核酸を含む真核細胞と、を備える。
【0024】
本発明の第4態様に係る目的タンパク質分解制御方法は、上記第1態様に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を用いた方法である。
【0025】
本発明の第5態様に係る目的タンパク質分解制御方法は、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、及び前記第一の核酸の5’末端に、作動可能に連結されているテトラサイクリン誘導性プロモーターと、目的タンパク質及びAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質を含む融合タンパク質をコードする第四の核酸と、を含む真核細胞を含む第一の培養物に、上記第1態様に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤、及びテトラサイクリンを添加して、前記TIR1ファミリータンパク質、及び前記融合タンパク質を発現した真核細胞を含む第二の培養物を得る工程と、前記第二の培養物から、前記タンパク質分解阻害剤を除去し、オーキシン類を添加し、前記目的タンパク質を分解させた第三の培養物を得る工程と、を有する方法である。
【0026】
本発明の第6態様に係る目的タンパク質分解制御方法は、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、及び前記第一の核酸の5’末端に、作動可能に連結されているプロモーターと、目的タンパク質及びAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質を含む融合タンパク質をコードする第四の核酸と、を含み、前記TIR1ファミリータンパク質、及び前記融合タンパク質を発現している真核細胞を含む第一の培養物に、オーキシン類を添加し、前記目的タンパク質を分解させた第二の培養物を得る工程と、前記第二の培養物から、前記オーキシン類を除去し、上記第1態様に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を添加し、前記目的タンパク質を発現させた第三の培養物を得る工程と、を有する方法である。
【0027】
本発明の第7態様に係る化合物は、下記一般式(I)で示される化合物である。
【0028】
【化5】
【0029】
(一般式(I)中、A11、A12、A13及びA14は、それぞれ独立に、CH又は窒素原子である。A11、A12、A13及びA14が窒素原子である場合、n11は0である。R11は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R12及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R13は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。Y11は、単結合、又は、エステル結合、エーテル結合、アミド結合及びカルボニル基からなる群から選択される1種以上を含んでもよい炭素数1~10のアルキレン基である。n11は0~4の整数であり、n11が2~4の整数である場合、n11個のR11は互いに同一でも異なっていてもよい。Arは置換基を有してもよいアリール基である。)
【発明の効果】
【0030】
上記態様のオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤によれば、オーキシン非依存的なTIR1ファミリータンパク質及び分解誘導ペプチドの結合を阻害することができる。
上記態様のオーキシンデグロンシステムのキット及び目的タンパク質分解制御方法によれば、厳密かつ自在にタンパク質の分解制御が可能である。
また、上記態様の化合物は、オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質の分解阻害に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
図1】実施例1におけるオーキシンデグロンシステムでのタンパク質分解阻害剤候補化合物をFACS解析によりスクリーニングした結果を示すグラフである。
図2】実施例2におけるオーキシンデグロンシステムでのAuxinoleのタンパク質分解阻害効果をFACS解析した結果を示すグラフである。
図3A】参考例1におけるドキシサイクリン(Dox)及びオーキシン(Auxin)添加、Doxのみ添加、並びに、Dox及びAuxin未添加のDHC1-mAID-mClover発現細胞での経時的な細胞数の変化を示すグラフである。
図3B】参考例1におけるDox添加から48時間後での、Doxのみ添加、並びに、Dox及びAuxin未添加(Control)のDHC1-mAID-mClover発現細胞の位相差顕微鏡像である。
図3C】参考例1におけるTet添加から42時間後での、Tet及びAuxin添加、Tetのみ添加、並びに、Tet及びAuxin未添加のDHC1-mAID-mClover発現細胞を用いたウエスタンブロッティング解析の結果を示す画像である。
図4】実施例3におけるDox添加から24時間後での、Dox及びAuxinole添加、Doxのみ添加、並びに、Dox及びAuxinole未添加(Control)のDHC1-mAID-mClover発現細胞を観察した画像である。上は、蛍光顕微鏡像である。下は明視野像である。
図5A】実施例4におけるDox添加から48時間後での、Dox及びAuxinole添加、Auxinoleのみ添加、Doxのみ添加、並びに、Dox及びAuxinole未添加のDHC1-mAID-mClover発現細胞を観察した画像である。
図5B】実施例4におけるオーキシンデグロンシステムでのAuxinoleによるDHC1-mAID-mClover融合タンパク質の分解制御をFACS解析した結果を示すグラフである。
図6】実施例5におけるオーキシンデグロンシステムでのAuxinoleによるRAD21-mAID-mClover融合タンパク質の発現制御をFACS解析した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
≪オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤≫
本発明の一実施形態に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤は、TIR1オーキシン受容体拮抗剤を含有する。
【0033】
ここでいう「オーキシンデグロンシステム」とは、本発明者らが開発したタンパク質の分解制御技術である(例えば、特許文献1~3参照)。具体的には、まず、オーキシン応答性ユビキチンリガーゼを構成するTIR1ファミリータンパク質を、酵母や動物細胞等の真核生物由来の細胞に導入する。次いで、オーキシン類の添加によって、任意の時期に、発現した分解誘導ペプチドにより標識された目的タンパク質を分解することができる。前記分解誘導ペプチドとは、植物由来Aux/IAAファミリータンパク質又はその部分配列からなるペプチドである。
【0034】
また、「目的タンパク質」は、オーキシンデグロンシステムを用いて、分解を誘導したいタンパク質であれば、特別な限定はない。また、目的タンパク質は、外来遺伝子がコードするタンパク質であってもよく、オーキシンデグロンシステム導入対象の細胞に内在するタンパク質であってもよい。
【0035】
<TIR1オーキシン受容体拮抗剤>
本実施形態のタンパク質分解阻害剤に含まれるTIR1オーキシン受容体拮抗剤は、TIR1ファミリータンパク質への結合能を要するが、分解誘導ペプチド(特に、mAID)への結合能を有さないものである。これにより、TIR1ファミリータンパク質と、分解誘導ペプチド(特に、mAID)との結合を阻害することができる。本発明者らは、TIR1-オーキシン類-分解誘導ペプチドの結合構造から、TIR1オーキシン受容体拮抗剤となり得る化合物を分子設計し、オーキシン類の誘導体が有効であることを見出した。
【0036】
前記オーキシン類としては、例えば、インドール-3-酢酸(indole-3-acetic acid:IAA)、インドール-3-酪酸(indole-3-butyric acid:IBA)、インドール-3-酢酸メチルエステル、4-クロロインドール酢酸、フェニル酢酸等の天然オーキシン類;1-ナフタレン酢酸(NAA)、ナフトキシ酢酸、2,4-ジクロロフェノキシ酢酸(2,4-D)、2,4,5-トリクロロフェノキシ酢酸(2,4,5-T)、4-クロロフェノキシ酢酸、1-ナフタレンアセトアミド、4-パラクロロ酢酸、2,6-ジクロロ安息香酸等の合成オーキシン類等が挙げられる。これらオーキシン類の側鎖の一部において、官能基を置換又は付加して得られる誘導体は、TIR1オーキシン受容体拮抗剤として好ましく用いることができる。中でも、TIR1オーキシン受容体拮抗剤としては、IAA誘導体が好ましい。
【0037】
[化合物(I)]
IAA誘導体としては、例えば、下記一般式(I)で示される化合物(以下、「化合物(I)」と略記する)等が挙げられる。
【0038】
【化6】
【0039】
(一般式(I)中、A11、A12、A13及びA14は、それぞれ独立に、CH又は窒素原子である。A11、A12、A13及びA14が窒素原子である場合、n11は0である。R11は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R12及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R13は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。Y11は、単結合、又は、エステル結合、エーテル結合、アミド結合及びカルボニル基からなる群から選択される1種以上を含んでもよい炭素数1~10のアルキレン基である。n11は0~4の整数であり、n11が2~4の整数である場合、n11個のR11は互いに同一でも異なっていてもよい。Arは置換基を有してもよいアリール基である。)
【0040】
(Ar)
一般式(I)中、Arは置換基を有してもよいアリール基である。
【0041】
Arを構成するアリール基としては、炭素数6~14のアリール基であることが好ましく、具体的には、例えば、フェニル基、1-ナフチル基、2-ナフチル基、インデニル基等が挙げられる。中でも、Arを構成するアリール基としては、フェニル基であることが好ましい。
【0042】
Arは、1又は2個以上の任意の種類の置換基を、化学的に可能な任意の位置に有してもよい。置換基が2個以上の場合、それぞれの置換基は同一であっても異なっていてもよい。置換基として具体的には、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ニトロ基、シアノ基、ヒドロキシ基、アルキルアミノ基、カルボキシ基、ホルミル基、アセチル基、ベンゾイル基等が挙げられる。中でも、置換基としては、ハロゲン原子又はアルキル基であることが好ましい。
【0043】
前記ハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。中でも、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
【0044】
前記アルキル基としては、炭素数1~3の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基であることが好ましく、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基等が挙げられる。中でも、前記アルキル基としては、メチル基又はエチル基であることが好ましい。
【0045】
前記アルコキシ基としては、炭素数1~3の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基を有するアルコキシ基であることが好ましく、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロピルオキシ基等を挙げられる。中でも、前記アルコキシ基としては、メトキシ基又はエトキシ基であることが好ましい。
【0046】
前記アルキルアミノ基としては、炭素数1~3の直鎖状、分枝状又は環状のアルキル基を有するアミノ基であることが好ましく、具体的には、例えば、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、イソプロピルアミノ基、シクロプロピルアミノ基等が挙げられる。中でも、前記アルキルアミノ基としては、メチルアミノ基又はエチルアミノ基であることが好ましい。
【0047】
(Y11
一般式(I)中、Y11は、単結合、又は、エステル結合、エーテル結合、アミド結合及びカルボニル基からなる群から選択される1種以上を含んでもよい炭素数1~10のアルキレン基である。
【0048】
11がエステル結合、エーテル結合、アミド結合及びカルボニル基からなる群から選択される1種以上を含まない炭素数1~10のアルキレン基である場合、このアルキレン基は、直鎖状、分枝状又は環状のいずれであってもよい。中でも、前記炭素数1~10のアルキレン基は、直鎖状であることが好ましい。また、炭素数は、1~10であり、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることがさらに好ましい。
【0049】
前記炭素数1~10のアルキレン基として具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、トリメチレン基、シクロペンチレン基、テトラメチレン基、プロパン-1,2-ジイル基、n-ヘキシレン基、シクロヘキレン基、ペンタメチレン基、ブタン-1,3-ジイル基、シクロへプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基等が挙げられる。中でも、前記炭素数1~10のアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基又はペンタメチレン基であることが好ましく、メチレン基、エチレン基又はプロピレン基であることがより好ましく、メチレン基又はエチレン基であることがさらに好ましい。
【0050】
<基(II)>
11がエステル結合、エーテル結合、アミド結合及びカルボニル基からなる群から選択される1種以上を含む炭素数1~10のアルキレン基である場合、例えば、下記一般式(II)で示される基(以下、「基(II)」と略記することがある)等が挙げられる。
【0051】
-(CHn111-Y111-(CHn112- ・・・(II)
【0052】
基(II)において、-(CHn111-のY111と反対の結合手が上記一般式(I)中のArと結合しており、-(CHn112-のY111と反対の結合手が上記一般式(I)中の-COOR14を側鎖として有するCと結合している。
【0053】
・n111及びn112
基(II)において、n111及びn112は、それぞれ独立して、0~10の整数である。また、1≦n111+n112≦10である。また、中でも、n111が0以上2以下であり、n112が1以下上3以下であることが好ましく、n111が0以上1以下であり、n112が1以下上2以下であることがより好ましく、n111が0であり、n112が1であることがさらに好ましい。
【0054】
・Y111
111は、エステル結合(-C(=O)-O-)、エーテル結合(-O-)、アミド結合(-N(H)-C(=O)-)及びカルボニル基(-C(=O)-)からなる群から選択される1種以上である。中でも、Y111は、カルボニル基(-C(=O)-)であることが好ましい。
【0055】
好ましい基(II)としては、例えば、以下の式(II-1)で示される基(以下、「基(II-1)」と略記することがある)等が挙げられる。
【0056】
-C(=O)-CH- ・・・(II-1)
【0057】
なお、基(II-1)において、-C(=O)-のCHと反対の結合手が上記一般式(I)中のArと結合し、-CH-のC(=O)と反対の結合手が上記一般式(I)中の-COOR14を側鎖として有するCと結合することが好ましい。
【0058】
(A11、A12、A13及びA14
一般式(I)中、A11、A12、A13及びA14は、それぞれ独立に、CH又は窒素原子である。また、A11、A12、A13及びA14が窒素原子である場合、n11は0である。
【0059】
一般式(I)において、A11、A12、A13及びA14は、同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、A11、A12、A13及びA14は、CHであることが好ましい。
【0060】
(R11
一般式(I)中、R11は、インドール環様構造を形成するベンゼン環の置換基である。また、R11は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。また、n11が2~4の整数である場合、n11個のR11は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、合成が容易であることから、R11を2つ以上有する場合、R11は同一であることが好ましい。
【0061】
また、例えば、A11、A12、A13及びA14が窒素原子である場合、n11は0であり、置換基R11を有しない。また、例えば、A11、A12、A13及びA14からなる群の1つ以上がCHである場合、置換基R11を1つ以上有してもよい。中でも、A11、A12、A13及びA14からなる群の1つ以上がCHである場合、合成が容易であり、タンパク質分解阻害効果が優れることから、置換基R11は有しない、又は、置換基R11を1つ有することが好ましい。
【0062】
前記ハロゲン原子としては、上述の「Ar」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
【0063】
前記炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状、分枝状又は環状のいずれであってもよい。中でも、前記炭素数1~10のアルキル基は、直鎖状であることが好ましい。また、炭素数は、1~10であり、1~5であることが好ましく、1~3であることがより好ましく、1又は2であることがさらに好ましい。
【0064】
前記炭素数1~10のアルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、ネオペンチル基、tert-ペンチル基、シクロペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、シクロヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基、n-ヘプチル基、シクロへプチル基、2-メチルヘキシル基、3-メチルヘキシル基、5-メチルヘキシル基、n-オクチル基、シクロオクチル基、2-メチルヘプチル基、3-メチルヘプチル基、4-メチルヘプチル基、n-ノ二ル基、シクロノニル基、n-デシル基、シクロデシル基等が挙げられる。中でも、前記炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0065】
(R12及びR14
一般式(I)中、R12及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R12及びR14は、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0066】
前記炭素数1~10のアルキル基としては、上述の「R11」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0067】
中でも、R12及びR14は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0068】
(R13
一般式(I)中、R13は、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。
【0069】
前記ハロゲン原子としては、上述の「Ar」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
【0070】
前記炭素数1~10のアルキル基としては、上述の「R11」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0071】
前記炭素数1~10のアルキル基としては、上述の「R11」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0072】
中でも、R13は、水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましく、水素原子であることがさらに好ましい。
【0073】
(n11)
一般式(I)中、n11は、置換基R11の数を示し、0~4の整数である。例えば、A11、A12、A13及びA14が窒素原子である場合、n11は0である。また、例えば、A11、A12、A13及びA14からなる群の1つ以上がCHである場合、nは0~4である。中でも、n11は0~3であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0又は1がさらに好ましい。
【0074】
化合物(I)で好ましいものとしては、例えば、下記一般式(I-1)で示される化合物(以下、「化合物(I-1)」と略記する)等が挙げられる。なお、化合物(I-1)は、好ましい化合物(I)の一例に過ぎず、好ましい化合物(I)はこれらに限定されない。
【0075】
【化7】
【0076】
(一般式(I-1)中、R12及びR14は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R11及びR15は、それぞれ独立に、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。n11は、0~4の整数であり、n11が2~4の整数である場合、n11個のR11は互いに同一でも異なっていてもよい。n12は、0~5の整数であり、n12が2~5の整数である場合、n12個のR15は互いに同一でも異なっていてもよい。)
【0077】
(R15
一般式(I-1)中、R15は、ベンゼン環の置換基である。R15は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。また、n12が2~5の整数である場合、n12個のR15は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、合成が容易であることから、R15を2つ以上有する場合、R15は同一であることが好ましい。
【0078】
前記ハロゲン原子としては、上述の「Ar」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
【0079】
前記炭素数1~10のアルキル基としては、上述の「R11」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0080】
(n12)
一般式(I-1)中、n12は置換基R15の数を示し、0~5の整数である。中でも、合成が容易であり、タンパク質分解阻害効果が優れることから、n12は0~4であることが好ましく、0~3であることがより好ましく、0~2がさらに好ましい。また、化合物(I-1)において、n12が2である場合、置換基R15は置換基R15同士がメタ位となるように配置されていることが好ましい。
【0081】
化合物(I-1)で好ましいものとしては、例えば、R11及びR15がハロゲン原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であり、R12及びR14が水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であり、n11及びn12が0~3の整数であるもの等が挙げられる。
化合物(I-1)でより好ましいものとしては、例えば、R11及びR15がフッ素原子、塩素原子、メチル基又はエチル基であり、R12及びR14が水素原子、メチル基又はエチル基であり、n11及びn12が0~2であるもの等が挙げられる。
【0082】
化合物(I-1)で好ましいものとして具体的には、例えば、下記一般式(I-2)で示される化合物(以下、「化合物(I-2)」と略記する)等が挙げられる。なお、化合物(I-2)は、好ましい化合物(I-1)の一例に過ぎず、好ましい化合物(I-1)はこれらに限定されない。
【0083】
【化8】
【0084】
(一般式(I-2)中、R14は、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基である。R15a及びR15bは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。)
【0085】
(R14
14としては、上記一般式(I)中のR14と同じである。中でも、R14は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0086】
(R15a及びR15b
15a及びR15bとしては、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~6のアルキル基である。R15a及びR15bは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0087】
前記ハロゲン原子としては、上述の「Ar」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記ハロゲン原子としては、フッ素原子又は塩素原子であることが好ましい。
【0088】
前記炭素数1~10のアルキル基としては、上述の「R11」において例示されたものと同様のものが挙げられる。中でも、前記炭素数1~10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基又はn-ペンチル基であることが好ましく、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることがさらに好ましい。
【0089】
中でも、R15aとしては、水素原子、塩素原子又はメチル基が好ましい。また、R15bとしては、水素原子又はメチル基が好ましい。
【0090】
化合物(I-2)で好ましいものとしては、例えば、R14が水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であり、R15aが水素原子、フッ素原子、塩素原子、メチル基又はエチル基であり、R15bが水素原子、メチル基又はエチル基であるもの等が挙げられる。
化合物(I-2)でより好ましいものとしては、例えば、R14が水素原子又はメチル基であり、R15aが水素原子、塩素原子又はメチル基であり、R15bが水素原子又はメチル基であるもの等が挙げられる。
【0091】
化合物(I)のうち、化合物(I-1)で好ましいものとしてより具体的には、例えば、以下に示すもの等が挙げられる。
下記式(I-1-1)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-1)」と略記する)(PEO-IAA);
下記式(I-1-2)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-2)」と略記する)(Auxinole);
下記式(I-1-3)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-3」と略記する)(4F-PEO-IAA);
下記式(I-1-4)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-4)」と略記する)(PEO-IAA ethyl ester);
下記式(I-1-5)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-5)」と略記する)(N-methyl-PEO-IAA);
下記式(I-1-6)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-6)」と略記する)(4Cl-PEO-IAA);
下記式(I-1-7)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-7)」と略記する)(4’-Methyl-PEO-IAA);
下記式(I-1-8)で示される化合物(以下、「化合物(I-1-8)」と略記する)(6’-F-Auxinole)
【0092】
なお、これら化合物は、好ましい化合物(I)の一例に過ぎず、好ましい化合物(I)はこれらに限定されない。
【0093】
【化9】
【0094】
これらの中でも、後述の実施例に示すように、化合物(I-1-2)(Auxinole)、化合物(I-1-4)(PEO-IAA ethyl ester)、又は化合物(I-1-6)(4Cl-PEO-IAA)は優れたタンパク質分解阻害効果を有し、化合物(I-1-2)(Auxinole)は、特に優れたタンパク質分解阻害効果を有する。
【0095】
また、化合物(I-1-7)及び化合物(I-1-8)はタンパク質分解阻害効果を有する新規化合物である。
【0096】
[化合物(I)の製造方法]
化合物(I)は、例えば、Ar及びリンカーであるY11の種類に応じて、公知の方法を用いて、単環又は多環式芳香族炭化水素を二環式化合物に反応させることで製造できる。より具体的には、以下のとおりである。
【0097】
〇化合物((I-1)-1a)の製造方法
化合物(I)のうち、化合物(I-1)は、R14が水素原子である場合、例えば、以下の工程1)及び工程2)を備える製造方法により製造できる。
1)下記一般式(I-1a)で示される化合物(以下、「化合物(I-1a)」と略記する)と、無水マレイン酸とを反応させて、下記一般式(I-1b)で示される化合物(以下、「化合物(I-1b)」と略記する)を得る工程(以下、「化合物(I-1b)製造工程」と略記する);
2)化合物(I-1b)と、下記一般式(I-1c)で示される化合物(以下、「化合物(I-1c)」と略記する)とを反応させて、下記一般式(I-1)-1aで示される化合物(以下、「化合物((I-1)-1a)」と略記する)を得る工程(以下、「化合物((I-1)-1a)製造工程」と略記する)
【0098】
以下、各工程について、詳細に説明する。
【0099】
【化10】
【0100】
(式中、R16はハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R16は無水マレイン酸との反応前のR15であり、R15及びR16は同一である。n13は0~6の整数である。n12及びn13は、n13=n12+1となる関係である。R11、R12、R15、n11及びn12はいずれも上記と同じである。)
【0101】
(化合物(I-1b)製造工程)
前記化合物(I-1b)製造工程では、化合物(I-1a)と無水マレイン酸とをフリーデル-クラフツ(Friedel-Crafts)アルキル化反応により反応させて、化合物(I-1b)を得る。
【0102】
・化合物(I-1a)
化合物(I-1a)は置換基を有してもよいベンゼンであり、公知化合物である。
化合物(I-1a)において、R16はベンゼン環中の置換基を示す。また、R16はハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。また、R16は無水マレイン酸との反応前のR15であり、R15及びR16は同一である。
【0103】
また、n13が2以上であり、R16を2つ以上有する場合、R16は同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、合成が容易であることから、R16を2つ以上有する場合、R16は同一であることが好ましい。
【0104】
また、化合物(I-1a)において、R16はハロゲン原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0105】
化合物(I-1a)において、n13は置換基R16の数を示す。また、n13は0~6の整数である。また、n12及びn13は、n13=n12+1となる関係である。中でも、合成が容易であることから、n13は0~4であることが好ましく、0~3であることがより好ましく、0~2であることがさらに好ましい。
また、化合物(I-1a)において、n13が2である場合、置換基R16は置換基R16同士がメタ位となるように配置されていることが好ましい。
【0106】
・化合物(I-1b)
化合物(I-1b)は置換基を有してもよいフェニル基を側鎖に有するアクリル酸誘導体であり、公知化合物である。
化合物(I-1b)において、R15はベンゼン環の置換基である。また、R15は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。また、化合物(I-1b)において、R15は化合物(I-1a)中の無水マレイン酸と反応後のR16であり、R15及びR16は同一である。
【0107】
また、n12が2以上であり、R15を2つ以上有する場合、R15は同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、合成が容易であることから、R15を2つ以上有する場合、R15は同一であることが好ましい。
【0108】
また、化合物(I-1b)において、R15はハロゲン原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0109】
化合物(I-1b)において、n12は置換基R15の数を示す。また、n12は0~5の整数である。また、n12及びn13は、n12=n13-1となる関係である。中でも、合成が容易であることから、n12は0~4であることが好ましく、0~3であることがより好ましく、0~2であることがさらに好ましい。
【0110】
・反応条件
化合物(I-1b)製造工程においては、触媒を用いて反応を行うことが好ましい。
前記触媒は特に限定されないが、例えば、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム等の金属ハロゲン化物が挙げられる。
前記触媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
前記触媒の使用量は、化合物(I-1a)の使用量の1倍モル量以上3倍モル量以下であることが好ましい。
【0111】
化合物(I-1b)製造工程においては、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。
前記非プロトン性溶媒は特に限定されないが、例えば、ペルフルオロヘキサン、α,α,α-トリフルオロトルエン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、四塩化炭素、ジオキサン、フルオロトリクロロメタン、ベンゼン、トルエン、トリエチルアミン、二硫化炭素、ジイソプロピルエーテル、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、2-メトキシエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、塩化メチレン、ピリジン、2-ブタノン、アセトン、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルピロリジノン、ニトロメタン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジイソプロピルエチルアミン、酢酸イソプロピル、ジクロロメタン、ジメチルアミン、N,N-ジメチルホルムアミド、炭酸プロピレン等が挙げられる。
前記溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
前記溶媒の使用量は、化合物(I-1a)の使用量の10倍モル量以上200倍モル量以下であることが好ましい。
【0112】
化合物(I-1b)製造工程においては、不活性ガス雰囲気下で反応を行うことが好ましい。
前記不活性ガスは特に限定されないが、例えば、窒素、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等が挙げられる。
前記不活性ガスは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
【0113】
化合物(I-1b)製造工程において、無水マレイン酸の使用量は、化合物(I-1a)の0.5倍モル量以上2倍モル量以下であることが好ましい。
【0114】
化合物(I-1b)製造工程において、反応温度は、10℃以上40℃以下であることが好ましく、15℃以上35℃以下であることがより好ましい。
化合物(I-1b)製造工程において、反応時間は、30分以上10時間以下であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましい。
【0115】
化合物(I-1b)製造工程において、反応終了後は、公知の手法によって、必要に応じて後処理を行い、化合物(I-1b)を取り出せばよい。すなわち、適宜必要に応じて、ろ過、洗浄、抽出、pH調整、脱水、濃縮等の後処理操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて行い、濃縮、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー等により、化合物(I-1b)を取り出せばよい。また、取り出した化合物(I-1b)は、さらに必要に応じて、結晶化、再沈殿、カラムクロマトグラフィー、抽出、溶媒による結晶の撹拌洗浄等の操作をいずれか単独で、又は2種以上組み合わせて1回以上行うことで、精製してもよい。
化合物(I-1b)製造工程においては、反応終了後、化合物(I-1b)を取り出さずに、次工程で用いてもよいが、目的物である化合物((I-1)-1a)の収率が向上する点から、化合物(I-1b)を上述の方法で取り出すことが好ましい。
【0116】
(化合物((I-1)-1a)製造工程)
前記化合物((I-1)-1a)製造工程においては、化合物(I-1b)と化合物(I-1c)とをマイケル(Michael)反応により反応させて、化合物((I-1)-1a)を得る。
【0117】
・化合物(I-1c)
化合物(I-1c)は、インドール環様構造を有する化合物であり、公知化合物である。
化合物(I-1c)において、R11はインドール環様構造を形成するベンゼン環の置換基である。また、R11は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R11を2つ以上有する場合、R11は同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、合成が容易であることから、R11を2つ以上有する場合、R11は同一であることが好ましい。
【0118】
また、化合物(I-1c)において、R11はハロゲン原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0119】
化合物(I-1c)において、n11は、置換基R11の数を示す。また、n11は0~4の整数である。中でも、合成が容易であることから、n11は0~3であることが好ましく、0~2であることがより好ましく、0又は1がさらに好ましい。
【0120】
化合物(I-1c)において、R14は水素原子、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R14は、水素原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが好ましく、水素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0121】
・反応条件
化合物((I-1)-1a)製造工程においては、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。前記非プロトン性溶媒としては、上述の「化合物(I-1b)製造工程」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
前記溶媒の使用量は、化合物(I-1b)の使用量の10倍モル量以上200倍モル量以下であることが好ましい。
【0122】
化合物((I-1)-1a)製造工程においては、化合物(I-1c)の使用量は、化合物(I-1b)の使用量の1倍モル量以上3倍モル量以下であることが好ましい。
【0123】
化合物((I-1)-1a)製造工程においては、反応温度は、60℃以上100℃以下であることが好ましく、70℃以上90℃以下であることがより好ましい。
化合物((I-1)-1a)製造工程においては、反応時間は、30分以上10時間以下であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましい。
【0124】
化合物((I-1)-1a)製造工程において、反応終了後は、化合物(I-1b)製造工程の場合と同様の方法で、化合物((I-1)-1a)を取り出すことができ、取り出した化合物((I-1)-1a)をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0125】
化合物((I-1)-1a)、化合物(I-1a)、化合物(I-1b)、化合物(I-1c)等の各化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0126】
〇化合物((I-1)-1b)の製造方法
化合物(I)のうち、化合物(I-1)は、R14が炭素数1~10のアルキル基である場合、例えば、以下の工程1)、工程2)及び工程3)を備える製造方法により製造できる。
1)化合物(I-1a)と、無水マレイン酸とを反応させて、化合物(I-1b)を得る工程(化合物(I-1b)製造工程)
2)化合物(I-1b)と、1価のアルコールとを反応させて、下記一般式(I-1d)で示される化合物(以下、「化合物(I-1d)」と略記する)を得る工程(以下、「化合物(I-1d)製造工程」と略記する)
3)化合物(I-1d)と、化合物(I-1c)とを反応させて、下記一般式(I-1)-1bで示される化合物(以下、「化合物((I-1)-1b)」と略記する)を得る工程(以下、「化合物((I-1)-1b)製造工程」と略記する)
【0127】
化合物(I-1b)製造工程は上述の「化合物((I-1)-1a)の製造方法」と同様であるため、化合物((I-1)-1b)製造工程及び化合物(I-1d)製造工程について、詳細に説明する。
【0128】
【化11】
【0129】
(式中、R17は炭素数1~10のアルキル基である。R11、R12、R15、R16、n11、n12及びn13はいずれも上記と同じである。)
【0130】
(化合物(I-1d)製造工程)
前記化合物(I-1d)製造工程では、化合物(I-1b)と1価のアルコールとを脱水縮合により反応させて、化合物(I-1d)を得る。
【0131】
・1価のアルコール
1価のアルコールは公知化合物である。
1価のアルコールとしては、炭素数1~10のアルキル基を有する1価のアルコールであること好ましい。前記1価のアルコールとして具体的には、例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、2-メチル-1-プロパノール、2-メチル-2-プロパノール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、3-メチル-1-ブタノール、2-メチル-2-ブタノール、3-メチル-2-ブタノール、2-エチル-1-ブタノール、2,2-ジメチル-1-プロパノール、1-ヘキサノール、2-ヘキサノール、3-ヘキサノール、4-メチル-1-ペンタノール、4-メチル-2-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、2,3-ジメチル-2-ブタノール、3,3-ジメチル-1-ブタノール、3,3-ジメチル-2-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、4-ヘプタノール、3-エチル-3-ペンタノール、2,4-ジメチル-3-ペンタノール、2,4-ジメチル-2-ペンタノール、2,3-ジメチル-2-ペンタノール、2,3-ジメチル-3-ペンタノール、2,2-ジメチル-3-ペンタノール、2,3,3-トリメチル-2-ブタノール、2,3,3-トリメチル-3-ペンタノール、2,2-ジエチル-1-ペンタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、7-メチル-1-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、3,5,5-トリメチル-1-ヘキサノール、1-ノナノール、2-ノナノール、3-ノナノール、4-ノナノール、5-ノナノール、2,6-ジメチル-4-ヘプタノール、3,5-ジメチル-4-ヘプタノール1-デカノール等が挙げられ、これらに限定されない。中でも、1価のアルコールとしては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、1-ブタノール又は1-ペンタノールが好ましく、メタノール、エタノール又は1-プロパノールがより好ましく、メタノール又はエタノールがさらに好ましい。
【0132】
・化合物(I-1d)
化合物(I-1d)は公知化合物である。
化合物(I-1d)において、R15はベンゼン環の置換基である。ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。また、R15は、ハロゲン原子又は炭素数1~10のアルキル基である。R15を2つ以上有する場合、R15は同一であってもよく、異なっていてもよい。中でも、合成が容易であることから、R15を2つ以上有する場合、R15は同一であることが好ましい。
【0133】
また、化合物(I-1d)において、R15はハロゲン原子、メチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが好ましく、フッ素原子、塩素原子、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0134】
化合物(I-1d)において、R17は1価のアルコールに由来する炭素数1~10のアルキル基である。中でも、合成が容易であることから、R17はメチル基、エチル基又はn-プロピル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基であることがより好ましい。
【0135】
化合物(I-1b)において、n12は置換基R15の数を示す。また、n12は0~5の整数である。中でも、合成が容易であることから、n12は0~4であることが好ましく、0~3であることがより好ましく、0~2であることがさらに好ましい。
【0136】
・反応条件
化合物(I-1d)製造工程においては、縮合剤を用いて反応を行うことが好ましい。
前記縮合剤は特に限定されないが、例えば、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(N,N-dimethyl-4-aminopyridine;DMAP)等が挙げられる。
前記縮合剤は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよく、2種以上を併用する場合、それらの組み合わせ及び比率は任意に選択できる。
前記縮合剤の使用量は、化合物(I-1b)の使用量の0.05モル量以上0.2倍モル量以下であることが好ましい。
【0137】
化合物(I-1d)製造工程においては、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。前記非プロトン性溶媒としては、上述の「化合物(I-1b)製造工程」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
前記溶媒の使用量は、化合物(I-1b)の使用量の10倍モル量以上200倍モル量以下であることが好ましい。
【0138】
化合物(I-1d)製造工程においては、1価のアルコールの使用量は、化合物(I-1b)の使用量の1倍モル量以上3倍モル量以下であることが好ましい。
【0139】
化合物(I-1d)製造工程においては、反応温度は、10℃以上40℃以下であることが好ましく、15℃以上35℃以下であることがより好ましい。
化合物(I-1d)製造工程においては、反応時間は、30分以上10時間以下であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましい。
【0140】
化合物(I-1d)製造工程において、反応終了後は、化合物(I-1b)製造工程の場合と同様の方法で、化合物(I-1d)を取り出すことができ、取り出した化合物(I-1d)をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0141】
(化合物((I-1)-1b)製造工程)
前記化合物((I-1)-1b)製造工程においては、化合物(I-1d)と化合物(I-1c)とをマイケル(Michael)反応により反応させて、化合物((I-1)-1b)を得る。
【0142】
・反応条件
化合物((I-1)-1b)製造工程においては、非プロトン性溶媒を反応溶媒として用いることが好ましい。前記非プロトン性溶媒としては、上述の「化合物(I-1b)製造工程」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
前記溶媒の使用量は、化合物(I-1d)の使用量の10倍モル量以上100倍モル量以下であることが好ましい。
【0143】
化合物((I-1)-1b)製造工程においては、化合物(I-1c)の使用量は、化合物(I-1d)の使用量の1倍モル量以上3倍モル量以下であることが好ましい。
【0144】
化合物((I-1)-1b)製造工程においては、反応温度は、60℃以上100℃以下であることが好ましく、70℃以上90℃以下であることがより好ましい。
化合物((I-1)-1b)製造工程においては、反応時間は、30分以上10時間以下であることが好ましく、1時間以上5時間以下であることがより好ましい。
【0145】
化合物((I-1)-1b)製造工程において、反応終了後は、化合物(I-1b)製造工程の場合と同様の方法で、化合物((I-1)-1b)を取り出すことができ、取り出した化合物((I-1)-1b)をさらに同様の方法で精製してもよい。
【0146】
化合物((I-1)-1b)、化合物(I-1a)、化合物(I-1b)、化合物(I-1c)、化合物(I-1d)等の各化合物は、例えば、核磁気共鳴(NMR)分光法、質量分析法(MS)、赤外分光法(IR)等、公知の手法で構造を確認できる。
【0147】
また、化合物(I)のうち、化合物(I-1)は、R14が炭素数1~10のアルキル基である場合、後述する実施例に示すように、例えば、化合物((I-1)-1a)と、1価のアルコールとを脱水縮合により反応させて、化合物((I-1)-1b)を製造することもできる。1価のアルコール及び反応条件としては、上記「化合物(I-1d)製造工程」において例示されたものと同じものが挙げられる。
【0148】
<その他構成成分>
本実施形態のタンパク質分解阻害剤は、上述のTIR1オーキシン受容体拮抗剤の他に、タンパク質分解阻害効果を妨げない範囲で、添加剤等を含んでいてもよい。
【0149】
前記添加剤としては、例えば、アジ化ナトリウム、安息香酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、メチルパラベン、プロピルパラベン等の保存剤;水、生理食塩水、緩衝液等の希釈剤、メタノール、エタノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、グリセロール等の有機溶媒等が挙げられるが、それらに限定されるものではない。
【0150】
本実施形態のタンパク質分解阻害剤は、粉体であってもよく、上述のTIR1オーキシン受容体拮抗剤が溶剤等に溶解した液体であってもよい。
【0151】
≪オーキシンデグロンシステムのキット≫
<第1実施形態>
本発明の一実施形態に係るオーキシンデグロンシステムのキットは、上記実施形態に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤と、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸と、少なくともmAIDをコードする第二の核酸と、を備える。
【0152】
本実施形態のキットによれば、厳密かつ自在に目的タンパク質の分解制御が可能である。
本実施形態のキットが備える上記タンパク質分解阻害剤以外の構成成分について、以下に詳細を説明する。
【0153】
<第一の核酸>
第一の核酸はTIR1ファミリータンパク質をコードする核酸である。
【0154】
本明細書において、「TIR1ファミリータンパク質」とは、ユビキチン/プロテアソーム系のタンパク質分解において、E3ユビキチン化酵素複合体(SCF複合体)を形成するサブユニットの一つであるF-boxタンパク質であり、植物特有のタンパク質である。TIR1ファミリータンパク質は、成長ホルモンであるオーキシンの受容体となっており、オーキシンを受容することによって、オーキシン情報伝達系の抑制因子Aux/IAAファミリータンパク質を認識して、前記タンパク質を分解することが知られている。
【0155】
TIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子としては、植物由来のTIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子であれば、その種類は限定されない。また、由来となる植物の種類も限定されず、例えば、シロイヌナズナ、イネ、ヒャクニチソウ、マツ、シダ、ヒメツリガネゴケ等が挙げられる。TIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、例えば、TIR1遺伝子、AFB1遺伝子、AFB2遺伝子、AFB3遺伝子、FBX14遺伝子、AFB5遺伝子等が挙げられる。
【0156】
本実施形態のキットは、いずれか一種類のTIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子を有していてもよいし、二種類以上を有していてもよい。例えば、シロイヌナズナ由来のTIR1ファミリータンパク質をコードする遺伝子の配列は、TAIRウェブサイト(http://www.arabidopsis.org/)に登録されており、各遺伝子のアクセッションナンバーは、下記表1のとおりである。
【0157】
【表1】
【0158】
TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸は、例えば、植物から抽出した天然の核酸でもよいし、遺伝子工学によって合成した核酸であってもよい。また、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸は、例えば、エキソンとイントロンとを含むDNAでもよいし、エキソンからなるcDNAであってもよい。TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸は、例えば、ゲノムDNAにおける全長配列又はcDNAにおける全長配列であってもよい。また、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸は、発現したタンパク質が、TIR1として機能する範囲において、ゲノムDNAにおける部分配列又はcDNAにおける部分配列であってもよい。
【0159】
本明細書において、「TIR1ファミリータンパク質として機能する」とは、例えば、オーキシン類の存在下で、分解誘導ペプチド(Aux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質)を認識することを意味する。TIR1ファミリータンパク質が分解誘導ペプチドを認識できれば、分解誘導ペプチドで標識化された目的タンパク質を分解できるからである。
【0160】
[プロモーター]
本実施形態のキットにおいて、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸の5’末端に、該第一の核酸の転写を制御するプロモーター配列が作動可能に連結されていることが好ましい。これによって、より確実にTIR1ファミリータンパク質を発現できる。
【0161】
本明細書において、「作動可能に連結」とは、遺伝子発現制御配列(例えば、プロモーター又は一連の転写因子結合部位)と発現させたい遺伝子(本実施形態においては、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸)との間の機能的連結を意味する。ここで、「発現制御配列」とは、その発現させたい遺伝子(本実施形態においては、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸)の転写を指向するものを意味する。
【0162】
前記プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、細胞の種類等に応じて適宜決定できる。プロモーターの具体例としては、例えば、誘導性プロモーター、ウイルス性プロモーター、ハウスキーピング遺伝子プロモーター、組織特異的プロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸に作動可能に連結されたプロモーターとしては、誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0163】
(誘導性プロモーター)
誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、化学的誘導性プロモーター、熱ショック誘導性プロモーター、電磁気的誘導性プロモーター、核レセプター誘導性プロモーター、ホルモン誘導性プロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸に作動可能に連結された誘導性プロモーターとしては、化学的誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0164】
化学的誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、サリチル酸誘導性プロモーター(例えば、特許文献4参照。)、テトラサイクリン誘導性プロモーター(例えば、非特許文献2参照。)、エタノール誘導性プロモーター、亜鉛誘導性メタロチオネインプロモーター等が挙げられる。中でも、本実施形態の細胞において、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸に作動可能に連結された化学的誘導性プロモーターとしては、テトラサイクリン誘導性プロモーターであることが好ましい。
【0165】
なお、従来のオーキシンデグロンシステムでは、後述の参考例において示すように、オーキシン非存在下においても、テトラサイクリン存在下で、TIR1ファミリータンパク質を発現させるだけで、分解誘導ペプチドで標識された目的タンパク質が弱い分解を受けるという問題があった。これに対し、後述の実施例に示すように、本実施形態のキットに含まれるタンパク質分解阻害剤を用いることで、TIR1ファミリータンパク質と分解誘導ペプチドとの結合を阻害して、オーキシン非存在下における目的タンパク質の分解を阻害することができる。
【0166】
熱ショック誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、熱誘導性プロモーター(例えば、特許文献5参照。)、低温誘導性プロモーター(例えば、特許文献6参照。)等が挙げられる。
【0167】
電磁気的誘導性プロモーターとしては、初期増殖領域-1(EGR-1)プロモーター(例えば、特許文献7参照。)、c-Junプロモーター等が挙げられる。
【0168】
核レセプター誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、オーファン核受容体ニワトリ卵白アルブミン上流プロモーター等が挙げられる。
【0169】
ホルモン誘導性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、グルココルチコイド誘導性プロモーター(例えば、非特許文献3参照)、MMTVプロモーター、成長ホルモンプロモーター等が挙げられる。
【0170】
(ウイルス性プロモーター)
ウイルス性プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモーター(CMV極初期プロモーター(例えば、特許文献8参照。)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来のプロモーター(例えば、HIV長末端リピート等)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター(例えば、RSV長末端リピート等) 、マウス乳腫瘍ウイルス(MMTV)プロモーター、HSVプロモーター(Lap2プロモーター又はヘルペスチミジンキナーゼプロモーター等)(例えば、非特許文献4参照) 、SV40又はエプスタイン バール ウイルス由来のプロモーター、アデノ随伴ウイルスプロモーター(例えば、p5プロモーター等)等が挙げられる。
【0171】
(ハウスキーピング遺伝子プロモーター)
ハウスキーピング遺伝子プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、GAPDH(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase)遺伝子プロモーター、β-アクチン遺伝子プロモーター、β2-マイクログロブリン遺伝子プロモーター、HPRT 1(hypoxanthine phosphoribosyltransferase 1)遺伝子プロモーター等が挙げられる。
【0172】
(組織特異的プロモーター)
組織特異的プロモーターとしては、特別な限定はなく、例えば、黒色腫細胞又はメラニン細胞の場合は、チロシナーゼプロモーター又はTRP2プロモーター;乳房細胞又は乳癌の場合は、MMTVプロモーター又はWAPプロモーター;腸細胞又は腸癌の場合は、ビリンプロモーター又はFABPプロモーター;膵細胞の場合は、PDXプロモーター;膵ベータ細胞の場合は、RIPプロモーター;ケラチノサイトの場合は、ケラチンプロモーター;前立腺上皮の場合は、プロバシンプロモーター;中枢神経系(CNS)の細胞又は中枢神経系の癌の場合は、ネスチンプロモーター又はGFAPプロモーター;ニューロンの場合は、チロシンヒドロキシラーゼ、S100プロモーター又は神経フィラメントプロモーター;非特許文献5に記載される、膵臓特異的プロモーター;肺癌の場合は、クラーラ細胞分泌タンパク質プロモーター;心細胞の場合は、αミオシンプロモーター等が挙げられる。
【0173】
[ベクター]
本実施形態のキットにおいて、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸及び上流に作動可能に連結されたプロモーター配列は、ベクターに挿入された形であってもよい。
【0174】
前記ベクターとしては、発現ベクターであることが好ましい。発現ベクターとしては特に制限されず、例えば、pBR322、pBR325、pUC12、pUC13等の大腸菌由来のプラスミド;pUB110、pTP5、pC194等の枯草菌由来のプラスミド;pSH19、pSH15等の酵母由来プラスミド;λファージ等のバクテリオファージ;アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、バキュロウイルス、レトロウイルス、肝炎ウイルス等のウイルス;及びこれらを改変したベクター等を用いることができる。
【0175】
前記ベクターは、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸の5’末端又は3’末端に、ポリアデニル化シグナル、NLS、蛍光タンパク質のマーカー遺伝子等が作動可能に連結されていてもよい。
【0176】
<第二の核酸>
第二の核酸はAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質をコードする核酸である。中でも、第二の核酸は、Aux/IAAファミリータンパク質のうち、mAIDの全長又は部分タンパク質をコードする核酸を含むことが好ましい。
【0177】
本明細書において、「mAID」とは、「Mini-auxin-inducible degron」の略称であり、Aux/IAAファミリータンパク質の一つであるシロイヌナズナIAA17の部分配列からなるタンパク質である。前記部分配列とは、Aux/IAAファミリータンパク質のドメインII領域のN末端側及びC末端側に少なくとも2個ずつのLys残基を含む領域からなる配列、又は、該配列を2個以上連結してなる配列である。このmAIDは目的タンパク質を標識する分解誘導ペプチドとなり得る。よって、本実施形態のキットにおいて、Aux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質(特に、mAIDの全長又は部分タンパク質)をコードする第二の核酸を備えることで、分解誘導ペプチドと目的タンパク質との融合タンパク質を発現することができる。
【0178】
本実施形態において、第二の核酸がコードするタンパク質としては、Aux/IAAファミリータンパク質の全長アミノ酸配列からなるタンパク質であってもよく、mAIDを含むAux/IAAファミリータンパク質の部分アミノ酸配列からなるタンパク質であってもよく、mAIDのみからなるタンパク質であってもよい。
【0179】
特に、本実施形態のキットにおいて、第二の核酸がコードするタンパク質はmAIDのみからなるタンパク質であることが好ましい。これにより、Aux/IAAファミリータンパク質全長やドメインII領域等を使用する場合に比べて、目的タンパク質の分解誘導能が向上し、且つ、目的タンパク質に対する機能阻害が抑制され、安定した目的タンパク質分解誘導性が得られる。
【0180】
一般的に、「Aux/IAAファミリータンパク質」とは、全長25KDa程度のタンパク質であり、N末端側からドメインI、ドメインII、ドメインIII及びドメインIV等を有するタンパク質である。このうち、ドメインIIだけでも目的タンパク質の分解誘導能の向上はみられず、N末端からドメインIIまでの配列でも目的タンパク質の分解誘導能の向上はみられない。
【0181】
これに対し、ドメインIIのN末端側とC末端側に少なくとも2個ずつのLys残基を含む領域であって、ドメインIを含まず、ドメインIIIは一部含んでいてもよい領域からなる配列からなるタンパク質を有することにより、目的タンパク質の分解誘導能が顕著に向上する。また、当該配列を2個以上連結した配列を使用すると、目的タンパク質の分解誘導能がさらに向上する。
【0182】
Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子としては、植物由来のAux/IAAファミリー遺伝子であれば、その種類について特別な限定はない。前記植物の種類について特別な限定はなく、シロイヌナズナIAA17遺伝子が好ましい。Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子の具体例としては、例えば、IAA1遺伝子、IAA2遺伝子、IAA3遺伝子、IAA4遺伝子、IAA5遺伝子、IAA6遺伝子、IAA7遺伝子、IAA8遺伝子、IAA9遺伝子、IAA10遺伝子、IAA11遺伝子、IAA12遺伝子、IAA13遺伝子、IAA14遺伝子、IAA15遺伝子、IAA16遺伝子、IAA17遺伝子、IAA18遺伝子、IAA19遺伝子、IAA20遺伝子、IAA26遺伝子、IAA27遺伝子、IAA28遺伝子、IAA29遺伝子、IAA30遺伝子、IAA31遺伝子、IAA32遺伝子、IAA33遺伝子、IAA34遺伝子等が挙げられる。
【0183】
本実施形態のキットは、いずれか一種の前記Aux/IAAファミリータンパク質をコードする遺伝子の全長又は部分配列を有していてもよいし、二種類以上を有していてもよい。例えば、シロイヌナズナ由来のAux/IAAファミリー遺伝子の配列は、TAIR(the Arabidopsis Information Resource)に登録されており、各遺伝子のアクセッションナンバーは、次のとおりである。
【0184】
IAA1遺伝子(AT4G14560)、IAA2遺伝子(AT3G23030)、IAA3遺伝子(AT1G04240)、IAA4遺伝子(AT5G43700)、IAA5遺伝子(AT1G15580)、IAA6遺伝子(AT1G52830)、IAA7遺伝子(AT3G23050)、IAA8遺伝子(AT2G22670)、IAA9遺伝子(AT5G65670)、IAA10遺伝子(AT1G04100)、IAA11遺伝子(AT4G28640)、IAA12遺伝子(AT1G04550)、IAA13遺伝子(AT2G33310)、IAA14遺伝子(AT4G14550)、IAA15遺伝子(AT1G80390)、IAA16遺伝子(AT3G04730)、IAA17遺伝子(AT1G04250)、IAA18遺伝子(AT1G51950)、IAA19遺伝子(AT3G15540)、IAA20遺伝子(AT2G46990)、IAA26遺伝子(AT3G16500)、IAA27遺伝子(AT4G29080)、IAA28遺伝子(AT5G25890)、IAA29遺伝子(AT4G32280)、IAA30遺伝子(AT3G62100)、IAA31遺伝子(AT3G17600)、IAA32遺伝子(AT2G01200)、IAA33遺伝子(AT5G57420)、IAA34遺伝子(AT1G15050)。
【0185】
第二の核酸がコードするタンパク質を構成するアミノ酸数としては、32~80アミノ酸残基が好ましく、50~80アミノ酸残基がより好ましく、50~75アミノ酸残基がさらに好ましく、50~70アミノ酸残基がさらに好ましい。
【0186】
また、第二の核酸がコードするタンパク質を構成するアミノ酸配列としては、Aux/IAAファミリータンパク質のドメインII領域のN末端側及びC末端側に2~5個ずつ、より好ましくは2~4個ずつのLys残基を含む32~80アミノ酸残基からなる配列であることが好ましい。
【0187】
[プロモーター]
本実施形態のキットにおいて、第二の核酸の5’末端に、該第二の核酸の転写を制御するプロモーター配列が作動可能に連結されていることが好ましい。これによって、より確実に分解誘導ペプチドを発現できる。前記プロモーターとしては、上述の「第一の核酸」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0188】
[ベクター]
本実施形態のキットにおいて、第二の核酸及び上流に作動可能に連結されたプロモーター配列は、ベクターに挿入された形であってもよい。前記ベクターとしては、上述の「第一の核酸」において例示されたものと同様のものが挙げられる。
【0189】
<第2実施形態>
本発明の一実施形態に係るオーキシンデグロンシステムのキットは、上記実施形態に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤と、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、並びに、目的タンパク質をコードする第三の核酸及び前記第三の核酸の上流又は下流に連結されたAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質をコードする第二の核酸を含む真核細胞と、を備える。
【0190】
本実施形態のキットによれば、真核細胞中においてオーキシンデグロンシステムを用いて、厳密かつ自在に目的タンパク質の分解制御が可能である。
本実施形態のキットが備える上記タンパク質分解阻害剤以外の構成成分について、以下に詳細を説明する。
【0191】
<真核細胞>
本実施形態のキットが備える真核細胞としては、株化された真核動物由来細胞やES細胞、iPS細胞であればよい。真核細胞として具体的には、例えば、株化されたヒト由来細胞、株化されたマウス由来細胞、株化されたニワトリ由来細胞、ヒトES細胞、マウスES細胞、ヒトiPS細胞、マウスiPS細胞等が挙げられる。中でも、ヒトHCT116細胞、ヒトHT1080細胞、ヒトNALM6細胞、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、マウスES細胞、マウスiPS細胞又はニワトリDT40細胞が好ましく、HCT116細胞、ヒトES細胞、ヒトiPS細胞、マウスES細胞又はマウスiPS細胞がより好ましい。
【0192】
本実施形態のキットが備える真核細胞は、第一の核酸、第二の核酸及び第三の核酸を備える。第一の核酸は、TIR1ファミリータンパク質をコードする核酸であり、上述の「第一実施形態」において例示されたものと同様である。第二の核酸は、Aux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質をコードする核酸であり、上述の「第一実施形態」において例示されたものと同様である。また、第三の核酸は、目的タンパク質をコードする核酸である。前記目的タンパク質としては、上述のとおり、オーキシンデグロンシステムを用いて、分解を誘導したいタンパク質であれば、特別な限定はない。また、目的タンパク質は、外来遺伝子がコードするタンパク質であってもよく、真核細胞に内在するタンパク質であってもよい。
【0193】
また、第二の核酸は、後述する第三の核酸の上流又は下流に連結している。これにより、真核細胞内において、分解誘導ペプチドにより標識された目的タンパク質を確実に発現させることができる。
【0194】
≪目的タンパク質分解制御方法≫
本発明の一実施形態に係る目的タンパク質分解制御方法は、上記実施形態に係るオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を用いた方法である。
【0195】
オーキシンデグロンシステムにおいて、上述のタンパク質分解阻害剤を用いることで、厳密かつ自在に目的タンパク質の分解制御が可能である。
【0196】
例えば、上述の真核細胞を備えるオーキシンデグロンシステムのキットを用いて目的タンパク質の分解制御を行う方法としては、以下の方法等が挙げられる。
【0197】
まず、真核細胞内において、分解誘導ペプチドで標識された目的タンパク質及びTIR1ファミリータンパク質を発現させる。分解誘導ペプチドで標識された目的タンパク質及びTIR1ファミリータンパク質は定常的に発現していてもよく、テトラサイクリン類等の誘導により発現させてもよい。このとき、上述のタンパク質分解阻害剤を含む培地にて真核細胞を培養する。これにより、オーキシン類の非存在下での目的タンパク質の分解を抑制することができる。培地に含まれるタンパク質分解阻害剤の濃度、すなわち、培地に含まれる有効成分であるTIR1オーキシン受容体拮抗剤の濃度は5μM以上500μM以下であることが好ましい。用いる培地としては、真核細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
【0198】
次いで、TIR1オーキシン受容体拮抗剤を含む培地を、オーキシン類を含む培地に交換する。これにより、タンパク質分解阻害剤が除去され、代わりにオーキシン類が存在することで、分解誘導ペプチドで標識された目的タンパク質がTIR1ファミリータンパク質により15~30分でほぼ完全に分解される。
【0199】
培地に含まれるオーキシン類の濃度は、制限されず、例えば、オーキシン類の種類に応じて適宜決定できる。培地に含まれるオーキシン類の濃度として具体的には、例えば、1μM以上1mM以下であり、20μM以上500μM以下であることが好ましい。
【0200】
上述のタンパク質分解阻害剤により、オーキシン類非存在での目的タンパク質の分解を抑制し、さらに、オーキシン類の添加により目的タンパク質の分解が速やかに誘導できる。タンパク質分解阻害剤存在下であってオーキシン類非存在下と、タンパク質分解阻害剤非存在下であってオーキシン類存在下とを対比することで、目的タンパク質の影響を検討することができる。
より具体的には、例えば、上述の真核細胞にオーキシン類を添加して、発現した目的タンパク質の分解を誘導した後、前記オーキシン類を除去して、上述のタンパク質分解阻害剤を添加し、新たに発現した目的タンパク質の分解を抑制する方法等によって検討することができる。又は、例えば、上述の細胞にオーキシン類を添加して、発現した目的タンパク質の分解を誘導した後、上述のタンパク質分解阻害剤を添加して、新たに発現した目的タンパク質の分解を抑制する方法等によって検討することができる。
【0201】
すなわち、本発明の一実施形態に係る目的タンパク質分解制御方法は、工程1aと、工程2aとを有する方法である。
工程1aでは、特定の構成を含む真核細胞を含む第一の培養物に、上記オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤、及びテトラサイクリンを添加する。工程1aに用いられる真核細胞は、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、及び前記第一の核酸の5’末端に、作動可能に連結されているテトラサイクリン誘導性プロモーターと、目的タンパク質及びAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質を含む融合タンパク質をコードする第四の核酸と、を含む。これにより、前記TIR1ファミリータンパク質、及び前記融合タンパク質を発現した真核細胞を含む第二の培養物を得る。
工程2aでは、前記第二の培養物から、前記タンパク質分解阻害剤を除去し、オーキシン類を添加し、前記目的タンパク質を分解させた第三の培養物を得る。
【0202】
また、本発明の一実施形態に係る目的タンパク質分解制御方法は、工程1bと、工程2bとを有する方法である。
工程1bでは、特定の構成を含む真核細胞を含む第一の培養物に、オーキシン類を添加し、前記目的タンパク質を分解させた第二の培養物を得る。工程1bに用いられる真核細胞は、TIR1ファミリータンパク質をコードする第一の核酸、及び前記第一の核酸の5’末端に、作動可能に連結されているプロモーターと、目的タンパク質及びAux/IAAファミリータンパク質の全長又は部分タンパク質を含む融合タンパク質をコードする第四の核酸と、を含み、前記TIR1ファミリータンパク質、及び前記融合タンパク質を発現している。
工程2bでは、前記第二の培養物から、前記オーキシン類を除去し、上記オーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を添加し、前記目的タンパク質を発現させた第三の培養物を得る。
【実施例
【0203】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0204】
[合成例1]Auxinoleの合成
以下に示す経路で、Auxinole(化合物(I-1-2))を製造した。
【0205】
【化12】
【0206】
(化合物(I-1b-1)の合成)
50mL丸底フラスコ内で、窒素充填下でm-キシレン(1.00g、9.42mmol)をジクロロメタン(40mL) に溶解させた。次いで、無水マレイン酸(0.93g、9.42mmol)と塩化アルミニウム(2.51g、18.84mmol)とを加え、室温で4時間攪拌した。次いで、反応液に1N塩酸(10mL)を加え、pH1にした。次いで、酢酸エチル(40mL)で3回抽出した。次いで、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した。次いで、溶媒を減圧留去した。次いで、ベンゼンから再結晶で精製を行い、化合物(I-1b-1)(trans-4-(2,4-dimethyl-phenyl)-4-oxo-but-2-enoic acid)を得た(収量:1.49g、収率:77%、融点:85.4~88.2℃)。
【0207】
得られた化合物(I-1b-1)のH-NMR、13C-NMR、赤外分光光度(IR)計及び高速原子衝撃質量分析(FAB-MS)計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3):δ7.75 (d, J=15.6 Hz, 1H), 7.56 (d, J=8.2 Hz, 1H), 7.10(m, 2H), 6.70 (d, J=15.6 Hz, 1H), 2.50(s, 3H), 2.38(s, 3H).
13C NMR (CDCl3):δ192.5, 170.9, 143.1, 141.7, 139.5, 133.6, 133.0, 130.9, 130.0, 126.4, 21.5 21.2.
IR v max (neat) :2986, 1703, 1667 cm-1.
FAB-MS :m/z 205 [M+H+].
【0208】
(Auxinole(化合物(I-1-2))の合成)
次いで、30mL丸底フラスコ内で、化合物(I-1b-1)(0.40g、1.96mmol)をベンゼン(10mL)で溶解させた。次いで、インドール(0.47g、4.01mmol)を加えて、80℃で8時間撹拌し、室温になるまで攪拌した。次いで、反応液を減圧留去した。次いで、ベンゼンから再結晶を行い、Auxinole(化合物(I-1-2))を得た(収量:0.46g、収率:72%、融点:178.8~183.2℃)。
【0209】
得られたAuxinole(化合物(I-1-2))のH-NMR、13C-NMR、IR計及び高分解能高速原子衝撃質量分析(HRFAB-MS)計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6) :δ7.79 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.65 (d, J=7.8 Hz, 1H), 7.36 (d, J=8.2 Hz, 1H), 7.31 (d, J=2.3 Hz, 1H), 7.10 (m, 3H), 7.00 (td, J=7.3 Hz, 1.0, 1H), 4.32 (dd, J=10.6, 3.9 Hz, 1H), 3.89 (dd, J=17.9, 10.6 Hz, 1H), 3.23 (dd, J=17.9, 3.9 Hz, 1H), 2.37 (s, 3H), 2.31 (s, 3H).
13C NMR (DMSO-d6) :δ198.8, 175.7, 144.5, 137.8, 134.9, 130.2, 129.0, 127.2, 124.1, 122.1, 112.0, 119.5, 112.9, 112.4, 42.0, 38.6, 22.1.
IR v max (neat): 3428, 2923, 1707 cm-1.
HRFAB-MS: m/z 322.1422 [M+H]+, calcd for 322.1443, C19H17NO3.
【0210】
[合成例2]4F-PEO-IAAの合成
以下に示す経路で、4F-PEO-IAA(化合物(I-1-3))を製造した。
【0211】
【化13】
【0212】
(化合物(I-1b-2)の合成)
50mL丸底フラスコ内で、窒素充填下でフルオロベンゼン(0.50g、5.21mmol)をジクロロメタン(20mL)で溶解させた。次いで、無水マレイン酸(0.51g、5.20mmol)と塩化アルミニウム(1.40g、10.49mmol)とを加え、室温で4時間攪拌した。次いで、反応液に1N塩酸(10mL)を加え、pH1にした。次いで、酢酸エチル(40mL)で3回抽出した。次いで、有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで脱水した。次いで、溶媒を減圧留去した。次いで、ベンゼンから再結晶で精製を行い、化合物(I-1b-2)(trans-4-(4-fluorophenyl)-4-oxo-but-2-enoic acid)を得た(収量:0.57g、収率:56%、融点:114.8~119.6℃)。
【0213】
得られた化合物(I-1b-2)のH-NMR、13C-NMR及びFAB-MS計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (CDCl3) :δ8.06 (m, 2H), 7.98 (d, J=15.4 Hz, 1H), 7.21 (m, 2H), 6.90 (d, J=15.4 Hz, 1H).
13C NMR (CDCl3) :δ187.5, 170.7, 166.3 (d, JC-F=255.5 Hz), 138.0, 132.8 (d, JC-F=3.2 Hz), 131.7 (d, JC-F=9.9 Hz), 131.6, 116.2 (d, JC-F=22.1 Hz) .
FAB-MS: m/z 195 [M+H] +
【0214】
(4F-PEO-IAA(化合物(I-1-3))の合成)
200mLのナスフラスコ内で、化合物(I-1b-2)(5g、25.8mmol、分子量194.16)とインドール(6g、51.5mmol、分子量117.15)をトルエンに溶かし、80℃で4時間撹拌した。次いで、析出した固体を桐山漏斗(登録商標)で集めた。次いで、析出した固体を酢酸エチルとヘキサンとから再結晶し、4F-PEO-IAA(化合物(I-1-3))を白色の粉末として得た(収量:4.8g、収率:60%、融点:162~166℃)。
【0215】
得られた4F-PEO-IAA(化合物(I-1-3))のH-NMR、13C-NMR及びFAB-MS計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (400 MHz, acetone-d6): δ 3.41 ( 1H, dd, J=0.4,0.4) 4.11 (1H, q), 7.05 (1H, m), 7.13 (1H, m ), 7.28 (2H, m,), 7.37 (2H, m), 7.78 (1H, d, J=0.8), 8.16 (2H, m), 10.2 (1H, s).
13C NMR (100 MHz, acetone-d6): δ 38.58, 42.40, 112.32, 113.50, 116.22, 116.44, 119.83, 120.05, 122.42, 131.73, 131.8, 137.71, 167.74, 175.14, 197.16.
FAB-MS: m/z 312 [M+H] +
【0216】
[合成例3]PEO-IAA ethyl esterの合成
以下に示す経路で、PEO-IAA ethyl ester(化合物(I-1-4))を製造した。
【0217】
【化14】
【0218】
(PEO-IAA ethyl ester(化合物(I-1-4))の合成)
50mL丸底フラスコ内で、PEO-IAA(0.50g、1.71mmol)をエタノール(15mL) に溶解させた。次いで、塩化アセチル(0.5g、6.36mmol)を滴下し、室温で6時間攪拌した。反応液から溶媒を減圧留去した後,酢酸エチルとヘキサンから再結晶で精製を行い、(化合物(I-1-4)(PEO-IAA ethyl ester)を得た(収量:0.50g、収率:92%、融点:89~92℃)。
【0219】
得られたPEO-IAA ethyl ester(化合物(I-1-4))のH-NMR、13C-NMR及びFAB-MS計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6) :δ11.0 (brs, 1H), 8.04 (d, J=7.4, 2H), 7.69 (d, J=8.2, 1H), 7.65 (t, J=7.3, 1H), 7.53 (t, J=7.3, 2H), 7.38 (s, 1H), 7.37 (d, J=6.2, 1H), 7.10 (t, J=8.2, 1H), 7.01 (t, J=7.2, 1H), 4.30 (dd, J=10.5 3.6, 1H) , 4.02 (dd, J=18.0, 7.3, 1H), 4.04 (m, 2H), 3.34 (dd, 18.0, 4.0), 1.10 (t, J=7.3, 3H).
13C NMR (DMSO-d6) :δ198.81, 173.78, 136.79, 133.87, 129.26,128.53, 126.62, 123.81, 121.75, 119.38, 119.23, 112.09, 111.83, 60.6, 41.73, 38.23, 14.54.
FAB-MS: m/z 332 [M+H] +
【0220】
[合成例4]N-methyl-PEO-IAAの合成
以下に示す経路で、N-methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-5))を製造した。
【0221】
【化15】
【0222】
(N-methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-5))の合成)
30mL丸底フラスコ内で、化合物(I-1b-3)(0.40g、2.27mmol)をベンゼン(10mL)で溶解させた。次いで、N-メチルインドール(0.45g、3.41mmol)を加えて、80℃で8時間撹拌し、室温になるまで攪拌した。反応液を室温まで冷却後、析出した結晶を桐山漏斗(登録商標)で集め、ベンゼン(1mL)で結晶を洗浄した。その後、結晶を減圧乾燥してN-methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-5)を得た(収量:0.38g、収率:54%、融点:183~186℃)。
【0223】
得られたN-methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-5))のH-NMR、13C-NMR及びFAB-MS計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6) : δ12.2 (brs, 1H), 8.03 (d, J=6.9, 2H), 7.69 (d, J=7.8, 1H), 7.63 (t, J=7.3, 1H), 7.53 (t, J=7.8, 2H), 7.41 (d, J=8.2, 1H), 7.35 (s, 1H), 7.16 (t, J=6.9, 1H), 7.05 (t, J=7.2, 1H), 4.34 (dd, J=10.5 3.6, 1H) , 4.02 (dd, J=18.0, 7.3, 1H), 3.75 (s, 3H), 3.34 (m, 1H).
13C NMR (DMSO-d6) : δ198.79, 175.14, 137.15, 136.91, 133.81, 129.26, 128.47, 128.02, 127.06, 121.81, 119.74, 119.27, 111.72, 110.24, 41.75, 38.01, 32.87.
FAB-MS: m/z 308 [M+H] +
【0224】
[合成例5]4Cl-PEO-IAAの合成
以下に示す経路で、4Cl-PEO-IAA(化合物(I-1-6))を製造した。
【0225】
【化16】
【0226】
(4Cl-PEO-IAA(化合物(I-1-6))の合成)
50mLのナスフラスコ内で、化合物(I-1b-4)(市販試薬)(0.50g、2.38mmol)とインドール(0.42g、3.57mmol)とをトルエンに溶かし、80℃で4時間撹拌した。室温まで冷却後、次いで、析出した結晶を桐山漏斗(登録商標)で集め、トルエン(1mL)で結晶を洗浄した。その後、結晶を減圧乾燥して、4Cl-PEO-IAA(化合物(I-1-6))を淡黄色結晶として得た(収量:0.49g、収率:63%、融点:185~190℃)。
【0227】
4Cl-PEO-IAA(化合物(I-1-6))のH-NMR及びFAB-MS計による分析結果を以下に示す。
1H NMR(DMSO-d6) : 11.0 (brs, 1H), 8.06 (d, J=8.7, 2H), 7.69 (d, J=8.2, 1H), 7.63 (d, J=8.7, 1H), 7.59 (d, J=8.7, 2H), 7.35 (s, 1H), 7.10 (t, J=8.2, 1H), 7.01 (t, J=7.2, 1H), 4.34 (dd, J=10.5 3.6, 1H) , 4.02 (dd, J=18.3, 10.5, 1H), 3.34 (dd, 18.0, 4.0).
FAB-MS: m/z 328 [M+H] +
【0228】
[合成例6]4’-Methyl-PEO-IAAの合成
以下に示す経路で、4’-Methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-7))を製造した。
【0229】
【化17】
【0230】
(4’-Methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-7))の合成)
30mLのナスフラスコ内で、化合物(I-1b-3)(0.60g、3.40mmol)と4-メチルインドール(0.60g、5.11mmol)とをトルエンに溶かし、80℃で4時間撹拌した。室温まで冷却後、次いで、析出した結晶を桐山漏斗(登録商標)で集め、トルエン(1mL)で結晶を洗浄した。その後、結晶を減圧乾燥して、4’-Methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-7)を無色結晶として得た(収量:0.56g、収率:58%、融点:176~180℃)。
【0231】
得られた4’-Methyl-PEO-IAA(化合物(I-1-7)のH-NMR、13C-NMR及びFAB-MS計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6) : 11.0 (brs, 1H), 8.04 (d, J=7.9, 2H), 7.63 (t, J=7.3, 1H), 7.53 (d, J=7.8, 1H), 7.51 (t, J=7.3, 1H), 7.30 (d, J=2.8, 1H), 7.20 (d, J=8.2, 1H), 6.96 (t, J=7.8, 1H), 6.74 (d, J=7.3, 1H), 4.72 (dd, J=10.1 4.1, 1H) , 3.94 (dd, J=18.3, 10.5, 1H), 3.34 (dd, 18.0, 4.0), 2.71 (s, 3H).
13C NMR (DMSO-d6) : 198.94, 175.81, 136.95, 136.75, 133.8, 130.07, 129.24, 128.54, 125.37, 123.38, 121.61, 121.18, 113.76, 110.19, 43.49, 38.33, 20.67.
FAB-MS: m/z 308 [M+H] +
【0232】
[合成例7]6’-F-Auxinoleの合成
以下に示す経路で、6’-F-Auxinole(化合物(I-1-8))を製造した。
【0233】
【化18】
【0234】
(6’-F-Auxinole(化合物(I-1-8))の合成)
30mL丸底フラスコ内で、化合物(I-1b-1)(0.40g、1.96mmol)をベンゼン(10mL)で溶解させた。次いで、6-フルオロインドール(0.40g、2.95mmol)を加えて、80℃で4時間撹拌した。室温まで冷却後、次いで、析出した結晶を桐山漏斗(登録商標)で集め、ベンゼン(1mL)で結晶を洗浄した。その後、結晶を減圧乾燥して、6’-F-Auxinole(化合物(I-1-8)を得た(収量:0.45g、収率:67%、融点:178~179℃)。
【0235】
得られた6’-F-Auxinole(化合物(I-1-8)のH-NMR、13C-NMR及びFAB-MS計による分析結果を以下に示す。
1H NMR (DMSO-d6) : 11.0 (brs, 1H) 7.79 (d, J=7.8, 1H), 7.64 (dd, J=11.4, 5.5, 1H), 7.31 (d, J=2.3, 1H), 7.13 (m, 3H), 6.87 (td, J=9.6, 2.7, 1H), 4.29 (dd, J=10.5 4.1, 1H) , 3.87 (dd, J=17.4, 10.9, 1H), 3.34 (dd, 18.0, 4.0), 2.37 (s, 3H), 2.31 (s, 3H).
13C NMR DMSO-d6) : 201.55, 174.65, (160.00, 157.67: JC-F=234 Hz), 141.44, 137.42, (136.14, 136.01: JC-F=12.4 Hz), 134.62, 132.31, 129.25, 126.40, 123.82, 123.07, (120.09, 119.99: JC-F=10.5 Hz), 112.1, (107.24, 107.00: JC-F=24.0 Hz), (97.52, 97.27: JC-F=25.8 Hz), 43.58, 37.98, 20.87, 20.85.
FAB-MS: m/z 340[M+H] +
【0236】
[実施例1]タンパク質分解阻害剤のスクリーニング
1.細胞の準備
Tet-OsTIR1遺伝子を含むプラスミドが導入されており、MCM2-mAID-mClover遺伝子が染色体上に挿入されているHCT116細胞(ヒト結腸腺癌由来細胞)(以下、「MCM2-mAID-mClover発現細胞」と称する)を準備した。また、Tet-OsTIR1遺伝子を含むプラスミドが導入されており、SMC6-mAID-mClover遺伝子が染色体上に挿入されているHCT116細胞(ヒト結腸腺癌由来細胞)(以下、「SMC6-mAID-mClover発現細胞」と称する)を準備した。
【0237】
なお、「Tet-OsTIR1遺伝子」は、テトラサイクリン(Tet)の存在により、発現が誘導されるイネ由来のTIR1遺伝子である。また、「MCM2-mAID-mClover遺伝子」は、MCM2タンパク質、分解誘導性ペプチドであるミニAIDタグ(mAID)及び蛍光タンパク質であるmCloverの融合タンパク質を発現する遺伝子である。また、「SMC6-mAID-mClover遺伝子」は、SMC6タンパク質、分解誘導性ペプチドであるミニAIDタグ(mAID)及び蛍光タンパク質であるmCloverの融合タンパク質を発現する遺伝子である。
【0238】
2.ドキシサイクリン(Dox)及びタンパク質分解阻害剤の添加
MCM2-mAID-mClover発現細胞及びSMC6-mAID-mClover発現細胞にテトラサイクリン系抗生物質としてドキシサイクリン(Dox)(培地中の濃度:2μg/mL)と、タンパク質分解阻害剤候補化合物として、PEO-IAA(和光純薬工業社製)又は合成例1~7で得られた各化合物(培地中の濃度:各100μM)とを添加して、24時間培養した。また、対照として、Dox及び候補化合物を添加していない細胞、Doxのみを添加した細胞、Dox及び天然オーキシンであるIAAを添加した細胞、Dox及びアンチオーキシンとして知られているパラクロロイソ酪酸(PCIB)を添加した細胞も準備した。
【0239】
3.FACS解析
各種化合物の添加から24時間後に細胞を回収し、FACS解析を行った。結果を図1に示す。図1において、「Control」とは、Doxのみを添加した細胞を示し、「Untreated」とは、Dox及び候補化合物を添加していない細胞を示す。
【0240】
図1から、PEO-IAA(和光純薬工業社製)又は合成例1~7で得られた各化合物を添加したMCM2-mAID-mClover発現細胞及びSMC6-mAID-mClover発現細胞では、Doxのみを添加したMCM2-mAID-mClover発現細胞及びSMC6-mAID-mClover発現細胞と比較して、MCM2タンパク質及びSMC6タンパク質の分解が抑制されていた。
特に、MCM2-mAID-mClover発現細胞では、Auxinolを添加した細胞において、MCM2タンパク質の分解が顕著に抑制されていた。また、SMC6-mAID-mClover発現細胞では、Auxinol、PEO-IAA ethyl ester及び4Cl-PEO-IAAを添加した細胞において、SMC6タンパク質の分解が顕著に抑制されていた。
【0241】
さらに、各種化合物の添加から24時間後の細胞生存率から細胞毒性を評価したところ、Auxinolは、細胞毒性が低く、タンパク質の分解阻害効果が特に高いことが明らかとなった。
【0242】
[実施例2]Auxinoleを用いたオーキシン非依存性のタンパク質分解阻害の検討
実施例1の結果からAuxinolを用いて、再度タンパク質の分解阻害効果を確認した。
【0243】
1.細胞の準備
実施例1の「1.」に記載のSMC6-mAID-mClover発現細胞を準備した。
【0244】
2.Dox及びAuxinoleの添加
SMC6-mAID-mClover発現細胞にDox及びAuxinoleを培地中の濃度がそれぞれ2μg/mL及び100μMとなるように添加して、24時間培養した。対照として、Dox及びAuxinoleを添加していない細胞、Doxのみを添加した細胞、Dox及び天然オーキシンであるIAAを添加した細胞も準備した。
【0245】
3.FACS解析
Dox及びAuxinoleの添加から24時間後に細胞を回収し、FACS解析を行った。結果を図2に示す。図2において、「+OsTIR1」とは、Doxのみを添加した細胞を示し、「Untreated」とはDox及びAuxinoleを添加していない細胞を示す。
【0246】
図2から、Auxinoleを添加したSMC6-mAID-mClover発現細胞では、Doxのみを添加したSMC6-mAID-mClover発現細胞と比較して、SMC6タンパク質の分解が抑制されることが確認された。
【0247】
[参考例1]オーキシン非依存性のタンパク質分解
1.細胞の準備
Tet-OsTIR1遺伝子を含むプラスミドが導入されており、DHC1-mAID-mClover遺伝子が染色体上に挿入されているHCT116細胞(ヒト結腸腺癌由来細胞)(以下、「DHC1-mAID-mClover発現細胞」と称する)を準備した。
【0248】
なお、「DHC1-mAID-mClover遺伝子」はDHC1タンパク質、mAID及びCloverの融合タンパク質を発現する遺伝子である。また、「DHC1」とはdynein heavy chain1の略称であり、ダイニン重鎖1を意味する。
【0249】
2.Tet又はDox、及び、Auxinの添加
DHC1-mAID-mClover発現細胞にTet又はDox(培地中の濃度:各2μg/mL)及びAuxinを添加して、72時間培養した。対照として、Dox及びAuxinを添加しない細胞、Tet及びAuxinを添加しない細胞、Doxを添加し、Auxinを添加しない細胞、Tetを添加し、Auxinを添加しない細胞も準備した。
【0250】
3.細胞数の測定
Dox及びAuxin添加時に細胞数の測定し、さらに、Dox及びAuxin添加から24時間後、48時間後、72時間後、及び、96時間後に細胞数を測定した。結果を図3Aに示す。図3Aにおいて、「Control」とは、Dox及びAuxinを添加しない細胞である。「+dox」とは、Doxを添加し、Auxinを添加しない細胞である。
【0251】
4.細胞の観察
Dox及びAuxin添加から48時間後に、Dox及びAuxinを添加しない細胞、並びに、Doxを添加し、Auxinを添加しない細胞を、顕微鏡(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製、型番:VOS XL Core)を用いて観察した(倍率:10倍)。結果を図3Bに示す。
【0252】
5.ウエスタンブロッティングによる解析
Tet及びAuxin添加から42時間後に細胞を回収し、細胞破砕液を調製した。次いで、得られた細胞破砕液を用いて、ウエスタンブロッティングにより、抗DHC1抗体、抗DIC抗体及び抗p150抗体を用いて、DHC1-mAID-mClover、並びに、DHC1と複合体を形成するDIC及びp150の発現量をそれぞれ解析した。結果を図3Cに示す。図3Cにおいて、「DHC1-mAC」とは、抗DHC1抗体を用いて検出されたDHC1-mAID-mClover融合タンパク質を示す。また、「DIC」とは、dynein intermediate chainの略称であり、ダイニン中間鎖を意味する。また、p150とはダイナクチンのサブユニットである。
【0253】
図3Aから、Doxを添加し、Auxinを添加していない細胞において、Dox及びAuxinを添加していない細胞と比較して、細胞増殖の低下がみられた。このことから、Doxの添加により発現が誘導されたTIR1により、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質が分解されていることが示唆された。
【0254】
また、図3Bから、Doxを添加し、Auxinを添加していない細胞において、球状の細胞が観察された。このことから、Doxの添加により発現が誘導されたTIR1により、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質が分解されることで、分裂期の細胞が蓄積していることが示唆された。
【0255】
また、図3Cから、Tetを添加し、Auxinを添加していない細胞において、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質及びDICがほとんど検出されなかった。このことから、Tetの添加により発現が誘導されたTIR1により、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質が分解されることが示唆された。
【0256】
以上のことから、TIR1によるオーキシン非依存性のタンパク質の分解の存在が示唆された。
【0257】
[実施例3]Auxinoleを用いたオーキシン非依存性のタンパク質分解阻害の検討2
参考例1で示唆されたTIR1によるオーキシン非依存性のタンパク質の分解を阻害するために、Auxinoleの添加による阻害効果を検討した。
【0258】
1.細胞の準備
参考例1の「1.」と同様に、DHC1-mAID-mClover発現細胞を準備した。
【0259】
2.Dox及びAuxinoleの添加
次いで、DHC1-mAID-mClover発現細胞にDox及びAuxinoleを培地中の濃度がそれぞれ2μg/mL及び100μMとなるように添加し、24時間培養した。
【0260】
3.細胞の観察
Dox及びAuxinoleの添加から24時間後の細胞を、デコンボリューション蛍光顕微鏡(横河電機社製、型番:CV1000)を用いて観察した(倍率:60倍)。結果を図4に示す。図4において、「Control」とは、Dox及びAuxinを添加せず、代わりにジメチルスルホキシド(Dimethyl sulfoxide;DMSO)を2μg/mLとなるように添加した細胞である。「+Dox」とは、Doxのみを添加した細胞である。「+Dox and auxinole」はDox及びAuxinoleを添加した細胞である。
【0261】
図4の上(蛍光顕微鏡像)から、Auxinoleの添加により、DHC1-mAID-mCloverの分解の抑制が確認された。
【0262】
また、図4の下(明視野像)から、Auxinoleの添加により、分裂期細胞の蓄積が抑制されていることが確認された。
【0263】
[実施例4]Auxinoleを用いた目的タンパク質の分解制御の検討
Auxinoleを用いた目的タンパク質の分解制御を検討した。
【0264】
1.細胞の準備
参考例1の「1.」と同様に、DHC1-mAID-mClover発現細胞を準備した。
【0265】
2.細胞の観察
DHC1-mAID-mClover発現細胞にDox及びAuxinoleを培地中の濃度がそれぞれ2μg/mL及び100μMとなるように添加し、48時間培養した。Dox及びAuxinoleの添加から48時間後の細胞を、デコンボリューション蛍光顕微鏡(横河電機社製、型番:CV1000)を用いて観察した(倍率:60倍)。結果を図5Aに示す。図5Aにおいて、「Control」とは、Dox及びAuxinoleを添加せず、代わりにDMSOを培地中の濃度が2μg/mLとなるように添加した細胞である。「+Dox」とは、Doxを添加した細胞である。「+auxinole」とは、auxinoleを添加した細胞である。
【0266】
図5Aから、Doxを添加し、Auxinoleを添加していない細胞において、球状の細胞が観察された。このことから、Doxの添加により発現が誘導されたTIR1により、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質が分解されることで、分裂期の細胞が蓄積していることが示唆された。
一方、Dox及びAuxinoleを添加した細胞では、Controlと比較して大きな変化は見られなかった。よって、Auxinoleの添加により、分裂期細胞の蓄積が抑制されていることが確認された。
【0267】
3.FACS解析
図5Bに示すように、以下のプロトコールに従って、DHC1-mAID-mClover発現細胞を培養し、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質の分解制御を検討した。まず、Doxのみを培地中の濃度が2μg/mLとなるように添加、又は、Dox及びAuxinoleを培地中の濃度がそれぞれ2μg/mL及び100μMとなるように添加して、24時間培養した。次いで、Auxinを培地中の濃度が500μMとなるように添加し、Auxinの添加から1時間後及び4時間後に細胞を回収し、FACS解析を行った。また、試験開始前の細胞、Doxのみを添加又はDox及びAuxinoleを添加して24時間培養した細胞も同様に回収し、FACS解析を行った。結果を図5Bに示す。
【0268】
図5Bから、Auxinoleを添加したDHC1-mAID-mClover発現細胞では、Doxのみを添加したDHC1-mAID-mClover発現細胞と比較して、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質のOsTIR1によるオーキシン非依存性の分解が抑制されており、オーキシン添加後には、DHC1-mAID-mClover融合タンパク質を素早く分解できることが確認された。
【0269】
[実施例6]Auxinoleを用いた目的タンパク質の発現制御の検討
Auxinoleを用いた目的タンパク質の発現制御を検討した。
【0270】
1.細胞の準備
CMV-OsTIR1遺伝子を含むプラスミドが導入されており、RAD21-mAID-mClover遺伝子が染色体上に挿入されているHCT116細胞(ヒト結腸腺癌由来細胞)(以下、「RAD21-mAID-mClover発現細胞」と称する)を準備した。
【0271】
なお、「CMV-OsTIR1遺伝子」は、CMVプロモーターの制御下にあるイネ由来のTIR1遺伝子であり、細胞内においてOsTIR1タンパク質が恒常的に発現している。また、「RAD21-mAID-mClover遺伝子」は、RAD21タンパク質、分解誘導性ペプチドであるミニAIDタグ(mAID)及び蛍光タンパク質であるmCloverの融合タンパク質を発現する遺伝子である。また、「RAD21」とは、コヒーシン複合体の構成タンパク質の一つである。
【0272】
2.FACS解析
図6に示すように、以下のプロトコールに従って、RAD21-mAID-mClover発現細胞を培養し、RAD21-mAID-mClover融合タンパク質の発現制御を検討した。まず、Auxinを培地中の濃度が100μMとなるように添加し、2時間培養した。次いで、Auxinを含む培養液を取り除き、Auxinoleを培地中の濃度が100μMとなるように添加した培地、又は、Auxinoleを添加しない培地に交換して、培養した。培地交換から1時間後、2時間後、3時間後、4時間後、5時間後及び6時間後に細胞を回収し、FACS解析を行った。結果を図6に示す。
【0273】
図6から、Auxinoleを添加したRAD21-mAID-mClover発現細胞では、Auxinoleを添加しなかったRAD21-mAID-mClover発現細胞と比較して、RAD21-mAID-mClover融合タンパク質の発現を素早く回復できることが確認された。
【0274】
以上の結果から、本実施形態のオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤を用いることで、オーキシン非依存性のTIR1によるタンパク質分解が阻害できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0275】
本実施形態のオーキシンデグロンシステムにおけるタンパク質分解阻害剤によれば、オーキシン非依存的なTIR1及びmAIDの結合を阻害することができる。本実施形態のオーキシンデグロンシステムのキット及び目的タンパク質分解制御方法によれば、厳密かつ自在にタンパク質の分解制御が可能である。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図6