IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 愛知製鋼株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人徳島大学の特許一覧

特許7398738新規なラクタム化合物又はその塩、錯体並びにそれらを含む肥料及び植物成長調整剤
<>
  • 特許-新規なラクタム化合物又はその塩、錯体並びにそれらを含む肥料及び植物成長調整剤 図1
  • 特許-新規なラクタム化合物又はその塩、錯体並びにそれらを含む肥料及び植物成長調整剤 図2
  • 特許-新規なラクタム化合物又はその塩、錯体並びにそれらを含む肥料及び植物成長調整剤 図3
  • 特許-新規なラクタム化合物又はその塩、錯体並びにそれらを含む肥料及び植物成長調整剤 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】新規なラクタム化合物又はその塩、錯体並びにそれらを含む肥料及び植物成長調整剤
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/273 20060101AFI20231208BHJP
   C05C 11/00 20060101ALI20231208BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20231208BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20231208BHJP
【FI】
C07D207/273 CSP
C05C11/00
A01N59/16 Z
A01P21/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020060320
(22)【出願日】2020-03-30
(65)【公開番号】P2021155390
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000116655
【氏名又は名称】愛知製鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304020292
【氏名又は名称】国立大学法人徳島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(74)【代理人】
【識別番号】100151644
【弁理士】
【氏名又は名称】平岩 康幸
(74)【代理人】
【識別番号】100151127
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 勝雅
(72)【発明者】
【氏名】米良 茜
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 基史
(72)【発明者】
【氏名】細田 健介
(72)【発明者】
【氏名】難波 康祐
【審査官】長谷川 莉慧霞
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-006774(JP,A)
【文献】特開2001-316192(JP,A)
【文献】特開昭54-128563(JP,A)
【文献】特開昭56-063952(JP,A)
【文献】特表2016-511253(JP,A)
【文献】国際公開第2020/045247(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第108863580(CN,A)
【文献】米国特許第02578526(US,A)
【文献】国際公開第2017/082111(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D
C05C
A01N
A01P
CAplus/REGISTRY/MARPAT(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)若しくは(2)で表されるラクタム化合物又はその塩。
【化1】
(式中、R及びRは、同一でもよく、異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基又はカチオンであり、Xは、ハロゲンイオン、有機酸イオン又は無機酸イオンである。)
【請求項2】
前記一般式(1)又は(2)におけるR及びRが水素原子である請求項1に記載のラクタム化合物又はその塩。
【請求項3】
前記一般式(1)又は(2)におけるR及びR前記アルキル基であり、該アルキル基がメチル基又はエチル基である、請求項1に記載のラクタム化合物又はその塩。
【請求項4】
一般式(3)若しくは(4)で表される、請求項1に記載のラクタム化合物又はその塩。
【化2】
(式中、R及びRは、同一でもよく、異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基又はカチオンであり、Xは、ハロゲンイオン、有機酸イオン又は無機酸イオンである。)
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のラクタム化合物又はその塩と、金属原子とを含む錯体。
【請求項6】
前記金属原子が鉄である請求項5に記載の錯体。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のラクタム化合物又はその塩、あるいは、請求項5又は6に記載の錯体を含有する肥料。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載のラクタム化合物又はその塩、あるいは、請求項5又は6に記載の錯体を含有する植物成長調整剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属取り込み能を有し、鉄錯体とした場合に葉面散布を利用した栽培及び水耕栽培の際の鉄供給材として好適な化合物、錯体、これらを含有し、植物の生育に用いる肥料又は植物成長調整剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、植物の栽培方法として、季節、天候等の影響を受けにくく、安定した栽培が可能な水耕栽培が広く利用されている。この水耕栽培は、土壌を用いずに植物を培養液(肥料)からの栄養により栽培する方法である。水耕栽培では、種々の肥料が用いられており、かつお節の製造工程で出る煮汁を煮熟したものを含む有機質肥料や、特許文献1に記載の、エチレンジアミン四酢酸鉄キレート(以下、「Fe-EDTA」という。)、塩化鉄、硫酸鉄、ピロリン酸鉄等の鉄化合物等が用いられている。
【0003】
また、植物の他の栽培方法として、生産性、品質等の向上効果が得られることから、薬剤を葉面散布する方法も利用されている。薬剤としては、生理活性物質や、特許文献2に記載の微粉末海藻含有液体肥料等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-60426号
【文献】特開2017-226548号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、金属取り込み能を有し、鉄錯体とした場合に、葉面散布を利用した栽培及び水耕栽培の際の鉄供給材として好適な化合物、錯体、これらを含有する肥料又は植物成長調整剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示される。
1.一般式(1)若しくは(2)で表されるラクタム化合物又はその塩。
【化1】
(式中、R及びRは、同一でもよく、異なっていてもよく、水素原子、カルボキシル基の保護基又はカチオンであり、Xは、ハロゲンイオン、有機酸イオン又は無機酸イオンである。)
2.上記一般式(1)又は(2)におけるR及びRが水素原子である上記項1に記載のラクタム化合物又はその塩。
3.上記一般式(1)又は(2)におけるR及びRがカルボキシル基の保護基であり、該保護基がメチル基又はエチル基である、上記項1に記載のラクタム化合物又はその塩。
4.一般式(1A)若しくは(2A)で表される、上記項1に記載のラクタム化合物又はその塩。
【化2】
(式中、R及びRは、同一でもよく、異なっていてもよく、水素原子、カルボキシル基の保護基又はカチオンであり、Xは、ハロゲンイオン、有機酸イオン又は無機酸イオンである。)
5.上記項1乃至4のいずれか一項に記載のラクタム化合物又はその塩と、金属原子とを含む錯体。
6.上記金属原子が鉄である上記項5に記載の錯体。
7.上記項1乃至4のいずれか一項に記載のラクタム化合物又はその塩、あるいは、上記項5又は6に記載の錯体を含有する肥料。
8.上記項1乃至4のいずれか一項に記載のラクタム化合物又はその塩、あるいは、上記項5又は6に記載の錯体を含有する植物成長調整剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明において、上記一般式(1)又は(2)で示されるラクタム化合物又はその塩は、1~9のpH領域においてラクタム環が開環することなく安定であり、また、容易に金属錯体を形成しやすい。例えば、鉄錯体とした場合に、葉面散布を利用した栽培及び水耕栽培の際の植物用鉄供給材として好適である。また、本発明のラクタム化合物は、単独で又は2価若しくは3価の鉄化合物と併用すると、アルカリ土壌における植物の生育にも好適である。従って、本発明のラクタム化合物又はその塩、及び錯体は、肥料又は植物成長調整剤の原料成分として好適である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で得られたラクタム化合物(L2)のpHの異なる水中における安定性試験結果を示すH-NMRスペクトルである。
図2】葉面散布試験の結果を示すグラフである。
図3】水耕栽培試験の結果を示すグラフである。
図4】アルカリ土壌栽培試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のラクタム化合物又はその塩は、下記一般式(1)若しくは(2)で表される。一般式(2)の化合物は、一般式(1)の化合物の塩である。
【化3】
(式中、R及びRは、同一でもよく、異なっていてもよく、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖状、分岐状若しくは環状のアルキル基又はカチオンであり、Xは、ハロゲンイオン、有機酸イオン又は無機酸イオンである。)
【0010】
上記一般式(1)及び(2)において、R及びRは、同一でもよく、異なっていてもよく、水素原子、カルボキシル基の保護基又はカチオンである。
【0011】
及びRがカルボキシル基の保護基である場合の該保護基は、特に限定されず、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数1~6の直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基;ベンジル基、p-ニトロベンジル基、o-ニトロベンジル基、m-ニトロベンジル基、2,4-ジニトロベンジル基、p-クロロベンジル基、p-ブロモベンジル基、p-メトキシベンジル基等の置換基を有していてもよいアラルキル基;アセトキシメチル基、アセトキシエチル基、プロピオニルオキシメチル基、n-ブチリルオキシメチル基、iso-ブチリルオキシメチル基、ピバロイルオキシメチル基等の炭素原子数1~6のアルキルカルボニルオキシ-アルキル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基及びエチル基が好ましい。
尚、「n-」はノルマル、「iso-」はイソ、「tert-」はターシャリー、「o-」はオルト、「m-」はメタ、「p-」はパラを意味する。
【0012】
及びRがカチオンである場合の該カチオンは、無機カチオン及び有機カチオンのいずれでもよい。無機カチオンとしては、NH 、Na、K、Ag等が挙げられる。
【0013】
上記一般式(2)におけるXは、ハロゲンイオン、有機酸イオン又は無機酸イオンであり、例えば、塩素イオン、臭素イオン、ヨウ素イオン等のハロゲンイオン;酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、硝酸イオン、硫酸イオン等とすることができる。これらのうち、塩素イオン、硝酸イオン、硫酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンが好ましい。
【0014】
上記一般式(2)の塩は、特に限定されず、例えば、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩等の無機酸塩;酢酸塩、メタンスルホン酸塩等の有機酸塩;ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩;マネシウム塩、カルシウム塩等のアルカリ土類金属塩;ジメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム等の第4級アンモニウム塩等が挙げられる。これらの塩は、農業分野に好適である。
【0015】
本発明において、肥料又は植物成長調整剤の原料成分として、特に好ましい態様は、上記一般式(1)及び(2)におけるR及びRの両方が水素原子であるラクタム化合物又はその塩であり、下記式(3)及び(4)に示される。
【化4】
(式中は、ハロゲンイオン、有機酸イオン又は無機酸イオンである。)
【0016】
本発明のラクタム化合物又はその塩は、光学異性体、立体異性体、位置異性体等の異性体を有することができる。例えば、光学異性体が存在する場合、ラセミ体から分割された光学異性体も、本発明の化合物に包含される。
【0017】
本発明のラクタム化合物又はその塩として、好ましい光学異性体は、下記一般式(1A)又は(2A)で表される化合物である。尚、これらの式中、R、R及びXは、上記のとおりである。
【化5】
【0018】
本発明のラクタム化合物又はその塩の製造方法は、特に限定されない。
例えば、上記式(1)及び(2)において、R及びRが水素原子である化合物、即ち、上記式(4)で表される化合物は、WO2017/082111に記載の方法により得られた、下記式(6)で表される化合物を、希塩酸の水溶液に溶解させ、その後、濃縮して下記式(6)で表される化合物の塩酸塩とし、次いで、40℃~100℃の温度に加熱することにより製造することができる。上記式(3)で表される化合物は、得られた上記式(4)で表される化合物を陽イオン交換に供することにより、製造することができる。
【化6】
また、上記式(2)において、R及びRがカルボキシル基の保護基、例えば、メチル基である化合物は、上記式(3)で表される化合物を、無水塩酸-メタノール溶液に加えてこれらを撹拌し、得られた反応液を濃縮することにより、製造することができる。エチル基の場合は、エタノールを用いればよい。
更に、上記式(1)において、R及びRがカチオン(例えば、NH )である化合物は、上記式(3)で表される化合物を、アンモニア水に加えてこれらを撹拌し、得られた反応液を濃縮することにより、製造することができる。Naの場合は、水酸化ナトリウム水溶液を用いればよい。
【0019】
本発明において、ラクタム化合物又はその塩の水溶液と、金属イオンを含む水溶液とを混合することにより、錯体を製造することができる。上記の各水溶液は、水を用いて得られたものであってよいし、緩衝液を用いて得られたものであってもよい。このようにして得られた本発明の錯体は、上記本発明のラクタム化合物又はその塩と金属原子とを含む化合物である。
【0020】
上記金属原子は、特に限定されず、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、マンガン(Mn)、亜鉛(Zn)、モリブデン(Mo)、銅(Cu)等が挙げられる。これらのうち、鉄又は銅が好ましく、鉄が特に好ましい。鉄錯体は、葉面散布を利用した栽培及び水耕栽培の際の植物用鉄供給材として好適である。
本発明の錯体における金属原子の配位状態は、特に限定されない。通常、金属イオン(1価、2価、3価等の金属イオン)の状態であるが、0価の金属の状態の場合もある。含まれる金属原子の数は、1種のみ又は2種以上とすることができる。
【0021】
本発明において、ラクタム化合物又はその塩、及び錯体は、肥料又は植物成長調整剤の原料成分として好適である。
【0022】
本発明の肥料及び植物成長調整剤は、ラクタム化合物又はその塩、及び/又は錯体を用いて構成し、農業分野に好適な他の組成物を適用することができる。他の組成物を以下に例示する。
(1)ラクタム化合物若しくはその塩及び/又は錯体のみ
(2)ラクタム化合物若しくはその塩及び/又は錯体の水溶液
(3)ラクタム化合物若しくはその塩及び/又は錯体と、他の化合物とからなる混合物
(4)ラクタム化合物若しくはその塩及び/又は錯体と、他の化合物と、水とを含む水溶液あるいは水分散液
【0023】
上記構成(2)及び(4)の場合、液のpHは特に限定されないが、好ましくは1~7、より好ましくは2~5である。
また、これらの場合、ラクタム化合物若しくはその塩、及び/又は錯体の(合計)濃度は、作業性及び得られる効果の観点から、液の全体に対して、好ましくは10~50質量%、より好ましくは10~30質量%である。
【0024】
上記構成(3)及び(4)の場合、他の化合物は、無機化合物及び有機化合物のいずれでもよい。
無機化合物としては、水酸化マグネシウム、塩化マグネシウム等のマグネシウム化合物;水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム等のカルシウム化合物;硫酸鉄、硝酸鉄、酸化鉄(Fe)、塩化第二鉄(FeCl)又はこれらの水和物等の鉄化合物;二酸化マンガン、硫酸マンガン5水和物、塩化マンガン4水和物等のマンガン化合物;四ホウ酸ナトリウム10水和物、ホウ酸等のホウ素化合物;硫酸亜鉛、亜鉛華等の亜鉛化合物;モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸アンモニウム等のモリブデン化合物;硫酸銅、硝酸銅等の銅化合物等が挙げられる。これらのうち、鉄化合物が好ましい。この鉄化合物は、2価及び3価のいずれでもよい。
有機化合物としては、EDTAの金属塩、金属-EDTA錯体、金属-EDDHA錯体、金属-DTPA錯体、タンパク質、農薬活性成分、糖類、界面活性剤(乳化剤、消泡剤、分散剤等)等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン性界面活性剤及び両性界面活性剤のいずれを用いてもよい。
上記構成(4)であって、界面活性剤を含有する場合、界面活性剤の含有割合は、ラクタム化合物及び/又は錯体の合計量を100質量部とした場合に、好ましくは0.00001~1質量部、より好ましくは0.01~0.1質量部である。
【0025】
本発明の肥料及び植物成長調整剤は、葉面散布を利用した栽培及び水耕栽培に好適である。また、アルカリ土壌における植物の生育にも好適である。
植物は、根からのみでなく、葉や茎、果実の表面からも養分を吸収する能力を有するため、肥料及び植物成長調整剤を液体として葉面散布することにより、養分補給効果を得ることができる。
また、水耕栽培では、従来、公知の、流動法(NFT,DFT)、静置法等を適用することができる。
【実施例
【0026】
以下、実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、実施例に限定されるものではない。
【0027】
実施例1
WO2017/082111に記載の方法により得られた、下記式(11)で表される化合物(以下、「PDMA」という)1gを、1Mの塩酸水溶液に溶解させ、濃縮して塩酸塩とし、次いで、この塩酸塩を190mLの水に溶かし、70℃に加温し、2時間撹拌することにより、下記の塩酸塩型のラクタム化合物(L1)1gを得た。
【化7】
【0028】
得られた塩酸塩型のラクタム化合物(L1)のH-NMRスペクトルのデータは以下のとおりである。
1H NMR (400 MHz, D2O): δ 4.45 (dd, J=9.4, 5.5Hz, 1H), 4.35 (t, J=8.4Hz, 1H), 4.08 (dd, J=9.4, 7.0Hz, 1H), 3.68 (ddd, J=11.3, 7.2, 4.0Hz, 1H), 3.36-3.22 (m, 3H), 3.14-2.97 (m, 2H), 2.45-2.24 (m, 3H), 2.23-2.09 (m, 1H), 2.09-1.07 (m, 2H), 1.95-1.68 (m, 2H).
【0029】
その後、上記の塩酸塩型のラクタム化合物(L1)を陽イオン交換樹脂「DOWEXTM 50WX8」(商品名)を用いて、展開液(HO→5%アンモニア水)で精製することにより、下記のラクタム化合物(L2)を得た。
【化8】
【0030】
このラクタム化合物(L2)のH-NMRスペクトルのデータは以下のとおりである。
1H NMR (500 MHz, D2O): δ 4.35 (t, J=8.7Hz, 1H), 4.24 (dd, J=9.1, 6.0Hz, 1H), 3.84 (dd, J=9.3, 6.5Hz, 1H), 3.67 (ddd, J=10.6, 6.5, 3.8Hz, 1H), 3.34-3.18 (m, 3H), 3.06-2.91 (m, 2H), 2.45-2.29 (m, 2H), 2.29-2.18 (m, 1H), 2.06-1.92 (m, 3H), 1.90-1.77 (m, 2H).
【0031】
以下、上記ラクタム化合物(L2)を用いて、各種評価を行った。
【0032】
(A)水溶液の安定性
上記ラクタム化合物(L2)のpHの異なる水中における安定性を調べるため、塩酸を用いてpH1とした水溶液、上記ラクタム化合物(L2)を水に溶解させたpH7の水溶液、及び、炭酸水素ナトリウムを用いてpH9とした水溶液に対してH-NMR測定を行った。その結果を図1に示す。図1によれば、H-NMRスペクトルにおけるピークシフトは見られるものの、ラクタム環は壊れていないことが分かる。
【0033】
(B)葉面散布試験
コマツナの種を、花ごころ社製培養土「花ちゃん培養土」(商品名)に播種し、自然太陽光併用型の温室で栽培を開始し、8日目に生育が揃うように間引きを行った。間引き後、10日目、12日目、14日目、17日目、19日目及び21日目に、クエン酸鉄、PDMAと硫酸鉄(III)とからなる錯体(以下、「Fe-PDMA」という)、又は、ラクタム化合物(L2)と硫酸鉄(III)とからなる錯体(以下、「Fe-ラクタム化合物(L2)」という)を、それぞれ、20μmol含む水溶液(但し、住友化学園芸社製界面活性剤「ダイン」(商品名)により1000倍希釈されたものであり、いずれも、pHは4~5である。)並びに水のみを、10ミリリットルずつ葉面散布させて栽培し、24日後(散布終了後3日目)にSPAD値を測定した。その結果を図2に示す。図2によれば、Fe-ラクタム化合物(L2)を用いると、水のみを葉面散布した場合のみならず、クエン酸鉄やFe-PDMAを葉面散布した場合に比べて、優れた生育効果が得られることが分かる。
【0034】
(C)水耕栽培試験
水道水に、水稲の品種「日本晴」を播種し、根と芽が出たところで、苗を水耕液(園試処方)に浸した。播種後8日目に苗を園試処方(鉄なし)の水耕液に移植し、この水耕液に、更に、硫酸鉄(III)、Fe-PDMA、Fe-ラクタム化合物(L2)、Fe-EDTA、クエン酸鉄、Fe-DTPA又はFe-EDDHAを、それぞれ、90μM含む水溶液を1回のみ投与し、投与後7日目に草丈を測定した。その結果を図3に示す。図3によれば、Fe-ラクタム化合物(L2)を用いると、水のみを葉面散布した場合のみならず、クエン酸鉄やFe-PDMA、その他の水溶液を投与した場合に比べて、水稲の草丈の成長が著しく促され、優れた生育効果が得られることが分かる。
【0035】
(D)アルカリ土壌栽培試験
水道水に、水稲の品種「日本晴」を播種し、根と芽が出たところで、苗を水耕液(園試処方)に浸した。草丈が約7cmになったところで、苗をpH9の貝化石土壌に移植した。そして、この土壌に、Fe-PDMA、PDMAのみ、ラクタム化合物(L2)と硫酸鉄(III)とからなる錯体(以下、「Fe(III)-ラクタム化合物(L2)」という)、ラクタム化合物(L2)と硫酸鉄(II)とからなる錯体(以下、「Fe(II)-ラクタム化合物(L2)」という)、ラクタム化合物(L2)、エチレンジアミン四酢酸2ナトリウム、Fe-EDTA、Fe-EDDHA、硫酸鉄(III)又は硫酸鉄(II)を、それぞれ、30μmol含む水溶液を1回のみ投与し、投与後7日目にSPAD値を測定した。その結果を図4に示す。図4によれば、2価及び3価の鉄のいずれのFe-ラクタム化合物(L2を用いた場合、SPAD値がそれぞれ33.8及び30.9であった。このように、本発明のラクタム化合物を投与することで、アルカリ土壌でも生育効果が得られることが分かる。しかも、ラクタム化合物(L2)のままでも効果が得られるだけでなく、Feとの錯体-ラクタム化合物であれば、更なる効果を期待できることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明のラクタム化合物又はその塩並びに錯体は、植物の生育に用いる肥料、植物成長調整剤等において有用である。
図1
図2
図3
図4