(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】特定成分検出方法および判定方法並びにこれらの方法を用いた装置
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3504 20140101AFI20231208BHJP
【FI】
G01N21/3504
(21)【出願番号】P 2020031615
(22)【出願日】2020-02-27
【審査請求日】2022-12-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋平
(72)【発明者】
【氏名】谷 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】田丸 博晴
【審査官】嶋田 行志
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-257358(JP,A)
【文献】特開2011-102747(JP,A)
【文献】特開2019-109374(JP,A)
【文献】特開2018-054337(JP,A)
【文献】特開2019-088773(JP,A)
【文献】特表2015-510126(JP,A)
【文献】Deep Learning in Remote Sensing,IEEE GEOSCIENCE AND REMOTE SENSING MAGAZINE,米国,IEEE,2017年12月27日,Volume 5, Issue 4,pp. 8-36,doi: 10.1109/MGRS.2017.2762307
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-G01N 21/61
G01B 11/00-G01B 11/30
G01W 1/00
G01V 8/00-G01V 8/26
G06T 1/00-G06T 7/90
A01G 7/00-A01G 7/06
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
IEEE Xplore
SPIE Digital Library
Science Direct
ACS PUBLICATIONS
KAKEN
AgriKnowledge
arXiv
Optica
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気体中の特定成分の時系列検出信号を良好に検出する特定成分検出方法であって、
前記気体の時系列2次元分光画像データを入力する入力ステップと、
前記時系列2次元画像データに基づいて前記特定成分のシグナルポイントとバックグラウンドポイントとを判定する判定ステップと、
前記シグナルポイントの時系列検出信号と
前記バックグラウンドポイントの時系列検出信号とに対する相関係数を計算する相関係数計算ステップと、
前記シグナルポイントの時系列検出信号から前記バックグラウンドポイントの時系列検出信号に前記相関係数を乗じたものを減じて得られる補正時系列検出信号に基づいて前記特定成分の時系列検出信号を生成する信号生成ステップと、
を備えることを特徴とする特定成分検出方法。
【請求項2】
請求項1記載の特定成分検出方法であって、
前記信号生成ステップは、前記補正時系列検出信号にローパスフィルタを施して前記特定成分の時系列検出信号を生成するステップである、
特定成分検出方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の特定成分検出方法であって、
前記時系列2次元分光画像データは、高次の回折光に分光する高次回折格子と、前記高次回折格子により得られる高次の回折光が重なった部位に配置された分光器と、により得られるデータである、
特定成分検出方法。
【請求項4】
請求項3記載の特定成分検出方法であって、
前記高次回折格子は、エシェル回折格子である、
特定成分検出方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のうちのいずれか1つの請求項に記載の特定成分検出方法を用いて特定成分を検出することを特徴とする特定成分検出装置。
【請求項6】
請求項5記載の特定成分検出装置であって、
検出対象を含む気体に中赤外線を照射する光源と、
前記光源から照射されて前記気体を透過した中赤外線を2次元に分光回折する2次元分光回折器と、
前記2次元分光回折器により得られる時系列2次元分光画像データに基づいて前記特定成分の時系列検出信号を生成する演算装置と、
を備える特定成分検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定成分検出方法および判定方法並びにこれらの方法を用いた装置に関し、詳しくは、気体中の特定成分の時系列検出信号を良好に検出する特定成分検出方法およびこの方法を用いた特定成分検出装置、気体中の成分に基づいて状態を判定する判定方法およびこの方法の学習済みモデルを用いた判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、気体中の特定成分を検出する装置としては、大気ガスを透過した赤外光において吸収されにくい波長の光の測定出力を用いて他の測定出力を正規化するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この装置では、大気ガスを透過した赤外光を分光し、分光された光のうち予め定めた成分が吸収する波長の光の強度を検出する複数の検出器により得られる光の強度に基づく受光波長信号を分光された光のうち予め定めた成分では吸収されない波長の光の強度を検出する検出器とにより得られる光の強度に基づく信号で除して正規化している。
【0003】
また、気体中の成分に基づいて状態を判定する装置としては、センサ表面の処理によって親水性、疎水性、荷電、導電性等を変えた複数のセンサを配設したセンサアレイを呼気と接触させて計測するものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この装置では、複数のセンサを配設したセンサアレイを備えていることで、呼気中の成分の量と種類による被験者(又は被験動物)の呼気のプロファイルを得る。そして、呼気中の揮発性有機化合物を構成する個々の分子種を分離同定をせずに、呼気成分のプロファイルを測定している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-257358号公報
【文献】特開2011-102747号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述の気体中の特定成分を検出する装置では、正規化された信号に対するSN比が十分でない場合が生じる。特に、測定出力が時系列データの場合、分光された光のうち予め定めた成分では吸収されない波長の光が変化することもあり、この場合、適正な正規化を行なうことができない。
【0006】
また、上述の気体中の成分に基づいて状態を判定する装置では、親水性、疎水性、荷電、導電性等を変えた複数のセンサを配設したセンサアレイを必要とするが、親水性、疎水性、荷電、導電性に基づく解析では呼気中の成分を特定する精度が低く、良好な判定を行なうことができない。
【0007】
本発明の特定成分検出方法およびこの方法を用いた装置は、より感度よく気体中の特定成分を検出することを主目的とする。
本発明の判定方法およびこの方法を用いた装置は、より適正に状態を判定することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の特定成分検出方法および判定方法並びにこれらの方法を用いた装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0009】
本発明の特定成分検出方法は、
気体中の特定成分の時系列検出信号を良好に検出する特定成分検出方法であって、
前記気体の時系列2次元分光画像データを入力する入力ステップと、
前記時系列2次元画像データに基づいて前記特定成分のシグナルポイントとバックグラウンドポイントとを判定する判定ステップと、
前記シグナルポイントの時系列検出信号と前記バックグランウドポイントの時系列検出信号とに対する相関係数を計算する相関係数計算ステップと、
前記シグナルポイントの時系列検出信号から前記バックグラウンドポイントの時系列検出信号に前記相関係数を乗じたものを減じて得られる補正時系列検出信号に基づいて前記特定成分の時系列検出信号を生成する信号生成ステップと、
を備えることを特徴とする。
【0010】
この本発明の特定成分検出方法では、気体の時系列2次元分光画像データを入力し、入力した時系列2次元画像データに基づいて特定成分のシグナルポイントとバックグラウンドポイントとを判定する。時系列2次元画像データは、中赤外線を照射する光源から照射され気体を透過した後の透過光を2次元分光した画像データを時間の経過に沿って得たデータである。中赤外光としては、2μm~20μmの波長の光が相当する。シグナルポイントは、2次元分光画像を構成する各ポイントのうち特定成分により吸収される波長のポイントである。バックグラウンドポイントは、2次元分光画像を構成する各ポイントのうち時系列2次元分光画像データを取得した時間に亘って吸収が少ない波長のポイントである。バックグラウンドポイントの判定手法としては、2次元分光画像の各ポイントに対して自己相関を含めた相関係数を計算し、この相関係数の小さいポイントをバックグラウンドポイントとして判定するものとしたり、2次元分光画像の各ポイントの検出強度の時系列に亘る検出値の合計や平均に基づいて判定するものとしたり、種々の手法を用いることができる。そして、シグナルポイントの時系列検出信号と前記バックグランウドポイントの時系列検出信号とに対する相関係数を計算し、シグナルポイントの時系列検出信号からバックグラウンドポイントの時系列検出信号に相関係数を乗じたものを減じて得られる補正時系列検出信号に基づいて特定成分の時系列検出信号を生成する。時系列2次元画像データに基づいてバックグラウンドポイントを判定するから、より適正にバックグラウンドを判定することができ、より適正に気体中の特定成分の時系列検出信号を得ることができる。この結果、より感度よく気体中の特定成分を検出することができる。ここで、2次元分光画像データには、画像そのものも含まれる。以下この明細書において同じである。なお、補正時系列検出信号を特定成分の時系列検出信号としてもよいし、補正時系列検出信号に強調処理や補正処理などを施して特定成分の時系列検出信号としてもよい。
【0011】
本発明の特定成分検出方法において、前記信号生成ステップは、前記補正時系列検出信号にローパスフィルタを施して前記特定成分の時系列検出信号を生成するステップであるものすることもできる。こうすれば、高周波のノイズを除去することができ、より感度よく気体中の特定成分を検出することができる。
【0012】
本発明の特定成分検出方法において、前記時系列2次元分光画像データは、高次の回折光に分光する高次回折格子と、前記高次回折格子により得られる高次の回折光が重なった部位に配置された分光器と、により得られるデータであるものとすることもできる。この場合、前記高次回折格子としてエシェル回折格子を用いるものとすることもできる。
【0013】
本発明の特定成分検出装置は、上述のいずれかの態様の本発明の特定成分検出方法を用いて特定成分を検出すること、即ち、基本的には、気体中の特定成分の時系列検出信号を良好に検出する特定成分検出方法であって、前記気体の時系列2次元分光画像データを入力する入力ステップと、前記時系列2次元画像データに基づいて前記特定成分のシグナルポイントとバックグラウンドポイントとを判定する判定ステップと、前記シグナルポイントの時系列検出信号と前記バックグランウドポイントの時系列検出信号とに対する相関係数を計算する相関係数計算ステップと、前記シグナルポイントの時系列検出信号から前記バックグラウンドポイントの時系列検出信号に前記相関係数を乗じたものを減じて得られる補正時系列検出信号に基づいて前記特定成分の時系列検出信号を生成する信号生成ステップと、を備えることを特徴とする特定成分検出方法を用いて特定成分を検出することを特徴とする。
【0014】
本発明の特定成分検出装置は、上述のいずれかの態様の本発明の特定成分検出方法を用いて特定成分を検出するから、本発明の特定成分検出方法が奏する効果、即ち、より適正にバックグラウンドを判定することができる効果や、より適正に気体中の特定成分の時系列検出信号を得ることができる効果、これらの結果として、より感度よく気体中の特定成分を検出することができる効果を奏することができる。
【0015】
本発明の特定成分検出装置において、検出対象を含む気体に中赤外線を照射する光源と、前記光源から照射されて前記気体を透過した中赤外線を2次元に分光回折する2次元分光回折器と、前記2次元分光回折器により得られる時系列2次元分光画像データに基づいて前記特定成分の時系列検出信号を生成する演算装置と、を備えるものとすることもできる。
【0016】
本発明の判定方法は、
気体中の成分に基づいて状態を判定する判定方法であって、
前記気体の複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に前記気体の成分に基づく状態を教師データとして機械学習により得られる学習済みモデルを気体の2次元分光画像データに対して適用して状態を推定する、
ことを特徴とする。
【0017】
本発明の判定方法では、気体の複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に気体の成分に基づく状態を教師データとして機械学習により得られる学習済みモデルを気体の2次元分光画像データに対して適用して状態を推定する。これにより、気体の2次元分光画像データに対して、より適正に状態を判定することができる。ここで、「気体」として「呼気」を用いると共に「状態」として「病名」を用いれば、呼気により病名を判定する方法となり、「気体」として「エンジンの燃焼ガス」を用いると共に「状態」として「エンジンの状態」を用いれば、燃焼ガスによりエンジンの状態を判定する方法となり、「気体」として「個室などの閉鎖空間の空気」を用いると共に「状態」として「個室などの閉鎖空間内に存在する人の快適具合」を用いれば個室などの閉鎖空間の空気によりその空間の快適具合を判定する方法となる。また、活用例としては、車に当該装置を設置して、運転中のヘルスケアチェックや、会議場や店舗などに設置して、爆発物の検知などの防犯用途なども挙げることができる。なお、本発明の判定方法では、気体の複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に前記気体の成分に基づく状態を教師データとして機械学習するものとしてもよいし、機械学習は行なわず、機械学習によって得られる学習済みモデルを用いるものとしてもよい。
【0018】
本発明の判定方法において、前記2次元分光画像データは、高次の回折光に分光する高次回折格子と、前記高次回折格子により得られる高次の回折光が重なった部位に配置された分光器と、により得られるデータであるものとすることもできる。この場合、高次回折格子としてエシェル回折格子を用いるものとすることもできる。
【0019】
本発明の判定方法において、前記気体の複数の2次元分光画像データは、前記気体の複数の時系列2次元分光画像データであるものとすることもできる。こうすれば、より適正な学習済みモデルを用いることができるから、より適正に状態を推定することができる。
【0020】
本発明の判定装置は、上述のいずれかの態様の本発明の判定方法を用いて状態を判定すること、即ち、基本的には、気体中の成分に基づいて状態を判定する判定方法であって、前記気体の複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に前記気体の成分に基づく状態を教師データとして機械学習により得られる学習済みモデルを気体の2次元分光画像データに対して適用して状態を推定することを特徴とする判定方法を用いて状態を判定することを特徴とする。
【0021】
この本発明の判定装置は、上述のいずれかの態様の本発明の判定方法を用いて状態を判定するから、本発明の判定方法が奏する効果、即ち、気体の2次元分光画像データに対して、より適正に状態を判定することができる。という効果を奏することができる。ここで、「気体」として「呼気」を用いると共に「状態」として「病名」を用いれば、呼気により病名を判定する装置となり、「気体」として「エンジンの燃焼ガス」を用いると共に「状態」として「エンジンの状態」を用いれば、燃焼ガスによりエンジンの状態を判定する装置となり、「気体」として「個室などの閉鎖空間の空気」を用いると共に「状態」として「個室などの閉鎖空間内に存在する人の快適具合」を用いれば個室などの閉鎖空間の空気によりその空間の快適具合を判定する装置となる。なお、本発明の判定装置でも、気体の複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に気体の成分に基づく状態を教師データとして機械学習するものとしてもよいし、機械学習は行なわず、機械学習によって得られる学習済みモデルを用いるものとしてもよい。
【0022】
本発明の判定装置において、検出対象を含む気体に中赤外線を照射する光源と、前記光源から照射されて前記気体を透過した中赤外線を2次元に分光回折する2次元分光回折器と、前記2次元分光回折器により得られる2次元分光画像データに基づいて状態を推定する演算装置と、を備えるものとすることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】第1実施形態の特定成分検出装置20の構成の概略を示す説明図である。
【
図2】演算装置30に実行される検出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】試料導入部24にエチレンを導入した際の2次元分光画像の一例としてのエシェルグラムを示す説明図である。
【
図4】試料導入部24にエチレンを導入した際のシグナルポイントAの時系列検出信号を示すグラフである。
【
図5】試料導入部24にエチレンを導入した際のバックグラウンドポイントBをの時系列検出信号を示すグラフである。
【
図6】シグナルポイントAとバックグラウンドポイントBのパラメトリックプロットを示す説明図である。
【
図7】試料導入部24にエチレンを導入した際の特定成分時系列検出信号を示すグラフである。
【
図8】特定成分時系列検出信号の振動のフーリエスペクトルを示す説明図である。
【
図9】試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のメタンに対するシグナルポイントAの時系列検出信号を示すグラフである。
【
図10】試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のメタンに対する補正時系列検出信号(A-αB)を示すグラフである。
【
図11】試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のメタンに対する特定成分時系列検出信号を示すグラフである。
【
図12】試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のエチレンに対するシグナルポイントAの時系列検出信号を示すグラフである。
【
図13】試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のエチレンに対する補正時系列検出信号(A-αB)を示すグラフである。
【
図14】試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のエチレンに対する特定成分時系列検出信号を示すグラフである。
【
図15】第2実施形態の判定装置120における演算装置30で実行される判定処理の一例を示すフローチャートである。
【
図16】複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共にそのときの状態を教師データとしたときの深層学習のモデルの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明を実施するための形態について説明する。
図1は、第1実施形態の特定成分検出装置20の構成の概略を示す説明図である。第1実施形態の特定成分検出装置20は、
図1に示すように、中赤外光領域の光(2μm~20μmの波長の光)を試料導入部24に導入されるガスに照射する光源22と、試料導入部24のガスを透過した光を2次元に分光して2次元分光画像とする2次元分光器26と、2次元分光画像の各画素(領域)の光強度を検出する検出器28と、時系列の2次元分光画像の光強度のデータ(時系列2次元分光画像データに基づいて特定成分を検出する演算装置30と、を備える。ここで、2次元分光画像データには、2次元分光画像そのものも含まれる。以下でも同じである。
【0025】
2次元分光器26は、エシェル回折格子などの高次の回折光に分光する高次回折格子と、高次回折格子により得られる高次の回折光が重なった部位に配置された分光器と、により構成されており、2次元に分光して2次元分光画像(例えば、エシェルグラム)を生成する。検出器28は、2次元分光画像の各画素(領域)の光強度を電圧信号に変換する周知の検出器である。
【0026】
演算装置30は、CPUを中心とする汎用のコンピュータとして構成されており、CPUの他に処理プログラムなどを記憶するROMや、一時的にデータを記憶するRAM、フラッシュメモリ、記憶装置、入出力ポートなどを備える。
【0027】
演算装置30では、
図2に例示する検出処理を実行する。検出処理は、検出器28により検出された時系列2次元分光画像データを入力し(ステップS100)、時系列2次元分光画像データに基づいて特定成分のシグナルポイントAとバックグラウンドポイントBとを判定する(ステップS110)。特定成分のシグナルポイントAは、2次元分光画像を構成する各ポイント(画素、領域)のうち特定成分により吸収される波長のポイント(画素、領域)である。したがって、特定成分が定まっていればシグナルポイントAは定まる。バックグラウンドポイントBは、2次元分光画像を構成する各ポイント(画素、領域)のうち時系列2次元分光画像データを取得した時間に亘って吸収が少ない波長のポイント(画素、領域)である。バックグラウンドポイントBの判定手法としては、2次元分光画像の各ポイントに対して自己相関を含めた相関係数を計算し、この相関係数の小さいポイントをバックグラウンドポイントとして判定するものとしたり、2次元分光画像の各ポイントの検出強度の時系列に亘る検出値の合計や平均に基づいて判定するものとしたり、種々の手法を用いることができる。
【0028】
続いて、シグナルポイントAの時系列検出信号とバックグランウドポイントBの時系列検出信号とに対する相関係数αを計算する(ステップS120)。そして、シグナルポイントAの時系列検出信号からバックグラウンドポイントBの時系列検出信号に相関係数αを乗じたものを減じて補正時系列検出信号(A-αB)を計算する(ステップS130)。そして、補正時系列検出信号(A-αB)にローパスフィルタを施して特定成分時系列検出信号として(ステップS140)、本処理を終了する。ローパスフィルタは、10Hz~30Hzをパスするフィルタを用いた。
【0029】
図3は、試料導入部24にエチレンを導入した際の2次元分光画像の一例としてのエシェルグラムを示す説明図である。図中、丸印のAがシグナルポイントAであり、丸印のBがバックグラウンドポイントBである。
図4は試料導入部24にエチレンを導入した際のシグナルポイントAの時系列検出信号を示すグラフであり、
図5は試料導入部24にエチレンを導入した際のバックグラウンドポイントBの時系列検出信号を示すグラフである。
図6は、シグナルポイントAとバックグラウンドポイントBの信号強度をパラメータとするパラメトリックプロットを示す説明図である。図中、右側の検出信号はガスが導入されていない真空時であり、左側の検出信号はガスが導入されたガス導入時である。また、破線は、シグナルポイントAの検出信号とバックグラウンドポイントBの検出信号との相関の傾きを示している。
図7は、試料導入部24にエチレンを導入した際の特定成分時系列検出信号を示すグラフであり、
図8は、特定成分時系列検出信号の振動のフーリエスペクトルを示す説明図である。
図7に示すように、特定成分時系列検出信号では、シグナルポイントAの時系列検出信号(
図4)に比して、ノイズが小さく、1.2秒前後にエチレンが導入されたのがより明確なものとなっている。なお、
図8に示すように、特定成分時系列検出信号の振動成分をフーリエ変換すると33Hz付近に急峻なピークを持つことが解る。このため、10Hz~30Hzをパスするローパスフィルタを補正時系列検出信号(A-αB)に施すのが有効であることが解る。
【0030】
図9は試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のメタンに対するシグナルポイントAの時系列検出信号を示すグラフであり、
図10は試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のメタンに対する補正時系列検出信号(A-αB)を示すグラフであり、
図11は試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のメタンに対する特定成分時系列検出信号を示すグラフである。
図12は試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のエチレンに対するシグナルポイントAの時系列検出信号を示すグラフであり、
図13は試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のエチレンに対する補正時系列検出信号(A-αB)を示すグラフであり、
図14は試料導入部24にメタンとエチレンとの混合ガスを導入した際のエチレンに対する特定成分時系列検出信号を示すグラフである。混合ガスとしては、エタンとエチレンを各々12ppm未満のものを用いた。
図9および
図12に示すように、試料導入部24に混合ガスを導入した際のメタンやエチレンのシグナルポイントAの時系列検出信号では、どのタイミングで混合ガスが導入されたのかは明確ではない。しかし、
図10および
図13に示すように、メタンやエチレンのシグナルポイントAの時系列検出信号からバックグラウンドポイントBの時系列検出信号に相関係数αを乗じたものを減じた補正時系列検出信号(A-αB)では、2秒となるタイミングで混合ガスが導入されたのが解る。
図11および
図14に示すように、ローパスフィルタを補正時系列検出信号(A-αB)に施して得られるメタンの特定成分時系列検出信号では、2秒となるタイミングで混合ガスが導入されたのがより明確に解る。即ち、
図10および
図13を
図11および
図14とを比較すれば解るように、メタンやエチレンの特定成分時系列検出信号では、2秒となるタイミングにおけるSN比が大きくなり、より顕著になるのが解る。この混合ガスを導入した実施例では、
図13に示すように、単一フレームノイズ除去した信号である補正時系列検出信号での揺れがpeak-to-peakで10カウント、root mean squareで3カウント程度であり、エチレンを入れることに対応する信号強度の変化が120カウント程度であることを考慮すると、1ppm、サブppmの濃度のガスでも検知可能といえる。また、本手法により信号のドリフトが除去できるため、複数フレームの長時間積算が可能になり、さらに感度を向上させることができる。
【0031】
以上説明した第1実施形態の特定成分検出装置20では、時系列2次元分光画像データに基づいて特定成分のシグナルポイントAとバックグラウンドポイントBとを判定する。そして、シグナルポイントAの時系列検出信号とバックグランウドポイントBの時系列検出信号とに対する相関係数αをバックグランウドポイントBの時系列検出信号に乗じたものをシグナルポイントAの時系列検出信号から減じて補正時系列検出信号(A-αB)を得る。このため、バックグラウンドの影響をより適正に除去することができ、特定成分をより適正に検出することができる。しかも、補正時系列検出信号(A-αB)にローパスフィルタを施して特定成分時系列検出信号とするから、さらに特定成分を適正に検出することができる。これらの結果、より感度よく気体中の特定成分を検出することができる。
【0032】
第1実施形態の特定成分検出装置20では、時系列2次元分光画像データを入力するステップと、時系列2次元分光画像データに基づいて特定成分のシグナルポイントAとバックグラウンドポイントBとを判定するステップと、シグナルポイントAの時系列検出信号とバックグランウドポイントBの時系列検出信号とに対する相関係数αを計算するステップと、シグナルポイントAの時系列検出信号からバックグランウドポイントBの時系列検出信号に計算した相関係数αを乗じたものを減じた補正時系列検出信号(A-αB)に基づいて特定成分時系列検出信号を得るステップと、を備える特定成分検出方法を用いている。したがって、この特定成分検出方法では、第1実施形態の特定成分検出装置20と同様の効果、即ち、バックグラウンドの影響をより適正に除去することができ、特定成分をより適正に検出することができる効果や、より感度よく気体中の特定成分を検出することができる効果を奏することができる。
【0033】
第1実施形態の特定成分検出装置20では、補正時系列検出信号(A-αB)にローパスフィルタを施して特定成分時系列検出信号を得るものとしたが、ローパスフィルタを施すことなく補正時系列検出信号(A-αB)を特定成分時系列検出信号とするものとしてもよい。
【0034】
第1実施形態の特定成分検出装置20では、時系列2次元分光画像データに基づいて特定成分のシグナルポイントAとバックグラウンドポイントBとを判定するものとした。しかし、複数のガスや吸収波長がわかっていないガスが含まれている試料を用いても、2次元分光画像を構成する各ポイント(画素、領域)のうち複数の吸収される波長のポイントを複数のシグナルポイントA1,A2,…などと判定し、2次元分光画像を構成する各ポイントのうち時系列2次元分光画像データを取得した時間に亘ってシグナルポイントA1,A2,…の各々の点に対する適したポイントをバックグラウンドポイントB1,B2,…として判定することができる。当該バックグラウンドポイントBとして、時系列2次元分光画像データを取得した時間に亘って吸収が最も少ない波長のポイントを選択してもよいし、対象のシグナルポイント(A1,A2,…のうちのいずれか)との相関係数が最大となるポイントを選択してもよい。また、1つのシグナルポイントに対して複数のバックグラウンドポイントを選択してもよい。これにより、各特定成分を感度よく検出することができる。
【0035】
次に、本発明の第2実施形態の判定装置120について説明する。第2実施形態の判定装置120は、演算装置30の処理が異なる点を除いて第1実施形態の特定成分検出装置20と同様のハード構成をしている。したがって、重複する説明を回避するため、第2実施形態の判定装置120では、ハード構成についての説明は省略し、演算装置30の処理について説明する。
【0036】
第2実施形態の判定装置120の演算装置30では、
図15に例示する判定処理を実行する。判定処理では、まず、検出器28により検出された2次元分光画像データを入力する(ステップS200)。2次元分光画像データは、第1実施形態で用いた時系列2次元分光画像データの時系列内における1つの2次元分光画像データを意味している。そして、2次元分光画像データを学習済みモデルに適用して状態を推定し(ステップS210)、判定処理を終了する。
【0037】
学習済みモデルは、複数の2次元分光画像データを入力データセットとし、そのときの状態を教師データとして深層学習などの機械学習により得られるものである。
図16に複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共にそのときの状態を教師データとしたときの深層学習のモデルの一例を示す。
【0038】
第2実施形態の判定装置120では、検査対象の「ガス」として「呼気」を用いると共に「状態」として「病名」を用いれば、呼気により病名を判定する装置となり、検査対象の「ガス」として「エンジンの燃焼ガス」を用いると共に「状態」として「エンジンの状態」を用いれば、燃焼ガスによりエンジンの状態を判定する装置となり、検査対象の「ガス」として「個室などの閉鎖空間の空気」を用いると共に「状態」として「個室などの閉鎖空間内に存在する人の快適具合」を用いれば個室などの閉鎖空間の空気によりその空間の快適具合を判定する装置となる。また、活用例としては、車に当該装置を設置して、運転中のヘルスケアチェックや、会議場や店舗などに設置して、爆発物の検知などの防犯用途なども挙げることができる。
【0039】
以上説明した第2実施形態の判定装置120では、複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に状態を教師データとして機械学習により得られる学習済みモデルを2次元分光画像データに対して適用して状態を推定する。これにより、より適正に状態を判定することができる。
【0040】
実施形態の第2実施形態の判定装置120では、複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に状態を教師データとして機械学習により得られる学習済みモデルを2次元分光画像データに対して適用して状態を推定する判定方法を用いている。したがって、この判定方法では、第2実施形態の判定装置120と同様の効果、即ち、より適正に状態を判定することができる効果を奏することができる。
【0041】
第2実施形態の判定装置120では、複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に状態を教師データとして機械学習して得られた学習済みモデルを用いて状態を判定するものとした。しかし、複数の2次元分光画像データを入力データセットとすると共に状態を教師データとして機械学習するものとしてもよい。
【0042】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、特定成分検出装置や判定装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
20 特定成分検出装置、22 光源、24 試料導入部、26 2次元分光器、28 検出器、30 演算装置、120 判定装置。