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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-07
(45)【発行日】2023-12-15
(54)【発明の名称】基板の欠陥検査方法および欠陥検査装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/956 20060101AFI20231208BHJP
   H01L 21/66 20060101ALI20231208BHJP
   G01N 23/20 20180101ALI20231208BHJP
【FI】
G01N21/956 A
H01L21/66 J
G01N23/20
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020143258
(22)【出願日】2020-08-27
(65)【公開番号】P2022038648
(43)【公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】寺澤 恒男
(72)【発明者】
【氏名】稲月 判臣
(72)【発明者】
【氏名】金子 英雄
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特公平08-012061(JP,B2)
【文献】特開2009-251412(JP,A)
【文献】特開平07-012745(JP,A)
【文献】特公平05-054621(JP,B2)
【文献】特開平07-146246(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/84-21/958
G01B 11/00-11/30
G01N 23/00-23/2276
G03F 1/84
H01L 21/66
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
EUV光源から発するEUV光を、多層反射膜が形成された複数のミラーを有する第1の集光光学系を用いて被検査基板に照射する工程と、
前記EUV光が照射された前記被検査基板から反射する反射光のうち正反射光を除く散乱光を、多層反射膜が形成された複数のミラーを有する第2の集光光学系を用いてセンサーの受光面に導く工程と、
前記センサーの受光面で受光した前記散乱光の強度が所定の閾値を超えたときに、前記被検査基板の前記EUV光の照射箇所に欠陥が存在すると判断する工程と、
を有する基板の欠陥検査方法であって、
前記被検査基板に前記EUV光を照射して前記欠陥の存在を判断する工程の前に、予め、
前記被検査基板のEUV光の反射率を得る反射率取得工程と、
前記散乱光による前記被検査基板の暗視野検査像におけるバックグラウンドレベルを得るバックグラウンドレベル取得工程と、
前記反射率取得工程で得た前記反射率と前記バックグラウンドレベル取得工程で得たバックグラウンドレベルとに基づいて前記所定の閾値を定める閾値演算工程と、
を有することを特徴とする基板の欠陥検査方法。
【請求項2】
前記反射率取得工程において、
前記第1の集光光学系または前記第2の集光光学系の構成を変化させて、前記EUV光源から発する前記EUV光を、前記第1の集光光学系を用いて前記被検査基板に照射し、該EUV光が照射された前記被検査基板からの正反射光を前記第2の集光光学系を用いて前記センサーの前記受光面に導き、該受光面での受光強度に基づいて前記反射率を得ることを特徴とする請求項1に記載の基板の欠陥検査方法。
【請求項3】
前記第1の集光光学系の構成を変化させるとき、
該第1の集光光学系ミラーの位置および姿勢を変化させることを特徴とする請求項2に記載の基板の欠陥検査方法。
【請求項4】
前記反射率取得工程において、前記反射率を反射率計を用いて得ることを特徴とする請求項1に記載の基板の欠陥検査方法。
【請求項5】
前記被検査基板を、前記EUV光を反射させる多層反射膜を表面に形成した多層反射膜付き基板とすることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の基板の欠陥検査方法。
【請求項6】
前記反射率を、前記被検査基板の検査領域全面での平均値とすることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の基板の欠陥検査方法。
【請求項7】
前記被検査基板の検査領域を小領域に分割しておき、
前記反射率を、前記小領域ごとの平均値とし、
前記所定の閾値を、前記小領域ごとに定めることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の基板の欠陥検査方法。
【請求項8】
EUV光を発するEUV光源と、
該EUV光源からのEUV光を被検査基板に照射する為の多層反射膜が形成された複数のミラーを有する第1の集光光学系と、
前記EUV光が照射された前記被検査基板から反射する反射光のうち正反射光を除く散乱光をセンサーの受光面に導く為の多層反射膜が形成された複数のミラーを有する第2の集光光学系と、
前記センサーの受光面で受光した前記散乱光の強度が所定の閾値を超えたときに、前記被検査基板の前記EUV光の照射箇所に欠陥が存在すると判断する演算処理部と、
を有する基板の欠陥検査装置であって、
前記所定の閾値を前記被検査基板のEUV光の反射率と前記散乱光による前記被検査基板の暗視野検査像におけるバックグラウンドレベルとに基づいて定める閾値演算部を有することを特徴とする基板の欠陥検査装置。
【請求項9】
前記第1の集光光学系または前記第2の集光光学系は、構成の変化が可能なものであり、
前記EUV光源から発する前記EUV光が、前記第1の集光光学系を用いて前記被検査基板に照射され、該EUV光が照射された前記被検査基板からの正反射光が前記第2の集光光学系を用いて前記センサーの前記受光面に導かれることが可能なものであり、
前記受光面での前記正反射光の受光強度に基づいて前記反射率を得るデータ取得部を有することを特徴とする請求項8に記載の基板の欠陥検査装置。
【請求項10】
前記構成の変化が可能な第1の集光光学系は
該第1の集光光学系のミラーの位置および姿勢が変化可能なものであることを特徴とする請求項9に記載の基板の欠陥検査装置。
【請求項11】
前記被検査基板は、前記EUV光を反射させる多層反射膜が表面に形成された多層反射膜付き基板であることを特徴とする請求項8から請求項10のいずれか一項に記載の基板の欠陥検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば半導体デバイス製造等に使用される反射型マスクを製造する為のマスクブランクのような基板の欠陥検査方法および欠陥検査装置に関し、特に波長が10~20nm程度の極端紫外(Extreme Ultraviolet:以下「EUV」と称す)光を検査光とする基板の欠陥検査方法および欠陥検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス(半導体装置)の製造工程では、転写用マスクに露光光を照射し、マスクに形成されている回路パターンを、縮小投影光学系を介して半導体基板(半導体ウェハ)上に転写するフォトリソグラフィ技術が繰り返し用いられる。従来、露光光の波長はフッ化アルゴン(ArF)エキシマレーザ光を用いた193nmが主流となっており、露光プロセスや加工プロセスを複数回組み合わせるマルチパターニングというプロセスを採用することにより、最終的には露光波長より小さい寸法のパターンを形成してきた。
【0003】
しかし、継続的なデバイスパターンの微細化より更なる微細パターンの形成が必要とされてきていることから、露光光としてArFエキシマレーザ光より更に波長の短いEUV光を用いたEUVリソグラフィ技術が開発されてきた。EUV光とは、より具体的には波長が13.5nm付近の光である。このEUV光は物質に対する透過性が極めて低く、従来の透過型の投影光学系やマスクが使えないことから、反射型の光学素子が用いられる。そのため、パターン転写用のマスクも反射型マスクが提案されている。
反射型マスクは、基板上にEUV光を反射する多層反射膜が形成され、多層反射膜の上にEUV光を吸収する吸収体膜がパターン状に形成されたものである。一方、吸収体膜にパターニングする前の状態(レジスト層が形成された状態も含む)のものが、反射型マスクブランクと呼ばれ、これが反射型マスクの素材として用いられる。
以下、EUV光を反射させる反射型マスクブランクをEUVマスクブランクとも称す。
【0004】
EUVマスクブランクは、低熱膨張基板上に形成するEUV光を反射する多層反射膜と、その上に形成されるEUV光を吸収する吸収体膜とを含むことを基本構造とする。多層反射膜としては、通常、モリブデン(Mo)膜とケイ素(Si)膜とを交互に積層することでEUV光の反射率を確保するMo/Si多層反射膜が用いられる。更に、多層反射膜を保護する為の保護膜が形成される。一方、吸収体膜としては、EUV光に対して消衰係数の値が比較的大きいタンタル(Ta)やクロム(Cr)を主成分とする材料が用いられる。
【0005】
EUVリソグラフィを適用する際、反射型マスクの多層反射膜の表面に1nm程度の高さ異常が生じた場合でもEUV反射光に位相変化を与え、吸収体膜パターンをウェハ上に転写した際に転写パターンに寸法変化あるいは解像不良を生じさせる。このような位相変化を与えるマスクブランクの高さ異常を位相欠陥と呼ぶ。位相欠陥は吸収体膜をパターニングした後に欠陥修正を施すことは極めて困難な欠陥なので、吸収体膜を形成する前のマスクブランクの段階において位相欠陥を検査することが必要である。
【0006】
位相欠陥は、単に多層反射膜の表面の凹凸のみでなく、反射多層膜の内部あるいは低熱膨張基板の表面の凹凸にも依存するので、一般的なレーザー光を検査光とする検査方法では十分な欠陥検出ができない。そこで、反射型マスクの露光に用いるEUV光と同じ波長の検査光を用いて位相欠陥を検出する、所謂、同波長(at wavelength)検査方法が相応しいと考えられる。この方法の例として、暗視野検査像を用いる方法が、例えば、特許文献1、2、非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-154902号公報
【文献】特開2014-153326号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】Takeshi Yamane, Yongdae Kim, Noriaki Takagi, Tsuneo Terasawa, Tomohisa Ino, Tomohiro Suzuki, Hiroki Miyai, Kiwamu Takehisa, Haruhiko Kusunose, “Performance in practical use of actinic EUVL mask blank inspection”, Proc. of SPIE Vol. 9256, 92560P.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記の特許文献1や非特許文献1に記載の検査技術を含め、一般に、暗視野検査法は通常の明視野検査法と比較して欠陥検出感度を高く保ったまま検査速度を向上できる利点がある。また、暗視野検査像は、欠陥部が周辺部のバックグラウンドレベルより高い輝度信号となるので、所定の閾値を設定して、閾値を超える信号が得られた位置を欠陥と認識でき、検出法もシンプルである。また、閾値のレベルを下げればより高感度の位相欠陥検査が可能となる。
【0010】
しかしながら、その閾値の設定は経験的あるいは実験的な手法で定められる。
EUV光を検査光とする暗視野検査法では、仮に無欠陥である場合でも一定のバックグラウンドレベルの検査信号が得られる。これは多層反射膜の表面ラフネスに起因するもので、ラフネスが小さければバックグラウンドレベルも低下する。その場合は、閾値を下げて高感度検出を行なうことが可能である。
しかし、このバックグラウンドレベルは、表面ラフネスに起因する要素と多層反射膜の構造(例えば周期長)に依存する反射率の積で表される。したがって、例えば低いバックグラウンドレベルの信号が得られた場合、表面ラフネスが小さいのか、多層反射膜の反射率が低いのかの区別ができない。
【0011】
位相欠陥を検出したときに得られる輝度信号レベルは、多層反射膜の表面ラフネスが低下しても変化しないが、多層反射膜の反射率が低下したときは、輝度信号レベルも低下する。表面ラフネスが小さい場合は予め設定される閾値で問題無く欠陥検出ができ、更に閾値を下げることで検出感度の向上が期待される。しかし、反射率が低下している場合は予め設定される閾値では欠陥検出できないことも懸念され、閾値を下げないと同一サイズの欠陥の検出ができない。
【0012】
以上のように、検出感度を決める閾値の設定は、多層反射膜の反射率の情報が必要であるが、従来技術では、暗視野検査に寄与する閾値の設定において反射率を加味することは明示されていない。
【0013】
本発明は上記課題に鑑みてなされたもので、被検査基板からの散乱光による暗視野検査において、検出感度を決める閾値を適切に設定し、信頼性の高い位相欠陥検査を実現できる基板の欠陥検査方法および欠陥検査装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するために、本発明は、EUV光源から発するEUV光を、第1の集光光学系を用いて被検査基板に照射する工程と、
前記EUV光が照射された前記被検査基板から反射する反射光のうち正反射光を除く散乱光を、第2の集光光学系を用いてセンサーの受光面に導く工程と、
前記センサーの受光面で受光した前記散乱光の強度が所定の閾値を超えたときに、前記被検査基板の前記EUV光の照射箇所に欠陥が存在すると判断する工程と、
を有する基板の欠陥検査方法であって、
前記被検査基板に前記EUV光を照射する前に、予め、
前記被検査基板のEUV光の反射率を得る反射率取得工程と、
該反射率取得工程で得た前記反射率に基づいて前記所定の閾値を定める閾値演算工程と、
を有することを特徴とする基板の欠陥検査方法を提供する。
【0015】
このような本発明の基板の欠陥検査方法であれば、暗視野検査において、バックグラウンドレベル(以下、BGLとも言う)のみならず欠陥の輝度信号レベル(以下、SIGとも言う)にも影響する被検査基板の反射率に基づいて閾値(以下、THRとも言う)を定めるので、適切に閾値を設定することができる。そのため、信頼性の高い位相欠陥検査を行うことが可能である。
【0016】
このとき、前記反射率取得工程において、
前記第1の集光光学系または前記第2の集光光学系の構成を変化させて、前記EUV光源から発する前記EUV光を、前記第1の集光光学系を用いて前記被検査基板に照射し、該EUV光が照射された前記被検査基板からの正反射光を前記第2の集光光学系を用いて前記センサーの前記受光面に導き、該受光面での受光強度に基づいて前記反射率を得ることができる。
【0017】
このようにすれば、簡便に被検査基板の反射率を得ることができる。
【0018】
そして前記第1の集光光学系の構成を変化させるとき、
該第1の集光光学系をミラーを有するものとし、該ミラーの位置および姿勢を変化させることができる。
【0019】
このようにすれば、簡便に第1の集光光学系の構成を変化させて被検査基板からの正反射光をセンサーの受光面に導くことができる。
【0020】
または、前記反射率取得工程において、前記反射率を反射率計を用いて得ることができる。
【0021】
このように、例えば市販の反射率計を用いて簡便に被検査基板の反射率を得ることもできる。
【0022】
また前記被検査基板を、前記EUV光を反射させる多層反射膜を表面に形成した多層反射膜付き基板とすることができる。
【0023】
本発明の欠陥検査方法は、例えば反射型マスクブランクなどのような多層反射膜付き基板の検査に好適に用いることができる。
【0024】
また前記反射率を、前記被検査基板の検査領域全面での平均値とすることができる。
または、前記被検査基板の検査領域を小領域に分割しておき、
前記反射率を、前記小領域ごとの平均値とし、
前記所定の閾値を、前記小領域ごとに定めることができる。
【0025】
これらのように、例えば被検査基板の検査領域の大きさ等に応じて、反射率や閾値について適宜決定することができる。
【0026】
また前記第1の集光光学系および前記第2の集光光学系を、それぞれ、多層反射膜が形成された複数のミラーを有するものとすることができる。
【0027】
このようにすれば、被検査基板へのEUV光の照射や、被検査基板からの散乱光のセンサーの受光面への導入をより適切に行うことができる。
【0028】
また本発明は、EUV光を発するEUV光源と、
該EUV光源からのEUV光を被検査基板に照射する為の第1の集光光学系と、
前記EUV光が照射された前記被検査基板から反射する反射光のうち正反射光を除く散乱光をセンサーの受光面に導く為の第2の集光光学系と、
前記センサーの受光面で受光した前記散乱光の強度が所定の閾値を超えたときに、前記被検査基板の前記EUV光の照射箇所に欠陥が存在すると判断する演算処理部と、
を有する基板の欠陥検査装置であって、
前記所定の閾値を前記被検査基板のEUV光の反射率に基づいて定める閾値演算部を有することを特徴とする基板の欠陥検査装置を提供する。
【0029】
このような本発明の基板の欠陥検査装置であれば、暗視野検査において、バックグラウンドレベルのみならず欠陥の輝度信号レベルにも影響する被検査基板の反射率に基づいて閾値が定められる装置であるので、適切に閾値が設定されたものとなる。そのため、信頼性の高い位相欠陥検査を行うことが可能な装置となる。
【0030】
このとき、前記第1の集光光学系または前記第2の集光光学系は、構成の変化が可能なものであり、
前記EUV光源から発する前記EUV光が、前記第1の集光光学系を用いて前記被検査基板に照射され、該EUV光が照射された前記被検査基板からの正反射光が前記第2の集光光学系を用いて前記センサーの前記受光面に導かれることが可能なものであり、
前記受光面での前記正反射光の受光強度に基づいて前記反射率を得るデータ取得部を有するものとすることができる。
【0031】
このようなものであれば、簡便に被検査基板の反射率を得ることが可能なものとなる。
【0032】
そして前記構成の変化が可能な第1の集光光学系は、ミラーを有するものであり、
該ミラーの位置および姿勢が変化可能なものとすることができる。
【0033】
このようなものであれば、簡便に第1の集光光学系の構成を変化させて被検査基板からの正反射光をセンサーの受光面に導くことが可能なものとなる。
【0034】
また前記被検査基板は、前記EUV光を反射させる多層反射膜が表面に形成された多層反射膜付き基板とすることができる。
【0035】
本発明の欠陥検査装置は、例えば反射型マスクブランクなどのような多層反射膜付き基板の検査に好適に用いることができるものである。
【0036】
前記第1の集光光学系および前記第2の集光光学系は、それぞれ、多層反射膜が形成された複数のミラーを有するものとすることができる。
【0037】
このようなものであれば、被検査基板へのEUV光の照射や、被検査基板からの散乱光のセンサーの受光面への導入をより適切に行うことが可能なものとなる。
【発明の効果】
【0038】
本発明であれば、暗視野検査の検出感度を決める閾値を適切に設定できるので、信頼性の高い位相欠陥検査を実現できる基板の欠陥検査方法および欠陥検査装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】本発明の欠陥検査装置の一例を示す概略図である。
図2】(A)2つのミラーを有する照明光学系の一例を示す概略図である。(B)1つのミラーを有する照明光学系の一例を示す概略図である。
図3】被検査基板の反射率の測定時の光学系の一例を示す概略図である。
図4】暗視野検査装置で得られる検査信号強度分布の例を示す説明図である。
図5】基板の表面ラフネスや反射率が異なる2つの場合(A)(B)の、暗視野検査装置で得られる検査信号強度分布の例を示す説明図である。
図6】本発明の基板の欠陥検査方法のフローの一例を示すフロー図である。
図7】本発明の基板の欠陥検査方法のフローの別の一例を示すフロー図である。
図8】本発明の欠陥検査装置の第1の集光光学系の別の一例を示す概略図である。
図9】(A)反射型マスクブランクを製造する為の多層反射膜付き基板の要部断面図である。(B)吸収体パターンを有する反射型マスクの要部断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明について、実施形態を、図を参照しながら更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の基板の欠陥検査装置および欠陥検査方法の実施の形態の説明に先立って、まず、被検査基板について例を挙げて説明する。なお、本発明において、被検査基板はEUV光を反射できるものであれば良く特に限定されないが、ここでは反射型マスクブランクに代表される、EUV光を反射する多層反射膜付き基板について説明する。
図9(A)は、反射型マスクブランクを製造する為の多層反射膜付き基板RMBの要部を示す断面図である。
多層反射膜付き基板RMBは、表面が十分に平坦化された低熱膨張材料からなる基板101の主表面にEUV光を反射する多層反射膜102と、多層反射膜102の保護膜103が、この順に形成されている。一方、前記基板101の多層反射膜102を形成した面とは反対側(裏側)の主表面には、後述の反射型マスクを露光装置のマスクステージに静電的に固定させるための導電膜104が形成されている。同図には、後述する位相欠陥PDTも示されている。
【0041】
以下、この多層反射膜付き基板RMBの基板101等について例を挙げてさらに詳述するが、本発明での被検査基板としては以下の構成に限定されるものではない。
基板101は、表面が十分に平坦化された低熱膨張材料からなるものを用いることが好ましく、例えば、熱膨張係数が、±1.0×10-8/℃以内、好ましくは±5.0×10-9/℃の範囲内であるものが好ましい。また、基板の主表面の表面粗さは、RMS値で0.1nm以下、特に0.05nm以下であることが好ましい。このような表面粗さは、基板の研磨などにより得ることができる。
多層反射膜102は、低屈折率材料からなる層と、高屈折率材料からなる層とを交互に積層させた多層膜であり、露光波長である波長13~14nm(通常、波長13.5nm程度)のEUV光に対しては、例えば、低屈折率材料としてモリブデン(Mo)層と、高屈折率材料としてシリコン(Si)層とを交互に、例えば40周期(各々40層ずつ)程度積層したMo/Si積層膜などが用いられる。多層反射膜の膜厚は、通常280~300nm程度である。
保護膜103は、キャッピング層とも呼ばれ、その上に形成される吸収体パターンの形成や、吸収体パターンの修正の際に、多層反射膜を保護するために設けられる。保護膜の材料としては、ケイ素(Si)、ルテニウム(Ru)、ルテニウム(Ru)にニオブ(Nb)やジルコニウム(Zr)を添加した化合物などが用いられる。保護膜の膜厚は、通常2~5nm程度である。
反射型マスクを露光装置のマスクステージに固定させる導電膜104の膜厚は、通常10~50nm程度であるが、更に厚くする場合もある。
【0042】
位相欠陥PDTとは、基板101の主表面に微細な凹部あるいは凸部が存在したまま多層反射膜102を形成した結果、その上に形成した多層反射膜102から保護膜103に至るまで凹部あるいは凸部が存在する欠陥である。基板101の主表面に微細な凸部又は凹部が存在していても、多層反射膜102の各層を形成する過程で、スムージング効果により、凹形状又は凸形状が緩やかに平坦化し、最終的には多層反射膜102や保護膜103の表面に凹凸形状が現れ難い場合もあるが、そのような場合であっても、多層反射膜102内に微小な凹凸形状が存在していれば、反射光にある程度の位相差を与えて反射率を低下させる位相欠陥となる。また、基板101の主表面が無欠陥であっても、多層反射膜102を形成する途中の段階で微粒子などを巻き込み、以後の成膜で凹凸形状を有する膜を形成すると、これも位相欠陥となる。
【0043】
図9(B)は、位相欠陥PDTが存在したまま、多層反射膜付き基板RMBの上にEUV光を吸収する吸収体膜を形成し、吸収体膜をパターニングして得られる吸収体パターン105を有する反射型マスク106の要部断面を示す。
吸収体パターン105が位相欠陥PDTを被覆するように形成されれば問題は無いが、図9(B)に示すように隣り合う吸収体パターン105間に位相欠陥PDTが露出した状態で存在すると、その深さが例えば1nm程度であっても反射光の位相が乱れて反射率が低下し、パターン投影像に欠陥が生じる。そこで、反射型マスクを製造する前の段階で、この位相欠陥を検出することが極めて重要である。
【0044】
次に、図1を用いて、多層反射膜に存在する位相欠陥を検出するための本発明の基板の欠陥検査装置について説明する。
この検査装置1は、EUV光BM1を発生するEUV光源(プラズマ光源)ILS、被検査基板である多層反射膜付き基板(以下、基板とも言う)RMBを載置するための基板ステージSTG、照明光学系ILO、ミラーM0、結像光学系PRO(ミラーM1、M2)、受光面2を有する2次元アレイセンサー(画像検出器であり、単にセンサーとも言う)SEを主な構成要素とする。そのほか、図示しないが、一般的に検査装置1に含まれる構成要素として、メモリや信号処理回路、装置全体の動作を制御するシステム制御コンピュータ、データ入出力部、欠陥検査画像出力部なども含む。また本発明においては、例えば上記のシステム制御コンピュータ内には、後述する演算処理部3、閾値演算部4、データ取得部5等が含まれている。コンピュータ内のこれらの部のみ図示する。
【0045】
光源ILSには、必要に応じて波長選択フィルター、圧力隔壁手段、または飛散粒子抑制手段などが備えられている。例えばプラズマ方式によりEUV光BM1を発するものである。
照明光学系ILOは光源ILSからのEUV光BM1をミラーM0へ導くものである。図2に照明光学系ILOの例を示す。図2(A)のように2つのミラー(凹面鏡)M3からなる場合や、図2(B)のように1つのミラー(凹面鏡)M3からなる場合がある。
ミラーM0は照明光学系ILOからのEUV光BM1を基板RMBへ照射するものである。
なお、本発明における第1の集光光学系6は照明光学系ILOとミラーM0からなっている。
結像光学系PROはミラー(凹面鏡)M1とミラー(凸面鏡)M2とから構成され、例えば集光NAが0.25、中心遮蔽NAが0.1、倍率が約30倍の暗視野結像光学系を構成するシュバルツシルド光学系である。この結像光学系PROが本発明における第2の集光光学系7に相当する。少なくとも、基板RMBからの反射光のうち、正反射光を除く散乱光(BM2)をセンサーSEに誘導できるようになっている。散乱光BM2は、ミラーM1で捕集されてミラーM2へ反射し、該ミラーM2により反射されて収束してセンサーSEへと導かれるようになっている。
【0046】
なお、前述したミラーM0~M3はEUV光を反射できればよく特に限定されないが、例えば多層反射膜が形成されたミラーとすることができる。効率良くEUV光を反射することができる。基板RMBへのEUV光の照射や、基板RMBからの散乱光のセンサーSEの受光面2への導入をより適切に行うことができるので好ましい。
【0047】
また、上記の第1、第2の集光光学系6、7は、それらの構成を変化させることが可能になっている。ここで言う構成の変化とは、例えば、第1、第2の集光光学系6、7のミラーのうちのいずれか(特にはミラーM0)の位置および姿勢(傾斜角度)を変化させることを言う。ミラーがアームやアクチュエータ等を介して支持されたものとすることができ、それらの制御によりミラーの位置等を所望のように制御可能である。例えば特許文献2に記載のような制御機構とすることができる。
ここで、図1のような散乱光BM2を受光可能な構成(暗視野検査を実施するための光学系の構成)に対し、上記構成の変化により、後述する基板RMBの反射率の測定時の構成(明視野検査を実施するための光学系)の一例を図3に示す。ミラーM0の位置等を変化させたミラーM01の配置により、基板RMBからの反射光のうちの正反射光(BM21)を捕集して収束させてセンサーSEへと導けるようになっている。
【0048】
ステージSTGや、2次元センサーSEは特に限定されず、例えば従来と同様のものを用いることができる。載置された基板RMBを適切に移動させることができたり、基板RMBからの反射光を適切に受光して画像処理できるものであれば良い。
またシステム制御コンピュータ内において、演算処理部3は、センサーSEが受光した散乱光BM2の強度が所定の閾値を超えたときに、基板RMBのEUV光BM1の照射箇所に欠陥が存在すると判断する役割を担っている。
また閾値演算部4は、上記閾値を基板RMBの反射率に基づいて定める役割を担っている。この反射率に基づく閾値の算出プログラムの内容については後述する。
またデータ取得部5は、センサーSEの受光面2での正反射光の受光強度に基づいて反射率を得る役割を担っている。前述した、構成を変化させた第1、第2の集光光学系6、7によって受光した正反射光の受光強度を利用するものである。これにより簡便に基板RMBの反射率を求めることが可能な装置となる。この本発明の欠陥検査装置1自体を用いて基板RMBの反射率を求める場合には必要となる構成であるが、例えば別の反射率計を用いて反射率を測定するのであればデータ取得部5は省略することもできる。
【0049】
ここで暗視野検査の構成におけるEUV光の流れについて説明する。
位相欠陥の有無が検査される多層反射膜付き基板RMBは、基板面内のXY方向およびそれに垂直なZ方向の3軸方向に移動可能であるステージSTG上に載置される。光源から発する中心波長13.5nm程度のEUV光BM1は、照明光学系ILOを通して収束ビームに変換された後、ビームサイズを調整する開口部を通過し、ミラーM0で折り曲げられて基板RMBの所定の領域を照射する。基板RMBの位置は、それを載置して移動するステージSTGの位置情報として得られる。
基板RMBからの反射光のうち位相欠陥で散乱した光(散乱光BM2)は結像光学系PROで捕集され、収束ビームを形成し、2次元アレイセンサーSEに集光する。すなわち、2次元アレイセンサーSEには、基板RMBの暗視野検査像DIMが形成され、その結果、基板RMBに残存する位相欠陥PDTは検査像における無欠陥部でのバックグラウンドレベルBGLの中で輝点SIGとして検出される。検出された位相欠陥の位置および欠陥信号の大きさなどの情報は所定の記憶装置に記憶されるとともに、種々の情報をパターンモニタまたは画像出力部を介して観察することができる。
基板RMBの所定領域内の検査は、例えば、該基板RMBを載置したステージSTGの移動と同期して2次元アレイセンサーSEをTDI(タイム ディレイ アンド インテグレーション)モードで動作させるなど、既知の一般的な手法を採用すればよいので、ここでは説明を省略する。
【0050】
次に、反射率を考慮する意義や、反射率に基づく閾値の設定に関して説明する。
図4は、2次元アレイセンサーで得られる暗視野検査像DIMのうち、位相欠陥部を含むX軸方向ラインに沿って抽出した、暗視野検査像強度分布200を示す説明図である。欠陥周辺部の検査像強度(すなわちBGL)と比べて、位相欠陥部では強度レベルがSIGで示される高い検査像強度が得られ、予め設定された閾値THRより高い強度であれば欠陥の存在が認められる。欠陥が検出される条件は、SIG>THRであり、かつTHRレベルが低いほど微小な位相欠陥の検出性能が向上(検出感度向上)するが、ノイズレベルの検知を防止するために、THR>BGLという条件は必須である。
【0051】
ここで、従来における閾値レベルTHRは、例えば予めサイズの異なる位相欠陥を作り込んだ所定の基板を検査して所定の検出感度が得られるレベルに設定することができる。また、各種の多層反射膜付き基板の暗視野検査信号を収集して、そのバックグラウンドレベルに所定の値を加算したレベルを閾値に設定することもできる。
検査装置におけるこの閾値は検査装置メーカーが準備している。例えば、標準とされる多層反射膜付き基板(具体的にはEUVマスクブランクス用の多層反射膜付き基板)を検査したときに、所定サイズの欠陥を所定の検出確率で検知できるように実験的に決めた値と考えられる。このとき、実際の反射率は65%~67%くらいであり、従来、これを変数として考慮することはなかった。すなわち、従来における閾値の算出においては、上記の標準試料に基づく所定の反射率を前提とし、それ以外の反射率、特には実際に検査にかかる被検査基板ごとの反射率は考慮されていなかった。
【0052】
ところで、暗視野検査で得られるバックグラウンドレベルBGLは、基板RMBの多層反射膜の反射率と表面ラフネスに応じて変化し、反射率が高いほど増加し、表面ラフネスが小さいほど低下する。表面ラフネスが小さい場合、位相欠陥部で得られる検査像強度レベルSIGとの差が大きくなるので、位相欠陥が明瞭に検知できる。すなわち、BGLが低いほど感度の高い検査が可能となる。この状態を図5(A)に示す。ここでは、暗視野検査像強度分布201における位相欠陥部で得られる検査像強度レベルSIG1は図4に示すSIGと同じであり、閾値レベルTHR1も図4に示すTHRと同じである。バックグラウンドレベルBGL1だけが、図4に示すBGLより低い。
しかし、例えば(過剰な)熱処理プロセスを経てミキシング層の厚さが増大し、多層反射膜そのものの反射率が低下した場合は、図5(B)に示すように、暗視野検査像強度分布202におけるバックグラウンドレベルは図4のBGLからBGL2に低下すると共に、位相欠陥部で得られる検査像強度レベルもSIGからSIG2にまで低下する。このSIG2はTHRよりも下になっている。そのため、予め設定された閾値レベルTHRでは欠陥を検出できない場合がある。このような場合は、ノイズレベルの影響を受けない範囲内で、閾値レベルをTHR2に下げないと、通常と同等の検査ができない。
【0053】
すなわち、暗視野検査像のバックグラウンドレベルBGLが変動した場合、その原因が表面ラフネスの変動なのか、多層反射膜の反射率そのものの変動なのかを区別することが必要である。そこで、別途、反射率の情報を入力することでその区別を行ない、最終的に適切な閾値を設定できる。その結果、信頼性の高い位相欠陥検査が実現できる。
反射率は、前述したように、別途、通常の反射率計(反射率測定装置)で得られた値、あるいは、多層反射膜の構造がわかればシミュレーション予測値を採用することができる。また、図1に示す検査光学系においてミラーM0の位置と傾斜角度を可変として明視野検査ができる状態を実現し(すなわち図3の状態)、2次元アレイセンサーSEで得られる検査像強度から反射率に換算した値、とすることも可能である。
【0054】
以下、反射率や閾値についてさらに詳述する。
ここで取り扱う基板RMBの多層反射膜の反射率は、屈折率の異なる2種類の材料(例えば、MoとSi)を交互に積層させたときの膜厚の組合せで決まる。ミキシング層も含め、積層構造にばらつきが無く、かつ表面が完全に平坦であれば、理論上の反射率Rが得られる。
しかし、実際は多層反射膜を形成する基板の表面にわずかな凹凸(表面粗さ)が存在する為、多層反射膜の表面にも凹凸が残存し、反射光はわずかながら散乱する。その結果、鏡面反射方向に反射する光量は減少する。実際に反射光をセンサーで捉えたときに得られる反射率を式で表現すると、以下の式(1)となる。
【0055】
【数1】
ここで、Rは上記の積層構造で決まる理論上の反射率、σrmsは表面粗さ(ラフネス)(標準偏差)、λは照射光(EUV光)の波長を示す。
【0056】
通常のEUVマスク用基板では、σrmsは0.08nm、あるいはそれ以下なので、式(1)の右辺の中括弧{}内の値は、約0.994となる。
本発明における閾値を定める際に考慮される反射率とは、上記の理論上の反射率Rではなく、式(1)で表される反射率を意味し、実効的な反射率と表現できる。
尚、この実効的な反射率(測定した反射率)の求め方は、反射率を測定したい基板の位置にセンサーを配置して収集される照明光の光量をI、基板から鏡面反射する方向(位置)にセンサーを配置して収集される反射光(正反射光)の光量をIとするとき、以下の式(2)のように定義される。
(I/I)×100(%) …… 式(2)
【0057】
なお、図3に示すような光学系の構成で測定する場合は、簡便にIとして、センサーで受光した正反射光の光量(受光強度)とすることもできる。
【0058】
また、ここで前提として閾値の定義を説明する。
暗視野検査装置で位相欠陥を検出すると、前述したように欠陥の無い部分ではバックグラウンドレベルBGLが、欠陥の存在する部分では欠陥信号レベルSIGが得られる。SIGは欠陥サイズが大きくなるほど高いレベルになる。
ここで、BGLは上記の理論上の反射率Rを用いて次の式(3)のように表される。
【0059】
【数2】
ここで、積分範囲は検査装置が捕集し得る空間周波数fの範囲であり、PSD(f)はマスクブランク表面のラフネスを表すパワースペクトル密度である。
ここでは簡便に上記のように「ラフネス成分」とその概念を示して表す。上記ラフネス成分は、通常0.2%(=0.002)以下の範囲にある。
【0060】
一方、欠陥信号SIGは欠陥形状(サイズ等)に依存して様々に変化するので、その概念を示すと以下の式(4)となる。
SIG=BGL+(位相欠陥による散乱成分)
∝R×(ラフネス成分)+R×(位相欠陥サイズ成分) …… 式(4)
【0061】
このように式(4)の右辺第2項は、理論上の反射率Rと欠陥サイズに依存した成分の積になっている。
【0062】
ところで閾値とは、許容される位相欠陥(一般的に小さい欠陥)と許容されない位相欠陥とを区別する為の信号レベルのことで、図4では、閾値をTHRと表し、BGLよりは高く、許容されないサイズの位相欠陥の信号成分SIGより低い値になっている。SIGがTHRを超えたときに、位相欠陥として検知することになる。
上記の閾値THRはゼロレベルを基準とする値で定義しているが、バックグラウンドレベルBGLを基準としてその差で定義する場合もある。その場合、上記の式(4)のSIGが「SIG≦BGL+閾値」であれば許容される欠陥であって検出されなくてもよく、「SIG>BGL+閾値」であれば、検出されるべき欠陥であることを示す。
上記を式(4)と比較すると、以下のように表現される。
閾値=R×(許容される最大サイズ欠陥の成分) …… 式(5)
【0063】
式(5)から、閾値は理論上の反射率Rと許容欠陥サイズに依存した成分の積となる。例えば通常のEUVマスクブランクでは、Rは67%~69%くらいであり、これが一定であれば、閾値は欠陥サイズのみに依存する値になる。しかし、Rが変化する場合はそれを求める必要がある。
【0064】
ここで、前述したように本発明では理論上の反射率Rではなく、式(1)の反射率(実効的な反射率)の値を取り扱うことになる。したがって、その実効的な反射率をR’とおけば、本発明における反射率を考慮した閾値の設定値は、予め設定していた閾値(すなわち、前述したような、検査装置メーカーに準備された(検査装置メーカーが推奨する)、所定の反射率に基づく閾値)に、R’/Rを乗じた値となる。
尚、上記のように閾値がバックグラウンドレベルBGLとの差である場合ではなく、ゼロレベルを基準とする値として定義する場合は、前記のバックグラウンドレベルBGLとの差で定義した閾値の設定値にBGLを加算した値となる。
【0065】
また、上記のR’/Rを乗じる閾値の計算において、理論上の反射率R自体は被検査基板の構造自体から公知の計算方法によって計算することができる。具体的には、多層反射膜を構成する個々の材料の光学定数(複素屈折率)とその膜厚、多層反射膜を形成する基板の光学定数、及び、EUV光の入射角度(多層反射膜の表面の面法線に対する角度)を指定することにより、反射率を計算することができる。このような計算によって被検査基板ごとに逐次求めても良いが、これに限定されず、簡便に、理論上の反射率Rの値を例えば66%として上記のR’/R(この場合はR’/(66%))を乗じる閾値の計算を行うことも可能である。
また、上記のようにバックグラウンドレベルBGLとの差で定義された閾値を、ゼロレベルを基準とした値にするためにBGLを加算する場合、そのBGL自体は式(3)(ただし、式中、Rの代わりにR’を代入する)により求めることができる。その他、最終的な値(閾値+BGL)を設定する前に、検査装置でBGL自体を得るために予備的な検査を行い、被検査基板の欠陥以外の部分の検査信号を得てBGLとすることもできる。
【0066】
前述した検査装置メーカーによる従来の予め設定していた閾値においては、まず式(1)から測定した実効的な反射率=0.994×R以上となり、実質的に(実効的な反射率)≒Rとなることから、例えば(実効的な反射率)≒R=66%と想定し、閾値(BGLとの差で定義)は検出感度を考慮して実験的に求めて、これを検査装置メーカーが推奨する閾値としていた。しかし本発明においては、繰り返して説明しているように、実効的な反射率に基づき閾値を設定する。一例として、検査装置メーカーの推奨する閾値にR’/R(R’/(66%))を乗じた値とすることができる。
なお、測定して得られた実効的な反射率の値に応じて閾値を設定すればよく、実効的な反射率の値によっては、予め設定されていた閾値をそのまま用いることも当然可能である。例えば実効的な反射率の数値範囲が66±0.5%の範囲内の場合は、閾値は予め設定されていた値で設定することができる。
【0067】
以上、反射率や閾値の定義や求め方について詳述してきたが、システム制御コンピュータ内のデータ取得部5や閾値演算部4では上記のような式等を用いたプログラムの下、反射率の測定や閾値の算出、設定が可能になっている。
【0068】
このような欠陥検査装置であれば、暗視野検査において、被検査基板の反射率に基づいて閾値が定められる装置であるので、適切な閾値が設定されたものとなり、信頼性の高い位相欠陥検査を行うことができる。
【0069】
ところで、第1、第2の集光光学系6、7においては、複数のミラーで構成した例を示したが、この他、一部のミラーの代わりにゾーンプレートを用いた構成とすることもできる。図8にその構成の一例を示す。第1の集光光学系のうち、1つ以上のミラーを使用した照明光学系ILOの代わりにゾーンプレート8を配置している。このゾーンプレート8は、EUV光に対して比較的透過率の高い(透明に近い)基板、例えばSi系の薄膜上にピッチが半径に依存して異なる同心円状の吸収材料パターンを形成したものが挙げられる。透過率が約10%の凸レンズの機能を有することができる。
【0070】
次に、図1の本発明の欠陥検査装置1を用いた、本発明における基板の欠陥検査方法について説明する。
(実施の形態1)
位相欠陥の検査のフローの一例を図6に示す。まず、ステップS101(反射率取得工程)で被検査基板RMBの反射率を計測する。なお、後述するS105で暗視野検査をする被検査基板と同様のプロセスで作製した基板を用いて計測することができる。計測に関しては、例えば市販の反射率計での計測値、また、精度の確保が明らかな場合は成膜プロセスからの予測値やシミュレーション予測値も適用可能である。
【0071】
次に、ステップS102で被検査基板を位相欠陥検査装置に載置し、更に上記の計測した反射率の情報を入力する(ステップS103)。更に暗視野検査で位相欠陥の存在を認識する為の閾値を設定する(閾値演算部4により反射率から閾値を求め、設定することができる)(ステップS104:閾値演算工程)。その後、ステップS105にて、検査装置1を用いて被検査基板の所定領域内の位相欠陥検査を行なう。すなわち、EUV光源ILSからEUV光BM1を発し、第1の集光光学系(照明光学系ILO、ミラーM0)を介して基板RMBに照射し、その散乱光BM2を第2の集光光学系(ミラーM1、M2)を介してセンサーSEの受光面で受光する。そして、演算処理部3により、受光した散乱光BM2の強度が、ステップS104で設定した閾値を超えたときに位相欠陥が存在すると判定する。位相欠陥が検出されると、その位置および欠陥信号の大きさなどの情報は所定の記憶装置に記憶されるので、被検査基板における新たな欠陥情報が記憶されたか否かを調べ(ステップS106)、新たな情報が記憶されていたら、位相欠陥有りと判断して欠陥検出情報を纏めて所定の記憶部に格納する(ステップS107)。一方、ステップS106で新たな情報が記憶されていない場合は、位相欠陥無しと判断して無欠陥である旨の情報を所定の記憶部に格納する(ステップS108)。
以上により、位相欠陥検査を終了する。
【0072】
(実施の形態2)
前述した実施の形態1では、被検査基板である多層反射膜付き基板の反射率測定を反射率計を用いて計測する例について説明したが、ここでは欠陥検査装置1の検査光学系を用いて行う方法で実施する例について説明する。
すなわち図3の光学系の構成を用いた例である。図3は、前述したように図1に示す位相欠陥を検査する検査光学系のうち、ミラーM0を含む第1の集光光学系の一部と、ミラーM1とM2から構成される結像光学系PRO(第2の集光光学系)近傍の部分を抽出して示した図である。同図に示す符号は図1における対応する符号と同一である。この光学系のうち、平面形状のミラーM0の位置と姿勢を変えて、被検査基板RMBから鏡面反射するEUV光の正反射光を結像光学系PROに取り込むように構成した状態を示している。
【0073】
この場合、被検査基板から反射した正反射光BM21は、結像光学系PROの半分の領域を用いて2次元アレイセンサーに向かう収束光となる。図3図1と比較すると、多層膜ミラーM0がM01に、2次元アレイセンサーに向かう散乱光BM2が正反射光BM21に変わっているが、他の変更は無い。この明視野検査光学系を用いて2次元アレイセンサーで得られる検査像の強度は、基本的に被検査基板の反射率に比例した値を示す。比例係数は、反射率が既知の基板を検査することで較正することができる。
明視野検査信号の収集にあたっては、被検査基板を載置したステージを移動して被検査基板の所望の領域内における明視野検査信号を連続的に、あるいは断続的に収集し、所定の領域内での検査信号の平均をとって反射率を算出することができる。
尚、ミラーM0とM01における平均入射角度は異なるが、本実施例の範囲では同一のミラーを用いても反射率の顕著な低下は無い。
【0074】
上記の光学系を用いた位相欠陥の検査のフローを図7に示す。まず、ステップS111で被検査基板を位相欠陥検査装置1に載置する。次にステップS112で、ミラーM0をM01の位置に移動して被検査基板を照射するEUV光の入射角度を調整し、図3に示す明視野光学系を実現する。その後、被検査基板の明視野検査信号を収集して(ステップS113)、次いで、被検査基板のEUV光の反射率を算出し検査装置の所定の記憶部に格納する(データ取得部5)(ステップS114:反射率取得工程)。反射率の情報収集が終了した後、ステップS115でミラーM01をM0に戻して被検査基板を照射するEUV光の入射角度を復帰させて暗視野検査光学系を実現する。
【0075】
その後、得られた反射率から暗視野検査で用いる閾値を設定して(ステップS104:閾値演算工程)、被検査基板の所定領域内の位相欠陥検査を行うフローは、実施の形態1で図6を用いて説明したフロー(ステップS105以降)と同一である。したがって、図7では、閾値の設定をステップS104と表示し、以降のフローは図6と同一なので省略した。
【0076】
尚、被検査基板の反射率に関して、例えば検査領域全面での平均値とすることができるが、被検査基板の反射率は一般的に面内で分布を持つ。もちろん反射率の要求仕様を満たす範囲内であるが、暗視野検査の為の閾値をより厳密に設定する為には、検査領域を適当なサイズの領域ごとに反射率の情報を収集し、閾値をその領域ごとに設定しても良い。例えば、被検査基板の検査領域を予め指定した小領域に分割して、小領域ごとに平均化した反射率を求め、各小領域に対応する閾値を設定することができる。この場合、小領域ごとに閾値は異なり、より検出感度を適正化した位相欠陥検査を行うことができる。
【0077】
以上のように、EUV光を反射する被検査基板(特には多層反射膜付き基板)の位相欠陥を、EUV光を検査光とする暗視野検査で検出する際に、本実施の形態により、検出感度を決める閾値を適切に設定できるので、信頼性の高い位相欠陥検査を実現できる。
また、閾値の設定による検出感度の適正化により、所定サイズより大きい位相欠陥を検出し、その欠陥を含む多層反射膜付き基板を排除して、実効的に無欠陥の多層反射膜付き基板を選択してEUVマスクブランク、EUVマスクを提供することができる。
【実施例
【0078】
以下、実施例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例)
図1に示す検査装置1を用い、図6に示す検査方法のフローに従って位相欠陥の検査を行う。すなわち、被処理基板の反射率を考慮して閾値を設定した上で検査を行う。
ここでは被検査基板として図9(A)に示すような、低熱膨張基板上にモリブデン(Mo)層とシリコン(Si)層とを交互に40周期積層し、更にRu膜を形成した、多層反射膜付き基板を用いた。
表面ラフネスは、同一プロセスで作製した別の多層反射膜付き基板の表面を原子間力顕微鏡(AFM)で計測し、rms表示で0.08nmなる値を得たが、これは参考値にとどめた。図1に示す本発明の検査装置1で位相欠陥検査(暗視野検査)を行うにあたり、予め、その直前に前記の多層反射膜付き基板のEUV光の反射率を測定した。この測定には、EUV-Tech社の反射率計を用い、被検査基板の検査領域内の反射率の平均値を求め、6度の入射角度において66.5%なる値を得た。
【0079】
次に、図1に示す検査装置1で位相欠陥検査(暗視野検査)を行うために、上記の反射率を計測した被検査基板を検査装置のステージに載置し、反射率の情報を入力した後に閾値を設定し、以後、検査装置の検査手順に従って、被検査基板の所定の領域内の位相欠陥検査を実施した。
ここで、反射率を測定したときのEUV光の入射角度は6度であったが、図1に示す暗視野での欠陥検査装置の照射光の主光線の入射角度は0度である。ただし、実際の照射光は収束光になっており、実際の入射角度はおおよそ0±5度の範囲にある。また、本実施例で対象とする多層反射膜の入射角度に依存した反射率の変化はその周期長からおおよそ既知であり、入射角度が6度の場合の反射率がわかれば、位相欠陥検査装置の照射角度における反射率はわかるので、その反射率の情報から、閾値を予め設定した値(検査メーカーが推奨する従来の閾値)で良いか、あるいは変化させるべきか判断できる。上記の場合は、所定の範囲内の反射率が得られたので、閾値の値は変更せずあらかじめ設定してある値を用いた。
【0080】
次に、幾つかの異なる熱処理を施した多層反射膜付き基板についても、同様の位相欠陥検査を実施した。熱処理プロセスを経ることにより、基板表面の欠陥部の凹凸形状やラフネスに大きな変化はなかったが、多層反射膜内のミキシングが進み、反射率が64.5%に低下した。そこで、前記と同様に反射率計測結果を入力した後に、閾値の調整を行い(すなわち、検査メーカーが推奨する従来の閾値に対して、前述したR’/Rを乗じた値に設定し直す)、被検査基板の所定の領域内の位相欠陥検査を実施した。実際にバックグラウンドレベル等を評価すると、その低下は図5(B)に示す場合に相当する結果となっていた。つまり、従来の閾値の設定値のままでは欠陥を検出できなかったはずであるが、上記のように予め反射率に基づいて閾値を調整したことにより、欠陥を検出することができた。本発明が有効に働き、より一層適切な検出感度で検査をすることができた。
【0081】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0082】
1…本発明の欠陥検査装置、 2…センサーの受光面、 3…演算処理部、
4…閾値演算部、 5…データ取得部、 6…第1の集光光学系、
7…第2の集光光学系、 8…ゾーンプレート、
101…低熱膨張材からなる基板、 102…多層反射膜、 103…保護膜、
104…導電膜、 105…吸収体パターン、 106…反射型マスク、
200、201、202…暗視野検査像強度分布、
BGL、BGL1、BGL2…バックグラウンドレベル、
BM1…EUV光、 BM2…散乱光、 BM21…正反射光、
DIM…暗視野検査像、 ILO…照明光学系、 ILS…EUV光源、
M0、M01、M1、M2、M3…ミラー、
PDT…位相欠陥、 PRO…結像光学系、 RMB…多層反射膜付き基板、
SE…2次元アレイセンサー、
SIG、SIG1、SIG2…欠陥の輝度信号レベル、 STG…基板ステージ、
THR、THR1、THR2…閾値。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9