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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】癌リスクの判定方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/04 20060101AFI20231211BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20231211BHJP
   C12Q 1/34 20060101ALI20231211BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALN20231211BHJP
   C12Q 1/6876 20180101ALN20231211BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C12Q1/04 ZNA
C12Q1/06
C12Q1/34
C12Q1/686 Z
C12Q1/6876 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020515587
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017806
(87)【国際公開番号】W WO2019208738
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018084480
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598170338
【氏名又は名称】日本ケフィア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【弁理士】
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲治
(72)【発明者】
【氏名】谷 亮治
(72)【発明者】
【氏名】松井 健作
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 浩一郎
(72)【発明者】
【氏名】大友 剛
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特表2015-520176(JP,A)
【文献】Sci. Rep.,2017年,vol.7, no.11773,pp.1-10
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者に由来する口腔内細菌叢を分析して、癌リスク群に属するかを判定する方法であって、
口腔内細菌叢の菌の存在比(百分率)を特定し、得られた存在比の数列のデータを、菌叢比率Pとしたときに、
癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、複数人の癌患者について得る工程、
健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、複数人の健常人について得る工程、
被験者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ptを、得る工程、
複数人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出する工程、
複数人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出する工程、
DpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する工程、を含み、
癌が、口腔癌である、判定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の判定方法であって、
口腔内細菌叢の菌について、次の分類に従ってその存在比(百分率)を特定し、
Streptococcus : pa
Streptococcus,Eubacterium : pb
Streptococcus,Veillonella : pc
Parvimonas : pd
Fusobacterium,Neisseria : pe
Porphyromonas,Prevotella : pf
Filifactor : pg
Unknown : ph
得られた数列(pa,pb,pc,pd,pe,pf,pg,ph)を、菌叢比率Pとしたときに、
癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、複数人の癌患者について得る工程、
健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、複数人の健常人について得る工程、
被験者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ptを、得る工程、
複数人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出する工程、
複数人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出する工程、
DpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する工程、を含む、判定方法。
【請求項3】
請求項1~2のいずれかに記載の判定方法であって、
癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、i人(ただし、iは20以上の整数)の癌患者について得る工程、
健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、j人(ただし、jは5以上の整数)の健常人について得る工程、
被験者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ptを、得る工程、
i人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出する工程、
j人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出する工程、
DpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する工程、を含む、判定方法。
【請求項4】
iが、24以上の整数であり、jが、7以上の整数である、請求項3に記載の判定方法。
【請求項5】
口腔内細菌叢の菌の存在比(百分率)の特定が、16SrRNA遺伝子に対する制限酵素切断断片の分析によって行われる、請求項1~4のいずれかに記載の判定方法。
【請求項6】
制限酵素切断に使用される制限酵素が、以下の制限酵素からなる群から選択された制限酵素を含む、請求項5に記載の判定方法:
HhaI、Msp(I)、及びAlu(I)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被験者に由来する口腔内細菌叢を分析して、癌リスク群に属するかを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌を早期に発見して治療することは、癌治療のために重要である。癌の発見のために、より負担が少なく、より簡便な検査方法やスクリーニング方法が求められている。
【0003】
口腔内の細菌叢が、虫歯や歯周病に対して影響があることが知られている。この観点から口腔内の細菌叢を、改善しようとする試みがなされている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-320275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、癌の発見のために使用可能な、新規な判定方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、癌治療の臨床に携わり、長年の間、鋭意研究してきたところ、被験者に由来する口腔内の細菌叢に存在する細菌の組成を、後述の手段で解析すると、癌リスク群に属するか否かを高い信頼性で判定できることを見いだして、本発明に到達した。
【0007】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
被験者に由来する口腔内細菌叢を分析して、癌リスク群に属するかを判定する方法であって、
口腔内細菌叢の菌の存在比(百分率)を特定し、得られた存在比の数列のデータを、菌叢比率Pとしたときに、
癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、複数人の癌患者について得る工程、
健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、複数人の健常人について得る工程、
被験者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ptを、得る工程、
複数人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出する工程、
複数人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出する工程、
DpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する工程、を含む、判定方法。
(2)
(1)に記載の判定方法であって、
口腔内細菌叢の菌について、次の分類に従ってその存在比(百分率)を特定し、
Streptococcus : pa
Streptococcus,Eubacterium : pb
Streptococcus,Veillonella : pc
Parvimonas : pd
Fusobacterium,Neisseria : pe
Porphyromonas,Prevotella : pf
Filifactor : pg
Unknown : ph
得られた数列(pa,pb,pc,pd,pe,pf,pg,ph)を、菌叢比率Pとしたときに、
癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、複数人の癌患者について得る工程、
健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、複数人の健常人について得る工程、
被験者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ptを、得る工程、
複数人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出する工程、
複数人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出する工程、
DpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する工程、を含む、判定方法。
(3)
癌が、口腔癌である、(1)~(2)のいずれかに記載の判定方法。
(4)
(2)~(3)のいずれかに記載の判定方法であって、
癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、i人(ただし、iは20以上の整数)の癌患者について得る工程、
健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、j人(ただし、jは5以上の整数)の健常人について得る工程、
被験者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ptを、得る工程、
i人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出する工程、
j人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出する工程、
DpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する工程、を含む、判定方法。
(5)
iが、24以上の整数であり、jが、7以上の整数である、(4)に記載の判定方法。
(6)
口腔内細菌叢の菌の存在比(百分率)の特定が、16SrRNA遺伝子に対する制限酵素切断断片の分析によって行われる、(1)~(5)のいずれかに記載の判定方法。
(7)
制限酵素切断に使用される制限酵素が、以下の制限酵素からなる群から選択された制限酵素を含む、(6)に記載の判定方法:
HhaI、Msp(I)、及びAlu(I)。
【0008】
本発明は、上述の判定方法を含む。さらに上述の工程を含む、癌のスクリーニング方法、検査方法、菌叢比率マハラノビス距離判定法、菌叢比率距離判定法、菌叢判別分析距離判定法、菌叢判別分析マハラノビス距離判定法をも含む。
【0009】
好適な実施の態様において、本発明は、上記の判定方法を含み、この判定方法からなる予測方法、推定方法、評価方法、検出方法、決定方法、分析方法、検査方法、診断方法、分類方法、分別方法、選別方法、識別方法、及び判別方法を含む。
【0010】
好適な実施の態様において、口腔内細菌叢の菌の存在比(百分率)の特定に先だって、癌患者及び健常人に由来する口腔内細菌叢を、分析のための試料として、癌患者の口腔内のプラークから採取する工程を行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、被験者に由来する口腔内細菌叢を分析して、癌リスク群に属するかを高い信頼性で判定することができる。口腔内細菌叢は、口腔内のプラークから採取して同定することができ、被験者の負担が少なく簡便に採取することができ、癌のスクリーニングのために、好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1はデンタルプラーク採取からT-RFLPまでの実験プロトコールの流れを示す説明図である。
図2図2はデンタルプラーク採取の様子を示す説明画像である。
図3図3は判別分析法による未治療の口腔癌患者群と健常人群における口腔内細菌叢の占有率の検討の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0014】
[癌リスク群に属するかの判定方法]
本発明によれば、口腔内細菌叢の菌の存在比(百分率)を特定し、得られた存在比の数列のデータを、菌叢比率Pとしたときに、癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、複数人の癌患者について得る工程、健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、複数人の健常人について得る工程、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ptを、得る工程、複数人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出する工程、複数人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出する工程、DpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する工程、を含む方法によって、被験者に由来する口腔内細菌叢を分析して、癌リスク群に属するかを判定することができる。
【0015】
本発明の好適な実施の態様において、癌が口腔癌であり、癌患者が口腔癌患者であり、癌リスク群が口腔癌リスク群である。
【0016】
[口腔内細菌叢の菌の存在比]
好適な実施の態様において、口腔内細菌叢の菌について、次の分類に従ってその存在比(百分率)を特定し、
Streptococcus : pa
Streptococcus,Eubacterium : pb
Streptococcus,Veillonella : pc
Parvimonas : pd
Fusobacterium,Neisseria : pe
Porphyromonas,Prevotella : pf
Filifactor : pg
Unknown : ph
得られた数列(pa,pb,pc,pd,pe,pf,pg,ph)を、菌叢比率Pとして使用して、統計分析に供することができる。上記分類において、例えば、Streptococcusはこの比率paとして存在比が特定されるが、例えば、StreptococcusとEubacteriumとは、これらをあわせた比率pbとして、その存在比が特定される。Unknownの分類には、上記の菌として特定できなかったその他の菌が分類される。上記の細菌の分類に着目して、統計分析することによって、癌との関連が明らかにした先行研究は、これまでにない。特に、口腔癌患者特有の口腔内細菌叢の構造(比率)が存在していて、それが健常人の口腔内細菌叢の構造(比率)とは異なることを高い精度で判別できることを示した先行研究は、これまでにない。したがって、判別分析の手法として、上述したマハラノビス距離の算出と本質的に同じ対比を行って判別する技術もまた、本発明の範囲内にある。
【0017】
好適な実施の態様において、癌患者に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Ppを、i人(ただし、iは20以上の整数)の癌患者について得るものとすることができ、好ましくは、iは24以上の整数とすることができる。iは特に上限はないが、例えば1000以下、100以下とすることができる。
【0018】
好適な実施の態様において、健常人に由来する口腔内細菌叢の菌についての菌叢比率Pnを、j人(ただし、jは5以上の整数)の健常人について得るものとすることができ、好ましくは、jは7以上の整数とすることができる。jは特に上限はないが、例えば1000以下、100以下とすることができる。
【0019】
[マハラノビス距離]
マハラノビス距離は、公知の手段によって算出することができ、例えば統計解析ソフトを用いて算出することができる。統計解析ソフトとして、例えばJMP ver12.0(SAS Instiute Japan株式会社製)をあげることができる。
【0020】
マハラノビス距離は、データ群のなかのあるデータが、そのデータ群の重心からどの程度の距離かを示す指標となっている。したがって、複数人の癌患者由来菌叢比率Ppのデータ群(Ppデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群について、その重心からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dp)を算出することで、Ptが癌患者由来菌叢比率にどの程度近いかを示す指標を算出することができる。同様に、複数人の健常人由来の菌叢比率Pnのデータ群(Pnデータ群)に被験者由来の菌叢比率Ptのデータを加えたデータ群について、その重心からの菌叢比率Ptのマハラノビス距離(Dn)を算出することで、Ptが健常人由来菌叢比率にどの程度近いかを示す指標を算出することができる。本発明においては、このDpがDnよりも小さい場合に、被験者に由来する口腔内細菌叢の菌叢構造が、癌リスク群に属すると判定する。
【0021】
一見して明らかであるように、このデータ群に含まれるデータ数が増加すればするほど、この判定の信頼性が高まってゆくことが期待される。そこで、Ppデータ群に含まれる人数は、例えば、20人以上、24人以上とすることができるが、上限なく使用することができる。また、Pnデータ群に含まれる人数は、例えば、5人以上、7人以上とすることができるが、上限なく使用することができる。
【0022】
[口腔内細菌叢の菌の存在比の特定手段]
好適な実施の態様において、口腔内細菌叢の菌の存在比の特定を、16SrRNA遺伝子に対する制限酵素切断断片の分析によって行うことができる。16SrRNA遺伝子に対する制限酵素切断断片の分析としては、公知の手段を用いることができる。例えば、16SrRNA遺伝子の該当部位を公知のプライマーを用いてPCR増幅を行って、制限酵素切断を行ってその断片を分析することで行うことができる。制限酵素としては、例えば、HhaI(5′-GCG|C-3′)、Msp(I)(C/CGG)(GGC/C)、Alu(I)(AG/CT)(TC/GA)をあげることができる。
【実施例
【0023】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0024】
[臨床研究]
口腔内細菌叢の菌叢構造と、口腔癌との関連を検討するために、臨床研究を行った。
癌患者の登録は、広島大学臨床研究倫理審査委員会承認臨床研究(許可番号C-102)、健常人の登録は同疫学研究(許可番号疫受-1979)に基づき、それぞれ同意を得た後に行った。
【0025】
[口腔癌患者ならびに健常人の背景]
口腔癌患者ならびに健常人の背景を、以下の表1及び表2にまとめて示す。
【0026】
【表1】
【0027】
【表2】
【0028】
[デンタルプラークの採取]
治療開始前の口腔癌患者24名ならびに健常人7名よりデンタルプラーク(歯垢)を採取した。デンタルプラーク採取は滅菌綿棒を用いて歯面より採取し、-80℃にて保存した。なお、デンタルプラークからの細菌叢を口腔内細菌叢とした。この実験プロトコールを図1にまとめて示す。デンタルプラーク採取の様子を示す写真を図2に示す。
【0029】
[T-RFLP法による菌叢比率の特定]
デンタルプラーク検体から、以下の手順によって菌叢中の菌の存在比率を特定した。
デンタルプラークのDNA抽出はMORA-EXTRACT kit(Kyokuto Pharmaceutrical,Japan)を用いて行い、ライシスバッファー200μL中に採取に用いた綿棒を浸漬した。液全量をビーズ充填チューブに移し、70℃、10分保ち溶菌を促進させた。ディスラプター・ジェニー(Scientific Industries)を用いて2分間破砕処理した。破砕処理後、SDS溶液200μLを加え、再び70℃、10分にて溶菌を促進させた。フェノール400μLを加え1分間Vortexした後、15,000rpmで3分間遠心、上清をDNA液として回収した。DNA精製はエタノール沈殿法により行った。
デンタルプラーク検体の16SrDNAのPCR増幅はSakamotoらの方法に準じて行った(Sakamoto et al.,2004)。PCR反応は2400 thermal cyclerを用い、Hot-Star Taq DNAポリメラーゼ(Qiagen,Tokyo,Japan)を用いた。
プライマーセットには6-FAM標識した27F(5′-AGAGTTTGATCCTGGCTCAG-3′)と1492R(5′-GGTTACCTTGTTACGACTT-3′)を用いた。プレヒーティング95℃で15分行い、95℃で30秒、50℃で30秒、72℃で90秒を1サイクルとした増幅反応を30サイクル行い、末端伸長反応を72℃で10分行いPCR産物を得た。PCR産物は、PEG沈殿法(Hiraishi et al.,1995)によって精製した。
制限酵素はSakamotoらの方法に準じて選択した(Sakamoto et al.,2004)。20U/10μLのHhaI(5′-GCG|C-3′,Takara Shuzo)を37℃で3時間消化した。得られた蛍光標識された末端制限断片(T-RF)をABIPRISM 3130xl遺伝子解析装置(Applied Biosystems)で解析し、遺伝子型ソフトウェアGeneMapper 4.0(Applied Biosystems)を用いてその長さおよびピーク面積を決定した。OTUは、全OTU領域あたりの個々のOTUのパーセンテージとして定量化し、これは曲線下面積のパーセンテージ(%AUC)として表した。各分類単位について細菌を予測し、対応するOTUを坂本らの報告に従って同定した(Sakamoto et al.,2004)。
上記検出された口腔内細菌叢の細菌を、表3に示す。
上記実験条件の詳細を、表4にまとめて示す。
上記得られた口腔内細菌叢の菌の組成を、表5にまとめて示す。
【0030】
【表3】
【0031】
【表4】
【0032】
【表5】
【0033】
[統計学的解析]
統計学的解析として、異なる群間における菌叢構造の違いを検討するためマハラノビスの距離を求めて、判別分析を行った。判別分析は、多種類のデータに基づいて被検者を特定の群に判別することや、判別に強い影響を及ぼすデータを検討するのに用いられる多変量解析法である。判別分析は統計解析ソフトJMP ver12.0(SAS Instiute Japan株式会社製)を使用した。統計解析ソフトJMP ver12.0は、特に記載のない限り、デフォルトの設定を使用した。
【0034】
マハラノビス距離を用いた判別分析によって、以下のマハラノビス距離を算出し、距離が小さい群の方を予測値として判定した。すなわち、マハラノビス距離が小さい方の群に属すると判定した。
SqDist(口腔癌患者群): 口腔癌患者群の重心から各測定値までのマハラノビス距離
SqDist(健常人群): 健常人群の重心から各測定値までのマハラノビス距離
【0035】
判別分析法による未治療の口腔癌患者群と健常人群における口腔内細菌叢の占有率の検討の結果を、図3に示す。
判別分析法において、未治療の口腔がん患者群の口腔内細菌叢の構成比率を示す95%信頼楕円(点線)と健常人群の口腔内細菌叢の構成比率を示す95%信頼楕円(実線)が重なっていないことから、未治療の口腔癌患者の口腔内細菌叢は、健常人群の口腔内細菌叢の構成比率とは有意に異なり、構造異常(dysbiosis)の状態であった。
【0036】
マハラノビス距離を用いた基準データの判別分析の結果を、表6にまとめて示す。表6の最上段の用語の意味は、次の通りである。
SqDist(口腔癌患者): 口腔癌患者群の重心から各測定値までのマハラノビス距離
SqDist(健常人): 健常人群の重心から各測定値までのマハラノビス距離
Prob(口腔癌患者): 口腔癌患者群カテゴリーに含まれる確率
Prob(健常人): 口腔癌患者群カテゴリーに含まれる確率
Pred列2: 属している確率が最も高いと判断された群
【0037】
【表6】
【0038】
[マハラノビス距離による新たな被験者の判定試験]
31名(口腔癌患者24名、健常人7名)の口腔内細菌叢のデータから作成した判別分析が口腔癌患者の診断として有用かどうかを検討するために、31名(口腔癌患者24名、健常人7名)以外の新たな口腔癌患者の口腔内細菌叢のデータをマハラノビス距離にて判別分析で解析したところ、9人中8人を正しく判定することが可能であった。
【0039】
新たな被験者9名の口腔内細菌叢の菌叢の組成を、表7にまとめて示す。この菌叢の組成に基づいて、新たな被験者に対して行った判定試験の結果を、表8にまとめて示す。
【0040】
【表7】
【0041】
【表8】
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、癌の発見のために使用可能な、新規な判定方法を提供する。本発明は、産業上有用な発明である。
図1
図2
図3
【配列表】
0007399398000001.app