(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】癌治療後に予後良好群に属するかを判定する方法、及び若年性癌発症リスク群に属するかを判定する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/6886 20180101AFI20231211BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20231211BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231211BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z ZNA
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2020515588
(86)(22)【出願日】2019-04-25
(86)【国際出願番号】 JP2019017807
(87)【国際公開番号】W WO2019208739
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018084491
(32)【優先日】2018-04-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】598170338
【氏名又は名称】日本ケフィア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002332
【氏名又は名称】弁理士法人綾船国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100127133
【氏名又は名称】小板橋 浩之
(72)【発明者】
【氏名】岡本 哲治
(72)【発明者】
【氏名】谷 亮治
(72)【発明者】
【氏名】徳丸 浩一郎
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0218635(US,A1)
【文献】国際公開第2002/053018(WO,A2)
【文献】D. Chen, et al.,Cancer Medicine,2014年,Vol.3, No.1,p.190-198
【文献】S. Tamaki, et al.,J Oral Pathol Med,2007年,Vol.36,p.351-356
【文献】A. Lazaryan, et al.,Blood,2009年,Vol.114, No.22,Abstract 1094
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00ー3/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定することによって、被験者が、癌治療後に予後良好群に属するかを判定する方法
であって、
癌がヒト口腔癌であり、
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型をホモ接合体で有する場合に、予後良好群に属すると判定する、判定方法。
【請求項2】
予後良好群が、5年後生存率95%以上の群である、
請求項1に記載の判定方法。
【請求項3】
被験者が、癌患者、又は健常人である、
請求項1~2のいずれかに記載の判定方法。
【請求項4】
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定することによって、被験者が、若年性癌発症リスク群に属するかを判定する方法
であって、
癌がヒト口腔癌であり、
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型のホモ接合体を有するか、又はA5.1型とA5型とのヘテロ接合体を有する場合に、若年性癌発症リスク群に属すると判定する、判定方法。
【請求項5】
若年性癌発症リスク群が、20~39歳での癌発症リスク群である、
請求項4に記載の判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、癌治療後に予後良好群に属するかを判定する方法、及び被験者が若年性癌発症リスク群に属するかを判定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
癌治療の予後が良好か否かについて予測することができれば、癌治療後にどの程度の頻度で検査等を行うべきか等をより効果的に計画することができ、QOLの観点や医療資源の配分の観点から望ましい。
【0003】
また、癌発症のリスクがどの程度あるか、あるいはそれが生涯のどの時期になるかについて、予測することができれば、どの程度の頻度で検査等を行うべきか等をより効果的に計画することができ、QOLの観点や医療資源の配分の観点から望ましい。
【0004】
MICA遺伝子(MHC class I chain-related gene A)産物は、NK細胞やγδT細胞などの活性化NK細胞レセプターNKG2Dのリガンドであり、同受容体を介した活性化シグナルはウイルスに対する感染免疫や自己免疫疾患などの多彩な免疫応答に寄与しているとされる。このため、MICA遺伝子あるいはその遺伝子産物は、治療薬の作用の対象として、種々の治療薬の開発がなされている(例えば、特許文献1)。
【0005】
MICA遺伝子は、遺伝子多型の存在が知られており、膜貫通領域をコードするexon5内に5種類の遺伝子多型が存在することが報告されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】“Triplet repeat polymorphism in the transmembrane region of the MICA gene: a strong association of six GCT repetitions with Behcet disease.”, Proc Natl Acad Sci U S A. 1997 Feb 18;94(4):1298-303.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明の目的は、癌治療後に予後良好群に属するかを判定する新規な方法を提供すること、被験者が若年性癌発症リスク群に属するかを判定する新規な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、癌治療の臨床に携わり、その治療成績について長年の間、鋭意研究してきたところ、MICA遺伝子多型としてA5.1型を有するヒトが、口腔癌発症年齢が若年となること、及び口腔癌の治療の予後が良好であることを見いだして、本発明に到達した。
【0010】
したがって、本発明は次の(1)以下を含む。
(1)
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定することによって、被験者が、癌治療後に予後良好群に属するかを判定する方法。
(2)
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型をホモ接合体で有する場合に、予後良好群に属すると判定する、(1)に記載の判定方法。
(3)
予後良好群が、5年後生存率95%以上の群である、(1)~(2)のいずれかに記載の判定方法。
(4)
被験者が、癌患者、又は健常人である、(1)~(3)のいずれかに記載の判定方法。
(5)
癌がヒト口腔癌である、(1)~(4)のいずれかに記載の判定方法。
(6)
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定することによって、被験者が、若年性癌発症リスク群に属するかを判定する方法。
(7)
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型を有する場合に、若年性癌発症リスク群に属すると判定する、(6)に記載の判定方法。
(8)
被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型のホモ接合体を有するか、又はA5.1型とA5型とのヘテロ接合体を有する場合に、若年性癌発症リスク群に属すると判定する、(6)に記載の判定方法。
(9)
若年性癌発症リスク群が、20~39歳での癌発症リスク群である、(6)~(8)のいずれかに記載の判定方法。
(10)
癌がヒト口腔癌である、(6)~(9)のいずれかに記載の判定方法。
【0011】
好適な実施の態様において、上記の判定方法を含み、この判定方法からなる予測方法、推定方法、評価方法、検出方法、決定方法、分析方法、検査方法、診断方法、分類方法、分別方法、選別方法、識別方法、及び判別方法を含む。
【0012】
好適な実施の態様において、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定する工程を、被験者から採取した試料を用いて行うことができ、該工程に先立って、被験者から遺伝子を含む試料を採取する工程を行うことができる。
【0013】
好適な実施の態様において、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定する工程を、公知の多型同定手段によって行うことができ、例えば、PCR法を使用した多型同定手段によって行うことができ、例えば、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子をエキソン5を含む適切な位置のプライマーを用いてPCR増幅した後にPCR産物を用いて塩基数の相違によって多型の同定を行う工程によって、実施することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、癌治療後に予後良好群に属するかを判定することができる。また、本発明によれば、被験者が若年性癌発症リスク群に属するかを判定することができる。これによって、どの程度の頻度で検査等を行うべきか等をより効果的に計画することができ、QOLの観点や医療資源の配分の観点から個人と社会に大きな利益をもたらす。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、MICA遺伝子産物についての説明図である。
【
図2】
図2は、MICA遺伝子の膜貫通領域をコードするexon5内に存在する5種類の遺伝子多型を示す説明図である。
【
図3】
図3は、塩基数の違いに基づき、キャピラリーカラムで各PCR産物を分離した多型解析のクロマトグラムの説明図である。
【
図4】
図4は、Kaplan-Meier法による口腔癌患者の生存曲線を、A5.1/5.1のホモ接合体とそれ以外の全てのGenotype多型(non-A5.1/5.1)とを対比して示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
具体的な実施の形態をあげて、以下に本発明を詳細に説明する。本発明は、以下にあげる具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
[癌治療後に予後良好群に属するかを判定する方法]
本発明によれば、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定することによって、被験者が、癌治療後に予後良好群に属するかを判定することができる。
【0018】
好適な実施の態様において、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型をホモ接合体で有する場合に、予後良好群に属すると判定することができる。
【0019】
好適な実施の態様において、癌としては、特に制約はないが、好ましくはヒト口腔癌について好適に判定することができる。ヒト口腔癌として、例えば、舌癌、歯肉癌、口底癌、頬粘膜癌、上顎洞癌、口峡咽頭癌、唾液腺癌をあげることができる。ヒト口腔癌に隣接する臓器の癌として、例えば、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、食道癌をあげることができる。
【0020】
[予後良好群]
好適な実施の態様において、予後良好群は、生存率を指標として予後が良好である群を言い、例えば5年生存率、10年生存率、20年生存率によって表現することができる。好適な実施の態様において、例えば5年生存率が、90%以上、95%以上、99%以上である群をあげることができ、例えば10年生存率が、90%以上、95%以上、99%以上である群をあげることができ、例えば20年生存率が、90%以上、95%以上、99%以上である群をあげることができる。本発明の実施例で示すように、特に好適な場合に、20年生存率が100%であった。
【0021】
好適な実施の態様において、癌治療後に予後良好群に属するかを判定する被験者としては、癌患者であってもよく、健常人であってもよい。癌患者であれば、癌治療後の予後を判定することができ、健常人であれば、癌を発症した場合における癌治療後の予後を判定することができる。
【0022】
[若年性癌発症リスク群に属するかを判定する方法]
本発明によれば、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型を同定することによって、被験者が、若年性癌発症リスク群に属するかを判定することができる。
【0023】
好適な実施の態様において、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型を有する場合に、若年性癌発症リスク群に属すると判定することができる。
【0024】
好適な実施の態様において、被験者のMICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型として、A5.1型のホモ接合体を有するか、又はA5.1型とA5型とのヘテロ接合体を有する場合に、若年性癌発症リスク群に属すると判定することができる。
【0025】
好適な実施の態様において、癌としては、特に制約はないが、好ましくはヒト口腔癌について好適に判定することができる。ヒト口腔癌として、例えば、舌癌、歯肉癌、口底癌、頬粘膜癌、上顎洞癌、口峡咽頭癌、唾液腺癌をあげることができる。ヒト口腔癌に隣接する臓器の癌として、例えば、上咽頭癌、中咽頭癌、下咽頭癌、食道癌をあげることができる。
【0026】
[若年性癌発症リスク群]
好適な実施の態様において、若年性癌発症リスク群は、若年における癌発症のリスクが大きい群を言い、具体的には20~39歳での癌発症リスクが大きな群を言う。この20~39歳は、厚生労働省の提唱するAYA(Adolescents and Young Adult)(思春期・若年成人)世代(15歳以上40歳未満)とほぼ重なっている。この年代で癌を発症した患者は、癌治療の後に社会に復帰することが特に大きく期待されているから、この年代での癌発症を予測して、適切な治療を早期に始めることは、社会的な意義が特に大きい。20~39歳での癌発症リスクが大きいとは、20~39歳での癌発症の割合が、他の年代、例えば40~59歳、60~79歳、80~100歳の患者群と比較して有意に多いことを言う。
【0027】
[MICA遺伝子多型]
後述する実施例のなかでも説明しているように、MICA遺伝子には、膜貫通領域をコードするexon5内に5種類の遺伝子多型が存在することが報告されている。上述のように、これらの多型のなかで、本発明ではA5.1型を有することを同定することによって、判定を行っている。MICA遺伝子の多型の同定には、公知の技術を使用することができ、例えば、実施例に開示した手段を使用することができる。典型的な手法として、例えば、細胞から得たゲノムDNAを、エキソン5を含む適切な位置のプライマーを用いてPCR増幅して、得られたPCR産物をCEQ8000にてキャピラリーカラムにかけて、塩基数の違いによって多型の同定を行って、被験者のGenotypeを特定することができる。
【実施例】
【0028】
以下に実施例をあげて、本発明を詳細に説明する。本発明は、以下に例示する実施例に限定されるものではない。
【0029】
[臨床研究]
広島大学病院の顎・口腔外科を受診した口腔扁平上皮癌(OSCC)患者386名より、同意のもと、腫瘍組織または血液を採取した。対照として103名の健常人ボランティアの血液も同様に同意を得て採取した。本研究は広島大学ヒトゲノム・遺伝子解析研究倫理審査委員会の承認済み(許可番号:第ヒー57号)である。
【0030】
[MICA遺伝子多型]
MHC class I chain-related gene A(MICA)は、NK細胞やγδT細胞などの活性化NK細胞レセプターNKG2Dのリガンドであり、同受容体を介した活性化シグナルはウイルスに対する感染免疫や腫瘍免疫、自己免疫疾患などの多彩な免疫応答に寄与しているとされる。このMICA遺伝子産物についての説明図を
図1に示す。
MICA遺伝子には、膜貫通領域をコードするexon5内に5種類の遺伝子多型が存在することが報告されている。この5種類の遺伝子多型の説明図を
図2に示す。
図2に示されるように、A4、A5、A6、A9の多型では、エキソン5中において塩基配列が[GCT][GCT]と続いてこの最後のT(エキソン5の951番塩基)の次に、さらに塩基配列が[GCT][GCT]と続いている。一方、A5.1の多型では、エキソン5中において塩基配列が[GCT][GCT]と続いてこの最後のT(エキソン5の951番塩基)の次に、Gが挿入されて、その後に塩基配列が[GCT][GCT]と続いている。この結果、A5.1多型では、コドンのフレームがシフトして、コードされるアミノ酸配列が他の多型とは異なったものとなっている。
【0031】
[ゲノムDNAの抽出]
血液からのゲノムDNAの抽出は、QIA amp(登録商標) DNA Blood midi kit(QIAGEN)を用いて行った。また、OSCC組織片からのゲノムDNAの抽出は、QIA amp(登録商標) DNA mini kit(QIAGEN)を用いて行った。
【0032】
QIA amp(登録商標) DNA Blood midi kit(QIAGEN)を用いたゲノムDNA抽出法は添付プロトコールに準じて行った。抽出したDNAはNano Drop(Nano Drop Technologies,Inc.,USA)を用いて定量した。
【0033】
また、OSCC組織片からのゲノムDNAの抽出は、QIA amp(登録商標) DNA mini kit(QIAGEN)を用い添付プロトコールに準じて行った。抽出したDNAはNano Drop(Nano Drop Technologies,Inc.,USA)を用いて定量した。
【0034】
[ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction; PCR)]
MICA遺伝子の膜貫通領域(エキソン5)を含む染色体DNA断片を増幅するプライマーを、以下のように設計した。
プライマー:
MICA5F:5’-CCTTTTTTTCAGGGAAAGTGC-3’
MICA5R:5’-CCTTACCATCTCCAGAAACTGC-3’
【0035】
抽出したゲノムDNAに、上記のプライマー対と、KOD FX Neo(Toyobo,Osaka,Japan)を用いて、サーマルサイクラー(PTC-0220 DNA Engine Dyad(登録商標): MJ Japan,Tokyo)を使用し、変性反応は98℃;10秒間、アニーリングは58℃;30秒間、伸長反応は68℃;30秒間の条件で行い、これを1サイクルとして35サイクル行い、PCR産物を得た。このPCR産物を1.5%アガロースゲルにて電気泳動後、SYBR Safe DNA gel stain(Invitrogen)にて可視化しMICA遺伝子エキソン5領域のPCR増幅物の有無を確認した。
【0036】
MICA遺伝子の各アレルによってPCR産物の大きさが異なるため、MICA遺伝子多型の解析は、塩基数によっても判別が可能となる。
図3に、塩基数の違いに基づき、CEQ8000にてキャピラリーカラムで各PCR産物を分離した多型解析のクロマトグラムを、説明図として示す。
【0037】
[塩基配列の決定(ダイレクトシークエンス)]
得られたPCR産物を用い、QlAquick(登録商標) PCR Purification Kit(Qiagen)を使用して、PCR産物の精製を行った。得られた産物を、サンガーシーケンス法にてMICA遺伝子のエキソン5領域の塩基配列を決定した。詳細は下記のとおりである。
【0038】
Thermal Cycler(PTC-0220 DNA Engine Dyad:MJ Japan)を使用し、DTCS Quick Start Master Mix Kit(Beckman Coulter)を用いて、変性反応は96℃;20秒間、アニーリングは50℃;20秒間、伸長反応は60℃;2分間の条件でシークエンス反応を行い、これを1サイクルとして40サイクル行い、PCR産物を得た。PCR反応終了後は、エタノール沈殿を行った後、SLS容液(Sample Loading Solution)にて溶解し、遺伝子解析システムCEQ8000 Genetic Analyzer (Beckman Coulter,USA)にて解析を行った。
【0039】
[MICA遺伝子アレルの解析法(フラグメント解析)]
フラグメント解析は CEQ8000 Genetic Analyzer(Beckman Coulter, USA)を用いて行った。上記と同じ配列のMICA5Rプライマーに CEQ8000専用のBeckman Dye4(登録商標)で標識した蛍光 EcoRI-セレクティブプライマーを作製し、上述した方法に準じてPCR反応を行った。Dye4で標識したプライマーは蛍光強度が強いため、PCR産物をSLSで10倍希釈し、希釈PCR産物2μlと、SLSおよび分子量マーカーとなるstandard400を混合したベース液30μlを、サンプルプレートの各ウェルに加え、CEQ8000にてキャピラリーカラムで各PCR産物を塩基数の差を利用して分離することで解析し、付属のフラグメント解析ソフトを用いて、MICA遺伝子多型を決定した。
【0040】
[統計学的解析]
OSCC患者および対照とした健常人ボランティアにおける、MICA遺伝子のエキソン5内の遺伝子多型について、表現形質(Phenotype)別、各アレル(Allele)別、Genotype別に集計し、統計学的解析(カイ2乗検定)を行った。さらに、口腔癌患者の初診時年齢を4群(20~39歳、40~59歳、60~79歳、80~100歳)に区分し、各年齢群における、表現形質(Phenotype)別、各アレル(Allele)別、Genotype別にMICA遺伝子多型を集計し、対照群と統計学的解析(カイ2乗検定)を行った。
さらに、MICA多型別の治療内容の内訳を検討するとともに、MICA遺伝子多型別(5.1/5.1ホモ接合体とそれ以外の遺伝子多型群)の口腔癌患者の生存曲線の算出をKaplan-Meier法で行い、生存率の有意差はlog-rank検定で行なった。
【0041】
表1-1に健常人と各年代別口腔癌患者のMICA多型比較(Phenotype別)の結果をまとめて示す。表1-2に、表1-1に対応するカイ2乗検定(P値)の結果を示す。Phenotype別の比較においては、該当する多型を有している場合には、それぞれA4、A5、A5.1、A6、A9のいずれかに分類して計数した。ヘテロ接合体は1人が2回計数されている。ホモ接合体ではPhenotypeは1つであるとして1人が1回だけ計数されている。表1-2において有意差のあるものには*(アスタリスク)を付した。健常人と口腔癌患者の比較において、特にA5.1型の20~39歳の群について有意差があった。
【0042】
【0043】
【0044】
表2-1に健常人と各年代別口腔癌患者のMICA多型比較(アレル別)の結果をまとめて示す。表2-2に、表2-1に対応するカイ2乗検定(P値)の結果を示す。アレル別の比較においては、Genotypeのいずれかのアレルとして該当する多型を有している場合には、それぞれA4、A5、A5.1、A6、A9のいずれかに分類して計数した。すなわち、ホモ接合体とヘテロ接合体のいずれにおいても1人がアレルごとに2回計数されている。表2-2において有意差のあるものには*(アスタリスク)を付した。
【0045】
【0046】
【0047】
表3に健常人と各年代別口腔癌患者のMICA多型比較(Genotype別)の結果をまとめて示す。表3にさらにカイ2乗検定(P値)の結果を示す。表3において有意差のあるものには*(アスタリスク)を付した。健常人と口腔癌患者の比較において、特にA5.1/5.1のGenotypeの20~39歳の群について有意差があった。また、健常人と口腔癌患者の比較において、特にA5.1/5のGenotypeの20~39歳の群について有意差があった。すなわち、A5.1/5.1及びA5.1/5のいずれのGenotypeも若年性癌発症リスク群であることがわかった。また、健常人と口腔癌患者の比較において、特にA4/6のGenotypeの40~59歳の群について有意差があった。
【0048】
【0049】
表4に各年代別口腔癌患者のMICA多型比較(Genotype別)の結果をまとめて示す。表4にさらにカイ2乗検定(P値)の結果を示す。表4において有意差のあるものには*(アスタリスク)を付した。20~39歳と他の各年代別の口腔癌患者との比較において、A5.1/5.1のGenotypeの群とA5.1/5のGenotypeの群について有意差があった。すなわち、20-39歳代のA5.1/5.1のGenotypeは他の年代の癌患者群と比較して発症リスクが高いことがわかった。
【0050】
【0051】
表5に全てのMICA多型別の治療内容内訳の結果をまとめて示す。略号はそれぞれ、CRT:化学療法+放射線療法、C:化学療法、RT:放射線療法を示す。表5において、カイ2乗検定(Pearson)p=0.75を行ったが、各MICA多型別において実施された治療方法に有意差はなかった。
【0052】
【0053】
表6にA5.1/5.1のホモ接合体と、それ以外の全てのGenotype多型(non-A5.1/5.1)についての治療内容内訳の結果をまとめて示す。略号はそれぞれ、CRT:化学療法+放射線療法、C:化学療法、RT:放射線療法を示す。表6において、カイ2乗検定(Pearson)p=0.91を行ったが、A5.1/5.1の患者群と非A5.1/5.1の患者群において実施された治療方法に有意差はなかった。
【0054】
【0055】
Kaplan-Meier法による口腔癌患者の生存曲線を、A5.1/5.1のホモ接合体と、それ以外の全てのGenotype多型(non-A5.1/5.1)とを対比して、
図4に示す。A5.1/5.1ホモ接合体個体群の予後は、それ以外の多型のMICA多型個体群より有意に良好であった(log-rank検定 p=0.0185)。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明は、癌治療後に予後良好群に属するかの判定方法、及び被験者が若年性癌発症リスク群に属するかの判定方法を提供する。本発明は、産業上有用な発明である。
【配列表】