(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】有機半導体デバイス、有機半導体単結晶膜の製造方法、及び有機半導体デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H10K 10/46 20230101AFI20231211BHJP
H01L 21/368 20060101ALI20231211BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20231211BHJP
H01L 29/786 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
H10K10/46
H01L21/368 L
H01L29/78 618A
H01L29/78 618B
H01L29/78 618C
H01L29/78 626C
(21)【出願番号】P 2021502099
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006597
(87)【国際公開番号】W WO2020171131
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-11-17
(31)【優先権主張番号】P 2019030776
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100160543
【氏名又は名称】河野上 正晴
(74)【代理人】
【識別番号】100170874
【氏名又は名称】塩川 和哉
(72)【発明者】
【氏名】竹谷 純一
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 峻一郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 真理
(72)【発明者】
【氏名】牧田 龍幸
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-053265(JP,A)
【文献】特開2014-049722(JP,A)
【文献】国際公開第2014/175351(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/121791(WO,A1)
【文献】特開2013-173082(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10K 10/46
H10K 71/10
H01L 29/786
H01L 21/336
H01L 21/368
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板、及び
前記基板上の有機半導体単結晶膜
を含み、
前記有機半導体単結晶膜の平均膜厚が2~100nmであり、
前記基板の前記有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせである、
有機半導体デバイス。
【請求項3】
塗布法を用いて、親水性且つ非水溶性の第1の基板上に、平均膜厚が2~100nmの有機半導体単結晶膜を形成すること、及び
前記第1の基板と前記有機半導体単結晶膜との界面に水を適用して、前記有機半導体単結晶膜を前記第1の基板から分離させること
を含む、有機半導体単結晶膜の製造方法。
【請求項7】
請求項3~6のいずれか一項に記載の有機半導体単結晶膜の製造方法で製造する前記有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することを含み、
前記第2の基板の前記有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせである、
有機半導体デバイスの製造方法。
【請求項13】
前記有機半導体単結晶膜の1分子層の厚みは2~6nmである、請求項1、2、10、11、または12に記載の有機半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、有機半導体デバイス、有機半導体単結晶膜の製造方法、及び有機半導体デバイスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機半導体ヘの関心が高まっている。有機半導体の特徴としては、従来のアモルファスシリコンや多結晶シリコンの無機半導体とは異なり、柔軟性に優れていることや、roll to roll プロセスで安価に大面積化が可能であること等が挙げられ、有機半導体はポストシリコン半導体として次世代型の電子デバイスへの応用が検討されている。
【0003】
特に、フッ素系高分子絶縁膜のような疎水性基板上に有機半導体単結晶膜を形成することで、特性の良い有機半導体デバイスを作製できることが知られている。
【0004】
また、有機半導体デバイスの製造方法として、従来、塗布法や気相成長法(PVT:Physical Vapor Transport)等の成膜方法が用いられており(特許文献1、非特許文献1)、特に、成膜方法に塗布法を用いることにより材料の使用効率向上や大幅なコストダウンが期待できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Balthasar Blulle, et al., Approaching the trap-free limit in organic single-crystal field-effect transistors, Physical Review Applied 1, 034006 (2014)
【文献】M. Kitamura et al., Work function of gold surfaces modified using substituted benzenethiols: Reaction time dependence and thermal stability, Appl. Phys. Express 7, 035701 (2014)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、従来、気相成長法を用いる場合は、2μm程度の大きな厚みの有機半導体単結晶膜しか得られず、それよりも薄い厚みの有機半導体単結晶膜を得ることが困難であった。
【0008】
また、塗布法を用いる場合、フッ素系高分子絶縁膜のような疎水性基板上に有機半導体膜を形成することができなかった。
【0009】
また、塗布法では有機溶媒を用いるので、溶剤可溶性の基板上に有機半導体膜を塗布することもできなかった。そのため、例えば、有機半導体膜で構成されるpn接合構造を塗布法で形成することは困難であった。
【0010】
さらには、基板上にAu等の電極膜を有する場合、電極の仕事関数を制御し、電極から有機半導体へのキャリア注入を改善するため、電極膜の表面を、ペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)あるいは4-メチルベンゼンチオール(MBT)等の自己組織化単分子層(SAM:Self-Assembled Monolayer)で修飾することが行われるが、PFBT膜あるいはMBT膜は耐熱性が低く、PFBTは130~150℃程度、MBTは100℃程度で仕事関数制御効果が低下してしまう(非特許文献2)。塗布法は、基板を80~150℃程度に加熱して行われることが多いため、Au等の電極膜を有する基板上に有機半導体を塗布法で形成することは適切でないことがあった。
【0011】
このように、気相成長法を用いる場合は、薄い膜厚を有する有機半導体単結晶膜を得ることができず、塗布法を用いる場合は、基板に制限があった。
【0012】
そのため、所望の基板上に配置可能な、従来よりも薄い膜厚を有する有機半導体単結晶膜が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0013】
(1)基板、及び
前記基板上の有機半導体単結晶膜
を含み、
前記有機半導体単結晶膜の平均膜厚が2~100nmであり、
前記基板の前記有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせである、
有機半導体デバイス。
(2)前記有機半導体単結晶膜の面積が2mm2以上である、上記(1)に記載の有機半導体デバイス。
(3)塗布法を用いて、親水性且つ非水溶性の第1の基板上に、平均膜厚が2~100nmの有機半導体単結晶膜を形成すること、及び
前記第1の基板と前記有機半導体単結晶膜との界面に水を適用して、前記有機半導体単結晶膜を前記第1の基板から分離させること
を含む、有機半導体単結晶膜の製造方法。
(4)前記有機半導体単結晶膜の面積が2mm2以上である、上記(3)に記載の有機半導体単結晶膜の製造方法。
(5)前記第1の基板の接触角は前記有機半導体単結晶膜の接触角よりも小さく、前記第1の基板と前記有機半導体単結晶膜との接触角の差が80度以上である、上記(3)または(4)に記載の有機半導体単結晶膜の製造方法。
(6)前記第1の基板と前記有機半導体単結晶膜との界面に水を適用することが、前記有機半導体単結晶膜を形成した前記第1の基板を水中に浸漬することを含む、上記(3)~(5)のいずれかに記載の有機半導体単結晶膜の製造方法。
(7)上記(3)~(6)のいずれかに記載の有機半導体単結晶膜の製造方法で製造する前記有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することを含み、
前記第2の基板の前記有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせである、
有機半導体デバイスの製造方法。
(8)前記有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することが、前記第1の基板上に形成した前記有機半導体単結晶膜に接するように前記第2の基板を配置しながら、前記第1の基板と前記有機半導体単結晶膜との界面に水を適用して前記有機半導体単結晶膜を前記第1の基板から分離させて第2の基板上に配置することを含む、上記(7)に記載の有機半導体デバイスの製造方法。
(9)前記第2の基板の前記有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部に、凹部、凸部、凹凸部、及び電極のうち少なくとも1つを有する、上記(7)または(8)に記載の有機半導体デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、所望の基板上に配置可能な、従来よりも薄い膜厚を有する有機半導体単結晶膜を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、マイカ基板上に製膜した有機半導体単結晶膜の断面模式図である。
【
図2】
図2は、有機半導体単結晶膜を形成した親水性基板を水に浸漬し、有機半導体単結晶膜が水面に浮かぶ状態を表す模式図である。
【
図3】
図3は、得られた有機半導体単結晶膜について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察で得られた電子回折図形である。
【
図4】
図4は、CYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【
図5】
図5は、CYTOP(登録商標)上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した偏光顕微鏡像である。
【
図6】
図6は、CYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に配置した有機半導体単結晶膜及びAu電極の断面模式図である。
【
図7】
図7は、作製したBGTC型OFETの上面から観察した偏光顕微鏡像である。
【
図8】
図8は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
【
図9】
図9は、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフである。
【
図10】
図10は、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフである。
【
図11】
図11は、パリレン/SiO
2/Si基板上に、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【
図12】
図12は、パリレン上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した偏光顕微鏡像である。
【
図13】
図13は、Au電極を備えたPDMS/PET基板上に、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【
図14】
図14は、Au及びPDMS/PET基板上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した偏光顕微鏡像である。
【
図15】
図15は、Au電極を備えたパリレン/ポリイミド基板上に、イーグルガラス基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【
図16】
図16は、PFBTで修飾したAu電極を備えるパリレン(diX-SR(登録商標))/ポリイミド(PI)基板上に配置した有機半導体単結晶膜の断面模式図である。
【
図17】
図17は、トップゲートボトムコンタクト(TGBC)型有機電界効果トランジスタ(OFET)の断面模式図である。
【
図18】
図18は、作製したTGBC型OFETの上面から観察した偏光顕微鏡像である。
【
図19】
図19は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表すグラフである。
【
図20】
図20は、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表すグラフである。
【
図21】
図21は、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表すグラフである。
【
図22】
図22は、PFBTで修飾したAu電極を備えたCYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に、イーグルガラス基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【
図23】
図23は、PFBTで修飾したAu電極を備えるCYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に配置した有機半導体単結晶膜の断面模式図である。
【
図24】
図24は、トップゲートボトムコンタクト(TGBC)型有機電界効果トランジスタ(OFET)の断面模式図である。
【
図25】
図25は、作製したTGBC型OFETの上面から観察した偏光顕微鏡像である。
【
図26】
図26は、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表すグラフである。
【
図27】
図27は、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表すグラフである。
【
図28】
図28は、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表すグラフである。
【
図29】
図29は、イーグルガラス基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写し、CYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した共焦点レーザー顕微鏡像である。
【
図30】
図30は、得られた有機半導体単結晶膜の単結晶X線回折実験で得られた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、基板、及び前記基板上の有機半導体単結晶膜を含み、前記有機半導体単結晶膜の平均膜厚が2~100nmであり、前記基板の前記有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせである、
有機半導体デバイスを対象とする。
【0017】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜の平均膜厚は、2~100nmであり、好ましくは4~20nmである。有機半導体単結晶膜の平均膜厚が前記範囲にあることにより、良好なデバイス特性を得ることができる。有機半導体単結晶膜の平均膜厚の測定は、触針式表面形状測定器または原子間力顕微鏡を用いて行うことができる。
【0018】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜は厚み方向に、好ましくは1分子層~50分子層、より好ましくは1分子層~10分子層、さらに好ましくは1分子層~5分子層を有する。本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜は、1分子層を有することが最も好ましいが、厚み方向に2分子層以上を有してもよい。有機半導体単結晶膜の分子層数は原子間力顕微鏡で測定することができる。
【0019】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜の1分子層の厚みは、好ましくは2~6nm、より好ましくは2~4nmである。有機半導体単結晶膜の1分子層の厚みは単結晶X線構造解析と原子間力顕微鏡観察と組み合わせることで測定することができる。
【0020】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜の面積は、好ましくは2mm2以上、より好ましくは10mm2以上、さらに好ましくは100mm2以上、さらにより好ましくは1000mm2以上、さらにより好ましくは10000mm2以上である。有機半導体単結晶膜の面積の上限は、特に限定されず、製造設備の大きさによって制限され、例えば10m2としてもよい。従来、気相成長法を用いる場合は最大でも1mm2程度の面積を有する有機半導体単結晶膜しか得られなかったのに対して、本開示の有機半導体デバイスにおける上記のように大きな面積を有することができる。
【0021】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜は、シングルドメインまたはマルチドメインからなり、好ましくはシングルドメインからなる。有機半導体単結晶膜のドメインは、単結晶X線回折で測定することができる。本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜は、好ましくは0.005mm2以上、より好ましくは0.5mm2以上、さらに好ましくは2.0mm2以上の連続面積のシングルドメインを有する。当然理解されるべきことであるが、本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜は、上記好ましい連続面積のシングルドメインを有する有機半導体単結晶膜が分離されて有機半導体デバイスに組み込まれていてもよい。例えば、上記好ましい連続面積のシングルドメインを有する有機半導体単結晶膜が、複数片の有機半導体単結晶膜に分離されて有機半導体デバイスに組み込まれたものでもよく、及び/または上記好ましい連続面積のシングルドメインを有する有機半導体単結晶膜の不要な部分がフォトリソグラフィ等によりエッチングされ、複数片の有機半導体単結晶膜に分離されて有機半導体デバイスに組み込まれたものでもよい。有機半導体デバイス内で各有機半導体膜が分離されていることで、他の素子と電気的に孤立させることができる。分離された各有機半導体単結晶膜が、結晶軸の方向が揃った単結晶膜から得られていることは、単結晶X線回折、電子線回折で測定することや偏光顕微鏡での観察によって確認できる。
【0022】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜は、好ましくは0.5cm2/V・s以上、より好ましくは3.0cm2/V・s以上、さらに好ましくは5.0cm2/V・s以上、さらにより好ましくは7.5cm2/V・s以上、さらにより好ましくは10cm2/V・s以上の移動度を示す。有機半導体単結晶膜の移動度は、有機電界効果トランジスタの測定結果から算出することができる。
【0023】
本開示の有機半導体デバイスにおいて、基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部は、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせの特性を有する。好ましくは、基板の有機半導体単結晶膜と接する面の全体が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせの特性を有し、より好ましくは、基板全体が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせの特性を有する。
【0024】
本願において疎水性とは、好ましくは80度以上の接触角、より好ましくは90度以上の接触角、さらに好ましくは100度以上、さらにより好ましくは110度以上、さらにより好ましくは150度以上の接触角を有し得る。
【0025】
本開示の有機半導体デバイスにおける基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部、好ましくは基板の有機半導体単結晶膜と接する面の全体、より好ましくは基板全体が前記好ましい範囲の疎水性を示すことにより、疎水性基板上に配置した有機半導体単結晶膜を用いてデバイスを作製する場合に、基板上に付着し得る水分(吸着分子)を低減または無くすことができ、水分の影響がない良好な特性を有するデバイスを作製することができる。
【0026】
疎水性基板としては、例えば、パリレン(接触角80~90度程度)、フッ素系ポリマーのCYTOP(登録商標)(接触角110度)等が挙げられる。
【0027】
本願において溶剤可溶性とは、有機溶媒に実質的に溶解、分解、または膨潤することをいい、例えばトルエン、ジクロロベンゼン等の、塗布法で従来より用いられる有機溶媒に対して、実質的に溶解、分解、または膨潤することをいう。
【0028】
本開示の有機半導体デバイスにおける基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部、好ましくは基板の有機半導体単結晶膜と接する面の全体、より好ましくは基板全体は、溶剤可溶性でもよい。そのため、基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部、好ましくは基板の有機半導体単結晶膜と接する面の全体、より好ましくは基板全体は、p型有機半導体膜若しくはn型有機半導体膜であってもよく、またはp型有機半導体膜と及びn型有機半導体膜を含む積層体であってもよい。したがって、本開示の電子デバイスにおける基板は、有機半導体膜によるpn接合構造、pnp接合構造、またはnpn接合構造を含むことができる。
【0029】
本願において非耐熱性とは、好ましくは、ガラス転移点が90℃以下であるか、または90℃以下で昇華、融解、若しくは分解することをいい、より好ましくは、ガラス転移点が120℃以下であるか、または120℃以下で昇華、融解、若しくは分解することをいう。
【0030】
本開示の有機半導体デバイスにおける基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部、好ましくは基板の有機半導体単結晶膜と接する面の全体、より好ましくは基板全体は、非耐熱性であってもよい。そのため、基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部、好ましくは基板の有機半導体単結晶膜と接する面の全体、より好ましくは基板全体は、例えばペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)等の自己組織化単分子層(SAM:self-assembled monolayer)で修飾したAu等の電極膜を有する基板であってもよい。このようなPFBT等の耐熱性が低い修飾材料の上に、有機半導体単結晶膜を配置することができる。
【0031】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜を構成する有機半導体の種類については特に制限は無いが、例えば、4環以上の多環芳香族化合物や、1つまたは複数の不飽和の五員複素環式化合物と複数のベンゼン環とによる4環以上の多環化合物を用いることができる。
【0032】
また、本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜を構成する有機半導体は、自己凝縮機能の高い材料であることが好ましく、例えば、高移動度を示す次式(1)のp型有機半導体Cn-DNBDT-NW等が挙げられる。
【0033】
【化1】
式(1)において、nは1~14であることができる。自己凝縮機能とは、分子が溶媒から析出する際に、自発的に凝集して、結晶化しやすい傾向を意味する。
【0034】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜を構成する有機半導体の他の例を、次式(2)~次式(6)に示す。
【0035】
【0036】
式(2)で示されるポリチオフェン半導体において、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数が4~10のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよい。また、R1及びR2は一緒になって環を形成することもできる。自己凝集能の理由により、好ましくは、R1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数が5~8のアルキル基である。より好ましくはR1及びR2はそれぞれ独立に水素原子又はヘキシル基である。
【0037】
nは5~100の整数を表す。nはポリチオフェン半導体中のチオフェンモノマー単位の平均数、すなわちポリチオフェン鎖の長さを示す。単結晶膜を形成する観点からは、nは50以下であることが好ましい。
【0038】
【0039】
式(3)中、R3、R4、R5及びR6はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R4=R5であることが好ましく、R3=R6であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R4及びR5が水素原子であり、R3及びR6がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R3及びR6が水素原子であり、R4及びR5がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R3及びR6が水素原子であり、R4及びR5がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は4~12であり、より好ましくは6~10である。
【0040】
【0041】
式(4)中、R7、R8、R9及びR10はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R7=R9であることが好ましく、R8=R10であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R7及びR9が水素原子であり、R8及びR10がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R8及びR10が水素原子であり、R7及びR9がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R8及びR10が水素原子であり、R7及びR9がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は6~13であり、より好ましくは8~10である。
【0042】
【0043】
式(5)中、R11、R12、R13及びR14はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R11=R13であることが好ましく、R12=R14であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R11及びR13が水素原子であり、R12及びR14がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R12及びR14が水素原子であり、R11及びR13がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R12及びR14が水素原子であり、R11及びR13がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は5~12であり、より好ましくは8~10である。
【0044】
【0045】
式(6)中、R15、R16、R17及びR18はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数が1~14のアルキル基である。アルキル基はヘテロ原子(典型的には酸素原子及び硫黄原子から選択される。)を含んでもよく、アルキル基中の水素原子はハロゲン原子等の置換基で置換されていてもよい。自己凝集能の理由により、R15=R17であることが好ましく、R16=R18であることが好ましい。溶解性の観点から、好ましくは、R16及びR18が水素原子であり、R15及びR17がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基であるか、又は、R15及びR17が水素原子であり、R16及びR18がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。より好ましくは、R16及びR18が水素原子であり、R15及びR17がそれぞれ独立に炭素数が1~14のアルキル基である。自己凝集能の理由により、アルキル基の好ましい炭素数は5~12であり、より好ましくは8~10である。
【0046】
本開示の有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜を構成する有機半導体のさらに他の例を、次式(7)~次式(15)に示す。式(7)~式(15)中、Rは、直鎖アルキル、分岐アルキル、フッ素化直鎖・分岐アルキル、トリイソプロピルシリルエチニル、フェニルなどを用いることができる。
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
有機半導体単結晶膜は、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察することにより、単結晶であるかどうかを確認することができる。
【0057】
本開示の有機半導体デバイスは、有機EL(エレクトロルミネッセンス)素子、有機太陽電池素子、有機光電変換素子、有機トランジスタ素子、有機電界効果トランジスタ素子等であることができる。
【0058】
本開示はまた、塗布法を用いて、親水性且つ非水溶性の第1の基板上に、平均膜厚が2~100nmの有機半導体単結晶膜を形成すること、及び前記第1の基板と前記有機半導体単結晶膜との界面に水を適用して、前記有機半導体単結晶膜を前記第1の基板から分離させることを含む、有機半導体単結晶膜の製造方法を対象とする。
【0059】
本開示の有機半導体単結晶膜の製造方法によれば、所望の基板上に配置可能な、従来よりも薄い膜厚を有する有機半導体単結晶膜を提供することができる。
【0060】
本開示の有機半導体単結晶膜の製造方法においては、塗布法を用いて、親水性且つ非水溶性の第1の基板上に、平均膜厚が2~100nmの有機半導体単結晶膜を形成する。塗布法は、有機半導体を有機溶媒に溶解させて有機半導体溶液を調製し、基板上に有機半導体溶液を塗布し、有機溶媒を蒸発させて膜を形成する方法である。有機溶媒としては、従来より塗布法に用いられている有機溶媒を用いることができ、例えばトルエン、ジクロロベンゼン等を用いることができる。
【0061】
本開示の有機半導体単結晶膜の製造方法において、塗布法として、従来から用いられている方法を用いることができ、例えば、エッジキャスト法、連続エッジキャスト法、ドロップキャスト法、スピンコーティング法、印刷法(インクジェット法やグラビア印刷法)、ディスペンサー法、及びスプレー法、ディップコート法、ダイコーター法、ロールコーター法、バーコーター法、ブレードコーティング法等を用いることができる。
【0062】
第1の基板は、水の接触角が好ましくは20度以下、より好ましくは10度以下の親水性基板である。第1の基板は非水溶性であり、例えば雲母またはガラスであることができる。第1の基板が非水溶性であるため、第1の基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を適用する際に、第1の基板の成分が溶出して有機半導体単結晶膜に付着したり反応することがなく、高純度な有機半導体単結晶膜を得ることができる。また、第1の基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を適用する際に、第1の基板の形状が崩れることなく維持されるために、有機半導体単結晶膜の形状を歪ませることなく第1の基板から有機半導体単結晶膜を分離させることができる。非水溶性とは、水に実質的に溶解、分解、または膨潤しないことをいう。ガラスは、好ましくは、表面にUV・オゾン処理または親水性コーティング材料等により親水化処理されたものである。
【0063】
第1の基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を適用して、有機半導体単結晶膜を第1の基板から分離させる。第1の基板上に塗布する有機半導体単結晶膜の分子は疎水性であるため、親水性の第1の基板と疎水性の有機半導体単結晶膜の分子との間に水が入り、有機半導体単結晶膜を第1の基板から分離させることができる。
【0064】
親水性の第1の基板の水の接触角は、疎水性の有機半導体単結晶膜の水の接触角よりも小さく、第1の基板と有機半導体単結晶膜との水の接触角の差は、好ましくは80度以上、より好ましくは90度以上である。有機半導体単結晶膜の接触角は好ましくは100~120度である。親水性の第1の基板と疎水性の有機半導体単結晶膜との接触角の差が、前記好ましい範囲であることにより、より安定して第1の基板から有機半導体単結晶膜を剥離させることができる。
【0065】
第1の基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を適用する方法は特に限定されず、有機半導体単結晶膜を形成した第1の基板を水中に浸漬すること、第1の基板と有機半導体単結晶膜との界面にスポイトで滴下する等の方法であることができる。
【0066】
第1の基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を適用する方法は、好ましくは、有機半導体単結晶膜を形成した第1の基板を水中に浸漬することを含む。有機半導体単結晶膜を形成した第1の基板を水中に浸漬することによって、水中で有機半導体単結晶膜が第1の基板から分離し、水中で自立した(self-standing状態の)有機半導体単結晶膜を得ることができる。自立した有機半導体単結晶膜は、上述の有機半導体デバイスにおける疎水性基板、溶剤溶解性基板、非耐熱性基板、または凹部、凸部、凹凸部、若しくは電極を有する基板や、メッシュ状またはグリッド状の基板等の任意の基板上に配置することができる。
【0067】
本開示の有機半導体単結晶膜の製造方法によって得られる有機半導体単結晶膜の平均膜厚、分子層、面積、ドメイン、及び移動度については、上記有機半導体デバイスにおける有機半導体単結晶膜に関する内容を適用することができる。
【0068】
本開示はまた、上記記載の有機半導体単結晶膜の製造方法で製造する有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することを含み、第2の基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせである、有機半導体デバイスの製造方法を対象とする。
【0069】
本開示の有機半導体デバイスの製造方法においては、上記記載の有機半導体単結晶膜の製造方法で第1の基板から分離した有機半導体単結晶膜を、第2の基板上に配置する。
【0070】
有機半導体単結晶膜が配置される第2の基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部は、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせの特性を有する。好ましくは、第2の基板の有機半導体単結晶膜と接する面の全体が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせの特性を有し、より好ましくは、第2の基板全体が、疎水性、溶剤可溶性、非耐熱性、またはそれらの組み合わせの特性を有する。
【0071】
第2の基板の疎水性、溶剤可溶性、及び非耐熱性に関する内容は、上述した有機半導体デバイスの基板の疎水性、溶剤可溶性、及び非耐熱性に関して説明した内容を適用することができる。
【0072】
有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することは、好ましくは、第1の基板上に形成した有機半導体単結晶膜に接するように第2の基板を配置しながら、第1の基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を適用して有機半導体単結晶膜を第1の基板から分離させて第2の基板上に配置することを含む。このように有機半導体単結晶膜に接するように第2の基板を配置しながら有機半導体単結晶膜を第1の基板から分離させることにより、第1の基板から第2の基板に直接、有機半導体単結晶膜を移し替えることができる。
【0073】
別法では、有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することは、好ましくは、有機半導体単結晶膜を形成した第1の基板を水中に浸漬し、水中で有機半導体単結晶膜を第1の基板から分離して自立した有機半導体単結晶膜を得て、水中で第2の基板上に有機半導体単結晶膜を配置することを含む。このように、水中で、自立した有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することによって、第1の基板から第2の基板に容易に有機半導体単結晶膜を移し替えることができる。
【0074】
さらに好ましくは、有機半導体単結晶膜を第2の基板上に配置することは、第1の基板上に形成した有機半導体単結晶膜に接するように第2の基板を配置しながら、第1の基板、有機半導体単結晶膜、及び第2の基板を水中に浸漬し、有機半導体単結晶膜を第1の基板から第2の基板上に移し替えることを含む。このように、水中で、有機半導体単結晶膜に接するように第2の基板を配置しながら有機半導体単結晶膜を第1の基板から分離させることにより、第1の基板から第2の基板にさらに容易に有機半導体単結晶膜を移し替えることができる。
【0075】
第2の基板は、第2の基板の有機半導体単結晶膜と接する面の少なくとも一部に、凹部、凸部、凹凸部、及び電極のうち少なくとも1つを有してもよい。
【0076】
従来、トップゲート構造のトランジスタを塗布法で作製する場合、電極が配置された基板上に有機半導体を塗布する必要があるが、電極と基板との表面エネルギー差及び電極の凸部と基板の凹部の段差により、有機半導体の結晶性及び厚みを均一に形成することができず、良好なトランジスタ特性を得ることが困難であった。
【0077】
本開示の有機半導体の製造方法によれば、第2の基板が電極を有していても、第1の基板から剥離する有機半導体単結晶膜を第2の基板に接触させることにより、電極を有する第2の基板上に均一な厚みで有機半導体単結晶膜を配置することができる。
【0078】
第2の基板は、電極に起因するまたは電極に起因しない凹部、凸部、または凹凸部を有してもよい。凹部、凸部、または凹凸部は、矩形形状、曲線形状、またはそれらの組み合わせの形状であることができる。第2の基板上の凹部の深さ、凸部の高さ、及び凹凸の深さ(凹部の最低部と凸部の最後部との間の基板の厚み方向の距離)はそれぞれ、好ましくは0nm超~30nm以下である。
【実施例】
【0079】
(実施例1)
親水性基板として天然マイカ基板を用意した。有機半導体として、高移動度を示す下記式(16):
【化16】
のp型有機半導体C
9-DNBDT-NWの粉末を用意した。溶剤として3-クロロチオフェンを用い、溶剤中に有機半導体粉末を溶解させ、有機半導体溶液を調製した。100℃に加熱したマイカ基板上に、調製した有機半導体溶液を連続エッジキャスト法で塗布し、
図1に示すような、平均厚みが12nm、面積が200mm
2の有機半導体単結晶膜を製膜した。有機半導体単結晶膜表面の水の接触角は108度であった。
図1は、マイカ基板上に製膜した有機半導体単結晶膜の断面模式図である。
【0080】
図2に示すように、有機半導体単結晶膜を形成した親水性基板を水に浸漬し、親水性基板から有機半導体単結晶膜を剥離した。有機半導体単結晶膜は、水面でフリースタンディング状態であった。水面でフリースタンディング状態とは、有機半導体単結晶膜が支持基板を伴わずに結晶構造を維持しながら水面に浮いている状態であることを意味する。
図2は、有機半導体単結晶膜を形成した親水性基板を水に浸漬している状態を表す模式図である。
【0081】
図3に、得られた有機半導体単結晶膜について、透過型電子顕微鏡(TEM)観察で得られた電子回折図形を示す。親水性基板からの剥離後も、有機半導体単結晶膜が単結晶性を保っていることが確認された。
【0082】
(実施例2)
実施例1と同様に、マイカ基板上に、式(16)のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜を製膜した。
【0083】
疎水性基板として、CYTOP(登録商標)-809Mを製膜したCYTOP(登録商標)/SiO2/Si基板を用意した。
【0084】
図4に示すように、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜にCYTOP(登録商標)が接するようにCYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板を配置し、マイカ基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を滴下して、有機半導体単結晶膜をマイカ基板から剥離させ、CYTOP(登録商標)上に転写した。
図4は、CYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
図5に、CYTOP(登録商標)上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した偏光顕微鏡像を示す。
【0085】
図6に示すように、CYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に配置したC
9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜上に、メタルマスクを用いてS/D電極(ソース/ドレイン電極)として縦0.4mm、横2mm、及び高さ40nmのAu電極を真空蒸着により形成し、ボトムゲートトップコンタクト(BGTC)型有機電界効果トランジスタ(OFET)を作製した。
図6は、CYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に配置した有機半導体単結晶膜及びAu電極の断面模式図である。
図7に、作製したBGTC型OFETの上面から観察した偏光顕微鏡像を示す。
【0086】
図8に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、
図9に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、
図10に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は13cm
2/V・s、線形領域における移動度は10cm
2/V・sを示し、非常に大きな移動度を示した。
【0087】
(実施例3)
実施例1と同様に、マイカ基板上に、式(16)のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜を製膜した。
【0088】
疎水性基板として、パリレン(diX-SR(登録商標))を製膜したパリレン/SiO2/Si基板を用意した。
【0089】
図11に示すように、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜にパリレンが接するようにパリレン/SiO
2/Si基板を配置し、マイカ基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を滴下して、有機半導体単結晶膜をマイカ基板から剥離させ、パリレン上に転写した。
図11は、パリレン/SiO
2/Si基板上に、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
図12に、パリレン上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した偏光顕微鏡像を示す。
【0090】
(実施例4)
実施例1と同様に、マイカ基板上に、式(16)のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜を製膜した。
【0091】
溶剤可溶性基板として、
図13に示すように、メタルマスクを用いてS/D電極(ソース/ドレイン電極)として縦0.5mm、横0.5mm、及び高さ30nmのAu電極を真空蒸着により形成したポリジメチルシロキサン(PDMS)/ポリエチレンテレフタレート(PET)基板を用意した。
図13は、Au電極を備えたPDMS/PET基板上に、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【0092】
図14に示すように、マイカ基板上に成膜した有機半導体単結晶膜にソース/ドレイン(S/D)電極となるAuが接するようにAuを真空蒸着したPDMS/PET基板を配置し、マイカ基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を滴下して、有機半導体単結晶膜をマイカ基板から剥離させ、Au及びPDMS/PET基板上に転写した。
図14に、Au及びPDMS/PET基板上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した偏光顕微鏡像を示す。
【0093】
(実施例5)
マイカ基板に代えてUV・オゾン処理を施したイーグルガラス(コーニング社製)を親水性基板として用いたこと以外は、実施例1と同様に、式(16)のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜を製膜した。
【0094】
疎水性基板として、
図15に示すように、メタルマスクを用いてS/D電極(ソース/ドレイン電極)として縦0.4mm、横2mm、及び高さ12nmのAu電極を真空蒸着により形成し、ペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)の自己組織化単分子層で修飾したAu電極を備えるパリレン(diX-SR(登録商標))/ポリイミド(PI)基板を用意した。
図15は、Au電極を備えたパリレン/ポリイミド基板上に、イーグルガラス基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【0095】
イーグルガラス基板上に成膜した有機半導体単結晶膜に、PFBTで修飾したAu電極(S/D電極)が接するように、PFBTで修飾したAu電極(S/D電極)を備えるパリレン(diX-SR(登録商標))/ポリイミド(PI)基板を配置し、イーグルガラス基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を滴下して、有機半導体単結晶膜をイーグルガラス基板から剥離させ、
図16に示すように、PFBTで修飾したAu電極及びパリレン基板上に有機半導体単結晶膜を転写した。
図16は、PFBTで修飾したAu電極を備えるパリレン(diX-SR(登録商標))/ポリイミド(PI)基板上に配置した有機半導体単結晶膜の断面模式図である。
【0096】
さらに、
図17に示すように、有機半導体単結晶膜のC
9-DNBDT-NW上に、CYTOP(登録商標)、パリレン(diX-SR(登録商標))、及びゲート電極を形成し、トップゲートボトムコンタクト(TGBC)型有機電界効果トランジスタ(OFET)を作製した。
図17は、TGBC型OFETの断面模式図である。
図18に、作製したTGBC型OFETの上面から観察した偏光顕微鏡像を示す。
【0097】
図19に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、
図20に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、
図21に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は3.2cm
2/V・s、線形領域における移動度は4.1cm
2/V・sを示し、小さいヒステリシス及び比較的大きな移動度が示された。
【0098】
(実施例6)
マイカ基板に代えてUV・オゾン処理を施したイーグルガラス(コーニング社製)を親水性基板として用いたこと以外は、実施例1と同様に、式(16)のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜を製膜した。
【0099】
疎水性基板として、
図22に示すように、メタルマスクを用いてS/D電極(ソース/ドレイン電極)として縦0.4mm、横2mm、及び高さ20nmのAu電極を真空蒸着により形成し、ペンタフルオロベンゼンチオール(PFBT)の自己組織化単分子層で修飾したAu電極を備えるCYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板を用意した。
図22は、PFBTで修飾したAu電極を備えたCYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に、イーグルガラス基板上に成膜した有機半導体単結晶膜を転写させる状態を表す模式図である。
【0100】
イーグルガラス基板上に成膜した有機半導体単結晶膜に、PFBTで修飾したAu電極(S/D電極)が接するように、PFBTで修飾したAu電極(S/D電極)を備えるイーグルガラスを配置し、イーグルガラス基板と有機半導体単結晶膜との界面に水を滴下して、有機半導体単結晶膜をイーグルガラス基板から剥離させ、
図23に示すように、有機半導体単結晶膜を、PFBTで修飾したAu電極及びCYTOP(登録商標)基板上に転写した。
図23は、PFBTで修飾したAu電極を備えるCYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に配置した有機半導体単結晶膜の断面模式図である。
【0101】
さらに、
図24に示すように、有機半導体単結晶膜のC
9-DNBDT-NW上に、CYTOP(登録商標)、パリレン(diX-SR(登録商標))、及びゲート電極を形成し、トップゲートボトムコンタクト(TGBC)型有機電界効果トランジスタ(OFET)を作製した。
図24は、TGBC型OFETの断面模式図である。
図25に、作製したTGBC型OFETの上面から観察した偏光顕微鏡像を示す。
【0102】
図26に、飽和領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、
図27に、線形領域におけるゲート電圧とドレイン電流との関係を表す伝達特性のグラフ、
図28に、ゲート電圧によるドレイン電圧とドレイン電流との関係を表す出力特性のグラフを示す。飽和領域における移動度は0.9cm
2/V・s、線形領域における移動度は1.9cm
2/V・sを示し、小さいヒステリシス及び急峻なサブスレショルド特性が示された。
【0103】
(実施例7)
マイカ基板に代えてUV・オゾン処理を施したイーグルガラス(コーニング社製)を親水性基板として用いたこと以外は、実施例1と同様に、式(16)のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜を製膜した。
【0104】
疎水性基板として、CYTOP(登録商標)-809Mを製膜したCYTOP(登録商標)/SiO2/Si基板を用意した。
【0105】
UV・オゾン処理を施したイーグルガラス上に成膜した有機半導体単結晶膜にCYTOP(登録商標)が接するようにCYTOP(登録商標)/SiO2/Si基板を配置し、イーグルガラスと有機半導体単結晶膜との界面に水を滴下して、1.7cm2の有機半導体単結晶膜をイーグルガラス基板から剥離させ、CYTOP(登録商標)上に転写した。
【0106】
図29に、イーグルガラス基板からCYTOP(登録商標)/SiO
2/Si基板上に配置した有機半導体単結晶膜を表面から観察した共焦点レーザー顕微鏡像を示す。得られた有機半導体単結晶膜は、20mm
2の連続面積のシングルドメインを有していた。
【0107】
得られた有機半導体単結晶膜を用いて24個の有機電界効果トランジスタを作製し、飽和領域の移動度及び線形領域の移動度を測定したところ、飽和領域の平均移動度が10.8±1.8cm2/V・sであり、線形領域の平均移動度が9.9±2.1cm2/V・sであった。
【0108】
(実施例8)
マイカ基板に代えてUV・オゾン処理を施したイーグルガラス(コーニング社製)を親水性基板として用いたこと以外は、実施例1と同様に、式(16)のp型有機半導体C9-DNBDT-NWの有機半導体単結晶膜を製膜した。
【0109】
単結晶X線回折測定用に、厚さ30μmのガラス基板を用意した。UV・オゾン処理を施したイーグルガラス上に成膜した有機半導体単結晶膜に接するように用意したガラス基板を配置し、有機半導体単結晶膜とガラス基板との界面に水を滴下して、有機半導体単結晶膜をイーグルガラス基板から剥離させ、ガラス基板上に転写した。
【0110】
図30に、ガラス基板上に転写した有機半導体単結晶膜の単結晶X線回折測定結果を示す。c
*が結晶成長方向に対応し、白丸で囲った箇所が有機半導体単結晶膜由来の回折ピークを示す。単結晶X線回折で単一のスポットが得られており、得られた有機半導体単結晶膜は、X線が照射される0.00795mm
2の範囲においてシングルドメインで構成されていることが分かった。