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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】金属膜付樹脂成形品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/09 20060101AFI20231211BHJP
   C08L 67/02 20060101ALI20231211BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20231211BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20231211BHJP
   C23C 28/02 20060101ALI20231211BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231211BHJP
   C23C 14/20 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
B32B15/09
C08L67/02
C08L101/02
C08L69/00
C23C28/02
B32B27/36
B32B27/36 102
C23C14/20 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019164698
(22)【出願日】2019-09-10
(65)【公開番号】P2020040401
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2022-03-10
(31)【優先権主張番号】P 2018169807
(32)【優先日】2018-09-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】猿渡 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 尚規
(72)【発明者】
【氏名】山中 康史
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-144154(JP,A)
【文献】特開2016-056355(JP,A)
【文献】特開2015-108134(JP,A)
【文献】特開2009-102581(JP,A)
【文献】特開2004-203022(JP,A)
【文献】特開平03-002229(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 15/09
C08L 67/02
C08L 101/02
C08L 69/00
C23C 28/02
B32B 27/36
C23C 14/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、前記樹脂組成物が、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂を含有し、
かつ該反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂が、アミド基を含有する樹脂を含有し、更にエポキシ化合物及び/又はエポキシ基を含有する樹脂を含有する金属膜付樹脂成形品であって、
前記金属膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が9.0N/cm以上であることを特徴とする金属膜付樹脂成形品。
【請求項2】
請求項1の金属膜付樹脂成形品の前記金属膜上にめっき層を有することを特徴とするめっき膜付成形品。
【請求項3】
請求項2に記載のめっき膜付成形品からなる車載用部品。
【請求項4】
請求項2に記載のめっき膜付成形品からなる電装部品。
【請求項5】
前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなる成形品の表面に、乾式処理により前記金属膜を成膜することを特徴とする請求項1の金属膜付樹脂成形品の製造方法。
【請求項6】
真空雰囲気下で、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなる成形品の表面をプラズマ処理した後、該プラズマ処理面にスパッタリングにより前記金属膜を成膜することを特徴とする請求項5の金属膜付樹脂成形品の製造方法。
【請求項7】
ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、前記樹脂組成物が、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂を含有し、
かつ該反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂が、アミド基を含有する樹脂を含有し、更にエポキシ化合物及び/又はエポキシ基を含有する樹脂を含有する金属膜付樹脂成形品を製造する方法であって、
真空雰囲気下で、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなる成形品の表面をプラズマ処理した後、該プラズマ処理面にスパッタリングにより前記金属膜を成膜することを特徴とする金属膜付樹脂成形品の製造方法。
【請求項8】
請求項5~7のいずれか1項の金属膜付樹脂成形品の製造方法で製造された金属膜付樹脂成形品の前記金属膜上にめっき層を形成することを特徴とするめっき膜付成形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物及び/又はポリカーボネート系樹脂組成物よりなる樹脂成形品の表面に金属膜が形成された金属膜付樹脂成形品と、この金属膜付樹脂成形品を製造する方法に関する。
なお、本発明において、「金属膜」は、単一の金属からなる膜に限らず、2種以上の金属からなる合金膜を包含する広義の金属膜をさす。
【背景技術】
【0002】
近年、IT化社会の急速な発展に伴い、電子機器の高速処理化が進み、LSIやマイクロプロセッサーなどICの動作周波数は上昇している。例えば、通信分野では光ファイバーを用いた高速通信網が使用され、次世代マルチメディヤ移動通信では2GHz;ITS(Intelligent Tranport System)の分野ではETS(自動料金収受システム)における5.8GHz;車間距離を測定して運転者に伝える走行支援道路システム(AHS)の自動車搭載レーダーでは76GHz;といった周波数の電磁波が使用され、今後は、更に高周波の電磁波の利用範囲が拡大することが予想される。電磁波は周波数の上昇に伴いノイズを放出しやすく、一方において、電子機器の小型化、高密度化による電子機器内部のノイズ環境の悪化による誤動作が生じ、このような高周波の電磁波の利用状況において、人体へ及ぼす悪影響も問題となってきている。
【0003】
従来、かかる電磁波を防止するための電磁波シールド材(電磁波遮断材)としては、一般的に金属材料が使用されてきたが、近年では、高比重の金属材料に代えて、樹脂成形品の表面に電解めっきにより金属膜を形成したものが広く用いられている。
【0004】
樹脂成形品の表面に金属めっき膜を形成する場合、電解めっき処理に先立ち、無電解めっき処理が行われる。
即ち、樹脂は非導電体であるため、前処理として六価クロム酸エッチングを行って樹脂成形品の表面上に凸凹を形成することで、金属めっき膜に対する物理的密着性を高め、また、シード層の形成としてパラジウム触媒を塗布して触媒活性化して無電解めっき処理することが行われている。
【0005】
しかし、エッチング処理に使用される六価クロム酸は、環境に対する負荷が大きく、規制対象となっており、2023年には使用制限となる。また、シード層に使用されるパラジウムは希少金属でありコストの増加に繋がっている。
しかも、これらの工程は、水洗、中和等のためにも、多数の処理槽を必要とし、設備数が多く、廃液の処理等の問題もあり、設備面積、製造コスト、生産性等の観点からも好ましくない。このため、無電解めっきに代わる乾式処理で電解めっき膜の下地となる金属皮膜を形成することが望まれる。
【0006】
このような状況において、本出願人は、樹脂等の絶縁体の表面に乾式処理で密着性に優れた金属膜を形成する方法として、ホローカソード電極を使用したプラズマCVDとスパッタリングにより樹脂等の絶縁体の表面にシード層を形成し、その後電解めっきを行う方法を特許出願した(特願2018-97358)。
【0007】
一方で、本発明で用いるポリブチレンテレフタレート系樹脂は、機械的性質、電気的性質、耐熱性などに優れているために、近年、電気機器部品、機械部品などの分野に広く使用されているエンジニアリングプラスチックであり、このようなポリブチレンテレフタレート系樹脂を電磁波シールド材等に適用するべく、ポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品表面への乾式処理による金属膜の形成方法の開発が望まれる。
【0008】
また、ポリカーボネート系樹脂は、透明性、耐熱性、機械的強度、耐衝撃性などに優れているために、近年、電気機器部品、機械部品、自動車部品などの分野に広く使用されているエンジニアリングプラスチックであり、このようなポリカーボネート樹脂を電磁波シールド材等に適用するべく、ポリカーボネート系樹脂成形品表面への乾式処理による金属膜の形成方法の開発が望まれる。さらには透明なポリカーボネート系樹脂成形品表面への乾式処理による金属膜の形成方法の開発が望まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特願2018-97358
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、無電解めっきに代わる乾式処理でポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品及び/又はポリカーボネート系樹脂成形品の表面に密着性に優れた金属膜を形成した金属膜付樹脂成形品及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様に係る金属膜付樹脂成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物及び/又はポリカーボネート系樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、前記樹脂組成物が、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂を含有することを特徴とする。
【0012】
本発明の第2態様に係る金属膜付樹脂成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、該金属膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が9.0N/cm以上であることを特徴とする。
【0013】
第2態様で用いるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂を含有することが好ましい。
【0014】
本発明で用いる反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂は、アミド基を有する化合物及び/又はアミド基を含有する樹脂が好ましく、アミド基を含有する樹脂としてはポリアミド樹脂が好ましい。
【0015】
本発明のめっき膜付成形品は、本発明の金属膜付樹脂成形品の前記金属膜上にめっき層を有することを特徴とする。
【0016】
本発明の車載用部品は、本発明のめっき膜付成形品からなる。
【0017】
本発明の電装部品は、本発明のめっき膜付成形品からなる。
【0018】
本発明の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品の表面及び/又はポリカーボネート系樹脂成形品の表面に乾式処理により金属膜を設ける金属膜付樹脂成形品製造用の樹脂組成物であって、前記樹脂組成物が、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂を含有することを特徴とする。
【0019】
本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法はポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品表面及び/又はポリカーボネート系樹脂成形品表面に、乾式処理により金属膜を成膜することを特徴とする。
【0020】
本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法において、真空雰囲気下で、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品表面及び/又はポリカーボネート系樹脂成形品表面をプラズマ処理した後、該プラズマ処理面にスパッタリングにより金属膜を成膜することが好ましい。
【0021】
本発明のめっき膜付成形品の製造方法は、本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法により製造された金属膜付樹脂成形品の金属膜上にめっき層を形成することを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、無電解めっきに代わる乾式処理でポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品及び/又はポリカーボネート系樹脂成形品の表面に密着性に優れた金属膜を形成した金属膜付樹脂成形品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
〔金属膜付樹脂成形品〕
本発明の第1態様に係る金属膜付樹脂成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物及び/又はポリカーボネート系樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、前記樹脂組成物が、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂を含有することを特徴とする。
【0025】
本発明の第2態様に係る金膜付樹脂成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物よりなる成形品の表面に金属膜を有する金属膜付樹脂成形品であって、該金属膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が9.0N/cm以上であることを特徴とする。
【0026】
このような本発明の金属膜付樹脂成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品表面及び/又はポリカーボネート系樹脂成形品表面に、乾式処理により金属膜を成膜する本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法により製造することができる。
【0027】
この金属膜付樹脂成形品の製造方法は、好ましくは、真空雰囲気下でポリブチレンテレフタレート系樹脂成形品及び/又はポリカーボネート系樹脂成形品の表面をプラズマ処理した後、該プラズマ処理面にスパッタリングにより金属膜を成膜する方法である。なお、このプラズマ処理に先立ち、加熱処理を行ってもよい。
【0028】
以下において、本発明で用いるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物、ポリカーボネート系樹脂組成物をそれぞれ「本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物」、「本発明のポリカーボネート系樹脂組成物」と称し、これらをまとめて「本発明の樹脂組成物」と称す場合がある。
また、このような本発明の樹脂組成物よりなる成形品を「本発明の成形品」と称す場合がある。
本発明の樹脂組成物の成分組成、製造方法及び成形方法については後述する。
【0029】
以下に、本発明の金属膜付樹脂成形品の製造方法に従って、本発明の金属膜付樹脂成形品について説明する。
【0030】
[乾式処理]
本発明の成形品の表面に乾式処理により金属膜を設ける方法としては、後述のプラズマCVDとスパッタリングを組み合わせる方法、PVDや熱CVD、ECRプラズマCVD、光CVD、MO CVD(Metalorganic Chemical Vapor Deposition)、2極スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、DC(直流)、RF(高周波)、電源のスパッタリング、デュアル(Dual)マグネトロン方式、反応性スパッタリング、対向ターゲット、イオンビームスパッタリング、ECR(Electron Cyclotron Resonance)スパッタリング等が挙げられる。これらの乾式処理の1種のみで金属膜の成膜を行ってもよく、2種以上を組み合わせて金属膜の成膜を行ってもよい。
【0031】
これらの乾式処理のうち、本発明においては、特にプラズマ工程とスパッタリング工程を行って金属膜を成膜する方法が、密着性に優れた金属膜を成膜できるため、好ましい。
以下に、プラズマ工程とスパッタリング工程を経て金属膜を成膜する方法について説明する。
【0032】
[加熱工程]
本発明においては、後述のプラズマ工程に先立ち、本発明の成形品を加熱する加熱工程を行ってもよく、加熱工程を行うことで、プラズマ工程における本発明の成形品からの水分やガスの揮散を防止して、より密着性に優れた金属膜を形成することができる。
【0033】
加熱工程における加熱温度は、本発明の成形品を構成する樹脂の軟化温度未満であって、本発明の成形品から水分やガスを予め放出させて、プラズマ工程でのこれらの成分の揮散を防止することができる程度の温度であればよく、本発明の樹脂組成物よりなる成形品では、通常80~200℃、とりわけ80~120℃の範囲とすることが好ましい。加熱時間は、加熱温度によっても異なるが、短か過ぎると加熱工程を行うことによる効果を十分に得ることができず、長過ぎると生産性が損なわれるため、1~10時間程度、特に1~3時間程度とすることが好ましい。
なお、加熱工程の雰囲気や圧力には特に制限はなく、大気圧下で行ってもよいが、例えばN雰囲気中133Pa以下の減圧条件としたり、10-1Pa以下の真空条件としたりすることで、加熱温度を下げ、また加熱時間を短くした上で、常圧下での加熱と同等の効果を得ることができる場合がある。
【0034】
このような加熱工程を行った後は、水分等の揮散成分が再び本発明の成形品に吸収されないように、直ちに、例えば0~30分以内に次のプラズマ工程に移行することが好ましい。
【0035】
[プラズマ工程]
プラズマ工程は、本発明の成形品の表面に反応性官能基を発生させることで、金属原子との結合性を高め、その後のスパッタリングで成膜された金属膜との密着性を向上させるための活性化処理工程である。
【0036】
このプラズマ工程は、好ましくはホローカソード電極を用いて真空条件下で行われる。特に、プラズマ工程は、前述の特願2018-97358に記載の装置を用いて後述のスパッタリング工程と真空条件下での連続処理で行うことが好ましい。
また、プラズマ処理でより効率的に本発明の成形品の表面に反応性官能基を発生させるために、本発明の樹脂組成物は、後述の通り、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂を含有することが好ましい。
【0037】
ホローカソード電極を用いたプラズマ処理であれば、高い電子密度(1011cm-3オーダー)のラジカル放電を行えるため、処理対象物の高温下による温度ダメージを低減することができる。また、解離に高エネルギーが必要なOを使用したプラズマCVDが可能となり、放電を安定化させてO処理効果を高め、本発明の成形品の表面上に反応性官能基を効率的に形成して、後段のスパッタリングによる金属膜の密着性をより一層高めることができる。
また、特に、プラズマ工程と後述のスパッタリング工程とを真空雰囲気下での連続処理を行うことで、プラズマ処理後に本発明の成形品を大気に曝すことなくスパッタリング成膜に供することができ、本発明の成形品のプラズマ処理面の変質等を防止して処理面を安定化させることができる。
【0038】
プラズマCVD処理は、耐圧チャンバー内に、好ましくは、ホローカソード電極と対向電極とを間隔をあけて一体化させたプラズマ発生源と、本発明の成形品とを、本発明の成形品の被プラズマ処理面とホローカソード電極とが対向するように、かつ本発明の成形品をホローカソード電極から離隔した位置に配置して、このチャンバー内を減圧し、プラズマ発生源のホローカソード電極と対向電極との間に反応ガスを供給すると共に、プラズマ発生源に電圧を印加することにより行うことができる。
【0039】
このようにすることで、本発明の成形品の温度ダメージを低減できる理由は以下の通りである。
即ち、プラズマ発生源から放出された段階ではプラズマは高温であるが、チャンバー内をドリフト中に、チャンバー内に存在する反応ガスとの衝突などにより熱エネルギーを失うため、プラズマ発生源から離隔して配置された処理対象物である本発明の成形品に達した時点ではプラズマの温度は低下している。
また、反応ガスとの衝突などにより、プラズマの一部は、プラズマ(帯電状態)から活性化状態(ラジカル状態)に変化している。よって、本発明の成形品は、反応ガスのプラズマのみではなく、活性化状態(ラジカル状態)の反応ガスにも晒されることになる。本明細書では、プラズマ状態の反応ガスと活性化状態(ラジカル状態)の反応ガスを、高反応性化された反応ガスと呼ぶ。また、プラズマ状態の反応ガスとラジカル状態の反応ガスにより、処理対象物である本発明の成形品の表面を活性化することをプラズマ処理と呼ぶ。
【0040】
このように、処理対象物である本発明の成形品に到達する際にはプラズマの温度が低下し、ラジカル状態の反応ガスも到達するという効果は、本発明の成形品が、ホローカソード電極から対向電極とは反対側に離れた位置に設けられていることによるものである。換言すると、プラズマ発生源は、ホローカソード電極と本発明の成形品との距離が、ホローカソード電極と対向電極との距離よりも長く設定されるように、ホローカソード電極を挟んで本発明の成形品と対向電極とが配置されるように設計される。
【0041】
このように、プラズマ発生源と処理対象物の本発明の成形品の距離を離すことにより、本発明の成形品に到達する高反応性化された反応ガスの濃度が低下してしまう恐れがある。
しかし、プラズマ発生源と本発明の成形品を設けたチャンバー内を減圧して真空雰囲気下とすることで、プラズマ発生源で発生したプラズマが必要以上に気体分子(反応ガスの分子)と衝突することを防ぎ、高反応性化された反応ガスの濃度の低下を防止することができる。
【0042】
本発明において、プラズマ処理は、具体的には、以下の手順と条件で行うことが好ましい。
【0043】
即ち、まず、プラズマ発生源に第1圧力P1の反応ガスを供給し第1出力E1の電力を印加して第1プラズマ状態を形成した後に、プラズマ発生源に、第1圧力P1より高い第2圧力P2の反応ガスを供給し第1出力E1の電力より低い第2出力E2の電力を印加して第2プラズマ状態を形成する。即ち、プラズマ処理の開始時には、プラズマ発生源内の反応ガスの圧力が高いと、ホローカソード電極と対向電極との間での放電が発生しにくいため、プラズマを生成することができない。そこで、プラズマ処理の開始時には、プラズマ発生源内の反応ガスの圧力を比較的低圧の第1圧力P1とすることで放電を発生させ、プラズマを生成させる。プラズマが発生した後は、電荷を有するプラズマや電子により放電が継続し易くなるため、プラズマ発生源内の反応ガスの圧力を第1圧力P1より高い第2圧力P2とする。これにより、プラズマ発生源から高濃度のプラズマを発生させて、処理対象物である本発明の成形品を、より多量の高反応性化された反応ガスに晒すことができ、処理能力をさらに向上することができる。
【0044】
上記の第1圧力P1は、例えば、0.5Pa以上、3Pa以下の圧力であることが好ましい。第1圧力P1が0.5Paより低圧であると、初期のプラズマの濃度が薄くなり、安定した放電を維持することが難しくなる。一方、第1圧力P1が3Paより高圧であると、放電を行うことが難しくなる。
【0045】
また、上記の第2圧力P2は、例えば、10Pa以上、50Pa以下の圧力であることが好ましい。第2圧力P2が10Paより低圧であると、プラズマの濃度が薄くなり高い処理能力を発揮することが難しくなる。一方、第2圧力P2が50Paより高圧であると、放電を維持することが難しくなる。
【0046】
なお、第1プラズマ状態の形成時にホローカソード電極に印加する電力である第1出力E1は、ホローカソード電極の単位面積当たり、2W/cm以上、5W/cm以下であることが好ましい。第1出力E1が2W/cmより小さいと、プラズマ発生源内で放電を発生させてプラズマを形成することが困難になる。一方、第1出力E1が5W/cmより大きいと、プラズマ発生源内で異常放電が発生する恐れがある。
【0047】
また、第2プラズマ状態の形成時にホローカソード電極に印加する電力である第2出力E2は、ホローカソード電極の単位面積当たり、0.5W/cm以上、2W/cm以下であることが好ましい。第2出力E2が0.5W/cmより小さいと、プラズマ発生源内での放電およびプラズマ形成を維持することが困難になる。一方、第2出力E2が2W/cmより大きいと、プラズマ発生源内で異常放電が発生する恐れがある。
【0048】
上記の処理条件において、第1プラズマ状態の継続時間t1は、0~5秒であることが好ましく、第2プラズマ状態の継続時間t2は、第1プラズマ状態の継続時間t1の、10倍以上、例えば10~100倍であることが好ましい。第2プラズマ状態は、第1プラズマ状態よりも、高い濃度の高反応性化された反応ガスを生成することができるので、上記の通り、第2プラズマ状態の継続時間t2を長くすることで、より効率の良い処理を行える。
【0049】
なお、このようなプラズマ条件において、ホローカソード電極から本発明の成形品までの距離は、100mm以上、250mm以下であることが好ましい。この距離が、100mmより短いと本発明の成形品が高温化してしまう恐れがあり、250mmより長いとプラズマの濃度が薄くなり高い処理能力を発揮することが難しくなる。
【0050】
本発明におけるプラズマ処理は、プラズマ状態の反応ガスのみでなく、活性化状態(ラジカル状態)の反応ガスをも使用するプラズマ処理で行うことが好ましく、反応ガスとして、ラジカル状態において強力な反応性を有する酸素(O)を使用することが、プラズマ処理の効率をより一層向上させることができることから好ましい。なお、反応ガスは窒素とすることもできるが、プラズマ処理効率の面から、酸素、或いは酸素とアルゴン等の不活性ガスとの混合ガスとすることが好ましい。酸素と不活性ガスとの混合ガスを用いる場合、混合ガス中の酸素濃度は99.9%以上とすることが好ましい。
【0051】
[スパッタリング工程]
上記のプラズマ工程により表面を活性化した本発明の成形品のプラズマ処理面に、次いでスパッタリングにより金属膜を成膜する。
前述の通り、このスパッタリング工程は、プラズマ処理後の本発明の成形品を大気に晒すことなく行うことが、より密着性の高い金属膜を成膜する上で重要である。
【0052】
スパッタリング工程は減圧チャンバー内にプラズマ処理された本発明の成形品をターゲット材料と電極部とからなるスパッタ電極に対向して設け、常法に従って行うことができるが、スパッタ電極への投入電力は10kW以上、特に30kW以上の高電力とすることが好ましい。
通常、スパッタ装置では、成膜する膜の純度を高めるために、スパッタ装置内の圧力を0.1Pa程度に減圧して成膜を行うのが一般的である。スパッタ装置内の圧力がこれより高いと、スパッタ装置内に残留する、あるいは処理対象物から放出される水等の不純物の除去が困難であり、その結果、不純物が膜に混入し膜の品質が低下するためである。しかし、特に処理対象物が樹脂である場合には、処理対象物から放出される不純物の量が多く、かつ、長時間にわたって不純物を放出し続けるため、従来のスパッタ装置のように、0.1Pa程度に減圧して成膜を行うことは困難である。
【0053】
そこで、本発明では、処理対象物である本発明の成形品から放出される不純物の量が多くても高性能な膜を成膜可能とするために、スパッタ用電源として、スパッタ電極に対し10kW以上、さらに望ましくは30kW以上、例えば10~40kWの電力を投入することができるものを用いて、高電力条件下で成膜を行うことが好ましい。
【0054】
スパッタ電極に投入される電力が大電力であると、通常の電力が投入される場合に比べて、ターゲット材料から放出される銅等の金属原子の量が増大するとともに、金属原子の持つ運動エネルギーも増大する。この結果、処理系内の不純物の濃度が金属原子の濃度に対して相対的に低下することで、処理対象物に成膜される膜の純度が向上する。さらに、処理対象物に衝突する金属原子の運動エネルギーが大きいことにより、処理対象物を構成する分子と金属原子とが安定的に結合するため、処理対象物に対する密着性が高い膜を成膜することができる。
【0055】
ターゲット材料から放出された金属原子はチャンバー内を直進するが、チャンバー内の不活性ガスとの衝突により、その進行方向が拡散(散乱)される。従来のスパッタ装置では、金属原子の運動エネルギーが低いため、不活性ガスと衝突し散乱して運動エネルギーを失った金属原子は、処理対象物に十分な強度で密着することができず、処理対象物に凹凸形状があると、その凹凸形状の側面部分には散乱されて運動エネルギーを失った金属原子しか照射されないため、凹凸形状を有する処理対象物に均一な成膜を行うことは困難であったが、上記の通り、高電力条件で行うと、ターゲット材料から放出される際の金属原子の運動エネルギーが大きいため、不活性ガスによる散乱後も金属原子は十分な運動エネルギーを有する。従って、処理対象物には、散乱により種々の進行方向を有し、かつ運動エネルギーの大きな金属原子が照射されるため、凹凸形状を有する処理対象物に対しても、均一な膜を成膜させることが可能となる。
【0056】
上記効果を得るために、スパッタリング時のチャンバー内の圧力は、0.5Paから5Pa程度とすることが望ましい。スパッタリング時のチャンバー内の圧力が0.5Pa以上であれば、ターゲット材料から放出される際の金属原子を十分に散乱させることができ、5Pa以下であれば、チャンバー内の不純物の濃度を下げて膜質を確保することができる。
【0057】
[金属膜]
本発明の成形品の表面に形成される金属膜としては、銅、アルミニウム、クロム、ニッケル等の金属や、これらの2種以上を含む合金よりなる膜が挙げられる。
また、この金属膜の厚さは、100~500nm程度であることが好ましい。この膜厚が上記下限以上であれば、電気抵抗を下げてシード層としての機能を十分に得ることができる。この膜厚が上記上限以下であれば、成膜に要する時間を徒に長くすることなく、製造コストを抑えることができる。
【0058】
[金属膜のピール強度]
本発明の金属膜付樹脂成形品の金属膜は、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って測定されたピール強度が、好ましくは9.0N/cm以上の高い密着強度を示す。このピール強度はより好ましくは10.0N/cm以上であり、さらに好ましくは13.0N/cm以上である。
なお、金属膜のピール強度は、具体的には後述の実施例の項に記載される方法で測定される。
【0059】
〔本発明の樹脂組成物〕
以下に本発明の樹脂組成物について説明する。
【0060】
[反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂]
本発明の樹脂組成物は、後述の通り、樹脂成分としてポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂を主成分として含有するものであるが、前述のプラズマ処理により、高いプラズマ処理効果を得る上で、反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂(以下、「反応性成分」と称す場合がある。)を含有することが好ましい。
反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂とは、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂と反応する化合物であり、その種類は特に限定されず、得られる樹脂成形品に求められる物性等に応じて適宜好ましい化合物を選択して用いる。
【0061】
反応性成分としては特に制限はないが、カルボジイミド化合物、エポキシ化合物、オキサゾリン基及び/又はオキサゾリン環を有する化合物、オキサジン基及び/又はオキサジン環を有する化合物、カルボン酸を有する化合物、及びアミド基を有する化合物及び/又はこれら反応性官能基を有する樹脂からなる群から選ばれた1種以上であるのが好ましく、特にエポキシ化合物及び/又はエポキシ基を有する樹脂、アミド基を有する化合物及び/又はポリアミド樹脂であるのが好ましい。
【0062】
反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂が本発明の樹脂組成物に含まれる樹脂成分のどの部分と反応するかは特に限定されない。ポリブチレンテレフタレート樹脂の場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端のカルボキシル基や水酸基と反応するものであってもよいし、ポリブチレンテレフタレート樹脂の高分子鎖内のエステル結合と反応するものであってもよい。また、ポリカーボネート樹脂の場合、ポリカーボネート樹脂の末端の水酸基やtert-ブチルフェノール基と反応するものであってもよい。
反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂が樹脂成分のどの部分と反応する場合であっても、反応を進めるために樹脂成分や、樹脂成分と反応性成分との反応物を高温に曝すことになり、従来樹脂成分の熱分解や、樹脂成分と反応性成分との反応物における樹脂成分に由来する部分の熱分解が起こる。このため、どのような反応であっても、本発明を適用することができる。なお、本発明においては、樹脂成分と反応性成分とを溶融状態で一部が反応してよい。例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端のカルボキシル基や水酸基と反応する反応性成分、ポリブチレンテレフタレート樹脂の高分子鎖内のエステル結合と反応する反応性成分であれば、溶融状態でスムーズに一部の反応が進む。ポリカーボネート樹脂の場合においても同様である。
【0063】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端のカルボキシル基や水酸基、ポリカーボネート樹脂の末端の水酸基やtert-ブチルフェノール基と反応する反応性成分としては、水酸基、カルボン酸無水物基、エポキシ基、イソシアネート基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、グリシジル基、アミノ基、イミノ基、シアノ基、アゾ基、チオール基、スルホ基、ニトロ基、アルコキシ基、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合等を有する化合物や樹脂が例示できる。
【0064】
反応性官能基としては、プラズマ処理効果を高めるという本発明の目的から、アミド基、エポキシ基、イミド基、カルボニル基、アルコール基が好ましく、特にアミド基が好ましい。
このような反応性官能基を含む化合物や樹脂を含む樹脂組成物であれば、前述のプラズマ処理により、本発明の成形品の表面に、金属原子との結合性を高めることができる反応性官能基をより多く発生させて、この表面を高度に活性化することで、スパッタリングによる金属膜の密着性を高めることができる。
【0065】
<アミド基を有する化合物・樹脂>
アミド基を有する化合物としては、例えば(メタ)アクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、メチロール化アクリルアミド、メチロール化メタクリルアミド、ウレイドビニルエーテル、β-ウレイドイソブチルビニルエーテル、ウレイドエチルアクリレート等を挙げることができる。
また、アミド基を有する樹脂としては、樹脂(A)として含まれるポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂以外の樹脂として後述するポリアミド樹脂を用いることが好ましい。
アミド基を有する化合物及び/又はアミド基を有する樹脂はそれぞれ1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
本発明の樹脂組成物が、ポリアミド樹脂を含む場合、本発明の樹脂組成物中のポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂と融点が近傍である種類か、もしくはそれ以下の融点を持つポリアミド樹脂が好ましい。
【0066】
<エポキシ基を有する化合物・樹脂>
エポキシ基を有する化合物及び樹脂としては、以下のエポキシ化合物が挙げられる(以下、反応性成分としてのエポキシ化合物を「エポキシ化合物(B)」と称す場合がある。)。また、後述する成分のうち、本発明の樹脂組成物に含有されていてもよい樹脂(A)以外の成分として難燃剤(D)として好適に用いられる臭素化エポキシ化合物や、強化材(F)の表面処理剤としてのエポキシ樹脂が挙げられる。
これらは、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0067】
以下、エポキシ化合物(B)について説明する。
エポキシ化合物(B)としては、一分子中に一個以上のエポキシ基を有するものであればよく、通常はアルコール、フェノール類又はカルボン酸等とエピクロロヒドリンとの反応物であるグリシジル化合物や、オレフィン性二重結合をエポキシ化した化合物を用いればよい。
エポキシ化合物(B)としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ化合物(B)、ビスフェノールF型エポキシ化合物(B)、レゾルシン型エポキシ化合物(B)、ノボラック型エポキシ化合物(B)、脂環式エポキシ化合物(B)、グリシジルエーテル類、グリシジルエステル類、エポキシ化ブタジエン重合体等が挙げられる。
【0068】
ビスフェノールA型エポキシ化合物(B)としては、ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールA-ジグリシジルエーテル等が、ビスフェノールF型エポキシ化合物(B)としては、ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル、水添ビスフェノールF-ジグリシジルエーテル等、レゾルシン型エポキシ化合物(B)としてはレゾルシンジグリシジルエーテル等が例示できる。
また、ノボラック型エポキシ化合物(B)としては、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等を例示できる。
【0069】
脂環式エポキシ化合物(B)の例としては、ビニルシクロヘキセンジオキシド、ジシクロペンタジエンオキシド、3,4-エポキシシクロヘキシル-3,4-シクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、3,4-エポキシシクロヘキシルグリシジルエーテル等が挙げられる。
【0070】
グリシジルエーテル類の具体例としては、メチルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル、2-エチルヘキシルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ステアリルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ブチルフェニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のモノグリシジルエーテル;ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、エチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセリンジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ビスフェノールAジグリシジルエーテル等のジグリシジルエーテル類が挙げられる。またグリシジルエステル類としては、安息香酸グリシジルエステル、ソルビン酸グリシジルエステル等のモノグリシジルエステル類;アジピン酸ジグリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル等のジグリシジルエステル類等が挙げられる。
【0071】
エポキシ化ブタジエン重合体としては、エポキシ化ポリブタジエン、エポキシ化スチレン-ブタジエン系共重合体、エポキシ化水素化スチレン-ブタジエン系共重合体等を例示できる。
【0072】
またエポキシ化合物(B)は、グリシジル基含有化合物を一方の成分とする共重合体であってもよい。例えばα,β-不飽和酸のグリシジルエステルと、α-オレフィン、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸、メタクリル酸エステルからなる群より選ばれる一種または二種以上のモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0073】
エポキシ化合物(B)のエポキシ当量は100~10000g/eq、質量平均分子量は8000以下であることが好ましい。エポキシ当量が100g/eq未満のものは、エポキシ基の量が多すぎるため樹脂組成物の粘度が高くなり、逆にエポキシ当量が10000g/eqを超えるものは、エポキシ基の量が少なくなるため、プラズマ処理効果や耐アルカリ性等を向上させる効果が十分に発現しにくい傾向にある。エポキシ当量は、より好ましくは300~7000g/eqであり、さらに好ましくは500~6000g/eqである。また、質量平均分子量が8000を超えるものは、後述の樹脂(A)との相溶性が低下し、成形品の機械的強度が低下する傾向にある。質量平均分子量は、より好ましくは7000以下であり、さらに好ましくは6000以下である。
【0074】
<含有量>
本発明の樹脂組成物中の反応性化合物及び/又は反応性官能基を有する樹脂の含有量は、多い程プラズマ処理効果の向上効果の面からは好ましい場合があるが、用いる化合物の他の特性への影響を考慮して適宜決定される。例えば、ポリアミド樹脂であれば、後述の通り、樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂と併用する場合の好適な配合量で配合される。エポキシ化合物(B)等についても同様である。
【0075】
[樹脂(A)]
本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂を主成分として含むものである。ここで「主成分」とは、樹脂成分中に最も多く含まれている成分をさし、通常、樹脂(A)中に50質量%以上、好ましくは60~100質量%含まれる成分である。
【0076】
本発明の樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂を樹脂(A)の主成分として含むものであればよく、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂以外の他の熱可塑性樹脂を含んでいてもよい。ポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、後述のポリアミド樹脂、スチレン系樹脂、ポリブチレンテレフタレート系樹脂以外のポリエステル樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエチレン-1,2-ビス(フェノキシ)エタン-4,4-ジカルボキシレートなどの芳香族ポリエステル樹脂や共重合芳香族ポリエステル樹脂、特に好ましくはポリエチレンテレフタレート)、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリメタクリレート樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂などの1種又は2種以上が挙げられる。
【0077】
本発明の樹脂組成物が、樹脂(A)としてこれらのポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂以外のその他の樹脂の1種又は2種以上をポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂と共に混合して用いることで、それぞれ特性の改善を図ることができる。
なお、エポキシ樹脂は前述の通り反応性成分として機能する。また、ポリイミド樹脂、フェノール樹脂等も、前述の反応性官能基を有する樹脂としてプラズマ処理効果の向上効果を奏する場合もある。
【0078】
以下、本発明の樹脂組成物中の樹脂(A)を構成する代表的な樹脂について説明する。
【0079】
<ポリブチレンテレフタレート樹脂>
本発明の樹脂組成物がポリブチレンテレフタレート樹脂組成物である場合、本発明の樹脂組成物はポリブチレンテレフタレート樹脂を樹脂(A)の主成分として含む。
本発明では、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、ポリブチレンテレフタレート樹脂と共に後述のポリカーボネート樹脂を含んでいてもよい。
【0080】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位とアルカンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、得られる成形品の曲げ強度等の機械的強度、耐薬品性、成形性などに優れる。ポリブチレンテレフタレート樹脂と共にポリエチレンテレフタレート樹脂等の他のポリエステル樹脂を混合して用いてもよい。
【0081】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーと当該共重合体との混合物を含むものであってもよい。
【0082】
ポリブチレンテレフタレート樹脂が、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいる場合の、他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
なお、これらのテレフタル酸以外の他のジカルボン酸を含んでいる場合の共重合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満であることが好ましい。中でも、共重合量は好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、特に好ましくは5~20モル%である。
【0083】
ポリブチレンテレフタレート樹脂が、1,4-ブタンジオールの外に他のジオール単位を含んでいる場合の、他のジオールとしては、炭素原子数2~20の脂肪族又は脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。
なお、これらの1,4-ブタンジオール以外の他のジオール単位を含んでいる場合の共重合量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満であることが好ましい。中でも、共重合量は好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、特に好ましくは5~20モル%である。
【0084】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂には、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0085】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましいが、カルボン酸単位として、テレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上、および/又は、ジオール単位として、1,4-ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよい。ポリブチレンテレフタレート樹脂は、機械的性質、耐熱性の観点から、ジカルボン酸単位中のテレフタル酸単位の割合が、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。同様に、ジオール単位中の1,4-ブタンジオール単位の割合が、好ましくは50モル%以上であり、より好ましくは70モル%以上であり、さらに好ましくは90モル%以上である。
【0086】
ポリブチレンテレフタレート樹脂として共重合体を用いる場合は、中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いることが好ましい。共重合体中のテトラメチレングリコール成分の割合は3~40質量%であることが好ましく、5~30質量%がより好ましく、10~25質量%がさらに好ましい。
【0087】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分又はこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式又は通続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレフタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下又は減圧下固相重合させることにより、重合度(又は分子量)を所望の値まで高めることもできる。
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0088】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0089】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。末端カルボキシル基量が50eq/tonを超えると、樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂製造時の生産性を考慮し、通常10eq/tonである。
【0090】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリブチレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定した値である。末端カルボキシル基量の調整は、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0091】
ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5~2dl/gであることが好ましい。成形性及び機械的特性の点から、0.6~1.5dl/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られる成形品が機械強度の低いものとなりやすい。また固有粘度が2dl/gより高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定した値である。
【0092】
<ポリカーボネート樹脂>
本発明の樹脂組成物がポリカーボネート樹脂組成物である場合、本発明の樹脂組成物はポリカーボネート樹脂を樹脂(A)の主成分として含む。
本発明では、ポリカーボネート樹脂は、1種類のみを用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。また、ポリカーボネート樹脂と共に前述のポリブチレンテレフタレート樹脂を含んでいてもよい。
【0093】
本発明の樹脂組成物が、樹脂(A)としてポリカーボネート樹脂、特に芳香族ポリカーボネート樹脂を含むことで、寸法安定性、形状安定性、耐熱性、耐衝撃性、曲げ強度等を高めることができる。
【0094】
芳香族ポリカーボネート樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。芳香族ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。また、溶融法を用いた場合には、末端基の水酸基量を調整した芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することができる。
【0095】
原料の芳香族ジヒドロキシ化合物としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(=ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0096】
分岐した芳香族ポリカーボネート樹脂を得るには、上述した芳香族ジヒドロキシ化合物の一部を、以下の分岐剤、即ち、フロログルシン、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプテン-2、4,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ヘプタン、2,6-ジメチル-2,4,6-トリ(4-ヒドロキシフェニルヘプテン-3、1,3,5-トリ(4-ヒドロキシフェニル)ベンゼン、1,1,1-トリ(4-ヒドロキシフェニル)エタン等のポリヒドロキシ化合物や、3,3-ビス(4-ヒドロキシアリール)オキシインドール(=イサチンビスフェノール)、5-クロルイサチン、5,7-ジクロルイサチン、5-ブロムイサチン等の化合物で置換すればよい。これら置換する化合物の使用量は、芳香族ジヒドロキシ化合物に対して、通常0.01~10モル%であり、好ましくは0.1~2モル%である。
【0097】
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導されるポリカーボネート樹脂、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導されるポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。
【0098】
上述した芳香族ポリカーボネート樹脂は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0099】
芳香族ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、この一価の芳香族ヒドロキシ化合物としては、例えば、m-及びp-メチルフェノール、m-及びp-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0100】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂の分子量は、溶媒としてメチレンクロライドを用い、温度25℃で測定された溶液粘度より換算した粘度平均分子量で、好ましくは100~80,000、より好ましくは1,000~60,000である。ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量が上記下限以上であれば機械物性に優れる傾向があり、上記上限以下であれば流動性に優れ、成形性が良好となる傾向がある。
【0101】
ポリカーボネート樹脂としては、粘度平均分子量の異なる2種類以上のポリカーボネート樹脂を混合して用いてもよく、この場合には、粘度平均分子量が上記範囲外であるポリカーボネート樹脂を混合してもよい。この場合、混合物の粘度平均分子量が上記範囲となるように用いることが好ましい。
【0102】
<ポリアミド樹脂>
本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)として、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂と共にポリアミド樹脂を含んでいてもよく、ポリアミド樹脂を含むことで、耐アルカリ性を高めると共に、ポリアミド樹脂中に含まれるアミド基の反応性で、前述のプラズマ処理効果を高めることができ、密着性の高い金属膜が得られる。
【0103】
ポリアミド樹脂は、その分子中に酸アミド基(-CONH-)を有する、加熱溶融できるポリアミド重合体である。具体的には、ラクタムの重縮合物、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物との重縮合物、ω-アミノカルボン酸の重縮合物等の各種ポリアミド樹脂、またはそれ等の共重合ポリアミド樹脂やブレンド物等が挙げられる。
【0104】
ポリアミド樹脂の重縮合の原料であるラクタムとしては、例えば、ε-カプロラクタム、ω-ラウロラクタム等が挙げられる。
【0105】
ジアミン化合物としては、例えば、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、(2,2,4-または2,4,4-)トリメチルヘキサメチレンジアミン、5-メチルノナメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン(MXDA)、パラキシリレンジアミン、1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1-アミノ-3-アミノメチル-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3-メチル-4-アミノシクロヘキシル)メタン、2,2-ビス(4-アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン等の脂肪族、脂環式、芳香族のジアミン等が挙げられる。
【0106】
ジカルボン酸化合物としては、例えば、アジピン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-クロロテレフタル酸、2-メチルテレフタル酸、5-メチルイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸等の脂肪族、脂環式、芳香族のジカルボン酸等が挙げられる。
【0107】
ω-アミノカルボン酸としては、例えば、6-アミノカプロン酸、11-アミノウンデカン酸、12-アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸が挙げられる。
【0108】
これらの原料から重縮合されてなるポリアミド樹脂の具体例としては、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリヘキサメチレンテレフタラミド(ポリアミド6T)、ポリヘキサメチレンイソフタラミド(ポリアミド6I)、ポリメタキシリレンアジパミド(ポリアミドMXD6)、ポリメタキシリレンドデカミド、ポリアミド9T、ポリアミド9MT等が挙げられる。本発明においては、これらポリアミドホモポリマーもしくはコポリマーを、各々単独または混合物の形で用いることができる。
【0109】
ポリアミド樹脂は、特定範囲の重合度、すなわち特定範囲の粘度を有するものが好ましい。すなわち、ISO307規格に準拠して、温度23℃、96質量%硫酸中、ポリアミド樹脂濃度1質量%で測定した粘度数が70~200ml/gのものが好ましい。粘度数を70ml/g以上とすることにより、機械的性質が向上し、200ml/g以下とすることにより、成形性が向上する傾向にあり好ましい。粘度数のより好ましい範囲は70~150ml/gであり、特に好ましい範囲は70~130ml/gである。
【0110】
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基含有量は適宜選択して決定すればよいが、好ましくは35μeq/g以上、より好ましくは40μeq/g以上、さらに好ましくは45μeq/g以上、特に好ましくは50μeq/g以上である。上限は、通常140μeq/g、好ましくは130μeq/g、より好ましくは120μeq/gである。また、末端アミノ基含有量は、好ましくは10μeq/g以上、より好ましくは15μeq/g以上、さらに好ましくは20μeq/g以上であり、その上限は、通常100μeq/g、好ましくは80μeq/g、より好ましくは70μeq/gである。このような末端基含有量とすることにより、耐アルカリ性、プラズマ処理効果が向上しやすい傾向となり、好ましい。
【0111】
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基含有量は、ポリアミド樹脂をベンジルアルコールに溶解して0.01N苛性ソーダで滴定することにより測定できる。また、末端アミノ基含有量は、ポリアミド樹脂をフェノールに溶解して0.01N塩酸で滴定することにより測定可能である。末端カルボキシル基含有量、末端アミノ基含有量の調整は、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調節する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0112】
ポリアミド樹脂は、ラクタム類の開環重合体、ジアミノカルボン酸の重縮合によって得られる重合体、アミン類と二塩基酸類またはこれらと同等な化合物との重縮合によって得られる重合体類を意味する。ラクタム類としては、プロピオラクタム、α-ピロリドン、ε-カプロラクタム、エナントラクタム、ω-ラウロラクタム、シクロドデカラクタム等が挙げられ、ジアミノカルボン酸としては、アミノカプロン酸、7-アミノヘプタン酸、11-アミノウンデカン酸、9-アミノノナン酸等が挙げられる。アミン類としては、ヘキサメチレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等が挙げられ、二塩基酸類としてはテレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸等が挙げられる。
【0113】
ポリアミド樹脂の第一の実施形態は、脂肪族ポリアミド樹脂である。
脂肪族ポリアミド樹脂としては、より具体的には、ポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド7、ポリアミド8、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド612、ポリアミド6/66、ポリアミド6/12等が挙げられる。上記ポリアミド樹脂は、単独でも2種以上の混合物であってもよい。この中では、熱可塑性ポリエステル樹脂の融点とポリアミド樹脂との融点にあまり差がないものが好ましく、ポリブチレンテレフタレート樹脂の場合には、ポリアミド6、ポリアミド6/66共重合あるいはポリアミド66が好ましく、より好ましくはポリアミド6である。
【0114】
ポリアミド樹脂の第二の実施形態は、半芳香族ポリアミド樹脂である。半芳香族ポリアミド樹脂とは、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の30~70モル%が芳香環を含む構成単位であることをいい、ジアミン由来の構成単位およびジカルボン酸由来の構成単位の合計構成単位の40~60モル%が芳香環を含む構成単位であることが好ましい。このような半芳香族ポリアミド樹脂を用いることにより、得られる樹脂成形品の機械的強度を高くすることができる。半芳香族ポリアミド樹脂としては、ポリアミド6T、ポリアミド9T、後述するキシリレンジアミン系ポリアミド樹脂などが例示される。
【0115】
第二の実施形態におけるポリアミド樹脂は、少なくとも1種が、ジアミン由来の構成単位とジカルボン酸由来の構成単位から構成され、ジアミン由来の構成単位の70モル%以上がキシリレンジアミンに由来し、ジカルボン酸由来の構成単位の70モル%以上が、炭素原子数4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸(好ましくはアジピン酸またはセバシン酸、より好ましくはアジピン酸)に由来するポリアミド樹脂(以下、「キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂」ということがある)が好ましい。
キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジアミン由来の構成単位は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上がキシリレンジアミンに由来する。キシリレンジアミン系ポリアミド樹脂のジカルボン酸由来の構成単位は、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、一層好ましくは90モル%以上、より一層好ましくは95モル%以上が、炭素原子数が4~20のα,ω-直鎖脂肪族ジカルボン酸に由来する。
キシリレンジアミンは、パラキシリレンジアミンおよびメタキシリレンジアミンが好ましく、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンの混合物であることがより好ましい。
【0116】
半芳香族ポリアミド樹脂としては、具体的には、ポリアミド6T、ポリアミド6/6T、ポリアミド6/6I、ポリアミド6I/6T、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との重縮合物(ポリアミドMXD6)、メタキシリレンジアミンとパラキシリレンジアミンからなる混合ジアミンとアジピン酸との重縮合物(ポリアミドPAMP6)、パラキシリレンジアミンとセバシン酸との重縮合物(ポリアミドPXD10)等が挙げられる。この中では、MXD6およびPAMP6が好ましく、PAMP6がより好ましい。
【0117】
ポリアミド樹脂の相対粘度は、98%硫酸中、濃度1質量%、温度25℃で測定した相対粘度で、通常は1.6~4.0、好ましくは2.0~3.8である。相対粘度が1.6未満であると、得られる樹脂組成物が脆くなる傾向にあり、逆に相対粘度が4を超えると、樹脂組成物成形時の流動性が不足する場合がある。
【0118】
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基含有量は適宜選択して決定すればよいが、好ましくは35μeq/g以上、より好ましくは40μeq/g以上、さらに好ましくは45μeq/g以上、特に好ましくは50μeq/g以上である。上限は、通常140μeq/g以下、好ましくは130μeq/g以下、より好ましくは120μeq/g以下である。また、末端アミノ基含有量は、好ましくは10μeq/g以上、より好ましくは15μeq/g以上、さらに好ましくは20μeq/g以上であり、その上限は、通常100μeq/g以下、好ましくは80μeq/g以下、より好ましくは70μeq/g以下である。このような末端基含有量とすることにより、耐アルカリ性、耐ヒートショック性が向上しやすい傾向となり、好ましい。
【0119】
ポリアミド樹脂の末端カルボキシル基含有量は、ポリアミド樹脂をベンジルアルコールに溶解して0.01N苛性ソーダで滴定することにより測定できる。また、末端アミノ基は、ポリアミド樹脂をフェノールに溶解して0.01N塩酸で滴定することにより測定可能である。末端カルボキシル基含有量、末端アミノ基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調節する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0120】
ポリアミド樹脂の吸水率は、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましく、また、2.5質量%以下であることが好ましく、2.0質量%以下であることがさらに好ましい。このような吸水率のポリアミド樹脂を用いることにより、金属膜形成をより向上させることが可能になる。
【0121】
<スチレン系樹脂>
本発明の樹脂組成物は、樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又はポリカーボネート樹脂と共にスチレン系樹脂を含有していてもよく、本発明の樹脂組成物がスチレン系樹脂を含有することで、低反り性、成形性の向上効果を得ることができる。
【0122】
スチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレンと(メタ)アクリロニトリルとの共重合体、スチレンと(メタ)アクリロニトリルと他の共重合可能な単量体との共重合体等が挙げられる。ここで、スチレンとは以下のスチレン系単量体を意味する。
【0123】
スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン等が挙げられ、好ましくはスチレンが挙げられる。スチレン系単量体と共重合可能な単量体としては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、無水マレイン酸、マレイミド、N-フェニルマレイミド等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0124】
スチレン系樹脂の製造方法としては、乳化重合法、溶液重合法、懸濁重合法あるいは塊状重合法等の公知の方法が挙げられる。
【0125】
スチレン系樹脂としては、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)が好ましく、AS樹脂がより好ましい。
【0126】
スチレン系樹脂は、本発明の効果を損なわない範囲で、アクリル系ゴム以外の他のゴム成分を含有していてもよい。他のゴム成分としては、3員環以上の環状オルガノシロキサン、好ましくは3~6員環の環状オルガノシロキサン単量体を重合させて製造されるポリオルガノシロキサン系ゴムや、ブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等の共役ジエン化合物からなるジエン系ゴム等が挙げられる。中でも、ブタジエンゴム成分を含有するポリスチレンが好ましく、ハイインパクトポリスチレン樹脂(HIPS樹脂)がより好ましい。
【0127】
<樹脂含有量>
本発明の樹脂組成物が樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート樹脂を主成分として含むポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物である場合、全樹脂(A)100質量部中のポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は50~100質量部であり、好ましくは50質量部を超え、より好ましくは55質量部以上、更に好ましくは60~100質量部である。
【0128】
本発明の樹脂組成物が、樹脂(A)としてポリカーボネート樹脂を主成分として含むポリカーボネート系樹脂組成物である場合、全樹脂(A)100質量部中のポリカーボネート樹脂の含有量は50~100質量部であり、好ましくは50質量部を超え、より好ましくは55質量部以上、更に好ましくは60~100質量部である。
【0129】
本発明の樹脂組成物が、樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂とを主成分として含むポリブチレンテレフタレート/ポリカーボネート系樹脂組成物である場合、全樹脂(A)100質量部中のポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂の含有量はその合計で50~100質量部であり、好ましくは50質量部を超え、より好ましくは55質量部以上、更に好ましくは60~100質量部である。
【0130】
本発明の樹脂組成物が、樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート樹脂を主成分として含むポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物であって、樹脂(A)としてポリカーボネート樹脂を更に含むことで、寸法安定性、形状安定性、耐熱性、耐衝撃性、曲げ強度等を高めることができる。この場合、ポリカーボネート樹脂の含有量は、本発明の樹脂組成物中の全樹脂(A)100質量部中に、1~50質量部、特に2~40質量部、とりわけ5~40質量部であることが好ましい。ポリカーボネート樹脂の含有量が上記下限以上であれば、ポリカーボネート樹脂を含有することによる前述の効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば金属膜の形成をしやすくなる傾向がある。
【0131】
本発明の樹脂組成物が樹脂(A)としてポリカーボネート樹脂を主成分として含むポリカーボネート系樹脂組成物であって、樹脂(A)としてポリブチレンテレフタレート樹脂を更に含むことで、電気的特性、耐薬品性、流動性、耐熱性等を高めることができる。この場合、ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、本発明の樹脂組成物中の全樹脂(A)100質量部中に、1~50質量部、特に2~40質量部、とりわけ5~40質量部であることが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量が上記下限以上であれば、ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有することによる前述の効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば、ポリカーボネート樹脂を主成分として含むことによる寸法安定性、形状安定性、耐熱性、耐衝撃性等の効果を十分に得ることができる。
【0132】
本発明の樹脂組成物が樹脂(A)としてポリアミド樹脂を含む場合、その含有量は、本発明の樹脂組成物中の全樹脂(A)100質量部中に、0.5~50質量部、特に5~50質量部、とりわけ10~40質量部であることが好ましい。ポリアミド樹脂の含有量が上記下限以上であれば、ポリアミド樹脂を含有することによる耐アルカリ性、プラズマ処理効果の向上効果を十分に得ることができる。ポリアミド樹脂の含有量が上記上限以下であれば、樹脂組成物中にポリアミド樹脂が十分に分散し、耐熱性や機械的特性の低下を抑制することができる。
【0133】
本発明の樹脂組成物が樹脂(A)としてスチレン系樹脂を含む場合、その含有量は、本発明の樹脂組成物中の全樹脂(A)100質量部中に、1~50質量部、特に5~50質量部、とりわけ10~50質量部であることが好ましい。スチレン樹脂の含有量が上記下限以上であれば、スチレン樹脂を含有することによる前述の効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば流動性が大幅に改善され成形性が向上する傾向である。
【0134】
本発明の樹脂組成物が、ポリアミド樹脂、スチレン系樹脂以外のその他の樹脂を含有する場合、その他の樹脂の含有量は本発明の樹脂組成物中の全樹脂(A)100質量部中に50質量部以下、特に30質量部以下であることが好ましい。
【0135】
[ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物]
以下に本発明の樹脂組成物が、樹脂(A)の主成分としてポリブチレンテレフタレート樹脂を含むポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物である場合、樹脂組成物中に含有していてもよい樹脂(A)以外の成分について説明する。
【0136】
<エポキシ化合物(B)>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、前述の反応性成分としてのエポキシ化合物(B)を含有していてもよく、エポキシ化合物を含有することで、その反応性のエポキシ基により、前述のプラズマ処理効果を高めることができる。また、エポキシ化合物(B)は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂が水蒸気等により加水分解を受け、分子量低下を起こすと同時に機械的強度等が低下することを抑制する効果、ポリアミド樹脂や後述のエラストマー(C)との相乗効果で、耐アルカリ性や耐加水分解性、耐ヒートショック性を一層向上させる効果を奏する。
【0137】
樹脂(A)として、ポリブチレンテレフタレート樹脂と共に前述のポリアミド樹脂を含む場合、エポキシ化合物(B)としては、ビスフェノールAやノボラックとエピクロロヒドリンとの反応から得られる、ビスフェノールA型エポキシ化合物(B)やノボラック型エポキシ化合物(B)が好ましい。中でも、ビスフェノールA型エポキシ化合物(B)が、ポリアミド樹脂との反応性がよいためポリアミド樹脂が分散しやすく耐アルカリ性が向上しやすい傾向にあり好ましく、また、耐加水分解性の点からも特に好ましい。
【0138】
樹脂(A)として、ポリブチレンテレフタレート樹脂と共に前述のポリアミド樹脂を含む本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が、エポキシ化合物(B)を含む場合、その含有量は樹脂(A)100質量部に対して好ましくは1~15質量部であり、3質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましく、4.5質量部以上が特に好ましい。また、13質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、特には8質量部以下が好ましい。エポキシ化合物(B)の含有量が上記下限以上であれば、ポリアミド樹脂の分散不良による耐アルカリ性の低下や耐加水分解性の低下が発生しにくく、上記上限以下であれば架橋化が進行して成形時の流動性が悪くなるおそれがない。
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が、樹脂(A)として前述のポリアミド樹脂を含有しない場合、エポキシ化合物(B)の含有量は、上記範囲よりも少なく、樹脂(A)100質量部に対して0.005~10質量部、特に0.05~5質量部程度で十分な添加効果を得ることができる。
【0139】
また、エポキシ化合物(B)は、本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物中のポリブチレンテレフタレート系樹脂の末端カルボキシル基に対するエポキシ化合物(B)のエポキシ基の当量比(エポキシ基/カルボキシル基)が、0.2~2.7の範囲にあるように配合されることが好ましい。エポキシ基/カルボキシル基が上記下限以上であると耐加水分解性の低下を抑制することができ、上記上限以下であれば、成形性が安定となりやすい。エポキシ基/カルボキシル基は、より好ましくは0.3~2.5である。
【0140】
<エラストマー(C)>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、エラストマー(C)を含有していてもよく、エラストマー(C)を含有することで、耐アルカリ性、耐加水分解性、耐ヒートショック性、靱性を成形体に付与することができる。
【0141】
エラストマー(C)としては、特に制限はないが、下記(C-1)、(C-2)、(C-3)が挙げられる。
【0142】
(C-1)α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの共重合体
(C-2)ポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有するコア層上に芳香族ビニル系重合体を含有するコア/シェル型エラストマー
(C-3)ポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有するコア層上にグリシジル変性したアクリル酸エステル系重合体を含有するコア/シェル型エラストマー
【0143】
<(C-1)α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの共重合体>
(C-1)α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの共重合体は、α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの三元共重合体のみならず、α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルと他の単量体とからなる四元系以上の多元共重合体であってもよい。
【0144】
(C-1)共重合体におけるα-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン等の炭素数2~8程度のα-オレフィンを例示できるが、特にエチレンが好ましい。
また、不飽和グリシジル化合物としては、(メタ)アクリル酸グリシジル又は不飽和グリシジルエーテル、例えばビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、2-メチルアリルグリシジルエーテル等が好ましく、特にアクリル酸グリシジル又はメタクリル酸グリシジルが好ましい。
【0145】
また、上記四元系以上の多元共重合体の成分となり得る他の単量体としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸オクチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸オクチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル等の(メタ)アクリル酸エステル類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルのようなビニルエステル類、アクリロニトリル、スチレン、一酸化炭素、無水マレイン酸等を例示することができる。
【0146】
(C-1)α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの共重合体において、各構成単位の好ましい含有量は、(C-1)成分全体の質量を100質量%としたときに、α-オレフィンが50~94.5質量%、より好ましくは52~85質量%、さらに好ましくは55~75質量%であり、不飽和グリシジル化合物が0.5~20質量%、より好ましくは1~18質量%、さらに好ましくは2~15質量%であり、特に好ましくは3~10質量%であり、アクリル酸ブチルが5~49.5質量%、より好ましくは7~45質量%、さらに好ましくは10~40質量%であり、特に好ましくは15~35質量%であり、上記以外のその他の単量体が0~49.5質量%、より好ましくは0.5~40質量%、さらに好ましくは1~35質量%の範囲で共重合されているものが好ましい。
不飽和グリシジル化合物の含有量が少なすぎると、本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物の耐熱性が損なわれる恐れがあり、一方、その量が多くなりすぎると、樹脂粘度が急激に上昇して成形が困難となったり、また組成物中にゲルが発生する等の問題を起こすことがある。また、アクリル酸ブチルを上記範囲で共重合させたものを使用することにより、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に良好な柔軟性を付与することが容易となる。
【0147】
(C-1)α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの共重合体は、ランダム共重合体であってもグラフト共重合体であってもよいが、ランダム共重合体を使用するのが好ましい。このようなランダム共重合体は、例えば、高温、高圧下のラジカル共重合によって得ることができる。
【0148】
(C-1)α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの共重合体は、メルトフローレート(JIS K7210-1999に準拠、190℃、2.16kg荷重で測定)が、0.01~1000g/10min、さらには0.1~200g/10min、特に1~70g/10minのものを使用するのが好ましい。
【0149】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が(C-1)α-オレフィンと不飽和グリシジル化合物とアクリル酸ブチルの共重合体と含有する場合、その含有量は、樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1~15質量部の範囲であり、より好ましくは2~13質量部、中でも3~10質量部の範囲である。上記下限以上であれば、目的とする耐アルカリ性等の改良効果を十分に得ることができる。上記上限以下であれば、耐熱性や剛性等の機械的特性を維持することができる。
【0150】
<(C-2)ポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有するコア層上に芳香族ビニル系重合体を含有するコア/シェル型エラストマー>
(C-2)コア/シェル型エラストマーは、ポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有するコア層上に、芳香族ビニル系重合体を含有するコア/シェル型のエラストマーである。
(C-2)コア/シェル型エラストマーのゴム層は、少なくともポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有していることが必要である。
【0151】
ポリオルガノシロキサン系ゴム成分としては、オルガノシロキサン単量体を重合させて製造されるもので、オルガノシロキサンとしては、3員環以上の環状オルガノシロキサンが用いられ、3~6員環のものが好ましく用いられる。例えばヘキサメチルトリシクロシロキサン、オクタメチルシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン、ドデカメチルヘキサシクロシロキサン、トリメチルトリフェニルシロキサン、テトラメチルフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサン等が用いられる。
また、ポリオルガノシロキサンゴムの調製に用いられる架橋剤としては、3官能性又は4官能性のもの、即ち、トリアルコキシアルキルあるいはアリールシラン又はテトラアルコキシシランが用いられ、このような架橋剤の具体例としてトリメトキシメチルシラン、トリエトキシフェニルシラン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラn-プロポキシシラン、テトラブトキシシラン等を例示できる。架橋剤としては、テトラアルコキシシランが好ましく、テトラエトキシシランが特に好ましく用いられる。
【0152】
アクリル系ゴム成分としては、ブチルアクリレートのような(メタ)アクリル酸アルキルエステルと少量のブチレンジアクリレートのような架橋性モノマーを重合させて得られるものが好ましい。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、ブチルアクリレートの他に、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等、メタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、2-エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル等のエステルが挙げられる。また、架橋性モノマーとしては、ブチレンジアクリレートの他に、ブチレンジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタアクリレート、オリゴエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレートのようなビニル化合物、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタニレート、モノアリルマレート、モノアリルフマレート、トリアリルシアヌレートのようなアリル化合物が挙げられる。
【0153】
上記ゴム成分は、共役ジエン化合物を含有することも可能であり、例えば共役ジエン化合物としてはブタジエン、イソプレン、ペンタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等が挙げられる。共役ジエン化合物の共重合量は、10質量%以下程度の少量であることが好ましい。
【0154】
コア層は、上記ポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分の混合物であってもよく、又これらを共重合及び/又はグラフト重合させた複合系ゴムを用いることもでき、共重合及び/又はグラフト重合等の化学結合によりポリオルガノシロキサン系ゴム成分とアクリル系ゴム成分とが一体になった複合ゴム、すなわちシリコーンアクリル複合ゴムであることも好ましい。
【0155】
ポリオルガノシロキサン系ゴム成分とアクリル系ゴム成分の質量比率は、ポリオルガノシロキサン系ゴム成分/アクリル系ゴム成分で、99/1~1/99であることが、耐アルカリ性、耐衝撃性の向上効果の点から好ましい。アルカリ環境下では、アクリルゴム成分中のエステル基がアルカリにより加水分解を受ける場合があるので、アクリル系ゴム成分が多すぎると、ゴム成分としての機能が低下する。従って、ポリオルガノシロキサン系ゴム成分とアクリル系ゴム成分の質量比率は、95/5~15/85であることがより好ましく、さらに好ましくは90/10~30/70である。
【0156】
(C-2)コア/シェル型エラストマーのシェル層は、少なくとも芳香族ビニル系重合体を含有していることが必要である。
芳香族ビニル化合物としては、例えばスチレン、α-メチルスチレン、メチルスチレン、ビニルキシレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン、フルオロスチレン、p-ターシャリーブチルスチレン、エチルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。中でも、安価で重合における取り扱いが容易な点でスチレンが好ましい。
【0157】
芳香族ビニル系重合体は、単独重合体でも共重合体であってもよい。
共重合体としては、シアン化ビニル単量体、メタクリル酸エステル系単量体及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも1種の単量体を共重合させて得られるものが好ましい。シアン化ビニル単量体としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等、メタクリル酸エステル系単量体としてはメタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸第三ブチル等、アクリル酸エステル単量体としてはメチルアクリレ-ト、エチルアクリレ-ト、ブチルアクリレ-ト等を好ましく例示できる。
【0158】
また芳香族ビニル系重合体には、上記以外の他の共重合性単量体を共重合することも可能である。例えば、グリシジル基含有ビニル系単量体等も共重合することができ、その例としては、グリシジルメタクリレ-ト、グリシジルアクリレート、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートのグリシジルエーテル、グリシジルイタコネート等を例示できる。グリシジル基含有ビニル系単量体の共重合量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下程度の少量であることが特に好ましい。
【0159】
(C-2)コア/シェル型エラストマーのシェル層としては、上記した中でも、スチレン系単量体にシアン化ビニル単量体を共重合した共重合体が好ましく、スチレン-アクリロニトリル系共重合体が特に好ましい。
【0160】
(C-2)コア/シェル型エラストマーのコア層とシェル層は、通常グラフト結合によって結合されていることが好ましい。このグラフト共重合化は、必要な場合には、ゴム層の重合時にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加し、ゴム層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤は、ビニル結合を有した化合物であり、アクリル系ゴム成分においては、上述の架橋モノマーを兼用可能であるが、ポリオルガノシロキサン系ゴム成分では、ビニル結合を有したオルガノシロキサンあるいは、チオールを有したオルガノシロキサンが用いられ、好ましくはビニル結合を有したオルガノシロキサンである(メタ)アクリロイルオキシアルキルシロキサン、ビニルシロキサンが使用される。
【0161】
(メタ)アクリロイルオキシアルキルシロキサンの中ではメタクリロイルオキシアルキルシロキサンが好ましく、この具体例としてβ-メタクリロイルオキシエチルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルメトキシジメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルエトキシジエトキシシラン、γ-メタクリロイルオキシプロピルジエトキシメチルシラン、δ-メタクリロイルオキシブチルジエトキシメチルシラン等が挙げられる。
ビニルシロキサンとしてはビニルメチルジメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等が挙げられる。チオールを有したオルガノシロキサンであるメルカプトシロキサンとしてはγ-メルカプトプロピルジメトキシメチルシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルジエトキシエチルシラン等を挙げることができる。
【0162】
また、(C-2)コア/シェル型エラストマー中のポリオルガノシロキサン系ゴム成分の含有量は、2~30質量%であることが好ましく、3~25質量%であることがより好ましい。ポリオルガノシロキサン系ゴム成分の含有量を上記範囲とすることにより、耐アルカリ性、耐衝撃性が良好となる傾向にあり好ましい。
【0163】
また、(C-2)コア/シェル型エラストマーは、その平均粒子径が50~400nmであることが好ましい。平均粒子径を上記範囲とすることにより、耐衝撃性、耐アルカリ性、耐ヒートショック性、耐湿熱性、成形性が良好となる傾向にあり好ましい。さらに好ましい平均粒子径の範囲は80~350nmであり、特に好ましくは100~300nmである。この範囲で最も安定な耐衝撃性、耐アルカリ性、耐ヒートショック性の発現が期待できる。また、その平均二次粒子径は、600~3000μmであることが好ましく、700~2000μmがより好ましく、800~1700μmがさらに好ましく、900~1500μmが特に好ましい。このような平均二次粒子径とすることにより、溶融混練時に、フィード配管やホッパーにエラストマーの微粉が残存しにくく、安定的にフィードすることができ好ましい。
【0164】
なお、(C-2)コア/シェル型エラストマーの平均粒子径とは、樹脂組成物のモルフォロジー観察結果について、エラストマー分散相の200個以上の最大径を測定し、それらを算術平均して求められる値をいう。また、平均二次粒子径とは、(C-2)コア/シェル型エラストマー原料を顕微鏡等で観察し、200個以上の二次粒子について最大径を測定し、それらを算術平均して求められる値をいう。
【0165】
コア/シェル型エラストマーを製造する方法は、公知であり、例えば特開平5-5055号公報、特開平5-25377号公報、特開2000-290482号公報、特開2001-261945号公報等に開示されている。本発明においても、公知の方法が採用できる。重合プロセスとしては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合あるいは乳化重合のいずれの方法でも重合可能であるが、乳化重合で行うのが最も容易であり、好ましい方法である。
上記したような平均粒子径を有するコア/シェル型エラストマーは、上述したポリオルガノシロキサン系ゴム成分とアクリル系ゴム成分を含有する複合ゴムラテックス存在下で、芳香族ビニル単量体を含む単量体を一段又は多段で乳化グラフト重合することにより得ることができる。
【0166】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が(C-2)コア/シェル型エラストマーを含有する場合、その含有量は、樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1~20質量部の範囲であり、より好ましくは3~17質量部、さらに好ましくは5~15質量部の範囲である。上記下限以上であれば耐アルカリ性等の改良効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば、耐熱性、剛性等の機械的特性を維持することができる。
【0167】
<(C-3)ポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有するコア層上にグリシジル変性したアクリル酸エステル系重合体を含有するコア/シェル型エラストマー>
(C-3)コア/シェル型エラストマーは、(C-3)ポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有するコア層上にグリシジル変性したアクリル酸エステル系重合体を含有するコア/シェル型エラストマーである。
【0168】
(C-3)コア/シェル型エラストマーのゴム層は、少なくともポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分を含有していることが必要であり、上記した(C-2)コア/シェル型エラストマーのゴム層のポリオルガノシロキサン系ゴム成分及びアクリル系ゴム成分と同様のものが、この(C-3)コア/シェル型エラストマーのゴム層としても用いられる。
【0169】
(C-3)コア/シェル型エラストマーのシェル層は、少なくともグリシジル変性したアクリル酸エステル系重合体を含有していることが必要である。
【0170】
アクリル酸エステル系重合体としては、アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルの単独重合体または共重合体である。
アクリル酸エステルまたはメタクリル酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ペンチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、ヘプチルアクリレート、オクチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等、メタクリル酸のメチル、エチル、プロピル、ブチル、オクチル、2-エチルヘキシル、ラウリル、ステアリル等のエステルが挙げられる。これらは単独で又は2種以上が共重合される。
【0171】
また、シアン化ビニル化合物または芳香族ビニル化合物等のビニル単量体を共重合させて得られるものも可能である。シアン化ビニル化合物としてはアクリロニトリル、メタクリロニトリル等を、芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α-メチルスチレン、メチルスチレン等を好ましく例示できる。
【0172】
また、少量の架橋性モノマーを重合させて得られるものも好ましい。架橋性モノマーとしては、ブチレンジアクリレート、ブチレンジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタアクリレート、ブチレングリコールジアクリレート、ブチレングリコールジメタアクリレート、オリゴエチレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパンジアクリレート、トリメチロールプロパンジメタアクリレート、トリメチロールプロパントリメタアクリレートのようなビニル化合物、アリルアクリレート、アリルメタクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタニレート、モノアリルマレート、モノアリルフマレート、トリアリルシアヌレートのようなアリル化合物が挙げられる。
【0173】
(C-3)コア/シェル型エラストマーのシェル層は、グリシジル変性していることが必要である。グリシジル変性はグリシジル基含有ビニル系単量体を共重合またはグラフト共重合して行う。グリシジル基含有ビニル系単量体としては、グリシジルメタクリレ-ト、グリシジルアクリレ-ト、ビニルグリシジルエ-テル、アリルグリシジルエ-テル、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレ-トのグリシジルエ-テル、ポリアルキレングリコ-ル(メタ)アクリレ-トのグリシジルエ-テル、グリシジルイタコネ-ト等を例示できる。
グリシジル基含有ビニル系単量体の共重合量は、30質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、10質量%以下程度の少量であることが特に好ましい。
【0174】
(C-3)コア/シェル型エラストマーのコア層とシェル層は、通常グラフト結合によって結合されていることが好ましい。コア/シェル型エラストマーを製造する方法は、前述のとおり公知であり、(C-3)コア/シェル型エラストマーも公知の方法で製造できる。
【0175】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が(C-3)コア/シェル型エラストマーを含有する場合、その含有量は、樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは1~10質量部の範囲であり、より好ましくは1.5~7質量部、さらに好ましくは2~5質量部の範囲である。上記下限以上であると耐アルカリ性等の改良効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば耐熱性、剛性等の機械的特性を維持することができる。
【0176】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が上記した(C-1)成分、(C-2)成分、(C-3)成分をすべて含有する場合、その含有量は、(C-1)成分と(C-3)成分の含有量の質量比(C-1)/(C-3)が、3.5/1~1/1であることが好ましく、より好ましくは(C-1)/(C-3)が3/1~1/1である。
また、(C-2)成分と(C-3)成分の含有量の質量比(C-2)/(C-3)が、5/1~1.2/1であることが好ましく、より好ましくは(C-2)/(C-3)が4/1~2/1である。
さらに、(C-1)成分、(C-2)成分及び(C-3)成分の合計含有量は、樹脂(A)100質量部に対し、10~40質量部であることが好ましい。上記下限以上であると耐アルカリ性等の改良効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば、耐熱性、剛性等の機械的特性を維持することができる。(C-1)成分、(C-2)成分及び(C-3)成分の合計含有量は、より好ましくは13~35質量部、さらに好ましくは15~30質量部である。
【0177】
<難燃剤(D)>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は難燃剤(D)を含有していてもよく、難燃剤(D)を含有することで、成形品の難燃性を高めることができる。
【0178】
難燃剤(D)としては、樹脂の特性を損なわず、低配合量で難燃化ができる観点から臭素系難燃剤を用いることが好ましい。好ましい臭素系難燃剤としては、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート化合物、臭素化ポリスチレン化合物、臭素化アクリル化合物等が挙げられる。このうち、臭素化エポキシ化合物であれば、反応性官能基であるエポキシ基を有することで、前述のプラズマ処理効果の向上効果をも得ることもでき、本発明に好適である。
【0179】
臭素化エポキシ化合物としては、例えばテトラブロモビスフェノールAエポキシ化合物に代表されるビスフェノールA型臭素化エポキシ化合物が好ましく挙げられ、臭素化エポキシ化合物は、その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有していてもよい。
また、ポリ臭素化エポキシ、即ち、臭素化フェノール樹脂等も好ましく用いられる。
【0180】
臭素化エポキシ化合物は、トリブロモフェノールで末端封止されていることが好ましい。また、臭素化エポキシ化合物は、そのエポキシ当量が3000~40000g/eqであることが好ましく、中でも4,000~35,000g/eqが好ましく、特に10,000~30,000g/eqであることが好ましい。
【0181】
臭素化ポリカーボネート化合物としては、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる臭素化ポリカーボネートが好ましい。その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
【0182】
臭素化ポリカーボネート化合物における、カーボネート繰り返し単位数の平均は適宜選択して決定すればよいが、通常2~30、中でも3~15、特に3~10であることが好ましい。カーボネート繰り返し単位数の平均が小さいと、溶融時にポリブチレンテレフタレート系樹脂の分子量低下を引き起こす場合がある。逆に大きすぎても溶融粘度が高くなり、分散不良を引き起こし、成形品外観が低下する場合がある。
【0183】
臭素化ポリスチレンとしては、ポリスチレンを臭素化するか、臭素化スチレンモノマーを重合することによって製造するかのいずれであってもよいが、臭素化スチレンを重合したものは遊離の臭素(原子)の量が少ないので好ましい。
また、臭素化ポリスチレンは、他のビニルモノマーが共重合された共重合体であってもよい。この場合のビニルモノマーとしてはスチレン、α-メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、ブタジエンおよび酢酸ビニル等が挙げられる。
【0184】
臭素化ポリスチレンの具体例としては、例えば、ポリ(4-ブロモスチレン)、ポリ(2-ブロモスチレン)、ポリ(3-ブロモスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモスチレン)、ポリ(2,6-ジブロモスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモスチレン)、ポリ(3,5-ジブロモスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)、ポリ(2,3,5-トリブロモスチレン)、ポリ(4-ブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,5-ジブロモ-α-メチルスチレン)、ポリ(2,4,6-トリブロモ-α-メチルスチレン)およびポリ(2,4,5-トリブロモ-α-メチルスチレン)等が挙げられ、ポリ(2,4,6-トリブロモスチレン)、ポリ(2,4,5-トリブロモスチレン)および平均2~3個の臭素基をベンゼン環中に含有するポリジブロモスチレン、ポリトリブロモスチレンが特に好ましく用いられる。
【0185】
臭素化アクリル化合物の具体例としては、ポリ(ペンタブロモベンジル(メタ)アクリレート)等の臭素化ポリベンジル(メタ)アクリレート、ポリ(ペンタクロロベンジル(メタ)アクリレート)等のハロゲン化ベンジル(メタ)アクリレートの単独重合体又は共重合体等が挙げられ、臭素化ポリベンジル(メタ)アクリレートが好ましく用いられる。
【0186】
臭素系難燃剤の質量平均分子量(Mw)は100~80,000、特に1,000~60,000であることが好ましい。質量平均分子量が上記下限以上であれば成形品からのブリードアウト抑制が可能であり、上記上限以下であれば流動性に優れた樹脂組成物とすることができる。
なお、臭素系難燃剤の質量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィー)法により測定される値(ポリスチレン換算)である。
測定時の溶媒は、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート化合物、臭素化ポリスチレン化合物はTHF(テトラヒドロフラン)を、臭素化アクリル化合物はODCB(オルトジクロロベンゼン)を用いる。測定時のカラム温度は、臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリカーボネート化合物、臭素化ポリスチレン化合物は40℃、臭素化アクリル化合物は135℃に設定する。
また、臭素系難燃剤の臭素原子含有量は1~90質量%、特に40~80質量%であることが好ましい。臭素原子含有量が上記下限以上であれば難燃性の向上に有効であり、低配合量で難燃化が可能である。
なお、臭素系難燃剤の臭素原子含有量は、ICP発光分法、イオンクロマトグラフ法、蛍光X線回折法等により測定される値である。
【0187】
本発明では、難燃剤(D)として、ホスフィン酸塩、ホスファゼン化合物、燐酸エステル化合物等の燐系難燃剤を用いることも可能である。これらはいずれも燐原子を有する化合物であり、1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0188】
ホスフィン酸塩としては、アニオン部分が下記式(1)又は(2)で表されるホスフィン酸のカルシウム塩又はアルミニウム塩が挙げられる。
【0189】
【化1】
【0190】
上記式において、R及びRは、相互に同一でも異なっていてもよく、メチル基、エチル基、イソプロピル基、ブチル基、ペンチル基などの炭素数1~6のアルキル基や、フェニル基、o-,m-又はp-メチルフェニル基、種々のジメチルフェニル基、α-又はβ-ナフチル基などの置換されていてもよいアリール基を表す。好ましくはR及びRはメチル基又はエチル基である。Rはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、2-エチルヘキシレン基などの炭素数1~10のアルキレン基、o-、m-又はp-フェニレン基、1,8-ナフチレン基、2,6-ナフチレン基などのアリーレン基、又はメチレンフェニレン基、エチレンフェニレン基などの上記2種の混合基を表す。Rは好ましくは炭素数1~4のアルキレン基又はフェニレン基である。
【0191】
ホスフィン酸塩の具体例としては、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、メタンビス(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、メタンビス(ジメチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ビス(ジメチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ビス(ジメチルホスフィン酸)アルミニウムなどが挙げられる。なかでも難燃性及び電気特性の点からして、ジエチルホスフィン酸アルミニウムが好ましい。
【0192】
得られる樹脂成形品の外観や機械的強度の点で、ホスフィン酸塩はレーザー回折法で測定して粒径100μm以下、特に50μm以下に粉砕した粉末を用いるのが好ましい。なかでも平均粒径が0.5~20μmのものは、高い難燃性を発現するばかりでなく、樹脂成形品の強度が著しく高くなるので、特に好ましい。ホスフィン酸塩は単独でも難燃剤として作用するが、窒素系難燃剤、例えば後記するシアヌル酸メラミン化合物や燐酸メラミン化合物と併用すると、少ない配合量で優れた難燃性と電気特性を発現する。
【0193】
ホスファゼン化合物としては、従来から樹脂の難燃剤として用いることが知られているものであれば、いずれも用いることができる。例えばJames E。Mark、Harry R。Allcock、Robert West 著 「Inorganic Polymers」 Pretice-Hall International、Inc. 1992、p61~p140に記載されている構造を有するもの、例えば下記式(3)で示される環状ホスファゼン化合物や下記式(4)で示される鎖状ホスファゼン化合物が挙げられる。
【0194】
【化2】
【0195】
上記式(3),(4)において、nは3~25の整数、mは3~10000の整数であり、置換基Xは相互に異なっていてもよく、炭素数1~6のアルキル基、炭素数6~11のアリール基、フッ素原子、下記式(5)で示される置換基を有するフェノキシ基、ナフチルオキシ基、炭素数1~6のアルコキシ基及びアルコキシ置換アルコキシ基より成る群から選ばれる。なおこれらの置換基の水素原子はフッ素原子、水酸基又はシアノ基などで置換されていてもよい。また、式(3)中のYは-N=P(O)(X)又は-N=P(X)を表し、Zは-P(X)又は-P(O)(X)を表す。
【0196】
【化3】
【0197】
上記式(5)において、Y,Y,Y,Y及びYは、それぞれ独立して、水素原子、フッ素原子、炭素数1~5のアルキル基又はアルコキシ基、フェニル基、ヘテロ元素含有基より成る群から選ばれる。
【0198】
ホスファゼン化合物の難燃剤としての効果を決定する要因の一つは、分子に占める燐原子の濃度である。この点からして、一般的には分子末端に置換基を有する鎖状ホスファゼン化合物よりも環状ホスファゼン化合物のほうが好ましい。
【0199】
上記式(3)及び(4)における置換基Xの具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、s-ブチル基、tert-ブチル基、n-アミル基、イソアミル基などのアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;2-メチルフェニル基、3-メチルフェニル基、4-メチルフェニル基、2,6-ジメチルフェニル基、3,5-ジメチルフェニル基、2,5-ジメチルフェニル基、2,4-ジメチルフェニル基、3,4-ジメチルフェニル基、4-tert-ブチルフェニル基、2-メチル-4-tert-ブチルフェニル基などのアルキル置換アリール基;メトキシ基、エトキシ基、n-プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n-ブチルオキシ基、tert-ブチルオキシ基、s-ブチルオキシ基、n-アミルオキシ基、n-ヘキシルオキシ基などのアルコキシ基;メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、メトキシエトキシメトキシ基、メトキシエトキシエトキシ基、メトキシプロピルオキシ基などのアルコキシ置換アルコキシ基;フェノキシ基、2-メチルフェノキシ基、3-メチルフェノキシ基、4-メチルフェノキシ基、2,6-ジメチルフェノキシ基、2,5-ジメチルフェノキシ基、2,4-ジメチルフェノキシ基、3,5-ジメチルフェノキシ基、3,4-ジメチルフェノキシ基、2,3,4-トリメチルフェノキシ基、2,3,5-トリメチルフェノキシ基、2,3,6-トリメチルフェノキシ基、2,4,6-トリメチルフェノキシ基、2,4,5-トリメチルフェノキシ基、2-エチルフェノキシ基、3-エチルフェノキシ基、4-エチルフェノキシ基、2,6-ジエチルフェノキシ基、2,5-ジエチルフェノキシ基、2,4-ジエチルフェノキシ基、3,5-ジエチルフェノキシ基、3,4-ジエチルフェノキシ基、4-n-プロピルフェノキシ基、4-tert-ブチルフェノキシ基、2-フェニルフェノキシ基、4-フェニルフェノキシ基などのアルキル又はアリール置換フェノキシ基;ナフチルオキシ基などが挙げられる。
【0200】
さらにホスファゼン化合物は、国際公開番号W000/09518号に開示されている技術により、フェニレン基、ビフェニレン基又は下記式(6)に示す基により架橋されていてもよい。
【0201】
【化4】
【0202】
上記式において、Qは-C(CH-、-SO-,-S-又は-O-を表し、jは0又は1を表す。
これらの架橋構造を有するホスファゼン化合物は、例えばジクロロホスファゼンオリゴマーにフェノールのアルカリ金属塩及び芳香族ジヒドロキシ化合物のアルカリ金属塩を反応させることにより製造することができる。この際、これらのアルカリ金属塩はジクロロホスファゼンオリゴマーに対して、理論値よりも若干過剰に用いる。
【0203】
ホスファゼン化合物は通常は環状三量体、環状四量体などの環状体や鎖状ホスファゼン、さらには架橋体などの構造の異なるものの混合物であるが、樹脂組成物とした場合には環状三量体、四量体、架橋体などの含有率が高いほど加工性が良い傾向がある。従ってホスファゼン化合物としては環状三量体、四量体、架橋体の含有率が70質量%以上、特に80質量%以上のものを用いるのが好ましい。
なお環状、鎖状を問わず、水酸基を有する(即ちP-OH又はそのオキソ体であるX-P(=O)NH-結合を有する)ホスファゼン化合物の含有量は、少量、通常は1質量%未満であることが好ましい。
【0204】
ホスファゼン化合物はナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の含有量が少ないものが好ましく、全アルカリ金属含有量として50ppm以下であることが好ましい。塩素の含有量も少ないものが好ましく、500ppm以下、特に300ppm以下であることが好ましい。また水分含有量は、電気特性、耐加水分解性などの点からして、500ppm以下、特に300ppm以下であることが好ましく、JIS K6751に基づき測定される酸価jは1.0以下、特に0.5以下であることが好ましい。ホスファゼン化合物は耐加水分解性、耐吸湿性などの点から、水への溶解度(試料を0.1g/mlの濃度となるように蒸留水に加え、25℃で1時間攪拌したときに溶解した量)は50ppm以下、特に25ppm以下であることが好ましい。
【0205】
燐酸エステル化合物としては、例えば炭素数1~10の置換されていてもよいアルコール又はフェノール類と燐酸とのエステル、例えばトリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェートなどを用いることができる。好ましくは下記式(7)で表されるヒドロキシ芳香族化合物と燐酸との(ポリ)エステルを用いる。
【0206】
【化5】
【0207】
上記式(7)において、R11~R18は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、R19はp-フェニレン基、m-フェニレン基、4,4-ビフェニレン基又は下記式(8)から選ばれる2価の基を表す。kは0~4の整数を表す。
【0208】
【化6】
【0209】
上記式(7)において、R~Rは炭素数6以下のアルキル基であることが好ましく、メチル基又はエチル基、特にメチル基であるのが更に好ましい。R11~R18がメチル基又はエチル基である燐酸エステル化合物を用いた樹脂組成物は一般に他の燐酸エステル化合物を用いたものよりも耐加水分解性に優れている。R19はm-又はp-フェニレン基、特にm-フェニレン基であることが好ましい。
【0210】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物には、難燃剤(D)として、窒素系難燃剤であるアミノ基含有トリアジン類の塩を含有させてもよい。アミノ基含有トリアジン類の塩は単独でも難燃効果を発現するが、ホスフィン酸塩と併用すると難燃効果が顕著に向上する。
【0211】
窒素系難燃剤であるアミノ基含有トリアジン類の塩において、アミノ基含有トリアジン類(アミノ基を有するトリアジン類)としては、通常、アミノ基含有1,3,5-トリアジン類が使用され、例えば、メラミン、置換メラミン(2-メチルメラミン、グアニルメラミンなど)、メラミン縮合物(メラム、メレム、メロンなど)、メラミンの共縮合樹脂(メラミン-ホルムアルデヒド樹脂など)、シアヌル酸アミド類(アンメリン、アンメリドなど)、グアナミン又はその誘導体(グアナミン、メチルグアナミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、サクシノグアナミン、アジポグアナミン、フタログアナミン、CTU-グアナミンなど)などが挙げられる。
【0212】
塩としては、前記トリアジン類と、無機酸や有機酸との塩とが例示できる。無機酸には、硝酸、塩素酸(塩素酸、次亜塩素酸など)、リン酸(リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、ポリリン酸など)、硫酸(硫酸や亜硫酸などの非縮合硫酸、ペルオクソ二硫酸やピロ硫酸などの縮合硫酸など)、ホウ酸、クロム酸、アンチモン酸、モリブデン酸、タングステン酸などが含まれる。これらのうち、リン酸や硫酸が好ましい。有機酸には、有機スルホン酸(メタンスルホン酸などの脂肪族スルホン酸、トルエンスルホン酸やベンゼンスルホン酸などの芳香族スルホン酸など)、環状尿素類(尿酸、バルビツル酸、シアヌル酸、アセチレン尿素など)などが挙げられる。これらのうち、メタンスルホン酸などの炭素数1~4のアルカンスルホン酸、トルエンスルホン酸などの炭素数1~3のアルキルが置換した炭素数6~12のアレーンスルホン酸、シアヌル酸が好ましい。
【0213】
アミノ基含有トリアジン類の塩としては、例えば、シアヌル酸メラミン・メラム・メレム複塩、リン酸メラミン類(ポリリン酸メラミン、ポリリン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)、硫酸メラミン類(硫酸メラミン、硫酸ジメラミン、ピロ硫酸ジメラムなど)、スルホン酸メラミン類(メタンスルホン酸メラミン、メタンスルホン酸メラム、メタンスルホン酸メレム、メタンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩、トルエンスルホン酸メラミン、トルエンスルホン酸メラム、トルエンスルホン酸メラミン・メラム・メレム複塩など)などが挙げられる。これらのアミノ基含有トリアジン類の塩は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0214】
このような窒素系難燃剤のなかで本発明において好ましく使用されるのは、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とトリアジン系化合物との付加物であり、通常は1対1(モル比)、場合により1対2(モル比)の組成を有する付加物である。より具体的にはシアヌル酸メラミン、シアヌル酸ベンゾグアミン、シアヌル酸アセトグアナミンであり、更にはシアヌル酸メラミンである。これらの塩は、公知の方法で製造されるが、例えば、トリアジン系化合物とシアヌル酸またはイソシアヌル酸の混合物を水スラリーとし、良く混合して両者の塩を微粒子状に形成させた後、このスラリーを濾過、乾燥後に通常粉末状で得ることができる。また、上記の塩は完全に純粋である必要は無く、多少未反応のトリアジン系化合物ないしシアヌル酸、イソシアヌル酸が残存していても良い。
【0215】
アミノ基含有トリアジン類の塩の粒径は、得られる樹脂成形品の難燃性、機械的強度、耐湿熱性、滞留安定性、表面性などの点からして、レーザー回折法で測定して、100μm以下、特に平均粒径で1~80μmであることが好ましい。アミノ基含有トリアジン類の塩の分散性が悪い場合には、トリス(β-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートなどの分散剤や公知の表面処理剤などを併用してもよい
【0216】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が難燃剤(D)を含有する場合、その含有量は、樹脂(A)100質量部に対し、好ましくは0.01~100質量部であり、より好ましくは0.1~80質量部、さらに好ましくは1~70質量部である。難燃剤(D)の含有量が上記下限以上であれば十分な難燃性を得ることができ、上記上限以下であれば、難燃剤(D)の過剰配合による機械的特性、離型性の低下や難燃剤のブリードアウトの問題を防止することができる。
【0217】
<アンチモン化合物(E)>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が、難燃剤(D)を含有する場合、さらに難燃助剤としてアンチモン化合物(E)を含有することが好ましい。アンチモン化合物(E)としては、三酸化アンチモン(Sb)、五酸化アンチモン(Sb)、アンチモン酸ナトリウム等が挙げられる。特に、耐衝撃性の点から三酸化アンチモンが好ましい。
【0218】
アンチモン化合物(E)の含有量は、樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは5~15質量部であり、より好ましくは7~13質量部、さらに好ましくは8~12質量部である。アンチモン化合物(E)の含有量が上記下限以上であれば十分な難燃性を得ることができ、上記上限以下であれば、機械的強度の低下を抑制できる。
【0219】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物において、前述の臭素系難燃剤(D)由来の臭素原子と、アンチモン化合物(E)由来のアンチモン原子の質量濃度は、両者の合計で3~25質量%であることが好ましく、4~22質量%であることがより好ましく、5~20質量%であることがさらに好ましく、10~20質量%であることが特に好ましい。この濃度が上記下限以上であれば、十分な難燃性を得ることができ、上記上限以下であれば機械的強度の低下を抑制できる。また、臭素原子とアンチモン原子の質量比(Br/Sb)は、0.3~5であることが好ましく、0.3~4であることがより好ましい。このような範囲とすることにより、難燃性が発現しやすい傾向にあり好ましい。
【0220】
本発明においては、アンチモン化合物(E)は、あらかじめマスターバッチ化したものを用いてもよく、熱可塑性樹脂、好ましくはポリブチレンテレフタレート樹脂とのマスターバッチとして配合するのは好ましい態様である。これにより、アンチモン化合物(E)が、樹脂(A)相に存在しやすくなり、溶融混練、成形加工時の熱安定性が良好となり、耐衝撃性の低下が抑えられ、さらに、難燃性、耐衝撃性のばらつきが少なくなる傾向となる。
マスターバッチ中のアンチモン化合物(E)の含有量は20~90質量%であることが好ましい。アンチモン化合物(E)の含有量が上記下限以上であれば、難燃剤マスターバッチ中のアンチモン化合物の割合を十分なものとして、これを配合することによる難燃性向上効果を十分に得ることができる。一方、アンチモン化合物(E)の含有量が上記上限以下であれば、アンチモン化合物(E)の分散性が良好となり、難燃性を発現しやすくなり、またマスターバッチ製造時の作業性が良好となり、例えば、押出機を使用して製造する際のストランドを安定させることができる。
マスターバッチ中のアンチモン化合物(E)の含有量は、より好ましくは20~85質量%であり、さらに好ましくは25~80質量%である。
【0221】
<強化材(F)>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、強化材(F)を含有することが好ましい。
本発明において、強化材(F)とは、樹脂に含有させて強度及び剛性を向上させるものをいい、繊維状、板状、粒状、無定形等いずれの形態ものであってもよい。
【0222】
強化材(F)の形態が繊維状である場合、無機質、有機質のいずれであってもよい。例えば、ガラス繊維、カーボン繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、ホウ素繊維、窒化ホウ素繊維、窒化ケイ素チタン酸カリウム繊維、金属繊維、ワラストナイト等の無機繊維、フッ素樹脂繊維、アラミド繊維等の有機繊維が含まれる。強化材(F)が繊維状の場合、好ましいのは無機質の繊維であり、その中でも特に好ましいのはガラス繊維である。強化材(F)は1種でも2種類の混合物であってもよい。
【0223】
強化材(F)の形態が繊維状である場合、その平均繊維径や平均繊維長並びに断面形状は特に制限されないが、平均繊維径は例えば1~100μmの範囲が好ましく、平均繊維長は例えば0.1~20mmの範囲が好ましい。平均繊維径はさらに好ましくは1~50μm、より好ましくは5~20μm程度である。また平均繊維長は、好ましくは0.12~10mm程度である。また、繊維断面が長円形、楕円形、繭形等の扁平形状である場合は、扁平率(長径/短径の比)が1.4~10が好ましく、2~6がより好ましく、2.5~5がさらに好ましい。このような異形断面のガラス繊維を用いることにより、成形品の反り、収縮率の異方性等の寸法安定性が改善されやすいので好ましい。
【0224】
上記した繊維状強化材以外に、板状、粒状又は無定形の他の強化材を含有することもできる。板状無機充填材は、異方性及びソリを低減させる機能を発揮するものであり、ガラスフレーク、タルク、マイカ、雲母、カオリン、金属箔等が挙げられる。板状無機充填材の中で好ましいのは、ガラスフレークである。
【0225】
粒状又は無定形の他の無機充填材としては、セラミックビーズ、アスベスト、クレー、ゼオライト、チタン酸カリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0226】
なお、強化材(F)と樹脂成分との界面の密着性を向上させるために、強化材(F)の表面を集束剤等の表面処理剤によって処理するのが好ましい。表面処理剤として、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂や、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物等の官能性化合物が挙げられる。
【0227】
本発明においては、表面処理のために、エポキシ樹脂を用いることが好ましく、反応性官能基であるエポキシ基を有するエポキシ樹脂を用いることで、前述のプラズマ処理効果を向上させる効果を得ることもできる。エポキシ樹脂としては、フェノールノボラック型、クレゾールノボラック型等のノボラック型エポキシ樹脂や、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂が好ましい。中でも、ノボラック型エポキシ樹脂とビスフェノール型エポキシ樹脂を併用することが好ましく、フェノールノボラック型エポキシ樹脂とビスフェノールA型エポキシ樹脂を併用することが、耐アルカリ性、耐加水分解性及び機械的特性の点から好ましい。
【0228】
官能性化合物としては、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシランカップリング剤が好ましく、中でも、アミノシラン系化合物が好ましい。
アミノシラン系化合物としては、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましく、中でも、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好ましい。
【0229】
本発明においては、所謂集束剤としてノボラック型エポキシ樹脂及びビスフェノール型エポキシ樹脂とを用い、加えてカップリング剤としてアミノシラン系化合物で表面処理された強化材(F)を用いることが、耐アルカリ性及び耐加水分解性の点から、特に好ましい。表面処理剤をこのような構成とすることにより、アミノシラン系化合物の無機官能基は強化材(F)表面と、アミノシランの有機官能基はエポキシ樹脂のグリシジル基とそれぞれ反応性に富み、また、エポキシ樹脂のグリシジル基は、ポリブチレンテレフタレート樹脂と適度に反応することにより、強化材(F)とエポキシ樹脂との界面密着力が向上し、また、ポリアミド樹脂を用いる場合その分散性も向上しやすくなる。この結果、本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物の耐アルカリ性、耐加水分解性、機械的特性が向上しやすい傾向になると考えられる。
また、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、帯電防止剤、潤滑剤及び撥水剤等を表面処理剤中に含めることもでき、これらその他の成分を含める場合は、ウレタン樹脂を用いることが好ましい。
【0230】
強化材(F)は、従来公知の方法により表面処理することができ、例えば、上記表面処理剤によって予め表面処理してもよく、本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を調製する際に、未処理の強化材(F)とは別に表面処理剤を添加して表面処理してもよい。
強化材(F)に対する表面処理剤の付着量は、0.01~5質量%が好ましく、0.05~2質量%がさらに好ましい。0.01質量%以上とすることにより、機械的強度がより効果的に改善される傾向にあり、5質量%以下とすることにより、必要十分な効果が得られ、また、樹脂組成物の製造が容易になる傾向となり好ましい。
【0231】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が強化材(F)を含有する場合、その含有量は樹脂(A)100質量部に対し、30~100質量部であることが好ましい。強化材(F)の含有量が上記下限以上であれば強化材(F)を含有することによる前述の効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば、樹脂組成物の流動性、成形性を損なうおそれがない。強化材(F)の含有量は、40質量部以上がより好ましく、50質量部以上がさらに好ましく、また90質量部以下がより好ましく、80質量部以下がさらに好ましい。
【0232】
<離型剤(G)>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、成形時の金型離型性を良好なものとするために離型剤(G)を含有していてもよい。
離型剤(G)としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、耐アルカリ性が良好な点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物及びシリコーン系化合物から選ばれる1種以上の離型剤が好ましく、特に、ポリオレフィン系化合物が好ましい。
【0233】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、質量平均分子量が700~10,000、更には900~8,000のものが好ましい。
【0234】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の脂肪族1価又は2価のカルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0235】
脂肪族カルボン酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪族カルボン酸は、脂環式のカルボン酸であってもよい。
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
なお、上記の脂肪酸エステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0236】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ぺンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリストールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0237】
また、シリコーン系化合物としては、ポリブチレンテレフタレート樹脂との相溶性等の点から、変性されている化合物が好ましい。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖に有機基を導入したシリコーンオイル、ポリシロキサンの両末端及び/又は片末端に有機基を導入したシリコーンオイル等が挙げられる。導入される有機基としては、エポキシ基、アミノ基、カルボキシル基、カルビノール基、メタクリル基、メルカプト基、フェノール基等が挙げられ、好ましくはエポキシ基が挙げられる。変性シリコーンオイルとしては、ポリシロキサンの側鎖にエポキシ基を導入したシリコーンオイルが特に好ましい。
【0238】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が離型剤(G)を含有する場合、その含有量は、樹脂(A)100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であり、0.2~2.5質量部であることがより好ましく、0.5~2質量部であることがさらに好ましい。離型剤の含有量が上記下限以上であれば、溶融成形時の離型性を高めて成形品の表面性を良好なものとすることができ、一方、上記上限以下であれば、樹脂組成物の練り込み作業性の低下を防止し、また、離型剤の過剰配合による耐加水分解性の低下、射出成形時の金型汚染などの問題を防止することができる。
【0239】
<安定剤(H)>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、さらに安定剤(H)を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性及び色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。
【0240】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル(ホスファイト)、3価のリン酸エステル(ホスホナイト)、5価のリン酸エステル(ホスフェート)等が挙げられ、中でもホスファイト、ホスホナイト、ホスフェートが好ましい。
【0241】
ホスファイトとしては、例えば、トリフェニルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジラウリルハイドロジェンホスファイト、トリエチルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリス(2-エチルヘキシル)ホスファイト、トリス(トリデシル)ホスファイト、トリステアリルホスファイト、ジフェニルモノデシルホスファイト、モノフェニルジデシルホスファイト、ジフェニルモノ(トリデシル)ホスファイト、テトラフェニルジプロピレングリコールジホスファイト、テトラフェニルテトラ(トリデシル)ペンタエリスリトールテトラホスファイト、水添ビスフェノールAフェノールホスファイトポリマー、ジフェニルハイドロジェンホスファイト、4,4’-ブチリデン-ビス(3-メチル-6-tert-ブチルフェニルジ(トリデシル)ホスファイト)、テトラ(トリデシル)4,4’-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ジラウリルペンタエリスリトールジホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト、トリス(4-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、水添ビスフェノールAペンタエリスリトールホスファイトポリマー、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0242】
また、ホスホナイトとしては、テトラキス(2,4-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-iso-プロピルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-n-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,4’-ビフェニレンジホスホナイト、テトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-4,3’-ビフェニレンジホスホナイト、およびテトラキス(2,6-ジ-tert-ブチルフェニル)-3,3’-ビフェニレンジホスホナイトなどが挙げられる。
【0243】
また、ホスフェートとしては、例えば、メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等が挙げられる。
ホスフェートとしては、モノステアリルアシッドホスフェートとジステアリルアシッドホスフェートの混合物(例えば実施例で用いた「アデカスタブAX-71」)などを好ましく用いることができる。
【0244】
リン系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0245】
フェノール系安定剤の具体例としては、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、N,N’-ヘキサン-1,6-ジイルビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオナミド]、2,4-ジメチル-6-(1-メチルペンタデシル)フェノール、ジエチル[[3,5-ビス(1,1-ジメチルエチル)-4-ヒドロキシフェニル]メチル]ホスフォエート、3,3’,3’’,5,5’,5’’-ヘキサ-tert-ブチル-a,a’,a’’-(メシチレン-2,4,6-トリイル)トリ-p-クレゾール、4,6-ビス(オクチルチオメチル)-o-クレゾール、エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3-(5-tert-ブチル-4-ヒドロキシ-m-トリル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,3,5-トリス(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-1,3,5-トリアジン-2,4,6(1H,3H,5H)-トリオン,2,6-ジ-tert-ブチル-4-(4,6-ビス(オクチルチオ)-1,3,5-トリアジン-2-イルアミノ)フェノール等が挙げられる。
【0246】
なかでも、ペンタエリスリトールテトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート](例えば、実施例で用いた「Irganox1010」)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0247】
フェノール系安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていてもよい。
【0248】
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が安定剤(H)を含有する場合、その含有量は、樹脂(A)100質量部に対して、通常0.001質量部以上、好ましくは0.01質量部以上であり、また、通常1.5質量部以下、好ましくは1質量部以下である。安定剤(H)の含有量が上記下限以上であれば、安定剤(H)による効果を十分に得ることができ、上記上限以下であれば、安定剤(H)の過剰配合によるシルバーの発生や、色相悪化を抑制することができる。
【0249】
<その他成分>
本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、更に種々の添加剤を含有していても良い。このような添加剤としては、滴下防止剤、紫外線吸収剤、染顔料、蛍光増白剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0250】
[ポリカーボネート系樹脂組成物]
本発明の樹脂組成物が、樹脂(A)の主成分としてポリカーボネート樹脂を含むポリカーボネート系樹脂組成物である場合、樹脂組成物中には樹脂(A)以外に安定剤、離型剤、紫外線吸収剤、難燃剤、滴下防止剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、流動性改良剤、抗菌剤、着色剤等の各種の添加剤を含有していてもよい。その添加剤の具体例としては、本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物の説明において例示したエポキシ化合物(B)、エラストマー(C)、難燃剤(D)、アンチモン化合物(E)、強化材(F)、離型剤(G)、安定剤(H)等が挙げられ、その好ましい含有量についても、本発明のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物におけると同様である。
【0251】
[樹脂組成物の製造方法]
本発明の樹脂組成物を製造する方法としては、各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する方法が挙げられる。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィーダーを用いて押出機に供給して溶融混練し、本発明の樹脂組成物を調製することもできる。さらには、樹脂(A)の一部に他の成分の一部を配合したものを溶融混練してマスターバッチを調製し、次いでこれに残りの樹脂(A)や他の成分を配合して溶融混練してもよい。なお、強化材(F)としてガラス繊維等の繊維状のものを用いる場合には、押出機のシリンダー途中のサイドフィーダーから供給することも好ましい。
【0252】
また、前述したように、アンチモン化合物(E)はあらかじめマスターバッチ化したものを用いることが、溶融混練、成形加工時等の熱安定性や、難燃性、耐衝撃性のばらつきの点において、好ましい。マスターバッチ化する方法は、特に制限はないが、樹脂(A)、好ましくは樹脂(A)とアンチモン化合物を、二軸押出機等の混練機で溶融混練する方法が挙げられる。さらに、マスターバッチ化の際には、必要に応じて安定剤等の各種の添加剤を配合することもできる。
【0253】
また、溶融混練時の樹脂組成物の溶融温度は180~350℃であることが好ましく、190~320℃であることがより好ましい。溶融温度が180℃未満では、溶融不十分となり、未溶融ゲルが多発しやすく、逆に350℃を超えると、樹脂組成物が熱劣化し、着色しやすくなる等好ましくない。
【0254】
[樹脂組成物の成形]
本発明の樹脂組成物の成形方法は、特に限定されず、樹脂組成物について一般に採用されている成形法を任意に採用できる。その例を挙げると、射出成形法、超高速射出成形法、射出圧縮成形法、二色成形法、ガスアシスト等の中空成形法、断熱金型を使用した成形法、急速加熱金型を使用した成形法、発泡成形(超臨界流体も含む)、インサート成形、IMC(インモールドコーティング成形)成形法、押出成形法、シート成形法、熱成形法、回転成形法、積層成形法、プレス成形法、ブロー成形法等が挙げられ、中でも射出成形法が好ましい。
また、射出成形時の樹脂組成物の水分含有率は300ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましい。水分含有率が300ppmを超えると、ボス部にボイドが発生しやすくなり、例えば、成形品のボス部の強度が低下しやすいなどの不具合を生じるおそれがある。
【0255】
本発明の成形品の形状は特に制限はなく、用途に応じて適宜設計される。また、本発明により金属膜を形成する成形面は平面であってもよく曲面であってもよい。
【0256】
[用途]
本発明の金属膜付樹脂成形品の用途としては特に制限はないが、本発明の金属膜付樹脂成形品に形成された金属膜をシード層として、更に通常の電解めっきにより1~50μm程度の金属膜を形成して、樹脂成形品に、装飾性、耐食性、耐摩耗性、はんだ付け性、電気伝導性、電磁波シールド性、磁気特性、耐熱性などの様々な機能を付与する目的で有効に利用することができる。
【0257】
本発明の金属膜付樹脂成形品の金属膜上にめっき層を有する本発明のめっき膜付成形品は、例えば、携帯電子機器部品、具体的には、電子手帳、携帯用コンピューター等の携帯情報端末、ポケットベル、携帯電話、PHSなどの内部構造物及び筐体などとして有用である。また、本発明のめっき膜付成形品は、車載部品として、ミリ波レーダー、ECU、車載カメラ、インバーター、PCU等の電装部品の内部構造物及び筐体などとしても有用である。
【実施例
【0258】
以下、実施例を示して本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は以下の実施例に限定して解釈されるものではない。
なお、以下の説明において[部]とは、特に断りのない限り、質量基準に基づく「質量部」を表す。
【0259】
以下の実施例、参考例および比較例において、使用した成分は、以下の表1,2の通りである。
【0260】
【表1】
【0261】
【表2】
【0262】
[ポリブチレンテレフタレート樹脂成形品の製造]
上記表1,2に記載の強化材(F)以外の各成分を、以下の表3に示される割合(全て質量部)にて、ブレンドし、これを30mmのベントタイプ二軸押出機(日本製鋼所社製、二軸押出機TEX30α)を使用して、強化材(F)のガラス繊維はサイドフィーダーより供給して、バレル温度270℃にて溶融混練し、ストランドに押し出した後、ストランドカッターによりペレット化し、それぞれポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のペレットR1~R4を得た。
【0263】
得られたペレットR1~R4を110℃で5時間乾燥させた後、射出成形機(日本製鋼所社製「J85AD」)を用い、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、それぞれ100mm×100mm×3mm厚みの板状の成形品R1~R4を得た。
【0264】
【表3】
【0265】
参考例1,2,実施例4]
表3に示す樹脂成形品を用い、ホローカソード電極を用いたプラズマ処理とスパッタリング処理とを真空条件下の連続処理で行える成膜装置により、真空雰囲気下でプラズマCVD処理とスパッタリング処理を、処理中の樹脂成形品を大気に晒すことなく連続的に行い、膜厚200nm以上のCu膜を形成した。プラズマCVD条件、スパッタリング条件は以下の通りとした。
【0266】
<プラズマCVD条件>
樹脂成形品とホローカソード電極との距離を100から200mmとし、前述の好適プラズマCVD条件で行った。
反応ガスとしては、酸素濃度:99.9%%以上の酸素/アルゴン混合ガスを用いた。
【0267】
<スパッタリング条件>
電力:10~40kW
圧力:1.0~10Pa
【0268】
参考例3,実施例5]
参考例2,実施例4において、プラズマCVD処理に先立ち、樹脂成形品を120℃で、1時間から3時間、大気・N・真空雰囲気下、圧力大気:大気圧、N:133Pa以下、真空:10-1Pa以下にて1~3時間加熱する加熱処理を行い、その後ただちに(0~30分以内)プラズマCVD処理を行ったこと以外は、それぞれ同様にCu膜を形成した。
【0269】
[比較例1]
参考例1において、プラズマCVD処理を行わず、樹脂成形品を直接スパッタリング処理に供したこと以外は同様にCu膜の形成を行った。
【0270】
[比較例2]
樹脂成形品としてR1を用いた以外は参考例1と同様にCu膜の形成を行った。
【0271】
[ピール強度の測定]
実施例、参考例及び比較例で得られた金属膜付樹脂成形品の金属膜面に、常法に従って電解めっき処理により厚さ15~30μmのCu膜を形成し、試験片とした。
ピール強度は、得られた試験片のCu膜について、JIS H8630:2006の付属書1(規定)密着力試験方法に従って、次の条件で測定した。
・試験片形状:100mm×100mm×3mm厚み平板
・試料調整:めっき後48時間以上放置
・測定機:株式会社エー・アンド・ディ社製 万能試験機「テンシロンRTF2350」
【0272】
各試験片のピール強度を表4に示す。
【0273】
【表4】
【0274】
参考例1~3、実施例~5及び比較例1の結果から、スパッタリングによる成膜に先立ちプラズマ処理を行うことで、密着性の高い金属膜を形成することができることが分かる。
比較例2では、プラズマ処理を行っているが、用いたポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物が反応性成分を含まないため、本発明のピール強度を満たさない。
また、参考例2と参考例3の対比、実施例4と実施例5の対比から、プラズマ処理に先立ち加熱処理を行うことで、金属膜の密着性をより一層高めることができることが分かる。また、参考例1と参考例2の対比より、反応性成分であるエポキシ化合物を含む樹脂成形品R3の方が、これを含まない樹脂成形品R2より金属膜の密着性を高くすることができることが分かる。
また、反応性官能基を有する樹脂であるポリアミド樹脂及び反応性化合物であるエポキシ化合物を含む樹脂成形品R4では、短時間のプラズマCVD処理でも高い密着性を得ることができている。
同様に、難燃剤としてエポキシ基を有するものを用いた樹脂成形品R3でも、高い密着性を得ることができている。
【0275】
本発明を特定の態様を用いて詳細に説明したが、本発明の意図と範囲を離れることなく様々な変更が可能であることは当業者に明らかである。
本出願は、2018年9月11日付で出願された日本特許出願2018-169807に基づいており、その全体が引用により援用される。