(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】熱硬化性環状イミド樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 53/02 20060101AFI20231211BHJP
C08L 79/08 20060101ALI20231211BHJP
C08L 63/00 20060101ALI20231211BHJP
C09J 153/02 20060101ALI20231211BHJP
C09J 11/08 20060101ALI20231211BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231211BHJP
C08F 299/02 20060101ALI20231211BHJP
C08F 287/00 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08L53/02
C08L79/08 Z
C08L63/00 A
C09J153/02
C09J11/08
C09J11/06
C08F299/02
C08F287/00
(21)【出願番号】P 2021006834
(22)【出願日】2021-01-20
【審査請求日】2022-11-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003063
【氏名又は名称】弁理士法人牛木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 吉弘
【審査官】内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/071154(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/071153(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L
C08G59
C09J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)スチレン系エラストマー、
(B)1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物
であって、下記式(1)で示されるマレイミド化合物、
【化1】
(式(1)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であって、ダイマー酸骨格を有する基であり、
Qは独立して下記式(2)
【化2】
(式(2)中、R
1
は独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であって、x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数である。)
で示されるシクロヘキサン骨格を有する炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、
WはBであり、
nは0~100であり、mは0~200であるが、n及びmは同時に0とはならず、
n及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
(C)1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂 及び
(D)反応促進剤
を含み、
前記(A)、(B)及び(C)成分の質量比率が(A)成分100質量部に対して、(B)成分と(C)成分の合計量が1~50質量部であり、かつ、(B)成分の量が(C)成分の量よりも多いものである、熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
【請求項2】
(A)成分のスチレン系エラストマーが、スチレンと、アルケン及び/又は非共役ジエンとの共重合体であって、部分又は完全水添されている共重合体である請求項1に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
【請求項3】
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである請求項
1に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【請求項4】
(D)成分の反応促進剤が少なくともアニオン重合開始触媒及びラジカル重合開始剤のいずれである請求項1から
3のいずれか1項に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
【請求項5】
(E)成分としてさらに接着助剤を含む請求項1から
4のいずれか1項に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物からなる未硬化樹脂フィルム。
【請求項7】
請求項1に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物の硬化物からなる硬化樹脂フィルム。
【請求項8】
請求項1に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物からなる接着剤。
【請求項9】
請求項1に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物を含む基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性環状イミド樹脂組成物、その樹脂組成物からなる未硬化及び硬化樹脂フィルム、接着剤、また熱硬化性環状イミド樹脂組成物を含む基板に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、5Gという次世代の移動通信システムが流行しており、高速、大容量、低遅延通信を実現しようとしている。これらを実現するためには、高周波帯用の材料が必要であり、ノイズ対策として伝送損失の低減が必須となるために、誘電特性の優れた絶縁材料の開発が求められている。
【0003】
その中でも基板用途で、このような誘電特性の優れた絶縁材料が求められている。リジット基板やフレキシブル基板などの基板に対して誘電特性の優れた絶縁材料が求められており、リジッド基板では反応性ポリフェニレンエーテル樹脂(PPE)、フレキシブルプリント基板(FPC)では液晶ポリマー(LCP)や特性を改良した変性ポリイミド(MPI)と呼ばれる製品が使用されるようになってきている。
【0004】
上記のFPCを製造する際、ベースフィルムやカバーレイフィルムを、配線部分を有する面などに熱プレス等を用いて貼りつけるための接着剤が必要である。従来は、エポキシ樹脂を主に使用した接着剤を用いているが、最近は接着剤も誘電特性の優れた材料が求められるようになってきている。
【0005】
このような背景から、誘電特性が優れる接着剤が報告されているが(例えば、特許文献1~4)、その多くは、エポキシ樹脂、その他の熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂の組合せである。これらの組成は周波数10GHz以下の領域では優れた誘電特性を有するが、5Gではさらにミリ波と呼ばれる28GHz以上の周波数領域での誘電特性を有することが求められており、従来の誘電特性に優れると言われた接着剤は、現在ではまだ十分な誘電特性とは言えないものが多い。
【0006】
また、特殊なマレイミド化合物と熱可塑性樹脂とを含有する樹脂組成物が優れた高周波特性を備え、導体との接着性をも高い水準で備える組成物として開示されている(特許文献5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-248141号公報
【文献】特開2011-68713号公報
【文献】国際公開第2016-17473号
【文献】特開2016-79354号公報
【文献】国際公開第2018-16489号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献5に記載の樹脂組成物は、ワニス状で互いの樹脂の相溶性がなく、ワニスの分離が生じてしまい、樹脂フィルムが得られなかったり、仮に樹脂フィルムが得られても接着性が発現しなかったりすることが確認され、基板用途に適さないことがわかった。
従って、本発明は、優れた誘電特性を有し、LCPやMPIなど有機樹脂及び銅に対しても強い接着力を有する熱硬化性環状イミド樹脂組成物並びにそれからなる未硬化及び硬化樹脂フィルム、接着剤、また熱硬化性環状イミド樹脂組成物を含む基板を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、下記熱硬化性環状イミド樹脂組成物が、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0010】
<1>
(A)スチレン系エラストマー、
(B)1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物、
(C)1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂 及び
(D)反応促進剤
を含み、
前記(A)、(B)及び(C)成分の質量比率が(A)成分100質量部に対して、(B)成分と(C)成分の合計量が1~50質量部であり、かつ、(B)成分の量が(C)成分の量よりも多いものである、熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
<2>
(A)成分のスチレン系エラストマーが、スチレンと、アルケン及び/又は非共役ジエンとの共重合体であって、部分又は完全水添されている共重合体である<1>に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
<3>
(B)成分の環状イミド化合物が、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物である<1>又は<2>に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
【化1】
(式(1)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、
Qは独立して下記式(2)
【化2】
(式(2)中、R
1は独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であって、x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数である。)
で示されるシクロヘキサン骨格を有する炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、
WはB又はQであり、
nは0~100であり、mは0~200であるが、n及びmは同時に0とはならず、
n及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
<4>
式(1)中のAが下記構造式で示される4価の有機基のいずれかである<3>に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
【化3】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
<5>
(D)成分の反応促進剤が少なくともアニオン重合開始触媒及びラジカル重合開始剤のいずれである<1>から<4>のいずれかに1項に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
<6>
(E)成分としてさらに接着助剤を含む<1>から<5>のいずれかに1項に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物。
<7>
<1>に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物からなる未硬化樹脂フィルム。
<8>
<1>に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物からなる硬化樹脂フィルム。
<9>
<1>に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物からなる接着剤。
<10>
<1>に記載の熱硬化性環状イミド樹脂組成物を含む基板。
【発明の効果】
【0011】
本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物は、ワニスにしても分離が生じず、その硬化物は誘電特性と接着力に優れるものであり、特にLCP及びMPIなどの有機樹脂並びに銅に対して強い接着力を有する。従って、本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物は、特に、FPC用材料として有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明につき更に詳しく説明する。
【0013】
(A)スチレン系エラストマー
(A)成分のスチレン系エラストマーは主に、組成物の硬化物の高周波での低誘電特性、耐熱性及び接着性向上、並びに組成物をフィルム化した際の柔軟性向上に寄与し、スチレン系化合物由来の構造単位を有する熱可塑性エラストマーであれば特に制限はなく、スチレン由来の構造単位を有する熱可塑性エラストマーであってもよい。
【0014】
本発明においてスチレン系エラストマーは、スチレンと、アルケン及び/又は非共役ジエンとの共重合体であって、部分又は完全水添されている共重合体であることが好ましい。すなわち、スチレンをハードセグメント、アルケン及び/又は非共役ジエンをソフトセグメントとしたブロック共重合体及び/又はランダム共重合体であり、スチレン系エラストマーの例としては、スチレン/ブタジエン/スチレン・ブロック/ランダム共重合体、スチレン/イソプレン/スチレン・ブロック/ランダム共重合体、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン・ブロック/ランダム共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン・ブロック/ランダム共重合体、スチレン/ブタジエン・ブロック/ランダム共重合体などが挙げられる。品質の安定性からブロック共重合体が好ましい。
【0015】
耐熱性の観点から、水素添加反応(水添)により共役ジエン成分の二重結合をなくした、スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン・ブロック/ランダム共重合体、スチレン/エチレン/プロピレン/スチレン・ブロック/ランダム共重合体、スチレン/ブタジエン・ブロック/ランダム共重合体などを用いることが好ましい。水添は部分水添でも完全水添でもよいが、耐熱性の観点から完全水添又は水添率の高いものがより好ましい。
【0016】
スチレン共重合体におけるスチレン/共役ジエン及びその二重結合を水添した部の質量比は、10/90~70/30であることが好ましく、20/80~67/33がより好ましい。当該質量比がこの範囲内であれば、相溶性、分散性に優れて、品質の安定した組成物とすることができる。すなわち、スチレン系エラストマー中の質量基準のスチレン含有率として、10~90%であることが好ましく、20~67%であることがより好ましい。
【0017】
スチレン系エラストマーはカルボキシル基やアミノ基などによって変性されていてもよい。スチレン系エラストマーの変性は、例えば、スチレン系エラストマーの重合時に、不飽和カルボン酸を共重合させることにより行うことができる。また、スチレン系エラストマーと不飽和カルボン酸を有機パーオキサイドの存在下に加熱、混練することにより行うこともできる。不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水フマル酸等を挙げることができる。
【0018】
スチレン系エラストマー(A)の数平均分子量(Mn)は、10,000~300,000であることが好ましく、10,000~200,000であることがより好ましい。数平均分子量が指定の範囲内であれば、得られる組成物が優れたフィルム性を有し、(B)成分や(C)成分などの他の成分の相溶性、分散性に優れ、良好な接着性を示す。
なお、本発明中で言及する数平均分子量とは、下記条件で測定したゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)によるポリスチレンを標準物質とした数平均分子量を指すこととする。
【0019】
[測定条件]
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム: TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0020】
(A)成分のスチレン系エラストマーは市販されたものを用いてもよい。具体例としては、旭化成社製のタフテックシリーズや、クラレ社製のハイブラーシリーズなどが挙げられる。なお、本発明の組成物には、スチレン系エラストマーを1種単独で用いても、2種以上混合して用いてもよい。
【0021】
(B)特定の環状イミド化合物
本発明で用いる(B)成分は、特定の環状イミド化合物であり、1分子中に、少なくとも1つのダイマー酸骨格、少なくとも1つの炭素数6以上の直鎖アルキレン基、及び少なくとも2つの環状イミド基を含有する環状イミド化合物である。
【0022】
ここで言う、ダイマー酸とは、植物系油脂などの天然物を原料とする炭素数18の不飽和脂肪酸の二量化によって生成された、炭素数36のジカルボン酸を主成分とする液状の二塩基酸であり、ダイマー酸(ダイマージアミン)骨格とは前記ダイマー酸からカルボキシ基(アミノ基)を除いた構造を指す。そのため、ダイマー酸骨格は単一の骨格ではなく、複数の構造を有し、何種類かの異性体が存在することが知られている。ダイマー酸の代表的なものは直鎖型(a)、単環型(b)、芳香族環型(c)、多環型(d)という名称で分類される。
すなわち、(B)成分は、ダイマー酸骨格として、下記(a)~(d)で示されるダイマー酸から2つのカルボキシ基を除いた基を有するものが好ましい。
【化4】
【0023】
(B)成分の環状イミド化合物としては、下記式(1)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物が好ましい。この下記式(1)で示されるマレイミド化合物を使用すると、硬化前後共に、得られるフィルムの機械的特性が良く、ハンドリングしやすくなるだけでなく、後述する(C)成分との相溶性が高く、特性が場所によってムラのない組成物を得ることができる。また、(B)成分を配合することにより、銅箔との密着力が強く、信頼性の高い組成物となる。
【0024】
【化5】
(式(1)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、
Qは独立して下記式(2)
【化6】
(式(2)中、R
1は独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であって、x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数である。)
で示されるシクロヘキサン骨格を有する炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、
WはB又はQであり、
nは0~100であり、mは0~200であるが、n及びmは同時に0とはならず、
n及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【0025】
ここで、前記式(1)中、Aは独立して環状構造を有する4価の有機基を示し、中でも下記構造式で示される4価の有機基のいずれかであることが好ましい。
【化7】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、一般式(1)において環状イミド構造を形成するカルボニル炭素と結合するものである。)
【0026】
また、前記式(1)中、Bは独立して炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50の2価炭化水素基である。中でも、前記2価炭化水素基中の水素原子の1個以上が、炭素数6~200、好ましくは8~100、より好ましくは10~50のアルキル基又はアルケニル基で置換されている分岐状2価炭化水素基であることが好ましい。分岐状2価炭化水素基としては、飽和脂肪族炭化水素基、不飽和炭化水素基のいずれでもよく、分子鎖の途中に脂環式構造又は芳香族環構造を有していてもよい。
前記分岐状2価炭化水素基として、具体的には、ダイマージアミンと呼ばれる両末端ジアミン由来の2価炭化水素基が挙げられる。なお、ダイマージアミンとは、オレイン酸などの不飽和脂肪酸の二量体(ダイマー酸)から誘導される化合物であり、従って、Bとしては、上記(a)~(d)で示されるダイマー酸から2つのカルボキシ基を除いた基が特に好ましい。
【0027】
また、前記式(1)中、Qは独立して下記式(2)
【化8】
(式(2)中、R
1は独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であって、x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数である。)
で示されるシクロヘキサン骨格を有する炭素数6~60、好ましくは8~30、より好ましくは10~20の2価の脂環式炭化水素基である。
【0028】
ここで、R1の具体例は、水素原子、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、t-ブチル基などが挙げられる。中でも水素原子やメチル基が好ましい。なお、各R1は同じであっても異なっていてもよい。
また、前記x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数であり、好ましくは0~2の数である。なお、x1及びx2は同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
前記Qの具体例としては、以下のような構造式で表される2価の脂環式炭化水素基が挙げられる。
【化9】
(上記構造式中の置換基が結合していない結合手は、式(1)において環状イミド構造を形成する窒素原子と結合するものである。)
【0030】
前記式(1)において、WはB又はQである。前記Wについては、製造方法の違いによって、B又はQを有するいずれの構造単位かが決まる。
【0031】
前記式(1)において、nは0~100であり、好ましくは2~60であり、より好ましくは5~50であり、mは0~200であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは3~40であるが、n及びmは同時に0とはならない。nやmが大きすぎると流動性が低下し、成形性に劣るおそれがある。
【0032】
また、式(1)で示されるマレイミド化合物において、式中のn及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよいが、ブロック結合であることが好ましい。
【0033】
(B)成分の環状イミド化合物としては、更に、下記式(1’)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物又は下記式(3)で示されるマレイミド化合物であって、1分子中に少なくとも1つのダイマー酸骨格を有するマレイミド化合物が好ましい。
【0034】
【化10】
(式(1’)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、
Qは独立して下記式(2)
【化11】
(式(2)中、R
1は独立して、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であって、x1及びx2はそれぞれ独立に0~4の数である。)
で示されるシクロヘキサン骨格を有する炭素数6~60の2価の脂環式炭化水素基であり、
WはB又はQであり、
n’は1~100であり、mは0~200であり、
n及びmで括られた各繰り返し単位の順序は限定されず、結合様式は、交互であっても、ブロックであっても、ランダムであってもよい。)
【0035】
式(1')中のA、B、Q及びWの具体例としては、式(1)中のA、B、Q及びWで例示したものとそれぞれ同様のものが挙げられ、n'は1~100であり、好ましくは2~60であり、より好ましくは5~50であり、mは0~200であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは3~40である。
【0036】
【化12】
(式(3)中、
Aは独立して環状構造を有する4価の有機基であり、
Bは独立して炭素数6~200の2価炭化水素基であり、
mは1~200である。)
【0037】
式(3)中のA及びBの具体例としては、式(1)中のA及びBで例示したものとそれぞれ同様のものが挙げられ、mは1~200であり、好ましくは1~50であり、より好ましくは3~40である。
【0038】
(B)成分の環状イミド化合物の数平均分子量は特に制限はないが、組成物のハンドリング性の観点から2,000~50,000が好ましく、より好ましくは5,000~40,000である。また、(B)成分は1種単独で用いても、2種以上混合して用いても良い。
【0039】
(C)1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂
本発明で用いる(C)成分は、1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂である。エポキシ樹脂は本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物の流動性や機械特性を向上させたり、改善させたり、LCPやMPIなどの有機樹脂に対する接着力を向上させたりする。エポキシ樹脂としては1分子中に2つ以上のエポキシ基を有するものであれば、特に制限なく使用することができるが、ハンドリング性の観点から室温(25℃)で固体であることが好ましく、より好ましくは融点が40℃以上150℃以下又は軟化点が50℃以上160℃以下の固体のものである。
【0040】
エポキシ樹脂の具体例としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、3,3’,5,5’-テトラメチル-4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂及び4,4’-ビフェノール型エポキシ樹脂等のビフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ナフタレンジオール型エポキシ樹脂、トリスフェニロールメタン型エポキシ樹脂、テトラキスフェニロールエタン型エポキシ樹脂、フェノールビフェニル型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、フェノールジシクロペンタジエンノボラック型エポキシ樹脂の芳香環を水素化したエポキシ樹脂、トリアジン誘導体エポキシ樹脂及び脂環式エポキシ樹脂等が挙げられる。中でもジシクロペンタジエン型エポキシ樹脂及びビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂が好ましく用いられる。
【0041】
前記(A)、(B)及び(C)成分の質量比率は(A)成分100質量部に対して、(B)成分と(C)成分の合計量が1~50質量部であり、(B)成分と(C)成分の合計量が2~40質量部であることが好ましい。(B)成分及び(C)成分がこの範囲より多いと、例えばワニスにした際に分離が生じ、一部ゲル化したような状態で流動性を失う。さらにはフィルム化してもフィルムにムラが発生してしまうおそれがある。逆に、(B)成分及び(C)成分がこの範囲より少ないと接着力に乏しい組成物になってしまうおそれがある。
また、(B)成分の量は(C)成分の量よりも多く、(B)成分が(C)成分より少ないと金属に対する接着力が低下するだけでなく、(C)成分の影響で誘電特性が悪くなってしまったり、硬化のバランスが崩れてしまったりするおそれがある。(B)成分100質量部に対して、(C)成分の量は1~50質量部であることが好ましい。
さらに、(A)、(B)及び(C)成分の総量を基準として、(A)成分の配合量は70~95質量%であることが好ましく、71~93質量%であることがより好ましく、72~90質量%であることが特に好ましい。
【0042】
(D)反応促進剤
(D)成分である反応促進剤は、主に(B)成分である環状イミド化合物の架橋反応や(C)成分であるエポキシ樹脂中のエポキシ基と反応し、その後環状イミドの架橋反応を開始させたり、(A)成分のスチレン系エラストマー中に官能基がある際は、その官能基と(B)成分の環状イミド又は(C)成分中のエポキシ基との反応を促進したりするために添加するものである。
(D)成分としては架橋反応を促進するものであれば特に制限されるものではなく、イミダゾール類、第3級アミン類、第4級アンモニウム塩類、三フッ化ホウ素アミン錯体、オルガノホスフィン類、オルガノホスホニウム塩等のイオン触媒、ジアリルパーオキシド、ジアルキルパーオキシド、パーオキシドカーボネート及びヒドロパーオキシド等の有機過酸化物並びにアゾイソブチロニトリル等のラジカル重合開始剤などが挙げられる。これらの中でも、(B)成分単独での反応を促進させる有機過酸化物のようなラジカル重合開始剤、(C)成分中のエポキシ基を開環し、その後エポキシ樹脂との付加体が環状イミド化合物の架橋反応を促進するようなイミダゾール類及び第3級アミン類などのアニオン重合開始触媒が好ましい。
【0043】
反応促進剤は、(A)成分が無官能タイプの場合(スチレン系エラストマー中に官能基を有さない場合)、(B)及び(C)成分などの熱硬化性樹脂成分の総和100質量部に対して0.05~10質量部、特に0.1~5質量部の範囲内で配合することが好ましい。反応促進剤は、(A)成分が官能基を有するタイプの場合、(A)、(B)及び(C)成分などの樹脂成分の総和100質量部に対して0.05~10質量部、特に0.1~5質量部の範囲内で配合することが好ましい。
上記範囲を外れると、熱硬化性環状イミド樹脂組成物の成形時に硬化が非常に遅くなったり速くなったりするおそれがあるため好ましくない。また、得られた硬化物の耐熱性及び耐湿性のバランスも悪くなるおそれがある。
【0044】
(E)接着助剤
本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物には、(A)~(C)の樹脂成分と銅箔又はLCP及びMPIといった有機樹脂との接着性を高くしたりするため、接着助剤を添加することができる。
接着助剤としては、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤などのカップリング剤や(メタ)アクリル基を有するモノマーを配合することができる。
シランカップリング剤としては、例えば、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等のエポキシ官能性アルコキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン等のメルカプト官能性アルコキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミン官能性アルコキシシランなどが挙げられる。
チタンカップリング剤としては、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート) オキシアセテートチタネート、イソプロピルトリオクタノイルチタネート、イソプロピルジメタクリルイソステアロイルチタネート、イソプロピルイソステアロイルジアクリルチタネート、イソプロピルトリ(ジオクチルホスフェート)チタネート、イソプロピルトリクミルフェニルチタネート、イソプロピルトリ(N-アミノエチル・アミノエチル)チタネートなどが挙げられる。
(メタ)アクリル基を有するモノマーとしては、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、ジプロプレングリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンジアクリレート、ビスフェノールA型ジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリス(2-アクリロキシメチル)イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールメタクリレート、ジプロプレングリコールメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールメタクリレート、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレンメタクリレート、ビスフェノールA型ジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリス(2-メタクリロキシメチル)イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレートなどが挙げられる。
【0045】
(E)成分の配合量は、(A)、(B)及び(C)成分の総和に対して、0.1~8.0質量%とすることが好ましく、特に0.5~6.0質量%とすることが好ましい。0.1質量%以上であれば、基材への接着効果を十分得ることができ、また8.0質量%以下であれば、粘度が低くなり過ぎないので、ボイドの原因になりづらく好ましい。
【0046】
<その他の添加剤>
本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、更に必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。該添加剤としては、シリカやアルミナ、窒化ホウ素を初めとする無機充填材、PTFEパウダーを初めとした樹脂パウダー、銀などの金属粒子、反応性官能基を有するオルガノポリシロキサン、無官能シリコーンオイル、熱可塑性樹脂、スチレン系以外の熱可塑性エラストマー、有機合成ゴム、光増感剤、光安定剤、重合禁止剤、難燃剤、顔料、染料等が挙げられる。また、熱硬化性環状イミド樹脂組成物の硬化物の電気特性を改善するために、その他の添加剤としてイオントラップ剤等を配合してもよい。
【0047】
本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物は、(A)成分、(B)成分、(C)成分及び(D)成分並びに必要に応じて添加される(E)成分及びその他の添加剤を混合することにより製造することができる。
本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物は、有機溶剤に溶解してワニスとして扱うこともできる。熱硬化性環状イミド樹脂組成物は、ワニスにすることによってシート状又はフィルム状に成形しやすくなる。有機溶剤は(A)成分、(B)成分及び(C)成分の熱硬化性樹脂分が溶解するものであれば制限なく使用することができる。有機溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、アニソール、シクロヘキサノン、シクロペンタノン等を好適に用いることができる。上記の有機溶剤は単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。ワニス中の本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物の濃度は、5~80質量%が好ましく、10~75質量%がより好ましい。
【0048】
この熱硬化性環状イミド樹脂組成物は、主に接着剤、プライマー、基板用のボンディングフィルムやシート材料、FPC用カバーレイフィルムの接着層として好適に用いることができる。使用方法、形態には制限なく使用することができる。例えば、未硬化樹脂フィルムや硬化樹脂フィルムとして、また接着剤として使用出来る。以下に使用例を例示するが、これに限定されるものではない。
【0049】
例えば、有機溶剤に溶解した熱硬化性環状イミド樹脂組成物(ワニス)を支持シートに塗工した後、通常80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で0.5~5時間加熱することによって有機溶剤が除去され、未硬化のフィルム状やシート状の組成物を得ることができる。該支持シートとしては、一般的に用いられるのを用いてよく、例えばポリエチレン(PE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、ポリスチレン(PS)樹脂などのポリオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂などのポリエステル樹脂、などが挙げられ、これら支持シートの表面を離形処理していても構わない。また、塗工方法も特に限定されず、ギャップコーター、カーテンコーター、ロールコーター及びラミネータ等が挙げられる。また、塗工層の厚さも特に限定されないが、溶剤留去後の厚さが1~100μm、好ましくは3~80μmの範囲である。さらに塗工層の上にカバーフィルムを使用しても構わない。
【0050】
また、塗工層の上に銅箔を貼り付けて、基板材料として用いることもできる。
【0051】
さらに、基材にワニスを塗布し、通常80℃以上、好ましくは100℃以上の温度で0.5~5時間加熱することによって有機溶剤を除去し、基材に接着したいものを加熱しながら圧着させ、130℃以上、好ましくは150℃以上の温度で0.5~10時間加熱することで、接着させることができる。塗布方法として、スピンコーター、スリットコーター、スプレー、ディップコーター、バーコーター等が挙げられるが特に制限はない。
他にも、フレキシブルフラットケーブルにも用いることができる。
【実施例】
【0052】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0053】
実施例及び比較例で使用した各成分を以下に示す。尚、以下において数平均分子量(Mn)はポリスチレンを基準として、下記測定条件により測定されたものである。
展開溶媒:テトラヒドロフラン(THF)
流量:0.35mL/min
検出器:示差屈折率検出器(RI)
カラム: TSK Guardcolumn SuperH-L
TSKgel SuperHZ4000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ3000(4.6mmI.D.×15cm×1)
TSKgel SuperHZ2000(4.6mmI.D.×15cm×2)
(いずれも東ソー社製)
カラム温度:40℃
試料注入量:5μL(濃度0.2質量%のTHF溶液)
【0054】
(A)スチレン系エラストマー
(A-1)スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン・ブロック共重合体の水添物、スチレン含有率30%(タフテックH1041:旭化成(株)製)
(A-2)カルボン酸変性スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン・ブロック共重合体、スチレン含有率30%(タフテックM1913:旭化成(株)製)
(A-3)アミン酸変性スチレン/エチレン/ブチレン/スチレン・ブロック共重合体、スチレン含有率30%(タフテックMP-10:旭化成(株)製)
【0055】
(B)環状イミド化合物
(B-1):下記式で示される直鎖アルキレン基含有ビスマレイミド化合物(SLK-2600、信越化学工業(株)製)
【化13】
H
2N-C
36H
70-NH
2はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
n≒3、m≒1
(B-2):下記式で示される直鎖アルキレン基含有ビスマレイミド化合物(BMI-3000、Designer Molecules Inc.製)
【化14】
H
2N-C
36H
70-NH
2はダイマー酸骨格由来の構造を示す。
n≒5(平均値)
(B-3):4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド(BMI-1000:大和化成工業(株)製、比較例用)
【0056】
(C)1分子中にエポキシ基を2つ以上有するエポキシ樹脂
(C-1):ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂(NC-3000:日本化薬(株)製)
(C-2):Bis-A型エポキシ樹脂(jER-828:三菱ケミカル(株)製)
【0057】
(D)反応促進剤
(D-1):ジクミルパーオキシド(パークミルD:日油(株)製)
(D-2):2-エチル-4-メチルイミダゾール(2E4MZ:四国化成(株)製)
【0058】
(E)接着助剤
(E-1):3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(KBM-403:信越化学工業(株)製)
【0059】
<ワニスの作製及びワニス外観、安定性>
表1、2の配合で、ジムロート冷却管及び撹拌装置を備えた500mLの4つ口フラスコに各成分を投入し、50℃で2時間撹拌させることでワニス状の樹脂組成物を得た。
【0060】
撹拌直後及び25℃で72時間放置後のワニス状組成物の外観が、分離なく均一であるものを○、分離が発生しているものは×として、結果を表1、2に記載した。
【0061】
【0062】
【0063】
表1及び2の結果より、実施例1~9のワニス組成物は分離することなく安定であることが確認された。比較例1~3、10及び11もワニス組成物の安定性を確認できた。一方、比較例4~9はワニスが分離してしまった。特に比較例6~8は国際公開第2018-16489号の実施例1~3の無機充填材を除いた組成であるが、実際には分離してしまうことが確認できた。
【0064】
<未硬化フィルムの作製>
【0065】
上記表1、2の中でワニスの分離が発生しなかった実施例1~9、比較例1~3、10及び11のワニス状熱硬化性環状イミド樹脂組成物を厚さ38μmのPETフィルム上に、乾燥後の厚さが50μmとなるようにローラーコーターで塗布し、120℃で10分間乾燥させて未硬化樹脂フィルムを得た。
【0066】
<比誘電率、誘電正接>
【0067】
前記未硬化樹脂フィルムを厚さ100μmのテトラフルオロエチレン-エチレン共重合樹脂フィルム(AGC株式会社製、製品名:アフレックス)上に、未硬化樹脂フィルムの樹脂層がテトラフルオロエチレン-エチレン共重合樹脂フィルムに接するように載せ、180℃で2時間の条件で硬化させることで硬化樹脂フィルムを得た。
【0068】
PETフィルム及びテトラフルオロエチレン-エチレン共重合樹脂フィルムを剥がした硬化樹脂フィルムを用いて、ネットワークアナライザ(キーサイト社製 E5063-2D5)とストリップライン(キーコム株式会社製)を接続し、上記硬化樹脂フィルムの周波数10GHzにおける比誘電率と誘電正接を測定した。
【0069】
<剥離強度>
【0070】
縦75mm、幅25mm、厚さ1.0mmのスライドガラスを用意し、その一方の表面に前記のPETフィルム付き未硬化フィルムのPET基材の貼っていない樹脂組成物面を載せ、100℃、0.3MPa圧、60秒の条件でラミネートを行った。ラミネート後、PET基材を剥がし、樹脂組成物面に18μm厚の銅箔(三井金属(株)製、Ra0.6μm)、50μm厚のLCP(千代田インテグレ(株)製)又はMPI(PIXEO SR、(株)カネカ製)を載せ、100℃、0.3MPa圧、60秒の条件でラミネートを行った。ラミネート後、180℃で2時間の条件で硬化させることで接着試験片を作成した。
【0071】
接着性を評価するために、JIS-C-6481「プリント配線板用銅張積層板試験方法」に準拠し、温度23℃及び引張速度50mm/分の条件で、各接着試験片の銅箔、LCP又はMPIをスライドガラスから剥がすときの90°はく離接着強さ(kN/m)を測定した。
【0072】
以上の評価結果を表3、4に示す。
【0073】
【0074】
【0075】
以上の結果から、本発明の熱硬化性環状イミド樹脂組成物は、ワニスにしても分離せず、硬化物の誘電特性に優れ、金属(例えば、銅)に対してのみならず、有機樹脂(例えば、LCP及びMPI)に対しても強い接着力を有することから、基板用途に適した絶縁材料としての有用性を確認できた。