(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】圧電膜、圧電積層体、圧電素子および圧電積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20231211BHJP
H03H 9/25 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
H10N30/853
H03H9/25 C
(21)【出願番号】P 2020037496
(22)【出願日】2020-03-05
【審査請求日】2022-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100187632
【氏名又は名称】橘高 英郎
(72)【発明者】
【氏名】黒田 稔顕
(72)【発明者】
【氏名】柴田 憲治
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和俊
(72)【発明者】
【氏名】木村 健司
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180770(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0243748(US,A1)
【文献】特開2014-179609(JP,A)
【文献】特開2017-157830(JP,A)
【文献】特開2018-207055(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 30/853
H03H 9/25
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜であり、
CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、
平均粒径が100nm以上である結晶粒で構成されており、
前記結晶は、(001)面方位に優先配向してなり、
前記結晶の母相に存在する前記金属元素および前記結晶の粒界に存在する前記金属元素の合計濃度が、前記多結晶膜中のニオブの量に対して0.2at%以上2.0at%以下であり、
前記結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比が1.0以下である圧電膜。
【請求項2】
前記濃度Aに対する前記濃度Bの比が0.8以下である請求項1に記載の圧電膜。
【請求項3】
基板と、
前記基板上に設けられた電極膜と、
前記電極膜上に設けられ、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜である圧電膜と、を備え、
前記圧電膜はCuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、
前記圧電膜は、平均粒径が100nm以上である結晶粒で構成されており、
前記圧電膜を構成する前記結晶は(001)面方位に優先配向してなり、
前記結晶の母相に存在する前記金属元素および前記結晶の粒界に存在する前記金属元素の合計濃度が、前記圧電膜中のニオブの量に対して0.2at%以上2.0at%以下であり、
前記圧電膜を構成する
前記結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比が1.0以下である圧電積層体。
【請求項4】
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極膜と、
前記下部電極膜上に設けられ、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜である圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられた上部電極膜と、を備え、
前記圧電膜はCuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、
前記圧電膜は、平均粒径が100nm以上である結晶粒で構成されており、
前記圧電膜を構成する前記結晶は(001)面方位に優先配向してなり、
前記結晶の母相に存在する前記金属元素および前記結晶の粒界に存在する前記金属元素の合計濃度が、前記圧電膜中のニオブの量に対して0.2at%以上2.0at%以下であり、
前記圧電膜を構成する
前記結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比が1.0以下である圧電素子。
【請求項5】
基板上に電極膜を製膜する工程と、
前記電極膜上に、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜である圧電膜を製膜する工程と、を有し、
前記圧電膜を設ける工程では、CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を母相中に固溶させたターゲット材を用いたスパッタリング法により、前記圧電膜を構成する結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比が1.0以下である前記圧電膜を製膜する圧電積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電膜、圧電積層体、圧電素子および圧電積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電体は、センサ、アクチュエータ等の機能性電子部品に広く利用されている。圧電体の材料としては、鉛系材料、特に、組成式Pb(Zr1-xTix)O3で表されるPZT系の強誘電体が広く用いられている。PZT系の圧電体は鉛を含有しているため、公害防止の面等から好ましくない。そこで、鉛非含有の圧電体の材料として、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)が提案されている(例えば特許文献1,2参照)。近年、KNNのように鉛非含有の材料からなる圧電体の性能をさらに高めることが強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-184513号公報
【文献】特開2008-159807号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、ニオブ酸カリウムナトリウムからなり、クラックが生じにくい圧電膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の一態様によれば、
ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜であり、
CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、
結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比が1.0以下である圧電膜およびその関連技術が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ニオブ酸カリウムナトリウムからなり、クラックが生じにくい圧電膜を得ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の一例を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる圧電積層体の断面構造の変形例を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態にかかる圧電デバイスの概略構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0009】
(1)圧電積層体の構成
図1に示すように、本実施形態にかかる圧電膜を有する積層体(積層基板)10(以下、圧電積層体10とも称する)は、基板1と、基板1上に設けられた(製膜された)第1電極膜としての下部電極膜2と、下部電極膜2上に設けられた(製膜された)圧電膜(圧電薄膜)3と、圧電膜3上に設けられた(製膜された)第2電極膜としての上部電極膜4と、を備えている。
【0010】
基板1としては、熱酸化膜またはCVD(Chemical Vapor Deposition)酸化膜等の表面酸化膜(SiO
2膜)1bが形成された単結晶シリコン(Si)基板1a、すなわち、表面酸化膜を有するSi基板を好適に用いることができる。また、基板1としては、
図2に示すように、その表面にSiO
2以外の絶縁性材料により形成された絶縁膜1dを有するSi基板1aを用いることもできる。また、基板1としては、表面にSi(100)面またはSi(111)面等が露出したSi基板1a、すなわち、表面酸化膜1bまたは絶縁膜1dを有さないSi基板を用いることもできる。また、基板1としては、SOI(Silicon On Insulator)基板、石英ガラス(SiO
2)基板、ガリウム砒素(GaAs)基板、サファイア(Al
2O
3)基板、ステンレス(SUS)等の金属材料により形成された金属基板を用いることもできる。単結晶Si基板1aの厚さは例えば300μm以上1000μm以下、表面酸化膜1bの厚さは例えば1nm以上4000nm以下とすることができる。
【0011】
下部電極膜2は、例えば、白金(Pt)を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、単結晶膜または多結晶膜(以下、これらをPt膜とも称する)となる。Pt膜を構成する結晶は、基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、Pt膜の表面(圧電膜3の下地となる面)は、主にPt(111)面により構成されていることが好ましい。Pt膜は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2は、Pt以外に、金(Au)、ルテニウム(Ru)、またはイリジウム(Ir)等の各種金属、これらを主成分とする合金、ルテニウム酸ストロンチウム(SrRuO3、略称:SRO)またはニッケル酸ランタン(LaNiO3、略称:LNO)等の金属酸化物等を用いて製膜することもできる。また、下部電極膜2は、上記各種金属または金属酸化物等を用いて製膜した単層膜であってもよく、あるいは、Pt膜とPt膜上に設けられたSROからなる膜との積層体や、Pt膜とPt膜上に設けられたLNOからなる膜との積層体等であってもよい。なお、基板1と下部電極膜2との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、酸化チタン(TiO2)、ニッケル(Ni)、ルテニウム酸化物(RuO2)、イリジウム酸化物(IrO2)等を主成分とする密着層6が設けられていてもよい。密着層6は、スパッタリング法、蒸着法等の手法を用いて製膜することができる。下部電極膜2の厚さは例えば100nm以上400nm以下、密着層6の厚さは例えば1nm以上200nm以下とすることができる。
【0012】
圧電膜3は、例えば、カリウム(K)、ナトリウム(Na)、ニオブ(Nb)を含み、組成式(K1-xNax)yNbO3で表されるアルカリニオブ酸化物、すなわち、ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)を用いて製膜することができる。上述の組成式中の係数x[=Na/(K+Na)]は、0<x<1の範囲内の大きさとする。係数y[=(K+Na)/Nb]は、例えば0.7≦y≦1.50の範囲内の大きさとすることが好ましい。圧電膜3は、KNNの多結晶膜(以下、KNN膜3とも称する)となる。KNNの結晶構造は、ペロブスカイト構造となる。KNN膜3の厚さは例えば0.5μm以上5μm以下とすることができる。
【0013】
KNN膜3を構成する結晶は、基板1(基板1が例えば表面酸化膜1bまたは絶縁膜1d等を有するSi基板1aである場合はSi基板1a)の表面に対して(001)面方位に優先配向していることが好ましい。すなわち、KNN膜3の表面(上部電極膜4の下地となる面)は、主にKNN(001)面方位により構成されていることが好ましい。基板1の表面に対して(111)面方位に優先配向させた下部電極膜2(Pt膜)上にKNN膜3を直接製膜することで、KNN膜3を構成する結晶を、基板1の表面に対して(001)面方位に優先配向させることが容易となる。すなわち、KNN膜3を構成する結晶群のうち80%以上の結晶を基板1の表面に対して(001)面方位に配向させ、KNN膜3の表面のうち80%以上の領域をKNN(001)面とすることが容易となる。
【0014】
KNN膜3を構成する結晶群のうち半数以上の結晶が柱状構造を有していることが好ましい。KNN膜3を構成する結晶同士の境界、すなわちKNN膜3に存在する結晶粒界は、KNN膜3の厚さ方向に貫いていることが好ましい。例えば、KNN膜3では、その厚さ方向に貫く結晶粒界が、KNN膜3の厚さ方向に貫いていない結晶粒界(例えば基板1の平面方向に平行な結晶粒界)よりも多いことが好ましい。
【0015】
KNN膜3は銅(Cu)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、およびバナジウム(V)からなる群より選択される少なくとも1つの金属元素(以下、単に「金属元素」とも称する)を含んでいる。好ましくは、KNN膜3は、CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含んでいる。CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含むとは、Cuのみを含み場合、Mnのみを含む場合、CuおよびMnの両方を含む場合がある。金属元素は、KNN膜3を構成する結晶の母相中およびKNN膜3の結晶粒界上に存在している。KNN膜3では、KNN膜3を構成する結晶の母相に存在する金属元素の濃度(濃度A)に対する結晶の粒界に存在する金属元素の濃度(濃度B)の比(以下、B/A値とも称する)が1.0以下、好ましくは0.8以下である。このように、KNN膜3では、粒界に存在する金属元素(の量)が母相中に存在する金属元素(の量)よりも少なくなっている。
【0016】
B/A値が1.0以下であることで、KNN膜3にクラックが生じにくくなる(KNN膜3が割れにくくなる(破損しにくくなる))。すなわち、B/A値が1.0以下であることで、KNN膜3に対して従来よりも高い電界(例えば1MV/cmの電界)を印加した場合であっても、KNN膜3にクラックが生じることを抑制することができる。B/A値が0.8以下であることで、KNN膜3にクラックが生じることを確実に抑制することができる。
【0017】
B/A値が1.0以下であるKNN膜3は、上記金属元素を母相中に(予め)固溶させたKNN焼結体からなるターゲット材を用いたスパッタリング法により製膜することができる。ターゲット材は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、上記金属元素を含む金属粉末(例えばCu粉末)や金属酸化物粉末(例えばCuO粉末、Cu2O粉末、MnO粉末)等を混合させて焼成することにより作製することができる。ターゲット材を作製する際の焼成(焼結)温度を高くすることで、例えば900℃以上1200℃以下、好ましくは1000℃以上1200℃以下、より好ましくは1100℃以上1150℃以下にすることで、金属元素を母相中に固溶させることが可能である。すなわち、ターゲット材を作製する際の焼成温度を高くすることで、金属元素が母相中に固溶したターゲット材を得ることが可能である。
【0018】
なお、B/A値は0(ゼロ)であることが好ましい。具体的には、上述の濃度Bが0%であること、すなわち、KNN膜3の結晶粒界には金属元素が存在しないことが好ましい。しかしながら、現在の技術では、KNN膜3の結晶粒界に金属元素を存在させないことは困難であることから、B/A値は0超となる。
【0019】
KNN膜3中の上記金属元素の含有量は、KNN膜3(多結晶膜)中のニオブの量に対して例えば0.2at%以上2.0at%以下の範囲内であることが好ましい。すなわち、KNN膜3中の上記金属元素の濃度は例えば0.2at%以上2.0at%以下であることが好ましい。なお、ここでいう金属元素の濃度は、KNN膜3において、母相に存在している金属元素と結晶粒界に存在している金属元素との合計濃度である。すなわち、KNN膜3では、母相に存在している金属元素と結晶粒界に存在している金属元素との合計濃度がKNN膜3中のニオブに対して例えば0.2at%以上2.0at%以下であることが好ましい。また、KNN膜3中にCu、Mn、Fe、およびVのうち複数種類の金属元素が含まれている場合の金属元素の濃度は、複数種類の金属元素の合計濃度である。
【0020】
KNN膜3の金属元素の濃度が0.2at%以上であることで、KNN膜3の絶縁性(リーク耐性)を向上させつつ、フッ素系エッチング液に対する耐性を向上させることが可能となる。KNN膜3の金属元素の濃度が2.0at%以下であることで、B/A値が1.0以下であるKNN膜3を容易に得ることが可能となる。また、KNN膜3の金属元素の濃度が2.0at%以下であることで、KNN膜3の比誘電率を、センサやアクチュエータ等の用途に好適な大きさとすることができ、センサに適用された際の感度の低下や、アクチュエータに適用された際の消費電力の増加等を抑制することが可能となる。
【0021】
KNN膜3は、K、Na、Nb、上述の金属元素等の主要な成分以外の副次的な成分を、上述の金属元素を上述の範囲内で添加することによる効果を損なわない範囲内、例えば5at%以下(副次的な成分を複数種添加する場合は合計濃度が5at%以下)の範囲内で含んでいてもよい。副次的な成分として、リチウム(Li)、Ta、アンチモン(Sb)等を添加することができる。
【0022】
KNN膜3を構成する結晶(結晶群)の平均粒径(以下、「KNN膜3の平均結晶粒径」とも称する)は、例えば100nm以上であることが好ましい。ここでいうKNN膜3の平均結晶粒径とは、基板1の平面方向におけるKNN膜3の断面での平均結晶粒径である。KNN膜3の平均結晶粒径は、走査型電子顕微鏡で撮影した画像(例えばSEM像)や、透過電子顕微鏡で撮影した画像(例えばTEM像)の視野を画像解析することで得ることができる。画像解析ソフトとして、例えばWayne Rasband製の「ImageJ」を用いることができる。
【0023】
KNN膜3の平均結晶粒径が大きくなるほど、KNN膜3における粒界密度が低くなる、すなわち、KNN膜3中に存在する結晶粒界が低減される。ここでいう粒界密度とは、基板1の平面方向におけるKNN膜3の断面内の結晶の粒界の合計長さを、断面積で割った値(=結晶粒の粒界の合計長さ/断面積)である。
【0024】
KNN膜3の粒界密度が低いことで、KNN膜3の結晶粒界に存在する金属元素を確実に減らす、すなわち、濃度Bを確実に低くすることができる。これにより、B/A値が1.0以下であるKNN膜3を確実かつ容易に得ることが可能となる。
【0025】
KNN膜3の粒界密度を低くする観点からは、KNN膜3の平均結晶粒径は大きければ大きいほど好ましい。しかしながら、KNN膜3の平均結晶粒径がKNN膜3の厚さよりも大きくなると、圧電特性の面内均一性が低下する場合がある。したがって、圧電特性の面内均一性の低下抑制の観点から、KNN膜3の平均結晶粒径は、KNN膜3の厚さよりも小さいことが好ましい。
【0026】
上部電極膜4は、例えば、Pt、Au、アルミニウム(Al)、Cu等の各種金属またはこれらの合金を用いて製膜することができる。上部電極膜4は、スパッタリング法、蒸着法、メッキ法、金属ペースト法等の手法を用いて製膜することができる。上部電極膜4は、下部電極膜2のようにKNN膜3の結晶構造に大きな影響を与えるものではない。そのため、上部電極膜4の材料、結晶構造、製膜手法は特に限定されない。なお、KNN膜3と上部電極膜4との間には、これらの密着性を高めるため、例えば、Ti、Ta、TiO2、Ni、RuO2、IrO2等を主成分とする密着層が必要に応じて設けられていてもよい。上部電極膜4の厚さは例えば100nm以上5000nm以下、密着層を設ける場合には密着層の厚さは例えば1nm以上200nm以下とすることができる。
【0027】
(2)圧電デバイスの構成
図3に、本実施形態におけるKNN膜3を有するデバイス30(以下、圧電デバイス30とも称する)の概略構成図を示す。圧電デバイス30は、上述の圧電積層体10を所定の形状に成形することで得られる素子20(KNN膜3を有する素子20、以下、圧電素子20とも称する)と、圧電素子20に接続される電圧印加部11aまたは電圧検出部11bの少なくともいずれかと、を備えている。電圧印加部11aは、下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧を印加するための手段であり、電圧検出部11bは、下部電極膜2と上部電極膜4との間に発生した電圧を検出するための手段である。電圧印加部11a、電圧検出部11bとしては、公知の種々の手段を用いることができる。
【0028】
電圧印加部11aを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をアクチュエータとして機能させることができる。電圧印加部11aにより下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧を印加することで、KNN膜3を変形させることができる。この変形動作により、圧電デバイス30に接続された各種部材を作動させることができる。この場合、圧電デバイス30の用途としては、例えば、インクジェットプリンタ用のヘッド、スキャナー用のMEMSミラー、超音波発生装置用の振動子等が挙げられる。
【0029】
電圧検出部11bを、圧電素子20の下部電極膜2と上部電極膜4との間に接続することで、圧電デバイス30をセンサとして機能させることができる。KNN膜3が何らかの物理量の変化に伴って変形すると、その変形によって下部電極膜2と上部電極膜4との間に電圧が発生する。この電圧を電圧検出部11bによって検出することで、KNN膜3に印加された物理量の大きさを測定することができる。この場合、圧電デバイス30の用途としては、例えば、角速度センサ、超音波センサ、圧カセンサ、加速度センサ等が挙げられる。
【0030】
(3)圧電積層体、圧電素子、圧電デバイスの製造方法
上述の圧電積層体10、圧電素子20、および圧電デバイス30の製造方法について説明する。
【0031】
まず、基板1を用意し、基板1のいずれかの主面上に、例えばスパッタリング法により密着層6(Ti層)および下部電極膜2(Pt膜)をこの順に製膜する。なお、いずれかの主面上に、密着層6や下部電極膜2が予め製膜された基板1を用意してもよい。
【0032】
密着層6を設ける際の条件としては、下記の条件が例示される。
温度(基板温度):100℃以上500℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下
放電パワー:1000W以上1500W以下、好ましくは1100W以上1300W以下
雰囲気:アルゴン(Ar)ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
形成時間:30秒以上3分以下、好ましくは45秒以上2分以下
【0033】
下部電極膜2を製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。
温度(基板温度):100℃以上500℃以下、好ましくは200℃以上400℃以下
放電パワー:1000W以上1500W以下、好ましくは1100W以上1300W以下
雰囲気:Arガス雰囲気
雰囲気圧力:0.1Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
製膜時間:3分以上10分以下、好ましくは4分以上8分以下、より好ましくは5分以上6分以下
【0034】
続いて、下部電極膜2上にKNN膜3をスパッタリング法により製膜する。KNN膜3の組成比は、スパッタリング製膜時に用いるターゲット材の組成を制御することで調整可能である。ターゲット材は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、上述の金属元素を含む金属粉末や金属酸化物粉末等を混合させて焼成すること等により作製することができる。ターゲット材の組成は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、上述の金属元素を含む金属粉末や金属酸化物粉末等の混合比率を調整することで制御することができる。金属元素を上述の濃度で含むKNN膜3は、金属元素を含有する金属粉末又は金属酸化物粉末を例えば0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含むKNN焼結体ターゲット材を用いることで製膜することができる。
【0035】
また、スパッタリング製膜時に用いるターゲット材として、金属元素を母相中に固溶させたターゲット材を用いる。このようなターゲット材は、ターゲット材を作製する際の焼成温度を高くする(例えば900℃以上1200℃以下、好ましくは1000℃以上1200℃以下、より好ましくは1100℃以上1150℃以下とする)ことで作製することが可能である。
【0036】
KNN膜3を製膜する際の条件としては、下記の条件が例示される。
製膜温度(基板温度):500℃以上700℃以下、好ましくは550℃以上650℃以下
放電パワー:2000W以上2400W以下、好ましくは2100W以上2300W以下
製膜雰囲気:Arガス+酸素(O2)ガス雰囲気
雰囲気圧力:0.2Pa以上0.5Pa以下、好ましくは0.2Pa以上0.4Pa以下
O2ガスに対するArガスの分圧(Ar/O2分圧比):30/1~20/1、好ましくは27/1~23/1
製膜速度:0.5μm/hr以上2μm/hr以下、好ましくは0.5μm/hr以上1.5μm/hr以下
【0037】
母相中に金属元素を固溶させたターゲット材を用いることで、まずKNNのAサイトに金属元素を導入させ、Aサイトから溢れた金属元素をBサイトに導入させることができる。このように母相中に金属元素を固溶させたターゲット材を用いることで、KNN膜3の製膜時にCuやMn等の金属元素を、AサイトかBサイトに、すなわち、KNN膜3を構成する結晶の母相に優先的に導入することができる。その結果、KNN膜3の結晶粒界に存在する金属元素を減らすことが可能となる。これにより、B/A値が1.0以下であるKNN膜3を製膜することが可能となる。
【0038】
続いて、KNN膜3上に、例えばスパッタリング法により上部電極膜4を製膜する。上部電極膜4を製膜する際の条件は、上述の下部電極膜2を製膜する際の条件と同様の条件とすることができる。これにより、
図1に示すような、基板1、下部電極膜2、KNN膜3、および上部電極膜4を有する圧電積層体10が得られる。
【0039】
そして、圧電積層体10をエッチング等により所定の形状に成形する(所定のパターンに加工する)ことで、
図3に示すような圧電素子20が得られ、圧電素子20に電圧印加部11aまたは電圧検出部11bの少なくともいずれかを接続することで、圧電デバイス30が得られる。エッチング方法としては、例えば、反応性イオンエッチング等のドライエッチング法、所定のエッチング液を使用するウェットエッチング法を用いることができる。
【0040】
圧電積層体10をドライエッチングにより成形する場合、圧電積層体10(例えば上部電極膜4)上に、ドライエッチングに対するエッチングマスクとしてのフォトレジストパターンをフォトリソグラフィプロセス等により形成する。エッチングマスクとして、クロム(Cr)膜、ニッケル(Ni)膜、Pt膜、Ti膜等の貴金属膜(メタルマスク)をスパッタリング法により形成してもよい。そして、エッチングガスとしてハロゲン元素を含むガスを用いて圧電積層体10(上部電極膜4、KNN膜3等)に対してドライエッチングを行う。なお、ハロゲン元素には、塩素(Cl)、フッ素(F)等が含まれる。ハロゲン元素を含むガスとしては、三塩化ホウ素(BCl3)ガス、四塩化ケイ素(SiCl4)ガス、塩素(Cl2)ガス、CF4ガス、C4F8ガス等を用いることができる。
【0041】
圧電積層体10をウェットエッチングにより成形する場合、圧電積層体10(例えば上部電極膜4)上に、ウェットエッチングに対するエッチングマスクとしての酸化シリコン(SiOx)膜等を形成する。そして、例えばキレート剤のアルカリ水溶液を含みフッ酸を含まないエッチング液中に圧電積層体10を浸漬させ、圧電積層体10(上部電極膜4、KNN膜3等)に対してウェットエッチングを行う。なお、キレート剤のアルカリ水溶液を含みフッ酸を含まないエッチング液としては、キレート剤としてのエチレンジアミン四酢酸と、アンモニア水と、過酸化水素水とを混合したエッチング液を用いることができる。
【0042】
(4)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
【0043】
(a)KNN膜3のB/A値が1.0以下であることで、KNN膜3にクラックが生じにくくなる。例えば、下部電極膜2と上部電極膜4との間に従来よりも高い電界(例えば1MV/cmの電界)を印加してKNN膜3を駆動(変形)させた場合であっても、KNN膜3にクラックが生じることを抑制することが可能となる。
【0044】
KNN膜3を用いた圧電デバイス30において、KNN膜3にクラックが生じると、圧電デバイス30を使用することができなくなる。このため、従来の圧電デバイスでは、1MV/cm程度の高い電界を印加することができなかった。これに対し、本実施形態の圧電デバイス30では、1MV/cmの電界を印加した場合であっても、KNN膜3にクラックが生じにくい。このように従来よりも高い電界を印加することが可能となることで、圧電デバイス30の汎用性を高めることが可能となる。
【0045】
(b)KNN膜3の平均結晶粒径が例えば100nm以上であることで、KNN膜3の粒界密度を低くすることが可能となる。これにより、結晶粒界に存在する金属元素を確実に少なくすることができることから、B/A値が1.0以下であるKNN膜3を確実に得ることが可能となる。
【0046】
(c)KNN膜3のB/A値が1.0以下で、かつ、KNN膜3の平均結晶粒径が大きい(例えば100nm以上である)ことで、下部電極膜2と上部電極膜4との間に例えば1MV/cmの電界を印加した場合であっても、KNN膜3にクラックが生じることをより確実に抑制することが可能となる。なお、KNN膜3のB/A値が1.0以下であることで、KNN膜3の平均結晶粒径が100nm未満である場合であっても、少なくとも上述の(a)の効果を得ることができる。
【0047】
(d)KNN膜3が金属元素を例えば0.2at%以上2.0at%以下の濃度で含むことで、絶縁性、フッ素系エッチング液に対する耐性、および比誘電率の特性をバランスよく同時に得つつ、B/A値を1.0以下とすることが可能となる。
【0048】
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。但し、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0049】
上述の実施形態では、KNN膜3をスパッタリング法により製膜する場合について説明したが、これに限定されない。B/A値が1.0以下であるKNN膜3を製膜することができれば、例えば、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、ゾルゲル法等の手法を用いてKNN膜3を製膜してもよい。
【0050】
また、上述の実施形態では基板1と下部電極膜2との間に密着層6を設ける場合について説明したが、密着層6は設けられていなくてもよい。
【0051】
また例えば、下部電極膜2とKNN膜3との間に、KNN膜3を構成する結晶の配向を制御する配向制御層を設けてもよい。配向制御層は、例えば、SRO、LNO、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3、略称:STO)等の金属酸化物であって、下部電極膜2を構成する材料とは異なる材料を用いて形成することができる。配向制御層を構成する結晶は、基板1の表面に対して(100)面に優先配向していることが好ましい。なお、上述の他の実施形態に記載のように下部電極膜2を設けない場合は、基板1とKNN膜3との間に配向制御層を設けてもよい。すなわち、KNN膜3の直下に配向制御層を設けてもよい。
【0052】
また例えば、KNN膜3は、上述の金属元素に加えて、あるいは上述の金属元素に変えて、上述の金属元素と同等の効果を奏する他の金属元素を、KNN膜3を構成する結晶の母相における金属元素の濃度(濃度A)に対する結晶粒界における金属元素の濃度(濃度B)の比が1.0以下であるように含んでいてもよい。この場合であっても、上述の実施形態等と同様の効果が得られる。
【0053】
また例えば、上述の圧電積層体10を圧電素子20に成形する際、圧電積層体10(圧電素子20)を用いて作製した圧電デバイス30をセンサやアクチュエータ等の所望の用途に適用することができる限り、圧電積層体10から基板1を除去してもよい。
【実施例】
【0054】
以下、上述の実施形態の効果を裏付ける実験結果について説明する。
【0055】
(サンプル1~6)
基板として、表面が(100)面方位であり、厚さが610μmであり、直径が6インチであり、表面に熱酸化膜(厚さ:200nm)が形成されたSi基板を用意した。そして、この基板の熱酸化膜上に、密着層としてのTi層(厚さ:2nm)、下部電極膜としてのPt膜(基板の表面に対して(111)面方位に優先配向、厚さ:200nm)、KNN膜(基板の表面に対して(001)面方位に優先配向、厚さ:2μm、平均粒径:120nm、Cu濃度:0.2~2.0at%の範囲内)、上部電極膜としてのPt膜を順に製膜し、圧電積層体を作製した。KNN膜のB/A値は、KNN膜を製膜する際に用いるターゲット材を変更することで、1.3~0.6の範囲内で変化させた。金属元素としてCuを含み、B/A値が1.3であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル1とし、金属元素としてCuを含み、B/A値が1.1であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル2とし、金属元素としてCuを含み、B/A値が1.0であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル3とし、金属元素としてCuを含み、B/A値が0.8であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル4とし、金属元素としてCuを含み、B/A値が0.7であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル5とし、金属元素としてCuを含み、B/A値が0.6であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル6とした。
【0056】
(サンプル7~12)
基板として、表面が(100)面方位であり、厚さが610μmであり、直径が6インチであり、表面に熱酸化膜(厚さ:200nm)が形成されたSi基板を用意した。そして、この基板の熱酸化膜上に、密着層としてのTi層(厚さ:2nm)、下部電極膜としてのPt膜(基板の表面に対して(111)面方位に優先配向、厚さ:200nm)、KNN膜(基板の表面に対して(001)面方位に優先配向、厚さ:2μm、平均粒径:120nm、Mn濃度:0.2~2.0at%の範囲内)、上部電極膜としてのPt膜を順に製膜し、圧電積層体を作製した。KNN膜のB/A値は、KNN膜を製膜する際に用いるターゲット材を変更することで、1.3~0.6の範囲内で変化させた。金属元素としてMnを含み、B/A値が1.3であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル7とし、金属元素としてMnを含み、B/A値が1.1であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル8とし、金属元素としてMnを含み、B/A値が1.0であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル9とし、金属元素としてMnを含み、B/A値が0.8であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル10とし、金属元素としてMnを含み、B/A値が0.7であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル11とし、金属元素としてMnを含み、B/A値が0.6であるKNN膜を有する圧電積層体をサンプル12とした。
【0057】
(作製条件)
サンプル1~12において、Ti層は、RFマグネトロンスパッタリング法を用い、下記の条件で形成した。
温度:300℃
放電パワー:1200W
導入ガス:Arガス
Arガス雰囲気の圧力:0.3Pa
時間:1分
【0058】
サンプル1~12において、Pt膜(下部電極膜および上部電極膜)は、RFマグネトロンスパッタリング法を用い、下記の条件で製膜した。
製膜温度:100℃以上500℃以下の所定の温度
放電パワー:1200W
導入ガス:Arガス
Arガス雰囲気の圧力:0.3Pa
時間:5分
【0059】
サンプル1~12において、KNN膜は、RFマグネトロンスパッタリング法を用い、下記の条件で製膜した。
温度:600℃
放電パワー:2200W
導入ガス:Ar+O2混合ガス
Ar+O2混合ガス雰囲気の圧力:0.3Pa
O2ガスに対するArガスの分圧(Ar/O2分圧比):25/1
製膜速度:1μm/hr
【0060】
サンプル1~6においてKNN膜を製膜する際のスパッタリングターゲット材としては、(K+Na)/Nb=0.7~1.5、Na/(K+Na)=0.4~0.7の組成を有し、Cuを0.2~2.0at%の範囲内の濃度で含む(K1-xNax)NbO3焼結体を用いた。なお、ターゲット材は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、CuO粉末を、ボールミルを用いて24時間混合させ、850℃以上1000℃以下の温度範囲内で10時間仮焼成し、その後、再びボールミルで粉砕し、200MPaの圧力で成型した後、1080℃以上1150℃以下の温度範囲内で焼成することで作製した。ターゲット材の組成およびターゲット材中のCu濃度は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、CuO粉末の混合比率を調整することで制御し、製膜処理を行う前にEDX(エネルギー分散型X線分光分析)によって測定した。
【0061】
サンプル7~12においてKNN膜を製膜する際のスパッタリングターゲット材としては、(K+Na)/Nb=0.7~1.5、Na/(K+Na)=0.4~0.7の組成を有し、Mnを0.2~2.0at%の範囲内の濃度で含む(K1-xNax)NbO3焼結体を用いた。なお、ターゲット材は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、MnO粉末を、ボールミルを用いて24時間混合させ、850℃以上1000℃以下の温度範囲内で10時間仮焼成し、その後、再びボールミルで粉砕し、200MPaの圧力で成型した後、1080℃以上1150℃以下の温度範囲内で焼成することで作製した。ターゲット材の組成およびターゲット材中のMn濃度は、K2CO3粉末、Na2CO3粉末、Nb2O5粉末、MnO粉末の混合比率を調整することで制御し、製膜処理を行う前にEDX(エネルギー分散型X線分光分析)によって測定した。
【0062】
(クラック発生に関する評価)
サンプル1から、素子面積φが0.5mmである複数の圧電素子を作製した。サンプル1から作製した複数の圧電素子に対して500kV/cmの電界、1MV/cmの電界をそれぞれ印加し、KNN膜にクラックが生じているか否かを評価した。圧電素子のKNN膜に1つでもクラックが生じていれば、「クラック発生素子」と評価した。そして、クラック発生率(%)を下記の(式1)により算出した。算出結果は表1に示す通りである。
(式1)
クラック発生率(%)=(クラック発生素子の数/評価素子の数)×100
【0063】
サンプル2~12についても、サンプル1と同様に、クラック発生に関する評価を行った。すなわち、サンプル2~12についても、サンプル1と同様に、各サンプルから複数の圧電素子を作製し、作製した複数の圧電素子に対して500kV/cmの電界、1MV/cmの電界を印加し、クラック発生率を算出した。算出結果は表1に示す通りである。
【0064】
【0065】
表1に示すように、サンプル3では、500kV/cmの電界を印加した際のクラック発生率が0%であり、1MV/cmの電界を印加した際のクラック発生率が5%であることを確認した。サンプル8では、500kV/cmの電界を印加した際のクラック発生率が0%であり、1MV/cmの電界を印加した際のクラック発生率が4%であることを確認した。サンプル4~6、サンプル10~12では、500kV/cmの電界を印加した際のクラック発生率、1MV/cmの電界を印加した際のクラック発生率共に、0%であることを確認した。
【0066】
このように、KNN膜がCuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、KNN膜のB/A値が1.0以下であることで、KNN膜にクラックが生じることを抑制できることが分かった。また、B/A値が0.8以下であることで、1MV/cmの高い電界を印加した場合であっても、KNN膜にクラックが生じることを確実に抑制できることが分かった。
【0067】
これに対し、サンプル1,2,7,8では、500kV/cmの電界を印加した際のクラック発生率が30%以上であり、1MV/cmの電界を印加した際のクラック発生率は100%であることを確認した。すなわち、B/A値が1.0超である場合、500kV/cmの電界を印加しただけでも、クラックが発生する場合があり、1MV/cmの電界を印加すると、すべての素子でクラックが発生することを確認した。
【0068】
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
【0069】
(付記1)
本発明の一態様によれば、
ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜であり、
CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、
結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比(B/A値)が1.0以下である圧電膜が提供される。
【0070】
(付記2)
付記1に記載の圧電膜であって、好ましくは、
前記濃度Aに対する前記濃度Bの比(前記B/A値)が0.8以下である。
【0071】
(付記3)
付記1または2に記載の圧電膜であって、好ましくは、
前記結晶の母相に存在する前記金属元素および前記結晶の粒界に存在する前記金属元素の合計濃度が前記多結晶膜中のニオブの量に対して0.2at%以上2.0at%以下である。
【0072】
(付記4)
付記1~3のいずれか1つに記載の圧電膜であって、好ましくは、
平均粒径が100nm以上である結晶粒で構成されている。
【0073】
(付記5)
本発明の他の態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられた電極膜(下部電極膜)と、
前記電極膜上に設けられ、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜である圧電膜と、を備え、
前記圧電膜はCuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、
前記圧電膜を構成する結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比(B/A値)が1.0以下である圧電積層体が提供される。
【0074】
(付記6)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板と、
前記基板上に設けられた下部電極膜と、
前記下部電極膜上に設けられ、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜である圧電膜と、
前記圧電膜上に設けられた上部電極膜と、を備え、
前記圧電膜はCuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を含み、
前記圧電膜を構成する結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比(B/A値)が1.0以下である圧電素子または圧電デバイスが提供される。
【0075】
(付記7)
付記6に記載の圧電素子または圧電デバイスであって、好ましくは、
前記下部電極膜と前記上部電極膜との間には、電圧印加部または電圧検出部の少なくともいずれかが接続されている。
【0076】
(付記8)
本発明のさらに他の態様によれば、
基板上に電極膜を製膜する工程と、
前記電極膜上に、ニオブ酸カリウムナトリウムからなる多結晶膜である圧電膜を製膜する工程と、を有し、
前記圧電膜を設ける工程では、CuおよびMnからなる群より選択される少なくとも1つの金属元素を母相中に固溶させたターゲット材を用いたスパッタリング法により、前記圧電膜を構成する結晶の母相における前記金属元素の濃度Aに対する前記結晶の粒界における前記金属元素の濃度Bの比(B/A値)が1.0以下である前記圧電膜を製膜する圧電積層体の製造方法が提供される。
【符号の説明】
【0077】
1 基板
3 圧電膜
10 圧電積層体