(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】樹脂組成物及び積層フィルム並びに包装材料
(51)【国際特許分類】
C08L 29/04 20060101AFI20231211BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20231211BHJP
C08K 5/098 20060101ALI20231211BHJP
B32B 27/28 20060101ALI20231211BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20231211BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K3/08
C08K5/098
B32B27/28 102
B32B27/34
B65D65/40 D
(21)【出願番号】P 2020045107
(22)【出願日】2020-03-16
【審査請求日】2023-01-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健太郎
【審査官】小森 勇
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-049069(JP,A)
【文献】特開2006-123528(JP,A)
【文献】特開2016-172410(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/02
C08K 3/08
C08K 5/098
B32B 27/28
B32B 27/34
B65D 65/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びマグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(B)を含有する樹脂組成物であって、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が20~43モル%、けん化度が85モル%以上であり、
多価金属イオン(B)の含有量がエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して5~200ppmであり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が、エチレン単位含有量の差(ΔEt)が2~7モル%である2種類のエチレン-ビニルアルコール共重合体からなり、
前記2種類のエチレン-ビニルアルコール共重合体が、エチレン単位含有量が23~30モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)と、エチレン単位含有量25~37モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)であり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)との質量比(A1/A2)が、89/11~51/49であり、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)のエチレン単位含有量が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)のエチレン単位含有量よりも小さく、
示差走査熱量測定の融解ピークが1つのみの頂点を有し、融解ピークの頂点温度におけるベースラインからの高さTP及び融解ピークの頂点温度から10℃低い温度におけるベースラインからの高さTLの比(TL/TP)が0.21以上である樹脂組成物。
【請求項2】
示差走査熱量測定の融解ピークの頂点温度が175℃以上である、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
多価金属イオン(B)が亜鉛イオンである、請求項1
又は2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
多価金属イオン(B)が高級脂肪酸塩のカチオンとして含まれる、請求項1~
3のいずれかに記載の樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれかに記載の樹脂組成物からなる層(E)及びポリアミド(C)を主成分とする層(N)を有する積層フィルムであって、
層(N)/層(E)/層(N)の順に隣接してなる構造を有する積層フィルム。
【請求項6】
請求項
5に記載の積層フィルムからなる2軸延伸積層フィルム。
【請求項7】
請求項
5又は6に記載の積層フィルムを有する包装材料。
【請求項8】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びマグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(B)を含有し、
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が20~43モル%、けん化度が85モル%以上であり、
多価金属イオン(B)の含有量がエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して5~200ppmであり、
示差走査熱量測定の融解ピークが1つのみの頂点を有し、融解ピークの頂点温度におけるベースラインからの高さTP及び融解ピークの頂点温度から10℃低い温度におけるベースラインからの高さTLの比(TL/TP)が0.21以上であり、
示差走査熱量測定の融解ピークの頂点温度が175℃以上である樹脂組成物からなる層(E)及びポリアミド(C)を主成分とする層(N)を有し、層(N)/層(E)/層(N)の順に隣接してなる構造を有する積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、幅方向の厚みの均一性に優れる積層体を与えるエチレン-ビニルアルコール共重合体含有樹脂組成物及びそれから得られる積層フィルム、2軸延伸積層フィルム並びに包装材料に関する。
【背景技術】
【0002】
食品を長期保存するための包装材料には、酸素バリア性をはじめとするガスバリア性が要求されることが多い。ガスバリア性が高い包装材料を用いることで、酸素による食品の酸化や微生物の繁殖を抑制できる。また、可食期間をさらに延長した食品として、包装材に食品を充填した後に、加圧下で熱水殺菌処理を行うレトルト食品の需要が増加している。
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下、EVOHと略称することがある)は、無色透明でガスバリア性や耐油性に優れ、溶融成形可能であることから、包装材料向けのガスバリア性樹脂として広く使用されている。一方、ナイロン6に代表されるポリアミド(以下、PAと略称することがある)は、強靭性や熱成形性に優れることから、水分を多く含む食品や液状食品の包装材料に広く使用されている。これらの樹脂を積層し、必要に応じて2軸延伸を施したフィルムは、強靭で優れたガスバリア性を有し、レトルト食品を含む食品や薬品等の包装材料として広く使用されている。
PA/EVOH/PA構成を有する2軸延伸フィルムの製造方法としては、環状ダイから押出したチューブ状の積層フィルムを同時二軸延伸する方法と、Tダイから押出したフラットな積層フィルムをテンターを用いて逐次又は同時二軸延伸する方法が知られているが、後者は偏肉精度が向上できることが記載されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したように、PA/EVOH/PA構成を有する2軸延伸フィルムは強靭で優れたガスバリア性を有し、偏肉精度を向上するための製造方法も種々工夫がなされているが、Tダイ法で製造した場合に、積層フィルム端部でEVOH層の厚みが小さくなるという問題が残されていた。この場合、必要なバリア性を確保するために、全幅にわたってEVOH層厚みを上げる必要があり、経済性や生産効率の低下につながっていた。
【0005】
このような状況に鑑み、本開示の目的は、PA/EVOH/PA構成を有する積層フィルムをTダイ法で製造した場合にも、幅方向の厚みの均一性に優れるEVOH含有樹脂組成物を提供することである。また、該樹脂組成物から得られる積層フィルム及び2軸延伸積層フィルム、並びに包装材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、EVOHとPAの界面相互作用及び各々の樹脂が押出機に投入されてから吐出に至るまでのレオロジー挙動を鋭意検討した結果、EVOHが特定量の多価金属イオンを含み、かつ示差走査熱量測定において、該EVOHが単一の融点を持ちながらも融解ピークが低温側にブロードに広がる場合に、幅方向の厚みの均一性に優れるPA/EVOH/PA積層フィルムが得られることを見出した。さらに厚み均一性を向上すべく必要条件を詳細に精査し、発明を完成させた。すなわち、上記課題は、
[1]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)及びマグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(B)を含有する樹脂組成物であって、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有量が20~43モル%、けん化度が85モル%以上であり、多価金属イオン(B)の含有量がエチレン-ビニルアルコール共重合体(A)に対して5~200ppmであり、示差走査熱量測定の融解ピークが1つのみの頂点を有し、融解ピークの頂点温度におけるベースラインからの高さTP及び融解ピークの頂点温度から10℃低い温度におけるベースラインからの高さTLの比(TL/TP)が0.21以上である樹脂組成物;
[2]示差走査熱量測定の融解ピークの頂点温度が175℃以上である、[1]の樹脂組成物;
[3]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)が、エチレン単位含有量の差(ΔEt)が2~7モル%である2種類のエチレン-ビニルアルコール共重合体からなり、前記2種類のエチレン-ビニルアルコール共重合体が、エチレン単位含有量が20~39モル%のエチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)と、エチレン単位含有量22~46モル%であるエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)とエチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)との質量比(A1/A2)が、89/11~51/49であり、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A1)のエチレン単位含有量が、エチレン-ビニルアルコール共重合体(A2)のエチレン単位含有量よりも小さい、[1]又は[2]の樹脂組成物;
[4]多価金属イオン(B)が亜鉛イオンである、[1]~[3]のいずれかの樹脂組成物;
[5]多価金属イオン(B)が高級脂肪酸塩のカチオンとして含まれる、[1]~[4]のいずれかの樹脂組成物;
[6][1]~[5]のいずれかの樹脂組成物からなる層(E)及びポリアミド(C)を主成分とする層(N)を有する積層フィルムであって、層(N)/層(E)/層(N)の順に隣接してなる構造を有する積層フィルム;
[7][6]の積層フィルムからなる2軸延伸積層フィルム;
[8][6]又は[7]の積層フィルムを有する包装材料;
を提供することで解決される。
【発明の効果】
【0007】
本開示により、PA/EVOH/PA構成を有する積層フィルムをTダイ法で製造した場合にも、幅方向の厚みの均一性に優れるEVOH含有樹脂組成物を提供することができる。本開示の樹脂組成物を使用することで、PA/EVOH/PA構成を有する積層フィルムを経済的かつ効率的に製造できる。本開示の積層フィルムは、強靭で優れたガスバリア性を有し、レトルト食品を含む食品や薬品等の包装用フィルムとして広く使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施例1の樹脂組成物について測定した示差走査熱量測定の2度目の昇温チャートを示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態について説明する。なお、以下の説明において特定の機能を発現するものとして具体的な材料(化合物等)を例示する場合があるが、本開示はこのような材料を使用した態様に限定されない。また、例示される材料は、特に記載がない限り、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0010】
<EVOH(A)>
本開示の樹脂組成物は、EVOH(A)を含有する。本開示の樹脂組成物におけるEVOH(A)の含有量は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。EVOH(A)の含有量が上記範囲であると、本開示の樹脂組成物のガスバリア性が向上する。
【0011】
EVOH(A)は、通常、エチレンとビニルエステルとを重合して得られるエチレン-ビニルエステル共重合体をけん化することにより得られる。EVOH(A)のエチレン単位含有量は20~43モル%である。エチレン単位含有量が20モル%以上であると、EVOH(A)の溶融成形性が向上する。エチレン単位含有量は、23モル%以上が好ましく、26モル%以上がより好ましい。一方、エチレン単位含有量が43モル%以下であるとEVOH(A)のガスバリア性が向上する。エチレン単位含有量は、40モル%以下が好ましく、37モル%以下がより好ましい。また、EVOH(A)のけん化度は85モル%以上である。けん化度とは、EVOH(A)中のビニルアルコール単位及びビニルエステル単位の総数に対するビニルアルコール単位の数の割合を意味する。けん化度が85モル%以上であると、EVOH(A)のガスバリア性が向上する。けん化度は95モル%以上が好ましく、99モル%以上がより好ましい。EVOH(A)のエチレン単位含有量及びけん化度は、1H-NMR測定で求められる。
【0012】
EVOH(A)は、エチレン単位含有量の差(ΔEt)が2~7モル%である2種類のEVOHからなり、前記2種類のエチレン-ビニルアルコール共重合体が、エチレン単位含有量が20~39モル%のEVOH(A1)と、エチレン単位含有量22~46モル%であるEVOH(A2)であり、EVOH(A1)とEVOH(A2)との質量比(A1/A2)が、89/11~51/49であることが好ましい。ただし、EVOH(A1)のエチレン単位含有量は、EVOH(A2)のエチレン単位含有量よりも小さいものとする。こうすることで、本開示の樹脂組成物は、示差走査熱量測定において単一の融点を持ちながらも融解ピークが低温側にブロードに広がり、PA/EVOH/PA積層フィルムの幅方向の厚みの均一性を改善することができる。EVOH(A1)のエチレン単位含有量は23~33モル%がより好ましく、26~30モル%がさらに好ましい。また、EVOH(A2)のエチレン単位含有量は25~40モル%がより好ましく、28~37モル%がさらに好ましい。また、EVOH(A1)とEVOH(A2)のエチレン単位含有量の差(ΔEt)は3~6モル%がより好ましい。EVOH(A1)とEVOH(A2)との質量比(A1/A2)は、85/15~55/45がより好ましい。
【0013】
EVOH(A)は、本開示の効果を阻害しない範囲であれば、エチレン、ビニルエステル及びビニルアルコール以外の他の単量体単位を含有していてもよい。他の単量体単位の含有量は5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましく、実質的に含有されていないことが特に好ましい。他の単量体単位としては、例えばプロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン等のα-オレフィン;(メタ)アクリル酸エステル;マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸;アルキルビニルエーテル;N-(2-ジメチルアミノエチル)メタクリルアミド又はその4級化物、N-ビニルイミダゾール又はその4級化物、N-ビニルピロリドン、N,N-ブトキシメチルアクリルアミド、ビニルトリメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
【0014】
EVOH(A)のMFR(210℃、2.16kg荷重下)は0.5~50g/10minが好ましい。EVOH(A)のMFRの下限は1g/10minがより好ましく、2g/10minがさらに好ましい。一方、EVOH(A)のMFRの上限は30g/10minがより好ましく、15g/10minがさらに好ましい。EVOH(A)のMFRが上記範囲であると、EVOH(A)の溶融成形性が向上する。
【0015】
<多価金属イオン(B)>
本開示の樹脂組成物は、マグネシウムイオン、カルシウムイオン及び亜鉛イオンからなる群から選択される少なくとも1種の多価金属イオン(B)を5~200ppm含有する。中でも、本開示の樹脂組成物は、多価金属イオン(B)としてカルシウムイオンまたは亜鉛イオンを含有することが好ましく、亜鉛イオンを含有することがより好ましい。多価金属イオン(B)の含有量の下限は10ppmが好ましく、20ppmがより好ましい。一方、多価金属イオン(B)の含有量の上限は180ppmが好ましく、160ppmがより好ましい。本開示の樹脂組成物が上記範囲の多価金属イオン(B)を含有することで、後述するPA(C)との界面相互作用が緩和されるとともに、本開示の樹脂組成物が押出機に投入されてから吐出に至るまでの粘度挙動を穏やかな減粘型とすることができ、PA/EVOH/PA積層フィルムの幅方向の厚みの均一性を改善することができる。
【0016】
本開示の樹脂組成物は、多価金属イオン(B)をカルボン酸塩のカチオンとして含有することが好ましい。このときのカルボン酸としては、脂肪族カルボン酸(高級脂肪族カルボン酸、低級脂肪族カルボン酸)、及び芳香族カルボン酸のいずれであってもよいが、脂肪族カルボン酸が好ましく、高級脂肪族カルボン酸がより好ましい。低級脂肪族カルボン酸としては、例えばギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。高級脂肪族カルボン酸としては、例えばラウリン酸、ステアリン酸、ミリスチン酸、ベヘン酸、モンタン酸等が挙げられ、ステアリン酸が特に好ましい。
【0017】
<樹脂組成物>
本開示の樹脂組成物は、本開示の効果が阻害されない範囲であれば、多価金属イオン(B)以外の他の成分を含有してもよい。他の成分としては、例えばアルカリ金属イオン、多価金属イオン(B)以外のアルカリ土類金属イオン及び遷移金属イオン、カルボン酸、リン酸化合物、ホウ素化合物、酸化促進剤、酸化防止剤、可塑剤、熱安定剤(溶融安定剤)、光開始剤、脱臭剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、フィラー、乾燥剤、充填剤、顔料、染料、加工助剤、難燃剤、及び防曇剤等が挙げられる。特に、長時間にわたる溶融成形性を改善する観点からは、アルカリ金属イオンを含むことが好ましい。また、熱劣化による着色が抑制できる観点からは、カルボン酸又はリン酸化合物を含むことが好ましい。さらに、ホウ素化合物を含むことで、溶融粘度や機械物性が向上できる場合がある。本開示の樹脂組成物中の他の成分の含有量は、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0018】
本開示の樹脂組成物は、示差走査熱量測定の融解ピークが1つのみの頂点を有し、融解ピークの頂点温度におけるベースラインからの高さTP及び融解ピークの頂点温度から10℃低い温度におけるベースラインからの高さTLの比(TL/TP)が0.21以上である。こうすることで、PA/EVOH/PA積層フィルムの幅方向の厚みの均一性を改善することができる。比(TL/TP)は0.23以上が好ましく、0.25以上がより好ましい。比(TL/TP)は、EVOH(A)のエチレン単位含有量及びけん化度、EVOH(A)が2種類以上のEVOHからなる場合はそれら組み合わせと質量比、他の成分の種類と含有量、並びにEVOH(A)に含まれる他の単量体単位の種類及び含有量等により制御することができるが、通常は2種類以上のEVOHからなる場合はそれらの組み合わせと質量比の影響が最も大きい。
【0019】
本開示の樹脂組成物の示差走査熱量測定の融解ピークの頂点温度は175℃以上が好ましく、180℃以上がより好ましく、183℃以上が特に好ましく、185℃以上であってもよい。また、本開示の樹脂組成物の示差走査熱量測定の融解ピークの頂点温度は一般に200℃未満である。本開示の樹脂組成物の融解ピークの頂点温度は、EVOH(A)のエチレン単位含有量及びけん化度、EVOH(A)が2種類以上のEVOHからなる場合はそれら組み合わせと質量比、他の成分の種類と含有量、並びにEVOH(A)に含まれる他の単量体単位の種類及び含有量等により制御することができるが、通常はEVOH(A)のエチレン単位含有量の効果が最も大きい。
【0020】
本開示の樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、EVOH(A)、多価金属イオン(B)、必要に応じてその他の添加剤を溶融混練することにより製造できる。多価金属イオン(B)は、粉末等固体状態のまま、又は溶融物として配合してもよく、溶液に含まれる溶質又は分散液に含まれる分散質として配合してもよい。溶融混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置又は混練装置を用いることができる。溶融混練時の温度範囲は、使用するEVOH(A)の融点等に応じて適宜調節でき、通常、150~250℃が採用される。
【0021】
<PA(C)>
本開示の樹脂組成物は、PA(C)を主成分とする層(N)と積層して積層フィルムを構成することが好ましい。PA(C)としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリ-ω-アミノヘプタン酸(ナイロン7)、ポリ-ω-アミノノナン酸(ナイロン9)、ポリウンデカンアミド(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)、ポリエチレンジアミンアジパミド(ナイロン26)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリオクタメチレンアジパミド(ナイロン86)、ポリデカメチレンアジパミド(ナイロン106)、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/ω-アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)、ラウリルラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン12/66)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン26/66)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン6/66/610)、エチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート/ヘキサメチレンジアンモニウムセバケート共重合体(ナイロン26/66/610)、ポリヘキサメチレンイソフタルアミド(ナイロン6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド(ナイロン6T)、ヘキサメチレンイソフタルアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体(ナイロン6I/6T)、11-アミノウンデカンアミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド共重合体、ポリノナメチレンテレフタルアミド(ナイロン9T)、ポリデカメチレンテレフタルアミド(ナイロン10T)、ポリヘキサメチレンシクロヘキシルアミド、ポリノナメチレンシクロヘキシルアミドあるいはこれらのポリアミドをメチレンベンジルアミン、メタキシレンジアミンなどの芳香族アミンで変性したものが挙げられる。また、メタキシリレンジアンモニウムアジペートなども挙げられる。これらの中でも、経済性、溶融成形性及び機械物性のバランスより、PA(C)がナイロン6であることが好ましい。
【0022】
本開示の層(N)におけるPA(C)の含有量は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、90質量%以上がさらに好ましく、95質量%以上が特に好ましい。PA(C)の含有量が上記範囲であると、後述する本開示の積層フィルムは機械的特性、及び耐熱性等に優れる。
【0023】
PA(C)は、本開示の効果が阻害されない範囲であれば、PA(C)以外の他の添加剤を含有してもよい。このような他の添加剤としては、熱安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、安定剤、界面活性剤、乾燥剤、架橋剤、繊維補強剤などが挙げられる。PA(C)中の他の添加剤の含有量は、通常5質量%以下であり、3質量%以下が好ましく、1質量%以下がより好ましい。
【0024】
本開示の樹脂組成物は種々の溶融成形方法により、多様な成形体に加工できる。成形体としては、例えば単層構造の成形体や、本開示の樹脂組成物からなる層と、他の層とを有する多層成形体が挙げられる。成形方法としては、例えば押出成形、熱成形、異形成形、中空成形、回転成形、射出成形が挙げられる。成形体の用途は、例えばフィルム、シート、容器、ボトル、タンク、パイプ、ホース等が挙げられる。
【0025】
<積層フィルム>
本開示の樹脂組成物からなる層(E)及びPA(C)を主成分とする層(N)を有する積層フィルムであって、層(N)/層(E)/層(N)の順に隣接してなる構造を有する積層フィルムが本開示の好適な実施態様の1つである。積層フィルムにおいて、層(E)と層(N)の間には接着性樹脂からなる層は設けず、互いに隣接している。積層フィルムは、層(N)/層(E)/層(N)の順に隣接してなる構造を複数有してもよい。積層フィルムの製法としては、本開示の樹脂組成物とPA(C)をそれぞれ別々のダイ又は共通のダイから押出して積層する従来の共押出ラ法が使用できる。ダイとしては、環状ダイ又はTダイのいずれかを使用できるが、本開示の効果は、Tダイを用いて共押出成形する場合に顕在化される。積層フィルムの厚みに特に制限はないが、ガスバリア性や強靭性等の観点から、通常5~500μmであり、好ましくは10~200μmであり、より好ましくは10~100μmである。
【0026】
積層フィルムには、層(N)/層(E)/層(N)の順に隣接してなる構造を有している限り、他の層が積層されていてもよい。他の層としては、加工性等の観点から熱可塑性樹脂層が好ましい。熱可塑性樹脂としては、例えば各種ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ1-ブテン、ポリ4-メチル-1-ペンテン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレンと炭素数4以上のα-オレフィンとの共重合体、ポリオレフィンと無水マレイン酸との共重合体、エチレン-ビニルエステル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、又はこれらを不飽和カルボン酸もしくはその誘導体でグラフト変性した変性ポリオレフィン等)、各種ポリアミド(ナイロン6、ナイロン6・6、ナイロン6/66共重合体、ナイロン11、ナイロン12、ポリメタキシリレンアジパミド等)、各種ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリアクリレート及び変性ポリビニルアルコール樹脂が挙げられる。中でも、耐湿性、機械的特性、経済性、ヒートシール性等に優れる観点から、ポリオレフィンが好ましく、機械的特性、耐熱性等に優れる観点から、ポリアミドやポリエステルが好ましい。
【0027】
<2軸延伸積層フィルム>
積層フィルムを2軸延伸して得られる2軸延伸積層フィルムも本開示の好適な実施態様の1つである。2軸延伸積層フィルムは、積層フィルムを、チューブラー式同時二軸延伸、テンター式逐次二軸延伸、テンター式同時二軸延伸などの従来公知の二軸延伸法によって、フィルムの流れ方向及び該流れ方向に直角な方向、すなわち幅方向に延伸処理することにより製造することができる。この際、流れ方向の延伸倍率は、強度、厚み振れ低減の点から、通常1.5~6倍程度、好ましくは2~5倍であり、幅方向の延伸倍率は、同様の観点から、通常1.5~5倍程度、好ましくは2~4倍である。延伸の際の温度は、加工性の点から、40~120℃であることが好ましく、50~110℃であることがより好ましい。必要に応じ、延伸処理後にガラス転移点以上かつ融点未満の温度で加熱処理し、結晶化度を高めると共に、分子鎖の配向を固定するために、いわゆる熱固定操作を施すことが好ましい。2軸延伸積層フィルムの厚みに特に制限はないが、ガスバリア性や強靭性等の観点から、通常5~100μmであり、好ましくは10~50μmであり、より好ましくは10~30μmである。
【0028】
本開示の樹脂組成物は、本開示により、PA/EVOH/PA構成を有する積層フィルムをTダイ法で製造した場合にも、幅方向の厚みの均一性に優れるため、本開示の樹脂組成物を使用することで、PA/EVOH/PA構成を有する積層フィルムを経済的かつ効率的に製造できる。本開示の積層フィルムは、強靭で優れたガスバリア性を有し、レトルト食品を含む食品や薬品等の包装用材料として広く使用することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されない。なお、本実施例における各分析及び評価は以下の方法で行った。
【0030】
(1)EVOH(A)のエチレン単位含有量及びけん化度
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を内部標準物質としてテトラメチルシラン(TMS)、添加剤としてトリフルオロ酢酸(TFA)を含む重ジメチルスルホキシド(DMSO-d6)に溶解し、500MHzの1H-NMR(日本電子株式会社 「GX-500」)を用いて80℃で測定し、エチレン単位、ビニルアルコール単位、ビニルエステル単位のピーク強度比よりエチレン単位含有量及びけん化度を求めた。
【0031】
(2)多価金属イオン(B)の含有量
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物0.5gをテフロン(登録商標)製圧力容器に入れ、ここに濃硝酸5mLを加えて室温で30分間分解させた。分解後に、前記容器に蓋をしてから、湿式分解装置により150℃で10分間、次いで180℃で5分間加熱することでさらに分解を行い、その後室温まで冷却した。この処理液を50mLのメスフラスコに移し純水でメスアップした。この溶液をICP発光分光分析装置(Perkin Elmer社製「Optima 4300DV」)で測定することで、樹脂組成物中の多価金属イオン(B)の含有量を定量した。
【0032】
(3)示差走査熱量測定
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物について、示差走査熱量分析計(TA Instrument社製「Q2000」)を用いて20℃から220℃まで10℃/分の速度で昇温した後、10℃/分の速度で20℃まで冷却し、再度20℃から220℃まで10℃/分の速度にて昇温した。2度目の昇温チャートの縦軸を熱流、横軸を温度とし、融解ピークの形状を確認するとともに、融解ピークの頂点温度を読み取った。また、融解ピークの頂点温度から20℃高いa点及び融解ピークの頂点温度から80℃低いb点を結んだ直線をベースラインとした場合に、融解ピークの頂点温度におけるベースラインからの高さTP及び融解ピークの頂点温度から10℃低い温度におけるベースラインからの高さTLの比(TL/TP)を算出した。なお、表1において融解ピークが1つのみの頂点を有する場合はA,複数の頂点を有する場合はBと記載した。
【0033】
(4)色相の評価
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物の黄色度(YI)を、分光測色計(HunterLab社製「LabScan XE Sensor」)を用いて測定し、以下の基準で判定を行った。なお、YI値は対象物の黄色みを表す指標であり、YI値が高いほど黄色度が強く、一方、YI値が低いほど黄色度が弱く、着色が少ないことを表す。
判定:基準
A:15未満
B:15以上18未満
C:18以上21未満
D:21以上24未満
E:24以上
【0034】
(5)酸素透過度(OTR)測定
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物を用いて下記に示す押出条件にて厚み20μmの単層フィルムを得た。単層フィルムの厚みは、引取りロール速度を変えることで調整した。
押出機:東洋精機製作所製1軸押出機
スクリュー径:20mmφ(L/D=20、圧縮比=3.5、フルフライト型)
スクリュー回転数:40rpm
押出温度:C1/C2/C3/ダイ=190/220/220/220℃
引取りロール温度:80℃
得られた単層フィルムについて、酸素透過量測定装置(モダンコントロール社製「MOCON OX-TRAN2/20」)を用い、温度20℃、酸素供給側及びキャリアガス側の湿度85%RH、酸素圧力1気圧、キャリアガス圧力1気圧の条件下で酸素透過速度[単位:cc・20μm/(m2・day・atm)]を測定した。キャリアガスとしては2体積%の水素ガスを含む窒素ガスを使用した。
【0035】
(6)外観(ブツ)の評価
上記(5)で得られた単層フィルムを目視で確認した結果を外観特性(フィッシュアイ)とし、以下の判定基準により評価した。
判定:基準
A:微小なフィッシュアイがごくわずかに見られる
B:微小なフィッシュアイがフィルム端部にやや多く見られる
C:微小なフィッシュアイがフィルム全面にやや多く見られる
D:大小のフィッシュアイがフィルム全面に多く見られる
E:大小のフィッシュアイがフィルム全面に非常に多く見られる
【0036】
(7)幅方向の厚みの均一性の評価
各実施例及び比較例で得られた樹脂組成物及びナイロン6(宇部興産製「UBEナイロン1022B」)を用い、下記の条件で2種3層の積層フィルム(中央部の厚みがナイロン6/樹脂組成物/ナイロン6=20μm/20μm/20μm)を製膜した。
押出機:
樹脂組成物:単軸押出機(東洋精機製作所製「ME型CO-EXT」)
口径20mmφ、L/D20、フルフライトスクリュー
設定温度:供給部/圧縮部/計量部=190/220/220℃
ナイロン6:単軸押出機(プラスチック工学研究所製「GT-32-A」)
口径32mmφ、L/D28、フルフライトスクリュー
設定温度:供給部/圧縮部/計量部=235/250/240℃
ダイ:300mm幅コートハンガーダイ(プラスチック工学研究所製)
設定温度:235℃
フィルム引取速度:4m/分
得られた積層フィルムの幅方向の断面において中央部及び端部(フィルム端から20mmの位置)を顕微鏡で観察し、樹脂組成物層の厚みを測定した。中央部における樹脂組成物層の厚みを端部における樹脂組成物層の厚みで除した数値を幅方向の厚みの均一性の指標とした。
【0037】
[実施例1]
エチレン含有量27モル%、けん化度99.95モル%、MFR(210℃、2.16kg荷重)4.1g/10minであるEVOH(A1)60質量部、エチレン含有量32モル%、けん化度99.95モル%、MFR(210℃、2.16kg荷重)3.6g/10minであるEVOH(A2)40質量部及びステアリン酸亜を亜鉛換算で50ppmを二軸押出機を用いて220℃で溶融混練した後、ペレタイザーを用いてペレット化することで樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物の評価は、上記(1)~(7)の方法により行った。結果を表1に示す。また、(7)で得られた積層フィルムを10cm四方に切り出し、延伸温度50℃、延伸比2.0で長手方向(MD)に延伸した後、延伸温度80℃、延伸比2.0で横方向(TD)に延伸することで、厚み15μmの2軸延伸積層フィルムを得た。得られた2軸延伸積層フィルムは厚みの均一性に優れ、透明性が高く外観も均一で良好であった。
【0038】
[実施例2~16、比較例1~7]
EVOH(A)と多価金属イオン(B)の種別及び混合比を表1に記載されたとおりに変更した以外は、実施例1と同様にして樹脂組成物を得て評価を行った。結果を表1に示す。
【0039】
【符号の説明】
【0040】
10 吸熱ピーク
11 融解ピークの頂点
12 ベースライン