(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-08
(45)【発行日】2023-12-18
(54)【発明の名称】光ファイバ用多孔質ガラス堆積体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/018 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
C03B37/018 A
(21)【出願番号】P 2020169552
(22)【出願日】2020-10-07
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】川本 遼
【審査官】菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-193057(JP,A)
【文献】特開2008-127260(JP,A)
【文献】特開平11-171578(JP,A)
【文献】特開2007-131487(JP,A)
【文献】特開平10-194791(JP,A)
【文献】特開2003-286033(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/018
C03B 37/014
G02B 6/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
堆積位置の異なる複数のバーナを用いるVAD法による製造方法であって、回転しながら上方に引き上げる出発材に、堆積位置の異なる複数のバーナを用いてガラス微粒子を堆積し、多孔質ガラス堆積体を製造する工程において、
反応室が反応室上部と反応室下部からなり、原料投入量の最も多い最外クラッド部堆積用バーナが反応室上部の壁面に設けられ、該反応室上部の壁面に給気口が設けられ、該給気口を通って反応室内に供給される清浄空気の絶対湿度を7g/m
3以上
13g/m
3
以下に保つことを特徴とする多孔質ガラス堆積体の製造方法。
【請求項2】
反応室内に供給される清浄空気風量が、1m
3/min以上3m
3/min以下である請求項1に記載の多孔質ガラス堆積体の製造方法。
【請求項3】
反応室内に供給される清浄空気風量が、1.6m
3
/min以上2.4m
3
/min以下である請求項1に記載の多孔質ガラス堆積体の製造方法。
【請求項4】
反応室内に供給する原料の標準状態換算の総供給量が、多孔質ガラス堆積体1本あたり9kL以上である請求項1に記載の多孔質ガラス堆積体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用多孔質ガラス堆積体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ用多孔質ガラス堆積体の製造方法として、VAD法が知られている。この方法では、回転しつつ上昇するシャフトに出発材を取り付け、反応室内に垂下し、反応室内に設置されたコア堆積用バーナとクラッド堆積用バーナにより生成したガラス微粒子を出発材上に堆積させて、コア層とクラッド層からなる多孔質ガラス堆積体が製造される。
生成されたガラス微粒子の堆積効率は100%とはならないため、堆積されなかった未付着の余剰のガラス微粒子が製造の間を通して発生する。この余剰のガラス微粒子の大部分は、排気ガス等の他の気体とともに排気口より反応室外に排出される。
【0003】
しかしながら、バーナで生成されてから排出されるまでの間に、その一部は、反応室内の天井や側壁に付着する。この反応室の内壁に付着したガラス微粒子が剥離・落下して反応室内に飛散し、製造中の多孔質ガラス堆積体に付着して、透明ガラス化時に気泡や異物を生じる原因となることがあった。
【0004】
特許文献1には、堆積されなかったガラス微粒子の排出効率を向上させるため、空気分配容器の複数の排出口から、反応室の壁面に設けられた複数の給気口を通って反応室内に清浄空気を供給する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、光ファイバ用多孔質ガラス堆積体の大型化にともなって原料投入量が増し、余剰ガラス微粒子の絶対量が増していることから、上記の技術を採用しても、反応室の内壁に付着した余剰ガラス微粒子の剥離・落下があり、さらに多孔質ガラス堆積体を透明ガラス化した母材には、気泡や異物の発生が確認されていた。
そこで、本発明は、VAD法によって光ファイバ用多孔質ガラス堆積体を製造する際に、透明ガラス化後に気泡が発生しにくい多孔質ガラス堆積体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多孔質ガラス堆積体の製造方法は、上記課題を達成してなり、堆積位置の異なる複数のバーナを用いるVAD法による製造方法であって、回転しながら上方に引き上げる出発材に、堆積位置の異なる複数のバーナを用いてガラス微粒子を堆積し、多孔質ガラス堆積体を製造する工程において、反応室が反応室上部と反応室下部からなり、原料投入量の最も多い最外クラッド部堆積用バーナが反応室上部の壁面に設けられ、該反応室上部の壁面に給気口が設けられ、該給気口を通って反応室内に供給される清浄空気の絶対湿度を7g/m3以上13g/m
3
以下に保つことを特徴としている。
なお、反応室内に供給される清浄空気風量は、1m3/min以上3m3/min以下とするのが好ましく、より好ましくは1.6m
3
/min以上2.4m
3
/min以下である。
また、反応室内に供給する原料の標準状態換算の総供給量は、多孔質ガラス堆積体1本あたり9kL以上とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
以上のように、本発明によれば、多孔質ガラス堆積体の製造中に、反応室内壁に付着した余剰ガラス微粒子の剥離・落下を防止することができ、該堆積体を透明ガラス化したときに気泡が発生しにくい多孔質ガラス堆積体の製造が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の実施例で使用した製造装置の概略を説明する概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は下記のこれらに限定されるものではない。
図1は、本発明の実施例で使用した多孔質ガラス堆積体を製造する装置の概略を説明する概略図である。反応室1内の多孔質ガラス堆積体2に向かってバーナ3a~3cが設置され、これらのバーナと対向する壁側に排気口4が設けられている。なお、
反応室1は、バーナ3a,バーナ3bを有する反応室下部と、バーナ3cを有する反応室上部からなり、バーナ3aはコア部堆積用バーナ、バーナ3bは中間クラッド堆積用バーナであり、バーナ3cは最外クラッド部堆積用バーナである。原料投入量が最も多いバーナ3cが設置されている反応室
上部壁面の上部および両サイドには、給気口がそれぞれ設けられている。これらの給気口には、この給気口と同じ形状の排出口を有する空気分配容器5が取り付けられている。空気分配容器5では、加湿器9で湿度調整された室内空気が、ブロアー8によりフィルター7を通して清浄化された後、ダクト6を経て反応室1内に供給される。ブロアー8の後段には温湿度を監視するためのセンサ10が取り付けられている。
【実施例】
【0011】
次に、本発明の多孔質ガラス堆積体の製造方法を実施例と比較例を挙げてさらに詳細に説明する。
(実施例1)
原料ガスとして、コア部堆積用バーナ3aに500mL/minの四塩化ケイ素と20 mL/minの四塩化ゲルマニウムを供給した。隣接する中間クラッド堆積用バーナ3bと、最外クラッド部堆積用バーナ3cには原料ガスとして、それぞれ0.8L/min、4.5 L/minの四塩化ケイ素を供給した。また、原料投入量の最も多いバーナ3cが設置されている反応室
上部壁面に設けられた給気口から2m
3/minの清浄空気を反応室内に供給した。
上記ガス条件でガラス微粒子の堆積を10本行った。ガラス微粒子の堆積中、
図1に示した加湿器9を運転させることで、原料投入量の最も多いバーナ3cが設置されている反応室
上部壁面に設けられた給気口から供給する2m
3/minの清浄空気の絶対湿度を7g/m
3以上
13g/m
3
以下に保った。
その結果、製造中に反応室内壁に付着した余剰ガラス微粒子が剥離・落下することはなかった。
【0012】
(実施例2)
各バーナ3a~3cへの原料ガスの供給は、実施例1に記載の条件で行い、原料投入量の最も多いバーナ3cが設置されている反応室
上部壁面に設けられた給気口から1m
3/minの清浄空気を反応室内に供給した。
上記ガス条件でガラス微粒子の堆積を10本行った。ガラス微粒子の堆積中、
図1に示した加湿器9を運転させることで、原料投入量の最も多いバーナ3cが設置されている反応室
上部壁面に設けられた給気口から供給する1m
3/minの清浄空気の絶対湿度を7g/m
3以上
13g/m
3
以下に保った。
その結果、製造中に反応室内壁に付着した余剰ガラス微粒子の剥離・落下は、10本の堆積に対して2回程度の一定頻度で生じた。
【0013】
(実施例3)
各バーナ3a~3cへの原料ガスの供給は、実施例1に記載の条件で行い、原料投入量の最も多いバーナ3cが設置されている反応室壁面に設けられた給気口から3m
3/minの清浄空気を反応室内に供給した。
上記ガス条件でガラス微粒子の堆積を10本行った。ガラス微粒子の堆積中、
図1に示した加湿器9を運転させることで、原料投入量の最も多いバーナ3cが設置されている反応室
上部壁面に設けられた給気口から供給する3m
3/minの清浄空気の絶対湿度を7g/m
3以上
13g/m
3
以下に保った。
その結果、製造中に反応室内壁に付着した余剰ガラス微粒子の剥離・落下は、10本の堆積に対して1回程度の一定頻度で生じた。
【0014】
(比較例1)
加湿器9の運転を止め、実施例1に記載のガス流量条件にてガラス微粒子の堆積を行った。
この場合、原料投入量の最も多いバーナ3cが設置されている反応室上部壁面に設けられた給気口から供給する2m3/minの清浄空気の絶対湿度は6g/m3以下となり、7g/m3を下回った。実施例と同様に10本のガラス微粒子の堆積を行った。
その結果、製造中に反応室内壁に付着した余剰ガラス微粒子の剥離・落下は、10本の堆積に対して6回ほどあり、実施例と比較し、高頻度で生じた。
なお、実施例と比較例の結果を表1にまとめて示す。
【0015】
【0016】
以上の結果より、いずれの実施例においても反応室内壁に付着した余剰ガラス微粒子の剥離・落下を極めて効率的に抑制することができた。清浄空気風量が少なすぎると、反応室の天井や側壁上部へのガラス微粒子の付着量が増え、風量が多すぎると、反応室の下部側壁付近へのガラス微粒子付着量が増えるため、給気口から供給する清浄空気の風量は1m3/min以上3m3/min以下とすることが好ましく、1.6m3/min以上2.4m3/min以下とすることがより好ましい。また、給気口から供給する清浄空気の絶対湿度は、7g/m3以上13g/m3以下とするのが好ましい。
【符号の説明】
【0017】
1:反応室、
2:多孔質ガラス堆積体、
3a:コア部堆積用バーナ、
3b:中間クラッド堆積用バーナ、
3c:最外クラッド部堆積用バーナ、
4:排気口、
5:空気分配容器、
6:ダクト、
7:フィルター、
8:ブロアー、
9:加湿器、
10:温湿度センサ。